(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】ペンタペプチド化合物
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20231030BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20231030BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20231030BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231030BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
A23L33/18
A61K38/08
A61P43/00 111
A61P17/16
(21)【出願番号】P 2019175810
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000177508
【氏名又は名称】三和酒類株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 生行
(72)【発明者】
【氏名】外薗 英樹
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-128402(JP,A)
【文献】特開2006-273822(JP,A)
【文献】特開2011-084539(JP,A)
【文献】特開2019-085380(JP,A)
【文献】特開2017-078048(JP,A)
【文献】特開昭64-013008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/06
A23L 33/18
A61K 38/08
A61P 43/00
A61P 17/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの構造式を有するペンタペプチド化合物又はその薬学的に許容される塩。
【化1】
(I)
【請求項2】
pyro-Glu-Gln-Pro-Phe-Proで表されるアミノ酸配列からなるペンタペプチド化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
アミノ酸配列を構成するアミノ酸がL体である、請求項2に記載のペンタペプチド化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のペンタペプチド化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、ヒアルロン酸合成促進剤。
【請求項5】
ヒアルロン酸合成酵素の発現を促進する、請求項4に記載のヒアルロン酸合成促進剤。
【請求項6】
飲食品、サプリメント、または医薬品である、請求項4または5に記載のヒアルロン酸合成促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼酎製造において副成する焼酎蒸溜残液から得られる、生物学的に活性で新規なペンタペプチド化合物に関する。本発明においてペンタペプチドとは、5アミノ酸残基がペプチド結合によって連結された化合物をいう。
【背景技術】
【0002】
焼酎を製造する際に副成する焼酎蒸溜残液については、大麦焼酎蒸溜残液から精製した特定の画分が有する脂肪肝抑制効果(特許文献1)、抗酸化作用(特許文献2)、血圧降下作用(特許文献3)等の種々の生理活性作用を有する画分が報告されている。また、黒糖焼酎蒸溜残液からは、特定の精製画分のチロシナーゼ阻害活性(特許文献4)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-145472号公報
【文献】特許第4694099号明細書
【文献】特許第4584611号明細書
【文献】特開2004-248592号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】The Journal of Immunology(2011)Vol.186,No.8,p.4762-4770
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、有用な生理活性を有する画分が複数得られている大麦焼酎蒸溜残液から、今まで知られていない新規で有用な化合物を単離精製し、提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために、大麦焼酎蒸溜残液からの既知の有用な画分や、新たな精製工程による画分を種々作成して研究を行った結果、大麦焼酎蒸溜残液に含まれる新規ペンタペプチド化合物を同定し、この化合物がヒアルロン酸合成酵素遺伝子(HAS2)の発現促進効果を有する物質であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、以下(1)~(3)のペンタペプチド化合物又はその薬学的に許容される塩に係るものである。
(1)
式Iの構造式を有するペンタペプチド化合物又はその薬学的に許容される塩。
【化1】
(I)
(2)pyro-Glu-Gln-Pro-Phe-Proで表されるアミノ酸配列からなるペンタペプチド化合物又はその薬学的に許容される塩。
(3)アミノ酸配列を構成するアミノ酸がL体である、上記(2)に記載のペンタペプチド化合物又はその薬学的に許容される塩。
【0008】
また、本発明は、以下(4)~(6)のヒアルロン酸合成促進剤に係るものである。
(4)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のペンタペプチド化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、ヒアルロン酸合成促進剤。
(5)ヒアルロン酸合成酵素の発現を促進する、上記(4)に記載のヒアルロン酸合成促進剤。
(6)飲食品、サプリメント、または医薬品である、上記(4)または(5)に記載のヒアルロン酸合成促進剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、大麦焼酎蒸溜残液から新規で有用なペンタペプチド化合物を提供することができ、このペンタペプチド化合物は、ヒト線維芽細胞におけるヒアルロン酸合成酵素遺伝子(HAS2)の発現促進効果を有することから、ヒアルロン酸の合成促進により皮膚の保湿効果が向上し、また真皮中の水分保持力が増加することで、肌にハリを与え、シワの形成を防ぐことが期待される。
今後、美肌効果等をもたらす食べるスキンケアとしての飲食品、医薬品としての活用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のペンタペプチドの正常ヒト線維芽細胞におけるHAS2遺伝子発現促進効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、ペンタペプチド化合物には、本発明のペンタペプチド化合物が有するHAS2発現促進活性を失わない範囲で、その薬学的に許容される塩、または誘導体も含まれる。薬学的に許容される塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、硫酸塩、硝酸塩などの有機酸塩、フッ化水素酸塩、塩酸塩などのハロゲン化水素酸塩が例示される。誘導体としては、エステル化、アミド化、アシル化、カルボキシル化、ホルミル化、ホスホリル化、リン酸化、グリコシル化が例示される。
【0012】
本発明のペンタペプチド化合物は、大麦焼酎蒸溜残液から単離精製して製造することができる。また、麹菌の液体及び固体培養からも単離精製して製造することができ、さらに、固相合成法での鎖状ペプチド合成等の公知の方法で化学合成することもできる。
【0013】
大麦焼酎蒸溜残液を用いる場合には、大麦焼酎蒸溜残液を固液分離して液体分を得てから、該液体分を合成吸着剤に吸着させる。その吸着した成分のうち20%エタノールで溶出後、40%エタノール溶出液で溶出する画分から、本発明のペンタペプチド化合物を単離精製することができる。
【0014】
大麦焼酎蒸溜残液は、代表的には歩留まり60乃至70%の精白大麦を原料として大麦麹及び蒸麦を製造し、得られた大麦麹及び蒸麦中に含まれるでんぷんを該大麦麹の麹により糖化し、それらを酵母によるアルコール発酵に付して焼酎熟成もろみを得、得られた焼酎熟成もろみを減圧蒸溜または常圧蒸溜等の単式蒸溜装置を用いて蒸溜する際に蒸溜残渣として副生する大麦焼酎の蒸溜残液である。
【0015】
大麦焼酎の製造に用いる大麦麹は、通常の大麦焼酎製造において行われている製麹条件で製造すればよく、用いる麹菌株としては、一般的に大麦焼酎製造で使用する白麹菌(Aspergillus kawachii)が好ましい。泡盛製造で使用する黒麹菌(Aspergillus awamori)などのAspergillus属の菌株を用いることもできる。また大麦焼酎の製造に用いる酵母は、一般的に焼酎製造の際に使用する各種の焼酎醸造用酵母を使用することができる。
【0016】
大麦焼酎蒸溜残液から固液分離して液体分を得ることにより、原料大麦または大麦麹由来の水不溶性の発酵残渣等を除去して清澄液を得る。固液分離は、スクリュープレス方式やローラープレス方式の固液分離方法により行うことができる。次いで、その液体分を合成吸着剤を用いる吸着処理に付して吸着させる。合成吸着剤としては、芳香族系、芳香族系修飾型、あるいはメタクリル系の合成吸着剤を用いることができ、好適な例としては、ダウ・ケミカル社製のアンバーライトFPX66、三菱化学社製のセパビーズSP850、及び同三菱化学社製のダイヤイオンHP20等が挙げられる。
【0017】
その後、その合成吸着剤吸着画分を20容量%エタノールと40容量%エタノール溶出液により順次溶出させて、得られた溶出画分を有機溶媒抽出してから、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にかける。HPLCクロマトグラフの分子量598の画分をさらに精製するために、凍結乾燥させてから水に溶解させ、遠心分離後再び水で洗浄してからアセトニトリル溶液に溶解させて、再びHPLCにかけて精製することにより、本発明の分子量598のペンタペプチド化合物を単離精製することができる。
【0018】
本発明のペンタペプチド化合物は、皮膚の保湿効果の向上や、肌にハリを与えシワの形成を防ぐ美肌のための飲食品、サプリメント、医薬品として様々な形態で利用することができる。「飲食品」には、通常の飲食品の他、経腸栄養食品、栄養機能食品、機能性表示食品、特定保健用食品などが含まれる。また、「飲食品」および「医薬品」の対象はヒトに限定されるのもではなく、ペットや家畜のような哺乳動物用の医薬品および飼料も包含する。
【0019】
本発明のペンタペプチド化合物は、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤などの経口用組成物とすることができる。種々の剤型の経口用組成物を製造するための各種成分および製造法は、サプリメント、医薬品等の製造分野で公知な成分から適宜選択することができる。本実施形態の錠剤には、錠剤を形成するための各種の添加剤として、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、その他の栄養素等を添加することができる。
【0020】
経口用以外にも注射剤、点滴剤、外用剤、座薬剤等の非経口用投与剤としての各種製剤形態で使用できる。また、製剤中の本発明のペンタペプチド化合物の有効投与量は、治療もしくは予防すべき症状の程度、投与対象の状態(年齢、性別を含む)、剤型などによって異なる。ペンタペプチド化合物の1日投与量が約10~1000mg程度になる量とすればよい。
【0021】
以下の実施例に供する目的で大麦焼酎の製造を行った。原料としては、大麦(70%精白)を用いた。
[大麦焼酎及び大麦焼酎蒸溜残液の製造]
大麦を40%(w/w)吸水させ40分間蒸した後、40℃まで放冷し、大麦トンあたり1kgの種麹(白麹菌)を接種し、38℃、RH95%で24時間、32℃、RH92%で20時間保持することにより、大麦麹を製造した。1次仕込みでは、この大麦麹(大麦として3トン)に、水3.6kL及び酵母として焼酎酵母の培養菌体1kg(湿重量)を加えて1次もろみを得、得られた1次もろみを5日間の発酵(1段目の発酵)に付した。次いで、2次仕込みでは、上記1段目の発酵を終えた1次もろみに、水11.4kLと蒸麦(大麦として7トン)を加えて11日間の発酵(2段目の発酵)に付した。発酵温度は1次仕込み、2次仕込みとも25℃とした。上記2段目の発酵を終えた2次もろみを常法により単式蒸溜に付し、大麦焼酎10kLと大麦焼酎蒸溜残液15kLを得た。該大麦焼酎蒸溜残液を以下の実施例に用いた。
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
大麦焼酎製造の蒸溜工程で得られた前記大麦焼酎蒸溜残液を8000rpm,10minの条件で遠心分離して大麦焼酎蒸溜残液の液体分を得、得られた液体分2.5Lを三菱化学社製の合成吸着剤ダイヤイオンHP20を充填したカラム(樹脂容量1L)に接触させ、当該カラムに吸着する合成吸着剤吸着画分を得た。さらに。この合成吸着剤吸着画分を吸着したカラムに脱イオン水6.25Lを接触させて得られた溶出液を除去後、該カラムに20(v/v)%nエタノール溶液2.5L、40(v/v)%のエタノール溶液2.5Lを順次接触させることにより、溶出液をそれぞれ2.5L分取した。
【0023】
この溶出液を有機溶媒抽出するために、溶出液20gをクロロホルム:メタノール=80:20の溶媒100mLに混和し、ろ紙濾過した。残存した不溶物に同溶媒を50mL混和し、再度抽出後ろ紙濾過してから、ろ液をエバポレーターで減圧乾燥させた。
減圧乾燥させた有機溶媒抽出サンプルを0.1g/mLとなるように脱イオン水に溶解し、3.5mLを、Phenomenex Synergi 4μm Hydro-RP 80Aカラム(21.2×250mm)を用いる大容量HPLCにかけた。溶媒Aに0.05%TFA水溶液、溶媒Bに0.05%TFAアセトニトリル溶液を用いた。分離条件は、流速は10mL/min、溶出は溶媒A:溶媒B=85:15の無勾配とし、検出波長は210nmとした。
【0024】
得られたHPLCクロマトグラフの分子量598付近の画分を分取して、減圧濃縮、凍結乾燥させてから、再度凍結乾燥サンプルを0.1g/mLとなるように脱イオン水に溶解させ、200μLを大容量HPLCにかけた。カラムは、Phenomenex Synergi 4 μm Hydro-RP 80Aカラム(21.2×250mm)を用いた。溶媒Aに0.05%TFA水溶液、溶媒Bに0.05%TFAアセトニトリル溶液を用い、流速は10mL/minとした。溶出は溶媒Aから溶媒Bへ直接的濃度勾配で、15分間で溶媒Bの濃度が20%から40%になるように行った。検出波長は210nmとした。
【0025】
1回目の大容量HPLCの分子量598のピーク付近を、2回目の大容量HPLCによりメインピークを分画した結果、1ピークまで精製することができ、白色のサンプルを得た。このサンプルを液体クロマトグラフ/質量分析(LC/MS)で分析したところ、分子量が598であったため、この精製サンプルについて、核磁気共鳴分析(NMR)、液体クロマトグラフ/質量分析(LC/MS)及びアミノ酸分析を行った。
LC/MS分析
HPLC装置は、ACQUITY UPLC(Waters社製)を用いた。質量分析装置は、Synapt G2-S型(Waters社製)を用いた。その結果、推定分子式は、C29H38N6O8であることがわかった。
アミノ酸分析
HPLC装置は、Nexera(島津製作所製)、検出器は、蛍光検出器RF-20Axa (島津製作所製)を用いた。酸加水分解処理を行い、構成アミノ酸を調べた結果、プロリン:グルタミン酸:フェニルアラニン=2:2:1の比率で検出された
NMR分析
1H-NMR及び13C-NMRはAvance 500型(Bruker BioSpin社製)を使用し、重DMSOに溶解して測定した。内部標準として、トリメチルシランを使用した。推定分子式とアミノ酸分析の情報を組み合わせて、目的の成分はピログルタミン酸、グルタミン、プロリン2分子、フェニルアラニンが脱水縮合により結合した化合物であると推定された。その結果、pyro-Glu-Gln-Pro-Phe-Proの順で結合していることが分かった。(配列番号1:Glu-Gln-Pro-Phe-Pro)
NMR分析結果を表1に示す。
【0026】
【0027】
直接導入-質量分析(DI-MS)
質量分析装置は、rapifleX TOF/TOF型(Bruker Daltonic社製)を用いた。サンプルをマトリクス(CHCA:α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸) と混合し、分析に供した。目的成分中のアミノ酸の結合順序を同定するために、DI-MS解析を行ったところ、599.3[M+H]+と623.1[M+Na]+のマススペクトルが見られた。このうち、599.3イオンのMS解析を行った結果、pyro-Glu-Gln-Pro-Phe-Proの順で結合していることが分かった。
アミノ酸の絶対立体配置決定法(改良Marfey法)
アミノ酸の絶対立体配置を決定するために、サンプルの酸加水分解を行った。まず試料5mgを秤量し、6N塩酸1mLを加えて密封し、105℃で16時間加熱した。その後、400μLを減圧乾固し、蒸溜水200μLに再溶解させた。標品も同様に処理した。酸加水分解サンプル50μLに1M NaHCO3 20μL及び1%Nα-(5-Fluoro-2,4-dinitrophenyl)-L-leucinamide(L-FDLA)アセトン溶液100μLを加え、37℃で1時間加温した。加温後、1N塩酸20μLを加え、アセトニトリル390μLで希釈して、HPLCに供した。
分子量598を酸加水分解し、改良Mayfey法でHPLC分析した結果、構成しているアミノ酸は、全てL体であることが判明した。
以上の解析結果から、本発明の新規物質は、分子量が598、アミノ酸配列がL-pyro-Glu-L-Gln-L-Pro-L-Phe―L-Proである、下記式(I)の新規なペンタペプチド化合物であることが判明した。
【0028】
【実施例2】
【0029】
本発明のペンタペプチド化合物には、角層水分含量を高めること、また経皮水分蒸散量を下げる効果が確認されている。ヒアルロン酸は皮膚の水分保持や粘弾性に関与する細胞外マトリックス成分であり、加齢と共に減少あるいは変性する。そのため、ヒアルロン酸合成を促進することで、皮膚の水分含量の上昇および経皮水分蒸散量の低下が期待される。
そこで、正常ヒト線維芽細胞において、ヒアルロン酸合成を主に調整するヒアルロン酸合成酵素(HAS2)をターゲットとし、本発明のペンタペプチド化合物が及ぼす影響を調べた。
【0030】
正常ヒト線維芽細胞の培養
凍結保存した正常ヒト線維芽細胞(成人由来 クラボウ)を2×105cells/mLとなるように10%FBS-DMEM培地に混和し、5mlシャーレに播種して、37℃、5%CO2、4日間培養した。トリプシンで剥離後、1×105cells/mLになるように無血清DMEM培地に混和し、0.5mLを24穴シャーレに播種して、37℃、5%CO2、24時間培養した。24時間後、DMSOに溶解したサンプルを加え、更に37℃、5%CO2、24時間培養した。
【0031】
RNA抽出
培養細胞からの全RNA抽出は、TRIzol(登録商標) Plus RNA Purification Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いた。操作手順は、メーカーのプロトコールに従った。抽出したRNAは-80℃で保存した。
逆転写反応
抽出したRNAは、ReverTra Ace(登録商標)qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(東洋紡)にて逆転写反応を行った。RNA鋳型60ngにNuclease free waterを添加して6μLとした反応液を65℃、5分で反応させ、その後、4℃で反応を停止した。次に、2μL 4×DN Master Mixを加え、37℃、5分反応後、4℃で反応を停止した。最後に、2μL 5×RT Master MixIIを加え、37℃ 15分、50℃ 5分、98℃ 5分で反応した。反応液は-20℃で保存した。
【0032】
定量RT-PCR
上記逆転写反応により作成したcDNAを鋳型として用いた。FastStart Essential DNA Green Master(Roche)と各遺伝子に対する特異的なプライマー(表2)を用いて、LightCycler(登録商標)96システムにより解析を行った。遺伝子の発現量はComparative Ct法にて比較定量し、GAPDHを内部標準として相対値として算出した。反応は、95℃、10分の反応後、95℃で10秒、60℃で10秒、72℃で15秒を45回繰り返す増幅反応を行い、最後に95℃で30秒、60℃で20秒、95℃で20秒の反応を行った。この時、DNAに結合するSYBR Greenの蛍光をモニタリングすることによってmRNA発現量の増幅を測定した。
【0033】
【表2】
統計解析
統計解析には、Welchのt検定による有意差検定を行い、有意差水準はp<0.05とした。
【0034】
結果
正常ヒト線維芽細胞に対する本発明のペンタペプチド化合物の効果を
図1に示す。その結果、本発明のペンタペプチド化合物を100μg/mL添加した区は、コントロール区に比べてHAS2発現量が4倍以上にも顕著に増加することが示された。
【0035】
実施例2の試験によって、正常ヒト線維芽細胞において、本発明のペンタペプチド化合物がヒアルロン酸合成酵素ヒアルロン酸合成酵素HAS2遺伝子の発現を顕著に促進する効果が確認された。
この本発明のペンタペプチド化合物のHAS2発現促進効果によれば、ヒアルロン酸の合成促進により、皮膚の保湿効果が向上し、真皮中の水分保持力が増加することで、肌にハリを与え、シワの形成を防ぐことが期待される。
今後、美肌効果等をもたらす食べるスキンケアとしての飲食品、医薬品としての活用が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、大麦焼酎蒸溜残液から新規で有用なペンタペプチド化合物を単離、提供することができる。この化合物は、ヒアルロン酸合成の促進作用を有するため、皮膚の保湿機能を改善して美肌効果をもたらすための飲食品、サプリメント、医薬品等の様々な用途、形態で利用できる可能性がある。
【配列表】