IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】ブラダー用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/22 20060101AFI20231030BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20231030BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20231030BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20231030BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20231030BHJP
   B29C 33/02 20060101ALI20231030BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20231030BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20231030BHJP
【FI】
C08L23/22
C08L27/12
C08K5/3415
C08K5/103
C08L91/00
B29C33/02
B29C35/02
B29L30:00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019187815
(22)【出願日】2019-10-11
(65)【公開番号】P2021063164
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀内 薫
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-096147(JP,A)
【文献】特開2016-098294(JP,A)
【文献】特開2015-217576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/22
C08L 27/12
C08K 5/3415
C08K 5/103
C08L 91/00
B29C 33/02
B29C 35/02
B29L 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチルゴムを含むゴム成分の全量を100質量部としたとき、フッ素系ポリマーを0.1~2質量部シトラコンイミド化合物を0.2~2質量部、さらにソルビタン脂肪酸エステルを1~10質量部含有することを特徴とするブラダー用ゴム組成物。
【請求項2】
さらに植物油を1~10質量部含有する請求項1に記載のブラダー用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のブラダー用ゴム組成物を加硫成形してなるタイヤ加硫用ブラダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラダー用ゴム組成物に関し、特にタイヤ加硫に使用された際、耐久性に優れたブラダーの原料となるブラダー用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤは加硫工程を経て製造され、加硫工程では、加硫可能な温度まで温調可能な金型内に未加硫の生タイヤがセットされ、生タイヤの内側に位置するブラダーを膨張させて、金型の内面形状近くまで生タイヤが押し込まれることでシェーピングされる。
【0003】
加硫工程で使用されるブラダーは、タイヤ生産時に繰り返し使用されるため、タイヤ生産性やコストを考慮した場合、その耐久性を向上することは重要である。一般に、ブラダーはその機構上、ゴム部材で構成されるが、加硫工程で繰り返し生タイヤと接しつつ、加硫温度雰囲気下に曝されるため、耐久性を向上するためには多くの工夫が必要である。
【0004】
下記特許文献1には、ブラダーを構成するゴム組成物100重量部に対して、フルオロアルキル基を含有したフッ素系ポリマーが0.1重量部以上15重量部以下配合されて混合され、筒状本体部の外表面側にフルオロアルキル基が配向されることにより、筒状本体部の外表面全体が、前記ゴム組成物に対して改質されたタイヤ加硫用ブラダーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-217576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ただし、本発明者が鋭意検討したところ、上記特許文献1に記載の技術では、ブラダーの耐久性向上に関し、さらなる改良の余地があることが判明した。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、タイヤ加硫に使用された際、耐久性に優れたブラダーの原料となるブラダー用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は下記構成により解決可能である。すなわち本発明は、ブチルゴムを含むゴム成分の全量を100質量部としたとき、フッ素系ポリマーを0.1~2質量部およびシトラコンイミド化合物を0.2~2質量部含有することを特徴とするブラダー用ゴム組成物に関する。
【0009】
本発明に係るブラダー用ゴム組成物は、ブチルゴムを含むゴム成分と、所定量のフッ素系ポリマーおよびシトラコンイミド化合物とを含有する。これにより、後述する実験結果が示すとおり、単に加硫後に得られるブラダーの離型性が向上するだけでなく、耐久性が著しく向上する。
【0010】
上記ブラダー用ゴム組成物において、さらにソルビタン脂肪酸エステルを1~10質量部含有することが好ましい。フッ素系ポリマーおよびシトラコンイミド化合物に加え、さらにソルビタン脂肪酸エステルが所定量配合されることにより、加硫ゴムの耐久性がさらに向上する。
【0011】
上記ブラダー用ゴム組成物において、さらに植物油を1~10質量部含有することが好ましい。フッ素系ポリマーおよびシトラコンイミド化合物に加え、さらに植物油が所定量配合されることにより、加硫ゴムの耐久性がさらに向上する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るブラダー用ゴム組成物は、ゴム成分、フッ素系ポリマーおよびシトラコンイミド化合物を含有する。
【0013】
本発明に係るブラダー用ゴム組成物は、少なくともゴム成分としてブチルゴムを含有する。ブチルゴムは、イソブチレンとイソプレンとを任意の割合で共重合させたブチルゴムであってもよく、ブチルゴムの一部がハロゲン化されたハロゲン化ブチルゴムであってもよい。ハロゲン化ブチルゴムとしては、臭素化ブチルゴムまたは塩素化ブチルゴムなどが挙げられる。本発明に係るブラダー用ゴム組成物は、ゴム成分として、ブチルゴム以外のジエン系ゴム、例えば天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエン、ポリスチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴムなどを含有してもよい。ただし、ブラダー用ゴム組成物を加硫成形して得られるブラダーの気密性および耐熱性を考慮した場合、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、ブチルゴムを80質量部以上含有することが好ましく、90質量部以上含有することがより好ましい。
【0014】
フッ素系ポリマーとしては、主鎖がポリエステル、ポリアクリレート、ポリエチレンなどで構成され、側鎖に直接フッ素原子を有するもの、あるいは側鎖に有するアルキル基などの一部がフッ素化されたものが挙げられる。この中でも、ポリエステルの側鎖アルキル基の少なくとも一部がフッ素化されたフッ素系樹脂が好ましい。ブラダー用ゴム組成物を加硫成形して得られるブラダーの耐久性を考慮した場合、ブラダー用ゴム組成物中のフッ素系樹脂の配合量は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき0.1~2質量部含有することが好ましく、0.3~1質量部含有することがより好ましい。
【0015】
シトラコンイミド化合物としては、少なくとも下記式に記載の構造式を有する化合物が挙げられる。
【化1】
式中、Rは置換基を有してもよい、脂肪族炭化水素基、アリール基、またはヘテロ環基を表す。特に、シトラコンイミド化合物としては下記式に記載の1,3-ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼンが好ましい。
【化2】
【0016】
ブラダー用ゴム組成物を加硫成形して得られるブラダーの耐久性を考慮した場合、ブラダー用ゴム組成物中のシトラコンイミド化合物の配合量は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき0.2~2質量部含有することが好ましく、0.5~1質量部含有することがより好ましい。
【0017】
ソルビタン脂肪酸エステルはソルビタンと脂肪酸のエステルとのエステルであり、例えばソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエートおよびソルビタンモノラウレートなどが挙げられる。これらの中でも、ソルビタンモノステアレートを使用することが好ましい。ブラダー用ゴム組成物を加硫成形して得られるブラダーの耐久性を考慮した場合、ブラダー用ゴム組成物中のソルビタン脂肪酸エステルの配合量は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき1~10質量部含有することが好ましく、2~8質量部含有することがより好ましく、3~5質量部含有することが特に好ましい。
【0018】
植物油としては、例えばヒマシ油、ナタネ油、ヤシ油、大豆油などが挙げられる。これらの中でも、ヒマシ油を使用することが好ましい。ブラダー用ゴム組成物を加硫成形して得られるブラダーの耐久性を考慮した場合、ブラダー用ゴム組成物中の植物油の配合量は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき1~10質量部含有することが好ましく、2~8質量部含有することがより好ましく、3~5質量部含有することが特に好ましい。
【0019】
本発明に係るブラダー用ゴム組成物は、ゴム成分、フッ素系ポリマー、シトラコンイミド化合物に加え、必要に応じてさらに配合される植物油およびソルビタン脂肪酸エステル以外の成分として、当業者に公知の配合剤を配合可能であり、例えばカーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、加硫系配合剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、やオイルなどの軟化剤、加工助剤などを配合することができる。
【0020】
カーボンブラックは、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。本発明に係る空気入りタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックを10~120質量部配合することが好ましく、20~100質量部であることがより好ましい。
【0021】
シリカとしては、通常のゴム補強に用いられる湿式シリカ、乾式シリカ、ゾル-ゲルシリカ、表面処理シリカなどが用いられる。なかでも、湿式シリカが好ましい。
【0022】
シランカップリング剤としては、分子中に硫黄を含むものであれば特に限定されず、ゴム組成物においてシリカとともに配合される各種のシランカップリング剤を用いることができる。例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(例えば、デグサ社製「Si69」)、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(例えば、デグサ社製「Si75」)、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランが挙げられる。
【0023】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0024】
加硫系配合剤としては、硫黄、有機過酸化物などの加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤などが挙げられる。
【0025】
加硫系配合剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。
【0026】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0027】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分、フッ素系ポリマー、シトラコンイミド化合物に加え、必要に応じてさらに配合される植物油およびソルビタン脂肪酸エステル、さらにはカーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、加硫系配合剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、やオイルなどの軟化剤、加工助剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0028】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄系加硫剤、および加硫促進剤などの加硫系配合剤以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【実施例
【0029】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、実施例などにおける評価項目は、各ゴム組成物を180℃にて30分間加熱、加硫して得られたゴムサンプルを下記の評価条件に基づいて評価を行った。
【0030】
(1)加硫ゴムの離型性
タイヤに内面液を塗布せずに連続加硫本数を測定し、5本以下でタイヤ内面剥離発生は×、25本以上でタイヤ内面剥離発生は○と評価した。○は離型性が優れていることを示す。
【0031】
(2)ブラダー耐久性(ブラダーライフ)
ブラダーの加硫使用回数をカウントし、比較例1の使用回数を100として指数評価した。数値が大きい程、ブラダー耐久性が優れていることを示す。
【0032】
(ゴム組成物の調製)
表1の配合処方に従い、実施例1~4および比較例1のゴム組成物を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を調整した。表1に記載の各配合剤を以下に示す(表1において、各配合剤の配合量を、ゴム成分100質量部に対する質量部数で示す)。
a)ブチルゴム;商品名「エクソンブチル268」(エクソンモービル社製)
b)フッ素系ポリマー(パーフルオロアルキルポリエステル);商品名「ダイフリーFB-961」(ダイキン工業社製)
c)シトラコンイミド化合物;商品名「Perkalink 900-PST」(ランクセス社製)
d)カーボンブラック
アセチレンブラック;商品名「デンカブラック」(デンカ社製)
ISAF;商品名「ショウワブラックN220」(キャボットジャパン)
e)ソルビタン脂肪酸エステル(ソルビタンモノステアレート);商品名「レオドールSP-S10V」(花王社製)
f)植物油(ヒマシ油);商品名「ヒマシ油カクエー」(伊藤製油社製)
g)架橋用樹脂マスターバッチ(成分比率「樹脂」/「酸化亜鉛」/「ブチルゴム」=40/25/35);商品名「Rhenogran GE3047T」(ランクセス社製)
【0033】
【表1】
【0034】
表1の結果から、実施例1~4に係るゴム組成物の加硫ゴムは、比較例1に係るゴム組成物の加硫ゴムに比して、離型性に優れ、かつブラダー耐久性に優れることが分かる。