(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20231030BHJP
【FI】
B23B27/14 C
(21)【出願番号】P 2019206322
(22)【出願日】2019-11-14
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】594079143
【氏名又は名称】株式会社アイシン福井
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】山口 大生一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 一喜
(72)【発明者】
【氏名】山口 誠
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/099777(WO,A1)
【文献】特開2007-015085(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0031698(US,A1)
【文献】特開2012-045635(JP,A)
【文献】特開2014-018891(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0321262(US,A1)
【文献】国際公開第2010/150696(WO,A1)
【文献】特開2004-025442(JP,A)
【文献】国際公開第2004/050314(WO,A2)
【文献】特表2002-502711(JP,A)
【文献】特開2014-046407(JP,A)
【文献】国際公開第2020/184668(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00 - 27/24
B23C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被切削物を切削するための切れ刃と、
前記切れ刃により前記被切削物が切削されることにより生じる切り屑が接触する部分を含むすくい面と、
前記被切削物の被切削面と接触する部分を含む逃げ面と、を備え、
前記すくい面の前記切れ刃側および前記逃げ面の前記切れ刃側の少なくともいずれかには、互いに隣り合うように配列された複数の配列溝と、前記複数の配列溝の少なくとも一部同士を互いに接続する接続溝と、を含む、複数の溝が形成されて
おり、
前記接続溝は、前記複数の配列溝の端部のうち、少なくとも前記切れ刃側の端部同士、または、前記切れ刃と反対側の端部同士を接続し、前記切れ刃の先端から遠ざかる方向に広がるU字の曲線形状に形成されている、切削工具。
【請求項2】
前記複数の溝は、前記すくい面の前記切れ刃側に形成されており、
前記複数の溝が形成されている溝形成領域は、前記すくい面において、前記切れ刃側から前記切れ刃とは反対側に向かって延びている、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記複数の配列溝の少なくとも一部同士は、前記溝形成領域の外縁部に配置された前記接続溝によって互いに接続されている、請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記複数の配列溝の少なくとも一部同士は、前記溝形成領域を囲むように前記外縁部に沿って延びるように形成された周状の前記接続溝によって互いに接続されている、請求項3に記載の切削工具。
【請求項5】
前記すくい面には、前記切り屑を前記すくい面とは反対側に曲げるための切り屑処理部が設けられており、
前記溝形成領域は、前記すくい面において、前記切り屑処理部とオーバラップしないように形成されている、請求項2~4のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項6】
前記切り屑処理部は、前記すくい面において、前記切り屑が排出される方向と直交する方向における中央部に設けられており、
前記溝形成領域は、前記切り屑処理部を囲むようにU字状に形成されている、請求項5に記載の切削工具。
【請求項7】
前記複数の配列溝は、各々、前記すくい面において、前記切り屑が排出される方向と交差する方向に延びるように形成されている、請求項2~6のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項8】
前記複数の配列溝は、各々、前記すくい面において、前記切り屑が排出される方向と略直交する方向に沿って延びるように形成されている、請求項7に記載の切削工具。
【請求項9】
前記配列溝は、前記すくい面の前記切れ刃側および前記逃げ面の前記切れ刃側の少なくともいずれかに、前記切り屑が排出される方向に対して直交する方向に沿って延びるとともに、前記切り屑が排出される方向において互いに隣り合うように配列するように形成され、
前記接続溝は、前記複数の配列溝の少なくとも一部同士を互いに接続するとともに、前記切り屑が排出される方向、および、前記配列溝が配列される方向に対して傾斜するように形成されている、請求項1に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、切削工具に関し、特に、複数の溝が形成された切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の溝が形成された切削工具が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、すくい面と逃げ面とが交差する稜線に切れ刃が形成された切削工具が記載されている。上記特許文献1に記載の切削工具では、すくい面の切れ刃側には、規則的に配列された(いずれかの方向に互いに略平行に配列された)うねり形状(複数の溝)が形成されている。上記特許文献1に記載の切削工具では、すくい面に、切削油剤の油溜まりとなるうねり形状が形成されていることにより、被切削物を切削する際に、すくい面と切り屑との間の摩擦抵抗が低減され、すくい面の摩耗の進行が抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1には記載されていないが、上記特許文献1に記載のような従来の切削工具では、被切削物を切削する際に、切れ刃が被切削物に食い込むので、すくい面の切れ刃の近傍には、切り屑と常に接触する部分が生じる。しかしながら、上記特許文献1に記載の切削工具では、複数の溝が、いずれかの方向に互いに略平行に配列されている(互いに隣り合うように、かつ、互いに離間するように配置されている)ので、被切削物を切削する際に、すくい面の切り屑と常に接触する部分では、複数の溝同士の間を切削油剤が移動しにくい。すなわち、すくい面の切り屑と常に接触する部分(切れ刃の近傍)では、切削油剤が拡がりにくくなるので、摩耗の進行が抑制されにくくなる。このため、上記特許文献1に記載の切削工具では、すくい面において、切れ刃の近傍に切削油剤が供給されにくくなることに起因して工具寿命が低下してしまうという問題点がある。なお、逃げ面においても、すくい面と同様の問題がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、切れ刃の近傍に切削油剤が供給されにくくなることに起因して工具寿命が低下してしまうのを抑制することが可能な切削工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面による切削工具は、被切削物を切削するための切れ刃と、切れ刃により被切削物が切削されることにより生じる切り屑が接触する部分を含むすくい面と、被切削物の被切削面と接触する部分を含む逃げ面と、を備え、すくい面の切れ刃側および逃げ面の切れ刃側の少なくともいずれかには、互いに隣り合うように配列された複数の配列溝と、複数の配列溝の少なくとも一部同士を互いに接続する接続溝と、を含む、複数の溝が形成されており、接続溝は、複数の配列溝の端部のうち、少なくとも切れ刃側の端部同士、または、切れ刃と反対側の端部同士を接続し、切れ刃の先端から遠ざかる方向に広がるU字の曲線形状に形成されている。
【0008】
この発明の一の局面による切削工具では、上記のように、すくい面の切れ刃側および逃げ面の切れ刃側の少なくともいずれかには、互いに隣り合うように配列された複数の配列溝と、複数の配列溝の少なくとも一部同士を互いに接続する接続溝と、を含む、複数の溝が形成されており、接続溝は、複数の配列溝の端部のうち、少なくとも切れ刃側の端部同士、または、切れ刃と反対側の端部同士を接続し、切れ刃の先端から遠ざかる方向に広がるU字の曲線形状に形成されている。これにより、接続溝によって互いに接続された配列溝同士の間では、接続溝を介して、切削油剤を移動させることができるので、配列溝のみが設けられ接続溝が設けられていない場合と比較して、すくい面および逃げ面の少なくともいずれかの切り屑と常に接触する部分(切れ刃の近傍)において、切削油剤を拡がり易くすることができる。その結果、切れ刃の近傍に切削油剤が供給されにくくなることに起因して工具寿命が低下してしまうのを抑制することができる。
【0009】
上記一の局面による切削工具において、好ましくは、複数の溝は、すくい面の切れ刃側に形成されており、複数の溝が形成されている溝形成領域は、すくい面において、切れ刃側から切れ刃とは反対側に向かって延びている。このように構成すれば、すくい面において、溝形成領域が切れ刃とは反対側に向かって延びているので、溝形成領域において、切り屑と接触していない部分(切削油剤を供給することが可能な部分)を容易に生じさせることができる。その結果、溝形成領域が切れ刃とは反対側に向かって延びていない場合と比較して、複数の溝に切削油剤を容易に供給することができる。
【0010】
この場合、好ましくは、複数の配列溝の少なくとも一部同士は、溝形成領域の外縁部に配置された接続溝によって互いに接続されている。このように構成すれば、接続溝が溝形成領域の中央部に配置される場合と比較して、複数の溝において、行き止まりとなる部分が生じにくくなるので、複数の溝に供給された切削油剤を、接続溝を介して、溝形成領域の広い範囲に到達させ易くすることができる。
【0011】
上記複数の配列溝の少なくとも一部同士が溝形成領域の外縁部に配置された接続溝によって互いに接続されている構成において、好ましくは、複数の配列溝の少なくとも一部同士は、溝形成領域を囲むように外縁部に沿って延びるように形成された周状の接続溝によって互いに接続されている。このように構成すれば、接続溝が外縁部の一部に形成されている場合と比較して、行き止まりとなる部分が生じないことに加えて、より多くの複数の配列溝同士を接続することができるので、複数の溝に供給された切削油剤を、接続溝を介して、溝形成領域のより広い範囲に到達させ易くすることができる。
【0012】
上記複数の溝がすくい面に形成されている構成において、好ましくは、溝形成領域の切れ刃とは反対側には、切り屑をすくい面とは反対側に曲げるための切り屑処理部が設けられており、溝形成領域は、すくい面において、切り屑処理部とオーバラップしないように形成されている。このように構成すれば、溝形成領域と切り屑処理部とがオーバラップするように形成される場合と比較して、溝形成領域の構造が複雑になるのを抑制することができる。
【0013】
この場合、好ましくは、切り屑処理部は、すくい面において、切り屑が排出される方向と直交する方向における中央部に設けられており、溝形成領域は、切り屑処理部を囲むようにU字状に形成されている。このように構成すれば、すくい面において、溝形成領域を、切り屑処理部とオーバラップしないように容易に形成することができる。
【0014】
上記複数の溝がすくい面に形成されている構成において、好ましくは、複数の配列溝は、各々、すくい面において、切り屑が排出される方向と交差する方向に延びるように形成されている。このように構成すれば、複数の配列溝が、すくい面において、切り屑が排出される方向に延びるように形成されている場合と比較して、排出された切り屑が複数の配列溝に堆積しにくくなるので、複数の配列溝に溜めることが可能な切削油剤の量が低下するのを抑制することができる。その結果、すくい面の複数の溝が形成されている領域に切削油剤が維持され易くなるので、すくい面の摩耗の進行を効果的に抑制することができる。
【0015】
この場合、好ましくは、複数の配列溝は、各々、すくい面において、切り屑が排出される方向と略直交する方向に沿って延びるように形成されている。このように構成すれば、排出された切り屑が複数の配列溝に確実に堆積しにくくなるので、複数の配列溝に溜めることが可能な切削油剤の量が低下するのを確実に抑制することができる。
また、上記一の局面による切削工具において、好ましくは、配列溝は、すくい面の切れ刃側および逃げ面の切れ刃側の少なくともいずれかに、切り屑が排出される方向に対して直交する方向に沿って延びるとともに、切り屑が排出される方向において互いに隣り合うように配列するように形成され、接続溝は、複数の配列溝の少なくとも一部同士を互いに接続するとともに、切り屑が排出される方向、および、配列溝が配列される方向に対して傾斜するように形成されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記のように、切れ刃の近傍に切削油剤が供給されにくくなることに起因して工具寿命が低下してしまうのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態による切削工具の斜視図である。
【
図3】被切削物を切削する際の切削工具と被切削物との接触を説明するための図である。
【
図5】
図4の1100-1100線に沿った断面図である。
【
図7】
図6の1200-1200線に沿った断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態の第1変形例による第1溝形成領域を示した図である。
【
図9】本発明の一実施形態の第2変形例による第1溝形成領域を示した図である。
【
図10】本発明の一実施形態の第3変形例による第1溝形成領域を示した図である。
【
図11】本発明の一実施形態の第4変形例による第1溝形成領域を示した図である。
【
図12】本発明の一実施形態の第5変形例による第2溝形成領域を示した図である。
【
図13】本発明の一実施形態の第6変形例による第2溝形成領域を示した図である。
【
図14】本発明の一実施形態の第7変形例による第2溝形成領域を示した図である。
【
図15】本発明の一実施形態の第8変形例による切削工具の頂部を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1~
図7を参照して、本発明の一実施形態による切削工具100の構成について説明する。切削工具100は、金属等の被切削物1(
図3参照)の切削加工を行うための工具である。
【0021】
図1に示すように、切削工具100は、刃先交換式工具の刃先(チップ)である。切削工具100の中央部には、刃先である切削工具100を工具本体(図示しない)に取り付けるための取付け孔11が設けられている。
【0022】
切削工具100は、互いに平行に配置されるとともに菱形形状を有する2つの底面と、2つの底面同士を接続する4つの側面と、を含む平行六面体形状を有する。以下の説明では、底面の対角線のうちの長い方が延びる方向、底面の対角線のうちの短い方が延びる方向、および、側面が延びる方向を、それぞれ、X方向、Y方向およびZ方向とする。そして、X方向の一方側、X方向の他方側、Y方向の一方側、Y方向の他方側、Z方向の一方側およびZ方向の他方側を、それぞれ、X1側、X2側、Y1側、Y2側、Z1側およびZ2側とする。
【0023】
切削工具100では、平行六面体形状の複数の頂点(頂部12)を、被切削物1(
図3参照)を切削するための切れ刃20(後述する)として用いることが可能である。なお、本明細書では、平行六面体形状を有する切削工具100のX方向における一方側(X1側)かつZ方向における一方側(Z1側)の頂点(頂部12a)を用いて被切削物1を切削する場合の例を説明する。この場合、被切削物1の切削方向(
図3参照)は、Z1方向となる。
【0024】
図2に示すように、切削工具100は、切れ刃20と、すくい面30と、逃げ面40と、を備えている。
【0025】
切れ刃20は、すくい面30と逃げ面40とが交差する稜線に形成されている。
図3に示すように、切れ刃20は、丸面の形状を有する。切れ刃20は、被切削物1を切削する際に、被切削物1に食い込むように構成されている。
【0026】
すくい面30は、切れ刃20により被切削物1が切削されることにより生じる切り屑2が接触する部分31を含む面である。すくい面30は、被切削物1を切削する際に、切り屑2が排出される方向(X2方向)に沿うよう形成されている。なお、切削工具100を用いて被切削物1を切削する際には、すくい面30に対して、切れ刃20とは反対側(X2側)から切削油剤が供給される。
【0027】
図2に示すように、すくい面30には、切り屑処理部32が設けられている。切り屑処理部32は、すくい面30から突出するように形成されている。切り屑処理部32は、すくい面30において、切り屑2が排出される方向(X2方向)と直交する方向(Y方向)における中央部30a(
図4参照)に設けられている。
図3に示すように、切り屑処理部32は、X2方向に排出された切り屑2をすくい面30とは反対側(Z1側)に曲げるために設けられている。なお、
図3では、切り屑処理部32の図示を省略している。
【0028】
逃げ面40は、被切削物1を切削する際に、被切削物1の被切削面1aと接触する部分41を含む面である。逃げ面40は、被切削物1を切削する際に、被切削面1aに沿うように形成されている。すなわち、逃げ面40および被切削面1aは、Z方向に沿うように形成されている。なお、切削工具100を用いて被切削物1を切削する際には、逃げ面40に対して、切れ刃20とは反対側(Z2側)から切削油剤が供給される。
【0029】
ここで、本実施形態では、
図2に示すように、すくい面30の切れ刃20側には、複数の第1溝51が形成されている。そして、複数の第1溝51が形成されている第1溝形成領域50は、すくい面30において、切れ刃20側(X1側)から切れ刃20とは反対側(X2側)に向かって延びている。なお、第1溝51および第1溝形成領域50は、それぞれ、特許請求の範囲の「溝」および「溝形成領域」の一例である。
【0030】
詳細には、
図4に示すように、すくい面30において、切れ刃20に沿うように、第1溝形成領域50が形成されている。また、第1溝形成領域50は、切り屑処理部32を囲むようにU字状に形成されている。すなわち、第1溝形成領域50は、すくい面30において、切り屑処理部32とオーバラップしないように形成されている。なお、
図3に示すように、第1溝形成領域50は、切削工具100により被切削物1を切削する際に、被切削物1の切り屑2と全く接触しない部分が生じるように、切れ刃20とは反対側(X2側)に延びるように形成されている。
【0031】
また、
図5に示すように、複数の第1溝51は、各々、少なくとも、被切削物1が切削されることにより、すくい面30と切り屑2との間に生じる硬質粒子3aよりも大きな溝幅W1および溝深さD1を有する。また、複数の第1溝51は、各々、山と谷とが曲面状に形成されている。なお、「すくい面30と切り屑2との間に生じる硬質粒子3a」とは、被切削物1が切削されることによって、切り屑2から脱落した被切削物1の破片、すくい面30から剥ぎ取られた切削工具100の破片、等である。
【0032】
また、複数の第1溝51が形成されている第1溝形成領域50には、母材52の表面にコーテイング53が施されている。母材52は、たとえば、サーメットや超硬合金である。また、コーテイング53には、たとえば、チタン化合物(炭化チタン、炭窒化チタン等)、アルミナ等が用いられている。
【0033】
また、本実施形態では、
図4に示すように、複数の第1溝51は、互いに隣り合うように配列された複数の配列溝51aと、複数の配列溝51a同士を互いに接続する接続溝51bと、を含む。
【0034】
詳細には、複数の配列溝51aは、各々、すくい面30において、切り屑2が排出される方向(X2方向)と略直交する方向(Y方向)に沿って延びるように形成されている。すなわち、複数の配列溝51aは、各々、すくい面30において、切り屑2が排出される方向と交差する方向(切り屑2が排出される方向と異なる方向)に延びるように形成されている。
【0035】
また、複数の配列溝51a同士は、U字状に形成された第1溝形成領域50の外縁部50aに配置された接続溝51bによって互いに接続されている。具体的には、複数の配列溝51a同士は、第1溝形成領域50を囲むように外縁部50aに沿って延びるように形成された周状の接続溝51bによって互いに接続されている。
【0036】
なお、切削工具100では、
図2に示すように、逃げ面40の切れ刃20側には、複数の第2溝61が形成されている。そして、複数の第2溝61が形成されている第2溝形成領域60は、逃げ面40において、切れ刃20側(X1側)から切れ刃20とは反対側(X2側)に向かって延びている。
【0037】
詳細には、
図6に示すように、複数の第2溝61は、各々、逃げ面40において、切れ刃20による被切削物1の切削方向(Z方向)に沿って延びるように形成されている。そして、複数の第2溝61は、各々、逃げ面40において、切れ刃20側(Z1側)から切れ刃20とは反対側(Z2側)の端部40aの近傍まで延びるように形成されている。すなわち、切削工具100では、複数の第2溝61は、逃げ面40において、Z方向における一方側(Z1側)の頂部12の近傍から他方側(Z2側)の頂部12の近傍まで延びるように形成されている。これにより、
図3に示すように、第2溝形成領域60には、切削工具100により被切削物1を切削する際に、被切削物1の被切削面1aと全く接触しない部分が生じる。
【0038】
また、
図7に示すように、複数の第2溝61は、各々、少なくとも、被切削物1が切削されることにより逃げ面40と被切削面1aとの間に生じる硬質粒子3bよりも大きな溝幅W2および溝深さD2を有する。また、複数の第2溝61は、各々、溝幅W2よりも小さい溝深さD2を有する。また、複数の第2溝61は、各々、山部分が曲面状に形成されている。なお、「逃げ面40と被切削面1aとの間に生じる硬質粒子3b」とは、被切削物1が切削されることによって、被切削面1aから剥ぎ取られた被切削物1の破片、逃げ面40から剥ぎ取られた切削工具100の破片、等である。
【0039】
また、複数の第2溝61が形成されている第2溝形成領域60には、母材62の表面にコーテイング63が施されている。母材62は、たとえば、サーメットや超硬合金である。また、コーテイング63には、たとえば、チタン化合物(炭化チタン、炭窒化チタン等)、アルミナ等が用いられている。
【0040】
なお、第1溝形成領域50(複数の第1溝51(複数の配列溝51a、接続溝51b))および第2溝形成領域60(複数の第2溝61)は、金型加工、レーザ加工、等により成型されている。
【0041】
(実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0042】
本実施形態では、上記のように、すくい面30の切れ刃20側に、互いに隣り合うように配列された複数の配列溝51aと、複数の配列溝51aの少なくとも一部同士を互いに接続する接続溝51bと、を含む、複数の配列溝51aを形成する。これにより、接続溝51bによって互いに接続された配列溝51a同士の間では、接続溝51bを介して、切削油剤を移動させることができるので、配列溝51aのみが設けられ接続溝51bが設けられていない場合と比較して、すくい面30の切り屑2と常に接触する部分31(切れ刃20の近傍)において、切削油剤を拡がり易くすることができる。その結果、切れ刃20の近傍に切削油剤が供給されにくくなることに起因して工具寿命が低下してしまうのを抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態では、上記のように、複数の第1溝51を、すくい面30の切れ刃20側に形成する。そして、複数の第1溝51が形成されている第1溝形成領域50を、すくい面30において、切れ刃20側から切れ刃20とは反対側に向かって延びるように構成する。これにより、すくい面30において、第1溝形成領域50が切れ刃20とは反対側に向かって延びているので、第1溝形成領域50において、切り屑2と接触していない部分(切削油剤を供給することが可能な部分)を容易に生じさせることができる。その結果、第1溝形成領域50が切れ刃20とは反対側に向かって延びていない場合と比較して、複数の第1溝51に切削油剤を容易に供給することができる。
【0044】
また、本実施形態では、上記のように、複数の配列溝51a同士は、第1溝形成領域50の外縁部50aに配置された接続溝51bによって互いに接続されている。これにより、接続溝51bが第1溝形成領域50の中央部に配置される場合と比較して、複数の第1溝51において、行き止まりとなる部分が生じにくくなるので、複数の第1溝51に供給された切削油剤を、接続溝51bを介して、第1溝形成領域50の広い範囲に到達させ易くすることができる。
【0045】
また、本実施形態では、上記のように、複数の配列溝51a同士を、第1溝形成領域50を囲むように外縁部50aに沿って延びるように形成された周状の接続溝51bによって互いに接続する。これにより、接続溝51bが外縁部50aの一部に形成されている場合と比較して、行き止まりとなる部分が生じないことに加えて、より多くの複数の配列溝51a同士を接続することができるので、複数の第1溝51に供給された切削油剤を、接続溝51bを介して、第1溝形成領域50のより広い範囲に到達させ易くすることができる。
【0046】
また、本実施形態では、上記のように、切り屑2をすくい面30とは反対側に曲げるための切り屑処理部32を設ける。そして、第1溝形成領域50を、すくい面30において、切り屑処理部32とオーバラップしないように形成する。これにより、第1溝形成領域50と切り屑処理部32とがオーバラップするように形成される場合と比較して、第1溝形成領域50の構造が複雑になるのを抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態では、上記のように、切り屑処理部32を、すくい面30において、切り屑2が排出される方向(X2方向)と直交する方向(Y方向)における中央部30aに設ける。そして、第1溝形成領域50を、切り屑処理部32を囲むようにU字状に形成する。これにより、すくい面30において、第1溝形成領域50を、切り屑処理部32とオーバラップしないように容易に形成することができる。
【0048】
また、本実施形態では、上記のように、複数の配列溝51aを、各々、すくい面30において、切り屑2が排出される方向(X2方向)と交差する方向に延びるように形成する。これにより、複数の配列溝51aが、すくい面30において、切り屑2が排出される方向に延びるように形成されている場合と比較して、排出された切り屑2が複数の配列溝51aに堆積しにくくなるので、複数の配列溝51aに溜めることが可能な切削油剤の量が低下するのを抑制することができる。その結果、すくい面30の複数の第1溝51が形成されている領域(第1溝形成領域50)に切削油剤が維持され易くなるので、すくい面30の摩耗の進行を効果的に抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態では、上記のように、複数の配列溝51aを、各々、すくい面30において、切り屑2が排出される方向(X2方向)と略直交する方向(Y方向)に沿って延びるように形成する。これにより、排出された切り屑2が複数の配列溝51aに確実に堆積しにくくなるので、複数の配列溝51aに溜めることが可能な切削油剤の量が低下するのを確実に抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態では、上記のように、複数の第1溝51を、各々、少なくとも、被切削物1が切削されることによりすくい面30と切り屑2との間に生じる硬質粒子3aよりも大きな溝幅W1および溝深さD1を有するように構成する。これにより、すくい面30と切り屑2との間に生じた硬質粒子3aが、第1溝51の外部に留まらずに、第1溝51に入り易くすることができる。その結果、硬質粒子3aによるすくい面30の掘り起こし(削り取り)が生じにくくなるので、すくい面30と切り屑2との間に生じた硬質粒子3aが、第1溝51に入らずに、第1溝51の外部に留まる場合と比較して、すくい面30の摩耗が促進されるのを抑制することができる。
【0051】
[変形例]
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であり制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更(変形例)が含まれる。
【0052】
たとえば、上記実施形態では、複数の配列溝51a同士を、第1溝形成領域50を囲むように外縁部50aに沿って延びるように形成された周状の接続溝51bによって互いに接続した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図8に示す第1変形例の切削工具200のように、複数の配列溝51a同士を、第1溝形成領域250を囲むように外縁部250aに沿って延びるように形成された非周状の接続溝251bによって互いに接続するように構成してもよい。なお、
図8では、接続溝251bを、第1溝形成領域250の外縁部250aの切れ刃20側全体に設けた示したが、第1溝形成領域250の外縁部250aの切れ刃20側の一部に設けてもよいし、第1溝形成領域250の外縁部250aの切れ刃20側とは反対側に設けてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、複数の配列溝51aを、各々、すくい面30において、切り屑2が排出される方向(X2方向)と略直交する方向(Y方向)に沿って延びるように形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図9に示す第2変形例の切削工具300のように、複数の配列溝351aを、各々、すくい面30において、切り屑2が排出される方向(X2方向)と略直交する方向(Y方向)に対して傾斜するように延びるように形成してもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、複数の配列溝51a同士を、第1溝形成領域50の外縁部50aに配置された接続溝51bによって互いに接続した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図10に示す第3変形例の切削工具400のように、複数の配列溝51a同士を、第1溝形成領域450の中央部450bに配置された接続溝451bによって互いに接続してもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、第1溝形成領域50を、切り屑処理部32を囲むようにU字状に形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図11に示す第4変形例の切削工具500のように、第1溝形成領域550を、切り屑処理部32を囲まないように形成してもよいし、U字状以外の形状に形成してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、複数の第2溝61を、各々、逃げ面40において、切れ刃20側(Z1側)から切れ刃20とは反対側(Z2側)の端部40aの近傍まで延びるように形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図12に示す第5変形例の切削工具600のように、複数の第2溝661を、各々、逃げ面40において、切れ刃20側(Z1側)から中央部40bまで延びるように形成してもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、複数の第2溝61を、各々、逃げ面40において、切れ刃20による被切削物1の切削方向(Z方向)に沿って延びるように形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図13に示す第6変形例の切削工具700のように、複数の第2溝761を、各々、逃げ面40において、切れ刃20による被切削物1の切削方向(Z方向)に対して傾斜するように延びるように形成してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、第1溝形成領域50に、複数の配列溝51a同士を互いに接続する接続溝51bを形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図14に示す第7変形例の切削工具800のように、第2溝形成領域860に、複数の第2溝861同士を互いに接続する接続溝861bを形成してもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、すくい面30の切れ刃20側に、複数の第1溝51を形成するとともに、逃げ面40の切れ刃20側に、複数の第2溝61を形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図15に示す第8変形例の切削工具900のように、すくい面の切れ刃側または逃げ面の切れ刃側のいずれかのみに、複数の溝を形成してもよい。なお、
図15では、すくい面30の切れ刃20側に、複数の第1溝51が形成され、逃げ面940の切れ刃20側に、複数の溝が形成されていない例を示している。
【0060】
また、上記実施形態では、平行六面体形状を有する切削工具100の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、切削工具の形状は、切れ刃として用いることが可能な頂点(頂部)を有する形状であれば、平行六面体形状以外の形状であってもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、工具本体に取り付けられる刃先交換式工具の刃先(チップ)としての切削工具100の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明を、工具本体と刃先(チップ)とが一体的に形成された切削工具に適用してもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 被切削物
1a (被切削物の)被切削面
2 切り屑
3a (被切削物が切削されることによりすくい面と切り屑との間に生じる)硬質粒子
20 切れ刃
30 すくい面
30a (すくい面の)切り屑が排出される方向と直交する方向における中央部
31 (すくい面の)切り屑が接触する部分
32 切り屑処理部
40、940 逃げ面
41 (逃げ面の)被切削物の被切削面と接触する部分
50、250、450、550 第1溝形成領域(溝形成領域)
50a、250a (溝形成領域の)外縁部
51 第1溝(溝)
51a、351a 配列溝
51b、251b、451b 接続溝
100、200、300、400、500、600、700、800、900 切削工具
D1 (溝の)溝深さ
W1 (溝の)溝幅