(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】音源探査方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20231030BHJP
G01H 3/00 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
G01M17/02
G01H3/00
(21)【出願番号】P 2019236832
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻井 政統
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-304403(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0558902(KR,B1)
【文献】特開平08-043189(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0025251(US,A1)
【文献】特開昭55-065982(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109885945(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0164466(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 -17/10
G03H 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地して回転しているタイヤから発生する騒音を、タイヤから離れた測定面上において上下左右に並んだ複数の測定位置で測定し、その測定データを使用して音響ホログラフィ処理によりタイヤの接地部分を含む面における音圧分布を求め、前記分布に基づき前記騒音の音源位置を特定する音源探査方法において、
それぞれの前記測定位置での測定データを、前記測定位置の最下列を通る線又は前記最下列より下側の線を対称軸として、前記測定位置と線対称となる位置における仮想データとし、
前記仮想データと前記測定位置での測定データとを使用して前記音響ホログラフィ処理により前記分布を求めること
とし、
音を測定するリファレンスマイクロホンを前記対称軸上に固定し、
音を測定する移動マイクロホンを、移動させながら複数の前記測定位置で順に停止させ、
前記移動マイクロホンがそれぞれの前記測定位置で停止している間に、前記リファレンスマイクロホン及び前記移動マイクロホンで同時に音を測定し、
前記リファレンスマイクロホンによる測定データの周波数分析データと、前記移動マイクロホンによる測定データ及び前記仮想データのそれぞれの周波数分析データとの位相差を利用した前記音響ホログラフィ処理により、前記分布を求める、音源探査方法。
【請求項2】
接地して回転しているタイヤから発生する騒音を、タイヤから離れた測定面上において上下左右に並んだ複数の測定位置で測定し、その測定データを使用して音響ホログラフィ処理によりタイヤの接地部分を含む面における音圧分布を求め、前記分布に基づき前記騒音の音源位置を特定する音源探査方法において、
それぞれの前記測定位置での測定データを、前記測定位置の最下列を通る線又は前記最下列より下側の線を対称軸として、前記測定位置と線対称となる位置における仮想データとし、
前記仮想データと前記測定位置での測定データとを使用して前記音響ホログラフィ処理により前記分布を求めることとし、
複数の前記測定位置にそれぞれ音を測定する計測マイクロホンを固定してマイクロホンアレイとし、前記マイクロホンアレイの一部として又は前記マイクロホンアレイとは別に前記対称軸上に音を測定するリファレンスマイクロホンを固定し、
前記リファレンスマイクロホンによる測定データの周波数分析データと、前記計測マイクロホンによる測定データ及び前記仮想データのそれぞれの周波数分析データとの位相差を利用した前記音響ホログラフィ処理により、前記分布を求める、音源探査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音源探査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数のマイクロホンが平面上で縦横に並んだマイクロホンアレイが知られている。回転しているタイヤから発生する騒音の音圧を、上記のマイクロホンアレイを構成する多数のマイクロホンで測定し、測定されたデータに対して音響ホログラフィの処理を行い、タイヤの接地部分を含む面(音源面)における音圧分布を求める方法が知られている(例えば特許文献1参照)。求まった音圧分布における音圧の大きい位置が騒音の音源として特定される。
【0003】
このような方法において、特許文献1の
図3に示されているように、回転するタイヤの前方又は後方にマイクロホンアレイが配置されることが多い。この配置により、タイヤの接地部分から発生する騒音の音圧を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような方法において、マイクロホンアレイがタイヤの接地部分から離れていると、タイヤの接地部分から発生する騒音の音圧だけでなくそれ以外の暗騒音の音圧もマイクロホンアレイが測定してしまい、音源を正確に特定できないという問題があった。例えば上記の
図3のようにタイヤの前方又は後方にマイクロホンアレイが配置された場合、タイヤのトレッド面と、タイヤを回転させているドラムの表面との間の反射音が、大きな暗騒音として測定されていた。
【0006】
このような暗騒音の音圧が測定されないようにするためには、タイヤの接地部分の近くで音圧を測定する必要がある。しかし、マイクロホンアレイは多数のマイクロホンからなる大きなものであるため、そのままではタイヤの接地部分に接近させて配置することができない。
【0007】
そこで、マイクロホンアレイを構成するマイクロホンの数を少なくし、それによってマイクロホンアレイを小さくしてタイヤの接地部分に接近させることが考えられる。しかし、マイクロホンの数が少なくなると測定されるデータ数が少なくなってしまい、音源の特定精度が低下してしまう。
【0008】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、タイヤから発生する騒音の音源を精度良く特定することができる音源探査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の音源探査方法は、接地して回転しているタイヤから発生する騒音を、タイヤから離れた測定面上において上下左右に並んだ複数の測定位置で測定し、その測定データを使用して音響ホログラフィ処理によりタイヤの接地部分を含む面における音圧分布を求め、前記分布に基づき前記騒音の音源位置を特定する音源探査方法において、それぞれの前記測定位置での測定データを、前記測定位置の最下列を通る線又は前記最下列より下側の線を対称軸として、前記測定位置と線対称となる位置における仮想データとし、前記仮想データと前記測定位置での測定データとを使用して前記音響ホログラフィ処理により前記分布を求めることとし、音を測定するリファレンスマイクロホンを前記対称軸上に固定し、音を測定する移動マイクロホンを、移動させながら複数の前記測定位置で順に停止させ、前記移動マイクロホンがそれぞれの前記測定位置で停止している間に、前記リファレンスマイクロホン及び前記移動マイクロホンで同時に音を測定し、前記リファレンスマイクロホンによる測定データの周波数分析データと、前記移動マイクロホンによる測定データ及び前記仮想データのそれぞれの周波数分析データとの位相差を利用した前記音響ホログラフィ処理により、前記分布を求める、ことを特徴とする。
また、実施形態の音源探査方法は、接地して回転しているタイヤから発生する騒音を、タイヤから離れた測定面上において上下左右に並んだ複数の測定位置で測定し、その測定データを使用して音響ホログラフィ処理によりタイヤの接地部分を含む面における音圧分布を求め、前記分布に基づき前記騒音の音源位置を特定する音源探査方法において、それぞれの前記測定位置での測定データを、前記測定位置の最下列を通る線又は前記最下列より下側の線を対称軸として、前記測定位置と線対称となる位置における仮想データとし、前記仮想データと前記測定位置での測定データとを使用して前記音響ホログラフィ処理により前記分布を求めることとし、複数の前記測定位置にそれぞれ音を測定する計測マイクロホンを固定してマイクロホンアレイとし、前記マイクロホンアレイの一部として又は前記マイクロホンアレイとは別に前記対称軸上に音を測定するリファレンスマイクロホンを固定し、前記リファレンスマイクロホンによる測定データの周波数分析データと、前記計測マイクロホンによる測定データ及び前記仮想データのそれぞれの周波数分析データとの位相差を利用した前記音響ホログラフィ処理により、前記分布を求める、音源探査方法。
【発明の効果】
【0010】
上記の方法によれば、音響ホログラフィ処理で使用するデータ数を、実際に測定された測定データの数よりも多くすることができるので、タイヤから発生する騒音の音源を精度良く特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1の音源探査方法の実施の様子を示す図。タイヤを軸方向から見た図。
【
図2】実施形態1の音源探査方法の実施の様子を示す図。
図1の矢印A方向から見た図。
【
図4】実施形態1の測定位置及び仮想測定位置を示す図。
【
図7】実施形態1の測定位置及び仮想測定位置を
図4の矢印B方向から見た図。
【
図11】実施形態2の測定位置を
図10の矢印B方向から見た図。
【
図12】実施形態2の音源探査方法の実施の様子を示す図。タイヤを軸方向から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0013】
1.第1実施形態
(1)第1実施形態の音源探査装置
図1及び
図2に本実施形態の音源探査の様子を示す。図示省略するがタイヤTのトレッド面T1には多数の溝が形成されている。タイヤTがドラムDに接触(接地)している状態でドラムDが回転すると、ドラムDの回転方向と反対方向にタイヤTが回転し、タイヤTの接地部分Gの溝等から騒音が発生する。音源探査装置10はそのときの騒音の音源の位置の特定に使用される。
【0014】
図3に、本実施形態の音源探査方法の実施に用いられる音源探査装置10を示す。音源探査装置10は、音圧を測定する機器として、移動可能な1つの移動マイクロホン12と、位置が固定されている1つのリファレンスマイクロホン14とを有している。
【0015】
また、音源探査装置10は、移動マイクロホン12及びリファレンスマイクロホン14が接続された音響ホログラフィ装置16と、音響ホログラフィ装置16が接続されたコンピュータ18と、コンピュータ18での計算結果を出力するディスプレイ等の出力装置20とを有している。さらに、音源探査装置10は、後述するレファレンス信号を取得するレファレンス信号装置22と、移動マイクロホン12を移動させる移動制御装置24とを有している。レファレンス信号装置22及び移動制御装置24はコンピュータ18に接続されている。
【0016】
前記の移動マイクロホン12としては、先端の測定部が小さなものが使用される。例えば、移動マイクロホン12は、先端の測定部の直径が例えば0.8mm~1.2mmのプローブマイクロホン、1/2、1/4もしくは1/8インチマイクロホン(すなわち先端の測定部の直径が1/2、1/4もしくは1/8インチのマイクロホン)、又はMEMS(Micro-Electrical-Mechanical Systems)マイクロホンである。
【0017】
移動マイクロホン12は、その先端の測定部がタイヤTのドラムDへの接地部分Gに接近するように配置される。移動マイクロホン12の先端の測定部の位置は、接地部分GにおけるタイヤTの接線方向(
図1の左右方向)へ、タイヤTの接地部分Gから25mm~100mm離れた位置であることが好ましい。
【0018】
移動マイクロホン12の具体的な配置場所としては、例えば、タイヤTの前又は後ろの場所や、タイヤTの軸方向(幅方向)の場所等が挙げられる。移動マイクロホン12の好ましい配置場所は、タイヤTの前又は後ろの場所である。移動マイクロホン12のさらに好ましい配置場所は、
図1に示すようなタイヤTの前又は後ろにおけるタイヤTの下の場所(言い換えれば、タイヤTの前又は後ろで、かつ、タイヤTのトレッド面T1とドラムDの表面D1とに挟まれた場所)である。
【0019】
移動マイクロホン12は移動制御装置24の一部によって保持されており、移動制御装置24によって移動させられる。移動制御装置24は例えばロボットである。移動マイクロホン12の測定部は所定の面積を有する平面上を移動する。この平面が移動マイクロホン12による音圧の測定面30である(
図2参照)。測定面30は、例えば、タイヤTの接地部分Gから発生する騒音の進行方向に対して垂直な平面であり、移動マイクロホン12がタイヤTの前又は後ろに配置される場合はタイヤTの前後方向に垂直な平面である。
【0020】
図4に移動マイクロホン12による測定面30を拡大して示す。
図4には、移動マイクロホン12の移動経路が破線の直線で、停止位置が実線の丸(線31より上の丸)で示されている。移動経路は格子(好ましくは
図4のように正方形を形成する格子)を描き、停止位置は上下左右に周期的に並んでいる。停止位置は上下方向に2つ以上、左右方向に4つ以上あることが好ましい。
【0021】
ここで、各停止位置(後述するように測定位置でもある)をP
i,jと表示することとする。iは列を意味し、
図4で説明すると最下列ではi=1、最下列の1つ上の列ではi=2である。またjは左右方向の順番を意味し、
図4で説明すると左端の位置ではj=1、左端の1つ右の位置ではj=2である。
【0022】
複数の停止位置の最下列はタイヤTの接地面に対して平行になっている。また、複数の停止位置の最下列は、例えば、タイヤTのドラムDへの接地部分GにおけるタイヤTの接線上、またはその接線より僅かに(例えば停止位置の上下間隔L以下の距離だけ)上にある。
【0023】
移動マイクロホン12は、
図4に示されている全ての停止位置で停止するが、そのための移動の順路は限定されない。一例としては、
図4に矢印で示すように、移動マイクロホン12は1番上(つまりi=2の列)の移動経路を右に移動し、上から2番目(つまり最下列すなわちi=1の列)の移動経路を左に移動し、その移動中に全ての停止位置で停止する。
【0024】
移動マイクロホン12は各停止位置で停止している間に音圧の測定を行う。つまり
図4に実線の丸で示されている停止位置は、音圧の測定位置P
i,jである。
図4における一番外側の測定位置P
i,j及び移動経路で囲まれている部分(すなわち、測定位置P
1,1、P
1,10、P
2,10、P
2,1を四隅とする長方形の部分)を測定面30とする。
【0025】
上下左右に隣り合う測定位置Pi,j(すなわち移動マイクロホン12の停止位置)の間の距離Lは、1mm~10mmであることが好ましく、4mm~5mmであることがさらに好ましい。以上のような移動マイクロホン12の移動経路及び停止位置は音源探査装置10においてあらかじめ設定されている。
【0026】
リファレンスマイクロホン14が固定される位置は、移動マイクロホン12の停止位置の最下列より下側の位置、好ましくは前記最下列から下側へ間隔Lの範囲内の位置、さらに好ましくは前記最下列から下側へ間隔Lの半分の長さ(つまりL/2)の位置である。
【0027】
また、リファレンスマイクロホン14の左右方向の位置は、測定面30の左右方向の範囲内(つまり一番左の停止位置P
1,1から一番右の停止位置P
1,10までの範囲内)、又は
図4に示すように測定面30の左右いずれかの端部から外側へ間隔Lの範囲内が好ましい。
【0028】
リファレンスマイクロホン14としては様々なマイクロホンが適用可能だが、例えば1/2、1/4又は1/8インチマイクロホンが使用される。
【0029】
前記のレファレンス信号装置22は、例えば、
図2に示すようにタイヤTの回転軸Sに設けられたロータリーエンコーダである。タイヤT及びその回転軸Sが回転すると、回転軸Sの回転角度に応じたパルス信号がこのロータリーエンコーダから発生しコンピュータ18へ送られる。例えば、タイヤT及びその回転軸Sが1周すなわち360°回転するたびにパルス信号が1回発生する。
【0030】
このパルス信号は、移動マイクロホン12による音圧の測定の開始と終了のためのレファレンス信号として使用される。そのために、移動マイクロホン12による測定の開始とパルス信号との関係、及び移動マイクロホン12による測定の終了とパルス信号との関係が、あらかじめ設定されている。例えば、移動マイクロホン12が新しい測定位置Pi,jに移動してから所定回目(例えば1回目)のパルス信号が測定開始のレファレンス信号として設定され、移動マイクロホン12が新しい測定位置Pi,jに移動してから別の所定回目(例えば2回目や3回目)のパルス信号が測定終了のレファレンス信号として設定されている。
【0031】
このような関係が設定されているため、各測定位置Pi,jにおいて、測定開始のレファレンス信号(パルス信号)が発せられてから測定終了のレファレンス信号(パルス信号)が発せられるまでの間、移動マイクロホン12が測定を行うこととなる。そのため、全ての測定位置Pi,jにおいてタイヤTの同じ回転数の間、音圧の測定を行うことができ、各測定位置Pi,jでの移動マイクロホン12による測定条件を合わせることができる。
【0032】
前記の音響ホログラフィ装置16は、移動マイクロホン12及びリファレンスマイクロホン14から音圧の測定データを取り込み、公知の音響ホログラフィ処理(より具体的にはSTSF(Spatial Transformation of Sound Field)の方法による処理)を行い、タイヤTの接地部分Gを含む面(音源面)における各周波数成分の音圧分布を計算する。なお音源面は測定面30と平行な面である。
【0033】
音響ホログラフィ処理では、各マイクロホン12、14による測定データが周波数分析される。そして、リファレンスマイクロホン14による測定データの周波数分析データ(各周波数成分の振幅と位相のデータ)と、移動マイクロホン12による各測定位置Pi,jにおける測定データの周波数分析データとのクロスパワースペクトルが、各周波数について、また各測定位置Pi,jについて、それぞれ計算される。
【0034】
すなわち、移動マイクロホン12による測定位置Pi,jでの測定データのフーリエ変換X(f)と、リファレンスマイクロホン14による対応する(つまり移動マイクロホン12による測定位置Pi,jでの測定時にリファレンスマイクロホン14により測定された)測定データのフーリエ変換Y(f)とのクロスパワースペクトルCxy(f)が、測定位置Pi,jごとに、また周波数fごとに、それぞれ次の式(I)で計算される。
【0035】
【数1】
ここでY(f)
*はY(f)の複素共役である。また、この計算で使用される2つのマイクロホン12、14による測定データは、後述するように同期して測定されたデータである。
【0036】
ちなみに、クロススペクトルCxy(f)は、同じ周波数のときのX(f)の振幅とY(f)の振幅との積を周波数の関数としたもので、複素数となるので、式(I)は次の式(II)に書き換えることができる。
【0037】
【数2】
ここで、θ(f)は、移動マイクロホン12による測定データの各周波数成分の位相と、リファレンスマイクロホン14による測定データの各周波数成分の位相との位相差である。
【0038】
このことからもわかるように、クロスパワースペクトルCxy(f)を計算することによって、リファレンスマイクロホン14による測定データの各周波数成分の位相を基準として、各測定位置Pi,jにおける移動マイクロホン12による測定データの各周波数成分の相対的な位相を求めている。
【0039】
また、後述する仮想データについても、上記の「各測定位置Pi,jでの測定データ」を「各仮想測定位置Qi,jでの仮想データ」に変更した形で、クロスパワースペクトルCxy(f)が計算される。「仮想測定位置」及び「仮想データ」については後述する。
【0040】
そして、音響ホログラフィ処理では、計算された各クロスパワースペクトルCxy(f)が測定面30(ホログラム面)におけるホログラム信号とされ、音源面における各周波数成分の音圧分布が計算される。
【0041】
また、前記のコンピュータ18は、接続されている音響ホログラフィ装置16及び移動制御装置24の制御を行う。そして、音響ホログラフィ装置16が求めた音源面における音圧分布等を、出力装置20へ出力する。
【0042】
(2)第1実施形態の音源探査方法
本実施形態の音源探査方法の大まかな流れを
図5に示す。まずタイヤTが回転し(S1)、次に移動マイクロホン12及びリファレンスマイクロホン14による音圧の測定がなされる(S2)。次に、音圧の測定データに基づき、音響ホログラフィを利用してタイヤTの接地部分Gを含む面(音源面)における音圧分布が計算される(S3)。次に、音源面における音圧分布に基づき、音源が特定される(S4)。
【0043】
詳細に説明すると、まず、
図1及び
図2に示すようにタイヤTがドラムDに接地するよう配置される。次に、ドラムDの回転が始まり、ドラムDに接地しているタイヤTの回転が始まる(S1)。タイヤTの回転が始まると騒音が発生し始める。また、タイヤT及び回転軸Sの回転角度に応じてレファレンス信号としてのパルス信号が発生する。
【0044】
次の音圧の測定のステップ(S2)の流れを
図6に示す。
図6には移動マイクロホン12による音圧の測定について示されている。
【0045】
まず、移動マイクロホン12が最初の測定位置Pi,jに移動し(S2-1)、その測定位置Pi,jで待機する(S2-2)。そして、待機中に測定開始のレファレンス信号が発せられると(S2-3のYES)、移動マイクロホン12が音圧の測定を開始する(S2-4)。次に、音圧の測定中に測定終了のレファレンス信号が発せられると(S2-5のYES)、移動マイクロホン12が音圧の測定を終了する(S2-6)。これにより、測定開始のレファレンス信号が発せられてから測定終了のレファレンス信号が発せられるまでの間、移動マイクロホン12が測定を行うことになる。
【0046】
その後、全ての測定位置Pi,jでの測定が終了していなければ(S2-7のNO)、移動マイクロホン12が次の測定位置Pi,jに移動し(S2-1)、S2-2からS2-6までのステップが再度実施される。全ての測定位置Pi,jでの測定が終了していれば(S2-7のYES)、音圧測定のステップS2が終了する。
【0047】
これに対し、リファレンスマイクロホン14による音圧の測定は、少なくとも移動マイクロホン12による音圧の測定と同期して行われていれば良い。従って、移動マイクロホン12による最初の測定位置Pi,jでの測定の開始時から最後の測定位置Pi,jでの測定の終了時までの間、リファレンスマイクロホン14が継続して音圧を測定し続けても良い。また、移動マイクロホン12がレファレンス信号に基づき測定を開始したり終了したりするたびに、リファレンスマイクロホン14も測定を開始したり終了したりしても良い。
【0048】
このようにして移動マイクロホン12による測定とリファレンスマイクロホン14による測定とが同期して行われるので、移動マイクロホン12による各測定位置Pi,jでの測定データと、それに対応するリファレンスマイクロホン14による測定データとが紐付けされる。つまり、移動マイクロホン12によるある測定位置Pi,jでの測定データと、移動マイクロホン12がその測定位置Pi,jで測定しているときのリファレンスマイクロホン14による測定データとが紐付けされる。
【0049】
次に、音圧の測定データに基づき音響ホログラフィを利用して音源面における音圧分布が求められるステップ(S3)について説明する。
【0050】
このステップS3において、各測定位置P
i,jでの測定データが、
図4に示す線31を対称軸として、各測定位置P
i,jと線対称になる仮想測定位置における仮想データとして扱われる。ここで、線31は、測定位置P
i,jの最下列より下側においてタイヤTの接地面に平行に延びる線で、リファレンスマイクロホン14を通る線である。
【0051】
ここで、各仮想測定位置をQ
i,jと表示することとする。iは列を意味し、
図4で説明すると最上列ではi=1、最上列の1つ下の列ではi=2である。またjは左右方向の順番を意味し、
図4で説明すると左端の位置ではj=1、左端の1つ右の位置ではj=2である。
【0052】
図4において仮想測定位置Q
i,jを破線の丸で示す。仮想測定位置Q
i,j及び仮想データについて
図4に基づき具体的に説明すると、例えば測定位置P
1,1と線対称の位置は仮想測定位置Q
1,1、測定位置P
1,10と線対称の位置は仮想測定位置Q
1,10、測定位置P
2,10と線対称の位置は仮想測定位置Q
2,10、測定位置P
2,1と線対称の位置は仮想測定位置Q
2,1である。そして、測定位置P
1,1、P
1,10、P
2,10、P
2,1での測定データが、それぞれQ
1,1、Q
1,10、Q
2,10、Q
2,1での仮想データとして扱われる。
【0053】
図7に示すように、実際の測定位置P
i,jと、線31(リファレンスマイクロホン14を通る線)を対称軸として実際の測定位置P
i,jと線対称の位置にある仮想測定位置Q
i,jとは、音源Mからの距離lが等しいとみなすことができる。そのため、仮想測定位置Q
i,jにおいて音圧を測定したと仮定すると、そのとき測定される音の振幅及び位相は、実際の測定位置P
i,jにおいて測定される音の振幅及び位相と等しいはずである。そのため、実際の測定位置P
i,jでの測定データを、仮想測定位置Q
i,jで測定されるであろう測定データすなわち仮想データとして扱うことができる。
【0054】
上記のように、音響ホログラフィ処理では、各測定位置Pi,jでの各測定データがそれぞれ周波数分析され、リファレンスマイクロホン14による測定データの周波数分析データとのクロスパワースペクトルCxy(f)がそれぞれ計算される。また、各仮想測定位置Qi,jでの各仮想データもそれぞれ周波数分析され、リファレンスマイクロホン14による測定データの周波数分析データとのクロスパワースペクトルCxy(f)がそれぞれ計算される。これにより、全ての測定位置Pi,j及び全ての仮想測定位置Qi,jについてのクロスパワースペクトルCxy(f)が揃う。
【0055】
このようにして揃ったデータが測定面30におけるホログラム信号として使用されて音響ホログラフィ処理が実行され、音源面における各周波数の音圧分布が計算される。それにより、測定面30の2倍の面積の平面上で実際に音圧を測定しその測定データに基づき音響ホログラフィ処理を行った場合と同じ結果を得ることとなる。なお、音源面における音圧分布は、全ての周波数について求めることが可能だが、注目する特定の周波数についてのみ求められても良い。
【0056】
次の音源の特定のステップ(S4)では、音源面における各周波数成分の音圧分布における音圧の大きい位置が、その周波数の音の音源として特定される。音源として、例えば、トレッド面T1におけるいずれかの溝又はサイプが特定される。なお、音源の特定は、人が行っても良いし、コンピュータ18が行っても良い。タイヤTの設計者は、音源の特定の結果をもとに、タイヤTのトレッドパターンの設計変更を行うことができる。
【0057】
(3)第1実施形態の効果
以上のように本実施形態では、移動マイクロホン12による各測定位置Pi,jでの測定データが、線31を対称軸として、各測定位置Pi,jと線対称となる仮想測定位置Qi,jにおける仮想データとして扱われる。そして、各測定位置Pi,jでの実際の測定データだけでなく、仮想測定位置Qi,jで測定されるであろう仮想データも使用されて、音響ホログラフィ処理により音源面での各周波数成分の音圧分布が求められる。
【0058】
これにより、音響ホログラフィ処理で使用するデータ数を、実測で得られたデータ数の倍にすることができるので、タイヤTから発生する騒音の音源を精度良く特定することができる。
【0059】
また、音源を精度良く特定するために必要なデータ数を、従来の半分の数の測定位置Pi,jでの測定で得ることができる。そのため、測定位置Pi,jが並んだ測定面30の面積を従来の半分にすることができ、測定面30をタイヤTの接地部分Gにより接近させることができる。そして測定面30をタイヤTの接地部分Gに接近させることにより、各マイクロホン12、14が暗騒音を測定してしまうことを極力防ぐことができ、タイヤTから発生する騒音の音源を精度良く特定することができる。
【0060】
ここで、リファレンスマイクロホン14が、実際の測定位置Pi,jと仮想測定位置Qi,jとの対称軸となる線31上に配置されている。そのため、リファレンスマイクロホン14による測定データの周波数成分の振幅及び位相と、測定位置Pi,jでの測定データの周波数成分の振幅及び位相との関係が、リファレンスマイクロホン14による測定データの周波数成分の振幅及び位相と、前記測定位置Pi,jと線対称の位置の仮想測定位置Qi,jでの仮想データの周波数成分の振幅及び位相との関係と、等しくなる。
【0061】
そのため、上記のように音響ホログラフィ処理においてクロスパワースペクトルCxy(f)が計算されるが、実際の測定位置Pi,jでの測定データとリファレンスマイクロホン14による測定データとのクロスパワースペクトルCxy(f)を計算するのと同様に、仮想データとリファレンスマイクロホン14による測定データとのクロスパワースペクトルCxy(f)を計算することができる。そのため仮想データをそのまま音響ホログラフィ処理に使用することができる。
【0062】
また本実施形態では、移動マイクロホン12が移動しながら各測定位置Pi,jで順に音圧を測定していく。そして、測定位置Pi,jの間隔Lを任意に決めることができ、例えば1mm~10mmといった短い距離に設定することもできる。そのため、移動マイクロホン12による測定面30の面積を小さくすることができる。このように移動マイクロホン12による測定面30の面積を小さくすることができれば、測定面30をタイヤTの接地部分Gに接近させて設定することができ、タイヤTから発生する騒音の音源を精度良く特定することができる。
【0063】
(4)第1実施形態の変更例
ア.変更例1
リファレンスマイクロホン14の位置は、移動マイクロホン12による測定位置Pi,jの最下列又は最下列より下の位置であれば良く、上記実施形態の位置に限定されない。
【0064】
リファレンスマイクロホン14の位置の変更例を
図8に示す。なお
図8において、移動マイクロホン12の移動経路が破線の直線で、停止位置(測定位置)が実線の丸で示されている。
【0065】
図8では、上記実施形態において移動マイクロホン12による測定位置P
i,jであった位置のうちの1つで、最下列の測定位置P
1,jの1つ(
図8の場合はP
1,10)に、リファレンスマイクロホン14が固定されている。
【0066】
図8の場合のように移動マイクロホン12による測定位置P
i,jの最下列を通る線31(この線31はタイヤTの接地面に平行である)上にリファレンスマイクロホン14が固定されている場合、その最下列を通る線31を対称軸として、移動マイクロホン12による測定位置P
i,jでの測定データを、移動マイクロホン12による測定位置P
i,jと線対称となる位置における仮想データとして扱う。
【0067】
例えば測定位置P2,1と線対称の位置は仮想測定位置Q1,1、測定位置P2,10と線対称の位置は仮想測定位置Q1,10、測定位置P3,10と線対称の位置は仮想測定位置Q2,10、測定位置P3,1と線対称の位置は仮想測定位置Q2,1である。そして、測定位置P2,1、P2,10、P3,10、P3,1での測定データが、それぞれQ1,1、Q1,10、Q2,10、Q2,1での仮想データとして扱われる。
【0068】
そして、移動マイクロホン12により実測された測定データだけでなく仮想データも使用されて、上記と同じ方法で音響ホログラフィ処理が実行され騒音の音源が特定される。
【0069】
イ.変更例2
この変更例では、移動マイクロホン12による測定の開始及び終了の基準となるレファレンス信号として、上記実施形態のパルス信号の代わりに、タイヤTの回転速度が利用される。そのために、レファレンス信号装置22として、タイヤTの回転速度を測定する回転速度計が設けられている。
【0070】
そして、タイヤTの異なる2つの回転速度である第1回転速度と第2回転速度とがレファレンス信号としてあらかじめ設定されている。そして、各測定位置Pi,jにおいて、タイヤTの回転速度が第1回転速度の時から第2回転速度の時までの間、移動マイクロホン12が測定を行う。
【0071】
具体例としては、測定開始のレファレンス信号として第1回転速度が設定され、測定終了のレファレンス信号として第1回転速度よりも遅い第2回転速度が設定される。そして、タイヤTがドラムD上で第1回転速度よりも速い高速で回転させられ、その状態でドラムDを回転させるためのモーターの電源が切られる。すると、ドラムD及びタイヤTの回転速度が徐々に落ちていく。そして、タイヤTの回転速度が第1回転速度まで落ちた時に移動マイクロホン12による測定が開始され、タイヤTの回転速度がさらに第2回転速度まで落ちた時に移動マイクロホン12による測定が終了する。これにより、モーターの音が消された状態で、タイヤTの回転速度が第1回転速度と第2回転速度との平均速度のときの騒音の音源を特定することができる。
【0072】
別の具体例としては、測定開始のレファレンス信号として第1回転速度が設定され、測定終了のレファレンス信号として第1回転速度よりも速い第2回転速度が設定される。そして、タイヤTの回転速度が徐々に上げられ、タイヤTの回転速度が第1回転速度まで上がった時に移動マイクロホン12による測定が開始され、タイヤTの回転速度がさらに第2回転速度まで上がった時に移動マイクロホン12による測定が終了する。これにより、タイヤTの回転速度が第1回転速度から第2回転速度まで加速されたときの騒音の音源を特定することができる。
【0073】
この変更例において、タイヤTの回転速度の代わりに、ドラムDの回転速度がレファレンス信号として利用されても良い。
【0074】
ウ.変更例3
この変更例では、移動マイクロホン12による測定の開始及び終了の基準となるレファレンス信号として、上記実施形態のパルス信号の代わりに、タイヤTの回転軸Sに働く軸力が利用される。そのために、レファレンス信号装置22として、タイヤTの回転軸Sに働く軸力を測定する軸力計が設けられている。
【0075】
そして、所定の大きさの軸力がレファレンス信号としてあらかじめ設定されている。そして、各測定位置Pi,jにおいて、測定される軸力が前記の所定の大きさ以上の間、移動マイクロホン12が測定を行う。つまり、軸力が徐々に大きくなって前記の所定の大きさを超えた時に移動マイクロホン12の測定が開始され、その後軸力が徐々に小さくなって前記の所定の大きさを切った時に移動マイクロホン12の測定が終了する。軸力の大きさは制駆動力に対応しているため、この方法により、所定以上の大きさの制動力や駆動力が生じているときの騒音の音源を特定することができる。
【0076】
2.第2実施形態
(1)第2実施形態の音源探査装置
第2実施形態は、移動マイクロホン12の代わりに、複数の測定位置にそれぞれ計測マイクロホンが固定されたマイクロホンアレイ111が使用される点で、第1実施形態と異なる。
【0077】
図9に、本実施形態の音源探査方法の実施に用いられる音源探査装置110を示す。音源探査装置110は、音圧を測定する機器として、複数の計測マイクロホン112と、1つのリファレンスマイクロホン114とを有している。
【0078】
さらに、音源探査装置110は、計測マイクロホン112及びリファレンスマイクロホン114が接続された音響ホログラフィ装置16と、音響ホログラフィ装置16が接続されたコンピュータ18と、コンピュータ18での計算結果を出力するディスプレイ等の出力装置20とを有している。
【0079】
図10に示すように、マイクロホンアレイ111は、複数の計測マイクロホン112(
図10に実線の一重丸で示す)と、1つのリファレンスマイクロホン114(
図10に実線の二重丸で示す)とにより構成されている。マイクロホンアレイ111では、マイクロホン112、114が格子状(好ましくは
図10のような正方形を形成する格子状)に配置され、上下左右に周期的に並んでいる。各マイクロホン112、114の位置が、音圧を測定する測定位置である。測定位置は上下方向に2つ以上、左右方向に4つ以上あることが好ましい。上下左右に隣り合う測定位置の間の距離Lは、例えば15mm~35mmである。
【0080】
ここで、第1実施形態のときと同様、測定位置をP
ijと表示することとする。iは列を意味し、
図10で説明すると最下列ではi=1、最下列の1つ上の列ではi=2である。またjは左右方向の順番を意味し、
図10で説明すると左端の位置ではj=1、左端の1つ右の位置ではj=2である。
【0081】
リファレンスマイクロホン114は、上下左右に並ぶ測定位置P
i,jの最下列のいずれかの位置、例えば
図10のように最下列の端の位置に配置されている。そして計測マイクロホン112は、リファレンスマイクロホン114の位置を除く全ての測定位置P
i,jに配置されている。
【0082】
ここで、マイクロホンアレイ111の最下列は、タイヤTの接地面に平行である。また、マイクロホンアレイ111の最下列は、タイヤTのドラムDへの接地部分GにおけるタイヤTの接線上、またはその接線より僅かに(例えば測定位置Pi,jの上下間隔L以下の距離だけ)上にあることが好ましい。
【0083】
計測マイクロホン112及びリファレンスマイクロホン114としては例えば、先端の測定部の直径が0.8mm~1.2mmのプローブマイクロホン、1/2、1/4もしくは1/8インチマイクロホン、又はMEMS(Micro-Electrical-Mechanical Systems)マイクロホン等が使用可能である。
【0084】
マイクロホンアレイ111の一番外側のマイクロホン112、114に囲まれた面(
図10で言えば、リファレンスマイクロホン114の位置、P
3,10、P
3,1、P
1,1に囲まれた面)が音圧の測定面130である。この測定面130が、例えば、タイヤTの接地部分Gから発生する騒音の進行方向に対して垂直に配置される。
【0085】
マイクロホンアレイ111はタイヤTのドラムDへの接地部分Gに接近するように配置される。マイクロホンアレイ111による音圧の測定位置(すなわちマイクロホンアレイ111を構成する各マイクロホン112、114の先端の測定部の位置)は、接地部分GにおけるタイヤTの接線方向(
図12の左右方向)へ、タイヤTの接地部分Gから25mm~200mm離れた位置であることが好ましい。
【0086】
マイクロホンアレイ111の具体的な配置場所としては、例えば、タイヤTの前又は後ろの場所や、タイヤTの軸方向(幅方向)の場所等が挙げられる。マイクロホンアレイ111の好ましい配置場所は、タイヤTの前又は後ろの場所である。マイクロホンアレイ111のさらに好ましい配置場所は、
図12に示すようなタイヤTの前又は後ろにおけるタイヤTの下の場所(言い換えれば、タイヤTの前又は後ろで、かつ、タイヤTのトレッド面T1とドラムDの表面D1とに挟まれた場所)である。このようにマイクロホンアレイ111がタイヤTの前又は後ろの場所に配置される場合は、測定面130がタイヤTの前後方向に垂直になるように配置されることが好ましい。
【0087】
このようなマイクロホンアレイ111においては、全ての計測マイクロホン112及びリファレンスマイクロホン114が同時に音圧の測定を行う。測定された音圧のデータは音響ホログラフィ装置16に取り込まれる。
【0088】
なお、音響ホログラフィ装置16、コンピュータ18及び出力装置20として、第1実施形態と同じものが使用可能である。
【0089】
(2)第2実施形態の音源探査方法
第2実施形態の音源探査方法の大まかな流れは、第1実施形態のときとほぼ同じで
図5に示す通りである。ただし、ステップS2において、マイクロホンアレイ111を構成する全てのマイクロホン112、114で同時に音圧が測定される点が異なる。
【0090】
具体的な流れとしては、まずタイヤTが回転し(S1)、次にリファレンスマイクロホン114及び全ての計測マイクロホン112による音圧の測定がなされる(S2)。次に、音圧の測定データに基づき、音響ホログラフィを利用してタイヤTの接地部分Gを含む面(音源面)における音圧分布が計算される(S3)。次に、音源面における音圧分布に基づき、音源が特定される(S4)。
【0091】
詳細に説明すると、まず、ドラムDの回転が始まり、ドラムDに接地しているタイヤTの回転が始まる(S1)。タイヤTの回転が始まると騒音が発生し始める。タイヤTの回転中に、リファレンスマイクロホン114及び全ての計測マイクロホン112が同時に音圧を測定する(S2)。
【0092】
次に、音圧の測定データに基づき、音響ホログラフィを利用して音源面における各周波数成分の音圧分布が計算される(S3)。このステップS3において、各計測マイクロホン112による測定データが、
図10に示す線131を対称軸として、各測定位置P
i,jと線対称になる仮想測定位置における仮想データとして扱われる。ここで、線131は、測定位置P
i,jの最下列を通りタイヤTの接地面に平行に延びる線で、リファレンスマイクロホン114を通る線である。
【0093】
ここで、第1実施形態のときと同様、各仮想測定位置をQ
i,jと表示することとする。iは列を意味し、
図10で説明すると最上列ではi=1、最上列の1つ下の列ではi=2である。またjは左右方向の順番を意味し、
図10で説明すると左端の位置ではj=1、左端の1つ右の位置ではj=2である。
【0094】
仮想測定位置Q
i,jを
図10に破線の丸で示す。
図10で説明すると、例えば測定位置P
2,1と線対称の位置は仮想測定位置Q
1,1、測定位置P
2,10と線対称の位置は仮想測定位置Q
1,10、測定位置P
3,10と線対称の位置は仮想測定位置Q
2,10、測定位置P
3,1と線対称の位置は仮想測定位置Q
2,1である。そして、測定位置P
2,1、P
2,10、P
3,10、P
3,1での測定データが、それぞれQ
1,1、Q
1,10、Q
2,10、Q
2,1での仮想データとして扱われる。
【0095】
図11に示すように、実際の測定位置P
i,jと、線131(リファレンスマイクロホン114を通る線)を対称軸として実際の測定位置P
i,jと線対称の位置にある仮想測定位置Q
i-1,jとは、音源Mからの距離lが等しいとみなすことができる。そのため、仮想測定位置Q
i-1,jにおいて音圧を測定したと仮定すると、そのとき測定される音の振幅及び位相は、実際の測定位置P
i,jにおいて測定される音の振幅及び位相と等しいはずである。そのため、実際の測定位置P
i,jでの測定データを、仮想測定位置Q
i-1,jで測定されるであろう測定データすなわち仮想データとして扱うことができる。
【0096】
音響ホログラフィ処理では、各測定位置Pi,jでの各測定データがそれぞれ周波数分析され、リファレンスマイクロホン114による測定データの周波数分析データとのクロスパワースペクトルCxy(f)がそれぞれ計算される。また、各仮想測定位置Qi,jでの各仮想データもそれぞれ周波数分析され、リファレンスマイクロホン114による測定データの周波数分析データとのクロスパワースペクトルCxy(f)がそれぞれ計算される。これにより、全ての測定位置Pi,j及び全ての仮想測定位置Qi,jについてのクロスパワースペクトルCxy(f)が揃う。
【0097】
このようにして揃ったデータを使用して音響ホログラフィ処理が実行され、音源面における各周波数成分の音圧分布が計算される。それにより、測定面130の2倍近くの面積の平面上での各測定位置において音圧を測定しその測定データに基づき音響ホログラフィ処理を行った場合と同じ結果を得ることができる。なお、音源面における音圧分布は、全ての周波数について求めることが可能だが、注目する特定の周波数についてのみ求められても良い。
【0098】
次の音源の特定のステップ(S4)では、音源面における各周波数成分の音圧分布における音圧の大きい位置が、その周波数の音の音源として特定される。音源の特定は、人が行っても良いし、コンピュータ18が行っても良い。タイヤTの設計者は、音源の特定の結果をもとに、タイヤTのトレッドパターンの設計変更を行うことができる。
【0099】
(3)第2実施形態の効果
第2実施形態の場合も、第1実施形態の場合と同じく、各測定位置Pi,jでの実際の測定データだけでなく、仮想データも使用されて、音響ホログラフィ処理により音源面での音圧分布が求められる。それにより、音響ホログラフィ処理で使用するデータ数を、実測で得られたデータ数の倍近くにすることができるので、タイヤTから発生する騒音の音源を精度良く特定することができる。
【0100】
また、音源を精度良く特定するために必要なデータ数を、従来の約半分の面積のマイクロホンアレイ111での測定で得ることができるので、マイクロホンアレイ111をタイヤTの接地部分Gにより接近させることができる。それにより、マイクロホンアレイ111を構成するマイクロホン112、114が暗騒音を測定してしまうことを極力防ぐことができ、タイヤTから発生する騒音の音源を精度良く特定することができる。
【0101】
ここで、リファレンスマイクロホン114が、実際の測定位置Pi,jと仮想測定位置Qi,jとの対称軸となる線131上に配置されている。そのため、リファレンスマイクロホン114による測定データの周波数成分の振幅及び位相と、実際の測定位置Pi,jでの測定データの周波数成分の振幅及び位相との関係が、リファレンスマイクロホン114による測定データの周波数成分の振幅及び位相と、前記測定位置Pi,jと線対称の位置の仮想測定位置Qi,jでの仮想データの周波数成分の振幅及び位相との関係と、等しくなる。
【0102】
そのため、上記のように音響ホログラフィ処理においてクロスパワースペクトルCxy(f)が計算されるが、実際の測定位置Pi,jでの測定データとリファレンスマイクロホン114による測定データとのクロスパワースペクトルCxy(f)を計算するのと同様に、仮想データとリファレンスマイクロホン114による測定データとのクロスパワースペクトルCxy(f)を計算することができる。そのため仮想データをそのまま音響ホログラフィ処理に使用することができる。
【0103】
(4)第2実施形態の変更例
リファレンスマイクロホン114の位置は、計測マイクロホン112による測定位置Pi,jの最下列又は最下列より下の位置であれば良く、上記実施形態の位置に限定されない。
【0104】
例えば
図13のように、マイクロホンアレイ111が計測マイクロホン112(
図13に実線の一重丸で示す)のみからなり、リファレンスマイクロホン114(
図13に実線の二重丸で示す)がマイクロホンアレイ111より下側に固定されていても良い。その場合にリファレンスマイクロホン114が固定される位置は、好ましくはマイクロホンアレイ111の最下列から下側へ間隔Lの範囲内の位置、さらに好ましくは前記最下列から下側へ間隔Lの半分の長さ(つまりL/2)の位置である。
【0105】
また、リファレンスマイクロホン114の左右方向の位置は、測定面130の左右方向の範囲内(つまり一番左の測定位置P
i,jから一番右の測定位置P
i,jまでの範囲内)、又は
図13に示すように測定面130の左右いずれかの端部から間隔Lの範囲内が好ましい。
【0106】
図13の場合のようにリファレンスマイクロホン114がマイクロホンアレイ111より下側に固定されている場合、リファレンスマイクロホン114を通りタイヤTの接地面に平行な線131を対称軸として、計測マイクロホン112による測定位置P
i,jでの測定データを、計測マイクロホン112による測定位置P
i,jと線対称となる位置における仮想データとして扱う。
【0107】
図13で説明すると、例えば測定位置P
1,1と線対称の位置は仮想測定位置Q
1,1、測定位置P
1,10と線対称の位置は仮想測定位置Q
1,10、測定位置P
2,10と線対称の位置は仮想測定位置Q
2,10、測定位置P
2,1と線対称の位置は仮想測定位置Q
2,1である。そして、測定位置P
1,1、P
1,10、P
2,10、P
2,1での測定データが、それぞれQ
1,1、Q
1,10、Q
2,10、Q
2,1での仮想データとして扱われる。
【0108】
そして、計測マイクロホン112により実測された測定データだけでなく仮想データも使用されて、上記と同じ方法で音響ホログラフィ処理が実行され騒音の音源が特定される。
【符号の説明】
【0109】
D…ドラム、D1…表面、G…接地部分、T…タイヤ、T1…トレッド面、10…音源探査装置、12…移動マイクロホン、14…リファレンスマイクロホン、16…音響ホログラフィ装置、18…コンピュータ、20…出力装置、22…レファレンス信号装置、24…移動制御装置、30…測定面、31…線、110…音源探査装置、111…マイクロホンアレイ、112…計測マイクロホン、114…リファレンスマイクロホン、130…測定面、131…線