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特許7374771合成糸を溶融紡糸するための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】合成糸を溶融紡糸するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   D01D 4/04 20060101AFI20231030BHJP
【FI】
D01D4/04 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019570908
(86)(22)【出願日】2018-06-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 EP2018064412
(87)【国際公開番号】W WO2018234009
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】102017005988.8
(32)【優先日】2017-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】307031976
【氏名又は名称】エーリコン テクスティル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Textile GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Leverkuser Strasse 65, D-42897 Remscheid, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マーク-アンドレ ヘアンドルフ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン フィッシャー
(72)【発明者】
【氏名】イェアク シペル
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-039404(JP,A)
【文献】特表2002-529615(JP,A)
【文献】特開2009-013533(JP,A)
【文献】特開2006-146536(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102007003949(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 - 13/02
D01D 1/00 - 13/02
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成糸を溶融紡糸するための方法であって、ポリマ溶融物をマルチ紡糸ポンプによって圧送し、かつ複数の紡糸ノズルに作動圧下で供給し、前記紡糸ノズルによって、前記ポリマ溶融物を押し出して、それぞれ多数のフィラメントを形成し、前記紡糸ノズルを定期的に保守する、方法において、
前記紡糸ノズルのうちの少なくとも1つの紡糸ノズルを保守するための少なくとも1つの保守時点を、機械制御装置を用いて予め設定するか、または求め、前記機械制御装置は、紡糸ノズルロボットのロボット制御機器に接続されており、前記保守時点に達した場合に、前記機械制御装置を用いて前記紡糸ノズルロボットを作動させるための制御命令を生成し、該制御命令は前記紡糸ノズルの保守を少なくとも開始する
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記紡糸ノズルの少なくとも1つの作動パラメータを、前記保守時点を求めるために連続的に監視する、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記保守時点を、作動時間、および/または巻成されたパッケージ数、および/または糸切れ数によって確定する、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記制御命令は、前記紡糸ノズルロボットによって読込み可能な複数の信号の列を含んでいて、該信号の列によって、前記紡糸ノズルの位置指示、前記紡糸ノズルの交換、および/または前記紡糸ノズルにおけるノズルプレートクリーニングを伝達する、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記紡糸ノズルロボットは、1つの紡糸ビームからの前記紡糸ノズルの解離、および/または前記紡糸ノズルにおける前記ノズルプレートの削り取りを、種々異なった工具によって実施する、
請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記工具を、前記紡糸ノズルロボットの複数のロボットアームによって、または交互に1つのロボットアームによって案内移動する、
請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記紡糸ノズルロボットは、繰り返し1つのベースステーションから進出走行し、かつ複数の保守位置のうちの1つの保守位置において停止して、位置決めされる、
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記制御命令は、満管パッケージの巻成後における前記糸の糸切断を、かつ前記マルチ紡糸ポンプのポンプ停止を実行させる、
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
複数の糸を溶融紡糸するための装置であって、少なくとも1つのマルチ紡糸ポンプ(5)および複数の紡糸ノズル(4.1~4.6)を有する紡糸装置(1)と、解離可能に保持された前記紡糸ノズル(4.1~4.6)を収容するための紡糸ビーム(3)と、少なくとも前記マルチ紡糸ポンプ(5)の制御装置(5.2)に接続された機械制御装置(12)とを有している、装置において、
前記紡糸ノズル(4.1~4.6)を保守するための紡糸ノズルロボット(15)が、ロボット制御機器(18)を備えており、かつ前記ロボット制御機器(18)は、前記紡糸装置(1)の前記機械制御装置(12)に接続されている
ことを特徴とする、装置。
【請求項10】
前記機械制御装置(12)は、前記紡糸ノズル(4.1~4.6)のうちの1つの紡糸ノズルの作動パラメータを監視するためのセンサ(13)に接続されている、
請求項9記載の装置。
【請求項11】
前記機械制御装置(12)は、少なくとも1つのカウントユニットに接続されていて、該カウントユニットによって、作動時間、および/または巻成されたパッケージ数、および/または糸切れ数が検出可能である、
請求項9または10記載の装置。
【請求項12】
前記紡糸ノズルロボット(15)は少なくとも、前記紡糸ビーム(3)から前記紡糸ノズル(4.1~4.6)のうちの1つの紡糸ノズルを解離するための工具(22.1,22.2)、および/または前記紡糸ノズル(4.1~4.6)のうちの1つの紡糸ノズルのノズルプレートを削り取るための工具(22.1,22.2)を有している、
請求項9から11までのいずれか1項記載の装置。
【請求項13】
前記紡糸ノズルロボット(15)は、前記工具(22.1,22.2)を案内するために、前記工具(22.1,22.2)を交互に収容するための工具ホルダ(21)を備えた1つのロボットアーム(20)か、または複数のロボットアーム(20.1,20.2)を有している、
請求項12記載の装置。
【請求項14】
前記紡糸ノズルロボット(15)は、自走式に高架軌道(16)に配置されていて、該高架軌道(16)は、1つのベースステーション(24)および複数の保守位置に沿って延びている、
請求項9から13までのいずれか1項記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載の、合成糸を溶融紡糸するための方法、および請求項9の上位概念部に記載の、複数の糸を溶融紡糸するための装置に関する。
【0002】
合成糸の製造時には、予め溶融されたポリマを、紡糸ポンプを用いて高圧下で複数の紡糸ノズルに供給することが通常である。紡糸ノズルは、それぞれその下側に、複数のノズル開口を備えたノズルプレートを有しているので、ポリマ溶融物が押し出されて、極めて細いフィラメントストランドが形成される。次いでフィラメントは、押出し後および冷却後に、それぞれ1本の糸にまとめられる。それぞれの製造方法に依存して、糸は一緒にゴデットによって引き出され、延伸され、かつプロセスの終わりにパッケージに巻き取られる。製造プロセスは、監視され、かつ糸が可能な限り連続的に製造され得るように制御される。
【0003】
しかしながら実地において、複数の糸を溶融紡糸するためのこのような製造プロセスは、紡糸ノズルにおける保守作業によって定期的に中断される。例えば紡糸ノズルのノズルプレートのいわゆる削り(Schaben)が、定期的な時間をおいて実施すべき繰り返される保守の1つである。このとき紡糸ノズルの下側から、材料付着物が除去され、これによってノズル開口を開放することができる。さらに紡糸ノズルの内部に配置されたフィルタエレメントは、無限に使用することができないので、紡糸ノズルを定期的に交換することが必要である。これらの保守作業は、通常、保守作業を必要に応じて実施する操作員によって実施される。
【0004】
保守作業を促進するために、作業員は、例えばノズルプレートの削りのような機械的な作業を部分的に引き受ける補助装置を使用する。
【0005】
例えば欧州特許出願公開第1193334号明細書に基づいて、紡糸ノズルを削るためのこのような補助装置が公知である。公知の補助装置は、走行可能であり、かつ1つの紡糸箇所の複数の紡糸ノズルのうちの1つの紡糸ノズルに供給することができる。このとき同様に、ノズルプレートを削るための工具を、自動化して案内することができる。
【0006】
ゆえに本発明の課題は、合成糸を溶融紡糸するための方法および装置を、紡糸ノズルにおける直面する保守作業を可能な限り迅速にかつ所望のように実施できるように改善することである。
【0007】
本発明の別の目的は、保守を実施するために行うべきプロセス変更を自動化して実施することができる、合成糸を溶融紡糸するための方法および装置を提供することである。
【0008】
この課題は、本発明によれば方法のためには、紡糸ノズルのうちの少なくとも1つの紡糸ノズルを保守するための少なくとも1つの保守時点を、予め設定するか、または求め、かつ保守時点に達した場合に、1つの紡糸ノズルロボットを作動させるための制御命令を生成し、該制御命令が紡糸ノズルの保守を少なくとも開始することによって解決される。
【0009】
合成糸を溶融紡糸するための装置のための解決策では、本発明によれば、紡糸ノズルを保守するための紡糸ノズルロボットが、ロボット制御機器を備えており、かつロボット制御機器は、機械制御装置に接続されている。
【0010】
本発明の好適な発展形態は、それぞれの従属請求項の特徴、および特徴の組合せによって定義されている。
【0011】
本発明は、定期的に発生する紡糸ノズルにおける保守作業が、プロセス制御に組み込まれているという特別な利点を有している。例えば、例えば糸切れのような好適な作動状況を、これによって生じるプロセス中断を紡糸ノズルのうちの1つの紡糸ノズルを保守するために、利用することができる。機械制御装置とロボット制御機器との間における本発明に係る組合せによって、直面する保守を直ぐに実施することができる。このようにして保守時点に達した場合に、紡糸ノズルロボットを作動させるための制御命令が生成され、この制御命令が紡糸ノズルの保守を少なくとも導入する。紡糸ノズルのうちの1つの紡糸ノズルを保守するための保守時点は、プロセス制御装置の内部において設定されるか、またはプロセスパラメータを用いて求められる。
【0012】
このようにして、特に保守時点を、紡糸ノズルの少なくとも1つの作動パラメータの連続的な監視によって求めることができる。連続する作動継続時間と共に、紡糸ノズルにおけるフィルタエレメントの汚れが増すことは公知である。したがって例えば作動圧を、紡糸ノズルの作動パラメータとして連続的に監視し、かつ検査することができる。許容不能な圧力上昇が記録されるや否や、フィルタエレメントを交換するため、またはクリーニングするために、紡糸ノズルの交換が必要である。
【0013】
基本的にはまた、ポリマ型式に依存して、紡糸ノズルの下側には、程度の差こそあれ付着物が発生する。したがって方法の変化形態が、1つの紡糸ノズルを削るための保守時点を確定するために、好適に実施される。このとき紡糸ノズルを下側のクリーニングなしに使用することができる作動継続時間は、作動時間、および/または巻成されたパッケージ数、および/または糸切れ数によって確定させることができる。
【0014】
直面する保守作業を紡糸ノズルロボットによって目的に合わせて実施できるようにするために、好適に実施される方法の変化形態では、制御命令は、紡糸ノズルロボットによって読込み可能な複数の連続信号を含んでいて、該連続信号によって、紡糸ノズルの位置指示、紡糸ノズルユニットの交換、および/または紡糸ノズルユニットのノズルプレートクリーニングを伝達する。これによって、紡糸ノズルロボットが目的に合わせて所望の工具によって紡糸ノズルの削り取りまたは交換を行うという可能性が得られる。
【0015】
このとき保守作業のうちのそれぞれの保守作業が、種々異なった工具を備えた紡糸ノズルロボットによって実施される。
【0016】
このとき工具は、紡糸ノズルロボットの複数のロボットアームによって、または交互に1つのロボットアームによって案内移動することができる。
【0017】
特に紡糸ノズルロボットの工具を操作員によって検査できるようにするために、特に好適な方法の変化形態では、紡糸ノズルロボットは、繰り返し1つのベースステーションから進出走行し、かつ複数の保守位置のうちの1つの保守位置において停止して、位置決めされる。このようにして、紡糸ノズルロボットは、単に保守作業の場合にだけベースステーションから案内される。その他の場合には、紡糸ノズルロボットはそのベースステーションに留まっている。
【0018】
保守時点を、直面するプロセス障害と組み合わせることができない場合のために使用される方法の変化形態では、制御命令は同時に、満管パッケージの巻成後における糸の糸切断を、かつマルチ紡糸ポンプのポンプ停止を実行させる。このようにすると、紡糸ノズルロボットを、保守作業を実施するために迎え入れるために、それぞれの紡糸位置は準備状態になる。
【0019】
合成糸を溶融紡糸するための本発明に係る装置は、紡糸ノズルにおける保守作業が完全自動化されて操作員の投入なしに実施可能であるという大きな利点を有している。機械制御装置とロボット制御機器との間における接続によって、直面する保守作業に関する、ならびに保守作業の経過および終了に関する継続的なデータ交換が保証されている。これによって、紡糸ノズルにおける保守作業が終了した場合に、ロボット制御機器によって信号を生成することができる。
【0020】
このとき制御装置は、少なくとも1つの制御アルゴリズムを有していて、この制御アルゴリズムによって、紡糸ノズルのうちの少なくとも1つの紡糸ノズルを保守するための保守時点が確定可能であり、かつ監視可能である。このように構成されていると、保守時点において機械制御装置によって、ロボット制御機器への直接的な作動命令を求めることができる。
【0021】
複数の保守作業が紡糸ノズルロボットによって実施されねばならない場合のためには、機械制御装置によって、またはロボット制御機器によって、作業順序が、好ましくは可能な限り短い停止時間に依存して決定される。
【0022】
複数の紡糸ノズル、または紡糸ノズルのグループの保守時点を求めるために、本発明に係る装置の、好適に使用可能な発展形態では、制御装置は、紡糸ノズルのうちの1つの紡糸ノズルの作動パラメータを監視するためのセンサに接続されている。このように構成されていると、紡糸ノズルの紡糸圧を監視するために、例えば圧力センサを使用することができる。
【0023】
繰り返される保守時点が主として作動継続時間によって確定されている場合のために、本発明に係る装置の、好適に実施される発展形態では、制御装置は、少なくとも1つのカウント装置に接続されていて、このカウント装置によって、作動時間、および/または巻成されたパッケージ数、および/または糸切れ数が検出可能である。このとき通常は、糸走行を監視するための糸切れセンサが機械制御装置に接続されており、これによって相応のプロセス変更を実施することができる。これによって作動継続時間内において発生する糸切れを簡単に求めることができ、これにより可能な保守インターバルに関して推定を行うことができる。
【0024】
保守作業を目的に合わせて紡糸ノズルにおいて実施できるようにするために、さらに、紡糸ノズルロボットは少なくとも、紡糸ビームから紡糸ノズルのうちの1つの紡糸ノズルを解離するための工具、および/または紡糸ノズルのうちの1つの紡糸ノズルのノズルプレートを削るための工具を有していることが提案されている。このように構成されていると、紡糸ノズルロボットの作動時には、機械制御装置を介して、相応の工具を備えた紡糸ノズルロボットをそれぞれの紡糸位置へと接近走行させるという、相応の信号発信をトリガすることができる。
【0025】
このとき紡糸ノズルロボットは、好ましくは工具を案内するために、工具のうちの1つの工具を交互に収容するための工具ホルダを備えた1つのロボットアームか、または択一的に複数のロボットアームを有している。
【0026】
衝突を回避するために、紡糸ノズルロボットは、好ましくは自走式に懸吊軌道に沿って案内され、この懸吊軌道は、1つのベースステーションおよび複数の保守位置に沿って延びている。このように構成されていると、紡糸ノズルロボットを、保守が実施されない時間の間、ベースステーションにおいて保持することができ、このベースステーションにおいて工具を検査することができるという可能性が得られる。このとき紡糸ノズルの交換を全自動式に行うためには、紡糸ノズル準備装置への接続もまた特に好適である。このように構成されていると、例えば紡糸ノズルロボットは、取り外された紡糸ノズルを紡糸ノズル準備装置に送ることができ、かつ新たな既に予加熱された紡糸ノズルを引き受け、かつ相応の紡糸位置において使用することができる。
【0027】
次に、合成糸を溶融紡糸するための本発明に係る方法、および合成糸を溶融紡糸するための本発明に係る装置について、本発明に係る装置の幾つかの実施形態を参照しながら詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】溶融紡糸のための本発明に係る装置の1実施形態を概略的に示す正面図である。
図2】溶融紡糸のための本発明に係る装置の実施形態を概略的に示す側面図である。
図3】本発明に係る装置の別の実施形態を概略的に示す正面図である。
【0029】
図1および図2には、本発明に係る装置の第1実施形態が、複数の見方と複数の作動状況において概略的に示されており、このとき本発明の説明のために重要な部材だけが示されている。図1において実施形態は、通常の作動状態において正面図で示されている。図2において実施形態は、側面図で示されており、このとき製造プロセスは、保守を実施するために中断されている。
【0030】
本発明に係る装置の実施形態について、まず両図を参照しながら以下に説明する。
【0031】
本発明に係る装置の実施形態は、複数の紡糸箇所を有する紡糸装置1から成っている。本実施形態では第1の紡糸箇所1.1は完全に、そして隣接した紡糸箇所1.2は単に部分的に示されている。紡糸箇所1.1,1.2は、複数の紡糸位置を有しており、このときそれぞれの紡糸位置において1本の糸が生ぜしめられる。この場合6つの紡糸位置2.1~2.6が紡糸箇所1.1,1.2毎に設けられている。紡糸装置1の紡糸箇所1.1,1.2は、通常、同一に形成されているので、紡糸箇所1.1における構造について説明する。
【0032】
紡糸箇所1.1は、紡糸ビーム3を有しており、この紡糸ビーム3は、すべての紡糸位置2.1~2.6にわたって延びている。紡糸ビーム3は、加熱式に形成されていて、かつ下側に複数の紡糸ノズルを保持している。本実施形態では、全部で6つの紡糸ノズル4.1~4.6が示されている。これらの紡糸ノズル4.1~4.6は、紡糸ビーム3に解離可能に保持されている。
【0033】
紡糸ビーム3の上側には、マルチ紡糸ポンプ5が配置されている。このマルチ紡糸ポンプ5は、ポンプ駆動装置5.1を介して駆動され、かつポンプ制御機器5.2を介して制御される。流入側にマルチ紡糸ポンプ5は溶融物供給路6を有している。溶融物供給路6を介してマルチ紡糸ポンプ5は、ここでは図示されていない溶融物源、例えば押出し機に接続されている。流出側においてマルチ紡糸ポンプ5は、分配管路系7を介して紡糸ノズル4.1~4.6に接続されている。
【0034】
マルチ紡糸ポンプ5を制御するために、ポンプ制御機器5.2は機械制御装置12に接続されている。
【0035】
紡糸ビーム3の下において紡糸箇所1.1には、紡糸ノズル4.1~4.6から押し出されたフィラメント群を冷却するために、冷却装置8が設けられている。
【0036】
特に図2における図面から明らかなように、冷却装置8は、冷却ダクト8.1と側部に配置されたブロー室8.2とを有しており、冷却ダクト8.1とブロー室8.2とは、ブロー壁8.3によって互いに分離されている。これによって冷却空気流は、フィラメント群に対して横方向に生ぜしめられる。
【0037】
しかしながら図示された冷却装置8は、一例である。例えば冷却空気を半径方向において外側から内側に向かってフィラメントに作用させるために、基本的には、他の冷却系を使用することも可能である。このような場合には、紡糸ノズル4.1~4.6のうちの1つの紡糸ノズルのそれぞれのフィラメント束10が、ガス透過性の冷却シリンダによって取り囲まれている。冷却シリンダが高さ調節可能である場合には、紡糸ノズルへの接近が可能である。
【0038】
図1および図3における図面から明らかなように、冷却装置8の下には、フィラメント束10からそれぞれ1本の糸11を形成するために、紡糸ノズル4.1~4.6のそれぞれの紡糸ノズルに、集合糸ガイド9が対応配置されている。
【0039】
図1における図面から明らかなように、紡糸箇所1.1のそばにおいて側部には、紡糸ノズルロボット15のベースステーション24が形成されている。紡糸ノズルロボット15は、懸吊軌道16に沿って案内されており、この懸吊軌道16は、紡糸位置2.1~2.6の機械前面に沿って平行に延びている。懸吊軌道16は、紡糸装置1の内部においてすべての紡糸箇所1.1,1.2にわたって延びている。紡糸ノズルロボット15は、シャーシ17を介して懸吊軌道16に沿って案内され、このときここでは図示されていない走行駆動装置が、紡糸ノズルロボット15に一体に組み込まれている。
【0040】
紡糸ノズルロボット15は、本実施形態ではロボットアーム20を有している。ロボットアーム20は、その自由端部に工具ホルダ21を有している。
【0041】
ベースステーション24において紡糸ノズルロボット15には、工具ステーション23が対応配置されており、この工具ステーション23は、複数の工具22.1,22.2を提供する。本実施形態では単に2つの工具しか設けられておらず、このとき工具22.1は、紡糸ノズル4.1~4.6の下側にそれぞれ保持されたノズルプレートを削るための装置を有していて、工具22.2は、紡糸ビーム3から紡糸ノズル4.1~4.6のうちの1つの紡糸ノズルを解離するための装置を有している。そのために紡糸ノズル4.1~4.6は、例えばバヨネット結合部を介して紡糸ビーム3に固定されている。
【0042】
工具22.1,22.2は、選択的にロボットアーム20によって工具ホルダ21に収容することができる。
【0043】
紡糸ノズルロボット15を制御するために、ロボット制御機器18が設けられている。ロボット制御機器18は、制御導線、好ましくはワイヤレスの無線通信機19を介して、機械制御装置12に接続されている。そのためにロボット制御機器18には受信器19.1が、かつ機械制御装置12には送信器19.2が略示されている。
【0044】
図1において、紡糸装置1は作動状態において示されており、この作動状態において紡糸箇所1.1のそれぞれの紡糸ノズル4.1~4.6において、ポリマ溶融物が押し出されて、複数のフィラメント10が形成される。そのためにポリマ溶融物は、マルチ紡糸ポンプ5を用いて紡糸ノズル4.1~4.6に圧力下で供給される。このときそれぞれの押し出されたポリマに基因して、紡糸ノズルの下側には、程度の差こそあれかなりの材料付着物および固着物が発生する。紡糸ノズル4.1~4.6の下側は、それぞれノズルプレート(ここでは図示せず)によって形成され、このノズルプレートは、特定の保守サイクルにしたがってクリーニングされねばならない。このとき紡糸ノズル4.1~4.6を削るための保守時点は、機械制御装置12において制御アルゴリズムの使用によって好適に確定される。したがって例えば、2つの保守サイクルの間の時間は、作動継続時間によって設定されていてよい。この場合制御装置は、作動時間を検出する簡単なカウントユニットを有している。そして最大の作動経過時間の到達時に、保守時点に達したことになる。
【0045】
択一的にまた、紡糸ノズルを通して押し出された貫流量を、次の保守のための基準とするという可能性もある。この場合には例えば、巻成されたパッケージ数を検出し、かつ連続的にカウントユニットによって合算することができる。糸重量の値は、ポリマ溶融物の押出し時における貫流量に関する情報を直接与える。これによって、最大に設定された糸量が生ぜしめられた場合に、保守時点に達したことになる。
【0046】
択一的にまた、紡糸ノズルプレートの表面特性に関する情報を得るために、プロセス障害もまた利用することができる。例えばノズルプレートにおけるノズル開口の狭窄が、糸切れ率を促進することが公知である。したがって、カウントユニットが紡糸箇所1.1における糸切れ数を検出するという可能性もある。そのために図1には、糸切れセンサ14が機械制御装置12に接続されていることが破線で略示されている。
【0047】
このとき制御装置には、作動時間、巻成されたパッケージ、または糸切れ回数の様々な限界値を設定することができ、これによって限界値に応じて、紡糸ノズルを削るための保守時点、または紡糸ノズルを交換するための保守時点が得られる。
【0048】
特に、紡糸ノズルを交換するための保守時点を求めることは、好ましくは、作動パラメータの直接的な監視によって実施される。そこで図1に示されているように、分配管路系7には圧力センサ13が対応配置されている。圧力センサ13は、機械制御装置12に接続されている。これによってポリマ溶融物を押し出すための作動圧を、連続的に監視することができる。紡糸ノズル4.1~4.6は、ここでは図示されていないフィルタエレメントを有していて、このフィルタエレメントは連続する作動継続時間において次第に汚染されるので、作動圧の上昇によって汚染を予想することができる。したがって紡糸ノズル4.1~4.6には、それぞれの紡糸ノズルの交換を決定する最大の作動圧を対応させることができる。これにより紡糸ノズルにおける作動圧の連続的な監視によって、紡糸ノズルを保守するための保守時点を確実に決定することができる。
【0049】
機械制御装置12の内部において、紡糸箇所1.1における紡糸ノズル4.1~4.6のうちの少なくとも1つの紡糸ノズルのための保守時点が求められた場合に、無線通信機19を介してロボット制御機器18に制御命令が伝達される。このとき制御命令は、好ましくは連続信号を有しており、この連続信号から、紡糸ノズルロボット15の使用のために必要な情報が得られる。このようにして制御命令によってロボット制御機器18に、紡糸位置2.1~2.6のうちの正確な1つの紡糸位置が伝達される。さらにロボット制御機器18は、紡糸ノズルの交換または紡糸ノズルにおけるノズルプレートクリーニングが実施されねばならないか否かの、直面する保守作業に関する情報を得る。これに相応してロボット制御機器18は、該当する工具22.1または22.2を選択する。ロボットアーム20は、該当する工具22.1または22.2を工具ステーション23から取り出す。次いで紡糸ノズルロボット15は、ベースステーション24から、紡糸位置2.1~2.6のうちの1つの紡糸位置に対応する該当する保守位置へと走行する。ここでは詳しく示されていない位置決め手段を介して、紡糸ノズルロボット15は保守位置において固定されて、保守工程を開始する。
【0050】
そのために図2には、紡糸ノズルロボット15が紡糸ノズル4.1においてノズルプレートクリーニングを実施する状況が示されている。ロボットアーム20はその工具ホルダ21に、ノズルプレートを削り取るために用いる工具22.1を保持している。紡糸ノズルロボット15は、図示の保守位置において固定されているので、ロボットアーム20は工具22.1と共に紡糸ノズル4.1の下側に案内される。
【0051】
紡糸ノズル4.1のクリーニングが行われた後で、相前後して、紡糸箇所1.1の隣接したすべての紡糸ノズル4.2~4.6がクリーニングされる。しかしながらまた、1つの紡糸箇所1.1または1.2の幾つかの紡糸ノズルだけをクリーニングするという可能性もある。紡糸箇所1.1,1.2のうちの1つの紡糸箇所の各紡糸ノズル4.1~4.6には、1つの紡糸ポンプ5によって供給が行われるので、保守時には強制的にすべての紡糸ノズル4.1~4.6が停止され、これによりすべての紡糸ノズルが保守のための準備状態にある。
【0052】
保守作業の終了後に、ロボット制御機器18によって保守終了が信号化され、これによって機械制御装置12はプロセスを新たに開始することができる。紡糸ノズルロボット15は、そのベースステーション24へと戻される。
【0053】
図1および図2に示された実施形態では、紡糸ノズルロボット15は、保守作業を実施するために選択的に種々異なった工具を使用することができる。しかしながらまた基本的には、紡糸ノズルロボット15をただ1つの保守活動用に設計するという可能性もある。そのために図3には、複数の糸を溶融紡糸するための本発明に係る装置の別の実施形態が示されている。図3に示された実施形態は、図1に示された実施形態とほぼ同一であるので、ここでは単に相違だけを説明し、かつその他については上に述べた記載を参照するものとする。
【0054】
図3に示された実施形態において、相違は紡糸ノズルロボット15の構成にある。図3に示された紡糸ノズルロボット15は、ロボットアーム20.1を有していて、このロボットアーム20.1はその自由端部に、不動に設置された工具22.1を有している。工具22.1は、本実施形態では紡糸ノズルの下側をクリーニングするために設けられている。したがって紡糸ノズルロボット15は、紡糸ノズルを削るためにしか使用することができない。
【0055】
しかしながらまた択一的に、紡糸ノズルロボット15が2つの別個のロボットアーム20.1,20.2を有するという可能性もある。そのために第2のロボットアーム20.2は、図3において破線で示されている。ロボットアーム20.1,20.2のそれぞれのロボットアームには、それぞれ1つの異なった工具22.1,22.2が保持される。したがって工具交換は不要である。保守の必要に応じて、紡糸ノズルロボット15は、紡糸ノズルの下側を削るためのロボットアーム20.1か、または紡糸ビームにおける紡糸ノズルを交換するためのロボットアーム20.2を使用することができる。もちろん両ロボットアーム20.1,20.2を同時に、複数の紡糸ノズルを削るために、または紡糸ノズルを交換するために使用することもできる。特に1つの紡糸箇所の紡糸ノズルを削るために、紡糸ノズルロボットは、2つよりも多くのロボットアームを有していてよく、このように構成されていると、3つ以上の紡糸ノズルを同時に削ることができる。これによって保守作業の時間を著しく短縮することができる。
【0056】
合成糸を溶融紡糸するための本発明に係る方法および本発明に係る装置は、紡糸ノズルにおけるすべての保守活動を自動化して実施できることによって傑出している。このときまた、ベースステーション24に紡糸ノズル準備ステーションが直接対応配置されているという可能性もある。このように構成されていると、紡糸ノズルロボット15は、紡糸ノズルのうちの1つの紡糸ノズルの取外し後に、この紡糸ノズルをベースステーション24において新しい紡糸ノズルと交換し、かつ新たに紡糸ビームの下側に固定することができる。さらに紡糸装置の機械制御装置と紡糸ノズルロボットのロボット制御機器との間における接続には、プロセス障害による不所望のプロセス中断をも紡糸ノズルの保守のために利用することができるという大きな利点がある。ここでは機械制御装置の内部において、それぞれ保守時点とプロセスガイドとの間における調整(Abgleich)が行われる。
【0057】
合成糸を溶融紡糸するための本発明に係る方法および本発明に係る装置は、保守インターバルの厳密な維持に基づいて、糸の均一な製造品質を保証する。さらに紡糸ノズルロボットによる保守作業の自動化された実施に基づいて、糸の製造時における屑量および停止時間を低減もしくは短縮することができる。
図1
図2
図3