(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】搬送装置および搬送方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/677 20060101AFI20231030BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20231030BHJP
G05B 13/02 20060101ALI20231030BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20231030BHJP
H01L 21/68 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
H01L21/68 A
G05B11/36 D
G05B13/02 A
G05B13/02 L
H01L21/68 N
H01L21/68 F
(21)【出願番号】P 2020013114
(22)【出願日】2020-01-30
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】臼本 宏昭
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-032008(JP,A)
【文献】特開平10-055952(JP,A)
【文献】特開2003-162330(JP,A)
【文献】国際公開第2019/069649(WO,A1)
【文献】特開2018-195018(JP,A)
【文献】特開平07-098256(JP,A)
【文献】特開2008-91785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/677
G05B 11/36
G05B 13/02
H01L 21/683
H01L 21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のステージを、一対の直進機構により水平方向に搬送する搬送装置であって、
前記ステージのヨーイング角度を取得する角度取得部と、
前記角度取得部により取得されたヨーイング角度に基づいて、前記一対の直進機構を制御する搬送制御部と、
を備え、
前記搬送制御部は、前記ヨーイング角度を所望の状態に維持するための強化学習により得られた第1学習済みモデルに、前記角度取得部により取得されたヨーイング角度
および前記ヨーイング角度の角速度を含む第1入力データを入力し、前記第1学習済みモデルから出力される制御値に基づいて、前記一対の直進機構を制御する、搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の搬送装置であって、
前記ステージのヨーイング角度を計測する角度計測装置
をさらに備え、
前記角度取得部は、前記角度計測装置による前記ヨーイング角度の計測結果を取得する、搬送装置。
【請求項3】
平板状のステージを、一対の直進機構により水平方向に搬送する搬送装置であって、
前記ステージのヨーイング角度を取得する角度取得部と、
前記角度取得部により取得されたヨーイング角度に基づいて、前記一対の直進機構を制御する搬送制御部と、
を備え、
前記搬送制御部は、前記ヨーイング角度を所望の状態に維持するための強化学習により得られた第1学習済みモデルに、前記角度取得部により取得されたヨーイング角度を含む第1入力データを入力し、前記第1学習済みモデルから出力される制御値に基づいて、前記一対の直進機構を制御し、
前記一対の直進機構を含む搬送機構から出力される計測値に基づいて前記ステージのヨーイング角度を推定する角度推定部
をさらに備え、
前記角度推定部は、前記計測値を含む第2入力データから前記ステージのヨーイング角度を推定するための教師あり機械学習により得られた第2学習済みモデルを用いて、前記ヨーイング角度を推定し、
前記角度取得部は、前記角度推定部による前記ヨーイング角度の推定結果を取得する、搬送装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の搬送装置であって、
前記制御値は、前記一対の直進機構のトルク値である、搬送装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の搬送装置であって、
前記強化学習は、前記ヨーイング角度を所定の範囲内に維持することを目標として実行される機械学習である、搬送装置。
【請求項6】
平板状のステージを、一対の直進機構により水平方向に搬送する搬送方法であって、
a)前記ステージのヨーイング角度を取得する工程と、
b)前記工程a)により取得されたヨーイング角度に基づいて、前記一対の直進機構を制御する工程と、
を備え、
前記工程b)では、前記ヨーイング角度を所望の状態に維持するための強化学習により得られた第1学習済みモデルに、前記工程a)により取得されたヨーイング角度
および前記ヨーイング角度の角速度を含む第1入力データを入力し、前記第1学習済みモデルから出力される制御値に基づいて、前記一対の直進機構を制御する、搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平板状のステージを、一対の直進機構により水平方向に搬送する搬送装置および搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平板状のステージを搬送しつつ、ステージに保持された基板に対して種々の処理を行う装置が知られている。例えば、特許文献1には、基板(W)を載置したステージ(10)をステージ移動機構(20)により移動させつつ、基板(W)の上面に露光パターンを描画する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の装置に搭載されるステージの搬送装置は、一対の直進機構を備えている場合がある。具体的には、互いに平行に設けられた一対のリニアモータにより、ステージを所定の方向に搬送する機構が知られている。
【0005】
当該搬送装置では、ステージを一定の姿勢で移動させるために、一対の直進機構を均等に動作させる必要がある。しかしながら、一対の直進機構の微小な駆動誤差、リニアモータのガイドの間隙内のエア圧変動、加工誤差等によって、ステージの鉛直軸周りの回転角度(いわゆる「ヨーイング角度」)が僅かに変動する場合がある。このようなヨーイング角度の変動が生じると、ステージに保持された基板に対して、精密な処理を行うことが困難となる。
【0006】
このため、この種の搬送装置では、ステージのヨーイング角度を計測し、その計測結果に基づいて、搬送装置の動作をフィードバック制御している。しかしながら、フィードバック制御を行うための比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲイン等のパラメータは、人が試行錯誤しながら設定する必要があり、作業負担が大きかった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、制御のためのパラメータを人が設定することなく、ステージを適切に搬送することができる搬送装置および搬送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、平板状のステージを、一対の直進機構により水平方向に搬送する搬送装置であって、前記ステージのヨーイング角度を取得する角度取得部と、前記角度取得部により取得されたヨーイング角度に基づいて、前記一対の直進機構を制御する搬送制御部と、を備え、前記搬送制御部は、前記ヨーイング角度を所望の状態に維持するための強化学習により得られた第1学習済みモデルに、前記角度取得部により取得されたヨーイング角度および前記ヨーイング角度の角速度を含む第1入力データを入力し、前記第1学習済みモデルから出力される制御値に基づいて、前記一対の直進機構を制御する。
【0009】
本願の第2発明は、第1発明の搬送装置であって、前記ステージのヨーイング角度を計測する角度計測装置をさらに備え、前記角度取得部は、前記角度計測装置による前記ヨーイング角度の計測結果を取得する。
【0010】
本願の第3発明は、平板状のステージを、一対の直進機構により水平方向に搬送する搬送装置であって、前記ステージのヨーイング角度を取得する角度取得部と、前記角度取得部により取得されたヨーイング角度に基づいて、前記一対の直進機構を制御する搬送制御部と、を備え、前記搬送制御部は、前記ヨーイング角度を所望の状態に維持するための強化学習により得られた第1学習済みモデルに、前記角度取得部により取得されたヨーイング角度を含む第1入力データを入力し、前記第1学習済みモデルから出力される制御値に基づいて、前記一対の直進機構を制御し、前記一対の直進機構を含む搬送機構から出力される計測値に基づいて前記ステージのヨーイング角度を推定する角度推定部をさらに備え、前記角度推定部は、前記計測値を含む第2入力データから前記ステージのヨーイング角度を推定するための教師あり機械学習により得られた第2学習済みモデルを用いて、前記ヨーイング角度を推定し、前記角度取得部は、前記角度推定部による前記ヨーイング角度の推定結果を取得する。
【0011】
本願の第4発明は、第1発明から第3発明までのいずれか1発明の搬送装置であって、前記制御値は、前記一対の直進機構のトルク値である。
【0012】
本願の第5発明は、第1発明から第4発明までのいずれか1発明の搬送装置であって、前記強化学習は、前記ヨーイング角度を所定の範囲内に維持することを目標として実行される機械学習である。
【0014】
本願の第6発明は、平板状のステージを、一対の直進機構により水平方向に搬送する搬送方法であって、a)前記ステージのヨーイング角度を取得する工程と、b)前記工程a)により取得されたヨーイング角度に基づいて、前記一対の直進機構を制御する工程と、を備え、前記工程b)では、前記ヨーイング角度を所望の状態に維持するための強化学習により得られた第1学習済みモデルに、前記工程a)により取得されたヨーイング角度および前記ヨーイング角度の角速度を含む第1入力データを入力し、前記第1学習済みモデルから出力される制御値に基づいて、前記一対の直進機構を制御する。
【発明の効果】
【0015】
本願の第1発明から第6発明によれば、ステージのヨーイング角度を所望の状態に維持するための制御を、強化学習により得られた第1学習済みモデルを用いて行う。これにより、制御のためのパラメータを人が設定することなく、ステージを適切に搬送することができる。
【0016】
特に、本願の第3発明によれば、大掛かりな角度計測装置を常時設置することなく、ステージのヨーイング角度を取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】搬送装置を備えた描画装置の概略上面図である。
【
図3】制御部と描画装置内の各部との電気的接続を示したブロック図である。
【
図4】搬送装置の一部分を、主走査方向に対して垂直な面で切断したときの部分断面図である。
【
図5】主走査機構を制御するための制御部の機能を、概念的に示したブロック図である。
【
図6】事前強化学習の流れを示すフローチャートである。
【
図7】事前強化学習における評価値の変化の例を示したグラフである。
【
図8】直進機構の動作制御の流れを示したフローチャートである。
【
図9】第1変形例に係る制御部の機能を、概念的に示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
なお、以下では、水平方向のうち、一対の直進機構によりステージが移動する方向を「主走査方向」と称し、主走査方向に直交する方向を「副走査方向」と称する。
【0020】
<1.描画装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る搬送装置10を備えた描画装置1の斜視図である。
図2は、描画装置1の概略上面図である。この描画装置1は、感光材料が塗布された半導体基板やガラス基板等の基板Wの上面に、空間変調された光を照射して、基板Wの上面に露光パターンを描画する装置である。
図1および
図2に示すように、描画装置1は、搬送装置10、フレーム20、描画処理部30、および制御部40を備える。
【0021】
搬送装置10は、基台11の上面において、平板状のステージ12を、略一定の姿勢で水平方向に搬送する装置である。搬送装置10は、主走査機構13と副走査機構14とを含む搬送機構を有する。主走査機構13は、ステージ12を主走査方向に搬送するための機構である。副走査機構14は、ステージ12を副走査方向に搬送するための機構である。基板Wは、ステージ12の上面に水平姿勢で保持され、ステージ12とともに主走査方向および副走査方向に移動する。
【0022】
搬送装置10のより詳細な構成については、後述する。
【0023】
フレーム20は、基台11の上方において、描画処理部30を保持するための構造である。フレーム20は、一対の支柱部21と架橋部22とを有する。一対の支柱部21は、副走査方向に間隔をあけて立設されている。各支柱部21は、基台11の上面から上方へ向けて延びる。架橋部22は、2本の支柱部21の上端部の間において、副走査方向に延びる。基板Wを保持したステージ12は、一対の支柱部21の間、かつ、架橋部22の下方を通過する。
【0024】
描画処理部30は、2つの光学ヘッド31、照明光学系32、レーザ発振器33、およびレーザ駆動部34を有する。2つの光学ヘッド31は、副走査方向に間隔をあけて、架橋部22に固定される。照明光学系32、レーザ発振器33、およびレーザ駆動部34は、例えば、架橋部22の内部空間に収容される。レーザ駆動部34は、レーザ発振器33と電気的に接続されている。レーザ駆動部34を動作させると、レーザ発振器33からパルス光が出射される。そして、レーザ発振器33から出射されたパルス光が、照明光学系32を介して光学ヘッド31へ導入される。
【0025】
光学ヘッド31の内部には、空間変調器を含む光学系が設けられている。空間変調器には、例えば、回折格子型の空間光変調器であるGLV(Grating Light Valve)(登録商標)が用いられる。光学ヘッド31へ導入されたパルス光は、空間変調器により所定のパターンに変調されて、基板Wの上面に照射される。これにより、基板Wの上面に塗布されたレジスト等の感光材料が露光される。
【0026】
描画装置1の稼働時には、光学ヘッド31による露光と、搬送装置10による基板Wの搬送とが、繰り返し実行される。具体的には、副走査機構14によりステージ12を副走査方向に搬送しつつ、光学ヘッド31からのパルス光の照射を行うことにより、副走査方向に延びる帯状の領域(スワス)に露光を行った後、主走査機構13によりステージ12を主走査方向に1スワス分だけ搬送する。描画装置1は、このような副走査方向の露光と、主走査方向のステージ12の搬送とを繰り返すことにより、基板Wの上面全体にパターンを描画する。
【0027】
制御部40は、描画装置1の各部を動作制御するための手段である。
図3は、制御部40と、描画装置1内の各部との電気的接続を示したブロック図である。
図3中に概念的に示すように、制御部40は、CPU等のプロセッサ41、RAM等のメモリ42、およびハードディスクドライブ等の記憶部43を有するコンピュータにより構成されている。記憶部43には、描画装置1を動作制御するためのコンピュータプログラムPが記憶されている。
【0028】
また、
図3に示すように、制御部40は、描画処理部30(上述した光学ヘッド31およびレーザ駆動部34を含む)、主走査機構13(後述するリニアモータ61およびエアガイド62を含む)、副走査機構14(後述するリニアモータ71を含む)、後述する角度計測装置80、および各種センサ50と、電気的に接続されている。制御部40は、記憶部43に記憶されたコンピュータプログラムPやデータDをメモリ42に読み出し、当該コンピュータプログラムPおよびデータDに基づいて、プロセッサ41が演算処理を行うことにより、描画装置1内の上記各部を動作制御する。これにより、描画装置1における描画処理が進行する。
【0029】
<2.搬送装置の構成>
次に、搬送装置10の詳細な構成について、説明する。
図4は、搬送装置10の一部分を、主走査方向に対して垂直な面で切断したときの部分断面図である。
図1~
図4に示すように、搬送装置10は、基台11、ステージ12、主走査機構13、副走査機構14、支持プレート16、角度計測装置80、および上述した制御部40を有する。
【0030】
基台11は、搬送装置10の各部を支持する支持台である。基台11は、主走査方向および副走査方向に広がる平板状の外形を有する。基台11の下面には、4つの脚部111および2つのダンパ112が設けられている。脚部111およびダンパ112の長さは、個別に調節可能である。したがって、脚部111およびダンパ112の長さを調節することにより、基台11の姿勢を水平に調整できる。
【0031】
支持プレート16およびステージ12は、それぞれ、平板状の外形を有する。支持プレート16は、基台11上において、主走査機構13により主走査方向に移動可能に支持されている。ステージ12は、支持プレート16上において、副走査機構14により副走査方向に移動可能に支持されている。ステージ12は、基板Wを載置可能な上面を有する。また、ステージ12の上面には、基板Wを保持するためのチャックピンや、基板Wを吸着する複数の吸着孔が設けられている。
【0032】
主走査機構13は、基台11に対して支持プレート16を、主走査方向に移動させる機構である。主走査機構13は、一対の直進機構60を有する。一対の直進機構60は、基台11の上面の副走査方向の両端部に設けられている。
図2および
図4に示すように、一対の直進機構60は、それぞれ、リニアモータ61とエアガイド62とを有する。
【0033】
リニアモータ61は、固定子611および移動子612を有する。固定子611は、基台11の上面に、主走査方向に沿って敷設されている。すなわち、一対の固定子611は、互いに平行に配置されている。移動子612は、後述するエアベアリング622を介して、支持プレート16に固定されている。
【0034】
また、主走査機構13は、リニアモータ61の動作を制御するための制御基板63を有する。制御基板63には、例えばサーボパック(登録商標)が用いられる。制御基板63は、制御部40と電気的に接続されている。リニアモータ61の駆動時には、制御部40からの指令に従って、制御基板63が、リニアモータ61において発生させるべきトルクを算出する。そして、算出されたトルクに応じた駆動信号を、各リニアモータ61の固定子611へ供給する。そうすると、固定子611と移動子612との間に生じる磁気的な吸引力および反発力によって、移動子612が、固定子611に沿って主走査方向に移動する。
【0035】
エアガイド62は、ガイドレール621およびエアベアリング622を有する。ガイドレール621は、基台11の上面に、主走査方向に沿って敷設されている。すなわち、リニアモータ61の固定子611と、エアガイド62のガイドレール621とは、互いに平行に配置されている。エアベアリング622は、支持プレート16と移動子612とに、固定されている。また、エアベアリング622は、ガイドレール621の上方に配置されている。
【0036】
図4に示すように、エアベアリング622の下面には、気体吹出口623が設けられている。搬送装置10の稼働時には、工場のユーティリティからエアベアリング622に常に気体が供給され、気体吹出口623からガイドレール621の上面に向けて、加圧された気体が吹き出される。これにより、エアベアリング622は、ガイドレール621上に非接触で浮上支持される。したがって、リニアモータ61を駆動させると、支持プレート16は、エアガイド62により浮上支持された状態で、主走査方向に沿って低摩擦で滑らかに移動する。
【0037】
副走査機構14は、支持プレート16に対してステージ12を、副走査方向に移動させる機構である。副走査機構14は、リニアモータ71と、一対のガイド機構72とを有する。
【0038】
リニアモータ71は、支持プレート16の上面の主走査方向の略中央に設けられている。リニアモータ71は、固定子711および移動子712を有する。固定子711は、支持プレート16の上面に、副走査方向に沿って敷設されている。移動子712は、ステージ12に対して固定されている。リニアモータ71の駆動時には、固定子711と移動子712との間に生じる磁気的な吸引力および反発力により、移動子712が、固定子711に沿って副走査方向に移動する。
【0039】
一対のガイド機構72は、支持プレート16の上面の主走査方向の両端部に設けられている。一対のガイド機構72は、それぞれ、ガイドレール721とボールベアリング722とを有する。ガイドレール721は、支持プレート16の上面に、副走査方向に沿って敷設されている。ボールベアリング722は、ステージ12の下面に固定されている。また、ボールベアリング722は、ガイドレール721に沿って、副走査方向に移動可能である。したがって、リニアモータ71を駆動させると、ステージ12は、支持プレート16に対して、副走査方向に移動する。
【0040】
このように、ステージ12は、主走査機構13および副走査機構14により、基台11に対して、主走査方向および副走査方向に移動可能となっている。
【0041】
角度計測装置80は、ステージ12のヨーイング角度θを計測するための装置である。角度計測装置80は、ステージ12に固定されるミラー81と、レーザ干渉計82とを有する。ミラー81は、ステージ12の主走査方向の端縁部に固定される。レーザ干渉計82は、基台11の上面に固定される。レーザ干渉計82は、ミラー81へ向けて2本のレーザ光を照射する。そして、ミラー81から反射する2本のレーザ光の干渉により、2本のレーザ光の光路差を検出する。そして、当該光路差に基づいて、ステージ12のヨーイング角度θを計測する。
【0042】
<3.主走査機構の搬送制御について>
<3-1.制御部の構成>
図5は、上述した主走査機構13を制御するための制御部40の機能を、概念的に示したブロック図である。
図5に示すように、制御部40は、角度取得部91と搬送制御部92とを有する。角度取得部91および搬送制御部92の機能は、制御部40としてのコンピュータが、コンピュータプログラムPに従って動作することにより、実現される。
【0043】
角度取得部91には、角度計測装置80によるヨーイング角度θの計測結果が入力される。角度取得部91は、取得したヨーイング角度θを含む第1入力データd1を、搬送制御部92へ送る。第1入力データd1は、ヨーイング角度θのみであってもよく、ヨーイング角度θ以外の変数を含んでいてもよい。例えば、第1入力データd1は、ヨーイング角度θと、ヨーイング角度θの角速度dθ/dtとを含んでいてもよい。また、角度取得部91は、ヨーイング角度θに、フィルタ処理等の加工処理を施し、加工処理後のヨーイング角度θを、第1入力データd1に含めてもよい。
【0044】
搬送制御部92は、第1学習済みモデルM1を有する。第1学習済みモデルM1は、強化学習アルゴリズムを用いた事前強化学習により、パラメータが調整された推論プログラムである。第1学習済みモデルM1を得るための強化学習アルゴリズムとしては、例えば、Q学習法、DQN(Deep Q Network)法、SARSA、モンテカルロ法、epsilon-greedy法、BoltzmannQPolicy法等を用いることができる。
【0045】
搬送制御部92は、角度取得部91から送られる第1入力データd1を、第1学習済みモデルM1へ入力する。第1学習済みモデルM1は、第1入力データd1に基づいて、一対の直進機構60を制御するための制御値vを出力する。制御値vは、例えば、各直進機構60のリニアモータ61へ入力すべきトルク値とすることができる。ただし、第1学習済みモデルM1から出力される制御値vは、各直進機構60を動作させるための、トルク値以外の値であってもよい。
【0046】
搬送制御部92は、第1学習済みモデルM1から出力される制御値vに基づいて、一対の直進機構60を制御する。具体的には、搬送制御部92は、制御基板63を介して一対のリニアモータ61へ、制御値vを送信する。一対の直進機構60は、搬送制御部92から送信される制御値vに従って動作する。
【0047】
<3-2.事前強化学習>
続いて、搬送装置10において予め実行される事前強化学習について、説明する。
図6は、事前強化学習の流れを示すフローチャートである。
【0048】
事前強化学習は、ステージ12のヨーイング角度θを所定の範囲内に維持するための制御ルールを、自律的に学習する機械学習である。事前強化学習を行うときには、制御部40は、強化学習プログラムに基づいて、第1学習済みモデルM1の原型となる学習中モデルMoを用意する。そして、用意された学習中モデルMoに、制御値vと、ヨーイング角度θを含む第1入力データd1との関係を、学習させる。
【0049】
具体的には、まず、学習中モデルMoから、ある制御値vを出力する(ステップS11)。事前強化学習の初期段階では、ステップS11において出力される制御値vは、ランダムな値となる。搬送制御部92は、学習中モデルMoから出力された制御値vに基づいて、一対の直進機構60を動作させる(ステップS12)。そして、角度計測装置80から角度取得部91へ入力されるヨーイング角度θを取得する(ステップS13)。
【0050】
続いて、制御部40は、強化学習プログラムに基づいて、ヨーイング角度θに応じた評価値を付与する(ステップS14)。このとき、制御部40は、ヨーイング角度θが、予め設定された目標値に近づくほど、高い評価値を付与する。
【0051】
その後、制御部40は、事前強化学習を終了するか否かを判断する(ステップS15)。制御部40は、ステップS14において付与される評価値が、所望のレベルに達していない場合には、引き続き、事前強化学習を継続する(ステップS15:no)。
【0052】
事前強化学習を継続する場合、角度取得部91は、ステップS13において取得したヨーイング角度θを含む第1入力データd1を生成して、搬送制御部92へ送る。そして、搬送制御部92は、当該第1入力データd1を、学習中モデルMoへ入力する。そうすると、学習中モデルMoから、新たな制御値vが出力される(ステップS11)。その後、上述したステップS12~S15の処理を、再度実行する。
【0053】
上述の通り、学習中モデルMoは、事前強化学習の初期段階では、ランダムな制御値vを出力する。しかしながら、ステップS11~S15の処理を繰り返す過程で、学習中モデルMoは、第1入力データd1に応じて、制御値vの増加、維持、減少等を試行する。これにより、制御値vと、ヨーイング角度θを含む第1入力データd1との関係を、自動的に学習する。そして、学習中モデルMoは、次第に、高い評価値を得ることができるようになる。すなわち、学習中モデルMoは、次第に、第1入力データd1に応じて、ヨーイング角度θを所定の範囲内に維持するための制御値vを、出力できるようになる。
【0054】
図7は、ステップS11~S15の処理を繰り返すことによる、評価値の変化の例を示したグラフである。
図7の横軸は、ステップS11~S15の処理の繰返し回数を示している。
図7の縦軸は、評価値を示している。
図7のように、上述した評価値は、学習中モデルMoの学習が進むにつれて、徐々に高くなる。
【0055】
やがて、ステップS14において付与される評価値が、所望のレベルに達したと判断されると(ステップS15:yes)、制御部40は、事前強化学習を終了する。そして、以上の事前強化学習により強化された学習中モデルMoを、第1学習済みモデルM1とする。
【0056】
<3-3.一対の直進機構の動作制御>
続いて、事前強化学習が完了した後に実行される、一対の直進機構60の動作制御について、説明する。
図8は、直進機構60の動作制御の流れを示したフローチャートである。
【0057】
一対の直進機構60の動作制御時には、まず、角度計測装置80から出力されるヨーイング角度θが、角度取得部91に入力される(ステップS21)。続いて、角度取得部91は、取得したヨーイング角度θを含む第1入力データd1を生成して、搬送制御部92へ送る(ステップS22)。
【0058】
角度取得部91から搬送制御部92へ送られる第1入力データd1は、上述した事前学習処理において学習中モデルMoに入力された第1入力データd1と、同種のデータとされる。例えば、上述した事前学習処理において学習中モデルMoに入力された第1入力データd1が、ヨーイング角度θとヨーイング角度θの角速度dθ/dtとを含むものである場合、このステップS22において搬送制御部92へ送られる第1入力データd1も、ヨーイング角度θとヨーイング角度θの角速度dθ/dtとを含むものとされる。
【0059】
搬送制御部92は、角度取得部91から送られる第1入力データd1を、第1学習済みモデルM1へ入力する(ステップS23)。すると、第1学習済みモデルM1から、第1入力データd1に対応する制御値vが出力される(ステップS24)。ここで出力される制御値vは、第1学習済みモデルM1が、上述した事前強化学習により最適化された制御ルールに従って決定する値となる。したがって、制御値vは、ヨーイング角度θを所定の範囲内に維持することが可能な値となっている。
【0060】
搬送制御部92は、第1学習済みモデルM1から出力される制御値vに基づいて、一対の直進機構60を制御する(ステップS25)。これにより、一対の直進機構60が適切に動作し、ステージ12のヨーイング角度θが所定の範囲内に維持されながら、ステージ12が搬送される。
【0061】
以上のように、この搬送装置10では、ステージ12のヨーイング角度θを所望の状態に維持するための制御を、事前強化学習により得られた第1学習済みモデルM1を用いて行う。このため、搬送装置10の製造者またはユーザが、制御のためのパラメータを設定する必要がない。これにより、制御のためのパラメータを設定する作業負担を低減しつつ、ステージ12を適切に搬送することができる。
【0062】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。以下では、種々の変形例について、上記の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0063】
<4-1.第1変形例>
図9は、第1変形例に係る制御部40の機能を、概念的に示したブロック図である。
図9の例では、制御部40は、角度推定部93を有する。角度推定部93の機能は、制御部40としてのコンピュータが、コンピュータプログラムPに従って動作することにより、実現される。
【0064】
角度推定部93は、第2学習済みモデルM2を有する。第2学習済みモデルM2は、機械学習アルゴリズムを用いた事前学習により、パラメータが調整された推論プログラムである。第2学習済みモデルM2を得るための機械学習アルゴリズムとしては、例えば、一層ニューラルネットワークやディープラーニング等を含むニューラルネットワーク、ランダムフォレストや勾配ブースティング等を含む決定木系アルゴリズム、サポートベクトルマシンといった、教師あり機械学習アルゴリズムを用いることができる。
【0065】
角度推定部93には、各種センサ50から出力される計測値が入力される。計測値は、例えば、主走査機構13の一対のリニアモータ61のトルク値を実測したものであってもよく、あるいは、エアベアリング622の空気圧、ガイドレール621の温度、搬送装置10の駆動音、ステージ12の振動、ステージ12の位置などを計測したものであってもよい。
【0066】
角度推定部93は、入力された計測値を含む第2入力データd2を、第2学習済みモデルM2へ入力する。第2入力データd2は、計測値のみであってもよく、計測値以外の変数を含んでいてもよい。
【0067】
第2学習済みモデルM2は、予め行われる事前学習により、第2入力データd2と、ステージ12のヨーイング角度θとの関係を学習している。事前学習においては、角度計測装置80の計測結果を教師データとして、上述した機械学習アルゴリズムにより、第2入力データd2と、ヨーイング角度θとの関係が学習される。このため、事前学習が完了した後に、第2学習済みモデルM2に第2入力データd2を入力すると、第2学習済みモデルM2から、ヨーイング角度θの推定結果が出力される。
【0068】
角度推定部93は、この第2学習済みモデルM2から出力されるヨーイング角度θの推定結果を、角度取得部91へ入力する。このようにすれば、事前学習の間のみ、角度計測装置80を設置すればよく、事前学習が完了した後は、角度計測装置80を取り外して運用することができる。したがって、大掛かりな角度計測装置80を常時設置することなく、ステージ12のヨーイング角度θに基づいて、一対の直進機構60を制御することができる。
【0069】
<4-2.他の変形例>
上記実施形態の搬送装置10は、主走査機構13だけではなく、副走査機構14を備えていた。しかしながら、本発明は、副走査機構14を備えていない搬送装置を対象とするものであってもよい。
【0070】
また、上記実施形態の搬送装置10は、描画装置1に搭載されていた。しかしながら、本発明は、描画装置1以外の装置に搭載される搬送装置を対象とするものであってもよい。例えば、搬送装置は、ステージ上に保持された基板に対して処理液を塗布する装置に搭載されるものであってもよい。また、搬送装置は、ステージ上に保持された記録媒体に対して印刷を行う装置に搭載されるものであってもよい。
【0071】
また、上記の実施形態の角度計測装置80は、レーザ干渉計82により、ステージ12のヨーイング角度θを計測していた。しかしながら、ステージ12のヨーイング角度θは、他の方法で計測してもよい。例えば、カメラにより取得したステージ12の画像に基づいて、ステージ12のヨーイング角度θを計測してもよい。
【0072】
また、上記の実施形態の直進機構60は、リニアモータ61を有するものであった。しかしながら、リニアモータ61に代えて、回転モータから出力される回転運動をボールネジにより直進運動に変換する機構を用いてもよい。
【0073】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 描画装置
10 搬送装置
11 基台
12 ステージ
13 主走査機構
14 副走査機構
16 支持プレート
20 フレーム
30 描画処理部
40 制御部
50 センサ
60 直進機構
61 リニアモータ
62 エアガイド
63 制御基板
71 リニアモータ
72 ガイド機構
80 角度計測装置
91 角度取得部
92 搬送制御部
93 角度推定部
M1 第1学習済みモデル
M2 第2学習済みモデル
W 基板
d1 第1入力データ
d2 第2入力データ
θ ヨーイング角度
v 制御値