IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 清水建設株式会社の特許一覧

特許7374805コンクリート成形用型枠およびコンクリートの製造方法
<>
  • 特許-コンクリート成形用型枠およびコンクリートの製造方法 図1
  • 特許-コンクリート成形用型枠およびコンクリートの製造方法 図2
  • 特許-コンクリート成形用型枠およびコンクリートの製造方法 図3
  • 特許-コンクリート成形用型枠およびコンクリートの製造方法 図4
  • 特許-コンクリート成形用型枠およびコンクリートの製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】コンクリート成形用型枠およびコンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 7/38 20060101AFI20231030BHJP
【FI】
B28B7/38
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020023676
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021126850
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 行雄
(72)【発明者】
【氏名】辻埜 真人
(72)【発明者】
【氏名】黒田 泰弘
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】実公昭52-006190(JP,Y1)
【文献】実開平07-037603(JP,U)
【文献】特開平07-052133(JP,A)
【文献】特開2016-008405(JP,A)
【文献】特開2016-160715(JP,A)
【文献】特開2015-193245(JP,A)
【文献】特開2010-137414(JP,A)
【文献】米国特許第05402609(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 7/00 - 7/46
E04G 9/00 - 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート表面に木調の外観を付与可能な型面を有し、この型面の少なくとも一部に、水に対する接触角が130°以上の撥水層を備えるコンクリート成形用型枠であって、
型枠本体の表面に設けられ、コンクリート表面に出目地を形成するための凹溝部をさらに備え、この凹溝部は、断面視で前記型枠本体の表面に行くに従って溝幅が拡がるように傾斜した一対のテーパー面を有し、前記型枠本体の表面に対する前記テーパー面の傾斜角度(θ)それぞれ45°~60°の範囲に設定されており、
前記型枠本体の表面における前記凹溝部の溝幅が2~5mmの範囲に設定されていることを特徴とするコンクリート成形用型枠。
【請求項2】
硬化後の圧縮強度が15~30N/mmの範囲であるコンクリートを成形対象とするために前記型枠本体が木材、金属、合成樹脂、天然樹脂またはそれらの複合材からなることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート成形用型枠。
【請求項3】
前記撥水層は、疎水性酸化物微粒子から形成される多孔質層であることを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリート成形用型枠。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一つに記載のコンクリート成形用型枠を用いて表面に出目地を有するコンクリートを製造する方法であって、
コンクリート成形用型枠にフレッシュコンクリートを打ち込み、コンクリートが硬化した後で脱型することを特徴とするコンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に建築、土木分野などで使用されるコンクリート成形用型枠およびコンクリートの製造方法に関し、特に、出目地を有するコンクリートの成形に好適なコンクリート成形用型枠およびコンクリートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートの表面に木調の外観を付与可能な型枠として、例えば特許文献1に示すような型枠が知られている。この型枠は、木質系の型枠本体と、型枠本体の表面に設けた疎水性酸化物微粒子による多孔質層とを備えている。この型枠によれば、型枠からのリグニンなどの成分の滲み出しを抑制するとともに、コンクリート表面に生じる空気あばた等の窪みを低減することができる。
【0003】
図3は、特許文献1の実施品である杉板本実型枠を使用したコンクリートの木調仕上げの一例である。コンクリートの木調仕上げにおいては、一般的に板材と板材の間に化粧上の出目地を設ける場合がある。図4に、コンクリート表面に設けた出目地の一例を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6461648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、コンクリート表面に設ける出目地は、図5に示すように、脱型時に欠けてしまうことがある。出目地が欠けるとコンクリートの美観を損なうため、出目地の欠損を防ぐことができる成形技術が求められていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、出目地の欠損を防ぐことができるコンクリート成形用型枠およびコンクリートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るコンクリート成形用型枠は、型面の少なくとも一部に、水に対する接触角が130°以上の撥水層を備えるコンクリート成形用型枠であって、型枠本体の表面に設けられ、コンクリート表面に出目地を形成するための凹溝部をさらに備え、この凹溝部は、断面視で表面に行くに従って溝幅が拡がるように傾斜したテーパー面を有し、型枠本体の表面に対するテーパー面の傾斜角度は45°~60°の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他のコンクリート成形用型枠は、上述した発明において、硬化後の強度が15~30N/mmの範囲であるコンクリートを成形対象とすることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他のコンクリート成形用型枠は、上述した発明において、型枠本体の表面における凹溝部の溝幅が2~5mmの範囲に設定されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他のコンクリート成形用型枠は、上述した発明において、コンクリート表面に木調の外観を付与可能な型面を有する型枠、または、木質材料からなる木質系型枠であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他のコンクリート成形用型枠は、上述した発明において、撥水層は、疎水性酸化物微粒子から形成される多孔質層であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るコンクリートの製造方法は、上述したコンクリート成形用型枠を用いて表面に出目地を有するコンクリートを製造する方法であって、コンクリート成形用型枠にフレッシュコンクリートを打ち込み、コンクリートが硬化した後で脱型することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るコンクリート成形用型枠によれば、型面の少なくとも一部に、水に対する接触角が130°以上の撥水層を備えるコンクリート成形用型枠であって、型枠本体の表面に設けられ、コンクリート表面に出目地を形成するための凹溝部をさらに備え、この凹溝部は、断面視で表面に行くに従って溝幅が拡がるように傾斜したテーパー面を有し、型枠本体の表面に対するテーパー面の傾斜角度は45°~60°の範囲に設定されているので、脱型時にコンクリートが型枠本体に付着することを抑制することができる。このため、出目地の欠損を低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に係るコンクリート成形用型枠の実施の形態を示す概略断面図である。
図2図2は、本発明の効果の検証結果を示す図である。
図3図3は、コンクリートの木調仕上げの一例を示す写真図である。
図4図4は、コンクリートの木調仕上げにおける出目地の一例を示す写真図である。
図5図5は、出目地の欠けの様子を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係るコンクリート成形用型枠およびコンクリートの製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
[コンクリート成形用型枠]
まず、本実施の形態に係るコンクリート成形用型枠について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係るコンクリート成形用型枠10は、コンクリートCを成形するための型枠であって、型枠本体12と、型枠本体12の表面14(型面)に形成された凹溝部16と、凹溝部16を含む型枠本体12の表面14に設けられた撥水層18とを備える。図の例では、型枠本体12を基材20の表面に接合して配置している。また、凹溝部16は、端部を斜めに切削した2枚の型枠本体12の端部どうしを突き合わせ配置することによって形成しているが、この他の方法によって形成してもよい。
【0017】
型枠本体12および基材20の材質は、慣用されているものであれば制限を受けず、木材、金属、合成樹脂、天然樹脂、それらの複合材等から選択することができる。一般的には、コストや汎用性の点で木材や塗装合板を使用するのが好ましい。木調表面を有する高級打放しコンクリート構造物を施工する場合には、本実の杉板やラーチ合板などの木質材料からなる木質系型枠を使用するのがより好ましい。また、型枠本体12および基材20の形状や大きさ等についても、目的とするコンクリート成形体に応じて適宜設計することができる。型枠本体12の表面14は、コンクリートCの表面に木調の外観を付与可能なものであり、この面には例えば木目調の凹凸模様等が形成されている。
【0018】
凹溝部16は、コンクリート表面に出目地を形成するためのV字状の凹溝である。この凹溝部16にコンクリートが入り込むことでコンクリート表面に出目地が形成される。凹溝部16は、断面視で表面14に行くに従って溝幅Bが拡がるように傾斜したテーパー面22を有する。型枠本体12の表面14に対するテーパー面22の傾斜角度θは45°以上が好ましく、45°~60°の範囲に設定することが望ましい。また、型枠本体12の表面14における凹溝部16の溝幅Bは、2mm以上が好ましく、2~5mmの範囲に設定することが望ましい。
【0019】
凹溝部16の断面形状はV字状に限るものではなく、表面14に行くに従って溝幅Bが拡がるように傾斜したテーパー面22を有する形状であればいかなる形状でもよい。例えばV字の頂部が平坦になった略U字状であってもよい。略U字状とする場合は、傾斜したテーパー面22と、テーパー面22の奥端どうしを表面14と平行な溝奥面で接続した形状とすることができる。この場合のテーパー面22の傾斜角度θについても45°以上が好ましく、45°~60°の範囲に設定することが望ましい。また、型枠本体12の表面14における凹溝部16の溝幅Bについても2mm以上が好ましく、2~5mmの範囲に設定することが望ましい。
【0020】
脱型時における出目地の欠損を防ぐため、成形対象のコンクリートCの硬化後の強度は15N/mm以上とするのが好ましく、20N/mm以上にするとなおよい。脱型時の型枠10へのコンクリートの付着を低減するために、硬化後の強度は15~30N/mmの範囲であることが好ましい。
【0021】
撥水層18は、水に対する接触角が130°以上の撥水性の表面を有する層であり、より望ましくは150°以上の超撥水性の表面を有する層である。ここで、撥水性とは、水による濡れにくさを表す性質をいい、固体表面(本発明では撥水層18の表面)上に置かれた水滴の接触角が撥水性の指標になっている。一般には接触角が90°以上の場合には撥水性、110°から150°の場合には高撥水性、150°以上の場合には超撥水性とされる。材料の表面自由エネルギーを下げても接触角は120°が限界といわれており、それ以上を実現するには後述するように表面形状を特殊なものに加工する必要がある。
【0022】
撥水層18は、例えば、型枠本体12の上に設けた下地層と、この下地層の上に設けた充填粒子含有層と、この充填粒子含有層の上に設けた超撥水性の多孔質層とにより構成することできる。多孔質層は、例えば疎水性酸化物微粒子により形成され、表面14のコンクリートCと接する側の最表面に配置される。
【0023】
上記の構成によれば、型枠本体12の表面14の表面張力が撥水層18によって著しく高くなることで、打ち込み時に連行されたコンクリート中の気泡が撥水層18の表面に接した際に、この表面に沿って広がりやすくなり、コンクリートの表面の気泡は従来よりも表面に沿って薄く、平べったいものとなる。しかも、この気泡は、型枠本体12の外部からハンマー等によって加えられる小さな振動で上昇してコンクリートの表面から容易に抜けやすい。したがって、コンクリート表面の空気あばたの原因となる気泡を、より確実に低減することができる。
【0024】
また、撥水層18によって型枠本体12からの成分(例えば型枠本体12が木質系型枠である場合にはリグニンなどの成分)のコンクリートC側への滲み出しを抑制することができる。さらに、撥水層18の持つ超撥水効果によって、成形後のコンクリートCの表面に生じる空気あばた等の窪みの発生が大幅に低減し、コンクリート表面の意匠性を向上することができる。また、撥水層18の持つ超撥水効果によってコンクリートCと型枠10間の付着を防止し、綺麗に脱型することが可能となり、型枠10の再利用が容易になり、環境負荷の低減につながる。
【0025】
また、凹溝部16および撥水層18によって、脱型時に出目地の位置のコンクリートが型枠本体12に付着することを抑制することができる。このため、出目地の欠損を低減することができる。
【0026】
図2(1)、(2)は、本実施の形態のコンクリート成形用型枠10を用いて成形したコンクリート表面の外観である。この図に示すように、コンクリート表面には、出目地が欠損することなく形成されていることがわかる。したがって、本実施の形態によれば、従来の型枠(図5を参照)に比べて出目地の欠損を大幅に低減することができる。
【0027】
次に、撥水層18を形成するための下地層、多孔質層、充填粒子含有層の具体的な構成および作用について説明する。
【0028】
[下地層]
下地層は、型枠本体12の表面14に施された下塗り塗装、目止め塗装、プライマー塗装、着色塗装などによる塗膜で構成される。表面14と多孔質層との間に、下地層を介在させることにより、表面14の凹凸矯正、多孔質層や充填粒子含有層の密着性向上、型枠本体12の耐久性向上を図ることができる。なお、下地層や充填粒子含有層は必要に応じて介在させればよく、下地層を複数にしたり、下地層以外の任意の層を介在させたりすることもできる。下地層の形成は、公知の下塗り剤、目止め剤、プライマー、着色剤を用いて、公知の塗布(コート)方法を採用できるので、ここでは詳述しない。
【0029】
[多孔質層]
多孔質層は、型面の少なくとも一部(コンクリートと接する側の最表面)に形成されるものである。多孔質層を形成する原料である疎水性酸化物微粒子としては、疎水性を有するものであれば特に限定されず、表面処理により疎水化されたものであってもよい。例えば、親水性酸化物微粒子をシランカップリング剤等で表面処理を施し、表面状態を疎水性とした微粒子を用いることもできる。酸化物の種類も、疎水性を有するものであれば特に限定されない。例えばシリカ(二酸化珪素)、アルミナ、チタニア等の少なくとも1種を用いることができる。これらは公知または市販のものを採用することができる。
【0030】
例えば、シリカとしては、製品名「AEROSIL R972」、「AEROSIL R972V」、「AEROSIL R972CF」、「AEROSIL R974」、「AEROSIL RX200」、「AEROSIL RX300」、「AEROSIL NX90G」、「AEROSIL RY200」(以上、日本アエロジル株式会社製)、「AEROSIL R202」、「AEROSIL R805」、「AEROSIL R812」、「AEROSIL R812S」(以上、エボニック デグサ社製)、「サイロホービック-100」、「サイロホービック-200」、「サイロホービック-603」(以上、富士シリシア化学株式会社製)等が挙げられる。なお、AEROSIL、サイロホービックは登録商標である。
【0031】
チタニアとしては、製品名「AEROXIDE TiO2 T805」(エボニック デグサ社製)等が例示できる。アルミナとしては、製品名「AEROXIDE Alu C」(エボニック デグサ社製)等をシランカップリング剤で処理して粒子表面を疎水性とした微粒子が例示できる。なお、AEROXIDEは登録商標である。
【0032】
この中でも、疎水性シリカ微粒子を好適に用いることができる。とりわけ、より優れた撥水性が得られるという点において、表面にトリメチルシリル基を有する疎水性シリカ微粒子が好ましい。これに対応する市販品としては、例えば上記「AEROSIL RX200」、「AEROSIL RX300」、「AEROSIL NX90G」(以上、日本アエロジル株式会社製)、「AEROSIL R812」、「AEROSIL R812S」、「AEROSIL R8200」(以上、エボニック デグサ社製)等が挙げられる。
【0033】
疎水性酸化物微粒子の粒度は限定的ではないが、一次粒子平均径が3nm~10μmであることが好ましく、より好ましくは3~100nmであり、最も好ましくは5~50nmである。一次粒子平均径を上記範囲とすることにより、その凝集体中にある空隙に空気等の気体を保持することができる結果、多孔質構造となり、優れた離型性を発揮することができる。この凝集状態は、型面の少なくとも一部(コンクリートと接する側の最表面)に付着した後も維持されるので、優れた離型性を発揮することができる。特に、一次粒子平均径が3~100nmの疎水性酸化物微粒子を用いることにより、三次元網目状の多孔質構造の表面を有するコンクリート成形用型枠10を得ることができる。
【0034】
型面の最表面に形成される疎水性酸化物微粒子の多孔質層は、三次元網目状構造を有する多孔質状であるのが好ましく、その厚みは0.1~500μm程度が好ましく、0.5~20μm程度がさらに好ましい。このようなポーラスな状態で形成することにより、当該層に空気を多く含むことができ、より優れた離型性を発揮することができる。
【0035】
なお、本発明において、一次粒子平均径の測定は、走査型電子顕微鏡(FE-SEM)で実施することができ、走査型電子顕微鏡の分解能が低い場合には透過型電子顕微鏡等の他の電子顕微鏡を併用して実施してもよい。具体的には、粒子形状が球状の場合はその直径、非球状の場合はその最長径と最短径との平均値を直径とみなし、走査型電子顕微鏡等による観察により任意に選んだ50個分の粒子の直径の平均を一次粒子平均径とする。
【0036】
疎水性酸化物微粒子の比表面積(BET法)は特に制限されないが、通常50~300m/gが好ましく、100~300m/gがさらに好ましい。
【0037】
型面の少なくとも一部(コンクリートと接する側の最表面)への塗布に際しては、疎水性酸化物微粒子をそのまま付与してもよいし(乾式方法)、あるいは疎水性酸化物微粒子を溶媒に分散してなる分散液を塗工することにより付与してもよい(湿式方法)。本発明では、工業的に均一な塗膜(疎水性酸化物微粒子層)が得られやすく、しかも三次元網目状構造が得られやすいという見地より、後者の湿式方法が好ましい。
【0038】
上記の分散液を用いる場合、分散液に用いる溶媒は、例えばアルコール(エタノール)、シクロヘキサン、トルエン、アセトン、IPA、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ブチルジグリコール、ペンタメチレングリコール、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、ヘキシルアルコール等の有機溶剤を適宜選択することができる。この際、微量の分散剤、着色剤、沈降防止剤、粘度調整剤等を併用することもできる。溶媒に対する疎水性酸化物微粒子の分散量は通常10~300g/L(リットル)程度、好ましくは30~100g/L程度とすればよい。
【0039】
また、分散液を塗工する方法も制限されず、例えばスプレー、刷毛、ローラー、浸漬等による塗布方法のほか、印刷方法(インクジェット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷)、滴下法等も採用することができる。塗布後は、室温~150℃程度で適宜乾燥させればよい。
【0040】
疎水性酸化物微粒子を型面に付与する場合の付与量は、通常は所望の離型性等に応じて適宜設定することができるが、固形分基準で例えば0.1~100g/m程度、好ましくは0.5~20.0g/m程度とすればよい。上記範囲内に設定することによって、より優れた離型性を長期にわたって得ることができる上、疎水性酸化物微粒子の脱落抑制、コスト等の点でも一層有利となる。
【0041】
[充填粒子含有層]
充填粒子含有層は、表面14と多孔質層との間に介在させるのが好ましい。充填粒子含有層は、充填粒子がマトリックス中に分散した層である。この充填粒子含有層を介在させることにより、コンクリート成形用型枠10の離型性をさらに長期間維持することができる。充填粒子としては、有機成分および無機成分の少なくとも1種を含む充填粒子を採用することができる。充填粒子含有層を表面14と多孔質層との間に介在させる場合の付与量は、固形分基準で例えば0.1~100g/m程度、好ましくは1.0~20.0g/m程度とすればよい。上記範囲内に設定することによって、疎水性酸化物微粒子のより優れた密着性を長期にわたって得ることができる上、充填粒子含有層上に塗布された疎水性酸化物微粒子の脱落抑制、耐久性等の点でも有利となる。なお、充填粒子含有層を付与する方法は、特に制限されるものではないが、例えばスプレー、刷毛、ローラー、浸漬等による塗布方法のほか、印刷方法、滴下法等も採用することができる。付与(塗工)の際は、下記マトリックスを適当な溶剤で希釈することもでき、付与後は、室温~150℃程度で適宜乾燥させればよい。
【0042】
無機成分としては、例えば1)アルミニウム、銅、鉄、チタン、銀、カルシウム等の金属またはこれらを含む合金または金属間化合物、2)酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄等の酸化物、3)リン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム等の無機酸塩または有機酸塩、4)ガラス、5)窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素、窒化珪素等のセラミック等を好適に用いることができる。
【0043】
有機成分としては、例えばアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアミド等の有機高分子成分(または樹脂成分)を好適に用いることができる。
【0044】
充填粒子は、無機成分からなる粒子あるいは有機成分からなる粒子のほか、無機成分および有機成分の両者を含む粒子を用いることができる。この中でも特に、アクリル系樹脂粒子、ポリエチレン系樹脂粒子、親水性シリカ粒子、リン酸カルシウム粒子、炭粉、焼成カルシウム粒子、未焼成カルシウム粒子、ステアリン酸カルシウム粒子等の少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0045】
充填粒子の平均粒子径(レーザー回折式粒度分布計による)は0.3~100μm程度が好ましく、1~50μmがさらに好ましく、5~30μmがよりさらに好ましく、20~30μmが最も好ましい。0.3μm未満では取扱い性、凹凸形成等の点で不向きである。他方、100μmを超える場合は、充填粒子の脱落、分散性等の点で不向きである。充填粒子の形状は限定的でなく、例えば球状、回転楕円体状、不定形状、涙滴状、扁平状、中空状、多孔質状等のいずれであってもよい。
【0046】
充填粒子含有層を構成し、充填粒子を繋ぎとめるマトリックスとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム、エラストマー、ワックスなどを採用できる。マトリックス中における充填粒子の含有量は、マトリックスの材質または充填粒子の種類、所望の物性等に応じて適宜変更できるが、一般的には固形分重量基準で1~80重量%が好ましく、3~50重量%がさらに好ましい。
【0047】
充填粒子を含有させる方法(充填粒子をマトリックス中に分散させる方法)は、特に限定されないが、一般的にはマトリックスを形成するための原料(例えば、熱可塑性樹脂を含む組成物)に充填粒子を配合する方法等が挙げられる。混合する方法は、乾式混合または湿式混合のいずれであってもよい。
【0048】
マトリックスが熱可塑性樹脂の場合、一般的に熱可塑性樹脂層の主成分は1)熱可塑性樹脂またはそれを構成するモノマーもしくはオリゴマー、2)溶剤、3)必要に応じて架橋剤等からなるため、それらの混合物中に充填粒子を添加混合すればよい。熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を採用することができる。例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール、フッ素系樹脂、シリコン樹脂、ポリエステル系樹脂等のほか、これらのブレンド樹脂、これらを構成するモノマーの組み合わせを含む共重合体、変性樹脂等を用いることができる。
【0049】
マトリックスが熱硬化性樹脂の場合、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂等を採用することができる。マトリックスがエラストマーの場合、例えば、PVC-NBRブレンドエラストマー、ウレタン系エラストマー等を採用することができる。
【0050】
[コンクリートの製造方法]
次に、本実施の形態に係るコンクリートの製造方法について説明する。
本実施の形態に係るコンクリートの製造方法は、上述したコンクリート成形用型枠10を用いて表面に出目地を有するコンクリートを製造する方法であって、コンクリート成形用型枠10にフレッシュコンクリートを打ち込み、コンクリートが硬化した後で脱型するものである。したがって、コンクリート成形用型枠10を用いて図2に示すような出目地を有するコンクリートを施工することは、本発明の実施に相当する。
【0051】
本実施の形態によれば、コンクリート成形用型枠10に備わる凹溝部16および撥水層18によって、脱型時に出目地の位置のコンクリートが型枠本体12に付着することを抑制することができる。このため、コンクリート表面の出目地を欠けることなく成形することができる。
【0052】
図2(1)、(2)は、コンクリート成形用型枠10により成形したコンクリート表面の外観である。この図に示すように、本実施の形態によれば、従来の型枠(図5を参照)に比べて出目地の欠損を大幅に低減することができる。
【0053】
以上説明したように、本発明に係るコンクリート成形用型枠によれば、型面の少なくとも一部に、水に対する接触角が130°以上の撥水層を備えるコンクリート成形用型枠であって、型枠本体の表面に設けられ、コンクリート表面に出目地を形成するための凹溝部をさらに備え、この凹溝部は、断面視で表面に行くに従って溝幅が拡がるように傾斜したテーパー面を有し、型枠本体の表面に対するテーパー面の傾斜角度は45°~60°の範囲に設定されているので、脱型時にコンクリートが型枠本体に付着することを抑制することができる。このため、出目地の欠損を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、本発明に係るコンクリート成形用型枠およびコンクリートの製造方法は、木調表面を有する高級打放しコンクリートの施工に有用であり、特に、コンクリート表面に設けられる出目地の欠損を低減するのに適している。
【符号の説明】
【0055】
10 コンクリート成形用型枠
12 型枠本体
14 表面(型面)
16 凹溝部
18 撥水層
20 基材
22 テーパー面
C コンクリート
図1
図2
図3
図4
図5