(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/05 20060101AFI20231030BHJP
H02P 21/26 20160101ALI20231030BHJP
H02P 25/024 20160101ALI20231030BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P21/26
H02P25/024
(21)【出願番号】P 2020032772
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】荒木 雄志
(72)【発明者】
【氏名】柏原 辰樹
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-191450(JP,A)
【文献】特開2017-139926(JP,A)
【文献】特開2009-017676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/05
H02P 21/26
H02P 25/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの制御装置であって、
前記モータのd軸電流指令値i
d
*とq軸電流指令値i
q
*から、d軸電圧指令値V
d
refとq軸電圧指令値V
q
refを算出する電圧指令演算部と、
空間高調波のパラメータとモータ巻線の周波数特性に基づき、q軸電流リプルを発生させるためのq軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*を算出するフィードフォワード指令値演算部と、
前記電圧指令演算部が算出したq軸電圧指令値V
q
refから、前記フィードフォワード指令値演算部が算出したq軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*を減算する減算部と、
を備えて、空間高調波に起因するトルクリプルを補償することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記モータは三相の永久磁石同期モータであり、
前記フィードフォワード指令値演算部は、電気角6n次(nは正の整数)の前記q軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*を算出することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記フィードフォワード指令値演算部は、電気角推定値に対してモータインピーダンスに基づく位相を進めた空間高調波値から前記q軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記フィードフォワード指令値演算部は、空間高調波に前記モータのインピーダンスに基づくゲインを乗ずることで前記q軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*を算出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記モータは三相の永久磁石同期モータであり、
該モータのq軸電流推定値をi
q(ハット)、q軸6次高調波磁束をk
6hq、電気角推定値をθ
re(ハット)、電機子鎖交磁束1次成分の振幅をφ
f、巻線抵抗をR、q軸巻線インダクタンスをL
q、電気角速度をω
reとしたとき、
【数18】
前記フィードフォワード指令値演算部は、上記式(3)を用いて電気角6次の前記q軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*を算出することを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記フィードフォワード指令値演算部は、前記q軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*により生じるq軸電流リプルが、d軸に干渉する干渉項であるd軸電圧フィードフォワード指令値V
dff
*を更に算出すると共に、
前記電圧指令演算部が算出したd軸電圧指令値V
d
refに、前記フィードフォワード指令値演算部が算出したd軸電圧フィードフォワード指令値V
dff
*を加算する加算部、
を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記モータは三相の永久磁石同期モータであり、
該モータのq軸電流推定値をi
q(ハット)、q軸6次高調波磁束をk
6hq、電気角推定値をθ
re(ハット)、電機子鎖交磁束1次成分の振幅をφ
f、q軸巻線インダクタンスをL
q、電気角速度をω
reとしたとき、
【数19】
前記フィードフォワード指令値演算部は、上記式(4)を用いて電気角6次の前記d軸電圧フィードフォワード指令値V
dff
*を算出することを特徴とする請求項6に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記モータは三相の永久磁石同期モータであり、
前記モータを駆動するインバータ回路と、
前記q軸電圧指令値V
q
refから前記q軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*が減算された後のq軸電圧指令値V
q
*と、前記d軸電圧指令値V
d
refに前記d軸電圧フィードフォワード指令値V
dff
*が加算された後のd軸電圧指令値V
d
*を、三相変調電圧指令値に変換する相電圧指令演算部と、
前記三相変調電圧指令値に基づき、前記インバータ回路をPWM制御するPWM信号を生成するPWM信号生成部を備えたことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車等の電動車両の空調機で使用される圧縮機には、インバータ・モータを動力とする電動圧縮機が用いられるようになって来ている。車両で使用される電動圧縮機は小型化が必要とされるため、空間高調波の歪みの割合が増加する傾向にある。この空間高調波は、電磁ノイズの原因となる電流リプルや、トルクリプル、ラジアル方向の加振力による電磁騒音の原因となるため、フィルタや振動抑制部品が増加し、小型化の妨げとなる。
【0003】
一方で、一般的に電動圧縮機では機械的な制約上、エンコーダを取り付けることが困難なため、位置センサレスベクトル制御が用いられる。この位置センサレスベクトル制御では、制御構成上の問題で電流制御帯域を上げることが困難である。即ち、制御帯域に対して高周波な空間高調波歪を制御することが容易ではない。
【0004】
例えば、特許文献1では空間高調波の情報を用いてモータ電流のトルク指令値を高周波で変動させることでトルクリプルを抑制していた。また、特許文献2では検出したモータ電流の高調波成分とそれらの指令値との差を算出し、フィードバック制御することで高調波電圧指令値を出力し、これを三相の電圧指令値に加算することで、モータのトルクリプルを低減しようとしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5262267号公報
【文献】特許第4019842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では電流制御系をモータの回転数に対して十分高い帯域にする必要があり、電動圧縮機のように高い回転数で駆動するものでは、電流制御系の帯域が高くなり過ぎる。特許文献2ではそれを考慮して、高調波特性のみの応答性を高めたフィードバック制御を行っているが、検出した実電流の位相特性をそのままでPI制御していた。
【0007】
しかしながら、実際には制御対象である電流と電圧とでは位相差があるため、その位相差を考慮して電圧制御を行う必要がある。そのため、特許文献2ではPI-dhqh電流制御器が不安定な動作をしないようにフィードバック制御の帯域を低くし、時間をかけて結果を収束させることになる。即ち、応答性を遅くする必要があり、その結果、トルクリプル等の低減制御の効果が出るまでに時間を要し、場合によっては収束しないという問題もあった。
【0008】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するためになされたものであり、直接電圧制御を行うことで、追従性の高いトルクリプル抑制制御を可能としたモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のモータ制御装置は、モータのd軸電流指令値id
*と、q軸電流指令値iq
*から、d軸電圧指令値Vd
refと、q軸電圧指令値Vq
refを算出する電圧指令演算部と、空間高調波のパラメータとモータ巻線の周波数特性に基づき、q軸電流リプルを発生させるためのq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を算出するフィードフォワード指令値演算部と、電圧指令演算部が算出したq軸電圧指令値Vq
refから、フィードフォワード指令値演算部が算出したq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を減算する減算部とを備え、空間高調波に起因するトルクリプルを補償することを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明のモータ制御装置は、上記発明においてモータは三相の永久磁石同期モータであり、フィードフォワード指令値演算部は、電気角6n次(nは正の整数)のq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を算出することを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明のモータ制御装置は、上記各発明においてフィードフォワード指令値演算部は、電気角推定値に対してモータのインピーダンスに基づく位相を進めた空間高調波値からq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を算出することを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明のモータ制御装置は、上記各発明においてフィードフォワード指令値演算部は、空間高調波にモータのインピーダンスに基づくゲインを乗ずることでq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を算出することを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明のモータ制御装置は上記各発明においてモータは三相の永久磁石同期モータであり、このモータのq軸電流推定値をi
q(ハット)、q軸6次高調波磁束をk
6hq、電気角推定値をθ
re(ハット)、電機子鎖交磁束1次成分の振幅をφ
f、巻線抵抗をR、q軸巻線インダクタンスをL
q、電気角速度をω
reとしたとき、
【数1】
フィードフォワード指令値演算部は、上記式(3)を用いて電気角6次のq軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*を算出することを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明のモータ制御装置は、上記各発明においてフィードフォワード指令値演算部は、q軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*により生じるq軸電流リプルが、d軸に干渉する干渉項であるd軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*を更に算出すると共に、電圧指令演算部が算出したd軸電圧指令値Vd
refに、フィードフォワード指令値演算部が算出したd軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*を加算する加算部を更に備えていることを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明のモータ制御装置は、上記発明においてモータは三相の永久磁石同期モータであり、このモータのq軸電流推定値をi
q(ハット)、q軸6次高調波磁束をk
6hq、電気角推定値をθ
re(ハット)、電機子鎖交磁束1次成分の振幅をφ
f、q軸巻線インダクタンスをL
q、電気角速度をω
reとしたとき、
【数2】
フィードフォワード指令値演算部は、上記式(4)を用いて電気角6次のd軸電圧フィードフォワード指令値V
dff
*を算出することを特徴とする。
【0016】
請求項8の発明のモータ制御装置は、請求項6又は請求項7の発明においてモータは三相の永久磁石同期モータであり、モータを駆動するインバータ回路と、q軸電圧指令値Vq
refからq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*が減算された後のq軸電圧指令値Vq
*と、d軸電圧指令値Vd
refにd軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*が加算された後のd軸電圧指令値Vd
*を、三相変調電圧指令値に変換する相電圧指令演算部と、三相変調電圧指令値に基づき、インバータ回路をPWM制御するPWM信号を生成するPWM信号生成部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のモータ制御装置は、モータのd軸電流指令値id
*と、q軸電流指令値iq
*から、d軸電圧指令値Vd
refと、q軸電圧指令値Vq
refを算出する電圧指令演算部と、空間高調波のパラメータとモータ巻線の周波数特性に基づき、q軸電流リプルを発生させるためのq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を算出するフィードフォワード指令値演算部と、電圧指令演算部が算出したq軸電圧指令値Vq
refから、フィードフォワード指令値演算部が算出したq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を減算する減算部とを備え、空間高調波に起因するトルクリプルを補償するようにした。
【0018】
上記フィードフォワード指令値演算部が算出するq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*は、空間高調波によるトルクリプルを発生させるための電圧指令値であり、本発明では、これが減算部においてq軸電圧指令値Vq
refから直接減算されることになる。即ち、本発明によれば、係る電圧フィードフォワード制御により、電流制御帯域による制限を受けること無く、トルクリプルを打ち消し、或いは、抑制することが可能となる。これにより、空間高調波による電磁エネルギーの振動を解消、若しくは、抑制することができるようになるので、電磁ノイズや電磁騒音を低減することが可能となる。
【0019】
特に、モータが三相の永久磁石同期モータであるとき、空間高調波は6の倍数である電気角6n次で励起される。そこで、請求項2の発明の如くフィードフォワード指令値演算部が、電気角6n次(nは正の整数)のq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を算出するようにすれば、効果的にトルクリプルの低減を図ることが可能となる。
【0020】
ここで、電流は電圧に対してモータのインピーダンスに基づいて位相が遅れる。この遅れ位相はモータの駆動条件によって変化し、周波数によってモータインピーダンスの遅れ位相が異なるため、周波数毎に遅れる位相を可変する必要がある。そこで、請求項3の発明の如くフィードフォワード指令値演算部が、電気角推定値に対してモータのインピーダンスに基づく位相を進めた空間高調波値からq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を算出するようにすれば、電圧次元での補償を支障なく行うことができるようになる。
【0021】
また、空間高調波の周波数はモータの駆動条件によって変化し、遅れ位相同様に周波数によって減衰係数が異なるため、周波数毎にq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*の振幅を可変する必要がある。そこで、請求項4の発明の如くフィードフォワード指令値演算部が、空間高調波にモータのインピーダンスに基づくゲインを乗ずることで、q軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を算出するようにすれば、モータの駆動条件に応じて適切に空間高調波のトルクリプルの補償を行うことができるようになる。
【0022】
ここで、モータが三相の永久磁石同期モータであるとき、電気角6次の空間高調波トルクリプルの主成分となる。そこで、例えば、請求項5の発明の如く、フィードフォワード指令値演算部が、前記式(3)を用いて電気角6次のq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を算出するようにすれば、トルクリプルを効果的に低減することができるようになる。
【0023】
更に、モータにはdq軸間で干渉しあう速度起電力と呼ばれる現象が存在する。上記発明の如くq軸電圧指令値Vq
refからq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を減算し、q軸電流リプルを発生させると、このq軸電流リプルがd軸に干渉し、d軸電流にリプルが励起されてリラクタンストルクにリプルが励起されてしまう。
【0024】
そこで、請求項6の発明の如くフィードフォワード指令値演算部が、q軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*により生じるq軸電流リプルが、d軸に干渉する干渉項であるd軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*を更に算出するようにし、電圧指令演算部が算出したd軸電圧指令値Vd
refに、フィードフォワード指令値演算部が算出したd軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*を加算する加算部を更に設けることで、q軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を減算することによるリラクタンストルクの励起を抑制することができるようになる。
【0025】
具体的には、請求項7の発明の如く、フィードフォワード指令値演算部が、前記式(4)を用いて電気角6次のd軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*を算出することで、電気角6次のq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を減算することによるリラクタンストルクの励起を効果的に抑制することができるようになる。
【0026】
尚、実際には請求項8の発明の如く上記各発明に、三相の永久磁石同期モータを駆動するインバータ回路と、q軸電圧指令値Vq
refからq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*が減算された後のq軸電圧指令値Vq
*と、d軸電圧指令値Vd
refにd軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*が加算された後のd軸電圧指令値Vd
*を、三相変調電圧指令値に変換する相電圧指令演算部と、三相変調電圧指令値に基づき、インバータ回路をPWM制御するPWM信号を生成するPWM信号生成部を更に設けることでモータ制御装置を構成する。それにより、電磁ノイズや電磁騒音が極めて効果的に低減されたモータ制御装置を提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明を適用した実施例のモータ制御装置のシステム構成図である。
【
図2】
図1のモータの回転子磁束波形を示す図である。
【
図4】実施例のモータ制御装置によるdq軸電流とモータトルクを示す図である。
【
図5】本発明を実施しない従来法の場合のdq軸電流とモータトルク、リラクタンストルクを示す図である。
【
図6】実施例におけるq軸電圧フィードフォワード制御を実施したときのdq軸電流とモータトルク、リラクタンストルクを示す図である。
【
図7】実施例におけるq軸電圧フィードフォワード制御とd軸電圧フィードフォワード制御を実施したときのdq軸電流とモータトルク、リラクタンストルクを示す図である。
【
図8】
図7の場合のモータトルクのFFT解析結果を示す図である。
【
図9】
図5乃至
図7の場合のトルクリプルを比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【0029】
(1)モータ制御装置1
図1は、本発明の一実施例のモータ制御装置1のシステム構成図である。この実施例のモータ制御装置1は、インバータ回路2と、制御部3を備え、車載用バッテリ等の直流電源4から供給された直流電力を所定の周波数の交流電力に変換し、モータ6に供給する構成とされている。実施例のモータ6は、電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両の空調装置に用いられる電動圧縮機を駆動する三相の永久磁石同期モータ(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)であり、制御部3が生成する電圧指令によって駆動される。
【0030】
(2)インバータ回路2
インバータ回路2は、入力ノードが直流電源4に接続され、直流電源4の出力をスイッチングして三相交流電圧に変換し、モータ(IPMSM)6に供給するように構成されている。実施例のインバータ回路2は、複数(6個)のスイッチング素子がブリッジ結線されることで構成されている。
【0031】
(3)制御部3
制御部3はモータ6の機械角速度推定値ωrm(ハット)と機械角速度指令値ωrm
*との偏差に基づき、d軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*を生成し、これらd軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*から最終的にインバータ回路2の各スイッチング素子をスイッチングするためのPWM信号を生成し、モータ6を位置センサレスベクトル制御にて駆動するものである。
【0032】
実施例の制御部3は、減算部7~10と、加算部11と、速度制御器12と、電流制御器13と、非干渉制御器14と、相電圧指令演算部16と、PWM信号生成部17と、uvw-dq変換器18と、電気角速度推定器19と、積分器21と、電気角-機械角変換器22と、本発明の要旨となるフィードフォワード指令値演算部23から構成されている。
【0033】
実施例のuvw-dq変換器18には、モータ6のU相電流iuとW相電流iwが入力され、これらからV相電流ivを算出する。uvw-dq変換器18には更に積分器21が出力する電気角推定値θre(ハット)が入力され、U相電流iu、V相電流iv、W相電流iwと、電気角推定値θre(ハット)からd軸電流推定値id(ハット)と、q軸電流推定値iq(ハット)を導出する。
【0034】
電気角速度推定器19はuvw-dq変換器18が出力するd軸電流推定値id(ハット)、q軸電流推定値iq(ハット)と、非干渉制御器14が出力するd軸電圧指令値Vd
refとq軸電圧指令値Vq
refから電気角速度推定値ωre(ハット)を導出し、出力する。積分器21にはこの電気角速度推定値ωre(ハット)が入力され、積分器21は電気角速度推定値ωre(ハット)から電気角推定値θre(ハット)を生成して出力する。
【0035】
電気角速度推定器19が出力する電気角速度推定値ωre(ハット)は、更に電気角-機械角変換器22に入力され、電気角-機械角変換器22はこの電気角速度推定値ωre(ハット)を、機械角速度推定値ωrm(ハット)に変換して出力する。この機械角速度推定値ωrm(ハット)は減算部7に入力される。この減算部7には更に機械角速度指令値ωrm
*が入力され、この減算部7において機械角速度指令値ωrm
*から機械角速度推定値ωrm(ハット)が減算されてそれらの偏差が算出される。
【0036】
減算部7で算出された偏差は速度制御器12に入力される。この速度制御器12はPI演算及びq軸電流とトルクの関係式によりq軸電流指令値iq
*を算出する。減算部9にはこの速度制御器12が算出したq軸電流指令値iq
*と、uvw-dq変換器18が算出したq軸電流推定値iq(ハット)が入力され、減算部9にてq軸電流指令値iq
*からq軸電流推定値iq(ハット)が減算されてそれらの偏差が算出される。
【0037】
一方、減算部8にはd軸電流指令値id
*と、uvw-dq変換器18が算出したd軸電流推定値id(ハット)が入力され、減算部8にてd軸電流指令値id
*からd軸電流推定値id(ハット)が減算されてそれらの偏差が算出される。
【0038】
ここで、前述した電流制御器13と非干渉制御器14は、本発明における電圧指令演算部15を構成する。この電圧指令演算部15は、各減算部8、9が出力する各偏差を用いて電流制御器13にてPI演算を行い、非干渉制御器14にてdq軸間の干渉を打ち消すことにより、d軸電圧指令値Vd
refとq軸電圧指令値Vq
refを生成して出力する。尚、非干渉制御器14はモータ6の発電電圧(干渉電圧)分を予め指令値に加算することで非干渉制御を実現する。この電圧指令演算部15では基本的に、d軸電流指令値id
*とd軸電流推定値id(ハット)との偏差、及び、q軸電流指令値iq
*とq軸電流推定値iq(ハット)との偏差をなくす方向のd軸電圧指令値Vd
refとq軸電圧指令値Vq
refが算出される。
【0039】
この電圧指令演算部15が算出したd軸電圧指令値Vd
refは加算部11に入力される。この加算部11には更にフィードフォワード指令値演算部23が出力するd軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*が入力され、この加算部11にてd軸電圧指令値Vd
refにd軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*が加算され、補償後のd軸電圧指令値Vd
*とされて出力される(Vd
*=Vd
ref+Vdff
*)。
【0040】
また、電圧指令演算部15が算出したq軸電圧指令値Vq
refは減算部10に入力される。この減算部10には更にフィードフォワード指令値演算部23が出力するq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*が入力され、この減算部10にてq軸電圧指令値Vq
refからq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*が減算され、補償後のq軸電圧指令値Vq
*とされて出力される(Vq
*=Vq
ref-Vqff
*)。尚、上記フィードフォワード指令値演算部23の動作については後に詳述する。
【0041】
相電圧指令演算部16にはこれら補償後のd軸電圧指令値Vd
*とq軸電圧指令値Vq
*が入力されると共に、積分器21が出力する電気角推定値θre(ハット)が入力される。そして、相電圧指令演算部16は、d軸電圧指令値Vd
*、q軸電圧指令値Vq
*を三相変調電圧指令値であるU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、W相電圧指令値Vwに変換する。PWM信号生成器17はこれらU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、W相電圧指令値Vwからインバータ回路2の各スイッチング素子をスイッチング(PWM制御)するためのPWM信号を生成する。これにより、モータ6の位置センサレスのベクトル制御を実現するものである。
【0042】
(4)フィードフォワード指令値演算部23の動作
次に、制御部3のフィードフォワード指令値演算部23の動作について説明する。本発明のモータ制御装置1は、位置センサレスベクトル制御にて高調波電磁歪みを抑制することにより、トルクリプルを低減する。そして、このトルクリプルを抑制するために、リプル成分と同じ周波数で逆位相のトルクリプルを励起するように動作する。
【0043】
(4-1)q軸電圧フィードフォワード制御
先ず、フィードフォワード指令値演算部23が実行するq軸電圧フィードフォワード制御について説明する。最初に、実施例のモータ(IPMSM)6のトルク式を式(1)に示す。
【数3】
但し、T
mはモータトルク[Nm]、Pは極対数、φ
fは電機子鎖交磁束1次成分の振幅[Wb]、k
hdはd軸高調波磁束[Wb]、k
hqはq軸高調波磁束[Wb]、i
dはd軸電流[A]、i
qはq軸電流[A]、L
dはd軸巻線インダクタンス[H]、L
qはq軸巻線インダクタンス[H]である。
【0044】
上記式(1)において、第一項はマグネットトルク、第二項はリラクタンストルク、第三項はq軸の電流と空間高調波に起因するトルクリプル、第四項はd軸の電流と空間高調波に起因するトルクリプルである。磁束の空間高調波k
hd、k
hqは式(2)で表される。尚、この式(2)は磁束の空間高調波成分を表す式であり、モータ(IPMSM)6における空間高調波は6の倍数次成分を持つため、式(2)では6次と12次を抽出して表している。
【数4】
但し、k
6hdはd軸6次高調波磁束[Wb]、k
6hqはq軸6次高調波磁束[Wb]、k
12hdはd軸12次高調波磁束[Wb]、k
12hqはq軸12次高調波磁束[Wb]、ψ
snはn次高調波の正弦成分[Wb]、ψ
cnはn次高調波の余弦成分[Wb]、θ
reは電気角[rad/s]である。
【0045】
磁束の空間高調波は電気角の関数であるため、モータトルクは電流と電気角の関数となる。回転子磁束の磁束波形を
図2に示す。
図2の上欄中の実線はU相、太破線はV相、細破線はW相の磁束波形を示し、下欄中の破線はd軸、実線はq軸の磁束波形である。
【0046】
空間高調波を含む回転子磁束は波形の点対称性により偶数次の高調波が励起されない。また、三相結線において3n次の高調波成分が存在しないことから、回転子磁束が持つ高調波成分は6nプラスマイナス1次成分となる。実験的にモータ(IPMSM)6は6プラスマイナス1次、12プラスマイナス1次の高調波成分を主成分として持つことが知られており、dq軸に座標変換すると、6プラスマイナス1次は6次に、12プラスマイナス1次は12次となる。
【0047】
そこで、実施例のフィードフォワード指令値演算部23は、トルクリプルの主成分となる6次のq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を後述する如く算出して出力する。ここで、前記式(1)、式(2)より、トルクリプルの周波数は電気角に依存し、振幅は電流に依存することが分かる。電流制御によりトルクリプルを補償する場合、電流制御帯域は電気角6次の周波数に十分追従できる帯域とする必要があるが、位置センサレスベクトル制御は位相推定を含むため、電流制御帯域を上げることは困難である。
【0048】
この課題を解決するために、フィードフォワード指令値演算部23は、空間高調波によるトルクリプルを打ち消す電圧指令値を演算し、直接出力することで、位置センサレスベクトル制御時のトルクリプル補償を行う。この場合、実施例のフィードフォワード指令値演算部23は、式(3)を用いてq軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*を算出する。そして、このq軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*を、減算部10によりq軸電圧指令値V
q
refから減算する。これがq軸電圧フィードフォワード制御である。
【数5】
但し、i
q(ハット)はq軸電流推定値、k
6hqはq軸6次高調波磁束、θ
re(ハット)は電気角推定値、φ
fは電機子鎖交磁束1次成分の振幅、Rは巻線抵抗、L
qはq軸巻線インダクタンス、ω
reは電気角速度である。
【0049】
即ち、上記式(3)より、q軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*は、空間高調波のパラメータと、モータ巻線の周波数特性に基づいて算出されることが分かる。そして、このq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*は、6次のq軸電流リプルを発生させる値である。
【0050】
電流制御でトルクリプルを補償する場合、トルクは電流の関数であるため、トルクリプルの位相と電流に重畳するリプルの位相は同位相である。一方で、電圧次元でトルクリプルを補償する場合、固定子巻線はLR回路と等価であるため、モータ印加電圧に対してモータ電流は位相遅れを持ち、高調波に対して減衰特性を持つ。
【0051】
そのため、本発明の如き電圧次元での補償では、LR回路での位相遅れと振幅の減衰を考慮する必要がある。LRの1次遅れ回路において、電圧に対して電流は位相遅れをもつため、式(2)の空間高調波の電気角推定値に対してモータ6のインピーダンスに基づく位相を進めた空間高調波値をq軸電圧フィードフォワード制御に用いており、式(3)中のk6hqとそれに続く括弧内がこの空間高調波値に相当し、tan-1項がモータ6のインピーダンスに基づいて進める位相に相当する。ここで、中高速域においてtan-1項はπ/2に近似することができるので、実施例では式(3)中のtan-1項をπ/2と見なす。
【0052】
また、電気角6次の周波数はモータ6の駆動条件によって変化する。そして、周波数によって減衰係数が異なるため、周波数毎にq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*の振幅を可変する必要がある。実施例では、固定子がLR回路と等価であることから、LRの一次遅れ系のゲイン特性を考慮し、モータ6のインピーダンスに基づくゲインを乗じている。式(3)中の平方根の項がこのゲインに相当するもので、減衰する振幅分だけ振幅を増幅する。
【0053】
以上説明したq軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*の意義を、数式を用いて以下に詳しく説明する。前記式(3)においてq軸6次高調波磁束k
6hqは電気角θ
reの関数である。前記式(1)にてd軸電流は定常的に0Aで制御を行うため、d軸の電流と磁束高調波によるトルクリプルは考慮しない。また、磁束高調波は電気角6次の成分が主成分であるため、12次成分を無視すると、式(1)は下記式(3A)のようになる。
【数6】
【0054】
ここで、リプルを含まないモータトルクをT
mDCとすると共に、モータトルクのリプル成分をT
mripとすると、それらは下記式(3B)で表現することができる。
【数7】
【0055】
式(3B)のトルクリプルを0に制御するq軸電流成分i
qripをi
qから減算することを考慮すると、式(3B)は下記式(3C)のようになる。
【数8】
【0056】
ここで、リプルを含まないモータトルクT
mDCは、Pφ
fiqにより制御されるため、二つは等しいとする。また、トルクリプルを0にするため、T
mrip=0とすると、i
qrip
*は下記式(3D)のようになる。
【数9】
【0057】
ここで、φ
f>>k
6hq(6θ
re)であるため、式(3D)は下記式(3E)のようにすることができる。
【数10】
【0058】
式(3E)をq軸電流指令値より減算することで空間高調波に起因する電気角6次のトルクリプルを抑制することができる。しかしながら、q軸電流指令で与える場合は、トルクリプルの周波数に追従する高速な電流制御器が必要となる。位置センサレスベクトル制御系では電流制御器の帯域が制限されるため、高速な電流制御器を構成することは困難である。そのため、電圧次元でトルクリプルを抑制するために、iqrip
*を電圧指令値に変換する必要がある。
【0059】
この場合、モータ巻線はLR回路で表されるため、電圧と電流には周波数毎に位相特性とゲイン特性を持つ。電圧次元で補償するためには、モータ巻線の位相特性とゲイン特性を考慮して、電圧補償値を算出する必要がある。モータ巻線の位相特性を下記式(3F)に示す。
【数11】
【0060】
また、モータ巻線のゲイン特性を下記式3G)に示す。
【数12】
【0061】
上記式(3F)と式(3G)を考慮して、位相遅れ分だけ進み位相補償を施し、減衰する振幅分だけ振幅を増幅することで、所望の電流に応答するq軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*を得ることができる。q軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*を下記式(3H)に示す。
【数13】
【0062】
式(3H)を位置センサレスベクトル制御で適用する場合は、q軸電流と電気角は推定値となる。また、電気角速度については速度制御器が安定に動作し、定常状態である場合において、推定値ではなく速度指令値を用いることも可能であるので、式(3H)は前記式(3)となる。
【0063】
また、中高速域においては式(3)中のtan
-1と平方根の項は、それぞれπ/2と6ω
reL
qに近似することも可能であるので、式(3)は下記式(3I)で表すこともできる。
【数14】
【0064】
このようにしてフィードフォワード指令値演算部23にて算出されたq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*は、前述した如く減算部10においてq軸電圧指令値Vq
refから減算され、補償後のq軸電圧指令値Vq
*とされて出力される。これにより、空間高調波に起因する電気角6次のトルクリプルと逆位相のトルクリプルがマグネットトルクとして出力され、トルクリプルが打ち消されることになる。
【0065】
(4-2)d軸電圧フィードフォワード制御
他方、モータ(IPMSM)6にはdq軸間で干渉しあう速度起電力と呼ばれる現象が存在し、それぞれの軸に流れる電流が他方の軸に外乱成分として現れる。
図1の非干渉制御器14は、それぞれの軸の電流を独立に制御するために、前述した如く干渉電圧分を打ち消すように電圧指令値を予め加算する非干渉制御を行うものであるが、前述した如きq軸電圧フィードフォワード制御によりq軸電圧にフィードフォワード電圧を印加し、q軸電流リプルを発生させると、このq軸電流のリプルがd軸に干渉することによってd軸電流にリプルを励起し、リラクタンストルクにリプルを励起することになる。
【0066】
実施例のフィードフォワード指令値演算部23は、これを抑制、若しくは、解消するために、以下に説明するd軸電圧フィードフォワード制御を行い、d軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*を算出して出力し、加算器11によりd軸電圧指令値Vd
refに加算する。ここで、q軸電流リプルはd軸に対して電圧次元で干渉するため、q軸電流リプルによって発生するd軸電流リプルの位相は、q軸電流に対してπ/2位相が遅れる。そのため、d軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*の位相は、q軸電流のリプル位相と同位相となる。
【0067】
実施例のフィードフォワード指令値演算部23は、式(4)を用いてd軸電圧フィードフォワード指令値V
dff
*を算出する。
【数15】
但し、i
q(ハット)はq軸電流推定値、k
6hqはq軸6次高調波磁束、θ
re(ハット)は電気角推定値、φ
fは電機子鎖交磁束1次成分の振幅、L
qはq軸巻線インダクタンス、ω
reは電気角速度である。センサレスベクトル制御では、q軸電流と電気角は推定値となる。電気角速度については、速度制御が安定して動作し、定常状態である場合においては、推定値ではなく、速度指令値を用いることも可能である。
【0068】
即ち、上記式(4)より、d軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*は、q軸電圧フィードフォワード制御により生じるq軸電流リプルが、d軸に干渉する干渉項であり、q軸電流に重畳される電流から導出されることが分かる。干渉項は電圧次元であるため、q軸電圧フィードフォワード制御の場合の如く位相を進める処理を行う必要は無い。
【0069】
以上説明したd軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*の意義を、数式を用いて以下に詳しく説明する。前記式(3)によってq軸電流に一定のリプル成分を流した場合、前述した軸間干渉によってd軸に干渉電圧としてリプル成分が現れる。干渉電圧として現れるリプル成分は、d軸電流にリプルを励起する。このリプル成分はリラクタンストルクにも現れる。即ち、q軸電圧フィードフォワード制御によってリラクタンストルクとして意図しないリプルを励起していることになる。
【0070】
リラクタンストルクのリプルを抑制するためにq軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*について、非干渉制御器14と同様の非干渉化を行う必要がある。q軸電流のd軸に対する干渉電圧E
dは下記式(4A)で表される。
【数16】
【0071】
式(3)のq軸電圧フィードフォワード指令値V
qff
*は、q軸電圧指令値V
q
refから減算されて補償後のq軸電圧指令値V
q
*として出力されるため、q軸電圧フィードフォワード制御によってq軸に流れる電流は、式(3E)を符号反転したものとなる。そのため、干渉電圧E
dは下記式(4B)で表される。
【数17】
【0072】
式(4B)で表される干渉電圧分を予めd軸電圧指令値Vd
refに加算し、補償後のd軸電圧指令値Vd
*とすることで、q軸電圧フィードフォワード制御とd軸の非干渉化を行う。位置センサレスベクトル制御では、q軸電流と電気角は推定値となる。また、電気角速度については速度制御器が安定に動作し、定常状態である場合において、推定値ではなく速度指令値を用いることも可能であるので、式(4B)は前記式(4)となる。
【0073】
このようにして、フィードフォワード指令値演算部23にて算出されたd軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*は、前述した如く加算部11においてd軸電圧指令値Vd
refに加算され、補償後のd軸電圧指令値Vd
*として出力される。これにより、q軸電圧フィードフォワード制御によるリラクタンストルクの励起が抑制、若しくは、解消されることになる。
【0074】
(4-3)q軸電圧フィードフォワード制御とd軸電圧フィードフォワード制御による効果
以上説明したq軸フィードフォワード制御とd軸フィードフォワード制御による効果を実証するためにシミュレーション実験を行った。この場合の駆動条件を
図3に示す。回転速度が指令値の3000rpmに追従しているとき、機械角周波数50Hzとなり、電気角周波数では200Hzとなる。このとき、トルクリプルの周波数は電気角6次の1200Hz(7540rad/s)となり、
図3に示す電流制御帯域では制御できない周波数となる。
【0075】
シミュレーション実験結果を
図4~
図7に示し、従来法と本発明におけるモータトルクのFFT解析結果を
図8に示す。また、
図9にはトルクリプルの改善効果を示す。
図4の最上段はd軸電流指令値i
d
*、上から二段目はd軸電流i
d、上から三段目はq軸電流指令値i
q
*、上から四段目はq軸電流i
q、最下段はモータ出力トルクをそれぞれ示している(回転速度3000rpm時)。
【0076】
図5は従来法による結果を示しており、最上段はd軸電流指令値i
d
*とd軸電流i
d、上から二段目はq軸電流指令値i
q
*とq軸電流i
q、上から三段目はモータ出力トルク、最下段はリラクタンストルクをそれぞれ示している。
【0077】
また、
図6はq軸電圧フィードフォワード制御のみを実施した場合の結果を示しており、同じく最上段はd軸電流指令値i
d
*とd軸電流i
d、上から二段目はq軸電流指令値i
q
*とq軸電流i
q、上から三段目はモータ出力トルク、最下段はリラクタンストルクをそれぞれ示している。
【0078】
更に、
図7はq軸電圧フィードフォワード制御とd軸電圧フィードフォワード制御の双方を実施した場合の結果を示しており、同じく最上段はd軸電流指令値i
d
*とd軸電流i
d、上から二段目はq軸電流指令値i
q
*とq軸電流i
q、上から三段目はモータ出力トルク、最下段はリラクタンストルクをそれぞれ示している。
【0079】
また、
図8中の破線は従来法によるモータトルク、細実線はq軸電圧フィードフォワード制御のみによるモータトルク、太実線はq軸電圧フィードフォワード制御とd軸電圧フィードフォワード制御の双方を実施した場合のモータトルクのFFT解析結果をそれぞれ示している。
【0080】
図4の0.6sよりq軸電圧フィードフォワード制御(V
qFeedFowardで示す)を開始し、0.8sよりd軸電圧フィードフォワード制御(V
dFeedFowardで示す)を開始した。実験結果によれば、q軸電圧フィードフォワード制御によって、q軸に電気角6次のリプル電流を流すことで、モータ出力トルクのリプルが76.3%低減していることが確認できた(
図9)。
【0081】
一方、q軸電圧フィードフォワード制御を行うことによって、d軸の干渉電圧にq軸に流したリプル成分が現れ、d軸電流リプルを励起している。d軸電流のリプルの位相は、q軸電流リプルの位相よりπ/2遅れるため、リラクタンストルクとして励起されるトルクリプルは、マグネットトルクリプルの位相よりπ/2遅れ、q軸電圧フィードフォワードによるトルクリプル抑制効果を減少させる。q軸電圧フィードフォワード制御による電圧干渉を抑制するために、d軸電圧に対してリプル成分を打ち消すようにd軸電圧フィードフォワード制御を行った(0.8sより)。
【0082】
このd軸電圧フィードフォワード制御により、q軸電圧フィードフォワード制御によって増幅したリプル成分が抑制されることが実験により確認できた。また、軸干渉によるリラクタンストルクのリプルが低減したことによって、モータトルクのリプルについても低減していることが確認できた。更に、d軸電圧フィードフォワード制御を行うことによって、q軸電圧フィードフォワード制御のみを行ったときよりも電気角6次のトルクリプルが低減しており、従来法に比して83.1%低減していることも確認できた(
図9)。尚、電気角12次(2400Hz)のリプル成分については、抑制制御の対象としていないため制御による変化はない。
【0083】
以上詳述した如く、位置センサレスベクトル制御にて駆動するモータ(IPMSM)に適用可能なq軸電圧フィードフォワード制御、d軸電圧フィードフォワード制御を実施することにより、空間高調波による電磁エネルギーの振動を抑制することができるようになったため、電磁ノイズや電磁騒音の低減を図ることができた。
【0084】
尚、実施例ではフィードフォワード指令値演算部23が式(3)を用いてq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を算出し、減算部10にてq軸電圧指令値Vq
refから減算するようにしたが、式(3)にて算出されたq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を逆位相とする手段を設け、或いは、フィードフォワード指令値演算部23が式(3)の算出値を逆位相とし、減算部10の代わりに加算部を設けて、この逆位相とされた値をq軸電圧指令値Vq
refに加算することで、q軸電圧指令値Vq
refからq軸電圧フィードフォワード指令値Vqff
*を減算するようにしてもよい。
【0085】
その場合には、上記逆位相とする手段と上記加算部、或いは、フィードフォワード指令値演算部23の機能の一部と、上記加算部が本発明における減算部を構成することになる。d軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*をd軸電圧指令値Vd
refに加算する制御に関するフィードフォワード指令値演算部23と加算部11との関係においても同様であることは云うまでもない(加算部11の代わりにd軸電圧フィードフォワード指令値Vdff
*を逆位相とする手段と減算部を設ける)。
【0086】
また、実施例では電気角6次の空間高調波についてq軸電圧フィードフォワード制御とd軸電圧フィードフォワード制御を実施したが、それに限らず(請求項5、請求項7の発明以外の発明)、或いは、それに加えて電気角12次の空間高調波等、6の倍数次の空間高調波に実施してもよい。複数の空間高調波に対して実施すれば更に良好な効果が期待できる。
【符号の説明】
【0087】
1 モータ制御装置
2 インバータ回路
3 制御部
4 直流電源
6 モータ(IPMSM)
10 減算部
11 加算部
15 電圧指令演算部
16 相電圧指令演算部
17 PWM信号生成部
23 フィードフォワード指令値演算部