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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】電力変換装置の制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/32 20060101AFI20231030BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20231030BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
H02J3/32
H02M7/48 R
H02M7/48 M
H02J3/38 110
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020037345
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021141704
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
(72)【発明者】
【氏名】前田 直人
(72)【発明者】
【氏名】高見 潤
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 良太
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】辻 弘兵
(72)【発明者】
【氏名】東海林 和
(72)【発明者】
【氏名】井上 稔也
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-080476(JP,A)
【文献】特開2014-168351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/32
H02M 7/48
H02J 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期発電機を模擬した仮想同期発電機制御が行われ、直流電源の直流電力を交流電力に変換する電力変換器を有し、前記電力変換器の出力がLCフィルタを介して電力系統と連系される電力変換装置において、
前記電力変換器の出力電流を検出した出力電流検出値Iacと電力変換装置の内部誘起電圧Efとを入力とし、電力変換器の出力電流で生じる仮想同期インピーダンスによる電圧降下から出力電圧指令値Vac*を演算する仮想同期インピーダンス補償部と、
前記仮想同期発電機制御を行うための同期発電機を模擬した角周波数ωrを演算する角周波数ωr演算部を有した仮想同期発電機モデルと、
前記電力変換装置の出力電圧を検出した出力電圧検出値Vacを入力とし、電力変換装置の出力電圧の復帰時に、前記仮想同期発電機モデルの角周波数の初期化を行う機能を有したPLL(Phase Locked Loop)部と、
前記出力電流検出値Iacのフィードフォワード項を備えて電流指令値を出力するPI制御型の電圧制御系と、該電圧制御系のインナーループに構成され、出力電圧指令値Vac*又は出力電圧検出値Vacのフィードフォワード項を備えたP制御型の電流制御系とを有し、前記出力電圧検出値Vacが出力電圧指令値Vac*と一致するように制御するための出力電圧制御指令Vcmdを出力する出力電圧制御部とを備え、
前記出力電圧制御部は、
前記出力電流検出値Iacが閾値を超える過電流となっていない通常動作時は、前記電流制御系のフィードフォワード項として前記仮想同期インピーダンス補償部で演算された出力電圧指令値Vac*を選択し、前記仮想同期発電機モデルに従った電圧制御系および電流制御系として動作させ、
電力変換装置の出力電圧が低下して前記出力電流検出値Iacが閾値を超える過電流となったときは、前記仮想同期発電機モデルの出力角周波数を前記PLL部の出力角周波数ωpllに切換え、前記電流制御系のフィードフォワード項として出力電圧検出値Vacを選択し、電流制御系として動作させることによって過電流抑制を行い、
前記電力変換装置の出力電圧の復帰時は、前記PLL部の初期化機能により、出力電圧検出値VacとPLL部の出力との位相差が閾値未満となった時点で前記仮想同期発電機モデルの出力角周波数を前記角周波数ωr演算部の出力に切り換え、前記電流制御系のフィードフォワード項として前記出力電圧指令値Vac*を選択し、前記仮想同期発電機モデルに従った電圧制御系および電流制御系として動作させることを特徴とする電力変換装置の制御システム。
【請求項2】
前記出力電流検出値Iacおよび出力電圧検出値Vacに基いて、出力電流検出値Iacが閾値を超える過電流となっているか否かを判定する過電流抑制動作判定部と、
前記出力電流検出値Iacおよび前記内部誘起電圧Efに基いて前記仮想同期発電機モデルの電気出力Peを演算する電力演算部と、を備え、
前記出力電圧制御部は、前記電圧制御系の電流指令値に対してdq絶対値の制限を行うdq絶対値リミッタ部と、前記dq絶対値リミッタ部の超過分の制御量を前記電圧制御系の積分項から減算するアンチワインドアップ部とを有し、前記過電流抑制動作判定部の判定結果に基づいて前記電流制御系のフィードフォワード項を選択し、
前記仮想同期発電機モデルは、前記電流抑制動作判定部の判定結果に基づいて出力角周波数を切り換えるセレクタを有し、
前記仮想同期発電機モデルの角周波数ωr演算部は、出力指令Prefと前記電力演算部で演算された電気出力Peの差分を角周波数ωrで除して入力トルクを求め、該入力トルクより制動トルクを減じた後積分定数Mで除してから積分を行う回路に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置の制御システムに関し、仮想同期発電機制御を適用した電圧制御および電流制御を有するPCS(Power Conditioning Subsystem;電力変換装置)における過電流抑制技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧制御型の仮想同期発電機制御を適用した電力変換器は、系統擾乱や過負荷時に変換器過電流で停止する恐れがあり、これを抑制し運転継続するための制御手法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】「変換器過電流を抑制可能な仮想同期発電機制御」、菊間俊明(電力中央研究所)、平成30年 電気学会 電力・エネルギー部門大会、2018-09-12
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-336898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
仮想同期発電機制御には大別して電圧制御型と電流制御型があり、電流制御型の場合には電流指令値を制限して任意の電流に制御する方法が存在する。一方、電圧制御型では電流値を直接制御することができない。そこで、電圧指令値と系統電圧のベクトルが離れないように電圧指令値を補正する方法が、例えば非特許文献1に提案されている。
【0006】
しかし、この方法では電流を任意の値に制御することはできないため、系統インピーダンス等の条件次第では過電流となる可能性がある。
【0007】
一方、系統連系電力変換器の中には、例えば特許文献1のように系統の状態に応じて電圧制御と電流制御を切り替える方式が存在する。特許文献1によれば、系統連系時(通常時)に電流制御を実施することで安定した電流を出力し、系統解列時には電圧制御に切り替えることで安定した電圧を出力できる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、通常動作時は電圧制御型の仮想同期発電機制御を行い、出力過電流発生時には電流制御により過電流を抑制することができる電力変換装置の制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための請求項1に記載の電力変換装置の制御システムは、
同期発電機を模擬した仮想同期発電機制御が行われ、直流電源の直流電力を交流電力に変換する電力変換器を有し、前記電力変換器の出力がLCフィルタを介して電力系統と連系される電力変換装置において、
前記電力変換器の出力電流を検出した出力電流検出値Iacと電力変換装置の内部誘起電圧Efとを入力とし、電力変換器の出力電流で生じる仮想同期インピーダンスによる電圧降下から出力電圧指令値Vac*を演算する仮想同期インピーダンス補償部と、
前記仮想同期発電機制御を行うための同期発電機を模擬した角周波数ωrを演算する角周波数ωr演算部を有した仮想同期発電機モデルと、
前記電力変換装置の出力電圧を検出した出力電圧検出値Vacを入力とし、電力変換装置の出力電圧の復帰時に、前記仮想同期発電機モデルの角周波数の初期化を行う機能を有したPLL(Phase Locked Loop)部と、
前記出力電流検出値Iacのフィードフォワード項を備えて電流指令値を出力するPI制御型の電圧制御系と、該電圧制御系のインナーループに構成され、出力電圧指令値Vac*又は出力電圧検出値Vacのフィードフォワード項を備えたP制御型の電流制御系とを有し、前記出力電圧検出値Vacが出力電圧指令値Vac*と一致するように制御するための出力電圧制御指令Vcmdを出力する出力電圧制御部とを備え、
前記出力電圧制御部は、
前記出力電流検出値Iacが閾値を超える過電流となっていない通常動作時は、前記電流制御系のフィードフォワード項として前記仮想同期インピーダンス補償部で演算された出力電圧指令値Vac*を選択し、前記仮想同期発電機モデルに従った電圧制御系および電流制御系として動作させ、
電力変換装置の出力電圧が低下して前記出力電流検出値Iacが閾値を超える過電流となったときは、前記仮想同期発電機モデルの出力角周波数を前記PLL部の出力角周波数ωpllに切換え、前記電流制御系のフィードフォワード項として出力電圧検出値Vacを選択し、電流制御系として動作させることによって過電流抑制を行い、
前記電力変換装置の出力電圧の復帰時は、前記PLL部の初期化機能により、出力電圧検出値VacとPLL部の出力との位相差が閾値未満となった時点で前記仮想同期発電機モデルの出力角周波数を前記角周波数ωr演算部の出力に切り換え、前記電流制御系のフィードフォワード項として前記出力電圧指令値Vac*を選択し、前記仮想同期発電機モデルに従った電圧制御系および電流制御系として動作させることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の電力変換装置の制御システムは、請求項1において、
前記出力電流検出値Iacおよび出力電圧検出値Vacに基いて、出力電流検出値Iacが閾値を超える過電流となっているか否かを判定する過電流抑制動作判定部と、
前記出力電流検出値Iacおよび前記内部誘起電圧Efに基いて前記仮想同期発電機モデルの電気出力Peを演算する電力演算部と、を備え、
前記出力電圧制御部は、前記電圧制御系の電流指令値に対してdq絶対値の制限を行うdq絶対値リミッタ部と、前記dq絶対値リミッタ部の超過分の制御量を前記電圧制御系の積分項から減算するアンチワインドアップ部とを有し、前記過電流抑制動作判定部の判定結果に基づいて前記電流制御系のフィードフォワード項を選択し、
前記仮想同期発電機モデルは、前記電流抑制動作判定部の判定結果に基づいて出力角周波数を切り換えるセレクタを有し、
前記仮想同期発電機モデルの角周波数ωr演算部は、出力指令Prefと前記電力演算部で演算された電気出力Peの差分を角周波数ωrで除して入力トルクを求め、該入力トルクより制動トルクを減じた後積分定数Mで除してから積分を行う回路に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
(1)請求項1、2に記載の発明によれば、仮想同期発電機制御が行われ、電力系統と連系される電力変換装置において、通常動作時は電圧制御型の仮想同期発電機制御を行い、出力過電流発生時には電流制御により過電流を抑制することができる。また、過電流となる要因が解除された場合には、PLL部によって系統電圧に同期させてから電圧制御に移行することが可能であり、電力系統側との不要な位相差による系統擾乱や出力の変動を抑制することができる。
(2)請求項2に記載の発明によれば、前記電流指令値に対して制限を行うdq絶対値リミッタ部を設けたので、電流を一定の大きさに制限した状態で運転を継続することができる。また、アンチワインドアップ部を設けたので、電流制御中に電圧制御系の積分項の飽和を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態例における電力変換装置の制御システムの全体構成図。
図2】本発明の実施形態例におけるPCS出力電圧制御部の構成図。
図3】本発明の実施形態例による仮想同期発電機モデルの構成図。
図4】本発明の実施形態例における過電流抑制動作のタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。本実施形態例では、電圧制御型の仮想同期発電機制御において、電圧制御系のマイナーループに電流制御系を構成し、通常時は電圧制御によって仮想同期発電機制御を行い、系統擾乱や短絡などの過電流となる系統事故時には、電流制御系に切り替えて過電流を任意の電流値に抑制することで、電力変換器の運転継続を可能とした。
【0014】
図1は、本実施形態例における電力変換装置(PCS)の制御システムの全体構成を示している。図1において、1は例えば蓄電池を有した直流電源であり、2は、同期発電機を模擬した仮想同期発電機制御が行われ、直流電源1の直流電力を交流電力に変換する電力変換器である。
【0015】
電力変換器2は、例えばIGBTをブリッジ接続して構成され、後述のPWM部(19)で生成されたゲート信号Gateによってオン、オフ制御がなされる。
【0016】
電力変換器2の交流出力側は、リアクトルおよびコンデンサからなるLCフィルタ3とトランス4を介して電力系統5に接続(連系)されている。
【0017】
11は、LCフィルタ後のPCSの出力電流を変流器12で検出した出力電流検出値IacとPCSの内部誘起電圧Efを入力とし、電力変換器2の出力電流で生じる仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vzを模擬し、その模擬した電圧降下Vzに応じて、出力電圧指令値Vac*を算出する仮想同期インピーダンス補償(Zs補償)部である。
【0018】
13は、PCSの出力電圧(電力変換器2の出力電圧)を計器用変圧器14により検出した出力電圧検出値Vacと前記出力電流検出値Iacに基いて、出力電流検出値Iacが閾値を超える過電流となっているか否かを判定する過電流抑制動作判定部である。
【0019】
15は、前記出力電流検出値Iacおよび内部誘起電圧Efに基いて、仮想同期発電機モデル(VSG(Virtual Synchronous Generator)モデル)16の電気出力Peを演算する電力演算部である。
【0020】
17は、前記出力電圧検出値Vacを入力とし、角周波数ωpllを出力するPLL(Phse Locked Loop)部であり、過電流抑制動作から通常の電圧制御に復帰するときに仮想同期発電機モデル16の角周波数の初期化を行う機能を有している。
【0021】
仮想同期発電機モデル16は、仮想同期発電機制御を行うための同期発電機を模擬した角周波数ωrを演算する角周波数ωr演算部を有し、過電流抑制動作判定部13から出力される判定結果信号flg_LCMと、設定した出力電力指令値Prefと、電力演算部15で演算された電気出力Peとを入力とし、角周波数ωr又はωpllを出力する。
【0022】
18は、PI制御型の電圧制御系と、該電圧制御系のインナーループに構成された電流制御系を有し、前記出力電圧検出値Vacが、仮想同期インピーダンス補償部11で算出された出力電圧指令値Vac*と一致するように制御するための出力電圧制御指令Vcmdを生成するPCS出力電圧制御部(本発明の出力電圧制御部)である。
【0023】
19は、PCS出力電圧制御部18で生成された出力電圧制御指令VcmdとPWMキャリアによりPWM変調したゲート信号Gateを生成し、電力変換器2をPWM制御するPWM部である。同期PWMの場合は、仮想同期発電機モデル16で決定された角周波数ωrを逓倍した周波数のPWMキャリアを用いる。非同期PWMの場合は固定周波数のPWMキャリアを用いる。
【0024】
20はインバータ2の出力電流を検出する変流器である。前記PCS出力電圧制御部18は図2のように構成されている。
【0025】
図2において、21は、仮想同期インピーダンス補償部11で算出された出力電圧指令値Vac*と出力電圧検出値Vacとの偏差をとる減算器である。
【0026】
減算器21の偏差出力は、PI制御の比例項22において比例ゲインKpが乗算され、積分項23において積分ゲインKiが乗算される。
【0027】
24は、後述のdq絶対値リミッタ部25の超過分の制御量を電圧制御系(AVR)の積分項から減算する減算器である。減算器24の偏差出力はバッファ26に一時記憶され、バッファ26の出力は加算器27において積分項23の出力と加算される。
【0028】
加算器27の出力(電圧制御系の積分項)と、比例項22の出力(電圧制御系の比例項)と、電圧制御系のフィードフォワード項としての出力電流検出値Iacは、加算器28において加算される。
【0029】
加算器28からは電流指令値Iinv^*が出力される。dq絶対値リミッタ部25は、入力された電流指令値Iinv^*に対してdq絶対値の制限を行い出力電流指令値Iinv*を出力する。
【0030】
29は、dq絶対値リミッタ部25の入力と出力(Iinv^*とIinv*)の偏差(dq絶対値リミッタ部25の制御量に相当)をとる減算器である。
【0031】
減算器29の偏差出力にはゲイン乗算器30のフィードバックゲインKfbが乗算され、このゲイン乗算器30の出力はdq絶対値リミッタ部25の超過分の制御量として前記減算器24に入力される。
【0032】
前記減算器29、ゲイン乗算器30、減算器24によって、電圧制御系の積分項の飽和を防止するアンチワインドアップ部を構成している。
【0033】
31は、dq絶対値リミッタ部25から出力される出力電流指令値Iinv*と、電力変換器2の出力電流を変流器20で検出した電力変換器電流Iinvの偏差をとる減算器である。
【0034】
減算器31の偏差出力には比例アンプ32のゲインが乗算され、その出力に電圧指令(V)が得られる。
【0035】
33は、図1の過電流抑制動作判定部13から出力される判定結果信号flg_LCMに基づいて、通常時の出力電圧指令値Vac*か電流抑制時の出力電圧検出値Vacのいずれかを選択するスイッチである。
【0036】
前記スイッチ33により選択されたVac*又はVacは、P制御型の電流制御系のフィードフォワード項として、加算器34において、比例アンプ32の出力である電圧指令(V)と加算される。
【0037】
加算器34の出力は出力電圧制御指令Vcmdとして図1のPWM部19に入力される。
【0038】
また、前記仮想同期発電機モデル16は図3のように構成されている。図3において、41は、電力の出力指令Prefと図1の電力演算部15で演算された電気出力Peの偏差をとる減算器である。
【0039】
42は、減算器41の偏差出力を後述のバッファ48に一時記憶された角周波数ωrで除算することにより、入力トルクを求める除算器である。
【0040】
43は、バッファ48に記憶されている角周波数ωrとダンピング係数Dを用いて制動トルクを演算するダンピングブロックである。
【0041】
44は、除算器42の出力である入力トルクから、ダンピングブロック43の出力である制動トルクを減算する減算器である。
【0042】
45は、減算器44の出力を積分定数Mで除する除算器である。除算器45の出力は加算器46において、バッファ48に記憶されている角周波数ωrと加算され、VSGモデルの角周波数(ωr)が求められる。
【0043】
前記減算器41,44、除算器42,45、ダンピングブロック43、加算器46、バッファ48によって、角周波数ωr演算部を構成している。
【0044】
47は、図1の過電流抑制動作判定部13から出力される判定結果信号flg_LCMに基づいて、角周波数ωr演算部の出力角周波数(加算器46の出力)か、図1のPLL部17から出力される角周波数ωpllのいずれかを選択するセレクタである。
【0045】
セレクタ47の出力は、仮想同期発電機モデル16の出力角周波数としてPWM部19に出力されるとともに、バッファ48に一時記憶される。
【0046】
次に上記のように構成された装置の動作を図4のタイムチャートとともに説明する。図4において、「AVR」はPCS出力電圧制御部18が電圧制御系として動作する期間を示し、「ACR」はPCS出力電圧制御部18が電流制御系として動作する期間を示し、flg_LCMは過電流抑制動作判定部13から出力される判定結果信号を示し、出力電流検出値Iacが閾値を超える過電流となっていないときは「0」となり、閾値を超える過電流となったときは「1」となる信号である。
【0047】
まず、過電流抑制動作判定部13が出力過電流を検出していない場合(flg_LCMが「0」の場合)、PCS出力電圧制御部18の電流制御系のフィードフォワード項として、出力電圧指令値Vac*がスイッチ33により選択され、仮想同期発電機モデル16の出力角周波数として、角周波数ωr演算部で演算された角周波数ωr(加算器46の出力)がセレクタ47により選択される。
【0048】
これによってPCS出力電圧制御部18は、電流制御系をインナーループに持つ電圧制御系(AVR+ACR)として動作する。
【0049】
次に時刻t1において、系統事故により系統電圧(出力電圧検出値Vac)が低下すると出力電流検出値Iacが急増する。
【0050】
次に時刻t2において、出力電流検出値Iacの全波整流最大値が閾値を超過したことにより、過電流抑制動作判定部13が過電流であると判定し、判定結果信号flg_LCMを「1」とする。
【0051】
これによってPCS出力電圧制御部18の電流制御系のフィードフォワード項として、出力電圧検出値Vacがスイッチ33により選択され、電流制御系(ACR)として動作し、過電流抑制を行う。
【0052】
このとき、電流指令値Iinv*はdq絶対値リミッタ部25の動作によって、電流を一定の大きさに制限した状態で運転が継続される。またこの電流制御中に、dq絶対値リミッタ部25の超過分の制御量を電圧制御系の積分項から減算器24にて減算するアンチワインドアップ処理が行われるので、電圧制御系(AVR)の積分項飽和は防止される。
【0053】
また、過電流抑制中は仮想同期発電機モデル16に従った出力電圧指令値Vac*での電圧制御を行わないため、仮想同期発電機モデルの慣性項の出力を、セレクタ47によりPLL部17の出力角周波数ωpllに切り換える。前記出力電圧検出値VacとPLL部17の出力の位相差φは徐々に大きくなっていく。残電圧が閾値未満の場合はPLL部17の制御ゲインを0にして動作を停止させることでPLL部の発散を防止する。
【0054】
次に、時刻t3において系統電圧が復帰すると、PLL部17は系統電圧(Vac)の電源周波数移動平均値が閾値を超過したことを判定し、PLL部の角周波数の初期化機能によって、系統電圧の周波数と位相に同期していく(出力電圧検出値VacとPLL部17の出力の位相差φが小さくなっていく)。
【0055】
次に、時刻t4において前記位相差φが閾値未満となり(PLL部17の出力が系統電圧(Vac)に同期し)、出力電流検出値Iacが閾値未満に減少すると、過電流抑制動作判定部13の判定結果信号flg_LCMは「0」となる。このため仮想同期発電機モデル16の出力角周波数は、セレクタ47によって、角周波数ωr演算部で演算された角周波数ωr(加算器46の出力)が選択され、PCS出力電圧制御部18の電流制御系のフィードフォワード項として、スイッチ33により出力電圧指令値Vac*が選択される。
【0056】
これによって、電流制御系をインナーループに持つ電圧制御系(AVR+ACR)の動作に戻る。
【0057】
このように、PLL部17の機能により、系統電圧(Vac)に同期してから電圧制御に移行することで、電力系統5側との不要な位相差拡大による系統擾乱や出力の変動を抑制することができる。
【符号の説明】
【0058】
1…直流電源
2…電力変換器
3…LCフィルタ
4…トランス
5…電力系統
11…仮想同期インピーダンス補償部
12,20…変流器
13…過電流抑制動作判定部
14…計器用変圧器
15…電力演算部
16…仮想同期発電機モデル
17…PLL部
18…PCS出力電圧制御部
19…PWM部
21,24,29,31,41,44…減算器
22…PI制御の比例項
23…PI制御の積分項
25…dq絶対値リミッタ部
26,48…バッファ
27,28,34,46…加算器
30…ゲイン乗算器
32…比例アンプ
33…スイッチ
42,45…除算器
43…ダンピングブロック
47…セレクタ
図1
図2
図3
図4