(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】建築物の履歴情報記憶システム
(51)【国際特許分類】
E04B 2/88 20060101AFI20231030BHJP
G01B 21/20 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
E04B2/88 ESW
G01B21/20 Z
(21)【出願番号】P 2020043929
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2022-12-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.学会(2019年度日本建築学会大会学術講演会)発表 公開日 令和元年9月3日(火) 展示会名、開催場所 2019年度日本建築学会大会学術講演会 金沢工業大学 扇が丘キャンパス(石川県野々市市扇が丘7-1) 公開者 陳威中、鳥谷尾駿佑、長江拓也、梶原浩一、太田匡信、神崎喜和、鍾育霖 2.学会(1999年集集大地震20周年記念国際会議)発表 公開日 令和元年9月18日(水) 展示会名、開催場所 1999年集集大地震20周年記念国際会議 公務人力發展學院福華國際文教會館(台湾台北市大安區新生南路三段30號) 公開者 鳥谷尾駿佑、長江拓也、陳威中、梶原浩一、神崎喜和、鍾育霖
(73)【特許権者】
【識別番号】000005005
【氏名又は名称】不二サッシ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501138231
【氏名又は名称】国立研究開発法人防災科学技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神崎 喜和
(72)【発明者】
【氏名】太田 匡信
(72)【発明者】
【氏名】梶原 浩一
(72)【発明者】
【氏名】長江 拓也
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-161482(JP,A)
【文献】特開2000-170284(JP,A)
【文献】特開2009-249852(JP,A)
【文献】特開平08-270236(JP,A)
【文献】特開2020-122786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/88
G01B 21/00-21/32
G01M 13/00-13/045;99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーテンウォールを構成する建材のうちの少なくとも1つである被測定建材に取り付けられ、かつ、前記被測定建材の変形および/または変位に伴い出力信号が変化する少なくとも1個のセンサと、
前記カーテンウォールを含む建築物に外力が加わることに伴い、前記被測定建材が変形および/または変位した場合に、前記少なくとも1個のセンサの出力信号を含む入力情報に基づいて、前記外力の前記建築物への影響を推定する推定手段と、
前記推定手段による推定結果を記憶する記憶手段とを備える、
建築物の履歴情報記憶システム。
【請求項2】
前記少なくとも1個のセンサが、ジャイロセンサを含む、
請求項1に記載の建築物の履歴情報記憶システム。
【請求項3】
前記被測定建材が、鉛直方向に配置された部材である、
請求項2に記載の建築物の履歴情報記憶システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震などの際に建築物に加わる外力の影響を推定し、その結果を記憶する、建築物の履歴情報記憶システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ビルディングなどの建築物の耐用年数は、法律で定められている。しかしながら、建築物の実際の寿命(実寿命)は、その構造や素材、メンテナンスの内容および頻度など、さまざまな要因の影響を受ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建築物の実寿命に影響を与える要因の一つとして、地震などの際に加わる外力の影響が考えられる。すなわち、例えば、地震が発生すると、建築物の躯体(骨組み)に外力が加わり、躯体を構成する、柱、梁およびこれらを結合するためのボルトなどの建材が変形することがある。地震の規模がそれほど大きくなく、躯体に加わる外力もそれほど大きくない場合には、地震の揺れが収まり、躯体に外力が作用しなくなると、躯体を構成する建材は、弾性的に復元して元の状態に戻る。しかしながら、躯体に加わる外力がそれほど大きくなく、巨視的には、建材への影響がほとんどない場合であっても、微視的には、建材を構成する金属の原子の一部が元の位置に戻れなくなる(転位現象を生じる)可能性がある。このため、規模がそれほど大きくない地震であっても繰り返し発生することに伴い、繰り返し躯体に外力が加わると、建材に微小な割れ目(クラック)が発生する可能性がある。建材に割れ目が発生した状態から、さらに繰り返し躯体に外力が加わると、割れ目が次第に大きくなっていく。
【0005】
このように、地震が繰り返し発生する地域に建築された建築物では、地震が繰り返し発生することに伴い、建材を構成する金属にダメージ(疲労)が蓄積され、建材の強度が次第に低下していく。そこで、地震などの際に加わる外力による建材の変形量(弾性変形量)をセンサなどにより計測し、その結果に基づいて、外力が建築物に与える影響を推定することが考えられる。
【0006】
特開2008-309784号公報には、人工構造物に設置された2点間の相対変位を計測することができる変状原位置表示装置が記載されている。そこで、このような変状原位置表示装置を、建築物の躯体を構成する柱や梁などの建材に取り付け、建材の2点間の相対変位を計測することで、建材の変形量を測定することが考えられる。
【0007】
ただし、特開2008-309784号公報に記載の変状原位置表示装置は、予め設置した2点間を結ぶ直線方向に関する相対変位のみしか計測することができない。したがって、建材の多方向の変形を測定するためには、建材に多数の点を設置し、これら各点同士の間にそれぞれ、2点間の相対変位を計測する計測部を設ける必要がある。実際の施工現場において、躯体を組み立てた後、建材の多方向の変形を精度良く計測するために、多数の点を建材に設置する作業は面倒であり、コストが嵩む可能性がある。
【0008】
本発明は、上述のような事情を鑑みて、地震などの際に建築物に加わる外力の影響を推定し、その結果を記憶することができる、建築物の履歴情報記憶システムを実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の建築物の履歴情報記憶システムは、少なくとも1個のセンサと、推定手段と、記憶手段とを備える。
前記少なくとも1個のセンサは、カーテンウォールを構成する建材のうちの少なくとも1つである被測定建材に取り付けられ、かつ、前記建材の変形および/または変位に伴い出力信号が変化する。
前記推定手段は、前記カーテンウォールを含む建築物に外力が加わることに伴い、前記被測定建材が変形および/または変位した場合に、前記少なくとも1個のセンサの出力信号を含む入力情報に基づいて、前記外力の前記建築物への影響を推定する。
前記記憶手段は、前記推定手段による推定結果を記憶する。
【0010】
前記少なくとも1個のセンサは、ジャイロセンサを含むことができる。この場合、前記被測定建材を、鉛直方向に配置された、方立や縦枠などの部材とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、地震などの際に、建築物に外力が加わった場合、建築物のカーテンウォールは、該カーテンウォールが取り付けられた躯体(骨組み)とほぼ同じ動きをするといった、本発明者らの研究により得られた知見に基づいてなされたものであり、本発明の建築物の履歴情報記憶システムによれば、地震などの際に建築物に加わる外力の影響を推定して、その結果を記憶しておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の1例に係る建築物の履歴情報記憶システムを構成するジャイロセンサが取付けられた、カーテンウォールを示す略斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態の1例に係る建築物の履歴情報記憶システムを示すブロック図である。
【
図3】
図3(A)は、方立と無目との接合部をピン接合とした解析モデルM
0を示す模式図であり、
図3(B)は、方立と無目との接合部に回転方向に関する剛性を付与した解析モデルMを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1~
図3は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例の建築物の履歴情報記憶システムは、カーテンウォール1を構成する方立11に、該方立11の変形や変位に伴って出力を変化させるジャイロセンサ2を取り付け、地震の発生などに伴い建築物に外力が加わると、ジャイロセンサ2の出力信号に基づいて、データ処理装置3により外力の建築物への影響を推定し、その結果をメモリ4に記憶する。なお、カーテンウォール1は、
図1に示すように、それぞれが鉛直方向に配置された複数本の方立11と、隣り合う左右の方立11同士の間にそれぞれ水平方向に配置された複数本の無目12と、方立11と無目12とにより四辺を囲まれた開口部に取り付けられたパネル13とを備える。
【0014】
本例では、ジャイロセンサ2として、互いに直交する3方向の軸周りの角速度を検出するものを使用している。ただし、ジャイロセンサ2としては、3方向の軸周りの角速度を検出するものに限らず、角度や角加速度を検出するものを使用することもできる。何れにしても、ジャイロセンサ2は、カーテンウォール1を構成する方立11のうち、少なくとも1本の方立11の側面に、少なくとも1個取り付けられている。したがって、ジャイロセンサ2は、地震の発生などに伴い建築物に外力が加わり、方立11が変形したり変位したりすると、出力信号を変化させる。すなわち、本例では、方立11が、被測定建材に相当する。
【0015】
なお、ジャイロセンサ2を方立11に取り付ける方法については、特に問わず、例えば、ねじ止めや溶接、接着により固定することができる。また、ジャイロセンサ2は、屋外側と屋内側とのいずれに取り付けても良い。
【0016】
また、図示の例では、ジャイロセンサ2を、カーテンウォール1を構成する方立11のうち、1本の方立11の面外方向に関する片側面(建築物に取り付けた状態での屋内側の側面)の上下方向に離隔した複数箇所(図示の例では3箇所)に取り付けている。ただし、ジャイロセンサ2の個数および取付位置については、後述するように、データ処理装置3が、外力の建築物への影響を推定するのに十分な情報を得ることができる限り、特に限定されない。すなわち、ジャイロセンサ2を、カーテンウォールを構成する方立11のうち、すべての方立11に取り付けることもできるし、一部の方立11にのみ取り付けることもできる。また、ジャイロセンサ2を、方立11の面外方向に関する他側面(建築物に取り付けた状態での屋外側の側面)に取り付けることもできるし、方立11の面内方向に関する側面に取り付けることもできる。さらに、ジャイロセンサ2を、方立11の上下方向1箇所にのみ取り付けることもできる。何れにしても、ジャイロセンサ2の取付位置や個数は、データ処理装置3が外力の建築物への影響を推定するのに十分な情報を得ることができるように、理論計算やシミュレーションなどにより設計的に定めることが好ましい。
【0017】
データ処理装置3は、ジャイロセンサ2の出力信号に基づいて、カーテンウォール1を含む建築物への外力の影響(外力によるダメージ)を推定する推定手段を構成する。本例では、データ処理装置3は、データロガー31と、信号処理部32と、影響推定部33とを備える。なお、データ処理装置3の設置箇所については、特に問わない。
【0018】
データロガー31は、ジャイロセンサ2の出力信号を受信し、記録しておく機能を有する。なお、ジャイロセンサ2の出力信号をデータ処理装置3に伝送する手段については、特に限定されず、有線方式と無線方式との何れの方式を採用しても良い。
【0019】
信号処理部32は、ジャイロセンサ2により検出し、データロガー31により受信した、方立11の角速度を表す信号を処理する。具体的には、例えば、信号処理部32は、方立11の傾斜角度を算出する。あるいは、信号処理部32は、方立11の角速度を表す信号に基づいて、カーテンウォール1の層間変位(=n階の床に対する(n+1)階の水平方向の変位)または層間変形角(=層間変位÷階高)を算出することもできる。この場合、例えば、カーテンウォール1をモデル化した解析モデルを用いて、カーテンウォール1の層間変位または層間変形角を算出する。すなわち、ジャイロセンサ2の出力信号を解析モデルに入力することで、カーテンウォール1の層間変位または層間変形角を算出する。
【0020】
ただし、本発明を実施する場合、信号処理部32は、影響推定部33において外力の建築物への影響の推定に用いることができる限り、方立11の傾斜角度、または、カーテンウォール1の層間変位若しくは層間変形角以外のパラメータを算出するように構成することもできる。
【0021】
また、信号処理部32による方立11の傾斜角度、または、カーテンウォール1の層間変位若しくは層間変形角の算出には、ジャイロセンサ2の出力信号以外の情報を使用することもできる。具体的には、例えば、方立11に取り付けたひずみゲージ51や加速度センサ52、傾斜計56など、ジャイロセンサ2以外のセンサの出力信号を、信号処理部32による方立11の傾斜角度、または、カーテンウォール1の層間変位若しくは層間変形角の算出に用いても良い。なお、図示の例では、ひずみゲージ51などからの信号を直接信号処理部32に入力しているが、一度データロガー31により受信、記録してから、信号処理部32に入力することもできる。
【0022】
影響推定部33は、信号処理部32による算出結果に基づいて、外力の建築物への影響を推定する。ただし、影響推定部33による外力の建築物への影響の推定には、信号処理部32の算出結果以外の情報を使用することもできる。
【0023】
具体的には、例えば、方立11に取り付けたひずみゲージ51や加速度センサ52、傾斜計56など、ジャイロセンサ以外のセンサの出力信号、建築物の屋内や屋外の様子を撮影するカメラ53の映像もしくは画像、および/または、建築物もしくは近隣に設置された震度計54や風速計55などの出力信号などを、影響推定部33による外力の建築物への影響の推定に用いることもできる。
【0024】
上述したジャイロセンサ以外のセンサの出力信号、カメラ53の映像もしくは画像、および/または、震度計54や風速計などの出力信号に加え、あるいは、これらに代えて、メモリ4に記憶されている、影響推定部33による過去の推定結果を、その時点での、影響推定部33による外力の建築物への影響の推定に用いることもできる。例えば、同程度の外力が建築物に加わったと仮定した場合の、過去の方立11の傾斜角度、または、カーテンウォール1の層間変位若しくは層間変形角と、その時点での方立11の傾斜角度、または、カーテンウォール1の層間変位若しくは層間変形角とを比較することで、外力が建築物に与えた影響を推定することができる。
【0025】
何れにしても、影響推定部33は、予め理論計算やシミュレーションにより求めた、方立11の傾斜角度、または、カーテンウォール1の層間変位若しくは層間変形角などの信号処理部32による算出結果を含む入力情報と、外力および該外力が建築物に与える影響との関係を表すマップや計算式を用いることにより、入力情報に基づいて外力が建築物に与えた影響を推定する。
【0026】
影響推定部33は、外力の建築物への影響として、例えば、建築物を構成する、柱、梁およびこれらを結合するためのボルトなどの建材の金属疲労の程度を表す情報を推定(出力)することができる。金属疲労の程度を表す情報としては、例えば、建材に加わった応力の大きさ(応力振幅S)および繰り返し数Nなどを利用することができる。
【0027】
、影響推定部33は、上述した応力振幅Sおよび繰り返し数Nに加え、または、これらに代えて、金属疲労の程度を表す情報として、例えば、建築物の実際の残り寿命(残寿命)を推定することができる。
【0028】
メモリ4は、影響推定部33による推定結果を記憶する記憶手段を構成する。なお、メモリ4の設置箇所については、特に問わず、また、データ処理装置3の影響推定部33による推定結果を、メモリ4に伝送する手段についても、特に限定されず、有線方式と無線方式との何れの方式を採用しても良い。あるいは、データ処理装置3の信号処理部32および影響推定部33と、メモリ4とを、1つの演算器内に実装することもできる。メモリ4は、影響推定部33による推定結果を上書き保存することもできるし、過去の推定結果の一部またはすべてを保存することもできる。影響推定部33による推定結果を上書き保存するか、過去の推定結果の一部またはすべてを保存するかは、影響推定部33により推定される情報の内容に応じて適宜決定する。
【0029】
出力装置6は、メモリ4に記憶した推定結果を出力する。出力装置6は、例えば、パーソナルコンピュータや携帯端末などの表示部(モニタ)を備える装置により構成することができる。
【0030】
地震の発生などに伴って、本例の建築物の履歴情報記憶システムが組み込まれた建築物に外力が加わり、カーテンウォール1の方立11が変形および/または変位すると、ジャイロセンサ2の出力信号が変化する。データ処理装置3は、ジャイロセンサ2の出力信号に基づいて、カーテンウォール1の層間変位または層間変形角を算出し、さらに外力が建築物に与えた影響を推定する。メモリ4は、データ処理装置3による推定結果を記憶する。このような一連の処理は、建築物に所定以上の外力(例えば、建築物に影響を与える(建築物を構成する建材の疲労が進行する)程度の外力)が加わるたびに行われる。したがって、メモリ4には、外力の建築物への影響が逐次記憶される。
【0031】
出力装置6は、建築物の管理者などの要求に応じて、メモリ4に記憶されている推定結果を出力する。これにより、建築物の管理者などは、外力が建築物に与えた影響を確認することができる。このため、建築物の資産価値を良好に把握することができる。
【0032】
すなわち、法律で定められている建築物の耐用年数(法定耐用年数)は、大規模なメンテナンスを行わないことを想定して決定されているところ、建築物の実寿命は、通常、必要なメンテナンスなどを行うことにより、法定耐用年数よりも長く使用することができる。したがって、外力が建築物に与えた影響、例えば建築物の残寿命を精度よく知ることができれば、適切なメンテナンス時期の把握が容易になるとともに、残寿命の適正値がデータにより裏付けられ、法定耐用年数に左右されない使用期間を保証することができるなど、建築物の資産価値の良好な把握や建築物の効率的な運用が可能となる。
【0033】
本例では、方立11の変形や変位を測定するためのセンサとして、センサ設置箇所の互いに直交する3方向の軸回りの角速度を検出可能なジャイロセンサ2を使用している。このため、前述したように、2点間の相対変位を計測部により計測する特開2008-309784号公報に記載の変状原位置表示装置を使用して、建材の変形を測定することにより、外力が建築物に与える影響を推定する場合と比較して、センサの数を抑えることができ、コストを抑えることができる。
【0034】
さらに、本例では、外力が建築物に与える影響の推定に用いる入力情報を得るためのジャイロセンサ2を、建築物の躯体ではなく、カーテンウォール1の方立11に取り付けている。そして、ジャイロセンサ2の出力信号に基づいて方立11の傾斜角度、または、カーテンウォール1の層間変位若しくは層間変形角を算出し、さらに方立11の傾斜角度、または、カーテンウォール1の層間変位若しくは層間変形角に基づいて、外力の建築物への影響を推定するようにしている。したがって、例えば、ジャイロセンサ2を方立11に予め取り付けておき、その後、カーテンウォール1を建築物の躯体に取り付けることができる。このように、ジャイロセンサ2の設置作業を容易化することができ、この面からもコストを抑えることができる。ただし、カーテンウォール1を建築物の躯体に取り付けた後で、ジャイロセンサ2を方立11に取り付けることもできる。
【0035】
また、本例の建築物の履歴情報記憶システムは、建築物を建築する際に組み込むことができる。あるいは、建築物の躯体に取り付けたカーテンウォール1をメンテナンス若しくは交換する際に組み込んでも良い。
【0036】
なお、信号処理部32によりカーテンウォール1の層間変位または層間変形角を求める場合、例えば、
図3(A)に示すように、方立11と無目12との接合部をピン接合とみなした解析モデルM
0を用いて、ジャイロセンサ2の出力信号から、カーテンウォール1の層間変位または層間変形角を算出することができる。すなわち、カーテンウォール1では、方立11の傾倒による無目12の変形を抑制するため、方立11と無目12とは相対回転可能に接合される。このため、カーテンウォール1を設計する際には、計算を簡単にするため、
図3(A)に示すように、方立11と無目12との接合部をピン接合とみなして設計を行う。このように、カーテンウォール1の設計に用いる解析モデルM
0を使用して、カーテンウォール1の層間変位または層間変形角を算出することができる。
【0037】
あるいは、
図3(B)に示すように、方立11と無目12との接合部に、回転方向に関する剛性を付与した(半剛接合とした)解析モデルMを用いて、カーテンウォール1の層間変位または層間変形角を求めることもできる。このような解析モデルMを用いることにより、カーテンウォール1の層間変位または層間変形角を、解析モデルM
0を使用した場合に比べてより精度良く求めることができる。なお、方立11と無目12との接合部に付与する回転方向に関する剛性kは、実験や計算により求めることができる。
【0038】
また、本例では、ジャイロセンサ2を、カーテンウォール1の方立11に取り付け、該方立11の傾斜角度を算出するようにしているが、ジャイロセンサ2を、カーテンウォール1を構成する無目12やパネル13に取り付けることもできる。換言すれば、無目12やパネル13を、被測定建材とすることもできる。あるいは、ジャイロセンサを、カーテンウォールの可動部を構成する建材(縦枠、方立、上枠、下枠(巾木)、無目および/またはパネル)などに取り付けることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 カーテンウォール
11 方立
12 無目
13 パネル
2 ジャイロセンサ
3 データ処理装置
31 データロガー
32 信号処理部
33 影響推定部
4 メモリ
51 ひずみゲージ
52 加速度センサ
53 カメラ
54 震度計
55 風速計
56 傾斜計
6 出力装置