(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】樹脂型の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/135 20170101AFI20231030BHJP
B29C 33/38 20060101ALI20231030BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231030BHJP
【FI】
B29C64/135
B29C33/38
B33Y10/00
(21)【出願番号】P 2020109932
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】392010762
【氏名又は名称】株式会社ディーメック
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 拳吾
(72)【発明者】
【氏名】三浦 輝
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-100941(JP,A)
【文献】特表平10-505799(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074380(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/38,64/135,64/40
B33Y 10/00,70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性成分、有機粒子、及び無機粒子を含む光硬化性樹脂組成物からなる光造形用樹脂を用いる光造形法による樹脂型
を、前記樹脂型の内部を硬化するために光が照射される複数の内部用照射ラインと、前記樹脂型の輪郭部を硬化するために光が照射される複数の輪郭用照射ラインとを用いて製造する製造方法であって、
前
記複数の輪郭用照射ラインのうち、内側に位置する輪郭用照射ラインほど、外側に位置する輪郭用照射ラインの幅より大きい幅で前記光を照射する
ことを含む、樹脂型の製造方法。
【請求項2】
前記複数の輪郭用照射ラインの本数は、2本以上7本以下である、
請求項1に記載の樹脂型の製造方法。
【請求項3】
前記複数の輪郭用照射ラインのうち、内側に位置する輪郭用照射ラインほど、外側に位置する輪郭用照射ラインの走査速度より遅い走査速度でレーザー光を照射する、
請求項1又は2に記載の樹脂型の製造方法。
【請求項4】
前記複数の輪郭用照射ラインの幅は、80~700μmである、
請求項1~3のいずれか一つに記載の樹脂型の製造方法。
【請求項5】
前記複数の輪郭用照射ラインのうち、最も外側に位置する輪郭描画ラインの幅の内部描画ラインの幅に対する比率は、0.1~0.9である、
請求項1~4のいずれか一つに記載の樹脂型の製造方法。
【請求項6】
前記複数の輪郭用照射ラインのうち、最も内側に位置する輪郭用照射ラインの幅に対する最も外側に位置する輪郭描画ラインの幅の比率は、0.1~0.9である、
請求項1~5のいずれか一つに記載の樹脂型の製造方法。
【請求項7】
前記内部用照射ラインは、照射される前記内部用照射ラインの末端形状が前記樹脂型の表面性に影響しないように照射位置が設定され、
前記輪郭用照射ラインは、前記樹脂型のうち前記内部用照射ラインの外側に設定される、
請求項1~6のいずれか一つに記載の樹脂型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、樹脂型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造技術または3次元プリンティング等と呼ばれる3次元造形技術において、紫外線や放射線等の光によって硬化する樹脂を積層することで立体物を造形する光造形技術(光造形法)が知られている(特許文献1~3参照)。光造形技術では、光硬化性樹脂を一層ごとに塗布その他の方法により供給し、造形物の形状に応じた範囲に対して光を照射して各層の光硬化性樹脂を硬化させるというプロセスが繰り返される。そして、光造形技術では、このプロセスの繰り返しによって硬化層を積み重ねることで、所望の形状を有する造形物が生成される。光造形技術には、自由液面法、規制液面法などが含まれる。他方、インクジェット方式により光硬化性樹脂を液滴として吐出供給する方法は、本願明細書においては光造形技術に含まれない。
【0003】
例えば、光造形技術は、射出成形(成型)等に用いられる樹脂型を造形するために利用されている。これにより、例えば金属型を用いて射出成形する場合と比較して、射出成形品(又はその試作品)を短期間で得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-130529号公報
【文献】特開2020-037245号公報
【文献】国際公開第2018/175739号
【文献】特開2000-94471号公報
【文献】特開2006-076822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、光造形技術による樹脂型の造形では、造形精度及び生産効率は互いにトレードオフの関係にあり、両立することは難しい。そこで、本発明は、造形精度及び生産効率の両立を実現した、靱性に優れた樹脂型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、光硬化性成分、有機粒子、及び無機粒子を含む光硬化性樹脂組成物からなる光造形用樹脂を用いる光造形法による樹脂型の製造方法であって、前記樹脂型の輪郭部を硬化するために光が照射される複数の輪郭用照射ラインのうち、内側に位置する輪郭用照射ラインほど、外側に位置する輪郭用照射ラインの幅より大きい幅で前記光を照射することを含む、樹脂型の製造方法である。
【0007】
また、本発明は、光硬化性成分、有機粒子、及び無機粒子を含む光硬化性樹脂組成物からなる光造形用樹脂を用いる光造形法による樹脂型の製造方法であって、堰形状の造形において、前記堰形状の内側に硬化膜を形成させることを含む、樹脂型の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、造形精度及び生産効率の両立を実現した、靱性に優れた樹脂型の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係る光造形装置100の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る第1製造方法の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、第1製造方法が適用されない場合の比較例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る第2製造方法の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、第2製造方法が適用されない場合の比較例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例及び比較例に係る評価用樹脂型を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら、実施形態に係る樹脂型の製造方法について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、以下の説明に限定されるものではない。以下に説明する実施形態は、構成に矛盾が生じない範囲で他の実施形態や従来技術との組み合わせが可能である。
【0011】
なお、以下に図示した構成は、図示の内容に限定されるものではない。例えば、以下に図示した各部の寸法や角度については、造形精度及び生産効率を大きく損なわない範囲内で適宜変更可能である。
【0012】
(実施形態)
(光造形装置100の構成)
図1を用いて、実施形態に係る光造形装置100の構成例を説明する。
図1は、実施形態に係る光造形装置100の構成例を示す図である。
図1に例示の光造形装置100は、実施形態に係る樹脂型の製造方法を実行する装置の一例である。
図1において、Z方向は後述する液状組成物103の液面104(照射平面)に対して鉛直方向、X方向は照射平面における任意の方向、Y方向は照射平面においてX方向に直交する方向にそれぞれ対応する。つまり、
図1は、YZ平面における光造形装置100の断面図に対応する。
【0013】
図1に示すように、光造形装置100は、容器101及び支持台102を備える。容器101には、液状組成物103(光造形用樹脂)が収容される。支持台102は、液状組成物103の液面104より下(つまり、液状組成物103の液中)に配置される。また、光造形装置100は、液面104に対して上方から光造形用樹脂を硬化させるためのレーザー光105を照射する。レーザー光105は、紫外線や放射線等、光造形用樹脂を硬化させるのに十分なエネルギーを有する。光造形装置100は、レンズや絞り等でレーザー光105のビーム径と照射位置を制御することで、任意の照射ライン幅で任意の位置を硬化させる。
【0014】
図1の上段を用いて、1層目の硬化層106を硬化させる処理を説明する。まず、光造形装置100は、支持台102を液状組成物103の中に配置する。このとき、光造形装置100は、支持台102の上面と液面104との間の距離が硬化層106の厚みに一致するように、支持台102の位置(高さ)を調節する。そして、光造形装置100は、リコータを用いて支持台102の上面に液状組成物103を塗布する。そして、光造形装置100は、支持台102の上面に塗布された液状組成物103に対してレーザー光105を照射して、液状組成物103を硬化させる。これにより、光造形装置100は、1層目の硬化層106を硬化させる。
【0015】
次に、
図1の下段を用いて、2層目の硬化層107を硬化させる処理を説明する。光造形装置100は、硬化層106の上面と液面104との間の距離が硬化層107の厚みに一致するように、支持台102の位置を下げる。そして、光造形装置100は、リコータを用いて支持台102及び硬化層106の上面に液状組成物103を塗布する。そして、光造形装置100は、支持台102及び硬化層106の上面に塗布された液状組成物103の所望の位置に対してレーザー光105を照射して、目的とする造形対象物の形状に合わせて液状組成物103を硬化させる。これにより、光造形装置100は、2層目の硬化層107を硬化させる。このプロセスの繰り返しにより、光造形装置100は、支持台102上に硬化層を積み重ねることで、所望の形状を有する造形対象物を造形する。
【0016】
なお、
図1にて説明した内容はあくまで一例であり、図示の内容に限定されるものではない。例えば、本実施形態に係る樹脂型の製造方法は、
図1に示した自由液面法による光造形装置100に限らず、規制液面法などによる光造形装置であってもよいほか、特許文献1に記載された光造形技術等、公知の光造形技術に対して広く適用可能である。また、光造形用樹脂の組成についても、樹脂型の製造に利用される公知の成分を適宜適用可能である。なお、光造形用樹脂の組成については後述する。
【0017】
ここで、光造形装置100は、造形精度及び生産効率の両立を実現した樹脂型の製造方法として、以下に説明する2つの製造方法(第1製造方法及び第2製造方法)を実行する。第1製造方法及び第2製造方法は、いずれか一方を単独で実行することもできるほか、両方の方法を併用してもよい。以下、第1製造方法及び第2製造方法を順に説明する。
【0018】
(第1製造方法:輪郭描画制御)
図2及び
図3を用いて、実施形態に係る第1製造方法について説明する。
図2は、実施形態に係る第1製造方法の一例を示す図である。
図3は、第1製造方法が適用されない場合の比較例を示す図である。
図2及び
図3には、光(レーザー光105)の照射方向(Z方向)から見た照射平面(XY平面)において、造形対象物のエッジ10を硬化させるために照射される光の照射ラインを例示する。
【0019】
ここで、「照射ライン」とは、レンズや絞り等で集光された所望のビーム径を有するレーザー光105が支持台102(照射平面)上で走査(移動)される経路である。レーザー光105は、照射ラインの幅や位置に一致するようにビーム径やレーザー出力を経時的に調整して走査される。例えば、照射ラインは、造形対象物の形状に応じて予め設定される。言い換えると、光造形装置100は、レンズや絞り等で集光した光の焦点を、照射ラインに沿って照射平面上を移動させることにより、各層の光造形用樹脂を硬化させる。なお、照射ラインの設定は、光造形装置100によって自動的に行われても良いし、操作者によるマニュアル操作(手動操作)によって行われても良い。また、照射ラインは、「描画ライン」とも呼ばれる。
【0020】
照射ラインには、「内部描画ライン」及び「輪郭描画ライン」の2種類が含まれる。「内部描画ライン」とは、主に造形対象物の内部(XY平面における内側)を硬化させるために光が照射される照射ラインである。内部描画ラインは、生産効率(硬化速度)を向上させるため、輪郭描画ラインと比較して太く設定され、高速にレーザー走査される場合が多い。また、「輪郭描画ライン」とは、主に造形対象物の輪郭部(XY平面における輪郭部)を硬化させるために光が照射される照射ラインである。第1製造方法においては、複数の輪郭描画ラインが設けられる。輪郭描画ラインの本数の下限値は、2本が好ましく、3本がさらに好ましい。輪郭描画ラインの本数の上限値は、7本が好ましく、6本がさらに好ましく、5本が特に好ましい。輪郭描画ラインの本数がこれらの範囲内であることにより、造形精度及び生産効率を両立して造形物を得ることができる。輪郭描画ラインは、樹脂型のZ方向の表面性(積層段差)に大きく関わるため、内部描画ラインと比較して細く設定され、精密にレーザー走査(描画)される場合が多い。なお、樹脂型の表面性は、成形品の表面性にも大きく影響する。
【0021】
例えば、内部描画ラインの末端の半円形状は、造形対象物(樹脂型)の表面の凹凸の要因となる場合がある。そこで、一般的に、内部描画ラインが造形対象物の表面に影響を与えないように、内部描画ラインに従って描画される範囲(内部描画範囲)は、造形対象物の端部(エッジ10)から一定距離(100~200μm程度)内側までとされる。また、造形対象物の端部から一定距離に含まれる残りの範囲(輪郭描画範囲11)は、輪郭描画ラインに従って精密に描画される。
【0022】
図2に示す例では、造形対象物のエッジ10を硬化させるため、4本の内部描画ライン21,22,23,24と、3本の輪郭描画ライン31,32,33とが設定される。なお、内部描画ライン21,22,23,24は、「内部用照射ライン」とも呼ばれる。また、輪郭描画ライン31,32,33は、「輪郭用照射ライン」とも呼ばれる。
【0023】
例えば、第1製造方法においては、先に内部描画範囲を描画し、その後に輪郭描画範囲11(輪郭部)を描画することができる。好ましくは、内部描画ライン21、内部描画ライン22、内部描画ライン23、及び内部描画ライン24の順に光を照射する。その後、輪郭描画ライン31、輪郭描画ライン32、及び輪郭描画ライン33の順に光を照射する。なお、光の照射順序はこれに限定されるものではなく、輪郭描画ラインを内部描画ラインよりも先に描画してもよく、複数の輪郭描画ラインについては外側に位置する輪郭描画ラインから先に描画してもよい。光の照射順序は、造形対象物の大きさや形状により任意に変更可能である。好ましい照射順序として上述した方法によれば、造形精度及び生産効率の両立において特に好ましい。
【0024】
ここで、造形対象物の表面(造形対象物のエッジ10に接する部分。「化粧面」とも言う。)を描画する輪郭描画ライン33は、細い(小さい)幅で描画され、表面より内部を描画する輪郭描画ライン31,32は、表面から離れるほど太い(大きい)幅で描画される。つまり、複数の輪郭描画ラインのうち、内側に位置する輪郭描画ラインほど、外側に位置する輪郭描画ラインの幅より大きい幅に設定される。これにより、造形精度及び生産効率の両立を実現することができる。なお、輪郭描画ラインが3本以上ある場合には、複数の輪郭描画ラインのうち、化粧面を描画する輪郭描画ラインの幅が、最も内側に位置する輪郭描画ラインの幅よりも小さければよく、すべての輪郭描画ラインが異なる幅を有する必要はない。例えば、化粧面を描画する輪郭描画ラインの幅よりも大きく、かつ、互いに均一の幅を有する輪郭描画ラインを複数設けることもできる。
【0025】
なお、輪郭描画ラインについて記載した「内側」/「外側」とは、造形対象物における「内側」/「外側」を意図したものである。つまり、「外側に位置する輪郭描画ライン」は、造形対象物の表面に近い位置にある描画ラインであり、「内側に位置する輪郭用照射ライン」は、造形対象物の表面から離れた位置にある描画ラインである。
【0026】
ここで、
図3を参照しつつ、第1製造方法による効果を説明する。第1製造方法が適用されない
図3の例においては、輪郭描画範囲11には、1本の輪郭描画ライン41が設定される。または、
図3に図示した1本の輪郭描画ラインに代えて均一の幅を有する複数本の細い輪郭描画ラインが設定される場合もある。このため、第1製造方法が適用されない場合には、輪郭描画範囲11を硬化させるのに細い輪郭描画ラインに応じて多数回のレーザー走査を要する。このため、高い生産効率を実現することが困難である。
【0027】
これに対し、
図2に示した第1製造方法は、複数の輪郭描画ラインのうち化粧面を構成する輪郭描画ライン33の幅を輪郭描画ライン45の幅と同程度に設定することで、比較例と同程度の造形精度を維持しつつ、輪郭描画ライン31,32の幅を輪郭描画ライン33の幅より大きく設定することで、3本分のレーザー走査で一定面積の輪郭描画範囲11を硬化させることができる。したがって、第1製造方法によれば、造形精度及び生産効率の両立を実現することができる。
【0028】
また、第1製造方法では、隣接する輪郭描画ライン間の重畳領域が減少する。例えば、均等幅を有する複数本の輪郭描画ライン42、43、44、45を設けた比較例(図示せず)を想定した場合、重畳領域は、輪郭描画ライン42,43の間、輪郭描画ライン43,44の間、輪郭描画ライン44,45の間の3箇所である。これに対し、第1製造方法では、重畳領域は、輪郭描画ライン31,32の間、輪郭描画ライン32,33の間の2箇所である。この重畳領域には、2回分のレーザー走査が行われるため、照射されるレーザー光のエネルギーの積算量を正確に調節することが困難であり、必要以上の余分なエネルギーが照射された場合には、この余分なエネルギーは熱となり、硬化収縮や剃り挙がり等、変形の要因となる。第1製造方法では、隣接する輪郭描画ライン間の重畳領域が減少するため変形の要因を低減できるので、造形精度の向上が期待される。
【0029】
なお、第1製造方法において、レーザー光の出力(レーザーパワー)及び走査速度は、最も太い輪郭描画ライン(輪郭描画ライン31)でも十分な硬化深度を得ることができる程度に設定されるのが好適である。例えば、各層の厚みが100μmである場合には、輪郭描画ライン31における硬化深度が130~150μm程度となるように出力及び走査速度を設定するのが好適である。
【0030】
また、レーザーパワーは一定であってもよく、描画ラインによってレーザーパワーを変更しても良い。例えば、輪郭描画ラインと内部描画ラインとでは、レーザーパワーが異なっていても良い。また、複数の輪郭描画ラインそれぞれでレーザーパワーが異なっていても良い。描画ラインの幅が大きいほど、レーザーパワーを上昇させるのが好適である。
【0031】
また、各輪郭描画ライン31,32,33の走査速度(スキャンスピード)は、任意に設定可能であり、互いに同一であっても良いし、異なっていても良い。ただし、レーザーパワーが一定であれば、描画ラインの幅(ビーム径)が太いほど硬化深度が浅くなるので、走査速度を遅くするのが好適である。一方、描画ラインが細いほど硬化深度が深くなるので、走査速度を速くするのが好適である。つまり、複数の輪郭描画ライン31,32,33のうち、内側に位置する輪郭用照射ライン31ほど、外側に位置する輪郭用照射ライン33の走査速度より遅い走査速度で照射することが好ましい。各輪郭描画ライン31,32,33の太さに応じて適切な走査速度を設定することにより、生産効率を向上させることができる。
【0032】
また、輪郭描画ラインの幅は、好ましくは80~700μmであり、より好ましくは100~600μmであり、更に好ましくは200~400μmである。第1製造方法では、輪郭描画ラインの位置に応じて幅が異なるため、最も外側に位置する輪郭描画ラインの幅は、好ましくは80~400μmであり、より好ましくは100~300μmであり、更に好ましくは200~250μmである。また、最も内側に位置する輪郭描画ラインの幅は、好ましくは200~700μmであり、より好ましくは300~600μmであり、更に好ましくは350~400μmである。
【0033】
また、最も外側に位置する輪郭描画ラインの幅は、最も内側に位置する輪郭描画ラインの幅に対する比率(最も外側に位置する輪郭描画ラインの幅を最も内側に位置する輪郭描画ラインの幅で除算した値)によって規定することもできる。この比率は、好ましくは0.1~0.9であり、より好ましくは0.2~0.5である。
【0034】
また、輪郭描画ラインの幅は、内部描画ラインの幅に対する比率(輪郭描画ラインの幅を内部描画ラインの幅で除算した値)によって規定することもできる。最も外側に位置する輪郭描画ラインの幅の内部描画ラインの幅に対する比率は、好ましくは0.1~0.9であり、より好ましくは0.2~0.5である。また、最も内側に位置する輪郭描画ラインの幅の内部描画ラインの幅に対する比率は、好ましくは0.5~1.5であり、より好ましくは0.9~1.1である。
【0035】
また、内部描画ラインの幅は、任意に設定可能であるが、好ましくは200~600μmであり、より好ましくは300~500μmである。内部描画ラインの幅が200μm未満である場合には、生産効率が低下し、600μm以上である場合には、造形精度が低下するからである。
【0036】
なお、
図2にて説明した内容はあくまで一例であり、図示の内容に限定されるものではない。例えば、
図2に示した輪郭描画ラインの位置、本数、及び幅は、造形対象物の大きさや形状により任意に設定可能である。また、
図2に示した内部描画ラインの位置、本数、及び幅は、造形対象物の大きさや形状により任意に設定可能である。
【0037】
(第2製造方法:膜形成)
次に、
図4及び
図5を用いて、実施形態に係る第2製造方法について説明する。
図4は、実施形態に係る第2製造方法の一例を示す図である。
図5は、第2製造方法が適用されない場合の比較例を示す図である。
図4及び
図5には、YZ平面における光造形装置100の断面図を例示する。
【0038】
図4に示す例では、光造形装置100は、
図1にて説明したプロセスの繰り返しにより、支持台102上に硬化層を積み重ねることで、造形対象物110である成形型を造形する。ここで、造形対象物110は、トラップ形状を有する。「トラップ形状」とは、前述のZ方向に対してその底部(下部)は閉じており上部は開口した凹部形状である。Z方向上部に向かって凹部を有する形状であるとも言える。トラップ形状は、液体等を収容可能な容器様の形状であり、「堰形状」とも呼ばれる。自由液面法による光造形技術では、トラップ形状の内部に液体(液状組成物103)が溜まる。
図5の説明で後述するように、トラップ形状の内部に溜まった液体は、表面張力によって液面が上昇(隆起)し、造形に影響を及ぼす。「トラップ形状の内側」とは、トラップ形状を構成する凹部の内部空間を言い、得られる造形物において空洞となる部分である。
【0039】
そこで、第2製造方法では、トラップ形状を有する樹脂型の造形において、トラップ形状の内側に膜状の硬化物(硬化膜)を形成させる。
図4に示す例では、照射平面(XY平面)に沿った4つの硬化膜111,112,113,114を所定間隔で形成させる。
【0040】
具体的には、第2製造方法では、トラップ形状を有する樹脂型を造形する場合、トラップ形状の内部に対応する範囲(孔)にはレーザー光105を照射させないことにより、孔を有する硬化層を形成させ、一層ずつ積層させる。そして、例えば、硬化膜111を含む硬化層を形成させる段階では、トラップ形状に対応する範囲の内部にもレーザー光105を照射させることにより、孔を有しない硬化層(孔が埋められた状態の硬化層)を形成させる。つまり、この段階で形成された硬化層は、トラップ形状に対応する孔の内部に硬化膜111が形成された状態となる。硬化膜は、光造形法において積層造形される単一層の硬化層として形成してもよく、複数の連続した積層から成る硬化層として形成しても良い。複数の連続した硬化層として形成する場合には、その連続した層の数は特に限定されないが、樹脂型の造形後に硬化膜を容易に除去できるためには、液面上昇120を防止する必要以上に厚い硬化膜としないことが好ましい。このため、硬化膜は、光造形法において積層造形される1層の硬化層または2~3層の連続した硬化層であることが好ましく、1層または2層の硬化層であることがさらに好ましく、1層の硬化層であることが特に好ましい。このように、所定間隔ごとに硬化膜を意図的に形成させることにより、4つの硬化膜111,112,113,114を所定間隔で形成させる。
【0041】
つまり、各硬化膜111,112,113,114は、周囲の硬化層と同一面(同一層)として硬化される。このため、各硬化膜111,112,113,114が形成された段階で、それまでに生じた液面上昇を抑制することができる。したがって、4つの硬化膜111,112,113,114を所定間隔で形成させることで、トラップ形状の造形過程で生じる液面上昇を所定間隔ごとに抑制しつつ、造形対象物110を造形することができる。
【0042】
ここで、
図5を参照しつつ、第2製造方法による効果を説明する。第2製造方法が適用されない場合には、
図5に示すように、表面張力によって液面上昇120が生じ、トラップ形状の縁上で液体(液状組成物103)が隆起する場合がある。この隆起部分にレーザー光105が照射されると、部分的な隆起121,122として硬化される。この部分的な隆起121,122は、樹脂型の造形においてはPL(Parting Line)面の精度が低下する、型締めができない、或いはバリを発生させるといった現象に繋がる可能性がある。
【0043】
このため、第2製造方法が適用されない場合には、液面上昇120が収まるまで待ち時間を設定し、造形処理を停止させることがあるが、この対処では生産効率が低下してしまう。また、別の対処として、トラップ形状を避けるように造形対象物の形状や造形方向(積層方向)を変更することもあるが、所望の形状の造形対象物を造形するにはトラップ形状は避けられない場合が多い。また、仮にトラップ形状を避けられたとしても、生産効率にとって最適な造形方向とは限らず、生産効率が低下してしまう。
【0044】
これに対し、
図4に示した第2製造方法では、トラップ形状の内側に硬化膜111,112,113,114を形成させることにより、液面上昇120を抑制しつつ、造形対象物110を造形することができる。このため、第2製造方法では、トラップ形状の縁付近での隆起の発生を抑制するので、造形精度を向上させることができる。また、第2製造方法では、トラップ形状を有する樹脂型を造形する場合にも、待ち時間を設定したり、造形対象物の形状や造形方向(積層方向)を変更したりする必要が無くなるので、生産効率の低下を抑えることができる。したがって、第1製造方法によれば、造形精度及び生産効率の両立を実現することができる。
【0045】
なお、第2製造方向において、硬化膜は、光造形法による造形が完了した後に除去される。例えば、造形対象物110の造形完了後にトラップ形状の内側に形成された硬化膜111,112,113,114は取り除かれる。硬化膜110を取り除く方法は特に限定されず、手作業によって取り除いてもよく、得られた成形型を傷つけない範囲でブラスト装置(粉体を吹き付けて研磨する装置)などを用いて取り除くこともできる。硬化膜は、光造形法において積層される各層の厚みと同じ厚みであるため、容易に取り除くことができる。
【0046】
また、硬化膜は網目構造その他の孔を有していても良い。孔の数、大きさや形状は、液面上昇を実質的に抑制できる限り、特に限定さない。例えば、孔は、トラップ形状の輪郭の内側に沿って複数形成されても良い。また、例えば、孔は、トラップ形状の内側に網目状(X方向及びY方向)に複数形成されてもよい。孔に対応する位置にはレーザー光105の照射が不要となるので、生産効率を向上させることができる。また、孔が形成されることにより、より容易に硬化膜を除去することができる。
【0047】
また、硬化膜を設ける間隔は、トラップ形状の開口部の大きさによって変更するのが好適である。以下、開口部の大きさを開口径として説明するが、開口部の形状が円形以外の形状であって、例えば矩形である場合にはその対角線長に、また例えば任意の形状である場合にはその差渡しの最長寸法に、それぞれ読み替えることができる。例えば、硬化膜は、トラップ形状の開口径が50mm以上である場合には、液面上昇が比較的小さいため、トラップ形状の深さ5mm~20mmの間隔で形成すれば液面上昇120を実質的に抑制することができる。また、硬化膜は、トラップ形状の開口径が10mm以上50mm未満である場合には、トラップ形状の深さ5mm~15mmの間隔で形成されることが好ましい。また、硬化膜は、トラップ形状の開口径が5mm以上10mm未満である場合には、トラップ形状の深さ5mm~10mmの間隔で形成されることが好ましい。また、硬化膜は、トラップ形状の開口径が5mm未満である場合には、液面上昇が小さく、造形精度に与える影響も限定的であるため、形成しないこともできる。また、硬化膜は、トラップ形状の最上層に形成されるのが好適である。
【0048】
(造形用樹脂)
本発明に用いられる光造形用樹脂は、「光硬化性成分」、「有機粒子」および「無機粒子」を含む光硬化性樹脂組成物からなる。以下、それぞれの成分について順に説明する。
【0049】
「光硬化性成分」は、光硬化性を有する成分であれば特に限定されない。樹脂型の光造形に用いられる光硬化性成分としては、例えば、紫外線や放射線など、波長が短い(高エネルギー)光によって硬化する成分が好適である。好ましい光硬化性成分としては、ラジカル硬化成分およびカチオン硬化成分が含まれる。
【0050】
ラジカル硬化成分としては、(メタ)アクリロイル基を有する化合物が一般的に用いられる。カチオン硬化成分としては、エポキシ基、オキセタニル基などのグリシジル基を有する化合物が一般的に用いられる。
【0051】
光硬化性成分としては、ラジカル硬化成分およびカチオン硬化成分はその一方のみを用いてもよく、両者を併用してもよい。光硬化性成分は、ラジカル硬化成分およびカチオン硬化成分のそれぞれについて、一種類または二種類以上の化合物を使用することができる。
【0052】
「有機粒子」は、有機ポリマーからなる粒子である。有機ポリマーは特に限定されないが、コア・シェル型構造を有する粒子が耐衝撃性に優れた造形物を製造することができるため特に好ましい。有機粒子としては、一種類または二種類以上の有機粒子を使用することができる。有機粒子としては、架橋構造を有する有機粒子であってもよく、架橋構造を有しない有機粒子であってもよいが、粒子の物理的強度の観点から架橋構造を有する有機粒子であることが好ましい。
【0053】
有機粒子の平均粒径は、10~500μmが好ましく、100~300μmがさらに好ましい。平均粒径がこの範囲にあることにより、耐衝撃性に優れた造形物を製造することができる。有機粒子としては、一種類または二種類以上の平均粒径を有する有機粒子を用いることができる。異なる平均粒径を有する二種類以上の有機粒子を使用することにより、耐衝撃性および靱性に優れた造形物を製造することができる。有機粒子の平均粒径は、光散乱型または光遮断型などの光学的粒径測定装置によって測定されるポリスチレン粒子換算の数平均粒子径である。
【0054】
「無機粒子」は、無機材料からなる粒子である。無機粒子の例としては、特に限定されないが、金属粒子、金属酸化物粒子、ガラス粒子、シリカ粒子などが挙げられる。無機粒子としては、一種類または二種類以上の無機粒子を使用することができる。
【0055】
無機粒子の平均粒径は、5nm~500μmが好ましく、10nm~300μmがさらに好ましい。平均粒径がこの範囲にあることにより、十分な硬度が得られ、耐衝撃性に優れた造形物を製造することができる。無機粒子としては、一種類または二種類以上の平均粒径を有する有機粒子を用いることができる。異なる平均粒径を有する二種類以上の無機粒子を使用することにより、耐衝撃性に優れた造形物を製造することができる。上記の平均粒径の範囲内で、平均粒径が5nm~100nmの無機粒子(「ナノ無機粒子」とも言い、シリカ粒子である場合には「ナノシリカ粒子」とも言う。)および平均粒径が1μm~500μmの無機粒子(「マイクロ無機粒子」とも言い、シリカ粒子である場合には「マイクロシリカ粒子」とも言う。)を使用することにより、さらに耐衝撃性に優れた造形物を製造することができる。
【0056】
なお、造形用樹脂は、非必須成分として、「重合開始剤」その他の任意の成分を、本発明の硬化を阻害しない限度において、含むことができる。重合開始剤を含むことにより、光硬化性が向上して、形状精度に優れた造形物を製造することができる。
【0057】
「重合開始剤」としては、「ラジカル性重合開始剤」および「光酸発生剤」を挙げることができる。「ラジカル性重合開始剤」は、光を吸収して光硬化性成分の重合を促進する成分である。「光酸発生剤」は、光を吸収して有機粒子の重合を促進する成分である。
【0058】
すなわち、本実施形態に係る製造方法は、光硬化性成分、有機粒子、及び無機粒子を含む光硬化性樹脂組成物からなる光造形用樹脂を用いる光造形法による樹脂型の製造方法である。
【0059】
(その他の実施形態)
上述した実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてもよい。例えば、上記の実施形態では、第1製造方法及び第2製造方法が同時に適用される場合を説明したが、いずれか一方が個別に適用されても良い。第1製造方法及び第2製造方法のいずれか一方が適用される場合にも、造形精度及び生産効率の両立を実現することが可能である。
【0060】
[実施例]
以下に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。本実施例では、表1及び表2に示す実施例1~3、比較例1~8にそれぞれ対応する製造方法について効果を検証(評価)した。
【0061】
1.光造形用樹脂の調製
以下の4種類の光造形用樹脂を調製した。
[樹脂1]
光硬化性成分としてラジカル硬化成分およびカチオン硬化成分、重合開始剤としてラジカル性重合開始剤および光酸発生剤、無機粒子としてナノシリカ粒子およびマイクロシリカ粒子の混合物、有機粒子として平均粒子径200μmの有機粒子を混合して光硬化性樹脂組成物を調製し、樹脂1とした。
[樹脂2]
無機粒子を配合しなかったほかは光造形用樹脂1と同様にして光造形用樹脂を調製し、樹脂2とした。
[樹脂3]
有機粒子を配合しなかったほかは光造形用樹脂1と同様にして光造形用樹脂を調製しし、樹脂3とした。
[樹脂4]
無機粒子および有機粒子のいずれを配合しなかったほかは光造形用樹脂1と同様にして光造形用樹脂を調製し、樹脂4とした。
【0062】
2.評価用造形物の製造
[光造形装置]
光造形装置は、ディーメック社製BeamArt BA45S(波長355nmの半導体レーザー)を用いた。すべての実施例および比較例において、積層ピッチは100μmとした。
【0063】
[積層段差 評価用造形物の作製および評価方法]
縦(X方向)40×横(Y方向)10×高さ(Z方向)100mmの直方体の評価用造形物を作製した。
各実施例および比較例において第1製造方法である輪郭描画制御を使用したか否かは、表1に示した通りである。
第1製造方法である輪郭描画制御の条件は次の通りとした。樹脂型の内部の描画に用いた内部描画ラインの幅を400μmに設定した。輪郭部の描画には3本の輪郭描画ラインを設け、各輪郭描画ラインの幅は、外側から順番に、150μm、200μm、300μmにそれぞれ設定した。描画の順番は、内部描画ラインに沿ってレーザー光を照射した後、3本の輪郭描画ラインについては内側から順にレーザー光を照射し、最後に最も外側の輪郭描画ラインにレーザー光を照射した。
第1製造方法である輪郭描画制御を行わなかった場合の条件は次のようにした。内部描画ラインの幅を400μmに設定した。輪郭部の描画には1本の輪郭描画ラインを設け、輪郭描画ラインの幅は300μmに設定した。描画の順番は、内部描画ラインに沿ってレーザー光を照射した後、輪郭描画ラインにレーザー光を照射した。
積層段差の評価用造形物は堰形状を有していないため、第2製造方法である膜形成は使用しなかった。
各実施例および比較例で得られた評価用造形物について、評価用造形物の側面(Z方向の表面)の積層ごとの段差を測定することで評価した。測定した段差の平均値が10μm以上100μm未満であれば「◎」、100μm以上200μm未満であれば「○」、200μm以上であれば「×」と評価した。
【0064】
[天板平滑性 評価用造形物の作製および評価方法]
中央に縦(X方向)30×横(Y方向)30×高さ(この場合は深さ、Z方向)50mmの角柱形状の凹部(トラップ(堰))を有する縦(X方向)50×横(Y方向)50×高さ(Z方向)60mmの角柱ブロック形状の評価用造形物を作製した。
各実施例および比較例において第1製造方法である輪郭描画制御および第2製造方法である膜形成を使用したか否かは、表2に示した通りである。
第1製造方法である輪郭描画制御の条件は、積層段差の評価用造形物の作製時と同様である。
第2製造方法の膜形成の条件としては、Z方向10mm(積層100層に相当する)ごとに1層の硬化膜を造形するよう設定した。第2製造方法を適用しなかった場合には、硬化膜を形成せずに造形を行った。
各実施例および比較例で得られた評価用造形物について、トラップ開口部周辺の高さを測定することで評価した。造形終了後に硬化膜を取り除き、トラップの開口部周辺の平滑性をデジタルスキャナ(KEYENCE社製3D形状測定機、VR-5200)で測定した。角柱ブロック外周部を基準面として、トラップ開口部周辺の高さが±100μm未満であれば「◎」、100μm以上200μm未満であれば「〇」、200μm以上であれば「×」と評価した。
【0065】
[靱性(もろさ) 評価用造形物の作製および評価方法]
図6に示す形状の成形型を作製した。
図6の樹脂型の横方向の長さは95mm、縦方向の長さは110mm、最高部の高さは95mmである。
図6の左図に雄型、右図に示す雌型を示す。雌型には、左上部および右下部の円筒形の凹部(直径8mm、深さ10mm)および中央部の矩形の凹部(浅い部分を含めて横30mm、縦100mm、深さ15mm)の3か所の堰形状がある。
各実施例および比較例において第1製造方法である輪郭描画制御および第2製造方法である膜形成を使用したか否かは、表2に示した通りである。
第1製造方法である輪郭描画制御および第2製造方法の膜形成の条件は、天板平滑性の評価用造形物の作製時と同様である。
各実施例および比較例で得られた評価用造形物について、「成形時のもろさ」および「形状としてのもろさ」を評価した。
【0066】
「成形時のもろさ」は、樹脂型の靱性の指標であり、
図6に示した樹脂型を製造し、得られた樹脂型を用いてポリカーボネート樹脂(帝人:パンライトL-1225L(N))を射出成形した。射出成形の条件は290℃、圧力30Mpaとした。射出成形を50ショット行い、50ショット成型しても樹脂型に割れや欠けを生じなかった場合に靱性に優れているとして「◎」、割れや欠けを一か所でも生じた場合に靱性が十分でないとして「×」と評価した。
【0067】
「形状としてのもろさ」は、耐折り曲げ試験により評価した。先ず、耐折り曲げ試験に用いた試験片の作成について説明する。アプリケータを用い、ガラス板上に組成物を塗布することにより、厚みが200μmの塗布膜を形成し、メタルハライドランプを装備したコンベア硬化装置を用いて、当該塗布膜の表面に紫外線を照射(照射量0.5J/cm2)して、半硬化樹脂フィルムを作製した。次いで、ガラス板から半硬化樹脂フィルムを剥離し、離型紙に載せ、最初に紫外線を照射した面とは反対側の面からの紫外線を照射(照射量0.5J/cm2)して、硬化樹脂フィルムを試験片として作成した。
【0068】
次に、耐折り曲げ試験における測定について説明する。上記の手法にて作成した硬化樹脂フィルムを、温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内に24時間静置したのち、MIT(Massachusetts Institute of Technology)式屈曲試験器を用いて、100g一定荷重をかけながら、折り曲げ回数60回/秒で、繰り返し折り曲げ試験を行い、試験片が折り曲げ位置で破断するまでの回数を測定した。折り曲げ位置で破断する回数が30回以上のものを合格とし、30回未満のものを不合格とした。
【0069】
【0070】
【0071】
「輪郭描画制御」は、製造方法として、上述した第1製造方法(手法1)を適用したか否かを示す。「○」は、第1製造方法を適用したことを示し、「-」は、第1製造方法を適用しなかったことを示す。
【0072】
「硬化膜」は、製造方法として、上述した第2製造方法(手法2)を適用したか否かを示す。「○」は、第2製造方法を適用したことを示し、「-」は、第2製造方法を適用しなかったことを示す。
【0073】
樹脂1を用いた実施例1および実施例2:第1製造方法を用いた実施例1の製造方法の評価結果は、積層段差「◎」であった。また、第1製造方法および第2製造方法を用いた実施例2の製造方法の評価結果は、天面平滑性「◎」、成形時のもろさ「◎」、及び形状としてのもろさ「◎」となった実施例1および実施例2の製造方法は、他の実施例及び比較例の製造方法と比較して最も良好な結果となった。
【0074】
樹脂1を用いた実施例3:第1製造方法を用いたが第2製造方法を用いなかった実施例3の製造方法の評価結果は、天面平滑性「○」、成形時のもろさ「◎」、及び形状としてのもろさ「◎」となった。この結果から、実施例2と実施例3の結果を対比することにより、第2製造方法は、天面平滑性に寄与することが示唆された。
【0075】
樹脂2を用いた比較例1および比較例5:比較例1の製造方法の評価結果は、積層段差「○」であった。また、比較例5の製造方法の評価結果は、天面平滑性「○」、成形時のもろさ「×」、及び形状としてのもろさ「◎」となった。この結果から、無機粒子の存在が成形時の強度に大きく寄与するとともに積層段差及び天面平滑性にも寄与することが示唆された。
【0076】
樹脂3を用いた比較例2および比較例6:比較例2の製造方法の評価結果は、積層段差「◎」であった。また、比較例6の製造方法の評価結果は、天面平滑性「◎」、成形時のもろさ「×」、及び形状としてのもろさ「×」となった。この結果から、有機粒子の存在が成形時の強度及び形状としての強度に大きく寄与することが示唆された。
【0077】
樹脂1を用いた比較例3および比較例7:比較例3および比較例7では、第1製造方法及び第2製造方法のいずれも使われなかった。比較例3の製造方法の評価結果は、積層段差「×」であった。また、比較例7の製造方法の評価結果は、天面平滑性「×」、成形時のもろさ「◎」、及び形状としてのもろさ「◎」となった。この結果から、第1製造方法及び第2製造方法が積層段差及び天面平滑性に大きく寄与することが示唆された。
【0078】
樹脂4を用いた比較例4および比較例8:比較例4の製造方法の評価結果は、積層段差「○」であった。また、比較例8の製造方法の評価結果は、天面平滑性「◎」、成形時のもろさ「×」、及び形状としてのもろさ「×」となった。この結果から、無機粒子及び有機粒子の存在が積層段差に寄与するとともに、成形時の強度及び形状としての強度に大きく寄与することが示唆された。
【0079】
以上の実施例により、第1製造方法及び第2製造方法が造形精度及び生産効率の両立に寄与することが示唆された。また、実施例としては示さなかったが、樹脂1を用いて、第1製造方法は使用せず、第2製造方法を使用して評価用造形物を作製した結果、積層段差「×」、天面平滑性「◎」、成形時のもろさ「◎」、及び形状としてのもろさ「◎」であった。
【0080】
例えば、光造形法を採用する本実施形態(第1製造方法)によれば、樹脂型のZ平面(側面)において特に優れた平滑性(積層段差が小さいこと)及び優れた靱性を備えた成形型を得ることができる。そして、他の本実施形態(第2製造方法)によれば、樹脂型のXY平面において特に優れた平滑性を有し、優れた靱性を備えた成形型を得ることができる。さらに、本実施形態(第1製造方法および第2製造方法の併用)によれば、積層段差を抑制し、XY平面において特に優れた平滑性を有し、優れた靱性を備えた成形型を得ることができる。このため、造形精度及び生産効率を両立した成形型の製造方法を提供することができる。そして、その樹脂型を用いて射出成型した成型物の表面(樹脂型のXY平面に当たる面)の平滑性も優れており、光沢に富む表面を得ることができる。
【0081】
一方、樹脂型を製造するための3次元造形技術としては、インクジェット方式による造形法も知られている。インクジェット法を用いて製造した樹脂型では、インクジェットにより樹脂を射出して硬化させる性質上、樹脂型表面の平滑性は光造形法よりも劣ったものとなる。このため、その樹脂型を用いて射出成型した成型物の表面の平滑性も劣っており、艶消し状の光沢を欠いた表面となる。したがって、透明性が求められる成型物の場合、表面の平滑性が高い方が透明度は上がるため、インクジェット法よりも光造形法の方が好適である。
【符号の説明】
【0082】
10 エッジ
11 輪郭描画範囲
21,22,23,24 内部描画ライン
31,32,33 輪郭描画ライン
41,42,43,44,45 輪郭描画ライン
100 光造形装置
101 容器
102 支持台
103 液状組成物
104 液面
105 レーザー光
106,107 硬化層
110 造形対象物
111,112,113,114 硬化膜
120 液面上昇
121,122 隆起