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  • 特許-ポリビニルアセタール樹脂フィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】ポリビニルアセタール樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/08 20190101AFI20231030BHJP
   B29C 48/885 20190101ALI20231030BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20231030BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
B29C48/08
B29C48/885
B32B27/30 102
C08J5/18 CEX
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020514461
(86)(22)【出願日】2019-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2019016836
(87)【国際公開番号】W WO2019203349
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2018080920
(32)【優先日】2018-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512192277
【氏名又は名称】クラレイ ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kuraray Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Philipp-Reis-Strasse 4, D-65795 Hattersheim am Main, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】有嶋 裕之
(72)【発明者】
【氏名】磯上 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】保田 浩孝
(72)【発明者】
【氏名】井口 利之
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-340851(JP,A)
【文献】特表2016-539905(JP,A)
【文献】特開2013-224025(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159210(WO,A1)
【文献】特開2014-136796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00 - 48/96
B32B 1/00 - 43/00
C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/12 - 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面の平均表面粗さRzが3.0μm以下であり、複屈折Δnが3.0×10 -4 以下であり、平均厚みが200μm以下である、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造方法であって、
80℃を超える温度から80℃以下の温度にフィルムの温度を冷却する冷却ロールの速度(V1)と巻取ロールの速度(V3)との速度比〔(V1-V3)/V1〕、またはフィルムの温度がロール間で80℃を超える温度から80℃以下の温度に冷める場合にはその直前のロールの速度(V2)と巻取ロールの速度(V3)との速度比〔(V2-V3)/V2〕が0以上0.1未満の範囲となる条件で、ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂組成物を溶融押出することを含む、方法。
【請求項2】
ポリビニルアセタール樹脂フィルム中の可塑剤の量がポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂組成物の総質量に基づいて0~20質量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも片面に機能性層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造方法であって、請求項1または2に記載の方法により得られたポリビニルアセタール樹脂フィルムの少なくとも片面に、前記機能性層を構成する材料をコート、印刷またはラミネートすることを含む、方法。
【請求項4】
機能性層が導電層である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
導電層がアンテナである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
導電層が線幅0.001~5mmの複数の線状導電性材料で構成されている、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
導電層が線幅1~30μmの複数の線状導電性材料で構成されている、請求項4~6のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアセタール樹脂フィルム、複数の透明基材の間に前記ポリビニルアセタール樹脂フィルムを有する積層体、および合わせガラスである前記積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
建物または乗物におけるガラスの着氷や曇りを除去する方法として、ガラスに熱風を当てる方法が知られている。しかし、この方法には、十分な前方視認性を得るのに時間がかかる等の問題がある。また、フロントガラス等のガラスに取り付けたカメラやセンサーの誤作動を防ぐため、カメラやセンサーの周りを加熱し、着氷や曇りを除去することが必要とされている。しかし、この除去に燃料の燃焼熱を利用できない電気自動車においては、電気で空気を加熱し、ガラスに熱風を当てる方法では効率が悪く、航続距離の低下に直結するといった問題がある。
【0003】
そこで、ガラスに電熱線を設置し、通電させることで、着氷や曇りを除去する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、機能層の上下に上側接着層および下側接着層を被せ、これらの上側・下側接着層の上下に上側ガラス板および下側ガラス板を被せ、前記下側接着層と前記下側ガラス板との間に電熱線を介在させてなる電熱線入り合わせガラスが記載されており、具体的には、電熱線としてタングステン線を使用した例が記載されている。
また、例えば、特許文献2には、透明基材、前記透明基材の少なくとも一面に備えられた接着剤層、前記接着剤層上に備えられた導電性発熱線、前記導電性発熱線および前記発熱線によって覆われていない接着剤層の上面をカプセル化するコーティング膜、前記導電性発熱線と電気的に連結したバスバー、および前記バスバーと連結した電源部を含む、発熱体が記載されており、具体的には、透明基材としてPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを使用した例が記載されている。
また、例えば、特許文献3には、2枚の透明なプレートと、少なくとも1枚のシートAおよび少なくとも1枚のシートBとを接着して、導電性構造体とを有する合わせガラス積層体を製造する方法であって、シートAはポリビニルアセタールPAと可塑剤WAとを含有し、シートBはポリビニルアセタールPBと可塑剤WBとを含有する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-056811号公報
【文献】特表2013-516043号公報
【文献】US 2016/288459 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されているような、ガラス板の間に多数のタングステン線を並べ、機能層と一体化させる工程は複雑で、生産性に劣る。さらに、太いタングステン線を用いるため、前方視認性に問題が残る。
特許文献2に記載されているような、PETフィルムを用いた接合ガラスでは、2枚の中間膜を必要とすること、そのため発熱体が接合ガラスの中央付近に位置することになりガラスの加熱効率が低下すること、PETフィルムが曲面追従性に劣るため高曲率のフロントガラスには適用できないこと、PETフィルムが伸縮性に劣るため衝突時の頭部衝撃指数が高くなってしまうこと、銅箔をPETフィルムに接着するための接着剤に由来する高いヘイズが生じてしまうことといった問題がある。
また、特許文献3には、一定範囲の平均表面粗さRzが好適な範囲として記載されているが、可塑剤量やフィルム厚み等の条件によっては、当該範囲であってもフィルムの熱収縮が十分に抑制されない場合があった。例えば、可塑剤を全くまたは少量しか含まないポリビニルアセタール樹脂フィルムの表面のタック性は低く、接する基材との間の摩擦は小さいため、そのようなフィルムが大きい収縮性と上記好適な範囲であっても比較的大きいRzとを有すると、当該フィルムと透明基材(例えばガラス等)とをラミネートした際にポリビニルアセタール樹脂フィルムの熱収縮が十分に抑制されない場合があり、例えば発熱細線で構成された機能性層が当該フィルムに付与される場合に断線等の問題が起こり得るため、より熱収縮しにくいフィルムが求められる場合があった。また、上記したようなフィルムに機能性層(例えばフィルム等)を積層するために加熱を伴う方法(例えば熱圧着等)を採用した場合、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの熱収縮が十分に抑制されないと、それに伴って機能性層に皺が発生しやすくなり、その結果外観が悪化する問題が起こり得るため、やはり、より熱収縮しにくいフィルムが求められる場合があった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、加熱を伴う工程において十分に抑制された収縮を示し、機能性層をポリビニルアセタール樹脂フィルムに付与するための熱処理時、または機能性層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムを透明基材の間に挟持するための熱処理時に機能性層の変形および破壊を抑制でき、機能性層との良好な接合性を発現できるポリビニルアセタール樹脂フィルム、および当該フィルムを用いた合わせガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため詳細に検討を重ね、本発明の完成に至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕少なくとも片面の平均表面粗さRzが3.0μm以下であり、複屈折Δnが3.0×10-4以下であり、平均厚みが200μm以下である、ポリビニルアセタール樹脂フィルム。
〔2〕110℃で30分間加熱した際のMD方向の収縮率が7%以下である、前記〔1〕に記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
〔3〕110℃で30分間加熱した際のTD方向の収縮率が4%以下である、前記〔1〕または〔2〕に記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
〔4〕110℃で30分間加熱した際のMD方向の収縮率およびTD方向の収縮率がいずれも4%以下である、前記〔3〕に記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
〔5〕前記フィルム中の可塑剤の量が前記フィルムを構成する樹脂組成物の総質量に基づいて0~20質量%である、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
〔6〕少なくとも片面に機能性層を有する、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
〔7〕前記機能性層が導電層である、前記〔6〕に記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
〔8〕前記導電層がアンテナである、前記〔7〕に記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
〔9〕前記導電層が線幅0.001~5mmの複数の線状導電性材料で構成されている、前記〔7〕または〔8〕に記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
〔10〕前記導電層が線幅1~30μmの複数の線状導電性材料で構成されている、前記〔7〕~〔9〕のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
〔11〕前記導電層を構成する導電性材料が銀または銅を含んでなる、前記〔7〕~〔10〕のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
〔12〕複数の透明基材の間に前記〔6〕~〔11〕のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂フィルムを有する、積層体。
〔13〕前記複数の透明基材の間に可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を更に有する、前記〔12〕に記載の積層体。
〔14〕前記透明基材がガラスである、前記〔12〕または〔13〕に記載の積層体。
〔15〕乗物用合わせガラスである、前記〔14〕に記載の積層体。
〔16〕80℃を超える温度から80℃以下の温度にフィルムの温度を冷却する冷却ロールの速度(V1)と巻取ロールの速度(V3)との速度比〔(V1-V3)/V1〕、またはフィルムの温度がロール間で80℃を超える温度から80℃以下の温度に冷める場合にはその直前のロールの速度(V2)と巻取ロールの速度(V3)との速度比〔(V2-V3)/V2〕が0以上0.1未満の範囲となる条件で、前記フィルムを構成する樹脂組成物を溶融押出することを含む、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造方法。
〔17〕前記フィルムの少なくとも片面に、前記機能性層を構成する材料をコート、印刷またはラミネートすることを含む、前記〔6〕~〔11〕のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムは、加熱を伴う工程において十分に抑制された収縮を示し、機能性層をポリビニルアセタール樹脂フィルムに付与するための熱処理時、または機能性層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムを透明基材の間に挟持するための熱処理時に機能性層の変形および破壊を抑制でき、機能性層との良好な接合性を発現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ポリビニルアセタール樹脂フィルムの製膜に用いた装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムは、少なくとも片面の平均表面粗さRzが3.0μm以下であり、複屈折Δnが3.0×10-4以下であり、平均厚みが200μm以下である。
【0012】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムの少なくとも片面の平均表面粗さRzは、3.0μm以下である。この値が3.0μmより大きいと、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの熱収縮は十分に抑制されず、機能性層をポリビニルアセタール樹脂フィルムに付与するための熱処理時、または機能性層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムを透明基材の間に挟持するための熱処理時に機能性層の変形および破壊を抑制できず、ポリビニルアセタール樹脂フィルムと機能性層との良好な接合性が得られない。ポリビニルアセタール樹脂フィルムの少なくとも片面の平均表面粗さRzは、好ましくは2.5μm以下、より好ましくは2.0μm以下である。この値が前記上限値以下であると、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの熱収縮がより抑制され、上記熱処理時に機能性層の変形および破壊がより抑制され、機能性層との良好な接合性を得やすい。
【0013】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムの熱収縮がより抑制され、上記熱処理時に機能性層の変形および破壊がより抑制される観点から、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの両面の平均表面粗さRzが前記上限値以下であることが好ましい。例えばポリビニルアセタール樹脂フィルムの両面に機能性層を付与する場合等は、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの熱収縮が機能性層の変形等に影響をより及ぼしやすいが、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの両面の平均表面粗さRzが前記上限値以下であると、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの熱収縮がより抑制され、好ましい。
【0014】
平均表面粗さRzは、JIS B0601-1994に準拠して測定される。平均表面粗さRzの下限値は特に限定されない。平均表面粗さRzは通常0.01μm以上である。
【0015】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムの少なくとも片面の平均表面粗さRzは、例えば、押出機を用いてポリビニルアセタール樹脂フィルムを製膜する際に、適切な表面形状または表面材質を有する冷却ロールを用いたり、当該冷却ロールにポリビニルアセタール樹脂フィルムが接する時間若しくはそのニップ圧、または溶融押出から巻取りまでのポリビニルアセタール樹脂フィルムの温度を制御したりすることによって、前記上限値以下に調整できる。
【0016】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムはまた、3.0×10-4以下の複屈折Δnを有する。この値が3.0×10-4より大きいと、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの熱収縮は十分に抑制されず、機能性層をポリビニルアセタール樹脂フィルムに付与するための熱処理時、または機能性層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムを透明基材の間に挟持するための熱処理時に機能性層の変形および破壊を抑制できず、ポリビニルアセタール樹脂フィルムと機能性層との良好な接合性が得られない。ポリビニルアセタール樹脂フィルムの複屈折Δnは、好ましくは2.0×10-4以下である。この値が前記上限値以下であると、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの熱収縮がより抑制され、上記熱処理時に機能性層の変形および破壊がより抑制され、機能性層との良好な接合性を得やすい。
【0017】
複屈折Δnは、ポリビニルアセタール樹脂フィルム内部の応力を把握するための指標として用いることができ、後述の実施例に記載の方法で測定される。複屈折Δnの下限値は特に限定されない。複屈折Δnは通常1.0×10-5以上である。
【0018】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムの複屈折Δnは、例えば、平均表面粗さRzを適当な小さい値に調整すること、押出機を用いてポリビニルアセタール樹脂フィルムを製膜する際に、溶融押出後の冷却ロール上におけるポリビニルアセタール樹脂フィルム温度を調整すること、後述するように駆動ロール(冷却ロールであってもよい)と巻取ロールとの速度比を調整してポリビニルアセタール樹脂フィルムにかかる張力が大きくなりすぎないように制御すること、冷却後のポリビニルアセタール樹脂フィルムの応力緩和のために30~70℃でテンションをかけずに熱処理すること等によって、前記上限値以下に調整できる。より具体的には、溶融押出直後の駆動ロールからのポリビニルアセタール樹脂フィルムの剥離点の温度がポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度より高い温度となるように冷却ロール温度および冷却ロールにポリビニルアセタール樹脂フィルムが接する時間等を調整し、かつ、駆動ロールと巻取ロールとの速度比が実質的にゼロとなるように設定することにより、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの複屈折Δnを前記上限値以下に調整できる。
【0019】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムが200μm以下、特に100μm以下の薄い平均厚みを有する場合は、特に前述した熱処理時にポリビニルアセタール樹脂フィルムの収縮が起こりやすいため、少なくともポリビニルアセタール樹脂フィルムの片面において平均表面粗さRzが2.5μm以下で、複屈折Δnが2.0×10-4以下であることが好ましく、少なくともポリビニルアセタール樹脂フィルムの片面において平均表面粗さRzが2.0μm以下で、複屈折Δnが2.0×10-4以下であることがより好ましい。また、同様の理由から、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの両面において、平均表面粗さRzが3.0μm以下で、複屈折Δnが3.0×10-4以下であることが好ましく、平均表面粗さRzが2.5μm以下で、複屈折Δnが2.0×10-4以下であることがより好ましく、平均表面粗さRzが2.0μm以下で、複屈折Δnが2.0×10-4以下であることが特に好ましい。
【0020】
平均表面粗さRzがポリビニルアセタール樹脂フィルムの熱収縮に影響を及ぼす作用機構は明らかではないが、下記作用機構が推定される。平均表面粗さRzが特定の値より小さくなるようにポリビニルアセタール樹脂フィルム表面が冷却ロールで賦形されることによって、比較的大きな面積で測定される複屈折Δnとしては検出されない微小領域での残留応力がポリビニルアセタール樹脂フィルム表面近傍に発現し、特に薄いポリビニルアセタール樹脂フィルムにおいてはフィルム厚さに対する表面近傍厚さの割合が高くなることから、そのような残留応力が(熱収縮性を含む)フィルム特性に及ぼす影響が相対的に大きくなるため、平均表面粗さRzが特定の値より小さいことによりポリビニルアセタール樹脂フィルムの熱収縮が顕著に抑制されるものと推定される。ただし、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムが上記効果に優れる理由(作用機構)について、仮に上記理由とは異なっていたとしても、本発明の範囲内であることをここで明記する。
【0021】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムはまた、200μmの平均厚みを有する。ポリビニルアセタール樹脂フィルムの平均厚みが200μmより大きいと、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を積層する場合に、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層からポリビニルアセタール樹脂フィルムへの可塑剤移行量が多くなり、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層中の可塑剤量が少なくなることに起因して、ポリビニルアセタール樹脂フィルムを用いた乗物用合わせガラスを搭載した乗物の衝突時における頭部衝撃が大きくなる等の問題が起こる。ポリビニルアセタール樹脂フィルムの平均厚みは、好ましくは150μm以下、より好ましくは75μm以下である。ポリビニルアセタール樹脂フィルムの平均厚みが前記上限値以下であると、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの熱収縮がより抑制され、上記熱処理時に機能性層の変形および破壊がより抑制され、上記問題が起こり難い。
【0022】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムは、好ましくは20~200μm、より好ましくは30~100μmの平均厚みを有する。ポリビニルアセタール樹脂フィルムの平均厚みが前記範囲内であると、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの熱収縮がより抑制されやすく、上記熱処理時に機能性層の変形および破壊がより抑制されやすく、上記した頭部衝撃が大きくなる等の問題が起こり難く、良好な製膜性を得やすい。
【0023】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムの厚みは、厚み計またはレーザー顕微鏡等を用いて測定される。
【0024】
好ましい一態様において、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムの、110℃で30分間加熱した際のMD方向(機械流れ方向)の収縮率は7%以下、好ましくは4%以下である。
好ましい一態様において、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムの、110℃で30分間加熱した際のTD方向(機械流れ方向に対して垂直なポリビニルアセタール樹脂フィルム面上の方向)の収縮率は4%以下、好ましくは3%以下である。
好ましい一態様において、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムの、110℃で30分間加熱した際のMD方向の収縮率およびTD方向の収縮率はいずれも4%以下、好ましくは3.5%以下である。
【0025】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムの収縮率が前記上限値以下であると、上記熱処理時に機能性層の変形および破壊がより抑制され、ポリビニルアセタール樹脂フィルムと機能性層とのより良好な接合性を得やすい。ポリビニルアセタール樹脂フィルムの収縮率は後述の実施例に記載の方法で測定される。なお、110℃の温度は、ポリビニルアセタール樹脂フィルムと機能性層(実施例では銅箔)との熱圧着時の一般的な温度を反映したものである。ポリビニルアセタール樹脂フィルムの収縮率は、例えば、平均表面粗さRz、複屈折Δnおよび平均厚みを所定の上限値以下に調整すること、粘度平均重合度の大きいポリビニルアセタール樹脂を用いることによって、前記上限値以下に調整できる。
【0026】
<ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂>
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂としては、ポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマー等のポリビニルアルコール系樹脂のアセタール化によって製造されるポリビニルアセタール樹脂を使用できる。
【0027】
ポリビニルアセタール樹脂は、1つのポリビニルアセタール樹脂から構成されていてもよく、粘度平均重合度、アセタール化度、酢酸ビニル単位の量、ビニルアルコール単位の量、エチレン単位の量、アセタール化に用いられるアルデヒドの分子量、および鎖長のうちいずれか1つ以上がそれぞれ異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂から構成されていてもよい。ポリビニルアセタール樹脂が異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂から構成される場合、溶融成形の容易性の観点、並びに積層体作製時の機能性層の変形、および積層体使用時のガラスのずれ等を防ぐ観点から、ポリビニルアセタール樹脂は粘度平均重合度の異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂の混合物であるか、または粘度平均重合度の異なる少なくとも2つのポリビニルアルコール系樹脂の混合物のアセタール化物であることが好ましい。
【0028】
ポリビニルアセタール樹脂は、例えば次のような方法によって製造できるが、これに限定されない。まず、濃度3~30質量%のポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマーの水溶液を、80~100℃の温度範囲で保持した後、10~60分かけて徐々に冷却する。温度が-10~30℃まで低下したところで、アルデヒドおよび酸触媒を添加し、温度を一定に保ちながら30~300分間アセタール化反応を行う。次に、反応液を30~200分かけて20~80℃の温度まで昇温し、30~300分保持する。続いて、反応液を必要に応じて濾過した後、アルカリ等の中和剤を添加して中和し、樹脂を濾過、水洗および乾燥することで、ポリビニルアセタール樹脂を得る。
【0029】
アセタール化反応に用いる酸触媒は特に限定されず、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸および塩酸等の有機酸および無機酸を使用できる。中でも、酸の強度および洗浄時の除去のしやすさの観点から、塩酸、硫酸および硝酸が好ましい。
【0030】
ポリビニルアセタール樹脂は、少なくとも1つのポリビニルアルコール系樹脂が、2~10個の炭素原子を有する1つ以上のアルデヒドまたはケト化合物によりアセタール化されたものであることが好ましい。上記ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコールおよびエチレンビニルアルコールコポリマー等が挙げられ、ポリビニルアルコールが好ましい。また、上記アルデヒドまたはケト化合物は、直鎖状、分岐状および環状のいずれでもよく、直鎖状または分岐状であることが好ましく、直鎖状の脂肪族アルデヒドであることがより好ましく、n-ブチルアルデヒドであることが特に好ましい。上記態様であるとき、ポリビニルアセタール樹脂は、好適な破断エネルギーを有する傾向にある。また、ポリビニルアセタール樹脂は、複数のアルデヒドまたはケト化合物の混合物によるアセタール化物であってもよく、該混合物におけるn-ブチルアルデヒドの含有量は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上が特に好ましい。ポリビニルアセタール樹脂は、n-ブチルアルデヒド100質量%によるアセタール化物であってもよい。
【0031】
ポリビニルアセタール樹脂の製造に使用されるポリビニルアルコール系樹脂は、単独であってもよく、粘度平均重合度または加水分解度等が異なる2つ以上のポリビニルアルコール系樹脂の混合物であってもよい。上記ポリビニルアルコール系樹脂の粘度平均重合度は、好ましくは100以上、より好ましくは300以上、より好ましくは400以上、さらに好ましくは600以上、特に好ましくは700以上、最も好ましくは750以上である。上記粘度平均重合度が上記下限値以上であると、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの熱収縮がより抑制され、先に記載した熱処理時に機能性層の変形および破壊がより抑制され、ポリビニルアセタール樹脂フィルムと機能性層とのより良好な接合性を得やすい。また、上記粘度平均重合度は、好ましくは5000以下、より好ましくは3000以下、さらに好ましくは2500以下、特に好ましくは2300以下、最も好ましくは2000以下である。上記粘度平均重合度が上記上限値以下であると良好な製膜性を得やすい。上記粘度平均重合度は、JIS K 6726「ポリビニルアルコール試験方法」に基づいて測定される。上記ポリビニルアルコール系樹脂が異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂から構成される場合、少なくとも1つのポリビニルアルコール系樹脂の粘度平均重合度が、前記下限値以上かつ前記上限値以下であることが好ましい。
【0032】
ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量の観点から、ポリビニルアセタール樹脂の製造原料であるポリビニルアルコール系樹脂中の主鎖の炭素2個からなる単位(例えば、ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位、エチレン単位など)を一繰返し単位とし、その一繰返し単位を基準として、酢酸ビニル単位の含有量が、好ましくは0.1~20モル%、より好ましくは0.5~8モル%、さらに好ましくは0.5~3モル%または5~8モル%である。上記酢酸ビニル単位の含有量は、原料のポリビニルアルコール系樹脂のケン化度を適宜調整することで調整できる。上記酢酸ビニル単位の含有量が上記範囲内であると、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの可塑剤相溶性および機械的強度が優れる傾向にあり、また、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を積層する場合に可塑化ポリビニルアセタール樹脂層とポリビニルアセタール樹脂フィルムとの良好な接合性が得られ、また光学歪の低減等が達成されやすい。ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂が異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、ポリビニルアセタール樹脂の平均の酢酸ビニル単位の含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0033】
ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は特に限定されない。アセタール化度は、ポリビニルアセタール樹脂の製造原料であるポリビニルアルコール系樹脂中の主鎖の炭素2個からなる単位(例えば、ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位、エチレン単位など)を一繰返し単位とし、その一繰返し単位を基準として、アセタールを形成する上記単位の量である。アセタール化度は、好ましくは40~86モル%、より好ましくは45~84モル%、さらに好ましくは50~82モル%、特に好ましくは60~82モル%、最も好ましくは68~82モル%である。アセタール化反応におけるアルデヒドの使用量を適宜調整することにより、上記アセタール化度は前記範囲内に調整できる。アセタール化度が前記範囲内であると、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムの力学的強度が十分となりやすく、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤との相溶性も低下しにくい。ポリビニルアセタール樹脂フィルムが異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1つのポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が上記範囲内であることが好ましい。
【0034】
ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量の観点から、ポリビニルアセタール樹脂の製造原料であるポリビニルアルコール系樹脂中の主鎖の炭素2個からなる単位(例えば、ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位、エチレン単位など)を一繰返し単位とし、その一繰返し単位を基準として、ビニルアルコール単位の含有量が、好ましくは16~34モル%、より好ましくは18~34モル%、より好ましくは22~34モル%、特に好ましくは26~34モル%、さらに遮音性能を合わせて付与するために好ましい範囲は9~29モル%、より好ましくは12~26モル%、さらに好ましくは15~23モル%、特に好ましくは16~20モル%である。アセタール化反応におけるアルデヒドの使用量を調整することにより、ビニルアルコール単位の含有量は前記範囲内に調整できる。ビニルアルコール単位の含有量が前記範囲内であると、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を積層する場合に可塑化ポリビニルアセタール樹脂層とポリビニルアセタール樹脂フィルムとの屈折率差が小さくなり、光学むらの少ない積層体を得やすい。ポリビニルアセタール樹脂フィルムが異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1つのポリビニルアセタール樹脂のビニルアルコール単位の含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0035】
ポリビニルアセタール樹脂は、通常、アセタールを形成する単位、ビニルアルコール単位および酢酸ビニル単位から構成されており、これらの各単位量は、JIS K 6728「ポリビニルブチラール試験方法」または核磁気共鳴法(NMR)によって測定される。
【0036】
ポリビニルアセタール樹脂の、ブルックフィールド型(B型)粘度計を用いて20℃、30rpmで測定された、濃度10質量%のトルエン/エタノール=1/1(質量比)溶液の粘度は、好ましくは120mPa・s超、より好ましくは150mPa・s超、特に好ましくは200mPa・s超である。ポリビニルアセタール樹脂の前記粘度が前記下限値以上であると、積層体の作製時に機能性層または導電層の変形および断線がより抑制されやすく、得られる積層体の高温下でのガラスのずれが防止されやすい。粘度平均重合度の高いポリビニルアルコール系樹脂を原料の少なくとも一部として用いることにより、前記粘度は前記下限値以上に調整できる。ポリビニルアセタール樹脂が異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂の混合物である場合、かかる混合物の前記粘度が前記下限値以上であることが好ましい。前記粘度の上限値は、良好な製膜性を得やすい観点から、通常は1000mPa・s、好ましくは800mPa・s、より好ましくは500mPa・s、さらに好ましくは450mPa・s、特に好ましくは400mPa・sである。
【0037】
ポリビニルアセタール樹脂のピークトップ分子量は好ましくは100,000~200,000、より好ましくは110,000~160,000、特に好ましくは111,000~150,000である。粘度平均重合度の高いポリビニルアルコール系樹脂を原料の少なくとも一部として用いることにより、上記ピークトップ分子量は前記範囲内に調整できる。上記ピークトップ分子量が前記範囲内であると、好適なフィルム製膜性および好適なフィルム物性(例えば、ラミネート適性、耐クリープ性および破断強度)を得やすい。
【0038】
ポリビニルアセタール樹脂の分子量分布、即ち重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、好ましくは2.2以上、より好ましくは2.3以上、特に好ましくは2.4以上である。粘度平均重合度の異なるポリビニルアルコール系樹脂の混合物をアセタール化したり、粘度平均重合度の異なるポリビニルアセタール樹脂を混合したりすることにより、上記分子量分布は前記下限値以上に調整できる。上記分子量分布が前記下限値以上であると、製膜性および好適なフィルム物性(例えば、ラミネート適性、耐クリープ性および破断強度)を両立させやすい。分子量分布の上限値は特に限定されない。製膜しやすさの観点から、分子量分布は通常は10以下、好ましくは5以下である。
【0039】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂が異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、含まれているポリビニルアセタール樹脂混合物のピークトップ分子量および分子量分布が、上記範囲内であることが好ましい。
ピークトップ分子量および分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用い、分子量既知のポリスチレンを標準として求められる。
【0040】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムは、良好な製膜性を得やすい観点から、未架橋のポリビニルアセタール樹脂を含むことが好ましいが、架橋されたポリビニルアセタールを含んでいてもよい。ポリビニルアセタールを架橋するための方法は、例えば、EP 1527107B1およびWO 2004/063231 A1(カルボキシル基含有ポリビニルアセタールの熱自己架橋)、EP 1606325 A1(ポリアルデヒドにより架橋されたポリビニルアセタール)、およびWO 2003/020776 A1(グリオキシル酸により架橋されたポリビニルアセタール)に記載されている。また、アセタール化反応条件を適宜調整することで、生成する分子間アセタール結合量をコントロールしたり、残存水酸基のブロック化度をコントロールしたりすることも有用な方法である。
【0041】
<可塑剤>
本発明において、ポリビニルアセタール樹脂フィルム中の可塑剤の量は、ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂組成物の総質量に基づいて、好ましくは0~20質量%、より好ましくは0~19質量%、より好ましくは0~15質量%、さらに好ましくは0~10質量%、特に好ましくは0~5質量%である。ポリビニルアセタール樹脂フィルム中の可塑剤の量が前記範囲内であると、製膜性および取扱い性に優れたポリビニルアセタール樹脂フィルムを製造しやすく、ポリビニルアセタール樹脂フィルムを有する積層体の作製時に機能性層または導電層の変形および断線を抑制しやすい。
【0042】
ポリビニルアセタール樹脂フィルム中に可塑剤が含まれる場合、可塑剤として、好ましくは、下記群の1つまたは複数の化合物が使用される。
・多価の脂肪族または芳香族酸のエステル。例えば、ジアルキルアジペート(例えば、ジヘキシルアジペート、ジ-2-エチルブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ヘキシルシクロヘキシルアジペート、ヘプチルアジペート、ノニルアジペート、ジイソノニルアジペート、ヘプチルノニルアジペート);アジピン酸とアルコール若しくはエーテル化合物を含むアルコールとのエステル(例えば、ジ(ブトキシエチル)アジペート、ジ(ブトキシエトキシエチル)アジペート);ジアルキルセバケート(例えば、ジブチルセバケート);セバシン酸と脂環式若しくはエーテル化合物を含むアルコールとのエステル;フタル酸のエステル(例えば、ブチルベンジルフタレート、ビス-2-ブトキシエチルフタレート);および脂環式多価カルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル(例えば、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル)が挙げられる。
・多価の脂肪族若しくは芳香族アルコールまたは1つ以上の脂肪族若しくは芳香族置換基を有するオリゴエーテルグリコールのエステルまたはエーテル。例えば、グリセリン、ジグリコール、トリグリコール、テトラグリコール等と、直鎖状若しくは分岐状の脂肪族若しくは脂環式カルボン酸とのエステルが挙げられる。具体的には、ジエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)(3GO)、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルブタノエート)、テトラエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)、テトラエチレングリコール-ビス-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコール-ビス-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコール-ビス-n-ヘキサノエート、ジプロピレングリコールベンゾエート等のエーテルエステル系化合物およびテトラエチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。
・脂肪族または芳香族のアルコールのリン酸エステル。例えば、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニル-2-エチルヘキシルホスフェート、およびトリクレジルホスフェートが挙げられる。
・クエン酸、コハク酸および/またはフマル酸のエステル。
・ビスフェノールAのエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド付加物。
【0043】
また、多価アルコールと多価カルボン酸とからなるポリエステル若しくはオリゴエステル、これらの末端エステル化物若しくはエーテル化物、ラクトン若しくはヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル若しくはオリゴエステル、またはこれらの末端エステル化物若しくはエーテル化物等を可塑剤として用いてもよい。
【0044】
ポリビニルアセタール樹脂フィルム中に可塑剤が含まれ、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を積層する場合、ポリビニルアセタール樹脂フィルムと積層する可塑化ポリビニルアセタール樹脂層との間で可塑剤が移行することに伴う問題(例えば、経時的な物性変化等の問題)を抑制する観点から、ポリビニルアセタール樹脂フィルムに含まれる可塑剤と可塑化ポリビニルアセタール樹脂層に含まれる可塑剤とが同じであるか、またはポリビニルアセタール樹脂フィルムおよび可塑化ポリビニルアセタール樹脂層の物性(例えば、耐熱性、耐光性、透明性および可塑化効率)を損なわない可塑剤を使用することが好ましい。このような観点から、可塑剤としてはエーテルエステル系化合物が好ましく、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)(3GO)、トリエチレングリコール-ビス(2-エチルブタノエート)、テトラエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)、テトラエチレングリコール-ビスヘプタノエートがより好ましく、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)が特に好ましい。
【0045】
<添加剤>
ポリビニルアセタール樹脂フィルムは、さらに別の添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤としては、例えば、水、紫外線吸収剤、酸化防止剤、接着調整剤、増白剤若しくは蛍光増白剤、安定剤、色素、加工助剤、有機若しくは無機ナノ粒子、焼成ケイ酸および表面活性剤等が挙げられる。
【0046】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムが機能性層として導電層を有する態様では、導電層の腐食を抑制するために、ポリビニルアセタール樹脂フィルムが腐食防止剤を含有することが好ましい。ポリビニルアセタール樹脂フィルムに含有される腐食防止剤の量は、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの質量に基づいて、好ましくは0.005~5質量%である。腐食防止剤の例としては、置換された、または置換されていないベンゾトリアゾールが挙げられる。
【0047】
<ポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造方法>
ポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造方法は特に限定されない。前記ポリビニルアセタール樹脂、場合により所定量の可塑剤、および必要に応じて他の添加剤を配合し、これを均一に混練した後、押出法、カレンダー法、プレス法、キャスティング法、インフレーション法等、公知の製膜方法によりシート(フィルム)を作製し、これをポリビニルアセタール樹脂フィルムとすることができる。
【0048】
公知の製膜方法の中でも特に押出機を用いてシート(フィルム)を製造する方法が好適に採用される。押出時の樹脂温度は150~250℃が好ましく、170~230℃がより好ましい。樹脂温度が高くなりすぎるとポリビニルアセタール樹脂が分解を起こし、揮発性物質の含有量が多くなる。一方で温度が低すぎる場合にも、揮発性物質の含有量は多くなる。揮発性物質を効率的に除去するためには、押出機のベント口から、減圧により揮発性物質を除去することが好ましい。押出機を用いてポリビニルアセタール樹脂フィルムを製造する場合、後述するように、金属箔上にフィルムを溶融押出してもよい。
【0049】
所望の平均表面粗さRz、複屈折Δnおよび平均厚みを得やすい観点から、押出機を用いてポリビニルアセタール樹脂フィルムを製膜する際の溶融押出直後の少なくとも1つの冷却ロールとして、適切な表面形状または表面材質を有する冷却ロール、例えば金属弾性ロール、その中でも硬質クロムメッキした金属弾性ロールを使用することが好ましい。同様の観点から、溶融押出直後の駆動ロールからの剥離点のポリビニルアセタール樹脂フィルムの温度が、ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度より高いことが好ましく、前記剥離点におけるポリビニルアセタール樹脂フィルム温度は、好ましくは80℃以上、より好ましくは83℃以上である。なお、ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成するポリビニルアセタール樹脂が異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂から構成される場合、前記剥離点におけるポリビニルアセタール樹脂フィルム温度が、少なくとも1つのポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度より高いことが好ましい。一方、前記剥離点におけるポリビニルアセタール樹脂フィルム温度が高すぎると、プロセスによっては自重に起因したたわみによる変形が生じたり、巻取時の不十分な冷却に起因したフィルムの自着等の問題が生じたりすることがあるため、前記剥離点におけるポリビニルアセタール樹脂フィルム温度は100℃未満であることが好ましい。また、同様の観点から、ガラス転移温度付近にまで温度が下がったポリビニルアセタール樹脂フィルムにかかる張力が大きくなりすぎないように制御することが好ましい。例えば、80℃を超える温度から80℃以下の温度にフィルムの温度を冷却する冷却ロールの速度(V1)と巻取ロールの速度(V3)との速度比〔(V1-V3)/V1〕を制御することが好ましい。また、フィルムの温度がロール間(例えば図1におけるロールBとロールCとの間)で80℃を超える温度から80℃以下の温度に冷める場合には、その直前のロールの速度(V2)と巻取ロールの速度(V3)との速度比〔(V2-V3)/V2〕を制御することが好ましい。この張力が大きすぎると、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの残留応力が大きくなり、加熱を伴う工程においてポリビニルアセタール樹脂フィルムの熱収縮が起きやすくなる。前記速度比は、好ましくは0~0.1、より好ましくは0~0.1未満、特に好ましくは0~0.05である。さらに、同様の観点から、冷却後のポリビニルアセタール樹脂フィルムの応力を緩和することも好ましく、その方法の例として、30~70℃でテンションをかけずに熱処理する方法が挙げられる。
【0050】
<機能性層>
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムは、少なくとも片面に機能性層を有することが好ましい。機能性層は、積層体に特定の機能を付与する層である。機能性層は1層または複数層であってよい。ポリビニルアセタール樹脂フィルムが複数の機能性層を有する場合、それぞれの機能性層の種類は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0051】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムの機能性層を有する面において、ポリビニルアセタール樹脂フィルムは、その面の全面に機能性層を有してもよいし、その面の一部に機能性層を有してもよい。後述するような可塑化ポリビニルアセタール樹脂層をポリビニルアセタール樹脂フィルムに積層して積層体を作製する場合は、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層中の可塑剤がポリビニルアセタール樹脂フィルムに移行できるよう、ポリビニルアセタール樹脂フィルムがその面の一部に機能性層を有することが好ましい。ただし、機能性層が可塑化ポリビニルアセタール樹脂層からポリビニルアセタール樹脂フィルムへの可塑剤の移行を阻害しない場合は、その限りでない。
【0052】
機能性層は、好ましくは、導電層、赤外線反射層または紫外線反射層のような特定波長電磁波反射層、色補正層、赤外線吸収層、紫外線吸収層、蛍光・発光層、遮音層、エレクトロクロミック層、フォトクロミック層、サーモクロミック層、意匠性層および高弾性率層からなる群から選択される1つ以上である。
【0053】
本発明の一態様において、機能性層は、好ましくは導電層である。
【0054】
導電層の厚みは、電気抵抗および製造の容易性等の観点から、好ましくは1~30μm、より好ましくは2~15μm、特に好ましくは3~10μmである。導電層の厚みは、厚み計またはレーザー顕微鏡等を用いて測定される。
【0055】
導電層は、電気抵抗、発熱性能、電磁波吸収性および光学特性等の観点から、好ましくは、線状、格子状または網状の形状を有する。ここで、線状の例としては、直線状、波線状およびジグザグ状等が挙げられる。1つの導電層において、形状は単一であってもよいし、複数の形状が混在していてもよい。
【0056】
本発明の一態様において、機能性層としての導電層は、好ましくはアンテナである。
【0057】
ある態様、例えば印刷法により導電層を形成し、例えば前方視認性の確保が重要でない領域で積層体(合わせガラス)を部分的に加熱したり、センサーまたはアンテナとして使用したりする態様では、十分な発熱量またはセンサー若しくはアンテナとしての機能性の確保および製造容易性の観点から、導電層は線幅0.001~5mmの複数の線状導電性材料で構成されていることが好ましい。即ち、前記した線状、格子状または網状の形状を構成する線状導電性材料(配線)の線幅は、好ましくは0.001~5mmである。前記線幅は、より好ましくは0.01~2mm、特に好ましくは0.03~1mmである。
【0058】
別の態様、例えば積層体を全面的に加熱する態様では、十分な発熱量および良好な前方視認性の両方を確保しやすい観点から、導電層は線幅1~30μmの複数の線状導電性材料で構成されていることが好ましい。即ち、前記した線状、格子状または網状の形状を構成する線状導電性材料の線幅は、好ましくは1~30μmである。前記線幅は、より好ましくは2~15μm、特に好ましくは3~12μmである。
【0059】
導電層を構成する導電性材料は、電気抵抗または発熱量の確保の容易性、および製造容易性の観点から、好ましくは銀または銅を含んでなり、より好ましくは銀または銅のみからなる。また、経済的観点から、導電層を構成する導電性材料は、より好ましくは銅を含んでなり、より好ましくは銅のみからなる。
【0060】
導電層の少なくとも一面が低反射率処理されていることが好ましく、導電層の全面が低反射率処理されていることがより好ましい。本発明において「低反射率処理されている」とは、JIS R 3106に準じて測定された可視光反射率が30%以下となるよう処理されていることを意味する。前方視認性の観点からは、可視光反射率が10%以下となるよう処理されていることがより好ましい。可視光反射率が前記上限値以下であると、後述するように導電層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムを用いて積層体を作製した際に、所望の可視光反射率を得やすく、積層体を乗物用合わせガラスとして使用した場合等に、前方視認性に優れる傾向にある。
【0061】
低反射率処理の方法としては、例えば、黒化処理(暗色化処理)、褐色化処理およびめっき処理等が挙げられる。工程通過性の観点から、低反射率処理は黒化処理であることが好ましい。従って、良好な前方視認性の観点から、可視光反射率が10%以下となるよう、導電層の片面、両面または全面が黒化処理されていることが特に好ましい。黒化処理は、具体的にはアルカリ系黒化液等を用いて行われる。
【0062】
<機能性層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造方法>
機能性層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造方法は特に制限されず、一態様では、好ましくは、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの少なくとも片面に、機能性層を構成する材料をコート、印刷またはラミネートすることを含む。
【0063】
前記機能性層を構成する材料をコート、印刷またはラミネートする方法は特に限定されない。
コートする方法としては、例えば、ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂組成物の溶融物を機能性層にコートする方法(例えば、機能性層上に前記樹脂組成物を溶融押出する方法、若しくは機能性層上に前記樹脂組成物をナイフ塗布等により塗布する方法);ポリビニルアセタール樹脂フィルムに蒸着、スパッタリングまたは電気蒸着により機能性層を付与する方法;機能性層が樹脂組成物からなる場合に、ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂組成物と機能性層を構成する樹脂組成物とを同時に押出する方法;または機能性層を構成する樹脂組成物の溶液中にポリビニルアセタール樹脂フィルムをディップする方法;が挙げられる。
印刷する方法としては、例えば、スクリーン印刷、フレキソ印刷、またはグラビア印刷が挙げられる。当該印刷する方法では、機能性層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムを積層する前に、乾燥するかまたは熱若しくは光により硬化するインクが使用される。
ラミネートする(貼合せる)方法としては、例えば、機能性層とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを重ねて熱圧着させる方法;溶媒、若しくはポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂および溶媒を含む樹脂組成物の溶液を、機能性層およびポリビニルアセタール樹脂フィルムの一方若しくは両方に塗布するか、または機能性層とポリビニルアセタール樹脂フィルムとの間に注入し、機能性層とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを接合させる方法;接着剤で機能性層とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを接合させる方法;が挙げられる。接着剤を使用して接合する方法において使用できる接着剤としては、当技術分野において一般的に使用される接着剤を使用してよく、アクリレート系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤およびホットメルト接着剤が挙げられる。光学的に優れた特性が求められる態様では、接着剤に由来するヘイズが生じない観点から、接着剤を使用せずに機能性層とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを接合する方法が好ましい。
【0064】
機能性層が導電層である態様では、印刷法において使用されるインクは導電性粒子および/または導電性繊維を含む。導電性粒子または導電性繊維は特に限定されず、例えば金属粒子(例えば金、銀、銅、亜鉛、鉄若しくはアルミニウムの粒子);金属で被覆された粒子若しくは繊維(例えば銀めっきされたガラス繊維若しくはガラス小球);または導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト若しくはグラフェンの粒子若しくは繊維;等が挙げられる。さらに、導電性粒子は、導電性金属酸化物の粒子等の半導体の粒子、例えばインジウムドープ酸化スズ、インジウムドープ酸化亜鉛またはアンチモンドープ酸化スズの粒子であってもよい。前記インクは、導電性の観点から、銀粒子、銅粒子および/またはカーボンナノチューブを含むことが好ましく、銀粒子または銅粒子を含むことがより好ましく、経済的観点から銅粒子を含むことが特に好ましい。
【0065】
本発明の好ましい一態様では、導電層(導電性構造体)は、金属箔のエッチング構造体である。この態様は、導電性構造体を付与する際の生産効率が高い観点および黒化処理がしやすい観点から好ましい。金属箔とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを接合させる工程は、例えば下記方法(I)~(III)のいずれかで行える。
(I)ポリビニルアセタール樹脂フィルムと金属箔とを重ねて熱圧着させる方法、
(II)金属箔上にポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂組成物の溶融物を被覆して接合する方法、例えば、金属箔上に前記樹脂組成物を溶融押出する方法、若しくは金属箔上に前記樹脂組成物をナイフ塗布等により塗布する方法、または
(III)溶媒、若しくはポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂および溶媒を含む樹脂組成物の溶液または分散液を、金属箔およびポリビニルアセタール樹脂フィルムの一方若しくは両方に塗布するか、または金属箔とポリビニルアセタール樹脂フィルムとの間に注入し、金属箔とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを接合させる方法。
【0066】
上記方法(I)における金属箔とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを熱圧着する際の接合温度は、ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂の種類に依存するが、通常は90~170℃、好ましくは100~160℃、より好ましくは105~155℃、さらに好ましくは105~150℃である。接合温度が上記範囲内であると、良好な接合強度を得やすい。
上記方法(II)における押出時の樹脂温度は、ポリビニルアセタール樹脂フィルム中の揮発性物質の含有量を低下させる観点から、150~250℃が好ましく、170~230℃がより好ましい。
上記方法(III)における溶媒としては、ポリビニルアセタール樹脂に通常使用される可塑剤を使用することが好ましい。そのような可塑剤としては、先の<可塑剤>の段落に記載されているものが使用される。
【0067】
得られた金属箔付ポリビニルアセタール樹脂フィルムから導電層の所望の形状を形成する工程は、公知のフォトリソグラフィの手法を用いて行える。前記工程は、例えば後の実施例に記載のとおり、まず金属箔付ポリビニルアセタール樹脂フィルムの金属箔上にドライフィルムレジストをラミネートした後、フォトリソグラフィの手法を用いてエッチング抵抗パターンを形成し、次いで、エッチング抵抗パターンが付与されたポリビニルアセタール樹脂フィルムを銅エッチング液に浸漬して導電層の形状を形成した後、公知の方法により残存するフォトレジスト層を除去することによって行える。
【0068】
一態様において、導電層の少なくとも一面は低反射率処理されているが、かかる態様は、例えば、少なくとも一方の面が低反射率処理された金属箔を使用することで達成される。また、上述のフォトリソグラフィの方法により導電層の形状を形成した後に低反射率処理してもよい。金属箔および導電層の低反射率処理は、先に記載したようにアルカリ系黒化液等を用いて実施できる。
【0069】
導電層を形成する導電性材料は、電気抵抗または発熱量の確保の容易性、および製造容易性の観点から、好ましくは銀または銅を含んでなり、より好ましくは銀または銅のみからなる。また、経済的観点から、導電層を形成する導電性材料は、より好ましくは銅を含んでなり、より好ましくは銅のみからなる。
【0070】
<積層体>
本発明はまた、複数の透明基材の間に、前記した機能性層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムを有する積層体に関する。本発明はまた、複数の透明基材の間に、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を更に有する前記積層体、即ち、複数の透明基材の間に、前記した機能性層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルム、および可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を有する積層体に関する。
【0071】
機能性層が導電層である態様では、前記積層体における導電層の各配線はバスバーと接続されている。バスバーとしては、当技術分野において通常使用されバスバーが使用され、例えば、金属箔テープ、導電性粘着剤付き金属箔テープおよび導電性ペースト等が挙げられる。また、導電層を形成する際同時にバスバーも印刷したり、金属箔の一部をバスバーとして残したりすることによりバスバーを形成してもよい。バスバーにはそれぞれ給電線が接続され、各給電線が電源に接続されることにより、電流が導電層に供給される。
【0072】
透明基材は、透明性、耐候性および力学的強度の観点から、好ましくは無機ガラス(以下、単にガラスと称することもある)、またはメタクリル樹脂シート、ポリカーボネート樹脂シート、ポリスチレン系樹脂シート、ポリエステル系樹脂シート、若しくはポリシクロオレフィン系樹脂シート等の有機ガラスであり、より好ましくは無機ガラス、メタクリル樹脂シートまたはポリカーボネート樹脂シートであり、特に好ましくは無機ガラスである。無機ガラスとしては特に制限されないが、フロートガラス、強化ガラス、半強化ガラス、化学強化ガラス、グリーンガラスまたは石英ガラス等が挙げられる。従って、本発明の好ましい一態様では、透明基材はガラスである。
【0073】
積層体が機能性層として導電層を有する場合、導電層は、透明基材と接していてもよいし、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を積層する場合は可塑化ポリビニルアセタール樹脂層と接していてもよいし、または別の機能性層と接していてもよい。
透明基材がガラスである場合は、導電層がガラスと直接接していると、バスバーおよび/または導電層の封止が不十分となって水分が侵入してバスバーおよび/または導電層の腐食を招いたり、或いは積層体製造時に空気が残存して気泡残存や剥がれの原因を招いたりすることがあるため、導電層がガラスと直接接しないことが好ましい。
また、特に乗物用ガラス、とりわけ乗物用フロントガラスにおいて、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムを使用する場合は、前方視認性の観点から、導電層の低反射率処理されている面が乗車人物側にくるよう、導電層を配置することが好ましい。
【0074】
積層体が機能性層として導電層を有する場合、積層体端部から水分が侵入して導電層の腐食を招くことがあるため、導電層は、積層体の端部より1cm以上内側に配置されていることが好ましい。
【0075】
本発明における積層体は下記層構成を有することができるが、これらに限定されない。
(1)透明基材A/ポリビニルアセタール樹脂フィルム/機能性層A/透明基材Bの4層構成、
(2)透明基材A/ポリビニルアセタール樹脂フィルム/機能性層A/機能性層B/透明基材Bの5層構成、
(3)透明基材A/機能性層B/ポリビニルアセタール樹脂フィルム/機能性層A/透明基材Bの5層構成、
(4)透明基材A/ポリビニルアセタール樹脂フィルム/機能性層A/可塑化ポリビニルアセタール樹脂層/透明基材Bの5層構成、
(5)透明基材A/可塑化ポリビニルアセタール樹脂層/ポリビニルアセタール樹脂フィルム/機能性層A/透明基材Bの5層構成、
(6)透明基材A/可塑化ポリビニルアセタール樹脂層/ポリビニルアセタール樹脂フィルム/機能性層A/可塑化ポリビニルアセタール樹脂層/透明基材Bの6層構成、
(7)透明基材A/機能性層B/ポリビニルアセタール樹脂フィルム/機能性層A/可塑化ポリビニルアセタール樹脂層/透明基材Bの6層構成、
(8)透明基材A/ポリビニルアセタール樹脂フィルム/機能性層A/機能性層B/可塑化ポリビニルアセタール樹脂層/透明基材Bの6層構成、
(9)透明基材A/ポリビニルアセタール樹脂フィルム/機能性層A/可塑化ポリビニルアセタール樹脂層/機能性層B/透明基材Bの6層構成、
(10)透明基材A/機能性層B/可塑化ポリビニルアセタール樹脂層/ポリビニルアセタール樹脂フィルム/機能性層A/透明基材Bの6層構成、
(11)透明基材A/可塑化ポリビニルアセタール樹脂層/ポリビニルアセタール樹脂フィルム/機能性層A/機能性層B/可塑化ポリビニルアセタール樹脂層/透明基材Bの7層構成、
(12)透明基材A/機能性層B/可塑化ポリビニルアセタール樹脂層/ポリビニルアセタール樹脂フィルム/機能性層A/可塑化ポリビニルアセタール樹脂層/透明基材Bの7層構成、
(13)透明基材A/可塑化ポリビニルアセタール樹脂層/機能性層B/ポリビニルアセタール樹脂フィルム/機能性層A/可塑化ポリビニルアセタール樹脂層/透明基材Bの7層構成。
【0076】
主に乗物の外側の透明基材を加熱すること、例えば透明基材に積もった雪を溶かすことが要求される場合、乗物の外側の透明基材にポリビニルアセタール樹脂フィルムが接し、導電層が存在すること、例えば前記層構成(4)において透明基材Aが外側透明基材で透明基材Bが内側透明基材であり、機能性層Aが導電層である構成を有することが好ましい。
主に乗物の内側の透明基材を加熱すること、例えば乗物内の曇りを除去することが要求される場合、乗物の内側の透明基材にポリビニルアセタール樹脂フィルムが接し、導電層が存在すること、例えば前記層構成(4)において透明基材Aが内側透明基材で透明基材Bが外側透明基材であって、機能性層Aが導電層である構成を有することが好ましい。
【0077】
<可塑化ポリビニルアセタール樹脂層>
積層体は、前記ポリビニルアセタール樹脂フィルムに加えて、1つ以上の可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を有してもよい。このような可塑化ポリビニルアセタール樹脂層としては特に限定されず、通常使用される、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含んでなる可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を使用できる。前記ポリビニルアセタール樹脂は、例えば、先の<ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂>の段落において記載したポリビニルアセタール樹脂であってよく、同段落に記載の方法と同様の方法によって製造できる。
【0078】
可塑化ポリビニルアセタール樹脂層における可塑剤の含有量は、層の積層前の初期状態では、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を構成する樹脂組成物における樹脂100質量部に対して、好ましくは19質量部以上、より好ましくは19~56質量部、さらに好ましくは28~47質量部、特に好ましくは35~43質量部である。可塑剤の含有量が前記範囲内であると、耐衝撃性に優れた積層体を得やすい。また、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層として、遮音機能を有する可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を用いることもできる。その場合、可塑剤の含有量は、層の積層前の初期状態では、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を構成する樹脂組成物における樹脂100質量部に対して、好ましくは42質量部以上、より好ましくは42~100質量部、さらに好ましくは45~67質量部、特に好ましくは47~54質量部である。
可塑剤としては、先の<可塑剤>の段落において記載した可塑剤を使用してよい。
【0079】
可塑化ポリビニルアセタール樹脂層は、必要に応じて、先の<添加剤>の段落において記載した添加剤を含有してもよい。
【0080】
可塑化ポリビニルアセタール樹脂層は、先の<ポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造方法>の段落において記載した方法により製造できる。
【0081】
可塑化ポリビニルアセタール樹脂層の厚みは、好ましくは100~1600μm、より好ましくは350~1200μm、さらに好ましくは700~900μmである。可塑化ポリビニルアセタール樹脂層の厚みが前記範囲内であると、優れた耐貫通性を得やすい。上記厚みは、厚み計またはレーザー顕微鏡等を用いて測定される。
【0082】
積層体が可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を有する場合、前記ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成するポリビニルアセタール樹脂のビニルアルコール単位の量と、前記可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を構成するポリビニルアセタール樹脂のビニルアルコール単位の量との差は、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成するポリビニルアセタール樹脂または可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を構成するポリビニルアセタール樹脂が複数の樹脂の混合物からなる場合、ポリビニルアセタール樹脂層を構成するポリビニルアセタール樹脂の平均ビニルアルコール単位の量と、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層のポリビニルアセタール樹脂の平均ビニルアルコール単位の量とが、前記関係を満たしていることが好ましい。前記差が前記上限値以下であると、積層体において可塑剤が移行した後の平衡状態におけるポリビニルアセタール樹脂フィルムと可塑化ポリビニルアセタール樹脂層との屈折率差が小さくなることから、互いに寸法が異なる可塑化ポリビニルアセタール樹脂層とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを使用した場合にその境界が視認しにくいため好ましい。
一方、ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成するポリビニルアセタール樹脂のビニルアルコール単位の量と、前記可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を構成するポリビニルアセタール樹脂のビニルアルコール単位の量とに差をつけることで、可塑剤が移行した後の平衡状態においてポリビニルアセタール樹脂フィルムにおける可塑剤量と可塑化ポリビニルアセタール樹脂層における可塑剤量との間に差をつけ、遮音性能に優れる積層体を得ることも可能である。その場合、前記ビニルアルコール単位の量の差は好ましくは5モル%以上、より好ましくは8モル%以上である。
【0083】
可塑化ポリビニルアセタール樹脂層は市販の可塑化ポリビニルブチラールシートであってもよく、赤外線吸収能または反射能を持つナノ粒子が分散された可塑化ポリビニルアセタール樹脂層、着色された可塑化ポリビニルアセタール樹脂層、または遮音機能を有する可塑化ポリビニルアセタール樹脂層であってもよい。
【0084】
<積層体の製造方法>
積層体は、当業者に公知の方法で製造できる。例えば、透明基材の上に機能性層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムおよび場合により可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を任意の順で任意の枚数重ねて配置し、さらにもう一つの透明基材を重ねたものを、予備圧着工程として温度を高めることによってポリビニルアセタール樹脂フィルムおよび場合により可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を透明基材に全面または局所的に融着させ、次いでオートクレーブで処理することで、積層体を製造できる。
【0085】
また、機能性層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルム、並びに場合により可塑化ポリビニルアセタール樹脂層および/または別の機能性層をあらかじめ予備接着した上で2つの透明基材の間に配置して高温で互いに融着させることにより、積層体を製造してもよい。
【0086】
上記予備圧着工程としては、過剰の空気を除去したり隣接する層同士の軽い接合を実施したりする観点から、バキュームバッグ、バキュームリング、または真空ラミネーター等の方法により減圧下に脱気する方法、ニップロールを用いて脱気する方法、および高温下に圧縮成形する方法等が挙げられる。例えばEP 1235683 B1に記載のバキュームバッグ法またはバキュームリング法は、例えば約2×10Paおよび130~145℃で実施される。真空ラミネーターは、加熱可能かつ真空可能なチャンバーからなり、このチャンバーにおいて、約20分~約60分の時間内に積層体が形成される。通常は1Pa~3×10Paの減圧および100℃~200℃、特に130℃~160℃の温度が有効である。真空ラミネーターを用いる場合、温度および圧力に応じて、オートクレーブでの処理を行わなくてもよい。
【0087】
オートクレーブでの処理は、例えば約1×10Pa~約1.5×10Paの圧力および約100℃~約145℃の温度で20分~2時間程度実施される。
【0088】
第1の透明基材上に、機能性層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムおよび場合により可塑化ポリビニルアセタール樹脂層および場合により別の機能性層を配置する方法は特に限定されず、種々の方法が適用される。例えば、機能性層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムおよび場合により可塑化ポリビニルアセタール樹脂層および場合により別の機能性層は、相応の幅のロールから供給し、目的の大きさに切断して配置してもよいし、あらかじめ目的の大きさに切断しておいたフィルムを配置してもよい。例えば、自動車フロントガラスの場合、ロールから供給された、導電層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムおよび場合により可塑化ポリビニルアセタール樹脂層および場合により別の機能性層を加熱・延伸、切断し、扇型に加工したものを用いてもよい。
【0089】
自動車分野では、特にフロントガラスを製造する際、ガラスの上部がいわゆるカラーシェード領域を有する場合もある。そのため、ポリビニルアセタール樹脂フィルムおよび/または積層する場合の可塑化ポリビニルアセタール樹脂層は、相応に着色されたポリマー溶融物と一緒に押出されるか、またはポリビニルアセタール樹脂フィルムおよび可塑化ポリビニルアセタール樹脂層のうちの少なくとも1つが部分的に異なる着色を有していてよい。従って、ポリビニルアセタール樹脂フィルムおよび/または積層する場合の可塑化ポリビニルアセタール樹脂層は、フロントガラスの形状に適合されたカラーグラデーションを有してもよい。
【0090】
可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を積層する場合、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層は、くさび形の厚さプロファイルを有していてもよい。このとき積層体は、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの厚さプロファイルが平行平面である場合でも、くさび形の厚さプロファイルを有することができ、自動車フロントガラスにおいてヘッドアップディスプレイ(HUD)に使用できる。
【0091】
本発明の積層体は、建物または乗物に用いられる合わせガラスとして使用できる。従って、本発明はまた、乗物用合わせガラスである積層体に関する。乗物用合わせガラスとは、汽車、電車、自動車、船舶または航空機といった乗物のための、フロントガラス、リアガラス、ルーフガラスまたはサイドガラス等を意味する。
【0092】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルム、および機能性層としての少なくとも一面が低反射率処理(例えば黒化処理)された導電層を用いて作製された積層体の低反射率処理面(例えば黒化処理面)側から光を照射した場合のヘイズは、通常2.0以下であり、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.5以下である。本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムおよび機能性層としての導電層を用いて作製された積層体の金属光沢面側から光を照射した場合のヘイズは、通常3.0以下、好ましくは2.8以下、より好ましくは2.5以下である。前記ヘイズは、JIS R 3106に準じて測定される。特定の平均表面粗さRz、複屈折Δnおよび平均厚みを有する本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムを用い、導電層の線幅を細くすることにより、前記ヘイズは前記上限値以下に調整できる。
【実施例
【0093】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されない。実施例および比較例における評価は、下記方法により行った。
【0094】
<ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂のピークトップ分子量および分子量分布の測定>
ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分析した。GPC分析には、分析装置としてViscotek製GPCmaxTDA305およびRI検出器を用い、カラムとしてShodex製GPC KF-806LおよびGPC KF-806Lを2本連結して別途先端にガードカラムとしてのShodex製 KF-Gを連結したものを用い、THF溶媒および標準ポリスチレン(Agilent Technologies社製 Easical GPC/SEC Calibration Standards PS-1)を用い、解析ソフトとしてOmniSE、C4.7を用いた。40℃、注入量100μLで測定を行い、前記樹脂のピークトップ分子量および分子量分布を求めた。
【0095】
<平均表面粗さRz>
JIS B0601-1994に準拠して、後述するロールA側のポリビニルアセタール樹脂フィルム面(以下において「1面」とも称する)およびロールB側のポリビニルアセタール樹脂フィルム面(以下において「2面」とも称する)の各々について、平均表面粗さRzを測定した。
【0096】
<複屈折Δnの測定>
複屈折/位相差評価システム(フォトニックラティス製、WPA-100)を用いてポリビニルアセタール樹脂フィルムの複屈折Δnに関する情報を得た。この評価システムでは2次元の面分布データとして位相差を測定でき、これを、ポリビニルアセタール樹脂フィルム内部の応力を把握するための指標として用いた。具体的には、光源の偏光状態を計測してベースラインを取得し、実施例および比較例で得たポリビニルアセタール樹脂フィルムから50mm×50mmのサイズに切り取ったサンプルフィルムを測定位置に置いてサンプルフィルムのリタデーションRdを測定し、測定面内のRdの平均値をサンプルフィルムの平均厚みで割ることにより、複屈折Δnを算出した。
【0097】
<110℃で30分間加熱した際のポリビニルアセタール樹脂フィルムの収縮率の測定>
ポリビニルアセタール樹脂フィルムの寸法変化を抑制しない状態(そのまま網棚の上に置く等の状態)で20℃、30%RHにて2日間、押出製膜したポリビニルアセタール樹脂フィルムを調湿処理に付した。次いで、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの中央部から、二辺が流れ方向(MD方向)と平行になり、残りの二辺が幅方向(TD方向)と平行になるように一辺約20cmの正方形のサンプルフィルムを切り出し、切り出したサンプルフィルムのMD方向の長さおよびTD方向の長さを0.1cm単位で測定した。その後、サンプルフィルムを固定することなくテフロン(登録商標)シートの上に置き、110℃に設定した熱風乾燥機に30分間投入した。乾燥機から取り出したサンプルフィルムのMD方向の長さおよびTD方向の長さを0.1cm単位で測定し、下記式を用いてMD方向の収縮率およびTD方向の収縮率を算出した。
収縮率(%)={(熱処理前の長さ-熱処理後の長さ)/熱処理前の長さ}×100
【0098】
<導電性構造体の外観の評価>
後述するフォトリソグラフィ後およびオートクレーブ後の導電層(導電性構造体)の状態を、ルーペを用いて目視観察し、配線の変形および断線の有無を下記基準で評価した。
A…変形および断線は認められなかった。
B…部分的に変形は認められたが、断線は認められなかった。
C…断線が顕著であった。
【0099】
[実施例1]
表1に示す物性を有するポリビニルブチラール樹脂1(以下、「樹脂1」と称する)およびポリビニルブチラール樹脂2(以下、「樹脂2」と称する)を、75:25の質量比で混合し、溶融混練してストランド状に押出し、ペレット化した。単軸押出機とTダイを用いて、得られたペレットを230℃で溶融押出した。冷却ロールとして金属弾性ロール(ロールA)および硬質ゴムロール(ロールB)を用い、金属弾性ロール側の表面(1面)が特に平滑である、平均厚み50μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムaを得た。ポリビニルアセタール樹脂フィルムaの製膜に用いた装置の概略図を図1に示す。赤外放射式温度計を用いてロールBからの剥離点(図1参照)のポリビニルアセタール樹脂フィルムaの温度を測定し、その温度が85℃となるようにTダイの温度および冷却ロールAおよびBの温度を調節した。また、冷却ロールBとロールCとの間でフィルムの温度は85℃から80℃以下の温度に冷めており、ロールBと巻取ロールとの速度比を0.01となるように設定した。なお、ロールBと巻取ロールとの速度比は、下記の式に従って算出した。
速度比(-)={ロールBの速度(m/分)-巻取ロールの速度
(m/分)}/ロールBの速度(m/分)
得られたポリビニルアセタール樹脂フィルムaの平均表面粗さRz、複屈折Δn、および110℃で30分間加熱した際の収縮率を求めた。その結果および用いた樹脂のGPC分析結果を表2にまとめる。
【0100】
【表1】
【0101】
<銅箔が接合されたポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造>
製造したポリビニルアセタール樹脂フィルムaに、片面が黒化処理された厚み7μmの銅箔を、黒化処理面とポリビニルアセタール樹脂フィルムaの1面とが接するような向きで重ねた。次に、その上下を厚み50μmのPETフィルムで挟み、110℃に設定した熱圧着ロールの間を通過(圧力:0.2MPa、速度0.5m/分)させた後、上下のPETフィルムを剥離することにより、銅箔が接合されたポリビニルアセタール樹脂フィルムaを得た。
【0102】
<導電層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造>
製造した、銅箔が接合されたポリビニルアセタール樹脂フィルムaの銅箔上に、ドライフィルムレジストをラミネートした後、フォトリソグラフィの手法を用いてエッチング抵抗パターンを形成した。次に、前記エッチング抵抗パターンが形成された、銅箔が接合されたポリビニルアセタール樹脂フィルムaを、銅エッチング液に浸漬して導電性構造体を形成した後、常法により、残存するフォトレジスト層を除去した。これにより、導電層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムaを得た。この導電層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムaは、ポリビニルアセタール樹脂フィルムaと導電性構造体(導電層)との間に接着剤層を有していない。導電性構造体は、縦横各5cmの正方形の内部に、線幅10μmの銅線が500μm間隔で格子状に並んだ銅メッシュ構造を有し、その上辺および下辺がバスバーに相当する幅5mmの銅線構造と接続された構造を有しており、導電性構造体として機能できるものであった。得られた、導電層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムaについて、導電性構造体の外観評価を行った。結果を表2に示す。
【0103】
<積層体の作製>
得られた導電性構造体を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムを、縦5cm、横5cmに切り出し、縦10cm、横10cm、厚み3mmのガラスの上に配置した。このとき、前記フィルムの導電性構造体を有さない面がガラスと接する向きで、かつ導電性構造体がガラスの中央付近にくるように配置した。次に、導電性構造体の両端部にある各々のバスバー(5mm幅銅線)に、電極(導電性粘着剤付き銅箔テープ)を、ガラスから外へ各電極端部がはみ出すように貼り付けた。さらに、その上に、縦10cm、横10cm、厚み0.76mmの可塑化ポリビニルアセタール樹脂層(ビニルアルコール単位の量29モル%および粘度平均重合度1700のポリビニルブチラール樹脂100質量部に対して可塑剤として3GOを39質量部含有する)、および縦10cm、横10cm、厚み3mmのガラスを重ねて配置した。
続いて、これを真空バッグに入れ、真空ポンプを用いて室温で15分間減圧にした後、減圧したまま100℃まで昇温し、そのまま60分間加熱した。降温後、常圧に戻し、プレラミネート後の積層体を取り出した。その後、これをオートクレーブに投入し、140℃、1.2MPaで30分間処理し、積層体を作製した。得られた積層体について、導電性構造体の外観評価を行った。結果を表2に示す。
【0104】
[実施例2]
樹脂1と樹脂2との混合割合を表2に記載の割合に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂フィルムbを製造し、積層体の作製および評価を行った。
【0105】
[実施例3]
硬質ゴムロールに代えて金属弾性ロールを使用した、即ち、ロールAおよびロールBとして金属弾性ロールを使用したこと以外は実施例2と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂フィルムcを製造し、積層体の作製および評価を行った。
【0106】
[実施例4]
フィルムの平均厚みを180μmに変更したこと以外は実施例3と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂フィルムdを製造し、積層体の作製および評価を行った。
【0107】
[比較例1]
ロールAの金属弾性ロールを硬質ゴムロールに変更したこと、ロールBからの剥離点のフィルム温度を85℃から70℃に変更したこと、およびロールBと巻取ロールとの速度比を0.01から0.10に変更したこと以外は実施例2と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂フィルムeを製造し、積層体の作製および評価を行った。
【0108】
[比較例2]
フィルムの平均厚みを75μmに変更したこと、ロールBからの剥離点のフィルム温度を70℃から75℃に変更したこと、およびロールBと巻取ロールとの速度比を0.10から0.20に変更したこと以外は比較例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂フィルムfを製造し、積層体の作製および評価を行った。
【0109】
[比較例3]
ロールBからの剥離点のフィルム温度を85℃から60℃に変更したこと、およびロールBと巻取ロールとの速度比を0.01から-0.10に変更したこと以外は実施例2と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂フィルムgを製造し、積層体の作製および評価を行った。
【0110】
[比較例4]
ロールBからの剥離点のフィルム温度を60℃から80℃に変更したこと、およびロールBと巻取ロールとの速度比を-0.10から0.37に変更したこと以外は比較例3と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂フィルムhを製造し、積層体の作製および評価を行った。
【0111】
[比較例5]
フィルムの平均厚みを100μmに変更したこと、およびロールBと巻取ロールとの速度比を0.37から0.64に変更したこと以外は比較例4と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂フィルムiを製造し、積層体の作製および評価を行った。
【0112】
【表2】
【0113】
表2に示されているとおり、ポリビニルアセタール樹脂フィルムについて、少なくとも片面の平均表面粗さRzが3.0μm以下であり、複屈折Δnが3.0×10-4以下であり、平均厚みが200μm以下であるとき(実施例1~4)、加熱した際のポリビニルアセタール樹脂フィルムの収縮率は小さく、また、フォトリソグラフィ後もオートクレーブ後も、即ち、導電層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムにおいても積層体においても、導電性構造体の変形および断線は認められなかった。一方、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの複屈折Δnのみが本発明における要件を満たさないとき(比較例1および3~5)、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの平均表面粗さRzのみが本発明における要件を満たさないとき(比較例2)、加熱した際のポリビニルアセタール樹脂フィルムのMD方向の収縮率およびTD方向の収縮率の少なくとも一方が大きく、導電層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムにおいても積層体においても、導電性構造体の変形または断線が認められた。
図1