(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】改質セルロース繊維の製造方法及び改質セルロース繊維
(51)【国際特許分類】
C08B 11/193 20060101AFI20231030BHJP
D06M 13/11 20060101ALI20231030BHJP
D01F 2/00 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
C08B11/193
D06M13/11
D01F2/00 Z
(21)【出願番号】P 2020525589
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2019023096
(87)【国際公開番号】W WO2019240128
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2018112238
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018112239
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】吉田 穣
(72)【発明者】
【氏名】柴田 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】中川 晴香
(72)【発明者】
【氏名】熊本 吉晃
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 徳祐
(72)【発明者】
【氏名】浅井 優作
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-002201(JP,A)
【文献】特開平03-223301(JP,A)
【文献】特開2017-053077(JP,A)
【文献】特開平06-009702(JP,A)
【文献】特開2008-074962(JP,A)
【文献】特開平08-169901(JP,A)
【文献】特表2016-540104(JP,A)
【文献】特表2013-539815(JP,A)
【文献】特表2009-522394(JP,A)
【文献】特許第6893803(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 11/193
D06M 13/11
D01F 2/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース原料に対し、下記工程A及び工程B
を工程A、工程Bの順番で行う、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維の製造方法。
工程A:水を
50質量%以上含んだ溶媒中、
工程Aにおける全成分の混合物の10質量%以下の塩基存在下で、下記一般式(1)、(2)及び(3)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群A)をエーテル結合を介してセルロース繊維に導入する工程
-R
1 (1)
-CH
2-CH(OH)-R
2 (2)
-CH
2-CH(OH)-CH
2-(OA)
n-O-R
2 (3)
〔式中、R
1は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、R
2はそれぞれ独立して水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上3以下の2価の炭化水素基である。〕
工程B:水を含んだ溶媒中、塩基存在下で、下記一般式(4)、(5)及び(6)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群B)をエーテル結合を介してセルロース繊維に導入する工程
-R
3 (4)
-CH
2-CH(OH)-R
3 (5)
-CH
2-CH(OH)-CH
2-(OA)
n-O-R
3 (6)
〔式中、R
3はそれぞれ独立して炭素数5以上30以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。〕
【請求項2】
工程Aにおける水を含んだ溶媒が水であるか、又は水と、エタノール、イソプロパノール、t-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンからなる群より選択される1種以上の溶媒との混合物を含むものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程Bにおける水を含んだ溶媒が水であるか、又は水と、エタノール、イソプロパノール、t-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンからなる群より選択される1種以上の溶媒との混合物を含むものである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)で示される置換基をセルロース繊維に導入するために用いられる化合物が、下記一般式(1A)で示されるハロゲン化炭化水素である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
X-R
1 (1A)
〔式中、Xはハロゲン原子であり、R
1は炭素数1以上4以下の炭化水素基である。〕
【請求項5】
前記一般式(2)で示される置換基をセルロース繊維に導入するために用いられる化合物が、下記一般式(2A)で示される酸化アルキレン化合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【化1】
〔式中、R
2は水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基である。〕
【請求項6】
前記一般式(3)で示される置換基をセルロース繊維に導入するために用いられる化合物が、下記一般式(3A)で示されるグリシジルエーテル化合物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【化2】
〔式中、R
2は水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上3以下の2価の炭化水素基である。〕
【請求項7】
前記一般式(4)で示される置換基をセルロース繊維に導入するために用いられる化合物が、下記一般式(4B)で示されるハロゲン化炭化水素である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
X-R
3 (4B)
〔式中、Xはハロゲン原子であり、R
3は炭素数5以上30以下の炭化水素基である。〕
【請求項8】
前記一般式(5)で示される置換基をセルロース繊維に導入するために用いられる化合物が、下記一般式(5B)で示される酸化アルキレン化合物である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【化3】
〔式中、R
3は炭素数5以上30以下の炭化水素基である。〕
【請求項9】
前記一般式(6)で示される置換基をセルロース繊維に導入するために用いられる化合物が、下記一般式(6B)で示されるグリシジルエーテル化合物である、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【化4】
〔式中、R
3は炭素数5以上30以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。〕
【請求項10】
工程Aの後、工程Bを行う製造方法であって、工程Aと工程Bの間に洗浄処理工程を実施しない、請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
工程Bにおける水を含んだ溶媒が水を3質量%以上含むものである、請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
セルロース原料に対し下記工程を行う、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維の製造方法。
工程:水を50質量%以上含んだ溶媒中、該工程における全成分の混合物の10質量%以下の塩基存在下で、
下記一般式(1)、(2)及び(3)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群A)
-R
1
(1)
-CH
2
-CH(OH)-R
2
(2)
-CH
2
-CH(OH)-CH
2
-(OA)
n
-O-R
2
(3)
〔式中、R
1
は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、R
2
はそれぞれ独立して水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上3以下の2価の炭化水素基である。〕、並びに
下記一般式(4)、(5)及び(6)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群B)
-R
3
(4)
-CH
2
-CH(OH)-R
3
(5)
-CH
2
-CH(OH)-CH
2
-(OA)
n
-O-R
3
(6)
〔式中、R
3
はそれぞれ独立して炭素数5以上30以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。〕
をエーテル結合を介してセルロース繊維に同時に導入する工程
【請求項13】
工程における水を含んだ溶媒が水であるか、又は水と、エタノール、イソプロパノール、t-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンからなる群より選択される1種以上の溶媒との混合物を含むものである、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
セルロース原料に対し、下記工程A及び工程Bを工程A、工程Bの順番で行う製造方法で得られる
、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維。
工程A:水を50質量%以上含んだ溶媒中、工程Aにおける全成分の混合物の10質量%以下の塩基存在下で、下記一般式(1)、(2)及び(3)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群A)をエーテル結合を介してセルロース繊維に導入する工程
-R
1
(1)
-CH
2
-CH(OH)-R
2
(2)
-CH
2
-CH(OH)-CH
2
-(OA)
n
-O-R
2
(3)
〔式中、R
1
は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、R
2
はそれぞれ独立して水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上3以下の2価の炭化水素基である。〕
工程B:水を含んだ溶媒中、塩基存在下で、下記一般式(4)、(5)及び(6)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群B)をエーテル結合を介してセルロース繊維に導入する工程
-R
3
(4)
-CH
2
-CH(OH)-R
3
(5)
-CH
2
-CH(OH)-CH
2
-(OA)
n
-O-R
3
(6)
〔式中、R
3
はそれぞれ独立して炭素数5以上30以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。〕
【請求項15】
セルロース原料に対し下記工程を行う製造方法で得られる、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維。
工程:水を50質量%以上含んだ溶媒中、該工程における全成分の混合物の10質量%以下の塩基存在下で、
下記一般式(1)、(2)及び(3)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群A)
-R
1
(1)
-CH
2
-CH(OH)-R
2
(2)
-CH
2
-CH(OH)-CH
2
-(OA)
n
-O-R
2
(3)
〔式中、R
1
は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、R
2
はそれぞれ独立して水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上3以下の2価の炭化水素基である。〕、並びに
下記一般式(4)、(5)及び(6)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群B)
-R
3
(4)
-CH
2
-CH(OH)-R
3
(5)
-CH
2
-CH(OH)-CH
2
-(OA)
n
-O-R
3
(6)
〔式中、R
3
はそれぞれ独立して炭素数5以上30以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。〕
をエーテル結合を介してセルロース繊維に同時に導入する工程
【請求項16】
樹脂と請求項14
又は15に記載された改質セルロース繊維とを混合する工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項17】
下記一般式(1)、(2)及び(3)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群A)、並びに
下記一般式(4)、(5)及び(6)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群B)が、
それぞれ独立して、エーテル結合を介してセルロース繊維に結合しており、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維であって、
CuKα線を用いたX線回折分析において2θ=18-21°に回折ピークを有する、改質セルロース繊維。
-R
1 (1)
-CH
2-CH(OH)-R
2 (2)
-CH
2-CH(OH)-CH
2-(OA)
n-O-R
2 (3)
〔式中、R
1は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、R
2はそれぞれ独立して水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上3以下の2価の炭化水素基である。〕
-R
3 (4)
-CH
2-CH(OH)-R
3 (5)
-CH
2-CH(OH)-CH
2-(OA)
n-O-R
3 (6)
〔式中、R
3はそれぞれ独立して炭素数5以上30以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。〕
【請求項18】
固形分含有量を0.5質量%とした時の改質セルロース繊維の分散液の粘度が1mPa・s以上500mPa・s以下である、請求項
17に記載の改質セルロース繊維。
【請求項19】
有機媒体及び樹脂からなる群より選択される1種以上と、請求項
17又は18に記載の改質セルロース繊維とを含有する分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改質セルロース繊維の製造方法に関する。さらに本発明は改質セルロース繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有限な資源である石油由来のプラスチック材料が多用されていたが、近年、環境に対する負荷の少ない技術が脚光を浴びるようになり、かかる技術背景の下、天然に多量に存在するバイオマスであるセルロース繊維を用いた材料が注目されている。
【0003】
例えば特許文献1には、有機媒体中に分散することが可能なセルロース繊維を提供すること等を目的として、ヒドロキシル官能基がエーテル結合により疎水置換された、特定の置換基構造を有する改質セルロース繊維が開示されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
即ち、本発明の要旨は、下記の〔1〕~〔6〕に関する。
〔1〕 セルロース原料に対し、下記工程A及び工程Bを、同時に又は工程A、工程Bの順番で行う、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維の製造方法。
工程A:水を含んだ溶媒中、塩基存在下で、下記一般式(1)、(2)及び(3)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群A)をエーテル結合を介してセルロース繊維に導入する工程
-R1 (1)
-CH2-CH(OH)-R2 (2)
-CH2-CH(OH)-CH2-(OA)n-O-R2 (3)
〔式中、R1は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、R2はそれぞれ独立して水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上3以下の2価の炭化水素基である。〕
工程B:水を含んだ溶媒中、塩基存在下で、下記一般式(4)、(5)及び(6)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群B)をエーテル結合を介してセルロース繊維に導入する工程
-R3 (4)
-CH2-CH(OH)-R3 (5)
-CH2-CH(OH)-CH2-(OA)n-O-R3 (6)
〔式中、R3はそれぞれ独立して炭素数5以上30以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。〕
【0006】
〔2〕 前記一般式(1)、(2)及び(3)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群A)をエーテル結合を介して有する部分改質セルロース繊維に対して下記工程Bを行う、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維の製造方法。
工程B:水を含んだ溶媒中、塩基存在下で、前記一般式(4)、(5)及び(6)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群B)をエーテル結合を介して前記部分改質セルロース繊維に導入する工程
〔3〕 前記〔1〕又は〔2〕に記載の製造方法で得られる改質セルロース繊維。
〔4〕 樹脂と前記〔3〕に記載された改質セルロース繊維とを混合する工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
〔5〕 前記一般式(1)、(2)及び(3)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群A)、並びに
前記一般式(4)、(5)及び(6)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群B)が、
それぞれ独立して、エーテル結合を介してセルロース繊維に結合しており、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維であって、
CuKα線を用いたX線回折分析において2θ=18-21°に回折ピークを有する、改質セルロース繊維。
〔6〕 有機媒体及び樹脂からなる群より選択される1種以上と、前記〔3〕又は〔5〕に記載の改質セルロース繊維とを含有する分散体。
【発明の詳細な説明】
【0007】
特許文献1における改質セルロース繊維は、置換基を導入する際に多量の有機溶媒や有機塩基を必要とするため、これら有機溶媒・有機塩基自体のコスト負荷が課題である。
特許文献1における改質セルロース繊維は、有機溶媒や樹脂等の疎水性成分中で高い分散性を有するため、改質セルロース繊維を樹脂等に配合した場合に、耐熱性や機械的強度に優れた成形体を製造することができる。加えて、高い増粘作用を有することから、有機溶媒の増粘剤として利用することもできる。
一方、金型への注入のしやすさ等の取扱い性の観点からは、増粘作用を示さない改質セルロース繊維も求められている。
【0008】
本発明者らが上記課題を検討した結果、設備面ではこれら有機溶媒・有機塩基を用いるための防爆設備や除害設備等の特殊な設備の導入が必要となることや、工程面では有機溶媒・有機塩基の分留・除去処理工程等の導入が必要となることから、これら有機溶媒・有機塩基の使用量を抑制することによって、製造コストの大幅な低減が可能となることを見出した。
【0009】
本発明は、有機溶媒や樹脂等といった疎水性成分への分散性に優れる改質セルロース繊維を、製造コストの低減が見込める水を含む反応系を用いて製造する方法に関する。さらに本発明は、有機溶媒や樹脂等といった疎水性成分への分散性に優れ、かつ増粘性が小さい改質セルロース繊維に関する。
【0010】
本発明の製造方法は、水を含んだ溶媒を用いて疎水的なセルロースの改質を行うことに関し、さらに本発明は、有機溶媒や樹脂等といった疎水性成分への分散性に優れる改質セルロース繊維を、製造コストの低減を達成しつつ製造することに関する。さらに本発明は、有機溶媒や樹脂等といった疎水性成分への分散性に優れ、かつ増粘性が小さい改質セルロース繊維に関する。
【0011】
〔改質セルロース繊維の製造方法〕
本発明の、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維の製造方法は、セルロース原料に対し、水を含んだ溶媒中、塩基存在下で、下記工程A及び工程Bを、同時に又はA、Bの順番で行う方法である。工程A及び工程Bによって、所定の置換基がエーテル結合を介してセルロース繊維に導入される。なお、本明細書において、所定の置換基をエーテル結合を介してセルロース原料に導入するために用いられる化合物を「エーテル化剤」という。更に本明細書において、「置換基をエーテル結合を介してセルロース繊維に導入」とは、セルロース繊維表面の水酸基とエーテル化剤とを反応させて、エーテル結合により該水酸基に置換基を結合させることを意味する。更に本明細書において、工程A及び工程Bのいずれか一方によって所定の置換基が導入されたセルロース繊維を、「部分改質セルロース繊維」と称することがある。
【0012】
[セルロース原料]
本発明で用いられるセルロース原料は、木本系(針葉樹・広葉樹)、草本系(イネ科、アオイ科、マメ科の植物原料、ヤシ科の植物の非木質原料)、パルプ類(綿の種子の周囲の繊維から得られるコットンリンターパルプ等)、紙類(新聞紙、段ボール、雑誌、上質紙等)等が挙げられる。なかでも、入手性及びコストの観点から、木本系、草本系が好ましい。
【0013】
セルロース原料の形状は取扱い性の観点から、繊維状、粉末状、球状、チップ状、フレーク状が好ましい。また、これらの混合物であってもよい。
【0014】
セルロース原料の平均繊維径は、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、同様の観点から、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは300μm以下である。
【0015】
セルロース原料の平均繊維長は、入手性及びコストの観点から、好ましくは1,000μm以上であり、より好ましくは1,500μm以上であり、同様の観点から、好ましくは5,000μm以下であり、より好ましくは3,000μm以下である。セルロース原料の平均繊維径及び平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0016】
かかるセルロース原料に対して、工程A及び工程Bを行うことによって、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維を製造する。以下、本発明の製造方法を、工程A及び工程BをA、Bの順番で行う方法(態様1)と工程A及び工程Bを同時に行う方法(態様2)とに分けて説明する。
【0017】
[態様1の工程A]
本態様の工程Aでは、セルロース原料とエーテル化剤とを反応させて、部分改質セルロース繊維を得る。
【0018】
[工程Aで導入される置換基]
工程Aで導入される置換基は、下記一般式(1)~(3)からなる群より選択される1種以上の置換基(本明細書において、「置換基群A」と称する。)である。これらの置換基は単独で又は任意の組み合わせでセルロース原料に導入される。
-R1 (1)
-CH2-CH(OH)-R2 (2)
-CH2-CH(OH)-CH2-(OA)n-O-R2 (3)
〔式中、R1は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、R2はそれぞれ独立して水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上3以下の2価の炭化水素基である。〕
【0019】
一般式(1)におけるR1は炭素数1以上4以下の炭化水素基であるが、置換基の導入効率の観点から、好ましくは炭素数2以上であり、反応性の観点から、好ましくは炭素数3以下である。R1の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アリル基、ブチル基、イソブチル基が例示される。
【0020】
一般式(2)及び(3)におけるR2は水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基であるが、置換基の導入効率の観点から、好ましくは炭素数2以上であり、反応性の観点から、好ましくは炭素数3以下である。R2の具体例としては、メチル基、エチル基、ビニル基、プロピル基、イソプロピル基、アリル基、ブチル基、イソブチル基、ブテニル基が例示される。
【0021】
一般式(3)におけるnはアルキレンオキサイドの付加モル数を示す。nは0以上50以下の数であるが、入手性及びコストの観点から、好ましくは3以上であり、より好ましくは5以上であり、更に好ましくは10以上であり、同様の観点及び低極性溶媒との親和性の観点から、好ましくは40以下であり、より好ましくは30以下であり、更に好ましくは20以下であり、更に好ましくは15以下である。
【0022】
一般式(3)におけるAは、炭素数1以上3以下の2価の炭化水素基であり、隣接する酸素原子とオキシアルキレン基を形成する。Aの炭素数は、入手性及びコストの観点から、好ましくは2以上である。Aの具体例としては、エチレン基、プロピレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0023】
[セルロース原料の濃度]
工程Aにおける原料、触媒、溶媒等の全成分の混合物(以下、「全成分の混合物」とも称する。)中のセルロース原料を配合する際の濃度は、使用するセルロース原料の純度や形状、エーテル化剤の構造、用いる反応装置等によって一概には決定されないが、製造効率の観点から、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上であり、更に好ましくは10質量%以上であり、一方、ハンドリング性の観点から、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下であり、更に好ましくは45質量%以下である。
【0024】
[水を含んだ溶媒]
工程Aは水を含んだ溶媒中で行われる。水を含んだ溶媒において水が占める割合は、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、30質量%以上が更に好ましく、50質量%以上が更に好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80%以上であっても良く、90%以上であっても良く、95%以上であっても良く、99%以上であっても良い。水を含んだ溶媒は水のみからなるものでもよい。コスト低減の観点から、水を含んだ溶媒としては水が好ましい。水以外の溶媒としては、25℃の水100gに5g以上溶解する溶媒(以下、親水性溶媒とも言う。)が好ましいものとして挙げられる。水を含んだ溶媒が水と1種以上の親水性溶媒との混合物である場合、各溶媒の混合割合は特に限定されず、使用するエーテル化剤に応じて適宜混合割合を設定することができる。
【0025】
本工程における好ましい親水性溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、t-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンからなる群より選択される1種以上である。これらの親水性溶媒の中で、取扱い性およびコストの観点から、エタノール、イソプロパノール、t-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンが好ましく、エタノール、イソプロパノール、t-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール及び1,3-ブタンジオールがより好ましい。
【0026】
水を含んだ溶媒の使用量としては、セルロース原料やエーテル化剤の種類、用いる反応装置によって一概には決定されないが、セルロース原料100質量部に対して、反応性の観点から、好ましくは30質量部以上であり、より好ましくは50質量部以上であり、更に好ましくは75質量部以上であり、更に好ましくは100質量部以上であり、更に好ましくは200質量部以上であり、生産性の観点から、好ましくは10,000質量部以下であり、より好ましくは7,500質量部以下であり、更に好ましくは5,000質量部以下であり、更に好ましくは2,500質量部以下であり、更に好ましくは1,000質量部以下である。
【0027】
[塩基]
塩基はエーテル化反応を進行させるための触媒もしくはセルロース原料の反応活性化剤として機能する。用いられる塩基としては、設備負荷および工程負荷軽減の観点から、無機塩基が好ましく、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。中でも、入手性およびコストの観点から、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムであり、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムであり、更に好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムであり、更に好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0028】
塩基の使用量は、使用する塩基の種類やエーテル化剤の種類によって一概には決定できないが、セルロース原料の無水グルコースユニットに対して、エーテル化反応を進行させる観点から、好ましくは0.01当量以上であり、より好ましくは0.05当量以上であり、更に好ましくは0.1当量以上であり、更に好ましくは0.2当量以上であり、製造コストの観点から、好ましくは10当量以下であり、より好ましくは8当量以下であり、更に好ましくは5当量以下であり、更に好ましくは3当量以下である。なお、本明細書において、無水グルコースユニットを「AGU」と略記する。AGUはセルロース原料がすべて無水グルコースユニットで構成されていると仮定して算出される。
【0029】
塩基を配合する際の濃度は、使用する塩基の種類やエーテル化剤の種類によって一概には決定できないが、工程Aにおける全成分の混合物中、製造効率の観点から、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上であり、更に好ましくは0.5質量%以上であり、更に好ましくは1質量%以上であり、一方、セルロースI型結晶構造を維持する観点から、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは7.5質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以下である。
【0030】
[エーテル化剤]
エーテル化剤としては、セルロース原料と反応する際に、置換基群Aをセルロース繊維に導入することができるものであれば特に制限はないが、反応性の観点から、反応性を有する環状構造基を有する化合物及び/又は有機ハロゲン化合物が好ましく、エポキシ基及び/又はハロゲン化炭化水素基を有する化合物がより好ましい。以下にそれぞれの化合物を説明する。
【0031】
一般式(1)で示される置換基を有する化合物としては、例えば、下記一般式(1A)で示されるハロゲン化炭化水素基を有する化合物が好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。該化合物の総炭素数としては、疎水基導入効率の観点から、1以上であり、好ましくは2以上であり、反応性の観点から、好ましくは4以下であり、より好ましくは3以下である。
X-R1 (1A)
〔式中、Xはハロゲン原子であり、R1は炭素数1以上4以下の炭化水素基である。〕
【0032】
一般式(1A)におけるR1の炭素数及び具体例は、一般式(1)におけるR1の炭素数及び具体例と同じである。
【0033】
一般式(1A)で示される化合物の具体例としては、クロロメタン、クロロエタン、1-クロロプロパン、2-クロロプロパン、1-クロロブタン、2-クロロブタン、ブロモメタン、ブロモエタン、1-ブロモプロパン、2-ブロモプロパン、1-ブロモブタン、2-ブロモブタン、ヨードメタン、ヨードエタン、1-ヨードプロパン、2-ヨードプロパン、1-ヨードブタン、2-ヨードブタンが挙げられる。
【0034】
一般式(2)で示される置換基を有する化合物としては、例えば、下記一般式(2A)で示される酸化アルキレン化合物が好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。該化合物の総炭素数としては、疎水基導入効率の観点から、2以上であり、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上であり、反応性の観点から、好ましくは6以下であり、より好ましくは5以下である。
【0035】
【0036】
〔式中、R2は水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基である。〕
【0037】
一般式(2A)におけるR2の炭素数及び具体例は、一般式(2)におけるR2の炭素数及び具体例と同じである。
【0038】
一般式(2A)で示される化合物の具体例としては、酸化エチレン、酸化プロピレン、酸化ブチレン、3,4-エポキシ-1-ブテン、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシ-5-ヘキセンが挙げられる。
【0039】
一般式(3)で示される置換基を有する化合物としては、例えば、下記一般式(3A)で示されるグリシジルエーテル化合物が好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。該化合物の総炭素数としては、疎水基導入効率の観点から、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上であり、更に好ましくは5以上であり、改質セルロース繊維を樹脂組成物に適用した際に得られる樹脂組成物の成形体の機械的強度、耐熱性、及び寸法安定性の観点から、好ましくは100以下であり、より好ましくは50以下であり、更に好ましくは25以下であり、更に好ましくは10以下である。
【0040】
【0041】
〔式中、R2は水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上3以下の2価の炭化水素基である。〕
【0042】
一般式(3A)におけるR2の炭素数及び具体例は、一般式(3)におけるR2の炭素数及び具体例と同じである。
【0043】
一般式(3A)におけるnはアルキレンオキサイドの付加モル数を示す。nの値の好適範囲は、一般式(3)におけるnの値の好適範囲と同じである。
【0044】
一般式(3A)におけるAは、炭素数1以上3以下の2価の炭化水素基であり、隣接する酸素原子と結合してオキシアルキレン基を形成する。Aの炭素数の好適範囲及び具体例は、一般式(3)におけるAの炭素数の好適範囲及び具体例と同じである。
【0045】
一般式(3A)で示される化合物の具体例としては、グリシドール、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、イソプレニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテルが挙げられる。
【0046】
エーテル化剤の使用量は、得られる改質セルロース繊維における置換基の所望の導入の程度および使用するエーテル化剤の構造によって一概には決定できないが、例えば、改質セルロース繊維を樹脂組成物に適用した際に得られる樹脂組成物の成形体の機械的強度の観点から、セルロース原料の無水グルコースユニットの1ユニットに対して、かかる化合物の量は、好ましくは10.0当量以下であり、より好ましくは8.0当量以下であり、更に好ましくは7.0当量以下であり、更に好ましくは6.0当量以下であり、好ましくは0.02当量以上であり、より好ましくは0.05当量以上であり、更に好ましくは0.1当量以上であり、更に好ましくは0.3当量以上であり、更に好ましくは1.0当量以上である。ここで、2種類以上のエーテル化剤を使用する場合、エーテル化剤の量は個々のエーテル化剤の合計量である。
【0047】
工程Aにおける全成分の混合物中のエーテル化剤を配合する際の濃度は、得られる改質セルロース繊維における置換基の所望の導入の程度および使用するエーテル化剤の構造によって一概には決定できないが、反応効率の観点から、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、更に好ましくは10質量%以上であり、更に好ましくは15質量%以上であり、更に好ましくは17質量%以上であり、一方、製造効率の観点から、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下であり、更に好ましくは60質量%以下であり、更に好ましくは55質量%以下であり、更に好ましくは52質量%以下である。
【0048】
[エーテル化反応]
エーテル化剤とセルロース原料とのエーテル化反応は、水を含んだ溶媒中、塩基存在下で、両者を混合することにより行うことができる。
【0049】
混合条件としては、セルロース原料やエーテル化剤が均一に混合され、十分に反応が進行できるのであれば特に制限はなく、連続的な混合処理を行っても行わなくてもよい。比較的大きな反応容器を用いる場合には、反応温度を制御する観点から、適宜攪拌を行ってもよい。
【0050】
工程Aにおける温度としては、セルロース原料やエーテル化剤の種類及び目標とする導入の程度によって一概には決定されないが、反応性を向上させる観点から、好ましくは25℃以上であり、より好ましくは30℃以上であり、更に好ましくは35℃以上であり、更に好ましくは40℃以上であり、更に好ましくは45℃以上であり、熱分解を抑制する観点から、好ましくは120℃以下であり、より好ましくは110℃以下であり、更に好ましくは100℃以下であり、更に好ましくは90℃以下であり、更に好ましくは80℃以下であり、更に好ましくは70℃以下である。また、必要に応じて適宜昇温・降温過程を設けてもよい。
【0051】
工程Aにおける時間としては、セルロース原料やエーテル化剤の種類及び目標とする導入の程度によって一概には決定されないが、反応性の観点から、好ましくは0.1時間以上であり、より好ましくは0.5時間以上であり、更に好ましくは1時間以上であり、更に好ましくは3時間以上であり、更に好ましくは6時間以上であり、更に好ましくは10時間以上であり、生産性の観点から、好ましくは60時間以下であり、より好ましくは48時間以下であり、更に好ましくは36時間以下である。
【0052】
工程Aの後は、未反応の化合物や塩基等を除去するために、適宜後処理を行うことができる。該後処理の方法としては、例えば、未反応の塩基を酸(有機酸、無機酸等)で中和(中和処理)し、その後、未反応の化合物や塩基が溶解する溶媒を用いて洗浄(洗浄処理)することができる。所望により、更に乾燥(真空乾燥等)を行ってもよい。
【0053】
一方、工程Bで導入される置換基の反応性を高めて、置換基群Bのモル置換度を向上させる観点から、意外にも上記の洗浄処理は行わない方が好ましい。即ち、工程Aと工程Bの間に、洗浄処理工程を有さないことが工程Bの反応性の観点から好ましい。これは、工程Aの置換基群Aの未反応の副生成物が、工程Bの置換基群Bと溶媒との相溶化剤として働くためと考えられる。例えば、工程Aの置換基群として酸化プロピレンを用いた場合、プロピレングリコールが副生成物として生成し、相溶化剤として働くと考えられる。洗浄処理工程を省略することで、廃水量低減による環境負荷低減や、工程短縮化による生産効率向上の効果も期待することができる。
【0054】
[態様1の工程B]
本態様の工程Bでは、工程Aを経て得られる部分改質セルロース繊維とエーテル化剤とを反応させて、改質セルロース繊維を得る。
【0055】
工程Aを経て得られる部分改質セルロース繊維は、置換基群Aをエーテル結合を介して有する部分改質セルロース繊維であるので、本発明の態様1は、かかる部分改質セルロース繊維に対して下記工程Bを行う、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維の製造方法である。
工程B:水を含んだ溶媒中、塩基存在下で、下記一般式(4)、(5)及び(6)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群B)をエーテル結合を介して前記部分改質セルロース繊維に導入する工程
-R3 (4)
-CH2-CH(OH)-R3 (5)
-CH2-CH(OH)-CH2-(OA)n-O-R3 (6)
〔式中、R3はそれぞれ独立して炭素数5以上30以下の、炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。〕
【0056】
[工程Bで導入される置換基]
工程Bで導入される置換基は、前記一般式(4)~(6)からなる群より選択される1種以上の置換基(本明細書において、「置換基群B」と称する。)である。これらの置換基は単独で又は任意の組み合わせで導入される。
【0057】
一般式(4)、(5)及び(6)におけるR3は、炭素数5以上30以下の炭化水素基であるが、疎水性発現の観点から、好ましくは炭素数7以上であり、入手性及び反応性の観点から、好ましくは炭素数26以下であり、より好ましくは22以下であり、更に好ましくは18以下である。R3の具体例としては、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、トリアコンチル基等の飽和アルキル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基等の不飽和アルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、クレジル基、ナフチル基、トリチル基等の環状構造を有する炭化水素基が例示される。
【0058】
一般式(6)におけるnはアルキレンオキサイドの付加モル数を示す。nは0以上50以下の数であるが、入手性及びコストの観点から、好ましくは3以上であり、より好ましくは5以上であり、更に好ましくは10以上であり、同様の観点から、好ましくは40以下であり、より好ましくは30以下であり、更に好ましくは20以下であり、更に好ましくは15以下である。
【0059】
一般式(6)におけるAは、炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基であり、隣接する酸素原子とオキシアルキレン基を形成する。Aの炭素数は、入手性及びコストの観点から、好ましくは2以上であり、同様の観点から、好ましくは4以下であり、より好ましくは3以下である。Aの具体例としては、エチレン基、プロピレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0060】
[部分改質セルロース繊維の濃度]
工程Bにおける全成分の混合物中の部分改質セルロース繊維を配合する際の濃度は、エーテル化剤の構造や用いる反応装置等によって一概には決定されないが、製造効率の観点から、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上であり、更に好ましくは10質量%以上であり、一方、ハンドリング性の観点から、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下であり、更に好ましくは45質量%以下であり、更に好ましくは40質量%以下である。
【0061】
[水を含んだ溶媒]
工程Bは水を含んだ溶媒中で行われる。工程Bにおける溶媒の好ましい範囲は、工程Aの水を含んだ溶媒と同じである。
【0062】
水を含んだ溶媒の使用量としては、エーテル化剤の種類や用いる反応装置等によって一概には決定されないが、工程Aの水を含んだ溶媒の使用量と同様である。
【0063】
[塩基]
本工程で用いられる塩基としては、特に制限はないが、工程Aで列挙されたものが挙げられる。
【0064】
塩基の量は、使用する塩基の種類やエーテル化剤の種類によって一概には決定できないが、工程Aの塩基の量と同様である。
【0065】
塩基の濃度は、使用する塩基の種類やエーテル化剤の種類によって一概には決定できないが、工程Bにおける全成分の混合物中の好適範囲は、工程Aの塩基の濃度と同様である。
【0066】
[エーテル化剤]
エーテル化剤としては、工程Aを経て得られた部分改質セルロース繊維と反応する際に、置換基群Bを部分改質セルロース繊維に導入できるものであれば特に制限はないが、反応性の観点から、反応性を有する環状構造基を有する化合物及び/又は有機ハロゲン化合物を用いることが好ましく、エポキシ基及び/又はハロゲン化炭化水素基を有する化合物を用いることがより好ましい。以下に、それぞれの化合物を例示する。
【0067】
一般式(4)で示される置換基を有する化合物としては、例えば、下記一般式(4B)で示されるハロゲン化炭化水素基を有する化合物が好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。該化合物の総炭素数としては、疎水性発現の観点から、6以上であり、好ましくは8以上であり、より好ましくは10以上であり、入手性及び反応性の観点から、好ましくは26以下であり、より好ましくは22以下であり、更に好ましくは18以下である。
X-R3 (4B)
〔式中、Xはハロゲン原子であり、R3は炭素数5以上30以下の炭化水素基である。〕
【0068】
一般式(4B)におけるR3の炭素数及び具体例は、一般式(4)におけるR3の炭素数及び具体例と同じである。
【0069】
一般式(4B)で示される化合物の具体例としては、1-クロロペンタン及びその異性体、1-クロロヘキサン及びその異性体、1-クロロヘキサン及びその異性体、1-クロロデカン及びその異性体、1-クロロドデカン及びその異性体、1-クロロヘキサデカン及びその異性体、1-クロロオクタデカン及びその異性体、1-クロロエイコサン及びその異性体、1-クロロトリアコンサン及びその異性体、1-クロロ-5-ヘキセン及びその異性体、クロロシクロヘキサン、クロロベンゼン、ベンジルクロリド、ナフチルクロリド、トリチルクロリド、及び上記化合物の塩素を臭素又はヨウ素に置換したものが挙げられる。
【0070】
一般式(5)で示される置換基を有する化合物としては、例えば、下記一般式(5B)で示される酸化アルキレン化合物が好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。該化合物の総炭素数としては、疎水性発現の観点から、8以上であり、好ましくは10以上であり、より好ましくは12以上であり、反応性の観点から、好ましくは24以下であり、より好ましくは22以下であり、更に好ましくは20以下である。
【0071】
【0072】
〔式中、R3は炭素数5以上30以下の、炭化水素基である。〕
【0073】
一般式(5B)におけるR3の炭素数及び具体例は、一般式(5)におけるR3の炭素数及び具体例と同じである。
【0074】
一般式(5B)で示される化合物の具体例としては、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシ-9-デセン、1,2-エポキシドデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシ-17-オクタデセン、1,2-エポキシエイコサン、スチレンオキシド及びその誘導体が挙げられる。
【0075】
一般式(6)で表される置換基を有する化合物としては、例えば、下記一般式(6B)で示されるグリシジルエーテル化合物が好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。該化合物の総炭素数としては、疎水性発現の観点から、9以上であり、好ましくは11以上であり、より好ましくは13以上であり、反応性の観点から、好ましくは100以下であり、より好ましくは75以下であり、更に好ましくは50以下である。
【0076】
【0077】
〔式中、R3は炭素数5以上30以下の、炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。〕
【0078】
一般式(6B)におけるR3の炭素数及び具体例は、一般式(6)におけるR3の炭素数及び具体例と同じである。
【0079】
一般式(6B)におけるnはアルキレンオキサイドの付加モル数を示す。nの値の好適範囲は、一般式(6)におけるnの値の好適範囲と同じである。
【0080】
一般式(6B)におけるAは、炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基であり、隣接する酸素原子とオキシアルキレン基を形成する。Aの炭素数の好適範囲及び具体例は、一般式(6)におけるAの炭素数の好適範囲及び具体例と同じである。
【0081】
一般式(6B)で示される化合物の具体例としては、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、イソステアリルグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、5-ヘキセニルグリシジルエーテル、9-デセニルグリシジルエーテル、9-オクタデセニルグリシジルエーテル、17-オクタデセニルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、トリチルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、メチルフェニルグリシジルエーテルおよびこれらの誘導体が挙げられる。
【0082】
エーテル化剤の量は、得られる改質セルロース繊維における置換基の所望の導入の程度および使用するエーテル化剤の構造によって一概には決定できないが、工程Aのエーテル化剤の量と同様である。
【0083】
工程Bにおける全成分の混合物中のエーテル化剤の濃度は、置換基の所望の導入の程度および使用するエーテル化剤の構造によって一概には決定できないが、工程Aのエーテル化剤の濃度と同様である。
【0084】
[エーテル化反応]
エーテル化剤と工程Aを経て得られた部分改質セルロース繊維とのエーテル化反応は、水を含んだ溶媒中、塩基存在下で、両者を混合することにより行うことができる。
【0085】
混合条件としては、工程Aを経て得られた部分改質セルロース繊維やエーテル化剤が均一に混合され、十分に反応が進行できるのであれば特に制限はなく、連続的な混合処理を行っても行わなくてもよい。比較的大きな反応容器を用いる場合には、反応温度を制御する観点から、適宜攪拌を行ってもよい。
【0086】
工程Bにおける温度としては、反応性を向上させる観点から、工程Aの反応温度の好適範囲と同様である。
【0087】
工程Bにおける時間としては、反応性の観点から、工程Aの反応時間の好適範囲と同様である。
【0088】
工程Bの後は、工程Aの後と同様の処理を行ってもよい。
【0089】
[態様2]
本態様では、セルロース原料と二種類のエーテル化剤(即ち、置換基群Aを提供するエーテル化剤及び置換基群Bを提供するエーテル化剤)とを同時に反応させて、改質セルロース繊維を得る。
【0090】
[セルロース原料の濃度]
本態様における原料、触媒、溶媒等の全成分の混合物中のセルロース原料を配合する際の濃度は、使用するセルロース原料の純度や形状、エーテル化剤の構造、用いる反応装置等によって一概には決定されないが、製造効率の観点から、態様1の工程Aの好適範囲と同様である。
【0091】
[水を含んだ溶媒]
前記のエーテル化反応は水を含んだ溶媒中で行われる。水を含んだ溶媒とは、態様1の工程Aと同様、水のみからなるものでもよい。水を含んだ溶媒中の水の含有量の範囲や水以外の溶媒の具体例は、態様1の工程Aと同様である。
【0092】
水を含んだ溶媒の使用量としては、セルロース原料100質量部に対して、反応性の観点から、態様1の工程Aの好適範囲と同様である。
【0093】
[塩基]
塩基はエーテル化反応を進行させるための触媒もしくはセルロース原料の反応活性化剤として機能する。用いられる塩基としては、水を含んだ溶媒中でエーテル化反応を進行させる観点から、態様1の工程Aで列挙されたものが好ましい。
【0094】
塩基の使用量は、セルロース原料の無水グルコースユニットに対して、エーテル化反応を進行させる観点から、態様1の工程Aの好適範囲と同様である。
【0095】
塩基を配合する際の濃度は、全成分の混合物中、製造効率の観点から、態様1の工程Aの好適範囲と同様である。
【0096】
[エーテル化剤]
エーテル化剤としては、例えば、置換基群Aを導入するためのエーテル化剤としては態様1の工程Aで列挙されたものが挙げられ、置換基群Bを導入するためのエーテル化剤としては態様1の工程Bで列挙されたものが挙げられる。
【0097】
置換基群Aを導入するためのエーテル化剤の量は、セルロース原料の無水グルコースユニットの1ユニットに対して、態様1の工程Aの好適範囲と同様である。置換基群Bを導入するためのエーテル化剤の量は、セルロース原料の無水グルコースユニットの1ユニットに対して、態様1の工程Aの好適範囲と同様である。ここで、2種類以上のエーテル化剤を使用する場合、エーテル化剤の量は個々のエーテル化剤の合計量である。置換基群Aを導入するためのエーテル化剤の量と置換基群Bを導入するためのエーテル化剤の量との比率は、置換基の所望の導入の程度に応じて適宜変更すればよい。
【0098】
全成分の混合物中、エーテル化剤の濃度は、反応効率の観点から、態様1の工程Aの好適範囲と同様である。
【0099】
[エーテル化反応]
エーテル化剤とセルロース原料とのエーテル化反応は、水を含んだ溶媒中、塩基存在下で、両者を混合することにより行うことができる。置換基群Aを導入するためのエーテル化剤と置換基群Bを導入するためのエーテル化剤の混合の順序は特に限定されず、例えば、先に置換基群Aを導入するためのエーテル化剤をセルロース原料と混合してもよく、先に置換基群Bを導入するためのエーテル化剤をセルロース原料と混合してもよく、両者のエーテル化剤をセルロース原料と同時に混合してもよい。
【0100】
混合条件としては、セルロース原料やエーテル化剤が均一に混合され、十分に反応が進行できるのであれば特に制限はなく、連続的な混合処理を行っても行わなくてもよい。比較的大きな反応容器を用いる場合には、反応温度を制御する観点から、適宜攪拌を行ってもよい。
【0101】
工程A及びBにおける温度としては、反応性を向上させる観点から、態様1の工程Aの好適範囲と同様である。
【0102】
工程A及びBにおける時間としては、反応性の観点から、態様1の工程Aの好適範囲と同様である。
【0103】
反応後は、未反応の化合物や塩基等を除去するために、適宜後処理を行うことができる。該後処理の方法としては、例えば、未反応の塩基を酸(有機酸、無機酸等)で中和し、その後、未反応の化合物や塩基が溶解する溶媒を用いて洗浄することができる。所望により、更に乾燥(真空乾燥等)を行ってもよい。
【0104】
〔本発明の改質セルロース繊維及び本発明の方法により製造される改質セルロース繊維〕
本発明の改質セルロース繊維及び本発明の方法により製造される改質セルロース繊維は、前記の一般式(1)~(3)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群A)と、前記の一般式(4)~(6)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群B)とが、エーテル結合を介してセルロース繊維に導入され、セルロースI型結晶構造を有するものである。かかる改質セルロース繊維としては、CuKα線を用いたX線回折分析において2θ=18-21°に回折ピークを有するものがより好ましい。
【0105】
本発明者らが種々検討した結果、前記の特定の構造を有する改質セルロース繊維が疎水性媒体中への高い分散性を維持したまま、増粘性が小さいことを見出し、本発明を完成させた。かかる特定の構造を有する改質セルロース繊維がこのような特徴を有することのメカニズムとしては、詳細は不明だが、CuKα線を用いたX線回折分析において2θ=18-21°に回折を持つ特異的な結晶構造に起因するものと推定される。
【0106】
かかる改質セルロース繊維の具体的な構造は、例えば、下記一般式で示すことができる。
【0107】
【0108】
〔式中、Rは、それぞれ独立して、水素、置換基群A又は置換基群Bであり、少なくとも一つのRは置換基群Aであり、かつ少なくとも一つのRは置換基群Bであり、置換基群A及び置換基群Bに属する各置換基は同一であっても異なっていてもよい。但し、全てのRが同時に水素である場合を除く。mは好ましくは20以上3,000以下の整数を示す。〕
【0109】
前記一般式におけるmは、改質セルロース繊維を樹脂組成物に適用した際に得られる樹脂組成物の成形体の機械的強度及び靱性発現の観点から、好ましくは20以上であり、より好ましくは100以上であり、同様の観点から、好ましくは3,000以下であり、より好ましくは2,000以下である。
【0110】
前記一般式における各置換基の詳細は上述の通りである。
【0111】
[結晶化度]
改質セルロース繊維の結晶化度は、改質セルロース繊維を樹脂組成物に適用した際に得られる成形体の強度発現の観点から、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上であり、更に好ましくは20%以上である。また、原料入手性の観点から、好ましくは90%以下であり、より好ましくは85%以下であり、更に好ましくは80%以下であり、更に好ましくは75%以下である。なお、本明細書において、セルロースの結晶化度は、X線回折法による回折強度値から算出したセルロースI型結晶化度であり、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。セルロースI型結晶構造の有無は、後述の実施例に記載のX線回折測定において、2θ=22.6°にピークがあることで判定することができる。
【0112】
[2θ=18-21°の回折ピーク]
CuKα線を用いたX線回折分析において、改質セルロース繊維が2θ=18-21°に回折ピークを有するとは、後述の実施例に記載の計算式で求められる回折ピークの面積比が0.21以上であり、かつ回折ピークの高さ比が0.23以上であることをいう。
【0113】
改質セルロース繊維を疎水性媒体に分散した際に得られる分散体の粘度低減の観点から、回折ピークの面積比は、好ましくは0.21以上であり、より好ましくは0.22以上である。同様の観点から、回折ピークとの高さ比は好ましくは0.23以上であり、より好ましくは0.24以上である。2θ=18-21°の回折ピークの判定は、後述の実施例に記載の方法により実施することができる。
【0114】
[モル置換度(MS)]
改質セルロース繊維において、セルロースの無水グルコースユニット1モルに対する置換基群Aが導入されたモル量(モル置換度:MS)は、疎水性発現及び分散性の観点から、好ましくは0.001以上であり、より好ましくは0.005以上であり、より好ましくは0.01以上であり、更に好ましくは0.03以上であり、更に好ましくは0.05以上であり、更に好ましくは0.1以上であり、更に好ましくは0.3以上である。一方、改質セルロース繊維がセルロースI型結晶構造を有し、それを樹脂組成物に適用した際に得られる成形体の機械的強度および靱性発現の観点から、MSとしては、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.3以下であり、更に好ましくは1.0以下であり、更に好ましくは0.8以下である。ここで、置換基群Aが複数種の置換基で構成されている場合、置換基群AのMSは各置換基のMSの合計である。
【0115】
改質セルロース繊維において、セルロースの無水グルコースユニット1モルに対する置換基群Bが導入されたモル量(モル置換度:MS)は、置換基群Aと同様の観点から、好ましくは0.001以上であり、より好ましくは0.005以上であり、更に好ましくは0.02以上であり、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.3以下であり、更に好ましくは1.0以下であり、更に好ましくは0.8以下である。ここで、置換基群Bが複数種の置換基で構成されている場合、置換基群BのMSは各置換基のMSの合計である。
【0116】
本明細書において、置換基の導入の程度(即ち、モル置換度(MS))は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0117】
[平均繊維径]
改質セルロース繊維の平均繊維径は、置換基の種類に関係なく、例えば、セルロース原料と同様の範囲であってもよく、必要に応じて微細化を行い、数ナノメートル~数百ナノメートルの平均繊維径であってもよい。
前者の場合、好ましくは5μm以上である。取扱い性、入手性、及びコストの観点から、より好ましくは7μm以上であり、更に好ましくは10μm以上であり、更に好ましくは15μm以上である。また、上限は特に設定されないが、取扱い性の観点から、好ましくは10,000μm以下であり、より好ましくは5,000μm以下であり、更に好ましくは1,000μm以下であり、更に好ましくは500μm以下であり、より更に好ましくは100μm以下である。
【0118】
後者の場合、改質セルロース繊維の平均繊維径は、取扱い性、入手性、及びコストの観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、更に好ましくは10nm以上、更に好ましくは20nm以上であり、取扱い性、及び溶媒や樹脂等への分散性の観点から、好ましくは1μm未満、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下である。
なお、改質セルロース繊維の平均繊維径は、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0119】
[微細化処理]
本発明における改質セルロース繊維は、さらに微細化処理が行われてもよい。微細化処理は改質前でも改質後でもよく、例えば、マスコロイダー等の磨砕機を用いた処理や溶媒中で高圧ホモジナイザー等を用いた処理を行うことで微細化することができる。
【0120】
[粘度]
本発明の改質セルロース繊維の特徴の一つは、有機溶媒や樹脂等に配合した場合でも増粘作用が小さいことである。増粘作用が小さいことにより、金型への注入等の取扱い性が高まるため、好ましい。
具体的には、固形分含有量を0.5質量%とした時の改質セルロース繊維の分散液の粘度が、成形体とした時の機械的強度を確保する観点から、好ましくは1mPa・s以上であり、より好ましくは5mPa・s以上であり、更に好ましくは10mPa・s以上である。一方、増粘作用を抑制する観点から、好ましくは500mPa・s以下であり、より好ましくは300mPa・s以下であり、更に好ましくは100mPa・s以下である。
粘度の測定方法は、測定対象の改質セルロース繊維を微細化処理したものについて測定され、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0121】
〔本発明の分散体〕
本発明の分散体は、有機媒体及び樹脂からなる群より選択される1種以上と、前記の本発明の改質セルロース繊維とを含有するものである。
【0122】
本発明の分散体は、加工性が良好で、かつ、耐熱性に優れるため、日用雑貨品、家電部品、自動車部品等各種用途に好適に用いることができる。具体的には、例えば、日用品、化粧品、家電製品などの包装材として、電子部品などを構成する電子材料として、ブリスターパックやトレイ、お弁当の蓋等の食品容器として、工業部品の輸送や保護に用いる工業用トレイとして、ダッシュボード、インストルメントパネル、フロア等の自動車部品等に好適に用いることができる。
【0123】
[有機媒体]
本発明の分散体に用いられる有機媒体は、有機溶剤や反応性の官能基を含む有機性媒体が挙げられ、特に限定されるものではない。
【0124】
本発明に用いられる有機媒体は、改質セルロース繊維との親和性の観点から、25℃における誘電率が好ましくは75以下であり、より好ましくは55以下であり、更に好ましくは45以下であり、好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、更に好ましくは3以上である。なお、有機媒体の誘電率は、液体用誘電率計Model871(日本ルフト社製)を用い25℃にて測定することができる。
【0125】
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、1-ペンタノール、オクチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;酢酸等のカルボン酸類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、流動パラフィン等の炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、アセトアニリド等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酪酸メチル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等のエステル類;ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のポリエーテル類;ポリジメチルシロキサン等のシリコーンオイル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、エステル油、サラダ油、大豆油、ヒマシ油等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0126】
また、反応性の官能基を含む有機性媒体としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸n-へキシル、メタクリル酸n-へキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタアクリル酸2-エチルヘキシル、フェニルグリシジルエーテルアクリレート等のアクリレート類;ヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、フェニルグリシジルエーテルアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー等のウレタンプレポリマー類;n-ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ステアリン酸グリシジルエーテル、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類;クロロスチレン、メトキシスチレン、ブトキシスチレン、ビニル安息香酸等が挙げられる。
【0127】
分散体中の有機媒体の配合量は、取扱い性の観点から、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上である。一方、同様の観点から、好ましくは98質量%以下であり、より好ましくは97質量%以下であり、更に好ましくは96質量%以下である。
【0128】
[樹脂]
樹脂としては、用途や所望の特性又は物性に応じて選択でき、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂及びゴム系樹脂のいずれであってもよい。樹脂は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0129】
本発明では、強度や熱的特性などの観点から、樹脂としては熱硬化性樹脂を含むものが好ましい。
【0130】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0131】
ゴム系樹脂としては、ジエン系ゴム、非ジエン系ゴムが好ましい。
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、ブチルゴム、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体ゴム、クロロプレンゴム及び変性天然ゴム等が挙げられる。変性天然ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム、水素化天然ゴム等が挙げられる。非ジエン系ゴムとしては、ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、多硫化ゴム、エピクロルヒドリンゴムなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0132】
熱硬化性樹脂の中でもエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、アルケンオキシド類、トリグリシジルイソシアヌレートなどが挙げられる。エポキシ樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせもよい。
【0133】
本発明の分散体における樹脂の配合量は、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上であり、更に好ましくは3質量%以上である。一方、前記配合量は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下である。
【0134】
樹脂が熱硬化性樹脂の場合、本発明の分散体は、硬化剤や硬化促進剤を含んでいてもよい。
【0135】
硬化剤としては、樹脂の種類に応じて適宜選択でき、例えば、樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、フェノール樹脂系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、潜在性硬化剤(三フッ化ホウ素-アミン錯体、ジシアンジアミド、カルボン酸ヒドラジドなど)などが挙げられる。硬化剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、硬化剤は、硬化促進剤として作用する場合もある。
【0136】
硬化剤の割合は、樹脂や硬化剤の種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、樹脂100質量部に対して好ましくは0.1~300質量部である。
【0137】
硬化促進剤も、樹脂の種類に応じて適宜選択でき、例えば、樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化促進剤としては、例えば、ホスフィン類、アミン類などが挙げられる。硬化促進剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0138】
硬化促進剤の割合は、硬化剤の種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、エポキシ樹脂100質量部に対して好ましくは0.01~100質量部である。
【0139】
[その他成分]
本発明の分散体は、前記以外の他の成分として、可塑剤、結晶核剤、充填剤(無機充填剤、有機充填剤)、加水分解抑制剤、難燃剤、酸化防止剤、炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;香料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;紫外線分散剤;消臭剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。また同様に、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の高分子材料や他の樹脂組成物を添加することも可能である。
【0140】
本発明の分散体が前述の「その他成分」を含む場合、かかるその他成分の配合量は、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜設定することができる。例えば、分散体中10質量%程度以下が好ましく、5質量%程度以下がより好ましい。
【0141】
[分散体の調製方法]
本発明の分散体は、前述の樹脂及び/又は有機媒体と改質セルロース繊維を、必要により硬化剤、硬化促進剤及び/又はその他成分と一緒に、高圧ホモジナイザーで分散処理を行うことにより、調製することができる。あるいは、これらの原料を、ヘンシェルミキサー、自転公転式攪拌機等で攪拌、あるいは密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて溶融混練することで、本発明の分散体を調製することができる。
【0142】
〔本発明の樹脂組成物の製造方法〕
本発明における樹脂組成物は、前述の樹脂、前述の(本発明の又は本発明の製造方法により得られた)改質セルロース繊維を含有するものであり、前述の有機媒体及び/又はその他の成分を含有していてもよい。従って、前述の本発明の分散体も、樹脂組成物に該当する。かかる樹脂組成物は、樹脂と改質セルロース繊維とを混合することにより、あるいは樹脂、改質セルロース繊維及び有機媒体(及び/又はその他の成分)を混合することにより製造することができる。従って、本発明の樹脂組成物の製造方法は、樹脂と改質セルロース繊維とを混合する工程を含む。
【0143】
各成分の混合方法としては、高圧ホモジナイザーで分散処理を行う方法や、あるいは、各成分を、ヘンシェルミキサー、自転公転式攪拌機等で攪拌する方法、あるいは密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて溶融混練する方法が挙げられる。更に、必要に応じて、樹脂組成物から揮発性成分の一部又は全部を除去してもよく、かかる除去後のものも、樹脂組成物に該当する。
前述の分散体やかかる樹脂組成物を使用して、公知の成形方法により成形体を製造することができる。
【0144】
上述した実施形態に関し、本発明は、さらに以下の、改質セルロース繊維の製造方法、改質セルロース繊維、樹脂組成物の製造方法及び改質セルロースを含有する分散体を開示する。
【0145】
<1> セルロース原料に対し、下記工程A及び工程Bを同時に行うセルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維の製造方法。
工程A:水を含んだ溶媒中、塩基存在下で、下記一般式(1)、(2)及び(3)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群A)をエーテル結合を介してセルロース繊維に導入する工程
-R1 (1)
-CH2-CH(OH)-R2 (2)
-CH2-CH(OH)-CH2-(OA)n-O-R2 (3)
〔式中、R1は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、R2はそれぞれ独立して水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上3以下の2価の炭化水素基である。〕
工程B:水を含んだ溶媒中、塩基存在下で、下記一般式(4)、(5)及び(6)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群B)をエーテル結合を介してセルロース繊維に導入する工程
-R3 (4)
-CH2-CH(OH)-R3 (5)
-CH2-CH(OH)-CH2-(OA)n-O-R3 (6)
〔式中、R3はそれぞれ独立して炭素数5以上30以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。〕
【0146】
<2> 上記工程Aと上記工程Bを、工程A、工程Bの順番で行うセルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維の製造方法。
<3> 工程Aにおける水んだ含む溶媒中の水の含有量が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上、より好ましくは100%である、<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4> 工程Bにおける水を含んだ溶媒中の水の含有量が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上、より好ましくは100%である、<1>~<3>のいずれか記載の製造方法。
<5> 工程Aの後、工程Bを行う製造方法であって、工程Aと工程Bの間に洗浄処理工程を実施しない、<1>~<4>のいずれか記載の製造方法。
<6> 工程(A)において導入される置換基の式が(2)であり、R2が炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、工程(B)おいて導入される置換基の式が(4)~(6)のいずれかであり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<1>~<5>いずれか記載の製造方法。
<7> 工程(A)おいて導入される置換基の式が(2)であり、R2がメチル基またはエチル基であり、工程(B)おいて導入される置換基の式が(4)~(6)のいずれかであり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<1>~<5>いずれか記載の製造方法。
<8> 工程(A)おいて導入される置換基の式が(2)であり、R2が炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、工程(B)おいて導入される置換基の式が(6)であり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<1>~<5>いずれか記載の製造方法。
<9> 工程(A)おいて導入される置換基の式が(2)であり、R2がメチル基またはエチル基であり、工程(B)おいて導入される置換基の式が(6)であり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<1>~<5>いずれか記載の製造方法。
<10> 工程(A)おいて導入される置換基の式が(1)又は(3)であり、R2が炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、工程(B)おいて導入される置換基の式が(4)~(6)のいずれかであり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<1>~<5>いずれか記載の製造方法。
【0147】
<11> 工程(A)おいて導入される置換基の式が(1)又は(3)であり、R2が炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、工程(B)おいて導入される置換基の式が(6)であり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<1>~<5>いずれか記載の製造方法。
<12> 下記一般式(1)、(2)及び(3)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群A)をエーテル結合を介して有する部分改質セルロース繊維に対して下記工程Bを行う、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維の製造方法。
-R1 (1)
-CH2-CH(OH)-R2 (2)
-CH2-CH(OH)-CH2-(OA)n-O-R2 (3)
〔式中、R1は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、R2はそれぞれ独立して水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上3以下の2価の炭化水素基である。〕
工程B:水を含んだ溶媒中、塩基存在下で、下記一般式(4)、(5)及び(6)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群B)をエーテル結合を介して前記部分改質セルロース繊維に導入する工程
-R3 (4)
-CH2-CH(OH)-R3 (5)
-CH2-CH(OH)-CH2-(OA)n-O-R3 (6)
〔式中、R3はそれぞれ独立して炭素数5以上30以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。〕
<13> 工程Bにおける水を含んだ溶媒中の水の含有量が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上、より好ましくは100%である、<12>に記載の製造方法。
<14> 部分改質セルロース繊維における置換基の式が(2)であり、R2が炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、工程(B)おいて導入される置換基の式が(4)~(6)のいずれかであり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<12>又は<13>記載の製造方法。
<15> 部分改質セルロース繊維における置換基の式が(2)であり、R2がメチル基またはエチル基であり、工程(B)おいて導入される置換基の式が(4)~(6)のいずれかであり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<12>又は<13>記載の製造方法。
<16> 部分改質セルロース繊維における置換基の式が(2)であり、R2が炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、工程(B)おいて導入される置換基の式が(6)であり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<12>又は<13>記載の製造方法。
<17> 部分改質セルロース繊維における置換基の式が(2)であり、R2がメチル基またはエチル基であり、工程(B)おいて導入される置換基の式が(6)であり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<12>又は<13>記載の製造方法。
<18> 部分改質セルロース繊維における置換基の式が(1)又は(3)であり、R2が炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、工程(B)おいて導入される置換基の式が(4)~(6)のいずれかであり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<12>又は<13>記載の製造方法。
<19> 部分改質セルロース繊維における置換基の式が(1)又は(3)であり、R2が炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、工程(B)おいて導入される置換基の式が(6)であり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<12>又は<13>記載の製造方法。
<20> <1>~<19>のいずれか1項に記載の製造方法で得られる改質セルロース繊維。
【0148】
<21> 樹脂と、<1>~<19>に記載された製造方法で得られる改質セルロース繊維とを混合する複合化する工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
<22> 下記一般式(1)、(2)及び(3)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群A)、並びに
下記一般式(4)、(5)及び(6)からなる群より選択される1種以上の置換基(置換基群B)が、
それぞれ独立して、エーテル結合を介してセルロース繊維に結合しており、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維であって、
CuKα線を用いたX線回折分析において2θ=18-21°に回折ピークを有する、改質セルロース繊維。
-R1 (1)
-CH2-CH(OH)-R2 (2)
-CH2-CH(OH)-CH2-(OA)n-O-R2 (3)
〔式中、R1は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、R2はそれぞれ独立して水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上3以下の2価の炭化水素基である。〕
-R3 (4)
-CH2-CH(OH)-R3 (5)
-CH2-CH(OH)-CH2-(OA)n-O-R3 (6)
〔式中、R3はそれぞれ独立して炭素数5以上30以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基である。〕
<23> 置換基群(A)における置換基の式が(2)であり、R2が炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、置換基群Bにおける置換基の式が(4)~(6)のいずれかであり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<22>記載の改質セルロース繊維。
<24> 置換基群(A)における置換基の式が(2)であり、R2がメチル基またはエチル基であり、置換基群Bにおける置換基の式が(4)~(6)のいずれかであり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<22>記載の改質セルロース繊維。
<25> 置換基群(A)における置換基の式が(2)であり、R2が炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、置換基群Bにおける置換基の式が(6)であり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<22>記載の改質セルロース繊維。
<26> 置換基群(A)における置換基の式が(2)であり、R2がメチル基またはエチル基であり、置換基群Bにおける置換基の式が(6)であり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<22>記載の改質セルロース繊維。
<27> 置換基群(A)における置換基の式が(1)又は(3)であり、R2が炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、置換基群Bにおける置換基の式が(4)~(6)のいずれかであり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<22>記載の改質セルロース繊維。
<28> 置換基群(A)における置換基の式が(1)又は(3)であり、R2が炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、置換基群Bにおける置換基の式が(6)であり、R3が炭素数6以上20以下の炭化水素基である<22>記載の改質セルロース繊維。
<29> 固形分含有量を0.5質量%とした時の改質セルロース繊維の分散液の粘度が1mPa・s以上500mPa・s以下である、<20>及び<22>~<28>いずれか記載の改質セルロース繊維。
<30> 有機媒体及び及び/又は樹脂からなる群より選択される1種以上と、<20>及び<24>~<29>いずれかに記載の改質セルロース繊維とを含有する分散体。
【実施例】
【0149】
以下、製造例、実施例、比較例及び試験例を示して本発明を具体的に説明する。なお、これらの実施例等は単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。例中の部は、特記しない限り質量部である。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「室温」とは25℃を示す。なお、以下の製造例等において、便宜上、工程A又は工程Bの一方を経て得られたセルロース繊維を「部分改質セルロース繊維」と記載する。
【0150】
[セルロース繊維等の結晶構造の確認]
セルロース繊維、部分改質セルロース繊維及び改質セルロース繊維の結晶構造は、回折計(リガク社製、商品名:RigakuRINT 2500VC X-RAY diffRactometeR)を用いて以下の条件で測定することにより確認する。
測定ペレット調製条件:錠剤成形機で10-20MPaの範囲で圧力を印加することで、面積320mm2×厚さ1mmの平滑なペレットを調製する。
X線回折分析条件:ステップ角0.01°、スキャンスピード10°/min、測定範囲:回折角2θ=5~45°
X線源:Cu/Kα-Radiation、管電圧:40kv、管電流:120mA
ピーク分割条件:バックグラウンドノイズを除去した後、2θ=13-23°の間の誤差が5%以内に収まるようにガウス関数でフィッティングする。
【0151】
改質セルロース繊維の結晶構造は、上述の回折計を用いて、上述の条件で測定することにより確認する。
セルロースI型結晶構造の結晶化度は上述のピーク分割により得られたX線回折ピークの面積を用いて以下の式(A)に基づいて算出する。
セルロースI型結晶化度(%)=[IcR/(IcR+Iam)]×100 (A)
〔式中、IcRは、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22-23°)の回折ピークの面積、Iamはアモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折ピークの面積を示す〕
【0152】
[2θ=18-21°の回折ピークの有無の判定]
改質セルロース繊維の2θ=18-21°の回折ピークの有無の判定は、上述の回折計を用いて、上述の条件で測定し、上述のピーク分割により得られたX線回折ピークの面積を用いて、以下の計算式に基づいて算出する。ここで、下記計算式で求められる回折ピークの面積比が0.21以上であり、かつ回折ピークの高さ比が0.23以上であれば、測定対象の改質セルロース繊維は、2θ=18-21°の回折ピークを有すると判定する。
【0153】
<計算式>
回折ピークの面積比=(2θ=18-21°の回折ピークの面積)/(2θ=22-23°の回折ピークの面積)
回折ピークの高さ比=(2θ=18-21°の回折ピークの高さ)/(2θ=22-23°の回折ピークの高さ)
【0154】
[置換基の導入の程度]
最初に、測定対象のセルロース繊維中に含有される置換基の含有量%(質量%)を、Analytical CHemistRy, Vol.51, No.13, 2172(1979)、「第十五改正日本薬局方(ヒドロキシプロピルセルロースの分析方法の項)」等に記載の、セルロースエーテルのアルコキシ基の平均付加モル数を分析する手法として知られるZeisel法に準じて算出する。以下に手順を示す。
【0155】
(i)200mLメスフラスコにn-テトラデカン0.1gを加え、ヘキサンにて標線までメスアップを行い、内標溶液を調製する。
(ii)精製、乾燥を行った測定対象のセルロース繊維70mg、アジピン酸80mgを10mLバイアル瓶に精秤し、ヨウ化水素酸2mLを加えて密栓する。
(iii)上記バイアル瓶中の混合物を、スターラーチップにより攪拌しながら、160℃のブロックヒーターにて1時間加熱する。
(iv)加熱後、バイアルに内標溶液2mL、ジエチルエーテル2mLを順次注入し、室温で1分間攪拌する。
(v)バイアル瓶中の2相に分離した混合物の上層(ジエチルエーテル層)をガスクロマトグラフィー(SHIMADZU社製、商品名:GC2010Plus)にて分析する。
(vi)測定対象のセルロース繊維を、その改質に用いたエーテル化剤5mg、10mg、15mgにそれぞれ変更する以外は、(ii)~(v)と同様の方法で分析を行い、エーテル化剤の検量線を作成する。
(vii)作成した検量線と、測定対象のセルロース繊維の分析結果から、測定対象のセルロース繊維中に含有される置換基を定量する。分析条件は以下のとおりである。
【0156】
カラム:アジレント・テクノロジー社製、商品名:DB-5(12m、0.2mm×0.33μm)
カラム温度:30℃(10min Hold)→10℃/min→300℃(10min Hold)
インジェクター温度:300℃
検出器温度:300℃
打ち込み量:1μL
使用したエーテル化剤の検出量から、測定対象のセルロース繊維中に含有される置換基の含有量(質量%)を算出する。
【0157】
次いで、得られた置換基含有量から、下記数式(1)を用いてモル置換度(MS)(無水グルコースユニット1モルに対する置換基モル量)を算出する。ここで、工程AにおけるMSをMSAとし、工程BにおけるMSをMSBとする。
数式(1)
MSA=(WA/MwA)/((100-WA-WB)/162.14)
MSB=(WB/MwB)/((100-WA-WB)/162.14)
WA:測定対象のセルロース繊維中の工程Aで導入された置換基の含有量(質量%)
WB:測定対象のセルロース繊維中の工程Bで導入された置換基の含有量(質量%)
MwA:工程Aで導入したエーテル化剤の分子量(g/mol)
MwB:工程Bで導入したエーテル化剤の分子量(g/mol)
【0158】
[セルロース原料及び改質セルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長]
(1)測定対象のセルロース繊維の平均繊維径が数ナノメートル~数百ナノメートルであると見込まれる場合、次のようにしてセルロース繊維の平均繊維径を求める。
測定対象のセルロース繊維に水又はエタノールを加えて、その濃度が0.0001質量%の分散液を調製し、該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM)(Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製、プローブはナノセンサーズ社製、Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さを測定する。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を100本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出する。平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径より算出し、標準偏差も算出する。一般に、高等植物から調製されるセルロースナノファイバーの最小単位は6×6の分子鎖がほぼ正方形の形でパッキングされていることから、AFMによる画像で分析される高さを繊維の幅とみなすことができる。
【0159】
(2)測定対象のセルロース繊維の平均繊維径が数百ナノメートル~数千マイクロメートルであると見込まれる場合、次のようにしてセルロース繊維の平均繊維径を求める。
測定対象のセルロース繊維にイオン交換水を加えて、その含有量が0.01質量%の分散液を調製する。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、商品名:IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:500μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定する。セルロース繊維を100本以上測定し、それらの平均ISO繊維径を平均繊維径として、平均ISO繊維長を平均繊維長として算出する。
【0160】
[複屈折性の有無及び粘度測定]
<改質セルロース繊維分散体の調製>
改質セルロース繊維0.25gをトルエン49.75g中に投入し、ホモジナイザー(プライミクス社製、T.K.ロボミックス)にて3000Rpm、30分間攪拌後、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、「ナノヴェイタLES」)にて100MPaで10パス処理することで、微細化された改質セルロース繊維が分散した改質セルロース繊維分散体(固形分含有量:0.5質量%)を調製する。
【0161】
<複屈折性の有無>
前記固形分含有量0.5質量%の改質セルロース繊維分散体の分散性を評価するため、直交偏光板の間に該分散体を置き、振とうを与えることで複屈折性の評価を行う。
評価A:明瞭な複屈折性あり
評価B:複屈折性が確認できるが不明瞭
評価C:複屈折性なし
分散性はA>B>Cの序列で評価され、評価Aにおいて改質セルロース繊維が溶媒中に完全なナノレベルで分散していることを示す。
【0162】
<粘度測定>
前記固形分含有量0.5質量%の改質セルロース繊維分散体の粘度を、E型粘度測定機(東機産業社製、「VISCOMETER TVE-35h」、コーンローター:1°34’×R24を使用)及び温度調節器(東機産業社製、「VISCOMATE VM-150III」)を用いて、25℃、1Rpm、1分の条件で測定する。計測粘度が低い方が増粘抑制に優れていることを示す。
【0163】
エーテル化剤の製造例A<イソステアリルグリシジルエーテルの製造>
100L反応槽に、イソステアリルアルコール(花王株式会社製)10kg、テトラブチルアンモニウムブロマイド0.36kg、エピクロルヒドリン7.5kg、ヘキサン10kgを投入し、窒素雰囲気下で混合した。混合液を50℃に保持しながら48質量%水酸化ナトリウム水溶液12kgを30分かけて滴下した。滴下終了後、さらに50℃で4時間撹拌を続けて熟成した後、水13kgで8回、反応混合物の水洗を繰り返し、塩及びアルカリの除去を行った。その後、槽内温度を90℃に昇温して有機層からヘキサンを留去し、減圧下(6.6kPa)、さらに水蒸気を吹き込んで低沸点化合物を除去した。脱水後、槽内温度250℃、槽内圧力1.3kPaで減圧蒸留することによって、液状のイソステアリルグリシジルエーテル8.6kgを得た。
【0164】
エーテル化剤の製造例B<ポリオキシアルキレンアルキルエーテル化剤の製造>
1000Lの反応槽に、ポリオキシエチレン(13)-n-アルキル(C12)エーテル250kgを融解して仕込み、さらにテトラブチルアンモニウムブロミド3.8kg、エピクロルヒドリン81kg、トルエン83kgを投入して、攪拌・混合した。槽内温度を50℃に維持しつつ、攪拌しながら、48質量%水酸化ナトリウム水溶液130kgを1時間で滴下した。滴下終了後、槽内温度を50℃に維持したまま6時間、攪拌・熟成した。熟成終了後、反応混合物を水250kgで6回水洗して塩及びアルカリを除去し、その後、有機層を減圧(6.6kPa)下、90℃まで昇温し、残留するエピクロルヒドリン、溶媒及び水を留去した。減圧下、さらに水蒸気250kgを吹き込んで低沸点化合物を除去し、下式の構造を有するn-アルキル(C12)ポリオキシエチレン(13)グリシジルエーテル(エマルゲン120GE)240kgを得た。この化合物を、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル化剤(「POAエーテル化剤」と略記する。)とした。
【0165】
【0166】
エーテル化剤の製造例C<ステアリルグリシジルエーテルの製造>
100L反応槽に、ステアリルアルコール(花王株式会社製)10kg、テトラブチルアンモニウムブロマイド0.36kg、エピクロルヒドリン7.5kg、ヘキサン10kgを投入し、窒素雰囲気下で混合した。混合液を50℃に保持しながら48質量%水酸化ナトリウム水溶液12kgを30分かけて滴下した。滴下終了後、前記の製造例Aと同様の処理を行うことによって、白色のステアリルグリシジルエーテル8.6kgを得た。
【0167】
部分改質セルロース繊維の製造例1<工程A:酸化プロピレン付加セルロース>
針葉樹の漂白クラフトパルプ(以後NBKPと略記する。ウエストフレザー社製、商品名:ヒントン、繊維状、平均繊維径24μm、セルロース含有量90質量%、水分含有量5質量%)をセルロース原料として用いた。まず、絶乾したNBKP1.5gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.26当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として酸化プロピレン0.65g(1.2当量/AGU)を添加し、密閉した後に50℃、2h静置反応を行った。反応後、酢酸で中和し、水、アセトンでそれぞれ十分に洗浄することで不純物を取り除き、70℃で一晩真空乾燥を行うことで、部分改質セルロース繊維1(酸化プロピレンのMS 0.14)を得た。
【0168】
部分改質セルロース繊維の製造例2<工程A:酸化プロピレン付加セルロース>
製造例1において、表Aに規定する条件に従って、部分改質セルロース繊維2(酸化プロピレンのMS 0.46)を得た。
【0169】
部分改質セルロース繊維の製造例3<工程A:酸化ブチレン付加セルロース>
製造例1において、表Aに規定する条件に従って、部分改質セルロース繊維3(酸化ブチレンのMS 0.18)を得た。
【0170】
部分改質セルロース繊維の製造例4<工程A:酸化ブチレン付加セルロース>
製造例1において、表Aに規定する条件に従って、部分改質セルロース繊維4(酸化ブチレンのMS 0.44)を得た。
【0171】
部分改質セルロース繊維の製造例5<工程A:アリルグリシジルエーテル付加セルロース>
製造例1において、表Aに規定する条件に従って、部分改質セルロース繊維5(アリルグリシジルエーテルのMS 0.19)を得た。
【0172】
部分改質セルロース繊維の製造例6<工程A:エチル基付加セルロース>
製造例1において、表Aに規定する条件に従って、部分改質セルロース繊維6(エチル基のMS 0.36)を得た。
【0173】
【0174】
実施例1<工程B:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル付加>
部分改質セルロース繊維1 1.5gに12質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.56当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として2-エチルヘキシルグリシジルエーテル1.6g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0175】
実施例2~4及び比較例1<工程B:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル付加>
2-エチルヘキシルグリシジルエーテルの添加量を1.0当量/AGUで統一し、工程Bでのエーテル化対象の部分改質セルロース繊維を表1に示すものに変更した点以外は実施例1と同様の方法で、改質セルロース繊維(実施例2~4)及び部分改質セルロース繊維(比較例1)を得た。
【0176】
実施例5<工程B:ドデシルグリシジルエーテル付加>
部分改質セルロース繊維1 1.5gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.27当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤としてドデシルグリシジルエーテル2.1g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0177】
実施例6~8及び比較例2<工程B:ドデシルグリシジルエーテル付加>
ドデシルグリシジルエーテルの添加量を1.0当量/AGUで統一し、工程Bでのエーテル化対象の部分改質セルロース繊維を表1に示すものに変更した点以外は実施例5と同様の方法で改質セルロース繊維(実施例6~8)及び部分改質セルロース繊維(比較例2)を得た。
【0178】
【0179】
実施例9<工程B:イソステアリルグリシジルエーテル付加>
部分改質セルロース繊維1 1.5gに12質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.56当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として前記イソステアリルグリシジルエーテル2.9g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に90℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0180】
実施例10~12及び比較例3<工程B:イソステアリルグリシジルエーテル付加>
イソステアリルグリシジルエーテルの添加量を1.0当量/AGUで統一し、工程Bでのエーテル化対象の部分改質セルロース繊維を表2に示すものに変更した点以外は実施例9と同様の方法で改質セルロース繊維(実施例10~12)及び部分改質セルロース繊維(比較例3)を得た。
【0181】
実施例13<工程B:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル付加>
部分改質セルロース繊維1 1.5gに12質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.56当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として前記POAエーテル化剤7.2g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0182】
実施例14及び比較例4<工程B:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル付加>
POAエーテル化剤の添加量を1.0当量/AGUで統一し、工程Bでのエーテル化対象の部分改質セルロース繊維を表2に示すものに変更した点以外は実施例13と同様の方法で改質セルロース繊維(実施例14)及び部分改質セルロース繊維(比較例4)を得た。
【0183】
比較例5<工程B:水を含まない溶媒下でのイソステアリルグリシジルエーテル付加>
部分改質セルロース繊維1 5.0gに、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)3.0g(1.1当量/AGU)及びアセトニトリル50.0gを添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として前記イソステアリルグリシジルエーテル7.2g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、トルエン、アセトンで十分に洗浄することで不純物を取り除き、更に70℃で一晩真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0184】
【0185】
実施例15<工程B:1-ヨードドデカン付加>
部分改質セルロース繊維3 1.5gに12質量%の水酸化ナトリウム水溶液6.2g(NaOH 2.0当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として1-ヨードドデカン2.7g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0186】
比較例6<工程B:1-ヨードドデカン付加>
工程Bでのエーテル化対象の部分改質セルロース繊維を表3に示すものに変更した点以外は実施例15と同様の方法で部分改質セルロース繊維を得た。
【0187】
実施例16<工程B:1-ヨードオクタデカン付加>
部分改質セルロース繊維3 1.5gに12質量%の水酸化ナトリウム水溶液6.2g(NaOH 2.0当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として1-ヨードオクタデカン3.5g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例1と同様の中和、および水、熱イソプロパノール、アセトンでそれぞれ洗浄し、真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0188】
比較例7<工程B:1-ヨードオクタデカン付加>
工程Bでのエーテル化対象の部分改質セルロース繊維を表3に示すものに変更した点以外は実施例16と同様の方法で部分改質セルロース繊維を得た。
【0189】
実施例17<工程B:1,2-エポキシドデカン付加>
部分改質セルロース繊維3 1.5gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.27当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として1,2-エポキシドデカン1.7g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0190】
比較例8<工程B:1,2-エポキシドデカン付加>
工程Bでのエーテル化対象の部分改質セルロース繊維を表3に示すものに変更した点以外は実施例17と同様の方法で部分改質セルロース繊維を得た。
【0191】
実施例18<工程A、B同時>
絶乾したNBKP1.5gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.26当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として酸化ブチレン1.0g(1.5当量/AGU)およびドデシルグリシジルエーテル2.2g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に50℃、4h静置反応、次いで密閉状態のまま70℃20h静置反応を行った。反応後、製造例1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。なお、便宜上、工程AにおけるMSの値と工程BにおけるMS値の和を、表3中のMSBの欄に記載した。
【0192】
【0193】
実施例19<工程Bで溶媒を添加>
部分改質セルロース繊維3 1.5gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.27当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、有機溶媒としてイソプロピルアルコール(IPA)を1.5g、エーテル化剤として前記ドデシルグリシジルエーテル2.9g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0194】
比較例9<工程Bで溶媒を添加>
工程Bでのエーテル化対象の部分改質セルロース繊維を表4に示すものに変更した点以外は実施例19と同様の方法で部分改質セルロース繊維を得た。
【0195】
実施例20<工程Bで溶媒を添加>
部分改質セルロース繊維3 1.5gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.27当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、有機溶媒としてイソプロピルアルコール(IPA)を3.0g、エーテル化剤としてエーテル化剤の製造例Cで得たステアリルグリシジルエーテル2.1g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0196】
比較例10<工程Bで溶媒を添加>
工程Bでのエーテル化対象の部分改質セルロース繊維を表4に示すものに変更した点以外は実施例20と同様の方法で部分改質セルロース繊維を得た。
【0197】
実施例21<工程Bで溶媒を添加>
部分改質セルロース繊維3 1.5gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.27当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、有機溶媒としてイソプロピルアルコール(IPA)を1.5g、エーテル化剤として前記イソステアリルグリシジルエーテル2.1g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0198】
実施例22<工程Bで溶媒を添加>
部分改質セルロース繊維3 1.5gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.27当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、有機溶媒としてエタノールを1.5g、エーテル化剤として前記イソステアリルグリシジルエーテル2.1g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0199】
比較例11<工程Bで溶媒を添加>
工程Bでのエーテル化対象の部分改質セルロース繊維を表4に示すものに変更した点以外は実施例21と同様の方法で部分改質セルロース繊維を得た。
【0200】
【0201】
実施例23<工程Bで溶媒を添加>
工程Bにおけるエーテル化剤として、イソステアリルグリシジルエーテル2.1g(1.0当量/AGU)に代えて、フェニルグリシジルエーテル1.2g(1.0当量/AGU)を添加した点以外は実施例21と同様の方法で、改質セルロース繊維を得た。
【0202】
比較例12<工程Bで溶媒を添加>
工程Bでのエーテル化対象の部分改質セルロース繊維を表5に示すものに変更した点以外は実施例23と同様の方法で部分改質セルロース繊維を得た。
【0203】
実施例24<工程Bで溶媒を添加>
工程Bにおけるエーテル化剤として、イソステアリルグリシジルエーテル2.1g(1.0当量/AGU)に代えて、o-メチルフェニルグリシジルエーテル1.3g(1.0当量/AGU)を添加した点以外は実施例21と同様の方法で、改質セルロース繊維を得た。
【0204】
比較例13<工程Bで溶媒を添加>
工程Bでのエーテル化対象の部分改質セルロース繊維を表5に示すものに変更した点以外は実施例23と同様の方法で部分改質セルロース繊維を得た。
【0205】
【0206】
実施例25<工程Aと工程Bの間に洗浄工程無し>
NBKPをセルロース原料として用いた。まず、NBKP2.0gに14質量%の水酸化ナトリウム水溶液0.8g(NaOH 0.26当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として酸化ブチレン1.6g(2.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に50℃、8h静置反応を行うことで、部分改質セルロース繊維7(酸化ブチレンのMS 0.26)を得た。反応後、中和、洗浄工程を行うことなく、得られた部分改質セルロース繊維7に、エーテル化剤としてドデシルグリシジルエーテル3.4g(1.2当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、7h静置反応を行った。反応後、製造例1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0207】
実施例26<工程Aと工程Bの間に洗浄工程有り>
NBKPをセルロース原料として用いた。まず、NBKP510gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液502g(NaOH 0.26当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として酸化ブチレン668g(3.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に50℃、8h混合しながら反応を行った。反応後、製造例1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、部分改質セルロース繊維8(酸化ブチレンのMS 0.23)を得た。
部分改質セルロース繊維8 2.0gに12質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.0g(NaOH 0.26当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤としてドデシルグリシジルエーテル3.2g(1.2当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、7h静置反応を行った。反応後、製造例1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0208】
上記実施例の条件や結果等を表6に示す。
【0209】
【0210】
上記実施例で示されたように、本発明の製造方法によれば、エーテル化反応の際の溶媒として水を含んだ溶媒を使用することができるので、製造コストの低減を達成することができる。概算では、防爆設備や除害設備等の特殊な設備が不必要となることで機器費用が1/4程度にできる見込みである。加えて本発明の実施例で得られる改質セルロース繊維のMS、即ち、MSAとMSBとの和は0.02以上が実施例として例示されているが、これは繊維表面を疎水化する目的であれば十分な値であるとともに、必要に応じて工程Aで導入する置換基量や構造、使用するエーテル化剤の増量等により所定量のMSまで疎水性を向上させることも可能な点において、非常に優れていることが確認されている(例えば実施例1と2、5と6の比較等)。
【0211】
一方、比較例1~4、6~11で示されたように、水を含んだ溶媒を用いて炭素鎖が比較的長いエーテル化剤を最初に導入しようとしたが、得られた部分改質セルロース繊維のMSはすべてほぼ0であることから分かるように、置換基の導入が全く達成できないことが分かった。
比較例5でも実施例と同程度のMSを有する改質セルロース繊維が得られたが、従来の水を含まない溶媒や有機塩基を用いた製造方法であり、設備面や工程面でのコストの点で課題を有するものである。
また、実施例25と26との比較により、意外にも、工程Aと工程Bとの間に洗浄工程を有さないことが工程Bでの導入率を高めることができることが分かった。
【0212】
部分改質セルロース繊維の製造例2-1<工程A:酸化プロピレン付加セルロース>
NBKPをセルロース原料として用いた。まず、絶乾したNBKP1.5gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.26当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として酸化プロピレン0.65g(1.2当量/AGU)を添加し、密閉した後に50℃、2h静置反応を行った。反応後、酢酸で中和し、水、アセトンでそれぞれ十分に洗浄することで不純物を取り除き、70℃で一晩真空乾燥を行うことで、部分改質セルロース繊維2-1(酸化プロピレンのMS 0.14)を得た。
【0213】
部分改質セルロース繊維の製造例2-2<工程A:酸化ブチレン付加セルロース>
製造例2-1において、表2-Aに規定する条件に従って、部分改質セルロース繊維2-2(酸化ブチレンのMS 0.18)を得た。
【0214】
部分改質セルロース繊維の製造例2-3<工程A:アリルグリシジルエーテル付加セルロース>
製造例2-1において、表2-Aに規定する条件に従って、部分改質セルロース繊維2-3(アリルグリシジルエーテルのMS 0.19)を得た。
【0215】
部分改質セルロース繊維の製造例2-4<工程A:エチル基付加セルロース>
製造例2-1において、表2-Aに規定する条件に従って、部分改質セルロース繊維2-4(エチル基のMS 0.36)を得た。
【0216】
【0217】
実施例2-1<工程B:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル付加>
部分改質セルロース繊維2-1 1.5gに12質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.56当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として2-エチルヘキシルグリシジルエーテル3.2g(2.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例2-1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0218】
実施例2-2<工程B:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル付加>
工程Bでのエーテル化対象の部分改質セルロース繊維を表2-1に示すものに変更した点以外は実施例2-1と同様の方法で改質セルロース繊維を得た。
【0219】
比較例2-1及び比較例2-2<工程B:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル付加>
水酸化ナトリウム水溶液の代わりに、使用する溶媒をアセトニトリル9.0g、触媒としてN,N-ジメチル-4-アミノピリジン1.8g(DMAP、1.6当量/AGU)に変更した点以外は、比較例2-1は実施例2-1と同様の方法で、比較例2-2は実施例2-2と同様の方法で、それぞれ、改質セルロース繊維を得た。
【0220】
実施例2-3<工程B:ドデシルグリシジルエーテル付加>
部分改質セルロース繊維2-1 1.5gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.27当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤としてドデシルグリシジルエーテル4.2g(2.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例2-1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0221】
実施例2-4~2-6<工程B:ドデシルグリシジルエーテル付加>
ドデシルグリシジルエーテルの添加量を1.0当量/AGUに変更し、工程Bでのエーテル化対象の部分改質セルロース繊維を表2-1に示すものに変更した点以外は実施例2-3と同様の方法で改質セルロース繊維を得た。
【0222】
比較例2-3<工程B:ドデシルグリシジルエーテル付加>
水酸化ナトリウム水溶液の代わりにアセトニトリル9.0gに変更し、触媒としてN,N-ジメチル-4-アミノピリジン1.8g(DMAP、1.6当量/AGU)に変更した点以外は実施例2-3と同様の方法で改質セルロース繊維を得た。
【0223】
実施例2-7<工程B:イソステアリルグリシジルエーテル付加>
部分改質セルロース繊維2-2 1.5gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.27当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、有機溶媒としてイソプロピルアルコールを1.5g、エーテル化剤として前記イソステアリルグリシジルエーテル8.7g(3.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例2-1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0224】
比較例2-4<工程B:イソステアリルグリシジルエーテル付加>
水酸化ナトリウム水溶液の代わりにアセトニトリル9.0gに変更し、触媒としてN,N-ジメチル-4-アミノピリジン1.8g(DMAP、1.6当量/AGU)に変更し、イソプロピルアルコールを使用しなかった点以外は実施例2-7と同様の方法で改質セルロース繊維を得た。
【0225】
実施例2-8<工程B:ステアリルグリシジルエーテル付加>
使用するエーテル化剤を表2-2に示すものに変更し、反応後、製造例2-1と同様の中和、および水、熱イソプロパノール、アセトンでそれぞれ洗浄した点以外は実施例2-7と同様の方法で改質セルロース繊維を得た。
【0226】
実施例2-9<工程B:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル付加>
部分改質セルロース繊維2-2 1.5gに12質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.56当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として前記POAエーテル化剤7.2g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例2-1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0227】
比較例2-5及び比較例2-6<工程B:ステアリルグリシジルエーテル又はポリオキシアルキレンアルキルエーテルの付加>
水酸化ナトリウム水溶液の代わりにアセトニトリル9.0gに変更し、触媒としてN,N-ジメチル-4-アミノピリジン1.8g(DMAP、1.6当量/AGU)に変更した点以外は、比較例2-5は実施例2-8と同様の方法で、比較例2-6は実施例2-9と同様の方法で、それぞれ、改質セルロース繊維を得た。
【0228】
実施例2-10<工程B:1-ヨードドデカン付加>
部分改質セルロース繊維2-2 1.5gに12質量%の水酸化ナトリウム水溶液6.2g(NaOH 2.0当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として1-ヨードドデカン2.7g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例2-1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0229】
実施例2-11<工程B:1-ヨードオクタデカン付加>
部分改質セルロース繊維2-2 1.5gに12質量%の水酸化ナトリウム水溶液6.2g(NaOH 2.0当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として1-ヨードオクタデカン3.5g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例2-1と同様の中和、および水、熱イソプロパノール、アセトンでそれぞれ洗浄し、真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0230】
比較例2-7及び比較例2-8<工程B:1-ヨードドデカン又は1-ヨードオクタデカンの付加>
水酸化ナトリウム水溶液の代わりにアセトニトリル9.0gに変更し、触媒として粉末状のNaOH0.7g(DMAP、2.0当量/AGU)に変更した点以外は、比較例2-7は実施例2-10と同様の方法で、比較例2-8は実施例2-11と同様の方法で、それぞれ、改質セルロース繊維を得た。
【0231】
実施例2-12<工程B:1,2-エポキシドデカン付加>
部分改質セルロース繊維2-2 1.5gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.5g(NaOH 0.27当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として1,2-エポキシドデカン1.7g(1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24h静置反応を行った。反応後、製造例2-1と同様の中和、洗浄及び真空乾燥を行うことで、改質セルロース繊維を得た。
【0232】
比較例2-9<工程B:1,2-エポキシドデカン付加>
水酸化ナトリウム水溶液の代わりにアセトニトリル9.0gに変更し、触媒としてN,N-ジメチル-4-アミノピリジン1.8g(DMAP、1.6当量/AGU)に変更した点以外は実施例2-12と同様の方法で改質セルロース繊維を得た。
【0233】
上記各実施例、比較例の結果等を下記の表にまとめた。
【0234】
【0235】
【0236】
【0237】
上記製造例、実施例及び比較例で使用した主な成分の詳細は次の通りである。
ポリオキシエチレン(13)-n-アルキル(C12)エーテル(花王株式会社製、商品名:エマルゲン120、アルキル鎖長:n-C12、オキシエチレン基のモル平均重合度:13)
アリルグリシジルエーテル(東京化成工業社製、商品名:Allyl Glycidyl Ether)
2-エチルヘキシルグリシジルエーテル(東京化成工業社製、商品名:2-Ethylhexyl Glycidyl Ether)
ドデシルグリシジルエーテル(東京化成工業社製、商品名:Glycidyl Lauryl Ether)
フェニルグリシジルエーテル(東京化成工業社製、商品名:Glycidyl Phenyl Ether)
o-メチルフェニルグリシジルエーテル(Sigma-Aldrich社製、商品名:Glycidyl 2-methylphenyl ether)
【0238】
上記実施例で示されたように、本発明に開示のX線回折分析において2θ=18-21°に回折ピークを有する改質セルロース繊維を用いることで、良好な分散性を保ったまま、改質セルロース繊維分散体の粘度を著しく低減することができた。これは改質セルロース繊維分散体そのものの取扱い性の著しい向上を示すものであると共に、樹脂等の疎水性媒体中で改質セルロース繊維の分散処理を施す際にも製造負荷が有意に減少できることを示すものである。一方、比較例2-1~2-9で示されたように、X線回折分析において2θ=18-21°に回折ピークを有さない改質セルロース繊維を用いた分散体の粘度上昇は顕著であり、取扱い性においては劣るものであることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0239】
本発明のセルロース繊維は、疎水性媒体への分散性が良好かつ粘度増加が抑制されたものである。また、本発明の製造方法によって得られた改質セルロース繊維を樹脂と複合化して得られた成形体は、高い機械強度と靱性を併せ持つことから、日用雑貨品、家電部品、家電部品用梱包資材、自動車部品、透明樹脂材料、三次元造形材料、クッション材、補修材、粘着剤、接着剤、シーリング材、断熱材、吸音材、人工皮革材料、塗料、電子材、包装材料、タイヤ、繊維複合材料等の様々な工業用途に好適に使用することができる。