(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】光電変換素子
(51)【国際特許分類】
H10K 30/60 20230101AFI20231030BHJP
H10K 30/30 20230101ALI20231030BHJP
【FI】
H10K30/60
H10K30/30
(21)【出願番号】P 2020532460
(86)(22)【出願日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2019029184
(87)【国際公開番号】W WO2020022421
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2018140401
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019133395
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】服部 真之介
(72)【発明者】
【氏名】小林 一
(72)【発明者】
【氏名】宮地 さえ
(72)【発明者】
【氏名】菅野 雅人
(72)【発明者】
【氏名】君島 美樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄大
(72)【発明者】
【氏名】西 寿朗
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 孝
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 陽介
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 雄大
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/194630(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/014146(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された第1電極および第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられた光電変換層とを備え、
前記光電変換層が、第1有機半導体材料および第2有機半導体材料を含み、
前記第1有機半導体材料および前記第2有機半導体材料の
それぞれが、HOMO体積率が0.15以下、またはLUMO体積率が0.15以下の有機分子である、光電変換素子。
【請求項2】
前記第1有機半導体材料の前記HOMO体積率および前記LUMO体積率が0.15以下である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記第2有機半導体材料の前記HOMO体積率および前記LUMO体積率が0.15以下である、請求項2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記光電変換層が第3有機半導体材料を含み、
前記第3有機半導体材料が、HOMO体積率が0.15以下、またはLUMO体積率が0.15以下の有機分子である、請求項1乃至請求項3に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示に係る技術(本技術)は、例えば有機半導体材料を用いた光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、あるいはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の固体撮像装置では、画素サイズの縮小化が進んでいる。これにより、単位画素へ入射するフォトン数が減少することから感度が低下すると共に、S/N比の低下が生じている。また、カラー化のために、赤,緑,青の原色フィルタを2次元配列してなるカラーフィルタを用いた場合、赤画素では、緑と青の光がカラーフィルタによって吸収されるために、感度の低下を招いている。また、各色信号を生成する際に、画素間で補間処理を行うことから、いわゆる偽色が発生する。
【0003】
そこで、特許文献1では、青色光(B)に感度を持つ有機光電変換膜、緑色光(G)に感度を持つ有機光電変換膜、赤色光(R)に感度を持つ有機光電変換膜が順次積層された多層構造の有機光電変換膜を用いたイメージセンサが開示されている。このイメージセンサでは、1画素からB/G/Rの信号を別々に取り出すことで、感度向上が図られている。特許文献2では、1層の有機光電変換膜を形成し、この有機光電変換膜で1色の信号を取り出し、シリコン(Si)バルク分光で2色の信号を取り出す撮像素子が開示されている。
【0004】
また、非特許文献1では、1×10-4cm2/V・s以上の移動度を得るためには、エネルギー準位の標準偏差σを0.2eV以下に抑える必要があることが報告されている。非特許文献2では、エネルギー準位の標準偏差σが25meV程度増加することで、移動度が1桁低下することが報告されている。また、非特許文献3では、GAFF(General Amber Force Field)により力場のパラメータを与えることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-332551号公報
【文献】特開2005-303266号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】P. Friederich et al., Adv. Funct. Mater.26,5757-5763(2016).
【文献】Vadim Rodin, et al., Phys. Rev. B 91, 155203 (2015).
【文献】Wang J, et al., J Comput Chem., 25(9) (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2のような有機半導体材料を用いた光電変換素子では、例えば外部量子効率や残像特性の改善、暗電流抑制等の、更なる性能向上が望まれている。
【0008】
本技術は、有機半導体材料を用いた光電変換素子において、更なる性能向上を図ることができる光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本技術の一態様に係る光電変換素子は、対向配置された第1電極および第2電極と、第1電極と第2電極との間に設けられた光電変換層とを備え、光電変換層が、第1有機半導体材料および第2有機半導体材料を含み、第1有機半導体材料および第2有機半導体材料の少なくとも一方が、HOMO体積率が0.15以下、またはLUMO体積率が0.15以下の有機分子である、光電変換素子である。
【0010】
本技術の他の態様に係る光電変換素子は、対向配置された第1電極および第2電極と、第1電極と第2電極との間に設けられた光電変換層とを備え、光電変換層が2種類以上の有機半導体材料で構成され、光電変換層の膜密度をmとし、光電変換層を構成する各有機半導体材料の単膜の膜密度の組成に対する加重平均をnとしたときに、m/nが1以上である、光電変換素子である。
【0011】
本技術の更に他の態様に係る光電変換素子は、対向配置された第1電極および第2電極と、第1電極と第2電極との間に設けられた光電変換層とを備え、光電変換層が、第1~第3有機半導体材料を含み、第2有機半導体材料が、隣接する第3有機半導体材料との配位構造として最も安定な構造のみである比率が、0.5以上である、光電変換素子である。
【0012】
本技術の更に他の態様に係る光電変換素子は、対向配置された第1電極および第2電極と、第1電極と第2電極との間に設けられた光電変換層とを備え、光電変換層が、第1~第3有機半導体材料を含み、光電変換層が、第1有機半導体材料で構成される第1ドメインと、第2有機半導体材料と第3有機半導体材料が分子レベルで均一に相溶した第2ドメインとを有する、光電変換素子である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る光電変換素子の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、エネルギー準位の空間分布とエネルギー分散を示すグラフである。
【
図3】
図3は、σ
HOMOとσ
LUMOを示すグラフである。
【
図4】
図4は、σ
HOMOとHOMO体積率の関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、σ
LUMOとLUMO体積率の関係を示すグラフである。
【
図6A】
図6Aは、異なる二量体構造が混在する状態を示す概念図である。
【
図6B】
図6Bは、二量体構造が揃った状態を示す概念図である。
【
図7】
図7は、最も安定な二量体構造における分断面等の定義を説明するための概念図である。
【
図8A】
図8Aは、第2有機半導体材料32がN
Aに含まれる場合の二量体構造の概念図である。
【
図8B】
図8Bは、第2有機半導体材料32がN
Aに含まれる場合の二量体構造の他の概念図である。
【
図8C】
図8Cは、第2有機半導体材料32がN
Aに含まれない場合の二量体構造の概念図である。
【
図9】
図9は、二元相溶のアモルファス構造における配位構造の分布を示すグラフである。
【
図11】
図11は、配位構造とσ
LUMOの関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、第2実施形態に係る光電変換層等の概念図である。
【
図13】
図13は、第2実施形態に係る光電変換層等の受光時の概念図である。
【
図15】
図15は、実験例1~3の試料構造を示す断面図である。
【
図16】
図16は、単膜のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを示すグラフである。
【
図17】
図17は、実験例1~3の活性層のPLスペクトルを示すグラフである。
【
図18】
図18は、実験例4~7の活性層のPLスペクトルを示すグラフである。
【
図19】
図19は、実験例8,9の活性層のPLスペクトルを示すグラフである。
【
図20】
図20は、実験例3のX線回折結果を示すグラフである。
【
図21A】
図21Aは、C60単膜のC60のエネルギーギャップの測定結果を示すグラフである。
【
図21B】
図21Bは、B12:26F2:C60で構成する光電変換膜のC60のエネルギーギャップの測定結果を示すグラフである。
【
図22】
図22は、C60等のLUMO準位及びHOMO準位を示すグラフである。
【
図23】
図23は、本技術の第1適用例としての撮像装置の一例を示す断面図である。
【
図24】
図24は、本技術の第2適用例としての電子機器の一例を示す断面図である。
【
図25】車両制御システムの概略的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図26】車外情報検出部及び撮像部の設置位置の一例を示す説明図である。
【
図27】内視鏡手術システムの概略的な構成の一例を示す図である。
【
図28】
図27に示すカメラヘッド及びCCUの機能構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、図面を参照して本技術の第1~第5実施形態を説明する。以下の説明で参照する図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。
【0015】
また、以下の説明における上下等の方向の定義は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。例えば、対象を90°回転して観察すれば上下は左右に変換して読まれ、180°回転して観察すれば上下は反転して読まれることは勿論である。更に例えば
図1等の説明では、「裏面入射型光電変換素子として」の構造把握に依拠して、
図1の半導体基板11の上面側を「裏面」と定義し、半導体素子11の下面側を「表面」と定義しているが、「裏面」「表面」の呼び方に付いても単なる説明の便宜上の定義にすぎない。「裏面」「表面」の定義にかかわらず、
図1の有機光電変換部の部材名の定義においては、下側にある電極を「下部電極15a」と呼び、上側にある電極を「上部電極18」と呼んでおり、同一図面の内部においても、個別の層で任意に「上」「下」が定義される。
【0016】
(第1実施形態)
<光電変換素子の全体構成>
図1は、第1実施形態に係る光電変換素子10の断面構成を示す。なお、
図1に示す光電変換素子10の断面構成は、後述する本技術の第2~第4実施形態と共通する。第1実施形態に係る光電変換素子10は、例えば、CCDイメージセンサまたはCMOSイメージセンサ等の固体撮像装置の1つの画素(単位画素)を構成する。ここでは、いわゆる裏面照射型の固体撮像装置の画素を構成する場合を例示する。このため、
図1において、光電変換素子10を構成する半導体基板11の受光面(
図1の半導体基板11の上面)S1を「裏面」と呼び、半導体素子11の裏面S1とは反対側の面(
図1の半導体基板11の下面)S2を「表面」と呼ぶ。
【0017】
光電変換素子10は、それぞれ異なる波長域の光を選択的に検出して光電変換を行う1つの有機光電変換部11Gと、2つの無機光電変換部11B,11Rとが縦方向に積層された構造を有しており、これにより、1つの素子で赤(R),緑(G),青(B)の各色信号を取得するようになっている。有機光電変換部11Gは、半導体基板11の裏面S1上に形成されている。無機光電変換部11B,11Rは、半導体基板11内に埋め込み形成されている。
【0018】
有機光電変換部11Gは、有機半導体を用いて、選択的な波長域の光を吸収して、電子-正孔対を発生させる有機光電変換素子であり、有機光電変換部11Gは緑色光を選択的に吸収して、電子-正孔対を発生させる。有機光電変換部11Gは、対向配置された、信号電荷を取り出すための一対の下部電極(第1電極)15aおよび上部電極(第2電極)18と、下部電極15aと上部電極18の間に挟みこんで設けられた有機光電変換層17とを有する。下部電極15aおよび上部電極18は、配線層13a,13b,15bやコンタクトメタル層20を介して、半導体基板11内に埋設された導電性プラグ12a,12bに電気的に接続されている。
【0019】
具体的には、有機光電変換部11Gでは、半導体基板11の裏面S1上に、層間絶縁膜12,14が形成されている。層間絶縁膜12には貫通孔が設けられ、各貫通孔に導電性プラグ12c,12dが埋設されている。層間絶縁膜14には、導電性プラグ12c,12dのそれぞれと対向する領域に、配線層13a,13bが埋設されている。この層間絶縁膜14上に、下部電極15aが設けられると共に、この下部電極15aと絶縁膜16によって電気的に分離された配線層15bが設けられている。これらのうち、下部電極15a上に、有機光電変換層17が形成され、有機光電変換層17を覆うように上部電極18が形成されている。上部電極18上には、その表面を覆うように保護層19が形成されている。保護層19の所定の領域にはコンタクトホール19aが設けられている。保護層19上には、コンタクトホール19aを埋め込み、かつ配線層15bの上面まで延在するコンタクトメタル層20が形成されている。
【0020】
導電性プラグ12cは、導電性プラグ12aと共にコネクタとして機能する。また、導電性プラグ12cは、導電性プラグ12aおよび配線層13aと共に、下部電極15aから緑用蓄電層110Gへの電荷(電子)の伝送経路を形成する。導電性プラグ12dは、導電性プラグ12bと共にコネクタとして機能する。また、導電性プラグ12dは、導電性プラグ12b、配線層13b、配線層15bおよびコンタクトメタル層20と共に、上部電極18からの電荷(正孔)の排出経路を形成する。導電性プラグ12c,12dは、遮光膜としても機能させるために、例えば、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)およびタングステン等の金属材料の積層膜により構成されることが望ましい。また、このような積層膜を用いることにより、導電性プラグ12a,12bをn型またはp型半導体層として形成した場合にも、シリコンとのコンタクトを確保することができるため望ましい。
【0021】
層間絶縁膜12は、半導体基板11としてのシリコン層11aとの界面準位を低減させると共に、シリコン層11aとの界面からの暗電流の発生を抑制する。このため層間絶縁膜12は、シリコン層11aとの界面準位の小さな絶縁膜から構成されることが望ましい。このような絶縁膜としては、例えば、酸化ハフニウム(HfO2)膜と酸化シリコン(SiO2)膜との積層膜を用いることができる。層間絶縁膜14は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコンおよび酸窒化シリコン(SiON)等のうちの1種よりなる単層膜か、あるいはこれらのうちの2種以上よりなる積層膜により構成されている。
【0022】
絶縁膜16は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコンおよび酸窒化シリコン(SiON)等のうちの1種よりなる単層膜か、あるいはこれらのうちの2種以上よりなる積層膜により構成されている。絶縁膜16は、例えば、その表面が平坦化されており、下部電極15aとほぼ段差のない形状およびパターンを有する。この絶縁膜16は、光電変換素子10が、固体撮像装置1の単位画素3として用いられる場合に、各画素の下部電極15a間を電気的に分離する機能を有する。
【0023】
下部電極15aは、半導体基板11内に形成された無機光電変換部11B,11Rの受光面と正対して、これらの受光面を覆う領域に設けられている。この下部電極15aは、光透過性を有する導電膜により構成され、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)により構成されている。但し、下部電極15aの構成材料としては、このITOの他にも、ドーパントを添加した酸化スズ(SnO2)系材料、あるいはアルミニウム亜鉛酸化物にドーパントを添加してなる酸化亜鉛系材料を用いてもよい。酸化亜鉛系材料としては、例えば、ドーパントとしてアルミニウム(Al)を添加したアルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、ガリウム(Ga)添加のガリウム亜鉛酸化物(GZO)、インジウム(In)添加のインジウム亜鉛酸化物(IZO)が挙げられる。また、この他にも、CuI、InSbO4、ZnMgO、CuInO2、MgIN2O4、CdO、ZnSnO3等が用いられてもよい。なお、第1実施形態では、下部電極15aから信号電荷(電子)の取り出しがなされるので、光電変換素子10を単位画素3として用いた後述の固体撮像装置1では、この下部電極15aは画素毎に分離されて形成される。
【0024】
有機光電変換層17は選択的な波長の光を光電変換する一方、他の波長域の光を透過させる。有機光電変換層17は、例えば、それぞれp型半導体またはn型半導体として機能する有機半導体材料(p型有機半導体材料またはn型有機半導体材料)を2種以上含んで構成されている。有機光電変換層17は、層内に、このp型有機半導体材料とn型有機半導体材料との接合面(p/n接合面)を有する。p型有機半導体材料は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能し、n型有機半導体材料は、相対的に電子受容体(アクセプタ)として機能する。有機光電変換層17は、光を吸収した際に生じる励起子が電子と正孔とに分離する場を提供するものであり、具体的には、電子供与体と電子受容体との界面(p/n接合面)において、励起子が電子と正孔とに分離する。
【0025】
有機光電変換層17は、p型半導体材料およびn型半導体材料の他に、所定の波長域の光を光電変換する一方、他の波長域の光を透過させる有機半導体材料、いわゆる色素材料を含んで構成されていてもよい。有機光電変換層17をp型半導体材料、n型半導体材料および色素材料の3種類の有機半導体材料を用いて形成する場合には、p型半導体材料およびn型半導体材料は、可視領域(例えば、450nm~800nm)において光透過性を有する材料であることが好ましい。有機光電変換層17の厚みは、例えば、50nm~500nmである。有機光電変換層17の詳細は後述する。
【0026】
有機光電変換層17と下部電極15aとの間、および上部電極18との間には、図示しない他の層が設けられていてもよい。例えば、下部電極15a側から順に、下引き膜、正孔輸送層、電子ブロッキング膜 、有機光電変換層17、正孔ブロッキング膜、バッファ膜、電子輸送層および仕事関数調整膜が積層されていてもよい。
【0027】
上部電極18および保護層19は、例えば、有機光電変換層17を覆うように設けられている。上部電極18は、下部電極15aと同様の光透過性を有する導電膜により構成されている。光電変換素子10を画素として用いた固体撮像装置では、この上部電極18が画素毎に分離されていてもよく、各画素に共通の電極として形成されていてもよい。上部電極18の厚みは、例えば、10nm~200nmである。
【0028】
保護層19は、光透過性を有する材料により構成され、例えば、酸化シリコン、窒化シリコンおよび酸窒化シリコン等のうちのいずれかよりなる単層膜、あるいはそれらのうちの2種以上よりなる積層膜である。この保護層19の厚みは、例えば、100nm~30000nmである。
【0029】
コンタクトメタル層20は、例えば、チタン(Ti)、タングステン(W)、窒化チタン(TiN)およびアルミニウム(Al)等のいずれか、あるいはそれらのうちの2種以上よりなる積層膜により構成されている。
【0030】
保護層19およびコンタクトメタル層20上には、全面を覆うように、平坦化層21が形成されている。平坦化層21上には、オンチップレンズ22(マイクロレンズ)が設けられている。オンチップレンズ22は、その上方から入射した光を、有機光電変換部11G、無機光電変換部11B,11Rの各受光面へ集光させる。第1実施形態では、多層配線層23が半導体基板11の表面S2側に形成されていることから、有機光電変換部11G、無機光電変換部11B,11Rの各受光面を互いに近づけて配置することができ、オンチップレンズ22のF値に依存して生じる各色間の感度のばらつきを低減することができる。
【0031】
なお、第1実施形態に係る光電変換素子10では、下部電極15aから信号電荷(電子)を取り出すことから、これを画素として用いる固体撮像装置においては、上部電極18を共通電極としてもよい。この場合には、上述したコンタクトホール19a、コンタクトメタル層20、配線層15b,13b、導電性プラグ12b,12dからなる伝送経路は、全画素に対して少なくとも1箇所に形成されればよい。
【0032】
半導体基板11は、例えば、n型のシリコン(Si)層11aの所定の領域に、無機光電変換部11B,11Rと緑用蓄電層110Gとが埋め込み形成されている。半導体基板11には、また、有機光電変換部11Gからの電荷(電子または正孔)の伝送経路となる導電性プラグ12a,12bが埋設されている。半導体基板11の表面S2側には、有機光電変換部11G,無機光電変換部11B,11Rのそれぞれに対応する複数の画素トランジスタ(転送トランジスタTR1~TR3を含む)が形成されると共に、ロジック回路等からなる周辺回路が形成されている。
【0033】
半導体基板11の表面S2上には、多層配線層23が形成されている。多層配線層23では、複数の配線24が層間絶縁膜25を介して配設されている。このように、光電変換素子10では、多層配線層23が受光面とは反対側に形成されており、いわゆる裏面照射型の固体撮像装置を実現可能となっている。この多層配線層23には、例えば、シリコン(Si)よりなる支持基板26が貼り合わせられている。
【0034】
画素トランジスタとしては、例えば、転送トランジスタ、リセットトランジスタ、増幅トランジスタおよび選択トランジスタが挙げられる。これらの画素トランジスタは、いずれも例えば、MOSトランジスタにより構成され、半導体基板11の表面S2側のp型半導体ウェル領域に形成されている。このような画素トランジスタを含む回路が、赤、緑、青の光電変換部毎に形成されている。各回路では、これらの画素トランジスタのうち、例えば、転送トランジスタ、リセットトランジスタおよび増幅トランジスタからなる、計3つのトランジスタを含む3トランジスタ構成を有していてもよく、これに選択トランジスタを加えた4トランジスタ構成であってもよい。
図1では、これらの画素トランジスタのうち、転送トランジスタのゲート電極TG1~TG3についてのみ、表面S2側の多層配線層23に埋め込まれた構造として図示している。また、転送トランジスタ以外の他の画素トランジスタについては、光電変換部間あるいは画素間において共有することもできる。また、浮遊拡散領域(FD)を共有する、いわゆる画素共有構造を適用することもできる。
【0035】
転送トランジスタは、ゲート電極TG1~TG3と、浮遊拡散領域とを含んで構成されている。ゲート電極TG1を有する転送トランジスタは、有機光電変換部11Gにおいて発生し、緑用蓄電層110Gに蓄積された、緑色に対応する信号電荷(電子)を、固体撮像装置の垂直信号線へ転送する。ゲート電極TG2を有する転送トランジスタは、無機光電変換部11Bにおいて発生し、蓄積された、青色に対応する信号電荷を、固体撮像装置の垂直信号線へ転送する。同様に、ゲート電極TG3を有する転送トランジスタ3は、無機光電変換部11Rにおいて発生し、蓄積された、赤色に対応する信号電荷を、固体撮像装置の垂直信号線へ転送する。
【0036】
p型半導体領域およびn型半導体領域の図示を省略しているが、無機光電変換部11B,11Rはそれぞれ、n型のシリコン層11a中でpn接合を有するフォトダイオードであり、半導体基板11内の光路上において、半導体基板11の裏面S1側から無機光電変換部11B,11Rの順に形成されている。これらのうち、無機光電変換部11Bは、青色光を選択的に検出して青色に対応する信号電荷を蓄積させるものであり、例えば、半導体基板11の裏面S1に沿った選択的な領域から、多層配線層23との界面近傍の領域にかけて延在して形成されている。無機光電変換部11Rは、赤色光を選択的に検出して赤色に対応する信号電荷を蓄積させるものであり、例えば、無機光電変換部11Bよりも下層(半導体基板11の表面S2側)の領域にわたって形成されている。なお、青(B)は、例えば、450nm~495nmの波長域、赤(R)は、例えば、620nm~750nmの波長域にそれぞれ対応する色であり、無機光電変換部11B,11Rはそれぞれ、各波長域のうちの一部または全部の波長域の光を検出可能となっていればよい。
【0037】
<有機光電変換層の構成>
前述したSiバルク分光で2色の信号を取り出し、Siバルク上に設けられた有機光電変換膜で1色の信号を取り出す撮像素子では、一般に、有機光電変換膜は、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料とが不規則に混合されたバルクヘテロ構造を有する。バルクヘテロ構造では、有機半導体材料がアモルファス状態で存在することが多い。一般的にアモルファス有機半導体は結晶に比べてエネルギー分散が大きいため移動度が低い。移動度が低下すると、電荷分離界面で発生した電荷が電極に到達するまでに要する時間が長くなるため、残像特性が低下するという課題がある。そこで、第1実施形態では、エネルギー分散の小さく移動度の高いアモルファス有機半導体を用いることによって、残像特性を向上させることが可能な光電変換素子を提供する。
【0038】
第1実施形態では、有機光電変換層17は、互いに異なる母骨格を有する第1有機半導体材料および第2有機半導体材料を少なくとも含む。第1有機半導体材料および第2有機半導体材料は、p型有機半導体材料およびn型有機半導体材料でそれぞれ構成される。有機光電変換層17により光電変換されたのち、正孔は主にp型有機半導体材料中を伝導するキャリアであるため、p型有機半導体材料は高い正孔移動度を有する材料であることが好ましい。電子は主にn型有機半導体材料中を伝導するキャリアであるため、n型有機半導体材料は高い電子移動度を有する材料であることが望ましい。また、有機光電変換層17を構成するp型有機半導体材料およびn型有機半導体材料の混合割合は、例えばp型有機半導体材料が30重量%、n型有機半導体材料が70重量%程度であってよく、これに限定されない。なお、有機光電変換層17は、第1有機半導体材料および第2有機半導体材料と異なる母骨格を有する第3有機半導体材料を更に含んでもよい。
【0039】
一般的にアモルファス有機半導体中では、
図2に模式的に示すように、個々の分子のキャリア伝導エネルギー準位が空間的に変動し、正規分布で近似できるプロファイルをなす。この変動したプロファイルはキャリア移動に対するエネルギー障壁となるので、キャリア伝導エネルギー準位のエネルギー分散σが大きいほどキャリア移動度が低下する。アモルファス有機半導体中では、キャリア伝導エネルギー準位として、正孔に対する最高被占分子軌道(Highest Occupied Molecular Orbital; HOMO)準位、電子に対する最低空分子軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital; LUMO)準位が定義される。HOMOは、エネルギー準位の低い安定な分子軌道から順番に電子が充填されるとして、最後に充填された電子が存在する分子軌道を意味する。LUMOは、HOMOよりもエネルギー準位が一つ上の分子軌道であって、それ以上のエネルギー準位の軌道に電子が存在していない軌道を意味する。
図3に示すように、正規分布で近似した場合のHOMO準位のエネルギー分散をσ
HOMOとし、LUMO準位のエネルギー分散をσ
LUMOとする。
【0040】
第1実施形態では、有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料および第2有機半導体材料の少なくとも一方が、HOMO体積率またはLUMO体積率が0.15以下程度の有機分子で構成されている。「HOMO体積率」と「LUMO体積率」はそれぞれ下記式(1),(2)で定義される。
HOMO体積率=HOMO体積/1分子の占有体積 …(1)
LUMO体積率=LUMO体積/1分子の占有体積 …(2)
【0041】
式(1),(2)で、「HOMO体積」とはHOMO準位の絶対値が0.02以上の領域の体積である。また、「LUMO体積」とは、LUMO準位の絶対値が0.02以上の領域の体積である。HOMO体積およびLUMO体積は第一原理計算で求めることができる。1分子の占有体積は密度の実測値、もしくは分子動力学法などのコンピュータシミュレーションで求めることができる。
【0042】
例えば、第1有機半導体材料および第2有機半導体材料の少なくとも一方のHOMO体積率またはLUMO体積率は、小さい値であるほど好ましく、0.10以下程度であればより好ましい。
【0043】
例えば、有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料および第2有機半導体材料のいずれもが、HOMO体積率またはLUMO体積率が0.15以下であってもよい。また、第1有機半導体材料および第2有機半導体材料のいずれか一方が、HOMO体積率またはLUMO体積率が0.15以下であってもよい。また、第1有機半導体材料のHOMO体積率およびLUMO体積率のいずれもが0.15以下であってもよく、HOMO体積率およびLUMO体積率のいずれか一方のみが0.15以下、且つ他方が0.15を超えていてもよい。同様に、第2有機半導体材料のHOMO体積率およびLUMO体積率のいずれもが0.15以下であってもよく、HOMO体積率およびLUMO体積率のいずれか一方のみが0.15以下、且つ他方が0.15を超えていてもよい。また、有機光電変換層17が第3有機半導体材料を更に有する場合には、第3有機半導体材料のHOMO体積率またはLUMO体積率が0.15以下であってもよく、0.15を超えていてもよい。
【0044】
また、有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料および第2有機半導体材料のそれぞれにおいて、HOMO体積率またはLUMO体積率が0.15以下程度の場合に、HOMO体積率およびLUMO体積率が同等であってもよい。あるいは、HOMO体積率またはLUMO体積率が0.15以下程度の場合に、HOMO体積率がLUMO体積率より高くてもよく、HOMO体積率がLUMO体積率より低くてもよい。
【0045】
有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料としては、例えば、キナクリドン、塩素化ホウ素サブフタロシアニン、ペンタセン、ベンゾチエノベンゾチオフェン、フラーレンおよびそれらの誘導体が挙げられる。有機光電変換層17は、例えば、上述した有機半導体材料を2種以上組み合わせて構成されている。上述した有機半導体材料は、その組み合わせによってp型半導体またはn型半導体として機能する。なお、有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料としては更に、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、ピレン、ペリレン、およびフルオランテンあるいはそれらの誘導体のうちのいずれか1種が好適に用いられる。あるいは、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン、ジアセチレン等の重合体やそれらの誘導体を用いてもよい。
【0046】
有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料としては、例えば、下記式(1-1)~(1-21)に示した化合物が挙げられる。
【0047】
【0048】
(R1~R14は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換の複素アリール基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキシアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基である。隣り合う任意のR1~R14は互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。X1~X4は各々独立して、ヘテロ原子である。)
【0049】
また、有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料としては、例えば下記式(2-1)~(2-6)に示した化合物が挙げられる。
【0050】
【0051】
(R1~R18は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換の複素アリール基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキシアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基である。隣り合う任意のR1~R18は互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。X1はアニオン性基である。M1はカチオン性基である。)
【0052】
また、有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料としては、例えば下記式(3)に示したキナクリドンおよびその誘導体が挙げられる。
【0053】
【0054】
(R1~R11は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換の複素アリール基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキシアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基である。隣り合う任意のR1~R11は互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。)
【0055】
また、有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料としては、例えば下記式(4-1)~(4-4)に示した化合物が挙げられる。
【0056】
【0057】
(R1~R11は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換の複素アリール基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキシアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基である。隣り合う任意のR1~R11は互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。)
【0058】
また、有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料としては、例えば下記式(5)に示した化合物が挙げられる。
【0059】
【0060】
(R1~R5は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換の複素アリール基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキシアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基である。)
【0061】
また、有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料としては、例えば下記式(6-1)に示したC60フラーレンおよびその誘導体が挙げられる。更に、第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料としては、例えば下記式(6-2)に示したC70フラーレンおよびその誘導体が挙げられる。なお、第1~第5実施形態では、フラーレンは有機半導体材料として取り扱う。
【0062】
【0063】
(Rは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換の複素アリール基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキシアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基である。n,mは0または1以上の整数である。Rはフラーレンと2点以上の結合を有していてもよい。)
【0064】
また、有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料としては、例えば下記式(7-1)および(7-2)に示した化合物が挙げられる。
【0065】
【0066】
(Arは、置換若しくは無置換の2以上の縮合環、置換若しくは無置換の5員芳香族環、または置換若しくは無置換の6員芳香族環、から選ばれまたはR1~R3、R6、R7は、それぞれ独立して、水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基(-CN)、シアノ含有基、およびこれらの組み合わせから選ばれる。R4、R5は各々独立して、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基および置換若しくは無置換のヘテロアリール基である。R4、R5が置換若しくは無置換のアルキル基質の場合、それぞれはR3ないしはR6と互いに結合して環を形成しても良い。Xは、S、Se、Te、S(=O)、またはS(=O)2である。)
【0067】
また、有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料としては、例えば下記式(8)に示したクマリンおよびその誘導体が挙げられる。
【0068】
【0069】
(Yは酸素原子あるいは硫黄原子あるいは置換または無置換のイミノ基を表し、X1~X6はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホニル基、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアラルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロアリール基、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアラルキルオキシ基、置換または無置換のアリールオキシ基、置換または無置換のアルキルチオ基、置換または無置換のアラルキルチオ基、置換または無置換のアリールチオ基、置換または無置換のアルキルスルホニル基、置換または無置換のアルキルアミノ基、置換または無置換のアリールスルホニル基、置換または無置換のアリールアミノ基、置換または無置換のアシルアミノ基、置換または無置換のカルボキシアミド基、置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアシルオキシ基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、置換または無置換のアラルキルオキシカルボニル基、置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、あるいは置換または無置換のアミノ基を表し、更にX1~X6から選ばれる互いに隣接する基は連結基を介して、置換している炭素原子と共に環構造を形成してもよい。)
【0070】
以上説明したように、有機光電変換層を構成するバルクへテロ構造では、一般的に、アモルファス有機半導体材料のエネルギー分散が大きく、移動度が低下し易い。これに対して、第1実施形態に係る光電変換素子10によれば、有機光電変換層17が第1有機半導体材料および第2有機半導体材料を含み、第1有機半導体材料および第2有機半導体材料の少なくとも一方が、HOMO体積率またはLUMO体積率が0.15以下程度の有機分子で構成されているので、バルクヘテロ構造を構成するアモルファス有機半導体材料のエネルギー分散が小さい。このため、高い移動度を得ることができるので、優れた残像特性を得ることができる。
【0071】
<実施例>
計算例1~7として、上記式(1-15)に示したペンタセン、上記式(3)に示したキナクリドン、下記式(9)に示したベンゾチエノベンゾチオフェノン誘導体(DPh-BTBT)、下記式(10)に示したF6-OC6F5、下記式(11)に示したF6-OPh2,6F2、下記式(12)に示したNTCD-Ph、下記式(13)に示したB4PyMPMについて、HOMO体積率およびLUMO体積率を計算した。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
HOMO体積率とLUMO体積率の計算は密度汎関数法で行い、分子の構造最適化時には汎関数B3LYP、基底関数6-31G(d)を用い、分子軌道とエネルギー計算時には汎関数B3LYP、基底関数6-311++G(d,p)を用いた。続いて、これらの分子がそれぞれ約500分子含まれる単一組成のアモルファス構造を分子動力学法で生成した。その構造から任意の1分子を選び、その分子を中心とした半径12Å内に重心がある周辺分子(分子クラスター)を取り出した。その分子クラスターの電子状態を密度汎関数法で計算して、中心分子のHOMO準位とLUMO準位のエネルギー準位(サイトエネルギー)を求めた。同様の計算を全分子について行い、サイトエネルギーの分布を求めた。サイトエネルギー分布をガウス関数でフィッティングしてσHOMOとσLUMOを算出した。各種分子のσHOMO、σLUMOとHOMO体積率、LUMO体積率の関係を表1に示す。
【0078】
【0079】
表1に示すように、計算例1,2では、HOMO体積率およびLUMO体積率のいずれもが0.15を超えた。一方、計算例3~7では、HOMO体積率およびLUMO体積率のいずれもが0.15以下となった。そのうち、計算4,5,7では、HOMO体積率およびLUMO体積率のいずれもが0.10以下となった。
【0080】
表1のσ
HOMOとHOMO体積率の関係をプロットしたものを
図4に示し、表1のσ
LUMOとLUMO体積率の関係をプロットしたものを
図5に示す。
図4および
図5に示すように、σ
HOMOとHOMO体積率、およびσ
LUMOとLUMO体積率には明らかな相関が見られる。
図4から、HOMO体積率が0.15以下であれば、σ
HOMOを0.2eV以下に抑えられることが分かる。また、
図5から、LUMO体積率が0.15以下であれば、σ
LUMOを0.2eV以下に抑えられることが分かる。非特許文献1によると、エネルギー準位の標準偏差σを0.2eV以下に抑えると、1×10
-4cm
2/V・s以上の移動度を得られることが報告されている。したがって、HOMO体積率又はLUMO体積率を0.15以下の有機分子を採用することで、1×10
-4cm
2/V・s以上の移動度を得られるため、優れた残像特性を得ることができる。
【0081】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る光電変換素子10も、
図1に示した断面構造を有し、第1実施形態に係る光電変換素子の構造と共通する。しかしながら、第2実施形態に係る光電変換素子10は、有機光電変換層17の構成が第1実施形態と相違する。以下では有機光電変換層17の構成に着目して説明し、第1実施形態との共通部分の説明を省略する。
【0082】
第1実施形態で既に述べた通り、有機半導体材料を用いた光電変換素子では、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料とが不規則に混合されたバルクヘテロ構造を採用し、量子効率の向上が図られている。しかしながら、単にバルクヘテロ構造にしただけでは量子効率が十分でないことや、応答速度が遅いこと、暗電流が大きいことが課題となっている。特に暗電流の要因として、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料の混合状態が悪く疎な膜となることで、材料界面の減少による光電変換効率の低下、材料間のキャリアの拡散の阻害、トラップ準位の生成等が起きていると推測される。そこで、第2実施形態では、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料の混合状態を改善し、暗電流を抑制可能な光電変換素子を提供する。
【0083】
第2実施形態に係る光電変換素子10は、
図1に示すように、対向配置された下部電極(第1電極)15aおよび上部電極(第2電極)18と、下部電極15aおよび上部電極18との間に設けられた有機光電変換層17とを備える。有機光電変換層17は、2つ以上の互いに異なる母骨格を有する有機半導体材料で構成されている。有機光電変換層17は、例えば2種類の有機半導体材料で構成されていてもよく、3種類以上の有機半導体材料で構成されていてもよい。有機光電変換層17を構成する有機半導体材料は、p型半導体有機材料およびn型半導体有機材料を含む。p型半導体有機材料は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能し、n型半導体有機材料は、相対的に電子受容体(アクセプタ)として機能する。
【0084】
有機光電変換層17を構成する有機半導体材料の少なくとも1つは正孔輸送性材料であってよい。有機光電変換層17は、正孔輸送性材料を重量比で30%以上含むことが好ましい。正孔輸送性材料の正孔移動度は1×10-5cm2/V・s以上程度であり、好ましくは1×10-4cm2/V・s以上程度であり、より好ましくは1×10-2cm2/V・s以上程度である。
【0085】
第2実施形態では、有機光電変換層17の膜密度をmとし、有機光電変換層17を構成する各有機半導体材料の単膜の膜密度の組成に対する加重平均をnとしたときに、m/nが1以上である。即ち、有機光電変換層17を構成する各有機半導体材料の相互作用によって、有機光電変換層17が、有機光電変換層17を構成する各有機半導体材料がそれぞれ単膜である場合と同等以上に密となっている状態である。m/nは1.0より大きいことが好ましく、更に、m/nは1.02以上であることがより好ましく、更に、m/nは1.04以上であることがより好ましい。
【0086】
有機光電変換層17は複数の有機半導体材料から構成されてバルクヘテロ構造となっているが、材料の組み合わせや比率によって混合状態に差が生じる。このような混合状態は材料のもつ電子の空間分布や分子形状、エネルギー順位等に影響されるため複雑であるが、単膜と混合膜の膜密度比によって規定することができる。単体で高密度な材料を集めて混合膜としても、材料間の相互作用が無い場合や疎な膜となる場合は、キャリア拡散の阻害やドメイン界面でトラップ準位が生じて、良好な特性の有機光電変換層17は得られない。
【0087】
一方、単膜は疎であっても異なる材料と組み合わせることによって密な混合膜になる場合がある。この要因としては、同一分子同士の相互作用よりも、他の特定の分子との相互作用が強い場合や、立体形状が密なパッキングを促す形になっている等が考えられる。このような有機光電変換層17では、材料間の密着が良いことにより効率の良い光電変換およびキャリア転送が実現でき、かつ界面準位が減少することによって暗電流を低減することができる。混合性の良さは上述のm/nによって評価することができ、その定義より1.0以上であれば混合性が良い材料の組み合わせ(組成)になる。
【0088】
有機光電変換層17を構成する有機半導体材料としては、例えば、キナクリドン、塩素化ホウ素サブフタロシアニン、ペンタセン、ベンゾチエノベンゾチオフェン、フラーレンおよびそれらの誘導体等の有機半導体材料を2種以上組み合わせて構成されている。上述の有機半導体材料は、その組み合わせによってp型半導体またはn型半導体として機能する。なお、有機光電変換層17を構成する有機半導体材料としては更に、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、ピレン、ペリレン、およびフルオランテンあるいはそれらの誘導体のうちのいずれか1種が好適に用いられる。あるいは、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン、ジアセチレン等の重合体やそれらの誘導体を用いてもよい。
【0089】
更に、有機光電変換層17を構成する有機半導体材料としては、例えば、金属錯体色素材料、シアニン系色素材料、メロシアニン系色素材料、フェニルキサンテン系色素材料、トリフェニルメタン系色素材料、ロダシアニン系色素材料、キサンテン系色素材料、大環状アザアヌレン系色素材料、アズレン系色素材料、ナフトキノン、アントラキノン系色素材料、アントラセンおよびピレン等の縮合多環芳香族および芳香環あるいは複素環化合物が縮合した鎖状化合物、または、スクアリリウム基およびクロコニツクメチン基を結合鎖として持つキノリン、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール等の二つの含窒素複素環、または、スクアリリウム基およびクロコニツクメチン基により結合したシアニン系類似の色素材料等を好ましく用いることができる。なお、上記金属錯体色素材料としては、ジチオール金属錯体系色素材料、金属フタロシアニン色素材料、金属ポルフィリン色素材料、またはルテニウム錯体色素材料が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0090】
以上説明したように、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料とが不規則に混合されたバルクヘテロ構造は、暗電流を抑制することが課題となっている。これに対して、第2実施形態によれば、有機光電変換層17の膜密度をmとし、有機光電変換層17を構成する各有機半導体材料の単膜の膜密度の組成に対する加重平均をnとしたときに、m/nが1以上となる有機半導体材料の組み合わせ及び組成を選択する。これにより、バルクヘテロ層中の有機分子の混合状態をより密にすることができる。このため、光電変換可能な界面の減少による光電変換効率の低下、材料間での効率的なキャリアの拡散、トラップ準位の減少によって、暗電流を低減することができる。
【0091】
<実施例>
石英ガラス基板をUV/オゾン処理にて洗浄したのち、有機蒸着装置を用いて、1×10-5Pa以下の真空下で基板ホルダを回転させながら抵抗加熱法により有機光電変換層を成膜した。まず、下記式(14-1)に示したキナクリドン誘導体(QD),下記式(14-2)に示したキナクリドン誘導体(BQD),下記式(14-3)に示したキナクリドン誘導体(MMQD),下記式(15)に示したBP-ChDT,上記式(6-1)に示したC60,下記式(16)に示したF6-SubPc-F,下記式(17)に示したサブフタロシアニン誘導体(F6-SubPc-OPh2,6F2)の単膜をそれぞれ成膜し、試料1~7とした。その後、化合物の組み合わせおよび成膜レート比がQD:F6-SubPc-F=5:5、QD:F6-SubPc-F=7:3、BQD:QD:F6-SubPc-F=3.5:3.5:3、BP-ChDT:C60:F6-SubPc-OPh2,6F2=3;3:4、BP-ChDT:C60:F6-SubPc-OPh2,6F2=4:24:4:2の共蒸着膜をそれぞれ成膜し、試料8~12とした。試料1~7の単膜の膜厚を50nm、試料8~12の共蒸着膜の膜厚を230nmとした。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
X線反射率法(XRR)を用いて試料1~7の単膜の膜密度と、試料8~12の共蒸着膜の膜密度をそれぞれ算出した。測定条件を表2に示す。表2の走査軸の設定値の「2θ/θ」は、試料に対するX線の視斜角が検出器角度2θの丁度半分になるように走査することを示す。
【0097】
【0098】
XRRの測定結果から算出した、試料1~7の単膜の膜密度を表3に示す。
【0099】
【0100】
また、試料8~12について、試料8~12の共蒸着膜の膜密度mと、試料1~7の単膜の膜密度と組成比から算出した膜密度の加重平均nと、加重平均nに対する膜密度mの比m/nと、暗電流特性を表4に示す。
【0101】
【0102】
表4から、試料8,10のようにm/nが1.0未満である場合には、暗電流が10-8A/cm2台以上となり、暗電流特性が良好でないことが分かる。一方、試料9,11,12のようにm/nが1.0以上である場合には、暗電流が10-9A/cm2台以下となり、良好な暗電流特性が得られたことが分かる。このうち、試料11,12のようにm/nが1.02以上である場合には、暗電流が10-10A/cm2台以下となり、更に良好な暗電流特性が得られたことが分かる。このうち、試料12のようにm/nが1.04以上である場合には、暗電流が10-11A/cm2台以下となり、更に良好な暗電流特性が得られたことが分かる。また、試料8,9のように材料が同一でも組成を異ならせることで、m/nおよび暗電流特性が変化することが分かる。
【0103】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る光電変換素子10も、
図1に示した断面構造を有し、第1および第2実施形態に係る光電変換素子の構造と共通する。しかしながら、第3実施形態に係る光電変換素子10は、有機光電変換層17の構成が第1および第2実施形態と相違する。以下では有機光電変換層17の構成に着目して説明し、第1および第2実施形態との共通部分の説明を省略する。
【0104】
第1および第2実施形態で既に述べた通り、
図1に示した有機光電変換層17は、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料とが不規則に混合したバルクヘテロ構造を有する。バルクヘテロ層では半導体材料がアモルファス状態で存在することが多い。一般的にアモルファス有機半導体では、
図2及び
図3に模式的に示すように、個々の分子のキャリア伝導エネルギー準位が空間的に変動している。この変動したプロファイルは、キャリア移動にとってエネルギー障壁となるので、キャリア伝導エネルギー準位のエネルギー分散σが大きいほどキャリア移動度が低下する。一般的にアモルファス有機半導体は結晶に比べてエネルギー分散σが大きいため移動度が低い。移動度が低下すると、電荷分離界面で発生した電荷が電極に到達までに要する時間が長くなるため、光電変換素子の残像特性が低下するという課題がある。
【0105】
ところで、固体撮像装置の画素等として用いる光電変換素子においては、外部量子効率(EQE)の改善が求められている。EQEの改善には光吸収量を向上させ、かつ励起子の電荷分離効率を良くすることが望ましい。そこで、例えば、バルクヘテロ接合型の光電変換素子において、ドナーおよびアクセプタ材料に更に色素材料を加えることで、膜体積当たりの光吸収効率を上げることが考えられる。しかしながら、色素材料の添加は膜中のドナーまたはアクセプタに配位することで前述のエネルギー分散σを増大させる恐れがある。そこで、第3実施形態では、ドナーおよびアクセプタに配位する色素材料の構造を制御することで、残像特性低下の抑制と高いEQEを両立した光電変換素子を提供する。
【0106】
第3実施形態に係る光電変換素子10は、
図1に示すように、対向配置された下部電極(第1電極)15aおよび上部電極(第2電極)18と、下部電極15aおよび上部電極18との間に設けられた有機光電変換層17とを備える。有機光電変換層17が、互いに異なる母骨格を有する第1~第3有機半導体材料を含む。第1有機半導体材料は電子供与性を有し、第2有機半導体材料は電子受容性を有し、第3有機半導体材料は光を吸収して励起する色素材料である。第1有機半導体材料および第2有機半導体材料は、p型半導体有機材料およびn型半導体有機材料でそれぞれ構成される。p型有機半導体材料は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能し、n型有機半導体材料は、相対的に電子受容体(アクセプタ)として機能する。
【0107】
第3実施形態では、有機光電変換層17内の第2有機半導体材料の総数NAに対して、第2有機半導体材料が隣接する第3有機半導体材料との配位構造として最も安定な構造のみである第2有機半導体材料の個数Nの比率N/NAが0.5以上程度である。NA/Nは、例えば0.5以上1.0以下であってよく1.0に近いほど好ましい。
【0108】
ここで、有機半導体材料は、その周囲に配位する有機材料との相互作用によりエネルギー準位が変化するため、色素材料が配合されることによりエネルギー準位のばらつきが増大し、電子移動度が低下することが懸念される。つまり、有機光電変換層に配合される色素材料としては、有機半導体材料に与える相互作用が均一であることが望ましい。有機材料間の相互作用は配位構造によって変化する。即ち、有機光電変換層に含まれる色素材料と有機半導体材料との配位構造は、なるべく一種類に揃っていることが望ましい。
図6Aに模式的に、色素材料である第3有機半導体材料31と第2有機半導体材料32の配位構造が揃っていない状態を示し、
図6Bに模式的に、色素材料である第3有機半導体材料31と第2有機半導体材料32の配位構造が揃っている状態を示す。
【0109】
有機光電変換層17内の配位構造が一種類に揃っている指標としては、配位構造の分布の偏りを見ればよい。有機光電変換層17内の色素材料と有機半導体の配位構造の分布は、量子化学計算などのコンピューターシミュレーションで算出することができる。また、色素材料と有機半導体の配位構造分布は、実験による解析からも同定することができる。例えば、ラマン分光、赤外分光(IR)、フォトルミネッセンス(PL)などの分光解析によって分子の配向構造に由来したピーク分離ができれば、そのピーク強度比から、配位構造の比を求めることができる。即ち、膜中に存在する色素材料と有機半導体材料の配位構造比を実験から算出することが原理的に可能である。
【0110】
N/N
Aは、例えば、以下のように求めることができる。まず、
図7に模式的に示すように、量子化学計算により、色素材料である第3有機半導体材料31と、第2有機半導体材料32との最も安定な二量体構造を求める。
図7では、第3有機半導体材料31がお椀型(傘状)であり、第2有機半導体材料32が略球形である場合を模式的に示している。更に、二量体構造における第3有機半導体材料31の重心C1と第2有機半導体材料32の重心C2を通る軸aに対して垂直であり、かつ第3有機半導体材料31の重心C1を通る面で分断する分断面Sを定義する。更に、その分断面Sで定義された2つの領域のうち、第2有機半導体材料32が有る側の領域を「領域A」、第2有機半導体材料の無い側を「領域B」として定義する。この定義により、任意の二量体構造を領域Aまたは領域Bの2つに分類することができる。
【0111】
光電変換層17内の第2有機半導体材料のうち、第2有機半導体材料32に隣接する第3有機半導体材料31から見て第2有機半導体材料32が領域Aにのみ位置する第2有機半導体材料32の個数をNAとし、光電変換層17内の第2有機半導体材料32の総数をNとして、NA/Nを算出することができる。この際、第2有機半導体材料32と第3有機半導体材料31の重心間距離が1.0nm以内の場合に、第2有機半導体材料32と色素材料31が隣接しているものとみなす。
【0112】
例えば、
図7に示した最も安定な二量体構造では、第2有機半導体材料32に隣接する第3有機半導体材料31から見てその第2有機半導体材料32が領域Aにのみ位置するので、第2有機半導体材料32はN
Aに含まれる。また、
図8A~
図8Cに示すように、二量体構造が第2有機半導体材料32とそれに隣接する複数の第3有機半導体材料31で構成されていてもよい。
図8A及び
図8Bに示した構造の場合、第2有機半導体材料32に隣接する各第3有機半導体材料31から見て第2有機半導体材料32が領域Aにのみ位置するので、
図8A及び
図8Bに示した各第2有機半導体材料32はN
Aに含まれる。一方、
図8Cに示した構造の場合、上側の第3有機半導体材料31から見て第2有機半導体材料32が領域Aに位置するが、下側の第3有機半導体材料31から見て第2有機半導体材料32が領域Bに位置するため、
図8Cに示した各第2有機半導体材料32はN
Aに含まれない。なお、
図8A及び
図8Bでは第2有機半導体材料32に隣接する第3有機半導体材料31が2個及び3個である場合をそれぞれ例示するが、第2有機半導体材料32に隣接する第3有機半導体材料31が3次元的に4個以上存在してもよい。
【0113】
有機光電変換層17において、NA/Nを0.5以上にするには、有機光電変換層17のモルフォロジーを改変することが有効である。例えば、有機光電変換層17の蒸着温度や蒸着レート、有機光電変換層17の下地を調整することにより、有機光電変換層17のモルフォロジーを改変することができる。また、有機光電変換層17において、NA/Nを0.5以上にするには、色素材料の分子構造を改善することが有効である。例えば、第3有機半導体材料と第2有機半導体材料における特定の二量体構造を、極端に安定化させることにより、有機光電変換層17中での構造を揃えることができる。また、第3有機半導体材料の構造を対称にし、1つの第3有機半導体材料に対して同じ配位構造をもつ第2有機半導体材料を複数隣接させることで、配位構造として最も安定な構造のみである比率を増やすことができる。
【0114】
有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料および第2有機半導体材料としては、例えば、キナクリドン、塩素化ホウ素サブフタロシアニン、ペンタセン、ベンゾチエノベンゾチオフェン、フラーレンおよびそれらの誘導体等の有機半導体材料を2種以上組み合わせて構成されている。上記有機半導体材料は、その組み合わせによってp型半導体またはn型半導体として機能する。なお、有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料および第2有機半導体材料としては更に、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、ピレン、ペリレン、およびフルオランテンあるいはそれらの誘導体のうちのいずれか1種が好適に用いられる。あるいは、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン、ジアセチレン等の重合体やそれらの誘導体を用いてもよい。
【0115】
有機光電変換層17に含まれる色素材料としての第3有機半導体材料は、高い吸光度を持つことが望ましい。第3有機半導体材料としては、金属錯体色素材料、シアニン系色素材料、メロシアニン系色素材料、フェニルキサンテン系色素材料、トリフェニルメタン系色素材料、ロダシアニン系色素材料、キサンテン系色素材料、大環状アザアヌレン系色素材料、アズレン系色素材料、ナフトキノン、アントラキノン系色素材料、アントラセンおよびピレン等の縮合多環芳香族および芳香環あるいは複素環化合物が縮合した鎖状化合物、または、スクアリリウム基およびクロコニツクメチン基を結合鎖として持つキノリン、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール等の二つの含窒素複素環、または、スクアリリウム基およびクロコニツクメチン基により結合したシアニン系類似の色素材料等を好ましく用いることができる。なお、上記金属錯体色素材料としては、ジチオール金属錯体系色素材料、金属フタロシアニン色素材料、金属ポルフィリン色素材料、またはルテニウム錯体色素材料が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0116】
また、有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料、第2有機半導体材料、第3有機半導体材料の混合割合としては、例えば第1有機半導体材料が30重量%程度、第2有機半導体材料が30重量%程度、色素材料が40重量%程度であってよいが、これに限定されない。
【0117】
以上説明したように、有機半導体材料を用いた光電変換素子において、EQEを改善するために、有機光電変換層に色素材料を配合することが考えられるが、これによりエネルギー準位の変動が大きくなり、残像特性が低下する懸念がある。これに対して、第3実施形態に係る光電変換素子10によれば、有機光電変換層17に、電子供与性及び電子受容性をそれぞれ有する第1及び第2有機半導体材料に加えて、第3有機半導体材料として色素材料を配合することにより光吸収効率を上げて、光電変換効率を向上させることができる。更に、有機光電変換層17内の第2有機半導体材料の総数NAに対して、第2有機半導体材料が隣接する第3有機半導体材料との配位構造として最も安定な構造のみである第2有機半導体材料の個数Nの比率N/NAが0.5以上となる配位構造が制御された組み合わせを選択することで、エネルギー分散の増大を抑制することができ、残像特性の低下を防止することができる。したがって、優れた残像特性と高いEQEを両立した光電変換素子10を提供することができる。
【0118】
<実施例>
まず、第2有機半導体材料(n型有機半導体材料)として上記式(6-1)に示したC60、第3有機半導体材料(色素材料)として上記式(11)に示したF6-OPh2,6F2を採用し、C60およびF6-OPh2,6F2についての最も安定な二量体構造を求めた。計算は密度汎関数法で行い、分子の構造最適化時には汎関数B3LYP、基底関数6-31G(d)を用い、分子軌道とエネルギー計算時には汎関数B3LYP、基底関数6-311++G(d,p)を用いた。
【0119】
これらの最も安定な二量体構造から、配位構造を特徴づけるための定義を行う。まず、
図7に模式的に示すように、二量体構造における第3有機半導体材料31としてのF6-OPh2,6F2の重心C1と第2有機半導体材料32としてのC60の重心C2を通る軸aに対して垂直であり、かつ重心C1を通る面で分断する分断面Sを定義する。そして、その分断面Sで定義された2つの領域のうち、第2有機半導体材料32としてのC60が有る側の領域を「領域A」、第2有機半導体材料32としてのC60の無い側を「領域B」として定義する。この定義により、任意の二量体構造を領域Aまたは領域Bの2つに分類することができる。
【0120】
続いて配位構造の分布を求めるため、第3有機半導体材料31としてのF6-OPh2,6F2と第2有機半導体材料32としてのC60がそれぞれ約1000分子含まれる二元相溶のアモルファス構造を分子動力学法で生成した。分子動力学法で利用される力場は、非特許文献3に開示されたGAFF(General Amber Force Field)を利用した。
【0121】
図9に、分子動力学法で生成した二元相溶のアモルファス構造における配位構造の分布を示す。
図9の横軸は、第2有機半導体材料32としてのC60と、第3有機半導体材料31としてのF6-OPh2,6F2の重心間距離rを示す。
図9の縦軸は、
図10A~
図10Cに模式的に示すように、第3有機半導体材料31としてのF6-OPh2,6F2の分断面Sに対し領域A方向の法線ベクトルv1と、第2有機半導体材料32としてのC60の重心C1からF6-OPh2,6F2の重心C2を結ぶベクトルv2とのなす角度θを示す。なお、前述の分断面Sの定義より、
図10Aに示すようにcosθ=-1が最も安定な二量体構造に対応する。
図10Bに示すようにcosθ<0の領域は領域Aに対応し、
図10Cに示すようにcosθ>0の領域は領域Bに対応する。
図9で、領域Aに点が密集している周辺が、C60とF6-OPh2,6F2が最も安定となる二量体構造に近い配位構造として抽出できる。一方、領域Bの点は、安定な二量体構造とは別の配位構造になる。
【0122】
次に、上記で作成した構造におけるC60のエネルギー準位のばらつきを評価した。構造から任意の1分子を選び、その分子を中心とした半径12Å内に重心がある周辺分子(分子クラスター)を取り出した。その分子クラスターの電子状態を密度汎関数法で計算して、中心分子のHOMO準位とLUMO準位のエネルギー準位(サイトエネルギー)を求めた。同様の計算をC60全分子について行い、サイトエネルギーの分布を求めた。サイトエネルギー分布をガウス関数でフィッティングし、LUMO準位の標準偏差σLUMOを算出した。
【0123】
次に、配位構造分布の偏りとC60のσ
LUMOの関係性を調べた。配位構造分布の偏りとして、C60に隣接するF6-OPh2,6F2との配位構造として最も安定な構造のみである比率N
A/Nを用いる。ここでNはC60の総数、N
AはC60に隣接するF6-OPh2,6F2からみてそのC60が領域Aにのみ存在している場合のC60の数を表す。また、隣接の定義は重心間距離が1.0nm以内とする。N
A/Nとσ
LUMOの関係との関係を表5に示す。また、表5のN
A/Nとσ
LUMOをプロットしたものを
図11に示す。
【0124】
【0125】
表5および
図11から、N
A/Nとσ
LUMOは明らかな相間があることが分かる。非特許文献2によれば、エネルギー準位の標準偏差σが25meV程度増加することで、移動度は1桁程度低下することが報告されている。表5より、N
A/Nが0.2と1.0では24meVの差があり、移動度におおよそ1桁程度の差が出ることが予想される。ここで、N
A/N=1.0の条件は最も移動度が高くなる条件である全ての有機半導体に対する色素材料の配位構造が全て同じである。また、N
A/Nが0.2である条件に対し、移動度を2倍以上とするためには、N
A/Nを0.5以上まで向上すれば良いことが分かる。
【0126】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る光電変換素子10も、
図1に示した断面構造を有し、第1~第3実施形態に係る光電変換素子の構造と共通する。しかしながら、第4実施形態に係る光電変換素子10は、有機光電変換層17の構成が第1~第3実施形態と相違する。以下では有機光電変換層17の構成に着目して説明し、第1~第3実施形態との共通部分の説明を省略する。
【0127】
第3実施形態で既に述べた通り、固体撮像装置の画素等として用いる光電変換素子においては、外部量子効率(EQE)の改善が求められている。EQEの改善には光吸収量を向上させ、かつ励起子の電荷分離効率を良くすることが望ましい。そこで、例えば、バルクヘテロ接合型の光電変換素子において、ドナーおよびアクセプタ材料に更に色素材料を加えることで、膜体積当たりの光吸収効率を上げることが考えられる。
【0128】
しかしながら、色素材料をドナーとアクセプタの接合界面に偏析させたり、有機半導体材料中に分散させたりする場合、色素材料の配合量をドナーおよびアクセプタ成分の10%以下や有機半導体材料の質量含有率以下などに限定する必要があった。このため、色素材料の配合量を増加させることは困難であった。そこで、第4実施形態では、色素材料の配合量を増加させることにより光吸収効率を向上させて、EQEを改善することができる光電変換素子を提供する。
【0129】
第4実施形態に係る光電変換素子10は、
図12に模式的に示すように、対向配置された下部電極(第1電極)15aおよび上部電極(第2電極)18と、下部電極15aおよび上部電極18との間に設けられた有機光電変換層17とを備える。上部電極18と有機光電変換層17との間には電子輸送層17aが設けられている。下部電極15aと有機光電変換層17との間には正孔輸送層17bが設けられている。
【0130】
有機光電変換層17は、互いに異なる母骨格を有する第1有機半導体材料41、第2有機半導体材料42及び第3有機半導体材料43を含む。第1有機半導体材料41は電子供与性を有し、第2有機半導体材料42は電子受容性を有し、第3有機半導体材料43は光を吸収して励起する色素材料である。そして、有機光電変換層17は、第1有機半導体材料41のみで構成された第1ドメイン17Aと、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43が均一に相溶した第2ドメイン17Bを有する。
【0131】
第1有機半導体材料41は、結晶性であることが望ましく、
図13に模式的に示すように、結晶微粒子状の第1ドメイン17Aが正孔輸送パスを形成する。第1有機半導体材料41は、p型半導体有機材料で構成される。p型半導体有機材料は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能する。第2有機半導体材料42は、n型半導体有機材料で構成される。n型半導体有機材料は、相対的に電子受容体(アクセプタ)として機能する。
【0132】
有機光電変換層17において、第3有機半導体材料43の質量含有率が、第2有機半導体材料42の質量含有率よりも大きいことが好ましい。例えば、有機光電変換層17を構成する第1有機半導体材料41、第2有機半導体材料42、第3有機半導体材料43の混合割合として、第1有機半導体材料41が30質量%、第2有機半導体材料42が30質量%、第3有機半導体材料43が40質量%を例示するが、この値に限定するものではない。
【0133】
有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料41および第2有機半導体材料42としては、例えば、キナクリドン、塩素化ホウ素サブフタロシアニン、ペンタセン、ベンゾチエノベンゾチオフェン、フラーレンおよびそれらの誘導体等の有機半導体材料を2種以上組み合わせて構成されている。上記有機半導体材料は、その組み合わせによってp型半導体またはn型半導体として機能する。なお、有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料41および第2有機半導体材料42としては更に、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、ピレン、ペリレン、およびフルオランテンあるいはそれらの誘導体のうちのいずれか1種が好適に用いられる。あるいは、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン、ジアセチレン等の重合体やそれらの誘導体を用いてもよい。
【0134】
第3有機半導体材料43としては、例えば、金属錯体色素材料、シアニン系色素材料、メロシアニン系色素材料、フェニルキサンテン系色素材料、トリフェニルメタン系色素材料、ロダシアニン系色素材料、キサンテン系色素材料、大環状アザアヌレン系色素材料、アズレン系色素材料、ナフトキノン、アントラキノン系色素材料、アントラセンおよびピレン等の縮合多環芳香族および芳香環あるいは複素環化合物が縮合した鎖状化合物、または、スクアリリウム基およびクロコニツクメチン基を結合鎖として持つキノリン、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール等の二つの含窒素複素環、または、スクアリリウム基およびクロコニツクメチン基により結合したシアニン系類似の色素材料等を好ましく用いることができる。なお、上記金属錯体色素材料としては、ジチオール金属錯体系色素材料、金属フタロシアニン色素材料、金属ポルフィリン色素材料、またはルテニウム錯体色素材料が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0135】
第4実施形態において、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43は、分子レベルで均一に相溶(混和)しており、各第2有機半導体材料42及び第3有機半導体材料4の自己会合や自己凝集が抑制されている。第2ドメイン17B内において、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43が均一に相溶した状態とは、
図14Aに模式的に示すように、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43が自己会合や自己凝集を形成せず、均一に混ざり合った一相となる状態を意味する。具体的には、第2ドメイン17B内のどの領域においても、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43とが、分子間距離1.5nm未満で近接している状態である。
【0136】
これとは反対に、第2有機半導体材料42もしくは第3有機半導体材料43が自己会合や自己凝集によって各相を形成した状態は、相分離状態という。
図14Bに模式的に示すように、相分離状態において、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43は、各相が接する界面でのみ近接するが、相の内部では近接することができない。つまり、第2ドメイン17B内における第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43の組成は一定ではなく、分子間距離が1.5nm以上となる部位が多く存在する。
【0137】
第2ドメイン17Bを構成する第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43が均一に相溶していることの効果を述べる。第3有機半導体材料43が自己会合や自己凝集を形成すると、その会合体により所望の吸収と異なる吸収が発生したり、励起子の電荷分離効率が低下したりすることが考えられる。第2有機半導体材料42が自己会合や自己凝集を形成すると、分散した状態と異なるエネルギー準位が発生する。これは、トラップやエネルギー移動の阻害要因となり得る。
【0138】
そこで、
図14Aに示すように第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43を分子レベルで均一に相溶させることで、これらの不利益を抑制することができる。更に、第2有機半導体材料42同士の分子間距離も一定に保たれているため、
図13に示すように、電子輸送パスも確保される。このような構造をとることで、色素材料をドナーとアクセプタの接合界面に偏析させたり、有機半導体材料中に分散させたりする場合と比較して、第3有機半導体材料43の配合量を制限する必要がなくなる。第3有機半導体材料43は、光吸収を増感させる効果があるため、第2有機半導体材料42の配合量よりも多くし、光吸収効率を高めることが望ましい。
【0139】
ところで、このような相溶(混和)状態を、第2ドメイン17Bを構成する第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43が形成することは、有機光電変換層17を作製し、第3有機半導体材料43の可視域吸収帯の波長で励起したフォトルミネッセンス(PL)測定により、第3有機半導体材料43自身の発光ピークが観測されず、第2有機半導体材料42の発光ピークのみが観測されることを以て確認できる。第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43が十分に近接するとき、光照射によって励起された第3有機半導体材料43の励起子は、FORSTERまたはDEXTER機構により第2有機半導体材料42へエネルギー移動する。このエネルギー移動が起こると、第3有機半導体材料43自身の発光ピークが消失し、第2有機半導体材料42の発光ピークのみが観測されることになる。第2ドメイン17B内で、第2有機半導体材料42もしくは第3有機半導体材料43が自己会合や自己凝集を形成していて、均一な相溶状態ではないとき、第3有機半導体材料43から第2有機半導体材料42へのエネルギー移動が不十分となり、第3有機半導体材料43自身の発光ピークが観測される。
【0140】
第3有機半導体材料43の可視域吸収帯の波長で励起した有機光電変換層17のPLスペクトルにおいて、第3有機半導体材料43の発光ピークが観測されず、第2有機半導体材料42の発光ピークのみが観測されることは、第3有機半導体材料43の発光ピークの極大発光強度をAとし、第2有機半導体材料42に由来する他の波長域の発光ピークにおける極大発光強度をBとし、A/B<0.1であることを以て判断できる。このとき、第3有機半導体材料43の発光ピークが観測される波長領域に、第3有機半導体材料43のラマン散乱が観測されることがあるが、これは極大発光強度に含めない。ラマン散乱であることは、ピーク半値幅が十分に狭いこと(半値幅3nm以下)を以て確認できる。ラマン散乱が極大波長に重複するときは、ラマン散乱のピーク開始点の値を発光極大強度とする。
【0141】
また、第3有機半導体材料43は、例えば500nm以上600nm以下の波長領域に極大吸収波長を有する。また、第3有機半導体材料43は、例えば520nm以上580nm以下の波長領域に極大発光強度を有する。また、第2有機半導体材料42は、例えば710nm以上740nm以下の波長領域に極大発光強度を有する。また、第2有機半導体材料42は、フラーレンまたはフラーレン誘導体であってよく、この場合、第3有機半導体材料43の可視域吸収帯の波長によって励起した、光電変換層17のPLスペクトルにおいて、710nm以上740nm以下の波長領域の極大波長が720nm以下である。
【0142】
第2有機半導体材料42をフラーレンまたはフラーレン誘導体としたとき、第2有機半導体材料42由来の発光ピークの極大波長の位置によっても、第2ドメイン17Bの第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43の相溶性を確認できる。第2有機半導体材料42をフラーレンとするとき、フラーレン単膜の発光ピーク極大波長は、735nm程度である。フラーレン単膜の中では、フラーレンの分子同士が近接しており、物理的に凝集した状態をとっていると考えられる。このフラーレンを第3有機半導体材料43で希釈し、膜中濃度を低下させると、フラーレンが十分に分散することにより、この発光極大波長が720nm以下に短波長化することを、本発明者らは経験的に見出した。したがって、第2有機半導体材料42をフラーレンとしたとき、第2有機半導体材料42の発光極大波長が720nm以下であることは、第2有機半導体材料42の自己凝集が抑制され、第2ドメイン17Bの中で第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43が均一に相溶した状態を形成することの判断指標となる。フラーレンは蒸着可能で廉価であるため、産業への応用が期待される材料であり、第2有機半導体材料42としてフラーレンを採用することが好適である。
【0143】
以上説明したように、第4実施形態に係る光電変換素子10によれば、バルクヘテロ接合型の有機光電変換層17において、第3有機半導体材料43として色素材料を配合することで、光吸収効率を向上させることができる。更に、ドナーおよびアクセプタのモフォロジーを制御して、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43を均一に相溶させることで、第3有機半導体材料43自身の自己凝集または第2有機半導体材料42自身の自己凝集による失活が抑制できる。また、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43が分子レベルで均一に相溶することで第2有機半導体材料42同士の分子間距離が一定に保たれており、第2有機半導体材料42の自己ドメインや結晶微粒子を形成していなくても電子輸送パスを確保できる。また、第3有機半導体材料43をドナーとアクセプタの界面に偏析させる必要がないため、配合量に制限がなく、光吸収量を上げることができる。
【0144】
また、第1有機半導体材料41の結晶粒径は、5nm以上20nm以下程度であることが望ましい。20nm以下とすることで、第2有機半導体材料42および第3有機半導体材料43で構成された第2ドメイン17Bと第1ドメイン17Aとの界面における励起子の電荷分離を実現できる。更に、第1有機半導体材料41の結晶粒径は、11.5以上12.9nm以下程度であることがEQEを改善する観点からは望ましい。第1有機半導体材料41の結晶粒径は、例えばX線回折法により算出できる。
【0145】
<実施例>
[実験例1~3の試料作成方法]
実験例1~3の試料を以下の手順で作製した。石英基板上にスパッタリング装置を用いて厚さ100nmのITOを成膜し、フォトリソグラフィーとエッチングにより、ITO膜をパターニングし、下部電極を形成した。この基板をUV/オゾン処理にて洗浄した後、基板を真空蒸着機に移し、1×10
-5Pa以下に減圧された状態で、基板ホルダを回転させながら、抵抗加熱法によって有機材料を成膜した。次に、第3有機半導体材料43を上記式(17)に示したF6-SubPc-OPh2,6F2、第2有機半導体材料42を上記式(6-1)に示したC60として、第3有機半導体材料43の成膜レートを0.50Å/秒、第2有機半導体材料42の成膜レートを0.25Å/秒とし、
図15に模式的に示すように、基板51上に第2有機半導体材料42をXnm、第3有機半導体材料43をYnm、第2有機半導体材料42をXnm、第3有機半導体材料43をYnm、…と、総膜厚が45nmとなるまで交互に積層して成膜した後、ITOを50nmの厚みで成膜して上部電極52を形成した。実験例1は(X、Y)=(1、2)、実験例2は(X、Y)=(1.5、3)、実験例3は、(X、Y)=(3、6)とした。
【0146】
[PL測定]
実験例1~3について、PL測定を行った。ラマン分光装置を用いて、励起に波長532nmのYAGレーザーを使用し、測定波長範囲は500~1000nmとした。レーザーを強く照射すると有機膜にダメージが与えられるため、発光スペクトルが確認できる最小限の光量にNDフィルタを用いて調整し、ITOの上から光照射する形で測定した。実験例1~3で用いた第3有機半導体材料43としてのF6-SubPc-OPh2,6F2は、500nm~600nmの波長領域、即ち緑色を吸収する有機半導体材料である。500nm~600nmの波長領域に含まれる532nmを励起波長とした。532nmの波長で励起された第3有機半導体材料43の発光ピークは520~580nmの領域に観測される。
【0147】
図16に、励起波長532nmで測定した第3有機半導体材料43であるF6-SubPc-OPh2,6F2の単膜と、第2有機半導体材料42であるC60の単膜のPLスペクトルを示す。第3有機半導体材料43であるF6-SubPc-OPh2,6F2の発光ピークの極大波長は580nmである。第2有機半導体材料42であるC60の発光ピークの極大波長は735nmである。
【0148】
図17に、実験例1~3のPLスペクトル測定結果を示す。実験例1~3の積層構造において、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43の分子間距離は、最大(Y+X)/2nmとなる。即ち、実験例1では4.5nm、実験例2では2.25nm、実験例3は1.5nmとなるため、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43の分子間距離が1.5nm未満となるのは、実験例3のみとなる。
図17のPLスペクトルから、実験例1では第3有機半導体材料43の発光ピークが明確に観測されるが、実験例2,3となるに従い第3有機半導体材料43の発光ピークが小さくなることが分かる。
【0149】
表6に、実験例1~3のPLスペクトルにおいて算出したA/Bの結果を示す。A/B<0.1を満たすのは、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43の分子間距離が1.5nm未満となる実験例3のみであることが分かる。
【0150】
【0151】
次に、
図17のPLスペクトルにおける第2有機半導体材料42の発光極大波長に着目する。表6に示すように、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43の分子間距離が1.5nm未満となる実験例3でのみ、発光極大波長が720nm以下となっている。
【0152】
以上から、実験例1~3では、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43が1.5nm未満の分子間距離で近接するとき、第3有機半導体材料43から第2有機半導体材料42へエネルギー移動が起こり、PL測定においてA/B<0.1が満たされることを確認した。
【0153】
[実験例4~7の試料作製方法]
実験例4~7として、第1ドメイン17Aを構成する第1有機半導体材料41と、第2ドメイン17Bを構成する第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43とを有する光電変換素子を作製した。実験例4~7の作製方法としては、石英基板上にスパッタリング装置を用いて厚さ100nmのITOを成膜し、フォトリソグラフィーとエッチングにより、ITO膜をパターニングし、ITO下部電極を形成した。この基板をUV/オゾン処理にて洗浄した後、基板を真空蒸着機に移し、1×10-5Pa以下に減圧された状態で、基板ホルダを回転させながら、抵抗加熱法によって有機材料の成膜を行った。はじめに電子ブロッキング層として、下記式(18)に示したHTM105を基板温度0℃にて10nm成膜し、次に基板温度40℃にて第3有機半導体材料43として上記式(17)に示したF6-SubPc-OPh2,6F2、第1有機半導体材料として下記式(19)に示したBP-rBDT、第2有機半導体材料42としてC60を成膜レート、それぞれ、0.50Å/秒、0.50Å/秒、0.25Å/秒で、混合層の厚さが230nmとなるように成膜した。最後に、正孔ブロッキング層として、下記式(20)に示したNDI-35を基板温度0℃にて10nm成膜した。続いて、スパッタリング装置に基板を移し、ITOを50nmの厚みで成膜し、上部電極を形成した。以上の作製方法により1mm×1mmの光電変換領域を有する光電変換素子を作製した。作製した素子は、N2雰囲気下で、150℃、210分アニールを行った。
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
また、実験例4と同じ方法で、第3有機半導体材料43を変更して実験例5~9を作製した。実験例5~9では、第3有機半導体材料43をそれぞれ、下記式(21)に示したF6-SubPc-OC6F5、下記式(22)に示したF6-SubPc-Ph2,6F2、下記式(23)に示したSubPc-OC6F5、下記式(24)に示したZCl-Mes、下記式(25)に示したDu-Hとした。
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
[外部量子効率の評価]
緑色LED光源からバンドパスフィルターを介して光電変換素子に照射される光の波長を560nm、光量を1.62μW/cm2とし、光電変換素子の電極間に印加されるバイアス電圧を半導体パラメータアナライザを用いて制御し、上部電極に対し、下部電極に印加する電圧を掃引することで、電流―電圧曲線を得た。バイアス電圧を-2.6Vとした場合の明電流値および暗電流値を計測し、EQEを算出した。
【0164】
EQEの算出結果を表7に示す。実験例4のEQEを1.0とすると、実験例5~7は同等の良好な特性が得られた。一方、実験例8,9は良好な特性が得られなかった。
【0165】
【0166】
[PL測定]
実験例4~7に対してPL測定を行った。PL測定は、ラマン分光装置を用いて、励起に波長532nmのYAGレーザーを使用し、測定波長範囲は500nm以上1000nm以下とした。レーザーを強く照射すると有機膜にダメージを与えるため、発光スペクトルが確認できる最小限の光量にNDフィルタを用いて調整し、ITOの上から光照射することにより測定した。
【0167】
図18に、実験例4~7の活性層で取得したPLスペクトルを示し、
図19に、実験例8、9の活性層で取得したPLスペクトルを示す。実験例4~9に含まれる第3有機半導体材料43は、500nm以上600nm以下に可視域吸収帯を有するため、PL測定の励起波長は、この吸収帯の波長である532nmとした。
【0168】
図18に示すように、実験例4~7では520nm以上580nm以下の波長領域に第3有機半導体材料43の発光ピークが観測されず、第2有機半導体材料42として用いたフラーレンの発光ピークのみが715nmを極大波長とする領域に観測されている。よって、実験例4~7では、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43が均一な相溶状態を形成していると判断できる。
【0169】
図19に示すように、実験例8,9では、520nm以上580nm以下の波長領域に第3有機半導体材料43の発光ピークが観測される。このため、実験例8,9では、第3有機半導体材料43と第2有機半導体材料42が十分に相溶していないことが推測される。
【0170】
実際に、前述した方法でA/Bを算出した結果を表8に示す。実験例4~7では、A/B<0.1を満たすため、第2ドメイン17Bを構成する第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43が均一に相溶した状態を形成していると判断できる。
【0171】
【0172】
次に第1有機半導体材料41について述べる。電子供与性を有する第1有機半導体材料41は、第1ドメイン17Aとして自己ドメインを形成することで、正孔輸送パスを形成できると考えられる。ただし、第1ドメイン17Aの結晶粒径(ドメインサイズ)が大きくなりすぎると励起子の電荷分離効率が低下するため、第1ドメイン17Aの結晶粒径は20nm以下であることが好ましい。結晶粒径の確認は、第1有機半導体材料が結晶性であれば、X線回折法による結晶粒径の算出が有効である。
【0173】
図20に、実験例6の活性層で測定したX線回折スペクトルを示す。X線源はCuKαとした。ブラッグ角19.2°付近に観測される第1有機半導体材料41由来の回折ピークから、結晶粒径は、12.9nmと算出された。結晶粒径は、PearsonVII関数を用いて、ブラッグ角19.2°付近に観測される第1有機半導体材料41由来の回折ピークをフィッティングし、その半値幅を求め、シェラーの式に代入することで求めた。その際、シェラー定数Kは0.94を用いた。もしくは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により、結晶ドメインの分散状態を確認してもよい。
【0174】
実験6と同様に、実験例4,5,7,9についてもXRDにより第1ドメイン17Aの結晶粒径を算出した。第1ドメイン17Aの結晶粒径の算出結果を表9に示す。
【0175】
【0176】
表9に示すように実験例4~7のように第1ドメイン17Aの結晶粒径が11.5以上12.9nm以下の場合に、表7に示すように良好なEQEが得られることが分かった。
【0177】
(第5実施形態)
第5実施形態に係る光電変換素子10も、
図1に示した断面構造を有し、第1~第4実施形態に係る光電変換素子の構造と共通する。しかしながら、第5実施形態に係る光電変換素子10は、有機光電変換層17の構成が第1~第4実施形態と相違する。以下では有機光電変換層17の構成に着目して説明し、第1~第4実施形態との共通部分の説明を省略する。
【0178】
第3実施形態で既に述べた通り、固体撮像装置の画素等として用いる光電変換素子においては、外部量子効率(EQE)の改善が求められている。そこで、第5実施形態では、EQEを改善することができる光電変換素子を提供する。
【0179】
第5実施形態に係る光電変換素子10は、
図1に模式的に示すように、対向配置された下部電極(第1電極)15aおよび上部電極(第2電極)18と、下部電極15aおよび上部電極18との間に設けられた有機光電変換層17とを備える。上部電極18と有機光電変換層17との間には電子輸送層17aが設けられている。下部電極15aと有機光電変換層17との間には正孔輸送層17bが設けられている。
【0180】
有機光電変換層17は、少なくともフラーレンを含む2種類以上の有機半導体材料で構成されている。例えば、有機光電変換層17は、互いに異なる母骨格を有する第1有機半導体材料及び第2有機半導体材料で構成されていてよい。第1有機半導体材料は電子供与性を有し、第2有機半導体材料は電子受容性を有する。第1有機半導体材料は、p型半導体有機材料で構成される。p型半導体有機材料は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能する。第2有機半導体材料は、n型半導体有機材料で構成される。n型半導体有機材料は、相対的に電子受容体(アクセプタ)として機能する。有機光電変換層17を構成するp型有機半導体材料およびn型有機半導体材料の混合割合は、例えばp型有機半導体材料が30質量%、n型有機半導体材料が70質量%程度であってよく、これに限定されない。
【0181】
有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料および第2有機半導体材料としては、例えば、キナクリドン、塩素化ホウ素サブフタロシアニン、ペンタセン、ベンゾチエノベンゾチオフェン、フラーレンおよびそれらの誘導体等の有機半導体材料を2種以上組み合わせて構成されている。上記有機半導体材料は、その組み合わせによってp型半導体またはn型半導体として機能する。なお、有機光電変換層17に含まれる第1有機半導体材料および第2有機半導体材料としては更に、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、ピレン、ペリレン、およびフルオランテンあるいはそれらの誘導体のうちのいずれか1種が好適に用いられる。あるいは、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン、ジアセチレン等の重合体やそれらの誘導体を用いてもよい。第5実施形態では、例えば第2有機半導体材料を構成するn型半導体材料がフラーレンまたはフラーレン誘導体であってよい。
【0182】
有機光電変換層17が第1有機半導体材料及び第2有機半導体材料で構成されている場合、第2有機半導体材料を構成するフラーレンまたはフラーレン誘導体の自己凝集が抑制され、第1有機半導体材料および第2有機半導体材料が均一に相溶した状態となることが好ましい。第1有機半導体材料および第2有機半導体材料が均一に相溶した状態とは、第1有機半導体材料と第2有機半導体材料が自己会合や自己凝集を形成せず、均一に混ざり合った一相となる状態を意味する。
【0183】
また、有機光電変換層17は、第1有機半導体材料及び第2有機半導体材料に加えて、第1有機半導体材料及び第2有機半導体材料と異なる母骨格を有する第3有機半導体材料を含んでもよい。第3有機半導体材料は光を吸収して励起する色素材料である。例えば、有機光電変換層17を構成する第1有機半導体材料、第2有機半導体材料、第3有機半導体材料の混合割合として、第1有機半導体材料が30質量%、第2有機半導体材料が30質量%、第3有機半導体材料が40質量%を例示するが、この値に限定するものではない。
【0184】
第3有機半導体材料43としては、例えば、金属錯体色素材料、シアニン系色素材料、メロシアニン系色素材料、フェニルキサンテン系色素材料、トリフェニルメタン系色素材料、ロダシアニン系色素材料、キサンテン系色素材料、大環状アザアヌレン系色素材料、アズレン系色素材料、ナフトキノン、アントラキノン系色素材料、アントラセンおよびピレン等の縮合多環芳香族および芳香環あるいは複素環化合物が縮合した鎖状化合物、または、スクアリリウム基およびクロコニツクメチン基を結合鎖として持つキノリン、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール等の二つの含窒素複素環、または、スクアリリウム基およびクロコニツクメチン基により結合したシアニン系類似の色素材料等を好ましく用いることができる。なお、上記金属錯体色素材料としては、ジチオール金属錯体系色素材料、金属フタロシアニン色素材料、金属ポルフィリン色素材料、またはルテニウム錯体色素材料が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0185】
有機光電変換層17が第1有機半導体材料、第2有機半導体材料及び第3有機半導体材料からなる場合には、第4実施形態で既に述べた通りであるが、
図12に模式的に示すように、第1有機半導体材料41のみで構成された第1ドメイン17Aと、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43が均一に相溶した第2ドメイン17Bを有していてもよい。そして、
図14に示すように、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43は、分子レベルで均一に相溶(混和)しており、各第2有機半導体材料42及び第3有機半導体材料4の自己会合や自己凝集が抑制されている。第2ドメイン17B内において、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43が均一に相溶した状態とは、
図14Aに模式的に示すように、第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43が自己会合や自己凝集を形成せず、均一に混ざり合った一相となる状態を意味する。
【0186】
第1ドメイン17Aを構成する第1有機半導体材料41は、結晶性であることが望ましく、結晶微粒子状の第1ドメイン17Aがホール輸送パスを形成する。一方、第2ドメイン17Bを構成する第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43は、分子レベルで均一に相溶(混和)しており、各材料の自己会合や自己凝集が抑制されている。第3有機半導体材料43が自己会合や自己凝集を形成すると、その会合体により所望の吸収と異なる吸収が発生したり、励起子の電荷分離効率が低下したりすることが考えられる。第2有機半導体材料42が自己会合や自己凝集を形成すると、分散した状態と異なるエネルギー準位が発生する。これは、トラップやエネルギー移動の阻害要因となり得る。そこで、
図14Aに示すように第2有機半導体材料42と第3有機半導体材料43を分子レベルで均一に相溶させることで、これらの不利益を抑制することができる。更に、第2有機半導体材料42同士の分子間距離も一定に保たれているため、
図13に示すように、電子輸送パスも確保される。このような構造をとることで、色素材料をドナーとアクセプタの接合界面に偏析させたり、有機半導体材料中に分散させたりする場合と比較して、第3有機半導体材料43の配合量を制限する必要がなくなる。第3有機半導体材料43は、光吸収を増感させる効果があるため、第2有機半導体材料42の配合量よりも多くし、光吸収効率を高めることが望ましい。
【0187】
ここで、有機光電変換層17が第1有機半導体材料及び第2有機半導体材料の2種類で構成されており、第2有機半導体材料がフラーレンまたはフラーレン誘導体である場合の、フラーレンまたはフラーレン誘導体と第1有機半導体材料との相溶及び相互作用の状態、ならびに、有機光電変換層17が第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料の3種類で構成されており、第2有機半導体材料がフラーレンまたはフラーレン誘導体である場合の、フラーレンまたはフラーレン誘導体と第3有機半導体材料との相溶及び相互作用の状態は、有機光電変換層17中のフラーレンまたはフラーレン誘導体のエネルギーギャップを観測することで確認できるという知見を本発明者らは得た。
【0188】
即ち、本発明者らは、C60膜の結晶におけるエネルギーギャップEg(C60)は2.4eVであるのに対して、C60が相溶状態にある場合には、エネルギーギャップEg(C60)が2.6eV以上と大きくなることを確認した。更に、C60とp型半導体材料との相互作用、或いはC60と有機色素材料との相溶及び相互作用によってエネルギーギャップEg(C60)が2.8eV以上3.1eV以下と更に広がることを確認した。なお、3.1eVは、エネルギーギャップEg(C60)の原理的な最大値である。
【0189】
有機光電変換層17中のフラーレンまたはフラーレン誘導体のエネルギーギャップは紫外光電子分光法(UPS)と逆光電子分光法(IPES)を組み合わせることで確認できる。即ち、紫外光電子分光法により測定されるフラーレンまたはフラーレン誘導体のHOMOのイオン化エネルギーを、HOMO由来のピーク立ち上がり部として求める。また、逆光電子分光法により測定されるフラーレンまたはフラーレン誘導体の電子親和力を、LUMO由来のピーク立ち上がり部として求める。そして、HOMO由来のピーク立ち上がり部と、LUMO由来のピーク立ち上がり部のエネルギー差を、エネルギーギャップとして求めることができる。
【0190】
図21Aは、C60単膜に対して、紫外光電子分光法および逆光電子分光法により測定されたC60のスペクトルを示す。紫外光電子分光法により測定されたイオン化ポテンシャル(IP)が6.5eVであり、逆光電子分光法により測定された電子親和力(EA)が4.1eVである。紫外光電子分光法により測定されたHOMO由来のピーク立ち上がり部と、逆光電子分光法により測定されたLUMO由来のピーク立ち上がり部のエネルギー差であるエネルギーギャップEg(C60)は、2.4eVである。
【0191】
図21Bは、B12:26F2:C60=4:4:2で構成する光電変換膜に対して、紫外光電子分光法および逆光電子分光法により測定されたC60のスペクトルを示す。紫外光電子分光法により測定されたイオン化ポテンシャル(IP)が6.7eVであり、逆光電子分光法により測定された電子親和力(EA)が3.7eVである。紫外光電子分光法により測定されたHOMO由来のピーク立ち上がり部と、逆光電子分光法により測定されたLUMO由来のピーク立ち上がり部のエネルギー差であるエネルギーギャップEg(C60)は、2.99eVとなり、
図21AのC60単膜の場合よりも大きいことが分かる。
【0192】
図22は、C60、色素及びHTMのLUMO準位及びHOMO準位を示す。C60のLUMO準位が破線で示す位置であり、エネルギーギャップEg(C60)が小さいと、トラップとなり、特性が悪化する場合がある。これに対して、C60のLUMO準位が実線で示す位置であり、エネルギーギャップEg(C60)が増大すると、トラップとなることを抑制できる。
【0193】
このため、有機光電変換層17が第1有機半導体材料及び第2有機半導体材料の2種類で構成されており、第2有機半導体材料がフラーレンまたはフラーレン誘導体である場合に、有機光電変換層17中のフラーレンまたはフラーレン誘導体のエネルギーギャップの値が2.6eV以上であれば、フラーレンまたはフラーレン誘導体の自己凝集が抑制され、フラーレンまたはフラーレン誘導体と第1有機半導体材料とが相溶したことの判断指標となる。
【0194】
また、有機光電変換層17が第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料の3種類で構成されており、第2有機半導体材料がフラーレンまたはフラーレン誘導体である場合には、有機光電変換層17中のフラーレンまたはフラーレン誘導体のエネルギーギャップの値が2.6eV以上であれば、フラーレンまたはフラーレン誘導体の自己凝集が抑制され、フラーレンまたはフラーレン誘導体と第3有機半導体材料とが相溶したことの判断指標となる。
【0195】
以上説明したように、第5実施形態に係る光電変換素子10によれば、バルクヘテロ接合型の有機光電変換層17において、n型半導体材料であるC60のエネルギーギャップEg(C60)が2.6eV以上となるような構造、材料、成膜条件等を採用することにより、C60の自己凝集を抑制し、C60と有機色素材料、或いはC60とp型半導体材料とを相溶させることができるので、光吸収効率を向上させることができる。更に、C60のエネルギーギャップEg(C60)が2.8eV以上3.1eV以下となるような構造、材料、成膜条件等を採用することにより、C60の自己凝集をより抑制し、相溶性をより高めることができるので、光吸収効率をより向上させることができる。
【0196】
<実施例>
[実験例10~14の試料作成方法]
実験例10の作製方法としては、石英基板上にスパッタリング装置を用いて厚さ100nmのITOを成膜し、フォトリソグラフィーとエッチングにより、ITO膜をパターニングし、ITO下部電極を形成した。この基板をUV/オゾン処理にて洗浄した後、基板を真空蒸着機に移し、1×10-5Pa以下に減圧された状態で、基板ホルダを回転させながら、抵抗加熱法によって有機材料の成膜を行った。はじめに電子ブロッキング層として、上記式(18)に示したHTM105を基板温度0℃にて10nm成膜し、次に基板温度40℃にて、第1有機半導体材料として上記式(19)に示したBP-rBDT、第2有機半導体材料としてC60、第3有機半導体材料43として上記式(17)に示したF6-SubPc-OPh2,6F2を成膜レート、それぞれ、0.50Å/秒、0.50Å/秒、0.25Å/秒で、混合層の厚さが230nmとなるように成膜した。最後に、正孔ブロッキング層として、上記式(20)に示したNDI-35を基板温度0℃にて10nm成膜した。続いて、スパッタリング装置に基板を移し、ITOを50nmの厚みで成膜し、上部電極を形成した。以上の作製方法により1mm×1mmの光電変換領域を有する光電変換素子を作製した。作製した素子は、N2雰囲気下で、150℃、210分アニールを行った。
【0197】
実験例11の作製方法としては、実験例10と同じ方法で、有機色素をF6-SubPc-OC6F5に変更して作製した。実験例12の作製方法としては、実験例10と同じ方法で、有機色素をZCl-Mesに変更して作製した。実験例13の作製方法としては、実験例10と同じ方法で、第1有機半導体材料をBTBT19に変更し、有機色素を用いずに作製した。実験例14の作製方法としては、実験例10と同じ方法で、有機色素をDu-Hに変更して作製した。
【0198】
[外部量子効率の評価]
緑色LED光源からバンドパスフィルターを介して光電変換素子に照射される光の波長を560nm、光量を1.62μW/cm2とし、光電変換素子の電極間に印加されるバイアス電圧を半導体パラメータアナライザを用いて制御し、上部電極に対し、下部電極に印加する電圧を掃引することで、電流―電圧曲線を得た。バイアス電圧を-2.6Vとした場合の明電流値および暗電流値を計測し、EQEを算出した。
【0199】
[エネルギーギャップEg(C60)の測定]
エネルギーギャップEg(C60)の測定方法としては、紫外光電子分光(UPS)測定により検出されるC60のHOMO由来のピーク立ち上がり部と逆光電子分光(IPES)測定により検出されるC60のLUMO由来のピーク立ち上がり部とのエネルギー差を用いた。
【0200】
各有機膜のUPS測定、及びIPES測定は、上部電極及び下部電極を剥離することで有機膜を露出させ、アルゴンガスクラスターイオン銃でエッチングすることで所望の膜を表面に露出させた。アルゴンガスクラスターイオン銃の条件は加速電圧2.5kV、ターゲット電流(資料電流)8nA、ラスターサイズ10×10mmとした。
【0201】
C60のHOMO由来ピーク立ち上がり部、すなわち、C60のHOMOのイオン化エネルギーはUPS測定により測定できる。UPS測定の分析装置としては、アルバック・ファイ(ULVAC-PHI)株式会社製PHI 5000 VersaProbe IIを用いた。光源としてはHe放電管(励起光:HeIα、21.2eV)を用いた。分析時にはHeI共鳴線(21.2eV)を分析用サンプルに照射して、パスエネルギー1.18eVで光電子スペクトルを測定した。C60のHOMOのイオン化エネルギーとしてC60のHOMO由来のピークの立ち上がりのエネルギー位置を用いた。
【0202】
C60のLUMO由来のピーク立ち上がり部、すなわち、C60の電子親和力は低エネルギーIPES測定により測定できる。低エネルギーIPES測定の分析装置としては、アドキャップバキュームテクノロジー社製の低エネルギー逆光電子分光装置(LEIPS)を用いた。分析時には電子線を分析用サンプルに照射して、中心波長260nmのバンドパスフィルターを用いて逆光電子スペクトルを測定した。C60の電子親和力はスペクトルの立ち上がりのエネルギー位置を用いた。
【0203】
C60のイオン化エネルギー(紫外光電子分光スペクトルのC60のHOMOピーク立ち上がりのエネルギー位置)とC60の電子親和力(逆光電子スペクトルのLUMOピーク立ち上がりのエネルギー位置)とのエネルギー差がC60のエネルギーギャップEg(C60)となる。
【0204】
実験例10~14についてのUPS測定及びIPES測定によるエネルギーギャップEg(C60)並びにEQEの測定結果を表10に示す。
【0205】
【0206】
表10に示すように、実験例14ではEg(C60)が2.6eV未満となり、C60が凝集している状態となり、良好なEQEが得られなかった。一方、実験例10~13では、Eg(C60)が2.6eV以上3.1eV以下となり、C60が第1有機半導体又は有機色素と相溶および相互作用し、良好なEQEが得られた。更に、実験例10,11では、Eg(C60)が2.8eV以上3.1eV以下となり、実験例12,13よりも更に良好なEQEが得られた。このように、Eg(C60)は2.6eV以上3.1eV以下が好ましく、更には2.8eV以上3.1eV以下がより好ましい。
【0207】
(第1適用例)
第1~第5実施形態に係る光電変換素子10をそれぞれ画素として用いて、
図23に示すように固体撮像装置1を構成することができる。この固体撮像装置1は、CMOSイメージセンサであり、半導体基板11上に、撮像エリアとしての画素領域4を有すると共に、この画素領域4の周辺領域に、例えば、垂直駆動回路5、カラム選択回路6、水平駆動回路7、出力回路8および制御回路9からなる周辺回路部(5,6,7,8,9)を有する。
【0208】
画素領域4は、例えば、行列状に2次元配置された複数の単位画素3(光電変換素子10に相当)を有する。この単位画素3には、例えば、画素行ごとに画素駆動線L1(具体的には行選択線およびリセット制御線)が配線され、画素列ごとに垂直信号線L2が配線されている。画素駆動線L1は、画素からの信号読み出しのための駆動信号を伝送する。画素駆動線L1の一端は、垂直駆動回路5の各行に対応した出力端に接続されている。
【0209】
垂直駆動回路5は、シフトレジスタやアドレスデコーダ等によって構成される。垂直駆動回路5は、画素領域4の各画素3を、例えば、行単位で駆動する。垂直駆動回路5によって選択走査された画素行の各画素3から出力される信号は、垂直信号線L2の各々を通してカラム選択回路6に供給される。カラム選択回路6は、垂直信号線L2ごとに設けられたアンプや水平選択スイッチ等によって構成されている。
【0210】
水平駆動回路7は、シフトレジスタやアドレスデコーダ等によって構成される。水平駆動回路7は、カラム選択回路6の各水平選択スイッチを走査しつつ順番に駆動する。この水平駆動回路7による選択走査により、垂直信号線L2の各々を通して伝送される各画素の信号が順番に水平信号線L3に出力され、当該水平信号線L3を通して半導体基板11の外部へ伝送される。
【0211】
垂直駆動回路5、カラム選択回路6、水平駆動回路7および水平信号線L3からなる回路部分は、半導体基板11上に形成されていてもよく、あるいは外部制御ICに配設されたものであってもよい。また、それらの回路部分は、ケーブル等により接続された他の基板に形成されていてもよい。
【0212】
制御回路9は、半導体基板11の外部から与えられるクロックや、動作モードを指令するデータ等を受け取り、また、固体撮像装置1の内部情報等のデータを出力する。制御回路9はさらに、各種のタイミング信号を生成するタイミングジェネレータを有し、当該タイミングジェネレータで生成された各種のタイミング信号を基に垂直駆動回路5、カラム選択回路6および水平駆動回路7等の周辺回路の駆動制御を行う。
【0213】
(第2適用例)
上記第1適用例に係る固体撮像装置1は、例えば、デジタルスチルカメラやビデオカメラ等のカメラシステムや、撮像機能を有する携帯電話等、撮像機能を備えたあらゆるタイプの電子機器に適用することができる。例えば、
図24に示すように、第2適用例としての電子機器2(カメラ)の概略構成を示す。この電子機器2は、例えば、静止画または動画を撮影可能なビデオカメラであり、固体撮像装置1と、光学系(光学レンズ)201と、シャッタ装置202と、固体撮像装置1およびシャッタ装置202を駆動する駆動部204と、信号処理部203とを有する。光学系201は、被写体からの像光(入射光)を固体撮像装置1の画素領域4へ導く。この光学系201は、複数の光学レンズから構成されていてもよい。シャッタ装置202は、固体撮像装置1への光照射期間および遮光期間を制御する。駆動部204は、固体撮像装置1の転送動作およびシャッタ装置202のシャッタ動作を制御する。信号処理部203は、固体撮像装置1から出力された信号に対し、各種の信号処理を行う。信号処理後の映像信号は、メモリ等の記憶媒体に記憶されるか、あるいは、モニタ等に出力される。
【0214】
(第3適用例)
本開示に係る技術は、様々な製品へ応用することができる。例えば、本開示に係る技術は、自動車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、自動二輪車、自転車、パーソナルモビリティ、飛行機、ドローン、船舶、ロボット、建設機械、農業機械(トラクター)などのいずれかの種類の移動体に搭載される装置として実現されてもよい。
【0215】
図25は、本開示に係る技術が適用され得る移動体制御システムの一例である車両制御システム7000の概略的な構成例を示すブロック図である。車両制御システム7000は、通信ネットワーク7010を介して接続された複数の電子制御ユニットを備える。
図25に示した例では、車両制御システム7000は、駆動系制御ユニット7100、ボディ系制御ユニット7200、バッテリ制御ユニット7300、車外情報検出ユニット7400、車内情報検出ユニット7500、及び統合制御ユニット7600を備える。これらの複数の制御ユニットを接続する通信ネットワーク7010は、例えば、CAN(Controller Area Network)、LIN(Local Interconnect Network)、LAN(Local Area Network)又はFlexRay(登録商標)等の任意の規格に準拠した車載通信ネットワークであってよい。
【0216】
各制御ユニットは、各種プログラムにしたがって演算処理を行うマイクロコンピュータと、マイクロコンピュータにより実行されるプログラム又は各種演算に用いられるパラメータ等を記憶する記憶部と、各種制御対象の装置を駆動する駆動回路とを備える。各制御ユニットは、通信ネットワーク7010を介して他の制御ユニットとの間で通信を行うためのネットワークI/Fを備えるとともに、車内外の装置又はセンサ等との間で、有線通信又は無線通信により通信を行うための通信I/Fを備える。
図25では、統合制御ユニット7600の機能構成として、マイクロコンピュータ7610、汎用通信I/F7620、専用通信I/F7630、測位部7640、ビーコン受信部7650、車内機器I/F7660、音声画像出力部7670、車載ネットワークI/F7680及び記憶部7690が図示されている。他の制御ユニットも同様に、マイクロコンピュータ、通信I/F及び記憶部等を備える。
【0217】
駆動系制御ユニット7100は、各種プログラムにしたがって車両の駆動系に関連する装置の動作を制御する。例えば、駆動系制御ユニット7100は、内燃機関又は駆動用モータ等の車両の駆動力を発生させるための駆動力発生装置、駆動力を車輪に伝達するための駆動力伝達機構、車両の舵角を調節するステアリング機構、及び、車両の制動力を発生させる制動装置等の制御装置として機能する。駆動系制御ユニット7100は、ABS(Antilock Brake System)又はESC(Electronic Stability Control)等の制御装置としての機能を有してもよい。
【0218】
駆動系制御ユニット7100には、車両状態検出部7110が接続される。車両状態検出部7110には、例えば、車体の軸回転運動の角速度を検出するジャイロセンサ、車両の加速度を検出する加速度センサ、あるいは、アクセルペダルの操作量、ブレーキペダルの操作量、ステアリングホイールの操舵角、エンジン回転数又は車輪の回転速度等を検出するためのセンサのうちの少なくとも一つが含まれる。駆動系制御ユニット7100は、車両状態検出部7110から入力される信号を用いて演算処理を行い、内燃機関、駆動用モータ、電動パワーステアリング装置又はブレーキ装置等を制御する。
【0219】
ボディ系制御ユニット7200は、各種プログラムにしたがって車体に装備された各種装置の動作を制御する。例えば、ボディ系制御ユニット7200は、キーレスエントリシステム、スマートキーシステム、パワーウィンドウ装置、あるいは、ヘッドランプ、バックランプ、ブレーキランプ、ウィンカー又はフォグランプ等の各種ランプの制御装置として機能する。この場合、ボディ系制御ユニット7200には、鍵を代替する携帯機から発信される電波又は各種スイッチの信号が入力され得る。ボディ系制御ユニット7200は、これらの電波又は信号の入力を受け付け、車両のドアロック装置、パワーウィンドウ装置、ランプ等を制御する。
【0220】
バッテリ制御ユニット7300は、各種プログラムにしたがって駆動用モータの電力供給源である二次電池7310を制御する。例えば、バッテリ制御ユニット7300には、二次電池7310を備えたバッテリ装置から、バッテリ温度、バッテリ出力電圧又はバッテリの残存容量等の情報が入力される。バッテリ制御ユニット7300は、これらの信号を用いて演算処理を行い、二次電池7310の温度調節制御又はバッテリ装置に備えられた冷却装置等の制御を行う。
【0221】
車外情報検出ユニット7400は、車両制御システム7000を搭載した車両の外部の情報を検出する。例えば、車外情報検出ユニット7400には、撮像部7410及び車外情報検出部7420のうちの少なくとも一方が接続される。撮像部7410には、ToF(Time Of Flight)カメラ、ステレオカメラ、単眼カメラ、赤外線カメラ及びその他のカメラのうちの少なくとも一つが含まれる。車外情報検出部7420には、例えば、現在の天候又は気象を検出するための環境センサ、あるいは、車両制御システム7000を搭載した車両の周囲の他の車両、障害物又は歩行者等を検出するための周囲情報検出センサのうちの少なくとも一つが含まれる。
【0222】
環境センサは、例えば、雨天を検出する雨滴センサ、霧を検出する霧センサ、日照度合いを検出する日照センサ、及び降雪を検出する雪センサのうちの少なくとも一つであってよい。周囲情報検出センサは、超音波センサ、レーダ装置及びLIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)装置のうちの少なくとも一つであってよい。これらの撮像部7410及び車外情報検出部7420は、それぞれ独立したセンサないし装置として備えられてもよいし、複数のセンサないし装置が統合された装置として備えられてもよい。
【0223】
ここで、
図26は、撮像部7410及び車外情報検出部7420の設置位置の例を示す。撮像部7910,7912,7914,7916,7918は、例えば、車両7900のフロントノーズ、サイドミラー、リアバンパ、バックドア及び車室内のフロントガラスの上部のうちの少なくとも一つの位置に設けられる。フロントノーズに備えられる撮像部7910及び車室内のフロントガラスの上部に備えられる撮像部7918は、主として車両7900の前方の画像を取得する。サイドミラーに備えられる撮像部7912,7914は、主として車両7900の側方の画像を取得する。リアバンパ又はバックドアに備えられる撮像部7916は、主として車両7900の後方の画像を取得する。車室内のフロントガラスの上部に備えられる撮像部7918は、主として先行車両又は、歩行者、障害物、信号機、交通標識又は車線等の検出に用いられる。
【0224】
なお、
図26には、それぞれの撮像部7910,7912,7914,7916の撮影範囲の一例が示されている。撮像範囲aは、フロントノーズに設けられた撮像部7910の撮像範囲を示し、撮像範囲b,cは、それぞれサイドミラーに設けられた撮像部7912,7914の撮像範囲を示し、撮像範囲dは、リアバンパ又はバックドアに設けられた撮像部7916の撮像範囲を示す。例えば、撮像部7910,7912,7914,7916で撮像された画像データが重ね合わせられることにより、車両7900を上方から見た俯瞰画像が得られる。
【0225】
車両7900のフロント、リア、サイド、コーナ及び車室内のフロントガラスの上部に設けられる車外情報検出部7920,7922,7924,7926,7928,7930は、例えば超音波センサ又はレーダ装置であってよい。車両7900のフロントノーズ、リアバンパ、バックドア及び車室内のフロントガラスの上部に設けられる車外情報検出部7920,7926,7930は、例えばLIDAR装置であってよい。これらの車外情報検出部7920~7930は、主として先行車両、歩行者又は障害物等の検出に用いられる。
【0226】
図25に戻って説明を続ける。車外情報検出ユニット7400は、撮像部7410に車外の画像を撮像させるとともに、撮像された画像データを受信する。また、車外情報検出ユニット7400は、接続されている車外情報検出部7420から検出情報を受信する。車外情報検出部7420が超音波センサ、レーダ装置又はLIDAR装置である場合には、車外情報検出ユニット7400は、超音波又は電磁波等を発信させるとともに、受信された反射波の情報を受信する。車外情報検出ユニット7400は、受信した情報に基づいて、人、車、障害物、標識又は路面上の文字等の物体検出処理又は距離検出処理を行ってもよい。車外情報検出ユニット7400は、受信した情報に基づいて、降雨、霧又は路面状況等を認識する環境認識処理を行ってもよい。車外情報検出ユニット7400は、受信した情報に基づいて、車外の物体までの距離を算出してもよい。
【0227】
また、車外情報検出ユニット7400は、受信した画像データに基づいて、人、車、障害物、標識又は路面上の文字等を認識する画像認識処理又は距離検出処理を行ってもよい。車外情報検出ユニット7400は、受信した画像データに対して歪補正又は位置合わせ等の処理を行うとともに、異なる撮像部7410により撮像された画像データを合成して、俯瞰画像又はパノラマ画像を生成してもよい。車外情報検出ユニット7400は、異なる撮像部7410により撮像された画像データを用いて、視点変換処理を行ってもよい。
【0228】
車内情報検出ユニット7500は、車内の情報を検出する。車内情報検出ユニット7500には、例えば、運転者の状態を検出する運転者状態検出部7510が接続される。運転者状態検出部7510は、運転者を撮像するカメラ、運転者の生体情報を検出する生体センサ又は車室内の音声を集音するマイク等を含んでもよい。生体センサは、例えば、座面又はステアリングホイール等に設けられ、座席に座った搭乗者又はステアリングホイールを握る運転者の生体情報を検出する。車内情報検出ユニット7500は、運転者状態検出部7510から入力される検出情報に基づいて、運転者の疲労度合い又は集中度合いを算出してもよいし、運転者が居眠りをしていないかを判別してもよい。車内情報検出ユニット7500は、集音された音声信号に対してノイズキャンセリング処理等の処理を行ってもよい。
【0229】
統合制御ユニット7600は、各種プログラムにしたがって車両制御システム7000内の動作全般を制御する。統合制御ユニット7600には、入力部7800が接続されている。入力部7800は、例えば、タッチパネル、ボタン、マイクロフォン、スイッチ又はレバー等、搭乗者によって入力操作され得る装置によって実現される。統合制御ユニット7600には、マイクロフォンにより入力される音声を音声認識することにより得たデータが入力されてもよい。入力部7800は、例えば、赤外線又はその他の電波を利用したリモートコントロール装置であってもよいし、車両制御システム7000の操作に対応した携帯電話又はPDA(Personal Digital Assistant)等の外部接続機器であってもよい。入力部7800は、例えばカメラであってもよく、その場合搭乗者はジェスチャにより情報を入力することができる。あるいは、搭乗者が装着したウェアラブル装置の動きを検出することで得られたデータが入力されてもよい。さらに、入力部7800は、例えば、上記の入力部7800を用いて搭乗者等により入力された情報に基づいて入力信号を生成し、統合制御ユニット7600に出力する入力制御回路などを含んでもよい。搭乗者等は、この入力部7800を操作することにより、車両制御システム7000に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりする。
【0230】
記憶部7690は、マイクロコンピュータにより実行される各種プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、及び各種パラメータ、演算結果又はセンサ値等を記憶するRAM(Random Access Memory)を含んでいてもよい。また、記憶部7690は、HDD(Hard Disc Drive)等の磁気記憶デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス又は光磁気記憶デバイス等によって実現してもよい。
【0231】
汎用通信I/F7620は、外部環境7750に存在する様々な機器との間の通信を仲介する汎用的な通信I/Fである。汎用通信I/F7620は、GSM(登録商標)(Global System of Mobile communications)、WiMAX(登録商標)、LTE(登録商標)(Long Term Evolution)若しくはLTE-A(LTE-Advanced)などのセルラー通信プロトコル、又は無線LAN(Wi-Fi(登録商標)ともいう)、Bluetooth(登録商標)などのその他の無線通信プロトコルを実装してよい。汎用通信I/F7620は、例えば、基地局又はアクセスポイントを介して、外部ネットワーク(例えば、インターネット、クラウドネットワーク又は事業者固有のネットワーク)上に存在する機器(例えば、アプリケーションサーバ又は制御サーバ)へ接続してもよい。また、汎用通信I/F7620は、例えばP2P(Peer To Peer)技術を用いて、車両の近傍に存在する端末(例えば、運転者、歩行者若しくは店舗の端末、又はMTC(Machine Type Communication)端末)と接続してもよい。
【0232】
専用通信I/F7630は、車両における使用を目的として策定された通信プロトコルをサポートする通信I/Fである。専用通信I/F7630は、例えば、下位レイヤのIEEE802.11pと上位レイヤのIEEE1609との組合せであるWAVE(Wireless Access in Vehicle Environment)、DSRC(Dedicated Short Range Communications)、又はセルラー通信プロトコルといった標準プロトコルを実装してよい。専用通信I/F7630は、典型的には、車車間(Vehicle to Vehicle)通信、路車間(Vehicle to Infrastructure)通信、車両と家との間(Vehicle to Home)の通信及び歩車間(Vehicle to Pedestrian)通信のうちの1つ以上を含む概念であるV2X通信を遂行する。
【0233】
測位部7640は、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)衛星からのGNSS信号(例えば、GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号)を受信して測位を実行し、車両の緯度、経度及び高度を含む位置情報を生成する。なお、測位部7640は、無線アクセスポイントとの信号の交換により現在位置を特定してもよく、又は測位機能を有する携帯電話、PHS若しくはスマートフォンといった端末から位置情報を取得してもよい。
【0234】
ビーコン受信部7650は、例えば、道路上に設置された無線局等から発信される電波あるいは電磁波を受信し、現在位置、渋滞、通行止め又は所要時間等の情報を取得する。なお、ビーコン受信部7650の機能は、上述した専用通信I/F7630に含まれてもよい。
【0235】
車内機器I/F7660は、マイクロコンピュータ7610と車内に存在する様々な車内機器7760との間の接続を仲介する通信インタフェースである。車内機器I/F7660は、無線LAN、Bluetooth(登録商標)、NFC(Near Field Communication)又はWUSB(Wireless USB)といった無線通信プロトコルを用いて無線接続を確立してもよい。また、車内機器I/F7660は、図示しない接続端子(及び、必要であればケーブル)を介して、USB(Universal Serial Bus)、HDMI(登録商標)(High-Definition Multimedia Interface、又はMHL(Mobile High-definition Link)等の有線接続を確立してもよい。車内機器7760は、例えば、搭乗者が有するモバイル機器若しくはウェアラブル機器、又は車両に搬入され若しくは取り付けられる情報機器のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。また、車内機器7760は、任意の目的地までの経路探索を行うナビゲーション装置を含んでいてもよい。車内機器I/F7660は、これらの車内機器7760との間で、制御信号又はデータ信号を交換する。
【0236】
車載ネットワークI/F7680は、マイクロコンピュータ7610と通信ネットワーク7010との間の通信を仲介するインタフェースである。車載ネットワークI/F7680は、通信ネットワーク7010によりサポートされる所定のプロトコルに則して、信号等を送受信する。
【0237】
統合制御ユニット7600のマイクロコンピュータ7610は、汎用通信I/F7620、専用通信I/F7630、測位部7640、ビーコン受信部7650、車内機器I/F7660及び車載ネットワークI/F7680のうちの少なくとも一つを介して取得される情報に基づき、各種プログラムにしたがって、車両制御システム7000を制御する。例えば、マイクロコンピュータ7610は、取得される車内外の情報に基づいて、駆動力発生装置、ステアリング機構又は制動装置の制御目標値を演算し、駆動系制御ユニット7100に対して制御指令を出力してもよい。例えば、マイクロコンピュータ7610は、車両の衝突回避あるいは衝撃緩和、車間距離に基づく追従走行、車速維持走行、車両の衝突警告、又は車両のレーン逸脱警告等を含むADAS(Advanced Driver Assistance System)の機能実現を目的とした協調制御を行ってもよい。また、マイクロコンピュータ7610は、取得される車両の周囲の情報に基づいて駆動力発生装置、ステアリング機構又は制動装置等を制御することにより、運転者の操作に拠らずに自律的に走行する自動運転等を目的とした協調制御を行ってもよい。
【0238】
マイクロコンピュータ7610は、汎用通信I/F7620、専用通信I/F7630、測位部7640、ビーコン受信部7650、車内機器I/F7660及び車載ネットワークI/F7680のうちの少なくとも一つを介して取得される情報に基づき、車両と周辺の構造物や人物等の物体との間の3次元距離情報を生成し、車両の現在位置の周辺情報を含むローカル地図情報を作成してもよい。また、マイクロコンピュータ7610は、取得される情報に基づき、車両の衝突、歩行者等の近接又は通行止めの道路への進入等の危険を予測し、警告用信号を生成してもよい。警告用信号は、例えば、警告音を発生させたり、警告ランプを点灯させたりするための信号であってよい。
【0239】
音声画像出力部7670は、車両の搭乗者又は車外に対して、視覚的又は聴覚的に情報を通知することが可能な出力装置へ音声及び画像のうちの少なくとも一方の出力信号を送信する。
図25の例では、出力装置として、オーディオスピーカ7710、表示部7720及びインストルメントパネル7730が例示されている。表示部7720は、例えば、オンボードディスプレイ及びヘッドアップディスプレイの少なくとも一つを含んでいてもよい。表示部7720は、AR(Augmented Reality)表示機能を有していてもよい。出力装置は、これらの装置以外の、ヘッドホン、搭乗者が装着する眼鏡型ディスプレイ等のウェアラブルデバイス、プロジェクタ又はランプ等の他の装置であってもよい。出力装置が表示装置の場合、表示装置は、マイクロコンピュータ7610が行った各種処理により得られた結果又は他の制御ユニットから受信された情報を、テキスト、イメージ、表、グラフ等、様々な形式で視覚的に表示する。また、出力装置が音声出力装置の場合、音声出力装置は、再生された音声データ又は音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して聴覚的に出力する。
【0240】
なお、
図25に示した例において、通信ネットワーク7010を介して接続された少なくとも二つの制御ユニットが一つの制御ユニットとして一体化されてもよい。あるいは、個々の制御ユニットが、複数の制御ユニットにより構成されてもよい。さらに、車両制御システム7000が、図示されていない別の制御ユニットを備えてもよい。また、上記の説明において、いずれかの制御ユニットが担う機能の一部又は全部を、他の制御ユニットに持たせてもよい。つまり、通信ネットワーク7010を介して情報の送受信がされるようになっていれば、所定の演算処理が、いずれかの制御ユニットで行われるようになってもよい。同様に、いずれかの制御ユニットに接続されているセンサ又は装置が、他の制御ユニットに接続されるとともに、複数の制御ユニットが、通信ネットワーク7010を介して相互に検出情報を送受信してもよい。
【0241】
(第4適用例)
本開示に係る技術は、様々な製品へ応用することができる。例えば、本開示に係る技術は、内視鏡手術システムに適用されてもよい。
【0242】
図27は、本開示に係る技術が適用され得る内視鏡手術システム5000の概略的な構成の一例を示す図である。
図27では、術者(医師)5067が、内視鏡手術システム5000を用いて、患者ベッド5069上の患者5071に手術を行っている様子が図示されている。図示するように、内視鏡手術システム5000は、内視鏡5001と、その他の術具5017と、内視鏡5001を支持する支持アーム装置5027と、内視鏡下手術のための各種の装置が搭載されたカート5037と、から構成される。
【0243】
内視鏡手術では、腹壁を切って開腹する代わりに、トロッカ5025a~5025dと呼ばれる筒状の開孔器具が腹壁に複数穿刺される。そして、トロッカ5025a~5025dから、内視鏡5001の鏡筒5003や、その他の術具5017が患者5071の体腔内に挿入される。図示する例では、その他の術具5017として、気腹チューブ5019、エネルギー処置具5021及び鉗子5023が、患者5071の体腔内に挿入されている。また、エネルギー処置具5021は、高周波電流や超音波振動により、組織の切開及び剥離、又は血管の封止等を行う処置具である。ただし、図示する術具5017はあくまで一例であり、術具5017としては、例えば攝子、レトラクタ等、一般的に内視鏡下手術において用いられる各種の術具が用いられてよい。
【0244】
内視鏡5001によって撮影された患者5071の体腔内の術部の画像が、表示装置5041に表示される。術者5067は、表示装置5041に表示された術部の画像をリアルタイムで見ながら、エネルギー処置具5021や鉗子5023を用いて、例えば患部を切除する等の処置を行う。なお、図示は省略しているが、気腹チューブ5019、エネルギー処置具5021及び鉗子5023は、手術中に、術者5067又は助手等によって支持される。
【0245】
(支持アーム装置)
支持アーム装置5027は、ベース部5029から延伸するアーム部5031を備える。図示する例では、アーム部5031は、関節部5033a、5033b、5033c、及びリンク5035a、5035bから構成されており、アーム制御装置5045からの制御により駆動される。アーム部5031によって内視鏡5001が支持され、その位置及び姿勢が制御される。これにより、内視鏡5001の安定的な位置の固定が実現され得る。
【0246】
(内視鏡)
内視鏡5001は、先端から所定の長さの領域が患者5071の体腔内に挿入される鏡筒5003と、鏡筒5003の基端に接続されるカメラヘッド5005と、から構成される。図示する例では、硬性の鏡筒5003を有するいわゆる硬性鏡として構成される内視鏡5001を図示しているが、内視鏡5001は、軟性の鏡筒5003を有するいわゆる軟性鏡として構成されてもよい。
【0247】
鏡筒5003の先端には、対物レンズが嵌め込まれた開口部が設けられている。内視鏡5001には光源装置5043が接続されており、当該光源装置5043によって生成された光が、鏡筒5003の内部に延設されるライトガイドによって当該鏡筒の先端まで導光され、対物レンズを介して患者5071の体腔内の観察対象に向かって照射される。なお、内視鏡5001は、直視鏡であってもよいし、斜視鏡又は側視鏡であってもよい。
【0248】
カメラヘッド5005の内部には光学系及び撮像素子が設けられており、観察対象からの反射光(観察光)は当該光学系によって当該撮像素子に集光される。当該撮像素子によって観察光が光電変換され、観察光に対応する電気信号、すなわち観察像に対応する画像信号が生成される。当該画像信号は、RAWデータとしてカメラコントロールユニット(CCU:Camera Control Unit)5039に送信される。なお、カメラヘッド5005には、その光学系を適宜駆動させることにより、倍率及び焦点距離を調整する機能が搭載される。
【0249】
なお、例えば立体視(3D表示)等に対応するために、カメラヘッド5005には撮像素子が複数設けられてもよい。この場合、鏡筒5003の内部には、当該複数の撮像素子のそれぞれに観察光を導光するために、リレー光学系が複数系統設けられる。
【0250】
(カートに搭載される各種の装置)
CCU5039は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等によって構成され、内視鏡5001及び表示装置5041の動作を統括的に制御する。具体的には、CCU5039は、カメラヘッド5005から受け取った画像信号に対して、例えば現像処理(デモザイク処理)等の、当該画像信号に基づく画像を表示するための各種の画像処理を施す。CCU5039は、当該画像処理を施した画像信号を表示装置5041に提供する。また、CCU5039は、カメラヘッド5005に対して制御信号を送信し、その駆動を制御する。当該制御信号には、倍率や焦点距離等、撮像条件に関する情報が含まれ得る。
【0251】
表示装置5041は、CCU5039からの制御により、当該CCU5039によって画像処理が施された画像信号に基づく画像を表示する。内視鏡5001が例えば4K(水平画素数3840×垂直画素数2160)又は8K(水平画素数7680×垂直画素数4320)等の高解像度の撮影に対応したものである場合、及び/又は3D表示に対応したものである場合には、表示装置5041としては、それぞれに対応して、高解像度の表示が可能なもの、及び/又は3D表示可能なものが用いられ得る。4K又は8K等の高解像度の撮影に対応したものである場合、表示装置5041として55インチ以上のサイズのものを用いることで一層の没入感が得られる。また、用途に応じて、解像度、サイズが異なる複数の表示装置5041が設けられてもよい。
【0252】
光源装置5043は、例えばLED(light emitting diode)等の光源から構成され、術部を撮影する際の照射光を内視鏡5001に供給する。
【0253】
アーム制御装置5045は、例えばCPU等のプロセッサによって構成され、所定のプログラムに従って動作することにより、所定の制御方式に従って支持アーム装置5027のアーム部5031の駆動を制御する。
【0254】
入力装置5047は、内視鏡手術システム5000に対する入力インタフェースである。ユーザは、入力装置5047を介して、内視鏡手術システム5000に対して各種の情報の入力や指示入力を行うことができる。例えば、ユーザは、入力装置5047を介して、患者の身体情報や、手術の術式についての情報等、手術に関する各種の情報を入力する。また、例えば、ユーザは、入力装置5047を介して、アーム部5031を駆動させる旨の指示や、内視鏡5001による撮像条件(照射光の種類、倍率及び焦点距離等)を変更する旨の指示、エネルギー処置具5021を駆動させる旨の指示等を入力する。
【0255】
入力装置5047の種類は限定されず、入力装置5047は各種の公知の入力装置であってよい。入力装置5047としては、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、スイッチ、フットスイッチ5057及び/又はレバー等が適用され得る。入力装置5047としてタッチパネルが用いられる場合には、当該タッチパネルは表示装置5041の表示面上に設けられてもよい。
【0256】
あるいは、入力装置5047は、例えばメガネ型のウェアラブルデバイスやHMD(Head Mounted Display)等の、ユーザによって装着されるデバイスであり、これらのデバイスによって検出されるユーザのジェスチャや視線に応じて各種の入力が行われる。また、入力装置5047は、ユーザの動きを検出可能なカメラを含み、当該カメラによって撮像された映像から検出されるユーザのジェスチャや視線に応じて各種の入力が行われる。更に、入力装置5047は、ユーザの声を収音可能なマイクロフォンを含み、当該マイクロフォンを介して音声によって各種の入力が行われる。このように、入力装置5047が非接触で各種の情報を入力可能に構成されることにより、特に清潔域に属するユーザ(例えば術者5067)が、不潔域に属する機器を非接触で操作することが可能となる。また、ユーザは、所持している術具から手を離すことなく機器を操作することが可能となるため、ユーザの利便性が向上する。
【0257】
処置具制御装置5049は、組織の焼灼、切開又は血管の封止等のためのエネルギー処置具5021の駆動を制御する。気腹装置5051は、内視鏡5001による視野の確保及び術者の作業空間の確保の目的で、患者5071の体腔を膨らめるために、気腹チューブ5019を介して当該体腔内にガスを送り込む。レコーダ5053は、手術に関する各種の情報を記録可能な装置である。プリンタ5055は、手術に関する各種の情報を、テキスト、画像又はグラフ等各種の形式で印刷可能な装置である。
【0258】
以下、内視鏡手術システム5000において特に特徴的な構成について、更に詳細に説明する。
【0259】
(支持アーム装置)
支持アーム装置5027は、基台であるベース部5029と、ベース部5029から延伸するアーム部5031と、を備える。図示する例では、アーム部5031は、複数の関節部5033a、5033b、5033cと、関節部5033bによって連結される複数のリンク5035a、5035bと、から構成されているが、
図27では、簡単のため、アーム部5031の構成を簡略化して図示している。実際には、アーム部5031が所望の自由度を有するように、関節部5033a~5033c及びリンク5035a、5035bの形状、数及び配置、並びに関節部5033a~5033cの回転軸の方向等が適宜設定され得る。例えば、アーム部5031は、好適に、6自由度以上の自由度を有するように構成され得る。これにより、アーム部5031の可動範囲内において内視鏡5001を自由に移動させることが可能になるため、所望の方向から内視鏡5001の鏡筒5003を患者5071の体腔内に挿入することが可能になる。
【0260】
関節部5033a~5033cにはアクチュエータが設けられており、関節部5033a~5033cは当該アクチュエータの駆動により所定の回転軸まわりに回転可能に構成されている。当該アクチュエータの駆動がアーム制御装置5045によって制御されることにより、各関節部5033a~5033cの回転角度が制御され、アーム部5031の駆動が制御される。これにより、内視鏡5001の位置及び姿勢の制御が実現され得る。この際、アーム制御装置5045は、力制御又は位置制御等、各種の公知の制御方式によってアーム部5031の駆動を制御することができる。
【0261】
例えば、術者5067が、入力装置5047(フットスイッチ5057を含む)を介して適宜操作入力を行うことにより、当該操作入力に応じてアーム制御装置5045によってアーム部5031の駆動が適宜制御され、内視鏡5001の位置及び姿勢が制御されてよい。当該制御により、アーム部5031の先端の内視鏡5001を任意の位置から任意の位置まで移動させた後、その移動後の位置で固定的に支持することができる。なお、アーム部5031は、いわゆるマスタースレイブ方式で操作されてもよい。この場合、アーム部5031は、手術室から離れた場所に設置される入力装置5047を介してユーザによって遠隔操作され得る。
【0262】
また、力制御が適用される場合には、アーム制御装置5045は、ユーザからの外力を受け、その外力にならってスムーズにアーム部5031が移動するように、各関節部5033a~5033cのアクチュエータを駆動させる、いわゆるパワーアシスト制御を行ってもよい。これにより、ユーザが直接アーム部5031に触れながらアーム部5031を移動させる際に、比較的軽い力で当該アーム部5031を移動させることができる。従って、より直感的に、より簡易な操作で内視鏡5001を移動させることが可能となり、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0263】
ここで、一般的に、内視鏡下手術では、スコピストと呼ばれる医師によって内視鏡5001が支持されていた。これに対して、支持アーム装置5027を用いることにより、人手によらずに内視鏡5001の位置をより確実に固定することが可能になるため、術部の画像を安定的に得ることができ、手術を円滑に行うことが可能になる。
【0264】
なお、アーム制御装置5045は必ずしもカート5037に設けられなくてもよい。また、アーム制御装置5045は必ずしも1つの装置でなくてもよい。例えば、アーム制御装置5045は、支持アーム装置5027のアーム部5031の各関節部5033a~5033cにそれぞれ設けられてもよく、複数のアーム制御装置5045が互いに協働することにより、アーム部5031の駆動制御が実現されてもよい。
【0265】
(光源装置)
光源装置5043は、内視鏡5001に術部を撮影する際の照射光を供給する。光源装置5043は、例えばLED、レーザ光源又はこれらの組み合わせによって構成される白色光源から構成される。このとき、RGBレーザ光源の組み合わせにより白色光源が構成される場合には、各色(各波長)の出力強度及び出力タイミングを高精度に制御することができるため、光源装置5043において撮像画像のホワイトバランスの調整を行うことができる。また、この場合には、RGBレーザ光源それぞれからのレーザ光を時分割で観察対象に照射し、その照射タイミングに同期してカメラヘッド5005の撮像素子の駆動を制御することにより、RGBそれぞれに対応した画像を時分割で撮像することも可能である。当該方法によれば、当該撮像素子にカラーフィルタを設けなくても、カラー画像を得ることができる。
【0266】
また、光源装置5043は、出力する光の強度を所定の時間ごとに変更するようにその駆動が制御されてもよい。その光の強度の変更のタイミングに同期してカメラヘッド5005の撮像素子の駆動を制御して時分割で画像を取得し、その画像を合成することにより、いわゆる黒つぶれ及び白とびのない高ダイナミックレンジの画像を生成することができる。
【0267】
また、光源装置5043は、特殊光観察に対応した所定の波長帯域の光を供給可能に構成されてもよい。特殊光観察では、例えば、体組織における光の吸収の波長依存性を利用して、通常の観察時における照射光(すなわち、白色光)に比べて狭帯域の光を照射することにより、粘膜表層の血管等の所定の組織を高コントラストで撮影する、いわゆる狭帯域光観察(Narrow Band Imaging)が行われる。あるいは、特殊光観察では、励起光を照射することにより発生する蛍光により画像を得る蛍光観察が行われてもよい。蛍光観察では、体組織に励起光を照射し当該体組織からの蛍光を観察するもの(自家蛍光観察)、又はインドシアニングリーン(ICG)等の試薬を体組織に局注するとともに当該体組織にその試薬の蛍光波長に対応した励起光を照射し蛍光像を得るもの等が行われ得る。光源装置5043は、このような特殊光観察に対応した狭帯域光及び/又は励起光を供給可能に構成され得る。
【0268】
(カメラヘッド及びCCU)
図28を参照して、内視鏡5001のカメラヘッド5005及びCCU5039の機能についてより詳細に説明する。
図28は、
図27に示すカメラヘッド5005及びCCU5039の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0269】
図28を参照すると、カメラヘッド5005は、その機能として、レンズユニット5007と、撮像部5009と、駆動部5011と、通信部5013と、カメラヘッド制御部5015と、を有する。また、CCU5039は、その機能として、通信部5059と、画像処理部5061と、制御部5063と、を有する。カメラヘッド5005とCCU5039とは、伝送ケーブル5065によって双方向に通信可能に接続されている。
【0270】
まず、カメラヘッド5005の機能構成について説明する。レンズユニット5007は、鏡筒5003との接続部に設けられる光学系である。鏡筒5003の先端から取り込まれた観察光は、カメラヘッド5005まで導光され、当該レンズユニット5007に入射する。レンズユニット5007は、ズームレンズ及びフォーカスレンズを含む複数のレンズが組み合わされて構成される。レンズユニット5007は、撮像部5009の撮像素子の受光面上に観察光を集光するように、その光学特性が調整されている。また、ズームレンズ及びフォーカスレンズは、撮像画像の倍率及び焦点の調整のため、その光軸上の位置が移動可能に構成される。
【0271】
撮像部5009は撮像素子によって構成され、レンズユニット5007の後段に配置される。レンズユニット5007を通過した観察光は、当該撮像素子の受光面に集光され、光電変換によって、観察像に対応した画像信号が生成される。撮像部5009によって生成された画像信号は、通信部5013に提供される。
【0272】
撮像部5009を構成する撮像素子としては、例えばCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)タイプのイメージセンサであり、Bayer配列を有するカラー撮影可能なものが用いられる。なお、当該撮像素子としては、例えば4K以上の高解像度の画像の撮影に対応可能なものが用いられてもよい。術部の画像が高解像度で得られることにより、術者5067は、当該術部の様子をより詳細に把握することができ、手術をより円滑に進行することが可能となる。
【0273】
また、撮像部5009を構成する撮像素子は、3D表示に対応する右目用及び左目用の画像信号をそれぞれ取得するための1対の撮像素子を有するように構成される。3D表示が行われることにより、術者5067は術部における生体組織の奥行きをより正確に把握することが可能になる。なお、撮像部5009が多板式で構成される場合には、各撮像素子に対応して、レンズユニット5007も複数系統設けられる。
【0274】
また、撮像部5009は、必ずしもカメラヘッド5005に設けられなくてもよい。例えば、撮像部5009は、鏡筒5003の内部に、対物レンズの直後に設けられてもよい。
【0275】
駆動部5011は、アクチュエータによって構成され、カメラヘッド制御部5015からの制御により、レンズユニット5007のズームレンズ及びフォーカスレンズを光軸に沿って所定の距離だけ移動させる。これにより、撮像部5009による撮像画像の倍率及び焦点が適宜調整され得る。
【0276】
通信部5013は、CCU5039との間で各種の情報を送受信するための通信装置によって構成される。通信部5013は、撮像部5009から得た画像信号をRAWデータとして伝送ケーブル5065を介してCCU5039に送信する。この際、術部の撮像画像を低レイテンシで表示するために、当該画像信号は光通信によって送信されることが好ましい。手術の際には、術者5067が撮像画像によって患部の状態を観察しながら手術を行うため、より安全で確実な手術のためには、術部の動画像が可能な限りリアルタイムに表示されることが求められるからである。光通信が行われる場合には、通信部5013には、電気信号を光信号に変換する光電変換モジュールが設けられる。画像信号は当該光電変換モジュールによって光信号に変換された後、伝送ケーブル5065を介してCCU5039に送信される。
【0277】
また、通信部5013は、CCU5039から、カメラヘッド5005の駆動を制御するための制御信号を受信する。当該制御信号には、例えば、撮像画像のフレームレートを指定する旨の情報、撮像時の露出値を指定する旨の情報、並びに/又は撮像画像の倍率及び焦点を指定する旨の情報等、撮像条件に関する情報が含まれる。通信部5013は、受信した制御信号をカメラヘッド制御部5015に提供する。なお、CCU5039からの制御信号も、光通信によって伝送されてもよい。この場合、通信部5013には、光信号を電気信号に変換する光電変換モジュールが設けられ、制御信号は当該光電変換モジュールによって電気信号に変換された後、カメラヘッド制御部5015に提供される。
【0278】
なお、上記のフレームレートや露出値、倍率、焦点等の撮像条件は、取得された画像信号に基づいてCCU5039の制御部5063によって自動的に設定される。つまり、いわゆるAE(Auto Exposure)機能、AF(Auto Focus)機能及びAWB(Auto White Balance)機能が内視鏡5001に搭載される。
【0279】
カメラヘッド制御部5015は、通信部5013を介して受信したCCU5039からの制御信号に基づいて、カメラヘッド5005の駆動を制御する。例えば、カメラヘッド制御部5015は、撮像画像のフレームレートを指定する旨の情報及び/又は撮像時の露光を指定する旨の情報に基づいて、撮像部5009の撮像素子の駆動を制御する。また、例えば、カメラヘッド制御部5015は、撮像画像の倍率及び焦点を指定する旨の情報に基づいて、駆動部5011を介してレンズユニット5007のズームレンズ及びフォーカスレンズを適宜移動させる。カメラヘッド制御部5015は、更に、鏡筒5003やカメラヘッド5005を識別するための情報を記憶する機能を備えてもよい。
【0280】
なお、レンズユニット5007や撮像部5009等の構成を、気密性及び防水性が高い密閉構造内に配置することで、カメラヘッド5005について、オートクレーブ滅菌処理に対する耐性を持たせることができる。
【0281】
次に、CCU5039の機能構成について説明する。通信部5059は、カメラヘッド5005との間で各種の情報を送受信するための通信装置によって構成される。通信部5059は、カメラヘッド5005から、伝送ケーブル5065を介して送信される画像信号を受信する。この際、上記のように、当該画像信号は好適に光通信によって送信され得る。この場合、光通信に対応して、通信部5059には、光信号を電気信号に変換する光電変換モジュールが設けられる。通信部5059は、電気信号に変換した画像信号を画像処理部5061に提供する。
【0282】
また、通信部5059は、カメラヘッド5005に対して、カメラヘッド5005の駆動を制御するための制御信号を送信する。当該制御信号も光通信によって送信されてよい。
【0283】
画像処理部5061は、カメラヘッド5005から送信されたRAWデータである画像信号に対して各種の画像処理を施す。当該画像処理としては、例えば現像処理、高画質化処理(帯域強調処理、超解像処理、NR(Noise reduction)処理及び/又は手ブレ補正処理等)、並びに/又は拡大処理(電子ズーム処理)等、各種の公知の信号処理が含まれる。また、画像処理部5061は、AE、AF及びAWBを行うための、画像信号に対する検波処理を行う。
【0284】
画像処理部5061は、CPUやGPU等のプロセッサによって構成され、当該プロセッサが所定のプログラムに従って動作することにより、上述した画像処理や検波処理が行われ得る。なお、画像処理部5061が複数のGPUによって構成される場合には、画像処理部5061は、画像信号に係る情報を適宜分割し、これら複数のGPUによって並列的に画像処理を行う。
【0285】
制御部5063は、内視鏡5001による術部の撮像、及びその撮像画像の表示に関する各種の制御を行う。例えば、制御部5063は、カメラヘッド5005の駆動を制御するための制御信号を生成する。この際、撮像条件がユーザによって入力されている場合には、制御部5063は、当該ユーザによる入力に基づいて制御信号を生成する。あるいは、内視鏡5001にAE機能、AF機能及びAWB機能が搭載されている場合には、制御部5063は、画像処理部5061による検波処理の結果に応じて、最適な露出値、焦点距離及びホワイトバランスを適宜算出し、制御信号を生成する。
【0286】
また、制御部5063は、画像処理部5061によって画像処理が施された画像信号に基づいて、術部の画像を表示装置5041に表示させる。この際、制御部5063は、各種の画像認識技術を用いて術部画像内における各種の物体を認識する。例えば、制御部5063は、術部画像に含まれる物体のエッジの形状や色等を検出することにより、鉗子等の術具、特定の生体部位、出血、エネルギー処置具5021使用時のミスト等を認識することができる。制御部5063は、表示装置5041に術部の画像を表示させる際に、その認識結果を用いて、各種の手術支援情報を当該術部の画像に重畳表示させる。手術支援情報が重畳表示され、術者5067に提示されることにより、より安全かつ確実に手術を進めることが可能になる。
【0287】
カメラヘッド5005及びCCU5039を接続する伝送ケーブル5065は、電気信号の通信に対応した電気信号ケーブル、光通信に対応した光ファイバ、又はこれらの複合ケーブルである。
【0288】
ここで、図示する例では、伝送ケーブル5065を用いて有線で通信が行われていたが、カメラヘッド5005とCCU5039との間の通信は無線で行われてもよい。両者の間の通信が無線で行われる場合には、伝送ケーブル5065を手術室内に敷設する必要がなくなるため、手術室内における医療スタッフの移動が当該伝送ケーブル5065によって妨げられる事態が解消され得る。
【0289】
以上、本開示に係る技術が適用され得る内視鏡手術システム5000の一例について説明した。なお、ここでは、一例として内視鏡手術システム5000について説明したが、本開示に係る技術が適用され得るシステムはかかる例に限定されない。例えば、本開示に係る技術は、検査用軟性内視鏡システムや顕微鏡手術システムに適用されてもよい。
【0290】
本開示に係る技術は、以上説明した構成のうち、撮像部5009に好適に適用され得る。撮像部5009に本開示に係る技術を適用することにより、より鮮明な術部画像を得ることができるため、手術をより安全にかつより確実に行うことが可能になる。
【0291】
(その他の実施形態)
上記のように、本技術は第1~第5実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面は本技術を限定すると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0292】
例えば、第1~第5実施形態で説明した内容を適宜組み合わせることができる。例えば、第1実施形態に係る光電変換素子において、第2実施形態で説明したように、光電変換層の膜密度をmとし、光電変換層を構成する各有機半導体材料の単膜の膜密度の組成に対する加重平均をnとしたときに、m/nが1以上であってもよい。更に、第1実施形態に係る光電変換素子において、第3実施形態で説明したように、光電変換層が、光を吸収して励起する色素材料と、電子受容性を有する有機半導体材料とを含み、有機半導体材料が、隣接する色素材料との配位構造として最も安定な構造のみである比率が、0.5以上であってもよい。更に、第1実施形態に係る光電変換素子において、第4実施形態で説明したように、光電変換層が、光を吸収して励起する色素材料と、電子供与性を有する第1有機半導体材料と、電子受容性を有する第2有機半導体材料とを含み、光電変換層が、第1有機半導体材料で構成される第1ドメイン17Aと、第2有機半導体材料と色素材料が分子レベルで均一に相溶した第2ドメイン17Bとを有していてもよい。
【0293】
また、第2実施形態に係る光電変換素子において、第1実施形態で説明したように、光電変換素子を構成する有機半導体材料の少なくとも1つが、HOMO体積率が0.15以下、またはLUMO体積率が0.15以下の有機分子であってもよい。更に、第2実施形態に係る光電変換素子において、第3実施形態で説明したように、光電変換層が、光を吸収して励起する色素材料と、電子受容性を有する有機半導体材料とを含み、有機半導体材料が、隣接する色素材料との配位構造として最も安定な構造のみである比率が、0.5以上であってもよい。更に、第2実施形態に係る光電変換素子において、第4実施形態で説明したように、光電変換層が、光を吸収して励起する色素材料と、電子供与性を有する第1有機半導体材料と、電子受容性を有する第2有機半導体材料とを含み、光電変換層が、第1有機半導体材料で構成される第1ドメイン17Aと、第2有機半導体材料と色素材料が分子レベルで均一に相溶した第2ドメイン17Bとを有していてもよい。
【0294】
また、第3実施形態に係る光電変換素子において、第1実施形態で説明したように、光電変換素子を構成する有機半導体材料の少なくとも1つが、HOMO体積率が0.15以下、またはLUMO体積率が0.15以下の有機分子であってもよい。更に、第3実施形態に係る光電変換素子において、第2実施形態で説明したように、光電変換層の膜密度をmとし、光電変換層を構成する各有機半導体材料の単膜の膜密度の組成に対する加重平均をnとしたときに、m/nが1以上であってもよい。更に、第3実施形態に係る光電変換素子において、第4実施形態で説明したように、光電変換層が、光を吸収して励起する色素材料と、電子供与性を有する第1有機半導体材料と、電子受容性を有する第2有機半導体材料とを含み、光電変換層が、第1有機半導体材料で構成される第1ドメイン17Aと、第2有機半導体材料と色素材料が分子レベルで均一に相溶した第2ドメイン17Bとを有していてもよい。
【0295】
また、第4実施形態に係る光電変換素子において、第1実施形態で説明したように、光電変換素子を構成する有機半導体材料の少なくとも1つが、HOMO体積率が0.15以下、またはLUMO体積率が0.15以下の有機分子であってもよい。更に、第4実施形態に係る光電変換素子において、第2実施形態で説明したように、光電変換層の膜密度をmとし、光電変換層を構成する各有機半導体材料の単膜の膜密度の組成に対する加重平均をnとしたときに、m/nが1以上であってもよい。更に、第4実施形態に係る光電変換素子において、第3実施形態で説明したように、光電変換層が、光を吸収して励起する色素材料と、電子受容性を有する有機半導体材料とを含み、有機半導体材料が、隣接する色素材料との配位構造として最も安定な構造のみである比率が、0.5以上であってもよい。
【0296】
また、上記第1~第5実施形態では、光電変換素子として、緑色光を検出する有機光電変換部11Gと、青色光,赤色光をそれぞれ検出する無機光電変換部11B,11Rとを積層させた構成を例示したが、本開示内容はこのような構造に限定されるものではない。即ち、有機光電変換部において赤色光あるいは青色光を検出してもよく、無機光電変換部において緑色光を検出してもよい。また、これらの有機光電変換部および無機光電変換部の数やその比率も限定されるものではなく、2以上の有機光電変換部を設けてもよく、有機光電変換部だけで複数色の色信号が得られるようにしてもよい。更に、有機光電変換部および無機光電変換部を縦方向に積層させる構造に限らず、基板面に沿って並列させてもよい。
【0297】
また、上記第1~第5実施形態では、裏面照射型の固体撮像装置の構成を例示したが、本開示内容は表面照射型の固体撮像装置にも適用可能である。また、本開示の固体撮像装置および光電変換素子では、上記実施の形態等で説明した各構成要素を全て備えている必要はなく、また逆に他の構成要素を備えていてもよい。更に、本開示の技術は、固体撮像装置だけでなく、例えば太陽電池にも適用することが可能である。
【0298】
なお、本技術は、以下のような構成を取ることができる。
(1)
対向配置された第1電極および第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられた光電変換層とを備え、
前記光電変換層が、第1有機半導体材料および第2有機半導体材料を含み、
前記第1有機半導体材料および前記第2有機半導体材料の少なくとも一方が、HOMO体積率が0.15以下、またはLUMO体積率が0.15以下の有機分子である、光電変換素子。
(2)
対向配置された第1電極および第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられた光電変換層とを備え、
前記光電変換層が2種類以上の有機半導体材料で構成され、
前記光電変換層の膜密度をmとし、前記光電変換層を構成する各有機半導体材料の単膜の膜密度の組成に対する加重平均をnとしたときに、m/nが1以上である、光電変換素子。
(3)
前記光電変換層を構成する有機半導体材料の少なくとも1つが正孔輸送性材料である、前記(1)または(2)に記載の光電変換素子。
(4)
前記光電変換層が、前記正孔輸送性材料を重量比で30%以上含む、前記(3)に記載の光電変換素子。
(5)
対向配置された第1電極および第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられた光電変換層とを備え、
前記光電変換層が、第1~第3有機半導体材料を含み、
前記第2有機半導体材料が、隣接する前記第3有機半導体材料との配位構造として最も安定な構造のみである比率が、0.5以上である、光電変換素子。
(6)
前記第1有機半導体材料が、電子供与性を有し、
前記第2有機半導体材料が、電子受容性を有し、
前記第3有機半導体材料が、光を吸収して励起する色素材料である、前記(5)に記載の光電変換素子。
(7)
量子化学計算から算出される最も安定な前記第2有機半導体材料と前記第3有機半導体材料の二量体構造における前記第3有機半導体材料の重心と前記第2有機半導体材料の重心を通る軸に対して垂直且つ前記第3有機半導体材料の重心を通る面で分断する分断面を定義し、当該分断面で定義された2つの領域のうち、前記第2有機半導体材料が有る方向の領域を特定領域とし、前記光電変換層内の前記第2有機半導体材料のうち、隣接する前記第3有機半導体材料の前記分断面で定義された前記特定領域にのみ位置する前記第2有機半導体材料の個数をNAとし、前記光電変換層内の前記第2有機半導体材料の総数をNとするとき、NA/N≧0.5を満たす、前記(5)または(6)に記載の光電変換素子。
(8)
前記第2有機半導体材料と、隣接する前記第3有機半導体材料との重心間距離が1.0nm以内である、前記(7)に記載の光電変換素子。
(9)
前記第2有機半導体材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体である、前記(5)~(8)のいずれかに記載の光電変換素子。
(10)
対向配置された第1電極および第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられた光電変換層とを備え、
前記光電変換層が、第1~第3有機半導体材料を含み、
前記光電変換層が、前記第1有機半導体材料で構成される第1ドメインと、前記第2有機半導体材料と前記第3有機半導体材料が分子レベルで均一に相溶した第2ドメインとを有する、光電変換素子。
(11)
前記第1有機半導体材料が、電子供与性を有し、
前記第2有機半導体材料が、電子受容性を有し、
前記第3有機半導体材料が、光を吸収して励起する色素材料である、前記(10)に記載の光電変換素子。
(12)
前記第2有機半導体材料と前記第3有機半導体材料が分子間距離1.5nm未満で均一に相溶した、前記(10)または(11)に記載の光電変換素子。
(13)
前記第3有機半導体材料の持つ可視域吸収帯の波長によって励起した、前記光電変換層のPLスペクトルで、前記第3有機半導体材料の発光ピークの極大発光強度をAとし、前記第2有機半導体材料の発光ピークの極大発光強度をBとするとき、A/B<0.1を満たす、前記(10)~(12)のいずれかに記載の光電変換素子。
(14)
前記第3有機半導体材料は、500nm以上600nm以下の波長領域に極大吸収波長を有する、前記(10)~(13)のいずれかに記載の光電変換素子。
(15)
前記第3有機半導体材料は、520nm以上580nm以下の波長領域に極大発光強度を有する、前記(10)~(14)のいずれかに記載の光電変換素子。
(16)
前記第2有機半導体材料は、710nm以上740nm以下の波長領域に極大発光強度を有する、前記(10)~(15)のいずれかに記載の光電変換素子。
(17)
前記第2有機半導体材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体である、前記(10)~(16)のいずれかに記載の光電変換素子。
(18)
前記第3有機半導体材料の可視域吸収帯の波長によって励起した、前記光電変換層のPLスペクトルにおいて、710nm以上740nm以下の波長領域の極大波長が720nm以下である、前記(17)に記載の光電変換素子。
(19)
前記第1ドメインの結晶粒径が5nm以上20nm以下である、前記(10)~(18)のいずれかに記載の光電変換素子。
(20)
前記光電変換層において、前記第3有機半導体材料の質量含有率が、前記第2有機半導体材料の質量含有率よりも大きい、前記(10)~(19)のいずれかに記載の光電変換素子。
(21)
対向配置された第1電極および第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられた光電変換層とを備え、
前記光電変換層が、少なくともフラーレンを含む2種類以上の有機半導体材料で構成され、
紫外光電子分光法および逆光電子分光法により測定した前記光電変換層中のフラーレンのエネルギーギャップの値が2.6eV以上である、光電変換素子。
(22)
前記光電変換層が、p型半導体材料及びn型半導体材料を含み、
前記n型半導体材料がフラーレンである、前記(21)に記載の光電変換素子。
(23)
前記光電変換層が、色素材料を更に含む、前記(22)に記載の光電変換素子。
(24)
前記エネルギーギャップの値が2.8eV以上3.1eV以下である、前記(21)~(23)のいずれかに記載の光電変換素子。
【符号の説明】
【0299】
1…固体撮像装置、2…電子機器、3…単位画素、4…画素領域、5…垂直駆動回路、6…カラム選択回路、7…水平駆動回路、8…出力回路、9…制御回路、10…光電変換素子、11…半導体基板、11B,11R…無機光電変換部、11G…有機光電変換部、11a…シリコン層、12,14…層間絶縁膜、12a,12b ,12c,12d…導電性プラグ、13a,13b…配線層、15a…下部電極、15b…配線層、16…絶縁膜、17…有機光電変換層、18…上部電極、19…保護層、19a…コンタクトホール、20…コンタクトメタル層、21…平坦化層、22…オンチップレンズ、23…多層配線層、24…配線、25…層間絶縁膜、26…支持基板、31…第3有機半導体材料(色素材料)、32…第2有機半導体材料、41…第1有機半導体材料、42…第2有機半導体材料、43…第3有機半導体材料、110G…緑用蓄電層、201…光学系、202…シャッタ装置、203…信号処理部、204…駆動部