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特許7374992有効成分を遠位結腸で遅延放出する多層構造ペレット剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】有効成分を遠位結腸で遅延放出する多層構造ペレット剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/58 20060101AFI20231030BHJP
   A61K 9/30 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20231030BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20231030BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
A61K31/58
A61K9/30
A61K47/32
A61K9/48
A61P1/04
A61P29/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021510044
(86)(22)【出願日】2019-08-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-12
(86)【国際出願番号】 EP2019072429
(87)【国際公開番号】W WO2020039017
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】18190638.9
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509274005
【氏名又は名称】ドクトル ファルク ファルマ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルヘルム,ルドルフ
(72)【発明者】
【氏名】プレルス,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】グラインワルト,ローラント
(72)【発明者】
【氏名】ナカック,タンユ
(72)【発明者】
【氏名】ベーゲルスハウゼン,アンスガー
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-521696(JP,A)
【文献】国際公開第2008/117814(WO,A1)
【文献】特表平09-502972(JP,A)
【文献】国際公開第2017/042835(WO,A1)
【文献】特表2007-505828(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103705481(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層コーティングが施された、有効成分を遠位結腸で遅延放出するペレット剤であって、
該ペレット剤が、
a)不活性材料のみからなり、薬学的有効成分を含まないスターターペレット、
b)有効成分とフィルム形成性添加剤とを含み、前記スターターペレットa)に直接塗布された有効成分層、
c)腸液との接触により膨潤する膨潤性材料を含み、前記有効成分層b)に直接塗布された膨潤層、
d)c)に直接塗布された
遅延層であって、腸液との接触によって溶解しないが、流体の透過が可能である遅延層、および
e)d)に直接塗布された最外被覆層であって、pH 5.5未満では溶解しないが、6.0を超えるpHではよく溶解する最外被覆層
を含み、
前記有効成分が、ブデソニドまたはその薬学的に許容可能な塩である、ペレット剤。
【請求項2】
前記スターターペレット(a)が、平均直径0.2~2.0mmの粒子であり、該粒子の少なくとも90%がこの所定の粒径範囲内にあり、前記スターターペレットが、均一な表面状態を有する球形である、請求項1に記載のペレット剤。
【請求項3】
前記粒子の少なくとも95%が、0.2~2.0mmの粒度分布を有する、請求項2に記載のペレット剤。
【請求項4】
前記有効成分層(b)が、有効成分ブデソニドに加えて、充填剤、結合剤および湿潤剤を含み、さらに分離剤を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のペレット剤。
【請求項5】
前記有効成分が微粉化ブデソニドであり、微粉粒子の100%が粒径10μm未満かつ微粉粒子の少なくとも95%が粒径5μm未満である、請求項1~4のいずれか1項に記載のペレット剤。
【請求項6】
前記遅延層(d)が、A型アンモニウムメタクリレートコポリマーとB型アンモニウムメタクリレートコポリマーとの組み合わせで構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載のペレット剤。
【請求項7】
pH 6.0未満では溶解しない前記最外被覆層(e)が、ポリ(メタ)アクリル酸/ポリ(メタ)アクリレートコポリマーで構成されており、ポリ(メタ)アクリル酸とポリメチルメタクリレートの比率が1:1である、請求項1~6のいずれか1項に記載のペレット剤。
【請求項8】
pH 1.2の人工胃液中での最大2時間にわたるin vitro放出において、実質的にブデソニドの放出が見られず、pH 6.5の人工腸液中では、270分後で有効成分ブデソニドの10~30%、330分後で40~70%、540分後で80%を超える量が放出される、請求項1~7のいずれか1項に記載のペレット剤。
【請求項9】
薬物動態試験の試験条件において、in vivoで4時間以内に放出される前記有効成分の量が、前記有効成分全量の30%未満である、請求項1~8のいずれか1項に記載のペレット剤。
【請求項10】
前記薬物動態試験の試験条件において、in vivoで平均血漿濃度が最大になるのが、早くても7.0~7.5時間後である、請求項9に記載のペレット剤。
【請求項11】
請求項1~10に記載のペレット剤を含む、胃内で速やかに溶解するカプセル剤。
【請求項12】
胃内で溶解しやすいゼラチンカプセル剤である、請求項11に記載のカプセル剤。
【請求項13】
1カプセルに含まれるペレット剤が、ブデソニドを3mg~9mg含む、請求項12に記載のカプセル剤。
【請求項14】
請求項1~10に記載のペレット剤を含むサシェ剤であって、1つのサシェ剤に含まれるブデソニドの量が3mg~9mgであるサシェ剤。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
潰瘍性大腸炎などの遠位結腸の炎症過程および炎症性変化を治療するために、経口適用後に炎症部位で十分に高い濃度の有効成分ブデソニドの局所利用可能性を担保する剤形が必要とされている。このコンセプトは、「結腸標的化」とも言われるが、従来の医薬製剤の経口適用では実現できていない。これは、作用部位、すなわち、結腸の病変がみられる領域において有効成分を有効濃度で利用できない可能性が高いためである。したがって、結腸標的化という目的は、好ましくは、製剤の放出動態を改変して有効成分を結腸で可能な限り完全に放出させ、結腸で効果を発揮させることによって達成されることが望ましい。本発明は、信頼して簡単に使用できる、上記の要件を充足する剤形の提供に特に適している。
【0002】
従来技術において、炎症性腸疾患の治療を目的とした様々な製剤が報告されている。炎症性腸疾患には様々な病態があり、例えば、クローン病は腸管の様々な領域で症状が現れうる。炎症領域が主に十二指腸に認められる病態もあれば、主な炎症領域が空腸または回腸、あるいは大腸である病態もある。患者によっては、患部が腸管の広い範囲に及んでいる場合もある。一方、潰瘍性大腸炎は、ほぼ限定的に大腸に症状が現われる。大腸もいくつかの領域に分別される。潰瘍性大腸炎は、ほとんどの場合、直腸で炎症が見られ、直腸からS状結腸および結腸へと進展する。
【0003】
腸管内の有効成分を必要とする部位に可能な限り正確に有効成分を提供するということが製剤技術における課題である。この課題、すなわち、有効成分を優先的に結腸で放出させるという課題は、従来技術で公知の製剤では十分に解決されていない。
【0004】
国際公開第91/07172号において、経口投与可能な炎症性腸疾患の治療用組成物が記載されている。この組成物の有効成分の1つはブデソニドである。当該文献に記載されているペレット剤は、有効成分層がスターターコアに塗布された構成を有しており、有効成分層を有する担体ペレットは、噴霧された2つの異なる層でコーティングされている。国際公開第95/08323号には、制御放出パターンを有するブデソニドペレット剤が開示されている。このペレット剤は、内側から外側へと順に、中性ペレット、有効成分層、腸液可溶性ラッカーからなる内部ラッカー層および胃液不溶性で腸液可溶性のラッカーからなる外部ラッカー層を含む。このような構造により胃を通過した後に有効成分を放出させることが可能になっているが、記載の適応症(潰瘍性大腸炎)に使用するには不十分であり、結腸における有効成分の所望の遅延持続放出は達成されない。従来技術に記載のペレット剤含有硬カプセル剤では、早期に、即座に、急速に放出が起こるため、実際に結腸に到達する有効成分はごくわずかである。
【0005】
複数のコーティング層を有する医薬製剤が、国際公開第03/045356号または国際公開第2017/216088号に開示されており、粘膜付着性材料も提供されている。さらなる制御放出性製剤が国際公開第2009/138716号または国際公開第00/76478号に開示されており、これらの製剤では、有効成分が3次元マトリックスに部分的に組み込まれており、それにより遅延放出が可能になっている。さらに、マトリックスから継続的に有効成分が放出される複合製剤(Cortiment-MMX遅延錠剤)も知られている。国際公開第02/17887号には、大腸疾患の治療用の医薬が開示されている。この医薬では、有効成分が主に腸管の遠位部で放出される。この医薬は、ペレット剤、顆粒剤または小さい錠剤の形態であり、好ましくは5-アミノサリチル酸を含み、それぞれ腸溶性ラッカーおよび第2のラッカーでコーティングされている。
【0006】
EP2143424には、結腸への特異的送達用の剤形が開示されている。この組成物は、有効成分を含む層でコーティングされたコアを含む。その上に、pH 6.6以下で膨潤するカチオン性ポリマーからなる中間層が塗布されており、さらに、pH 7.0以上で溶解する陰イオン性ポリマーからなる外層がその上に塗布されている。有効成分は、約300分の遅延時間を経て、比較的速く、急激に、すべて放出される。
【0007】
DE4332394には、制御放出プロファイルを有するブデソニドペレット剤が記載されている。この中性のペレット剤は、ブデソニドと添加剤とで構成される有効成分層を含み、さらに2つの異なるラッカー層を含む。
【0008】
国際公開第03/080032号には、有効成分ブデソニドを有するコアと、腸液可溶性ポリマーコーティング剤を有する中間層と、外側の腸溶性コーティングとを実質的に含む医薬製剤が記載されている。
【0009】
EP1607087には、結腸送達用の経口製剤が開示されている。
【0010】
Gross et al., Journal of Crohn's and Colitis (2011) 5, 129-138で報告された試験では、3gのメサラジン顆粒剤(Salofalk(登録商標))で治療した場合に、9mgのブデソニドの経口投与による治療より優れた結果が得られることが示されている。この理由としては、先行技術で公知のブデソニド製剤では、結腸での放出が確実に保証されていないことが考えられる。
【0011】
先行技術で公知の医薬製剤は共通して、有効成分ブデソニドが大腸全体の炎症領域、特に直腸の炎症領域でほぼ完全に提供されるような所望の放出が保証されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、多層コーティングが施された、有効成分を結腸全体(図1)で遅延放出および持続放出するペレット剤を提供することであり、該ペレット剤は下記成分(図2)を含む。
a)不活性材料のみからなり、薬学的有効成分を含まないスターターペレット
b)有効成分と、製剤分野で通常用いられる添加剤とからなる、前記スターターペレットに直接塗布された有効成分層
c)腸液との接触により膨潤する膨潤性材料を含み、前記有効成分層に直接塗布された膨潤層
d)pHが6.5を超える腸液中で溶解しないものの、流体の透過が可能である、膨潤層に直接塗布された遅延層
e)pH 5.5未満では溶解しないが、6.0を超えるpHではよく溶解する最外被覆層
【0013】
好ましい一実施形態において、上記した各層の間にさらなる層は存在しない。すなわち、有効成分層(b)はスターターペレット(a)に直接塗布されており、膨潤層(c)は有効成分層に直接塗布されている。そして、遅延層を構成する被覆(d)は、膨潤層に直接塗布されており、腸溶性の最外被覆層(e)は直接遅延層に塗布されている。
【0014】
本発明は、有効成分としてブデソニドまたはその薬学的に許容可能な塩を含み、結腸の炎症性疾患の治療に好適に用いられる医薬製剤に関する。
【0015】
スターターペレット(a)は、平均直径0.2~2.0mmの粒子であり、該粒子の少なくとも90%はこの所定の粒径範囲内にある。さらに、スターターペレットは、均一な表面状態を有する球形である。
【0016】
医薬用ペレット剤は、表面状態が均一で、粒径分布が狭い、平均直径0.2~2mmのほぼ球形の粉末粒子である。表面は平滑で、空隙率は低い。
【0017】
スターターペレットとして用いられるビーズは、特定の質的要件を充足することが重要である。可能なペレット材料としては、ショ糖とコーンスターチからなり、ショ糖の含有量が90重量%以下である糖ペレットが挙げられる。このようなペレットは、完成したペレット剤が均一な分布を有するために、粒径分布が狭いことが好ましい。粒子の直径は、例えば0.2~2.0mmであり、好ましくは0.7~1.4mmであり、特に好ましくは、0.85~1.0mmである。ペレット剤を調製する場合、粒度分布が比較的狭くなるように注意し、例えば粒子の少なくとも90%、好ましくは粒子の少なくとも95%がこの所定の範囲に収まるようにする。粒径の測定方法および粒径分布の測定方法は、ヨーロッパ薬局方に記載されている。この点に関して、第2.9.38章を参照する。
【0018】
別の重要な点(要件)は表面状態に関するものである。スターターペレットは、可能な限り理想的な球体であることが望ましく、その表面は可能な限り平滑で、凹部や凸部がないことが望ましい。例えば、ペレット剤の品質は、実体顕微鏡と実体顕微鏡と連結しているデジタルカメラを用いてモニターすることが可能である。取得した画像は、適当なソフトウェアを用いて評価することができる。
【0019】
本発明において、局所的に有効なコルチコステロイドであるブデソニドが有効成分として用いられる。ブデソニドは難水溶性である。したがって、好ましい一実施形態において、微粉化ブデソニドが用いられる。
【0020】
微粉化ブデソニド(粒径分布の規格:粒子の100%が10μm未満かつ粒子の95%以上が5μm未満;定量法:レーザー回折)を用いることが、本発明の適用において特に好適である。ブデソニドの物理化学的特性は公知である(文献:例えば、Merck Index、薬局方の注釈など)。
・白色~ほぼ白色の結晶性粉末
・水系における溶解度は、0.014mg/mlであり、実質的にpH非依存性である。
・エピマーAの比旋光度[α]D 20は+98.9(0.28%;ジクロロメタン中)である。
・pKa値:12.85±0.10
・融点:221℃~232℃
【0021】
本発明において剤形を選択する場合、分解されていない完全な状態の剤形から持続放出がなされること、ならびに消化管内での通過時間および移動時間が(例えば、摂食後の胃内滞留時間の延長による)悪影響を受けないことを前提とする。医薬的有効成分の投薬量は、広大な体外表面に概して均一に分布させるとともに、柔軟に調整することが可能である。前記特性は、多層粒子剤形、すなわち本発明のペレット剤により達成される。ここで、規定量のペレット剤を硬カプセルまたは分包包装(例えば、スティック分包など)に充填することにより、ブデソニドの規定用量の調整、投与および適用が可能である。この特に好ましい一実施形態に記載の医薬製剤の特性により、3~9mgの量のブデソニドを可変的に単回投与できる。
【0022】
本発明におけるブデソニド含有製剤の適用により、体循環に移行するブデソニドの不要な摂取のリスクを有意に低減させることができる。本発明の多層粒子剤形は、炎症を起こした結腸の広い領域全体に、有効成分が再現性よく安定して(すなわち、変動が少なく)放出されるという特性があり、よって、腸の炎症部分の治療に特に好適である。したがって、本発明の多層粒子剤形は、先行技術に記載の「単回ユニット」の製剤より有利である。このように、ブデソニドの投薬量を、結腸領域の広大な表面に分布させることが可能である。
【0023】
本発明の剤形の医薬的有効成分が胃内で早期に放出されることは、最外被覆層(e)の胃液耐性により回避される。前記腸溶性の最外被覆層(e)により、本発明のペレット剤の最外被覆層は胃内で溶解しない。胃内のpH値は、約1~5の範囲である。前記ペレット剤が胃の領域にある限り、最外被覆層は溶解しない。前記ペレット剤が小腸へと移動すると、pH値の上昇により、最外被覆層(e)が溶解する。小腸では、時間の経過とともに、腸液が最外被覆層(d)に隣接する層に浸透して、前記ペレット剤の内部へと入りこむ。遅延層(d)は、腸液との接触によって溶解しないが、腸液は遅延層(d)を透過して、その下層にある膨潤層(c)と接触する。腸液との接触により、膨潤層(c)は膨潤し始め、体積が増大する。その結果、前記ペレット剤の内部および遅延層への圧力が上昇する。この圧力により、遅延層に間隙または欠損が生じるため、それを通って、溶解したブデソニドが最も内側の有効成分層(a)から外側へと拡散することが可能である。前記ペレット剤が下部消化管を通ってさらに移動する際も、このプロセスが途切れることなく継続されるため、最終的には、前記ペレット剤のブデソニドが穴の開いた遅延層を通って完全に放出される。
【0024】
前記放出は、pHが6を超えると、少しの遅れを経て開始される。それから、約9時間にわたって有効成分が継続的にpH非依存的に放出され、最終的に前記ペレット剤のブデソニドがほぼすべて放出される。「ほぼすべて」とは、有効成分の公示量の85%を超える量に相当する量である。ここで重要なことは、有効成分の放出は、急激に起こったり、1~2時間の短い時間内で起こったりするのではなく、約8~10時間、好ましくは9時間にわたってほぼ均一に起こるということである。
【0025】
本発明のペレット剤からの有効成分ブデソニドの放出量は、実施例にて、以下のin vitro放出量として測定した。
【0026】
測定実験毎に、ペレット剤をまず人工胃液中に入れて2時間放置した。ここではpHは1.2に設定されているため、有効成分ブデソニドの放出が見られない場合は、ペレット剤が分解されていない完全な状態であると判断できる。2時間後、ペレット剤を取り出し、pH 6.5の人工腸液に移した。媒体中へのブデソニドの放出量を測定した。本発明のペレット剤は、初めの2時間(人工胃液中)では、ブデソニドが実質的に放出されないという特徴を有する。2時間(人工腸液中)後に、ブデソニドの持続放出が始まり、「結腸標的化」が可能であった。
【0027】
先行技術で公知の製剤を用いて試験を行った場合、胃液中にある段階から既にブデソニドの放出が部分的に認められた。腸液でも、始めの数時間のうちに急速な放出が起こった。ブデソニドの放出は、主に結腸で起こるのが望ましいが、先行技術で公知の製剤では、主に小腸で起こり、大腸では、起こっても大腸が始まる領域で起こる程度であり、このような放出プロファイルは意図した目的には有用でない。
【0028】
医薬用ペレット剤の調製については、主たる方法として、スターターコアのコーティング(多層ペレット剤)と、湿式および溶融押出の2つの異なる製造方法を記載する。(本発明の)多層ペレット剤は、スターターペレットに多層コーティングを施したペレット剤であり、スターターコアは、例えば、有効成分がローディングされた糖デンプンペレット(いわゆるノンパレル)である。ここでは、まずノンパレルの表面に有効成分を噴霧して有効成分層を作製し、さらに、有効成分の放出を調整する機能的な層を塗布する。ここでは、各層を流動床で続けて塗布または噴霧することで、ペレット剤に各層特有の機能性が付与される。
【0029】
本発明において、多層ペレット剤は、ブデソニドの結腸標的化に用いられる。ここで、開発した多層ペレット剤の作製は以下のスキームに従う。
【0030】
驚くべきことに、本発明においてペレット剤を、スターターペレット、有効成分ペレット、膨潤層ペレット、遅延ペレット、腸溶性ペレットを経て複合的かつ系統的に作製することが、結腸への送達と、その後の結腸でのブデソニドの持続放出を保証するのに適していることが証明された。
【0031】
多層ペレット剤の上記した厳密な構造作製に加えて、各層に適した添加剤の選択も、本発明における適用のさらに重大な特徴である。構造と組成の相互作用によってのみ、必要な結腸標的化を考慮に入れて、有効成分ブデソニドの多層粒子剤形を最適に利用することができる。
【0032】
スターターコアをベースとする本発明に記載の好ましいペレット剤の各層は、以下の定性的組成を有する。
【0033】
有効成分ペレット:
有効成分ブデソニドは、ラクトース一水和物(機能:充填剤)、Kollidon(登録商標)K25のポリビニルピロリドン(PVP)(機能:結合剤)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレアート(ポリソルベート(登録商標)80;Tween 80)(機能:湿潤剤)および滑石(機能:分離剤)とともに水とイソプロピルアルコール(質量比:80%w/wと20%w/w)からなる有機-水系混合溶媒に懸濁し、この懸濁液をスターターペレット(糖デンプンペレット)に塗布する。この懸濁液の固形分は約27%w/wである。スターターペレットにローディングして、乾燥させることにより、ブデソニドはスターターペレットに付着する。
【0034】
膨潤層ペレット:
次いで、A型ホモポリマーである架橋型ポリアクリル酸(カルボマー;粘度[0.5%] = 4000~11000mPas;相対モル質量:約1250000)(機能:膨潤剤)、Kollidon(登録商標)K25のポリビニルピロリドン(PVP)(機能:結合剤)および滑石(機能:分離剤)をアルコールに懸濁した液を、得られた有効成分ペレットに噴霧する。このようにして、膨潤層がローディングされる。ここでは、溶媒としてイソプロピルアルコールが用いられる。懸濁液中の固形分は約11%w/wである。
【0035】
遅延層ペレット:
次の工程では、得られたペレットを、有効成分の放出を調整する機能を有するポリマーの組み合わせでフィルムコーティングする。ここでは、B型アンモニウムメタクリレートコポリマー(エチルアクリレートと、メチルメタクリレートと、トリメチルアンモニウムエチルメタクリレートとの比率が1:2:0.1であるポリ(メタ)アクリル酸メチル/エチル/2-トリメチルアミノエチルエステルコポリマー= Eudragit(登録商標) RS 12.5)と、A型アンモニウムメタクリレートコポリマー(エチルアクリレートと、メチルメタクリレートと、トリメチルアンモニウムエチルメタクリレートとの比率が1:2:0.2であるポリ(メタ)アクリル酸メチル/エチル/2-トリメチルアミノエチルエステルコポリマー= Eudragit(登録商標) RL 12.5)とを組み合わせて使用した。2つのポリマーの12.5%w/w イソプロピルアルコール(60%w/w)/アセトン(40%w/w)溶液に、湿潤剤としてラウリル硫酸ナトリウムを加えて調製した溶液または懸濁液を噴霧することにより、水不溶性の透過性フィルムが形成される。噴霧する溶液または懸濁液は、クエン酸トリエチル(機能:可塑剤)および滑石(機能:分離剤)をさらに含む。噴霧する有機-水系の溶液または懸濁液の固形分は約14%w/wである。遅延層の成分は、イソプロピルアルコール(約88%w/w)と水(約12%w/w)からなる、噴霧する溶液または懸濁液に懸濁されている。前工程で得られたペレットにフィルムコーティングを施した後、乾燥することにより、遅延層が膨潤層上に接した状態で形成される。
【0036】
腸溶性ペレット:
最終工程において、ペレットに腸溶性コーティングを施す。腸溶性コーティングには、Eudragit(登録商標) L(ポリメタクリル酸とポリメチルメタクリレートの比率が1:1であるポリメタクリル酸/ポリメチルメタクリレートコポリマー)の有機-水系溶液を用いる。このポリマーは腸液で溶解する被覆を形成する。噴霧する溶液または懸濁液は、この陰イオンポリマーに加えて、クエン酸トリエチル(機能:可塑剤)および滑石(機能:分離剤)がさらに含まれており、噴霧する溶液または懸濁液の固形分は約15%になっている。使用する溶媒は、イソプロピルアルコール85%w/wと水15%w/wからなる。前工程で得られたペレットに腸溶性層をローディングすることで、胃での有効成分の放出を確実に防ぐことができる。
【0037】
ペレットへの各層のコーティングは、流動床プラントで行われることが好ましい。各層はそれぞれ液体または懸濁液として塗布されるので、担体として使用される液相は除去する必要がある。これは適当な通気によって行われるが、環境温度を、望ましくない副反応が起こらない程度に適度に上げることが可能である。
【0038】
多層ペレット剤の所望の機能性は、消化管内を移動しながら、塗布された層の溶解と膨潤が最適に連続して起こることにより発揮される。ペレット剤が小腸に到達するとすぐに、まず最外層(e)のポリマーが溶解する。腸の消化液が浸透性の遅延層(d)を通ってペレット剤の内部に入り込む。小腸(pH<5.5~約7.2)のpH比により、膨潤層のポリマーであるポリアクリル酸が膨潤する。この膨潤に伴う体積増加により遅延層へとかかる内圧が上昇し、遅延層で連続した欠損が生じる。このようにして間隙が形成され、この間隙から消化液に溶解したブデソニドが外側へと拡散しうる。このようにして、消化液に溶解した有効成分は、長時間にわたって外側へと拡散し、作用部位で放出されて局所的に作用することができる。前記プロセスは時間依存的に進行し、ペレット剤が結腸に到達すると、最大限のレベルで始まる。
【0039】
上記の方法で製造した多層ペレット剤の一定用量を、硬ゼラチンカプセル剤に充填することが可能である。用量9mgのブデソニドを含む好ましいカプセル剤の定性的組成および定量的組成を表1にまとめた。ここでは、使用した溶媒は、プロセスの過程で揮発性成分として留去されることから、表中の組成には含めていない。
【0040】
好ましい一実施形態として、表1に詳細に記載した組み合わせを本質的に有する様々なプロトタイプを調製した。
【表1】
【0041】
本発明のペレット剤のin vitro放出プロファイルを実施例1に示す。明細書に記載されている胃液耐性および人工腸液での持続放出の必要な基準は充足されている。実施例2では、驚くべきことに膨潤層と遅延層とを組み合わせた場合のみ、ペレット剤からのブデソニドの所望の放出が可能であることが示されている。本発明における適用に関する記載の通りに有効成分ペレットに膨潤層に続いて遅延層をコーティングした場合のみ、結腸の作用部位にブデソニドを送達することが可能である。
【0042】
否定的実施例(押出ペレット剤(実施例4))
【0043】
押出と球形化による異なる技術で、所望の放出プロファイルを示す医薬製剤を製造することを試みた。
【0044】
押出ペレット剤(否定的実施例)は、粉末を凝集させたものであり、ペレット粒子の調製は、粉末塊を湿式押出または溶融押出した後、球形化することにより行われる。押出ペレット剤は参考としてのみ用いた。一般的に、押出ペレット剤は多層ペレット剤よりローディングできる有効成分の量は多いが、局所用のコルチコイドは低用量で投与されるため、このことは本発明においては重要ではない。押出にはスクリュー押出機が用いられ、スクリュー押出機では、圧力を加えることで、湿潤塊または溶融塊を特定のサイズの開口部から押し出すことができる。このようにして得られた細棒体を円筒形のペレットに切断し、丸めて球体にする。得られたペレットも流動床プラントでコーティングすることができる。多層ペレット剤とは異なり、押出ペレット剤はバッチで調製される。ペレット剤の種類の選択に関しては、とりわけ、加工される有効成分の物理化学的性質、必要な有効成分のローディング量、および標的放出プロファイルを得るための所望の放出メカニズムが重要である。本発明において、押出ペレット剤は使用しない。
【0045】
ここで、定性的組成及び調製に関して、押出ペレット剤の作製は、以下のスキームに従った。
【0046】
有効成分顆粒:
ブデソニド、ラクトース一水和物(機能:充填剤)、カラギーナン(Gelcarin GP911 NF)(機能:マトリックス形成剤および押出助剤)ならびに塩化カルシウム(機能:ゲル化またはマトリックス形成の促進)からなる粉末混合物を水中で造粒した。この造粒液に、ポリビニルアセテート(Kollicoat SR 30D)(機能:遅延ポリマーおよびマトリックス形成剤)を加えた。得られた湿潤塊を篩過した後、押出を行った。
【0047】
押出および球形化:
スクリュー押出機を用いて、湿潤塊を65℃で多孔板(規定の開口部(内径1.0~2.2mm)を有する鋳型)から押し出し、円筒形状の成形体に切断した。得られた成形体を最大で50℃で丸めて乾燥させ、最終的に、得られた微粒子を篩過して(網目幅:1000μm)分級する。
【0048】
腸溶性ペレット:
最終工程において、丸形ペレットに腸溶性コーティングを施す。腸溶性コーティングには、Eudragit(登録商標)FS 30 D(ポリ(メタ)アクリル酸メチルエステルコポリマー)とEudragit(登録商標)L 30 D 55(ポリ(メタ)アクリル酸エチルエステルコポリマー)とのおよその比率が80%w/w:20%w/wの混合物の水性懸濁液を用いる。これら2つのポリマーは腸液で溶解する被覆を形成する。また、上記の水性懸濁液は、クエン酸トリエチル(機能:可塑剤)およびグリセロールモノステアレート(機能:付着防止剤)をさらに含み、また、湿潤剤としてポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレアート(ポリソルベート(登録商標)80;Tween 80)とラウリル硫酸ナトリウムもさらに含んでおり、固形分は約21%となっている。前工程で得られた押出ペレットに腸溶性層をローディングすることで、胃での有効成分の放出を確実に防ぐことができる。
【0049】
上記の方法で製造した押出ペレット剤の一定用量を、硬ゼラチンカプセル剤に充填することが可能である。用量9mgのブデソニドを含むカプセル剤の定性的組成および定量的組成を表2にまとめた。ここでは、使用した溶媒は、プロセスの過程で揮発性成分として留去されることから、表中の組成には含めていない。
【0050】
この製剤は、小腸に到達すると最外層のポリマーが溶解して、消化液が浸透することによりペレット剤のマトリックスが膨潤することを目的として製造したものである。このようにして、消化管部分を通過しながら徐々に粒子が浸食されれば、継続的に有効成分が放出されるはずである。
【0051】
上記押出ペレット剤のin vivo放出プロファイルを実施例4に示す。この押出ペレット剤は、結腸を標的とした局所適用に必要な基準を充足していない。すなわち、この製造方法では、所望の「結腸標的化」は達成できない。
【表2】
【0052】
本発明の製剤の溶解を、図3に模式的に示す。
【0053】
否定的比較例とは異なり、本発明の多層ペレット剤は完全に異なる血中濃度を示した。ここでは、腸溶性フィルムが溶解すると、上述した複雑な放出機序が誘導される。ブデソニドの血漿レベルは急激に上昇することはなく、調整された状態で、ゆっくりと数時間にわたって推移する。
【0054】
この薬物動態試験の結果は、実施例1のin vitro実験の結果を裏付けるものであり、大腸を通過する間を通して多層ペレット剤から有効成分が放出されるため、所望の部位に到達した有効成分が結腸の粘膜に対してその効果を発揮できることが見事に証明されている。
【0055】
非盲検、単施設、無作為化薬物動態試験において、本発明の多層ペレット剤と、先行技術のBudenofalk 3mgの硬カプセル剤とを比較した。9mgの用量を経口単回投与した後、有効成分の平均血漿濃度を経時的に測定した。なお、ブデソニドの生物学的利用率は参考製剤から公知である。実施例3に、薬物動態比較試験の結果を示す。
【0056】
実施例3の血漿レベルから分かるように、先行技術に記載の製剤は、結腸へのブデソニドの標的送達には適していない。ブデソニドの血中濃度は、速やかに強力に上昇する。この血中濃度の推移は結腸標的化には望ましくない。なぜなら、有効成分が十分な濃度で作用部位に到達せず、既に小腸上部で大部分が再吸収されているため、大腸での局所的効果に利用できる量は残っていないからである。このようなin vivoにおける挙動は、製剤の組成から説明することができる。先行技術に記載のBudenofalk 3mgの硬カプセル剤には、腸溶性コーティングしたブデソニドペレットのみが含まれている。胃を通過した後、一定の遅延時間を経てこの被覆が溶解すると、有効成分がすぐに完全に放出される。このため、結腸には到達しない。(先行技術に記載の前記製剤の試験が実施された)臨床試験の結果においても、Budenofalk 3mgの硬カプセル剤(国際公開第95/08323号に記載)が潰瘍性大腸炎の治療に適していないことが示されている。少なくともメサラジン治療との比較において、軽度~中等度の潰瘍性大腸炎を患う患者の治療では効果が見られなかった(Gross et al.、2011)。
【0057】
また、新規の多層ペレット剤の効果および忍容性を非盲検臨床試験で調べた。その結果、実施例5に記載の通り、このペレット剤の臨床有効性が見事に証明された。この結果は、本発明のペレット剤が有効成分を所望の標的部位へと送達できること、そして、メサラジンで十分な治療効果を得られない(メサラジン抵抗性)潰瘍性大腸炎を患う患者を治療できる可能性があることを示している。
【0058】
多層ペレット剤とは異なり、実施例4の薬物動態試験で得られた、押出ペレット剤(否定的実施例)の血中濃度の推移は、結腸放出性製剤の所望の標的プロファイルより、先行技術のプロファイルに類似している。ブデソニドレベルは、参考製剤よりも急激に速やかに上昇し、それに応じて速やかに低下するため、有効成分の放出は、結腸に到達する前に完了しており、意味のある量のブデソニドが大腸に到達しないことは明らかである。
【0059】
添付の図面にて、本発明の本質的な態様を示し、説明する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】消化管の模式図である。
【0061】
図2】有効成分を遅延放出する本発明のペレット剤の構造を模式的に示した図である。
【0062】
図3】消化管の各領域における、本発明のペレット剤の作用機序を示した図である。
【0063】
図4】各種ペレットのin vitro放出プロファイルを示した図である。有効成分ペレット、膨潤層ペレット、遅延層ペレットおよび腸溶性ペレットを放出の観点から比較した。本発明の製剤は腸溶性ペレットとして示している。試験条件は、実施例1で詳細に説明する。SGFは人工胃液を意味し、SIFは人工腸液を意味する。
【0064】
図5】膨潤層を有する本発明のペレット剤と膨潤層を有さない本発明のペレット剤のin vitro放出プロファイルを示した図である。試験条件は、実施例2で詳細に説明する。図5は、遅延層の下層に膨潤層が存在しない場合、有効成分が放出されないことを示している。
【0065】
図6】非盲検無作為化薬物動態試験で得られたin vivo放出特性を示した図である。これらはin vivoデータであり、in vitroデータとの違いが説明される。
【0066】
図7】本発明の製剤により実際に結腸全体を効果的に治療できることを証明した図である。実施例6で、本発明のブデソニドペレット剤の効果および忍容性を調べた。図7は、個々の疾患の局在に応じて臨床的寛解が得られた患者の割合を示した図である。
【0067】
図8】1週間の血便の回数を指標にして評価した、本発明の製剤の効果を示した図である。図8は、治療期間中に1週間の血便の回数が効果的に減少したことを示している。
【0068】
in vivo薬物動態プロファイルはそれぞれ、上記の材料および方法を使用して測定した。以下の実施例により本発明を説明する。
【実施例
【0069】
実施例1
ブデソニド多層ペレット剤(本発明の製剤)のin vitro放出試験
【0070】
有効成分の放出に対する各層の影響および効果を示すために、同じバッチから得られた有効成分ペレット、膨潤層ペレット、遅延層ペレットおよび腸溶性ペレットを用いたin vitro試験を行った。本試験は、全てのペレットで、ブデソニドの薬量が9mgになるようにして行った。外側の硬ゼラチンカプセルはペレットの有効成分の放出に影響を及ぼさないため、この試験での検証は省略した。
【0071】
ペレットのin vitro放出試験は2段階で行った。第1段階では、各ペレットを人工胃液(pH 1.2)中に2時間静置して試験を行い、その後、試験サンプルを人工腸液(pH 6.5)に移し、さらに7時間にわたって有効成分の放出を調べた。確実に沈殿した状態を保つために、いずれの媒体にも湿潤剤として0.1%のポリソルベート80を加えた。放出試験のパラメーターは下記の通りである。
【0072】
図4に、各ペレットのin vitro放出プロファイルを示す。有効成分ペレット(コーティングなし)では、胃液中で既に有効成分が完全に放出されている。5分後には、85%を超える量のブデソニドが溶解している。膨潤層ペレットでは、胃液中の2時間の試験時間でわずかな放出(<5%)が認められ、腸液媒体に移すと、15分以内に有効成分が完全に放出された(85%以上)。このような挙動は、使用したポリアクリル酸(カルボマー)の物理化学的特性、すなわち、pKa値が約6であることにより、媒体のpH値に依存して、始めは不溶性で、その後膨潤して溶解するという特性を反映するものである。人工胃液(pH 1.2)の条件下では、このアクリル酸の高分子ポリマーはプロトン化された状態で存在しており、不溶性である。したがって、膨潤層はペレットに残ったままである。腸液を模した緩衝液に移すと、pH値はpKa値の範囲に上昇し、カルボン酸の部分的なプロトン脱離が起こる。そのため、水分子が狭いポリマー骨格に入り込み、ゲル骨格が形成されて、膨潤が起こる。しかし、遅延層なしでは、このような膨潤層の効果が得られず、ブデソニドは速やかに放出される。
【0073】
膨潤層ペレットに遅延層を塗布した場合のみ、ペレット内で上記効果が十分に発揮される(図4を参照:遅延層ペレットの放出プロファイル)。遅延層ペレットの放出プロファイルは、腸液中で大きく変化し、ブデソニドの遅延放出を伴って所望のシグモイド形状に変化する。胃液中で約120分経過した後、腸液中で、このような遅延層ペレットから有効成分が放出され、さらに約150分後に完全な放出が達成される。したがって、胃液中で早期の放出は起こらない。
【0074】
さらに腸溶性コーティングを施した最終製剤のみ、結腸標的化を目的とする本発明の製剤の放出プロファイルが最終的に示される。ブデソニドの放出は、胃を通過してから約90分後に始まる。したがって早期の放出は起こらない。このときには、ペレットは小腸を通過して結腸に到達している。その後、有効成分は、少なくとも7時間にわたってシグモイド反応曲線を示しながら継続的に放出される。以上をまとめると、上記のin vitro系における本発明の製剤の放出は、以下の基準に基づいて行われる。
【0075】
HPLC/UVによる有効成分ペレット、膨潤層ペレット、遅延層ペレットおよび腸溶性ペレットにおける含量を測定した結果、in vitro放出試験に用いた各ペレットには、ブデソニドの必要量9mg(1カプセル中の含量に相当)がローディングされていることが確認された。
【0076】
実施例2
膨潤層を有するブデソニド遅延層ペレットと膨潤層を有さないブデソニド遅延層ペレットのin vitro放出試験
【0077】
本発明における適用の有効成分の放出における、膨潤層と遅延層の相互作用を示すために、膨潤層を有するブデソニド遅延層ペレットと膨潤層を有さないブデソニド遅延層ペレットを、以下の組成に従って調製した。
【0078】
有効成分と膨潤層の組成に関して、バッチR029は、本発明における適用に対応している。しかし、遅延層のコーティング量は、意図的に、本発明における適用に記載した量の1.7倍とした。この試験バッチを用いて、有効成分の放出における2つの層の相互作用が極端な条件下でも発揮され、膨潤層が安定した効果を示すことを証明する。バッチR020は膨潤層を含まず、コントロールバッチとして使用した。この違いを除いては、コントロールバッチと試験バッチは同じ構成であった。2つのバッチのペレット剤は、腸溶性フィルムでコーティングしなかった。放出試験のパラメーターは、以下の通りである。
【0079】
図5に、試験バッチとコントロールバッチのin vitro放出プロファイルを示す。膨潤層の効果は極めて大きく、驚嘆に値する。試験時間中、コントロールバッチからはブデソニドが全く放出されなかったが、試験バッチの放出プロファイルは、本発明における適用のプロファイルと一致するものであった。したがって、膨潤層と遅延層がともに存在する場合のみ、ペレット剤からのブデソニドの所望の遅延放出が達成される。遅延層のみでは、この点に関して機能的でない。したがって、本発明における適用に関する記載の通りに膨潤層と遅延層を組み合わせた場合のみ、ブデソニドをその作用部位に送達することができ、したがって、この2つの層はともに、製剤の有効成分の放出を制御する成分と考えられる。
【0080】
実施例3
ブデソニド多層ペレット剤を含有するカプセル剤(本発明の製剤)と先行技術/参考のブデソニドカプセル剤のin vivo薬物動態プロファイル
【0081】
本発明の製剤の薬物動態を調べる非盲検無作為化第1相試験において、本発明の製剤(BUX-PVII;9mgのブデソニド)と先行技術のブデソニドカプセル剤(参考ペレット剤であるブデソニドの3×3mgを1回分とした)をそれぞれ12名の健康な男性被験者に絶食条件で単回投与した。重要な薬物動態パラメーターに関して、下表3に説明する。
【表3】
【0082】
表3中、Nは被験者数を表し、Mean(SD)は平均値/標準偏差を表し、Minは最小値を表し、Maxは最大値を表す。表3中のCmaxとtmaxに関して、各患者のブデソニドの最高血漿レベルに関するそれぞれの平均値を、測定時点とは関係なく示した。
【0083】
このin vivo薬物動態試験の結果を、図6にグラフで示す。表3に示した値に対して、図6では、各測定時点での値がそれぞれ測定されており、その平均値が算出されている。
そのため、表3の値と図6の値とは異なる。
【0084】
実施例4
ブデソニド押出ペレット剤を含有するカプセル剤(否定的実施例)のin vivo薬物動態プロファイル
【0085】
ブデソニド押出ペレット剤の薬物動態を調べる非盲検無作為化第1相試験において、ブデソニド押出ペレット剤(ゼラチンカプセル剤中に9mg含有;1回分)を16名の健康な男性被験者に絶食条件で単回投与した。重要な薬物動態パラメーターに関して、下表4に説明する。表4においても、Cmaxとtmaxに関して、各患者のブデソニドの最高血漿レベルに関するそれぞれの平均値を、測定時点とは関係なく示した。
【表4】
【0086】
表3および表4から、先行技術ではtmax = 5.26であり、押出ペレット剤ではtmax = 3.97であるのに対して、本発明のペレット剤ではtmax = 7.75であり、所望の遅延放出は本発明のペレット剤でのみ達成されることが確認された。
【0087】
実施例5
【0088】
この実施例の結果を、図6にグラフで示す。図6に、非盲検、単施設、無作為化薬物動態試験で得られた経時的なブデソニド血漿レベルを示す。各測定時点における各群の患者のブデソニド血漿レベルの平均値を示した。表3および表4の値とは異なり、各患者がCmax値およびtmax値を示した時間は重要でない。本発明の製剤に加えて、ブデソニド含有製剤のさらなるプロトタイプも試験に供した。図2に模式的に示したBUX-PVIIと称する製剤により、最適な結腸標的化が可能である。目標とするin vivo放出プロファイルは、遅延時間を経て有効成分が長時間にわたって均一かつ低い血清(血漿)レベルを保って放出されるものである。単回投与後のブデソニドの平均血漿濃度を経時的に測定した。図6に、2つの参考製剤(BUX-Eおよび参考文献)および本発明の製剤(BUX-PVII)の結果をプロットした。
【0089】
本発明の製剤のみが、所望の放出プロファイル、すなわち、大幅に遅延して(約3時間)放出が開始され、その後長時間(約8時間)にわたってブデソニドの血漿レベルが横ばいで維持され、他群と比較してブデソニド血漿レベルが顕著に低いという放出プロファイルを示した。
【0090】
本試験において、本発明の製剤の経時的な血漿濃度プロファイルは、臨床試験の被験者間でばらつきが少なく均一であった。
【0091】
実施例6
【0092】
8週間にわたる非盲検臨床試験において、新規のブデソニド経口製剤9mgのプロトタイプの1日1回の服用による効果および忍容性を調べた。本試験の目的は、臨床的寛解を達成することである。ここで、臨床的寛解は、当該疾患の活動スコア(大腸炎活動指数(Colitis Activity Index)、CAI)が4以下かつCAIサブスコア1および2がそれぞれ0と定義される。CAIサブスコア1が0とは、1週間の排便回数が18回未満であることを表し、CAIサブスコア2が0とは、血便が1週間に最大1回あるか全くないかであることを表す。本試験において、標準治療であるメサラジン含有製剤で治療効果が見られなかった活動期潰瘍性大腸炎を患う患者を対象に治療を行った。この前治療は、当該臨床試験の開始前の試験薬剤の初回の服用前に終了している必要があった。
【0093】
全体で61名の患者に治療が行われ、そのうち52名が治験実施計画書に従って試験を完了した。本試験の目的(主要エンドポイント)を達成した患者の割合を表3に示す。いわゆるFAS集団には、少なくとも1回試験製剤による治療が行われたすべての患者が含まれる。いわゆるPP集団には、治験実施計画書に従って試験を完了した患者が含まれる。2つの解析対象集団において、このメサラジン抵抗性試験集団で寛解率約50%を達成できた。
【表5】
【0094】
本発明の製剤が実際に結腸全体で効果的に作用することを本試験で示すことができた(図7)。臨床的寛解率を通じて求められる一貫した効果は、結腸の異なる部分で比較しても有意差なく認められた。さらに、1週間の排便回数および1週間の血便回数も効果的に減少した(図8)。本発明の製剤は、本試験において効果的および安全に使用することができた。適用の安全性は、朝に測定するコルチゾールの値により確認される。平均測定値は、正常範囲とされる6.2~18μg/dlの範囲に収まっていた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8