(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】音響装置および楽曲再生プログラム
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20231030BHJP
【FI】
H04R3/00
(21)【出願番号】P 2021519104
(86)(22)【出願日】2019-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2019019167
(87)【国際公開番号】W WO2020230271
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-11-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】315017409
【氏名又は名称】AlphaTheta株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】大熊 孝尚
(72)【発明者】
【氏名】土生 陽平
(72)【発明者】
【氏名】富井 正道
(72)【発明者】
【氏名】阿部 哲郎
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-052441(JP,A)
【文献】特開2003-108132(JP,A)
【文献】特開2012-128928(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0282388(US,A1)
【文献】特開2008-164932(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0254660(US,A1)
【文献】米国特許第4300225(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10L 13/00-13/10
G10L 19/00-19/26
G10L 21/00-21/18
G10L 25/00-25/93
G10L 99/00
G11B 27/00-27/06
G11B 27/10-27/34
H04R 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽曲データ中に楽曲展開位置が設定された複数の楽曲を同時に再生可能な楽曲再生手段と、
前記複数の楽曲のそれぞれの楽曲の再生速度を調整する再生速度調整手段と、
前記楽曲再生手段により再生中の第1の楽曲から第2の楽曲に切り替える楽曲切替手段と、
前記再生速度調整手段により調整された再生速度で再生中の前記第1の楽曲の
現在再生位置から時間軸上で最も近い楽曲展開位置に、前記第2の楽曲の楽曲展開位置を時間軸上で一致させるとともに、前記第2の楽曲の再生位置を、前記第1の楽曲の再生位置に合わせて再生させるように調整する再生位置調整手段と、を備える音響装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音響装置において、
再生中の前記第1の楽曲の出力と、前記第2の楽曲の出力との出力比を変更可能な切替操作手段を備え、
前記楽曲切替手段は、前記第1の楽曲から前記第2の楽曲への切り替えに際して、前記切替操作手段の操作子の状態に応じてそれぞれの楽曲の出力比を調整して出力する音響装置。
【請求項3】
コンピュータを請求項1
または請求項
2に記載の音響装置として機能させるコンピュータ読取可能な楽曲再生プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響装置および楽曲再生プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
DJコントローラ等の音響装置や、DAW(Digital Audio Workstation)等の楽曲再生プログラムを実行するコンピュータでは、複数の楽曲を同時に再生することが可能である。これらの音響装置では、操作者(演奏者)が一方の楽曲の再生中に、一方の楽曲から他方の楽曲に切り替える再生方法が行われる。
ここで、再生中の楽曲から他の楽曲への切り替えは、再生速度(BPM)の調整や、再生中の楽曲の展開位置から他の楽曲の展開位置への切り替えに違和感が生じないようにしなければならず、高度なDJスキルが必要とされる。
【0003】
このため、特許文献1には、再生速度の異なるオーディオプログラムのテンポ情報の平均値を算出し、入力された各オーディオプログラムをフレーズ毎に区切る区切り位置を生成し、各オーディオプログラムの区切り位置に基づいて、テンポ情報が平均値に変換された他のオーディオプログラムを、一のオーディオプログラムに合成する技術が開示されている。
特許文献1に記載の技術によれば、多数の楽曲の全体あるいは部分を、テンポを揃えて繋ぐことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載の技術では、一方の楽曲から他方の楽曲に切り替えるに際して、再生速度(BPM)の変化による違和感は解消できるが、楽曲の展開位置が考慮されていない。したがって、楽曲の切り替えに際して、再生中の楽曲の展開位置と切り替え対象となる楽曲の展開位置が適切でなく、聴取者に違和感を生じさせるという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、再生中の楽曲から他の楽曲への切り替えを、高度なDJ技術を必要とすることなく、かつ違和感なくスムースに切り替えを行うことができる音響装置および楽曲再生プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の音響装置は、楽曲データ中に特定再生位置が設定された複数の楽曲を同時に再生可能な楽曲再生手段と、前記複数の楽曲のそれぞれの楽曲の再生速度を調整する再生速度調整手段と、前記楽曲再生手段により再生中の第1の楽曲から第2の楽曲を切り替える楽曲切替手段と、前記再生速度調整手段により調整された再生速度で再生中の前記第1の楽曲の特定再生位置に、前記第2の楽曲の特定再生位置を時間軸上で一致させるように調整する再生位置調整手段と、を備える。
本発明のコンピュータ読取可能な楽曲再生プログラムは、コンピュータを前述した音響装置として機能させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る音響装置の構造を示すブロック図。
【
図2】前記実施の形態における第1の楽曲の展開位置および第2の楽曲の展開位置の状態を示す模式図。
【
図3】前記実施の形態における第1の楽曲の展開位置に第2の楽曲の展開位置を調整した状態を示す模式図。
【
図4】前記実施の形態における作用を示すフローチャート。
【
図5】本発明の第2の実施の形態に係る第1の楽曲のキューポイントおよび第2の楽曲のキューポイントの状態を示す模式図。
【
図6】前記実施の形態における第1の楽曲のキューポイントに第2の楽曲のキューポイントを調整した状態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1には、本発明の第1の実施の形態に係る音響装置1が示されている。音響装置1は、楽曲データ中に特定再生位置が設定された複数の楽曲を同時に再生可能とする。音響装置1としては、CPUおよび記憶装置を備えたコンピュータや、通信接続可能な携帯端末、およびDJコントローラのような専用の音響装置を採用できる。
音響装置1は、楽曲再生手段2、再生速度調整手段3、楽曲切替手段4、切替操作手段5、再生位置探索手段6、および再生位置調整手段7を備える。これらの各機能的手段は、コンピュータ上で実行されるコンピュータ読取可能な楽曲再生プログラムとして構成される。
【0010】
楽曲再生手段2は、入力される楽曲データAD1,AD2を同時に再生可能とする。楽曲再生手段2は、楽曲データAD1、AD2を同時に再生することも可能であるが、一方の第1の楽曲データAD1の再生中、他方の第2の楽曲データAD2を停止中としてもよい。
楽曲再生手段2に入力される楽曲データAD1、AD2には、特定再生位置が設定されている。特定再生位置は、小節位置に設定されてもよく、イントロ、Aメロ、サビ、アウトロ等の楽曲展開位置に設定してもよい。本実施の形態では、楽曲展開位置の場合について説明する。
【0011】
なお、楽曲データの楽曲展開位置は、楽曲データの入力とともに、FFT(Fast Fourier Transform)変換等の楽曲スペクトル解析を行って把握することができる。楽曲スペクトル解析結果となる楽曲展開位置の取得は、前述したコンピュータ上で楽曲データの入力とともに同時に解析を行ったものを取得してもよいが、予め楽曲スペクトル解析の結果が付された楽曲データから楽曲展開位置を取得してもよい。
また、楽曲再生手段2は、音響装置1の記憶装置内に記憶された楽曲データAD1、AD2を読み出して再生してもよく、図示しないインターネット等から供給されるストリーミングデータを再生するものであってもよい。
【0012】
再生速度調整手段3は、楽曲再生手段2で再生される楽曲データAD1、AD2の再生速度を調整する。具体的には、再生速度調整手段3は、楽曲データAD1、AD2のBPM(Beats Per Minutes)と、BPM調整スイッチをコンピュータの表示画面上に表示し、操作者に操作を促すことにより、楽曲データAD1、楽曲データAD2のBPMが調整される。
【0013】
楽曲切替手段4は、楽曲再生手段2の再生対象となる楽曲データAD1、AD2の切り替えを行う。具体的には、楽曲切替手段4は、楽曲再生手段2により再生中の楽曲データAD1から出力される第1の楽曲を、再生状態または停止状態にある楽曲データAD2に切り替え、出力する。
楽曲切替手段4による第1の楽曲から第2の楽曲への切り替えは、自動的に行ってもよいが、操作者がDJパフォーマンスを実感するには、操作者が切替操作手段5を操作することにより切り替えるのが好ましい。
【0014】
切替操作手段5は、DJコントローラ等で用いられるクロスフェーダーとして構成される。なお、クロスフェーダーはコンピュータの表示画面上にグラフィックとして表示される。
切替操作手段5は、第1の楽曲側にクロスフェーダーの操作子がある場合には、第1の楽曲のみを音声出力する。そして、操作子が第2の楽曲側に移動するにしたがって、第2の楽曲の音声出力が増加し、第2の楽曲側に移動させると第2の楽曲のみを音声出力する。楽曲切替手段4は、切替操作手段5の操作子の状態に応じて、第1の楽曲および第2の楽曲の出力比を調整して音声出力する。
【0015】
再生位置探索手段6は、楽曲再生手段2により再生対象となる楽曲データAD1、楽曲データAD2の直近の特定再生位置を探索する。
具体的には、再生位置探索手段6は、
図2に示すように、楽曲データAD1を再生した第1の楽曲の現在再生位置から、時間軸上で最も近い位置の楽曲展開位置、Bメロからサビに変化する楽曲展開位置を、現在再生位置からT1秒後に到来する楽曲展開位置として探索する。再生位置探索手段6は、同時に第2の楽曲についての現在再生位置からT2秒後に到来する楽曲展開位置を探索する。
再生位置探索手段6は、再生中の第1の楽曲における現在の再生位置から楽曲展開位置に到達するまでの時間T1を再生位置調整手段7に出力し、同様に第2の楽曲における現在の再生位置から楽曲展開位置に到達するまでの時間T2を再生位置調整手段7に出力する。
【0016】
再生位置調整手段7は、再生位置探索手段6による探索結果に基づいて、第1の楽曲における楽曲展開位置に、第2の楽曲における楽曲展開位置を時間軸上で一致させるように調整する。
具体的には、
図3に示すように。再生位置調整手段7は、到達時間がT1>T2の場合、第2の楽曲の楽曲展開位置(
図3ではAメロ開始位置)を、第1の楽曲展開位置(
図3ではサビ開始位置)に調整する(T1=T2)。
【0017】
第1の楽曲から第2の楽曲への遷移は、
図3に示すように、操作者が切替操作手段5を操作して、操作者が第1の楽曲側から第2の楽曲側に操作子を移動することにより、行われる。操作者が切替操作手段5を操作すると、楽曲切替手段4は、第1の楽曲の出力を次第に減少させ、替わって第2の楽曲の出力を次第に増大させる。
楽曲切替手段4は、探索された楽曲展開位置に到達したら、第1の楽曲の再生を停止し、第2の楽曲のみを出力する。
【0018】
次に、本実施の形態の作用について、
図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
楽曲切替手段4は、切替操作手段5の操作状態を監視する(手順S1)。
切替操作手段5が操作されたと判定すると、その旨を再生位置探索手段6に出力する(手順S1)。
再生位置探索手段6は、再生中の第1の楽曲の現在再生位置から直近の楽曲展開位置を探索する(手順S2)。
【0019】
続けて再生位置探索手段6は、第2の楽曲の現在再生位置に応じた時間軸上の位置から直近の楽曲展開位置を探索する(手順S3)。
再生位置調整手段7は、再生位置探索手段6により探索された第1の楽曲の楽曲展開位置に、探索された第2の楽曲展開位置を時間軸上で一致するように調整する(手順S4)。
【0020】
このような本実施の形態によれば、以下のような効果を奏する。
本実施の形態では、操作者が切替操作手段5を操作するだけで、楽曲展開位置における第1の楽曲および第2の楽曲の切り替えを自動的に行うことができる。したがって、高度なDJ技術を必要とすることなく、かつ違和感のない楽曲間の切り替えを実現することができる。
【0021】
本実施の形態では、楽曲展開位置において第1の楽曲から第2の楽曲への切り替えを行っている。したがって、第1の楽曲および第2の楽曲のBPMの同期をとることなく、楽曲間の切り替えを行うことができるため、操作者に高度なDJ技術が必要とされることはない。
第1の楽曲から第2の楽曲への切り替えに際して、操作者のクロスフィーダの操作に応じてそれぞれの楽曲の出力を調整することができる。したがって、遷移中に第1の楽曲および第2の楽曲の出力を操作者の操作に応じて調整できるため、より高度なDJパフォーマンスを実現できる。
【0022】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、既に説明した部分と同一の部分については、同一符号を付してその説明を省略する。
前述した第1の実施の形態では、
図3および
図4に示すように、第1の楽曲の展開位置に第2の楽曲の展開位置を時間軸上に一致させるように調整していた。
これに対して、本実施の形態では、
図5および
図6に示すように、第1の楽曲に設定されたキューポイントCUE1に、第2の楽曲に設定されたキューポイントCUE2を時間軸上で一致させるようにしている点が相違する。
【0023】
本実施の形態によっても、前述した作用および効果と同様の作用および効果を奏することができる。
加えて、第1の楽曲におけるキューポイントCUE1、第2の楽曲におけるキューポイントCUE2は、操作者が任意に設定できる。したがって、第1の楽曲の展開位置に限らず、任意の点において、第1の楽曲から第2の楽曲への切り替えを行うことができるため、より複雑な楽曲の切り替えを高度なDJ技術を必要とすることなく行うことができる。
【0024】
本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、以下に示すような変形を含むものである。
前述の実施の形態では、楽曲の切り替えのみに本発明を適用していたが、本発明はこれに限られない。楽曲の切り替えに伴い、DJパフォーマンスにおける動画像の切り替えを行う場合や、DJパフォーマンスにおける照明制御の切り替えに本発明を適用してもよい。
【0025】
前述の実施の形態では、コンピュータ上で実行される楽曲再生プログラムに本発明を適用していたが、本発明はこれに限られない、DJコントローラ等の専用のDJ機器に本発明を適用してもよく、楽曲再生専用の再生機器や、楽曲再生ソフトウェアに本発明を適用してもよい。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1…音響装置、2…楽曲再生手段、3…再生速度調整手段、4…楽曲切替手段、5…切替操作手段、6…再生位置探索手段、7…再生位置調整手段、AD1…第1の楽曲データ、AD2…第2の楽曲データ、CUE1…キューポイント、CUE2…キューポイント。