(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】超伝導磁石アセンブリ用の自立型可撓性熱放射シールド
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20231030BHJP
G01R 33/3815 20060101ALI20231030BHJP
H01F 6/04 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
A61B5/055 360
A61B5/055 331
G01R33/3815 ZAA
H01F6/04
(21)【出願番号】P 2021527245
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(86)【国際出願番号】 EP2019079516
(87)【国際公開番号】W WO2020104149
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-09-22
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516298515
【氏名又は名称】シーメンス ヘルスケア リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Siemens Healthcare Limited
【住所又は居所原語表記】Parkview, Watchmoor Park, Camberley, GU15 3YL, United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム ジェイムス ビッケル
(72)【発明者】
【氏名】スィモン コーリー
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-000582(JP,A)
【文献】特開2014-220382(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0041520(US,A1)
【文献】米国特許第05651256(US,A)
【文献】特開2011-194136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
H01F 6/00 - 6/06
H10N 60/00 - 60/85
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導磁石アセンブリであって、外側真空チャンバ(14)内に、超伝導磁石コイル(10)を含むコールドマスを含み、該コールドマスの周囲で前記外側真空チャンバ(14)の内側に配置された熱放射シールド(16)を有する、超伝導磁石アセンブリにおいて、
前記超伝導磁石アセンブリは、前記コールドマスを実質的に取り囲むための自立型可撓性シールドをさらに含み、該自立型可撓性シールドは、前記コールドマスと前記熱放射シールドとの間に配置された、低放射率コーティングを両面に有する成形プラスチックシートを含み、前記自立型可撓性シールドは、前記コールドマスに取り付けられた、低放射率コーティングを両面に有する成形プラスチックシートの折曲げ構造体を含
み、
前記折曲げ構造体は、折曲げボックスカバー(42)、または、折曲げカウルを含む、
ことを特徴とする、超伝導磁石アセンブリ。
【請求項2】
前記自立型可撓性シールドは、前記コールドマスの温度と前記熱放射シールドの温度との間の中間の温度で熱的に変動する、請求項1記載の超伝導磁石アセンブリ。
【請求項3】
前記折曲げ構造体は、スリットおよびバーブ付きタブの構成を含む、請求項1
または2記載の超伝導磁石アセンブリ。
【請求項4】
前記折曲げ構造体は、両面にアルミニウム蒸着されたポリマーシートを含む、請求項1から
3までのいずれか1項記載の超伝導磁石アセンブリ。
【請求項5】
前記ポリマーシートは、厚さ125~500μmのPETシートを含む、請求項
4記載の超伝導磁石アセンブリ。
【請求項6】
前記ポリマーシートは、厚さ250μmのPETシートを含む、請求項
5記載の超伝導磁石アセンブリ。
【請求項7】
前記ポリマーシートの両面に、それぞれ厚さ20~100nmのアルミニウム層がアルミニウム蒸着されている、請求項
4から
6までのいずれか1項記載の
超伝導磁石アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導磁石用の熱放射シールドに関し、特に磁気共鳴画像(MRI)システムに用いられる超伝導磁石用の熱放射シールドに関する。
【0002】
図1は、極低温冷媒容器12を含むクライオスタットに収容された、MRIシステムに用いられる超伝導磁石の従来の構成を示す。冷却される超伝導磁石10が、外側真空チャンバ(OVC)14内に保持された極低温冷媒容器12内に設けられている。極低温冷媒容器12と外側真空チャンバ14との間の真空空間に1つ以上の熱放射シールド16が設けられている。幾つかの既知の構成では、冷凍機17が、意図的にクライオスタットの側面に向けて設けられたタレット18内に配置された冷凍機筒15に取り付けられる。クライオスタットの上部では、アクセスタレット19がアクセスネック(ベントチューブ)20を保持している。冷凍機17は、幾つかの構成では、極低温冷媒容器12内の極低温ガスを再凝縮させて液体にすることにより、極低温ガスを冷却する能動的な冷凍をもたらす。冷凍機17は、また、放射シールド16を冷却する役割を果たしてもよい。
図1に示すように、冷凍機17は2段式の冷凍機であってよい。第1の冷却段が、放射シールド16に熱的に接続され、典型的には40~100Kの範囲の第1の温度まで冷却する。第2の冷却段が、典型的には4~10Kの範囲の大幅に低い温度の液体状態まで極低温ガスを冷却する。
【0003】
熱放射シールド16は、外側真空チャンバからの熱放射が極低温冷媒容器に到達するのを防ぐように機能する。幾つかの構成では、2つ以上の熱放射シールドが、一方を他方の内側にして設けられてよく、これによって、相対的に温かい表面からの熱放射が、相対的に冷たい表面に到達するのを防ぐかまたは少なくとも妨げるようになっている。「乾式」磁石として知られる幾つかの構成では、極低温冷媒容器12が磁石コイル10の周囲に設けられておらず、磁石コイルは、熱放射シールド16の内面に対して露出している。
【0004】
熱放射シールド16自体は熱伝導性であるはずであり、ある箇所で極低温冷凍機17によってシールドが冷却されることにより、熱放射シールド16の表面の全部分に放射された熱を除去する役割を果たす。
【0005】
図示する外側真空チャンバOVC14は、極低温冷媒容器(存在する場合)の周囲に真空容積を提供する。真空容積は、OVC14の室温エンクロージャから極低温冷媒容器12または磁石コイル10への伝導および対流の熱負荷を低減する。熱放射シールド16は、対応する放射の熱負荷を低減する役割を果たす。放射シールド16は、OVCの温度(約300K)と磁石コイルの温度(例えば約4K)との間の中間の温度に固定された表面である。中間の温度は、20K~80Kであってよく、低温クーラによってまたは極低温冷媒容器からボイルオフされた極低温ガスによってもたらされてよい。本明細書では、熱放射シールド16は、約50Kの温度であるとみなされる一方、極低温冷媒容器または磁石構造体は、約4Kの温度であるとみなされる。
【0006】
参考までに、相対的に高温(温度Th)の大きな表面から、近くにある相対的に低温(温度Tc)の大きな表面への熱放射パワーQは、
Q=σA(Th
4-Tc
4)/(1/ε1+(1/ε2)-1)
のように表すことができる。式中、
Q:熱放射パワー
σ:ステファン・ボルツマン定数
A:対象となる2つの表面各々の表面積
Th:相対的に高温の表面の温度
Tc:相対的に低温の表面の温度
ε1:相対的に高温の表面の放射率
ε2:相対的に低温の表面の放射率
である。
【0007】
したがって、放射の熱負荷がTh
4-Tc
4に比例する。式中、Thは、相対的に高温の表面(ここではOVCの内面)の温度であり、Tcは、相対的に低温の表面(ここでは極低温冷媒容器の外面)の温度であり、いずれもケルビンで表される。OVC14の温度Thと極低温冷媒容器12の温度Tcとの間に、熱放射シールド16の温度である中間の温度Tiを導入することにより、低温表面への熱放射が、相対的に高い温度Tiで熱エネルギーを取り出すことによって低減される。
【0008】
熱負荷をさらに低減するためには、放熱(高温)表面と受熱(低温)表面との両方の熱放射率を可能な限り低くするべきであり、これにより、放熱表面は、最小限の放射を放出し、受熱表面は、受熱表面に当たる放射を最小限に吸収する。典型的には、放射シールド16は、放射率が低いアルミニウムまたは銅で作られる。低放射率表面を提供するために、高反射性の肉薄の高純度アルミニウムフォイルを熱放射シードの表面に適用してもよい。
【0009】
極低温冷媒容器と熱放射シールドとの間にかつ/またはOVCと熱放射シールドとの間に多層断熱(MLI)ブランケットを配置してもよい。MLIブランケットは、熱放射を反射するとともに見通し経路を可能な限り排除するように成形および設置され、互いにわずかに離間して所定位置に保持された幾つかのアルミニウム蒸着ポリエステルシート層を含む。このようなMLIブランケットは、表面間の熱放射を低減するのに役立つ。
【0010】
磁石コイルを取り囲む極低温冷媒容器12を有する磁石システムの場合、極低温冷媒容器12の外面は、熱放射の受熱表面である。典型的には、これは、放射率が高いステンレス鋼製である。代替的に、純粋ではない合金アルミニウムを使用してもよいが、これも、放射率が比較的高い。この場合には、入射する放射を受熱表面から反射し易い低放射率表面を提供するために、高反射性の肉薄(典型的には厚さ50μm)の高純度アルミニウムフォイルを受熱表面に適用してもよい。
【0011】
このフォイルラッピング法の欠点としては、極低温冷媒容器を効果的に包むのに要する時間、覆われる必要のある形状が比較的複雑であることから生じる煩雑さ、両面テープによってフォイルを固定し、OVC内で極低温冷媒容器の周囲の容積を排気するときに小さな穴によって通気してガスを逃がさなければならない場合のアセンブリの複雑さが挙げられる。フォイルは比較的電気伝導性であり、MRIシステムでは、この伝導性により、システムの熱負荷を増加させる勾配コイル相互作用が生じてしまう。
【0012】
磁石コイル10が極低温冷媒容器内に取り囲まれない磁石システム(しばしば「乾式磁石」と呼ばれる)では、磁石コイルおよび支持構造体は、典型的には受熱表面を提供する。磁石コイルおよび支持アセンブリに使用するような、ステンレス鋼、GRP、樹脂などの材料は、典型的には放射率が高い。放射率を低くする試みとして、従来から幾つかの措置が講じられてきた。このような表面は、上述したように、アルミニウムフォイル層によってコーティングされてもよいし、耐裂性を高めるためにポリエステルなどのプラスチックに積層されたより薄いアルミニウム層によってコーティングされてもよい。例示的な材料は、RUAG Space GmbH製のCOOLCAT 4Kである。これは、6μmの純粋なアルミニウムフォイルと12μmのポリエステルフォイルとからなる、アルミニウムが両面に蒸着されたラミネートである。
【0013】
便宜上、極低温冷媒容器(設けられる場合)内の磁石構造体および単独の磁石構造体(極低温冷媒容器が設けられない場合)は、例えば4Kの最低温度まで冷却される物品である「コールドマス(cold mass)」と呼ばれる場合がある。
【0014】
このような方法には、複雑な形状にフォイルまたはラミネートを巻き付けたり、粘着テープによって所定の位置にフォイルまたはラミネートを固定して、OVCが排気されるときにガスを逃がす十分な穴を設けたりするのに時間を要するという欠点もある。また、一般に使用する両面粘着テープが金属にだけ良く付着し、プラスチック、樹脂またはGRPに付着せず、フォイルまたはラミネートを適切に取り付けるために配置するのが困難になる場合がある。フォイルが導電性であることは、電気コネクタおよび絶縁されていないワイヤの周囲では、電気的な絶縁性が損なわれないように注意しなければならないことを意味する。フォイルは比較的電気伝導性であり、MRIシステムでは、この伝導性により、システムの熱負荷を増加させる勾配コイル相互作用が生じてしまう。このことは、金属層の厚さによっては、ラミネートにも当てはまり得る。勾配磁場内の伝導性材料の層が非常に薄い場合、シート抵抗が大きいので、渦電流が発生せず、散逸が少ない。一方、伝導性材料が非常に厚く、伝導性である場合、渦電流が発生するが、抵抗が小さいので、通電加熱が少なく、散逸も少ない。材料の厚さがそれらの中間である場合、大きな渦電流が発生し、システムの熱負荷を増加させる抵抗損失が生じる可能性がある。
【0015】
提案されてきた代替的な解決手段は、極低温冷媒容器または磁石構造体の温度まで実質的に冷却され、極低温冷媒容器または磁石構造体と従来の熱放射シールドとの間に配置される更なる熱放射シールドを追加することである。この更なる熱放射シールドは、「4Kシールド」と呼ばれる場合があり、厚さ数ミリメートルのアルミニウムで構成され、低放射率のアルミニウムフォイルによって外側でコーティングされてよい。外側の表面は、低放射率コーティングにより、放射された熱をほとんど吸収せず、内側の表面は、実質的に極低温冷媒容器または磁石構造体の温度であるので、極低温冷媒容器または磁石構造体に向けて熱を放射しない。
【0016】
しかし、このような構造体は、必要とされる材料の量により高コストであり、重くなってしまう。更なる熱放射シールドは、極低温冷媒容器12(存在する場合)または磁石構造体10の温度に保つために、冷凍機17などの極低温冷却手段に接続しなければならず、複雑さが増してしまう。4Kシールドの質量を必要な温度まで冷却するのに必要な時間およびエネルギーは、起動時のクールダウン時間を延長してしまう。4Kシールドは、磁石コイルのボア内の空間を必要とし、このことにより、必要なコイルの直径が大きくなるので、必要なワイヤの量も増え、コストおよび重量が増してしまう。4Kシールドの外面にフォイルをコーティングする必要があるので、時間を要する処理工程としてのフォイルコーティングが依然として存在している。4Kシールドに使用する材料の厚さおよび抵抗率によっては、大きな渦電流が発生し、システムの熱負荷を増加させる抵抗損失が生じてしまう。
【0017】
英国特許第2490478号明細書は、4Kシールドの例を開示している。
【0018】
米国特許第7548000号明細書は、薄い二重アルミニウム蒸着MYLAR(登録商標)シートを使用して超伝導ロータコイルを部分的に取り囲む熱放射シールドを備える発電システムを開示している。
【0019】
本発明は、従来の構成の欠点に対処し、極低温冷媒容器または磁石構造体の表面をフォイルまたはラミネートによってコーティングする必要性を回避する熱放射遮蔽を提供する。
【0020】
本発明の上記のかつ更なる対象、特徴および利点は、添付の図面と合わせて、例としてのみ与えられる本発明の特定の例の以下の説明からさらに明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】クライオスタット内の湿式磁石の従来の構成を概略的に示す図であり、電気的接続部および冷凍手段を示している。
【
図3】本発明の実施形態による可撓性シールドを示す断面図である。
【
図4】本発明の実施形態による可撓性シールドの一部を形成する際に使用する可撓性材料の部分的な切断パターンを示す図である。
【
図6】スイッチなどの発熱装置を取り囲むために使用する、本発明による折曲げボックスを示す図である。
【0022】
図2は、硬質のアルミニウム4Kシールドまたは先行技術を参照して説明したフォイルもしくはラミネートコーティングの代わりとなる、極低温冷媒容器12(または極低温冷媒容器12が設けられないときの磁石構造体10)の間の可撓性放射シールド30を提供する、本発明の実施形態を概略的に示す。テントに似ている、低放射率の可撓性材料からなる自立型エンクロージャ30が、極低温冷媒容器12または磁石構造体10と従来の熱放射シールド16との間に配置されて設けられる。この場合、熱放射シールドまたは極低温冷媒容器もしくは磁石構造体に低放射率フォイルコーティングを設ける必要がないことが判明し得る。従来の熱放射シールド16は、典型的には約50K、通常は20K~80Kの温度であり、極低温冷媒容器または磁石構造体は、典型的には約4Kの温度である。しかし、本発明は、異なる温度範囲の構成要素間に適用されてもよい。
【0023】
自立型エンクロージャのために選択される可撓性材料は、自立型形状に折り曲げることができ、その形状を制御できる程度の張力を保てるほど丈夫であることが好ましい。例えば、好適な材料としては、ポリエチレンテレフタレートシート(PET、MYLAR(登録商標)、ポリエステルフィルムとしても知られる)などの二重アルミニウム蒸着ポリマーシートが挙げられる。PETの厚さは、125~500μmの範囲であってよく、アルミニウムコーティングの厚さは、20~100nmの範囲であり、物理蒸着法PVDによって適用されてよい。アルミニウムコーティングの厚さは、予想される熱放射を反射するのに十分であるが、面内の熱伝導率が高くなったり、勾配コイル相互作用によって生じる渦電流の影響を受けたりするほど厚くならないように選ぶべきである。
【0024】
可撓性材料は、より高温の表面およびより低温の表面の両方への低放射率特性を確保するために、アルミニウムが両面にコーティングされることが好ましい。
【0025】
可撓性材料は、1つ以上の組み立て方法によって自立型構造体に形成されてよい。そのような方法の例は、以下のとおりである。
【0026】
- 表面の低放射率特性が維持されることを条件に、加熱された材料を真空形成し、
- レーザ、ナイフ、ノコギリまたは他の手段によって切断した後に、テーピングによって、または可撓性材料に形成されたスロットおよびバーブを使用して、所定の位置に保持される形状に折り曲げる。低放射率表面を維持するために、アルミニウムテープまたはアルミニウムコーティングされたポリマーテープを可撓性材料の組み立てに使用してよい。
【0027】
可撓性材料を極低温冷媒容器または磁石構造体に取り付けるには、非粘着性の固定具を使用することが好ましい。可撓性シールドおよび支持構造体の材料の対応する穴に通すことにより、可撓性材料を取り外し可能に所定の位置に保持するために、いわゆるナイロン製の「もみの木(fir-tree)」リベットを使用してもよい。代替的に、ねじまたは他のタイプのリベットを使用してもよい。追加的または代替的に、スロットまたは穴およびバーブを使用してもよい。
【0028】
特定の実施形態では、可撓性材料の部分が、極低温冷媒容器または磁石構造体と密接に接触し、したがって、その構成要素の温度まで局所的に冷却され得る。使用中に、このような部分は、上述したフォイルまたはラミネートコーティングと同様に機能する。他の箇所では、可撓性材料は、極低温冷媒容器12(存在する場合)または磁石構造体10から離して配置される。可撓性材料は、面内の熱伝導性および電気伝導性が低いことが予定されているので、入射した放射熱が面内から磁石構造体に容易に流れ出ない。本発明のシールド30の可撓性材料に放射熱が入射すると、可撓性材料の関連する部分の温度が、磁石の温度(例えば4K)と従来の熱放射シールドの温度(例えば50K)との間の中間値まで変動(float)する。本発明のシールドの可撓性材料は、両面の放射率が低いので、50Kのシールドによって放出される放射の殆どを反射し、しかも約4Kの極低温冷媒容器または磁石に向けてほとんど放出しない。極低温冷媒容器または磁石に入射する放射束は、50Kのシールドから約4Kの極低温冷媒容器または磁石への熱放射を有する従来の構成よりも大幅に少ない。
【0029】
上述した式を用いると、Th=50K、Tc=4K、ε1=0.1、ε2=0.02の場合、より低温の表面への熱放射は6mW/m2のオーダーとなる。これは、低放射率層で覆われた極低温冷媒容器を取り囲む低放射率表面の従来の50Kのシールドを有する場合となり得る。
【0030】
上述したような可撓性シールドを採用する場合、最悪の放射率値1.00の極低温冷媒容器または磁石でも、可撓性シールドは、約41Kなどの中間の温度まで変動し、極低温冷媒容器または磁石に放出される熱放射は、これらの最悪の条件下でも約3mW/m2にすぎない。
【0031】
特定の箇所では、可撓性シールドは、50Kのシールドの温度の構成要素に物理的に接触し、したがって、シールドの温度まで局所的に上昇し得る。このことは、例えばサスペンションの貫通部の周囲で起きる場合がある。このような箇所で可撓性シールドが50Kまで加熱された場合でも、可撓性シールドの面内の熱伝導率が低いことは、可撓性シールドの残りの部分が50Kまで加熱されないことを意味する。本発明の可撓性シールドの50K領域の効果は、50Kのシールドの、低放射率コーティングで覆われる領域と非常に類似する。
【0032】
このような領域では、最悪の放射率値1.00の極低温冷媒容器または磁石の場合、また50Kの温度の可撓性シールドの場合でも、これらの領域では、極低温冷媒容器または磁石に放出される熱放射は、これらの最悪の条件下でも約7mW/m2である。
【0033】
可撓性シールドの面内の熱伝導率が低いことは、可撓性シールドの領域が50Kの熱シールドと接触し得る一方で、他の領域が、約4Kの温度の極低温冷媒容器または磁石構造体と接触し得るが、このような異なる温度の領域間での著しい熱伝導を伴わないことを意味する。このような面内の低い熱伝導率は、非常に薄い金属層を使用して、面内の著しい熱伝導率をもたらさない低放射率表面を提供することによって実現される。
【0034】
可撓性シールドのために選択される材料は、極めて規則的な間隔で支持する必要がなく、支持なしで大きな隙間に架けられる十分な厚さ、よって弾力性を有するべきである。したがって、磁石構造体または50Kの熱放射シールド用の取り付け構造体から比較的少ない場所で取り付けることができる。取り付け位置は、電気構成要素から離して選択されてよく、このことは、可撓性シールドの電気的絶縁をもたらす特別な措置を最小限に抑え得ることを意味する。
【0035】
特定の実施形態では、本発明者らは、両面にアルミニウム蒸着された(aluminised)厚さ250μmのPETシートが、自立するほどに丈夫であり、適切な形状に形成できることを見出した。このような材料は、手頃なコストで入手することができる。
【0036】
提案されるような可撓性シールド、例えば250μmのPETは質量が小さく、このことは、初期の冷却時間が短く保たれることを意味する。
【0037】
シールドが自立する領域では、本発明の可撓性シールドの熱的性能は、極低温冷媒容器または磁石への低放射率層の従来の適用よりも優れていることが分かった。
【0038】
本発明の可撓性シールドは、従来の構成の低放射率フォイルを適用するよりも迅速に組み立てられる。
【0039】
本発明の可撓性シールドは、半径方向の追加空間をほとんど必要としない。シールドの材料の厚さは、0.5mmよりも大幅に小さい。本発明の可撓性シールドは、上述したように、より高温またはより低温の構成要素との接触にも耐える。したがって、本発明の可撓性シールドは、連続した環状の領域に配置する必要がなく、磁石システムの他の構成要素の周囲に適宜取り付けられてもよい。
【0040】
シールドの温度が変動して極低温冷媒容器の温度(例えば4K)と熱放射シールドの温度(例えば50K)との間の値に落ち着くので、シールドへの冷却経路を設ける必要がない。
【0041】
コールドマスは、本発明の可撓性シールドによって実質的に取り囲まれる。
【0042】
極低温冷媒容器12(存在する場合)または磁石構造体10を含むコールドマスと、熱放射シールド16との中間に配置される可撓性シールド30に加えて、またはその一部として、上述した材料および技術が、構成要素を閉じ込めて、それらの構成要素からの熱放射が磁石10または極低温冷媒容器12などの他の構成要素に到達するのを防ぐために使用されてもよい。例えば、開状態に変更するために温めなければならない超伝導スイッチを、可撓性シールドについて上述した材料で作られ、超伝導スイッチから磁石コイルへの熱放射をブロックする自立型ボックスに折り曲げられた、ボックスエンクロージャによって取り囲むことができる。これにより、熱放射が磁石コイルに到達することが防がれ、また、スイッチからの熱損失が低減するので、超伝導スイッチを開くために入力する必要のある総加熱電力が少なくなり、極低温システム全体にとって良い。
【0043】
本発明は、自立型熱変動放射シールドを提供する。選ばれる材料は、形状に形成することができ、比較的大きな距離にわたってその位置を自力で保持できるように適切に丈夫である。可撓性放射シールドは、低放射率コーティングを両面に有する250μmのPETなどのプラスチック層であってよい。プラスチック層は、十分な強度および剛性をシールドに与え、20~100nmのPVDアルミニウムなどの金属製の低放射率コーティングが、面内の熱伝導率および電気伝導率を低く保ちながら、必要な低放射率特性をもたらす。この面内の低い熱伝導率により、シールドは、可撓性シールドへの、または可撓性シールドからの不要な熱の流れを伴う熱的短絡を起こさずに、相対的に低温の表面と相対的に高温の表面の両方に接触することができる。本発明の可撓性シールドの取り付けにより、極低温冷媒容器または磁石構造体および熱放射シールドの表面に低放射率フォイルを適用する場合と比べて、複雑さが減り、取り付け時間が短縮される。
【0044】
好ましくは、可撓性シールドは、低放射率層を両面に適用して処理されたプラスチックシートで形成される。特に、自立するのに十分な厚さであり、自立型構造体に形成できる、二重アルミニウム蒸着PETシートで形成されてよい。
【0045】
可撓性シールドを組み立てるための方法は、以下の工程を含んでよく、いずれも製作が容易な軽量で光を実質的に通さないシールドの製造を可能にする。
【0046】
可撓性シールドの材料を、折り曲げ、真空形成し、タブおよびスロットを使用して、必要な形状に形成して、必要な形状に構造的強度を与え、材料が複雑な形状を取り囲むことを可能にする。このように形成された形状は、もみの木リベットなどのリベット、または最小限のテーピングを要するバーブによる取り付けなどによって支持構造体に取り付けられ、組み立て時間を短縮し、低温での粘着結合への依存度を下げる。
【0047】
本発明の可撓性シールドの材料は、必要な形状を形成するために切断され折り曲げられてよい。スロット、バーブ、およびタブを使用して、粘着剤または固定具を使用せずに材料を必要な形状に組み立てることができる。このような切断特徴は、ナイフ、熱線切断、レーザ切断、型押しなどを使用して形成されてもよい。このような構成要素は、簡単な組み立て手順によって人件費を削減できるので、手際よく低廉に組み立てることができる。組み立て時の粘着剤への依存度を下げることにより、アセンブリは、低温での信頼性が高まると考えられ、したがって、使用中に粘着結合が緩む可能性が低くなる。
【0048】
可撓性シールドの材料は、加熱された構成要素を取り囲むシールドを形成して、このような構成要素による放射による熱損失を低減するために、説明したように使用されてよい。
【0049】
図3は、本発明の実施形態による可撓性シールド内に磁石構造体が取り囲まれた、磁石軸線A-Aを中心として実質的に回転対称の磁石システムを概略的に表す。
図3に示すシールドは、二重アルミニウム蒸着PETなどの2つの低放射率表面を有する可撓性材料のシートを磁石に巻き付けて外殻片24を形成することによって作られる。その外殻片は、スロットおよびバーブ固定具26によって、それぞれの端部片28に取り付けられ、各端部片も、二重アルミニウム蒸着PETなどの2つの低放射率表面を有する可撓性材料のシートで形成される。このようなスロットおよびバーブ固定具26は、磁石システムの周面に間隔をおいて繰り返されてよい。同じく二重アルミニウム蒸着PETなどの2つの低放射率表面を有する可撓性材料のシートで作られたボア片30が、磁石の内側ボアの周囲に配置され、もみの木リベット32または何らかの他の適切な固定手段を使用して、例えば磁石形成体などの磁石構造体10に取り付けられてよい。ボア片30は、スロットおよびバーブ固定具26によって、それぞれの端部片28に取り付けられる。このようなスロットおよびバーブ固定具26は、磁石システムの周面に間隔をおいて繰り返されてもよい。代替的または追加的に、端部片28の半径方向端部34が、材料の半径方向末端を切断してフラップにし、フラップを磁石軸線と平行に曲げることによって形成されてもよい。そして、フラップは、粘着テープまたは(好ましくは)上述した連結用スロットおよびバーブ付きタブ(barbed tab)によって所定の位置に保持することができる。代替的または追加的に、外殻片24およびボア片30の軸方向端部34が、材料の軸方向端部を切断してフラップにし、フラップを磁石軸線と垂直に曲げることによって形成されてもよい。そして、フラップは、粘着テープまたは(好ましくは)上述した連結用スロットおよびバーブ付きタブによって所定の位置に保持することができる。
【0050】
端部片28、外殻片24、およびボア片30は全て、もみの木リベット32または他の適切な固定具によって、磁石コイル10または支持構造体に取り付けられてよい。
【0051】
図4は、可撓性シールドの材料で折曲げ構造体を製造するためのスリットおよびバーブ付きタブの構成の例を示す。材料シート61は、フラップ62,63を画定するように切断される。これらのフラップの一方(62と表記される)には、スリット64が切り込まれる。他方のフラップ(63と表記される)には、バーブ付きタブ65が取り付けられる。組み立て工程中に、可撓性材料は、可撓性材料に刻み目を付けるまたは部分的に切れ込みを入れることによって画定され得る折れ線66に沿って折り曲げられる。バーブ付きタブ65は、バーブ67がスリット64の両端部と係合してアセンブリを一体に保持するように、スリット64に押し通される。
図4に示す構造体は、ボックス形状に組み立てられてよい。
【0052】
図5は、シールドを貫通しなければならない構成要素の周囲に配置するための複雑な折曲げカウルを示す。使用中に、カウルは、約50Kの温度である部分と機械的に接触する。バーブ付きタブ65およびフラップ71が見える。
【0053】
図6は、フラップ、スリット、バーブ付きタブによって、説明したように組み立てられた折曲げボックスカバー42の例を示す。このような折曲げボックスカバーは、ここに示すように、スイッチなどの発熱構成要素38を閉じ込めて、それらの構成要素からの熱放射が磁石10または極低温冷媒容器12などの他の構成要素に到達するのを防ぐために使用されてよい。組み立てられたボックス42は、もみの木リベット32によって支持構造体40に取り付けられて示されている。使用中に、この折曲げボックスカバーは、支持構造体40であり得る、約4Kの温度まで冷却される部分に取り付けられる。スロットおよびバーブ固定具26が示されており、ボックスの光密性を向上させるために、ボックスの一方の面が隣の面の上にわずかに折り曲げられる。
【0054】
本発明は、OVCと、OVCと磁石構造体または極低温冷媒容器(存在する場合)との間に配置された熱放射シールドとを有する超伝導磁石を特に参照して説明されてきたが、冷却される他の機器に適用されてもよく、一般に、本発明の熱放射シールドは、温かい表面とコールドマスとの間に配置されてよく、ここで、用語「温かい」は、相対的なものであり、コールドマスよりも高温であることのみを意味する。極低温に冷却される超伝導磁石について説明してきたが、本発明は、異なる温度のエンクロージャ内にある冷却される任意の機器に適用されてもよい。