(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】BCMAキメラ抗原受容体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20231030BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20231030BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231030BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231030BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20231030BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20231030BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20231030BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231030BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231030BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20231030BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20231030BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231030BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231030BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231030BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231030BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20231030BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N5/0783 ZNA
C12N5/10
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/86 Z
C12N15/867 Z
C07K19/00
C07K16/28
C07K16/30
C12N7/01
A61P35/02
A61P35/00
A61K48/00
A61K35/17
A61K35/76
(21)【出願番号】P 2022071485
(22)【出願日】2022-04-25
(62)【分割の表示】P 2020035520の分割
【原出願日】2015-12-07
【審査請求日】2022-04-25
(32)【優先日】2014-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521438515
【氏名又は名称】2セブンティ バイオ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リチャード モーガン
(72)【発明者】
【氏名】ケビン フリードマン
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】特許第6671370(JP,B2)
【文献】国際公開第2013/154760(WO,A1)
【文献】CLINICAL CANCER RESEARCH,2013年,Vol.19, No.8,p.2048-2060
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
Pubmed
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号9に記載のアミノ酸配列のアミノ酸22~493を含むキメラ抗原受容体(CAR)。
【請求項2】
請求項
1に記載のCARをコードする核酸。
【請求項3】
請求項
2に記載の核酸を含むベクター。
【請求項4】
請求項
1に記載のCARをコードするポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項5】
前記ベクターが、発現ベクター、エピソームベクター、ウイルスベクター、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである、請求項
4に記載のベクター。
【請求項6】
前記レンチウイルスベクターが、ヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)、ヒト免疫不全ウイルス2(HIV-2)、ビスナ・マエディ(VMV)ウイルス、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、及びサル免疫不全ウイルス(SIV)から本質的になる群から選択される、請求項
5に記載のベクター。
【請求項7】
左(5’)レトロウイルスLTR、プサイ(Ψ)パッケージングシグナル、セントラルポリプリントラクト/DNAフラップ(cPPT/FLAP)、レトロウイルス輸送要素、前記ポリヌクレオチドに動作可能に連結されたプロモーター、及び右(3’)レトロウイルスLTRを含む、請求項
4~
6のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項8】
異種ポリアデニル化配列をさらに含む、請求項
7に記載のベクター。
【請求項9】
前記5’LTRの前記プロモーターが、
レトロウイルスプロモーターまたは異種プロモーター
である、請求項
7または請求項
8に記載のベクター。
【請求項10】
前記異種プロモーターが、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターまたはサルウイルス40(SV40)プロモーターである、請求項
9に記載のベクター。
【請求項11】
前記5’LTRまたは3’LTRが、レンチウイルスLTRである、請求項
7~1
0のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項12】
前記3’LTRが、自己不活性型(SIN)LTRである、請求項
7~1
0のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項13】
前記ポリアデニル化配列が、ウシ成長ホルモンポリアデニル化またはシグナルウサギβ-グロビンポリアデニル化配列である、請求項
8、ならびに請求項
8に従属する場合の請求項
9~1
2のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項14】
多発性骨髄腫(MM)または非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療のための薬学的組成物であって、該組成物が、請求項
1に記載のCAR、請求項
2に記載の核酸、または請求項
3~1
3のいずれか一項に記載のベクターを含むヒトT細胞を含む、薬学的組成物。
【請求項15】
前記薬学的組成物が多発性骨髄腫(MM)の治療のためのものである、請求項1
4に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
前記MMが、顕性多発性骨髄腫、くすぶり型多発性骨髄腫、形質細胞性白血病、非分泌型骨髄腫、IgD骨髄腫、骨硬化性骨髄腫、骨の孤立性形質細胞腫、及び髄外性形質細胞腫からなる群から選択される、請求項1
5に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
前記薬学的組成物が、非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療のためのものである、請求項1
4に記載の薬学的組成物。
【請求項18】
前記NHLが、バーキットリンパ腫、慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、免疫芽球性大細胞型リンパ腫、前駆Bリンパ芽球性リンパ腫、及びマントル細胞リンパ腫からなる群から選択される、請求項1
7に記載の薬学的組成物。
【請求項19】
前記細胞が前記対象から得られた細胞である、請求項1
5~1
8のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
請求項
2に記載の核酸または請求項
3~1
3のいずれか一項に記載のベクターを含むエクスビボまたはインビトロ細胞。
【請求項21】
前記細胞が、免疫エフェクター細胞である、請求項2
0に記載のエクスビボまたはインビトロ細胞。
【請求項22】
前記免疫エフェクター細胞が、Tリンパ球及びナチュラルキラー(NK)細胞からなる群から選択される、請求項2
1に記載のエクスビボまたはインビトロ免疫エフェクター細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35 U.S.C.§119(e)のもと、2015年8月3日に出願された米国仮出願第62/200,505号及び2014年12月12日に出願された米国仮出願第62/091,419号の利益を主張し、その各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表に関する記載
本出願に関連する配列表は、ハードコピーの代わりにテキスト形式で提供され、本明細書において参照により本明細書に組み込まれる。配列表を含むテキストファイルの名称はBLBD_043_02WO_ST25.txtである。テキストファイルは27KBであり、2015年12月4日に作成され、本明細書の出願と同時に、EFS-Webを介して電子的に提出される。
背景
【0003】
本発明は、B細胞関連状態を治療するための、改善された組成物及び方法に関する。より具体的には、本発明は、マウス抗BCMA抗体またはその抗原結合断片を含む、改善されたキメラ抗原受容体(CAR)、これらのCARを発現するように遺伝子改変された免疫エフェクター細胞、及びB細胞関連状態を効果的に治療するための、これらの組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
いくつかの重要な疾患は、Bリンパ球、すなわち、B細胞に関係する。異常なB細胞生理機能はまた、限定されないが、全身性エリテマトーデス(SLE)を含む自己免疫疾患の発生にもつながる場合がある。B細胞の悪性転換は、限定されないが、リンパ腫、例えば、多発性骨髄腫及び非ホジキンリンパ腫を含む癌につながる。
【0005】
非ホジキンリンパ腫(NHL)及び多発性骨髄腫(MM)を含む、B細胞悪性腫瘍を有する患者の大多数がかなりの癌死亡率に寄与している。様々な治療形態に対するB細胞悪性腫瘍の応答は複雑である。化学療法及び放射線療法を含む、B細胞悪性腫瘍を治療するための従来の方法は、毒性副作用により有用性が限られている。抗CD19、抗CD20、抗CD22、抗CD23、抗CD52、抗CD80、及び抗HLA-DR治療用抗体を用いた免疫療法は、一部、不十分な薬物動態プロファイル、血清プロセアーゼ及び糸球体濾過による抗体の迅速な排除、ならびに腫瘍部位内への限られた透過及び標的抗原の癌細胞上での限られた発現レベルにより、成果が限られている。キメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子改変細胞を使用する試みの成果も限られている。加えて、CARに使用された所与の抗原結合ドメインの治療有効性は予測不可能であり、抗原結合ドメインが非常に強く結合する場合、CAR T細胞は大量のサイトカイン放出を誘発し、「サイトカインストーム」と見なされる、死に至る可能性がある免疫反応をもたらし、抗原結合ドメインが非常に弱く結合する場合、CAR T細胞は、癌細胞の排除に十分な治療有効性を表さない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は概して、T細胞療法をもたらすための改善されたベクター及びその使用方法を提供する。
【0007】
様々な実施形態では、ヒトBCMAポリペプチドの1つ以上のエピトープに結合するマウス抗BCMA(B細胞成熟抗原)抗体またはその抗原結合断片を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、1つ以上の細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン及び一次シグナル伝達ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)が提供される。
【0008】
特定の実施形態では、ヒトBCMAポリペプチドに結合するマウス抗BCMA抗体または抗原結合断片は、Camel Ig、Ig NAR、Fab断片、Fab’断片、F(ab)’2断片、F(ab)’3断片、Fv、単鎖Fv抗体(「scFv」)、ビス-scFv、(scFv)2、ミニボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ジスルフィド安定化Fvタンパク質(「dsFv」)及び単一ドメイン抗体(sdAb、ナノボディ)からなる群から選択される。
【0009】
追加の実施形態では、ヒトBCMAポリペプチドに結合するマウス抗BCMA抗体または抗原結合断片は、scFvである。
【0010】
いくつかの実施形態では、マウス抗BCMA抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1~3のいずれか1つに記載される、1つ以上のCDRを含む。
【0011】
特定の実施形態では、マウス抗BCMA抗体またはその抗原結合断片は、配列番号4~6のいずれか1つに記載される、1つ以上のCDRを含む。
【0012】
ある特定の実施形態では、マウス抗BCMA抗体またはその抗原結合断片は、配列番号7に記載される、可変軽鎖配列を含む。
【0013】
ある特定の実施形態では、可変軽鎖配列は、配列番号1~3に記載される、CDR配列を含む。
【0014】
他の実施形態では、マウス抗BCMA抗体またはその抗原結合断片は、配列番号8に記載される、可変重鎖配列を含む。
【0015】
追加の実施形態では、可変重鎖配列は、配列番号4~6に記載される、CDR配列を含む。
【0016】
更なる実施形態では、膜貫通ドメインは、T細胞受容体のアルファ、ベータ、またはゼータ鎖CD3ε、CD3ζ、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD27、CD28、CD33、CD37、CD45、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD152、CD154、及びPD1からなる群から選択される、ポリペプチドからのものである。
【0017】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、CD8α、CD4、CD45、PD1、及びCD154からなる群から選択される、ポリペプチドのものからである。
【0018】
ある特定の実施形態では、膜貫通ドメインは、CD8αからのものである。
【0019】
特定の実施形態では、1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインは、CARD11、CD2、CD7、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD150(SLAMF1)、CD152(CTLA4)、CD223(LAG3)、CD270(HVEM)、CD273(PD-L2)、CD274(PD-L1)、CD278(ICOS)、DAP10、LAT、NKD2C SLP76、TRIM、及びZAP70からなる群から選択される、共刺激分子からのものである。
【0020】
特定の実施形態では、1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインは、CD28、CD134、及びCD137からなる群から選択される、共刺激分子からのものである。
【0021】
追加の実施形態では、1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインは、CD28、CD134、及びCD137からなる群から選択される、共刺激分子からのものである。
【0022】
追加の実施形態では、1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインは、CD28からのものである。
【0023】
特定の実施形態では、1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインは、CD134からのものである。
【0024】
他の実施形態では、1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインは、CD137からのものである。
【0025】
ある特定の実施形態では、CARは、ヒンジ領域ポリペプチドを含む。
【0026】
更なる実施形態では、ヒンジ領域ポリペプチドは、CD8αのヒンジ領域を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、CARは、スペーサー領域を含む。
【0028】
追加の実施形態では、スペーサー領域ポリペプチドは、IgG1またはIgG4のCH2及びCH3領域を含む。
【0029】
特定の実施形態では、CARは、シグナルペプチドを含む。
【0030】
更なる実施形態では、シグナルペプチドは、IgG1重鎖シグナルポリペプチド、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子受容体2(GM-CSFR2)シグナルポリペプチド、またはCD8αシグナルポリペプチドを含む。
【0031】
一実施形態では、CARは、配列番号9に記載される、アミノ酸配列を含む。
【0032】
様々な実施形態では、本明細書において想定されるCARをコードするポリヌクレオチドが提供される。
【0033】
様々な特定の実施形態では、CARをコードするポリヌクレオチドが提供され、このポリヌクレオチド配列は配列番号10に記載されるものである。
【0034】
様々なある特定の実施形態では、本明細書において想定されるCARをコードする、または配列番号10に記載されるポリヌクレオチドを含むベクターが提供される。
【0035】
ある特定の実施形態では、ベクターは、発現ベクターである。
【0036】
追加の実施形態では、ベクターは、エピソームベクターである。
【0037】
特定の実施形態では、ベクターは、ウイルスベクターである。
【0038】
更なる実施形態では、ベクターは、レトロウイルスベクターである。
【0039】
他の実施形態では、ベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0040】
一実施形態では、BCMA CARをコードするベクターは、配列番号36に記載される、ポリヌクレオチド配列を含む。
【0041】
追加の実施形態では、レンチウイルスベクターは、本質的に、ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)、ヒト免疫不全ウイルス2(HIV-2)、ビスナ・マエディ(VMV)ウイルス、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、及びサル免疫不全ウイルス(SIV)からなる群から選択される。
【0042】
特定の実施形態では、ベクターは、左(5’)レトロウイルスLTR、プサイ(Ψ)パッケージングシグナル、セントラルポリプリントラクト/DNAフラップ(cPPT/FLAP)、レトロウイルス輸送要素、本明細書において想定されるCARをコードするポリヌクレオチドに動作可能に連結されたプロモーター、及び右(3’)レトロウイルスLTRを含む。
【0043】
他の実施形態では、CARは、異種ポリアデニル化配列を含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、CARは、B型肝炎ウイルス転写後調節要素(HPRE)またはウッドチャック転写後調節要素(WPRE)を含む。
【0045】
ある特定の実施形態では、5’LTRのプロモーターは、異種プロモーターに置き換えられる。
【0046】
更なる実施形態では、異種プロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターまたはサルウイルス40(SV40)プロモーターである。
【0047】
特定の実施形態では、5’LTRまたは3’LTRは、レンチウイルスLTRである。
【0048】
特定の実施形態では、3’LTRは、1つ以上の改変を含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、3’LTRは、1つ以上の欠失を含む。
【0050】
ある特定の実施形態では、3’LTRは自己不活性型(SIN)LTRである。
【0051】
いくつかの実施形態では、ポリアデニル化配列は、ウシ成長ホルモンポリアデニル化またはシグナルウサギβ-グロビンポリアデニル化配列である。
【0052】
追加の実施形態では、本明細書において想定されるCARをコードするポリヌクレオチドは、最適化されたコザック配列を含む。
【0053】
更なる実施形態では、本明細書において想定されるCARをコードするポリヌクレオチドに動作可能に連結されたプロモーターは、サイトメガロウイルス最初期遺伝子プロモーター(CMV)、伸長因子1アルファプロモーター(EF1-α)、ホスホグリセリン酸キナーゼ1プロモーター(PGK)、ユビキチンCプロモーター(UBQ-C)、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリベータ-アクチンプロモーター(CAG)、ポリオーマエンハンサー/単純ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(MC1)、ベータアクチンプロモーター(β-ACT)、サルウイルス40プロモーター(SV40)、骨髄増殖性肉腫ウイルスエンハンサー、負の制御領域欠失dl587revプライマー結合部位置換(MND)プロモーターからなる群から選択される。
【0054】
様々な実施形態では、本明細書において想定されるベクターを含む免疫エフェクター細胞が提供される。様々な実施形態では、免疫エフェクター細胞は、本明細書において想定されるベクターを形質導入される。
【0055】
更なる実施形態では、免疫エフェクター細胞は、Tリンパ球及びナチュラルキラー(NK)細胞からなる群から選択される。
【0056】
いくつかの実施形態では、免疫エフェクター細胞は、請求項28~46のいずれか1項に記載のベクターを形質導入され、PI3K経路の阻害剤の存在下で活性化及び刺激され、それによりPI3K経路の阻害剤の不在下で活性化及び刺激された、形質導入された免疫エフェクター細胞の増殖と比較して、形質導入された免疫エフェクター細胞の増殖を維持する。
【0057】
特定の実施形態では、PI3K経路の阻害剤の存在下で活性化及び刺激された免疫エフェクター細胞では、PI3K経路の阻害剤の不在下で活性化及び刺激された免疫エフェクター細胞と比較して、i)CD62L、CD127、CD197、及びCD38からなる群から選択される1つ以上のマーカー、またはii)CD62L、CD127、CD197、及びCD38のマーカーの全ての発現が増加する。
【0058】
一実施形態では、PI3K阻害剤は、ZSTK474である。
【0059】
様々な実施形態では、本明細書において想定される免疫エフェクター細胞及び生理学的に許容される賦形剤を含む組成物が提供される。
【0060】
様々な実施形態では、CARをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを免疫エフェクター細胞内に導入することを含む、本明細書において想定されるCARを含む免疫エフェクター細胞を生成する方法が提供される。
【0061】
追加の実施形態では、本方法は、免疫エフェクター細胞を刺激し、細胞を、CD3に結合する抗体及びCD28に結合する抗体と接触させることによって、細胞の増殖を誘発し、それにより免疫エフェクター細胞集団を生成することを更に含む。
【0062】
特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞は、ベクターを導入する前に刺激され、増殖を誘発される。
【0063】
ある特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞は、Tリンパ球を含む。
【0064】
特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞は、NK細胞を含む。
【0065】
特定の実施形態では、細胞は、PI3K経路の阻害剤の存在下で活性化及び刺激され、それによりPI3K経路の阻害剤の不在下で活性化及び刺激された免疫エフェクター細胞の増殖と比較して、形質導入された免疫エフェクター細胞の増殖を維持する。
【0066】
いくつかの実施形態では、PI3K経路の阻害剤の存在下で活性化及び刺激された免疫エフェクター細胞では、PI3K経路の阻害剤の不在下で活性化及び刺激された免疫エフェクター細胞と比較して、i)CD62L、CD127、CD197、及びCD38からなる群から選択される1つ以上のマーカー、またはii)CD62L、CD127、CD197及びCD38のマーカーの全ての発現が増加する。
【0067】
一実施形態では、PI3K阻害剤は、ZSTK474である。
【0068】
様々な実施形態では、対象に、本明細書において想定されるBCMA CAR T細胞、及び任意選択で、薬学的に許容される賦形剤を含む、治療有効量の組成物を投与することを含む、B細胞関連状態の治療を必要とする対象に、それを行う方法が提供される。
【0069】
他の実施形態では、B細胞関連状態は、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、不確定な悪性度のB細胞増殖、リンパ腫様肉芽腫症、移植後リンパ増殖性障害、免疫調節性障害、関節リウマチ、重症筋無力症、特発性血小板減少性紫斑病、抗リン脂質抗体症候群、シャーガス病、グレーブス病、ウェゲナー肉芽腫症、結節性多発動脈炎、シェーグレン症候群、尋常性天疱瘡、強皮症、多発性硬化症、抗リン脂質抗体症候群、ANCA関連血管炎、グッドパスチャー病、川崎病、自己免疫性溶血性貧血及び急速進行性糸球体腎炎、重鎖病、原発性もしくは免疫細胞関連アミロイドーシス、または意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症である。
【0070】
更なる実施形態では、B細胞関連状態は、B細胞悪性腫瘍である。
【0071】
ある特定の実施形態では、B細胞悪性腫瘍は、多発性骨髄腫(MM)または非ホジキンリンパ腫(NHL)である。
【0072】
ある特定の実施形態では、MMは、顕性多発性骨髄腫、くすぶり型多発性骨髄腫、形質細胞性白血病、非分泌型骨髄腫、IgD骨髄腫、骨硬化性骨髄腫、骨の孤立性形質細胞腫、及び髄外性形質細胞腫からなる群から選択される。
【0073】
いくつかの実施形態では、NHLは、バーキットリンパ腫、慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、免疫芽球性大細胞型リンパ腫、前駆Bリンパ芽球性リンパ腫、及びマントル細胞リンパ腫からなる群から選択される。
【0074】
特定の実施形態では、B細胞関連状態は、形質細胞悪性腫瘍である。
【0075】
更なる実施形態では、B細胞関連状態は、自己免疫疾患である。
【0076】
追加の実施形態では、自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデスである。
【0077】
ある特定の実施形態では、B細胞関連状態は、関節リウマチである。
【0078】
特定の実施形態では、B細胞関連状態は、特発性血小板減少性紫斑病、または重症筋無力症、または自己免疫性溶血性貧血である。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
ヒトBCMAポリペプチドの1つ以上のエピトープに結合するマウス抗BCMA(B細胞成熟抗原)抗体またはその抗原結合断片を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、1つ以上の細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン、及び一次シグナル伝達ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)。
(項目2)
前記ヒトBCMAポリペプチドに結合する前記マウス抗BCMA抗体または抗原結合断片が、Camel Ig、Ig NAR、Fab断片、Fab’断片、F(ab)’2断片、F(ab)’3断片、Fv、単鎖Fv抗体(「scFv」)、ビス-scFv、(scFv)2、ミニボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ジスルフィド安定化Fvタンパク質(「dsFv」)、及び単一ドメイン抗体(sdAb、ナノボディ)からなる群から選択される、項目1に記載のCAR。
(項目3)
前記ヒトBCMAポリペプチドに結合する前記マウス抗BCMA抗体または抗原結合断片が、scFvである、項目2に記載のCAR。
(項目4)
前記マウス抗BCMA抗体またはその抗原結合断片が、配列番号1~3のいずれか1つに記載される、1つ以上のCDRを含む、項目1~3のいずれか1項に記載のCAR。
(項目5)
前記マウス抗BCMA抗体またはその抗原結合断片が、配列番号4~6のいずれか1つに記載される、1つ以上のCDRを含む、項目1~4のいずれか1項に記載のCAR。
(項目6)
前記マウス抗BCMA抗体またはその抗原結合断片が、配列番号7に記載される、可変軽鎖配列を含む、項目1~5のいずれか1項に記載のCAR。
(項目7)
前記可変軽鎖配列が、配列番号1~3に記載される、前記CDR配列を含む、項目6に記載のCAR。
(項目8)
前記マウス抗BCMA抗体またはその抗原結合断片が、配列番号8に記載される、可変重鎖配列を含む、項目1~7のいずれか1項に記載のCAR。
(項目9)
前記可変重鎖配列が、配列番号4~6に記載される、前記CDR配列を含む、項目8に記載のCAR。
(項目10)
前記膜貫通ドメインが、T細胞受容体のアルファ、ベータまたはゼータ鎖、CD3ε、CD3ζ、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD27、CD28、CD33、CD37、CD45、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD152、CD154及びPD1からなる群から選択されるポリペプチドからのものである、項目1~9のいずれか1項に記載のCAR。
(項目11)
前記膜貫通ドメインが、CD8α、CD4、CD45、PD1及びCD154からなる群から選択される、ポリペプチドからのものである、項目1~9のいずれか1項に記載のCAR。
(項目12)
前記膜貫通ドメインが、CD8αからのものである、項目1~11のいずれか1項に記載のCAR。
(項目13)
前記1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインが、CARD11、CD2、CD7、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD150(SLAMF1)、CD152(CTLA4)、CD223(LAG3)、CD270(HVEM)、CD273(PD-L2)、CD274(PD-L1)、CD278(ICOS)、DAP10、LAT、NKD2C SLP76、TRIM及びZAP70からなる群から選択される、共刺激分子からのものである、項目1~12のいずれか1項に記載のCAR。
(項目14)
前記1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインが、CD28、CD134及びCD137からなる群から選択される、共刺激分子からのものである、項目1~12のいずれか1項に記載のCAR。
(項目15)
前記1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインが、CD28、CD134及びCD137からなる群から選択される、共刺激分子からのものである、項目1~12のいずれか1項に記載のCAR。
(項目16)
前記1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインが、CD28からのものである、項目1~12のいずれか1項に記載のCAR。
(項目17)
前記1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインが、CD134からのものである、項目1~12のいずれか1項に記載のCAR。
(項目18)
前記1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインが、CD137からのものである、項目1~12のいずれか1項に記載のCAR。
(項目19)
ヒンジ領域ポリペプチドを更に含む、項目1~18のいずれか1項に記載のCAR。
(項目20)
前記ヒンジ領域ポリペプチドが、CD8αのヒンジ領域を含む、項目19に記載のCAR。
(項目21)
スペーサー領域を更に含む、項目1~20のいずれか1項に記載のCAR。
(項目22)
前記スペーサー領域ポリペプチドが、IgG1またはIgG4のCH2及びCH3領域を含む、項目21に記載のCAR。
(項目23)
シグナルペプチドを更に含む、項目1~22のいずれか1項に記載のCAR。
(項目24)
前記シグナルペプチドが、IgG1重鎖シグナルポリペプチド、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子受容体2(GM-CSFR2)シグナルポリペプチド、またはCD8αシグナルポリペプチドを含む、項目23に記載のCAR。
(項目25)
配列番号9に記載される、アミノ酸配列を含む、項目1~24のいずれか1項に記載のCAR。
(項目26)
項目1~25のいずれか1項に記載のCARをコードするポリヌクレオチド。
(項目27)
ポリヌクレオチド配列が、配列番号10に記載される、CARをコードするポリヌクレオチド。
(項目28)
項目26または項目27に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
(項目29)
前記ベクターが、発現ベクターである、項目28に記載のベクター。
(項目30)
前記ベクターが、エピソームベクターである、項目28に記載のベクター。
(項目31)
前記ベクターが、ウイルスベクターである、項目28に記載のベクター。
(項目32)
前記ベクターが、レトロウイルスベクターである、項目28に記載のベクター。
(項目33)
前記ベクターが、レンチウイルスベクターである、項目28に記載のベクター。
(項目34)
前記レンチウイルスベクターが、ヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)、ヒト免疫不全ウイルス2(HIV-2)、ビスナ・マエディ(VMV)ウイルス、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、及びサル免疫不全ウイルス(SIV)から本質的になる群から選択される、項目28に記載のベクター。
(項目35)
左(5’)レトロウイルスLTR、プサイ(Ψ)パッケージングシグナル、セントラルポリプリントラクト/DNAフラップ(cPPT/FLAP)、レトロウイルス輸送要素、項目26または項目27に記載のポリヌクレオチドに動作可能に連結されたプロモーター、及び右(3’)レトロウイルスLTRを含む、項目28~34のいずれか1項に記載のベクター。
(項目36)
異種ポリアデニル化配列を更に含む、項目35に記載のベクター。
(項目37)
B型肝炎ウイルス転写後調節要素(HPRE)またはウッドチャック転写後調節要素(WPRE)を更に含む、項目28~36のいずれか1項に記載のベクター。
(項目38)
前記5’LTRの前記プロモーターが、異種プロモーターに置き換えられる、項目35~37のいずれか1項に記載のベクター。
(項目39)
前記異種プロモーターが、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターまたはサルウイルス40(SV40)プロモーターである、項目38に記載のベクター。
(項目40)
前記5’LTRまたは3’LTRが、レンチウイルスLTRである、項目35~39のいずれか1項に記載のベクター。
(項目41)
前記3’LTRが、1つ以上の改変を含む、項目35~40のいずれか1項に記載のベクター。
(項目42)
前記3’LTRが、1つ以上の欠失を含む、項目35~41のいずれか1項に記載のベクター。
(項目43)
前記3’LTRが、自己不活性型(SIN)LTRである、項目35~42のいずれか1項に記載のベクター。
(項目44)
前記ポリアデニル化配列が、ウシ成長ホルモンポリアデニル化またはシグナルウサギβ-グロビンポリアデニル化配列である、項目35~43のいずれか1項に記載のベクター。
(項目45)
項目26または項目27に記載のポリヌクレオチドが、最適化されたコザック配列を含む、項目28~44のいずれか1項に記載のベクター。
(項目46)
項目26または項目27に記載のポリヌクレオチドに動作可能に連結された前記プロモーターが、サイトメガロウイルス最初期遺伝子プロモーター(CMV)、伸長因子1アルファプロモーター(EF1-α)、ホスホグリセリン酸キナーゼ1プロモーター(PGK)、ユビキチンCプロモーター(UBQ-C)、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリベータ-アクチンプロモーター(CAG)、ポリオーマエンハンサー/単純ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(MC1)、ベータアクチンプロモーター(β-ACT)、サルウイルス40プロモーター(SV40)、骨髄増殖性肉腫ウイルスエンハンサー、負の制御領域欠失dl587revプライマー結合部位置換(MND)プロモーターからなる群から選択される、項目35~45のいずれか1項に記載のベクター。
(項目47)
項目28~46のいずれか1項に記載のベクターを含む、免疫エフェクター細胞。
(項目48)
前記免疫エフェクター細胞が、Tリンパ球及びナチュラルキラー(NK)細胞からなる群から選択される、項目47に記載の免疫エフェクター細胞。
(項目49)
項目47または項目48に記載の免疫エフェクター細胞及び生理学的に許容される賦形剤を含む、組成物。
(項目50)
項目1~25のいずれか1項に記載のCARを含む免疫エフェクター細胞の生成方法であって、項目28~46のいずれか1項に記載のベクターを、免疫エフェクター細胞内に導入することを含む、前記方法。
(項目51)
前記免疫エフェクター細胞を刺激し、前記細胞を、CD3に結合する抗体及びCD28に結合する抗体と接触させることによって、前記細胞の増殖を誘発し、それにより免疫エフェクター細胞の集団を生成することを更に含む、項目50に記載の方法。
(項目52)
前記免疫エフェクター細胞が、前記ベクターを導入する前に刺激され、増殖を誘発される、項目51に記載の方法。
(項目53)
前記免疫エフェクター細胞が、Tリンパ球を含む、項目51に記載の方法。
(項目54)
前記免疫エフェクター細胞が、NK細胞を含む、項目51に記載の方法。
(項目55)
B細胞関連状態の治療を必要とする対象に、それを行う方法であって、前記対象に、治療有効量の項目49に記載の組成物を投与することを含む、前記方法。
(項目56)
前記B細胞関連状態が、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、不確定な悪性度のB細胞増殖、リンパ腫様肉芽腫症、移植後リンパ増殖性障害、免疫調節性障害、関節リウマチ、重症筋無力症、特発性血小板減少性紫斑病、抗リン脂質抗体症候群、シャーガス病、グレーブス病、ウェゲナー肉芽腫症、結節性多発動脈炎、シェーグレン症候群、尋常性天疱瘡、強皮症、多発性硬化症、抗リン脂質抗体症候群、ANCA関連血管炎、グッドパスチャー病、川崎病、自己免疫性溶血性貧血及び急速進行性糸球体腎炎、重鎖病、原発性もしくは免疫細胞関連アミロイドーシス、または意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症である、項目55に記載の方法。
(項目57)
前記B細胞関連状態が、B細胞悪性腫瘍である、項目55に記載の方法。
(項目58)
前記B細胞悪性腫瘍が、多発性骨髄腫(MM)または非ホジキンリンパ腫(NHL)である、項目57に記載の方法。
(項目59)
前記MMが、顕性多発性骨髄腫、くすぶり型多発性骨髄腫、形質細胞性白血病、非分泌型骨髄腫、IgD骨髄腫、骨硬化性骨髄腫、骨の孤立性形質細胞腫、及び髄外性形質細胞腫からなる群から選択される、項目58に記載の方法。
(項目60)
前記NHLが、バーキットリンパ腫、慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、免疫芽球性大細胞型リンパ腫、前駆Bリンパ芽球性リンパ腫、及びマントル細胞リンパ腫からなる群から選択される、項目58に記載の方法。
(項目61)
前記B細胞関連状態が、形質細胞悪性腫瘍である、項目55に記載の方法。
(項目62)
前記B細胞関連状態が、自己免疫疾患である、項目55に記載の方法。
(項目63)
前記自己免疫疾患が、全身性エリテマトーデスである、項目62に記載の方法。
(項目64)
前記B細胞関連状態が、関節リウマチである、項目55に記載の方法。
(項目65)
前記B細胞関連状態が、特発性血小板減少性紫斑病、または重症筋無力症、または自己免疫性溶血性貧血である、項目55に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【
図1】マウスB細胞成熟抗原(muBCMA)CAR構築物の模式図を示す。
【
図2a】細胞がBCMAを発現するK562細胞と24時間共培養された後に、抗BCMA02 CAR T細胞、抗BCMA10 CART細胞、及びCAR19Δ T細胞から放出されたIFNgの量を示す。
【
図2b】細胞がBCMAを発現するK562細胞と比較して、BCMA発現を欠くK562と24時間共培養された後に、抗BCMA02 CAR T細胞、抗BCMA10 CART細胞、及びCAR19Δ T細胞から放出されたIFNgの量を示す。
【
図3】アッセイの10日前に刺激された、形質導入されていない対照T細胞、抗BCMA02 CAR T細胞、抗BCMA10 CART細胞、及びCAR19Δ T細胞からの成長培地中の炎症性サイトカインの量を示す。
【
図4】抗原刺激不在下での、抗BCMA02 CAR T細胞、抗BCMA10 CART細胞、及びCAR19Δ T細胞により産生された炎症性サイトカインの量を示す。
【
図5】抗BCMA CAR T細胞製造の終了時の活性化の表現型マーカーの発現を示す。HLA-DR及びCD25発現は、抗BCMA02 CAR T細胞、抗BCMA10 CAR T細胞、及び抗CAR19Δ T細胞において測定された。
【
図6】アポトーシスに必要なステップであり、抗原刺激不在下での抗BCMA10 CAR T細胞及び抗BCMA02 CAR T細胞におけるAICDに重要である、活性化されたカスパーゼ-3のレベルを示す。
【
図7】ウシ胎仔血清(FBS)、ヒトAB血清(HABS)、または100ng/mlの可溶性BCMAを含有する培地中の抗BCMA02及び抗BCMA10 CAR T細胞における炎症性サイトカイン放出の量を示す。
【
図8A】約100mm
3の実験用皮下ヒト多発性骨髄腫(RPMI-8226)腫瘍を有するNOD scidガンマ(NSG)マウスにおける腫瘍体積を示す。マウスを、ビヒクル、10
7抗BCMA02 CAR T細胞、10
7抗BCMA10 CAR T細胞、またはボルテゾミブ(ベルケイド)で処置した。
【
図8B】約100mm
3の実験用皮下ヒト多発性骨髄腫(RPMI-8226)腫瘍を有するNOD scidガンマ(NSG)マウスにおける腫瘍体積を示す。マウスを、ビヒクル、10
7抗BCMA02 CAR T細胞、10
7抗BCMA10 CAR T細胞、またはボルテゾミブ(ベルケイド)で処置した。
【
図9】リンパ腫及び白血病細胞系のBCMA発現レベル(丸)及び各細胞系に対する抗BCMA CAR T細胞の活性(IFNγ放出、ボックス)を示す。BCMA陰性(BCMA-)腫瘍細胞系:骨髄性白血病(K562)、急性リンパ芽球性白血病(NALM-6及びNALM-16);マントル細胞リンパ腫(REC-1);またはホジキンリンパ腫;(HDLM-2)は、IFNγ放出をほとんど、または全く示さなかった。BCMA陽性(BCMA+)腫瘍細胞系:B細胞慢性リンパ芽球性白血病(MEC-1)、マントル細胞リンパ腫(JeKo-1)、ホジキンリンパ腫(RPMI-6666)、バーキットリンパ腫(Daudi細胞及びRamos細胞)、及び多発性骨髄腫(RPMI-8226)は、実質的なIFNγ放出を示した。
【
図10A】CAR T細胞が腫瘍誘発後8日目にマウスに投与されるとき、NSGマウスモデルにおいてバーキットリンパ腫細胞(Daudi細胞)を発現するBCMAに対するビヒクル、抗CD19Δ CAR T細胞、抗CD19 CAR T細胞及び抗BCMA CAR T細胞のインビボ活性を示す。
【
図10B】CAR T細胞が腫瘍誘発後18日目にマウスに投与されるとき、NSGマウスモデルにおいてバーキットリンパ腫細胞(Daudi細胞)を発現するBCMAに対するビヒクル、抗CD19Δ CAR T細胞、抗CD19 CAR T細胞及び抗BCMA CAR T細胞のインビボ活性を示す。
【
図11A】
図11は、50パーセント減少した抗BCMA CAR発現で達成された抗BCMA CAR T細胞の強力なインビトロ活性を示す。(A)T細胞集団は、抗BCMA CAR分子(5~40のMOI)をコードするレンチウイルスの4x10
8~5x10
7の形質導入単位を形質導入された。得られたT細胞集団は、26±4%抗BCMA CAR陽性T細胞を含有するように正規化された。(B)正規化された抗BCMA CAR T細胞のMFIは、フローサイトメトリーによりアッセイされたとき、885~1875の範囲であった。(C)K562細胞及びK562-BCMA細胞を、比較可能な細胞溶解活性を示した20:1または10:1のエフェクター(E;T細胞)対標的(T;K562とK562 BCMA細胞との1:1混合)比で、正規化された抗BCMA CAR T細胞と共培養した。
【
図11B】
図11は、50パーセント減少した抗BCMA CAR発現で達成された抗BCMA CAR T細胞の強力なインビトロ活性を示す。(A)T細胞集団は、抗BCMA CAR分子(5~40のMOI)をコードするレンチウイルスの4x10
8~5x10
7の形質導入単位を形質導入された。得られたT細胞集団は、26±4%抗BCMA CAR陽性T細胞を含有するように正規化された。(B)正規化された抗BCMA CAR T細胞のMFIは、フローサイトメトリーによりアッセイされたとき、885~1875の範囲であった。(C)K562細胞及びK562-BCMA細胞を、比較可能な細胞溶解活性を示した20:1または10:1のエフェクター(E;T細胞)対標的(T;K562とK562 BCMA細胞との1:1混合)比で、正規化された抗BCMA CAR T細胞と共培養した。
【
図11C】
図11は、50パーセント減少した抗BCMA CAR発現で達成された抗BCMA CAR T細胞の強力なインビトロ活性を示す。(A)T細胞集団は、抗BCMA CAR分子(5~40のMOI)をコードするレンチウイルスの4x10
8~5x10
7の形質導入単位を形質導入された。得られたT細胞集団は、26±4%抗BCMA CAR陽性T細胞を含有するように正規化された。(B)正規化された抗BCMA CAR T細胞のMFIは、フローサイトメトリーによりアッセイされたとき、885~1875の範囲であった。(C)K562細胞及びK562-BCMA細胞を、比較可能な細胞溶解活性を示した20:1または10:1のエフェクター(E;T細胞)対標的(T;K562とK562 BCMA細胞との1:1混合)比で、正規化された抗BCMA CAR T細胞と共培養した。
【
図12A】
図12は、抗BCMA CAR T細胞の製造プロセスの信頼度を示す。(A)11の個々のドナーのPBMCから製造された抗BCMA CAR T細胞産物は、形質導入されていないドナーT細胞の対応培養物と比較して、比較可能な拡張レベルを示す。(B)11のドナーから製造された抗BCMA CAR T細胞産物は、比較可能なレンチウイルス形質導入効率(VCN)を示した。(C)抗BCMA CAR陽性T細胞の頻度はフローサイトメトリーにより測定され、BCMA発現は全てのドナーにわたって比較可能であることが分かった。(D)11のドナーから製造された抗BCMA CAR T細胞産物は、BCMA発現K562細胞に曝露されたとき、治療的に関係のあるIFNγ放出レベルを示した。
【
図12B】
図12は、抗BCMA CAR T細胞の製造プロセスの信頼度を示す。(A)11の個々のドナーのPBMCから製造された抗BCMA CAR T細胞産物は、形質導入されていないドナーT細胞の対応培養物と比較して、比較可能な拡張レベルを示す。(B)11のドナーから製造された抗BCMA CAR T細胞産物は、比較可能なレンチウイルス形質導入効率(VCN)を示した。(C)抗BCMA CAR陽性T細胞の頻度はフローサイトメトリーにより測定され、BCMA発現は全てのドナーにわたって比較可能であることが分かった。(D)11のドナーから製造された抗BCMA CAR T細胞産物は、BCMA発現K562細胞に曝露されたとき、治療的に関係のあるIFNγ放出レベルを示した。
【
図12C】
図12は、抗BCMA CAR T細胞の製造プロセスの信頼度を示す。(A)11の個々のドナーのPBMCから製造された抗BCMA CAR T細胞産物は、形質導入されていないドナーT細胞の対応培養物と比較して、比較可能な拡張レベルを示す。(B)11のドナーから製造された抗BCMA CAR T細胞産物は、比較可能なレンチウイルス形質導入効率(VCN)を示した。(C)抗BCMA CAR陽性T細胞の頻度はフローサイトメトリーにより測定され、BCMA発現は全てのドナーにわたって比較可能であることが分かった。(D)11のドナーから製造された抗BCMA CAR T細胞産物は、BCMA発現K562細胞に曝露されたとき、治療的に関係のあるIFNγ放出レベルを示した。
【
図12D】
図12は、抗BCMA CAR T細胞の製造プロセスの信頼度を示す。(A)11の個々のドナーのPBMCから製造された抗BCMA CAR T細胞産物は、形質導入されていないドナーT細胞の対応培養物と比較して、比較可能な拡張レベルを示す。(B)11のドナーから製造された抗BCMA CAR T細胞産物は、比較可能なレンチウイルス形質導入効率(VCN)を示した。(C)抗BCMA CAR陽性T細胞の頻度はフローサイトメトリーにより測定され、BCMA発現は全てのドナーにわたって比較可能であることが分かった。(D)11のドナーから製造された抗BCMA CAR T細胞産物は、BCMA発現K562細胞に曝露されたとき、治療的に関係のあるIFNγ放出レベルを示した。
【
図13】IL-2、またはIL-2及びZSTK474の存在下で10日間培養されたCD62L陽性抗BCMA02 T細胞におけるCD127、CD197、及びCD38の同時発現のベン図を示す。ZSTK474処理された抗BCMA02 CAR T細胞は、IL-2単独で培養された抗BCMA CAR T細胞と比較して、CD127、CD197、及びCD38を同時発現する細胞の割合において増加を示した。
【
図14】IL-2単独で処理された培養物と比較して、IL-2及びZSTK474(n=7)で処理された培養物においてCD8発現抗BCMA02 CAR T細胞の割合の増加を示す。CD8の発現は、蛍光標識された抗CD8抗体及びフローサイトメトリーを使用して決定された。
【
図15】IL-2単独またはIL-2及びZSTK474で培養した後の、14のドナーからの抗BCMA02 CAR T細胞により放出されたIFN-γの量を示す。培養期間の終了時に、同等数の抗BCMA02 CAR T細胞が培地単独中で24時間再培養された。24時間内に放出されたIFN-γの量はELISAにより数量化された。ZSTK474中での培養は、IL-2単独で培養された抗BCMA02 CAR T細胞と比較して、抗BCMA02 CAR T細胞強直性サイトカイン放出を大幅に増加しなかった。
【
図16】高悪性度のDaudi腫瘍モデルにおける、IL-2もしくはIL-2及びZSTK474で処理された抗BCMA02 CAR T細胞、またはIL-2及びZSTK474で処理された、切り詰められたシグナル伝達欠損抗BCMA02 (tBCMA02) CAR T細胞の抗腫瘍活性を示す。完全な腫瘍縮小は、IL-2及びZSTK474で処理された抗BCMA02 CAR T細胞を投与された50%のマウスにおいて観察された。
【
図17】多発性骨髄腫の腫瘍(RPMI-8226)モデルにおける、IL-2、またはIL-2及びZSTK474で処理された抗BCMA02 CAR T細胞の抗腫瘍活性を示す。IL-2、またはIL-2及びZSTK474培養された抗BCMA02 CAR T細胞で処置された動物は、腫瘍の成長を完全に阻止した。
【0080】
配列識別子の簡単な説明
配列番号1~3は、本明細書において想定されるBCMA CARの例示的な軽鎖CDR配列のアミノ酸配列を記載する。
配列番号4~6は、本明細書において想定されるBCMA CARの例示的な重鎖CDR配列のアミノ酸配列を記載する。
配列番号7は、本明細書において想定されるBCMA CARの例示的な軽鎖配列のアミノ酸配列を記載する。
配列番号8は、本明細書において想定されるBCMA CARの例示的な重鎖配列のアミノ酸配列を記載する。
配列番号9は、本明細書において想定される例示的なBCMA CARのアミノ酸配列を記載する。
配列番号10は、本明細書において想定される例示的なBCMA CARをコードするポリヌクレオチド配列を記載する。
配列番号11は、ヒトBCMAのアミノ酸配列を記載する。
配列番号12~22は、様々なリンカーのアミノ酸配列を記載する。
配列番号23~35は、プロテアーゼ切断部位及び自己切断型ポリペプチド切断部位のアミノ酸配列を記載する。
配列番号36は、BCMA CARをコードするベクターのポリヌクレオチド配列を記載する。
【発明を実施するための形態】
【0081】
A.概要
本発明は概して、B細胞関連状態を治療するための、改善された組成物及び方法に関する。本明細書で使用される場合、「B細胞関連状態」という用語は、不適切なB細胞活性及びB細胞悪性腫瘍に関係する状態に関する。
【0082】
特定の実施形態では、本発明は、遺伝子改変免疫エフェクター細胞を使用する、B細胞関連状態の改善された養子細胞療法に関する。遺伝的アプローチは、免疫認識及び癌細胞の排除を強化するための手段の可能性を提案する。有望な戦略の1つは、癌細胞に細胞傷害性を再指向するキメラ抗原受容体(CAR)を発現するために免疫エフェクター細胞を遺伝子操作することである。しかしながら、B細胞障害を治療するための既存の養子細胞免疫療法は、細胞がB細胞の全てまたは大部分上に発現された抗原を標的とするため、体液性免疫を損なう深刻なリスクを提示する。したがって、このような療法は臨床的に望ましくなく、よって、当該技術分野において、体液性免疫を温存するB細胞関連状態のためのより効率的な療法が必要である。
【0083】
本明細書に開示される養子細胞療法の改善された組成物及び方法は、B細胞発現B細胞成熟抗原(BCMA、CD269、または腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー17;TNFRSF17としても知られる)を標的とすることにより、容易に増幅し、インビボにおいて長期持続性を呈し、かつ体液性免疫の障害を低減することができる遺伝子改変エフェクター細胞を提供する。
【0084】
BCMAは、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーのメンバーである(例えば、Thompson et al.,J.Exp.Medicine,192(1):129-135,2000及びMackay et al.,Annu.Rev.Immunol,21:231-264,2003を参照されたい。BCMAはB細胞活性化因子(BAFF)及び増殖誘発リガンド(APRIL)に結合する(例えば、Mackay et al.,2003 and Kalled et al.,Immunological Reviews,204:43-54,2005を参照されたい)。非悪性細胞の中でも、BCMAは、大半が形質細胞及び成熟B細胞のサブセットにおいて発現されることが報告されている(例えば、Laabi et al.,EMBO J.,77(1):3897-3904,1992、Laabi et al.,Nucleic Acids Res.,22(7):1147-1154,,1994、Kalled et al.,2005、O’Connor et al.,J.Exp.Medicine,199(1):91-97,2004及びNg et al.,J.Immunol.,73(2):807-817,2004を参照されたい。BCMAが欠損するマウスは健康であり、正常な数のB細胞を有するが、長寿命形質細胞の生存が障害される(例えば、O’Connor et al.,2004、Xu et al.,Mol.Cell.Biol,21(12): 4067-4074,2001及びSchiemann et al.,Science,293(5537):2 111-21 14,2001を参照されたい)。BCMA RNAは、普遍的に、多発性骨髄腫細胞及び他のリンパ腫において検出されており、BCMAタンパク質は、数人の研究者により、多発性骨髄腫患者からの形質細胞の表面上で検出された(例えば、Novak et al.,Blood,103(2):689-694,2004、Neri et al.,Clinical Cancer Research,73(19): 5903-5909,2007、Bellucci et al.,Blood,105(10):3945-3950,2005及びMoreaux et al.,Blood,703(8):3148-3157,2004を参照されたい。
【0085】
様々な実施形態では、マウス抗BCMA抗体配列を含むCARは、特定のヒト抗体配列を含むBCMA CARと比較して非常に有効であり、強固なインビボ増幅を受け、BMCAを発現するヒトB細胞を認識し、BCMA発現B細胞に対して細胞障害活性を示し、活性化されたT細胞によって放出されたサイトカインが非感染性発熱を促す系において突然の炎症応答を引き起こす、死に至る可能性がある状態である、サイトカインストームを誘発する徴候を示さない。
【0086】
一実施形態では、マウスBCMA抗体または抗原結合断片、膜貫通ドメイン、及び1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインを含む抗CARが提供される。
【0087】
一実施形態では、本明細書において想定されるCARを発現するように遺伝子改変される免疫エフェクター細胞が提供される。CARを発現するT細胞は、本明細書において、CAR T細胞またはCAR改変T細胞と称される。
【0088】
様々な実施形態では、本明細書において想定される遺伝子改変免疫エフェクター細胞は、B細胞関連状態、例えば、B細胞に関連する自己免疫疾患またはB細胞悪性腫瘍を有する患者に投与される。
【0089】
本発明の実施は、反対が具体的に示されない限り、当該技術分野の範囲内である化学、生化学、有機化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA技法、遺伝学、免疫学、及び細胞生物学の従来の方法を採用し、それらの多くは図示の目的のため以下に記載される。このような技法は文献に完全に説明されている。例えば、Sambrook,et al.,Molecular Cloning: A Laboratory Manual(3rd Edition,2001)、Sambrook,et al.,Molecular Cloning: A Laboratory Manual(2nd Edition,1989)、Maniatis et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1982)、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley and Sons,updated July 2008)、Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience、Glover,DNA Cloning:A Practical Approach,vol.I&II(IRL Press,Oxford,1985)、Anand,Techniques for the Analysis of Complex Genomes,(Academic Press,New York,1992)、Transcription and Translation(B.Hames&S.Higgins,Eds.,1984)、Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning(1984)、Harlow and Lane,Antibodies,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1998)Current Protocols in Immunology Q.E.Coligan,A.M.Kruisbeek,D.H.Margulies,E.M.Shevach and W.Strober,eds.,1991)、Annual Review of ImmunologyならびにAdvances in Immunologyなどのジャーナルの単行書を参照されたい。
【0090】
B.定義
別様に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似する、または等価の任意の方法及び材料が本発明の実施または試験に使用され得るが、組成物、方法、及び材料の好ましい実施形態が本明細書において記載される。本発明の目的のため、次の用語が以下に定義される。
【0091】
冠詞「a」、「an」及び「the」は、本明細書において、冠詞の文法的目的の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ、または1つ以上)を指すように使用される。例として、「an element(ある要素)」は1つの要素または1つ以上の要素を意味する。
【0092】
代替(例えば、「or(または)」)の使用は、代替のうちの1つ、両方、またはその任意の組み合わせのいずれかを意味するように理解されるべきである。
【0093】
「及び/または」という用語は、代替のうちの1つまたは両方のいずれかを意味するように理解されるべきである。
【0094】
本明細書で使用される場合、「約」または「およそ」という用語は、参照の分量、レベル、値、数、頻度、割合、寸法、サイズ、量、重量、または長さに対して15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%ほど変動する分量、レベル、値、数、頻度、割合、寸法、サイズ、量、重量、または長さを指す。一実施形態では、「約」または「およそ」という用語は、参照の分量、レベル、値、数、頻度、割合、寸法、サイズ、量、重量、または長さについて±15%、±10%、±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%、または±1%の分量、レベル、値、数、頻度、割合、寸法、サイズ、量、重量、または長さの範囲を指す。
【0095】
本明細書全体を通して、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「comprise(含む)」、「comprises」、及び「comprising」は、記述のステップもしくは要素、またはステップもしくは要素の群を含むことを暗示するが、任意の他のステップもしくは要素、またはステップもしくは要素の群を除外することを暗示しないことを理解する。「からなる」とは、句「からなる」に続くもの全てを含み、それに限定されることを意味する。よって、「からなる」という句は、列記される要素が必要であるか、または必須であり、他の要素が存在し得ないことを示す。「から本質的になる」とは、句の後に列記される任意の要素を含み、列記された要素の開示において指定された活性または作用に干渉しない、または寄与しない他の要素に限定されることを意味する。よって、「から本質的になる」という句は、列記される要素が必要であるか、または必須であるが、列記された要素の活性または作用に物質的に影響を及ぼす他の要素が存在しないことを示す。
【0096】
本明細書全体を通して、「一実施形態」、「ある実施形態」、「特定の実施形態」、「関連する実施形態」、「ある特定の実施形態、「追加の実施形態」、もしくは「更なる実施形態」、またはこれらの組み合わせに対する言及は、実施形態に関して記載される特定の特徴、構造、または特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。よって、本明細書全体を通して様々な箇所での前述の句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態に対して言及されない。更に、特定の特徴、構造、または特性は、1つ以上の実施形態において、任意の好適な様式で組み合わされてよい。一実施形態の特徴の積極的な記載が特定の実施形態における特徴を除外する根拠とならないことも理解する。
【0097】
C.キメラ抗原受容体
様々な実施形態では、免疫エフェクター細胞の細胞傷害性をB細胞に再指向する遺伝子操作された受容体が提供される。これらの遺伝子操作された受容体は、本明細書において、キメラ抗原受容体(CAR)と称される。CARは、特定の抗BCMA細胞免疫活性を呈するキメラタンパク質を生成するために、所望の抗原(例えば、BCMA)に対する抗体ベースの特異性をT細胞受容体活性化細胞内ドメインと組み合わせる分子である。本明細書で使用される場合、「キメラ」という用語は、異なる起源からの異なるタンパク質またはDNAの一部で構成されることを説明する。
【0098】
本明細書において想定されるCARは、BCMAに結合する細胞外ドメイン(結合ドメインまたは抗原特異的結合ドメインとも称される)、貫通膜ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む。CARの抗BCMA抗原結合ドメインの、標的細胞の表面上のBCMAとの会合は、CARのクラスター化をもたらし、CAR含有細胞に活性化刺激を送達する。CARの主な特性は、免疫エフェクター細胞の特異性を再指向し、それにより、主な組織適合性(MHC)依存様式で標的抗原発現細胞の細胞死を媒介することができる分子の増殖、サイトカイン産生、食作用、または産生を引き起こし、モノクローナル抗体、可溶性リガンド、または細胞特異的共受容体の細胞特異的標的能を利用するそれらの能力である。
【0099】
様々な実施形態では、CARは、マウス抗BCMA特異的結合ドメインを含む細胞外結合ドメイン、膜貫通ドメイン、1つ以上の細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン、及び一次シグナル伝達ドメインを含む。
【0100】
特定の実施形態では、CARは、マウス抗BCMA抗体またはその抗原結合断片を含む細胞外結合ドメイン、1つ以上のヒンジドメインまたはスペーサードメイン、1つ以上の細胞内共刺激シグナル伝達ドメインを含む膜貫通ドメイン、及び一次シグナル伝達ドメインを含む。
【0101】
1.結合ドメイン
特定の実施形態では、本明細書において想定されるCARは、B細胞上に発現されたヒトBCMAポリペプチドに特異的に結合するマウス抗BCMA抗体またはその抗原結合断片を含む、細胞外結合ドメインを含む。本明細書で使用される場合、「結合ドメイン」、「細胞外ドメイン」、「細胞外結合ドメイン」、「抗原特異的結合ドメイン」、及び「細胞外抗原特異的結合ドメイン」という用語は、交換可能に使用され、対象の標的抗原、例えば、BCMAに特異的に結合する能力を有するCARを提供する。結合ドメインは、天然、合成、半合成、または組換え源のいずれかに由来し得る。
【0102】
本明細書で使用される場合、「特異的結合親和性」、または「特異的に結合する」、または「特異的に結合された」、または「特異的結合」、または「特異的に標的とする」という用語は、バックグラウンド結合よりも大きい結合親和性での、抗BCMA抗体またはその抗原結合断片(またはそれを含むCAR)の、BCMAへの結合を説明する。結合ドメイン(または結合ドメインもしくは結合ドメインを含有する融合タンパク質を含むCAR)は、例えば、約105 M-1以上の親和性またはKaでBCMAに結合するか、またはそれと会合する(すなわち、1/Mの単位での特定の結合相互作用の平衡会合定数)場合、BCMAに「特異的に結合する」。ある特定の実施形態では、結合ドメイン(またはその融合タンパク質)は、約106 M-1、107 M-1、108 M-1、109 M-1、1010 M-1、1011 M-1、1012 M-1、または1013
M-1以上のKaで標的に結合する。「高親和性」結合ドメイン(またはその単鎖融合タンパク質)は、少なくとも107 M-1、少なくとも108 M-1、少なくとも109 M-1、少なくとも1010 M-1、少なくとも1011 M-1、少なくとも1012 M-1、少なくとも1013 M-1以上を有するKaのこれらの結合ドメインを指す。
【0103】
あるいは、親和性は、Mの単位での特定の結合相互作用(例えば、10-5 M~10-13 M以下)の平衡解離定数(Kd)として定義され得る。本開示による結合ドメインポリペプチド及びCARタンパク質の親和性は、従来の技法を使用して、例えば、競合ELISA(酵素結合免疫吸着法)、または結合会合、または標識リガンドを使用する変位アッセイ、またはBiacore T100(Biacore,Inc.,Piscataway,NJから入手可能である)などの表面プラズモン共鳴装置を使用すること、またはそれぞれ、Corning及びPerkin Elmerから入手可能なEPICシステムもしくはEnSpireなどの光学バイオセンサー技術により、容易に決定され得る(例えば、Scatchard et al.(1949)Ann.N.Y.Acad.Sci.51:660及び米国特許第5,283,173号、第5,468,614号またはその等価物も参照されたい)。
【0104】
一実施形態では、特異的結合の親和性は、バックグラウンド結合より約2倍大きい、バックグラウンド結合より約5倍大きい、バックグラウンド結合より約10倍大きい、バックグラウンド結合より約20倍大きい、バックグラウンド結合より約50倍大きい、バックグラウンド結合より約100倍大きい、またはバックグラウンド結合より約1000倍以上大きい。
【0105】
特定の実施形態では、CARの細胞外結合ドメインは、抗体またはその抗原結合断片を含む。「抗体」は、免疫細胞により認識されるものなど、抗原決定基を含有するペプチド、脂質、多糖、または核酸など、抗原のエピトープを特異的に認識し、それに結合する、少なくとも軽鎖または重鎖免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドである。
【0106】
「抗原(Ag)」は、動物における抗体の産生またはT細胞応答を刺激することができる化合物、組成物、または物質を指し、動物に注射または吸収される組成物(癌特異的タンパク質を含むものなど)を含む。抗原は、開示される抗原などの異種抗原により誘発されたものを含む、特定の体液性または細胞性免疫の産物と反応する。特定の実施形態では、標的抗原はBCMAポリペプチドのエピトープである。
【0107】
「エピトープ」または「抗原決定基」は、結合剤が結合する抗原の領域を指す。エピトープは、タンパク質の三次折り畳み構造により並置された隣接アミノ酸または非隣接アミノ酸の両方から形成され得る。隣接アミノ酸から形成されたエピトープは典型的には、変性溶媒への曝露により保持されるが、三次折り畳み構造により形成されたエピトープは典型的には、変性溶媒での処理により失われる。エピトープは典型的には、独特な空間的立体構造において、少なくとも3個、より一般的には少なくとも5個、約9個、または約8~10個のアミノ酸を含む。
【0108】
抗体は、Camel Ig、Ig NAR、Fab断片、Fab’断片、F(ab)’2断片、F(ab)’3断片、Fv、単鎖Fvタンパク質(「scFv」)、ビス-scFv、(scFv)2,ミニボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ジスルフィド安定化Fvタンパク質(「dsFv」)、及び単一ドメイン抗体(sdAb、ナノボディ)、ならびに抗原結合に関与する完全長抗体の一部など、その抗原結合断片を含む。本用語は、キメラ抗体(例えば、ヒト化マウス抗体)、ヘテロ結合抗体(二重特異性抗体など)、及びそれらの抗原結合断片などの遺伝子操作された形態も含む。Pierce Catalog and Handbook,1994-1995(Pierce Chemical Co.,Rockford,IL)、Kuby,J.,Immunology,3rd Ed.,W.H.Freeman&Co.,New York,1997も参照されたい。
【0109】
当業者によって理解されるように、また本明細書の別の箇所に記載されるように、完全抗体は2本の重鎖及び2本の軽鎖を含む。各重鎖は、可変領域、ならびに第1、第2、及び第3の定常領域からなり、一方各軽鎖は、可変領域及び定常領域からなる。哺乳類の重鎖はα、δ、ε、γ、及びμに分類される。哺乳類の軽鎖はλまたはκに分類される。α、δ、ε、γ、及びμの重鎖を含む免疫グロブリンは、免疫グロブリン(Ig)A、IgD、IgE、IgG、及びIgMに分類される。完全抗体は「Y」字形状を形成する。Yのステムは一緒に結合した2本の重鎖の第2及び第3の定常領域(IgE及びIgMに関しては、第4定常領域)からなり、ジスルフィド結合(鎖間)はヒンジに形成される。重鎖γ、α、及びδは、3つのタンデム(一列の)Igドメイン、及び柔軟性を高めるためのヒンジ領域で構成された定常領域を有し、重鎖μ及びεは、4つの免疫グロブリンドメインで構成された定常領域を有する。第2及び第3の定常領域は、それぞれ、「CH2ドメイン」及び「CH3ドメイン」と称される。Yの各アームは、単一の軽鎖の可変及び定常領域に結合された単一の重鎖の可変領域及び第1定常領域を含む。軽鎖及び重鎖の可変領域は抗原結合に関与する。
【0110】
軽鎖及び重鎖の可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」とも呼ばれる3つの超可変領域によって中断される「フレームワーク」領域を含有する。CDRは、従来の方法、例えば、Kabat et al(Wu,TT and Kabat,E.A.,J Exp Med.132(2):211-50,(1970)、Borden,P.and Kabat E.A.,PNAS,84: 2440-2443(1987)(参照により本明細書に組み込まれるKabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest, U.S. Department of Health and Human Services,1991を参照されたい)による配列により、またはChothia et al(Choithia,C.and Lesk,A.M.,J Mol.Biol.,196(4):901-917(1987)、Choithia,C.et al,Nature,342:877-883(1989))による構造などにより定義または特定され得る。
【0111】
異なる軽鎖及び重鎖のフレームワーク領域の配列は、ヒトなど、種内で比較的保存される。構成物である軽鎖及び重鎖の組み合わされたフレームワーク領域である抗体のフレームワーク領域は、3次元空間においてCDRを位置付け、アライメントするのに役立つ。CDRは主に、抗原のエピトープへの結合に関与する。各鎖のCDRは典型的には、CDR1、CDR2、及びCDR3と称され、N末端から開始して順次番付され、典型的には特定のCDRが位置する鎖によっても特定される。よって、抗体の重鎖の可変ドメインに位置するCDRは、CDRH1、CDRH2、及びCDRH3と称される一方で、抗体の軽鎖の可変ドメインに位置するCDRは、CDRL1、CDRL2、及びCDRL3と称される。異なる特異性(すなわち、異なる抗原に対する異なる組み合わせ部位)を有する抗体は、異なるCDRを有する。抗体間で異なるのはCDRであるが、CDR内の制限された数のアミノ酸位置のみが抗原結合に直接関与する。CDR内のこれらの位置は特異性決定残基(SDR)と呼ばれる。本明細書において想定されるヒト化BCMA CARを構築するのに好適である軽鎖CDRの例示的な例は、配列番号1~3に記載されるCDR配列を含むが、これらに限定されない。本明細書において想定されるヒト化BCMA CARを構築するのに好適である重鎖CDRの例示的な例は、配列番号4~6に記載されるCDR配列を含むが、これらに限定されない。
【0112】
「VH」または「VH」に対する言及は、抗体、Fv、scFv、dsFv、Fabまたは本明細書に開示される他の抗体断片のものを含む、免疫グロブリン重鎖の可変領域を指す。「VL」または「VL」に対する言及は、抗体、Fv、scFv、dsFv、Fabまたは本明細書に開示される他の抗体断片のものを含む、免疫グロブリン軽鎖の可変領域を指す。
【0113】
「モノクローナル抗体」は、Bリンパ球の単一クローンにより、または単一抗体の軽鎖及び重鎖遺伝子が形質移入された細胞により産生された抗体である。モノクローナル抗体は、当業者に既知の方法、例えば、骨髄腫細胞の免疫脾臓細胞との融合からのハイブリッド抗体形成細胞を作製することにより産生される。モノクローナル抗体はヒト化モノクローナル抗体を含む。
【0114】
「キメラ抗体」は、ヒトなどの1つの種からのフレームワーク残基及びマウスなどの別の種からのCDR(一般的に抗原結合を付与する)を有する。特定の好ましい実施形態では、本明細書において想定されるCARは、キメラ抗体またはその抗原結合断片である抗原特異的結合ドメインを含む。
【0115】
「ヒト化」抗体は、ヒトフレームワーク領域及び非ヒト(例えば、マウス、ラット、または合成)免疫グロブリンからの1つ以上のCDRを含む免疫グロブリンである。CDRを提供する非ヒト免疫グロブリンは「ドナー」と呼ばれ、フレームワークを提供するヒト免疫グロブリンは「アクセプター」と呼ばれる。
【0116】
特定の実施形態では、マウス抗BCMA抗体またはその抗原結合断片は、Camel Ig(ラクダ科動物の抗体(VHH))、Ig NAR、Fab断片、Fab’断片、F(ab)’2断片、F(ab)’3断片、Fv、単鎖Fv抗体(「scFv」)、ビス-scFv、(scFv)2、ミニボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ジスルフィド安定化Fvタンパク質(「dsFv」)、及び単一ドメイン抗体(sdAb、ナノボディ)を含むが、これらに限定されない。
【0117】
本明細書で使用される場合、「Camel Ig」または「ラクダ科動物のVHH」は、重鎖抗体の最小の既知の抗原結合単位を指す(Koch-Nolte,et al,FASEB J.,21:3490-3498(2007))。「重鎖抗体」または「ラクダ科動物の抗体」は、2つのVHドメインを含有し、軽鎖を含有しない抗体を指す(Riechmann L.et al,J.Immunol.Methods 231:25-38(1999)、WO94/04678、WO94/25591、米国特許第6,005,079号)。
【0118】
「免疫グロブリンの新しい抗原受容体」の「IgNAR」は、1つの可変の新しい抗原受容体(VNAR)ドメイン及び5つの定常の新しい抗原受容体(CNAR)ドメインのホモ二量体からなるサメ免疫レパートリーからの抗体のクラスを指す。IgNARは、最小の既知の免疫グロブリンベースの足場タンパク質の一部を表し、非常に安定しており、効率的な結合特性を保有する。固有の安定性は、(i)マウス抗体に見られる従来の抗体のVH及びVLドメインと比較して、相当な数の荷電及び親水性表面が曝露された残基を提示する、基礎となるIg足場、ならびに(ii)ループ間ジスルフィド架橋を含む相補性決定領域(CDR)における安定化構造特徴及びループ内水素結合のパターンの両方に起因し得る。
【0119】
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片を産生し、各々、単一抗原結合部位及び残留「Fc」断片を有し、その名称は容易に結晶化するその能力を反映する。ペプシン処理は、2つの抗原結合部位を有し、尚も抗原を架橋結合することができるF(ab′)2断片をもたらす。
【0120】
「Fv」は、完全な抗原結合部位を含有する最小抗体断片である。一実施形態では、2鎖Fv種は、密着した非共有会合にある1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。単鎖Fv(scFv)種において、1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメインは、軽鎖及び重鎖が2鎖Fv種のものに類似する「二量体」構造で会合することができるように、柔軟なペプチドリンカーにより共有結合され得る。各可変ドメインの3つの超可変領域(HVR)がVH-VL二量体の表面上の抗原結合部位を画定するように相互作用するのは、この構成である。集合的に、6つのHVRは、抗体に抗原結合特異性を付与する。しかしながら、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つのHVRのみを含むFvの半分)でさえ、結合部位全体よりも低い親和性であるが、抗原を認識し、それに結合する能力を有する。
【0121】
Fab断片は重鎖及び軽鎖の可変ドメインを含有し、また軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1定常ドメイン(CH1)も含有する。Fab′断片は、抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステインを含む、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端でのいくつかの残基の付加により、Fab断片とは異なる。Fab′-SHは、本明細書において、定常ドメインのシステイン残基(複数可)が遊離チオール基を有するFab′の名称である。F(ab′)2抗体断片は、本来、間にヒンジシステインを有する対のFab′断片として産生された。抗体断片の他の化学カップリングも既知である。
【0122】
「ダイアボディ」という用語は、2つの抗原結合部位を有する抗体断片を指し、この断片は、同じポリペプチド鎖中の軽鎖可変ドメイン(VL)に接続された重鎖可変ドメイン(VH)(VH-VL)を含む。同じ鎖上の2つのドメイン間での対合を可能にするには短すぎるリンカーを使用することにより、ドメインは別の鎖の相補的ドメインと対合させられ、2つの抗原結合部位を作製する。ダイアボディは、二価または二重特異性であり得る。ダイアボディは、例えば、EP404,097、WO1993/01161、Hudson et al.,Nat.Med.9:129-134(2003)及びHollinger et al.,PNAS USA 90:6444-6448(1993)により完全に記載される。トリアボディ及びテトラボディも、Hudson et al.,Nat.Med.9:129-134(2003)に記載されている。
【0123】
「単一ドメイン抗体」もしくは「sdAb」、または「ナノボディ」は、抗体の重鎖の可変領域(VHドメイン)または抗体の軽鎖の可変領域(VLドメイン)からなる抗体断片を指す(Holt,L.,et al,Trends in Biotechnology,21(11):484-490)。
【0124】
「単鎖Fv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖中に、及びいずれかの配向(例えば、VL-VHまたはVH-VL)で存在する。一般に、scFvポリペプチドは、scFvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にする、VHとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーを更に含む。scFvの概説については、例えば、Pluckthuen,in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,(Springer-Verlag,New York,1994),pp.269-315を参照されたい。
【0125】
好ましい実施形態では、本明細書において想定されるCARは、マウスscFvである抗原特異的結合ドメインを含む。単鎖抗体は、所望の標的に特異的なハイブリドーマのV領域遺伝子からクローニングされ得る。このようなハイブリドーマの産生は通例となった。可変領域重鎖(VH)及び可変領域軽鎖(VL)をクローニングするために使用され得る技法は、例えば、Orlandi et al.,PNAS,1989;86:3833-3837に記載されている。
【0126】
特定の実施形態では、ヒトBCMAポリペプチドに結合するマウスscFvである抗原特異的結合ドメイン。本明細書において想定されるBCMA CARを構築するのに好適である可変重鎖の例示的な例は、配列番号8に記載されるアミノ酸配列を含むが、これに限定されない。本明細書において想定されるBCMA CARを構築するのに好適である可変軽鎖の例示的な例は、配列番号7に記載されるアミノ酸配列を含むが、これに限定されない。
【0127】
本明細書に提供されるBCMA特異的結合ドメインは、1、2、3、4、5または6つのCDRも含む。このようなCDRは、軽鎖のCDRL1、CDRL2、及びCDRL3、ならびに重鎖のCDRH1、CDRH2、及びCDRH3から選択される非ヒトCDRまたは変更された非ヒトCDRであり得る。ある特定の実施形態では、BCMA特異的結合ドメインは、(a)軽鎖CDRL1、軽鎖CDRL2、及び軽鎖CDRL3を含む軽鎖可変領域、ならびに(b)重鎖CDRH1、重鎖CDRH2、及び重鎖CDRH3を含む重鎖可変領域を含む。
【0128】
2.リンカー
ある特定の実施形態では、本明細書において想定されるCARは、様々なドメイン間に、例えば、分子の適切な間隔及び立体構造のために付加されたリンカー残基を含み得る。特定の実施形態では、リンカーは、可変領域連結配列である。「可変領域連結配列」は、得られるポリペプチドが、同じ軽鎖及び重鎖可変領域を含む抗体と同じ標的分子に対して特異的結合親和性を保持するように、VH及びVLドメインを接続し、2つのサブ結合ドメインの相互作用と適合性のあるスペーサー機能を提供するアミノ酸配列である。本明細書において想定されるCARは、1、2、3、4、または5つ以上のリンカーを含み得る。特定の実施形態では、リンカーの長さは、約1~約25個のアミノ酸、約5~約20個のアミノ酸、もしくは約10~約20個のアミノ酸、または任意の介在長さのアミノ酸である。いくつかの実施形態では、リンカーは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25個以上のアミノ酸長である。
【0129】
リンカーの例示的な例は、グリシンポリマー(G)n、グリシン-セリンポリマー(G1-5S1-5)n(ここで、nは少なくとも1、2、3、4、または5の整数である)、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、及び当該技術分野において既知の他の柔軟なリンカーを含む。グリシン及びグリシン-セリンポリマーは、比較的構造不定であり、したがって、本明細書に記載されるCARなどの融合タンパク質のドメイン間の中性のテザーとして機能することが可能であり得る。グリシンはアラニンよりも非常に大きいファイ-プサイ空間にアクセスし、より長い側鎖を有する残基よりも大幅に制限が少ない(Scheraga,Rev.Computational Chem.11173-142(1992)を参照されたい)。当業者は、特定の実施形態におけるCARの設計が、リンカーが所望のCAR構造を提供するために柔軟なリンカーならびにあまり柔軟ではない構造を付与する1つ以上の一部を含み得るように、全てまたは部分的に柔軟であるリンカーを含み得ることを認識するだろう。
【0130】
他の例示的なリンカーは、限定されないが、以下のアミノ酸配列を含む:GGG、DGGGS(配列番号12)、TGEKP(配列番号13)(例えば、Liu et al.,PNAS 5525-5530(1997)を参照されたい)、GGRR(配列番号14)(Pomerantz et al.1995、上記)、(GGGGS)n(ここで、=1、2、3、4、または5(配列番号15)(Kim et al.,PNAS 93,1156-1160(1996.)、EGKSSGSGSESKVD(配列番号16)(Chaudhary et al.,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:1066-1070)、KESGSVSSEQLAQFRSLD(配列番号17)(Bird et al.,1988,Science 242:423-426)、GGRRGGGS(配列番号18)、LRQRDGERP(配列番号19)、LRQKDGGGSERP(配列番号20)、LRQKd(GGGS)2 ERP(配列番号21)。代替的に、柔軟なリンカーは、DNA結合部位及びペプチド自体の両方をモデル化することができるコンピュータプログラムを使用して(Desjarlais&Berg,PNAS 90:2256-2260(1993),PNAS 91:11099-11103(1994)、またはファージディスプレイ法により、合理的に設計され得る。一実施形態では、リンカーは、以下のアミノ酸配列を含む:GSTSGSGKPGSGEGSTKG(配列番号22)(Cooper et al.,Blood,101(4):1637-1644(2003))。
【0131】
3.スペーサードメイン
特定の実施形態では、CARの結合ドメインは、適切な細胞/細胞接触、抗原結合、及び活性化を可能にするためにエフェクター細胞表面から離れて抗原結合ドメインを移動する領域を指す、1つ以上の「スペーサードメイン」が後に続く(Patel et al.,Gene Therapy,1999;6:412-419)。ヒンジドメインは、天然、合成、半合成、または組換え源のいずれかに由来し得る。ある特定の実施形態では、スペーサードメインは、1つ以上の重鎖定常領域、例えば、CH2及びCH3を含むがこれらに限定されない、免疫グロブリンの一部である。スペーサードメインは、天然に生じる免疫グロブリンヒンジ領域または変更された免疫グロブリンヒンジ領域のアミノ酸配列を含み得る。
【0132】
一実施形態では、スペーサードメインは、IgG1またはIgG4のCH2及びCH3領域を含む。
【0133】
4.ヒンジドメイン
CARの結合ドメインには一般に、適切な細胞/細胞接触、抗原結合、及び活性化を可能にするためにエフェクター細胞表面から離れて抗原結合ドメインを位置付ける機能を果たす、1つ以上の「ヒンジドメイン」が後に続く。CARは一般に、結合ドメインと膜貫通ドメイン(TM)との間に1つ以上のヒンジドメインを含む。ヒンジドメインは、天然、合成、半合成、または組換え源のいずれかに由来し得る。ヒンジドメインは、天然に生じる免疫グロブリンヒンジ領域または変更された免疫グロブリンヒンジ領域のアミノ酸配列を含み得る。
【0134】
「変更されたヒンジ領域」は、(a)最大30%のアミノ酸変化(例えば、最大25%、20%、15%、10%、または5%のアミノ酸置換または欠失)を有する天然に生じるヒンジ領域、(b)最大30%のアミノ酸変化(例えば、最大25%、20%、15%、10%、または5%のアミノ酸置換または欠失)を有する、長さが少なくとも10個のアミノ酸(例えば、少なくとも12、13、14、または15個のアミノ酸)である天然に生じるヒンジ領域の一部、または(c)コアヒンジ領域(長さが、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、もしくは15個、または少なくとも4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、もしくは15個のアミノ酸であり得る)を含む天然に生じるヒンジ領域の一部を指す。ある特定の実施形態では、天然に生じる免疫グロブリンヒンジ領域における1つ以上のシステイン残基は、1つ以上の他のアミノ酸残基(例えば、1つ以上のセリン残基)によって置換され得る。変更された免疫グロブリンヒンジ領域は、代替的にまたは追加的に、別のアミノ酸残基(例えば、セリン残基)によって置換された野生型免疫グロブリンヒンジ領域のプロリン残基を有する。
【0135】
本明細書に記載されるCARにおいて使用するのに好適な他の例示的なヒンジドメインは、CD8α、CD4、CD28、及びCD7などの1型膜タンパク質の細胞外領域に由来するヒンジ領域を含み、これは、これらの分子からの野生型ヒンジ領域であり得るか、または変更され得る。別の実施形態では、ヒンジドメインはCD8αヒンジ領域を含む。
【0136】
5.膜貫通(TM)ドメイン
「膜貫通ドメイン」は、細胞外結合部分及び細胞内シグナル伝達ドメインを融合し、CARを免疫エフェクター細胞の形質膜に固着させるCARの一部である。TMドメインは、天然、合成、半合成、または組換え源のいずれかに由来し得る。TMドメインは、T細胞受容体のアルファ、ベータ、またはゼータ鎖CD3ε、CD3ζ、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD27、CD28、CD33、CD37、CD45、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD152、CD154、及びPD1に由来し得る(すなわち、これらの少なくとも膜貫通領域(複数可)を含む)。特定の実施形態では、TMドメインは合成であり、圧倒的に、ロイシン及びバリンなどの疎水性残基を含む。
【0137】
一実施形態では、本明細書において想定されるCARは、CD8αに由来するTMドメインを含む。別の実施形態では、本明細書において想定されるCARは、CD8αに由来するTMドメイン、及びCARのTMドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを連結する、好ましくは長さが1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の間のアミノ酸の短いオリゴ-またはポリペプチドリンカーを含む。グリシン-セリンベースのリンカーは特に好適なリンカーを提供する。
【0138】
6.細胞内シグナル伝達ドメイン
特定の実施形態では、本明細書において想定されるCARは、細胞内シグナル伝達ドメインを含む。「細胞内シグナル伝達ドメイン」は、エフェクター細胞機能、例えば、活性化、サイトカイン産生、増殖、及び細胞傷害性活性(CAR結合標的細胞への細胞傷害性因子の放出または細胞外CARドメインに結合する抗原により引き起こされた他の細胞応答を含む)を引き起こすために、ヒトBCMAポリペプチドに結合する有効なBCMA CARのメッセージを、免疫エフェクター細胞の内部に伝達する際に関与するCARの一部を指す。
【0139】
「エフェクター機能」という用語は、免疫エフェクター細胞の特殊機能を指す。例えば、T細胞のエフェクター機能は、細胞溶解活性、またはサイトカインの分泌を含む補助もしくは活性であり得る。よって、「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクター機能シグナルを伝達し、特殊機能を行うために細胞を指向するタンパク質の一部を指す。通常、細胞内シグナル伝達ドメイン全体が採用され得るが、多くの場合、ドメイン全体を使用する必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインの切り詰められた部分が使用される程度において、このような切り詰められた部分は、エフェクター機能シグナルを伝達する限り、ドメイン全体の代わりに使用され得る。細胞内シグナル伝達ドメインという用語は、エフェクター機能シグナルの伝達に十分な細胞内シグナル伝達ドメインの任意の切り詰められた部分を含むことを意味する。
【0140】
TCRのみを通して生成されたシグナルはT細胞の完全な活性化に不十分であり、二次または共刺激シグナルが必要とされることも既知である。よって、T細胞活性化は、TCRを通した抗原依存性一次活性化を開始する一次シグナル伝達ドメイン(例えば、TCR/CD3複合体)及び二次または共刺激シグナルを提供するように抗原依存様式で作用する共刺激シグナル伝達ドメインの、2つの別個のクラスの細胞内シグナル伝達ドメインにより媒介されると言うことができる。好ましい実施形態では、本明細書において想定されるCARは、1つ以上の「共刺激シグナル伝達ドメイン」及び「一次シグナル伝達ドメイン」を含む細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0141】
一次シグナル伝達ドメインは、刺激方法または阻害方法のいずれかで、TCR複合体の一次活性化を調節する。刺激様式で作用する一次シグナル伝達ドメインは、免疫受容体チロシンベース活性化モチーフまたはITAMとして知られる、シグナル伝達モチーフを含有し得る。
【0142】
本発明において特定の用途のものである一次シグナル伝達ドメインを含有するITAMの例示的な例は、TCRζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dに由来するものを含む。特定の好ましい実施形態では、CARは、CD3ζ一次シグナル伝達ドメイン及び1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインを含む。細胞内一次シグナル伝達ドメイン及び共刺激シグナル伝達ドメインは、任意の順序で、タンデムで、膜貫通ドメインのカルボキシル末端に連結され得る。
【0143】
本明細書において想定されるCARは、CAR受容体を発現するT細胞の有効性及び増幅を強化するために、1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインを含む。本明細書で使用される場合、「共刺激シグナル伝達ドメイン」または「共刺激ドメイン」という用語は、共刺激分子の細胞内シグナル伝達ドメインを指す。共刺激分子は、抗原に結合するときにTリンパ球の効率的な活性化及び機能に必要な二次シグナルを提供する抗原受容体またはFc受容体以外の細胞表面分子である。このような共刺激分子の例示的な例としては、CARD11、CD2、CD7、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD150(SLAMF1)、CD152(CTLA4)、CD223(LAG3)、CD270(HVEM)、CD273(PD-L2)、CD274(PD-L1)、CD278(ICOS)、DAP10、LAT、NKD2C SLP76、TRIM、及びZAP70が挙げられる。一実施形態では、CARは、CD28、CD137、及びCD134からなる群から選択される1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメイン、ならびにCD3ζ一次シグナル伝達ドメインを含む。
【0144】
別の実施形態では、CARは、CD28及びCD137共刺激シグナル伝達ドメイン、ならびにCD3ζ一次シグナル伝達ドメインを含む。
【0145】
また別の実施形態では、CARは、CD28及びCD134共刺激シグナル伝達ドメイン、ならびにCD3ζ一次シグナル伝達ドメインを含む。
【0146】
一実施形態では、CARは、CD137及びCD134共刺激シグナル伝達ドメイン、ならびにCD3ζ一次シグナル伝達ドメインを含む。
【0147】
特定の実施形態では、本明細書において想定されるCARは、B細胞上に発現されたヒトBCMAポリペプチドに特異的に結合するマウス抗BCMA抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0148】
一実施形態では、CARは、BCMAポリペプチドに結合するマウス抗BCMA scFv、T細胞受容体のアルファ、ベータ、またはゼータ鎖CD3ε、CD3ζ、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD27、CD28、CD33、CD37、CD45、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD152、CD154、及びPD1からなる群から選択される、ポリペプチドに由来する膜貫通ドメイン、ならびにCARD11、CD2、CD7、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD150(SLAMF1)、CD152(CTLA4)、CD223(LAG3)、CD270(HVEM)、CD273(PD-L2)、CD274(PD-L1)、CD278(ICOS)、DAP10、LAT、NKD2C SLP76、TRIM、及びZAP70からなる群から選択される、共刺激分子からの1つ以上の細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン、ならびにTCRζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dからの一次シグナル伝達ドメインを含む。
【0149】
一実施形態では、CARは、BCMAポリペプチドに結合するマウス抗BCMA scFv、IgG1ヒンジ/CH2/CH3、IgG4ヒンジ/CH2/CH3、及びCD8αヒンジからなる群から選択されるヒンジドメイン、T細胞受容体のアルファ、ベータ、またはゼータ鎖CD3ε、CD3ζ、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD27、CD28、CD33、CD37、CD45、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD152、CD154、及びPD1からなる群から選択される、ポリペプチドに由来する膜貫通ドメイン、ならびにCARD11、CD2、CD7、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD150(SLAMF1)、CD152(CTLA4)、CD223(LAG3)、CD270(HVEM)、CD273(PD-L2)、CD274(PD-L1)、CD278(ICOS)、DAP10、LAT、NKD2C SLP76、TRIM、及びZAP70からなる群から選択される、共刺激分子からの1つ以上の細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン、ならびにTCRζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dからの一次シグナル伝達ドメインを含む。
【0150】
一実施形態では、CARは、BCMAポリペプチドに結合するマウス抗BCMA scFv、IgG1ヒンジ/CH2/CH3、IgG4ヒンジ/CH2/CH3、及びCD8αヒンジからなる群から選択されるヒンジドメイン、T細胞受容体のアルファ、ベータ、またはゼータ鎖CD3ε、CD3ζ、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD27、CD28、CD33、CD37、CD45、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD152、CD154、及びPD1からなる群から選択される、ポリペプチドに由来する膜貫通ドメイン、CARのTMドメインを細胞内シグナル伝達ドメインに連結する、好ましくは長さが1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の間のアミノ酸の短いオリゴ-またはポリペプチドリンカー、ならびにCARD11、CD2、CD7、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD150(SLAMF1)、CD152(CTLA4)、CD223(LAG3)、CD270(HVEM)、CD273(PD-L2)、CD274(PD-L1)、CD278(ICOS)、DAP10、LAT、NKD2C SLP76、TRIM、及びZAP70からなる群から選択される、共刺激分子からの1つ以上の細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン、ならびにTCRζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dからの一次シグナル伝達ドメインを含む。
【0151】
特定の実施形態では、CARは、BCMAポリペプチドに結合するマウス抗BCMA scFv、IgG1ヒンジ/CH2/CH3ポリペプチド及びCD8αポリペプチドを含むヒンジドメイン、約3~約10個のアミノ酸のポリペプチドリンカーを含むCD8α膜貫通ドメイン、CD137細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン、ならびにCD3ζ一次シグナル伝達ドメインを含む。
【0152】
特定の実施形態では、CARは、BCMAポリペプチドに結合するマウス抗BCMA scFv、CD8αポリペプチドを含むヒンジドメイン、約3~約10個のアミノ酸のポリペプチドリンカーを含むCD8α膜貫通ドメイン、CD134細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン、ならびにCD3ζ一次シグナル伝達ドメインを含む。
【0153】
特定の実施形態では、CARは、BCMAポリペプチドに結合するマウス抗BCMA scFv、CD8αポリペプチドを含むヒンジドメイン、約3~約10個のアミノ酸のポリペプチドリンカーを含むCD8α膜貫通ドメイン、CD28細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン、ならびにCD3ζ一次シグナル伝達ドメインを含む。
【0154】
更に、本明細書において想定されるCARの設計は、改変されていないT細胞または他のCARを発現するように改変されたT細胞と比較して、CARを発現するT細胞における、増幅、長期持続性、及び許容される細胞傷害性の性質の改善を可能にする。
【0155】
D.ポリペプチド
本発明は、一部、CARポリペプチド及びその断片、ならびにそれを含む細胞及び組成物、ならびにポリペプチドを発現するベクターを想定する。好ましい実施形態では、配列番号9に記載される、1つ以上のCARを含むポリペプチドが提供される。
【0156】
「ポリペプチド」、「ポリペプチド断片」、「ペプチド」、及び「タンパク質」は、反対が明記されない限り、交換可能に、及び従来の意味、すなわち、アミノ酸の配列として使用される。ポリペプチドは特定の長さに限定されず、例えば、それらは、完全長タンパク質配列または完全長タンパク質の断片を含み得、ポリペプチドの翻訳後修飾、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化など、ならびに天然に生じる及び天然に生じない両方の、当該技術分野において既知の他の修飾を含み得る。様々な実施形態では、本明細書において想定されるCARポリペプチドは、タンパク質のN末端にシグナル(またはリーダー)配列を含み、これはタンパク質の移動を同時翻訳により、または翻訳後に指向する。本明細書に開示されるCARにおいて有用な好適なシグナル配列の例示的な例は、IgG重鎖シグナル配列及びCD8αシグナル配列を含むが、これらに限定されない。ポリペプチドは、様々な周知の組換え及び/または合成技法のいずれかを使用して調製され得る。本明細書において想定されるポリペプチドは、本開示のCAR、または本明細書に開示されるCARの1つ以上のアミノ酸からの欠失、それへの付加、及び/もしくはその置換を有する配列を包含する。
【0157】
本明細書で使用される場合、「単離されたペプチド」または「単離されたポリペプチド」などは、細胞環境からの、及び細胞の他の構成成分との会合からの(すなわち、インビボ物質と顕著に会合しない)ペプチドまたはポリペプチドのインビトロ単離及び/または精製を指す。同様に、「単離された細胞」は、インビボ組織または臓器から得られた細胞を指し、実質的に細胞外マトリックスを含まない。
【0158】
ポリペプチドは「ポリペプチドバリアント」を含む。ポリペプチドバリアントは、1つ以上の置換、欠失、付加、及び/または挿入において、天然に生じるポリペプチドとは異なり得る。このようなバリアントは、天然に生じ得るか、または例えば、上記のポリペプチド配列のうちの1つ以上を改変することにより、合成により生成され得る。例えば、特定の実施形態では、CARポリペプチドの結合ドメイン、ヒンジ、TMドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン、または一次シグナル伝達ドメインに、1つ以上の置換、欠失、付加、及び/または挿入を導入することにより、CARの結合親和性及び/または他の生物学的性質を改善することが望ましい場合がある。好ましくは、本発明のポリペプチドは、それに少なくとも約65%、70%、75%、85%、90%、95%、98%、または99%のアミノ酸同一性を有するポリペプチドを含む。
【0159】
ポリペプチドは「ポリペプチド断片」を含む。ポリペプチド断片はポリペプチドを指し、これは、天然に生じるもしくは組換え産生ポリペプチドのアミノ末端欠失、カルボキシル末端欠失、及び/もしくは内部欠失、または置換を有する、単量体または多量体であり得る。ある特定の実施形態では、ポリペプチド断片は、少なくとも5~約500個のアミノ酸長のアミノ酸鎖を含み得る。ある特定の実施形態では、断片は、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、150、200、250、300、350、400、または450個のアミノ酸長であることを理解する。特に有用なポリペプチド断片は、抗体の抗原結合ドメインまたは断片を含む機能ドメインを含む。マウス抗BCMA抗体の場合では、有用な断片は、重鎖または軽鎖のCDR3領域であるCDR領域、重鎖または軽鎖の可変領域、抗体鎖の一部、または2つのCDRを含む可変領域などを含むが、これらに限定されない。
【0160】
ポリペプチドはまた、インフレームに融合されるか、またはポリペプチド(例えば、ポリ-His)の合成、精製、もしくは特定を容易にするためのリンカーまたは他の配列に抱合される場合もある。
【0161】
上記のように、本発明のポリペプチドは、アミノ酸置換、欠失、切り詰め、及び挿入を含む、様々な方法で変更され得る。このような操作方法は当該技術分野において一般に既知である。例えば、参照ポリペプチドのアミノ酸配列バリアントは、DNAにおける突然変異により調製され得る。突然変異誘発及びヌクレオチド配列の変更方法は、当該技術分野において周知である。例えば、Kunkel(1985,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.82:488-492)、Kunkel et al.,(1987,Methods in Enzymol,154: 367-382)、米国特許第4,873,192号、Watson,J.D.et al.,(Molecular Biology of the Gene,Fourth Edition,Benjamin/Cummings,Menlo Park,Calif.,1987)及びそれらの中で引用される参考文献を参照されたい。対象のタンパク質の生物学的活性に影響を及ぼさない適切なアミノ酸置換に関するガイダンスは、Dayhoff et al.,(1978)Atlas of Protein Sequence and Structure(Natl.Biomed.Res.Found.,Washington,D.C.)のモデルに見出すことができる。
【0162】
ある特定の実施形態では、バリアントは、保存置換を含有する。「保存置換」とは、ペプチド化学分野における当業者がポリペプチドの二次構造及び疎水性/親水性(hydropathic nature)が実質的に変化しないことを予想するように、アミノ酸が類似する性質を有する別のアミノ酸に置換されるものである。改変は本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドの構造において行われ、尚も望まし特性を有するバリアントまたは誘導体ポリペプチドをコードする機能分子を得ることができる。ポリペプチドのアミノ酸配列を変更して、本発明のポリペプチドと等価なまたは更には改善されたバリアントを創出することが所望される場合、当業者は、例えば、表1に従ってコードDNA配列のコドンのうちの1つ以上を変更することができる。
【表1】
【0163】
どのアミノ酸残基が生物学的活性を消失することなく置換、挿入、または欠失され得るかを決定するガイダンスは、DNASTAR(商標)ソフトウェアなどの当該技術分野において周知のコンピュータプログラムを使用して見出すことができる。好ましくは、本明細書に開示されるタンパク質バリアントにおけるアミノ酸変化は、保存的アミノ酸変化、すなわち、類似して荷電されたまたは未荷電のアミノ酸の置換である。保存的アミノ酸変化は、それらの側鎖において関連するアミノ酸のファミリーのうちの1つの置換を伴う。天然に生じるアミノ酸は一般に、酸性(アスパラギン酸、グルタミン酸)、塩基性(リジン、アルギニン、ヒスチジン)、非極性(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、及び未荷電の極性(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン)アミノ酸の4つのファミリーに分類される。フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンは、時折、芳香族アミノ酸として一緒に分類される。ペプチドまたはタンパク質において、アミノ酸の好適な保存的置換は、本技術分野における当業者に既知であり、一般に、得られる分子の生物学的活性を変更することなく作製され得る。当業者は、一般に、ポリペプチドの非必須領域における単一のアミノ酸置換が実質的に生物学的活性を変更しないことを認識している(例えば、Watson et al.Molecular Biology of the Gene,4th Edition,1987,The Benjamin/Cummings Pub.Co.,p.224を参照されたい)。例示的な保存的置換は、米国仮特許出願第61/241,647号に記載されており、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0164】
このような変更を行う際、アミノ酸のハイドロパシー・インデックス(hydropathic index)が考慮され得る。タンパク質に相互作用的な生物学的機能を付与する際のハイドロパシーアミノ酸インデックスの重要性は当該技術分野において一般的に理解されている(Kyte and Doolittle,1982、参照により本明細書に組み込まれる)。各アミノ酸は、その疎水性及び荷電特性に基づいてハイドロパシー・インデックスを割り当てられている(Kyte and Doolittle,1982)。それらの値は、イソロイシン(+4.5)、バリン(+4.2)、ロイシン(+3.8)、フェニルアラニン(+2.8)、システイン/システイン(+2.5)、メチオニン(+1.9)、アラニン(+1.8)、グリシン(-0.4)、スレオニン(-0.7)、セリン(-0.8)、トリプトファン(-0.9)、チロシン(-1.3)、プロリン(-1.6)、ヒスチジン(-3.2)、グルタミン酸(-3.5)、グルタミン(-3.5)、アスパラギン酸(-3.5)、アスパラギン(-3.5)、リジン(-3.9)及びアルギニン(-4.5)である。
【0165】
ある特定のアミノ酸が、類似するハイドロパシー・インデックスまたはスコアを有する他のアミノ酸により置換され、それでも類似する生物学的活性を有するタンパク質をもたらし得る、すなわち、それでも生物学機能的に等価なタンパク質が得られることは当該分野において既知である。このような変更を行う際に、ハイドロパシー・インデックスが±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内のものが特に好ましく、±0.5以内のものが更により特に好ましい。同様なアミノ酸の置換が親水性に基づいて効果的に行うことができることも当該分野において理解されている。
【0166】
米国特許第4,554,101号に詳述されているように、以下の親水性値がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0)、リジン(+3.0)、アルパラギン酸(+3.0±1)、グルタミン酸(+3.0±1)、セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、グリシン(0)、スレオニン(-0.4)、プロリン(-0.5±1)、アラニン(-0.5)、ヒスチジン(-0.5)、システイン(-1.0)、メチオニン(-1.3)、バリン(-1.5)、ロイシン(-1.8)、イソロイシン(-1.8)、チロシン(-2.3)、フェニルアラニン(-2.5)、トリプトファン(-3.4)。アミノ酸は類似する親水性値を有する別のものに置換することができ、それでも生物学的に等価で、特に免疫学的に等価なタンパク質を得られることが理解される。このような変更の際に、親水性値が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内のものが特に好ましく、±0.5以内のものが更により特に好ましい。
【0167】
上に要約されるように、アミノ酸置換は、アミノ酸側鎖置換基の、例えば、それらの疎水性、親水性、電荷、サイズなどの相対的類似性に基づいてもよい。
【0168】
ポリペプチドバリアントは、グリコシル化形態、他の分子との凝集性抱合体、及び無関係な化学部分(例えば、ペグ化分子)との共有結合抱合体を更に含む。共有結合バリアントは、当該技術分野において既知である、アミノ酸鎖に見出される基に、またはNもしくはC末端残基で官能基を連結することにより調製され得る。バリアントは、対立遺伝子バリアント、種バリアント、及び変異タンパク質も含む。タンパク質の機能活性に影響を及ぼさない領域の切り詰めまたは欠失もバリアントである。
【0169】
一実施形態では、2つ以上のポリペプチドの発現が所望される場合、それらをコードするポリヌクレオチド配列は、本明細書の別の箇所で論じられるように、及びIRES配列によって分離され得る。別の実施形態では、2つ以上のポリペプチドは、1つ以上の自己切断型ポリペプチド配列を含む融合タンパク質として発現され得る。
【0170】
本発明のポリペプチドは融合ポリペプチドを含む。好ましい実施形態では、融合ポリペプチド、及び融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、例えば、CARが提供される。融合ポリペプチド及び融合タンパク質は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、または10以上のポリペプチドセグメントを有するポリペプチドを指す。融合ポリペプチドは典型的には、C末端がN末端に連結されるが、それらは、C末端がC末端に、N末端がN末端に、またはN末端がC末端にも連結され得る。融合タンパク質のポリペプチドは、任意の順序で、または指定された順序であり得る。融合ポリペプチドまたは融合タンパク質は、融合ポリペプチドの所望の転写活性が保存される限り、保存的に改変されたバリアント、多型性バリアント、対立遺伝子、変異体、サブ配列、及び種間相同体も含み得る。融合ポリペプチドは、化学合成方法もしくは2つの部分間の化学連結により産生され得るか、または他の標準的な技法を使用して一般的に調製され得る。融合ポリペプチドを含む連結されたDNA配列は、本明細書の別の箇所で論じられるように、好適な転写または翻訳制御要素に動作可能に連結される。
【0171】
一実施形態では、融合パートナーは、未変性組換えタンパク質よりも高い収率でタンパク質の発現を補助する配列(発現エンハンサー)を含む。他の融合パートナーは、タンパク質の溶解度を増加させるように、またはタンパク質が所望の細胞内区画を標的とする、もしくは細胞膜を通した融合タンパク質の輸送を容易にすることができるように選択され得る。
【0172】
融合ポリペプチドは、本明細書に記載されるポリペプチドドメインの各々の間にポリペプチド切断シグナルを更に含み得る。加えて、ポリペプチド部位は、任意のリンカーペプチド配列に入れることができる。例示的なポリペプチド切断シグナルは、プロテアーゼ切断部位、ヌクレアーゼ切断部位(例えば、稀な制限酵素認識部位、自己切断型リボザイム認識部位)、及び自己切断型ウイルスオリゴペプチドなどのポリペプチド切断認識部位を含む(deFelipe and Ryan,2004.Traffic,5(8);616-26を参照されたい)。
【0173】
好適なプロテアーゼ切断部位及び自己切断型ペプチドは当業者に既知である(例えば、Ryan et al.,1997.J.Gener.Virol.78,699-722、Scymczak et al.(2004)Nature Biotech.5,589-594を参照されたい)。例示的なプロテアーゼ切断部位は、ポティウイルスNIaプロテアーゼ(例えば、タバコエッチウイルスプロテアーゼ)、ポティウイルスHCプロテアーゼ、ポティウイルスP1(P35)プロテアーゼ、ビオウイルスNIaプロテアーゼ、ビオウイルスRNA-2コードプロテアーゼ、アフトウイルスLプロテアーゼ、エンテロウイルス2Aプロテアーゼ、ライノウイルス2Aプロテアーゼ、ピコルナ3Cプロテアーゼ、コモウイルス24Kプロテアーゼ、ネポウイルス24Kプロテアーゼ、RTSV(イネツングロ球状ウイルス)3C様プロテアーゼ、PYVF(パースニップ黄斑ウイルス)3C様プロテアーゼ、ヘパリン、トロンビン、因子Xa、及びエンテロキナーゼを含むが、これらに限定されない。その高い切断厳密性により、TEV(タバコエッチウイルス)プロテアーゼ切断部位、例えば、EXXYXQ(G/S)(配列番号23)、例えば、ENLYFQG(配列番号24)、及びENLYFQS(配列番号25)(ここで、Xは、任意のアミノ酸を表す(TEVによる切断がQとGまたはQとSとの間で生じる)が一実施形態において好ましい。
【0174】
特定の実施形態では、自己切断型ペプチドは、ポティウイルス及びカルジオウイルス2Aペプチド、FMDV(口蹄疫ウイルス)、ウマ鼻炎Aウイルス、ゾセア・アシグナ(Thosea asigna)ウイルス、及びブタテシオウイルスから得られたこれらのポリペプチド配列を含む。
【0175】
ある特定の実施形態では、自己切断型ポリペプチド部位は、2Aもしくは2A様部位、配列、またはドメインを含む(Donnelly et al.,2001.J.Gen.Virol.82:1027-1041)。
【表2】
【0176】
好ましい実施形態では、本明細書において想定されるポリペプチドはCARポリペプチドを含む。
【0177】
E.ポリヌクレオチド
好ましい実施形態では、1つ以上のCARポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、例えば、配列番号10が提供される。本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」または「核酸」という用語は、メッセンジャーRNA(mRNA)、RNA、ゲノムRNA(gRNA)、+鎖RNA(RNA(+))、-鎖RNA(RNA(-))、ゲノムDNA(gDNA)、相補DNA(cDNA)、または組換えDNAを指す。ポリヌクレオチドは、1本鎖及び2本鎖ポリヌクレオチドを含む。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、典型的には、バリアントが参照配列の少なくとも1つの生物学的活性を維持する、本明細書に記載される参照配列のいずれか(例えば、配列表を参照されたい)に対して少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドまたはバリアントを含む。様々な例示的な実施形態では、本発明は、一部、発現ベクター、ウイルスベクター、及び伝達性プラスミドを含むポリヌクレオチド、ならびにそれを含む組成物及び細胞を想定する。
【0178】
特定の実施形態では、本発明のポリペプチドの少なくとも約5、10、25、50、100、150、200、250、300、350、400、500、1000、1250、1500、1750、または2000個以上の隣接アミノ酸残基、ならびに全ての中間の長さをコードするポリヌクレオチドが本発明によって提供される。本文脈における「中間の長さ」は、6、7、8、9等、101、102、103等、151、152、153等、201、202、203等、引用符で囲まれた値間の任意の長さを意味することは容易に理解される。
【0179】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチドバリアント」及び「バリアント」などの用語は、下文に定義される厳密な条件下で参照配列とハイブリダイズする参照ポリヌクレオチド配列またはポリヌクレオチドと実質的な配列同一性を示すポリヌクレオチドを指す。これらの用語は、1つ以上のヌクレオチドが、参照ポリヌクレオチドと比較して、付加されたかもしくは欠失された、または異なるヌクレオチドに置き換えられたポリヌクレオチドを含む。この点において、突然変異、付加、欠失、及び置換を含むある特定の変更は、参照ポリヌクレオチドに対して行われ得、それにより変更されたポリヌクレオチドは参照ポリヌクレオチドの生物学的機能または活性を保持することは十分に理解されている。
【0180】
本明細書で使用される場合、「配列同一性」または例えば、「に対して50%同一の配列」を含む記述は、配列が、比較枠にわたってヌクレオチド単位基準でまたはアミノ酸単位基準で同一である程度を指す。よって、「配列同一性の割合」は、比較枠にわたって2つの最適にアライメントされた配列を比較すること、同一の核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I)または同一のアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、Cys、及びMet)が両方の配列で生じる位置数を決定して対応位置数を得ること、比較枠の総位置数(すなわち、枠のサイズ)で対応位置数を除すること、及びその結果を100で乗じて配列同一性の割合を得ることにより計算され得る。典型的には、ポリペプチドバリアントが参照ポリペプチドの少なくとも1つの生物学的活性を維持する、本明細書に記載される参照配列のいずれかに対して少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するヌクレオチド及びポリペプチドが含まれる。
【0181】
2つ以上のポリヌクレオチドまたはポリペプチド間の配列関係を説明するために使用される用語は、「参照配列」、「比較枠」、「配列同一性」、「配列同一性の割合」、及び「実質的な同一性」を含む。「参照配列」は、ヌクレオチド及びアミノ酸残基を含めて、長さが少なくとも12だが、頻繁に15~18、多くの場合少なくとも25の単量体単位である。2つのポリヌクレオチドは、各々、(1)2つのポリヌクレオチド間で類似する配列(すなわち、完全なポリヌクレオチド配列の一部のみ)及び(2)2つのポリヌクレオチド間で多様である配列を含み得るため、2つ(以上)のポリヌクレオチド間の配列比較は典型的には、「比較枠」にわたって2つのポリヌクレオチドの配列を比較して、配列類似性の局所的な領域を特定及び比較することにより行われる。「比較枠」は、2つの配列が最適にアライメントされた後に、ある配列が同じ数の隣接位置の参照配列と比較される、少なくとも6つの隣接位置、一般的には約50~約100、より一般的には約100~約150の概念的セグメントを指す。比較枠は、2つの配列の最適なアライメントの参照配列(付加または欠失を含まない)と比較したとき、約20%以下の付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含み得る。比較枠をアライメントするための配列の最適なアライメントは、コンピュータ化されたアルゴリズムの実装(Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0のGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA、Genetics Computer Group,575 Science Drive Madison,WI,USA)により、または調査及び選択された様々な方法のいずれかによって生成された最良のアライメント(すなわち、比較枠にわたって最高率の相同性をもたらす)により実施され得る。例えば、Altschul et al.,1997,Nucl.Acids Res.25:3389により開示されるプログラムのBLASTファミリーも参照されたい。配列分析の詳細な議論は、Unit 19.3 of Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons Inc,1994-1998,Chapter15に見出すことができる。
【0182】
本明細書で使用される場合、「単離されたポリヌクレオチド」は、天然に生じる状態においてそれに隣接する配列から精製されたポリヌクレオチド、例えば、断片に通常隣接する配列から除去されたDNA断片を指す。「単離されたポリヌクレオチド」は、相補DNA(cDNA)、組換えDNA、または自然界に存在せず、人の手によって作製された他のポリヌクレオチドも指す。
【0183】
ポリヌクレオチドの配向を説明する用語は、5’(通常、遊離リン酸基を有するポリヌクレオチドの末端)及び3’(通常、遊離ヒドロキシル(OH)基を有するポリヌクレオチドの末端)を含む。ポリヌクレオチド配列は、5’から3’配向または3’から5’配向で注釈が付けられ得る。DNA及びmRNAに関して、5’から3’鎖は、その配列がプレメッセンジャー(premRNA)の配列と同一であるため[DNAのチミン(T)の代わりに、RNAのウラシル(U)を除く]、「センス」、「+」、または「コード」鎖と呼ばれる。DNA及びmRNAに関して、RNAポリメラーゼにより転写された鎖である相補3’から5’鎖は、「テンプレート」、「アンチセンス」、「-」、または「非コード」鎖と呼ばれる。本明細書で使用される場合、「逆配向」という用語は、3’から5’配向で書かれた5’から3’配列、または5’から3’配向で書かれた3’から5’配列を指す。
【0184】
「相補的」及び「相補性」という用語は、塩基対合規則によって関係が表されるポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチドの配列)を指す。例えば、DNA配列5’A G T C A T G 3’の相補鎖は3’T C A G T A C 5’である。後者の配列は、左側に5’端、そして右側に3’端の5’C A T G A C T 3’の逆相補として書かれることが多い。その逆相補と等しい配列は、パリンドローム配列と言われる。相補性は「部分的」であり、核酸の塩基のうちのいくつかのみが塩基対合規則に従い一致する。または、核酸間で「完全な」もしくは「全」相補性が存在し得る。
【0185】
更に、遺伝子コードの縮重の結果として、本明細書に記載されるように、ポリペプチドまたはそのバリアントの断片をコードする多くのヌクレオチド配列が存在することが当業者によって理解される。これらのポリヌクレオチドのいくつかは、任意の未変性遺伝子のヌクレオチド配列に対して最小の相同性を有する。それにもかかわらず、コドン使用における相違により変動するポリヌクレオチド、例えば、ヒト及び/または霊長類コドン選択に最適化されるポリヌクレオチドは、本発明により具体的に想定される。更に、本明細書に提供されるポリヌクレオチド配列を含む遺伝子の対立遺伝子も使用され得る。対立遺伝子は、1つ以上の突然変異、例えば、ヌクレオチドの欠失、付加、及び/または置換などの結果として変更される内在性遺伝子である。
【0186】
本明細書で使用される場合、「核酸カセット」という用語は、RNA及び後にタンパク質を発現するベクター内の遺伝子配列を指す。核酸カセットは、対象の遺伝子、例えば、CARを含有する。核酸カセットは、カセット内の核酸がRNAに転写され、必要な場合、タンパク質またはポリペプチドに翻訳され、形質転換された細胞における活性に必要とされる適切な翻訳後修飾を受け、適切な細胞内区画を標的とすること、または細胞内区画への分泌により、生物学的活性のために適切な区画に転座され得るように、ベクター内に、位置的にかつ順次配向される。好ましくは、カセットは、ベクター内への容易な挿入に適合されたその3’端及び5’端を有し、例えば、それは各端に制限エンドンヌクレアーゼ部位を有する。本発明の好ましい実施形態では、核酸カセットは、B細胞悪性腫瘍を治療するために使用されるキメラ抗原受容体の配列を含有する。カセットは除去され、単一単位としてプラスミドまたはウイルスベクター内に挿入される。
【0187】
特定の実施形態では、ポリヌクレオチドは、少なくとも1つの対象のポリヌクレオチドを含む。本明細書で使用される場合、「対象のポリヌクレオチド」という用語は、発現されることが所望される発現ベクター内に挿入される、ポリペプチド(すなわち、対象のポリペプチド)をコードするポリヌクレオチドを指す。ベクターは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10の対象のポリヌクレオチドを含み得る。ある特定の実施形態では、対象のポリヌクレオチドは、疾患または障害の治療または予防に治療効果を提供するポリペプチドをコードする。対象のポリヌクレオチド及びそこからコードされたポリペプチドは、野生型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ならびにその機能バリアント及び断片の両方を含む。特定の実施形態では、機能バリアントは、対応する野生型参照ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の同一性を有する。ある特定の実施形態では、機能バリアントまたは断片は、対応する野生型ポリペプチドの少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%の生物学的活性を有する。
【0188】
一実施形態では、対象のポリヌクレオチドは、ポリペプチドをコードしないが、miRNA、siRNAもしくはshRNA、リボザイム、または他の阻害性RNAを転写するためのテンプレートとして機能する。様々な他の実施形態では、ポリヌクレオチドは、CARをコードする対象のポリヌクレオチド、ならびに限定されないが、siRNA、miRNA、shRNA、及びリボザイムを含む、限定されないが、阻害性核酸配列を含む、1つ以上の追加の対象のポリヌクレオチドを含む。
【0189】
本明細書で使用される場合、「siRNA」または「短鎖干渉RNA」という用語は、動物における配列特異的転写後遺伝子サイレンシング、翻訳阻害、転写阻害、またはエピジェネティックRNAiのプロセスを媒介する短いポリヌクレオチド配列を指す(Zamore et al.,2000,Cell,101,25-33、Fire et al.,1998,Nature,391,806、Hamilton et al.,1999,Science,286,950-951、Lin et al.,1999,Nature,402,128-129、Sharp,1999,Genes&Dev.,13,139-141及びStrauss,1999,Science,286,886)。ある特定の実施形態では、siRNAは、同じ数のヌクレオシドを有する第1の鎖及び第2の鎖を含むが、第1及び第2の鎖は、第1及び第2の鎖上の2つの末端ヌクレオシドが相補鎖上の残基と対合しないように相殺される。ある特定の実施形態では、対合されない2つのヌクレオシドはチミジン残基である。siRNAは、siRNAまたはその断片が標的遺伝子の下方調節を媒介することができるように、標的遺伝子に対して十分な相同性の領域を含み、ヌクレオチドに関して十分な長さのものであるべきである。よって、siRNAは、標的RNAに少なくとも部分的に相補的である領域を含む。siRNAと標的との間に完全な相補性が存在する必要はないが、その対応は、siRNAまたはその切断産物が、標的RNAのRNAi切断などにより配列特異的サイレンシングを指向することができるのに十分でなければならない。標的鎖との相補性または相同性の程度は、アンチセンス鎖において最も重要である。特にアンチセンス鎖における完全な相補性は所望されることが多いが、いくつかの実施形態は、標的RNAに対して、1つ以上だが、好ましくは10、8、6、5、4、3、2以下のミスマッチを含む。ミスマッチは、末端領域において最も許容され、存在する場合、好ましくは、末端領域、または例えば、5’及び/もしくは3’末端の6、5、4、または3ヌクレオチド以内の領域にある。センス鎖は、分子の全体的な2本鎖の特徴を維持するために、アンチセンス鎖と十分に相補的である必要があるのみである。
【0190】
加えて、siRNAは、改変されるか、またはヌクレオシド類似体を含み得る。siRNAの単鎖領域は、改変されるか、またはヌクレオシド類似体、例えば、不対の領域もしくはヘアピン構造の領域を含み得、例えば、2つの相補領域を連結する領域は、改変またはヌクレオシド類似体を有し得る。例えば、エキソヌクレアーゼに対してsiRNAの1つ以上の3’もしくは5’末端を安定させるため、またはRISC内に侵入するためにアンチセンスsiRNA物質を優先するための改変も有用である。改変は、C3(またはC6、C7、C12)アミノリンカー、チオールリンカー、カルボキシルリンカー、非ヌクレオチドスペーサー(C3、C6、C9、C12、脱塩基、トリエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール)、特別なビオチン、またはホスホルアミダイトをもたらし、別のDMT保護されたヒドロキシル基を有し、RNA合成中に多数のカップリングを可能にするフルオロセイン試薬を含み得る。siRNAの各鎖は、長さが30、25、24、23、22、21、または20ヌクレオチド以下であり得る。鎖は、好ましくは、長さが少なくとも19ヌクレオチドである。例えば、各鎖は、長さが21~25ヌクレオチドであり得る。好ましいsiRNAは、17、18、19、29、21、22、23、24、または25ヌクレオチド対の二本鎖領域、及び2~3ヌクレオチドの1つ以上のオーバーハング、好ましくは2~3ヌクレオチドの1または2つの3’オーバーハングを有する。
【0191】
本明細書で使用される「miRNA」または「マイクロRNA」という用語は、20~22ヌクレオチド、典型的には、pre-miRNAとして知られる、約70ヌクレオチドホールドバックRNA前駆体構造から切り取られた、小さい非コードRNAを指す。miRNAは、miRNAと標的との間の相補性の程度により、2つの方法のうちの1つでそれらの標的を負に調節する。第1に、タンパク質コードmRNA配列に完全なまたはほぼ完全な相補性で結合するmiRNAは、RNA媒介干渉(RNAi)経路を誘発する。それらのmRNA標的の3’非翻訳領域(UTR)内の不完全な相補部位に結合することによりそれらの調節作用を及ぼすmiRNAは、RNAi経路に使用されるものに類似する、またはそれとおそらく同一であるRISC複合体を通して、見かけ上は翻訳のレベルで、翻訳後に標的遺伝子発現を抑制する。翻訳制御と一致して、この仕組みを使用するmiRNAは、それらの標的遺伝子のタンパク質レベルを減少させるが、これらの遺伝子のmRNAレベルは、最小限にしか影響されない。miRNAは、天然に生じるmiRNA、ならびに任意のmRNA配列を特異的に標的とし得る人工的に設計されたmiRNAの両方を包含する。例えば、一実施形態では、当業者は、ヒトmiRNA(例えば、miR-30またはmiR-21)一次転写物として発現される短いヘアピンRNA構築物を設計することができる。この設計は、ドローシャプロセシング部位をヘアピン構築物に付加し、ノックダウン効率を大幅に増加させることが示された(Pusch et al.,2004)。ヘアピンステムは、22-ntのdsRNA(例えば、アンチセンスは所望の標的に完全な相補性を有する)及びヒトmiRからの15~19-ntのループからなる。ヘアピンの片側または両側上へのmiRループ及びmiR30フランキング配列の付加は、マイクロRNAなしの従来のshRNA設計と比較したとき、発現されたヘアピンのドローシャ及びダイサープロセシングにおいて10倍超の増加をもたらす。ドローシャ及びダイサープロセシングの増加は、発現されたヘアピンのより高いsiRNA/miRNA産生及びより大きな力価へと変換される。
【0192】
本明細書で使用される場合、「shRNA」または「短いヘアピンRNA」という用語は、単一の自己相補的RNA鎖によって形成される二本鎖構造を指す。標的遺伝子のコードまたは非コード配列のいずれかの一部と同一のヌクレオチド配列を含有するshRNA構築物は、阻害に好ましい。標的配列に対して挿入、欠失、及び一点突然変異を有するRNA配列も阻害に有効であることが見出された。阻害性RNAと標的遺伝子の一部との間で、90%超の配列同一性、または更には100%の配列同一性が好ましい。ある特定の好ましい実施形態では、shRNAの二本鎖形成部分の長さは、例えば、サイズがダイサー依存切断により産生されたRNA産物に相当する、長さが少なくとも20、21、または22ヌクレオチドである。ある特定の実施形態では、shRNA構築物は、長さが少なくとも25、50、100、200、300、または400塩基である。ある特定の実施形態では、shRNA構築物は、長さが400~800塩基である。shRNA構築物は、ループ配列及びループサイズの変化に非常に耐性がある。
【0193】
本明細書で使用される場合、「リボザイム」という用語は、標的mRNAの部位特異的切断を可能にする、触媒的に活性なRNA分子を指す。いくつかのサブタイプ、例えば、ハンマーヘッド型及びヘアピン型リボザイムが説明されてきた。リボザイム触媒活性及び安定性は、非触媒性塩基でデオキシリボヌクレオチドをリボヌクレオチドに置換することにより改善され得る。部位特異的認識配列でmRNAを切断するリボザイムが特定のmRNAを破壊するために使用され得るが、ハンマーヘッド型リボザイムの使用が好ましい。ハンマーヘッド型リボザイムは、標的mRNAと相補的塩基対を形成するフランキング領域により指示された位置でmRNAを切断する。唯一の要件は、標的mRNAが2つの塩基の配列:5′-UG-3′を有することである。ハンマーヘッド型リボザイムの構築及び産生は当該技術分野において周知である。
【0194】
siRNA、miRNA、shRNA、またはリボザイムを含む対象のポリヌクレオチドを送達する好ましい方法は、本明細書の別の箇所に記載されるように、例えば、強い構成的pol III、例えば、ヒトU6 snRNAプロモーター、マウスU6 snRNAプロモーター、ヒト及びマウスH1 RNAプロモーター、ならびにヒトtRNA-valプロモーター、または強い構成的pol IIプロモーターなど、1つ以上の調節配列を含む。
【0195】
本発明のポリヌクレオチドは、コード配列自体の長さにかかわらず、本明細書の別の箇所で開示されるか、または当該技術分野において既知であるように、プロモーター及び/またはエンハンサー、未翻訳領域(UTR)、シグナル配列、コザック配列、ポリアデニル化シグナル、追加の制限酵素部位、多重クローニング部位、リボソーム内部侵入部位(IRES)、リコンビナーゼ認識部位(例えば、LoxP、FRT、及びAtt部位)、終止コドン、転写終止シグナル、及びポリヌクレオチドコード自己切断型ポリペプチド、エピトープタグなどの他のDNA配列と組み合わされ得、それによりそれらの全体的な長さが大幅に変動し得る。したがって、ほぼ全ての長さのポリヌクレオチド断片を採用することができ、合計の長さは、好ましくは、調製の容易さ及び意図される組換えDNAプロトコルの使用により制限されることが想定される。
【0196】
ポリヌクレオチドは、当該技術分野において既知の及び利用可能な様々な十分に確立された技法のいずれかを使用して調製、操作及び/または発現され得る。所望のポリペプチドを発現するために、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が適切なベクターに挿入され得る。ベクターの例は、プラスミド、自律複製配列、及び転位要素である。追加の例示的なベクターは、限定されないが、プラスミド、ファージミド、コスミド、人工染色体、例えば、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、またはP1誘導人工染色体(PAC)など、バクテリオファージ、例えば、ラムダファージまたはM13ファージ、及び動物ウイルスを含む。ベクターとして有用な動物ウイルスのカテゴリーの例としては、限定されないが、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、及びパポバウイルス(例えば、SV40)が挙げられる。発現ベクターの例は、哺乳類細胞における発現のためのpClneoベクター(Promega)、哺乳類細胞におけるレンチウイルス媒介遺伝子導入及び発現のためのpLenti4/V5-DEST(商標)、pLenti6/V5-DEST(商標)、及びpLenti6.2/V5-GW/lacZ(Invitrogen)である。特定の実施形態では、本明細書に開示されるキメラタンパク質のheコード配列が、哺乳類細胞におけるキメラタンパク質の発現のためのこのような発現ベクターに連結され得る。
【0197】
一実施形態では、本明細書において想定されるCARをコードするベクターは、配列番号36に記載される、ポリヌクレオチド配列を含む。
【0198】
特定の実施形態では、ベクターは、エピソームベクター、または染色体外に維持されるベクターである。本明細書で使用される場合、「エピソーム」という用語は、宿主の染色体DNA内に組み込むことなしに、及び宿主細胞の分裂により徐々に失われることなく複製することができるベクターを指し、該ベクターは染色体外またはエピソームで複製することも意味する。ベクターは、リンパ増殖性ヘルペスウイルスもしくはガンマヘルペスウイルス、アデノウイルス、SV40、ウシパピローマウイルス、または酵母からのDNA複製の起源もしくは「ori」、具体的にはEBVのoriPに対応するリンパ増殖性ヘルペスウイルスもしくはガンマヘルペスウイルスの複製起源をコードする配列を保有するように操作される。特定の態様では、リンパ増殖性ヘルペスウイルスは、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV)、サルヘルペスウイルス(HS)、またはマレック病ウイルス(MDV)であり得る。エプスタイン・バーウイルス(EBV)及びカポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV)は、ガンマヘルペスウイルスの例でもある。典型的には、宿主細胞は、複製を活性化するウイルス複製トランス活性化因子タンパク質を含む。
【0199】
発現ベクターに存在する「制御要素」または「調節配列」は、転写及び翻訳を実行するために宿主細胞タンパク質と相互作用する、複製のベクター起源のそれらの非翻訳領域、選択カセット、プロモーター、エンハンサー、翻訳開始シグナル(シャイン・ダルガノ配列またはコザック配列)イントロン、ポリアデニル化配列、5’及び3’非翻訳領域である。このような要素は、それらの強度及び特異性が異なる。利用されるベクター系及び宿主により、任意の数の好適な転写及び翻訳要素(遍在性プロモーター及び誘導性プロモーターを含む)を使用することができる。
【0200】
特定の実施形態では、限定されないが、発現ベクター及びウイルスベクターを含む、本発明を実施する際に使用するためのベクターは、プロモーター及び/またはエンハンサーなどの外因性、内因性、または異種制御配列を含む。「内因性」制御配列は、ゲノムにおいて所与の遺伝子と自然に連結するものである。「外因性」制御配列は、その遺伝子の転写が連結されたエンハンサー/プロモーターにより指向されるように、遺伝子操作の手段(すなわち、分子生物学的技法)により遺伝子と並立に配置されるものである。「異種」制御配列は、遺伝子操作された細胞とは異なる種からの外因性配列である。
【0201】
本明細書で使用される場合、「プロモーター」という用語は、RNAポリメラーゼが結合するポリヌクレオチド(DNAまたはRNA)の認識部位を指す。RNAポリメラーゼは、プロモーターに動作可能に連結されたポリヌクレオチドを開始及び転写する。特定の実施形態では、哺乳類細胞において動作可能なプロモーターは、転写が開始される部位からおよそ25~30塩基上流に位置するAT豊富領域、及び/またはNが任意のヌクレオチドであるCNCAAT領域の、転写の開始から70~80塩基上流に見られる別の配列を含む。
【0202】
「エンハンサー」という用語は、強化された転写を提供することができ、ある場合では、別の制御配列に対するそれらの配向に関係なく機能することができる配列を含有するDNAのセグメントを指す。エンハンサーは、プロモーター及び/もしくは他のエンハンサー要素と協同的または追加的に機能することができる。「プロモーター/エンハンサー」という用語は、プロモーター及びエンハンサー両方の機能を提供することができる配列を含有するDNAのセグメントを指す。
【0203】
「動作可能に連結される」という用語は、記載される構成要素が、それらがそれらの意図される様式で機能することを可能にする関係にある並立を指す。一実施形態では、本用語は、発現制御配列が第2の配列に対応する核酸の転写を指向する、核酸発現制御配列(プロモーター及び/またはエンハンサーなど)と第2のポリヌクレオチド配列、例えば、対象のポリヌクレオチドとの間の機能的連結を指す。
【0204】
本明細書で使用される場合、「構成的発現制御配列」という用語は、動作可能に連結された配列の転写を継続的または連続的に可能にするプロモーター、エンハンサー、またはプロモーター/エンハンサーを指す。構成的発現制御配列は、それぞれ、多種多様な細胞及び組織型における発現を可能にする「遍在性」プロモーター、エンハンサー、もしくはプロモーター/エンハンサー、または限定された様々な細胞及び組織型における発現を可能にする「細胞特異的」、「細胞型特異的」、「細胞系列特異的」、もしくは「組織特異的」プロモーター、エンハンサー、またはプロモーター/エンハンサーであり得る。
【0205】
本発明の特定の実施形態において使用するのに好適な例示的な遍在性発現制御配列は、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター、ウイルス性サルウイルス40(SV40)(例えば、初期または後期)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)LTRプロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTR、単純ヘルペスウイルス(HSV)(チミジンキナーゼ)プロモーター、ワクシニアウイルスからのH5、P7.5及びP11プロモーター、伸長因子1-アルファ(EF1a)プロモーター、初期成長応答1(EGR1)、フェリチンH(FerH)、フェリチンL(FerL)、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)、真核生物翻訳開始因子4A1(EIF4A1)、熱ショック70kDaタンパク質5(HSPA5)、熱ショックタンパク質90kDaベータメンバー1(HSP90B1)、熱ショックタンパク質70kDa(HSP70)、β-キネシン(β-KIN)、ヒトROSA 26座位(Irions et al.,Nature Biotechnology 25,1477-1482(2007))、ユビキチンCプロモーター(UBC)、ホスホグリセリン酸キナーゼ-1(PGK)プロモーター、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ-アクチン(CAG)プロモーター、β-アクチンプロモーター、ならびに骨髄増殖性肉腫ウイルスエンハンサー、負の制御領域欠失dl587revプライマー結合部位置換(MND)プロモーター(Challita et al.,J Virol.69(2):748-55(1995))を含むが、これらに限定されない。
【0206】
一実施形態では、本発明のベクターはMNDプロモーターを含む。
【0207】
一実施形態では、本発明のベクターは、ヒトEF1a遺伝子の第1イントロンを含むEF1aプロモーターを含む。
【0208】
一実施形態では、本発明のベクターは、ヒトEF1a遺伝子の第1イントロンを欠くEF1aプロモーターを含む。
【0209】
特定の実施形態では、T細胞特異的プロモーターからのCARを含むポリヌクレオチドを発現することが望ましい場合がある。
【0210】
本明細書で使用される場合、「条件付き発現」は、限定されないが、誘導性発現、抑制性発現、特定の生理学的、生物学的、もしくは疾患状態等を有する細胞または組織における発現を含む、任意の種類の条件付き発現を指し得る。この定義は、細胞型または組織特異的発現を除外することを意図しない。本発明のある特定の実施形態は、対象のポリヌクレオチドの条件付き発現を提供し、例えば、発現は、細胞、組織、生物等を、ポリヌクレオチドを発現させる、または対象のポリヌクレオチドによってコードされたポリヌクレオチドの発現に増加もしくは低減をもたらす治療または条件に曝すことにより制御される。
【0211】
誘導性プロモーター/系の例示的な例としては、グリココルチコイドもしくはエストロゲン受容体をコードする遺伝子のプロモーターなどのステロイド誘導性プロモーター(対応するホルモンでの処理により誘導可能)、メタロチオニンプロモーター(様々な重金属での処理により誘導可能)、MX-1プロモーター(インターフェロンにより誘導可能)、「GeneSwitch」ミフェプリストン調節可能な系(Sirin et al.,2003,Gene,323:67)、クミン酸誘導性遺伝子スイッチ(WO2002/088346)、テトラサイクリン依存調節系等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0212】
条件付き発現は、部位特異的DNAリコンビナーゼを使用することによっても達成され得る。本発明のある特定の実施形態によると、ベクターは、部位特異的リコンビナーゼにより媒介される組換えのための、少なくとも1つ(典型的には2つ)の部位(複数可)を含む。本明細書で使用される場合、「リコンビナーゼ」または「部位特異的リコンビナーゼ」という用語は、野生型タンパク質であり得る、1つ以上の組換え部位(例えば、2、3、4、5、7、10、12、15、20、30、50等)を伴う組換え反応に関与する、切除もしくは組み込みタンパク質、酵素、補助因子、または関連タンパク質(Landy,Current Opinion in Biotechnology 3:699-707(1993)を参照されたい)、またはその変異体、誘導体(例えば組換えタンパク質配列を含有する融合タンパク質またはその断片)、断片、及びバリアントを含む。本発明の特定の実施形態において使用するのに好適なリコンビナーゼの例示的な例としては、Cre、Int、IHF、Xis、Flp、Fis、Hin、Gin、ΦC31、Cin、Tn3リゾルバーゼ、TndX、XerC、XerD、TnpX、Hjc、Gin、SpCCE1、及びParAが挙げられるが、これらに限定されない。
【0213】
ベクターは、多種多様の部位特異的リコンビナーゼのいずれかのための1つ以上の組換え部位を含み得る。部位特異的リコンビナーゼのための標的部位は、ベクター、例えば、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターの組み込みに必要とされる任意の部位(複数可)に加えてであることを理解されたい。本明細書で使用される場合、「組換え配列」、「組換え部位」、または「部位特異的組換え部位」という用語は、リコンビナーゼが認識及び結合する特定の核酸配列を指す。
【0214】
例えば、Creリコンビナーゼの1つの組換え部位は、8塩基対コア配列に隣接する2つの13塩基対逆方向反復を含む(リコンビナーゼ結合部位として機能する)34塩基対配列であるloxPである(例えば、Sauer,B.,Current Opinion in Biotechnology 5:521-527(1994)の
図1を参照されたい)。他の例示的なloxP部位は、lox511(Hoess et al.,1996;Bethke and Sauer,1997)、lox5171(Lee and Saito,1998)、lox2272(Lee and Saito,1998)、m2(Langer et al.,2002)、lox71(Albert et al.,1995)、及びlox66(Albert et al.,1995)を含むが、これらに限定されない。
【0215】
FLPリコンビナーゼに好適な認識部位は、FRT(McLeod,et al.,1996)、F1,F2,F3(Schlake and Bode,1994)、F4,F5(Schlake and Bode,1994)、FRT(LE)(Senecoff et al.,1988)、FRT(RE)(Senecoff et al.,1988)を含むが、これらに限定されない。
【0216】
認識配列の他の例は、リコンビナーゼ酵素λインテグラーゼ、例えば、ファイ-c31により認識される、attB、attP、attL、及びattR配列である。φC31 SSRは、異型部位attB(長さが34bp)とattP(長さが39b)との間の組換えのみを媒介する(Groth et al.,2000)。それぞれ、細菌及びファージゲノム上のファージインテグラーゼの結合部位に名前が由来するattB及びattPは両方とも、φC31ホモ二量体により結合される可能性がある不完全な逆方向反復を含入する(Groth et al.,2000)。産生部位であるattL及びattRは、φC31媒介組換えを進めるために(Belteki et al.,2003)、効果的に不活性であり、反応を不可逆にする。挿入を触媒するために、attB保有DNAが、attP部位をゲノムattB部位に挿入するよりも容易にゲノムattP部位内に容易に挿入されることが分かった(Thyagarajan et al.,2001;Belteki et al.,2003)。よって、典型的な戦略は、相同組換えにより、attP保有「ドッキング部位」を、定義された座位に位置付け、次に、挿入のためにこれをattB保有入来配列と組み合わせる。
【0217】
本明細書で使用される場合、「リボソーム内部侵入部位」または「IRES」は、シストロンのATGなど(タンパク質コード領域)、開始コドンへの直接的なリボソーム内部侵入を促進し、それにより遺伝子のcap非依存性翻訳をもたらす要素を指す。例えば、Jackson et al.,1990.Trends Biochem Sci 15(12):477-83)及びJackson and Kaminski.1995.RNA 1(10):985-1000を参照されたい。特定の実施形態では、本発明により想定されるベクターは、1つ以上のポリペプチドをコードする1つ以上の対象のポリヌクレオチドを含む。特定の実施形態では、複数のポリペプチドの各々の効率的な翻訳を達成するために、ポリヌクレオチド配列は、1つ以上のIRES配列または自己切断型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列によって分離され得る。
【0218】
本明細書で使用される場合、「コザック配列」という用語は、リボソームの小さいサブ単位へのmRNAの初期結合を大幅に容易にし、翻訳を増加させる、短いヌクレオチド配列を指す。コンセンサスコザック配列は(GCC)RCCATGGであり、ここでRは、プリン(AまたはG)である(Kozak,1986.Cell.44(2):283-92及びKozak,1987.Nucleic Acids Res.15(20):8125-48)。特定の実施形態では、本明細書において想定されるベクターは、コンセンサスコザック配列を有し、所望のポリペプチド、例えば、CARをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0219】
本発明のいくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを保有する細胞は、直接的な毒性及び/または未制御の増殖のリスクを減少させるための誘導性自殺遺伝子を含む、自殺遺伝子を利用する。特定の態様では、自殺遺伝子は、ポリヌクレオチドを保有する宿主または細胞に対して免疫原性ではない。使用され得る自殺遺伝子のある特定の例は、カスパーゼ-9もしくはカスパーゼ-8、またはシトシンデアミナーゼである。カスパーゼ-9は、二量体化の特定の化学誘導物資(CID)を使用して活性化され得る。
【0220】
ある特定の実施形態では、ベクターは、本発明の免疫エフェクター細胞、例えばT細胞に、インビボでの負の選択を受けやすくさせる遺伝子セグメントを含む。「負の選択」とは、注入された細胞が、個々のインビボ条件における変化の結果として排除され得ることを意味する。負の選択可能表現型は、投与された薬剤、例えば、化合物に対して感受性を付与する遺伝子の挿入により生じ得る。負の選択可能遺伝子は当該技術分野において既知であり、とりわけ、ガンシクロビル感受性を付与する単純ヘルペスウイルスI型チミジンキナーゼ(HSV-I TK)遺伝子(Wigler et al.,Cell 11:223,1977)、細胞ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)遺伝子、細胞アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)遺伝子、及び細菌シトシンデアミナーゼを含む(Mullen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.89:33(1992))。
【0221】
いくつかの実施形態では、T細胞などの遺伝子改変免疫エフェクター細胞は、インビトロでの負の選択可能表現型の細胞の選択を可能にする正のマーカーを更に含むポリヌクレオチドを含む。正の選択マーカーは、宿主細胞内に導入されたときに、遺伝子を有する細胞の正の選択を可能にする優性の表現型を発現する遺伝子であり得る。この種類の遺伝子は当該技術分野において既知であり、とりわけ、ハイグロマイシンBに対する耐性を付与するハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子(hph)、抗生物質G418に対する耐性をコードするTn5からのアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neoまたはaph)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子、アデノシンデアミナーゼ遺伝子(ADA)、及び多剤耐性(MDR)遺伝子を含む。
【0222】
好ましくは、正の選択マーカー及び負の選択可能要素は、負の選択可能要素の損失が正の選択マーカーの損失も必然的に伴うように連結される。更により好ましくは、正及び負の選択マーカーは、一方の損失が義務的に他方の損失につながるように融合される。上述の所望の正及び負両方の選択特徴を付与するポリペプチドを発現産物としてもたらす融合ポリヌクレオチドの例は、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼチミジンキナーゼ融合遺伝子(HyTK)である。この遺伝子の発現は、インビトロでの正の選択のためのハイグロマイシンB耐性、及びインビボでの負の選択のためのガンシクロビル感受性を付与するポリペプチドをもたらす。例えば、Lupton S.D.,et al,Mol.and Cell.Biology 1 1:3374-3378,1991を参照されたい。加えて、好ましい実施形態では、キメラ受容体をコードする本発明のポリヌクレオチドは、融合遺伝子、特にインビトロでの正の選択のためのハイグロマイシンB耐性、及びインビボでの負の選択のためのガンシクロビル感受性を付与するものを含有するレトロウイルスベクター、例えば、上記のLupton,S.D.et al.(1991)に記載されるHyTKレトロウイルスベクターに存在する。優性の正の選択マーカーと負の選択マーカーとの融合に由来する二機能性選択可能融合遺伝子の使用を説明する、S.D.LuptonによるPCT US91/08442及びPCT/US94/05601の刊行物も参照されたい。
【0223】
好ましい正の選択マーカーは、hph、nco、及びgptからなる群から選択された遺伝子に由来し、好ましい負の選択マーカーは、シトシンデアミナーゼ、HSV-I TK、VZV TK、HPRT、APRT、及びgptからなる群から選択された遺伝子に由来する。特に好ましいマーカーは、二機能性選択可能融合遺伝子であり、正の選択マーカーは、hph、またはneoに由来し、負の選択マーカーは、シトシンデアミナーゼもしくはTK遺伝子、または選択マーカーに由来する。誘導性自殺遺伝子。
【0224】
F.ウイルスベクター
特定の実施形態では、細胞(例えば、免疫エフェクター細胞)は、CARをコードするレトロウイルスベクター、例えば、レンチウイルスベクターで形質導入される。例えば、免疫エフェクター細胞は、CD3ζ、CD28、4-1BB、Ox40、またはこれらの任意の組み合わせの細胞内シグナル伝達ドメインを有する、BCMAポリペプチドに結合するマウス抗BCMA抗体またはその抗原結合断片を含むCARをコードするベクターで形質導入される。よって、これらの形質導入された細胞は、CAR媒介細胞傷害性応答を引き起こすことができる。
【0225】
レトロウイルスは遺伝子送達の標準的なツールである(Miller,2000,Nature.357:455-460)。特定の実施形態では、レトロウイルスは、キメラ抗原受容体(CAR)をコードするポリヌクレオチドを細胞に送達するために使用される。本明細書で使用される場合、「レトロウイルス」という用語は、そのゲノムRNAを直鎖状二本鎖DNAのコピーに逆転写し、後にそのゲノムDNAを宿主ゲノム内に共有結合的に組み込むRNAウイルスを指す。ウイルスが宿主ゲノム内に組み込まれたら、それは「プロウイルス」と称される。プロウイルスは、RNAポリメラーゼIIのテンプレートとして機能し、新しいウイルス粒子を産生するために必要な構造タンパク質及び酵素をコードするRNA分子の発現を指向する。
【0226】
特定の実施形態において使用するのに好適な例示的なレトロウイルスは、モロニーマウス白血病ウイルス(M-MuLV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(MoMSV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳癌ウイルス(MuMTV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、ネコ白血病ウイルス(FLV)、スプーマウイルス、フレンドマウス白血病ウイルス、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)、及びラウス肉腫ウイルス(RSV))、ならびにレンチウイルスを含むが、これらに限定されない。
【0227】
本明細書で使用される場合、「レンチウイルス」という用語は、複合レトロウイルスの群(または族)を指す。例示的なレンチウイルスは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス;HIV1型及びHIV2型を含む)、ビスナ・マエディウイルス(VMV)ウイルス、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)及びサル免疫不全ウイルス(SIV)を含むが、これらに限定されない。一実施形態では、HIVベースのベクター骨格(すなわち、HIVシス作動性配列要素)が好ましい。特定の実施形態では、レンチウイルスは、CARを含むポリヌクレオチドを細胞に送達するために使用される。
【0228】
レトロウイルス、及びより具体的にはレンチウイルスベクターは、本発明の特定の実施形態を実施する際に使用され得る。したがって、本明細書で使用される場合、「レトロウイルス」または「レトロウイルスベクター」という用語は、それぞれ、「レンチウイルス」及び「レンチウイルスベクター」を含むことを意味する。
【0229】
「ベクター」という用語は、別の核酸分子を移動または輸送することができる核酸分子を指す。移動された核酸は一般に、ベクター核酸分子に連結、例えば、挿入される。ベクターは細胞に自律複製を指向する配列を含み得るか、または宿主細胞DNA内への組み込みを可能にするのに十分な配列を含み得る。有用なベクターは、例えば、プラスミド(例えば、DNAプラスミドまたはRNAプラスミド)、トランスポゾン、コスミド、細菌人工染色体、及びウイルスベクターを含む。有用なウイルスベクターは、例えば、複製欠損レトロウイルス及びレンチウイルスを含む。
【0230】
当業者には明らかであるように、「ウイルスベクター」という用語は、典型的には核酸分子の移動もしくは細胞のゲノム内への組み込みを容易にするウイルス由来核酸要素を含む核酸分子(例えば、伝達性プラスミド)、または核酸移動を媒介するウイルス粒子のいずれかを指すように広く使用される。ウイルス粒子は典型的には、様々なウイルス構成成分、及び時折、核酸(複数可)に加えて、宿主細胞の構成成分も含む。
【0231】
ウイルスベクターという用語は、核酸を細胞内に移動することができるウイルスもしくはウイルス粒子、または移動された核酸自体のいずれかを指し得る。様々なベクター及び伝達性プラスミドは、主にウイルスに由来する構造的及び/または機能的遺伝要素を含有する。「レトロウイルスベクター」という用語は、主にレトロウイルスに由来する、構造的及び機能的遺伝要素もしくはその一部を含有するウイルスベクターまたはプラスミドを指す。「レンチウイルスベクター」という用語は、主にレンチウイルスに由来するLTRを含む、構造的及び機能的遺伝要素もしくはその一部を含有するウイルスベクターまたはプラスミドを指す。「ハイブリッドベクター」という用語は、レトロウイルス配列、例えば、レンチウイルス配列及び非レンチウイルスのウイルス配列の両方を含有するベクター、LTR、または他の核酸を指す。一実施形態では、ハイブリッドベクターは、逆転写、複製、組み込み、及び/またはパッケージングのためのレトロウイルス配列、例えば、レンチウイルス配列を含むベクターまたは伝達性プラスミドを指す。
【0232】
特定の実施形態では、「レンチウイルスベクター」、「レンチウイルス発現ベクター」という用語は、レンチウイルス伝達性プラスミド及び/または感染性レンチウイルス粒子を指すように使用され得る。本明細書において、クローニング部位、プロモーター、調節要素、異種核酸等の要素に対して参照される場合、これらの要素の配列がRNA形態で本発明のレンチウイルス粒子に存在し、DNAの形態で本発明のDNAプラスミドに存在することを理解されたい。
【0233】
プロウイルスの各末端での構造は「長い末端反復」または「LTR」と呼ばれる。「長い末端反復(LTR)」という用語は、それらの天然の配列関係において、直接反復であり、U3、R、及びU5領域を含有するレトロウイルスDNAの末端に位置する塩基対のドメインを指す。LTRは一般に、レトロウイルス遺伝子の発現(例えば、遺伝子転写の促進、開始、及びポリアデニル化)及びウイルス複製の基礎となる機能を提供する。LTRは、転写制御要素、ポリアデニル化シグナル、ならびにウイルスゲノムの複製及び組み込みに必要な配列を含む、多くの調節シグナルを含有する。ウイルスLTRは、U3、R、及びU5と呼ばれる3つの領域に分割される。U3領域はエンハンサー及びプロモーター要素を含有する。U5領域は、プライマー結合部位とR領域との間の配列であり、ポリアデニル化配列を含有する。R(反復)領域は、U3及びU5領域に隣接している。LTRは、U3、R及びU5領域で構成され、ウイルスゲノムの5’及び3’端の両方に現れる。5’LTRに隣接するのは、ゲノム(tRNAプライマー結合部位)の逆転写及び粒子(プサイ部位)へのウイルスRNAの効率的なパッケージングに必要な配列である。
【0234】
本明細書で使用される場合、「パッケージングシグナル」または「パッケージング配列」という用語は、ウイルスRNAをウイルスカプシドまたは粒子内に挿入するために必要なレトロウイルスゲノム内に位置する配列を指し、例えば、Clever et al.,1995.J.of Virology,Vol.69,No.4;pp.2101-2109を参照されたい。いくつかのレトロウイルスベクターは、ウイルスゲノムのカプシド形成に必要な最小パッケージングシグナル(プサイ[Ψ]配列とも称される)を使用する。よって、本明細書で使用される場合、「パッケージング配列」、「パッケージングシグナル」、「プサイ」、及びシンボル「Ψ」という用語は、ウイルス粒子形成中のレトロウイルスRNA鎖のカプシド形成に必要な非コード配列に関して使用される。
【0235】
様々な実施形態では、ベクターは改変された5’LTR及び/または改変された3’LTRを含む。LTRのうちのいずれかまたは両方は、1つ以上の欠失、挿入、または置換を含むがこれらに限定されない1つ以上の改変を含み得る。3’LTRの改変は、多くの場合、ウイルスに複製欠損を付与することによって、レンチウイルスまたはレトロウイルス系の安全性を改善するために行われる。本明細書で使用される場合、「複製欠損」という用語は、感染性ビリオンが産生されない(例えば、複製欠損レンチウイルス子孫)ように、完全で有効な複製ができないウイルスを指す。「複製能力」という用語は、ウイルスのウイルス複製が感染性ビリオンを産生することができる(例えば、複製能力があるレンチウイルス子孫)ように、複製が可能である野生型ウイルスまたは突然変異ウイルスを指す。
【0236】
「自己不活性型」(SIN)ベクターは、U3領域として知られる右側(3’)LTRエンハンサー-プロモーター領域が1回目以降のウイルス複製を阻止するように改変された(例えば、欠失または置換により)、複製欠損ベクター、例えば、レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターを指す。これは、右側(3’)LTR U3領域がウイルス複製中の左側(5’)LTR U3領域のテンプレートとして使用され、よって、ウイルス転写がU3エンハンサー-プロモーターなしに作製することができないためである。本発明の更なる実施形態では、3’LTRは、U5領域が、例えば、理想的なポリ(A)配列に置き換えられるように改変される。3’LTR、5’LTR、または3’及び5’LTR両方に対する改変などのLTRに対する改変も本発明に含まれることを留意するべきである。
【0237】
追加の安全強化は、ウイルス粒子の産生中にウイルスゲノムの転写を駆動するために、5’LTRのU3領域を異種プロモーターに置き換えることによりもたらされる。使用され得る異種プロモーターの例としては、例えば、ウイルス性サルウイルス40(SV40)(例えば、初期または後期)、サイトメガロウイルス(CMV)(例えば、最初期)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、及び単純ヘルペスウイルス(HSV)(チミジンキナーゼ)プロモーターが挙げられる。典型的なプロモーターは、Tat依存様式で、高レベルの転写を駆動することができる。この置き換えは、ウイルス産生系に完全なU3配列が存在しないため、複製能力のあるウイルスを生成するための組換えの可能性を減少させる。ある特定の実施形態では、異種プロモーターは、ウイルスゲノムが転写される様式の制御に追加の利点を有する。例えば、異種プロモーターは、ウイルスゲノムの全てまたは一部の転写が誘発因子が存在するときにのみ生じるように、誘導性であり得る。誘導因子は、1つ以上の化学化合物、または温度もしくはpHなどの宿主細胞が培養される生理学的条件を含むが、これらに限定されない。
【0238】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、TAR要素を含む。「TAR」という用語は、レンチウイルス(例えば、HIV)LTRのR領域に位置する「トランス活性化応答」遺伝要素を指す。この要素は、ウイルス複製を強化するために、レンチウイルストランス活性化因子(tat)遺伝要素と相互作用する。しかしながら、この要素は、5’LTRのU3領域が異種プロモーターに置き換えられる実施形態では必要ない。
【0239】
「R領域」は、キャッピング基の開始(すなわち、転写の開始)で始まり、ポリAトラクトの開始直前で終わるレトロウイルスLTR内の領域を指す。R領域は、U3及びU5領域に隣接しているとも定義される。R領域は、逆転写中、ゲノムの一端からもう一端への新生DNAの移動を可能にする際に役割を果たす。
【0240】
本明細書で使用される場合、「FLAP要素」という用語は、配列がレトロウイルス、例えば、HIV-1またはHIV-2のセントラルポリプリントラクト及び中央終止配列(cPPT及びCTS)を含む核酸を指す。好適なFLAP要素は、米国特許第6,682,907号及びZennou,et al.,2000,Cell,101:173に記載されている。HIV-1逆転写、セントラルポリプリントラクト(cPPT)での+鎖DNAの中央開始及び中央終止配列(CTS)での中央終止は、三本鎖DNA構造であるHIV-1中央DNAフラップの形成をもたらす。任意の理論により拘束されるものではないが、DNAフラップは、レンチウイルスゲノム核内移行のシス-活性決定基として機能し得、かつ/またはウイルスの力価を増加させ得る。特定の実施形態では、レトロウイルスまたはレンチウイルスベクター骨格は、ベクターの対象の異種遺伝子の上流または下流に1つ以上のFLAP要素を含む。例えば、特定の実施形態では、伝達性プラスミドはFLAP要素を含む。一実施形態では、本発明のベクターはHIV-1から単離されたFLAP要素を含む。
【0241】
一実施形態では、レトロウイルスまたはレンチウイルス伝達性ベクターは、1つ以上のエクスポート要素を含む。「エクスポート要素」という用語は、細胞の核から細胞質へのRNA転写の輸送を調節するシス作用転写後調節要素を指す。RNAエクスポート要素の例としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)rev応答要素(RRE)(例えば、Cullen et al.,1991.J.Virol.65:1053及びCullen
et al.,1991.Cell 58:423)及びB型肝炎ウイルス転写後調節要素(HPRE)が挙げられるが、これらに限定されない。一般に、RNAエクスポート要素は、遺伝子の3’UTR内に配置され、1つまたは複数のコピーとして挿入され得る。
【0242】
特定の実施形態では、ウイルスベクターにおける非相同配列の発現は、転写後調節要素、効率的なポリアデニル化部位、及び任意選択で、転写終止シグナルをベクター内に組み込むことにより増加する。様々な転写後調節要素、例えば、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節要素(WPRE;Zufferey et al.,1999,J.Virol.,73:2886)、B型肝炎ウイルスに存在する転写後調節要素(HPRE)(Huang et al.,Mol.Cell.Biol.,5:3864)など(Liu et al.,1995,Genes Dev.,9:1766)は、タンパク質での異種核酸の発現を増加させることができる。特定の実施形態では、本発明のベクターは、WPREまたはHPREなどの転写後調節要素を含む。
【0243】
特定の実施形態では、本発明のベクターは、いくつかの場合では、これらの要素が細胞形質転換のリスクを増加させ、かつ/または実質的にもしくは大幅に、mRNA転写の量を増加させないか、もしくはmRNA安定性を増加させないため、WPREまたはHPREなどの転写後調節要素(PTE)を欠くか、または含まない。したがって、いくつかの実施形態では、本発明のベクターは、PTEを欠くか、または含まない。他の実施形態では、本発明のベクターは、追加の安定対策としてWPREまたはHPREを欠くか、または含まない。
【0244】
異種核酸転写の効率的な終止及びポリアデニル化を指向する要素は、異種遺伝子発現を増加させる。転写終止シグナルは一般に、ポリアデニル化シグナルの下流に見られる。特定の実施形態では、ベクターは、発現されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのポリアデニル化配列3′を含む。本明細書で使用される場合、「ポリA部位」または「ポリA配列」という用語は、RNAポリメラーゼIIによる新生RNA転写の終止及びポリアデニル化の両方を指向するDNA配列を示す。ポリアデニル化配列は、コード配列の3′端へのポリA尾部の付加により、mRNAの安定性を促進し、よって、転写効率の増加に寄与し得る。ポリA尾部を欠く転写物は不安定であり、迅速に分解されるため、組換え転写物の効率的なポリアデニル化が望ましい。本発明のベクターにおいて使用され得るポリAシグナルの例示的な例としては、理想的なポリA配列(例えば、AATAAA、ATTAAA、AGTAAA)、ウシ成長ホルモンポリA配列(BGHpA)、ウサギβ-グロビンポリA配列(rβgpA)、または当該技術を分野において既知の別の好適な異種もしくは内因性ポリA配列が挙げられる。
【0245】
ある特定の実施形態では、レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターは、1つ以上のインスレーター要素を更に含む。インスレーター要素は、レンチウイルス発現配列、例えば、治療用ポリペプチドを、ゲノムDNAに存在するシス作用要素によって媒介され、移動された配列の発現の調節解除をもたらし得る組み込み部位作用(すなわち、位置作用、例えば、Burgess-Beusse et al.,2002,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,99:16433及びZhan et al.,2001,Hum.Genet.,109:471)から保護するのに寄与し得る。いくつかの実施形態では、伝達性ベクターは、1つ以上のインスレーター要素である3′LTRを含み、宿主ゲノム内へのプロウイルスの組み込み時に、プロウイルスは、3′LTRを複製するため、5′LTRまたは3′LTRの両方に1つ以上のインスレーターを含む。本発明において使用するのに好適なインスレーターは、ニワトリβ-グロビンインスレーターを含むが、これに限定されない(Chung et al.,1993.Cell 74:505、Chung et al.,1997.PNAS 94:575、及びBell et al.,1999.Cell 98:387を参照されたい、参照により本明細書に組み込まれる)。インスレーター要素の例としては、ニワトリHS4などのβ-グロビン遺伝子座からのインスレーターが挙げられるが、これに限定されない。
【0246】
本発明のある特定の実施形態によると、ウイルスベクター骨格配列の大半または全ては、レンチウイルス、例えば、HIV-1に由来する。しかしながら、レトロウイルス及び/もしくはレンチウイルス配列の多くの異なる供給源が使用されるか、または組み合わされ得、あるレンチウイルス配列における多くの置換及び変更が、伝達性ベクターが本明細書に記載される機能を行う能力を損なうことなく適用され得ることを理解されたい。更に、様々なレンチウイルスベクターが当該技術分野において既知である(Naldini et al.,(1996a,1996b、及び1998)、Zufferey et al.,(1997)、Dull et al.,1998、米国特許第6,013,516号、及び第5,994,136号を参照されたい、これらの多くは、本発明のウイルスベクターまたは伝達性プラスミドを産生するように適合され得る)。
【0247】
様々な実施形態では、本発明のベクターは、CARポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに動作可能に連結されたプロモーターを含む。ベクターは、1つ以上のLTRを有し得、いずれかのLTRが、1つ以上のヌクレオチド置換、付加、または欠失などの、1つ以上の改変を含む。ベクターは、形質導入効率(例えば、cPPT/FLAP)、ウイルスパッケージング(例えば、プサイ(Ψ)パッケージングシグナル、RRE)、及び/または治療用遺伝子発現(例えば、ポリ(A)配列)を増加させるための他の要素を増加させるために、より多くのアクセサリー要素のうちの1つを更に含み得、任意選択でWPREまたはHPREを含み得る。
【0248】
特定の実施形態では、本発明の伝達性ベクターは、左側(5’)レトロウイルスLTR、セントラルポリプリントラクト/DNAフラップ(cPPT/FLAP)、レトロウイルスエクスポート要素、本明細書において想定されるCARポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに動作可能に連結された、T細胞において活性なプロモーター、及び右側(3’)レトロウイルスLTR、ならびに任意選択でWPREまたはHPREを含む。
【0249】
特定の実施形態では、本発明の伝達性ベクターは、左側(5’)レトロウイルスLTR、レトロウイルスエクスポート要素、本明細書において想定されるCARポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに動作可能に連結された、T細胞において活性なプロモーター、右側(3’)レトロウイルスLTR、及びポリ(A)配列、ならびに任意選択でWPREまたはHPREを含む。別の実施形態では、本発明は、左側(5’)LTR、cPPT/FLAP、RRE、本明細書において想定されるCARポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに動作可能に連結された、T細胞において活性なプロモーター、右側(3’)LTR、及びポリアデニル化配列、ならびに任意選択でWPREまたはHPREを含むレンチウイルスベクターを提供する。
【0250】
ある特定の実施形態では、本発明は、左側(5’)HIV-1 LTR、プサイ(Ψ)パッケージングシグナル、cPPT/FLAP、RRE、本明細書において想定されるCARポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに動作可能に連結された、T細胞において活性なプロモーター、右側(3’)自己不活性型(SIN)HIV-1LTR、及びウサギβ-グロビンポリアデニル化配列、ならびに任意選択でWPREまたはHPREを含むレンチウイルスベクターを提供する。
【0251】
別の実施形態では、本発明は、少なくとも1つのLTR、セントラルポリプリントラクト/DNAフラップ(cPPT/FLAP)、レトロウイルスエクスポート要素、及び本明細書において想定されるCARポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに動作可能に連結された、T細胞において活性なプロモーター、ならびに任意選択でWPREまたはHPREを含むベクターを提供する。
【0252】
特定の実施形態では、本発明は、少なくとも1つのLTR、cPPT/FLAP、RRE、本明細書において想定されるCARポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに動作可能に連結された、T細胞において活性なプロモーター、及びポリアデニル化配列、ならびに任意選択でWPREまたはHPREを含むベクターを提供する。
【0253】
ある特定の実施形態では、本発明は、少なくとも1つのSIN HIV-1 LTR、プサイ(Ψ)パッケージングシグナル、cPPT/FLAP、RRE、本明細書において想定されるCARポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに動作可能に連結された、T細胞において活性なプロモーター、及びウサギβ-グロビンポリアデニル化配列、ならびに任意選択でWPREまたはHPREを提供する。
【0254】
様々な実施形態では、ベクターは、組み込みウイルスベクターである。
【0255】
様々な他の実施形態では、ベクターは、エピソームまたは非組み込みウイルスベクターである。
【0256】
様々な実施形態では、本明細書において想定される想定されるベクターは、非組み込みまたは組み込み欠損レトロウイルスを含む。一実施形態では、「組み込み欠損」レトロウイルスまたはレンチウイルスは、ウイルスゲノムを宿主細胞のゲノム内に組み込む能力を欠くインテグラーゼを有するレトロウイルスまたはレンチウイルスを指す。様々な実施形態では、インテグラーゼタンパク質は、具体的にそのインテグラーゼ活性を低減させるために変異される。組み込み能力のないレンチウイルスベクターは、インテグラーゼタンパク質をコードするpol遺伝子を改変し、組み込み欠損インテグラーゼをコードするpol遺伝子をもたらすことにより得られる。このような組み込み能力のないウイルスベクターは、特許出願WO2006/010834に記載されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0257】
インテグラーゼ活性を減少させるのに好適なHIV-1 pol遺伝子における例示的な突然変異は、H12N、H12C、H16C、H16V、S81 R、D41A、K42A、H51A、Q53C、D55V、D64E、D64V、E69A、K71A、E85A、E87A、D116N、D1161、D116A、N120G、N1201、N120E、E152G、E152A、D35E、K156E、K156A、E157A、K159E、K159A、K160A、R166A、D167A、E170A、H171A、K173A、K186Q、K186T、K188T、E198A、R199c、R199T、R199A、D202A、K211A、Q214L、Q216L、Q221 L、W235F、W235E、K236S、K236A、K246A、G247W、D253A、R262A、R263A、及びK264Hを含むが、これらに限定されない。
【0258】
インテグラーゼ活性を減少させるのに好適なHIV-1 pol遺伝子における例示的な突然変異は、D64E、D64V、E92K、D116N、D1161、D116A、N120G、N1201、N120E、E152G、E152A、D35E、K156E、K156A、E157A、K159E、K159A、W235F、及びW235Eを含むが、これらに限定されない。
【0259】
特定の実施形態では、インテグラーゼは、アミノ酸D64、D116、またはE152のうちの1つ以上において突然変異を含む。一実施形態では、インテグラーゼは、アミノ酸D64、D116、及びE152において突然変異を含む。特定の実施形態では、欠損HIV-1インテグラーゼは、D64V突然変異を含む。
【0260】
「宿主細胞」は、本発明の組換えベクターまたはポリヌクレオチドで、インビボ、エクスビボ、もしくはインビトロで電気穿孔された、形質移入された、感染された、または形質導入された細胞を含む。宿主細胞は、パッケージング細胞、プロデューサー細胞、及びウイルスベクターで感染された細胞を含み得る。特定の実施形態では、本発明のウイルスベクターで感染された宿主細胞は、治療を必要とする対象に投与される。ある特定の実施形態では、「標的細胞」という用語は、宿主細胞と交換可能に使用され、所望の細胞型の形質移入された、感染された、または形質導入された細胞を指す。好ましい実施形態では、標的細胞はT細胞である。
【0261】
妥当なウイルス力価を達成するためには、大規模なウイルス粒子産生が必要である場合が多い。ウイルス粒子は、伝達性ベクターを、ウイルス構造及び/またはアクセサリー遺伝子、例えば、gag、pol、env、tat、rev、vif、vpr、vpu、vpx、もしくはnef遺伝子、または他のレトロウイルス遺伝子を含むパッケージング細胞系内に形質移入することにより産生される。
【0262】
本明細書で使用される場合、「パッケージングベクター」という用語は、パッケージングシグナルを欠き、1、2、3、4つ以上のウイルス構造及び/もしくはアクセサリー遺伝子をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターまたはウイルスベクターを指す。典型的には、パッケージングベクターは、パッケージング細胞に含まれ、形質移入、形質導入、または感染を介して細胞内に導入される。形質移入、形質導入、または感染の方法は、当業者に周知である。本発明のレトロウイルス/レンチウイルス伝達性ベクターは、プロデューサー細胞または細胞系を生成するために、形質移入、形質導入、または感染を介してパッケージング細胞系内に導入され得る。本発明のパッケージングベクターは、例えば、リン酸カルシウム形質移入、リポフェクション、または電気穿孔を含む標準的な方法によりヒト細胞または細胞系内に導入され得る。いくつかの実施形態では、パッケージングベクターは、ネオマイシン、ハイグロマイシン、ピューロマイシン、ブラストサイジン、ゼオシン、チミジンキナーゼ、DHFR、Glnシンセターゼ、またはADAなどの優性選択マーカーと一緒に細胞内に導入され、続いて適切な薬物の存在下での選択、及びクローンの単離が行われる。選択マーカー遺伝子は、パッケージングベクターにより、例えば、IRESまたは自己切断型ウイルスペプチドによりコードされた遺伝子に物理的に連結され得る。
【0263】
ウイルスエンベロープタンパク質(env)は、最終的に細胞系から生成された組換えレトロウイルスによって感染され、形質転換され得る宿主細胞の範囲を決定する。HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、及びEIVなどのレンチウイルスの場合、envタンパク質はgp41及びgp120を含む。好ましくは、本発明のパッケージング細胞により発現されたウイルスenvタンパク質は、前に説明されるように、ウイルスgag及びpol遺伝子からの別個のベクター上にコードされる。
【0264】
本発明に採用され得るレトロウイルス由来env遺伝子の例示的な例としては、MLVエンベロープ、10A1エンベロープ、BAEV、FeLV-B、RD114、SSAV、エボラ、センダイ、FPV(家禽ペストウイルス)、及びインフルエンザウイルスエンベロープが挙げられるが、これらに限定されない。同様に、RNAウイルス(例えば、ピコルナウイルス科、カルシウイルス科(Calciviridae)、アストロウイルス科、トガウイルス科、フラビウイルス科、コロナウイルス科、パラミクソウイルス科、ラブドウイルス科、フィロウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、アレナウイルス科、レオウイルス科、ビルナウイルス科、レトロウイルス科のRNAウイルスファミリー)、ならびにDNAウイルス(ヘパドナウイルス科、サーコウイルス科、パルボウイルス科、パボバウイルス科、アデノウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、及びイリドウイルス科)からのエンベロープをコードする遺伝子が利用され得る。代表的な例としては、FeLV、VEE、HFVW、WDSV、SFV、狂犬病、ALV、BIV、BLV、EBV、CAEV、SNV、ChTLV、STLV、MPMV、SMRV、RAV、FuSV、MH2、AEV、AMV、CT10、及びEIAVが挙げられる。
【0265】
他の実施形態では、本発明のウイルスをシュードタイピングするためのエンベロープタンパク質は、H1N1、H1N2、H3N2、及びH5N1(トリインフルエンザ)などのインフルエンザA、インフルエンザB、インフルエンザCウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、ロタウイルス、ノーウォークウイルス群のいずれかのウイルス、腸内アデノウイルス、パルボウイルス、デング熱ウイルス、サル痘、モノネガウイルス目のリッサウイルス(狂犬病ウイルス、ラゴスコウモリウイルス、モコラウイルス、ドゥベンヘイジウイルス、ヨーロッパコウモリウイルス1&2、及びオーストラリアコウモリウイルスなど)、エフェメロウイルス、ベジクロウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス1型及び2型、水痘帯状疱疹、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バールウイルス(EBV)、ヒトヘルペスウイルス(HHV)、ヒトヘルペス6型及び8型、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、パピローマウイルス、マウスガンマヘルペスウイルスなど)、アレナウイルス(アルゼンチン出血熱ウイルス、ボリビア出血熱ウイルス、サビア関連出血熱ウイルス、ベネズエラ出血熱ウイルス、ラッサ熱ウイルス、マチュポウイルスなど)、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)、ブニヤウイルス科(クリミア-コンゴ出血熱ウイルス、ハンタウイルス、腎症候群原因ウイルスを伴う出血熱、リフトバレー熱ウイルスなど)、フィロウイルス科(フィロウイルス)(エボラ出血熱及びマールブルグ出血熱を含む)、フラビウイルス科(キャサヌール森林病ウイルス、オムスク出血熱ウイルス、ダニ媒介脳炎原因ウイルスなど)、及びパラミクソウイルス科(ヘンドラウイルス及びニパウイルスなど)、大痘瘡及び小痘瘡(天然痘)、アルファウイルス(ベネズエラウマ脳炎ウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、SARS関連コロナウイルス(SARS-CoV)、ウエストナイルウイルス、任意の脳炎原因ウイルスなど)のウイルスのいずれかを含むが、これらに限定されない。
【0266】
一実施形態では、本発明は、VSV-G糖タンパク質でシュードタイピングされた組換えレトロウイルス、例えば、レンチウイルスを産生するパッケージング細胞を提供する。
【0267】
本明細書で使用される場合、「シュードタイプ」または「シュードタイピング」という用語は、ウイルスエンベロープタンパク質が好ましい特性を保有する別のウイルスのもので置換されたウイルスを指す。例えば、HIVは、HIVエンベロープタンパク質(env遺伝子によってコードされる)が通常ウイルスをCD4+提示細胞に標的指向するため、HIVが広範囲の細胞を感染させることを可能にする、水疱性口内炎ウイルスGタンパク質(VSV-G)エンベロープタンパク質でシュードタイピングされ得る。本発明の好ましい実施形態では、レンチウイルスエンベロープタンパク質はVSV-Gでシュードタイピングされる。一実施形態では、本発明は、VSV-Gエンベロープ糖タンパク質でシュードタイピングされた組換えレトロウイルス、例えばレンチウイルスを産生するパッケージング細胞を提供する。
【0268】
本明細書で使用される場合、「パッケージング細胞系」という用語は、パッケージングシグナルを含有しないが、ウイルス粒子の正しいパッケージングに必要であるウイルス構造タンパク質及び複製酵素(例えば、gag、pol、及びenv)を安定してまたは一過性に発現する細胞系に関して使用される。任意の好適な細胞系が本発明のパッケージング細胞を調製するために採用され得る。一般に、細胞は、哺乳類細胞である。特定の実施形態では、パッケージング細胞系を産生するために使用される細胞は、ヒト細胞である。使用され得る好適な細胞系は、例えば、CHO細胞、BHK細胞、MDCK細胞、C3H
10T1/2細胞、FLY細胞、プサイ-2細胞、BOSC23細胞、PA317細胞、WEHI細胞、COS細胞、BSC1細胞、BSC40細胞、BMT10細胞、VERO細胞、W138細胞、MRC5細胞、A549細胞、HT1080細胞、293細胞、293T細胞、B-50細胞、3T3細胞、NIH3T3細胞、HepG2細胞、Saos-2細胞、Huh7細胞、HeLa細胞、W163細胞、211細胞、及び211A細胞を含む。好ましい実施形態では、パッケージング細胞は、293細胞、293T細胞、またはA549細胞である。別の好ましい実施形態では、細胞はA549細胞である。
【0269】
本明細書で使用される場合、「プロデューサー細胞系」という用語は、パッケージング細胞系及びパッケージングシグナルを含む伝達性ベクター構築物を含む、組換えレトロウイルス粒子を産生することができる細胞系を指す。感染性ウイルス粒子及びウイルスストック溶液の産生は、従来の技法を使用して行うことができる。ウイルスストック溶液の調製方法は当該技術分野において既知であり、例えば、Y.Soneoka et al.(1995)Nucl.Acids Res.23:628-633及びN.R.Landau et al.(1992)J.Virol.66:5110-5113により図示される。感染性ウイルス粒子は、従来の技法を使用して、パッケージング細胞から回収され得る。例えば、感染性粒子は、当該技術分野において既知である、細胞溶解、または細胞培養物の上清の回収により回収され得る。任意選択で、回収されたウイルス粒子は、所望する場合、精製され得る。好適な精製技法は当業者に周知である。
【0270】
形質移入ではなくウイルス感染の手段によりレトロウイルスまたはレンチウイルスベクターを使用する遺伝子(複数可)または他のポリヌクレオチド配列の送達は、「形質導入」と称される。一実施形態では、レトロウイルスベクターは、感染及びプロウイルス組み込みを通して細胞内に形質導入される。ある特定の実施形態では、標的細胞、例えば、T細胞は、ウイルスまたはレトロウイルスベクターを使用して感染により細胞に送達された遺伝子または他のポリヌクレオチド配列を含む場合、「形質導入」される。特定の実施形態では、形質導入された細胞は、その細胞ゲノムに、レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターによって送達された1つ以上の遺伝子または他のポリヌクレオチド配列を含む。
【0271】
特定の実施形態では、1つ以上のポリペプチドを発現する本発明のウイルスベクターで形質導入された宿主細胞は、B細胞悪性腫瘍を治療及び/または予防するために対象に投与される。本発明のある特定の実施形態により利用され得る、遺伝子療法におけるウイルスベクターの使用に関連する他の方法は、例えば、Kay,M.A.(1997)Chest 111(6Supp.):138S-142S、Ferry,N.and Heard,J.M.(1998)Hum.Gene Ther.9:1975-81、Shiratory,Y.et al.(1999)Liver 19:265-74、Oka,K.et al.(2000)Curr.Opin.Lipidol.11:179-86、Thule,P.M.and Liu,J.M.(2000)Gene Ther.7:1744-52、Yang,N.S.(1992)Crit.Rev.Biotechnol.12:335-56、Alt,M.(1995)J.Hepatol.23:746-58、Brody,S.L.and Crystal,R.G.(1994)Ann.N.Y.Acad.Sci.716:90-101、Strayer,D.S.(1999)Expert Opin.Investig.Drugs 8:2159-2172、Smith-Arica,J.R.and Bartlett,J.S.(2001)Curr.Cardiol.Rep.3:43-49、及びLee,H.C.et al.(2000)Nature 408:483-8に見出すことができる。
【0272】
G.遺伝子改変細胞
本発明は、特定の実施形態では、B細胞関連状態の治療において使用するための、本明細書において想定されるCARを発現するように遺伝子改変された細胞を想定する。本明細書で使用される場合、「遺伝子操作された」または「遺伝子改変された」という用語は、DNAまたはRNAの形態の余分な遺伝材料を細胞の総遺伝材料内に付加することを指す。「遺伝子改変細胞」、「改変細胞」、及び「再指向された細胞」という用語は、交換可能に使用される。本明細書で使用される場合、「遺伝子療法」という用語は、DNAまたはRNAの形態の余分な遺伝材料を、遺伝子の発現を回復、修正、もしくは改変する、または治療用ポリペプチド、例えば、CARを発現する目的のために、細胞の総遺伝材料内に導入することを指す。
【0273】
特定の実施形態では、本明細書において想定されるCARは、それらの特異性を対象の標的抗原、例えば、BCMAポリペプチドに再指向するために、免疫エフェクター細胞に導入され、発現される。「免疫エフェクター細胞」は、1つ以上のエフェクター機能(例えば、細胞傷害性細胞死滅活性、サイトカインの分泌、ADCC及び/またはCDCの誘発)を有する免疫系の任意の細胞である。
【0274】
本発明の免疫エフェクター細胞は、自家/自源性(「自己」)または非自家(「非自己」、例えば、同種、同系、または異種)であり得る。
【0275】
本明細書で使用される場合、「自家」は、同じ対象からの細胞を指す。
【0276】
本明細書で使用される場合、「同種」は、比較する際に細胞と遺伝的に異なる同じ種の細胞を指す。
【0277】
本明細書で使用される場合、「同系」は、比較する際に細胞と遺伝的に同一である異なる対象の細胞を指す。
【0278】
本明細書で使用される場合、「異種」は、比較する際に細胞と異なる種の細胞を指す。好ましい実施形態では、本発明の細胞は同種である。
【0279】
本明細書において想定されるCARと共に使用される例示的な免疫エフェクター細胞は、Tリンパ球を含む。「T細胞」または「Tリンパ球」という用語は、当該技術分野において認識されており、胸腺細胞、未成熟Tリンパ球、成熟Tリンパ球、休止Tリンパ球、または活性化Tリンパ球を含むことが意図される。T細胞は、Tヘルパー(Th)細胞、例えば、Tヘルパー1(Th1)またはTヘルパー2(Th2)細胞であり得る。T細胞は、ヘルパーT細胞(HTL;CD4+T細胞)CD4+T細胞、細胞傷害性T細胞(CTL;CD8+T細胞)、CD4+CD8+T細胞、CD4-CD8-T細胞、またはT細胞の任意の他のサブセットであり得る。特定の実施形態において使用するのに好適なT細胞の他の例示的な集団は、未処理T細胞及びメモリーT細胞を含む。
【0280】
当業者に理解されるように、本明細書に記載されるCARと共に、他の細胞も免疫エフェクター細胞として使用され得る。特に、免疫エフェクター細胞は、NK細胞、NKT細胞、好中球、及びマクロファージも含む。免疫エフェクター細胞は、エフェクター細胞の前駆体も含み、このような前駆体細胞は誘発されて、インビボまたはインビトロで免疫エフェクター細胞に分化し得る。よって、特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞は、対象における投与時に成熟エフェクター細胞に分化する、もしくはインビトロで成熟免疫エフェクター細胞に分化するように誘発され得る臍帯血、骨髄、または動員末梢血に由来する細胞のCD34+集団内に含有される造血性幹細胞(HSC)などの免疫エフェクター細胞の前駆体を含む。
【0281】
本明細書で使用される場合、BCMA特異的CARを含有するように遺伝子操作された免疫エフェクター細胞は、「BCMA特異的な再指向された免疫エフェクター細胞」と称される場合がある。
【0282】
本明細書で使用される場合、「CD34+細胞」という用語は、その細胞表面上にCD34タンパク質を発現する細胞を指す。本明細書で使用される場合、「CD34」は、細胞-細胞接着因子として作用し、リンパ節内へのT細胞進入に関与する細胞表面糖タンパク質(例えば、シアロムチンタンパク質)を指す。CD34+細胞集団は、T細胞、NK細胞、NKT細胞、好中球、及び単球/マクロファージ系統の細胞を含む、患者への投与時に分化し、全ての造血系統に寄与する造血性ステム幹細胞(HSC)を含有する。
【0283】
本発明は、本明細書において想定されるCARを発現する免疫エフェクター細胞を作製するための方法を提供する。一実施形態では、本方法は、免疫エフェクター細胞が本明細書に記載される1つ以上のCARを発現するように個体から単離した免疫エフェクター細胞を形質移入または形質導入することを含む。ある特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞は、個体から単離され、インビトロで更に操作することなく遺伝子改変される。このような細胞は、次に、個体に直接再投与され得る。更なる実施形態では、免疫エフェクター細胞は、最初に、CARを発現するように遺伝子改変される前に、インビトロで増殖するように活性化及び刺激される。この点に関して、免疫エフェクター細胞は、遺伝子改変される前及び/または遺伝子改変された後に培養され得る(すなわち、本明細書において想定されるCARを発現するように形質導入または形質移入される)。
【0284】
特定の実施形態では、本明細書に記載される免疫エフェクター細胞のインビトロ操作または遺伝子改変の前に、細胞源を対象から得る。特定の実施形態では、CAR改変エフェクター細胞は、T細胞を含む。T細胞は、末梢血、単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺問題、感染部位からの組織、腹水、胸水、脾臓組織、及び腫瘍を含むが、これらに限定されない、いくつかの供給源から得ることができる。ある特定の実施形態では、T細胞は、沈降、例えば、FICOLL(商標)分離など、当業者に既知の任意の数の技法を使用して、対象から回収した血液単位から得ることができる。一実施形態では、個体の循環血液からの細胞はアフェレーシスによって得られる。アフェレーシス産物は、典型的には、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、他の有核白血球細胞、赤血球細胞、及び血小板を含む、リンパ球を含有する。一実施形態では、アフェレーシスによって回収された細胞を洗浄して血漿分画を除去し、後続処理のために、細胞を適切な緩衝液または培地に設置する。細胞は、PBS、またはカルシウム、マグネシウム、及び全てではなくても大半の二価のカチオンを含まない別の好適な溶液で洗浄され得る。当業者が理解するように、洗浄ステップは、半自動フロースルー遠心分離機などを使用することにより、当業者に既知の方法により達成され得る。例えば、 Cobe 2991細胞プロセッサ、Baxter CytoMateなどである。洗浄後、細胞は、様々な生体適合性緩衝液、または緩衝液を含む、もしくは含まない他の生理食塩水溶液に再懸濁され得る。ある特定の実施形態では、アフレーシス試料の望ましくない構成成分を、この細胞を直接再懸濁させた培養培地中で除去することができる。
【0285】
ある特定の実施形態では、T細胞は、例えば、PERCOLL(商標)勾配を通した遠心分離により、赤血球細胞を溶解し、単球を枯渇させることにより、末梢血単核細胞(PBMC)から単離される。マーカー:CD3、CD28、CD4、CD8、CD45RA、及びCD45ROのうちの1つ以上を発現するT細胞の特定のサブ集団は、正または負の選択技法により更に単離され得る。一実施形態では、CD3、CD28、CD4、CD8、CD45RA、及びCD45ROを発現するT細胞の特定のサブ集団は、正または負の選択技法により更に単離される。例えば、負の選択によるT細胞集団の濃縮は、負に選択された細胞に固有の表面マーカーに指向された抗体の組み合わせにより達成され得る。本明細書で使用するための一方法は、負に選択された細胞上に存在する細胞表面マーカーに指向されたモノクローナル抗体のカクテルを使用する負磁気免疫接着またはフローサイトメトリーを介した細胞選別及び/または選択である。例えば、負の選択によりCD4+細胞を濃縮するために、モノクローナル抗体カクテルは、典型的には、CD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、及びCD8に対する抗体を含む。フローサイトメトリー及び細胞選別も、本発明において使用するための対象の細胞集団を単離するために使用され得る。
【0286】
PBMCは、本明細書において想定される方法を使用して、CARを発現するように直接遺伝子改変され得る。ある特定の実施形態では、PBMCの単離後、Tリンパ球は更に単離され、ある特定の実施形態では、細胞傷害性及びヘルパーTリンパ球の両方が、遺伝子改変及び/または増幅の前またはその後のいずれかに、未処理、メモリー、及びエフェクターT細胞サブ集団に選別され得る。
【0287】
CD8+細胞は、標準的な方法を使用して得ることができる。いくつかの実施形態では、CD8+細胞は、CD8+細胞のこれらの型の各々と会合する細胞表面抗原を特定することによって、未処理、中枢メモリー、及びエフェクター細胞に更に選別される。
【0288】
ある特定の実施形態では、未処理CD8+Tリンパ球は、CD62L、CCR7、CD28、CD3、CD127、及びCD45RAを含む未処理T細胞の表現型マーカーの発現を特徴とする。
【0289】
特定の実施形態では、メモリーT細胞は、CD8+末梢血リンパ球のCD62L+及びCD62L-サブセットの両方に存在する。PBMCは、抗CD8及び抗CD62L抗体で染色した後に、CD62L-CD8+及びCD62L+CD8+分画に選別される。いくつかの実施形態では、中枢メモリーT細胞の表現型マーカーの発現は、CD45RO、CD62L、CCR7、CD28、CD3、及びCD127を含み、グランザイムBに陰性である。いくつかの実施形態では、中枢メモリーT細胞は、CD45RO+、CD62L+、CD8+T細胞である。
【0290】
いくつかの実施形態では、エフェクターT細胞は、CD62L、CCR7、CD28、及びCD127に陰性であり、グランザイムB及びパーフォリンに陽性である。
【0291】
ある特定の実施形態では、CD4+T細胞は、サブ集団に更に選別される。例えば、CD4+Tヘルパー細胞は、細胞表面抗原を有する細胞集団を特定することにより、未処理、中枢メモリー、及びエフェクター細胞に選別され得る。CD4+リンパ球は、標準的な方法により得ることができる。いくつかの実施形態では、未処理CD4+Tリンパ球は、CD45RO-、CD45RA+、CD62L+ CD4+ T細胞である。いくつかの実施形態では、中枢メモリーCD4+細胞は、CD62L陽性であり、CD45RO陰性である。いくつかの実施形態では、エフェクターCD4+細胞は、CD62L及びCD45RO陰性である。
【0292】
T細胞などの免疫エフェクター細胞は、既知の方法を使用して単離した後に遺伝子改変され得るか、または免疫エフェクター細胞は、遺伝子改変される前にインビトロで活性化及び増幅され得る(または前駆体の場合、分化され得る)。特定の実施形態では、T細胞などの免疫エフェクター細胞は、本明細書において想定されるキメラ抗原受容体で遺伝子改変され(例えば、CARをコードする核酸を含むウイルスベクターで形質導入される)、次に、インビトロで活性化及び増幅される。様々な実施形態では、T細胞は、例えば、米国特許第6,352,694号、第6,534,055号、第6,905,680号、第6,692,964号、第5,858,358号、第6,887,466号、第6,905,681号、第7,144,575号、第7,067,318号、第7,172,869号、第7,232,566号、第7,175,843号、第5,883,223号、第6,905,874号、第6,797,514号、第6,867,041号、及び米国特許出願公開第2006/0121005号に記載される方法を使用してCARを発現するために、遺伝子改変前または遺伝子改変後に活性化及び増幅され得る。
【0293】
一般に、T細胞は、それに結合された表面と、CD3 TCR複合体関連シグナルを刺激する薬剤及びT細胞の表面上の共刺激分子を刺激するリガンドを接触させることにより増幅される。T細胞集団は、抗CD3抗体もしくはその抗原結合断片、または表面上に固定された抗CD2抗体と接触させることにより、あるいはカルシウムイオノフォアと共にタンパク質キナーゼC活性化因子(例えば、ブリオスタチン)と接触させることにより刺激され得る。T細胞の表面上のアクセサリー分子の共刺激も想定される。
【0294】
特定の実施形態では、PBMCまたは単離されたT細胞は、IL-2、IL-7、及び/またはIL-15などの適切なサイトカインを含む培養培地において、一般的にビーズまたは他の表面に結合される抗CD3及び抗CD28抗体などの刺激物質及び共刺激物質と接触させられる。CD4+T細胞またはCD8+T細胞のいずれかの増殖を刺激するために、抗CD3抗体及び抗CD28抗体。抗CD28抗体の例としては、9.3、B-T3、XR-CD28(Diacione,Besancon,France)が挙げられ、当該技術分野において一般的に知られる他の方法(Berg et al.,Transplant Proc.30(8):3975-3977,1998、Haanen et al.,J.Exp.Med.190(9):13191328,1999、Garland et al.,J.Immunol Meth.227(1-2):53-63,1999)と同様に使用され得る。同じビーズに結合された抗CD3及び抗CD28抗体は、「代理」抗原提示細胞(APC)として機能する。他の実施形態では、T細胞は、US6040177、US5827642、及びWO2012129514に記載されるものなどの方法を使用して、フィーダー細胞及び適切な抗体ならびにサイトカインを用いて活性化及び刺激されて増殖し得る。
【0295】
他の実施形態では、様々な共刺激分子及びサイトカインの安定した発現及び分泌を指向するために、K562、U937、721.221、T2、及びC1R細胞を操作することにより作製された人工APC(aAPC)。特定の実施形態では、K32またはU32
aAPCは、AAPC細胞表面上に1つ以上の抗体ベースの刺激分子の表示を指向するために使用される。aAPCが具体的な成長要件及び明確な機能を有するT細胞サブセットの最適な伝播のために調整され得るように、aAPC上の遺伝子の様々な組み合わせを発現させることによって、ヒトT細胞活性化要件の正確な決定が可能となる。aAPCは、天然のAPCの使用とは対照的に、外因性サイトカインの付加を必要とすることなく、機能性ヒトCD8 T細胞のエクスビボ成長及び長期増幅を支持する。T細胞集団は、限定されないが、CD137L(4-1BBL)、CD134L(OX40L)、及び/またはCD80もしくはCD86を含む、様々な共刺激分子を発現するaAPCにより増幅され得る。最後に、aAPCは、遺伝子改変T細胞を増幅し、CD8 T細胞上のCD28発現を維持するために、効率的なプラットホームを提供する。WO03/057171及びUS2003/0147869に提供されるaAPCは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0296】
一実施形態では、CD34+細胞は、本発明による核酸構築物で形質導入される。ある特定の実施形態では、形質導入されたCD34+細胞は、対象、一般に、細胞が本来単離された対象への投与後、インビボで成熟免疫エフェクター細胞に分化する。別の実施形態では、CD34+細胞は、本明細書に記載されるCARに曝露される前、またはそれで遺伝子改変された後に、前に記載される方法により、サイトカイン:Flt-3リガンド(FLT3)、幹細胞因子(SCF)、巨核球成長分化因子(TPO)、IL-3、及びIL-6のうちの1つ以上でインビトロで刺激され得る(Asheuer et al.,2004、Imren,et al.,2004)。
【0297】
本発明は、癌の治療のための改変された免疫エフェクター細胞集団を提供し、その改変された免疫エフェクター細胞は、本明細書に開示されるCARを含む。例えば、改変された免疫エフェクター細胞集団は、本明細書に記載されるB細胞悪性腫瘍と診断された患者(自家ドナー)から得た末梢血単核細胞(PBMC)から調製される。PBMCは、CD4+、CD8+、またはCD4+、及びCD8+であり得るTリンパ球の不均一な集団を形成する。
【0298】
PBMCは、NK細胞またはNKT細胞などの他の細胞傷害性リンパ球も含み得る。本明細書において想定されるCARのコード配列を有する発現ベクターは、ヒトドナーT細胞、NK細胞、またはNKT細胞の集団に導入され得る。発現ベクターを有する正常に形質導入されたT細胞は、CD3陽性T細胞を単離するためにフローサイトメトリーを使用して選別され、次に、抗CD3抗体及び/もしくは抗CD28抗体ならびにIL-2、または本明細書の別の箇所に記載される、当該技術分野において既知の任意の他の方法を使用する細胞活性化に加えて、T細胞を発現するこれらのCARタンパク質の数を増加させるために、更に伝播され得る。貯蔵用のCARタンパク質T細胞を発現するT細胞の凍結保存及び/またはヒト対象に使用するための調製のために、標準的な手順が使用される。一実施形態では、T細胞のインビトロ形質導入、培養、及び/または発現は、仔ウシ胎仔血清及びウシ胎仔血清などの非ヒト動物由来産物の不在下で行われる。PBMCの異種集団は遺伝子改変されるため、得られる形質導入された細胞は、本明細書において想定されるBCMA標的CARを含む改変された細胞の異種集団である。
【0299】
更なる実施形態では、例えば、1、2、3、4、5つ以上の異なる発現ベクターの混合物は、各ベクターが本明細書に置いて想定される異なるキメラ抗原受容体タンパク質をコードする、免疫エフェクター細胞のドナー集団を遺伝子改変する際に使用され得る。得られる改変された免疫エフェクター細胞は、改変された細胞の混合集団を形成し、ある割合の2つ以上の異なるCARタンパク質を発現する改変された細胞を有する。
【0300】
一実施形態では、本発明は、細胞が解凍時に生存可能のままであるように、免疫エフェクター細胞を凍結保存することを含む、BCMAタンパク質を標的とする遺伝子改変マウス、ヒト、またはヒト化CARタンパク質発現免疫エフェクター細胞を選別する方法を提供する。CARタンパク質を発現する免疫エフェクター細胞の分画は、B細胞関連状態に罹患する患者の後の治療のための、このような細胞の永続的な供給源を提供するために、当該技術分野において既知の方法によって凍結保存され得る。必要な場合、冷凍保存された形質転換された免疫エフェクター細胞は、より多くのこのような細胞を得るために解凍、成長、及び増幅され得る。
【0301】
本明細書で使用される場合、「凍結保存」は、(典型的には)77Kまたは-196℃(液体窒素の沸点)などの氷点下温度に冷却することによる細胞の保存を指す。凍結保護剤は、多くの場合、保存される細胞が低温での凍結または室温への加温により損傷するのを阻止するために、氷点下温度で使用される。凍結保存剤及び最適な冷却速度は細胞傷害から保護することができる。使用され得る凍結保護剤は、ジメチルスルホキシド(DMSO)(Lovelock and Bishop,Nature,1959;183:1394-1395、Ashwood-Smith,Nature,1961;190:1204-1205)、グリセロール、ポリビニルピロリジン(Rinfret,Ann.N.Y.Acad.Sci.,1960;85:576)、及びポリエチレングリコール(Sloviter and Ravdin,Nature,1962;196:48)を含むが、これらに限定されない。好ましい冷却速度は1℃~3℃/分である。少なくとも2時間後、T細胞は、-80℃の温度に達し、長期低温貯蔵槽などの永続的な貯蔵のために、液体窒素(-196℃)に直接設置され得る。
【0302】
H.細胞の製造方法
本明細書において想定される方法により製造されたT細胞は、改善された養子免疫療法組成物を提供する。いずれの特定の理論に拘束されるものではないが、本明細書において想定される方法により製造されたT細胞組成物は、生存率の増加、分化が比較的少ない増幅、及びインビボでの持続性を含む、優れた性質を有していると考えられる。一実施形態では、T細胞を製造する方法は、細胞を、PI3K細胞シグナル伝達経路を調節する1つ以上の薬剤と接触させることを含む。一実施形態では、T細胞を製造する方法は、細胞を、PI3K/Akt/mTOR細胞シグナル伝達経路を調節する1つ以上の薬剤と接触させることを含む。様々な実施形態では、T細胞は、任意の供給源から得られ、製造プロセスの活性化及び/または増幅段階中に薬剤と接触させられ得る。得られるT細胞組成物は、バイオマーカー:CD62L、CCR7、CD28、CD27、CD122、CD127、CD197、及びCD38のうちの1つ以上を増殖及び発現する能力を有する発達的に強力なT細胞において濃縮される。一実施形態では、1つ以上のPI3K阻害剤で処理されたT細胞を含む細胞集団は、バイオマーカー:CD62L、CD127、CD197、及びCD38のうちの1つ以上または全てを同時発現するCD8+T細胞集団に関して濃縮される。
【0303】
一実施形態では、維持されたレベルの増殖及び低減された分化を有する、改変されたT細胞が製造される。特定の実施形態では、T細胞は、1つ以上の刺激シグナル及びPI3K細胞シグナル伝達経路の阻害剤である薬剤の存在下で、活性化し、増殖するようにT細胞を刺激することにより製造される。
【0304】
次に、T細胞は、抗BCMA CARを発現するように改変され得る。一実施形態では、T細胞は、本明細書において想定される抗BCMA CARを含むウイルスベクターをT細胞に形質導入することにより改変される。ある特定の実施形態では、T細胞は、PI3K細胞シグナル伝達経路の阻害剤の存在下で、刺激及び活性化する前に改変される。別の実施形態では、T細胞は、PI3K細胞シグナル伝達経路の阻害剤の存在下で、刺激及び活性化した後に改変される。特定の実施形態では、T細胞は、PI3K細胞シグナル伝達経路の阻害剤の存在下で、刺激及び活性化の12時間以内、24時間以内、36時間以内、または48時間以内に改変される。
【0305】
T細胞が活性化された後、細胞は増殖のために培養される。T細胞は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10回以上増幅しながら、少なくとも1、2、3、4、5、6、または7日間、少なくとも2週間、少なくとも1、2、3、4、5、または6ヶ月間以上培養され得る。
【0306】
様々な実施形態では、T細胞組成物は、PI3K経路の1つ以上の阻害剤の存在下で製造される。阻害剤は、経路またはシグナル活性における1つ以上の活性を標的とし得る。いずれの特定の理論に拘束されるものではないが、製造プロセスの刺激、活性化、及び/または増幅段階中に、T細胞を1つ以上のPI3K経路の阻害剤で処理またはそれと接触させることにより、優先的に若いT細胞を増加させ、それにより、優れた治療用T細胞組成物を産生することが想定される。
【0307】
特定の実施形態では、操作されたT細胞受容体を発現するT細胞の増殖を増加させるための方法が提供される。このような方法は、例えば、対象からT細胞源を採取すること、1つ以上のPI3K経路の阻害剤の存在下で、T細胞を刺激及び活性化すること、抗BCMA CAR、例えば、抗BCMA02 CARを発現するようにT細胞を改変し、培養物中でT細胞を増幅することを含み得る。
【0308】
ある特定の実施形態では、バイオマーカー:CD62L、CCR7、CD28、CD27、CD122、CD127、CD197、及びCD38のうちの1つ以上を発現するために濃縮されたT細胞集団を産生するための方法。一実施形態では、若いT細胞は、バイオマーカー:CD62L、CD127、CD197、及びCD38のうちの1つ以上または全てを含む。一実施形態では、CD57、CD244、CD160、PD-1、CTLA4、TIM3、及びLAG3の発現を欠く若いT細胞が提供される。本明細書の別の箇所に論じられるように、発現レベル若いT細胞バイオマーカーは、より分化したT細胞または免疫エフェクター細胞集団におけるこのようなマーカーの発現レベルに対してである。
【0309】
一実施形態では、末梢血単核細胞(PBMC)は、本明細書において想定されるT細胞製造方法において、T細胞源として使用される。PBMCは、CD4+、CD8+、またはCD4+及びCD8+であり得るTリンパ球の異種集団を形成し、単球、B細胞、NK細胞、及びNKT細胞などの他の単核細胞を含み得る。本明細書において想定される操作されたTCRまたはCARをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、ヒトドナーT細胞、NK細胞、またはNKT細胞の集団に導入され得る。発現ベクターを有する正常に形質導入されたT細胞は、CD3陽性T細胞を単離するためにフローサイトメトリーを使用して選別され、次に、抗CD3抗体及び/もしくは抗CD28抗体ならびにIL-2、IL-7及び/もしくはIL-15、または本明細書の別の箇所に記載される、当該技術分野において既知の任意の他の方法を使用する細胞活性化に加えて、改変されたT細胞の数を増加させるために、更に伝播され得る。
【0310】
本明細書において想定される製造方法は、貯蔵及び/またはヒト対象に使用するための調製のために、改変されたT細胞の凍結保存を更に含む。T細胞は、細胞が解凍時に生存可能のままであるように凍結保存される。必要な場合、冷凍保存された形質転換された免疫エフェクター細胞は、より多くのこのような細胞を得るために解凍、成長、及び増幅され得る。本明細書で使用される場合、「凍結保存」は、(典型的には)77Kまたは-196℃(液体窒素の沸点)などの氷点下温度に冷却することによる細胞の保存を指す。凍結保護剤は、多くの場合、保存される細胞が低温での凍結または室温への加温により損傷するのを阻止するために、氷点下温度で使用される。凍結保存剤及び最適な冷却速度は細胞傷害から保護することができる。使用され得る凍結保護剤は、ジメチルスルホキシド(DMSO)(Lovelock and Bishop,Nature,1959;183:1394-1395、Ashwood-Smith,Nature,1961;190:1204-1205)、グリセロール、ポリビニルピロリジン(Rinfret,Ann.N.Y.Acad.Sci.,1960;85:576)、及びポリエチレングリコール(Sloviter and Ravdin,Nature,1962;196:48)を含むが、これらに限定されない。好ましい冷却速度は1℃~3℃/分である。少なくとも2時間後、T細胞は、-80℃の温度に達し、長期低温貯蔵槽などの永久貯蔵のために、液体窒素(-196℃)に直接設置され得る。
【0311】
1.T細胞
本発明は、改善されたCAR T細胞組成物の製造を想定する。CAR T細胞産生に使用されるT細胞は、自家/自源性(「自己」)または非自家(「非自己」、例えば、同種、同系、または異種)であり得る。好ましい実施形態では、T細胞は、哺乳類対象から得られる。より好ましい実施形態では、T細胞は、霊長類対象から得られる。最も好ましい実施形態では、T細胞は、ヒト対象から得られる。
【0312】
T細胞は、末梢血、単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺問題、感染部位からの組織、腹水、胸水、脾臓組織、及び腫瘍を含むが、これらに限定されない、いくつかの供給源から得ることができる。ある特定の実施形態では、T細胞は、沈降、例えば、FICOLL(商標)分離など、当業者に既知の任意の数の技法を使用して、対象から回収した血液単位から得ることができる。一実施形態では、個体の循環血液からの細胞はアフェレーシスによって得られる。アフェレーシス産物は、典型的には、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、他の有核白血球細胞、赤血球細胞、及び血小板を含む、リンパ球を含有する。一実施形態では、アフェレーシスによって回収された細胞を洗浄して血漿分画を除去し、後続処理のために、細胞を適切な緩衝液または培地に設置する。細胞は、PBS、またはカルシウム、マグネシウム、及び全てではなくても大半の二価のカチオンを含まない別の好適な溶液で洗浄され得る。当業者が理解するように、洗浄ステップは、半自動フロースルー遠心分離機などを使用することにより、当業者に既知の方法により達成され得る。例えば、Cobe2991細胞プロセッサ、Baxter CytoMateなどである。洗浄後、細胞は、様々な生体適合性緩衝液、または緩衝液を含む、もしくは含まない他の生理食塩水溶液に再懸濁され得る。ある特定の実施形態では、アフレーシス試料の望ましくない構成成分を、この細胞を直接再懸濁させた培養培地中で除去することができる。
【0313】
特定の実施形態では、T細胞、例えば、PBMCを含む細胞集団は、本明細書において想定される製造方法において使用される。他の実施形態では、T細胞の単離または精製された集団は、本明細書において想定される製造方法において使用される。細胞は、例えば、PERCOLL(商標)勾配を通した遠心分離により、赤血球細胞を溶解し、単球を枯渇させることにより、末梢血単核細胞(PBMC)から単離され得る。いくつかの実施形態では、PBMCの単離後、細胞傷害性及びヘルパーTリンパ球の両方が、活性化、増幅、及び/または遺伝子改変の前またはその後のいずれかに、未処理、メモリー、及びエフェクターT細胞サブ集団に選別され得る。
【0314】
マーカー:CD3、CD4、CD8、CD28、CD45RA、CD45RO、CD62、CD127、及びHLA-DRのうちの1つ以上を発現するT細胞の特定のサブ集団は、正または負の選択技法により更に単離され得る。一実施形態では、i)CD62L、CCR7、CD28、CD27、CD122、CD127、CD197、またはii)CD38もしくはCD62L、CD127、CD197、及びCD38からなる群から選択されるマーカーのうちの1つ以上を発現するT細胞の特定のサブ集団は、正または負の選択技法により更に単離され得る。様々な実施形態では、製造されたT細胞組成物は、マーカー:CD57、CD244、CD160、PD-1、CTLA4、TIM3、及びLAG3のうちの1つ以上を発現しない、または実質的に発現しない。
【0315】
一実施形態では、CD62L、CD127、CD197、及びCD38からなる群から選択されるマーカーのうちの1つ以上の発現は、PI3K阻害剤なしで活性化及び増幅されたT細胞集団と比較して、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも25倍以上増加する。
【0316】
一実施形態では、CD57、CD244、CD160、PD-1、CTLA4、TIM3、及びLAG3からなる群から選択されるマーカーのうちの1つ以上の発現は、PI3K阻害剤と共に活性化及び増幅されたT細胞集団と比較して、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも25倍以上低減される。
【0317】
一実施形態では、本明細書において想定される製造方法は、未処理または発達的に強力なT細胞のうちの1つ以上のマーカーを含むCAR T細胞の数を増加させる。いずれの特定の理論に拘束されるものではないが、本発明者は、T細胞を含む細胞集団を1つ以上のPI3K阻害剤で処理することにより、既存のCAR細胞療法と比較して、発達的に強力なT細胞の増幅を増加させ、より強固かつ有効な養子CAR T細胞免疫療法が提供されると考える。
【0318】
本明細書において想定される方法を使用して製造されたT細胞において増加された未処理または発達的に強力なT細胞のマーカーの例示的な例としては、CD62L、CD127、CD197、及びCD38が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、未処理T細胞は、マーカー:CD57、CD244、CD160、PD-1、BTLA、CD45RA、CTLA4、TIM3、及びLAG3のうちの1つ以上を発現しない発現しないか、または実質的に発現しない。
【0319】
T細胞に関して、本明細書において想定される様々な増幅方法から得られるT細胞集団は、採用される条件により、様々な特異的な表現型性質を有し得る。様々な実施形態では、増幅されたT細胞集団は、表現型マーカー:CD62L、CD127、CD197、CD38及びHLA-DRのうちの1つ以上を含む。
【0320】
一実施形態では、このような表現型マーカーは、CD62L、CD127、CD197、及びCD38のうちの1つ以上または全ての、強化された発現を含む。特定の実施形態では、CD62L、CD127、CD197、及びCD38を含む未処理T細胞の表現型のマーカーの発現を特徴とするCD8+Tリンパ球か増幅される。
【0321】
特定の実施形態では、CD45RO、CD62L、CD127、CD197、及びCD38を含む中枢メモリーT細胞、ならびにグランザイムBに陰性の表現型マーカーの発現を特徴とするT細胞が増幅される。いくつかの実施形態では、中枢メモリーT細胞は、CD45RO+、CD62L+、CD8+T細胞である。
【0322】
ある特定の実施形態では、CD62Lを含む未処理CD4+細胞、ならびにCD45RA及び/またはCD45ROの発現に陰性の表現型マーカーの発現を特徴とするCD4+Tリンパ球が増幅される。いくつかの実施形態では、CD62L及びCD45RO陽性を含む中枢メモリーCD4+細胞の表現型マーカーの発現を特徴するCD4+細胞。いくつかの実施形態では、エフェクターCD4+細胞は、CD62L陽性及びCD45RO陰性である。
【0323】
ある特定の実施形態では、T細胞は、個体から単離され、抗BCMA CARを発現するように遺伝子改変される前に、インビトロで増殖するように活性化及び刺激される。この点に関して、T細胞は、遺伝子改変される前及び/または遺伝子改変された後に培養され得る(すなわち、本明細書において想定される抗BCMA CARを発現するように形質導入または形質移入される)。
【0324】
2.活性化及び増幅
T細胞組成物の十分な治療量を達成するために、T細胞は、多くの場合、1回以上の刺激、活性化、及び/または増幅を受ける。T細胞は、一般的に、例えば、米国特許第6,352,694号、第6,534,055号、第6,905,680号、第6,692,964号、第5,858,358号、第6,887,466号、第6,905,681号、第7,144,575号、第7,067,318号、第7,172,869号、第7,232,566号、第7,175,843号、第5,883,223号、第6,905,874号、第6,797,514号、及び第6,867,041号(それらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載される方法を使用して、活性化及び増幅され得る。抗BCMA CARを発現するために改変されたT細胞は、T細胞が改変される前及び/または改変された後に、活性化及び増幅され得る。加えて、T細胞は、活性化及び/または増幅の前、その間、及び/またはその後にPI3K細胞シグナル伝達経路を調節する1つ以上の薬剤と接触させられ得る。一実施形態では、本明細書において想定される方法により製造されたT細胞は、1、2、3、4、5回以上の活性化及び増幅を受け、それらの各々は、PI3K細胞シグナル伝達経路を調節する1つ以上の薬剤を含み得る。
【0325】
一実施形態では、共刺激リガンドは、T細胞上の同族共刺激分子に特異的に結合する抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)上に存在し、それにより、例えば、TCR/CD3複合体の結合によって提供される一次シグナルに加えて、所望のT細胞応答を媒介するシグナルを提供する。好適な共刺激リガンドは、CD7、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L 1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞間接着分子(ICAM)、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、MICB、HVEM、リンホトキシンベータ受容体、ILT3、ILT4、Tollリガンド受容体に結合するアゴニストまたは抗体、及びB7-H3と特異的に結合するリガンドを含むが、これらに限定されない。
【0326】
特定の実施形態では、共刺激リガンドは、CD27、CD28、4-IBB、OX40、CD30、CD40、PD-1、1COS、リンパ球機能関連抗原1(LFA-1)、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、及びCD83と特異的に結合するリガンドを含むがこれらに限定されない、T細胞上に存在する共刺激分子に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0327】
好適な共刺激リガンドは、可溶形態で提供されるか、または改変されたT細胞上に発現された、操作されたTCRもしくはCARに結合するAPCまたはaAPC上に発現され得る、標的抗原を更に含む。
【0328】
様々な実施形態では、本明細書において想定されるT細胞を製造するための方法は、T細胞を含む細胞集団を活性化し、T細胞集団を増幅することを含む。T細胞活性化は、T細胞TCR/CD3複合体を通して、またはCD2表面タンパク質の刺激を介して一次刺激シグナルを提供することにより、及びアクセサリー分子、例えば、CD28を通して二次共刺激シグナルを提供することにより達成され得る。
【0329】
TCR/CD3複合体は、T細胞を、好適なCD3結合剤、例えば、CD3リガンドまたは抗CD3モノクローナル抗体と接触させることにより刺激され得る。CD3抗体の例示的な例としては、OKT3、G19-4、BC3、及び64.1が挙げられるが、これらに限定されない。
【0330】
別の実施形態では、CD2結合剤は、一次刺激シグナルをT細胞に提供するために使用され得る。CD2結合剤の例示的な例としては、CD2リガンド及び抗CD2抗体、例えば、T11.1またはT11.2抗体と組み合わせたT11.3抗体(Meuer,S.C.et al.(1984)Cell 36:897-906)、及び9-1抗体と組み合わせた9.6抗体(TI 1.1と同じエピトープを認識する)(Yang,S.Y.et al.(1986)J.Immunol.137:1097-1100)が挙げられるが、これらに限定されない。上述の抗体のいずれかと同じエピトープに結合する他の抗体も使用することができる。本明細書の別の箇所に開示される標準的な技法により、追加の抗体、または抗体の組み合わせを調製及び特定することができる。
【0331】
TCR/CD3複合体を通して、またはCD2を介して提供される一次刺激シグナルに加えて、T細胞応答の誘発は、二次共刺激シグナルを必要とする。特定の実施形態では、CD28結合剤は、共刺激シグナルを提供するために使用され得る。CD28結合剤の例示的な例としては、天然のCD28リガンド、例えば、CD28の天然リガンド(例えば、B7-1(CD80)及びB7-2(CD86)などのタンパク質のB7ファミリーのメンバー;CD28を架橋することができる抗CD28モノクローナル抗体またはその断片、例えば、モノクローナル抗体9.3、B-T3、XR-CD28、KOLT-2、15E8、248.23.2、及びEX5.3D10が挙げられるが、これらに限定されない。
【0332】
一実施形態では、一次刺激シグナルを提供する分子、例えば、TCR/CD3複合体またはCD2を通して刺激を提供する分子、及び共刺激分子は同じ表面に結合される。
【0333】
ある特定の実施形態では、刺激及び共刺激シグナルを提供する結合剤は細胞の表面上に局在化される。これは、細胞表面上でのその発現に好適な形態で、結合剤をコードする核酸を細胞に形質移入または形質導入することにより、ないしは別の方法で、結合剤を細胞表面に結合することにより達成され得る。
【0334】
別の実施形態では、一次刺激シグナルを提供する分子、例えば、TCR/CD3複合体またはCD2を通して刺激を提供する分子、及び共刺激分子は抗原提示細胞上に表示される。
【0335】
一実施形態では、一次刺激シグナルを提供する分子、例えば、TCR/CD3複合体またはCD2を通して刺激を提供する分子、及び共刺激分子は別個の表面上に提供される。
【0336】
ある特定の実施形態では、刺激及び共刺激シグナルを提供する結合剤のうちの1つは、可溶性(溶液で提供される)であり、他の薬剤(複数可)は1つ以上の表面上に提供される。
【0337】
特定の実施形態では、刺激及び共刺激シグナルを提供する結合剤は、両方とも可溶形態で提供される(溶液で提供される)。
【0338】
様々な実施形態では、本明細書において想定されるT細胞を製造するための方法は、抗CD3及び抗CD28抗体でT細胞を活性化することを含む。
【0339】
本明細書において想定される方法によって製造されたT細胞組成物は、PI3K細胞シグナル伝達経路を阻害する1つ以上の薬剤の存在下で活性化及び/または増幅されたT細胞を含む。抗BCMA CARを発現するために改変されたT細胞は、T細胞が改変される前及び/または改変された後に、活性化及び/または増幅され得る。特定の実施形態では、T細胞集団は、抗BCMA CARを発現するように活性化、改変され、次に増幅のために培養される。
【0340】
一実施形態では、本明細書において想定される方法によって製造されたT細胞は、高増殖の可能性及び自己再生能力を示すマーカーを発現するが、T細胞分化の検出ができないマーカーを発現しないか、または実質的に発現しない増加した数のT細胞を含む。これらのT細胞は、強固な様式で繰り返し活性化及び増幅され、それにより改善された治療用T細胞組成物を提供し得る。
【0341】
一実施形態では、PI3K細胞シグナル伝達経路を阻害する1つ以上の薬剤の存在下で活性化及び増幅されたT細胞集団は、PI3K阻害剤なしで活性化及び増幅されたT細胞集団と比較して、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも25倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも250倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍以上増幅される。
【0342】
一実施形態では、PI3K細胞シグナル伝達経路を阻害する1つ以上の薬剤の存在下で活性化及び増幅された若いT細胞である、マーカーの発現を特徴とするT細胞集団は、PI3K阻害剤なしで活性化及び拡張されたT細胞集団と比較して、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも25倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも250倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍以上増幅される。
【0343】
一実施形態では、本明細書において想定される方法によって活性化されたT細胞の増幅は、数時間(約3時間)~約7日~約28日間、またはそれらの間の任意の時間単位の整数値の間、T細胞を含む細胞集団を培養することを更に含む。別の実施形態では、T細胞組成物は、14日間培養され得る。特定の実施形態では、T細胞は約21日間培養される。別の実施形態では、T細胞組成物は、約2~3日間培養され得る。T細胞の培養時間が60日以上であり得るように、数サイクルの刺激/活性化/増幅が望ましい場合もある。
【0344】
特定の実施形態では、T細胞培養に適切な条件は、適切な培地(例えば、最小必須培地、またはRPMI Media 1640もしくはX-vivo15,(Lonza))、ならびに血清(例えば、ウシ胎仔またはヒト血清)、インターロイキン2(IL-2)、インスリン、IFN-γ、IL-4、IL-7、IL-21、GM-CSF、IL-10、IL-12、IL-15,TGFβ、及びTNF-α、または当業者に既知の細胞の成長に好適な任意の他の添加剤を含むが、これらに限定されない、増殖及び生存能に必要な1つ以上の因子を含む。
【0345】
細胞培養培地の更に例示的な例としては、限定されないが、RPMI 1640、Clicks、AIM-V、DMEM、MEM、a-MEM、F-12、X-Vivo15、及びX-Vivo20、Optimizerが挙げられ、これにアミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、及びビタミンが添加され、無血清、または適切な量の血清(もしくは血漿)もしくは定義されたホルモン一式、ならびに/またはT細胞の成長及び増幅に十分な量のサイトカイン(複数可)で補足されるかのいずれかである。
【0346】
T細胞増幅のための他の添加剤の例示的な例としては、界面活性剤、ピアスマネート(piasmanate)、pH緩衝剤(HEPESなど)、及び還元剤(N-アセチル-システイン及び2-メルカプトエタノールなど)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0347】
抗生物質、例えば、ペニシリン及びストレプトマイシンは、実験培地にのみ含まれ、対象に注入される細胞の培養物には含まれない。標的細胞は、成長を支持するのに必要な条件下、例えば、適切な温度(例えば、37℃)及び雰囲気(例えば、空気+5%C02)下で維持される。
【0348】
特定の実施形態では、PBMCまたは単離されたT細胞は、IL-2、IL-7、及び/またはIL-15などの適切なサイトカインを含む培養培地において、一般的にビーズまたは他の表面に結合される抗CD3及び抗CD28抗体などの刺激物質及び共刺激物質と接触させられる。
【0349】
他の実施形態では、様々な共刺激分子及びサイトカインの安定した発現及び分泌を指向するために、K562、U937、721.221、T2、及びC1Rを操作することによって作製された人工APC(aAPC)。特定の実施形態では、K32またはU32 aAPCは、AAPC細胞表面上に1つ以上の抗体ベースの刺激分子の表示を指向するために使用される。T細胞集団は、限定されないが、CD137L(4-1BBL)、CD134L(OX40L)、及び/またはCD80もしくはCD86を含む、様々な共刺激分子を発現するaAPCにより増幅され得る。最後に、aAPCは、遺伝子改変T細胞を増幅し、CD8 T細胞上のCD28発現を維持するために、効率的なプラットホームを提供する。WO03/057171及びUS2003/0147869に提供されるaAPCは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0350】
3.薬剤
様々な実施形態では、細胞のPI3K経路を調節する薬剤とT細胞を接触させることを含む、未分化または発達的に強力なT細胞を増幅するT細胞を製造するための方法が提供される。様々な実施形態では、細胞のPI3K/AKT/mTOR経路を調節する薬剤とT細胞を接触させることを含む、未分化または発達的に強力なT細胞を増幅するT細胞を製造するための方法が提供される。細胞は、活性化及び増幅の前、その間、及び/またはその後に接触させることができる。T細胞組成物は、それらが分化を実質的に増加させずに複数回増幅を受けることができるように、十分なT細胞効力を維持する。
【0351】
本明細書で使用される場合、「調節する」、「調節因子」もしくは「調節剤」という用語、または比較可能な用語は、細胞シグナル伝達経路における変化を引き起こす薬剤の能力を指す。調節因子は、経路構成成分の量、活性を増加させるもしくは低減するか、または細胞シグナル伝達経路の所望の作用もしくは出力を増加させるまたは低減することができる。一実施形態では、調節因子は阻害剤である。一実施形態では、調節因子は活性化剤である。
【0352】
「薬剤」は、PI3K/AKT/mTOR経路の調節に使用される、化合物、小分子、例えば、小有機分子、核酸、ポリペプチド、またはそれらの断片、アイソフォーム、バリアント、類似体、もしくは誘導体を指す。
【0353】
「小分子」は、約5kD未満、4kD未満、約3kD未満、約2kD未満、約1kD未満、または約.5kD未満の分子量を有する組成物を指す。小分子は、核酸、ペプチド、ポリペプチド、ペプチド模倣薬、ペプトイド、炭水化物、脂質、それらの構成成分、または他の有機もしくは無機分子を含み得る。真菌、細菌、または藻類抽出物などの化学及び/または生物学的混合物のライブラリーは、当該技術分野において既知であり、本発明のアッセイのいずれかを用いてスクリーニングされ得る。分子ライブラリーの合成方法の例は、(Carell et al.,1994a、Carell et al.,1994b、Cho et al.,1993、DeWitt et al.,1993、Gallop et al.,1994、Zuckermann et al.,1994)に見出すことができる。
【0354】
「類似体」は、化合物、ヌクレオチド、タンパク質、もしくはポリペプチドと類似するまたは同一の活性もしくは機能(複数可)を保有する小有機化合物、ヌクレオチド、タンパク質、またはポリペプチド、あるいは本発明の所望の活性を有するが、好ましい実施形態の配列もしくは構造に類似する、または同一である配列もしくは構造を必ずしも含まない化合物を指す。
【0355】
「誘導体」は、アミノ酸残基の置換、欠失、もしくは付加の導入により変更された親タンパク質またはポリペプチドのアミノ酸配列、あるいはヌクレオチドの置換もしくは欠失、付加もしくは突然変異の導入のいずれかにより改変された核酸またはヌクレオチドを含む、化合物、タンパク質、またはポリペプチドのいずれかを指す。誘導体の核酸、ヌクレオチド、タンパク質、またはポリペプチドは、親ポリペプチドと類似するまたは同一の機能を保有する。
【0356】
様々な実施形態では、PI3K経路を調節する薬剤は、経路の構成成分を活性化する。「活性化剤」または「アゴニスト」は、限定されないが、PI3Kの1つ以上の活性を阻害する分子を含む、PI3K/AKT/mTOR経路における分子の1つ以上の活性を促進、増加、または誘発する薬剤を指す。
【0357】
様々な実施形態では、PI3K経路を調節する薬剤は、経路の構成成分を阻害する。「阻害剤」または「アンタゴニスト」は、限定されないが、PI3Kを含む、PI3K経路における分子の1つ以上の活性を阻害する、低減する、または減少させる薬剤を指す。一実施形態では、阻害剤は、2重分子阻害剤である。特定の実施形態では、阻害剤は、同じまたは実質的に類似する活性を有する分子のクラスを阻害し得るか(汎阻害剤)、または分子の活性を特異的に阻害し得る(選択的または特異的阻害剤)。阻害は、不可逆的または可逆的でもあり得る。
【0358】
一実施形態では、阻害剤は、少なくとも1nM、少なくとも2nM、少なくとも5nM、少なくとも10nM、少なくとも50nM、少なくとも100nM、少なくとも200nM、少なくとも500nM、少なくとも1μM、少なくとも10μM、少なくとも50μM、または少なくとも100μMのIC50を有する。IC50の決定は、当該技術分野において既知の任意の従来の技法を使用して達成され得る。例えば、IC50は、研究中の阻害剤の濃度範囲の存在下で、所与の酵素の活性を測定することによって決定され得る。次に、酵素活性の実験的に得られた値を、使用した阻害剤濃度に対してプロットする。50%酵素活性を示す(任意の阻害剤の不在下の活性と比較して)阻害剤の濃度が「IC50」値と解釈される。類似的に、他の阻害濃度が活性の適切な決定を通して定義され得る。
【0359】
様々な実施形態では、T細胞は、少なくとも1nM、少なくとも2nM、少なくとも5nM、少なくとも10nM、少なくとも50nM、少なくとも100nM、少なくとも200nM、少なくとも500nM、少なくとも1μM、少なくとも10μM、少なくとも50μM、少なくとも100μM、または少なくとも1Mの濃度で、PI3K経路の1つ以上の調節因子と接触させられるか、または処理されるか、または培養される。
【0360】
特定の実施形態では、T細胞は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10回以上増幅しながら、少なくとも12時間、18時間、少なくとも1、2、3、4、5、6、または7日間、少なくとも2週間、少なくとも1、2、3、4、5、または6ヶ月以上、PI3K経路の1つ以上の調節因子と接触させられるか、または処理されるか、または培養され得る。
【0361】
a.PI3K/Akt/mTOR経路
ラパマイシン経路のホスファチジル-イノシトール-3キナーゼ/Akt/哺乳類標的は、細胞増殖、分化、代謝、及び生存を伴う成長因子質シグナル伝達を組み込むための導管として機能する。PI3Kは、高度に保存された細胞内脂質キナーゼのファミリーである。クラスIAのPI3Kは、直接またはアダプター分子のインスリン受容体基質ファミリーとの相互作用を通してのいずれかで、成長因子受容体チロシンキナーゼ(RTK)により活性化される。この活性は、セリン/スレオニンキナーゼAktの制御因子であるホスファチジル-イノシトール-3,4,5-トリホスペート(trisphospate)(PIP3)の産生をもたらす。mTORは、各々、明確な活性を付与する異なる結合パートナーを特徴とする2つの明確な複合体を介して標準PI3K経路を通して作用する。mTORC1(PRAS40、猛禽類、及びmLST8/GbLとの複合体におけるmTOR)は、PI3K/Aktシグナル伝達の下流エフェクターとして作用し、成長因子シグナルを、タンパク質翻訳、細胞成長、増殖、及び生存と関連付ける。mTORC2(rictor、mSIN1、protor、及びmLST8との複合体におけるmTOR)は、Aktの上流活性化因子として作用する。
【0362】
PI3Kの成長因子受容体媒介活性化時に、Aktは、そのプレクストリン相同ドメインのPIP3との相互作用を通して膜に動員され、よって、その活性化ループを露出し、構成的活性ホスホイノシチド依存タンパク質キナーゼ1(PDK1)によりスレオニン308(Thr308)でリン酸化を可能にする。最大活性化に関して、Aktは、そのC末端疎水性モチーフのセリン473(Ser473)でも、mTORC2によりリン酸化される。DNA-PK及びHSPもAkt活性の調節に重要であることが示されてきた。Aktは、TSC1と共に、mTORC1の正の調節因子であるRheb GTPaseを阻害することにより、mTORC1を負に調節する、TSC2の阻害性リン酸化を通してmTORC1を活性化する。mTORC1は、2つの十分に定義された基質であるp70S6K(以後、S6K1と称される)及び4E-BP1を有し、その両方は、タンパク質合成を厳密に調節する。よって、mTORC1は、PI3Kの重要な下流エフェクターであり、成長因子シグナル伝達をタンパク質翻訳及び細胞増殖と関連付ける。
【0363】
b. PI3K阻害剤
本明細書で使用される場合、「PI3K阻害剤」という用語は、PI3Kの少なくとも1つの活性に結合し、それを阻害する核酸、ペプチド、化合物、または小有機分子を指す。PI3Kタンパク質は、クラス1のPI3K、クラス2のPI3K、及びクラス3のPI3Kの3つのクラスに分けることができる。クラス1のPI3Kは、4つのp110触媒サブ単位(p110α、p110β、p110δ、及びp110γ)のうちの1つ、ならびに調節サブ単位の2つのファミリーのうちの1つからなるヘテロ二量体として存在する。本発明のPI3K阻害剤は、好ましくは、クラス1のPI3K阻害剤を標的とする。一実施形態では、PI3K阻害剤は、クラス1のPI3K阻害剤の1つ以上のアイソフォームに選択性を示す(すなわち、p110α、p110β、p110δ、及びp110γ、またはp110α、p110β、p110δ、及びp110γのうちの1つ以上に対する選択性)。別の態様では、PI3K阻害剤は、アイソフォーム選択性を示さず、「汎PI3K阻害剤」と考えられる。一実施形態では、PI3K阻害剤は、ATPとPI3K触媒ドメインへの結合に関して競合する。
【0364】
ある特定の実施形態では、PI3K阻害剤は、例えば、PI3K-AKT-mTOR経路において、PI3Kならびに追加のタンパク質を標的とし得る。特定の実施形態では、mTOR及びPI3Kの両方を標的とするPI3K阻害剤は、mTOR阻害剤またはPI3K阻害剤のいずれかと称され得る。PI3Kのみを標的とするPI3K阻害剤は、選択的PI3K阻害剤と称され得る。一実施形態では、選択的PI3K阻害剤は、経路におけるmTOR及び/または他のタンパク質に対して阻害剤のIC50より少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも1000倍以上低いPI3Kに対して50%阻害濃度を呈する薬剤を指すことが理解され得る。
【0365】
特定の実施形態では、例示的なPI3K阻害剤は、約200nM以下、好ましくは約100nm以下、更により好ましくは約60nM以下、約25nM、約10nM、約5nM、約1nM、100μM、50μM、25μM、10μM、1μM以下のIC50(活性の50%を阻害する濃度)でPI3Kを阻害する。一実施形態では、PI3K阻害剤は、約2nM~約100nm、より好ましくは約2nM~約50nM、更により好ましくは約2nM~約15nMのIC50でPI3Kを阻害する。
【0366】
本明細書において想定されるT細胞製造方法に使用するのに好適なPI3K阻害剤の例示的な例としては、BKM120(クラス1のPI3K阻害剤、Novartis)、XL147(クラス1のPI3K阻害剤、Exelixis)、(汎-PI3K阻害剤、GlaxoSmithKline)、及びPX-866(クラス1のPI3K阻害剤、p110α、p110β、及びp110γアイソフォーム、Oncothyreon)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0367】
選択的PI3K阻害剤の他の例示的な例としては、BYL719、GSK2636771、TGX-221、AS25242、CAL-101、ZSTK474、及びIPI-145が挙げられるが、これらに限定されない。
【0368】
汎PI3K阻害剤の更なる例示的な例としては、BEZ235、LY294002、GSK1059615、TG100713、及びGDC-0941が挙げられるが、これらに限定されない。
【0369】
c.AKT阻害剤
本明細書で使用される場合、「AKT阻害剤」という用語は、AKTの少なくとも1つの活性を阻害する核酸、ペプチド、化合物、または小有機分子を指す。AKT阻害剤は、脂質ベースの阻害剤(例えば、AKTが形質膜に局在化するのを阻止するAKTのプレクストリン相同ドメインを標的とする阻害剤)、ATP競合阻害剤、及びアロステリック阻害剤を含む、いくつかのクラスに分けることができる。一実施形態では、AKT阻害剤は、AKT触媒部位に結合することによって作用する。特定の実施形態では、AKT阻害剤は、mTORなどの下流AKT標的のリン酸化を阻害することによって作用する。別の実施形態では、AKT活性は、例えば、AKTのDNA-PK活性化、AKTのPDK-1活性化、及び/またはAktのmTORC2活性化を阻害することにより、Aktを活性化する入力シグナルを阻害することにより阻害される。
【0370】
AKT阻害剤は、AKT1、AKT2、AKT3の3つ全てのAKTアイソフォームを標的とし得るか、または選択的なアイソフォームであり得、AKTアイソフォームのうちの1つまたは2つのみを標的とする。一実施形態では、AKT阻害剤は、PI3K-AKT-mTOR経路において、AKTならびに追加のタンパク質を標的とし得る。AKTのみを標的とするAKT阻害剤は、選択的AKT阻害剤と称され得る。一実施形態では、選択的AKT阻害剤は、経路において、他のタンパク質に対して阻害剤のIC50より少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも1000倍以上低いAKTに対して50%阻害濃度を呈する薬剤を指すことが理解され得る。
【0371】
特定の実施形態では、例示的なAKT阻害剤は、約200nM以下、好ましくは約100nm以下、更により好ましくは約60nM以下、約25nM、約10nM、約5nM、約1nM、100μM、50μM、25μM、10μM、1μM以下のIC50(活性の50%を阻害する濃度)でAKTを阻害する。一実施形態では、AKT阻害剤は、約2nM~約100nm、より好ましくは約2nM~約50nM、更により好ましくは約2nM~約15nMのIC50でAKTを阻害する。
【0372】
アウリスタチンベースの抗体-薬物抱合体と組み合わせて使用するためのAKT阻害剤の例示的な例としては、例えば、ペリホシン(Keryx)、MK2206(Merck)、VQD-002(VioQuest)、XL418(Exelixis)、GSK690693、GDC-0068、及びPX316(PROLX Pharmaceuticals)が挙げられる。
【0373】
選択的Akt1阻害剤の例示的な非限定的な例はA-674563である。
【0374】
選択的Akt2阻害剤の例示的な非限定的な例はCCT128930である。
【0375】
特定の実施形態では、Akt阻害剤、AktのDNA-PK活性化、AktのPDK-1活性化、AktのmTORC2活性化、またはAktのHSP活性化である。
【0376】
DNA-PK阻害剤の例示的な例としては、NU7441、PI-103、NU7026、PIK-75、及びPP-121が挙げられるが、これらに限定されない。
【0377】
d.mTOR阻害剤
「mTOR阻害剤」または「mTORを阻害する薬剤」という用語は、mTORタンパク質の少なくとも1つの活性、例えば、その基質のうちの少なくとも1つ上のセリン/スレオニンタンパク質キナーゼ活性(例えば、p70S6キナーゼ1、4E-BP1、AKT/PKB、及びEF2)などを阻害する核酸、ペプチド、化合物、または小有機分子を指す。mTOR阻害剤は、mTORC1、mTORC2、またはmTORC1及びmTORC2の両方に直接結合し、それらを阻害することができる。
【0378】
mTORC及び/またはmTORC2活性の阻害は、PI3K/Akt/mTOR経路のシグナル伝達における減少により決定され得る。このようなシグナル伝達経路の出力の減少を確立するために、多種多様の読出しが利用され得る。いくつかの非限定的な例示的な読出しは、(1)限定されないが、5473及びT308を含む残基でのAktのリン酸化の低減、(2)例えば、限定されないが、Fox01/O3a T24/32、GSK3a/β、S21/9、及びTSC2 T1462を含む、Akt基質のリン酸化の減少によって確認されるように、Aktの活性の低減、(3)限定されないが、リボソームS6 S240/244、70S6K T389、及び4EBP1 T37/46を含む、mTORの下流のシグナル伝達分子のリン酸化の低減、ならびに(4)癌細胞の増殖の阻害を含む。
【0379】
一実施形態では、mTOR阻害剤は活性部位阻害剤である。これらは、mTORのATP結合部位(ATP活性ポケットとも称される)に結合し、mTORC1及びmTORC2の両方の触媒活性を阻害するmTOR阻害剤である。本明細書において想定されるT細胞製造方法に使用するのに好適な活性部位阻害剤のクラスの1つは、PI3K及びmTORの両方を標的とし、直接阻害する2重特異性阻害剤である。2重特異性阻害剤は、mTOR及びPI3KのATP結合部位の両方に結合する。このような阻害剤の例示的な例としては、イミダゾキナゾリン、ワートマニン、LY294002、PI-103(Cayman Chemical)、SF1126(Semafore)、BGT226(Novartis)、XL765(Exelixis)、及びNVP-BEZ235(Novartis)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0380】
本明細書において想定される方法に使用するのに好適なmTOR活性部位阻害剤の別のクラスは、1つ以上のI型ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ、例えば、PI3キナーゼα、β、γ、またはδに対して、mTORC1及びmTORC2を選択的に阻害する。これらの活性部位阻害剤は、mTORの活性部位に結合するが、PI3Kの活性部位に結合しない。このような阻害剤の例示的な例としては、ピラゾロピリミジン、トリン1(Guertin and Sabatini)、PP242(2-(4-アミノ-1-イソプロピル-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-3-イル)-1H-インドール-5-オール)、PP30、Ku-0063794、WAY-600(Wyeth)、WAY-687(Wyeth)、WAY-354(Wyeth)、及びAZD8055(Liu et al.,Nature Review,8,627-644,2009)が挙げられるが、これらに限定されない。I
【0381】
一実施形態では、選択的mTOR阻害剤は、1、2、3つ以上のI型PI3キナーゼまたはI型PI3キナーゼの全てに対して阻害剤のIC50より少なくとも10倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも1000倍以上低いmTORC1及び/またはmTORC2に対して50%阻害濃度を呈する薬剤を指す。
【0382】
本発明において使用するためのmTOR阻害剤の別のクラスは、本明細書において、「ラパログ」と称される。本明細書で使用される場合、「ラパログ」という用語は、mTOR FRBドメイン(FKBPラパマイシン結合ドメイン)に特異的に結合し、ラパマイシンに構造的に関係し、mTOR阻害性質を維持する化合物を指す。ラパログという用語は、ラパマイシンを除外する。ラパログは、ラパマイシンのエステル、エーテル、オキシム、ヒドラゾン、及びヒドロキシルアミン、ならびにラパマイシンコア構造上の官能基が、例えば、還元または酸化により改変された化合物を含む。このような化合物の薬学的に許容される塩もラパマイシン誘導体と考えられる。本明細書において想定される方法に使用するのに好適なラパログの例示的な例としては、テムシロリムス(CC1779)、エベロリムス(RAD001)、デフォロリムス(AP23573)、AZD8055(AstraZeneca)、及びOSI-027(OSI)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0383】
一実施形態では、薬剤は、mTOR阻害剤ラパマイシン(シロリムス)である。
【0384】
特定の実施形態では、本発明において使用するための例示的なmTOR阻害剤は、約200nM以下、好ましくは約100nm以下、更により好ましくは約60nM以下、約25nM、約10nM、約5nM、約1nM、100μM、50μM、25μM、10μM、1μM以下のIC50(活性の50%を阻害する濃度)で、mTORC1、mTORC2、またはmTORC1及びmTORC2の両方のいずれかを阻害する。一態様では、本発明において使用するためのmTOR阻害剤は、約2nM~約100nm、より好ましくは約2nM~約50nM、更により好ましくは約2nM~約15nMのIC50で、mTORC1、mTORC2、またはmTORC1及びmTORC2の両方のいずれかを阻害する。
【0385】
一実施形態では、例示的なmTOR阻害剤は、約200nM以下、好ましくは約100nm以下、更により好ましくは約60nM以下、約25nM、約10nM、約5nM、約1nM、100μM、50μM、25μM、10μM、1μM以下のIC50(活性の50%を阻害する濃度)で、PI3K及びmTORC1もしくはmTORC2、またはmTORC1及びmTORC2の両方、ならびにPI3Kのいずれかを阻害する。一態様では、本発明において使用するためのmTOR阻害剤は、約2nM~約100nm、より好ましくは約2nM~約50nM、更により好ましくは約2nM~約15nMのIC50で、PI3K及びmTORC1もしくはmTORC2、またはmTORC1及びmTORC2の両方、ならびにPI3Kを阻害する。
【0386】
本明細書において想定される特定の実施形態において使用するのに好適なmTOR阻害剤の更なる例示的な例としては、AZD8055、INK128、ラパマイシン、PF-04691502、及びエベロリムスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0387】
mTORは、ウエスタンブロッティングにおいて蛍光体特異的抗体により測定されるとき、生理学的基質タンパク質p70 S6リボソームタンパク質キナーゼI(p70S6K1)及びeIF4E結合タンパク質1(4EBP1)に対して強固かつ特異的な触媒活性を示すことが示された。
【0388】
一実施形態では、PI3K/AKT/mTOR経路の阻害剤は、BI-D1870、H89、PF-4708671、FMK及びAT7867からなる群から選択される、s6キナーゼ阻害剤である。
【0389】
I.組成物及び製剤
本明細書において想定される組成物は、本明細書において想定されるように、1つ以上のポリペプチド、ポリヌクレオチド、それらを含むベクター、遺伝子改変免疫エフェクター細胞等を含み得る。組成物は、薬学的組成物を含むが、これに限定されない。「薬学的組成物」は、単独で、または1つ以上の他の治療様式と組み合わせてのいずれかで、細胞または動物に投与するための、薬学的に許容される、または生理学的に許容される溶液に製剤化された組成物を指す。所望される場合、本発明の組成物は、他の薬剤、例えば、サイトカイン、成長因子、ホルモン、小分子、化学療法剤、プロドラッグ、薬物、抗体、または他の様々な薬学的に活性な薬剤などと組み合わせて投与され得ることも理解されたい。本組成物に同様に含まれ得る他の構成成分に実質的に制限はないが、但し、追加の薬剤が、本組成物が意図される療法を送達する能力に悪影響を及ぼさないものとする。
【0390】
「薬学的に許容される」という句は、本明細書において、健全な医学的判断の範囲内で、妥当な利益/リスク比に見合う、過度の傷害性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症なく、ヒト及び動物の組織と接触して使用するのに好適であるこれらの化合物、材料、組成物、及び/または投薬形態を指すように採用される。
【0391】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤」は、限定されないが、ヒトまたは家畜動物における使用に許容されると米国食品医薬品局によって承認された、任意のアジュバント、担体、賦形剤、滑走剤、甘味剤、希釈剤、保存剤、染料/着色剤、風味増強剤、界面活性剤、湿潤剤、分散剤、懸濁剤、安定剤、等張剤、溶媒、界面活性剤、または乳化剤を含む。例示的な薬学的に許容される担体は、ラクトース、グルコース、及びスクロースなどの糖類;コーンスターチ及びジャガイモデンプンなどのデンプン類;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、及び酢酸セルロースなどのセルロース及びその誘導体;トラガカント;モルト;ゼラチン;タルク;ココアバター、ワックス、動物脂及び植物脂、パラフィン、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、酸化亜鉛;落花生油、綿実油、紅花油、胡麻油、オリーブ油、コーン油、及び大豆油などの油類;プロピレングリコールなどのグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトール、及びポリエチレングリコールなどのポリオール類;オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;発熱性物質除去水;等張食塩水;リンゲル溶液;エチルアルコール;リン酸緩衝溶液、ならびに薬学的製剤において採用される任意の他の適合性物質を含むが、これらに限定されない。
【0392】
特定の実施形態では、本発明の組成物は、本明細書において想定される、ある量のCAR発現免疫エフェクター細胞を含む。本明細書で使用される場合、「量」という用語は、臨床結果を含む、有益なもしくは所望の予防または治療結果を達成するための、遺伝子改変治療用細胞、例えば、T細胞の「有効な量」または「有効量」を指す。
【0393】
「予防有効量」は、所望の予防的結果を達成するために有効な遺伝子改変治療用細胞の量を指す。必要ではないが典型的には、予防量は、疾患の初期段階前または初期段階で対象に使用されるため、予防有効量は治療有効量よりも少ない。
【0394】
遺伝子改変治療用細胞の「治療有効量」は、個体の疾患状態、年齢、性別、及び体重などの要因、ならびに個体における所望の応答を引き起こす幹細胞及び前駆細胞の能力により変動し得る。治療有効量は、治療的に有益な作用がウイルスまたは形質導入された治療用細胞の任意の毒性または有害な作用を上回るものでもある。「治療有効量」という用語は、対象(例えば、患者)を治療するのに有効な量を含む。治療量が示される場合、投与される本発明の組成物の正確な量は、患者(対象)の年齢、体重、腫瘍サイズ、感染または転移の程度、及び状態における個々の差を考慮して、維持により決定され得る。本明細書に記載されるT細胞を含む薬学的組成物は、102~1010細胞/kg体重、好ましくは105~106細胞/kg体重の投薬量(これらの範囲内の全ての整数値を含む)で投与され得ることが一般的に記述され得る。細胞数は、その中に含まれる細胞の型のように、組成物が意図される最終用途に依存する。本明細書に提供される使用において、細胞は一般に、1リットル以下の容量であり、500mL以下、更には250mLまたは100mL以下であり得る。よって、所望の細胞密度は、典型的には、106細胞/ml超、一般的に107細胞/ml超、一般的に108細胞/ml以上である。臨床的に適切な免疫細胞数は、105、106、107、108、109、1010、1011、または1012細胞と累積的に等しいか、またはそれらを超える複数の注入に分配され得る。本発明のいくつかの態様では、特に、注入された細胞の全てが特定の標的抗原(例えば、κまたはλ軽鎖)に再指向されるため、106/キログラム(患者当たり106~1011)の範囲の低い細胞数が投与され得る。CAR発現細胞組成物は、これらの範囲内の投薬量で複数回投与され得る。細胞は、療法を受ける患者に対して同種、同系、異種、または自家であり得る。所望される場合、治療は、免疫応答の誘発を強化するために、本明細書に記載されるように、マイトジェン(例えば、PHA)もしくはリンホカイン、サイトカイン、及び/またはケモカイン(例えば、IFN-γ、IL-2、IL-12、TNF-アルファ、IL-18、及びTNF-ベータ、GM-CSF、IL-4、IL-13、Flt3-L、RANTES、MIP1α等)の投与も含む。
【0395】
一般に、本明細書に記載されるように活性化及び増幅された細胞を含む組成物は、免疫不全の個体に生じる疾患の治療及び予防に利用され得る。特に、本明細書において想定されるCAR改変T細胞を含む組成物は、B細胞悪性腫瘍の治療に使用される。本発明のCAR改変T細胞は、単独で、あるいは担体、希釈剤、賦形剤、及び/またはIL-2もしくは他のサイトカインまたは細胞集団などの他の構成成分と組み合わせて薬学的組成物としてのいずれかで投与され得る。特定の実施形態では、本明細書において想定される薬学的組成物は、1つ以上の薬学的または生理学的に許容される担体、希釈剤、もしくは賦形剤と組み合わせた、ある量の遺伝子改変T細胞を含む。
【0396】
T細胞などのCAR発現免疫エフェクター細胞集団を含む本発明の薬学的組成物は、中性緩衝食塩水、リン酸緩衝食塩水などの緩衝液;グルコース、マンノース、スクロース、またはデキストランなどの炭水化物;タンパク質;グリシンなどのポリペプチドまたはアミノ酸;抗酸化剤;EDTAまたはグルタチオンなどのキレート剤;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);ならびに保存剤を含み得る。本発明の組成物は、好ましくは、非経口投与、例えば、血管内(静脈内または動脈内)、腹腔内、または筋肉内投与用に製剤化される。
【0397】
液体薬学的組成物は、それらが溶液、懸濁液、または他の同様の形態であるかにかかわらず、注射用の水、食塩水溶液、好ましくは生理食塩水、リンゲル溶液、等張塩化ナトリウムなどの減菌希釈液、溶媒もしくは懸濁培地、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の溶媒として機能し得る合成モノもしくはジグリセリドなどの固定油;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;アセテート、シトレート、またはホスフェートなどの緩衝液、及び塩化ナトリウムもしくはデキストロースなどの等張性を調整するための薬剤のうちの1つ以上を含み得る。非経口調製物は、アンプル、使い捨てシリンジ、またはガラスもしくはプラスチックで作製された多用量バイアルに封入され得る。注射可能な薬学的組成物は、好ましくは減菌である。
【0398】
特定の実施形態では、本明細書において想定される組成物は、単独で、または1つ以上の治療薬と組み合わせて、有効量のCAR発現免疫エフェクター細胞を含む。よって、CAR発現免疫エフェクター細胞組成物は、単独で、または放射線療法、化学療法、移植、免疫療法、ホルモン療法、光線力学療法などの他の既知の癌治療と組み合わせて投与され得る。本組成物は、抗生物質と組み合わせても投与され得る。このような治療薬は、特定の癌など、本明細書に記載される特定の疾患状態の標準的な治療として、当該技術分野において認められていてよい。想定される例示的な治療薬としては、サイトカイン、成長因子、ステロイド、NSAID、DMARD、抗炎症剤、化学療法剤、放射線療法剤、治療用抗体、または他の活性剤及び補助剤が挙げられる。
【0399】
ある特定の実施形態では、本明細書に開示されるCAR発現免疫エフェクター細胞を含む組成物は、任意の数の化学療法剤と共に投与され得る。化学療法剤の例示的な例としては、チオテパ及びシクロホスファミド(CYTOXAN(商標))などのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン、及びピポスルファンなどのスルホン酸アルキル;ベンゾドパ、カルボコン、メツレドパ、及びウレドパなどのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、及びトリメチローロメラミンレジューム(trimethylolomelamine resume)を含むエチレンイミンならびにメチルアメラミン;クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベンビチン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロフォスファミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロソウレア;アクラシロマイシン、アクチノマイシン、オースラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリケアマイシン、カラビシン、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、クエラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシンなどの抗生物質;メトトレキサート及び5-フルオロウラシル(5-FU)などの代謝拮抗剤;デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサートなどの葉酸類似体;フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなどのプリン類似体;アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5-FUなどのピリミジン類似体;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなどのアンドロゲン;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなどの抗副腎剤;フロリン酸などの葉酸補充剤;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート;デホファミン;デメコルシン;ジアジコン;エフォルミチン;酢酸エリプチニウム;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標);ラゾキサン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2”-トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセル(TAXOL(登録商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology,Princeton,N.J.)及びドセタキセル(TAXOTERE(登録商標)、Rhne-Poulenc Rorer,Antony,France);クロランブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチン及びカルボプラチンなどの白金類似体;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロナート;CPT-11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオミチン(DMFO);Targretin(商標)(ベキサロテン)、Panretin(商標)(アリトレチノイン)などのレチノイン酸誘導体;ONTAK(商標)(デニロイキンジフチトクス);エスペラミシン;カペシタビン;ならびに上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体が挙げられる。癌に対するホルモン作用を調節または阻害するように作用するホルモン拮抗剤、例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害4(5)-イミダゾール、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、及びトレミフェン(Fareston)を含む抗エストロゲン;ならびにフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、リュープロリド、及びゴセレリンなどの抗アンドロゲン;ならびに上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体も、この定義に含まれる。
【0400】
様々な他の治療薬が、本明細書に記載される組成物と共に使用され得る。一実施形態では、CAR発現免疫エフェクター細胞を含む組成物は、抗炎症剤と共に投与される。抗炎症剤または薬物は、ステロイド及びグルココルチコイド(ベタメタゾン、ブデソニド、デキサメタゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロンを含む)、非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDS)(アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、メトトレキサート、スルファサラジン、レフルノミド、抗TNF薬物、シクロホスファミド、及びミコフェノレートを含む)を含むが、これらに限定されない。
【0401】
他の例示的なNSAIDは、イブプロフェン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、VIOXX(登録商標)(ロフェコキシブ)及びCELEBREX(登録商標)(セレコキシブ)などのCox-2、ならびにシアルレートからなる群から選択される。例示的な鎮痛薬は、アセトアミノフェン、オキシコドン、プロポルキシフェン(proporxyphene)塩酸塩のトラマドールからなる群から選択される。例示的なグルココルチコイドは、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、またはプレドニゾンからなる群から選択される。例示的な生物学的応答修飾物質は、細胞表面マーカー(例えば、CD4、CD5等)に対して指向される分子、TNFアンタゴニスト(例えば、エタネルセプト(ENBREL(登録商標))などのサイトカイン阻害剤、アダリムマブ(HUMIRA(登録商標))、及びインフリキシマブ(REMICADE(登録商標))、ケモカイン阻害剤、ならびに接着分子阻害剤を含む。生物学的応答修飾物質は、モノクローナル抗体ならびに分子の組換え形態を含む。例示的なDMARDは、アザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン、メトトレキサート、ペニシリラミン、レフルノミド、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、金(経口(オーラノフィン)及び筋肉内)、及びミノサイクリンを含む。
【0402】
本明細書において想定されるCAR改変T細胞と組み合わせるのに好適な治療用抗体の例示的な例としては、バビツキシマブ、ベバシズマブ(アバスチン)、ビバツズマブ、ブリナツモマブ、コナツムマブ、ダラツムマブ、ドゥリゴツマブ、ダセツズマブ、ダロツズマブ、エロツズマブ(HuLuc63)、ゲムツズマブ、イブリツモマブ、インダツキシマブ、イノツズマブ、ロルボツズマブ、ルカツムマブ、ミラツズマブ、モキセツモマブ、オカラツズマブ、オファツムマブ、リツキシマブ、シルツキシマブ、テプロツムマブ、及びウブリツキシマブが挙げられるが、これらに限定されない。
【0403】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載される組成物は、サイトカインと共に投与される。本明細書で使用される場合、「サイトカイン」とは、細胞間の介在物質として別の細胞に作用する1つの細胞集団によって放出されるタンパク質の一般的な用語を意味する。このようなサイトカインの例は、リンホカイン、モノカイン、及び伝統的なポリペプチドホルモンである。サイトカインの中には、ヒト成長ホルモン、N-メチオニルヒト成長ホルモン、及びウシ成長ホルモンなどの成長ホルモン;副甲状腺ホルモン;チロキシン;インスリン;プロインスリン;リラキシン;プロリラキシン;卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、及び黄体ホルモン(LH)などの糖タンパク質ホルモン;肝臓成長因子;線維芽細胞成長因子;プロラクチン;胎盤性ラクトゲン;腫瘍壊死因子-アルファ及び-ベータ;ミュラー管抑制物質;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮成長因子;インテグリン;トロンボポエチン(TPO);NGF-ベータなどの神経成長因子;血小板成長因子;TGF-アルファ及びTGF-ベータなどの形質転換成長因子(TGF);インスリン様成長因子I及びII;エリスロポエチン(EPO);骨誘導因子;インターフェロン-アルファ、ベータ、及び-ガンマなどのインターフェロン;マクロファージ-CSF(M-CSF)などのコロニー刺激因子(CSF);顆粒球-マクロファージ-CSF(GM-CSF);ならびに顆粒球-CSF(G-CSF);IL-1、IL-1アルファ、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-15、IL-21などのインターロイキン(IL)、TNF-アルファまたはTNF-ベータなどの腫瘍壊死因子;ならびにLIF及びキットリガンド(KL)を含む他のポリペプチド因子が含まれる。本明細書で使用される場合、サイトカインという用語は、天然源または組換え細胞培養物からのタンパク質、及び天然配列サイトカインの生物学的に活性な等価物を含む。
【0404】
特定の実施形態では、組成物は、本明細書に開示されるPI3K阻害剤の存在下で培養され、マーカー:CD3、CD4、CD8、CD28、CD45RA、CD45RO、CD62、CD127、及びHLA-DRのうちの1つ以上を発現する本明細書において想定されるCAR T細胞を含む。一実施形態では、組成物は、CD62L、CCR7、CD28、CD27、CD122、CD127、CD197からなる群から選択されるマーカーのうちの1つ以上を発現するT細胞の特定のサブ集団を含み、CD38もしくはCD62L、CD127、CD197、及びCD38は、正または負の選択技法により更に単離される。様々な実施形態では、組成物は、マーカー:CD57、CD244、CD160、PD-1、CTLA4、TIM3、及びLAG3のうちの1つ以上を発現しない、または実質的に発現しない。
【0405】
一実施形態では、CD62L、CD127、CD197、及びCD38からなる群から選択されるマーカーのうちの1つ以上の発現は、PI3K阻害剤なしで活性化及び増幅されたT細胞集団と比較して、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも25倍以上増加する。
【0406】
一実施形態では、CD57、CD244、CD160、PD-1、CTLA4、TIM3、及びLAG3からなる群から選択されるマーカーのうちの1つ以上の発現は、PI3K阻害剤と共に活性化及び増幅されたT細胞集団と比較して、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも25倍以上低減される。
【0407】
J.治療方法
本明細書において想定される遺伝子改変免疫エフェクター細胞は、限定されないが、免疫調節状態及び血液悪性腫瘍を含む、B細胞関連状態を治療する際に使用するための養子免疫療法の改善された方法を提供する。
【0408】
特定の実施形態では、一次免疫エフェクター細胞の特異性は、一次免疫エフェクター細胞を、本明細書において想定されるCARで遺伝子改変することにより、B細胞に再指向される。様々な実施形態では、ウイルスベクターは、BCMAポリペプチドに結合するマウス抗BCMA抗原結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通(TM)ドメイン、TMドメインをCARの細胞内シグナル伝達ドメインに連結する短いオリゴまたはポリペプチドリンカー、及び1つ以上の細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン、ならびに一次シグナル伝達ドメインを含むCARをコードする特定のポリヌクレオチドで免疫エフェクター細胞を遺伝子改変するために使用される。
【0409】
一実施形態では、本発明は、T細胞がBCMA発現B細胞を標的とするCARを発現するように遺伝子改変される、ある種の細胞療法を含む。別の実施形態では、抗BCMA CAR T細胞は、CAR T細胞の治療性質及び持続性を増加させるために、IL-2及びPI3K阻害剤の存在下で培養される。次に、CAR T細胞は、それを必要とするレシピエントに注入される。注入された細胞は、レシピエントの疾患原因B細胞を死滅させることができる。抗体療法とは異なり、CAR T細胞は、インビボで複製することができ、癌療法の持続につながり得る長期持続性をもたらす。
【0410】
一実施形態では、本発明のCAR T細胞は、強固なインビボT細胞増幅を受けることができ、長時間持続することができる。別の実施形態では、本発明のCAR T細胞は、任意の更なる腫瘍形成または成長を阻害するために再活性化され得る特異的なメモリーT細胞に進化する。
【0411】
特定の実施形態では、本明細書において想定されるCARを含む免疫エフェクター細胞を含む組成物が、異常なB細胞活性に関連する状態の治療に使用される。
【0412】
本明細書において想定されるCARを含む免疫エフェクター細胞を使用して治療、予防、または寛解することができる状態の例示的な例としては、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、重症筋無力症、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、抗リン脂質抗体症候群、シャーガス病、グレーブス病、ウェゲナー肉芽腫症、結節性多発動脈炎、シェーグレン症候群、尋常性天疱瘡、強皮症、多発性硬化症、抗リン脂質抗体症候群、ANCA関連血管炎、グッドパスチャー病、川崎病、及び急速進行性糸球体腎炎が挙げられるが、これらに限定されない。
【0413】
改変された免疫エフェクター細胞は、重鎖病、原発性もしくは免疫細胞関連アミロイドーシス、及び意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)などの形質細胞障害における用途も有し得る。
【0414】
本明細書で使用される場合、「B細胞悪性腫瘍」は、以下に論じられるB細胞(一種の免疫系細胞)に形成する一種の癌である。
【0415】
特定の実施形態では、本明細書において想定されるCAR改変T細胞を含む組成物は、例えば、多発性骨髄腫(MM)及び非ホジキンリンパ腫(NHL)などのB細胞悪性腫瘍を含むが、これに限定されない血液悪性腫瘍の治療に使用される。
【0416】
多発性骨髄腫は、これらの細胞型の単クローンの腫瘍性形質転換を特徴とする成熟形質細胞形態のB細胞悪性腫瘍である。これらの形質細胞がBMにおいて増殖し、隣接する骨及び時折血液に浸潤する。多発性骨髄腫のバリアント形態は、顕性多発性骨髄腫、くすぶり型多発性骨髄腫、形質細胞性白血病、非分泌型骨髄腫、IgD骨髄腫、骨硬化性骨髄腫、骨の孤立性形質細胞腫、及び髄外性形質細胞腫を含む(例えば、Braunwald,et al.(eds),Harrison’s Principles of Internal Medicine,15th Edition(McGraw-Hill 2001)を参照されたい)。
【0417】
非ホジキンリンパ腫は、多くのリンパ球(白血球)の癌を包含する。非ホジキンリンパ腫は、どの年齢でも生じ得、多くの場合、通常より大きいリンパ節、熱、及び体重損失を特徴とする。多くの異なる種類の非ホジキンリンパ腫が存在する。例えば、非ホジキンリンパ腫は、高悪性度(成長が速い)及び低悪性度(成長が遅い)の種類に分けることができる。非ホジキンリンパ腫は、本明細書において使用されるとき、B細胞及びT細胞に由来し得るが、「非ホジキンリンパ腫」及び「B細胞非ホジキンリンパ腫」という用語は交換可能に使用される。B細胞非ホジキンリンパ腫(NHL)は、バーキットリンパ腫、慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、免疫芽球性大細胞型リンパ腫、前駆Bリンパ芽球性リンパ腫、及びマントル細胞リンパ腫を含む。骨髄及び幹細胞移植後に生じるリンパ腫は通常、B細胞非ホジキンリンパ腫である。
【0418】
慢性リンパ球性白血病(CLL)は、Bリンパ球と呼ばれる未成熟の白血球細胞、またはB細胞においてゆっくりとした増加をもたらす低悪性度(成長が遅い)の癌である。癌細胞は、血液及び骨髄を通して広がり、リンパ節または肝臓及び脾臓などの他の臓器にも影響を及ぼし得る。CLLは最終的に骨髄を機能させなくする。時折、疾患の後期において、疾患は小リンパ球性リンパ腫と呼ばれる。
【0419】
特定の実施形態では、治療有効量の、本明細書において想定されるCAR発現免疫エフェクター細胞またはそれを含む組成物を、それを必要とする患者に、単独で、または1つ以上の治療薬と組み合わせて投与することを含む方法が提供される。ある特定の実施形態では、本発明の細胞は、異常なB細胞活性に関連する状態またはB細胞悪性腫瘍を発達させるリスクの患者を治療する祭に使用される。よって、本発明は、異常なB細胞活性に関連する状態またはB細胞悪性腫瘍を治療または予防することを必要とする対象に、治療有効量の、本明細書において想定されるCAR改変細胞を投与することを含む、その方法を提供する。
【0420】
本明細書で使用される場合、「個体」及び「対象」という用語は、多くの場合、交換可能に使用され、遺伝子療法ベクター、細胞ベースの療法、及び本明細書の別の箇所に開示される方法で治療され得る疾患、障害、または状態の症状を呈する任意の動物を指す。好ましい実施形態では、対象は、遺伝子療法ベクター、細胞ベースの療法、及び本明細書の別の箇所に開示される方法で治療され得る造血系の疾患、障害、または状態、例えば、B細胞悪性腫瘍の症状を呈する任意の動物を含む。好適な対象(例えば、患者)は、実験動物(マウス、ラット、ウサギ、またはモルモットなど)、農場動物、及び家畜動物、またはペット(ネコまたはイヌ)を含む。非ヒト霊長類、及び好ましくはヒト患者が含まれる。典型的な対象は、B細胞悪性腫瘍を有する、B細胞悪性腫瘍と診断された、またはB細胞悪性腫瘍のリスクにある、もしくはそれを有しているヒト患者を含む。
【0421】
本明細書で使用される場合、「患者」という用語は、遺伝子療法ベクター、細胞ベースの療法、及び本明細書の別の箇所に開示される方法で治療され得る特定の疾患、障害、または状態と診断された対象を指す。
【0422】
本明細書で使用される場合、「治療(treatment)」または「治療する(treating)」は、疾患もしくは病的状態の症状または病態に対する任意の有益または望ましい作用を含み、治療される疾患または状態の1つ以上の測定可能なマーカーにおける最小減少さえも含み得る。治療は、任意選択で、疾患もしくは状態の症状の減少または寛解、あるいは疾患もしくは状態の進行の遅延のいずれかを伴い得る。「治療」は、疾患もしくは状態、またはその関連症状の完全な根絶、あるいは治癒を必ずしも示さない。
【0423】
本明細書で使用される場合、「予防する(prevent)」及び「予防される(prevented)」、「予防(preventing)」等の類似する用語は、疾患もしくは状態の発生または再発の可能性を予防する、阻害する、または減少させるためのアプローチを指す。疾患もしくは状態の開始または再発を遅延する、あるいは疾患もしくは状態の症状の発生または再発を遅延することも指す。本明細書で使用される場合、「予防(prevention)」及び類似する用語も、疾患もしくは状態の開始または再発前の疾患もしくは状態の強度、作用、症状、及び/または負荷を減少させることも含む。
【0424】
「強化する」もしくは「促進する」、または「増加させる」もしくは「増幅する」は、一般的に、本明細書において想定される組成物、例えば、遺伝子改変T細胞またはCARをコードするベクターが、ビヒクルもしくは対照分子/組成物のいずれかによってもたらされた応答と比較して、より大きい生理学的応答(すなわち、下流作用)を産生する、引き起こす、またはもたらす能力を指す。測定可能な生理学的応答は、当該技術分野における理解及び本明細書の説明から明らかである、T細胞の増幅、活性化、持続の増加、及び/またはとりわけ、癌細胞死滅能の増加を含み得る。「増加」または「強化」量は、典型的には、「統計的に有意な」量であり、ビヒクルまたは対照組成物によって産生された応答の1.1、1.2、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30倍以上(例えば、500、1000倍)(その間及び1を超える全ての整数及び小数点、例えば、1.5、1.6、1.7、1.8等を含む)である増加を含み得る。
【0425】
「低減する」、または「低下させる」、または「小さくする」、または「減少させる」、または「軽減する」とは、本明細書において想定される組成物が、ビヒクルまたは対照分子/組成物のいずれかによってもたらされた応答と比較して、より小さい生理学的応答(すなわち、下流作用)を産生する、引き起こす、またはもたらす能力を指す。「低減」または「減少」量は、典型的には、「統計的に有意な」量であり、ビヒクル、対照組成物、または特定の細胞系列における応答によって産生された応答(参照応答)の1.1、1.2、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30倍以上(例えば、500、1000倍)(その間及び1を超える全ての整数及び小数点、例えば、1.5、1.6、1.7、1.8等を含む)である減少を含み得る。
【0426】
「維持する」、または「保存する」、または「維持」、または「変化しない」、または「実質的に変化しない」、または「実質的に低減しない」とは、一般的に、本明細書において想定される組成物が、ビヒクル、対照分子/組成物のいずれかによってもたらされた応答、または特定の細胞系列における応答と比較したとき、細胞においてより小さい生理学的応答(すなわち、下流作用)を産生する、引き起こす、またはもたらす能力を指す。比較可能な応答は、参照応答と大幅に異ならないか、または測定可能な差がないものである。
【0427】
一実施形態では、B細胞関連状態の治療を必要とする対象にそれを行う方法は、本明細書において想定される遺伝子改変免疫エフェクター細胞を含む組成物の有効量、例えば、治療有効量を投与することを含む。投与の量及び頻度は、患者の状態、ならびに患者の疾患の種類及び重症度などの要因によって決定されるが、適切な投薬量が臨床試験によって決定され得る。
【0428】
一実施形態では、対象に投与される組成物中のT細胞の量は、少なくとも0.1x105細胞、少なくとも0.5x105細胞、少なくとも1x105細胞、少なくとも5x105細胞、少なくとも1x106細胞、少なくとも0.5x107細胞、少なくとも1x107細胞、少なくとも0.5x108細胞、少なくとも1x108細胞、少なくとも0.5x109細胞、少なくとも1x109細胞、少なくとも2x109細胞、少なくとも3x109細胞、少なくとも4x109細胞、少なくとも5x109細胞、または少なくとも1x1010細胞である。特定の実施形態では、約1x107CAR T細胞~約1x109CAR T細胞、約2x107CAR T細胞~約0.9x109CAR T細胞、約3x107CAR T細胞~約0.8x109CAR T細胞、約4x107CAR T細胞~約0.7x109CAR T細胞、約5x107CAR T細胞~約0.6x109CAR T細胞、または約5x107CAR T細胞~約0.5x109CAR
T細胞が対象に投与される。
【0429】
一実施形態では、対象に投与される組成物中のT細胞の量は、少なくとも0.1x104細胞/体重のkg、少なくとも0.5x104細胞/体重のkg、少なくとも1x104細胞/体重のkg、少なくとも5x104細胞/体重のkg、少なくとも1x105細胞/体重のkg、少なくとも0.5x106細胞/体重のkg、少なくとも1x106細胞/体重のkg、少なくとも0.5x107細胞/体重のkg、少なくとも1x107細胞/体重のkg、少なくとも0.5x108細胞/体重のkg、少なくとも1x108細胞/体重のkg、少なくとも2x108細胞/体重のkg、少なくとも3x108細胞/体重のkg、少なくとも4x108細胞/体重のkg、少なくとも5x108細胞/体重のkg、または少なくとも1x1010細胞/体重のkgである。特定の実施形態では、約1x106CAR T細胞/体重のkg~約1x108CAR T細胞/体重のkg、約2x106CAR T細胞/体重のkg~約0.9x108CAR T細胞/体重のkg、約3x106CAR T細胞/体重のkg~約0.8x108CAR T細胞/体重のkg、約4x106CAR T細胞/体重のkg~約0.7x108CAR T細胞/体重のkg、約5x106CAR T細胞/体重のkg~約0.6x108CAR T細胞/体重のkg、または約5x106CAR T細胞/体重のkg~約0.5x108CAR T細胞/体重のkgが対象に投与される。
【0430】
当業者は、本発明の組成物の複数回投与が所望の療法をもたらすために必要とされ得ることを認識するだろう。例えば、組成物は、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、1年、2年、5年、10年以上にわたって、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10回以上投与され得る。
【0431】
ある特定の実施形態では、活性化された免疫エフェクター細胞を対象に投与し、続いて、再採血し(またはアフェレーシスを行う)、本発明に従いそれからの免疫エフェクター細胞を活性化し、これらの活性化及び増幅した免疫エフェクター細胞を患者に再注入することが望ましい場合がある。このプロセスは、数週間に複数回行われ得る。ある特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞は、10cc~400ccの採血から活性化され得る。ある特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞は、20cc、30cc、40cc、50cc、60cc、70cc、80cc、90cc、100cc、150cc、200cc、250cc、300cc、350cc、または400cc以上の採血から活性化される。理論に拘束されるものではないが、この複数回採血/複数回再注入プロトコルを使用することにより、免疫エフェクター細胞のある特定の集団を選び出すのに役立ち得る。
【0432】
本明細書において想定される組成物の投与は、エアロゾル吸入、注射、摂取、輸血、留置、または移植を含む、任意の従来の様式で行うことができる。好ましい実施形態では、組成物は、非経口投与される。本明細書で使用される場合、「非経口投与」及び「非経口投与される」という句は、腸内及び局所投与以外、通常、注射による投与モードを指し、血管内、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、眼窩内、腫瘍内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、ならびに胸骨内注射及び注入を含むが、これらに限定されない。一実施形態では、本明細書において想定される組成物は、腫瘍、リンパ節、または感染部位への直接注射により対象に投与される。
【0433】
一実施形態では、それを必要とする対象は、対象におけるB細胞関連状態に対する細胞免疫応答を増加させるために、有効量の組成物を投与される。免疫応答は、感染細胞、調節性T細胞、及びヘルパーT細胞応答を死滅させることができる細胞傷害性T細胞により媒介される細胞免疫応答を含み得る。B細胞を活性化することができるヘルパーT細胞によって主に媒介され、よって抗体産生につながる体液性免疫応答も誘発され得る。本発明の組成物によって誘発された免疫応答の種類を分析するために、様々な技法が使用され得、これらは、例えば、John E.Coligan,Ada M.Kruisbeek,David H.Margulies,Ethan M.Shevach,Warren Strober(2001)John Wiley&Sons,NY,N.Yによって編集されたCurrent Protocols in Immunologyに詳しく説明されている。
【0434】
T細胞媒介死滅の場合、CAR-リガンド結合は、T細胞へのCARシグナル伝達を開始し、T細胞が様々な機構によって標的細胞のアポトーシスを誘発することができるタンパク質の産生または放出を誘発する、様々なT細胞シグナル伝達経路の活性化をもたらす。これらのT細胞媒介機構は、(限定されないが)T細胞から標的細胞内への細胞内細胞傷害性顆粒の移動、直接的に標的細胞死滅を誘発することができる(または他のキラーエフェクター細胞の動員を介して間接的に)炎症促進性サイトカインのT細胞分泌、及び標的細胞上のそれらの同族細胞死受容体(例えば、Fas)に結合した後に標的細胞のアポトーシスを誘発するT細胞表面上の細胞死受容体リガンド(例えば、FasL)の上方調節を含む。
【0435】
一実施形態では、本発明は、BCMA発現B細胞関連状態と診断された対象から免疫エフェクター細胞を除去し、本明細書において想定されるCARをコードする核酸を含むベクターで、該免疫エフェクター細胞を遺伝子改変し、それにより改変された免疫エフェクター細胞集団を産生し、改変された免疫エフェクター細胞集団を同じ対象に投与することを含む、B細胞関連状態と診断された対象を治療する方法を提供する。好ましい実施形態では、免疫エフェクター細胞は、T細胞を含む。
【0436】
ある特定の実施形態では、本発明は、CAR分子をコードする核酸構築物を発現する免疫エフェクター細胞集団を対象に投与するステップを含む、対象において標的細胞集団に応答する免疫エフェクター細胞媒介免疫調節因子を刺激するための方法も提供する。
【0437】
本明細書に記載される細胞組成物を投与するための方法は、対象において本発明のCARを直接発現するか、または対象内への導入時にCARを発現する成熟免疫エフェクター細胞に分化する免疫エフェクター細胞の遺伝子改変前駆体の再導入時のいずれかであるエクスビボの遺伝子改変免疫エフェクター細胞の再導入をもたらすのに効果的である任意の方法を含む。方法の1つは、本発明による核酸構築物を末梢血T細胞にエクスビボで形質導入し、形質導入した細胞を対象内に戻すことを含む。
【0438】
本明細書に引用される全ての刊行物、特許出願、及び登録特許は、各個々の刊行物、特許出願、または登録特許が参照により組み込まれると具体的かつ個々に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0439】
前述の発明は理解の明確化の目的のため、図示及び例によりある程度詳細に記載されてきたが、本発明の教示の観点から、添付の特許請求の範囲の趣旨または範囲から逸脱することなく、ある特定の変更及び修正がそれに対して行われ得ることは、当業者には容易に明らかであろう。以下の実施例は単に図示のために提供され、制限するためではない。当業者は、本質的に類似する結果をもたらすように変更または修正され得る、様々な重要ではないパラメータを容易に認識するだろう。
【実施例】
【0440】
実施例1
BCMA CARの構築
マウス抗BCMA scFv抗体を含有するCARは、抗BCMA scFvに動作可能に連結されたMNDプロモーター、CD8αからのヒンジ及び膜貫通ドメイン、及びCD137共刺激ドメイン、続いて3ζ鎖の細胞内シグナル伝達ドメインを含有するように設計された。例えば、
図1を参照されたい。
図1に示されるBCMA CARは、免疫エフェクター細胞上での表面発現のためのCD8αシグナルペプチド(SP)配列を含む。例示的なBCMA CARのポリヌクレオチド配列は配列番号10に記載され、BCMA
CARの例示的なポリペプチド配列は配列番号9に記載され、例示的なCAR構築物のベクターマップは
図1に示される。表3は、BCMA CARレンチウイルスベクターの様々なヌクレオチドセグメントの識別情報、Genbank参照、供給源名、及び引用文献を示す。
【0441】
【0442】
実施例2
マウスBCMA CARの評価
はじめに
キメラ抗原受容体(CAR)で遺伝子操作されたT細胞の養子移入は、癌を治療するための有望なアプローチとなった。CARは、膜貫通領域を介してT細胞シグナル伝達ドメインに融合された抗原反応性単鎖可変断片(scFv)で構成された人工分子である。この実施例では、B細胞成熟抗原(BCMA)に特異的なCAR分子が評価された。BCMAは、多発性骨髄腫、形質細胞腫、及びいくつかのリンパ腫に発現されるが、正常な発現は形質細胞に限られる(Avery et al.,2003、Carpenito et al.,2009、Chiu et al.,2007)。
【0443】
抗BCMA02 CARは、マウス抗BCMA抗体(C11D5.3)からの配列を使用して構築された。抗BCMA10 CARは改変配列を使用して構築され、抗BCMA02 CARの「ヒト化」型である。一連のインビトロアッセイにおいて、抗BCMA02 CAR T細胞及び抗BCMA10 CAR T細胞の両方が、腫瘍特異性、抗CAR発現を呈し、抗原発現標的に強力な反応性をもたらした。抗BCMA02 CAR T細胞及び抗BCMA10 CAR T細胞は、BCMA発現腫瘍細胞系に対して比較可能な反応性を有することが示された。抗BCMA02 CAR T細胞及び抗BCMA10
CAR T細胞の両方はマウス腫瘍モデルにおいて縮小をもたらすことができたが、抗BCMA10 CAR T細胞は、抗原依存性炎症性サイトカイン分泌を示し、よって、臨床毒性に関連する高サイトカインレベルを生じる可能性を有する。
【0444】
結果
抗BCMA10 T細胞から放出された強直性炎症性サイトカインはアポトーシスに関連した。
BCMAタンパク質は、多発性骨髄腫の患者の血清において検出可能であった(Sanchez et al.,2012)。多発性骨髄腫患者における平均血清BCMAは10ng/mLであったが、最大100ng/mLのレベルでピークであった。抗BCMA CAR T細胞候補に対する生理学的に可溶性のBCMAレベルが評価された。
【0445】
抗BCMA02 CAR T細胞、抗BCMA10 CART細胞、及びCAR19Δ T 細胞からのIFNγ放出は、可溶性BCMAと共に24時間培養した後に検査された(
図2a)。抗BCMA02 CAR T細胞は、最大1ug/mLまでのBCMAと共に24時間培養した後、最小サイトカイン放出で応答した。対照的に、抗BCMA10 CAR T細胞は、培養物に添加された可溶性BCMAの濃度に比例したIFNγレベルの増加で応答した。多発性骨髄腫患者において報告された最高レベルの100ng/mLのBCMAで、抗BCMA10 CAR T細胞は、抗BCMA02 CAR T細胞によって分泌された28.8ng/mlのIFNγと比較して、82.1ng/mlのIFNγを分泌した。IFNγは、抗BCMA10 CAR T細胞+BCMA抗原を欠く対照細胞系を用いたいくつかの共培養実験においても検出された(
図2b、K562共培養)。これらのデータは、抗BCMA10 CAR T細胞が可溶性BCMAによる刺激に対して増加した感受性、及びT細胞における抗原依存性サイトカイン応答の可能性を有したことを示唆した。
【0446】
抗BCMA02 CAR T細胞、抗BCMA10 CART細胞(培養開始から10日)、及びCAR19Δ T細胞からの強直性サイトカイン分泌の可能性が検査された。CAR T細胞の製造後、抗BCMA02 CAR T細胞、抗BCMA10 CART細胞、及びCAR19Δ T細胞の培養物からの成長培地は、炎症性サイトカインの存在に関して分析された。抗原刺激の不在にもかかわらず、抗BCMA10 CAR T細胞培養物は、BCMA02 CAR T細胞培養物中1ng/mL未満のIFNγと比較して、10ng/mL超のIFNγを含有した(
図3)。抗BCMA10 CAR T細胞培養物は、大幅に(p<0.001)多くのTNFαも含有した。抗原刺激なしで抗BCMA10 CAR T細胞によって産生されたサイトカインの量を更に定量化するために、24時間の培養中に、5x10
4CAR T細胞からのサイトカイン放出を測定した。抗BCMA10 CAR T細胞は、抗BCMA02 CAR T細胞と比較して、大幅に高い量の炎症性サイトカインMIP1α、IFNγ、GMCSF、MIP1β、IL-8、及びTNFαを産生した(
図4、p<0.0001)。MIP1α及びIFNγの濃度は、検査した全てのサイトカインの中で最も高かった。抗BCMA10 CAR T細胞は、4.7ngのMIP1α/5x10
4細胞/24時間、3.0ngのIFNγ/5x10
4細胞/24時間、及び約1ng/5x10
4細胞/24時間以下の他のサイトカインを産生した。抗炎症性サイトカインIL-10、IL-2、及びIL-4において顕著な差は検出されなかった。
【0447】
抗BCMA10 CAR T細胞製造の終わりでのT細胞活性化の表現型マーカーの発現は、強直性炎症性サイトカインの分泌が抗BCMA10 CAR T細胞の活動亢進状態を示すかどうかを検査するために測定された。HLA-DR及びCD25は、T細胞活性化12~24時間後に通常ピーク発現を呈し、その後時間と共に減退する表面マーカーである。3つの正常なドナーから調製したCAR T細胞は、平均40±2%の抗BCMA02 CAR T細胞がHLA-DRを発現したことを示した。これらの細胞におけるHLA-DRの発現は、形質導入されなかった(43±2.3%)T細胞及びCAR19Δ(32±2.2%)対照T細胞と比較可能であった。対照的に、88±1.2%の抗BCMA10 CAR T細胞はHLA-DRを発現した(
図5)。別の活性化マーカーCD25の発現も、抗BCMA02 CAR T細胞と比較して、抗BCMA10 CAR T細胞でより高かった(53±0.9%対35±2.4%)。したがって、抗BCMA10 CAR T細胞は、追加抗原の不在下で、活性化されたT細胞の表現型特性を呈した。
【0448】
T細胞における活動亢進は、多くの場合、アポトーシスによる活性化誘発細胞死(AICD)に関連する。活性化されたカスパーゼ-3のレベルは、抗BCMA10 CAR T細胞の活動亢進が、抗BCMA02 CAR T細胞と比較して、より高いアポトーシスレベルをもたらし得るかどうかを検査するために測定された。16%の抗BCMA02 CAR T細胞と比較して、2つのドナーからの48%の抗BCMA10 CAR T細胞が活性カスパーゼ-3を有した(
図6)。よって、追加のBCMA抗原の不在下で、抗BCMA10 CAR T細胞は、抗BCMA02 CAR T細胞と比較して増加した活性化及び炎症性サイトカイン分泌に関連する、高頻度のアポトーシス細胞を含有する。
【0449】
抗BCMA02 CAR T細胞及び抗BCMA10 CAR T細胞は、CAR T細胞が低BCMAレベルに選択的に応答するか、またはT細胞成長に使用されたヒト血清において無関係の抗原に交差反応性であり得るかどうかについて評価された。T抗BCMA02 CAR T細胞及び抗BCMA10 CAR T細胞は、ヒト血清を欠く培地中に2日間維持され、次いで、100ng/mLの可溶性BCMAの存在下または不在下の、ウシ胎血清(FBS)、ヒト血清(HABS)、またはHABSを含有する培地に交換された(
図7)。IFNγ放出はELISAにより24時間後にアッセイされた。抗BCMA02 CAR T細胞及び抗BCMA10 CAR T細胞の両方が可溶性BCMAに応答した。しかしながら、抗BCMA10 CAR T細胞は、抗BCMA02 CAR T細胞より10倍多くIFNγを分泌した。BCMAの不在下で、ウシ胎仔血清(FBS)(p=0.0002)またはヒトAB血清(HABS)(p=0.0007)の培養に関係なく、抗BCMA10 CAR T細胞のみがIFNγを放出した。これらのデータは、炎症性サイトカインの分泌が抗BCMA10 CAR T細胞に内在的であったことを示唆した。
【0450】
多発性骨髄腫のマウスモデルにおける抗BCMA10 CAR T細胞の劣った抗腫瘍機能
活性化過剰及びアポトーシスの増加は、患者、そして最終的には臨床的有効性において、CAR T細胞持続性に負の影響を及ぼす可能性がある。マウス腫瘍モデルにおいて、抗BCMA02 CAR T細胞及び抗BCMA10 CAR T細胞の抗腫瘍機能を検査した。約100mm
3の実験皮下ヒト多発性骨髄腫(RPMI-8226)の腫瘍を有するNOD scidガンマ(NSG)マウスを、10
7抗BCMA02 CAR T細胞、10
7抗BCMA10 CAR T細胞、またはボルテゾミブ(ベルケイド)で処置した。RPMI-8226の成長をキャリパーで監視した。2つの独立した実験において(
図8a及び8b)、ボルテゾミブは、ビヒクル対照動物と比較して、腫瘍成長を制御した。抗BCMA02 CAR T細胞を養子移入された動物は、迅速かつ永続的な腫瘍クリアランスを呈した(挿入グラフは初期の腫瘍縮小を誇張する)。抗BCMA10 CAR T細胞の養子移入は腫瘍縮小ももたらしたが、抗BCMA02 CAR T細胞と比較して、両実験において遅延された。
【0451】
結論
抗BCMA02 CAR T細胞及び抗BCMA10 CAR T細胞は、インビトロアッセイにおいて、比較可能な抗腫瘍機能を呈したが、抗BCMA10 CAR T細胞は、患者の治療における安全性及び有効性に負の影響を及ぼす可能性がある特性を有した。抗BCMA10 CAR T細胞は、生理学的レベルのBCMAタンパク質に曝露された後、炎症性サイトカインの分泌で確実に応答した。サイトカインストームまたはサイトカイン放出症候群は、CAR T細胞療法に関連する既知の臨床毒性である。BCMAへのサイトカイン放出に対する懸念は、抗BCMA10 CAR T細胞の強直な活性の観察後に深刻化した。抗原刺激の不在下でさえ、抗BCMA10 CAR T細胞は、高レベルの炎症性サイトカインを放出した。持続するサイトカイン分泌は、実質的な臨床毒性をもたらし、また抗腫瘍機能に負の影響を及ぼす可能性を有する。実際、我々は、多発性骨髄腫のマウスモデルにおいて、抗BCMA02 CAR T細胞培養物と比較して、抗BCMA10 CAR T細胞においてアポトーシス細胞の組成がより高く、抗腫瘍機能が劣っていることを発見した。
【0452】
参照文献 Avery et al.,(2003).BAFF selectively enhances the survival of plasmablasts generated from human memory B cells.J Clin Invest,112(2),286-297.
【0453】
Carpenito et al.,(2009).Control of large, established tumor xenografts with genetically retargeted human T cells containing CD28 and CD137 domains.Proc Natl Acad Sci USA,106(9),3360-3365.
【0454】
Chiu et al.,(2007).Hodgkin lymphoma cells express TACI and BCMA receptors and generate survival and proliferation signals in response to BAFF and APRIL.Blood,109(2),729-739.
【0455】
Sanchez et al.(2012).Serum B-cell maturation antigen is elevated in multiple myeloma and correlates with disease status
and survival.Br J Haematol,158(6),727-738.
【0456】
実施例3
リンパ腫における最小BCMA発現は抗BCMA CAR T細胞を活性化する
リンパ腫及び白血病細胞系(Daudi及びRaji)上のBCMA発現レベルは、発現が抗BCMA02 CAR T細胞を活性化するのに十分であるかを決定するために測定された。
【0457】
リンパ腫、白血病、及び多発性骨髄腫細胞上のBCMA発現は、フローサイトメトリーを使用して定量化された。このアッセイでは、既知数の結合抗体(抗体結合能、ABC)に対してBCMA発現の蛍光強度を相関させることにより、細胞上の相対的なBCMA発現が評価された。リンパ腫細胞系におけるBCMA発現レベルは、抗BCMA02 CAR T細胞を活性化することが知られている多発性骨髄腫細胞系(RPMI-8226)のBCMA発現レベルと比較された。12590±1275 BCMA02分子がRPMI-8226細胞の表面上で発現された。対照的に、Daudi細胞は1173±234 BCMA02分子を発現し、JeKo-1細胞(マントル細胞リンパ腫細胞系)は222±138 BCMA02分子のみを発現した(
図9、丸)。
【0458】
別の実験組では、リンパ腫及び白血病細胞系に観察された微小レベルのBCMAに対する抗BCMA02 CAR T細胞の活性が試験された(
図9、ボックス)。抗BCMA02 CAR T細胞は、標準的な方法を使用して生成され、活性は、BCMA陽性及びBCMA陰性の腫瘍細胞系で共培養した後に、IFNγ ELISAにより評価された。抗BCMA02 CAR T細胞の反応性は、共培養後の様々な腫瘍細胞系の表面上のBCMA mRNA発現の相対量(閾値より上)及び/またはBCMA受容体の密度と相関した(
図9)。もしあれば、少量のIFNγがBCMA-陰性(BCMA-)腫瘍細胞系、骨髄性白血病(K562)、急性リンパ芽球性白血病(NALM-6及びNALM-16)、マントル細胞リンパ腫(REC-1)、またはホジキンリンパ腫(HDLM-2)と共にBCMA CAR T細胞を共培養したときに放出される。対照的に、実質的な量のIFNγがBCMA-陽性(BCMA+)腫瘍細胞系:B細胞慢性リンパ芽球性白血病(MEC-1)、マントル細胞リンパ腫(JeKo-1)、ホジキンリンパ腫(RPMI-6666)、バーキットリンパ腫(Daudi細胞及びRamos細胞)、及び多発性骨髄腫(RPMI-8226)と共にBCMA02 CAR T細胞を共培養したときに放出された。
【0459】
バーキットリンパ腫(Daudi細胞)を発現するBCMAに対する抗BCMA02 CAR T細胞の反応性は、インビボ動物研究に及んだ。Daudi細胞はCD19も発現する。抗BCMA02 CAR T細胞のインビボ活性は、抗CD19 CAR T細胞のインビボ活性と比較された。NOD scidガンマ(NSG)マウスに2x10
6
Daudi細胞をIV注射し、CAR T細胞で処置する前に大きな全身性腫瘍負荷を蓄積させた。CAR T細胞を、腫瘍誘発8日後及び18日後に投与した(それぞれ、
図10A及び10B)。ビヒクル及び陰性対照(抗CD19Δ CAR T細胞)は、生物発光の対数期増加により示されるように、腫瘍の成長を阻止することができず、体重が損失し、死亡した(
図10A、最も左側の2匹のマウスパネル)。抗CD19及び抗BCMA02 CAR T細胞は腫瘍の成長を阻止し、体重を維持し、生存した。抗CD19及び抗BCMA02 CAR T細胞は、8日目に投与された場合、等しく効果的であった(
図10A、最も右側の2匹のマウスパネル)。抗BCMA02 CAR T細胞も、腫瘍誘発18日後に投与された場合、腫瘍負荷の減少に効果的であった。
図10B、最も右側のパネル。
【0460】
実施例4
抗BCMA CAR T 細胞の強力なインビトロ活性
抗BCMA CAR T細胞の強力なインビトロ活性は50パーセント減少した抗BCMA CARBCMA02 CAR発現で達成された。T細胞集団は、抗BCMA CAR分子をコードするレンチウイルスの4x108~5x107の形質導入単位で形質導入された。得られたT細胞集団は、抗BCMA02 CAR T細胞頻度(陽性率としてアッセイされた)の減少及び抗BCMA02 CAR分子の発現(平均蛍光強度:MFIとしてアッセイされた)の減少を示した。
【0461】
抗BCMA02活性に対するCAR分子発現の減少の影響を決定した。抗BCMA CAR-陽性T細胞の頻度は、26±4%のBCMA反応性T細胞を含有するように、形質導入されなかったT細胞で正規化された(
図11A)。正規化された抗BCMA02 CAR T細胞のMFIは、885~1875の範囲であった(
図11B)。K562は、BCMA発現を欠くCML細胞系である。K562細胞はBCMAを発現するように操作され、様々なBCMA CAR発現での抗BCMA02 CAR T細胞の活性を評価するためにインビトロ細胞溶解アッセイに使用された(
図11C)。K562細胞はcell traceバイオレットで標識されたが、BCMAを安定して発現するK562細胞(K562-BCMA)はCFSEで標識された。T細胞、K562細胞、及びK562-BCMA細胞を採取し、洗浄し、外因性サイトカインを欠く培地に再懸濁した。細胞を、20:1または10:1エフェクター(E;T細胞)で、37℃、5%CO
2インキュベータで4時間、標的(T;K562及びK562 BCMA細胞の1:1混合)の比率に培養した。次いで、細胞を生存/脂肪で染色し、FACSにより分析した。細胞傷害性は、T細胞を欠く状態に正規化されたK562:K562-BCMAの比率の差により決定された。
【0462】
実施例5
抗BCMA CAR T細胞製造プロセス
独特の抗BCMA02 CAR T細胞産物を各患者の治療用に製造する。抗BCMA02 CAR T細胞産物の製造プロセスの信頼度は、11の個々の正常なドナーPBMCから抗BCMA02 CAR T細胞を生成することにより評価された。各ドナーからの抗BCMA02 CAR T細胞の増幅は、平行して行われた対応する形質導入されていない培養と比較可能であった(
図12A)。
【0463】
培養期間の終わりに(10日目)、T細胞形質導入の有効性を、組み込まれたレンチウイルスの数を、qPCR及びレンチウイルス特異的プライマーセット(ベクターコピー数、VCN)で定量化することにより評価した。11のドナーからの抗BCMA02 CAR T細胞培養物は、比較可能なレンチウイルス形質導入効率を示した(
図12B)。抗BCMA02 CAR陽性T細胞の頻度はフローサイトメトリーにより測定され、BCMA発現は全てのドナーにわたって比較可能であることが分かった(
図12C)。
【0464】
各抗BCMA02 CAR T細胞産物の活性は、BCMAを発現するように操作されたK562細胞で共培養された後のIFNγ放出により評価された。全ての抗BCMA CAR02 T細胞産物は、BCMA発現K562細胞に曝露された場合、治療的に適切なレベルのIFNγ放出を呈した(
図12D)。
【0465】
実施例6
IL-2またはIL-2及びZSTK474で処理されたCAR T細胞上でのCD62L、CD127、CD197、及びCD38発現
IL-2及びZSTK474と共に培養されたCAR T細胞は、IL-2単独で培養されたCAR T細胞と比較して、CD62L発現の増加を示す。IL-2及びZSTK474と共に培養された抗BCMA02 CAR T細胞上の29の追加の細胞表面マーカーの発現分析は、多パラメータマスサイトメトリー(CyTOF)を使用して行われ、IL-2単独で培養されたCAR T細胞と比較された。3つの追加のマーカー(CD127、CD197、及びCD38)は、IL-2単独で処理されたCAR T細胞と比較して、IL-2+ZSTK474処理されたCAR T細胞において発現の増加を示した。よって、CD62L、CD127、CD197、及びCD38の同時発現は、ZSTK474培養されたCAR T細胞を更に層別化した。IL-2を含有する培地で培養した後、7.44%の抗BCMA02 CAR Tが、IL-2及びZSTK474で培養された24.5%の抗BCMA02 CAR T細胞と比較して、CD127、CD197、及びCD38を同時発現した。
図13のベン図は、CD62L陽性抗BCMA02 T細胞におけるCD127、CD197、及びCD38の同時発現を図示する。
【0466】
実施例7
ZSTK474処理はCD8 T細胞の頻度を増加させる
CD8発現は、IL-2単独またはIL-2及びZSTK474で処理された抗BCMA02 CAR T細胞において数量化された。CD8の発現は、蛍光標識された抗CD8抗体及びフローサイトメトリーを使用して決定された。IL-2及びZSTK474と共に培養された7つの正常なドナーからの抗BCMA02 CAR T細胞は、IL-2単独で培養された抗BCMA02 CAR T細胞と比較して大幅に高いCD8発現を有した。
図14。
【0467】
実施例8
ZSTK474処理された抗BCMA CAR T細胞における抗原依存活性の欠如
抗原不在下のCAR T細胞の強直な活性は、生物学的活性の減少に関連した。抗BCMA02 CAR T細胞の強直な活性は、IL-2単独の標準的な培養条件と比較して、IL-2及びZSTK474の存在下で培養した後の抗原の不在下でのインターフェロン-γ(IFN-γ)放出を数量化することにより評価された。抗BCMA CAR T細胞培養物は、大規模な臨床製造プロセスに直接拡張可能なシステムを使用して調製された。簡潔に、末梢血単核細胞(PBMC)を、IL-2(CellGenix)ならびにCD3及びCD28に特異的な抗体(Miltenyi Biotec)を含有する培地中で、静的フラスコ中で培養した。2x108形質導入単位の抗BCMA CARをコードするレンチウイルスを培養開始1日目に添加した。
【0468】
抗BCMA02 CAR T細胞を、合計10日の培養日数の間、IL-2及び最適用量のZSTK474を含有する新しい培地を添加することにより、対数期で維持した。製造の終了時に、同等数の抗BCMA02 CAR T細胞を、培地単独中で24時間再培養した。24時間内に放出されたIFN-γの量はELISAにより数量化された。このアッセイでは、200pg/mLを下回るIFN-γレベルは、強直な活性を表さない。
図15は、14のドナーからの抗BCMA02 CAR T細胞により放出されたIFN-γの量が、CAR TがZSTK474と共に培養されたか否かにかかわらず、強直な活性の欠如と一致することを示す。
【0469】
実施例9
ZSTK474処理された抗BCMA02 CAR T細胞はリンパ腫腫瘍モデルにおいて治療活性を示す
IL-2またはIL-及びZSTK474と共に培養された抗BCMA02 CAR T細胞の抗腫瘍活性を調べるために、Daudi腫瘍を使用した。Daudi細胞は、低レベルのBCMAタンパク質を発現し、高悪性度で、治療が困難なリンパ腫腫瘍モデルを提供する。
【0470】
2x106のDaudi腫瘍細胞を、ホタルルシフェラーゼ遺伝子で標識し、静脈内注射により、NOD scid IL-2受容体ガンマ鎖ノックアウトマウス(NSG)に注射した。腫瘍を形成させた後、1x107のCAR T細胞を腫瘍保有マウスに注射した。マウスに、i)IL-2もしくはIL-2及びZSTK474で10日間処理した抗BCMA02 CAR T細胞、またはii)IL-2及びZSTK474で10日間処理した切り詰められたシグナル伝達欠損抗BCMA02(tBCMA02)CAR T細胞を注射した。腫瘍の成長は、Xenogen-IVIS撮像システムを使用して、生物発光により監視された。
【0471】
完全な腫瘍縮小は、IL-2及びZSTK474で処理された抗BCMA02 CAR
T細胞を投与された50%のマウスにおいて観察された。
図16。
【0472】
実施例10
ZSTK474処理されたCAR T細胞はヒト骨髄腫のマウスモデルにおいて治療活性を示す
100mm3の皮下多発性骨髄腫腫瘍(RPMI-8226)を有する動物に、等価のCAR T細胞用量(1x106抗BCMA02 CAR-陽性T細胞)、または対応T細胞ドナーからの未改変T細胞(形質導入されていない)を注入した。抗BCMA CAR T細胞を、実施例8に記載されるように、IL-2またはIL-2及びZSTK474で処理した。
【0473】
IL-2またはIL-2及びZSTK474培養された抗BCMA02 CAR T細胞で処置された動物は、腫瘍の成長を完全に阻止した。
図17。対照的に、形質導入されていない、またはビヒクルで処置された動物は、腫瘍の成長を制御することができなかった。
図17。
【0474】
概して、以下の特許請求の範囲において、使用される用語は、本明細書及び特許請求の範囲において開示される特定の実施形態に対する主張を制限するように解釈されるべきではないが、このような特許請求の範囲が権利を有する等価物の完全な範囲と共に全ての可能な実施形態を含むように解釈されるべきである。したがって、特許請求の範囲は、開示により制限されない。
【配列表】