(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】カバーフィルム及びそれを用いた画像表示装置
(51)【国際特許分類】
B32B 27/40 20060101AFI20231030BHJP
C08G 18/61 20060101ALI20231030BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20231030BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
B32B27/40
C08G18/61
G09F9/00 302
G09F9/30 308Z
(21)【出願番号】P 2022088915
(22)【出願日】2022-05-31
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】501426046
【氏名又は名称】エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】奥野 晴美
(72)【発明者】
【氏名】太田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】沢田 雅史
(72)【発明者】
【氏名】若月 敦史
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 穣
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/002342(WO,A1)
【文献】特開2019-073497(JP,A)
【文献】特開2013-147614(JP,A)
【文献】特開2003-026755(JP,A)
【文献】特開2009-024060(JP,A)
【文献】特開2015-131871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08G 18/00-18/87、71/00-71/04
G09F 9/00、9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面に設けられた表面層とを有するカバーフィルムであって、前記基材層と前記表面層とは化学的に結合しており、
前記表面層は、分子内にウレタン結合と、ウレア結合と、ポリオルガノシロキサン基とを有するポリウレタン樹脂(X1)を含み、
前記ポリウレタン樹脂(X1)は、活性水素成分(A1)と、無黄変型イソシアネート成分(B1)との反応物であり、
前記活性水素成分(A1)は、ポリオルガノシロキサン基及び活性水素基を含む化合物(a1-1)を含み、前記活性水素成分(A1)及び前記無黄変型イソシアネート成分(B1)の合計量(100質量%)に対する前記化合物(a1-1)の割合は4.0質量%以下であり、
前記基材層は、分子内にウレタン結合を有するポリウレタン樹脂(X2)を含み、
前記ポリウレタン樹脂(X2)は、前記化合物(a1-1)を含まない活性水素成分(A2)と、無黄変型イソシアネート成分(B2)との反応物であり、
前記ポリウレタン樹脂(X2)の、下記式(1)から算出される架橋点濃度が0.4mmol/g以上であり、かつ100%伸長時の弾性回復率が80~100%であ
り、
前記表面層の厚みが3μm以上10μm以下であり、かつ前記基材層の厚みが150μm以上450μm以下である、カバーフィルム。
架橋点濃度(mmol/g)=(F-2)×(ポリウレタン樹脂1g中の、3官能以上の構成単量体のミリモル数) ・・・(1)
(式(1)中、Fは3官能以上の構成単量体の官能基数を表す。)
【請求項2】
前記活性水素成分(A1)が、活性水素基として少なくともアミノ基を含む、請求項1に記載のカバーフィルム。
【請求項3】
前記表面層及び前記基材層が、環境安定剤を含み、
前記表面層及び前記基材層中の前記環境安定剤の割合が、それぞれ、0.5~5.0質量%である、請求項1または2に記載のカバーフィルム。
【請求項4】
前記無黄変型イソシアネート成分(B1)が、3官能以上のイソシアネート化合物(b1)を含む、請求項1
または2に記載のカバーフィルム。
【請求項5】
前記カバーフィルムの50%延伸時の全光線透過率が85%以上であり、かつヘイズ値が5%以下である、請求項1
または2に記載のカバーフィルム。
【請求項6】
前記カバーフィルムの、JIS K 6400-2に沿って測定したヒステリシスロス率が12%以下である、請求項1
または2に記載のカバーフィルム。
【請求項7】
請求項1
または2に記載のカバーフィルムと、画像表示素子と、ストレッチャブル基板、またはフレキシブル基板とが、順に積層されている、画像表示装置。
【請求項8】
フレキシブル性及び/又は伸縮性を有する、請求項
7に記載の画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバーフィルム及びそれを用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットPC等の携帯型画像表示装置として、フレキシブル性(湾曲型(bendable)、折り畳み型(foldable)、又は巻取り型(rollable))を有する画像表示装置の他、伸縮性(stretchable)を有する画像表示装置の開発が進められている(特許文献1、2等)。
画像表示装置は、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、液晶ディスプレイ等の画像表示素子を保護するためのカバーウィンドウを備えている。現在、携帯型画像表示装置の多くは、ガラス基材を含むカバーウィンドウを用いている。しかしながら、ガラス基材は外部の衝撃によって割れやすく、かつ柔軟性がないため、上記のフレキシブル性を有する画像表示装置(以下、「フレキシブルディスプレイ」と記載することもある)や、伸縮性を有する画像表示装置(以下、「ストレッチャブルディスプレイ」と記載することもある)には適用できない。そこで、ガラス基板ではなく、樹脂フィルム(カバーフィルム)への代替が検討されており、透明性を有するポリイミド系フィルムをカバーフィルムとして用いた画像表示装置が知られている。
【0003】
カバーフィルムを画像表示装置の表面保護材として用いる場合、透明性の他、適度な滑り性(耐擦傷性)と、機械的物性(硬度)とを備えている必要がある。また、フレキシブルディスプレイのカバーフィルムでは、曲率半径が小さい場合、より柔軟性がある方が好ましい。一方、ストレッチャブルディスプレイのカバーフィルムとして用いる場合は、伸縮性にも優れている必要がある。従来のポリイミド系フィルムは伸縮性を有さないため、ストレッチャブルディスプレイへの適用は難しい。係る課題に対して、例えば、特許文献3には、伸縮性を有するエラストマーをカバーフィルムとして用いることが記載されている。
【0004】
ところで、伸縮性を有するカバーフィルムは耐擦傷性が十分ではないという問題がある。耐擦傷性向上のために、滑り性を有する材料等をハードコート層にコーティングする手法も知られているが、このような方法でも、上記のフレキシブルディスプレイやストレッチャブルディスプレイに要求される耐擦傷性を満足させることはできない。また、画像表示装置の伸縮時に、フィルムに亀裂が発生するという問題がある。さらに、フィルム表面にコーティングを施す手法は、塗工性や、基材となるフィルムとの密着性といった新たな課題も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-152922号公報
【文献】特開2020-102065号公報
【文献】特開2020-042981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、耐擦傷性、機械物性及び光学特性に優れ、かつ伸縮性にも優れるカバーフィルム、及び前記カバーフィルムを含む画像表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは鋭意検討した結果、基材層と表面層とが化学的に結合した構成を有するカバーフィルムであって、表面層及び基材層が特定のポリウレタン樹脂を含み、かつ前記表面層に含まれるポリウレタン樹脂がウレア結合とポリオルガノシロキサン基を有し、前記基材層に含まれるポリウレタン樹脂が特定の架橋点濃度を有する構成とすることによって、前述の全ての課題を解決できるカバーフィルム及び画像表示装置が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面に設けられた表面層とを有するカバーフィルムであって、前記基材層と前記表面層とは化学的に結合しており、前記表面層は、分子内にウレタン結合と、ウレア結合と、ポリオルガノシロキサン基とを有するポリウレタン樹脂(X1)を含み、前記ポリウレタン樹脂(X1)は、活性水素成分(A1)と、無黄変型イソシアネート成分(B1)との反応物であり、前記活性水素成分(A1)は、ポリオルガノシロキサン基及び活性水素基を含む化合物(a1-1)を含み、前記活性水素成分(A1)及び前記イソシアネート成分(B1)の合計量(100質量%)に対する前記化合物(a1-1)の割合は4.0質量%以下であり、前記基材層は、分子内にウレタン結合を有するポリウレタン樹脂(X2)を含み、前記ポリウレタン樹脂(X2)は、前記化合物(a1-1)を含まない活性水素成分(A2)と、無黄変型イソシアネート成分(B2)との反応物であり、前記ポリウレタン樹脂(X2)の、下記式(1)から算出される架橋点濃度が0.4mmol/g以上であり、かつ100%伸長時の弾性回復率が80~100%である、カバーフィルム。
架橋点濃度(mmol/g)=(F-2)×(ポリウレタン樹脂1g中の、3官能以上の構成単量体のミリモル数) ・・・(1)
(式(1)中、Fは3官能以上の構成単量体の官能基数を表す。)
[2]前記活性水素成分(A1)が、活性水素基として少なくともアミノ基を含む、[1]に記載のカバーフィルム。
[3]前記表面層及び前記基材層が、環境安定剤を含み、前記表面層及び前記基材層中の前記環境安定剤の割合が、それぞれ、0.5~5.0質量%である、[1]または[2]に記載のカバーフィルム。
[4]前記無黄変型イソシアネート成分(B1)が、3官能以上のイソシアネート化合物(b1)を含む、[1]から[3]のいずれかに記載のカバーフィルム。
[5]前記表面層の厚みが10μm以下であり、かつ前記基材層の厚みが150μm以上である、[1]から[4]のいずれかに記載のカバーフィルム。
[6]前記カバーフィルムの50%延伸時の全光線透過率が85%以上であり、かつヘイズ値が5%以下である、[1]から[5]のいずれかに記載のカバーフィルム。
[7]前記カバーフィルムの、JIS K 6400-2に沿って測定したヒステリシスロス率が12%以下である、[1]から[6]のいずれかに記載のカバーフィルム。
[8][1]から[7]のいずれかに記載のカバーフィルムと、画像表示素子と、ストレッチャブル基板、またはフレキシブル基板とが、順に積層されている、画像表示装置。
[9]フレキシブル性及び/又は伸縮性を有する、[8]に記載の画像表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐擦傷性、機械物性及び光学特性に優れ、かつ伸縮性にも優れるカバーフィルム、及び前記カバーフィルムを含む画像表示装置を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
本明細書において「~」の記載は、「以上以下」を意味する。
【0010】
[カバーフィルム]
本実施形態に係るカバーフィルムは、基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面に設けられた表面層とを有し、前記基材層と前記表面層とは化学的に結合しており、前記表面層は、分子内にウレタン結合と、ウレア結合と、ポリオルガノシロキサン基とを有するポリウレタン樹脂(X1)を含み、前記ポリウレタン樹脂(X1)は、活性水素成分(A1)と、無黄変型イソシアネート成分(B1)との反応物であり、前記活性水素成分(A1)は、ポリオルガノシロキサン基及び活性水素基を含む化合物(a1-1)を含み、前記活性水素成分(A1)及び前記イソシアネート成分(B1)の合計量(100質量%)に対する前記化合物(a1-1)の割合は4.0質量%以下であり、前記基材層は、分子内にウレタン結合を有するポリウレタン樹脂(X2)を含み、前記ポリウレタン樹脂(X2)は、前記化合物(a1-1)を含まない活性水素成分(A2)と、無黄変型イソシアネート成分(B2)との反応物であり、前記ポリウレタン樹脂(X2)の、下記式(1)から算出される架橋点濃度が0.4mmol/g以上であり、かつ100%伸長時の弾性回復率が80~100%である、カバーフィルム。
架橋点濃度(mmol/g)=(F-2)×(ポリウレタン樹脂1g中の、3官能以上の構成単量体のミリモル数) ・・・(1)
本実施形態に係るカバーフィルムは、耐擦傷性、機械物性及び光学特性に優れ、かつ伸縮性にも優れている。以下、本発明に係るカバーフィルムの詳細について説明する。
【0011】
<表面層>
本実施形態に係るカバーフィルムは、基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面に設けられた表面層とを有する。表面層は、分子内にウレタン結合とウレア結合と、ポリオルガノシロキサン基とを有するポリウレタン樹脂(X1)を含む。表面層は後述する基材層と化学的に結合している。ここで、「化学的に結合している」とは、表面層を構成する成分と、基材層を構成する成分とが、互いに反応して、その界面で化学的に結びついた状態を意味する。このような構成を有することにより、応力がかかった際に層間剥離しにくくなる。その結果、耐擦傷性および機械特性が向上する。また表面層が、分子内にウレタン結合とウレア結合とを含むポリウレタン樹脂(X1)を含むことにより、表面層の耐擦傷性が向上し、かつ適度な硬さを発現することができる。
【0012】
(ポリウレタン樹脂(X1))
表面層に含まれるポリウレタン樹脂(X1)は、活性水素成分(A1)(以下、成分(A1)と記載することもある)と、無黄変型イソシアネート成分(B1)(以下、成分(B1)と記載することもある)との反応物である。本明細書において、「無黄変型イソシアネート」とは、芳香族成分を含まないイソシアネート化合物を意味する。
成分(A1)は、ポリオルガノシロキサン基及び活性水素基を含む化合物(a1-1)を含む。化合物(a1-1)の成分(A1)及び成分(B1)の合計量(100質量%)に対する割合は、4.0質量%以下である。表面層がポリウレタン樹脂(X1)を含むことにより、耐擦傷性及び機械物性が向上する。
【0013】
[活性水素成分(A1)]
活性水素成分(A1)は、必須成分として、ポリオルガノシロキサン基及び活性水素基を含む化合物(a1-1)(以下、「化合物(a1-1)」と記載する)を含む。
【0014】
<化合物(a1-1)>
化合物(a1-1)は、ポリオルガノシロキサン基と活性水素基とを有する化合物である。化合物(a1-1)を含む成分(A1)と、成分(B1)との反応物を表面層とすることにより、表面層の耐擦傷性が良好となる。
化合物(a1-1)に含まれる活性水素基としては、水酸基、アミノ基及びカルボキシ基から選択される少なくとも1つの活性水素基が好ましく、アミノ基を含むことが好ましい。化合物(a1-1)がアミノ基を含むことにより、分子内にウレア結合を含むポリウレタン樹脂(X1)が得られやすくなる。なお、ポリウレタン樹脂(X1)中のウレア結合は、化合物(a1-1)以外の成分(A1)と、成分(B1)との反応によって形成されてもよい。
【0015】
化合物(a1-1)が有するポリオルガノシロキサン基は、下記一般式(I)で表される構造を有していてもよい。
【化1】
【0016】
一般式(I)において、R1~R6は、それぞれ独立して、炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、nは1~100の整数を表す。
このうち、表面層の機械物性が向上しやすい観点から、R1~R6は、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。また、表面層の機械物性及びカバーフィルムのヘイズ値が向上しやすい観点からは、nは10~70の整数が好ましく、15~50の整数がより好ましい。
【0017】
化合物(a1-1)は、前記一般式(I)で表されるポリオルガノシロキサン基を有し、かつ分子鎖の一方の末端、両末端、及び側鎖から選択される少なくとも1つに活性水素基を有することが好ましい。また、化合物(a1-1)としては、分子鎖の一方の末端、及び両末端から選択される少なくとも1つに水酸基、又はアミノ基を有することがより好ましい。このような化合物(a1-1)としては、市販品を用いてもよい。
【0018】
両末端にアミノ基を有する化合物(a1-1)の市販品としては、例えば、信越化学工業(株)製の、「KF-8010」(官能基当量430g/mol)、「X-22-161A」(官能基当量800g/mol)、「X-22-161B」(官能基当量1,500g/mol)、「KF-8012」(官能基当量2,200g/mol)、「KF-8008」(官能基当量5,700g/mol)、「X-22-9409」(官能基当量700g/mol)、「X-22-1660B-3」(官能基当量2,200g/mol)(いずれも製品名);東レ・ダウコーニング(株)製の、「BY-16-853U」(官能基当量460g/mol)、「BY-16-853」(官能基当量650g/mol)、「BY-16-853B」(官能基当量2,200g/mol)(いずれも製品名)が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
両末端に水酸基を有する化合物(a1-1)の市販品としては、例えば、信越化学工業(株)製、「KF-6001」(官能基当量900g/mol)、「KF-6002」(官能基当量1,600g/mol)、「KF-6003」(官能基当量2,550g/mol)「X-22-4952」(官能基当量1,100g/mol)(いずれも製品名);東レ・ダウコーニング(株)製の、「SF8427」(官能基当量930g/mol)(製品名)が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
一方の末端に水酸基を有する化合物(a1-1)の市販品としては、例えば、信越化学工業(株)製の、「X-22-170BX」(官能基当量2,800g/mol)、「X-22-170DX」(官能基当量4,670g/mol)、「X-22-176DX」(官能基当量1,600g/mol)、「X-22-176F」(官能基当量6,300g/mol)(いずれも製品名)が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
上述の市販品のうち、化合物(a1-1)としては、X-22-161A、BY-16-853U及びKF-8012が好ましく、BY-16-853U及びKF-8012がより好ましい。
【0022】
ポリウレタン樹脂(X1)中の化合物(a1-1)の割合は、成分(A1)及び成分(B1)の合計量(100質量%)に対して、4.0質量%以下であり、1.0~3.0質量%が好ましく、1.5~2.0質量%がより好ましい。ポリウレタン樹脂(X1)中の化合物(a1-1)の割合が4.0質量%以下であれば、カバーフィルムの耐擦傷性、及び光学特性を両立することができる。
【0023】
特許文献3等に記載の従来のカバーフィルムにおいては、フィルムの耐擦傷性を向上させるために、ハードコート層にコーティングを施す手法が用いられている。ハードコート層をコーティングすることでフィルム硬度が向上し、耐擦傷性が良好となる一方で、フィルムの伸縮性が低下する。そのため、従来のカバーフィルムはストレッチャブルディスプレイに適用することは難しい。本願発明者らは、カバーフィルムの硬度ではなく、スリップ性に着目して検討を行ったところ、カバーフィルムの表面層に特定の化合物(a1-1)を一定量配合させることで、やや硬く、かつスリップ性及び伸縮性に優れる樹脂が得られることを見出した。さらに、後述の架橋点濃度の高い樹脂を基材層とし、基材層と表面層とが化学的に結合した層構造とすることで、表面層のスリップ性と、基材層の回復力(リカバリー力)によって、鉛筆硬度も上昇することを見出した。
【0024】
<その他の活性水素成分(a1-2)>
成分(A1)は、化合物(a1-1)以外のその他の活性水素成分(a1-2)(以下、「成分(a1-2)」と記載する)を含む。成分(a1-2)としては、例えば、国際公開第2021/002342号に記載の高分子ポリオール、鎖伸長剤、及び反応停止剤から選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。このうち、耐擦傷性の観点から、国際公開第2021/002342号に記載の高分子ポリオールを含むことが好ましく、ポリカーボネートポリオールを含むことがより好ましい。なお、鎖伸長剤として、水、1,4-ブタンジオール等を含んでいてもよい。また、反応停止剤として、ジエタノールアミン等を含んでいてもよい。
成分(a1-2)中の高分子ポリオールの割合は、成分(a1-2)の総質量に対して、50~100質量%であってもよく、70~100質量%であってもよい。高分子ポリオールの割合が前記範囲内であれば、耐擦傷性がより良好となりやすい。
【0025】
成分(A1)中の成分(a1-2)の含有量は、化合物(a1-1)と成分(a1-2)との合計量が100質量%となる範囲で調整できる。
【0026】
[無黄変型イソシアネート成分(B1)]
成分(B1)は芳香族成分を含まないイソシアネート化合物である。成分(B1)は、成分(A1)と反応して、ウレタン結合及びウレア結合を形成する。成分(B1)は、少なくとも2個のイソシアネート基を有し、芳香族成分を含まないポリイソシアネート化合物である。すなわち、成分(B1)は、脂肪族ポリイソシアネート、及び脂環式ポリイソシアネートから選択される少なくとも1つのイソシアネート化合物である。
【0027】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下、「HDI」と記載する)、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、及び2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエート等の脂肪族ジイソシアネート;1,6,11-ウンデカントリイソシアネート等の脂肪族トリイソシアネート;上記脂肪族ジイソシアネート又は脂肪族トリイソシアネートのウレタン基、カルボジイミド基、アロハネート基、ウレア基、ビウレット基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、イソシアヌレート基又はオキサゾリドン基含有変性物(例えば、アロハネート変性HDI(例えば、東ソー(株)製、製品名「CORONATE(登録商標)-2793」)、イソシアヌレート変性HDI(例えば、旭化成(株)製、製品名「デュラネート(登録商標) TLA-100」)、及びビウレット変性HDI(例えば、旭化成(株)製、製品名「デュラネート 24A-100」))等の3官能以上の脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」と記載する)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下、「水添MDI」と記載する)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、及び2,5-又は2,6-ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートが挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
成分(B1)は、3官能以上のイソシアネート化合物(b1)(以下、「化合物(b1)」と記載する)を含むことが好ましく、アロハネート変性HDI又はビウレット変性HDIを含むことがより好ましく、アロハネート変性HDIを含むことがさらに好ましい。化合物(b1)を含むことにより、より耐熱性に優れる表面層が得られやすくなる。その結果、本実施形態に係るカバーフィルムを適用したフレキシブルディスプレイやストレッチャブルディスプレイの、高温時のフィルムの付着や粘着を抑制しやすくなる。特に、これらディスプレイを丸めたり、折りたたんだりした際に、フィルム同士が付着することを抑制しやすくなる。
【0030】
成分(B1)中の化合物(b1)の含有量は、成分(B1)の総質量に対して、0.5~10質量%がより好ましく、0.5~7.5質量%がより好ましく、0.5~5.0質量%がさらに好ましい。
【0031】
ポリウレタン樹脂(X1)中の成分(B1)の割合は、本発明の効果を有する限り特に限定されない。一態様においては、成分(B1)の有するNCO基総量と、成分(A1)中の活性水素基総量のモル比率(NCO基総量/活性水素基総量)が、1.00~1.10の範囲であることが好ましく、1.00~1.05の範囲であることがより好ましい。前記モル比率が1.00~1.10の範囲であれば、耐擦傷性が良好となりやすい。
【0032】
ポリウレタン樹脂(X1)の下記式(1)から算出される架橋点濃度は、0.02~0.10mmol/gが好ましく、0.04~0.08mmol/gがより好ましい。架橋点濃度が前記範囲内であれば、耐擦傷性が良好となりやすい。
架橋点濃度(mmol/g)=(F-2)×(ポリウレタン樹脂1g中の、3官能以上の構成単量体のミリモル数) ・・・(1)
(式(1)中、Fは3官能以上の構成単量体の官能基数を表す。)
【0033】
ポリウレタン樹脂(X1)中のウレタン結合及びウレア結合の合計濃度は、1.6~2.4mmol/gが好ましく、1.8~2.2mmol/gがより好ましい。ウレタン結合及びウレア結合の合計濃度が前記範囲内であれば、耐擦傷性が良好となりやすい。なお、ポリウレタン樹脂(X1)中のウレタン結合及びウレア結合の合計濃度は、活性水素成分(A1)及び無黄変型イソシアネート成分(B1)の仕込み量から算出することができる。
【0034】
(ポリウレタン樹脂(X1)の製造方法)
本実施形態に係るポリウレタン樹脂(X1)の製造方法は特に限定されず、成分(A1)、成分(B1)、及び必要により有機溶剤を用いてウレタンプレポリマーを得たのち、前記ウレタンプレポリマーと、例えば、鎖延長剤とを反応させて、ポリウレタン樹脂(X1)を得る方法(1)や、バッチ式反応槽に、成分(A1)、成分(B1)、及び必要により有機溶剤を一括で仕込み、加熱により反応させてポリウレタン樹脂(X1)を得る方法(2)等が挙げられる。
方法(1)及び方法(2)の詳細としては、例えば、国際公開第2021/002342号に記載の内容が挙げられる。
【0035】
ポリウレタン樹脂(X1)の後述の方法で測定される100%伸長時の弾性回復率は、40~100%が好ましく、50~100%がより好ましい。ポリウレタン樹脂(X1)の100%伸長時の弾性回復率が前記範囲内であれば、耐擦傷性が良好となりやすい。
【0036】
(その他の成分(C1))
表面層は、ポリウレタン樹脂(X1)以外のその他の成分(C1)(以下、「成分(C1)」と記載する)を含むことができる。成分(C1)としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、及び光安定剤等の環境安定剤、可塑剤、吸着材、充填剤、離型剤、及び難燃剤等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
このうち、カバーフィルムの経時劣化(変色等)を抑制しやすく、かつ耐光性、耐熱性がより向上しやすい観点から、成分(C1)として環境安定剤を含むことが好ましい。
【0037】
環境安定剤としては、前述の通り、酸化防止剤、紫外線吸収剤、及び光安定剤が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のヒンダードフェノール化合物;トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等のリン化合物;ペンタエリスチル-テトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスチル-テトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート等の硫黄化合物等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
紫外線吸収剤としては、例えば、2-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール化合物等が挙げられる。
光安定剤としては、例えば、(ビス-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート等のヒンダードアミン化合物等が挙げられる。
【0039】
表面層は、前述の環境安定剤を1種、又は2種以上含んでいてもよい。表面層中の環境安定剤の含有量は、表面層を構成する樹脂組成物の総質量に対して、0.5~5.0質量%が好ましく、1.0~5.0質量%がより好ましく、1.5~5.0質量%がさらに好ましい。表面層中の環境安定剤の含有量が0.5質量%以上であることにより、経時劣化の少ないカバーフィルムが得られやすくなる。また、表面層中の環境安定剤の含有量が5.0質量%以下であることにより、環境安定剤によるフィルムの黄変等を抑制しつつ、耐光性、耐熱性に優れるカバーフィルムが得られやすくなる。なお、表面層が前述のポリウレタン樹脂(X1)のみで構成されている場合、表面層中の環境安定剤の含有量は、ポリウレタン樹脂(X1)と環境安定剤の合計量(100質量%)に対する割合である。
表面層に含まれる環境安定剤以外のその他の成分としては、例えば、国際公開第2021/002342号に記載の添加剤を、1種単独で、又は2種以上併用してもよい。
【0040】
<基材層>
本実施形態に係るカバーフィルムにおいて、基材層は、分子内にウレタン結合を有するポリウレタン樹脂(X2)を含む。前記ポリウレタン樹脂(X2)は、前記化合物(a1-1)を含まない活性水素成分(A2)と、無黄変型イソシアネート成分(B2)との反応物であり、前記ポリウレタン樹脂(X2)の、下記式(1)から算出される架橋点濃度が0.4mmol/g以上であり、かつ100%伸長時の弾性回復率が80~100%であることを特徴とする。このように弾性回復率の大きなポリウレタン樹脂(X2)を含むことにより、基材層は柔らかく、かつ復元力の大きな層となる。その結果、カバーフィルムの機械物性、特に鉛筆硬度が向上する。
【0041】
(ポリウレタン樹脂(X2))
基材層に含まれるポリウレタン樹脂(X2)は、化合物(a1-1)を含まない活性水素成分(A2)(以下、「成分(A2)」と記載する)と、無黄変型イソシアネート成分(B2)(以下、「成分(B2)」と記載する)との反応物である。ポリウレタン樹脂(X2)の下記式(1)から算出される架橋点濃度は、0.4mmol/g以上であり、0.4~0.6mmol/gが好ましく、0.4~0.5mmol/gがより好ましい。ポリウレタン樹脂(X2)の架橋点濃度が0.4mmol/g以上であれば、カバーフィルムの機械物性、特に鉛筆硬度が向上する。
架橋点濃度(mmol/g)=(F-2)×(ポリウレタン樹脂1g中の、3官能以上の構成単量体のミリモル数) ・・・(1)
(式(1)中、Fは3官能以上の構成単量体の官能基数を表す。)
【0042】
[活性水素成分(A2)]
成分(A2)は、化合物(a1-1)を含まず、高分子ポリオール(a2-1)(以下、「成分(a2-1)」と記載する)を必須成分として含む。
成分(a2-1)は、数平均分子量(Mn)が500以上、好ましくは500~5,000、より好ましくは800~4,000のポリオールであり、例えば、国際公開第2021/002342号公報に記載の高分子ポリオールが挙げられる。このうち、ポリウレタン樹脂(X2)中の架橋点濃度を0.4mmol/g以上に調整しやすい観点から、高分子ポリオール(a2-1)は、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、ソルビタン、ジグリセリン及びジペンタエリスリトール等の4~8官能の多価アルコールにアルキレンオキシドを付加したポリオールを含むことが好ましく、ソルビトール、マンニトール、ソルビタン、及びジペンタエリスリトール等の6~8官能の多価アルコールにアルキレンオキシドを付加したポリオールを含むことがより好ましい。高分子ポリオール(a2-1)は1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、高分子ポリオール(a2-1)として、ポリエーテルポリオールを含んでいてもよい。ポリエーテルポリオールとしては、例えば、Mn又は化学式量が500未満のポリオールにアルキレンオキシドを付加した化合物が挙げられる。ポリエーテルポリオールは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
なお、前記アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、1,2-又は1,3-プロピレンオキシド、1,2-,1,3-又は2,3-ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、スチレンオキシド、α-オレフィンオキシド、及びエピクロルヒドリン等の炭素数2~12のアルキレンオキシドが挙げられる。このうち、耐擦傷性の観点から、エチレンオキシド及び1,2-又は1,3-プロピレンオキシドが好ましい。
一態様において、高分子ポリオール(a2-1)は、ソルビトール、マンニトール、ソルビタン、及びジペンタエリスリトールから選択される少なくとも1つの多価アルコールに、エチレンオキシド、1,2-プロピレンオキシド、及び1,3-プロピレンオキシドから選択される少なくとも1つのアルキレンオキシドを付加したポリオールを含んでいてもよい。
一態様において、高分子ポリオール(a2-1)は、Mnが500~2,500のポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)を含んでいてもよい。
【0044】
成分(A2)中の成分(a2-1)の割合は、成分(A2)の総質量に対して、70~100質量%が好ましく、75~100質量%がより好ましく、75~90質量%がさらに好ましい。高分子ポリオール(a2-1)の割合が前記範囲内であれば、耐擦傷性が良好となりやすい。
【0045】
なお、本明細書において「Mn」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより、例えば、以下の条件で測定することができる。
装置:「Waters Alliance 2695」(Waters社製)
カラム:「Guardcolumn Super H-L」(1本)、「TSKgel SuperH2000、TSKgel SuperH3000、TSKgel SuperH4000(いずれも東ソー(株)製)を各1本連結したもの」
試料溶液:0.25質量%THF溶液
溶液注入量:10μL
流量:0.6mL/分
測定温度:40℃
検出装置:屈折率検出器
基準物質:標準ポリエチレングリコール
【0046】
<その他の活性水素成分(a2-2)>
成分(A2)は、成分(a2-1)以外のその他の活性水素成分(a2-2)(以下、「成分(a2-2)」と記載する)を含むことができる。成分(a2-2)としては、例えば、国際公開第2021/002342号に記載の鎖伸長剤、及び反応停止剤から選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。このうち、耐擦傷性の観点から、1,4-ブタンジオール、又はエチレングリコールを含むことが好ましく、1,4-ブタンジオールを含むことがより好ましい。
成分(a2-2)中の1,4―ブタンジオール及び/又はエチレングリコールの割合は、成分(a2-2)の総質量に対して、50~100質量%であってもよく、70~100質量%であってもよい。1,4―ブタンジオール及び/又はエチレングリコールの割合が前記範囲内であれば、耐擦傷性がより良好となりやすい。
【0047】
[無黄変側イソシアネート成分(B2)]
成分(B2)は芳香族成分を含まないイソシアネート化合物である。成分(B2)は、成分(A2)と反応して、ウレタン結合を形成する。成分(B2)としては、成分(B1)と同じポリイソシアネートが例示できる。このうち、耐擦傷性の観点から、成分(B2)は、HDI又はIPDIを含むことが好ましい。成分(B2)中のHDI及びIPDIの含有量は、成分(B2)の総質量に対して、80~100質量%がより好ましく、90~100質量%がより好ましい。
【0048】
ポリウレタン樹脂(X2)中の成分(B2)の割合は、本発明の効果を有する限り特に限定されない。一態様においては、成分(B2)の有するNCO基総量と、成分(A2)中の活性水素基総量のモル比率(NCO基総量/[活性水素基総量])が、1.00~1.10の範囲であることが好ましく、1.00~1.05の範囲であることがより好ましい。前記モル比率が1.00~1.10の範囲であれば、耐擦傷性が良好となりやすい。
【0049】
ポリウレタン樹脂(X2)中のウレタン結合の濃度は、1.5~2.5mmol/gが好ましく、1.7~2.2mmol/gがより好ましい。ウレタン結合の濃度が前記範囲内であれば、耐擦傷性及び鉛筆硬度が良好となりやすい。
【0050】
(ポリウレタン樹脂(X2)の製造方法)
本実施形態に係るポリウレタン樹脂(X2)の製造方法は特に限定されず、成分(A2)、成分(B2)を用いる以外は、ポリウレタン樹脂(X1)と同様の方法で製造することができる。
【0051】
ポリウレタン樹脂(X2)の以下の方法で測定される100%伸長時の弾性回復率は、80~100%である。ポリウレタン樹脂(X2)の100%伸長時の弾性回復率が前記範囲内であれば、復元力の高い基材層が得られ、カバーフィルムの鉛筆硬度が向上する。
本実施形態における100%伸長時の弾性回復率は下記方法で測定することができる。
<100%伸長時の弾性回復率の測定方法>
(1)ポリウレタン樹脂(X1)又はポリウレタン樹脂(X2)より、膜厚が約2mmのシートを作成する。前記シートから、縦100mm×横5mmの短冊状の試験片を切り出して標線間距離が50mmとなるように標線を付ける。
(2)この試験片をインストロン型引張り試験機((株)島津製作所製、製品名「オートグラフ」)のチャックにセットして、25℃の雰囲気下、500mm/分の一定速度で標線間の距離が100%になるまで伸長後、直ちに同じ速度で伸長前のチャック間の距離まで戻す操作を行う。
(3)この操作時の伸長過程における50%伸長時の応力(M1)と戻り過程における50%伸長時の応力(M2)を測定し、下記式(2)から弾性回復率を求める。
弾性回復率(%)=M2/M1×100 ・・・(2)
【0052】
(その他の成分(C2))
基材層は、ポリウレタン樹脂(X2)以外のその他の成分(C2)(以下、「成分(C2)」と記載する)を含むことができる。成分(C2)としては、例えば、前述の成分(C1)と同じものが例示できる。このうち、カバーフィルムの経時劣化(変色等)を抑制しやすく、かつ耐光性、耐熱性がより向上しやすい観点から、成分(C2)として環境安定剤を含むことが好ましい。
【0053】
基材層中の環境安定剤の含有量は、基材層を構成する樹脂組成物の総質量に対して、0.5~5.0質量%が好ましく、1.0~5.0質量%がより好ましく、1.5~5.0質量%がさらに好ましい。基材層中の環境安定剤の含有量が0.5質量%以上であることにより、経時劣化の少ないカバーフィルムが得られやすくなる。また、基材層中の環境安定剤の含有量が5.0質量%以下であることにより、環境安定剤によるフィルムの黄変等を抑制しつつ、耐光性、耐熱性に優れるカバーフィルムが得られやすくなる。なお、基材層が前述のポリウレタン樹脂(X2)のみで構成されている場合、基材層中の環境安定剤の含有量は、ポリウレタン樹脂(X2)と環境安定剤の合計量(100質量%)に対する割合である。
一態様において、カバーフィルム中に含まれる成分(C1)及び成分(C2)の合計量は、カバーフィルムを構成する全樹脂組成物の総質量に対して、0.5~5.0質量%であってよく、1.0~5.0質量%であってもよく、1.5~5.0質量%であってもよい。カバーフィルム中に含まれる成分(C1)及び成分(C2)の合計量を前記範囲内とすることで、経時劣化の少ないカバーフィルムが得られやすくなる。
【0054】
[カバーフィルムの製造方法]
本実施形態に係るカバーフィルムの製造方法は特に限定されない。1つの好ましい実施態様においては、例えば、ポリウレタン樹脂(X1)用プレポリマーと、ポリウレタン樹脂(X2)用プレポリマーとを調製する(工程(i))、ポリウレタン樹脂(X1)用プレポリマーを離形フィルム等の上に塗工して、所定の膜厚を有する表面層を形成する(工程(ii))、表面層の上にポリウレタン樹脂(X2)用プレポリマーを所定の膜厚で塗工して基材層を形成する(工程(iii))、ことを含む方法により、製造することができる。以下、上記工程(i)~(iii)を含む製造方法について説明する。
【0055】
<工程(i)>
工程(i)はポリウレタン樹脂(X1)用プレポリマーと、ポリウレタン樹脂(X2)用プレポリマーとを調製する工程である。
ポリウレタン樹脂(X1)用プレポリマーは、末端に水酸基を有する化合物であり、化合物(a1-1)を含む成分(A1)と、成分(B1)とを、必要により有機溶剤中で反応させることにより調製することができる。ポリウレタン樹脂(X1)用プレポリマー中の水酸基価は、溶剤を除いた組成物中で2.5~10.0mgKOH/gが好ましい。
【0056】
ポリウレタン樹脂(X2)用プレポリマーは、末端にイソシアネート基を有する化合物であり、成分(A2)と、成分(B2)とを、必要により有機溶剤中で反応させることにより調製することができる。ポリウレタン樹脂(X2)用プレポリマー中のイソシアネート残基の量は、溶剤を除いた組成物中で2.0~6.0%が好ましい。
【0057】
ポリウレタン樹脂(X1)及び(X2)の製造に際し、反応促進のため必要により触媒を含有することができる。触媒の具体例としては、例えば有機金属化合物(ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ビスマスカルボキシレート、ビスマスアルコキシド、及びジカルボニル基を有する化合物とビスマスとのキレート化合物等)、無機金属化合物(酸化ビスマス、水酸化ビスマス、ハロゲン化ビスマス等)、第3級アミン(トリエチルアミン、トリエチレンジアミン及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン等)及びこれらの2種以上の併用が挙げられる。
【0058】
ポリウレタン樹脂(X1)又は(X2)用ウレタンプレポリマーを調製する際の反応温度は、50~140℃であってもよく、70~100℃であってもよい。また反応時間は、1~10時間であってもよく、2~8時間であってもよい。
【0059】
<工程(ii)>
工程(ii)は表面層形成工程である。工程(ii)は、ポリウレタン樹脂(X1)用ウレタンプレポリマー又はその有機溶剤溶液を、必要に応じて、前述の高分子ポリオール、鎖伸長剤等の成分(a1-2)、及び環境安定剤等の成分(C1)と混合したのち、離形フィルム上に所定の膜厚となるように塗工して、表面層を形成する。表面層の厚みは、耐擦傷性および光学特性の観点から、10μm以下であることが好ましく、3~8μmがより好ましい。なお、ポリウレタン樹脂(X1)用プレポリマーの有機溶剤溶液を用いた場合は、工程(ii)は、有機溶剤を乾燥させる工程を含んでいてもよい。乾燥温度は、30~160℃であってもよく、100~150℃であってもよい。乾燥時間は、10秒間~5分間であってもよく、20~60秒間であってもよい。
【0060】
<工程(iii)>
工程(iii)は基材層形成工程である。工程(ii)は、ポリウレタン樹脂(X2)用ウレタンプレポリマー又はその有機溶剤溶液を、必要に応じて、前述の鎖伸長剤等の成分(a2-2)、及び環境安定剤等の成分(C2)と混合したのち、工程(ii)で得られた表面層の上に所定の膜厚となるように塗工して、基材層を形成する。工程(iii)は、表面層の上にポリウレタン樹脂(X2)用プレポリマー又はその有機溶剤溶液を塗工したのち、加熱硬化させる工程であることが好ましい。硬化温度は、60~150℃であってもよく、80~120℃であってもよい。硬化時間は、1~8時間であってもよく、2~6時間であってもよい。
なお、ポリウレタン樹脂(X2)用プレポリマーの有機溶剤溶液を用いた場合は、工程(iii)は、有機溶剤を乾燥させる工程を含んでいてもよい。有機溶剤の乾燥工程は、上記の硬化と共に行われてもよい。
基材層の厚みは、機械特性の観点から、150μm以上であることが好ましく、150~450μmがより好ましい。
【0061】
上記工程(i)~(iii)を含む製造方法により、本実施形態に係るカバーフィルムを製造できる。
【0062】
本実施形態に係るカバーフィルムの50%延伸時の全光線透過率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。また、カバーフィルムのヘイズ値は5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。前述の通り、カバーフィルムは画像表示装置の表面保護材として用いられるため、透明性にも優れている必要がある。カバーフィルムの50%延伸時の全光線透過率が90%以上であり、かつヘイズ値が1%以下であれば、本実施形態に係るカバーフィルムを備えた画像表示装置を伸縮させたり、折りたたんだりした際も、カバーフィルムの透明性が低下しにくい。
【0063】
本実施形態に係るカバーフィルムの、JIS K 6400-2に沿って測定したヒステリシスロス率は12%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、8%以下であることがさらに好ましい。ヒステリシスロス率が12%以下であることにより、本実施形態に係るカバーフィルムを備えた画像表示装置の変形時の応答および耐久性が高くなりやすい。
【0064】
[画像表示装置]
本実施形態に係る画像表示装置は、前記カバーフィルムと、画像表示素子と、ストレッチャブル基板、又はフレキシブル基板とが、順に積層されていることを特徴とする。本実施形態に係る画像表示装置は、耐擦傷性、機械物性及び光学特性に優れ、かつ伸縮性にも優れるカバーフィルムを備えているため、フレキシブルディスプレイ及び/又はストレッチャブルディスプレイとして使用できる。すなわち、本実施形態に係る画像表示装置は、フレキシブル性及び/又は伸縮性を有していてもよい。
【0065】
<画像表示素子>
本明細書において「画像表示素子」とは、電気的作用または磁気的作用により、コントラスト、輝度、反射率、透過率などが変化する表示媒体を有するものを意味する。表示素子の一例としては、EL(エレクトロルミネッセンス)素子、LEDチップ(白色LEDチップ、赤色LEDチップ、緑色LEDチップ、青色LEDチップ等)、液晶素子等が挙げられる。
【0066】
<フレキシブル基板>
本明細書において「フレキシブル基板」は、湾曲、折りたたみ、巻取り等が可能な基板を指す。一態様において、フレキシブル基板は、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネートなどの樹脂材料で構成されていてもよいが、これに限定されるものではない。
【0067】
<ストレッチャブル基板>
本明細書において「ストレッチャブル基板」は、伸縮可能な基板を指す。一態様において、ストレッチャブル基板は、ポリジメチルシロキサン等のシリコーンゴム;ポリウレタン、PTFE(Polytetrafluoroethylene)等の弾性重合体であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0068】
<その他の構成>
本実施形態に係る画像表示装置は、タッチパネルやセンサー素子を備えていてもよい。
【0069】
[画像表示装置の製造方法]
本実施形態に係る画像表示装置は、画像表示素子上に、本実施形態に係るカバーフィルムを直接貼り付ける工程を含んでいてもよい。
【実施例】
【0070】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0071】
実施例及び比較例で用いた材料は以下のとおりである。
[ポリウレタン樹脂(X1):PU-X1]
<活性水素成分(A1)>
(化合物(a1-1))
・ポリオルガノシロキサン基と、分子鎖の両末端にアミノ基を有する化合物(東レ・ダウコーニング(株)製、製品名「BY-16-853U」と、信越化学工業(株)製、製品名「KF-8012」)。
(成分(a1-2))
・高分子ポリオール:ポリカーボネートジオール(旭化成(株)製、製品名「デュラノールT4671」)。
・鎖伸長剤:1,4-ジオール、水。
・反応停止剤;:ジエタノールアミン。
<無黄変型ポリイソシアネート成分(B1)>
・脂環式ポリイソシアネート(水添MDI)。
・化合物(b1):アロハネート変性HDI(東ソー(株)製、製品名「CORONATE-2793」)。
[ポリウレタン樹脂(X2):PU-X2]
<活性水素成分(A2)>
(成分(a2-1))
・ポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱ケミカル(株)製、製品名「PTMG-2000」、Mn=2,000)。
・ポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱ケミカル(株)製、製品名「PTMG-1000」、Mn=1,000)。
・ポリオキシプロピレンソルビトールエーテル(三洋化成工業(株)製、製品名「サンニックス(登録商標)SP-750」)。
(成分(a2-2))
・鎖伸長剤:1,4-ブタンジオール。
<無黄変型ポリイソシアネート成分(B2)>
・ヘキサメチレンジイソシアネート。
[PU-1]
下記の滑り剤を含む主剤を硬化剤と反応させて得られた、ポリウレタン樹脂。
主剤:ポリカーボネートポリオールを含むポリオールと、ポリイソシアネートとの反応物で、末端に水酸基を有するプレポリマー。
滑り剤:シリコーン化合物。
硬化剤:ポリイソシアネート化合物。
[PU-2]
2液硬化型ウレタン樹脂。
[PU-3]
下記の滑り剤を含む主剤を硬化剤と反応させて得られた、ポリウレタン樹脂。
主剤:ポリオールとポリイソシアネートとの反応物で、末端に水酸基を有するプレポリマー。
滑り剤:シリコーン化合物。
硬化剤:ポリイソシアネート化合物。
[PDMS]
下記のα剤とβ剤とを1:1で反応させて得られたポリジメチルシロキサンの共重合体(分子内にシロキサン結合を有する)。
α剤:白金触媒を含むビニル基含有ポリジメチルシロキサン。
β剤:ビニル基含有ポリジメチルシロキサンと、架橋剤と、反応抑制剤とを含む組成物。
[成分(C1)]
環境安定剤:紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール化合物(BASFジャパン(株)製、製品名「チヌビン(登録商標)329」)、酸化防止剤(ヒンダードフェノール化合物(BASFジャパン(株)製、製品名「イルガノックス(登録商標)245」)、及び光安定化剤(ヒンダードアミン化合物(BASFジャパン(株)製、製品名「チヌビン144」)を1:4:16の比率で混合したもの。
[成分(C2)]
環境安定剤:紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール化合物(BASFジャパン(株)製、製品名「チヌビン329」)、酸化防止剤(ヒンダードフェノール化合物(BASFジャパン(株)製、製品名「イルガノックス245」)、及び光安定化剤(ヒンダードアミン化合物(BASFジャパン(株)製、製品名「チヌビン144」)を1:11:45の比率で混合したもの。
【0072】
[実施例1]
ポリウレタン樹脂(X1)用プレポリマーの有機溶剤溶液に、成分(C1)を添加して混合したのち、厚みが5μmとなるように離形フィルム上に塗工した。その後、145℃で5分間乾燥して、半硬化した表面層を形成した。ポリウレタン樹脂(X2)用プリポリマーに成分(C2)を添加して混合したのち、前記表面層の上に、カバーフィルムの総厚みが400μmとなるように塗工した。145℃で2時間硬化させたのち、80℃で24時間硬化させて、基材層及び表面層を硬化させて、基材層と表面層とが化学的に結合したカバーフィルムを作成した。得られたカバーフィルムの表面層を構成するポリウレタン樹脂(X1)(PU-X1)の組成、及び基材層を構成するポリウレタン樹脂(X2)(PU-X2)の組成は表1に示す通りであった。PU-X1中の、成分(A1)と成分(B1)の合計量に対する化合物(a1-1)の割合は、1.75質量%であった。また、表面層及び基材層中の成分(C1)及び成分(C2)の割合は、表2に示す通りであった。
また、PU-X1及びPU-X2の以下の条件で測定した100%伸長時の弾性回復率は、PU-X1が63%であり、PU-X2が85%であった。
【0073】
<100%伸長時の弾性回復率の測定方法>
(1)ポリウレタン樹脂(X1)又はポリウレタン樹脂(X2)より、膜厚が約2mmのシートを作成した。前記シートから、縦100mm×横5mmの短冊状の試験片を切り出して標線間距離が50mmとなるように標線を付けた。
(2)この試験片をインストロン型引張り試験機((株)島津製作所製、製品名「オートグラフ」)のチャックにセットして、25℃の雰囲気下、500mm/分の一定速度で標線間の距離が100%になるまで伸長した後、直ちに同じ速度で伸長前のチャック間の距離まで戻す操作を行った。
(3)この操作時の伸長過程における50%伸長時の応力(M1)と戻り過程における50%伸長時の応力(M2)を測定し、下記式(2)から弾性回復率を求めた。
弾性回復率(%)=M2/M1×100 ・・・(2)
【0074】
実施例1で得られたカバーフィルムのタック性、触感、光学特性、破断特性、耐擦傷性、機械物性、伸縮特性、及び環境特性(経時劣化)を下記の条件に沿って評価した。結果を表2に示す。
【0075】
<カバーフィルムのタック性及び触感>
(タック性)
ASTM D2979に基づいて試験を実施し、表面Tackが0.01N以下を合格とした。
(触感)
静動摩擦測定機(Trinity-Lab社製、製品名「TL201Tt」)にて、触覚接触子を、荷重:20gf、速度:1mm/sでカバーフィルムの表面層側の15mm×10mmの範囲を滑走させて、動摩擦係数および静止摩擦係数を測定し、以下の評価基準に沿って評価した。
(評価基準)
合格:動摩擦係数及び静摩擦係数が白板ガラス(コーニング社製、製品名「EagleXG(登録商標)」)の測定値以下であった。
不合格:動摩擦係数及び静摩擦係数が白板ガラス(コーニング社製、製品名「EagleXG」)の測定値超であった。
【0076】
<光学特性:全光線透過率及びヘイズ値の測定>
得られたカバーフィルムの0%延伸時(未延伸)、50%延伸時、リリース時の全光線透過率およびヘイズ値を分校測色計(コニカミノルタ(株)製、製品名「CM3600A」)を用いて測定した。なお、50%延伸時とは、得られたカバーフィルムのサンプルを1.5倍に伸ばした状態を維持しながら測定した値である。またリリース時とは、50%延伸した後、カバーフィルムを解放した直後に測定した値である。
【0077】
<破断特性:ヒステリシス及びヒステリシスロス率の測定>
得られたカバーフィルムのヒステリシス及びヒステリシスロス率を、JIS K 6400-2に沿って測定した。
【0078】
<耐擦傷性:スチールウール試験>
スチールウール#0000を、圧力75gf/cm2、速度40mm/sでカバーフィルムの表面層側を往復させて、カバーフィルムの摩耗度合い(傷や走行跡の有無)を以下の評価基準に沿って評価した。なお、下記の往復回数は、カバーフィルムに傷や走行跡が発生しなかった往復回数を示す。
(評価基準)
S:往復回数が1,000回以上である。
A:往復回数が500回以上1,000回未満である。
B:往復回数が250回以上500回未満である。
C:往復回数が50回以上250回未満である。
D:往復回数が50回未満である。
【0079】
<機械特性:鉛筆硬度>
ガラス基板の上にカバーフィルムを固定し、その表面層に鉛筆の芯を荷重750gfで押し付けた。その状態で鉛筆を300mm/分の速さで動かし、カバーフィルムのひっかき硬度を鉛筆の芯の硬さで評価した。なお、カバーフィルムはガラス基板上に粘着剤無しで固定して行った。
【0080】
<伸縮特性:耐熱試験>
カバーフィルムに紙を重ねたのち、カバーフィルムの表面層に紙が付着するように丸めて、95℃で300時間保管した。その後、室温まで冷却し、カバーフィルムの表面層上への紙の付着の有無を目視で確認し、以下の評価基準で評価した。
(評価基準)
合格:カバーフィルムを元の形状に戻す際に、紙の剥がれが発生せず、かつカバーフィルムの表面層への紙の付着もなかった。
不合格:カバーフィルムを元の形状に戻す際に、紙が破れ、かつカバーフィルムの表面層に紙が付着していた。
【0081】
[比較例1~3]
表2に示す樹脂を用いてカバーフィルム作成した。なお、比較例1は表2に示す樹脂を用いた以外は、実施例1と同じ方法でカバーフィルムを作成した。比較例3はα剤とβ剤とを1:1で混合して離型フィルム上に塗布し、130℃で5分間硬化させて、表面層のみからなるカバーフィルム(PDMSフィルム)を作成した。比較例2は、比較例3のPDMSフィルム上を、コロナ放電処理したのち、PU-3を塗布し、80℃で1時間硬化させてカバーフィルムを作成した。各例のカバーフィルムについて、実施例1と同じ方法で、タック性、触感、光学特性、破断特性、耐擦傷性、機械物性、及び伸縮特性を下記の条件に沿って評価した。結果を表2に示す。
【0082】
[参考例1]
実施例1のカバーフィルムに関して、表面層及び基材層中の成分(C1)及び成分(C2)の含有量を、各層を構成する樹脂組成物に対して、0質量%(成分(C1)及び(C2)を含まない)、1.5質量%、3質量%、及び5質量%含むサンプルを作成し、以下の条件で環境試験を行った。その結果、0質量%のサンプルは数時間後にΔYI(黄変度)が10を超えてフィルムが黄変した。一方、成分(C1)及び(C2)を1.5~5質量%含むサンプルでは、ΔYIは1.2~2.4程度であり、フィルムの変色は起こらなかった。これらの結果より、成分(C1)及び(C2)(環境安定剤)を表面層及び基材層に一定量配合することで、カバーフィルムの経時劣化を抑制しやすくなることが確認された。
<環境試験>
カバーフィルムのサンプルを、温度65℃、湿度60%RH、メタルハライドランプ830W/m2の条件で240時間保管した。保管後のカバーフィルムのΔYI(黄変度)分校測色計(コニカミノルタ(株)製、製品名「CM3600A」)で測定した。
【0083】
【0084】
【0085】
表1及び表2中、「-」の記載は、その成分(又は例示の結合)が含まれていないことを意味する。
表2に示すように、本実施形態の構成を満たす実施例1のカバーフィルムは、耐擦傷性、機械物性、及び光学特性に優れ、かつ伸縮特性も良好であった。一方で、本実施形態の構成を満たさない比較例1~3のカバーフィルムでは、耐擦傷性、機械物性、光学特性、又は伸縮特性のいずれかが劣っていた。以上の結果より、本実施形態に係るカバーフィルムが、耐擦傷性、機械物性及び光学特性に優れ、かつ伸縮性にも優れることが確認された。また、本実施形態に係るカバーフィルムを備える画像表示装置は、装置を折り曲げたり、伸縮させたりしても、フィルムの割れや亀裂が生じない。
【要約】
【課題】耐擦傷性、機械物性及び光学特性に優れ、かつ伸縮性にも優れるカバーフィルム、及び前記カバーフィルムを含む画像表示装置の提供。
【解決手段】基材層と、前記基材層と化学的に結合した表面層とを有するカバーフィルムであって、前記表面層は、分子内にウレタン結合と、ウレア結合と、ポリオルガノシロキサン基とを有するポリウレタン樹脂(X1)を含み、前記樹脂(X1)は、化合物(a1-1)を含む活性水素成分(A1)と、無黄変型イソシアネート成分(B1)との反応物であり、前記基材層は、分子内にウレタン結合を有するポリウレタン樹脂(X2)を含み、前記樹脂(X2)は、化合物(a1-1)を含まない活性水素成分(A2)と、無黄変型イソシアネート成分(B2)との反応物であって、特定の架橋点濃度を有し、かつ特定の弾性回復率を有する、カバーフィルム。
【選択図】なし