(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20230101AFI20231030BHJP
【FI】
C02F1/58 B
(21)【出願番号】P 2022096903
(22)【出願日】2022-06-15
(62)【分割の表示】P 2018043440の分割
【原出願日】2018-03-09
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2017048719
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017245766
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】橋本 庸平
(72)【発明者】
【氏名】長田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】清川 達則
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-208559(JP,A)
【文献】特開2005-211766(JP,A)
【文献】特開2003-260490(JP,A)
【文献】特開2016-203029(JP,A)
【文献】特開2010-012446(JP,A)
【文献】特開2015-054264(JP,A)
【文献】特開2002-119961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58- 1/64
3/28- 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価の金属塩が添加された油脂含有排水を導入する処理槽を備え、
前記処理槽は、前記処理槽内の流速分布を変化させる流速分布可変手段を有し、
前記流速分布可変手段は、前記処理槽の中央部から前記油脂含有排水を供給し、前記処理槽内に上昇流を形成
し、
前記流速分布可変手段の下部に、油脂と前記金属塩の反応で形成された脂肪酸塩を保持するための保持領域が形成されること、を特徴とする、水処理装置。
【請求項2】
前記処理槽は、前記処理槽の
中央部から前記油脂含有排水を供給する供給管を備え
、前記供給管は、漏斗状の噴出口を備えることを特徴とする、請求項1に記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂含有排水を処理する水処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機物を含む排水を処理する方法として、種々の微生物を利用した生物処理が知られている。特に、嫌気性生物処理は、曝気動力が不要で、余剰汚泥がほとんど発生しないことなど、導入のメリットが高いことから広く用いられている。
一方、油脂含有排水の生物処理においては、油脂のような水難溶性物質は微生物で分解され難く、反応が進みにくい。また、反応の過程で生成する高級脂肪酸等の遊離脂肪酸は、微生物の代謝を阻害することが知られている。したがって、油脂含有排水の生物処理においては、排水中の遊離脂肪酸の割合を低減させることが必要となる。
【0003】
特許文献1には、油脂などの汚濁物質を含有する排水(油脂含有排水)の嫌気性処理において、高級脂肪酸濃度をモニターして、運転条件を制御する方法が記載されている。また、特許文献1には、運転条件の制御の具体的な手段として、高級脂肪酸濃度のモニター値に応じて原水投入量、汚泥返送量、汚泥添加量、栄養源添加量のいずれか1つ以上を変化させること及び/またはカルシウム含有物質でpHを調整することで、高級脂肪酸分解を促進させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、運転条件の制御により、油脂含有排水中の遊離脂肪酸の割合は低下するため、微生物の代謝阻害は軽減される可能性がある。しかし、微生物による油脂の分解は分解速度が遅く、十分な油脂分解が行われず、未処理の油脂が被処理水中に残留して排出されてしまうという問題がある。また、処理槽内で油脂分解に優れる菌(油脂分解菌)が増殖しても、被処理水と共に系外に排出されてしまうため、効率的な油脂分解が行われないという問題がある。
【0006】
本発明の課題は、油脂含有排水を処理する水処理装置において、油脂含有排水中の遊離脂肪酸の割合を低減させることが可能な水処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、油脂含有排水を処理する水処理装置において、油脂含有排水に二価の金属塩を添加すると、二価の金属塩と遊離脂肪酸が反応して不溶性の脂肪酸塩を形成し、油脂含有排水内の遊離脂肪酸の濃度が低減できることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の水処理装置である。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の水処理装置は、油脂含有排水を導入する処理部と、処理部における油脂含有排水に対して二価の金属塩を添加する金属塩添加部と、を備えるという特徴を有する。
【0009】
本発明の水処理装置によれば、処理部において油脂含有排水に対して二価の金属塩を添加することで、金属塩が油脂含有排水に含まれる油脂成分が加水分解して形成される遊離脂肪酸と反応し、不溶性の脂肪酸塩を形成する。そのため、脂肪酸塩が形成されない場合と比較して、油脂含有排水内の遊離脂肪酸の濃度が低い状態で保つことを可能とする。
【0010】
また、本発明の水処理装置の一実施態様としては、処理部の一部は油脂分解機能を有し、金属塩添加部は、処理部において油脂分解機能を有する部分よりも前段で二価の金属塩を添加するという特徴を有する。
この特徴によれば、処理部のうち油脂分解機能を有する部分よりも前段において二価の金属塩を添加する構成とすることで、金属塩を添加する部分よりも後段で行われる油脂分解においても遊離脂肪酸による阻害を低減することができる。
【0011】
また、本発明の水処理装置の一実施態様としては、処理部は、油脂と金属塩の反応で形成された脂肪酸塩を保持するための保持領域を有するという特徴を有する。
この特徴によれば、油脂含有排水中の油脂と二価の金属塩を反応させて形成した脂肪酸塩を、保持領域によって処理部内に保持することで、油脂含有排水中の遊離脂肪酸の割合が低減されるため、微生物の代謝阻害を防ぎ、水処理性能を向上することができる。
さらには、保持領域に溜まった脂肪酸塩は、処理水と共に排出されないため、油脂分解菌等によって分解するための十分な時間を確保することが可能となる。また、保持領域に溜まった脂肪酸塩は、処理槽外に排出し、他の処理設備で処理することもできる。
【0012】
また、本発明の水処理装置の一実施態様としては、保持領域は、処理部内に設けた仕切り板により区画される領域であるという特徴を有する。
この特徴によれば、簡易な構造によって脂肪酸塩を処理槽内に保持することが可能となる。
【0013】
また、本発明の水処理装置の一実施態様としては、保持領域は、油脂含有排水中に形成された脂肪酸塩を付着する担体を備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、油脂含有排水中の油脂と二価の金属塩を反応させて形成した脂肪酸塩を担体に付着させ、効率よく保持領域に保持することができる。そして、担体に付着した脂肪酸塩は、処理水と共に排出されないため、油脂分解菌等によって分解するための十分な時間を確保することができる。
【0014】
また、本発明の水処理装置の一実施態様としては、油脂含有排水中に形成された脂肪酸塩を担体に誘導する誘導手段を備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、油脂含有排水中に形成された脂肪酸塩が担体方向に誘導されるため、脂肪酸塩と担体との接触を促進することができる。
【0015】
また、本発明の水処理装置の一実施態様としては、誘導手段は、水位を変動するための水位変動手段、又は、担体に向けて水流を形成する水流形成手段を備えるという特徴を有する。
誘導手段として、水位変動手段を備えることにより、油脂含有排水を上下方向に移動することができるため、油脂含有排水中又は水面に浮遊する脂肪酸塩を担体表面又は担体中に通過させ、脂肪酸塩と担体との接触を促進することができる。また、誘導手段として、担体に向けて水流を形成する水流形成手段を備えることにより、油脂含有排水中又は水面に浮遊する脂肪酸塩を担体方向に移動することができるため、脂肪酸塩と担体との接触を促進することができる。
【0016】
また、上記課題を解決するための本発明の水処理装置としては、油脂含有排水を処理する処理部を備え、処理部は、二価の金属塩が添加された油脂含有排水を導入する処理槽を有し、処理槽内の流速分布を変化させる流速分布可変手段を有するという特徴を有する。
この特徴によれば、処理槽内において流速分布に差異が生じるため、流速の遅い領域に、油脂含有排水中の油脂と二価の金属塩を反応させて形成した脂肪酸塩を留めることができる。これにより、油脂含有排水中の遊離脂肪酸の割合が低減されるため、微生物の代謝阻害を防ぎ、水処理性能を向上することができる。
さらには、流速の遅い領域に溜まった脂肪酸塩は、処理水と共に排出されないため、油脂分解菌等によって分解するための十分な時間を確保することが可能となる。また、流速の遅い領域に溜まった脂肪酸塩は、処理槽外に排出し、他の処理設備で処理することもできる。
【0017】
また、本発明の水処理装置の一実施態様としては、流速分布可変手段は、油脂含有排水中に形成された脂肪酸塩を処理槽内の底部に保持又は滞留させるように設けられるという特徴を有する。
この特徴によれば、脂肪酸塩を処理槽底部に留めることで、処理水と共に脂肪酸塩が処理槽外へ排出されることを防止することができ、より一層水処理性能を向上させることが可能となる。また、脂肪酸塩を処理槽の底部から引き抜くことが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、油脂含有排水を処理する水処理装置において、油脂含有排水中の遊離脂肪酸の割合を低減させることが可能な水処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施態様に係る水処理装置の概略説明図である。
【
図2】本発明の第2の実施態様に係る水処理装置の概略説明図である。
【
図3】本発明の第3の実施態様に係る水処理装置の概略説明図である。
【
図4】本発明の第3の実施態様に係る水処理装置の処理部の他の態様を示す概略説明図である。
【
図5】本発明の第4の実施態様に係る水処理装置の概略説明図である。
【
図6】本発明の第5の実施態様に係る水処理装置の概略説明図である。
【
図7】本発明の第5の実施態様に係る水処理装置の処理部の他の態様を示す概略説明図である。
【
図8】本発明の第6の実施態様に係る水処理装置の概略説明図である。(A)水処理装置の全体説明図である。(B)水処理装置の処理部の拡大説明図である(
図7(A)中のI-I矢視図)
【
図9】本発明の第6の実施態様に係る水処理装置の処理部の一部についての他の態様を示す概略説明図である。
【
図10】本発明の第6の実施態様に係る水処理装置の処理部の他の態様を示す概略説明図である。
【
図11】本発明の脂肪酸塩を保持するための保持領域の種々の態様を示す概略説明図である。
【
図12】本発明の誘導手段における脂肪酸塩を誘導する動作を説明する概略説明図である。
【
図13】本発明の第7の実施態様に係る水処理装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の水処理装置は、油脂含有排水の生物処理に利用されるものである。
【0021】
処理対象である油脂含有排水とは、水中に油脂分を含有する有機性の排水を示し、主に惣菜加工工場排水、菓子類製造工場排水、食用油製造工場排水等が挙げられる。また、油分を含有する有機性の排水であればよく、下水排水、牛や豚の畜舎排水等で油分を含有する汚泥も含まれる。
【0022】
排水中の油分は、水に難溶性の物質であり、具体的には、動物性油脂、植物性油脂、脂肪酸、炭化水素、芳香油、高級アルコール、界面活性剤等が挙げられる。これらの油分は、水中にSS(Suspended Solid)として固体状態で存在してもよく、または水中に乳化分散した液体状態や水と分離した状態であってもよい。
【0023】
また、油脂含有排水の生物処理としては、例えば、嫌気性生物処理としては、酸生成菌及びメタン生成菌によるメタン発酵や、脱窒菌により硝酸・亜硝酸の還元を行う脱窒処理や、硫酸還元菌により硫酸の還元を行う硫酸還元処理等が挙げられる。また、好気性生物処理としては、活性汚泥を用いる活性汚泥処理などが挙げられる。処理コストや生成ガスの有用性の観点から、生物処理としてはメタンを生成するメタン発酵が好ましい。
【0024】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る水処理装置の実施態様を詳細に説明する。
なお、実施態様に記載する水処理装置については、本発明に係る水処理装置を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0025】
[第1の実施態様]
図1は、本発明の第1の実施態様の水処理装置1aの概略説明図である。
本実施態様に係る水処理装置1aは、
図1に示すように、油脂含有排水WOを導入する処理部2aと、処理部2aに対して二価の金属塩Msを添加する金属塩添加部3とを備えるものである。また、処理部2aに対して油脂含有排水WOを導入するための配管であるラインL1と、処理部2aから排出される被処理水W1を系外に排出するための配管であるラインL2を有している。なお、
図1の矢印は水の流れを示すものである。
【0026】
処理部2aは、油脂含有排水WO中の油脂を処理するためのものであり、油脂含有排水WOを貯留し、金属塩Msを添加する貯留槽21からなる。
【0027】
貯留槽21は、ラインL1を介して導入される油脂含有排水WOを貯留する槽である。本実施態様における貯留槽21は、後述する金属塩添加部3とラインL3を介して接続されている。これにより、貯留槽21では、油脂含有排水WO中の油脂成分(遊離脂肪酸)と、金属塩添加部3により添加される金属塩Msの混合が行われ、反応生成物として脂肪酸塩FAsが形成される。脂肪酸塩FAsは不溶性であるため、この反応により油脂含有排水WO中の遊離脂肪酸の割合を減少させることができる。また、この反応により形成された不溶性の脂肪酸塩FAsは、貯留槽21内の被処理水W1と混合した状態でラインL2から系外に排出されるか、貯留槽21内に滞留する。なお、貯留槽21内に対して滞留した脂肪酸塩FAsに対して、油脂分解菌により油脂分解を行うものとしてもよい。
【0028】
また、貯留槽21は、内部に収容する酸生成菌(主として嫌気性の酸生成菌)により、糖、蛋白質及び油分などの固体や高分子有機物を分解して、単糖類、アミノ酸、低級脂肪酸及び酢酸を生成する酸生成槽を兼ねるものであってもよい。なお、貯留槽21の機能を酸生成槽の機能と兼ねる場合には、内部の水温調整手段、pH調整剤の投入手段、菌が必要とする栄養源である窒素、リン、コバルト及びニッケル等の金属類を添加する手段を備えたものとしてもよい。
また、貯留槽21の機能に応じて、特定の機能を有する菌が槽内に投入されてもよい。
【0029】
金属塩添加部3は、処理部2aにおける油脂含有排水WOに対して二価の金属塩Msを添加するためのものである。油脂含有排水WOへ二価の金属塩Msを添加する手段については、特に限定されない。例えば、
図1では、金属塩添加部3は、ラインL3を介して貯留槽21に二価の金属塩Msを添加する例を示しているが、貯留槽21の前段あるいは後段のライン上で金属塩Msを添加するものとしてもよい。
なお、貯留槽21もしくは貯留槽21の前段で金属塩Msを添加する場合、貯留槽21内で油脂含有排水WOと金属塩Msの混合のために撹拌機構等を設けるものとしてもよい(不図示)。
【0030】
本発明における二価の金属塩は、カルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。特に、不溶性の金属塩を用いることが好ましい。
本発明における不溶性の金属塩とは、25℃における溶解度が20mmol/L以下の金属塩である。このような二価の金属塩Msとしては、例えば、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に、汎用性を鑑みて、カルシウム塩を用いることが好ましい。
【0031】
金属塩添加部3から貯留槽21内に添加された金属塩Msは、油脂含有排水WO中の遊離脂肪酸と反応して、不溶性の脂肪酸塩FAsを形成する。不溶性の脂肪酸塩FAsは、油脂含有排水中の油脂成分であるトリグリセリドと吸着する。さらには、油脂含有排水WOに対する加水分解により、油脂成分から遊離脂肪酸が形成されると、周囲の金属塩Msと反応して、不溶性の脂肪酸塩FAsを形成する。したがって、油脂成分から分解された遊離脂肪酸は、不溶性の脂肪酸塩FAsとして、槽内の被処理水と混合されてラインL2から系外に排出されるか、槽内に沈殿又は滞留することとなる。この結果、油脂含有排水WOに含まれる遊離脂肪酸の割合を低減させることができ、微生物の代謝阻害を防ぐことが可能となる。
【0032】
また、金属塩添加部3から貯留槽21内に添加された金属塩Msが不溶性である場合には、油脂含有排水WO中の油脂成分であるトリグリセリドと親和性が高いため、両者は吸着する。そして、油脂含有排水WOに対する加水分解により、油脂成分から遊離脂肪酸が形成されると、周囲の金属塩Msと反応して、不溶性の脂肪酸塩FAsを形成する。このように、不溶性の金属塩Msを添加することにより、遊離脂肪酸と金属塩Msの反応を促進することができる。
【0033】
また、貯留槽21において油脂分解が行われる場合、金属塩添加部3は貯留槽21よりも前段において二価の金属塩Msを添加することで、貯留槽21内における油脂分解を促進することができる。ただし、貯留槽21もしくは貯留槽21の後段において、二価の金属塩Msを添加した場合でも、金属塩Msを添加した部分よりも後段では、油脂分解を促進することが可能である。
【0034】
金属塩添加部3による金属塩Msの添加量は、貯留槽21に対して導入される油脂含有排水WO中の油脂成分量に基づいて設定されることが好ましい。これにより、金属塩Msの使用量を適切に管理することができる。
例えば、油脂含有排水WOのサンプリングを行い、油脂含有排水WO中の油脂成分の濃度及び遊離脂肪酸の組成を測定する。この測定結果から、油脂含有排水WOに含まれる遊離脂肪酸のモル数を算出する。金属塩添加部3は、金属塩Msを構成する金属イオンのモル数が遊離脂肪酸のモル数と同じとなるように金属塩Msを添加することで、脂肪酸塩FAsの形成が過不足なく進行する。ただし、金属塩Msを構成する金属イオンのモル数が遊離脂肪酸のモル数よりも少なくても、金属塩Msと遊離脂肪酸とによる脂肪酸塩FAsの形成は進む。また、金属塩Msを構成する金属イオンのモル数が遊離脂肪酸のモル数よりも多く過剰に投入されたとしても、金属塩Msと遊離脂肪酸とによる脂肪酸塩FAsの形成は進む。
【0035】
なお、金属塩添加部3による金属塩Msの添加量を決める方法としては、上述したように、貯留槽21に対して導入される油脂含有排水WOのサンプリングを行い、油脂含有排水WO中の油脂成分の濃度及び遊離脂肪酸の組成を測定する方法が挙げられる。この他、油脂含有排水WOにおける遊離脂肪酸のモル数が事前に把握できる場合には、予め決められた量の金属塩を添加する構成としてもよい。さらに、油脂含有排水WO中の油脂成分の濃度及び遊離脂肪酸の組成の測定を自動的に行うことができる場合、当該測定及び測定結果に基づいた金属塩Msの添加量の決定、及び、金属塩Msの添加を自動的に実施する装置構成としてもよい。
【0036】
以上のように、処理部2aにおいては、金属塩添加部3により、油脂含有排水WOに対して二価の金属塩Msが添加される。このとき、油脂含有排水WO中の油脂成分が加水分解して形成される遊離脂肪酸と金属塩Msが反応して、不溶性の脂肪酸塩FAsを形成する。このようにして、不溶性の脂肪酸塩FAsが形成されることで、脂肪酸塩FAsが形成されない場合と比較して、被処理水W1内の遊離脂肪酸の濃度を低い状態に保つことができる。そのため、水処理装置1aから排出される被処理水W1の生物処理を行う際の処理効率を上げることができる。
【0037】
油脂成分(トリグリセリド)の加水分解によって生成される脂肪酸、特に高級脂肪酸は、生物処理において有機物を分解する微生物(菌類・細菌類)の代謝を阻害することが知られている。脂肪酸が代謝を阻害する微生物には、油脂成分を分解する油脂分解菌も含まれる。このため、高級脂肪酸が多く含まれる状況で生物処理を行うと、微生物の活性が低下し、処理効率が不十分となる可能性がある。
【0038】
これに対して、本実施形態に係る水処理装置1aでは、二価の金属塩Msを油脂含有排水WOに対して添加し、不溶性の脂肪酸塩FAsが生成される状況としている。この結果、貯留槽21から排出される被処理水W1中の遊離脂肪酸の割合を低減することが可能となる。また、油脂含有排水WO中の遊離脂肪酸の割合が低減されると、後段で生物処理を行う場合に、遊離脂肪酸による微生物の代謝阻害を抑制することができる。したがって、後段での生物処理の効率を上昇させることができる。
【0039】
本実施態様における水処理装置1aにより、油脂含有排水WO中の遊離脂肪酸や油脂を低減することが可能となる。また、油脂含有排水WO中の遊離脂肪酸や油脂を低減した状態の被処理水W1を生物処理に供することができるため、生物処理における微生物の代謝阻害を抑制し、生物処理の効率を向上させることが可能となる。
【0040】
[第2の実施態様]
図2は、本発明の第2の実施態様の水処理装置1bの概略説明図である。
本実施態様に係る水処理装置1bは、
図2に示すように、貯留槽21によって油脂含有排水WO中の遊離脂肪酸や油脂を低減した状態の被処理水W1を生物処理するための生物処理槽5を備えるものである。なお、生物処理槽5は、ラインL2を介して貯留槽21から被処理水W1が供給される。また、生物処理槽5は、処理水Wを系外に排出するための配管であるラインL4を有している。
【0041】
例えば、生物処理槽5としては、メタン発酵槽等の嫌気性処理槽を用いることができる。メタン発酵槽は、酸生成槽(貯留槽21に相当)で処理された排水に含まれる低級脂肪酸からメタンを生成するメタン発酵工程を行うための装置である。メタン発酵工程は、浮遊法、固定床法、流動床法、UASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)法、EGSB(Expanded Granular Sludge Bed)法等により保持されたメタン生成菌により溶存酸素のない嫌気性雰囲気で行うものである。
【0042】
ここで、生物処理槽5としてメタン発酵により有機物を分解処理する場合について説明する。
図2に示すように、生物処理槽5には、嫌気性処理に適した嫌気性菌が存在するグラニュール汚泥層51が形成される。そして、貯留槽21から被処理水W1がラインL2を介して生物処理槽5内に導入されると、グラニュール汚泥層51に含まれる嫌気性菌によってメタン発酵が行われる。その結果、生物処理槽5内では、メタン及び二酸化炭素を主成分とするガスが発生するとともに、処理水Wを生成する。なお、生物処理槽5の内部には気固液分離手段であるセトラー52が設けられていてもよい。生物処理槽5内で発生したガスは槽外に放出又は回収される(不図示)。また、生物処理槽5で生成された処理水WはラインL4を介して系外に排出される。なお、生物処理槽5は、EGSB、UASB、担体や膜分離を用いた嫌気性処理等、形式を問わない。
【0043】
生物処理槽5において油脂成分の加水分解によって生成される遊離脂肪酸の占める割合が増加すると、メタン発酵を行う嫌気性菌や油脂分解を行う油脂分解菌の代謝が阻害される。これに対して、本実施態様における水処理装置1bは、貯留槽21の後段に生物処理槽5を設けており、貯留槽21においては二価の金属塩Msを油脂含有排水WOに対して添加し、不溶性の脂肪酸塩FAsが生成される状況としている。この結果、貯留槽21から排出される被処理水W1に含まれる遊離脂肪酸の割合を低減することが可能となっている。また、貯留槽21から排出される被処理水W1に含まれる遊離脂肪酸の割合が低減されると、後段に設けられた生物処理槽5で生物処理を行う場合に、遊離脂肪酸による微生物の代謝阻害を抑制することができる。したがって、生物処理槽5における生物処理の効率を上昇させることができる。
【0044】
また、後段に生物処理槽5が設けられている場合において、貯留槽21が、酸生成菌により有機物を分解する酸生成槽としての機能を有する場合がある。この場合、酸生成菌により、油脂成分の一部は分解されるため、貯留槽21が油脂分解機能を有することになる。また、貯留槽21が酸生成槽として機能する場合、貯留槽21のラインL2から排出される被処理水W1にも酸生成菌が含まれるため、ラインL2も油脂分解機能を有することになる。また、生物処理槽5の前段で油脂成分の分解を進めることを目的として、貯留槽21に対して油脂分解菌を投入することで、貯留槽21において油脂成分の分解を行う場合もある。この場合も、貯留槽21が油脂分解機能を有することになる。このように、本実施態様における水処理装置1bでは、処理部2aの一部が油脂分解機能を有する場合がある。なお、本実施態様における油脂分解機能とは、生物学的処理により油脂成分を分解する機能をいう。
【0045】
上記のような場合、金属塩添加部3は、処理部2aのうち、油脂分解機能を有する部分よりも前段、すなわち、貯留槽21よりも前段において、二価の金属塩Msを油脂含有排水WOに対して添加する構成とすることができる。具体的には、ラインL1上で油脂含有排水WOに対して金属塩Msを添加する構成とすることができる。処理部2aの一部に油脂分解機能を有する部分が含まれる場合、油脂分解機能を有する部分において遊離脂肪酸が増加すると、遊離脂肪酸による微生物の代謝阻害が発生する。したがって、油脂分解機能を有する部分よりも前段において、油脂含有排水WOに対して二価の金属塩Msを添加する構成とすることで、処理部2a内の油脂分解機能を有する部分においても油脂成分の分解を促進することができる。
また、貯留槽21において、もしくは、貯留槽21よりも後段において、二価の金属塩Msを油脂含有排水WOに対して添加する構成とした場合でも、金属塩Msを添加した部分及びその後段では、油脂成分の分解を促進することができる。貯留槽21よりも後段に二価の金属塩Msを添加する構成とは、例えば、ラインL2や生物処理槽5に対して、二価の金属塩Msを添加する構成である。なお、貯留槽21よりも後段に二価の金属塩Msを添加する構成の場合、油脂含有排水WOと二価の金属塩Msとを混合するための貯留槽21を設けなくてもよい。
【0046】
なお、貯留槽21が油脂分解機能を有していない場合には、生物処理槽5よりも前段で二価の金属塩Msを油脂含有排水WOに対して添加する構成とすることで、生物処理槽5に導入される被処理水W1に含まれる遊離脂肪酸の割合を低減することができる。また、生物処理槽5に導入される被処理水W1に含まれる遊離脂肪酸の割合が低減されることで、生物処理槽5における生物処理において、遊離脂肪酸による微生物の代謝阻害を抑制することができる。
【0047】
本実施態様における水処理装置1bにより、微生物の代謝を阻害する要因である遊離脂肪酸や油脂が低減した状態の被処理水W1を生物処理することができるため、生物処理槽5における嫌気性処理の効率を向上させることが可能となる。
【0048】
なお、本実施態様では、水処理装置1bの後段に設けられた生物処理槽5が嫌気性処理槽である場合について説明したが、生物処理槽5は活性汚泥等による好気性処理を行うものであってもよい。本発明の水処理装置1bの後段で行われる生物処理が、嫌気性処理及び好気性処理のいずれの場合であっても、前段で二価の金属塩Msを添加することで、生物処理の効率を高めることが可能となる。
【0049】
なお、本実施形態のように生物処理槽5で嫌気性処理を行う場合、曝気動力が不要なこと、余剰汚泥がほとんど発生しないこと等、導入メリットが種々ある一方、嫌気性処理では油脂成分の分解に時間がかかることが知られている。したがって、上記のように、二価の金属塩を添加する構成とすることによる、遊離脂肪酸による嫌気性菌の代謝阻害の抑制効果が高められる。
【0050】
また、貯留槽21の前段もしくは貯留槽21と生物処理槽5との間に、貯留槽21とは別に前段処理槽等が設けられていてもよい。
また、貯留槽21が酸生成槽又は油脂分解槽として機能する場合には、生物処理槽5から貯留槽21に対して汚泥を返送するライン等が設けられていてもよい。
【0051】
[第3の実施態様]
図3は、本発明の第3の実施態様の水処理装置1cの概略説明図である。
本実施態様に係る水処理装置1cは、
図3に示すように、油脂含有排水WOを導入する処理部2bとして、第1の実施態様の水処理装置1aにおける貯留槽21に加えて、油脂含有排水WO中の油脂成分と金属塩Msの反応生成物を保持する保持領域4を有する処理槽22を備えるものである。
なお、本実施態様における水処理装置1cの構成のうち、第1の実施態様の水処理装置1aの構成と同じものについては、説明を省略する。
【0052】
処理槽22は、ラインL2を介して貯留槽21から導入された被処理水W1の油脂分解処理を行うものであり、内部に保持領域4を備えている。保持領域4の詳細については後述するが、これにより、被処理水W1中の脂肪酸塩FAsを保持領域4に保持して、微生物による油脂分解に係る十分な時間を確保することができる。なお、被処理水W1は、ラインL2を介して処理槽22の下部から上昇流となるように供給され、油脂分解後の被処理水W2がラインL5を介して処理槽22の上方から排出される。
【0053】
また、処理槽22内は、内部に収容するメタン生成菌により、貯留槽21の酸生成槽で生成された単糖類、アミノ酸、低級脂肪酸及び酢酸からメタンを生成するメタン発酵槽を兼ねるものであってもよい。処理槽22の上部には、貯留槽21に処理水の一部を循環するためのラインL6が連結されており、処理槽22と貯留槽21に循環流を形成している。この循環流により、処理槽22内に良好な撹拌流が形成され、メタン発酵が良好に進行する。なお、本発明の処理槽22をメタン発酵槽として利用した場合でも、保持領域4には脂肪酸塩FAsが高濃度で存在するため、油脂分解菌が生育しやすい環境となり、油脂が分解される。
【0054】
なお、本実施態様における水処理装置1cにおいては、金属塩添加部3として、二価の金属塩Msを貯留槽21に添加する構成であるが、二価の金属塩Msを添加する位置は特に制限されず、ラインL1、ラインL2、処理槽22、ラインL6のいずれの位置に添加してもよい。
【0055】
保持領域4は、油脂含有排水WOの油脂成分と金属塩Msの反応により生成した脂肪酸塩FAsを、処理部2bに保持するためのものである。本実施態様における保持領域4は、処理部2bにおける処理槽22内に設けられた仕切り板41により区画された領域からなる。
保持領域4の具体的な一例としては、
図3に示すように、複数枚の板からなる仕切り板41を、処理槽22の壁面から槽上方に向かって斜めに配設することで区画された領域とすることが挙げられる。これにより、処理槽22の壁面と仕切り板41の間に形成された凹状の空間である保持領域4では周囲と比較して被処理水W1の流れが遅くなるため、保持領域4には不溶性の脂肪酸塩FAsが堆積する。ここで、被処理水W1中に存在する脂肪酸を基質とする油脂分解菌が、堆積した脂肪酸塩FAsに接触、付着して、脂肪酸塩FAsの表面や近傍で増殖することで、油脂分解菌及び脂肪酸塩FAsが流出せず処理槽22内に維持された状態で油脂分解が進行する。
【0056】
本実施態様における保持領域4は、脂肪酸塩FAsを処理槽22内に保持するためのものであればよく、
図3のように処理槽22の壁面に複数の仕切り板41を設けるものに限定されない。
図4は、本実施態様における水処理装置における処理部の他の態様を示す概略説明図である。例えば、
図4(A)に示すように、保持領域4は、処理槽22の中心部に凹状の空間を形成するように仕切り板41を設けたものとしてもよい。また、
図4(B)に示すように、固液分離手段42を処理槽22の上部に設け、固液分離手段42の近傍に配設した仕切り板41を保持領域4とし、固液分離手段42で分離された固体分としての脂肪酸塩FAsを保持領域4に回収するものとしてもよい。
【0057】
本実施態様における水処理装置1cにより、油脂含有排水中の油脂と二価の金属塩を反応させて形成した脂肪酸塩を、保持領域4によって油脂分解機能を有する処理槽22内に保持することで、油脂分解の時間を十分確保することが可能となる。
【0058】
なお、保持領域4に保持された脂肪酸塩FAsは、保持領域4において油脂分解菌等により生物処理を行ってもよいし、処理槽22から排出して、別の処理を行ってもよい。別の処理としては、例えば、別の処理槽における生物処理や、焼却処理等が挙げられる。
【0059】
[第4の実施態様]
図5は、本発明の第4の実施態様に係る水処理装置1dの概略説明図である。第4の実施態様に係る水処理装置1dは、処理槽22で油脂が分離された被処理水W2を生物処理するための生物処理槽5を具備するものである。
生物処理槽5における生物処理は、特に制限されないが、例えば、メタン発酵槽等による嫌気性処理や、活性汚泥等による好気性処理が挙げられる。また、第2の実施態様に係る水処理装置1bに示した生物処理槽5を用いるものとしてもよい。
【0060】
この実施態様によれば、処理槽22は、油脂の分解に適した環境下とすることができる。例えば、処理槽22に対して油脂分解能力に優れた油脂分解菌を外部から添加するものとしてもよい。
【0061】
本実施態様における水処理装置1dにより、微生物の代謝を阻害する要因である遊離脂肪酸や油脂が低減した状態の被処理水W2を生物処理することができるため、生物処理槽5における処理効率を向上させることが可能となる。
【0062】
[第5の実施態様]
図6は、本発明の第5の実施態様の水処理装置1eの概略説明図である。
本実施態様に係る水処理装置1eは、
図6に示すように、油脂含有排水WOを処理する処理部2cとして、二価の金属塩Msが添加された油脂含有排水WO′を導入する処理槽23を備え、処理槽23内の流速分布を変化させる流速分布可変手段6を設けるものである。
なお、本実施態様における水処理装置1eの構成のうち、第1~4の実施態様の水処理装置1a~1dの構成と同じものについては、説明を省略する。
【0063】
処理槽23は、ラインL7を介して二価の金属塩Msが添加された油脂含有排水WO′を導入する槽である。なお、油脂含有排水WOへ二価の金属塩Msを添加する手段については、特に限定されない。例えば、第1の実施態様の水処理装置1aで示した貯留槽21及び金属塩添加部3の構成を用いるものとしてもよい。また、油脂含有排水WOを導入するラインと金属塩Msを添加するためのラインを直接処理槽23に設けるものとしてもよい。
【0064】
処理槽23内の流速分布可変手段6としては、
図6に示すように、処理槽23の底部に、ラインL7と連結した放水量の異なる管61、62を複数設置し、この管61、62を介して処理槽23内に油脂含有排水WO′を導入することで、処理槽23内の流速分布を変化させるものが例示される。特に、処理槽23の中心に近いほうにおいて流速が速く、処理槽23の壁面に近いほうにおいて流速が遅くなるようにすることで、油脂含有排水WO′中の脂肪酸塩FAsが処理槽23の底部に滞留しやすくなり、微生物による油脂分解において十分な時間を確保することが可能となる。
【0065】
本実施態様における流速分布可変手段6は、脂肪酸塩FAsを処理槽23内に保持するためのものであればよく、
図6のように放水量の異なる管61、62を設けるものに限定されない。
図7は、本実施態様における水処理装置における処理槽23の他の態様を示す概略説明図である。例えば、
図7に示すように、流速分布可変手段6は、処理槽23の中央部から油脂含有排水WO′を供給するようにラインL7と連結して設けた供給管63と、供給管63の先端に設けた漏斗状の噴出口64からなり、これにより処理槽23内で上昇流を形成させる。このとき、水面付近まで上昇した油脂含有排水WO′は、処理槽23の壁面に沿って下降流を形成し、それに伴って脂肪酸塩FAsも処理槽23の底部に滞留するため、油脂分解に十分な時間を確保することができる。
【0066】
また、処理槽23で処理された被処理水W3は、ラインL8を介して生物処理槽5に導入し、さらに処理を行うものとしてもよい。
【0067】
本実施態様における水処理装置1eにより、油脂含有排水中の油脂と二価の金属塩を反応させて形成した脂肪酸塩を、流速分布可変手段6によって油脂分解機能を有する処理槽23内に保持することで、油脂分解の時間を十分確保することが可能となる。また、微生物の代謝を阻害する要因である遊離脂肪酸や油脂が低減した状態の被処理水W3を生物処理することができるため、生物処理槽5における処理効率を向上させることが可能となる。
【0068】
[第6の実施態様]
図8は、本発明の第6の実施態様の水処理装置1fの概略説明図である。なお、
図8(A)は、水処理装置1fの全体説明図である。
図8(B)は、水処理装置1fの処理部の拡大説明図である(
図8(A)中のI-I矢視図)。
本実施態様に係る水処理装置1fは、
図8(A)に示すように、油脂含有排水WOを導入する処理部2dとして、第1の実施態様の水処理装置1aにおける貯留槽21に加えて、油脂含有排水WO中の油脂成分と金属塩Msの反応生成物を保持する保持領域4を有する処理槽24を備えるものである。また、保持領域4には、油脂含有排水WO中の油脂成分と金属塩Msの反応生成物を付着する担体7を備えるものである。また、担体7は、処理槽24上部において水面と略平行に設けられる。
なお、本実施態様における水処理装置1fの構成のうち、第1~5の実施態様の水処理装置1a~1eの構成と同じものについては、説明を省略する。
【0069】
処理槽24は、ラインL2を介して貯留槽21から導入された被処理水W1の油脂分解処理を行うものであり、槽上部に担体7を備えている。担体7の詳細については後述するが、これにより、被処理水W1中の脂肪酸塩FAsを担体7に保持して、微生物による油脂分解に係る十分な時間を確保することができる。特に、処理中に発生するバイオガスなどが付着して、水面に浮上する脂肪酸塩FAsを処理槽24内に保持することが可能となる。
【0070】
図8(A)に示すように、被処理水W1は、ラインL2を介して処理槽24の下部から上昇流となるように供給され、油脂分解後の被処理水W4がラインL9を介して処理槽24の上方から排出されるが、処理槽24内の被処理水W1の流れ方向は、これに限定されない。例えば、上部から下降流となるように被処理水W1を供給してもよいし、撹拌機により混合流としてもよい。
【0071】
なお、本実施態様における水処理装置1fにおいては、金属塩添加部3として、二価の金属塩Msを貯留槽21に添加する構成であるが、二価の金属塩Msを添加する位置は特に制限されず、ラインL1、ラインL2、処理槽24のいずれの位置に添加してもよい。また、貯留槽21よりも後段のラインL2、処理槽24に二価の金属塩Msを添加する構成の場合、油脂含有排水WOと二価の金属塩Msとを混合するための貯留槽21を設けなくてもよい。
【0072】
また、
図8(B)に示すように、本実施態様における処理槽24は、水平断面が円である円筒体としているが、処理槽24の形状については特に限定されない。例えば、立方体、直方体、矩形状などであってもよい。
【0073】
担体7は、脂肪酸塩FAsを付着するものであれば、特に限定されない。例えば、活性炭や機能性担体が挙げられる。機能性担体は、油脂吸着性を有する材料からなる担体である。油脂吸着性を有する材料としては、例えば、ポリマー材料等が挙げられる。
担体の形状は特に限定されない。例えば、立方体、直方体、円柱状、円筒状、ひも状、平面状などが挙げられる。また、処理槽内に固定した固定化担体としてもよく、流動する流動化担体としてもよい。
【0074】
担体7の構造の具体的な一例としては、
図8(B)に示すように、担体7の中央部が円型に開口した開口部71を有することが挙げられる。これにより、被処理水W1及び水面に浮上した脂肪酸塩FAsが担体7の中央部に設けられた開口部71を通過し、脂肪酸塩FAsが担体7に付着する。また、ここで、被処理水W1中に存在する脂肪酸を基質とする油脂分解菌が、担体7に付着した脂肪酸塩FAsに接触、付着して、脂肪酸塩FAsの表面や近傍で増殖することで、油脂分解菌及び脂肪酸塩FAsが流出せず処理槽24内に維持された状態で油脂分解が進行する。
【0075】
処理槽24には、油脂含有排水WOと金属塩Msとの反応により生じた脂肪酸塩FAsを担体7に誘導する誘導手段として、撹拌機構8を備えている。撹拌機構8は、略垂直に設置された回転軸Rとこの回転軸Rに固定された脂肪酸塩FAsを誘導するための回転羽根8aにより構成され、回転軸は、担体7の中心に配置され、回転羽根8aは、担体7の中心の開口部71に配置されている。回転羽根8aを回転させると、遠心力により被処理水W1が放射状に流れるため、担体7付近に浮上した脂肪酸塩FAsは、被処理水W1の流れにより担体7に向かって誘導される。これにより、脂肪酸塩FAsと担体7の接触を促進することができる。
【0076】
なお、誘導手段としては、油脂含有排水WO中に形成された脂肪酸塩FAsを担体7に誘導するものであれば、特に制限されない。例えば、スカムスキマーのように水面に浮上した脂肪酸塩FAsを直接誘導する脂肪酸塩移送手段でもよいし、処理槽内に固定されたバッフル板のように担体に向けて水流を形成する水流形成手段でもよい。
また、処理槽24において、ラインL2を介して貯留槽21から導入される被処理水W1の水量やラインL9を介して処理槽24の上部から排出される被処理水W4の水量を制御し、処理槽24内の被処理水W1の水位の上昇及び下降を制御する水位変動手段でもよい。水位変動手段は、水位を変動させることにより、処理槽24内の被処理水W1の流れを垂直方向に発生させ、担体7に脂肪酸塩FAsを付着させるものである。
【0077】
本実施態様における担体7は、水面に浮上する脂肪酸塩FAsを処理槽24内に保持するためのものであればよく、
図8(B)のように担体7の開口部71が中央部に設けられた円型であるものに限定されない。
図9は、本実施態様における水処理装置における処理部の一部についての他の態様を示す概略説明図である。
図9(A)に示すように、担体7の開口部71の形状は、担体7の中央部以外にも開口している形状であってもよい。また、
図9(B)に示すように、担体7を処理槽24の中心部に設け、処理槽24の壁面側を開口部71とするものであってもよい。
さらに、担体7は、直方体や立方体などの多角構造体、あるいはそれらの組み合わせからなり、開口部71を有する構造であるものとしてもよい。特に、処理槽24の形状が立方体などのように水平断面が多角形である場合に好適に用いられる。
【0078】
また、
図10は、本実施態様における水処理装置における処理部の他の態様を示す概略説明図である。
図10に示すように、処理部2dにおける処理槽24として、側面及び/又は底面に孔を有し、被処理水W1が内外を通過可能な構造体9を、処理槽24上部において水面と平行に設け、構造体9内に担体7を配するものである。なお、構造体9の具体例としては、パンチングメタル、ネット、膜等が挙げられる。このとき、担体7は構造体9の孔から流出しないサイズのものを用いるものとする。
【0079】
構造体9の形状は、上述した担体7の形状と同様に、開口部が設けられた円型であってもよく、直方体や立方体などの多角構造体、あるいはそれらの組み合わせからなり、開口部を有する構造であるものとしてもよい。なお、構造体9は、孔を有し、被処理水W1が内外を通過可能な構造であるため、開口部を設けないものであってもよいが、構造体9の孔の目詰まりなどによる処理効率の低下を防止するために、構造体9にも開口部を設けることが好ましい。
【0080】
また、処理槽24で処理された被処理水W4は、ラインL9を介して生物処理槽5に導入し、さらに処理を行うものとしてもよい。
【0081】
本実施態様における水処理装置1fにより、油脂含有排水中の油脂と二価の金属塩を反応させて形成した脂肪酸塩を、担体7によって油脂分解機能を有する処理槽24内に保持することで、油脂分解の時間を十分確保することが可能となる。特に、排水処理中に発生するバイオガスなどが付着して、水面に浮上する脂肪酸塩FAsを処理槽24内に保持することが可能となる。また、微生物の代謝を阻害する要因である遊離脂肪酸や油脂が低減した状態の被処理水W4を生物処理することができるため、生物処理槽5における処理効率を向上させることが可能となる。
【0082】
また、本実施態様における水処理装置の処理槽内に設けられる脂肪酸塩を保持するための機構は、複数の種類のものを組み合わせるものであってもよい。例えば、処理槽内に担体を設けない保持領域と担体を設ける保持領域の両方を備える構成とすることで、処理槽内で沈降する脂肪酸塩及び浮上する脂肪酸塩の両方を処理槽内に留め、油脂分解の効率を高めることが可能となる。また、処理槽内に流速分布可変手段と担体を設ける構成とし、同様に、処理槽内で沈降する脂肪酸塩及び浮上する脂肪酸塩の両方を処理槽内に留めるものとしてもよい。このように、脂肪酸塩を保持するための機構を複数種類組み合わせることで、油脂分解の効率をより一層高めることが可能となる。
【0083】
図11に、処理槽内に設けられる脂肪酸塩を保持するための機構を例示する。
図11(A)に示す例は、担体7と構造体9からなる保持領域を、水面付近と処理槽24の中段に配置したものである。
図11(B)に示す例は、担体7と構造体9からなる保持領域を、処理槽24の中段のみに配置したものである。
図11(C)に示す例は、担体7と構造体9からなる保持領域を水面付近に配置し、仕切り板41により構成される保持領域を処理槽24の中段に配置したものである。
図11(D)に示す例は、仕切り板41により構成される保持領域を、処理槽24の上段と中段に配置したものである。なお、
図11(D)の上段の保持領域に示すように、仕切り板41により構成される保持領域は、仕切り板41を処理槽41の内壁から中心に向かって下がるように傾斜させてもよい。
複数の保持領域を垂直方向に2段以上設けることにより、処理槽内の全体において脂肪酸塩を保持することができるため、生物処理の効率を一層高めることができる。
【0084】
次に、誘導手段における脂肪酸塩を誘導する動作について説明する。
図12は、誘導手段として、撹拌機構8からなる水流形成手段、及び、水位変動手段を備えた処理槽24における脂肪酸塩を誘導する動作を説明する概略説明図である。
被処理水W1の水位を、担体7及び構造体9からなる保持領域より低位から上昇させると、水面付近に浮遊する脂肪酸塩FAsが、被処理水W1の流れと共に担体7の中心の開口部71に流れ込む(
図12(A))。次に、被処理水W1の水位を、保持領域より高位となるまで水位を上昇させると、脂肪酸塩FAsが保持領域より高位に移動する。そして、撹拌機構8を回転させることにより、脂肪酸塩FAsが放射状に広がり、担体7の上方に移動する(
図12(B))。この状態で被処理水W1の水位を保持領域より低位となるまで低下させると、脂肪酸塩FAsを保持領域の担体7に付着することができる(
図12(C))。
【0085】
[第7の実施態様]
図13は、本発明の第7の実施態様の水処理装置1gの概略説明図である。第7の実施態様の水処理装置1gは、撹拌機により混合流を形成する処理槽25を備えたものである。撹拌機により混合流を形成する処理槽としては、例えば、消化槽などに利用することができる。
【0086】
処理槽25は、第6の実施態様と同様に、被処理水が内外を通過可能な構造体9と、構造体9内に担体7を配するものである。また、
図13に示すように、処理槽25は、油脂含有排水WOと金属塩Msとの反応により生じた脂肪酸塩FAsを担体7に誘導する誘導手段として、撹拌機構81を備えている。撹拌機構81は、略垂直に設置された回転軸Rと、この回転軸Rに固定された脂肪酸塩FAsを誘導するための回転羽根8aと、処理槽25内の被処理水を撹拌するための回転羽根8bにより構成される。回転軸Rは、担体7の中心に配置され、回転羽根8aは、担体7の中心の開口部71に配置され、回転羽根8bは、処理槽25の略中段に配置されている。回転軸Rを回転させると、回転羽根8bの回転により被処理水が撹拌されると共に、回転羽根8aも回転する。これにより、担体7付近に浮上した脂肪酸塩FAsを担体7に向かって誘導することができる。なお、被処理水を撹拌するための回転羽根8bは、どのような形状や配置でもよく、例えば、垂直方向に複数段の回転羽根8bを設けてもよい。
【0087】
被処理水を導入するラインや処理水を排出するラインは、図示しないが、処理槽25のどの位置に設置してもよい。また、金属塩添加部3もどのように設置してもよく、例えば、処理槽25や被処理水を導入するラインなどに金属塩Msを添加するように設置すればよい。
【0088】
なお、上述した実施態様は水処理装置の一例を示すものである。本発明に係る水処理装置は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る水処理装置を変形してもよい。
【0089】
例えば、本実施態様の水処理装置の後段に設ける生物処理槽は、嫌気性生物処理に係る槽に限定されるものではない。例えば、活性汚泥を用いた好気性生物処理を行う槽を追加配置、あるいは置換配置するものとしてもよい。これにより、遊離脂肪酸の割合が減少するとともに、油脂を除去された被処理水中の処理対象物質に応じた適切な処理を行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の水処理装置は、油脂含有排水の生物処理に利用されるものである。特に、本発明の水処理装置は、油脂含有排水の嫌気性生物処理に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0091】
1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g 水処理装置、2a,2b,2c,2d 処理部、21 貯留槽、22,23,24,25 処理槽、3 金属塩添加部、4 保持領域、41 仕切り板、42 固液分離手段、5 生物処理槽、51 グラニュール汚泥層、52 セトラー、6 流速分布可変手段、61,62 管、63 供給管、64 噴出口、7 担体、71 開口部、8,81 撹拌機構、8a,8b 回転羽根、9 構造体、L1~L9 ライン、R 回転軸、FAs 脂肪酸塩、Ms 二価の金属塩、W 処理水、WO 油脂含有排水、WO′ 金属塩を添加された油脂含有排水、W1 脂肪酸塩を含む被処理水、W2,W3,W4 水処理装置で処理された被処理水