(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】エレベータの利用者検知システム
(51)【国際特許分類】
B66B 13/26 20060101AFI20231030BHJP
B66B 3/00 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
B66B13/26 F
B66B3/00 L
B66B3/00 M
(21)【出願番号】P 2022135805
(22)【出願日】2022-08-29
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎原 孝明
(72)【発明者】
【氏名】野本 学
(72)【発明者】
【氏名】白倉 邦彦
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-147227(JP,A)
【文献】特開2021-147223(JP,A)
【文献】特開2021-91556(JP,A)
【文献】特開2021-100880(JP,A)
【文献】特開2003-40541(JP,A)
【文献】特開2002-293484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 13/26
B66B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかご内に設置され、上記乗りかご内を含む所定の範囲を撮影するカメラを備えたエレベータの利用者検知システムにおいて、
上記カメラの撮影画像の各画素における輝度勾配方向を任意角度単位で検出する輝度勾配検出手段と、
上記輝度勾配検出手段によって検出された上記輝度勾配方向の変化を抽出するための差分特徴量を作成する差分特徴量作成手段と、
上記差分特徴量作成手段によって作成された上記差分特徴量に基づいて、上記撮影画像から上記輝度勾配方向が変化した部分を動体として検知する動体検知手段と、
上記動体検知手段によって検知された上記動体の情報に基づいて、上記動体を人物として検知する人物検知手段と
を具備したことを特徴とするエレベータの利用者検知システム。
【請求項2】
上記輝度勾配検出手段は、
少なくとも4値以上の輝度勾配方向を検出することを特徴とする請求項1記載のエレベータの利用者検知システム。
【請求項3】
上記輝度勾配検出手段は、
輝度勾配なしを含めて9値の輝度勾配方向を検出することを特徴とする請求項1記載のエレベータの利用者検知システム。
【請求項4】
上記動体検知手段は、
上記撮影画像として連続的に得られる各画像間で上記差分特徴量を比較することで、上記輝度勾配方向が変化した部分を動体として検知することを特徴とする請求項1記載のエレベータの利用者検知システム。
【請求項5】
上記動体検知手段は、
上記各画像の中で上記差分特徴量が一致する割合、あるいは、上記差分特徴量が類似する割合を上記輝度勾配方向の変化判定の指標とすることを特徴とする請求項4記載のエレベータの利用者検知システム。
【請求項6】
上記動体検知手段は、
上記各画像の中で上記輝度勾配方向が変化したと判定された画像の枚数あるいは割合に基づいて、上記輝度勾配方向が変化した部分を動体として検知することを特徴とする請求項4記載のエレベータの利用者検知システム。
【請求項7】
上記動体検知手段は、
上記撮影画像として連続的に得られる各画像間の輝度差分を求め、
上記各画像間における上記輝度勾配方向の差分と上記輝度差分とに基づいて、上記撮影画像から動体を検知することを特徴とする請求項1記載のエレベータの利用者検知システム。
【請求項8】
上記動体検知手段は、
上記撮影画像の中で上記輝度勾配方向の変化が多い領域に対しては上記輝度差分のパラメータを検知しやすく、上記撮影画像の中で上記輝度勾配方向の変化が少ない領域に対しては上記輝度差分のパラメータを検知しにくくすることを特徴とする請求項7記載のエレベータの利用者検知システム。
【請求項9】
上記動体検知手段は、
上記撮影画像の中で上記輝度勾配方向の変化が多い領域に対しては上記輝度差分を用い、上記撮影画像の中で上記輝度勾配方向の変化が少ない領域に対しては上記輝度勾配方向差分を用いることを特徴とする請求項7記載のエレベータの利用者検知システム。
【請求項10】
上記動体検知手段は、
上記撮影画像の中で上記輝度勾配方向が一様でない領域に対しては上記輝度差分を用い、上記撮影画像の中で上記輝度勾配方向が一様な領域に対しては上記輝度勾配方向差分を用いることを特徴とする請求項7記載のエレベータの利用者検知システム。
【請求項11】
上記人物検知手段は、
上記動体の情報として得られる動き画素の分布、動体サイズ、動体検知回数のいずれか少なくとも1つに基づいて、上記動体を人物として検知することを特徴とする請求項1記載のエレベータの利用者検知システム。
【請求項12】
上記人物が上記撮影画像上に予め設定された検知エリア内で検知された場合に、上記検知エリアに関連付けられた対応処理を実行する制御手段をさらに具備したことを特徴とする請求項1記載のエレベータの利用者検知システム。
【請求項13】
上記検知エリアは、上記乗りかご内のドア付近に設定され、
上記制御手段は、
上記対応処理として、上記乗りかごの戸開動作中に上記人物がドアに挟まれないように戸開閉動作を制御することを特徴とする請求項12記載のエレベータの利用者検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータの利用者検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの乗りかごのドアが戸開するときに、乗りかご内にいる利用者の指などが戸袋へ引き込まれることがある。また、乗場にいる利用者が乗りかごに乗り込むときに、戸閉途中のドアの先端にぶつかることがある。このようなドアの事故を防止するため、乗りかごに設置された1台のカメラを用いて、乗場の利用者や乗りかご内の利用者を検知して、戸開閉制御に反映させるシステムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-151356号公報
【文献】特許第3933453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したシステムでは、撮影画像のフレーム間の輝度差分によって、利用者の有無を検知していた。しかしながら、例えば乗りかご内や乗場の照明環境により、利用者の影が撮影画像に入り込んだ場合に、その影の動きに伴う輝度変化によって過検知が発生していた。なお、「過検知」とは、影を利用者として誤って検知するといった意味で「誤検知」と同じである。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、照明環境に起因した影の過検知を抑制して、乗りかご内や乗場にいる利用者を正しく検知することのできるエレベータの利用者検知システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係るエレベータの利用者検知システムは、乗りかご内に設置されたカメラの撮影画像の各画素における輝度勾配方向を任意角度単位で検出する輝度勾配検出手段と、上記輝度勾配検出手段によって検出された上記輝度勾配方向の変化を抽出するための差分特徴量を作成する差分特徴量作成手段と、上記差分特徴量作成手段によって作成された上記差分特徴量に基づいて、上記撮影画像から上記輝度勾配方向が変化した部分を動体として検知する動体検知手段と、上記動体検知手段によって検知された上記動体の情報に基づいて、上記動体を人物として検知する人物検知手段とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は一実施形態に係るエレベータの利用者検知システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は同実施形態における乗りかご内の出入口周辺部分の構成を示す図である。
【
図3】
図3は同実施形態における実空間での座標系を説明するための図である。
【
図4】
図4は同実施形態におけるカメラの撮影画像の一例を示す図である。
【
図5】
図5は同実施形態における乗車検知エリアの構成を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は同実施形態における引き込まれ検知エリアに生じる影の誤検知を説明するための図である。
【
図7】
図7は同実施形態におけるエッジフィルタ(水平成分)の一例を示す図である。
【
図8】
図8は同実施形態におけるエッジフィルタ(垂直成分)の一例を示す図である。
【
図9】
図9は同実施形態におけるエッジベクトルの一例を示す図である。
【
図10】
図10は同実施形態における原画像の一例を示す図である。
【
図11】
図11は同実施形態における輝度勾配方向画像の一例を示す図である。
【
図12】
図12は同実施形態における輝度勾配方向と輝度値との対応関係を示す図である。
【
図13】
図13は同実施形態における動き画像の一例を示す図である。
【
図14】
図14は上記利用者検知システムの処理動作を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は上記
図14のステップS103で実行される検知処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、以下の実施形態に記載した内容により発明が限定されるものではない。当業者が容易に想到し得る変形は、当然に開示の範囲に含まれる。説明をより明確にするため、図面において、各部分のサイズ、形状等を実際の実施態様に対して変更して模式的に表す場合もある。複数の図面において、対応する要素には同じ参照数字を付して、詳細な説明を省略する場合もある。
【0009】
図1は一実施形態に係るエレベータの利用者検知システムの構成を示す図である。なお、ここでは、1台の乗りかごを例にして説明するが、複数台の乗りかごでも同様の構成である。
【0010】
乗りかご11の出入口上部にカメラ12が設置されている。具体的には、カメラ12は、乗りかご11の出入口上部を覆う幕板11aの中にレンズ部分を直下方向、もしくは、乗場15側あるいは乗りかご11内部側に所定の角度だけ傾けて設置される。
【0011】
カメラ12は、例えば車載カメラ等の小型の監視用カメラであり、広角レンズもしくは魚眼レンズを有し、1秒間に数コマ(例えば30コマ/秒)の画像を連続的に撮影可能である。カメラ12は、例えば乗りかご11が各階の乗場15に到着したときに起動され、かごドア13付近と乗場15を含めて撮影する。なお、カメラ12は、乗りかご11の運転時に常時動作中であっても良い。
【0012】
このときの撮影範囲はL1+L2に調整されている(L1≫L2)。L1は乗場側の撮影範囲であり、かごドア13から乗場15に向けて所定の距離を有する。L2はかご側の撮影範囲であり、かごドア13からかご背面に向けて所定の距離を有する。なお、L1,L2は奥行き方向の範囲であり、幅方向(奥行き方向と直交する方向)の範囲については少なくとも乗りかご11の横幅より大きいものとする。
【0013】
各階の乗場15において、乗りかご11の到着口には乗場ドア14が開閉自在に設置されている。乗場ドア14は、乗りかご11の到着時にかごドア13に係合して開閉動作する。なお、動力源(ドアモータ)は乗りかご11側にあり、乗場ドア14はかごドア13に追従して開閉するだけである。以下の説明においては、かごドア13を戸開している時には乗場ドア14も戸開しており、かごドア13が戸閉している時には乗場ドア14も戸閉しているものとする。
【0014】
カメラ12によって連続的に撮影された各画像(映像)は、画像処理装置20によってリアルタイムに解析処理される。なお、
図1では、便宜的に画像処理装置20を乗りかご11から取り出して示しているが、実際には、画像処理装置20はカメラ12と共に幕板11aの中に収納されている。
【0015】
画像処理装置20は、記憶部21と検知部22とを備える。記憶部21は、例えばRAM等のメモリデバイスからなる。記憶部21は、カメラ12によって撮影された画像を逐次保存すると共に、検知部22の処理に必要なデータを一時的に保存しておくためのバッファエリアを有する。なお、記憶部21には、撮影画像に対する前処理として、歪み補正や拡大縮小、一部切り取り等の処理が施された画像が保存されるとしても良い。
【0016】
検知部22は、例えばマイクロプロセッサからなり、カメラ12の撮影画像を用いて、乗りかご11内または乗場15にいる利用者を検知する。この検知部22を機能的に分けると、検知エリア設定部23、検知処理部24で構成される。なお、これらは、ソフトウェアによって実現しても良いし、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアにより実現しても良いし、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現しても良い。また、画像処理装置20の一部あるいは全部の機能をエレベータ制御装置30に持たせることでも良い。
【0017】
検知エリア設定部23は、カメラ12から得られる撮影画像上に利用者を検知するための検知エリアを少なくとも1つ以上設定する。本実施形態では、乗場15の利用者を検知するための検知エリアE1と、乗りかご11内の利用者を検知するための検知エリアE2,E3が設定される。検知エリアE1は、乗車検知エリアとして用いられ、乗りかご11の出入口(かごドア13)から乗場15に向けて設定される。検知エリアE2は、引き込まれ検知エリアとして用いられ、乗りかご11内の入口柱41a,41bに設定される。検知エリアE3は、検知エリアE2と同様に引き込まれ検知エリアとして用いられ、乗りかご11内の出入口側の床面19に設定される(
図3参照)。
【0018】
検知処理部24は、輝度勾配検出部24a、差分特徴量作成部24b、動体検知部24c、人物検知部24dを有し、カメラ12から得られる撮影画像を解析処理して、乗りかご11内または乗場15に存在する利用者を検知する。なお、輝度勾配検出部24a、差分特徴量作成部24b、動体検知部24c、人物検知部24dについては、後に
図7乃至
図13を参照して詳しく説明する。検知処理部24によって検知された利用者が上記検知エリアE1~E3のいずれかに存在した場合に、所定の対応処理(戸開閉制御)が実行される。
【0019】
エレベータ制御装置30は、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータからなる。エレベータ制御装置30は、乗りかご11の運転制御などを行う。また、エレベータ制御装置30は、戸開閉制御部31と警告部32を備える。
【0020】
戸開閉制御部31は、乗りかご11が乗場15に到着したときのかごドア13の戸開閉を制御する。詳しくは、戸開閉制御部31は、乗りかご11が乗場15に到着したときにかごドア13を戸開し、所定時間経過後に戸閉する。ただし、かごドア13の戸閉動作中に、検知処理部22bによって検知エリアE1内で利用者が検知された場合には、戸開閉制御部31は、かごドア13の戸閉動作を禁止して、かごドア13を全開方向にリオープンして戸開状態を維持する。
【0021】
また、かごドア13の戸開動作中に検知処理部22bによって検知エリアE2またはE3内で利用者が検知された場合には、戸開閉制御部31は、ドア事故(戸袋への引き込まれ事故)を回避するための戸開閉制御を行う。具体的には、戸開閉制御部31は、かごドア13の戸開動作を一時停止するか、逆方向(戸閉方向)に動かす、あるいは、かごドア13の戸開速度を遅くする。
【0022】
図2は乗りかご11内の出入口周辺部分の構成を示す図である。
乗りかご11の出入口にかごドア13が開閉自在に設けられている。
図2の例では両開きタイプのかごドア13が示されており、かごドア13を構成する2枚のドアパネル13a,13bが間口方向(水平方向)に沿って互いに逆方向に開閉動作する。なお、「間口」とは、乗りかご11の出入口と同じである。
【0023】
乗りかご11の出入口の両側に入口柱41a,41bが設けられており、幕板11aと共に乗りかご11の出入口を囲っている。「入口柱」は、正面柱とも言い、裏側にはかごドア13を収納するための戸袋が設けられているのが一般的である。
図2の例では、かごドア13が戸開したときに、一方のドアパネル13aが入口柱41aの裏側に設けられた戸袋42aに収納され、他方のドアパネル13bが入口柱41bの裏側に設けられた戸袋42bに収納される。入口柱41a,41bの一方あるいは両方に表示器43や、行先階ボタン44などが配設された操作盤45、スピーカ46が設置されている。
図2の例では、入口柱41aにスピーカ46、入口柱41bに表示器43、操作盤45が設置されている。
【0024】
カメラ12は、乗りかご11の出入口上部に水平方向に配設された幕板11aの中に設けられる。ここで、乗場15の利用者を戸閉直前まで検知するため、かごドア13の戸閉位置に合わせてカメラ12が取り付けられている。具体的には、かごドア13が両開きタイプであれば、幕板11aの中央部にカメラ12が取り付けられる。また、乗りかご11内の天井面には、例えばLEDを用いた照明機器48が設置されている。
【0025】
図3に示すように、カメラ12は、乗りかご11の出入口に設けられたかごドア13と水平の方向をX軸、かごドア13の中心から乗場15の方向(かごドア13に対して垂直の方向)をY軸、乗りかご11の高さ方向をZ軸とした画像を撮影する。
【0026】
図4はカメラ12の撮影画像の一例を示す図である。上側は乗場15、下側は乗りかご11内である。図中の16は乗場15の床面、19は乗りかご11の床面を示している。E1,E2,E3は検知エリアを表している。
【0027】
かごドア13は、かごシル47上を互いに逆方向に移動する2枚のドアパネル13a,13bを有する。乗場ドア14も同様であり、乗場シル18上を互いに逆方向に移動する2枚のドアパネル14a,14bを有する。乗場ドア14のドアパネル14a,14bは、かごドア13のドアパネル13a,13bと共に戸開閉方向に移動する。
【0028】
カメラ12は乗りかご11の出入口上部に設置されている。したがって、乗りかご11が乗場15で戸開したときに、
図1に示したように、乗場側の所定範囲(L1)とかご内の所定範囲(L2)が撮影される。このうち、乗場側の所定範囲(L1)に、乗りかご11に乗車する利用者を検知するための検知エリアE1が設定されている。
【0029】
実空間において、検知エリアE1は、出入口(間口)の中心から乗場方向に向かってL3の距離を有する(L3≦乗場側の撮影範囲L1)。全開時における検知エリアE1の横幅W1は、出入口(間口)の横幅W0以上の距離に設定されている。検知エリアE1は、
図4に斜線で示すように、シル18,47を含み、三方枠17a,17bの死角を除いて設定される。なお、検知エリアE1の横方向(X軸方向)のサイズは、かごドア13の開閉動作に合わせて変更される構成としても良い。また、検知エリアE1の縦方向(Y軸方向)のサイズについても、かごドア13の開閉動作に合わせて変更される構成としても良い。
【0030】
図5に示すように、乗車検知エリアとして用いられる検知エリアE1は、乗車意思推定エリアE1a,近接検知エリアE1b,シル上検知エリアE1cからなる。乗車意思推定エリアE1aは、利用者が乗車意思を持って乗りかご11に向かっているか否かを推定するためのエリアである。近接検知エリアE1bは、利用者が乗りかご11の出入口に近接していることを検知するためのエリアである。シル上検知エリアE1cは、利用者がシル18,47上を通過していることを検知するためのエリアである。
【0031】
ここで、本システムでは、乗車検知用の検知エリアE1とは別に、検知エリアE2,E3を有する。検知エリアE2,E3は、引き込まれ検知エリアとして用いられる。検知エリアE2は、乗りかご11の入口柱41a,41bの内側側面41a-1,41b-1に沿って、所定の幅を有して設定される。なお、内側側面41a-1,41b-1の横幅に合わせて検知エリアE2を設定しても良い。検知エリアE3は、乗りかご11の床面19のかごシル47に沿って、所定の幅を有して設定される。
【0032】
かごドア13の戸開動作中に、検知エリアE2またはE3内で利用者が検知されると、例えばかごドア13の戸開動作を一時停止するか、逆方向(戸閉方向)に動かす、あるいは、かごドア13の戸開速度を遅くするなどの対応処理が実行される。また、音声アナウンスにより、例えば「ドアから離れてください」などの警告が発せられる。
【0033】
(検知処理の問題)
通常、引き込まれ検知は、引き込まれ検知エリアである検知エリアE2,E3内の画像の輝度変化が利用者の侵入によって正しく表れることを前提としている。ところが、検知エリアE2,E3は、乗りかご11内に設定されているため、かご室内の照明環境の影響を強く受ける。つまり、
図6に示すように、利用者P1がかごドア13から離れた場所に乗車している場合であっても、照明機器48の照明光の関係で、利用者P1の影S1が検知エリアE2またはE3に入り込むことがある。検知エリアE2またはE3に影S1が入り込むと、影S1の動きに伴い、画像上で輝度変化が大きく生じ、影S1が利用者P1として過検知される可能性がある。
【0034】
これは、乗車検知処理でも同様である。すなわち、乗車検知エリアである検知エリアE1は、乗りかご11の出入口周辺の乗場15に設定される。乗場15の照明環境の関係で、検知エリアE1に影が入り込むと、画像上で輝度変化により、影の過検知が生じる可能性がある。そこで、本実施形態では、
図1に示した画像処理装置20の検知処理部24に下記のような機能(輝度勾配方向画像の作成,差分特徴量の作成,動体検知,人物検知)を持たせ、撮影画像として連続的に得られる各画像間(フレーム間)の輝度勾配方向の変化に着目して、利用者の有無を検知する構成としている。
【0035】
(a)輝度勾配方向画像の作成
輝度勾配検出部24aは、カメラ12によって撮影された画像(原画像)の各画素における輝度勾配方向をN度単位で検出し、その輝度勾配方向を可視化した輝度勾配方向画像を作成する。輝度勾配方向は、N度単位の離散値として算出される。上記N度は、例えば45度である。45度単位で輝度勾配方向を求めた場合に、輝度勾配なしを含めて、9値(45度刻みの8値+輝度勾配なしの1値)が得られる。
【0036】
なお、9値(N度=45度)に限定されるものではない。また、輝度勾配なしを含めるか否かも任意である。人物と影を区別して正確に検知するためには、少なくとも4値以上の輝度勾配方向を求めることが好ましい。これは、例えば人物が黒い服を着ているような場合に、水平方向と垂直方向だけの2値の輝度勾配方向では、人物と影とを区別できない可能性があるからである。ただし、輝度勾配方向が細かすぎると、検知有と検知無の境界設定が難しくなるため、検知精度と画像処理のことを考慮すると、45度単位で9値の輝度勾配方向を求めることが良い。
【0037】
・輝度勾配方向の求め方
例えば
図7および
図8に示すようなソーベルフィルタを用いて、3×3の単位で各画素のエッジベクトルの水平成分と垂直成分を算出し、
図9に示すようにエッジベクトルの向き(角度)を算出する。この算出したエッジベクトルの向きを例えば45度単位で丸めるなどして輝度勾配方向に変換する。「丸める」とは、四捨五入や切り捨てなどにより、数値を所定の桁数の範囲内に収めることを言う。つまり、「45度単位で丸める」とは、0度,45度,90度,135度,180度,225度,270度,315度の範囲内に収めることである。これにより、例えばエッジベクトルの向きが40度であった場合には、40度→45度に変換される。
【0038】
なお、エッジフィルタとして、ソーベルフィルタ以外のフィルタ(例えばラプラシアンフィルタなど)を用いても良い。フィルタ処理を行う画素の単位についても、3×3に限定されない。また、輝度勾配方向に、輝度勾配なしの値を含めても良い。この場合、輝度勾配強度(エッジベクトルの大きさ)が閾値以下であれば、輝度勾配なしとする。輝度勾配強度は、輝度勾配方向とは異なる方法で算出しても良い。例えば、輝度勾配方向はソーベルフィルタを用いて算出し、輝度勾配強度はラプラシアンフィルタを用いて算出することでも良い。
【0039】
図10乃至
図12に具体例を示す。
図10は原画像の一例を示す図である。上側が乗場、下側が乗りかご内を示している。図中のP11,P12は利用者、S11は利用者P11の影、S12は利用者P12の影である。
図11は輝度勾配方向画像の一例を示す図である。なお、ここでは輝度勾配方向画像を模式的に示しているが、実際には輝度勾配方向に対応した輝度値で複雑に表現される。
図12は輝度勾配方向と輝度値との対応関係を示す図である。360度の角度方向において、0度から45度毎に8方向の輝度勾配方向が矢印で表現されている。
【0040】
図10の原画像の各画素の輝度勾配方向を45度単位で求めた場合に、輝度勾配なしを含めて、9値(45度刻みの8値+輝度勾配なしの1値)が得られる。この9値を
図12に示すような任意の輝度値に変換することで、
図11のような輝度勾配方向画像が作成される。
【0041】
図12の例では、45度刻みの8値に対して、時計周りの順に輝度値0,16,32,48,64,80,96,112を割り振り、輝度勾配なしの1値を輝度値255としている。例えば12時の方向(図中の真上の方向)は、輝度値96に変換され、6時の方向(図中の真下の方向)は、輝度値32に変換される。
【0042】
なお、輝度値の割り振り方や、輝度値の値自体も任意であり、
図12の例に限定されない。要は、任意の角度単位で求められた輝度勾配方向を任意の輝度値に置き換えて可視化表現できれば良い。この輝度勾配方向画像は、必ずしも作成する必要はなく、コンピュータ上で画像処理するだけで良い。
【0043】
(b)差分特徴量の作成
差分特徴量作成部24bは、輝度勾配方向の変化(差分)を抽出するための差分特徴量を作成する。ここで言う「差分特徴量」とは、輝度勾配方向に基づく特徴量のことであり、画素単位の輝度勾配方向、複数画素単位(例えばブロック単位)の輝度勾配方向、HOG(Histograms of Oriented Gradients)、CoHOG(Co-Occurrence Histograms of Oriented Gradients)などを含む。
【0044】
複数画素単位の輝度勾配方向の場合には、対象となる複数画素の輝度勾配方向の多数決や平均、最も輝度勾配強度の大きい方向などを用いる。HOGの場合には、複数画素を対象とした輝度勾配方向毎のヒストグラムを用いる。CoHOGの場合には、複数画素を対象とした輝度勾配方向の組合せ(共起)毎のヒストグラムを用いる。例えば、右向きと上向きが隣り合っている画素数などである。
【0045】
(c)動体検知1
動体検知部24cは、撮影画像として連続的に得られる各画像間で差分特徴量を比較することで、輝度勾配方向が変化した部分を動体として検知する。ここで言う「動体」とは、撮影画像上で何らかの動きを有する物体が撮影されている領域のことである。
【0046】
変化の有無を判定する単位は、画素単位または複数画素単位である。変化の有無を判定する指標は、各画像間で差分特徴量が一致するか否か、特徴量空間での距離が近いか否かなどの差分特徴量の類似度である。変化の有無を判定する方法としては、輝度勾配方向が変化した画像の枚数で判定する方法がある。例えば5枚連続して、着目画素の輝度勾配方向が異なった場合に変化ありと判定する。また、輝度勾配方向が変化した画像の割合で変化の有無を判定することでも良い。例えば5枚中2枚の画像の着目画素の輝度勾配方向が異なっていた場合に「変化なし」と判定し、5枚中3枚の画像の着目画素の輝度勾配方向が異なっていた場合に「変化あり」と判定する。つまり、輝度勾配方向が異なる画像の枚数が所定枚数分の50%未満の場合に「変化なし」、50%以上の場合に「変化あり」と判定する。「変化あり」と判定された部分(輝度勾配方向が変化した部分)の画素は、動き画素として抽出される。
【0047】
図13は動体検知部24cによって作成される動き画像の一例を示す図である。図中の50は動き画素を示す。利用者P11の画像には、服の色やしわ、手指の隙間など、利用者P11の動きに伴って、輝度勾配方向が変化する部分が多いため、動き画素50が多数抽出される。これに対し、影S11の画像は、濃淡の変化が少なく、照明等の関係で発生/消失だけである。したがって、輝度勾配方向が変化する部分は少なく、動体として判定できるほどの多数の動き画素50は抽出されない。後述するように、この動き画素50の分布から動体が人物であるか否かを判断できる。
【0048】
なお、利用者P12については、乗りかご11内に既に乗車していて、入口付近で立っているだけの状態を想定している。このため、利用者P12の画像と影S22の画像からは、動体として判定できるほどの多数の動き画素50は抽出されない。
【0049】
(d)動体検知2
輝度勾配方向の変化(輝度勾配方向差分)と輝度値の変化(輝度差分)を併用して、動体検知を行う構成としても良い。この場合、動体検知部24cは、撮影画像として連続して得られる各画像間の輝度差分を求め、輝度勾配方向差分と輝度差分とに基づいて動体を検知する。輝度勾配方向差分と輝度差分の結果を統合する方法としては、以下のような論理演算(AND/OR演算など)やパラメータ変更などがある。
【0050】
AND演算:輝度勾配方向差分と輝度差分の両方で画像上の動き画素が検知された場合に、当該動き画素を含む所定の範囲に動体が存在するものと判定する。
【0051】
OR演算:輝度勾配方向の変化が多い領域(影の可能性が少ない領域)に対しては輝度差分を用い、輝度勾配方向の変化が少ない領域(影の可能性が高い領域)に対しては輝度勾配方向差分を用いる。「輝度勾配方向の変化が多い領域」とは、動き画素の数が動体の判定基準として定められた規定数以上の領域のことである。「輝度勾配方向の変化が少ない領域」とは、動き画素の数が動体の判定基準として定められた規定数より少ない領域のことである。
【0052】
また、輝度勾配方向が一様でない領域(影の可能性が少ない領域)に対しては輝度差分を用い、輝度勾配方向が一様な領域(影の可能性が高い領域)に対しては輝度勾配方向差分を用いる。「輝度勾配方向が一様でない領域」とは、輝度勾配が異なる方向の画素の数が動体の判定基準として定められた割合以上の領域のことである。「輝度勾配方向が一様な領域」とは、輝度勾配が異なる方向の画素の数が動体の判定基準として定められた割合より少ない領域のことである。
【0053】
パラメータ変更:輝度勾配方向の変化が多い領域(影の可能性が少ない領域)に対しては輝度差分のパラメータを検知しやすくし(つまり、輝度差分の閾値を標準値よりも下げておく)、輝度勾配方向の変化が少ない領域(影の可能性が少ない領域)に対しては輝度差分のパラメータを検知しにくくする(つまり、輝度差分の閾値を標準値よりも上げておく)。
【0054】
(e)人物検知
人物検知部24dは、動体検知部24cによって検知された動体の情報に基づいて、上記動体を人物として検知する。「人物」とは、具体的には乗りかご11内または乗場15に存在する利用者のことである。「動体の情報」は、動き画素の分布、動体サイズ、動体検知回数のいずれか少なくとも1つを含む。
【0055】
「動き画素の分布」は、所定範囲内における動き画素の分布状態を示す。例えば、20×20画素の範囲の中に動き画素が40個(つまり、10%程度)以上存在すれば、人物の動きであると判断する。「動体サイズ」は、動き画素が連続する集合体のサイズを示す。例えば、40個以上の動き画素が連続した集合体として存在すれば、人物の動きであると判断する。「動体検知回数」は、各画像毎に動体として検知された回数を示す。例えば、画像上の同じ位置で一定回数以上、動体として検知されていれば、人物の動きであると判断する。
【0056】
本システムは、上記のような構成を有する検知処理部24を用いて撮影画像の中から人物(利用者)を検知し、その人物が
図3に示した検知エリアE1~E3のいずれかに存在した場合に、所定の対応処理(戸開閉制御)を実行する。以下に、引き込まれ検知を例にして、本システムの処理動作について説明する。
【0057】
図14は本システムの処理動作を示すフローチャートである。このフローチャートで示される処理は、
図1に示した画像処理装置20とエレベータ制御装置30とで実行される。
【0058】
まず、初期設定として、画像処理装置20に備えられた検知部22の検知エリア設定部23によって検知エリア設定処理が実行される(ステップS100)。この検知エリア設定処理は、例えばカメラ12を設置したとき、あるいは、カメラ12の設置位置を調整したときに、以下のようにして実行される。
【0059】
すなわち、検知エリア設定部22aは、かごドア13が全開した状態で、出入口から乗場15に向けて距離L3を有する検知エリアE1を設定する。
図4に示したように、検知エリアE1は、シル18,47を含み、三方枠17a,17bの死角を除いて設定される。ここで、かごドア13が全開した状態では、検知エリアE1の横方向(X軸方向)のサイズはW1であり、出入口(間口)の横幅W0以上の距離を有する。また、検知エリア設定部22aは、乗りかご11の入口柱41a,41bの内側側面41a-1,41b-1に沿って、所定の幅を有する検知エリアE2を設定すると共に、乗りかご11の床面19のかごシル47に沿って所定の幅を有する検知エリアE3を設定する。
【0060】
通常の運転中において、乗りかご11が任意の階の乗場15に到着すると(ステップS101のYes)、エレベータ制御装置30は、かごドア13の戸開動作を開始する(ステップS102)。この戸開動作に伴い、カメラ12によって乗場側の所定範囲(L1)とかご内の所定範囲(L2)が所定のフレームレート(例えば30コマ/秒)で撮影される。なお、カメラ12の撮影は、乗りかご11が戸閉した状態から連続的に行われていても良い。
【0061】
画像処理装置20は、カメラ12で撮影された画像を時系列で取得し、これらの画像を記憶部21に逐次保存しながら、以下のような検知処理(引き込まれ検知処理)をリアルタイムで実行する(ステップS103)。なお、撮影画像に対する前処理として、歪み補正や、拡大縮小、画像の一部の切り取りなどを行っても良い。
【0062】
図15に上記ステップS103で実行される検知処理を示す。この検知処理は、画像処理装置20の検知処理部24によって実行される。以下では、撮影画像から輝度勾配方向を検出する場合を想定して説明する。
【0063】
まず、検知処理部24は、記憶部21から各画像(原画像)を時系列順に取得し(ステップS201)、これらの画像毎に各画素における輝度勾配方向を可視化した輝度勾配方向画像を作成する(ステップS202)。詳しくは、検知処理部24は、例えばソーベルフィルタを用いて、3×3の単位で各画素のエッジベクトルの向き(角度)を算出し、このエッジベクトルの向きを45度単位で丸めるなどして輝度勾配方向に変換する。また、検知処理部24は、輝度勾配強度(エッジベクトルの大きさ)を求め、この輝度勾配強度か閾値以下であれば、輝度勾配なしとする。検知処理部24は、輝度勾配なしを含めて、9つの値(45度刻みの8値+輝度勾配なしの1値)を任意の輝度値に変換して、輝度勾配方向画像を作成する。
【0064】
続いて、検知処理部24は、輝度勾配方向画像の差分二値化を行う(ステップS203)。詳しくは、検知処理部24は、撮影画像として連続的に得られる各画像間で、輝度勾配方向の特徴量を比較したときの差分を予め設定された閾値TH1で二値化する。閾値TH1は、乗りかご11内や乗場15の照明環境等によって最適な値に設定されている。
【0065】
また、検知処理部24は、撮影画像である原画像の差分二値化を行う(ステップS204)。詳しくは、検知処理部24は、画像の各画素の輝度値を次の画像の同じ画素位置で比較して輝度差分を求め、その輝度差分を予め設定された閾値TH2で二値化する。閾値TH2は、上記閾値TH1と同様に、乗りかご11内や乗場15の照明環境等によって最適な値に設定されている。
【0066】
検知処理部24は、輝度勾配方向画像から求められた輝度勾配方向差分を二値化した値と原画像から求められた輝度差分を二値化した値とを統合処理し(ステップS205)、その統合処理した結果から動体の有無を検知する(ステップS206)。輝度勾配方向差分と輝度差分を統合する方法については、上述したように論理演算(AND/OR演算など)やパラメータ変更などがある。
【0067】
このようにして、動体(動き画素)が検知されると、検知処理部24は、その動体の情報に基づいて人物を検知する(ステップS207)。詳しくは、検知処理部24は、動体の情報として得られる動き画素の分布、動体サイズ、動体検知回数のいずれか少なくとも1つに基づいて、当該動体が人物の動きであるか否かを判定する。例えば、動き画素の分布によって人物検知を行う場合であれば、所定の画素範囲の中に動き画素が10%程度以上存在すれば、検知処理部24は、当該動き画素を含む範囲を人物の動きと判定する。本実施形態において、「人物」とは、乗りかご11内または乗場15にいる利用者のことであり、撮影画像上では、その利用者の服や手の動きなどが動き画素として表れる(
図13参照)。
【0068】
なお、
図13の例では、輝度勾配方向分と輝度差分を併用したが、輝度勾配方向差分のみで動体検知処理を行い、検知結果として得られる動き画素の分布などから人物(利用者)を検知することでも良い。この場合、
図15のステップS204とS205の処理は不要となる。
【0069】
図14に戻って、戸開動作中に上記検知処理によって利用者が検知された場合、検知処理部24は、当該利用者が乗りかご11内に引き込まれ検知エリアとして設定された検知エリアE2または検知エリアE3内にいるか否かを判断する(ステップS104)。当該利用者が検知エリアE2または検知エリアE3内にいれば(ステップS104のYes)、検知処理部24からエレベータ制御装置30に対して引き込まれ検知信号が出力される。これにより、エレベータ制御装置30は、引き込まれ検知エリアに関連した対応処理として、戸開閉制御部31を通じてかごドア13の戸開動作を一時停止し、数秒後にその停止位置から戸開動作を再開する(ステップS105)。
【0070】
上記対応処理として、かごドア13の戸開速度を通常より遅くすることや、あるいは、かごドア13を逆方向(戸閉方向)に若干移動させてから戸開動作を再開することでも良い。また、エレベータ制御装置30の警告部32の起動により、乗りかご11内のスピーカ46を通じて音声アナウンスを行い、利用者に対してかごドア13から離れるように注意を喚起することで良いし、警告音を鳴らすことでも良い(ステップS106)。検知エリアE2または検知エリアE3内で利用者が検知されている間、上記処理が繰り返される。これにより、例えば利用者がかごドア13の近くにいる場合に、戸袋42aまたは42bに引き込まれることを未然に防ぐことができる。
【0071】
(乗車検知処理)
図14の例では、引き込まれ検知処理を例にして説明したが、乗車検知処理でも同様である。
【0072】
すなわち、乗りかご11が任意の階で戸閉を開始したときに、
図15で説明した検知処理が実行される。上述したように、撮影画像の輝度勾配方向差分と輝度差分とに基づいて利用者が検知されると、乗場15に乗車検知エリアとして設定された検知エリアE1内にいるか否かが判断される。当該利用者が検知エリアE1内にいて、かつ、乗りかご11のドア13に向かっていることが検知された場合に、検知処理部24からエレベータ制御装置30に対して乗車検知信号が出力される。これにより、エレベータ制御装置30は、乗車検知エリアに関連した対応処理として、戸開閉制御部31を通じてかごドア13の戸閉動作を一時停止するか、かごドア13を逆方向(戸閉方向)に動かす、あるいは、かごドア13の戸開速度を通常よりも下げる。
【0073】
このように本実施形態によれば、任意角度単位で求めた多値の輝度勾配方向を差分特徴量として用い、その輝度勾配方向の変化に基づいて人物検知を行う構成としたことにより、撮影画像に入り込んでいた影の過検知を抑制して、利用者を正しく検知でき、その検知結果に応じた対応処理を実現することができる。
【0074】
ここで、本出願人は、影と人物の輝度特性の違いに着目して、輝度値が山型状に変化するエッジを差分特徴量として抽出して人物検知を行う方法を着想した(特願2021-130127)。この方法により、撮影画像上で影と人物を区別して、人物だけを正確に検知することを実現している。ただし、差分特徴量としては2値(輝度勾配の有無)となる。これに対し、本方式では、例えば45度単位で輝度勾配方向を求めた場合には、差分特徴量が輝度勾配なしを含めて9値となる。差分特徴量が2値から9値に拡張(特徴量空間を9次元に拡張)されることで、特徴量空間での検知有と検知無の境界を細かく設定でき、その境界付近の画像に対して人物をより高精度に検知できるようになる。
【0075】
なお、上記実施形態では、撮影画像全体から利用者を検知する場合を想定して説明したが、撮影画像上に予め設定されている検知エリア毎に利用者を検知する構成としても良い。例えば、戸開動作中であれば、
図4に示した検知エリアE2,E3内の画像に着目し、当該画像の輝度勾配方向差分により検知エリアE2またはE3にいる利用者を検知する。また、戸閉動作中であれば、
図4に示した検知エリアE1内の画像に着目し、当該画像の輝度勾配方向差分により検知エリアE1内にいる利用者を検知する。
【0076】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、照明環境に起因した影の過検知を抑制して、乗りかご内や乗場にいる利用者を正しく検知することのできるエレベータの利用者検知システムを提供することができる。
【0077】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
11…乗りかご、11a…幕板、12…カメラ、13…かごドア、13a,13b…ドアパネル、14…乗場ドア、14a,14b…ドアパネル、15…乗場、17a,17b…三方枠、18…乗場シル、47…かごシル、48…照明機器、20…画像処理装置、21…記憶部、22…検知部、23…検知エリア設定部、24…検知処理部、24a…輝度勾配検出部、24b…差分特徴量作成部、24c…動体検知部、24d…人物検知部、30…エレベータ制御装置、31…戸開閉制御部、32…警告部、E1,E2,E3…検知エリア。
【要約】
【課題】照明環境に起因した影の過検知を抑制して、乗りかご内や乗場にいる利用者を正しく検知する。
【解決手段】一実施形態に係るエレベータの利用者検知システムは、乗りかご内に設置されたカメラの撮影画像の各画素における輝度勾配方向を任意角度単位で検出する輝度勾配検出手段と、上記輝度勾配検出手段によって検出された上記輝度勾配方向の変化を抽出するための差分特徴量を作成する差分特徴量作成手段と、上記差分特徴量作成手段によって作成された上記差分特徴量に基づいて、上記撮影画像から上記輝度勾配方向が変化した部分を動体として検知する動体検知手段と、上記動体検知手段によって検知された上記動体の情報に基づいて、上記動体を人物として検知する人物検知手段とを備える。
【選択図】
図1