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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】TGF-ベータトラップ
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20231030BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20231030BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231030BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231030BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231030BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20231030BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20231030BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
A61P43/00 111
A61P35/00
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K35/12
C12N5/0783
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022509003
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-18
(86)【国際出願番号】 US2020046311
(87)【国際公開番号】W WO2021030662
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-04-08
(31)【優先権主張番号】62/887,272
(32)【優先日】2019-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515258402
【氏名又は名称】ナントバイオ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リウ,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ヒガシデ,ウェンディー
(72)【発明者】
【氏名】オルソン,シー.アンダース
(72)【発明者】
【氏名】ニアジ,カイヴァン
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-506217(JP,A)
【文献】特表2019-510786(JP,A)
【文献】特表2016-520302(JP,A)
【文献】国際公開第2018/204594(WO,A1)
【文献】Clin. Cancer Res.,2019年07月15日,Vol.25, No.14,pp.4400-4412
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/62
C07K 19/00
C12N 15/63
C12N 5/10
A61P 43/00
A61P 35/00
A61K 45/00
A61K 35/12
C12N 5/0783
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスフォーミング増殖因子-ベータ受容体2型(TGFβRII)のリガンド結合ドメインに融合された免疫グロブリン定常ドメイン(Fc)を含むTGF-βトラップであって、
前記トラップは、Sushiドメインを含有せず、かつ、
前記免疫グロブリンFcドメインは、疫グロブリンヒンジ領域をさらに含み、前記ヒンジ領域の少なくとも1つの不対システイン残基は、セリン残基によって置き換えられており
前記トラップは、NH-ヒンジ-Fc-リンカー-TGFβRII-COOH又はNH -TGFβRII-リンカー-ヒンジ-Fc-COOHなる構造を有かつ前記トラップは、配列番号17、配列番号24、配列番号23又は配列番号25と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、前記TGF-βトラップ。
【請求項2】
前記トラップが、配列番号17、配列番号24、配列番号23又は配列番号25のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のトラップ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のトラップをコードする核酸分子。
【請求項4】
請求項に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項5】
前記核酸は、誘導性プロモーターに作動可能に連結される、請求項に記載のベクター。
【請求項6】
前記誘導性プロモーターは、TGF-β誘導性プロモーターを含む、請求項に記載のベクター。
【請求項7】
前記核酸は、恒常的に活性であるプロモーターに作動可能に連結される、請求項に記載のベクター。
【請求項8】
前記恒常的に活性なプロモーターは、CMVプロモーターである、請求項に記載のベクター。
【請求項9】
請求項4~8のいずれか一項に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項10】
前記宿主細胞は、IL-2依存性ナチュラルキラー細胞である、請求項に記載の宿主細胞。
【請求項11】
有効量の請求項1又は2に記載のトラップを含む、対象におけるTGF-βの活性を阻害するための組成物。
【請求項12】
対象においてTGF-βの活性を阻害するための組成物であって、有効量の前記TGF-βトラップを産生するのに十分な量の、請求項9又は10に記載の宿主細胞を含む組成物。
【請求項13】
対象において新生物を治療するための組成物であって、治療有効量の請求項9又は10に記載の宿主細胞を含む組成物。
【請求項14】
前記組成物に含まれる宿主細胞が、非経口的に、静脈内に、腫瘍周囲に、又は注入によって投与されるものである、請求項12又は13に記載の組成物。
【請求項15】
前記対象に投与されるための追加の治療剤をさらに含む、請求項1114のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年8月15日に出願された米国仮特許出願第62/887,272号明細書の利益を主張し、この全内容は、本明細書において参照によって援用される。
【0002】
配列表の参照
本出願は、「8774-14-PCT_Seq_Listing_ST25.txt」という名称で、68バイトのバイトサイズを有し、2020年8月14日に作成された電子テキストファイルとして提出される配列表を含有する。この電子ファイルに含有される情報は、37CFR§1.52(e)(5)に従って、その全体が参照によってこれによって援用される。
【0003】
組成物及び方法は、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)の活性を阻害するために提供される。
【背景技術】
【0004】
TGF-βは、細胞増殖及び分化、胚発生、細胞外マトリックス形成、骨発生、創傷治癒、造血、並びに免疫反応及び炎症反応に関与する多機能性サイトカインのファミリーである。TGF-β発現は、前立腺癌、乳癌、肺癌、結腸直腸癌、膵臓癌、肝臓癌、皮膚癌、及び神経膠腫を含む種々の癌において研究されてきた。初期の腫瘍において、TGF-βのレベルの増加は、良好な予後と相関するのに対して、進行した腫瘍において、TGF-βのレベルの増加は、腫瘍の攻撃性及び予後不良と相関する。より詳細には、TGF-βは、癌細胞の運動、浸潤、上皮間葉転換(EMT)、及び細胞の幹細胞性を促し、腫瘍進行及び転移を促進する。
【0005】
ヒトTGF-βのアイソフォームが3つある:TGF-β1、TGF-β2、及びTGF-β3。各アイソフォームは、25kDaのホモ二量体として存在し、2つの112アミノ酸単量体が、鎖間ジスルフィド架橋によってつながれている。TGF-β1は、TGF-β2及びTGF-β3と異なっており、それぞれ、27及び22の(主に保存的な)アミノ酸が変化している。TGF-βの調節異常(deregulation)は、先天性異常、癌、慢性炎症性疾患、自己免疫疾患、及び線維性疾患などの、非常に多くの状態に関係する。
【0006】
TGF-βシグナル伝達は、膜貫通タンパク質の2つのグループに分けることができる受容体のスーパーファミリー:I型及びII型セリン/トレオニンキナーゼを通して起こる。I型受容体が最初に結合するか又はII型受容体が最初に結合するかどうかは、リガンド依存性であり、2番手のI型又はII型受容体は、次いで動員され、ヘテロマーシグナル伝達複合体を形成する。機能的受容体複合体は、2つのI型受容体及び2つのII型受容体と相互作用する1つの二量体リガンドを有する。I型受容体は、アクチビン様キナーゼ(ALK)と称され、II型受容体は、結合するリガンドの名をとって命名される。II型受容体は、高い親和性でTGF-β1及びTGF-β3に結合するが、かなり低い親和性でTGF-β2に結合する。I型受容体及びII型受容体は、TGF-βの抗増殖シグナルの伝達にとって不可欠であるヘテロ二量体シグナル伝達複合体を共に形成する。TGF-βIII型受容体もまた実在するが、その細胞質ドメインは、明らかなシグナル伝達モチーフを欠いており、受容体は、シグナル伝達に直接関与していないかもしれない。
【0007】
TGF-βの全身性の阻害は、抗体及び抗体Fcドメインに融合されたTGF-β受容体ドメインを含有するいわゆるトラップ分子を含む、種々のアプローチを使用して達成されてきた。例えばGramont et al.,Oncoimmunology 6:e1257453(2017)及びDe Crescenzo et al.,“Engineering TGF-β Traps:Artificially Dimerized Receptor Ectodomains as High-affinity Blockers of TGF-β Action” in Transforming Growth Factor-β in Cancer Therapy,Volume II pp 671-684(2008)を参照されたい。ノックアウトマウスによる研究は、TGF-β機能の全身性の損失が、創傷治癒の減少、免疫調節の損失、及び炎症反応の増加に至り得ることを実証した。従って、腫瘍に集中してTGF-β活性を阻害することが好ましいと思われる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
トランスフォーミング増殖因子-ベータ受容体2型(TGFβRII)のリガンド結合ドメインに融合された免疫グロブリンFcドメインを含有するTGF-βトラップが提供され、トラップは、Sushiドメインを含有しない及び免疫グロブリンFcドメインは、ヒンジ領域の少なくとも1つの不対システイン残基がセリン残基によって置き換えられるN末端免疫グロブリンヒンジ領域をさらに含有する。一態様において、TGFβRIIは、可動性ペプチドリンカー成分を介してFc領域に連結される。ある非限定的な実施形態において、TGFβRIIのリガンド結合ドメインは、可動性ペプチドリンカー成分を介してFcドメインのカルボキシ末端(C末端)に連結されるが、他の非限定的な実施形態において、リガンド結合ドメインは、可動性ペプチドリンカー成分を介してFcドメインのヒンジ領域のアミノ末端(N末端)に連結される。いくつかの態様において、ヒンジ領域のC27残基は、セリン残基によって置き換えられる。
【0009】
ある実施形態において、トラップは、以下の構造を有していてもよい:NH-ヒンジ-Fc-リンカー-TGFβRII-COH。ある実施形態において、トラップは、構造NH-TGFβRII-リンカー-ヒンジ-Fc-COHを有していてもよい。一態様において、可動性リンカーは、3、4、5、又はそれ以上のG4SリピートなどのG4Sリピートを含む。
【0010】
一実施形態において、トラップは、配列番号24に対して少なくとも85%同一な又は配列番号25に対して少なくとも85%同一なアミノ酸配列を含む。
【0011】
上記に記載されるトラップをコードする核酸分子もまた、提供され、トラップは、任意選択で、N末端ペプチドシグナル配列に融合されてもよい。核酸分子は、発現ベクター内に含有することができる。発現ベクター中のプロモーターは、トラップをコードしている核酸分子に作動可能に連結することができる。ある実施形態において、プロモーターは、誘導性プロモーターとすることができる。一態様では、誘導性プロモーターは、TGF-β誘導性プロモーターである。ある態様において、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターなどのプロモーターは、恒常的に活性とすることができる。
【0012】
上記に記載されるベクターにより形質転換される宿主細胞もまた、提供される。ある非限定的な実施形態において、宿主細胞は、CHO細胞などの哺乳類細胞又はNK-92細胞などのヒト細胞とすることができる。
【0013】
他の実施形態において、本発明は、対象又は患者においてTGF-βの活性を阻害するための方法であって、それを必要とする対象に、上記に記載されるトラップの有効量を投与することを含む方法に関する。
【0014】
さらなる実施形態において、本発明は、対象においてTGF-βの活性を阻害するための方法であって、有効量のTGF-βトラップを産生するのに十分な量の、上記に記載される宿主細胞を含有する組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法に関する。
【0015】
他の実施形態において、本発明は、対象において新生物を治療するための方法であって、上記に記載される宿主細胞を含有する組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む方法に関する。一態様において、宿主細胞は、非経口的に、静脈内に、腫瘍周囲に、又は注入によって投与することができる。
【0016】
本明細書において開示される治療の方法のいずれにおいても、追加の治療剤を、対象又は患者に投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1A及び1Bは、恒常的に活性なTGF-βトラップ構築物によるTGF-β反応の阻害を示す図である。CMV駆動型発現構築物は、Sushiドメイン(Sushi)、無修飾ヒンジ(AltH)、Fcドメイン(Fc)、TGFBRII(トラップ)あり又はなし対修飾ヒンジ((C27S)H)、Fc、TGFBRII(トラップ)あり又はなしを含有した。
図1B図1A及び1Bは、恒常的に活性なTGF-βトラップ構築物によるTGF-β反応の阻害を示す図である。CMV駆動型発現構築物は、Sushiドメイン(Sushi)、無修飾ヒンジ(AltH)、Fcドメイン(Fc)、TGFBRII(トラップ)あり又はなし対修飾ヒンジ((C27S)H)、Fc、TGFBRII(トラップ)あり又はなしを含有した。
図2A図2A及び2Bは、TGF-β誘導性トラップ構築物によるTGF-β反応の阻害を示す図である。TGF-β誘導型ルシフェラーゼを安定して発現する293T細胞株に、TGF-β反応エレメント(TGFBRE)駆動型発現構築物をトランスフェクトし、Sushiドメイン(Sushi)、無修飾ヒンジ(AltH)、Fcドメイン(Fc)、TGFBRII(トラップ)あり又はなし対修飾ヒンジ((C27S)H)、Fc、TGFBRII(トラップ)あり又はなしを比較した。
図2B図2A及び2Bは、TGF-β誘導性トラップ構築物によるTGF-β反応の阻害を示す図である。TGF-β誘導型ルシフェラーゼを安定して発現する293T細胞株に、TGF-β反応エレメント(TGFBRE)駆動型発現構築物をトランスフェクトし、Sushiドメイン(Sushi)、無修飾ヒンジ(AltH)、Fcドメイン(Fc)、TGFBRII(トラップ)あり又はなし対修飾ヒンジ((C27S)H)、Fc、TGFBRII(トラップ)あり又はなしを比較した。
図3図3は、安定してトランスフェクトされた293T細胞におけるTGF-βトラップ発現構築物についての試験を示す図である。TGF-β誘導型ルシフェラーゼを安定して発現する293T細胞株に、TGF-β反応エレメント(TGFBRE)駆動型発現構築物をトランスフェクトし、Sushiドメイン(Sushi)、無修飾ヒンジ(AltH)、Fc、TGFBRII(トラップ)あり又はなし対修飾ヒンジ((C27S)H)、Fc、TGFBRII(トラップ)あり又はなしを比べた。
図4図4は、安定してトランスフェクトされた293T細胞における、TGF-βトラップを有するN末端及びC末端融合物についての試験を示す図である。TGF-β誘導型ルシフェラーゼを安定して発現する293T細胞株に、CMV駆動型発現構築物をトランスフェクトし、修飾ヒンジ((C27S)H)を有するC末端(C-term)対N末端(N-term)TGF-βRII(トラップ)Fc融合タンパク質を比較した。
図5A図5A及び5Bは、TGF-βトラップがTGF-β2を中和する能力を示す図である。TGF-β誘導型ルシフェラーゼを安定して発現する293T細胞株に、CMV駆動型又はTGF-β反応エレメント(TGFBRE)駆動型発現構築物をトランスフェクトし、次いで、既知濃度のTGF-β2を滴下して刺激した。
図5B図5A及び5Bは、TGF-βトラップがTGF-β2を中和する能力を示す図である。TGF-β誘導型ルシフェラーゼを安定して発現する293T細胞株に、CMV駆動型又はTGF-β反応エレメント(TGFBRE)駆動型発現構築物をトランスフェクトし、次いで、既知濃度のTGF-β2を滴下して刺激した。
図6A図6A及び6Bは、TGF-βトラップがマウスTGF-β2を中和する能力を示す図である。TGF-β誘導型ルシフェラーゼを安定して発現する293T細胞株に、CMV駆動型又はTGF-β反応エレメント(TGFBRE)駆動型発現構築物をトランスフェクトし(配列番号8及び16において示されるDNA配列)、次いで、既知濃度のマウスTGF-β1(mTGF-β1)を滴下して刺激した。細胞を一晩インキュベートし、結果として生じるルシフェラーゼ活性を24時間後に測定した。
図6B図6A及び6Bは、TGF-βトラップがマウスTGF-β2を中和する能力を示す図である。TGF-β誘導型ルシフェラーゼを安定して発現する293T細胞株に、CMV駆動型又はTGF-β反応エレメント(TGFBRE)駆動型発現構築物をトランスフェクトし(配列番号8及び16において示されるDNA配列)、次いで、既知濃度のマウスTGF-β1(mTGF-β1)を滴下して刺激した。細胞を一晩インキュベートし、結果として生じるルシフェラーゼ活性を24時間後に測定した。
図7図7は、TGF-β-トラップの産生に対するSushiドメイン及びヒンジ修飾の効果を示す図である。293T細胞株に、Sushiドメイン及び本来の無修飾ヒンジ配列(AltH)を含有する、AltHを有するがSushiドメインを含有しない、又は修飾ヒンジ((C27S)H)を有するがSushiを含有しないCMV駆動型TGFBRIIトラップFc融合タンパク質発現構築物をトランスフェクトした。細胞を休ませ、24時間、無血清培地中で培養し、結果として生じる上清を濃縮し、ヒトIgG Fcのレベルを測定した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
トランスフォーミング増殖因子-ベータ受容体2型(TGFβRII)のリガンド結合ドメインに連結された免疫グロブリンFcドメインを含有するTGF-βトラップ分子が、提供される。免疫グロブリンFcドメインは、改善されたN末端免疫グロブリンヒンジ領域を含有し、ヒンジ領域の少なくとも1つの不対システイン残基は、例えばセリン残基によって置き換えられる。ある実施形態において、トラップ分子は、Sushiドメインを含有しない。トラップ分子をコードする核酸分子は、細胞をトランスフェクトし、トラップ分子を発現させるために使用することができるベクター及び発現構築物と共に提供される。核酸構築物によりトランスフェクトされた細胞もまた、提供され、トラップ分子の発現は、TGF-β誘導性プロモーターのコントロール下にある。癌などの疾患を治療するためにこれらのトラップ、核酸分子、及びトランスフェクト細胞を使用するための方法もまた、提供される。
【0019】
リガンド結合性ドメイン
トラップ分子は、トランスフォーミング増殖因子ベータ受容体II(TGFβRII)の細胞外リガンド結合部分に由来するTGF-β結合ドメインを含有する。TGFβRIIのアミノ酸配列は、以下の通りである:
【化1】
受容体の細胞外ドメインに下線を引く。トラップ分子は、いくつかの又はすべての細胞外ドメインを含有してもよい、ただし、ドメインは、リガンドに結合する能力を保持する。有利には、トラップ分子は、下記に示されるリガンド結合配列を含有する。当業者は、アミノ酸をドメインのN末端及び/又はC末端に追加してもよい又は欠失させてもよいことを認識であろう、ただし、ドメインのリガンド結合特性は、保持される。
【化2】
【0020】
免疫グロブリンFcドメイン
リガンド結合性ドメインは、リガンド結合性ドメインのインビボにおける血漿半減期を延長する安定化タンパク質ドメインに連結される。原則として、任意の長さが長いアミノ酸が、安定化ドメインとして使用されてもよいが、ある好ましい実施形態において、安定化ドメインは、免疫グロブリン定常(Fc)ドメインである。Fcは、有利には、ヒトFcであり、任意のアイソタイプであってもよいが、IgG1及びIgG2アイソタイプが最も一般に使用される。この目的に適したFcドメインは、当技術分野においてよく知られている。例えば、米国特許第5,428,130号明細書;Economides et al.,Nature Medicine 9:47(2003);及びCzajkowsky et al.,EMBO Mol Med.4:1015-28(2012)を参照されたい。適したFc配列を、下記に示す。当業者は、アミノ酸をドメインのN末端及び/又はC末端に追加してもよい又は欠失させてもよいことを認識であろう、ただし、ドメインの安定化特性は、保持される。
【化3】
【0021】
ヒンジ領域
天然に存在する免疫グロブリンのリガンド結合性ドメインは、可動性ヒンジ領域を介してFcドメインに連結され、本明細書において記載されるトラップ分子はまた、Fc領域のN末端に融合された修飾ヒンジ領域も含有する。ヒンジ領域は、可動性のつなぎ綱として作用することができ、鎖間のジスルフィド結合を形成するシステイン成分も含有する。天然に存在するヒンジ領域はまた、不対システイン残基も含有する。驚くべきことに、親水性残基(例えばセリン)によるこれらの不対システイン残基の少なくとも1つの置き換えが、トラップ分子が組換え宿主細胞において産生される場合に、より高いレベルのタンパク質発現をもたらすだけでなく、TGF-βに結合する際のトラップの活性の増加ももたらすことがわかった。有利には、ヒンジ領域の少なくとも第1の(N末端に最も近い)システインが、親水性残基と置き換えられる。これは、天然に存在するヒンジ領域のC27位又は下記に示す配列番号29のC5位に相当する。修飾ヒンジのこの修飾は、本明細書において((C27S)H)と称される。例示的な修飾ヒンジ領域を、下記に示すが、下線を引いたセリン残基は、システインをセリンに置換した位置を示す。
【化4】
【0022】
ヒトIgG1の例示的な無修飾の天然に存在するヒンジ配列は、以下の通りである:EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGP(配列番号29)(Nezlin,R.General Characteristics of Immunoglobulin Molecules,The Immunoglobulins,1998)
【0023】
可動性リンカー
トラップ分子は、リガンド結合性ドメインとFc領域との間に挿入される可動性親水性リンカードメインを含有する。有利には、リンカーは、さらに、第二構造を欠いており、例えばScFv分子及びその他同種のものにおいて一般に使用されるよく知られている(GS)リンカーにおいてなどのように、グリシン残基及びセリン残基から構成される。リンカーは、長さが約5~35アミノ酸であってもよく、有利には、長さが約15~30アミノ酸である。例示的なリンカーは、GSの5つのリピートを含有する。下記に詳細に記載されるように、リンカーは、リガンド結合性ドメインのN末端にFcのC末端を直接連結してもよい又はヒンジ領域のN末端にリガンド結合性ドメインのC末端を連結してもよい。
【0024】
分泌シグナル配列
本明細書において記載されるトラップ分子は、細胞培養において又は患者若しくは対象に投与される宿主細胞においてインビボにおいて、組換え真核宿主細胞において産生される。従って、トラップ分子をコードする核酸分子はまた、新たに合成されたタンパク質を宿主細胞の分泌経路に導くN末端シグナルペプチドもコードする。シグナルペプチドは、分泌の間に、残りのタンパク質から切断され、成熟トラップタンパク質を産生する。適したシグナルペプチドは、当技術分野においてよく知られている。例えばvon Heijne,Eur.J.Biochem.133:17-21(1983);Martoglio and Dobberstein,Trends Cell Biol.8:410-15(1988);Hegde and Bernstein.,Trends Biochem Sci 31:563-71(2006)を参照されたい。有利には、シグナルペプチドは、免疫グロブリンシグナルペプチドである。例示的なシグナルペプチド配列を、下記に示す。
MDWIWRILFLVGAATGAHSAQPA(配列番号5)
【0025】
トラップ分子の構造
上記に記載される通り、ヒンジ領域は、FcドメインのN末端に融合され、リガンド結合性ドメインは、可動性リンカーペプチドを介してヒンジ-Fc構造に融合される。リガンド結合性ドメインは、Fc領域に関してN末端に又はC末端に配置されてもよい。リガンド結合性ドメインがC末端に配置される場合、成熟トラップタンパク質は、以下のドメイン構造を有する:
NH-ヒンジ-Fc-リンカー-TGFβRII-COH。
【0026】
この構造を有する例示的なトラップ分子は、本明細書において配列番号24として示される。ある実施形態において、トラップ分子は、配列番号24に対して少なくとも85%の同一性、例えば、配列番号24に対して少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の同一性を有することができる、ただし、配列番号24に対して「X%」の同一性を有する分子は、常に、他のどのアミノ酸を配列番号24の配列に関して変化させるかに関係なく、配列番号24の5位に相当する位置にセリンを有するとして理解されるべきであることを条件とする。
【0027】
リガンド結合性ドメインがN末端に配置される場合、成熟トラップタンパク質は、以下のようなドメイン構造を有する:
NH-TGFβRII-リンカー-ヒンジ-Fc-COH。
【0028】
この構造を有する例示的なトラップ分子は、本明細書において配列番号25として示される。ある実施形態において、トラップ分子は、配列番号25に対して少なくとも85%の同一性、例えば、配列番号25に対して少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の同一性を有することができる、ただし、配列番号25に対して「X%」の同一性を有する分子は、常に、他のどのアミノ酸を配列番号25の配列に関して変化させるかに関係なく、配列番号25の166位に相当する位置にセリンを有するとして理解されるべきであることを条件とする。
【0029】
核酸及びベクター
トラップ分子をコードする核酸分子及びベクターが、提供される。核酸分子を合成するための方法は、当技術分野においてよく知られている。核酸配列は、ファージ、ウイルス、プラスミド、ファージミド、コスミド、YAC、又はエピソームなどの染色体外の複製に適しているベクター内に含有されてもよい。タンパク質発現について、ベクターは、発現ベクター、すなわち、挿入されたタンパク質コード化配列の転写及び翻訳に必要とされるコントロールエレメントを含有するベクターである。適した発現系は、ウイルス(例えばワクシニアウイルス、アデノウイルスなど)に感染させた哺乳類細胞系;ウイルス(例えばバキュロウイルス)に感染させた昆虫細胞系;酵母ベクターを含有する酵母などの微生物、又はバクテリオファージ、DNA、プラスミドDNA、若しくはコスミドDNAにより形質転換させた細菌を含む。このような宿主ベクター系に適した転写及び翻訳エレメントは、当技術分野においてよく知られている。核酸分子の調製、クローニング、及びタンパク質発現についての一般的な技術は、例えば“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,second edition(Sambrook,1989);“Oligonucleotide Synthesis”(Gait,1984);“Animal Cell Culture”(Freshney,1987);“Methods in Enzymology” “Handbook of Experimental Immunology”(Weir,1996);“Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells”(Miller and Calos,1987);“Current Protocols in Molecular Biology”(Ausubel,1987);“PCR:The Polymerase Chain Reaction”,(Mullis,1994);及び“Current Protocols in Immunology”(Coligan,1991)において記載される。
【0030】
ある実施形態において、TGF-β反応エレメントを含有する誘導性プロモーターは、トラップ分子発現をコントロールする。誘導性プロモーターのコントロール下にトラップ分子をコードする適したベクターは、適した宿主細胞の中に導入される。ある実施形態において、宿主細胞は、トラップ分子により治療することになっている患者又は対象の中に宿主細胞を導入することができることを前提に選ばれる。腫瘍によるTGF-βの発現は、腫瘍の周辺にトラップの産生を誘導し、その周辺においてTGF-β活性を低下させる又は排除する。このアプローチは、有利には、TGF-βを発現している腫瘍の周辺でのみ、TGF-β活性を抑制し又は阻害し、場合によっては望ましくない全身性の効果を回避する。適したTGF-β反応エレメントは、当技術分野において知られている。例えばZhang and Derynck,J.Biol.Chem.275:16979(2000);Grotendorst et al.,Cell Growth Differ.7:469-80(1996);Riccio et al.,Mol.Cell Biol..12:1846-55(1992)を参照されたい;配列番号26~28もまた、参照されたい。適した反応エレメントを含有する発現ベクターは、市販で入手可能である。minPプロモーターエレメントの一部としてTGF-β反応エレメントを含有し、下記にさらに詳細に記載されるpGL4.28(Promega、Madison、WI)を参照されたい。
【0031】
トラップ分子は、N末端シグナル配列を有するトラップ分子をコードするDNA発現ベクターを宿主細胞の中に導入すること、トラップ分子を発現し且つトラップ分子の二量体化を可能にするのに十分な条件下で培地中で宿主細胞を培養すること、及び宿主細胞又は培地から二量体可溶性トラップ分子を精製することによって、産生されてもよい。トラップ分子が産生され、エクスビボにおいて精製される場合、発現ベクターは、有利には、CMV恒常的プロモーターのコントロール下にポリペプチドをコードするDNAを含有する。
【0032】
その代わりに、宿主細胞は、哺乳類細胞、とりわけヒト細胞株であってもよく、これは、患者又は対象の中に導入することができ、インサイツにおいてトラップ分子を産生する。この場合、宿主細胞は、有利には、TGF-β反応エレメントを含有するプロモーターのコントロール下にトラップ分子をコードする発現ベクターを含有する。
【0033】
生物学的に活性な変異TGFβRII、ヒンジ、リンカー、又はFcドメインコード化配列を得る際に、当業者らは、ポリペプチドが、生物学的活性を損失する又は低下させることなく、あるアミノ酸の置換、追加、欠失、及び翻訳後修飾によって修飾されてもよいことを認識するであろう。特に、保存的アミノ酸の置換、すなわち、同様のサイズ、電荷、極性、及び立体構造の別のアミノ酸へのあるアミノ酸の置換は、タンパク質の機能を著しく改変する可能性が低いことがよく知られている。タンパク質の構成成分である20の標準アミノ酸は、以下の通り、保存的アミノ酸の4つのグループに大まかに分類することができる:非極性(疎水性)グループは、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、及びバリンを含む;極性(無電荷、中性)グループは、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、セリン、トレオニン、及びチロシンを含む;正電荷(塩基性)グループは、アルギニン、ヒスチジン、及びリシンを含有する;並びに負電荷(酸性)グループは、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含有する。同じグループ内の別のアミノ酸へのあるアミノ酸のタンパク質における置換は、タンパク質の生物学的活性に対して悪影響を有する可能性が低い。他の例において、アミノ酸の位置に対する修飾は、タンパク質の生物学的活性を低下させる又は増強するためになすことができる。このような変化は、ランダムに又は標的とされる残基の既知の若しくは推定される構造的な若しくは機能的な特性に基づいて、部位特異的突然変異を介して導入することができる。変異タンパク質の発現後に、修飾による生物学的活性における変化は、結合アッセイ又は機能的アッセイを使用して容易に評価することができる。
【0034】
ヌクレオチド配列間の配列同一性は、DNAハイブリダイゼーション解析によって決定することができ、二本鎖DNAハイブリッドの安定性は、起こる塩基対形成の程度に依存性である。高温及び/又は低い塩含有量といった条件は、ハイブリッドの安定性を低下させ、選択された同一性の程度よりも低い配列のアニーリングを予防するように変動させることができる。例えば、約55%のG-C含有量を有する配列について、40~50C、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム緩衝液)、及び0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)といったハイブリダイゼーション及び洗浄条件は、約60~70%の同一性を必要とし、50~65℃、1×SSC、及び0.1%SDSといったハイブリダイゼーション及び洗浄条件は、82~97%の同一性を必要とし、52℃、0.1×SSC、及び0.1%SDSといったハイブリダイゼーション及び洗浄条件は、約99~100%の同一性を必要とする。ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を比較する(並びに同一性の程度を測定する)ためのさまざまなコンピュータープログラムもまた、入手可能であり、市販で入手可能な及び無料のソフトウェアの供給元を提供するリストは、Ausubel et al.(1999)において見つけられる。
【0035】
タンパク質発現
精製トラップタンパク質の産生について、有利には、哺乳類細胞、特にCHO、J558、NSO、又はSP2-O細胞が、使用される。他の適した宿主は、例えば、Sf9などの昆虫細胞を含む。使用することができる哺乳類細胞株の非限定的な例は、CHO dhfr細胞(Urlaub and Chasm,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216(1980))、293細胞(Graham et al.,J Gen.Virol.,36:59(1977))、又はSP2若しくはNSOのような骨髄腫細胞(Galfre and Milstein,Meth.Enzymol.,73(B):3(1981))を含む。従来の培養条件が、用いられる。Sambrook、前掲を参照されたい。安定した形質転換又はトランスフェクト細胞株を、次いで、選択することができる。トラップ分子を発現している細胞は、既知の手順によって特定することができる。例えば、トラップ分子の発現は、結合ドメイン若しくはFcドメインなどのトラップ分子のドメインに対して特異的なELISAによって及び/又はイムノブロッティングによって決定することができる。
【0036】
患者の中に導入され、TGF-βに依存してトラップ分子を発現する宿主細胞について、ヒト宿主細胞が、使用される。患者から取り出すことができる患者自身の細胞を含む種々のヒト宿主細胞が、使用されてもよい。しかしながら、有利には、宿主細胞は、非MHC拘束性であり、そのため、本質的に、いかなる患者においても、宿主細胞に対して患者が免疫反応を引き起こすことなく使用することができるナチュラルキラー(NK)細胞である。適したNK細胞株は、NK-92細胞株であり、これは、当技術分野において知られている。例えば米国特許第7,618,817号明細書及びZhang et al.,Frontiers in Immunol.,vol 8,article 533(2017)を参照されたい。特定の実施形態において、NK-92細胞は、TGF-β誘導性コントロールエレメントのコントロール下にトラップ分子をコードする適した核酸構築物によりトランスフェクトされ、次いで、例えば、静脈内若しくは腹腔内注入又は固形腫瘍若しくは他の癌病変の中への直接的な注射によって、患者の中に導入される。
【0037】
トラップ分子をコードする核酸は、細胞をトランスフェクトするための標準的な技術によって、宿主細胞の中に導入することができる。用語「トランスフェクトすること」又は「トランスフェクション」は、リン酸カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介性のトランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、ウイルス形質導入、及び/又は組込みを含む、核酸を宿主細胞の中に導入するためのすべて従来の技術を包含することを意図する。宿主細胞をトランスフェクトするための適した方法は、Sambrook et al.、前掲及び他の実験テキストにおいて見つけることができる。
【0038】
種々のプロモーター(転写開始調節領域)は、本明細書において記載される分子の発現をコントロールするために使用されてもよい。適切なプロモーターの選択は、提案される発現宿主に依存性である。異種の供給源由来のプロモーターは、それらが選ばれた宿主において機能的である限り、使用されてもよい。上記に記載される通り、TGF-β反応エレメント又はCMVプロモーターを組み込んでいるプロモーターは、有利には、使用される。
【0039】
選択マーカーは、多くの場合、用いられ、選択マーカーは、発現構築物の一部であってもよく又は発現構築物と分離していてもよく(例えば、発現ベクターによって運搬されてもよく)、その結果、マーカーは、興味がある遺伝子と異なる部位に統合してもよい。例として、抗生物質に対する耐性を与える(例えば、blaは、アンピシリンに対する耐性を大腸菌(E.coli)宿主細胞に与え、nptIIは、カナマイシン耐性を多種多様な原核細胞及び真核細胞に与える)又は宿主が最少培地で成長するのを可能にする(例えば、HIS4は、P.パストリス(P.pastoris)が又はHis-は、S.セレビシエ(S.cerevisiae)が、ヒスチジンの非存在下において成長するのを可能にする)マーカーを含む。選択可能なマーカーは、マーカーの非依存性の発現を可能にするそれ自体の転写及び翻訳開始及び終了調節領域を有する。抗生物質耐性がマーカーとして用いられる場合、選択のための抗生物質の濃度は、抗生物質に依存して変動し、一般に、10~600μgの抗生物質/培地1mLの範囲に及ぶであろう。
【0040】
発現構築物は、既知の組換えDNA技術を用いることによって組み立てられてもよい(Sambrook et al.,1989;Ausubel et al.,1999)。制限酵素消化及びライゲーションは、DNAの2つの断片をつなぐために用いられる基本的なステップである。DNA断片の端は、ライゲーションの前に修飾を必要としてもよく、これは、オーバーハングの充填、ヌクレアーゼ(例えばExoIII)による断片の端末部分の欠失、部位特異的変異誘発によって、又はPCRによる新たな塩基対の追加によって達成されてもよい。ポリリンカー及びアダプターは、選択された断片をつなぐのを容易にするために用いられてもよい。発現構築物は、典型的に、制限、ライゲーション、及び大腸菌(E.coli)の形質転換を一巡して、段階的に組み立てられる。
【0041】
発現構築物の構築に適した非常に多くのクローニングベクターが、当技術分野において知られている(Ausubel et al.,1999において挙げられるλZAP及びpBLUESCRIPT SK-1、Stratagene、La Jolla、CA、 pET、Novagen Inc.、Madison、WI)。クローニングベクターの選択は、宿主細胞の中への発現構築物の導入のために選択される遺伝子導入系によって影響を与えられる。各段階の終わりに、結果として生じる構築物は、制限、DNA配列、ハイブリダイゼーション、及びPCR解析によって解析されてもよい。
【0042】
発現構築物は、線状若しくは環状のクローニングベクター構築物として宿主に形質転換されてもよい又はクローニングベクターから取り出され、そのまま使用されてもよい若しくは送達ベクターに導入されてもよい。送達ベクターは、選択された宿主細胞型における発現構築物の導入及び維持を容易にする。発現構築物は、多くの既知の遺伝子導入系のいずれかによって宿主細胞の中に導入される(例えば、自然の受容能、化学的に媒介される形質転換、プロトプラスト形質転換、エレクトロポレーション、微粒子銃形質転換、トランスフェクション、又はコンジュゲーション)(Ausubel又はSambrook、前掲を参照されたい)。選択される遺伝子導入系は、使用される宿主細胞及びベクター系に依存する。
【0043】
標準的なタンパク質精製技術は、培地から又は収集された細胞から、興味があるトラップ分子タンパク質を単離するために使用することができる。特に、精製技術は、ローラーボトル、スピナーフラスコ、組織培養プレート、バイオリアクター、又は発酵槽を含め種々に実施して、所望の融合タンパク質を大規模に(すなわち、少なくともミリグラム量で)発現させ、精製するために使用することができる。
【0044】
発現されたトラップタンパク質は、既知の方法によって単離し、精製することができる。典型的に、培養培地は、遠心分離され又はろ過され、次いで、上清は、アフィニティー若しくはイムノアフィニティークロマトグラフィー、例えばプロテインA若しくはプロテインGアフィニティークロマトグラフィー又は抗体若しくは発現されたトラップ分子に結合する他の結合分子の使用を含むイムノアフィニティープロトコールによって精製される。トラップ分子は、既知の技術の適切な組み合わせによって分離し、精製することができる。これらの方法は、例えば、塩析沈殿及び溶媒沈殿などの溶解度を利用する方法、透析、限外ろ過、ゲルろ過、及びSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動などの分子量における差異を利用する方法、イオン交換カラムクロマトグラフィーなどの電荷における差異を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的な親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性における差異を利用する方法、及び等電点電気泳動などの等電点における差異を利用する方法、Ni-NTAなどの金属アフィニティーカラムを含む。一般に、Sambrook又はAusubel、前掲を参照されたい。
【0045】
トラップ分子は、有利には、実質的に純粋である。すなわち、融合タンパク質は、自然に伴う細胞置換基(cell substituent)から単離されており、その結果、融合タンパク質は、好ましくは、少なくとも80%又は90%~95%の均質性(w/w)で存在する。少なくとも98~99%の均質性(w/w)を有する融合タンパク質は、多くの医薬、臨床、及びリサーチでの適用にとって最も好ましい。一度実質的に精製されたら、融合タンパク質は、治療上の適用にとっての混入物が実質的に取り除かれているはずである。一度部分的に又は実質的に純粋に精製されたら、可溶性融合タンパク質は、治療上又は本明細書において開示されるインビトロ若しくはインビボアッセイを実行する際に使用することができる。実質的な純度は、クロマトグラフィー及びゲル電気泳動などの種々の標準的な技術によって決定することができる。
【0046】
薬物治療
治療薬として使用するためのトラップ分子を含有する医薬組成物が、提供される。トラップ分子は、タンパク質治療薬として投与することができる又はTGFに依存して宿主細胞からインサイツにおいて分泌によって提供されてもよい。
【0047】
一態様において、トラップ分子は、全身投与される、例えば、生理食塩水などの薬学的に許容される緩衝液において製剤される。好ましい投与ルートは、例えば、患者において組成物の継続的な、持続性の、又は有効なレベルを提供する、膀胱の中への注入、皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、腫瘍内、又は皮内注射を含む。ヒト患者又は他の動物の治療は、生理学的に許容されるキャリアにおいて本明細書において特定される治療有効量の治療薬を使用して実行される。適したキャリア及びそれらの製剤は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences by E.W.Martinにおいて記載される。
【0048】
投与される治療剤の量は、投与の方式、患者の年齢、及び体重に依存して並びに新生物の臨床症状により変動する。例えば、投薬量は、約1μgトラップ/体重1kg~約5000mgトラップ/体重1kgの間で;又は約5mg/体重1kg~約4,000mg/体重1kg又は約10mg/体重1kg~約3,000mg/体重1kg;又は約50mg/体重1kg~約2000mg/体重1kg;又は約100mg/体重1kg~約1000mg/体重1kg;又は約150mg/体重1kg~約500mg/体重1kgで変動してもよい。例えば、用量は、約1、5、10、25、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1,000、1,050、1,100、1,150、1,200、1,250、1,300、1,350、1,400、1,450、1,500、1,600、1,700、1,800、1,900、2,000、2,500、3,000、3,500、4,000、4,500、又は5,000mg/体重1kgである。その代わりに、用量は、約5mg化合物/体重1kg~約20mg化合物/体重1kgの範囲にある。別の実施例において、用量は、約8、10、12、14、16、又は18mg/体重1kgである。好ましくは、トラップ分子は、0.5mg/kg~約10mg/kg(例えば0.5、1、3、5、10mg/kg)で投与される。ある実施形態において、トラップは、当業者に知られている方法によって決定されるように、対象の免疫反応を増強する又は新生物、感染、若しくは自己免疫細胞の増殖、生存、若しくは侵襲性を低下させる投薬量で投与される。
【0049】
上記に記載される通り、TGF-βに依存してトラップ分子を分泌する宿主細胞は、患者に投与することができる。細胞は、静脈内若しくは腹腔内注入を介して又は当技術分野において知られている他の方法によって、例えば、固形腫瘍若しくは他の病変の中へ直接的な注射によって送達することができる。ある実施形態において、少なくとも10の細胞、例えば少なくとも10、少なくとも10、少なくとも10、少なくとも10、少なくとも10、又は少なくとも10の細胞が、患者に投与されるであろう。
【0050】
医薬組成物の製剤
トラップ分子の投与は、他の構成成分と組み合わせて、TGF-β活性を阻害する際に有効である治療薬の濃度をもたらす任意の適した方法によるものであってもよい。トラップ分子は、任意の適したキャリア物質において任意の適切な量で含有されてもよく、一般に、組成物の総重量の1~95重量%の量で存在する(例えば少なくとも10%w/w、少なくとも15%w/w、少なくとも20%w/w、少なくとも25%w/w、少なくとも30%w/w。少なくとも40%w/w、少なくとも50%w/w、少なくとも60%w/w、少なくとも70%w/w。少なくとも75%のw/w、少なくとも80%w/w、少なくとも85%w/w、少なくとも90%w/w、及び95%w/w又は約95%w/w)。組成物は、非経口(例えば皮下、静脈内、筋肉内、膀胱内、腫瘍内、又は腹腔内)投与ルートに適している剤形で提供されてもよい。例えば、医薬組成物は、従来の薬務に従って製剤される(例えばRemington:The Science and Practice of Pharmacy(20th ed.),ed.A.R.Gennaro,Lippincott Williams Wilkins,2000及びEncyclopedia of Pharmaceutical Technology,eds.J.Swarbrick and J.C.Boylan,1988-1999,Marcel Dekker,New Yorkを参照されたい)。
【0051】
当業者が、動物モデルと比較してヒトについての投薬量を変えることは、当技術分野において通常のことであると認識するように、ヒトへの投薬の量は、マウス又は非ヒト霊長類において使用される化合物の量から推定することによって最初に決定される。例えば、投薬量は、約1μg化合物/体重1kg~約5000mg化合物/体重1kgの間;又は約5mg/体重1kg~約4,000mg/体重1kg又は約10mg/体重1kg~約3,000mg/体重1kg;又は約50mg/体重1kg~約2000mg/体重1kg;又は約100mg/体重1kg~約1000mg/体重1kg;又は約150mg/体重1kg~約500mg/体重1kgで変動してもよい。例えば、用量は、約1、5、10、25、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1,000、1,050、1,100、1,150、1,200、1,250、1,300、1,350、1,400、1,450、1,500、1,600、1,700、1,800、1,900、2,000、2,500、3,000、3,500、4,000、4,500、又は5,000mg/体重1kgである。その代わりに、用量は、約5mg化合物/体重1Kg~約20mg化合物/体重1kgの範囲にある。別の実施例において、用量は、約8、10、12、14、16、又は18mg/体重1kgである。好ましくは、トラップ分子は、0.5mg/kg~約10mg/kg(例えば0.5、1、3、5、10mg/kg)で投与される。当然、この投薬の量は、このような治療プロトコールにおいて、最初の治験の結果及び特定の患者の必要に依存して、通常行われているように、上又は下に調整されてもよい。
【0052】
ある実施形態において、本明細書において記載されるトラップ分子は、適切な賦形剤と共に、投与と同時にトラップ分子を制御放出する医薬組成物に製剤することができる。例として、単一の又は複数単位の錠剤又はカプセル組成物、油剤、懸濁剤、エマルション、マイクロカプセル、マイクロスフェア、分子複合体、ナノ粒子、パッチ、及びリポソームを含む。好ましくは、トラップ分子は、非経口投与に適した賦形剤において製剤される。
【0053】
非経口組成物
トラップ分子を含む医薬組成物は、注射、注入、又は移植(皮下、静脈内、筋肉内、腫瘍内、膀胱内、腹腔内)によって、従来の無毒性の薬学的に許容されるキャリア及び補助薬を含有する剤形、製剤において、又は適した送達デバイス若しくは移植片を介して、非経口的に投与されてもよい。このような組成物の製剤及び調製は、医薬製剤の当業者によく知られている。製剤は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、前掲において見つけることができる。非経口使用のためのトラップ分子を含む組成物は、単位剤形において(例えば単回用量のアンプルにおいて)提供される。その代わりに、組成物は、数回の用量を含有し、適した防腐剤が追加されてもよいバイアルにおいて提供される。組成物は、水剤、懸濁剤、エマルション、注入デバイス、若しくは移植のための送達デバイスの形態をしている又は組成物は、使用の前に、水若しくは他の適したビヒクルにより元に戻される乾燥粉剤として与えられる。組成物は、適した非経口的に許容されるキャリア及び/又は賦形剤を含んでいてもよい並びに懸濁化剤、可溶化剤、安定化剤、pH調整剤、等張化剤、及び/又は分散剤を含んでいてもよい。
【0054】
上記に示されるように、トラップ分子を含有する医薬組成物は、無菌注射に適した形態をしていてもよい。このような組成物を調製するために、トラップ分子は、非経口的に許容される液体ビヒクル中に溶解される又は懸濁される。用いられてもよい許容されるビヒクル及び溶媒の中には、水、適切な量の塩酸の追加によって適したpHに調整される水、水酸化ナトリウム又は適した緩衝液、1,3-ブタンジオール、リンゲル液、並びに等張塩化ナトリウム溶液及びブドウ糖溶液がある。水性製剤はまた、1つ以上の防腐剤(例えばp-ヒドロキシ安息香酸メチル、エチル、又はn-プロピル)を含有してもよい。化合物の1つがほんのわずかに又はわずかに水に可溶性である場合、溶解増強剤若しくは可溶化剤を追加することができる又は溶媒は、10~60%w/wのプロピレングリコールを含んでいてもよい。
【0055】
本開示は、TGF-β活性を阻害するための或いは新生物、感染症、若しくは自己免疫疾患又はその症状を治療するための方法であって、対象(例えばヒトなどの哺乳類)に、本明細書において記載されるトラップ分子を含む医薬組成物の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。従って、一実施形態は、新生物、感染症、若しくは自己免疫疾患又はその症状に罹患している又は罹りやすい対象を治療するための方法である。方法は、疾患又は障害が治療される条件下で、疾患若しくは障害又はその症状を治療するのに十分なトラップ分子の量の治療量を哺乳類に投与するステップを含む。腫瘍成長を遅延させる又は阻害するなどの所望の治療上の利益を提供する程度まで、患者又は対象におけるTGF-β活性を阻害するのに十分なトラップ分子の量を哺乳類に投与することによって、TGF-β活性を阻害するための方法もまた、提供される。このような治療を必要とする対象を特定することは、対象又は医療従事者の判断によるものとすることができ、主観的(例えば見解)又は客観的(例えば検査若しくは診断方法によって測定可能な)なものとすることができる。
【0056】
治療方法及び予防方法は、哺乳類、特にヒトを含む、それを必要とする対象(例えば動物、ヒト)への治療有効量のトラップ分子の投与を一般に含む。このような治療は、TGF-β活性を阻害することが望ましい対象、特にヒトに適切に投与されるであろう。このような患者は、新生物、感染症、自己免疫疾患、障害、又はその症状に罹患していてもよい、有していてもよい、若しくは罹りやすくてもよい又は危険性があってもよい。「危険性がある」対象の決定は、任意の客観的な又は主観的な決定によって、診断検査又は対象若しくは医療提供者の見解によってなすことができる(例えば遺伝子検査、酵素又はタンパク質マーカー、バイオマーカー、家族歴、及びその他同種のもの)。トラップ分子は、TGF-β活性の減少が所望される任意の他の障害の治療において使用されてもよい。
【0057】
治療進行をモニターするための方法もまた、提供される。方法は、例えば、対象における診断マーカーのレベル又は診断測定値(例えばTGF-βレベル)を決定することを含み、対象は、治療量のトラップ分子又はトラップ分子を分泌する宿主細胞が投与されている。
【0058】
方法において決定される診断マーカーのレベル又は測定値は、対象の疾患ステータスを確定するために、健康な正常のコントロールにおける又は他の罹病患者におけるマーカーの既知のレベルと比較することができる。いくつかの場合において、対象におけるマーカーの第2のレベルは、第1のレベルの決定よりも後の時点で決定され、2つのレベルは、疾患の経過又は療法の有効性をモニターするために比較される。ある態様において、対象におけるマーカーの治療前のレベルは、本明細書において開示される方法に従って、治療を始める前に決定され、マーカーについてのこの治療前のレベルは、次いで、治療の有効性を決定するために、治療が始まった後の対象におけるマーカーのレベルと比較することができる。
【0059】
組み合わせ療法
任意選択で、トラップ分子は、任意の他の標準的な療法と組み合わせて投与される;このような方法は、当業者に知られており、Remington’s Pharmaceutical Sciences by E.W.Martinにおいて記載される。所望される場合、トラップ分子は、任意の従来の抗新生物療法又は免疫療法、治療抗体、標的治療、手術、放射線療法、若しくは化学療法を含むがこれらに限定されない他の療法と組み合わせて投与される。
【0060】
キット又は製剤系
トラップ分子又はトラップ分子を発現する宿主細胞を含む医薬組成物は、対象又は患者におけるTGF-βを阻害し、それによって、新生物、感染症、又は自己免疫疾患などの疾患を寛解させるのに使用するためのキット又は製剤系にまとめられてもよい。キット又は製剤系は、ボックス、カートン、チューブなどのキャリアを含み、バイアル、チューブ、アンプル、瓶、及びその他同種のものなどの1つ以上の容器がその中に密封されていてもよい。キット又は製剤系はまた、トラップ分子を使用するための関連する指示書を含んでいてもよい。
【0061】
定義
「寛解させる」は、疾患の発生又は進行を減少させる、抑制する、軽減する、小さくする、抑える、又は安定化することを意味する。
【0062】
「類似体」は、同一ではないが、類似した機能的又は構造的特徴を有する分子である。例えば、ポリペプチド類似体は、対応する天然に存在するポリペプチドの生物学的活性を保持し、天然に存在するポリペプチドに比べて類似体の機能を増強するある生化学的修飾を有する。このような生化学的修飾は、例えばリガンド結合性を改変することなく、類似体のプロテアーゼ抵抗性、膜透過性、又は半減期を増加させることができる。類似体は、非天然のアミノ酸を含んでいてもよい。
【0063】
分子への「結合」は、その分子に対する物理化学的親和性を有することを意味する。
【0064】
「検出する」は、分析物の存在、不在、又は量を特定することを指す。
【0065】
「疾患」は、細胞、組織、又は器官の正常な機能を損傷する又は干渉する任意の状態又は障害を意味する。疾患の例は、新生物、自己免疫反応、及びウイルス感染症を含む。
【0066】
製剤又は製剤構成成分の「有効量」及び「治療有効量」という用語によって、所望される効果を提供するための、単独の又は組み合わせの、製剤又は構成成分の十分な量を意味する。例えば、「有効量」によって、未治療の患者に比べて疾患の症状を寛解させるのに必要とされる、単独の又は組み合わせの、化合物の量を意味する。疾患の治療処置のために本明細書において開示される方法を実施するために使用される活性化合物の有効量は、投与の様式、対象の年齢、体重、及び健康状態に依存して変動する。最終的に、主治医又は獣医が、適切な量及び投与計画を決めるであろう。このような量は、「有効」量と称される。
【0067】
用語「単離された」、「精製された」、又は「生物学的に純粋な」は、程度はさまざまであるが、自然の状態で見つけられるように、通常伴う構成成分が取り除かれている物質を指す。「単離する」は、本来の供給源又は環境からの分離の程度を意味する。「精製する」は、単離よりも高い分離の程度を意味する。
【0068】
「精製された」又は「生物学的に純粋な」タンパク質は、他の物質が十分に取り除かれており、いかなる不純物も、物質的にタンパク質の生物学的特性に影響を及ぼさない又は他の有害な結果を引き起こさない。すなわち、本明細書において記載される核酸又はペプチドは、組換えDNA技術によって産生される場合に、細胞性の物質、ウイルス性の物質、若しくは培養培地又は化学的に合成される場合に、化学的前駆体若しくは他の化学物質が実質的に取り除かれているのであれば、精製されている。純度及び均質性は、典型的に、分析化学の技術、例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動又は高速液体クロマトグラフィーを使用して決定される。用語「精製された」は、核酸又はタンパク質が、電気泳動ゲル中に本質的に1つバンドを生じることを意味することができる。修飾、例えばリン酸化又はグリコシル化にかけることができるタンパク質については、様々な修飾によって、様々な単離タンパク質を生じてもよく、これらは、別々に精製することができる。
【0069】
同様に、「実質的に純粋な」によって、自然に伴う構成成分から分離されたヌクレオチド又はポリペプチドを意味する。典型的に、ヌクレオチド及びポリペプチドは、少なくとも60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、又はさらに99重量%、自然に関連するタンパク質及び天然に存在する有機分子が取り除かれている場合、実質的に純粋である。
【0070】
「単離核酸」によって、核酸が由来する生物の天然に存在するゲノムにおいて側面に位置するヌクレオチドが取り除かれている核酸を意味する。この用語は、例えば、以下を包含する:(a)天然に存在するゲノムDNA分子の一部であるが、生物中に天然に存在するゲノムにおいて分子のその部分の側面に位置する核酸配列の両方が側面に位置するというわけではないDNA;(b)結果として生じる分子がいかなる天然に存在するベクター又はゲノムDNAとも同一にならないように、ベクターに又は原核生物若しくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれる核酸;(c)cDNA、ゲノム断片、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって産生される断片、又は制限断片などの分離した分子;及び(d)ハイブリッド遺伝子、すなわち、融合タンパク質をコードする遺伝子の一部である組換えヌクレオチド配列。本開示による単離核酸分子は、合成して産生された分子並びに化学的に改変された及び/又は修飾された骨格を有する、任意の核酸をさらに含む。例えば、単離核酸は、精製されたcDNA又はRNAポリヌクレオチドである。単離核酸分子はまた、メッセンジャーリボ核酸(mRNA)分子も含む。
【0071】
「単離ポリペプチド」によって、自然に伴う構成成分から分離されたポリペプチドを意味する。典型的に、ポリペプチドは、自然に関連するタンパク質及び天然に存在する有機分子が少なくとも60重量%取り除かれている場合、単離されている。好ましくは、調製物は、少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、及び最も好ましくは少なくとも99重量%、ポリペプチドである。単離ポリペプチドは、例えば、天然の供給源からの抽出によって、このようなポリペプチドをコードする組換え核酸の発現によって;又はタンパク質を化学的に合成することによって得られてもよい。純度は、任意の適切な方法、例えばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって又はHPLC分析によって測定することができる。
【0072】
「マーカー」によって、疾患又は障害と関連する発現レベル又は活性において改変を有する任意のタンパク質又はポリヌクレオチド又は他の分子を意味する。
【0073】
「新生物」によって、過剰な増殖によって特徴づけられる疾患又は障害を意味する。本明細書において開示されるトラップ分子を使用することができる例証となる新生物は、白血病(例えば急性白血病、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、急性骨髄芽球性白血病、急性前骨髄球性白血病、急性骨髄単球性白血病、急性単球性白血病、急性赤白血病、慢性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病)、真性赤血球増加症、リンパ腫(ホジキン病、非ホジキン病)、ワルデンストレームマクログロブリン血症、重鎖病、並びに肉腫及び癌腫などの固形腫瘍(例えば線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸がん、膵癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、脂腺がん、乳頭状がん、乳頭状腺がん、嚢胞腺がん、髄様がん、気管支原性がん、腎細胞がん、肝がん、胆管がん、絨毛がん、セミノーマ、胎児性がん、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、子宮癌、精巣癌、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、神経膠腫、多形性膠芽腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、脳室上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、希突起膠細胞腫、シュワン細胞腫、髄膜腫、黒色腫神経芽細胞腫、及び網膜芽細胞腫)を含むが、これらに限定されない。特定の実施形態において、新生物は、多発性骨髄腫、ベータ細胞リンパ腫、尿路上皮/膀胱がん、又は黒色腫である。本明細書において使用されるように、「作用物質を得ること」のような「得ること」は、作用物質を合成すること、購入すること、又は入手することを含む。
【0074】
「低下させる」は、少なくとも5%、例えば、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%、又はさらに100%、小さくすることを意味する。
【0075】
「参照」は、標準又はコントロール条件を意味する。
【0076】
「参照配列」は、配列比較のための基準として使用される明確な配列である。参照配列は、特定の配列のサブセット又はその全体であってもよい;例えば、完全長cDNA若しくは遺伝子配列のセグメント又は完全なcDNA若しくは遺伝子配列。ポリペプチドについては、参照ポリペプチド配列の長さは、一般に、少なくとも約16アミノ酸、好ましくは少なくとも約20アミノ酸、より好ましくは少なくとも約25アミノ酸、及びさらにより好ましくは約35アミノ酸、約50アミノ酸、又は約100アミノ酸であろう。核酸については、参照核酸配列の長さは、一般に、少なくとも約50ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約60ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約75ヌクレオチド、及びさらにより好ましくは約100ヌクレオチド又は約300ヌクレオチド又はその辺りの若しくはその間の任意の整数であろう。
【0077】
「特異的に結合する」は、ポリペプチドを認識して、結合するが、自然にポリペプチドを含むサンプル、例えば生物学的サンプル中の他の分子を実質的には認識せず、結合しない化合物又は抗体を意味する。
【0078】
本明細書において開示される方法において有用な核酸分子は、ポリペプチドをコードする任意の核酸分子又はその断片を含む。このような核酸分子は、内在性核酸配列と100%同一である必要はないが、典型的に、実質的な同一性を呈する。内在性配列に対して「実質的な同一性」を有するポリヌクレオチドは、典型的に、二本鎖核酸分子の少なくとも一方の鎖とハイブリダイズすることが可能である。本明細書において開示される方法において有用な核酸分子は、ポリペプチドをコードする任意の核酸分子又はその断片を含む。このような核酸分子は、内在性核酸配列と100%同一である必要はないが、典型的に、実質的な同一性を呈する。内在性配列に対して「実質的な同一性」を有するポリヌクレオチドは、典型的に、二本鎖核酸分子の少なくとも一方の鎖とハイブリダイズすることが可能である。「ハイブリダイズする」によって、ストリンジェンシーについての種々の条件下で、相補的なポリヌクレオチド配列(例えば、本明細書において記載される遺伝子)又はその部分の間で二本鎖分子を形成する対を意味する。(例えばWahl,G.M.and S.L.Berger(1987)Methods Enzymol.152:399;Kimmel,A.R.(1987)Methods Enzymol.152:507を参照されたい)。
【0079】
例えば、ストリンジェントな塩濃度は、普通、約750mM NaCl及び75mMクエン酸三ナトリウム未満、好ましくは約500mM NaCl及び50mMクエン酸三ナトリウム未満、並びにより好ましくは約250mM NaCl及び25mMクエン酸三ナトリウム未満であろう。低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、有機溶媒、例えばホルムアミドの非存在下において得ることができるが、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、少なくとも約35%のホルムアミド、より好ましくは少なくとも約50%のホルムアミドの存在下において得ることができる。ストリンジェントな温度条件は、普通、少なくとも約30℃、より好ましくは少なくとも約37℃、及び最も好ましくは少なくとも約42℃の温度を含む。ハイブリダイゼーション時間、洗剤、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の濃度、及びキャリアDNAの包含又は除外などのさまざまな追加のパラメーターは、当業者らによく知られている。ストリンジェンシーの種々のレベルは、必要に応じてこれらの種々の条件を組み合わせることによって達成される。好ましい実施形態において、ハイブリダイゼーションは、750mM NaCl、75mMクエン酸三ナトリウム、及び1%SDSにおいて30℃で行われるであろう。より好ましい実施態様において、ハイブリダイゼーションは、500mM NaCl、50mMクエン酸三ナトリウム、1%SDS、35%ホルムアミド、及び100.mu.g/ml変性サケ精子DNA(ssDNA)において37℃で行われるであろう。最も好ましい実施形態において、ハイブリダイゼーションは、250mM NaCl、25mMクエン酸三ナトリウム、1%SDS、50%ホルムアミド、及び200μg/ml ssDNAにおいて42℃で行われるであろう。これらの条件に対する有用な変更は、当業者らに容易に明らかになるであろう。
【0080】
ほとんどの適用について、ハイブリダイゼーションに続く洗浄ステップもまた、ストリンジェンシーが変動するであろう。洗浄ストリンジェンシー条件は、塩濃度によって及び温度によって定義することができる。上記のように、洗浄ストリンジェンシーは、塩濃度を減少させることによって又は温度を増加させることによって増加させることができる。例えば、洗浄ステップについてのストリンジェントな塩濃度は、好ましくは、約30mM NaCl及び3mMクエン酸三ナトリウム未満並びに最も好ましくは約15mM NaCl及び1.5mMクエン酸三ナトリウム未満であろう。洗浄ステップについてのストリンジェントな温度条件は、普通、少なくとも約25℃、より好ましくは少なくとも約42℃、及びさらにより好ましくは少なくとも約68℃の温度を含むであろう。好ましい実施形態において、洗浄ステップは、30mM NaCl、3mMクエン酸三ナトリウム、及び0.1%SDSにおいて25℃で行われるであろう。より好ましい実施態様において、洗浄ステップは、15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウム、及び0.1%SDSにおいて42Cで行われるであろう。より好ましい実施形態において、洗浄ステップは、15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウム、及び0.1%SDSにおいて68℃で行われるであろう。これらの条件に対する追加の変更は、当業者らに容易に明らかになるであろう。ハイブリダイゼーション技術は、当業者らによく知られており、例えばBenton and Davis(Science 196:180,1977);Grunstein and Hogness(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 72:3961,1975);Ausubel et al.(Current Protocols in Molecular Biology,Wiley Interscience,New York,2001);Berger and Kimmel(Guide to Molecular Cloning Techniques,1987,Academic Press,New York);及びSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New Yorkにおいて記載される。
【0081】
ポリペプチド又は核酸分子は、参照アミノ酸配列(例えば、本明細書において記載されるアミノ酸配列のいずれか1つ)又は核酸配列(例えば、本明細書において記載される核酸配列のいずれか1つ)に対して少なくとも50%の同一性を呈する場合、「実質的に同一である」。好ましくは、このような配列は、比較のために使用される配列に対して、アミノ酸レベル又は核酸で、少なくとも60%、より好ましくは80%又は85%、より好ましくは90%、95%、又はさらに99%同一である。2つ以上の核酸又はポリペプチド配列に関する用語「同一の」又は「同一性」パーセントは、比較ウインドウ上で比較され、一致が最大となるようにアラインメントされる場合に、同じである又は同じである特定のパーセンテージのアミノ酸残基若しくはヌクレオチドを有する、2つ以上の配列又はサブ配列を指す。本開示の目的のためのアミノ酸又は核酸配列同一性の程度は、Altschul et al.(199)J.Mol.Biol.215:403-10において記載されるBLASTアルゴリズムを使用して決定され、これは、National Center for Biotechnology Information(ウェブアドレスwww.ncbi.nlm.nih.gov)によって提供されるソフトウェアを通して公的に入手可能である。このアルゴリズムは、データベース配列における同じ長さのワードとアラインメントされた場合にマッチする又はいくらか正の値の閾値スコアTを満たす、問い合わせ配列における長さWのショートワードを特定することによって、高スコアリング配列対(HSPS)を特定する。Tは、隣接ワードスコア閾値と呼ばれる(Altschul et al.、前掲)。最初の隣接ワードヒットは、それらを含有するより長いHSPを見つけるために検索を開始するためのシードの働きをする。次いで、ワードヒットは、累積アライメントスコアが増加し得る限り、それぞれの配列に沿って両方向に拡張される。累積スコアは、パラメーターM(マッチする残基の対についてのリワードスコア;常に>0)及びN(ミスマッチする残基についてのペナルティースコア;常に<0)を使用してヌクレオチド配列について計算される。アミノ酸配列については、スコアリングマトリックスが、累積スコアを計算するために使用される。それぞれの方向におけるワードヒットの拡張は、累積アライメントスコアが、その最大達成値から数量X下がる;累積スコアが、1つ以上の負のスコアリング残基アライメントの蓄積により0若しくはそれ未満になる;又は一方の配列の末端部に到達する場合に停止する。アミノ酸配列又は核酸配列の同一性パーセントを決定するために、BLASTプログラムのデフォルトパラメーターを使用することができる。アミノ酸配列の解析については、BLASTPデフォルトは、以下の通りである:ワード長(W)、3;期待値(E)、10;及びBLOSUM62スコアリングマトリックス。核酸配列の解析については、BLASTNプログラムのデフォルトは、ワード長(W)、11;期待値(E)、10;M=5;N=-4;及び両方の鎖の比較である。TBLASTNプログラム(ヌクレオチド配列データベースに問い合わせるためにタンパク質配列を使用する)は、デフォルトとして3のワード長(W)、10の期待値(E)、及びBLOSUM 62スコアリングマトリックスを使用する。(Henikoff & Henikoff(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915を参照されたい)。
【0082】
配列同一性パーセントの計算に加えて、BLASTアルゴリズムはまた、2つの配列の間の類似性の統計分析も実行する(例えばKarlin & Altschul(1993)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 90:5873-87を参照されたい)。最小確率和(the smallest sum probability)(P(N))は、2つのヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の間のマッチが偶然起こるであろう確率の指標を提供する。例えば、参照核酸に対する試験核酸の比較における最小確率和が約0.01未満である場合、核酸は、参照配列に類似しているとみなされる。
【0083】
用語「治療すること」及び「治療」は、症状の重症度及び/若しくは頻度における低下に影響を及ぼすための、症状及び/若しくはそれらの根底にある原因を排除するための、並びに/又は損傷の改善若しくは回復を容易にするための、有害な状態、障害、又は疾患に罹病している臨床症状を示す個人への作用物質又は製剤の投与を指す。除外するわけではないが、障害又は状態を治療することは、障害、状態、又はそれに関連する症状が完全に排除されることを必要とするものではないことが十分に理解されるであろう。
【0084】
用語「予防すること」及び「予防」は、特定の有害な状態、障害、又は疾患に罹りやすい又は素因のある、臨床症状を示さない個人への作用物質又は組成物の投与を指し、従って、症状及び/又はそれらの根底にある原因の発生の予防に関する。
【0085】
詳細に述べられない又は文脈から明らかでない限り、本明細書において使用されるように、用語「又は(or)」は、包括的であることが理解される。詳細に述べられない又は文脈から明らかでない限り、本明細書において使用されるように、用語「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、単数又は複数であることが理解される。
【0086】
詳細に述べられない又は文脈から明らかでない限り、本明細書において使用されるように、用語「約」は、当技術分野において通常許容される範囲内、例えば、平均の2標準偏差内として理解される。「約」は、所定の値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、又は0.01%内として理解することができる。
【0087】
以下の実施例は、アッセイ、スクリーニング、及び治療方法を組み立てて、使用する方法について完全な開示及び説明を当業者らに提供するために示される。これらの実施例は、本明細書において主張される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0088】
材料及び方法:
TGF-βレポーター細胞株.TGF-β反応性の安定した細胞株は、メーカー推奨のプロトコールに従ってLipofectamineを使用して、TGF-β反応エレメントによって駆動されるルシフェラーゼを含有する発現プラスミドであるpGL4.28(Promega)をHEK-293T細胞にトランスフェクトすることによって作製した。トランスフェクト細胞は、2ヵ月間、ハイグロマイシンを使用して選択した。
【0089】
トランスフェクション.TGF-βトラップ構築物は、TGF-βレポーター293T細胞株に、推奨されるプロトコールを使用して、Lipofectamine(Thermo Fisher)で一過性にトランスフェクトし、次いで、一晩インキュベートした。細胞は、次いで、18時間、図に示す濃度で、TGF-β1、TGF-β2、又はマウスTGF-β1(Cell Signaling Technology)により刺激した。刺激後、反応は、推奨されるプロトコールに従って、Luciferase Assay System(Promega)を使用してアッセイした。
【0090】
IgG力価測定:TGF-βトラップIgG融合物の力価は、ForteBio Octet Red96機でプロテインAバイオセンサーを使用して測定した。HEK-293T細胞に、TGF-βトラップ構築物をトランスフェクトし、18時間インキュベートし、次いで、細胞培養上清を、収集し、濃縮した。濃縮した上清を、200μlの最終容量まで、1×PBS中で10倍に希釈し、96ウェルプレート中に置いた。プロテインAバイオセンサーは、測定の前に10分間、1×PBS中でインキュベートした。アッセイは、25℃で実行して、読み取り、各サンプルのIgG濃度は、PBS中に希釈した精製抗体の既知の濃度で生成した検量線と比較することによって決定した。
【0091】
実施例1:恒常的に活性なTGF-βトラップ構築物によるTGF-β反応の阻害
TGF-β誘導型ルシフェラーゼを安定して発現する293T細胞株に、CMV駆動型発現構築物をトランスフェクトし、Sushiドメイン(Sushi)、無修飾ヒンジ(AltH)、Fcドメイン(Fc)、TGFBRII(トラップ)あり又はなし対修飾ヒンジ((C27S)H)、Fc、TGFBRII(トラップ)あり又はなしを比較した。(配列番号15、17、19、及び21;配列番号14、16、18、及び20の対応するDNA配列を有する)。細胞は、一晩インキュベートし、洗浄し、示す濃度のTGF-βにより刺激した。結果として生じるルシフェラーゼ活性は、18時間後に測定した。図1A及び1Bにおいて示されるデータは、トラップ構築物が、低レベル(0~1ng/ml)でTGF-βを阻害したが、修飾ヒンジを有する構築物だけが、高濃度で有効であったことを実証する。
【0092】
実施例2:TGF-β誘導性トラップ構築物によるTGF-β反応の阻害
TGF-β誘導型ルシフェラーゼを安定して発現する293T細胞株に、TGF-β反応エレメント(TGFBRE)駆動型発現構築物をトランスフェクトし、Sushiドメイン(Sushi)、無修飾ヒンジ(AltH)、Fcドメイン(Fc)、TGFBRII(トラップ)あり又はなし対修飾ヒンジ((C27S)H)、Fc、TGFBRII(トラップ)あり又はなしを比較した。(配列番号7、9、11、及び13;配列番号6、8、10、及び12の対応するDNA配列を有する)。細胞は、一晩インキュベートし、洗浄し、示す濃度のTGF-βにより刺激した。結果として生じるルシフェラーゼ活性は、18時間後に測定し、データは、図2A及び2Bに示す。本来の構築物は、誘導性の形式でTGF-β活性をブロックすることができなかったが、修飾された構築物は、低濃度(0.1ng/ml)で有効であり、中~高濃度(1~10ng/ml)でなお中和活性を実証した。
【0093】
実施例3:293T-TGF-β安定株(stable)におけるTGF-βトラップ発現構築物の試験
TGF-β誘導型ルシフェラーゼを安定して発現する293T細胞株に、TGF-β反応エレメント(TGFBRE)駆動型発現構築物をトランスフェクトし、Sushiドメイン(Sushi)、無修飾ヒンジ(AltH)、Fc、TGFBRII(トラップ)あり又はなし対修飾ヒンジ((C27S)H)、Fc、TGFBRII(トラップ)あり又はなしを比べた(配列番号7、17、11、及び13;配列番号6、16、10、及び12の対応するDNA配列を有する)。細胞は、一晩インキュベートし、洗浄し、示されるように「低濃度帯の」既知濃度のTGF-βを滴下して刺激した。結果として生じるルシフェラーゼ活性は、24時間後に測定した。図3において示されるデータは、修飾ヒンジを有する構築物が、非常に有効であることを示した。
【0094】
実施例4:293T-TGF-β安定株におけるN-term対C-term融合TGF-βトラップの試験
TGF-β誘導型ルシフェラーゼを安定して発現する293T細胞株に、CMV駆動型発現構築物をトランスフェクトし、修飾ヒンジ((C27S)H)を有するC末端(C-term)対N末端(N-term)TGF-βRII(トラップ)Fc融合タンパク質を比較した配列番号17、21、及び23;配列番号16、20、及び22の対応するDNA配列を有する)。細胞は、一晩インキュベートし、洗浄し、示されるようにTGF-βにより刺激した。結果として生じるルシフェラーゼ活性は、24時間後に測定した。図4におけるデータは、C末端対N末端融合タンパク質の間で、活性における見分けのつく差異を示さない。
【0095】
実施例5:TGF-βトラップがTGF-β2を中和することができる能力についての決定
TGF-β誘導型ルシフェラーゼを安定して発現する293T細胞株に、CMV駆動型又はTGF-β反応エレメント(TGFBRE)駆動型発現構築物をトランスフェクトし、次いで、既知濃度のTGF-β2を滴下して刺激した。細胞は、一晩インキュベートし、結果として生じるルシフェラーゼ活性は、24時間後に測定した。図5A及び5Bにおけるデータは、TGF-β2を阻害する、CMV駆動型構築物の部分的な能力及びTGFBRE駆動型構築物の最小限の能力を示すが、TGFBRE駆動型構築物は、TGF-β2を中和する、見分けることができる能力を有していなかった。
【0096】
実施例6:TGF-βトラップがマウスTGF-β2を中和することができる能力についての決定
TGF-β誘導型ルシフェラーゼを安定して発現する293T細胞株に、CMV駆動型又はTGF-β反応エレメント(TGFBRE)駆動型発現構築物をトランスフェクトし(配列番号8及び16において示されるDNA配列)、次いで、既知濃度のマウスTGF-β1(mTGF-β1)を滴下して刺激した。細胞は、一晩インキュベートし、結果として生じるルシフェラーゼ活性は、24時間後に測定した。図6A及び6Bにおいて示されるデータは、CMV駆動型及びTGFBRE駆動型トラップ発現構築物がマウスTGF-β誘導型ルシフェラーゼ活性を阻害することが可能であったことを示す。
【0097】
実施例7:TGF-β-トラップの産生に対するSushiドメイン及びヒンジ修飾の効果の決定
293T細胞株に、Sushiドメイン及び本来の無修飾ヒンジ配列(AltH)を含有する、AltHを有するがSushiドメインを含有しない、又は修飾ヒンジ((C27S)H)を有するがSushiを含有しないCMV駆動型TGFBRIIトラップFc融合タンパク質発現構築物をトランスフェクトした。細胞を休ませ、24時間、無血清培地中で培養し、結果として生じる上清を濃縮し、ヒトIgG Fcのレベルを測定した。図7において示されるデータは、Sushiなし、C27Sヒンジ産物が、最も高い濃度を実証したことを示す。
【0098】
他の実施形態
本発明が、その特定の実施形態への参照により、詳細に示され、記載されたが、形態及び詳細における種々の変更が、添付の特許請求の範囲によって包含される範囲から逸脱することなくなされてもよいことが当業者らに理解されるであろう。
本開示は以下の実施形態を包含する。
[1] トランスフォーミング増殖因子-ベータ受容体2型(TGFβRII)のリガンド結合ドメインに融合された免疫グロブリン定常ドメイン(Fc)を含むTGF-βトラップであって、
前記トラップは、Sushiドメインを含有しない、及び
前記免疫グロブリンFcドメインは、N末端免疫グロブリンヒンジ領域をさらに含み、前記ヒンジ領域の少なくとも1つの不対システイン残基は、セリン残基によって置き換えられる、TGF-βトラップ。
[2] 前記TGFβRIIは、可動性ペプチドリンカー成分を介して前記Fc領域に連結される、実施形態1に記載のトラップ。
[3] TGFβRIIの前記リガンド結合ドメインは、前記可動性ペプチドリンカー成分を介して前記Fcドメインのカルボキシ末端に連結される、実施形態2に記載のトラップ。
[4] TGFβRIIの前記リガンド結合ドメインは、前記可動性ペプチドリンカー成分を介して前記Fcドメインの前記ヒンジ領域のアミノ末端に連結される、実施形態2に記載のトラップ。
[5] 前記ヒンジ領域のC27残基は、セリン残基によって置き換えられる、実施形態1~4のいずれかに記載のトラップ。
[6] 前記トラップは、構造:NH2-ヒンジ-Fc-リンカー-TGFβRII-CO2Hを有する、実施形態1~3又は5のいずれかに記載のトラップ。
[7] 前記トラップは、構造:NH2-TGFβRII-リンカー-ヒンジ-Fc-CO2Hを有する、実施形態1、2、4、又は5のいずれかに記載のトラップ。
[8] 前記可動性リンカーは、G4Sリピートを含む、実施形態1~7のいずれかに記載のトラップ。
[9] 前記リンカーは、5つのG4Sリピートを含む、実施形態8に記載のトラップ。
[10] 前記トラップは、配列番号24に対して少なくとも85%同一な又は配列番号25に対して少なくとも85%同一なアミノ酸配列を含む、実施形態1に記載のトラップ。
[11] ペプチドシグナル配列は、前記トラップのアミノ末端に融合される、実施形態1~10のいずれかに記載のトラップ。
[12] 実施形態1~11のいずれかに記載のトラップをコードする核酸分子。
[13] 実施形態12に記載の核酸を含む発現ベクター。
[14] 前記核酸は、誘導性プロモーターに作動可能に連結される、実施形態13に記載のベクター。
[15] 前記誘導性プロモーターは、TGF-β誘導性プロモーターを含む、実施形態14に記載のベクター。
[16] 前記核酸は、恒常的に活性であるプロモーターに作動可能に連結される、実施形態13に記載のベクター。
[17] 前記恒常的に活性なプロモーターは、CMVプロモーターである、実施形態16に記載のベクター。
[18] 実施形態13~17のいずれかに記載のベクターを含む宿主細胞。
[19] 前記宿主細胞は、IL-2依存性ナチュラルキラー細胞である、実施形態18に記載の宿主細胞。
[20] 対象においてTGF-βの活性を阻害するための方法であって、それを必要とする対象に、実施形態1~10のいずれかに記載のトラップの有効量を投与することを含む方法。
[21] 対象においてTGF-βの活性を阻害するための方法であって、有効量の前記TGF-βトラップを産生するのに十分な量の、実施形態18又は19に記載の宿主細胞を含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法。
[22] 対象において新生物を治療するための方法であって、実施形態18又は19に記載の宿主細胞を含む組成物の治療有効量をそれを必要とする対象に投与することを含む方法。
[23] 前記宿主細胞は、非経口的に、静脈内に、腫瘍周囲に、又は注入によって投与される、実施形態21又は22に記載の方法。
[24] 追加の治療剤を前記対象に投与することをさらに含む、実施形態20~23のいずれかに記載の方法。


図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
【配列表】
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