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特許7375164ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体
<図1>
  • 特許-ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20231030BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20231030BHJP
   C08L 23/18 20060101ALI20231030BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20231030BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20231030BHJP
   B60R 13/02 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/16
C08L23/18
C08K5/20
C08K5/10
B60R13/02 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022509389
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2021005280
(87)【国際公開番号】W WO2021192710
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2020050549
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】串 聡志
(72)【発明者】
【氏名】福田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 周一
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/046086(WO,A1)
【文献】特開2007-051769(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195787(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/117185(WO,A1)
【文献】特開2006-111864(JP,A)
【文献】特開2004-083888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/10
C08L 23/16
C08L 23/18
C08K 5/20
C08K 5/10
B60R 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機充填材を含まないポリプロピレン系樹脂組成物であって、
(A)(a-1)JIS K 7210に準拠した方法で測定したメルトフローレート(MFR、230℃、21.16N荷重)が120g/10min以上250g/10min以下であり、プロピレンから導かれる構成単位の含量が98mol%以上100mol%以下であり、エチレン及び炭素原子数4~8のα-オレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種のオレフィンから導かれる構成単位の含量が0mol%以上2mol%以下であるプロピレン系重合体の30質量部以上80質量部以下と、(a-2)135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が4dl/g以上7dl/g以下であり、エチレンから導かれる構成単位の含量が30mol%以上60mol%以下であるプロピレン・エチレン共重合体の0.01質量部以上30質量部以下とからなり、(a-1)と(a-2)の合計が60質量部以上90質量部以下であるポリプロピレン系樹脂、及び、
(B)JIS K 7210に準拠した方法で測定したメルトフローレート(MFR、230℃、21.16N荷重)が0.1g/10min以上7g/10min以下であり、エチレン含有率が65mol%以上90mol%以下である、エチレンと炭素原子数3~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンとからなるエチレン・α-オレフィン共重合体の10質量部以上40質量部以下
を含み(ただし、(A)と(B)の合計が100質量部である)、
さらに(A)と(B)の合計100質量部に対して、
(C)脂肪酸アミド0.2質量部以上1質量部以下、及び
(D)界面活性剤0.1質量部以上1質量部以下
を含むポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
プロピレン系重合体のJIS K 7210に準拠した方法で測定したメルトフローレート(MFR、230℃、21.16N荷重)が、120g/10min以上200g/10min以下である請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
脂肪酸アミドが、炭素原子数8~25の脂肪酸アミド及びその2量体からなる群より選ばれる1種以上の脂肪酸アミドである請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
界面活性剤が、炭素原子数8~25のエステル基を1つ又は2つ有する化合物である請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物からなる成形体。
【請求項6】
射出成形体である請求項5に記載の成形体。
【請求項7】
自動車内外装部材である請求項5に記載の成形体。
【請求項8】
自動車ドア部材又はピラー部材である請求項7に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体に関し、より詳しくは、ピラートリム、ドアトリム、ドアパネルなどの自動車内外装部材の製造に好適なポリプロピレン系樹脂組成物、及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ピラートリム、ドアトリム、ドアパネルなどの自動車内外装部材の原料としては、軽量で成形性に優れる各種樹脂の使用が試みられている。例えば、アクリロニトリル-スチレン系樹脂(AS系樹脂)又はポリプロピレン系樹脂(PP系樹脂)の表面をポリ塩化ビニル等の軟質樹脂表皮で被って皮革調に加飾した部材や、シボ加工したAS系樹脂やPP系樹脂表面に塗装を施して皮革調に加飾した部材が使用されている。
【0003】
近年、自動車の生産工程の簡略化や、使用後の材料のリサイクルに対する要求が高まっている。このような点から、自動車内外装部材においても、シボ加工などの表面加工を行った樹脂成形体を、塗装を施すことなく用いることに対する要求が高まっている。しかし、塗装を施していないPP系樹脂の成形体では、組み立て時や使用時に傷が生じ易い。
【0004】
そこで、自動車内外装部材として好適な特性を有すると共に、耐傷付き性に優れた成形体を製造する為の以下の方法や組成物が提案されている。
・フィラーにより強度を向上させる方法(特許文献1参照)。
・結晶性に優れた樹脂成分を用いることにより硬度を向上させる方法(特許文献2参照)。
・タルク及び傷付き改良剤を含み、アイゾット衝撃強度及び耐傷付き性に優れるポリプロピレン系組成物(特許文献3参照)。
・特定のプロピレン・エチレンブロック共重合体とタルクと脂肪酸アミドを含み、突出部形成時に生じる白化に対する耐性(耐突出白化性)及び耐傷付き性に優れるプロピレン系樹脂組成物(特許文献4参照)。
・3種類の特定のポリプロピレンと特定のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムを含み、物性バランス及び耐傷付き性に優れるポリプロピレン系樹脂組成物(特許文献5参照)。
【0005】
さらに自動車内外装部材の用途においては、引っかき傷などの傷だけでなく、ゴム等の軟質物で擦ることによる自動車内外装部材の表面状態の悪化もまた問題となる。その理由は、例えば、自動車内外装部材の表面が靴底で蹴られる事態も生じ易いからである。そこで、2種類の特定のポリプロピレン系樹脂と特定のエチレン・α-オレフィン共重合体と脂肪酸アミド(滑剤)と界面活性剤を含み、耐足蹴り傷付き性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物(特許文献6参照)が提案されている。
【0006】
また、特定条件で測定したポリプロピレン系樹脂(A)の粘度[(A)η]とエチレン・α-オレフィン共重合体(B)の粘度[(B)η]の比[(B)η/(A)η]を特定の低い範囲内とすることによって、耐足蹴り傷付き性及びその他の表面特性が優れるとともに、無機充填剤の含有量を低減できるポリプロピレン系樹脂組成物(特許文献7参照)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-079117号公報
【文献】特開2012-132024号公報
【文献】特開2002-060560号公報
【文献】特開2003-055529号公報
【文献】特開2004-051769号公報
【文献】国際公開第2014/046086号
【文献】国際公開第2019/117185号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、以上説明した従来のポリプロピレン系樹脂組成物には、無機充填材を含有しない場合における耐足蹴り傷付き性及び耐衝撃性についてさらなる改善の余地があると考えた。すなわち本発明の目的は、無機充填材を含有しなくても耐足蹴り傷付き性に優れ、かつ、耐衝撃性に優れるポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の成分を特定量含有するポリプロピレン系樹脂組成物が非常に有効であることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
[1]無機充填材を含まないポリプロピレン系樹脂組成物であって、
(A)(a-1)JIS K 7210に準拠した方法で測定したメルトフローレート(MFR、230℃、21.16N荷重)が120g/10min以上250g/10min以下であり、プロピレンから導かれる構成単位の含量が98mol%以上100mol%以下であり、エチレン及び炭素原子数4~8のα-オレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種のオレフィンから導かれる構成単位の含量が0mol%以上2mol%以下であるプロピレン系重合体の30質量部以上80質量部以下と、(a-2)135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が4dl/g以上7dl/g以下であり、エチレンから導かれる構成単位の含量が30mol%以上60mol%以下であるプロピレン・エチレン共重合体の0質量部以上30質量部以下とからなり、(a-1)と(a-2)の合計が60質量部以上90質量部以下であるポリプロピレン系樹脂、及び、
(B)JIS K 7210に準拠した方法で測定したメルトフローレート(MFR、230℃、21.16N荷重)が0.1g/10min以上7g/10min以下であり、エチレン含有率が65mol%以上90mol%以下である、エチレンと炭素原子数3~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンとからなるエチレン・α-オレフィン共重合体の10質量部以上40質量部以下
を含み(ただし、(A)と(B)の合計が100質量部である)、
さらに(A)と(B)の合計100質量部に対して、
(C)脂肪酸アミド:0.2質量部以上1質量部以下、及び
(D)界面活性剤:0.1質量部以上1質量部以下
を含むポリプロピレン系樹脂組成物。
【0011】
[2]プロピレン系重合体のJIS K 7210に準拠した方法で測定したメルトフローレート(MFR、230℃、21.16N荷重)が120g/10min以上200g/10min以下である[1]に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[3]脂肪酸アミドが、炭素原子数8~25の脂肪酸アミド及びその2量体からなる群より選ばれる1種以上の脂肪酸アミドである[1]または[2]に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[4]界面活性剤が、炭素原子数8~25のエステル基を1つ又は2つ有する化合物である[1]~[3]の何れかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[5][1]~[4]の何れかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物からなる成形体。
[6]射出成形体である[5]に記載の成形体。
[7]自動車内外装部材である[5]又は[6]に記載の成形体。
[8]自動車ドア部材又はピラー部材である[7]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、無機充填材を含有しなくても耐足蹴り傷付き性に優れ、かつ、耐衝撃性に優れるポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体を提供できる。さらに、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体は、無機充填材を含有しないので、軽量化の点でも有利な場合がある。したがって、本発明の成形体は、それら特性が必要とされる用途、特に、自動車ドア部材やピラー部材のような自動車内外装部材用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例におけるスカッフ足蹴り試験を説明する為の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<ポリプロピレン系樹脂(A)>
本発明にかかるポリプロピレン系樹脂組成物の成分(A)としてのポリプロピレン系樹脂[ポリプロピレン系樹脂(A)ともいう]は、プロピレン系重合体(a-1)を必須成分として含み、必要に応じてプロピレン・エチレン共重合体(a-2)を含む。
【0015】
ポリプロピレン系樹脂(A)に含まれる成分(a-1)としてのプロピレン系重合体[プロピレン系重合体(a-1)ともいう]は、プロピレンの単独重合体又はプロピレンと少量のプロピレン以外のオレフィンとの共重合体(実質的な単独重合体)である。ここでプロピレン以外のオレフィンとしては、エチレン及び炭素原子数4~8のα-オレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種のオレフィンを挙げることができ、エチレンが好ましい。
【0016】
プロピレン系重合体(a-1)において、プロピレンから導かれる構成単位の含量は98mol%以上100mol%以下であり、エチレン及び炭素原子数4~8のα-オレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種のオレフィンから導かれる構成単位の含量は0mol%以上2mol%以下である。プロピレン系重合体(a-1)としては、プロピレン単独重合体が好ましい。
【0017】
プロピレン系重合体(a-1)のJIS K 7210に準拠した方法で測定したメルトフローレート(MFR、230℃、21.16N荷重)は、120g/10min以上250g/10min以下である。このMFRが120g/10min以上であれば、優れた耐足蹴り傷付き性が発現する傾向にある。また、このMFRが250g/10min以下であれば、優れた耐衝撃性が発現する傾向にあり、例えば、自動車ドア部材やピラー部材等の自動車内外装部材において要求される耐衝撃性等の性能を十分満たす傾向にある。このMFRは、好ましくは120g/10min以上220g/10min以下、より好ましくは120g/10min以上200g/10min以下、更に好ましくは120g/10min以上200g/10min未満、更に好ましくは120g/10min以上190g/10min以下である。
【0018】
プロピレン系重合体(a-1)の製造方法は特に限定されない。例えば、公知のオレフィン重合用触媒の存在下で、プロピレンを単独重合し、あるいは必要に応じてプロピレンと少量のプロピレン以外のオレフィンとを共重合することによりプロピレン系重合体(a-1)を得ることができる。オレフィン重合用触媒の具体例としては、チタン系触媒、メタロセン系触媒が挙げられる。
【0019】
プロピレン系重合体(a-1)は、1種のプロピレン系重合体から、あるいはMFR及びオレフィンから導かれる構成単位の含量の少なくとも一方が異なる2種以上のプロピレン系重合体を組み合わせて調製することができる。
例えば、目的とするMFRよりも低いMFRのプロピレン系重合体の少なくとも1種と、目的とするMFRよりも高いMFRのプロピレン系重合体の少なくとも1種を組み合わせて、目的とするMFRのプロピレン系重合体(a-1)を調製してもよい。
【0020】
ポリプロピレン系樹脂(A)に必要に応じて含まれる成分(a-2)としてのプロピレン・エチレン共重合体[プロピレン・エチレン共重合体(a-2)ともいう]は、ブロック共重合体でもあっても良いし、ランダム共重合体であっても良い。特に、ブロック共重合体が好ましい。
【0021】
プロピレン・エチレン共重合体(a-2)において、エチレンから導かれる構成単位の含量は30mol%以上60mol%以下であり、好ましくは30mol%以上55mol%以下、より好ましくは30mol%以上50mol%以下である。
【0022】
プロピレン・エチレン共重合体(a-2)の135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]は、4dl/g以上7dl/g以下である。この極限粘度[η]が4dl/g以上であれば、優れた耐足蹴り傷付き性が発現する傾向にある。また、この極限粘度[η]が7dl/g以下であれば、優れた耐衝撃性が発現する傾向にあり、例えば、自動車ドア部材やピラー部材等の自動車内外装部材において要求される耐衝撃性等の性能を十分満たす傾向にある。この極限粘度[η]は、好ましくは4.1dl/g以上6.8dl/g以下、より好ましくは4.2dl/g以上6.5dl/g以下である。
【0023】
プロピレン・エチレン共重合体(a-2)の製造方法は特に限定されない。例えば、公知のオレフィン重合触媒の存在下で、プロピレンとエチレンとを共重合することによりプロピレン・エチレン共重合体(a-2)を得ることができる。オレフィン重合用触媒の具体例としては、チタン系触媒、メタロセン系触媒が挙げられる。
【0024】
プロピレン・エチレン共重合体(a-2)は、1種のプロピレン・エチレン共重合体から、あるいは極限粘度及びエチレンから導かれる構成単位の含量の少なくとも一方が異なる2種以上のプロピレン・エチレン共重合体を組み合わせて調製することができる。
例えば、目的とする極限粘度よりも低い極限粘度のプロピレン・エチレン共重合体の少なくとも1種と、目的とする極限粘度よりも高い極限粘度のプロピレン・エチレン共重合体の少なくとも1種を組み合わせて、目的とする極限粘度のプロピレン・エチレン共重合体(a-2)を調製してもよい。
【0025】
ポリプロピレン系樹脂(A)において、プロピレン系重合体(a-1)の割合は30質量部以上80質量部以下であり、好ましくは45質量部以上80質量部以下、より好ましくは55質量部以上80質量部以下である。プロピレン・エチレン共重合体(a-2)の割合は0質量部以上30質量部以下であり、好ましくは0質量部以上20質量部以下、より好ましくは0質量部以上15質量部以下である。
ポリプロピレン系樹脂(A)がプロピレン・エチレン共重合体(a-2)を含む場合において、プロピレン・エチレン共重合体(a-2)の割合の範囲の下限値は、好ましくは0.01質量部、より好ましくは0.05質量部、更に好ましくは0.1質量部である。
これらの割合は、ポリプロピレン系樹脂(A)と後述するエチレン・α-オレフィン共重合体(B)との合計100質量部を基準とし、ポリプロピレン系樹脂(A)と後述するエチレン・α-オレフィン共重合体(B)との合計100質量部中に含まれる割合を示す。
プロピレン系重合体(a-1)とプロピレン・エチレン共重合体(a-2)の割合の合計は、ポリプロピレン系樹脂(A)と後述するエチレン・α-オレフィン共重合体(B)との合計100質量部中のポリプロピレン系樹脂(A)の割合に相当する。従って、プロピレン系重合体(a-1)とプロピレン・エチレン共重合体(a-2)の割合を、これらの合計が60質量部以上90質量部以下となるように上記の各範囲から選択して、ポリプロピレン系樹脂(A)を調製する。
【0026】
ポリプロピレン系樹脂(A)がプロピレン・エチレン共重合体(a-2)を含まない場合は、プロピレン系重合体(a-1)をポリプロピレン系樹脂(A)として用いれば良い。
ポリプロピレン系樹脂(A)がプロピレン・エチレン共重合体(a-2)を含む場合は、例えば、以下の樹脂材料を、ポリプロピレン系樹脂(A)として用いることができる。
(A1)プロピレン系重合体(a-1)とプロピレン・エチレン共重合体(a-2)の混合物。
(A2)プロピレン系重合体(a-1)のセグメントと、プロピレン・エチレン共重合体(a-2)のセグメントとを有するブロック共重合体(a-3)。
(A3)プロピレン系重合体(a-1)及びプロピレン・エチレン共重合体(a-2)の少なくとも一方と、ブロック共重合体(a-3)の混合物。
これらの樹脂材料の中では、樹脂材料(A3)が好ましく、プロピレン系重合体(a-1)とブロック共重合体(a-3)の混合物が更に好ましい。
【0027】
<エチレン・α-オレフィン共重合体(B)>
本発明に用いる成分(B)とししてのエチレン・α-オレフィン共重合体[エチレン・α-オレフィン共重合体(B)ともいう]は、エチレンを主成分とする共重合体である。α-オレフィンとしては、炭素原子数3~8のα-オレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンが好ましく、プロピレン、1-ブテン、1-へキセン及び1-オクテンからなる群より選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンがより好ましい。中でも、1-ブテン、1-オクテンが特に好ましい。
【0028】
エチレン・α-オレフィン共重合体(B)のJIS K 7210に準拠した方法で測定したメルトフローレート(MFR、230℃、21.16N荷重)は、0.1g/10min以上7g/10min以下である。このMFRが0.1g/10min以上であれば、優れた耐衝撃性が発現する傾向にあり、例えば、自動車ドア部材やピラー部材等の自動車内外装部材において要求される耐衝撃性等の性能を十分満たす傾向にある。また、このMFRが7g/10min以下であれば、優れた耐足蹴り傷付き性が発現する傾向にある。このMFRは、好ましくは0.5g/10min以上7g/10min以下、より好ましくは0.5g/10min以上5g/10min以下である。
【0029】
エチレン・α-オレフィン共重合体(B)のエチレン含有率は65mol%以上90mol%以下、好ましくは75mol%以上85mol%以下である。
【0030】
<脂肪酸アミド(C)>
本発明に用いる成分(C)としての脂肪酸アミド[脂肪酸アミド(C)ともいう]は、飽和脂肪酸アミドであっても良いし、不飽和脂肪酸アミドであっても良い。脂肪酸アミド(C)としては、炭素原子数8~25の脂肪酸アミド及びその2量体からなる群より選ばれる1種以上の脂肪酸アミドが好ましく、炭素原子数8~25の脂肪酸アミドがより好ましく、炭素原子数15~25の脂肪酸アミドが特に好ましい。
【0031】
脂肪酸アミド(C)の具体例としては、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、パルミチン酸アミド、ミリスチン酸アミド、ラウリン酸アミド、カプリル酸アミド、カプロン酸アミド、n-オレイルパルミトアミド、n-オレイルエルカアミド、及びそれらの2量体が挙げられる。中でも、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、及びそれらの2量体が好ましい。脂肪酸アミド(C)は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0032】
<界面活性剤(D)>
本発明に用いる成分(D)としての界面活性剤[界面活性剤(D)ともいう]の種類は特に限定されず、公知の界面活性剤を使用できる。特に、ポリプロピレン系樹脂組成物中において帯電防止剤としての作用を奏する界面活性剤が好ましい。
【0033】
界面活性剤(D)の代表例としては、エステル型界面活性剤が挙げられる。エステル型界面活性剤としては、炭素原子数8~25のエステル基を1つ以上有する化合物が好ましく、炭素原子数15~25のエステル基を1つ以上有する化合物がより好ましい。これら化合物のエステル基の数は、好ましくは1つ又は2つである。エステル型界面活性剤の具体例としては、グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド、多価カルボン酸エステルが挙げられる。中でも、グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。
【0034】
グリセリン脂肪酸エステル(すなわち、脂肪酸モノグリセリド)の具体例としては、ステアリン酸モノグリセリド、オレイン酸モノグリセリド、リノレイン酸モノグリセリド、ラウリン酸モノグリセリド、パルミチン酸モノグリセリド、ミリスチン酸モノグリセリド、ベヘン酸モノグリセリド、マルガリン酸モノグリセリドが挙げられる。中でも、ステアリン酸モノグリセリド、オレイン酸モノグリセリドが好ましい。
【0035】
ジグリセリン脂肪酸エステル(すなわち、脂肪酸ジグリセリド)の具体例としては、ステアリン酸ジグリセリド、オレイン酸ジグリセリド、リノレイン酸ジグリセリド、ラウリン酸ジグリセリド、パルミチン酸ジグリセリド、ミリスチン酸ジグリセリド、ベヘン酸ジグリセリド、マルガリン酸ジグリセリドが挙げられる。中でも、ステアリン酸ジグリセリド、オレイン酸ジグリセリドが好ましい。
【0036】
<その他の添加剤>
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物には、必要に応じて、耐熱安定剤、耐候安定剤、耐光安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、脂肪酸金属塩、軟化剤、分散剤、着色剤、顔料紫外線吸収剤、核剤などのその他の添加剤の少なくとも1種を、本発明の目的を損なわない範囲で配合しても良い。
【0037】
配合する各成分の混合順序は任意である。各成分を同時に混合しても良いし、一部の成分を混合した後に他の成分を混合する多段階の混合方法を用いても良い。
【0038】
<ポリプロピレン系樹脂組成物>
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、無機充填材を含まず、すなわち無機充填材フリーのポリプロピレン系樹脂組成物であり、以上説明した成分(A)~(D)を含む。
無機充填材の具体例としては、例えば、先に引用した特許文献1、5、6及び7に記載されるような無機充填材を挙げることができるが、本発明ではこのような無機充填材は用いずにポリプロピレン系樹脂組成物が調製される。
【0039】
以下、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に含まれる各成分の量について説明する。以下の各成分の量は成分(A)及び(B)の合計100質量部を基準とする。
【0040】
ポリプロピレン系樹脂(A)の量は、ポリプロピレン系樹脂(a-1)とプロピレン・エチレン共重合体(a-2)の合計量である60質量部以上90質量部以下であり、好ましくは65質量部以上90質量部以下、より好ましくは70質量部以上90質量部以下である。
【0041】
エチレン・α-オレフィン共重合体(B)の量は10質量部以上40質量部以下であり、好ましくは10質量部以上35質量部以下、より好ましくは10質量部以上30質量部以下である。
【0042】
脂肪酸アミド(C)の量は0.2質量部以上1質量部以下であり、好ましくは0.2質量部以上0.8質量部以下、より好ましくは0.2質量部以上0.6質量部以下である。
【0043】
界面活性剤(D)の量は0.1質量部以上1質量部以下であり、好ましくは0.1質量部以上0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上0.4質量部以下である。
【0044】
以上説明した各成分の配合の順序は任意である。例えば、各成分をバンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機、高速2軸押出機などの混合装置により混合又は溶融混練することにより、ポリプロピレン系樹脂組成物が得られる。
【0045】
<成形体>
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、様々な成形法に使用できる。本発明の成形体の具体例としては、射出成形体、発泡成形体、射出発泡成形体、押出成形体、ブロー成形体、真空・圧空成形体、カレンダー成形体、延伸フィルム、インフレーションフィルムが挙げられる。特に、射出成形体が好ましい。成形体を製造する場合の成形条件は特に制限されず、公知の条件を採用できる。
【0046】
本発明の成形体の用途は、特に限定されない。好適な用途の具体例としては、ドアパネル、ピラートリム、ドアトリム、ドアロアガーニッシュ、インストルメントパネルなどの自動車内外装部材、エンジンルーム周辺部品、その他の自動車部品、家電部品、食品容器、飲料容器、医療容器が挙げられる。中でも、自動車内外装部材の用途が好ましく、自動車ドア部材の用途、ピラー部材の用途が特に好ましい。
【実施例
【0047】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例及び比較例において各種物性は以下の方法によって測定又は評価した。
【0049】
[MFR(メルトフローレート)]
JIS K 7210に準拠し、21.16N荷重、温度230℃の条件で測定した。
複数のポリプロピレン系樹脂の混合物をポリプロピレン系樹脂(A)として用いる場合、混合物に含まれるプロピレン系重合体成分全体のMFR(表2~4の「(a-1)MFR」)の測定には、混合物を145℃のデカン溶液中に加熱溶解させ、こうして得られた溶液を室温に戻し、ろ過して回収した固形分を測定用として用いた。
【0050】
[プロピレン系重合体中のプロピレン構成単位の含量及びプロピレン・エチレン共重合体中のエチレン構成単位の含量]
フーリエ変換赤外線分光法(FT-IR)により測定した。
表1におけるプロピレン・エチレンブロック共重合体(bPP)における「プロピレンから導かれる構成単位の含量」及び「エチレンから導かれる構成単位の含量」の測定には、プロピレン・エチレンブロック共重合体を145℃のデカン溶液中に加熱溶解させ、得られた溶液を室温に戻し、ろ過して回収した固形分をプロピレンから導かれる構成単位の含量の測定用として、ろ過後の溶液にアセトンを加え、ろ過して回収し、アセトンを揮発させた固形分をエチレンから導かれる構成単位の含量の測定用として、それぞれ用いた。
【0051】
[極限粘度(η)]
サンプル約20mgをデカリン15mlに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5ml追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度[η]として求めた。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0052】
[スカッフ足蹴り試験(ゴム摩擦による耐傷付き性試験)]
樹脂組成物を金型に射出成形して製造した表面にシボを有する成形体を、成形後2日以上、23℃恒温状態で静置して状態調節したものを、テストピース(縦240mm、横80mm、厚さ3mm)として用いた。
【0053】
評価には、図1に示すスカッフ足蹴り試験装置を用いた。このスカッフ足蹴り試験装置は、テストピース1を固定具(不図示)によって固定する台座3と、摩擦物(ゴム試験片)2を先端に装着した金属製の振り子7とパンタグラフ4を具備する。摩擦物(ゴム試験片)2としては、ショアA表面硬度が75であるゴム片(本田技研工業社製、品番18215-SA0-000)を用いた。この装置は、テストピース1の傷付き試験面6から20cmの高さ5より振り子7を作動させ、振り子7の先端に装着した摩擦物(ゴム試験片)2を、テストピース1の試験面6上を摩擦して通過させることにより、靴底での足蹴り状態を再現するものである。
【0054】
具体的には、作業員2人で次の操作手順に従って試験を行った。
1.テストピース1を装置の台座3上に固定した。
2.デジタルデップスゲ-ジを振り子7上部にセットし、ゲージの先端を振り子7上部へ当て、ゲージの目盛りが0mmになることを確認した。
3.パンタグラフ4のレバーを回転させ、台座3を上昇させゲージの目盛りが0.3mmになるよう合せた。
4.ゴム試験片2を装着した振り子7先端を傷付き試験面6より20cmの高さ5まで引き上げた。
5.振り子7を放し、テストピース1の試験面6へゴム試験片2を擦った。
そして試験面6の状態を目視にて確認し、以下の基準により評価した。評価結果は等級5が最も良好、等級1が最も不良を表す。
「1」:摩擦部の表面の白化が著しく目立っていた。
「2」:摩擦部の表面の白化が目立っていた。
「3」:摩擦部の表面がやや白化していた。
「4」:摩擦部にゴムが擦った跡が有ったが、白化は無かった。
「5」:ゴムが擦った跡も白化も無かった。
【0055】
[アイゾット衝撃試験]
ASTM D256に準拠し、試験温度23℃の条件でアイゾット衝撃強度(J/m)を測定した。
【0056】
[曲げ試験]
ASTM D790に準拠し、試験温度23℃、試験速度30mm/minの条件で曲げ弾性率(MPa)を測定した。
【0057】
実施例及び比較例で使用した各成分は以下の通りである。
【0058】
<ポリプロピレン系樹脂(A)>
「A1」:プロピレン・エチレンブロック共重合体(プライムポリマー社製、MFR(230℃、2.16kg)=70g/10分)
「A2」:プロピレン単独重合体(プライムポリマー社製、商品名J137M、MFR(230℃、2.16kg)=30g/10分)
「A3」:プロピレン単独重合体(プライムポリマー社製、商品名J13B、MFR(230℃、2.16kg)=200g/10分)
「A4」:プロピレン・エチレンブロック共重合体(プライムポリマー社製、MFR(230℃、2.16kg)=60g/10分)
「A5」:プロピレン・エチレンブロック共重合体(プライムポリマー社製、MFR(230℃、2.16kg)=80g/10分)
「A6」:プロピレン・エチレンブロック共重合体(プライムポリマー社製、MFR(230℃、2.16kg)=95g/10分)
「A7」:プロピレン・エチレンブロック共重合体(プライムポリマー社製、商品名J-452HP、MFR(230℃、2.16kg)=4g/10分)
「A8」:プロピレン単独重合体(プライムポリマー社製、商品名F113A、MFR(230℃、2.16kg)=3g/10分)
「A9」:プロピレン・エチレンブロック共重合体(プライムポリマー社製、商品名J715M、MFR(230℃、2.16kg)=9g/10分)
【0059】
上記ポリプロピレン系樹脂(A1)~(A9)を構成する(a-1)用のプロピレン系重合体及び成分(a-2)用のプロピレン・エチレン共重合体の詳細を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
<エチレン・α-オレフィン共重合体(B)>
「B1」:エチレン・1-オクテン共重合体(EOR)(ダウ・ケミカル社製、ENGAGE(登録商標)8100、MFR(230℃、2.16kg)=2.0g/10分、エチレン含有率=80mol%)
「B2」:エチレン・1-オクテン共重合体(EOR)(ダウ・ケミカル社製、ENGAGE(登録商標)8200、MFR(230℃、2.16kg)=9.0g/10分、エチレン含有率=80mol%)
【0062】
<脂肪酸アミド(C)>
「C1」:エルカ酸アミド(日本精化社製、ニュートロン(登録商標)S)
【0063】
<界面活性剤(D)>
「D-1」:ステアリン酸モノグリセリド(花王社製、エレクトロストリッパー(登録商標)TS-5)
【0064】
<実施例1~10、比較例1~4>
表2~4に示す各成分(質量部)、及び、その他の添加剤として、フェノール系酸化防止剤(BASF社製、商品名Irganox(登録商標)1010)0.1質量部、リン系酸化防止剤(BASF社製、商品名Irgafos168)0.05質量部、ヒンダードアミン系光安定剤(ADEKA製、商品名LA-52)0.05質量部、紫外線吸収剤(BASF社製、商品名Tinuvin(登録商標)120)0.05質量部、核剤(ADEKA製、商品名アデカスタブ(登録商標)NA-11)0.1質量部を含むポリプロピレン系樹脂組成物を調製した。
【0065】
そして、これらポリプロピレン系樹脂組成物の各物性を上記の方法により測定あるいは評価した。結果を表2~4に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
表2~4中、「(a-1) MFR」は、ポリプロピレン系樹脂(A)中に含まれるプロピレン系重合体(a-1)のMFRを示し、「(a-2) [η]」及び「(a-2) E含量」は、ポリプロピレン系樹脂(A)中に含まれるプロピレン・エチレン共重合体(a-2)の極限粘度[η]及びエチレンから導かれる構成単位の含量を示す。
表2~4の「評価」の欄の「MFR」は、ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRを示す。
【0070】
[評価]
表2~4に示す通り、実施例1~10のポリプロピレン系樹脂組成物は、各種性能に優れていた。一方、比較例1~3のポリプロピレン系樹脂組成物は耐足蹴り傷付き性などの性能が劣り、比較例4のポリプロピレン系樹脂組成物は特に耐衝撃性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、射出成形体などの各種の成形体を製造する為の材料として有用である。本発明の成形体は、特に、ドアパネル、ピラートリム、ドアトリム、ドアロアガーニッシュ、インストルメントパネルなどの自動車内外装部材として非常に有用である。
【符号の説明】
【0072】
1 テストピース
2 摩擦物(ゴム試験片)
3 台座
4 パンタグラフ
5 振り子の高さ(20cm)
6 試験面
7 振り子

図1