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特許7375193高弾性および高耐熱ポリイミドフィルムおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】高弾性および高耐熱ポリイミドフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20231030BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20231030BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20231030BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20231030BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08G73/10
C08L79/08
C08K5/521
C08K3/32
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022527880
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 KR2019016851
(87)【国際公開番号】W WO2021095976
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】10-2019-0144767
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514225065
【氏名又は名称】ピーアイ アドヴァンスド マテリアルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PI Advanced Materials CO., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク・ソン-ユル
(72)【発明者】
【氏名】リ・キル-ナム
(72)【発明者】
【氏名】キム・キ-フン
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0079944(KR,A)
【文献】特許第5526547(JP,B2)
【文献】特表2017-519884(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0092779(KR,A)
【文献】国際公開第2012/093586(WO,A1)
【文献】特開2017-119869(JP,A)
【文献】特開2017-177601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
C08G 73/00-73/26
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B32B 1/00-43/00
B29C 41/00-41/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)、およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、オキシジアニリン(ODA)、パラフェニレンジアミン(PPD)、および3,5-ジアミノ安息香酸(DABA)を含むジアミン成分とを含むポリアミック酸溶液をイミド化反応させて得られ、
前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、前記オキシジアニリンの含有量が10モル%以上30モル%以下であり、前記パラフェニレンジアミンの含有量が50モル%以上70モル%以下であり、前記3,5-ジアミノ安息香酸の含有量が5モル%以上25モル%以下であり、
可塑剤特性を有するリン(P)系化合物を、前記二無水物酸成分および前記ジアミン成分の固形分対比、1.5重量%以上4.5重量%以下
弾性率が6GPa以上であり、表面粗さが0.5μm以下であり、厚さが70μm以上である、
ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、前記ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が10モル%以上30モル%以下であり、
前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が40モル%以上70モル%以下であり、
前記ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が10モル%以上50モル%以下である、
請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記リン系化合物は、トリフェニルホスフェート(triphenyl phosphate)、トリキシレニルホスフェート(Trixylenyl phosphate)、トリクレシルホスフェート(Tricresyl phosphate)、レゾルシノールジフェニルホスフェート(Resorcinol diphenyl phosphate)、およびアンモニウムポリホスフェート(ammonium polyphosphate)からなるグループより選択されたいずれか1つ以上である、
請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
1m2あたりのバブルの個数が5個未満である、
請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
(a)ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)、およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、オキシジアニリン(ODA)、パラフェニレンジアミン(PPD)、および3,5-ジアミノ安息香酸(DABA)を含むジアミン成分とを有機溶媒中で重合してポリアミック酸を製造する第1ステップと、
(b)前記第1ステップの前記ポリアミック酸にイミド化触媒とリン(P)系化合物を追加し、混合する第2ステップと、
(c)前記第2ステップの前記ポリアミック酸をイミド化する第3ステップとを含み、
前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、前記オキシジアニリンの含有量が10モル%以上30モル%以下であり、前記パラフェニレンジアミンの含有量が50モル%以上70モル%以下であり、前記3,5-ジアミノ安息香酸の含有量が5モル%以上25モル%以下であ
前記リン(P)系化合物は可塑剤特性を有し、前記リン(P)系化合物は、二無水物酸成分および前記ジアミン成分の固形分対比、1.5重量%以上4.5重量%以下含まれ
前記ポリイミドフィルムの弾性率が6GPa以上であり、表面粗さが0.5μm以下であり、厚さが70μm以上である、
ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記リン系化合物は、トリフェニルホスフェート(triphenyl phosphate)、トリキシレニルホスフェート(Trixylenyl phosphate)、トリクレシルホスフェート(Tricresyl phosphate)、レゾルシノールジフェニルホスフェート(Resorcinol diphenyl phosphate)、およびアンモニウムポリホスフェート(ammonium polyphosphate)からなるグループより選択されたいずれか1つ以上である、
請求項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ポリイミドフィルムは、保護フィルムまたはキャリアフィルムに使用される、請求項1~のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムに関し、より詳しくは、高弾性および高耐熱特性を有すると同時に、製造されたフィルムにバブルの個数を減少させた高厚度のポリイミドフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド(polyimide、PI)は、剛直な芳香族主鎖とともに化学的安定性が非常に優れたイミド環に基づいて、有機材料の中でも最高水準の耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐化学性、耐候性を有する高分子材料である。
ポリイミドフィルムは、前述した特性が要求される多様な電子デバイスの素材として注目されている。
現在、ほとんどのポリイミドはポリアミック酸(poly(amic acid))形態で有機溶媒に溶解し、ポリイミドになると溶解しないため、ポリイミドの加工はポリアミック酸の溶液を用いており、その溶液を乾燥させることで、所望するフィルムや成形物、コーティング膜を得た後に加熱し、イミド化させることによって実施されることが一般的である。
【0003】
一方、最近、ポリイミドフィルムおよびその積層体をイミド化温度から室温に冷却する過程で発生する熱応力はよくカーリング、膜の剥離、亀裂などの深刻な問題を起こしている。
特に、急速に進められている電子回路の高密度化とともに、多層配線基板の採用などにおいて熱応力による問題は深刻に受け止められている。
すなわち、熱応力によって膜の剥離や亀裂には至らなくても、多層基板における熱応力の残留はデバイスの信頼性を著しく低下させるからである。
このような熱応力の影響を減少させることができる方策としては、ポリイミドの低膨張化が考慮されているが、低熱膨張係数を示すポリイミドは、一般的に剛直で直線的な主鎖構造を有しているため、大部分水蒸気透過性が悪く、製膜条件によっては発泡を起こしやすいという問題点を抱えている。
すなわち、分子パッキングが過密であるため、フィルムの水蒸気透過性が悪く、フィルムの製造工程においてよく内部にバブル(気泡、エアなど)が発生する。
このようなバブルの発生は、製造されたポリイミドフィルムの表面粗さに悪影響を及ぼすだけでなく、ポリイミドフィルムの電気的、光学的、機械的特性を全体的に低下させることがある。
したがって、低膨張係数を示すポリイミドの耐熱性など本来の特性を維持しながらも高弾性、高耐熱の特性を有するとともに、ポリイミドフィルムのバブルを減少させることができる方策が要求されている。
以上の背景技術に記載された事項は発明の背景に対する理解のためのものであって、この技術の属する分野における通常の知識を有する者にすでに知られた従来技術でない事項を含むことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、高弾性、高耐熱の高厚度ポリイミドフィルムを提供することを目的とする。
しかし、本発明が解決しようとする課題は以上に言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は以下の記載から当業者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための、本発明の一側面は、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(3,3’,4,4’-Benzophenonetetracarboxylic dianhydride、BTDA)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(3,3’,4,4’-Biphenyltetracarboxylic dianhydride、BPDA)、およびピロメリティックジアンハイドライド(Pyromellitic dianhydride、PMDA)を含む二無水物酸成分と、オキシジアニリン(4,4’-Oxydianiline、ODA)、パラフェニレンジアミン(p-Phenylenediamine、PPD)、および3,5-ジアミノ安息香酸(3,5-diaminobenzoic acid、DABA)を含むジアミン成分とを含むポリアミック酸溶液をイミド化反応させて得られ、
前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、前記オキシジアニリンの含有量が10モル%以上30モル%以下であり、前記パラフェニレンジアミンの含有量が50モル%以上70モル%以下であり、前記3,5-ジアミノ安息香酸の含有量が5モル%以上25モル%以下であり、
リン(P)系化合物を含むポリイミドフィルムを提供する。
前記二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、前記ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が10モル%以上30モル%以下であり、
前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が40モル%以上70モル%以下であり、
前記ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が10モル%以上50モル%以下であってもよい。
前記リン系化合物は、前記二無水物酸成分および前記ジアミン成分の固形分対比、1.5重量%以上4.5重量%以下含むことができる。
前記リン系化合物は、トリフェニルリン酸(triphenyl phosphate、TPP)、トリキシレニルホスフェート(Trixylenyl phosphate、TXP)、トリクレシルホスフェート(Tricresyl phosphate、TCP)、レゾルシノールジフェニルホスフェート(Resorcinol diphenyl phosphate)、およびアンモニウムポリホスフェート(ammonium polyphosphate)からなるグループより選択されたいずれか1つ以上であってもよい。
前記ポリイミドフィルムの弾性率が6GPa以上であり、表面粗さが0.5μm以下であり、厚さが70μm以上であってもよい。
また、前記ポリイミドフィルムの1m2あたりのバブルの個数が5個未満であってもよい。
【0006】
本発明の他の側面は、(a)ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)、およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、オキシジアニリン(ODA)、パラフェニレンジアミン(PPD)、および3,5-ジアミノ安息香酸(DABA)を含むジアミン成分とを有機溶媒中で重合してポリアミック酸を製造する第1ステップと、
(b)前記第1ステップの前記ポリアミック酸にイミド化触媒とリン(P)系化合物を追加し、混合する第2ステップと、
(c)前記第2ステップの前記ポリアミック酸をイミド化する第3ステップとを含み、
前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、前記オキシジアニリンの含有量が10モル%以上30モル%以下であり、前記パラフェニレンジアミンの含有量が50モル%以上70モル%以下であり、前記3,5-ジアミノ安息香酸の含有量が5モル%以上25モル%以下であるポリイミドフィルムの製造方法を提供する。
【0007】
本発明のさらに他の側面は、前記ポリイミドフィルムを含む保護フィルムおよびキャリアフィルムを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、二無水物酸およびジアミン成分の組成比、固形分含有量が調節され、リン系化合物を含むポリイミドフィルムを提供することにより、6GPa以上の弾性率と0.5μm以下の表面粗さを有する厚さ70μm以上の高弾性および高耐熱特性を有する高厚度ポリイミドフィルムを提供する。
また、製造されたポリイミドフィルムは、フィルムの厚さが70μm以上と比較的厚いフィルムであるにもかかわらず、フィルムのバブルの個数が5個/m2未満と観察され、リン系化合物の含有量の変化によって観察されるバブルが存在しない優れた品質の高厚度フィルムを得ることができた。
このようなポリイミドフィルムは、高弾性の優れた機械的特性だけでなく、表面粗さが低く、バブル形成が抑制されて、特に表面品質が改善されるので、このような多様な特性のポリイミドフィルムが要求される分野に適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書および特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自らの発明を最も最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則り、本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されなければならない。
したがって、本明細書に記載の実施例の構成は本発明の最も好ましい一つの実施例に過ぎず、本発明の技術的思想をすべて代弁するものではないので、本出願時点においてこれらを代替可能な多様な均等物と変形例が存在できることを理解しなければならない。
本明細書において、単数の表現は、文脈上明らかに異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないことが理解されなければならない。
本明細書において、「二無水物酸」は、その前駆体または誘導体を含むと意図されるが、これらは技術的には二無水物酸でないかも知れないが、それにもかかわらず、ジアミンと反応してポリアミック酸を形成するはずであり、このポリアミック酸は再度ポリイミドに変換できる。
本明細書において、量、濃度、または他の値またはパラメータが範囲、好ましい範囲または好ましい上限値および好ましい下限値の列挙として与えられる場合、範囲が別途に開示されるかに関係なく、任意の一対の任意の上側範囲の限界値または好ましい値、および任意の下側範囲の限界値または好ましい値で形成されたすべての範囲を具体的に開示することが理解されなければならない。
数値の範囲が本明細書で言及される場合、他に記述されなければ、その範囲はその終点およびその範囲内のすべての整数と分数を含むと意図される。本発明の範疇は、範囲を定義する時、言及される特定値に限定されないと意図される。
【0010】
本発明の一実施形態によるポリイミドフィルムは、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)、およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、オキシジアニリン(ODA)、パラフェニレンジアミン(PPD)、および3,5-ジアミノ安息香酸(DABA)を含むジアミン成分とを含むポリアミック酸溶液をイミド化反応させて得られ、前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、前記オキシジアニリンの含有量が10モル%以上30モル%以下であり、前記パラフェニレンジアミンの含有量が50モル%以上70モル%以下であり、前記3,5-ジアミノ安息香酸の含有量が5モル%以上25モル%以下である。
【0011】
パラフェニレンジアミンは剛直なモノマーで、パラフェニレンジアミン(PPD)の含有量が増加するにつれ、合成されるポリイミドはさらに線状の構造を有し、ポリイミドの弾性率などの機械的特性の向上に寄与する。
ジアミン成分の総量を基準として、パラフェニレンジアミンを前記範囲より下回って使用する場合、高厚度(フィルムの厚さが70μm以上)ポリイミドフィルムの弾性率が低下しうる。
また、ジアミン成分の総量を基準として、パラフェニレンジアミンを前記範囲より上回って使用する場合、特に固形分含有量が高くなる場合、2次結合によるゲル(gel)化が進行して高厚度ポリイミドフィルムを生産しにくいことがある。
一方、パラフェニレンジアミンを含む高厚度のポリイミドフィルムは、厚さの増加に伴って気泡の発生が頻繁になる。
このような気泡発生の増加は、パラフェニレンジアミンの含有量の増加によって合成されたポリイミド鎖がさらに線状の形態を有し、線状のポリイミド鎖は、ポリイミド鎖間の結合が強くなって溶媒および水の蒸発が困難になるためと見られる。
ポリイミドフィルムに生成された気泡は、ポリイミドフィルムの外観、機械的特性に大きく影響を及ぼす品質不良に相当して、製造されたポリイミドフィルムの他の特性に優れているとしても、多数の気泡が生成されたポリイミドフィルムは、実際の製品に適用されにくい。
そこで、パラフェニレンジアミンが誘発したポリイミド鎖間の強力な結合に自由体積(free volume)を付与して、ポリイミド鎖間の柔軟性を増加させることができる可塑剤特性を有するリン系化合物を添加した。
このようなリン系化合物の添加によってポリイミドフィルムに形成される気泡の数が大きく減少することを確認した。
【0012】
本発明の他の実施形態によれば、ポリイミドフィルムは、無機充填剤を含むことができる。無機充填剤としては、シリカ(特に、球状シリカ)、酸化チタン、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
充填材の粒径は特に限定されるものではなく、改質すべきフィルム特性と添加する充填材の種類によって決定すれば良い。一般的には、平均粒径が0.05~100μm、好ましくは0.1~75μm、さらに好ましくは0.1~50μm、特に好ましくは0.1~25μmである。
粒径がこの範囲を下回ると、改質効果が現れにくくなり、この範囲を上回ると、表面性を大きく損傷させたり、機械的特性が大きく低下する場合がある。
また、充填材の添加量についても特に限定されるものではなく、改質すべきフィルム特性や充填材の粒径などによって決定すれば良い。一般的に、充填材の添加量は、ポリイミド100重量部に対して0.01~100重量部、好ましくは0.01~90重量部、さらに好ましくは0.02~80重量部である。
充填材の添加量がこの範囲を下回ると、充填材による改質効果が現れにくく、この範囲を上回ると、フィルムの機械的特性が大きく損傷する可能性がある。充填材の添加方法は特に限定されるものではなく、公知のいかなる方法を用いてもよい。
前記無機充填材は、ポリイミドフィルムに含まれて、ポリイミドフィルムの表面に粗さが現れるようにして、ポリイミドフィルムが生産または使用中に互いに付着する現象を防止するアンチブロッキング(aniti blocking)特性を付与する。
無機充填材は、ポリイミドフィルムの添加剤として通常使用されるが、特に球状シリカ粒子などがアンチブロッキング特性に優れる。
例えば、無機充填材として球状シリカ粒子を用いる場合、球状シリカ粒子の平均径が1μmを超える場合、表面粗さが大きくなってポリイミドフィルムと接する対象の表面にスクラッチを誘発させて製品不良が発生し、球状シリカ粒子の平均径が0.1μm未満の場合、フィルムのブロッキング現象を防止するアンチブロッキング特性が発現しない。
通常、球状シリカ粒子が適正量を超えて使用されると、粒子同士で凝集されてフィルムに結合が現れ、適正量未満で使用されると、フィルムの表面処理後にフィルム同士でくっつく現象によって巻取ステップの進行において困難が発生する。
【0013】
本発明の他の実施形態によれば、バブル形成の抑制に使用される可塑剤特性を有するリン系化合物は、ポリイミドの合成に使用された二無水物酸成分およびジアミン成分の固形分対比、1.5重量%以上4.5重量%以下含むことができる。
リン系化合物を1.5重量%未満で含むと、バブル形成抑制の効果が十分に現れず、4.5重量%を超えて含むと、ポリイミドフィルムの弾性率が減少する。
また、使用されたリン系化合物としては、トリフェニルリン酸(triphenyl phosphate、TPP)およびアンモニウムポリホスフェート(ammonium polyphosphate)、トリキシレニルホスフェート(Trixylenyl phosphate、TXP)、トリクレシルホスフェート(Tricresyl phosphate、TCP)、レゾルシノールジフェニルホスフェート(Resorcinol diphenyl phosphate)、およびアンモニウムポリホスフェート(ammonium polyphosphate)が挙げられる。
特に、トリフェニルリン酸(triphenyl phosphate、TPP)およびアンモニウムポリホスフェート(ammonium polyphosphate)のいずれか1つ以上を使用することが好ましいが、これに限定されるものではく、自由体積(free volume)を付与して、ポリイミド鎖間の柔軟性を増加させることができる可塑剤特性を有するリン系化合物のうちバブル形成の抑制に寄与できるリン系化合物は、いかなる化合物でも使用可能である。
【0014】
本発明の前記実施形態によるポリイミドフィルムは、弾性率が6GPa以上であり、表面粗さが0.5μm以下であり、厚さが70μm以上である高弾性の特性を同時に有する高厚度のポリイミドフィルムである。
前記ポリイミドフィルムの弾性率は、パラフェニレンジアミン(PPD)の含有量の調節によって6GPa以上の優れた弾性率を示し、このような優れた弾性率のポリイミドフィルムは多様な方面に適用可能であるが、特にキャリアフィルムや保護フィルムに適する。
これとともに、前記ポリイミドフィルムの70μm以上の厚さを有する高厚度ポリイミドフィルムで、前記ポリイミドのフィルムの厚さは75μm以上であることが好ましい。
前記ポリイミドフィルムは、1m2あたりのバブルの個数が5個未満で、バブルの個数は、添加されるリン系化合物の含有量の増加によって減少する。リン系化合物の含有量を適切に調節することにより、バブルの個数を最小化(観察によってバブルの存在が確認されない)しながらも、製品の適用に適切な弾性率および表面粗さを維持することができる。
【0015】
本発明の他の実施形態は、(a)ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)、およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、オキシジアニリン(ODA)、パラフェニレンジアミン(PPD)、および3,5-ジアミノ安息香酸(DABA)を含むジアミン成分とを有機溶媒中で重合してポリアミック酸を製造する第1ステップと、
(b)前記第1ステップの前記ポリアミック酸にイミド化触媒とリン(P)系化合物を追加し、混合する第2ステップと、
(c)前記第2ステップの前記ポリアミック酸をイミド化する第3ステップとを含み、
前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、前記オキシジアニリンの含有量が10モル%以上30モル%以下であり、前記パラフェニレンジアミンの含有量が50モル%以上70モル%以下であり、前記3,5-ジアミノ安息香酸の含有量が5モル%以上25モル%以下である、ポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【0016】
ポリアミック酸をイミド化する方法は、熱イミド化方法または化学的イミド化方法が適用可能であり、熱イミド化方法と化学的イミド化方法とを併用する方法も適用可能である。ここで、熱イミド化方法は、化学的触媒を排除し、熱風や赤外線乾燥機などの熱源でイミド化反応を誘導する方法あり、化学的イミド化方法は、脱水剤およびイミド化剤を用いる方法である。
製造されたポリイミドフィルムは、保護フィルムやキャリアフィルムに適するが、これに制限されるものではなく、製造されたポリイミドフィルムの特性が適用可能な多様な分野で使用できる。
【実施例
【0017】
以下、発明の具体的な製造例および実施例を通じて、発明の作用および効果をより詳述する。ただし、このような製造例および実施例は発明の例として提示されたものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が限定されるものではない。
【0018】
製造例:ポリイミドフィルムの製造
本発明のポリイミドフィルムは、次のような当業界にて公知の通常の方法で製造できる。まず、有機溶媒に前述した二無水物酸とジアミン成分とを反応させてポリアミック酸溶液を得る。
この時、溶媒は、一般的に、アミド系溶媒として非プロトン性極性溶媒(Aprotic solvent)、例えば、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリドン、またはこれらの組み合わせを使用することができる。
前記二無水物酸とジアミン成分の投入形態は、粉末、塊および溶液形態で投入することができ、反応初期には粉末形態で投入して反応を進行させた後、その後には重合粘度調節のために溶液形態で投入することが好ましい。
得られたポリアミック酸溶液は、イミド化触媒および脱水剤と混合されて支持体に塗布される。
使用される触媒の例としては、3級アミン類(例えば、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジンなど)があり、脱水剤の例としては、無水酸があるが、これに限定されない。また、前記で使用される支持体としては、ガラス板、アルミニウム箔、循環ステンレスベルト、またはステンレスドラムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
前記支持体上に塗布されたフィルムは、乾燥空気および熱処理によって支持体上でゲル化される。
前記ゲル化されたフィルムは、支持体から分離されて熱処理して乾燥およびイミド化が完了する。
前記熱処理を終えたフィルムは、一定の張力下で熱処理されて、製膜過程で発生したフィルム内部の残留応力が除去できる。
【0019】
具体的には、撹拌機および窒素注入・排出管を備えた反応器に窒素を注入させながらDMFを500ml投入し、反応器の温度を30℃に設定した後、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA),ピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)、オキシジアニリン(ODA)、パラフェニレンジアミン(PPD)、および3,5-ジアミノ安息香酸(DABA)を調節された組成比で投入して完全に溶解させる。以後、窒素雰囲気下、40℃に反応器の温度を上げて加熱しながら120分間撹拌を継続して、1次反応粘度が1,500cPのポリアミック酸を製造した。
このように製造したポリアミック酸にピロメリット酸二無水物(PMDA)溶液を添加して、最終粘度100,000~120,000cPとなるように撹拌させた。
このように製造した最終ポリアミック酸に触媒および脱水剤とともに、リン系化合物としてトリフェニルリン酸(triphenyl phosphate、TPP)の含有量を調節して添加させた後、アプリケータを用いて高厚度ポリイミドフィルムを製造した。
【0020】
実施例および比較例
先に説明した製造例によって製造しかつ、二無水物酸成分としては、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)、およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)がそれぞれ17mol%、53mol%、および30mol%使用され、二無水物酸成分100mol%を基準として、ジアミン成分100mol%を反応させた。
ジアミン成分であるオキシジアニリン(ODA)、パラフェニレンジアミン(PPD)、および3,5-ジアミノ安息香酸(DABA)の組成比は、ジアミンの総含有量を100mol%とした時、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、および3,5-ジアミノ安息香酸がそれぞれ20mol%、66.5mol%、および13.5mol%使用された。
下記表1に示したように、トリフェニルリン酸(triphenyl phosphate、TPP)の含有量を二無水物酸成分および前記ジアミン成分の固形分対比で調節して製造し、製造されたポリイミドフィルムの厚さはすべて75μmであった。
【0021】
【表1】
【0022】
すべての実施例および比較例で製造したポリイミドフィルムの表面粗さは、Kosaka Laboratory Ltdのフィルム粗度分析器を用いて算術平均粗さ(Ra)値を測定した。
測定された実施例および比較例のポリイミドフィルムの表面粗さは、すべて0.5μm以下であった。
また、すべての実施例および比較例で製造したポリイミドフィルムの弾性率は、インストロン装置(Standard Instron testing apparatus)を用いて、ASTM D882規定に合わせて3回テストして平均値を取った。
平均バブル個数は、先にポリイミドフィルムを映像装置が装着されたフィルム不良分析装置を用いて撮影し、撮影されたポリイミドフィルムの不良映像を肉眼で直接確認する手順を経て平均バブル個数を求めた。
一定の幅と長さのフィルムを試料として採取してバブルの個数を測定し、以後、測定されたバブルの個数を1m2あたりのバブルの個数で換算した。
測定結果によれば、トリフェニルリン酸(triphenyl phosphate、TPP)の含有量を1.5重量%以上4.5重量%以下で添加させた実施例1~6の場合、高厚膜ポリイミドフィルムであるにもかかわらず、トリフェニルリン酸(triphenyl phosphate、TPP)を全く使用しない比較例1(バブルの個数:1m2あたり132個)や1.5重量%未満のトリフェニルリン酸(triphenyl phosphate、TPP)を含んでいる比較例2~4に比べてバブルの個数が大きく減少した。
特に、トリフェニルリン酸(triphenyl phosphate、TPP)の含有量を2.5重量%以上含む場合、バブルの個数は1m2あたり0個が観察された。
また、トリフェニルリン酸(triphenyl phosphate、TPP)の含有量を1.5重量%から4.0重量%(実施例1~6)を含む場合、比較例1~4に比べて弾性率が一部減少する傾向を示したが、ポリイミドフィルムの弾性率は6.6GPa~6.9GPaで6GPa以上の弾性率を示して、製造されたポリイミドフィルムの製品適用には問題が全くないことを確認した。
トリフェニルリン酸(triphenyl phosphate、TPP)の含有量を5.0重量%以上過剰使用した場合(比較例5~8)、バブルの個数は0個に維持されたが、弾性率が大きく減少して6GPa未満を示した。
トリフェニルリン酸(triphenyl phosphate、TPP)の含有量の増加による弾性率の減少は、トリフェニルリン酸(triphenyl phosphate、TPP)の可塑剤特性に起因すると見られる。
【0023】
本発明のポリイミドフィルムおよびポリイミドフィルムの製造方法の実施例は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する当業者が本発明を容易に実施できるようにする好ましい実施例に過ぎず、上述した実施例に限定されるものではないので、これによって本発明の権利範囲が限定されるものではない。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は添付した特許請求の範囲の技術的思想によって定められなければならない。また、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で様々な置換、変形および変更が可能であることが当業者にとって明らかであり、当業者によって容易に変更可能な部分も本発明の権利範囲に含まれることは自明である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、二無水物酸およびジアミン成分の組成比、固形分含有量が調節され、リン系化合物を含むポリイミドフィルムを提供することにより、6GPa以上の弾性率と0.5μm以下の表面粗さを有する厚さ70μm以上の高弾性および高耐熱特性を有する高厚度ポリイミドフィルムを提供する。
このようなポリイミドフィルムは、高弾性の優れた機械的特性だけでなく、表面粗さが低く、バブル形成が抑制されて、特に表面品質が改善されるので、このような多様な特性のポリイミドフィルムが要求される分野に適用可能である。