(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】ダンパ装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/129 20060101AFI20231030BHJP
【FI】
F16F15/129 D
F16F15/129 B
(21)【出願番号】P 2022546294
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2021031578
(87)【国際公開番号】W WO2022050196
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2020148674
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】緒方 誠
(72)【発明者】
【氏名】大谷 将之
(72)【発明者】
【氏名】瀬上 健
(72)【発明者】
【氏名】中谷 昌弘
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-170388(JP,A)
【文献】特開2003-74636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/129
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の回転部材と、
上記第1の回転部材に対して相対回転可能に配置された第2の回転部材と、
上記第1の回転部材と上記第2の回転部材とを回転方向に弾性的に連結するためのばね部材と、
上記第1の回転部材と上記第2の回転部材との相対回転に対して摩擦トルクを発生する摩擦発生機構と、
を備えたダンパ装置であって、
上記摩擦発生機構は、
背面が上記第2の回転部材の環状摩擦面に接する断面略L字形をなすブッシュと、
上記ブッシュに軸方向に対向する上記第1の回転部材の一部であるリティニングプレートと、
上記ブッシュと上記リティニングプレートとの間に圧縮状態で配置されて上記ブッシュを上記環状摩擦面へ向けて付勢する環状のコーンスプリングと、
を備え、
上記コーンスプリングの内周縁が当接する第1の荷重支持面が上記ブッシュに、外周縁が当接する第2の荷重支持面が上記リティニングプレートに、互いに対向して形成されており、
上記第1の荷重支持面および上記第2の荷重支持面には、上記コーンスプリングが逆向きに組み込まれたときに当該コーンスプリングの外周縁および内周縁を受容するように軸方向に後退した段部がそれぞれ形成されており、
上記第1の荷重支持面における上記段部の境界の径方向位置が、上記第2の荷重支持面における上記段部の境界の径方向位置よりも外周側にある、ダンパ装置。
【請求項2】
第1の回転部材と、
上記第1の回転部材に対して相対回転可能に配置された第2の回転部材と、
上記第1の回転部材と上記第2の回転部材とを回転方向に弾性的に連結するためのばね部材と、
上記第1の回転部材と上記第2の回転部材との相対回転に対して摩擦トルクを発生する摩擦発生機構と、
を備えたダンパ装置であって、
上記摩擦発生機構は、
背面が上記第2の回転部材の環状摩擦面に接する断面略L字形をなすブッシュと、
上記ブッシュに軸方向に対向する上記第1の回転部材の一部であるリティニングプレートと、
上記ブッシュと上記リティニングプレートとの間に圧縮状態で配置されて上記ブッシュを上記環状摩擦面へ向けて付勢する環状のコーンスプリングと、
を備え、
上記コーンスプリングの内周縁が当接する第1の荷重支持面が上記ブッシュに、外周縁が当接する第2の荷重支持面が上記リティニングプレートに、互いに対向して形成されており、
上記第1の荷重支持面には、上記コーンスプリングが逆向きに組み込まれたときに当該コーンスプリングの外周縁を受容するように軸方向に後退した段部が形成されており、
上記第1の荷重支持面における上記段部の境界の径方向位置が、平坦面をなす上記第2の荷重支持面の内周側端縁の径方向位置よりも外周側にある、ダンパ装置。
【請求項3】
第1の回転部材と、
上記第1の回転部材に対して相対回転可能に配置された第2の回転部材と、
上記第1の回転部材と上記第2の回転部材とを回転方向に弾性的に連結するためのばね部材と、
上記第1の回転部材と上記第2の回転部材との相対回転に対して摩擦トルクを発生する摩擦発生機構と、
を備えたダンパ装置であって、
上記摩擦発生機構は、
背面が上記第2の回転部材の環状摩擦面に接する断面略L字形をなすブッシュと、
上記ブッシュに軸方向に対向する上記第1の回転部材の一部であるリティニングプレートと、
上記ブッシュと上記リティニングプレートとの間に圧縮状態で配置されて上記ブッシュを上記環状摩擦面へ向けて付勢する環状のコーンスプリングと、
を備え、
上記コーンスプリングの外周縁が当接する第1の荷重支持面が上記ブッシュに、内周縁が当接する第2の荷重支持面が上記リティニングプレートに、互いに対向して形成されており、
上記第1の荷重支持面および上記第2の荷重支持面には、上記コーンスプリングが逆向きに組み込まれたときに当該コーンスプリングの内周縁および外周縁を受容するように軸方向に後退した段部がそれぞれ形成されており、
上記第1の荷重支持面における上記段部の境界の径方向位置が、上記第2の荷重支持面における上記段部の境界の径方向位置よりも内周側にある、ダンパ装置。
【請求項4】
第1の回転部材と、
上記第1の回転部材に対して相対回転可能に配置された第2の回転部材と、
上記第1の回転部材と上記第2の回転部材とを回転方向に弾性的に連結するためのばね部材と、
上記第1の回転部材と上記第2の回転部材との相対回転に対して摩擦トルクを発生する摩擦発生機構と、
を備えたダンパ装置であって、
上記摩擦発生機構は、
背面が上記第2の回転部材の環状摩擦面に接する断面略L字形をなすブッシュと、
上記ブッシュに軸方向に対向する上記第1の回転部材の一部であるリティニングプレートと、
上記ブッシュと上記リティニングプレートとの間に圧縮状態で配置されて上記ブッシュを上記環状摩擦面へ向けて付勢する環状のコーンスプリングと、
を備え、
上記コーンスプリングの外周縁が当接する第1の荷重支持面が上記ブッシュに、内周縁が当接する第2の荷重支持面が上記リティニングプレートに、互いに対向して形成されており、
上記第1の荷重支持面には、上記コーンスプリングが逆向きに組み込まれたときに当該コーンスプリングの内周縁を受容するように軸方向に後退した段部が形成されており、
上記第1の荷重支持面における上記段部の境界の径方向位置が、平坦面をなす上記第2の荷重支持面の径方向範囲内にある、ダンパ装置。
【請求項5】
上記コーンスプリングの内周縁は円形に連続しており、外周縁は、複数の切欠部により凹凸状に形成されている、請求項1または2に記載のダンパ装置。
【請求項6】
上記コーンスプリングの外周縁は円形に連続しており、内周縁は、複数の切欠部により凹凸状に形成されている、請求項3または4に記載のダンパ装置。
【請求項7】
上記ブッシュが合成樹脂からなり、上記リティニングプレートが金属からなる、請求項1~6のいずれかに記載のダンパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば内燃機関と変速機との間などに設けられるダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の内燃機関と変速機との間には、トルクを伝達するとともに捩り振動を吸収・減衰するダンパ装置が設けられることが多い。この種のダンパ装置は、特許文献1に開示されているように、内燃機関からトルクが入力される入力側回転部材と、この入力側回転部材に対して相対回転可能に組み合わされる出力側回転部材と、入力側回転部材と出力側回転部材との間に回転接線方向に沿って配置された複数のコイルスプリングと、を備えている。
【0003】
さらに、特許文献1のダンパ装置では、入力側回転部材と出力側回転部材との相対回転に対して摩擦トルクを発生する摩擦発生機構として、出力側回転部材となるスプラインハブに摺接するブッシュを環状のコーンスプリングによって軸方向に付勢するようにした構成が開示されている。
【0004】
特許文献1のコーンスプリングは、比較的小さな傾斜のテーパ状断面を有し、軸方向の位置として、内周縁がブッシュ寄りに外周縁がリティニングプレート寄りに、それぞれ位置するように傾いて配置されている。このような構成において、例えばスプラインハブが軸方向に非常に大きな荷重を受けてコーンスプリングが平坦となるように変位したときに、コーンスプリングが本来のテーパの向きとは反対向きとなるように反転してしまうおそれがあった。より具体的には、リティニングプレートがコーンスプリングを押圧する力の作用点の位置およびブッシュがコーンスプリングを逆方向へ押圧する力の作用点の位置が、このような反転現象を考慮したものとなっていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本発明のダンパ装置は、第1の回転部材と、第2の回転部材と、両者を弾性的に連結するばね部材と、相対回転に対して摩擦トルクを発生する摩擦発生機構と、を備える。摩擦発生機構は、上記第2の回転部材の環状摩擦面に接するブッシュと、上記ブッシュに軸方向に対向する上記第1の回転部材の一部であるリティニングプレートと、両者間に圧縮状態で配置されて上記ブッシュを上記環状摩擦面へ向けて付勢する環状のコーンスプリングと、を備える。
【0007】
第1の態様では、上記コーンスプリングの内周縁が当接する第1の荷重支持面が上記ブッシュに、外周縁が当接する第2の荷重支持面が上記リティニングプレートに、互いに対向して形成されており、
上記第1の荷重支持面および上記第2の荷重支持面には、上記コーンスプリングが逆向きに組み込まれたときに当該コーンスプリングの外周縁および内周縁を受容するように軸方向に後退した段部がそれぞれ形成されており、
上記第1の荷重支持面における上記段部の境界の径方向位置が、上記第2の荷重支持面における上記段部の境界の径方向位置よりも外周側にある。
【0008】
第2の態様では、上記コーンスプリングの内周縁が当接する第1の荷重支持面が上記ブッシュに、外周縁が当接する第2の荷重支持面が上記リティニングプレートに、互いに対向して形成されており、
上記第1の荷重支持面には、上記コーンスプリングが逆向きに組み込まれたときに当該コーンスプリングの外周縁を受容するように軸方向に後退した段部が形成されており、
上記第1の荷重支持面における上記段部の境界の径方向位置が、平坦面をなす上記第2の荷重支持面の内周側端縁の径方向位置よりも外周側にある。
【0009】
第3の態様では、上記コーンスプリングの外周縁が当接する第1の荷重支持面が上記ブッシュに、内周縁が当接する第2の荷重支持面が上記リティニングプレートに、互いに対向して形成されており、
上記第1の荷重支持面および上記第2の荷重支持面には、上記コーンスプリングが逆向きに組み込まれたときに当該コーンスプリングの内周縁および外周縁を受容するように軸方向に後退した段部がそれぞれ形成されており、
上記第1の荷重支持面における上記段部の境界の径方向位置が、上記第2の荷重支持面における上記段部の境界の径方向位置よりも内周側にある。
【0010】
第4の態様では、上記コーンスプリングの外周縁が当接する第1の荷重支持面が上記ブッシュに、内周縁が当接する第2の荷重支持面が上記リティニングプレートに、互いに対向して形成されており、
上記第1の荷重支持面には、上記コーンスプリングが逆向きに組み込まれたときに当該コーンスプリングの内周縁を受容するように軸方向に後退した段部が形成されており、
上記第1の荷重支持面における上記段部の境界の径方向位置が、平坦面をなす上記第2の荷重支持面の径方向範囲内にある。
【0011】
上記の構成では、コーンスプリングに軸方向に過大な荷重が作用したとしても、コーンスプリングが平坦に達した状態では、第1,第2荷重支持面の各々の平坦面部分でコーンスプリングを挟持する形となり、コーンスプリングを本来のテーパの向きとは反対に反転させようとする力(モーメント)が発生しない。そのため、コーンスプリングが反転するおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】この発明に係る摩擦発生機構の第1実施例を示す要部の断面図。
【
図2】第1実施例におけるコーンスプリングの平面図。
【
図3】コーンスプリングが逆向きに組み込まれたときの断面図。
【
図4】摩擦発生機構の第2実施例を示す要部の断面図。
【
図5】第2実施例の摩擦発生機構が軸方向に荷重を受けたときの説明図。
【
図6】比較例の摩擦発生機構が軸方向に荷重を受けたときの説明図。
【
図7】摩擦発生機構の第3実施例を示す要部の断面図。
【
図8】第3実施例におけるコーンスプリングの平面図。
【
図9】摩擦発生機構の第4実施例を示す要部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1は、この発明に係るダンパ装置の要部である摩擦発生機構1の第1実施例を示している。ダンパ装置の全体的な構成は、特許文献1等に開示されているように公知の構成であるので図示を省略しているが、例えば内燃機関のフライホイールに取り付けられて内燃機関のトルクが入力される入力側回転部材2と、この入力側回転部材2に対して相対回転可能に組み合わされた出力側回転部材3と、を有する。出力側回転部材3は、例えば変速機の入力シャフトにスプライン結合されるスプラインハブ4を回転中心部に備えている。スプラインハブ4は、円筒状のボス部4aと、このボス部4aの軸方向中央部から外周側へ延びるディスク部4bと、を有する。なお、
図1の左方が内燃機関側、右方が変速機側、となる。
【0015】
入力側回転部材2は、変速機側に位置する略円形のリティニングプレート5と内燃機関側に位置する図示しない略円形のカバープレートとの外周部同士を互いに接合することによって円盤状に構成されており、これら2つのプレートの間に出力側回転部材3の一部であるスプラインハブ4のディスク部4bが挟み込まれている。このディスク部4bと入力側回転部材2との間には、両者を回転方向に弾性的に連結するように、図外の複数個例えば4個のコイルスプリングが回転接線方向に沿って配置されている。このコイルスプリングの弾性力によって捩り振動が吸収される。リティニングプレート5および図示しないカバープレートは、金属板をプレス成形することにより構成されている。なお、
図1には、リティニングプレート5の内周縁部分のみが示されている。
【0016】
摩擦発生機構1は、入力側回転部材2と出力側回転部材3との相対回転に対して減衰力となる摩擦トルクを発生するものであり、いわゆるエンジニアリングプラスチック等の硬質合成樹脂からなる円環状のブッシュ6と、このブッシュ6とリティニングプレート5との間に圧縮状態で配置された環状のコーンスプリング7と、を備えて構成されている。
【0017】
ブッシュ6は、スプラインハブ4のボス部4aの外周面に回転自在に嵌合しており、背面側の環状摩擦面6aがスプラインハブ4のディスク部4bにおける環状摩擦面4cに接している。これらの環状摩擦面6a,4cは、回転中心軸線に対し直交する平面(以下、これを軸直交平面という)に沿っており、両者が摺接することで摩擦トルクが生成される。ブッシュ6は、変速機側へ向かって延びる円筒部6bを有し、これにより、全体として断面略L字形をなしている。コーンスプリング7は、円筒部6bの外周に嵌合しており、この円筒部6bによって径方向に位置決めされている。
【0018】
リティニングプレート5の内周側の部分は、ブッシュ6に軸方向に対向しており、両者間にコーンスプリング7が配置されている。なお、リティニングプレート5の内周端は、ブッシュ6の円筒部6bよりも僅かに外周側に位置し、両者が軸方向に部分的に重なり合っている。
【0019】
コーンスプリング7は、軸直交平面に対して比較的小さな角度でもって傾いたテーパ状の断面形状を有する。この第1実施例では、コーンスプリング7の断面は、内周縁7aが軸方向に関して相対的にブッシュ6寄りに位置しかつ外周縁7bが軸方向に関して相対的にリティニングプレート5寄りに位置することとなる方向に傾いている。また、第1実施例に用いられているコーンスプリング7は、
図2に平面図を示すように、内周縁7aが円形に連続し、外周縁7bが複数の切欠部8を形成することによって凹凸状に形成されている。
【0020】
ブッシュ6は、コーンスプリング7の内周縁7aが当接する第1の荷重支持面9を有する。第1の荷重支持面9は、円筒部6bの内周面から直角に立ち上がっており、軸直交平面に沿って形成されている。またリティニングプレート5は、コーンスプリング7の外周縁7bが当接する第2の荷重支持面10を有する。この第2の荷重支持面10は、やはり軸直交平面に沿って形成されている。第1の荷重支持面9と第2の荷重支持面10とは、互いに軸方向に対向している。
【0021】
また、第1の荷重支持面9には、コーンスプリング7が誤って逆向きに組み込まれたときに当該コーンスプリング7の外周縁7bを受容するように軸方向に後退した段部9aが形成されている。段部9aは、ブッシュ6の外周側に位置する。通常は、この段部9aにはコーンスプリング7は接触しない。従って、実質的な第1の荷重支持面9は、段部9aを除いた内周側の平坦面部分9bのみである。
【0022】
同様に、第2の荷重支持面10には、コーンスプリング7が誤って逆向きに組み込まれたときに当該コーンスプリング7の内周縁7aを受容するように軸方向に後退した段部10aが形成されている。段部10aは、金属板からなるリティニングプレート5の内周縁を絞り加工することで形成されている。通常は、この段部10aにはコーンスプリング7は接触しない。従って、実質的な第2の荷重支持面10は、段部10aを除いた外周側の平坦面部分10bのみである。
【0023】
ここで、第1の荷重支持面9における段部9aの境界9cの径方向位置は、第2の荷重支持面10における段部10aの境界10cの径方向位置よりも外周側にある。つまり、
図1に示すように、第1の荷重支持面9における境界9cの径D1は、第2の荷重支持面10における境界10cの径D2よりも大きい。従って、第1の荷重支持面9と第2の荷重支持面10とを軸方向に投影して見たときに、実質的な第1の荷重支持面9となる内周側の平坦面部分9bと、実質的な第2の荷重支持面10となる外周側の平坦面部分10bとが、ある程度の径方向幅でもって互いに重なり合っている。
【0024】
このように構成されたダンパ装置の摩擦発生機構1にあっては、外周縁7bがリティニングプレート5に支持された形となるコーンスプリング7がブッシュ6をディスク部4bへ向けて軸方向に付勢し、これにより、環状摩擦面6a,4c同士が適切に圧接した状態が得られる。
【0025】
また、第1の荷重支持面9および第2の荷重支持面10にそれぞれ設けられた段部9a,10aは、コーンスプリング7が誤って逆向きに組み込まれた誤組付の検査工程での検出に寄与する。
図3は、コーンスプリング7が誤って逆向きに組み込まれた状態を示しており、この状態では、正しい姿勢とは逆向きのテーパとなったコーンスプリング7の外周縁7bが第1の荷重支持面9の段部9a内に入り込み、内周縁7aが第2の荷重支持面10の段部10a内に入り込む。そのため、
図1と比較すれば容易に理解できるように、コーンスプリング7の軸方向の付勢力が大きく低減する。従って、ダンパ装置の組立後に摩擦発生機構1の摩擦トルクを検査すれば、誤組付であることが容易に検出される。
【0026】
なお、コーンスプリング7を正規の向きで組み付けた状態(
図1)では、凹凸状をなす外周縁7bが金属製のリティニングプレート5に当接し、円形に滑らかに連続した内周縁7aが合成樹脂製のブッシュ6に当接する。これに対し、逆向きに誤って組み付けた状態(
図3)では、凹凸状をなす外周縁7bが合成樹脂製のブッシュ6に当接することとなり、耐久性を確保することができない。そのため、組立後の検査により誤組付を排除するようにしているのであるが、仮に段部9a,10aを具備しない平行面をなす第1の荷重支持面9と第2の荷重支持面10との間に逆向きのコーンスプリング7が組み込まれた場合には、正規の向きと付勢力がほとんど変わらないので、摩擦トルク特性による誤組付の発見が困難である。
【0027】
一方、上記の段部9a,10aの形成は、コーンスプリング7に軸方向に過大な荷重が作用したときに、コーンスプリング7が本来のテーパの向きとは反対向きとなるように反転してしまう現象の要因となり得る。しかしながら、上記第1実施例の構成では、上述したように「D1>D2」の関係としたことにより、軸方向に過大な荷重が作用してもコーンスプリング7の反転を生じることがない。つまり、径D1と径D2との間に存在する互いに平行でかつ軸直交平面に沿った2つの荷重支持面9,10(平坦面部分9b,10b)の間でコーンスプリング7が挟圧されるに過ぎず、コーンスプリング7を反転させるようなモーメントが発生しない。なお、この作用については、第2実施例を用いて後段でさらに説明する。
【0028】
図4は、摩擦発生機構1の第2実施例を示す。なお、以下では、第1実施例の説明と重複する説明は省略する。この第2実施例では、第1実施例と同様に、ブッシュ6における第1の荷重支持面9に、コーンスプリング7が誤って逆向きに組み込まれたときに当該コーンスプリング7の外周縁7bを受容する段部9aが形成されている。一方、リティニングプレート5側の第2の荷重支持面10には、第1実施例のような段部10aは形成されていない。つまり、第2の荷重支持面10は、コーンスプリング7の内周縁7a付近に対向する内周側端縁10dに至るまで平坦面をなしている。
【0029】
ここで、第1の荷重支持面9における段部9aの境界9cの径方向位置は、第2の荷重支持面10の内周側端縁10dの径方向位置よりも外周側にある。つまり、第1の荷重支持面9における境界9cの径D3は、第2の荷重支持面10における内周側端縁10dの径D4よりも大きい。従って、第1の荷重支持面9と第2の荷重支持面10とを軸方向に投影して見たときに、実質的な第1の荷重支持面9となる内周側の平坦面部分9bと平坦な第2の荷重支持面10とが、ある程度の径方向幅でもって互いに重なり合っている。
【0030】
このように第1の荷重支持面9のみに段部9aを備えた構成でも、コーンスプリング7が誤って逆向きに組み込まれたときには、当該コーンスプリング7の外周縁7bが段部9a内に入り込むことで、コーンスプリング7の軸方向の付勢力が大きく低減し、従って、検査工程での検出が可能である。
【0031】
また、「D3>D4」の関係にあることで、第1実施例と同様に、軸方向に過大な荷重が作用したときのコーンスプリング7の反転が回避される。
【0032】
図5は、軸方向荷重に対するコーンスプリング7の反転防止のメカニズムを説明する説明図であり、ここでは、第2実施例を例に説明する。図(b)は、軸方向荷重を受けていない中立状態を示す。なお、コーンスプリング7は初期の組付状態で圧縮常態にあるので、この例では、平坦に近い状態にまで変位している。図(a)は、入力側回転部材2であるリティニングプレート5に対して出力側回転部材3であるスプラインハブ4が矢印で示すように図左側へ軸方向荷重を受けた状態を示す。この方向の軸方向荷重では、コーンスプリング7の反転は特に生じない。
【0033】
図(c)は、出力側回転部材3であるスプラインハブ4が矢印で示すように図右側へ軸方向荷重を受けた状態を示す。このとき、コーンスプリング7の内周縁7aが図右側へ押され、コーンスプリング7の外周縁7bが図左側へ押される。しかし、「D3>D4」の関係にあることから、互いに重なり合っているそれぞれ平坦な第1の荷重支持面9(平坦面部分9b)と第2の荷重支持面10とでコーンスプリング7を挟圧する形となり、コーンスプリング7を反転させようとするモーメントが発生しない。
【0034】
図6は、比較例におけるコーンスプリング7の反転を説明する説明図である。この比較例は、例えば、
図1の第1実施例において径D1と径D2との大小関係を逆に「D1<D2」としたものに相当する。つまり、第1の荷重支持面9における段部9aの境界9cが、第2の荷重支持面10における段部10aの境界10cよりも相対的に内周側に位置する構成である。図(b)は、軸方向荷重を受けていない中立状態を示し、図(a)は、入力側回転部材2であるリティニングプレート5に対して出力側回転部材3であるスプラインハブ4が矢印で示すように図左側へ軸方向荷重を受けた状態を示す。
【0035】
図(c)は、出力側回転部材3であるスプラインハブ4が矢印で示すように図右側へ軸方向荷重を受けた状態を示す。この図(c)に示す方向に大きな軸方向荷重が作用すると、コーンスプリング7の内周縁7aが図右側へ押され、コーンスプリング7の外周縁7bが図左側へ押される。このとき、コーンスプリング7を図右側へ押圧する力の作用点が図左側へ押圧する力の作用点よりも内周側に位置する。そのため、コーンスプリング7が平坦状態を越えて逆向きのテーパとなるようなモーメントが作用し、コーンスプリング7は、図示するように反転してしまうことがある。そして、反転時に、しばしばクラックの発生を伴うこととなる。
【0036】
次に、
図7に基づいて、摩擦発生機構1の第3実施例を説明する。この第3実施例では、コーンスプリング7は、第1,第2実施例のコーンスプリング7とは逆向きに傾いたテーパ状の断面を有している。また、
図8に示すように、第3実施例に用いられるコーンスプリング7は、外周縁7bが円形に連続し、内周縁7aが複数の切欠部8を形成することによって凹凸状に形成されている。
【0037】
ブッシュ6は、コーンスプリング7の外周縁7bが当接する第1の荷重支持面9を有する。リティニングプレート5は、コーンスプリング7の内周縁7aが当接する第2の荷重支持面10を有する。第1の荷重支持面9および第2の荷重支持面10は、やはり軸直交平面に沿って形成されており、互いに軸方向に対向している。
【0038】
また、第1の荷重支持面9には、コーンスプリング7が誤って逆向きに組み込まれたときに当該コーンスプリング7の内周縁7aを受容するように軸方向に後退した段部9aが内周側に形成されている。通常は、この段部9aにはコーンスプリング7は接触しない。従って、実質的な第1の荷重支持面9は、段部9aを除いた外周側の平坦面部分9bのみである。
【0039】
同様に、第2の荷重支持面10の外周側部分には、コーンスプリング7が誤って逆向きに組み込まれたときに当該コーンスプリング7の外周縁7bを受容するように軸方向に後退した段部10aが形成されている。通常は、この段部10aにはコーンスプリング7は接触しない。従って、実質的な第2の荷重支持面10は、段部10aを除いた内周側の平坦面部分10bのみである。
【0040】
ここで、第1の荷重支持面9における段部9aの境界9cの径方向位置は、第2の荷重支持面10における段部10aの境界10cの径方向位置よりも内周側にある。つまり、
図7に示すように、第1の荷重支持面9における境界9cの径D5は、第2の荷重支持面10における境界10cの径D6よりも小さい。従って、第1の荷重支持面9と第2の荷重支持面10とを軸方向に投影して見たときに、実質的な第1の荷重支持面9となる外周側の平坦面部分9bと、実質的な第2の荷重支持面10となる内周側の平坦面部分10bとが、ある程度の径方向幅でもって互いに重なり合っている。
【0041】
従って、この実施例においても、仮にコーンスプリング7が誤って逆向きに組み込まれたときには、コーンスプリング7の内周縁7aが段部9aに、外周縁7bが段部10aに、それぞれ入り込むため、コーンスプリング7の付勢力が大幅に低減する。そのため、検査工程で異常発見を行うことが可能である。
【0042】
また、過大な軸方向荷重が作用したときには、2つの力の作用点が「D5<D6」の関係にあることから、テーパの向きを反転させるようなモーメントが発生しない。従って、第1,第2実施例と同様に、コーンスプリング7が反転するおそれがない。
【0043】
なお、この第3実施例では、コーンスプリング7の凹凸状をなす内周縁7aが金属製のリティニングプレート5に当接する。
【0044】
次に、
図9は、摩擦発生機構1の第4実施例を示している。この第4実施例では、第3実施例と同様に、ブッシュ6における第1の荷重支持面9の内周側部分に、コーンスプリング7が誤って逆向きに組み込まれたときに当該コーンスプリング7の内周縁7aを受容する段部9aが形成されている。一方、リティニングプレート5側の第2の荷重支持面10には、第3実施例のような段部10aは形成されていない。つまり、第2の荷重支持面10は、内周側端縁10dからコーンスプリング7の外周縁7bに対向する部分に至る全体が平坦面をなしている。
【0045】
ここで、第1の荷重支持面9における段部9aの境界9cの径方向位置は、平坦面をなす第2の荷重支持面10の径方向範囲内にある。つまり、第1の荷重支持面9と第2の荷重支持面10とを軸方向に投影して見たときに、実質的な第1の荷重支持面9となる外周側の平坦面部分9bが平坦な第2の荷重支持面10に重なっている。
【0046】
このように第1の荷重支持面9のみに段部9aを備えた構成でも、コーンスプリング7が誤って逆向きに組み込まれたときには、当該コーンスプリング7の内周縁7aが段部9a内に入り込むことで、コーンスプリング7の軸方向の付勢力が大きく低減し、従って、検査工程での検出が可能である。
【0047】
また、第1の荷重支持面9の外周側の平坦面部分9bが平坦な第2の荷重支持面10と重なり合う径方向位置にあることで、第3実施例と同様に、軸方向に過大な荷重が作用したときのコーンスプリング7の反転が回避される。