IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝三菱電機産業システム株式会社の特許一覧 ▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

特許7375216フリッカ抑制装置及びフリッカ抑制制御方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】フリッカ抑制装置及びフリッカ抑制制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/18 20060101AFI20231030BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
H02J3/18
H02J3/38 110
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022549497
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2022002885
(87)【国際公開番号】W WO2022163697
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2022-08-17
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/003265
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷内田 貴行
(72)【発明者】
【氏名】森島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健一
(72)【発明者】
【氏名】手操 亮裕
(72)【発明者】
【氏名】高橋 達也
(72)【発明者】
【氏名】谷 直樹
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-147875(JP,A)
【文献】特開2017-147785(JP,A)
【文献】特開2016-101562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/18
H02J 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散型電源を系統連系するためのパワーコンディショナが接続された電力系統のフリッカ抑制装置であって、
前記電力系統に対して遅れ無効電力又は進み無効電力を注入するための電力変換器と、
前記電力系統上の交流電圧の周波数である系統周波数を検出するための周波数検出器と、
前記系統周波数の変化量を算出する周波数変化量算出部と、
前記系統周波数の変化量に基づいて前記電力変換器の出力を制御する制御器とを備え、
前記制御器は、前記パワーコンディショナが検出する前記系統周波数の変化量を縮小する様に、前記系統周波数の上昇に対応して前記進み無効電力を出力する一方で、前記系統周波数の低下に対応して前記遅れ無効電力を出力する第1の制御特性と、前記系統周波数の上昇に対応して前記遅れ無効電力を出力する一方で、前記系統周波数の低下に対応して前記進み無効電力を出力する第2の制御特性との一方を選択して、前記電力変換器から出力される無効電力を制御する、フリッカ抑制装置。
【請求項2】
前記制御器は、前記第1の制御特性又は前記第2の制御特性に従って前記電力変換器から出力される無効電力を制御しているときに前記系統周波数の変化量が拡大すると、前記第1の制御特性及び前記第2の制御特性の選択を切替える、請求項1記載のフリッカ抑制装置。
【請求項3】
前記制御器は、前記第1の制御特性に従って前記電力変換器から出力される無効電力を制御しているときに前記系統周波数の変化量が拡大すると、前記第1の制御特性から前記第2の制御特性に切替えて前記電力変換器から出力される無効電力を制御する、請求項1又は2に記載のフリッカ抑制装置。
【請求項4】
前記電力系統上の交流電圧の実効値である系統電圧実効値を検出するための電圧検出器と、
前記系統電圧実効値の変化量を算出する電圧変化量算出部とを更に備え、
前記制御器は、前記系統電圧実効値の変化量のフリッカ周期に従う時間変化と、前記系統周波数の変化量の前記フリッカ周期に従う時間変化との位相関係に応じて、前記第1の制御特性及び前記第2の制御特性の一方を選択する、請求項1記載のフリッカ抑制装置。
【請求項5】
前記電力系統上の交流電圧の実効値である系統電圧実効値を検出するための電圧検出器と、
前記系統電圧実効値の変化量を算出する電圧変化量算出部とを更に備え、
前記制御器は、前記電力変換器による前記無効電力の非出力期間における、前記系統電圧実効値の変化量のフリッカ周期に従う時間変化と、前記系統周波数の変化量の前記フリッカ周期に従う時間変化との位相関係に応じて、前記第1の制御特性及び前記第2の制御特性の一方の制御特性を選択するとともに、前記電力変換器からの前記無効電力の出力を開始する際には、前記一方の制御特性に従って前記電力変換器から出力される無効電力を制御する、請求項1~3のいずれか1項に記載のフリッカ抑制装置。
【請求項6】
前記制御器は、前記フリッカ周期を360度とする、前記系統電圧実効値の変化量の時間変化と、前記系統周波数の変化量の時間変化との位相差が、0度よりも180度に近いときは前記第1の制御特性を選択する一方で、前記位相差が、180度よりも0度に近いときには、前記第2の制御特性を選択する、請求項4又は5に記載のフリッカ抑制装置。
【請求項7】
前記制御器は、前記第1の制御特性及び前記第2の制御特性の一方に従って前記電力変換器から出力される無効電力を制御する状態から、前記第1の制御特性及び前記第2の制御特性の他方に従って前記電力変換器から出力される無効電力を制御する状態への切替時には、前記系統周波数の変化量に対する前記無効電力の大きさの比を一時的に減少する緩和期間を設ける、請求項1~6のいずれか1項に記載のフリッカ抑制装置。
【請求項8】
前記制御器は、前記周波数変化量算出部によって算出された前記変化量を入力とする、予め定められた制御演算に従って無効電力指令値を算出する制御演算部と、
前記無効電力指令値に従った無効電力を出力する様に前記電力変換器の制御指令を生成する電力変換器制御部とを含み、
前記制御演算は、比例ゲインと前記変化量との積に従って、前記無効電力の大きさと前記変化量の絶対値とが比例するように前記無効電力指令値を設定する様に行われ、
前記第1の制御特性及び前記第2の制御特性では、前記比例ゲインの極性が異なる、請求項1~7のいずれか1項に記載のフリッカ抑制装置。
【請求項9】
分散型電源を系統連系するためのパワーコンディショナが接続された電力系統のフリッカ抑制装置であって、
前記電力系統に対して遅れ無効電力又は進み無効電力を注入するための電力変換器と、
前記電力系統上の交流電圧の周波数である系統周波数を検出するための周波数検出器と、
検出された前記系統周波数に基づいて前記電力変換器の出力を制御する制御器とを備え、
前記制御器は、前記系統周波数の上昇に対応して前記系統周波数を低下させるための前記進み無効電力を出力する一方で、前記系統周波数の低下に対応して前記系統周波数を上昇させるための前記遅れ無効電力を出力する様に前記電力変換器を制御する、フリッカ抑制装置。
【請求項10】
前記制御器は、
前記系統周波数の変化量を算出する周波数変化量算出部と、
前記周波数変化量算出部によって算出された前記変化量を入力とする、予め定められた制御演算に従って無効電力指令値を算出する制御演算部と、
前記無効電力指令値に従った無効電力を出力する様に前記電力変換器の制御指令を生成する電力変換器制御部とを含み、
前記制御演算部は、前記変化量が前記系統周波数の上昇を示す極性である場合には、当該変化量を補償するために前記電力変換器が前記進み無効電力を出力する一方で、前記変化量が前記系統周波数の低下を示す極性である場合には、当該変化量を補償するために前記電力変換器が前記遅れ無効電力を出力する様に前記無効電力指令値を設定する、請求項9記載のフリッカ抑制装置。
【請求項11】
前記制御演算は、前記変化量が前記系統周波数の上昇を示す極性である場合には、予め定められた大きさの前記進み無効電力を出力する一方で、前記変化量が前記系統周波数の低下を示す極性である場合には、当該大きさの前記遅れ無効電力を出力する様に前記無効電力指令値を設定する様に行われる、請求項10記載のフリッカ抑制装置。
【請求項12】
前記制御演算は、予め定められた比例ゲインと前記変化量との積に従って、前記無効電力の大きさと前記変化量の絶対値とが比例するように前記無効電力指令値を設定する様に行われる、請求項10記載のフリッカ抑制装置。
【請求項13】
前記比例ゲインの絶対値は、前記変化量の絶対値が判定値よりも小さい領域では、前記変化量の絶対値が前記判定値よりも大きい領域と比較して小さい値に設定される、請求項8又は12記載のフリッカ抑制装置。
【請求項14】
前記変化量の絶対値が判定値よりも小さい領域では、前記比例ゲインはゼロに設定される、請求項13記載のフリッカ抑制装置。
【請求項15】
前記周波数変化量算出部は、現時点以前の第1の期間における前記系統周波数の移動平均値と、前記第1の期間よりも前の第2の期間における前記系統周波数の移動平均値との差に従って、前記変化量を算出する、請求項1~8及び10~14のいずれか1項に記載のフリッカ抑制装置。
【請求項16】
前記周波数変化量算出部は、前記系統周波数の基準値と、現時点以前の第1の期間における前記系統周波数の移動平均値との差に従って、前記変化量を算出する、請求項1~8及び10~14のいずれか1項に記載のフリッカ抑制装置。
【請求項17】
分散型電源を連系するためのパワーコンディショナが接続された電力系統のフリッカ抑制制御方法であって、
前記電力系統上の交流電圧の周波数である系統周波数を検出するステップと、
前記検出するステップで検出された前記系統周波数に基づいて、前記電力系統に対して遅れ無効電力又は進み無効電力を注入するための電力変換器を制御するステップとを備え、
前記制御するステップにおいて、前記系統周波数の上昇に対応して前記進み無効電力を出力する一方で、前記系統周波数の低下に対応して前記遅れ無効電力を出力する様に、前記電力変換器は制御される、フリッカ抑制制御方法。
【請求項18】
前記制御するステップは、
前記系統周波数の変化量を算出するステップと、
算出された前記変化量を入力とする、予め定められた制御演算に従って無効電力指令値を生成するステップと、
前記無効電力指令値に従った無効電力を出力する様に前記電力変換器の制御指令を生成するステップとを含み、
前記無効電力指令値は、前記変化量が前記系統周波数の上昇を示す極性である場合には、前記電力変換器が当該変化量を補償するために前記進み無効電力を出力する一方で、前記変化量が前記系統周波数の低下を示す極性である場合には、前記電力変換器が当該変化量を補償するために前記遅れ無効電力を出力する様に生成される、請求項17記載のフリッカ抑制制御方法。
【請求項19】
分散型電源を連系するためのパワーコンディショナが接続された電力系統のフリッカ抑制制御方法であって、
前記電力系統上の交流電圧の周波数である系統周波数を検出するステップと、
前記系統周波数の変化量を算出するステップと、
前記系統周波数の変化量に基づいて、前記電力系統に対して遅れ無効電力又は進み無効電力を注入するための電力変換器を制御するステップとを備え、
前記制御するステップにおいて、前記パワーコンディショナが検出する前記系統周波数の変化量を縮小する様に、前記系統周波数の上昇に対応して前記進み無効電力を出力する一方で、前記系統周波数の低下に対応して前記遅れ無効電力を出力する第1の制御特性と、前記系統周波数の上昇に対応して前記遅れ無効電力を出力する一方で、前記系統周波数の低下に対応して前記進み無効電力を出力する第2の制御特性との一方を選択して、前記電力変換器から出力される無効電力は制御される、フリッカ抑制制御方法。
【請求項20】
前記制御するステップは、
算出された前記変化量を入力とする、前記第1及び第2の制御特性の選択された一方に従う制御演算によって無効電力指令値を生成するステップと、
前記無効電力指令値に従った無効電力を出力する様に前記電力変換器の制御指令を生成するステップとを含み、
前記無効電力指令値は、
前記第1の制御特性が選択された場合には、前記変化量が前記系統周波数の上昇を示す極性である場合には、前記電力変換器が当該変化量を補償するために前記進み無効電力を出力する一方で、前記変化量が前記系統周波数の低下を示す極性である場合には、前記電力変換器が当該変化量を補償するために前記遅れ無効電力を出力する様に生成され、
前記第2の制御特性が選択された場合には、前記変化量が前記系統周波数の上昇を示す極性である場合には、前記電力変換器が当該変化量を補償するために前記遅れ無効電力を出力する一方で、前記変化量が前記系統周波数の低下を示す極性である場合には、前記電力変換器が当該変化量を補償するために前記進み無効電力を出力する様に生成される、請求項19記載のフリッカ抑制制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリッカ抑制装置及びフリッカ抑制制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生エネルギの導入が進む下で、電力系統に対して太陽光発電装置に代表される分散型電源が多数接続される様になっている。又、分散型電源を系統連系するためのパワーコンディショナ(PCS)には、単独運転状態の検出機能として、JEM1498規定に定められた、新型能動的方式(ステップ注入付周波数フィードバック方式)の適用が拡大されている。上記新型能動的方式では、PCSから電力系統に無効電力を注入した際の系統周波数の変化を監視することで、単独運転状態であるか否かが判断される。
【0003】
この様な新型能動的方式が適用されたPCSが電力系統に多数接続されることに起因して、電力系統の電圧変動(フリッカ)が6~7Hz程度の周波数で発生する現象が生じることが知られている(非特許文献1参照)。非特許文献1及び2には、STATCOM(Static synchronous compensator)に代表される無効電力補償装置を用いて、上記要因のフリッカの抑制を試みることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「STATCOMを活用したフリッカ抑制手法に関する研究」、近松直紀他著、電気学会、2019年3月1日、平成31年電気学会全国大会講演論文集、6-222、379頁
【文献】「配電系統におけるPCSによるフリッカ発生とSTATCOMの無効電力注入ゲインの影響」、東谷拓馬他著、電気学会、2019年3月1日、平成31年電気学会全国大会講演論文集、6-223、380頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、無効電力補償装置による電圧補償制御では、電力系統を構成する送電線が誘導性負荷であることを考慮して、系統電圧の上昇時には遅れ無効電力(無効電流)を供給する一方で、系統電圧の低下時には進み無効電力(無効電流)を供給することで、フリッカの制抑が図られる。
【0006】
しかしながら、非特許文献1によれば、STATCOMを用いた電圧補償制御によって、6~7Hz程度の電圧変動成分が抑制された一方で、20Hz付近の電圧変動が大きくなったことが記載されている。
【0007】
又、非特許文献2によれば、STATCOMの無効電力制御ゲインがフリッカに与える影響が大きく、ゲイン値が不適切であると、無制御時よりもフリッカが増大するケースも発生することが記載されている。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、本発明の目的は、分散型電源を系統連系するためのパワーコンディショナが接続された電力系統のフリッカを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある局面によれば、分散型電源を系統連系するためのパワーコンディショナが接続された電力系統のフリッカ抑制装置であって、電力変換器と、周波数検出器と、制御器とを備える。電力変換器は、電力系統に対して遅れ無効電力又は進み無効電力を注入する様に構成される。周波数検出器は、電力系統上の交流電圧の周波数である系統周波数を検出する様に構成される。制御器は、検出された系統周波数に基づいて電力変換器の出力を制御する。制御器は、系統周波数の上昇に対応して進み無効電力を出力する一方で、系統周波数の低下に対応して遅れ無効電力を出力する様に電力変換器を制御する様に構成される。
【0010】
本発明の他のある局面によれば、分散型電源を連系するためのパワーコンディショナが接続された電力系統のフリッカ抑制制御方法であって、電力系統上の交流電圧の周波数である系統周波数を検出するステップと、検出するステップで検出された系統周波数に基づいて、電力系統に対して遅れ無効電力又は進み無効電力を注入するための電力変換器を制御するステップとを備える。当該制御するステップにおいて、系統周波数の上昇に対応して進み無効電力を出力する一方で、系統周波数の低下に対応して遅れ無効電力を出力する様に、電力変換器は制御される。
【0011】
本発明の更に他のある局面によれば、分散型電源を系統連系するためのパワーコンディショナが接続された電力系統のフリッカ抑制装置であって、電力変換器と、周波数検出器と、制御器とを備える。電力変換器は、電力系統に対して遅れ無効電力又は進み無効電力を注入する様に構成される。周波数検出器は、電力系統上の交流電圧の周波数である系統周波数を検出する様に構成される。周波数変化量算出部は、系統周波数の変化量を算出する。制御器は、系統周波数の変化量に基づいて電力変換器の出力を制御する。制御器は、パワーコンディショナが検出する系統周波数の変化量を縮小する様に、第1の制御特性及び第2の制御特性の一方を選択して、電力変換器から出力される無効電力を制御する。第1の制御特性の選択時には、系統周波数の上昇に対応して進み無効電力を出力する一方で、系統周波数の低下に対応して遅れ無効電力を出力する様に無効電力が制御される。第2の制御特性の選択時には、系統周波数の上昇に対応して遅れ無効電力を出力する一方で、系統周波数の低下に対応して進み無効電力を出力する様に無効電力が制御される。
【0012】
本発明の更に他のある局面によれば、分散型電源を連系するためのパワーコンディショナが接続された電力系統のフリッカ抑制制御方法であって、電力系統上の交流電圧の周波数である系統周波数を検出するステップと、系統周波数の変化量を算出するステップと、系統周波数の変化量に基づいて、電力系統に対して遅れ無効電力又は進み無効電力を注入するための電力変換器を制御するステップとを備える。当該制御するステップにおいて、パワーコンディショナが検出する系統周波数の変化量を縮小する様に、系統周波数の上昇に対応して進み無効電力を出力する一方で系統周波数の低下に対応して遅れ無効電力を出力する第1の制御特性と、系統周波数の上昇に対応して遅れ無効電力を出力する一方で系統周波数の低下に対応して進み無効電力を出力する第2の制御特性との一方を選択して、電力変換器から出力される無効電力は制御される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、系統周波数の変化(上昇又は低下)に対応して、分散型電源を系統連系するためのパワーコンディショナから注入される無効電力を打ち消すための無効電力を電力変換器から電力系統へ供給することにより、パワーコンディショナから注入された無効電力に起因するフリッカ(電圧変動)を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1に係るフリッカ抑制装置の構成を説明する概略ブロック図である。
図2図1に示された制御器のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図3図1に示された周波数変化量算出部の構成例が示すブロック図である。
図4図3での移動平均値の算出期間を説明する概念図である。
図5】系統連系用のPCSが出力する無効電力の特性を説明する概念図である。
図6図1の制御演算部における制御演算の第1の例を説明する概念図である。
図7図1の制御演算部における制御演算の第2の例を説明する概念図である。
図8図7におけるゲイン設定の第1の変形例を説明する概念図である。
図9図7におけるゲイン設定の第2の変形例を説明する概念図である。
図10】実施の形態1に係るフリッカ抑制制御方法を説明する第1のフローチャートである。
図11】実施の形態1に係るフリッカ抑制制御方法を説明する第2のフローチャートである。
図12】電力変換器によるフリッカ抑制制御に対する周波数変化量の第1の挙動例を説明する概念的な波形図である。
図13】電力変換器によるフリッカ抑制制御に対する周波数変化量の第2の挙動例を説明する概念的な波形図である。
図14】実施の形態2に係るフリッカ抑制装置の構成を説明する概略ブロック図である。
図15】フリッカ振幅の第1の判定例を説明するための概念的な波形図である。
図16】フリッカ振幅の第2の判定例を説明するための概念的な波形図である。
図17】実施の形態2に係るフリッカ抑制制御方法における制御特性の設定処理を説明するフローチャートである。
図18A】実施の形態2に係る制御特性設定部の出力を示す波形図である。
図18B】実施の形態2の変形例に係るフリッカ抑制制御装置の第1の構成例を示すブロック図である。
図18C図18Bに示された切替緩和処理部の出力値を示す波形図である。
図18D】実施の形態2の変形例に係るフリッカ抑制制御装置の第2の構成例を示すブロック図である。
図18E図18Dに示された切替緩和処理部の出力値を示す波形図である。
図19】実施の形態2の変形例に係るフリッカ抑制制御の動作例を示す波形図である。
図20】実施の形態3に係るフリッカ抑制装置の構成を説明する概略ブロック図である。
図21A】フリッカ位相差検出処理の第1の例を説明する第1の波形図である。
図21B】フリッカ位相差検出処理の第1の例を説明する第2の波形図である。
図21C】フリッカ位相差検出処理の第1の例を説明する概念図である。
図22A】フリッカ位相差検出処理の第2の例を説明する第1の波形図である。
図22B】フリッカ位相差検出処理の第2の例を説明する第2の波形図である。
図23】実施の形態3に係るフリッカ抑制制御方法の設定を説明するフローチャートである。
図24】実施の形態3の変形例に係るフリッカ抑制装置の構成を説明する概略ブロック図である。
図25】実施の形態3の変形例に係るフリッカ抑制制御方法の設定を説明するフローチャートである。
図26】実施の形態3の変形例に係るフリッカ抑制制御の動作例を説明する第1の波形図である。
図27】実施の形態3の変形例に係るフリッカ抑制制御の動作例を説明する第2の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、図中の同一又は相当部分には同一符号を付して、その説明は原則的に繰返さないものとする。
【0016】
実施の形態1.
図1には、実施の形態1に係るフリッカ抑制装置の構成を説明する概略ブロック図が示される。
【0017】
図1に示される様に、実施の形態1に係るフリッカ抑制装置100は、電圧源10及び交流電路20を含む電力系統に接続される。交流電路20には、太陽光発電装置に代表される分散型電源40を系統連系するためのPCS30が接続される。PCS30は、上述した、単独運転状態の検出機能を有しており、当該検出機能のための無効電力Qxを交流電路20に出力する。
【0018】
フリッカ抑制装置100は、電力変換器110と、周波数検出器120と、制御器150とを備える。周波数検出器120は、交流電路20上の交流電圧波形から当該電圧の周波数である系統周波数fを検出する。制御器150は、周波数検出器120によって検出された系統周波数fを用いて、電力変換器110が交流電路20へ出力する無効電力Qcを制御する。
【0019】
尚、本実施の形態において、無効電力Qc,Qx(無効電流)の位相の進み及び遅れは、JEM1498規定に準じている。具体的には、系統側(交流電路20)から電力変換器110又はPCS30に電力(電流)が流入する方向を「正」と定義して、当該電流方向にて、電圧に対して位相が90度遅れる電流による無効電力を「遅れ(遅相)無効電力」と定義し、反対に、当該電圧に対して位相が90度進んだ電流による無効電力を「進み(進相)無効電力」と定義する。
【0020】
電力変換器110は、進み位相又は遅れ位相の無効電力Qcを交流電路20へ出力する。本明細書では、Qc>0のときに進み無効電力が出力され、Qc<0のときに、遅れ無効電力が、電力変換器110から交流電路20(電力系統)へ出力されるものとする。又、電力変換器110は、Qc=0、即ち、無効電力を出力しない動作状態も有する。
【0021】
電力変換器110は、代表的には、STATCOMで構成することが可能であるが、制御された進み無効電力又は遅れ無効電力を選択的に出力可能であれば、自励式及び他励式の無効電力調整装置を始めとして、任意の機器を適用することが可能である。
【0022】
制御器150は、周波数変化量算出部160と、制御演算部170と、電力変換器制御部180とを含む。周波数変化量算出部160は、周波数検出器120によって検出された系統周波数fを用いて、系統周波数fの変化(上昇又は低下)を示す周波数変化量fchgを算出する。制御演算部170は、周波数変化量fchgを入力とする、予め定められた制御演算に従って無効電力指令値Qrefを算出する。電力変換器制御部180は、無効電力指令値Qrefに従った無効電力Qcを出力するための、電力変換器110の制御指令Scvを生成する。制御指令Scvは、電力変換器110へ入力される。
【0023】
図2には、制御器150のハードウェア構成例が示される。代表的には、制御器150は、所定のプログラムが予め記憶されたマイクロコンピュータによって構成することができる。
【0024】
例えば、図2に示される様に、制御器150は、CPU(Central Processing Unit)151と、メモリ152と、入出力(I/O)回路153とを含む様に構成される。CPU151、メモリ152及びI/O回路153は、バス155を経由して、相互にデータの授受が可能である。メモリ152の一部領域にはプログラムが予め格納されており、CPU151が当該プログラムを実行することで、周波数変化量算出部160、制御演算部170、及び、電力変換器制御部180の機能を実現することができる。I/O回路153は、制御器150の外部(例えば、周波数検出器120及び電力変換器110)との間で、信号及びデータを入出力する。
【0025】
或いは、図2の例とは異なり、制御器150の少なくとも一部については、FPGA(Field Programmable Gate Array)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の回路を用いて構成することが可能である。又、制御器150の少なくとも一部について、アナログ回路によって構成することも可能である。
【0026】
この様に、図1中に示された、周波数変化量算出部160、制御演算部170、及び、電力変換器制御部180の各ブロックの機能は、制御器150によるソフトウェア処理及びハードウェア処理の少なくとも一方によって実現することができる。
【0027】
図3には、図1に示された周波数変化量算出部160の構成例が示される。周波数変化量算出部160には、周波数検出器120によって検出された系統周波数fが順次入力される。
【0028】
周波数変化量算出部160は、現在移動平均値算出部161と、過去移動平均値算出部162と、減算部163とを含む。現在移動平均値算出部161及び過去移動平均値算出部162は、順次入力された系統周波数fについて、図4に示される、異なる期間T1及びT2のそれぞれにおける移動平均値を算出する。
【0029】
現在移動平均値算出部161は、現時点t0以前の期間T1における移動平均値fav1を算出する。例えば、期間T1は、最新の40[ms]に定められる。過去移動平均値算出部162は、期間T1よりも前の期間T2における系統周波数fの移動平均値fav2を算出する。例えば、期間T2は、現時点t0よりも200[ms]前から遡った320[ms]に定められる。
【0030】
減算部163は、現在移動平均値算出部による移動平均値fav1から過去移動平均値算出部162による移動平均値fav2を減算することにより、周波数変化量fchgを算出する(fchg=fav1-fav2)。
【0031】
或いは、周波数変化量fchgについては、系統周波数の基準値fr(例えば、公称値である50[Hz]又は60[Hz]に対応した設定値)に対する現在の系統周波数fの偏差として算出することも可能である(fchg=f-fr)。
【0032】
この様に、本実施の形態では、系統周波数fの上昇時には、周波数変化量fchgは正(fchg>0)の極性を有し、系統周波数fの低下時には、fchgは負(fchg<0)の極性を有するように、周波数変化量fchgが算出される。尚、周波数変化量fchgの算出手法は、上述の例に限定されるものではない。系統周波数の上昇及び低下を表すことができるのであれば、極性(正/負)の定義の変更を含め、任意の手法によって周波数変化量fchgを算出することが可能である。
【0033】
尚、図3に例示した期間T1,T2での移動平均値の算出は、特許文献1と同様に、上述のJEM1498規定による周波数変化の算出手法に準ずるものであるが、本実施の形態と特許文献1とでは、周波数変化量の極性が異なっている点について確認的に記載する。即ち、特許文献1では、系統周波数の低下時に周波数偏差は正値とされ、系統周波数の上昇時には周波数偏差が負値とされているが、この極性は、上述した本実施の形態での周波数変化量fchgの極性(正/負)とは逆である。
【0034】
上述の様に、分散型電源を系統連系するためのPCS30は単独運転状態の検出機能を実現するために無効電力Qxを交流電路20に出力する。例えば、無効電力Qxは、JEM1498規定に定められた新型能動的方式(ステップ注入付周波数フィードバック方式)に従って、図5に示された特性で出力される。
【0035】
図5の横軸には、系統周波数の変化量が、本実施の形態と同様の極性に従って、周波数上昇方向を正方向として示され、図5の縦軸には、無効電力Qxが、上述した無効電力Qcと同様の極性で、進み無効電力を正値、遅れ無効電力を負値として示される。尚、図5の縦軸での無効電力の正負は、特許文献1の図3(縦軸)における無効電力の正負とは反対である点について確認的に記載する。
【0036】
PCS30は、系統周波数の変化量の絶対値が小さい領域(基準値fp以下)では、Qx=0に設定して無効電力を電力系統に出力しない不感帯を設ける。一方で、PCS30は、系統周波数の変化量が、不感帯を超えて周波数上昇側に変化すると、系統周波数を更に上昇するために遅れ無効電力を出力する様に、無効電力Qxを設定する(Qx<0)。同様に、PCS30は、系統周波数の変化量が、不感帯を超えて周波数低下側に変化すると、系統周波数を更に低下するために進み無効電力を出力する様に、無効電力Qxを設定する(Qx>0)。
【0037】
この結果、PCS30は、不感帯を超えた系統周波数の変化を検出すると、当該周波数変化(上昇又は低下)を助長する方向の無効電力を注入する。そして、この様な助長方向の無効電力を注入した際に、当該助長が妨げられることなく周波数が一定量変化(上昇又は低下)すると、PCS30が接続された交流電路20に対する送電が停止されており、当該PCS30が単独運転状態であることが検出できる。PCS30は、単独運転状態が検出されると、交流電路20と分散型電源40との間を電気的に切り離す様に動作する。これにより、単独運転の防止機能が実現される。
【0038】
この様な、単独運転検出のための無効電力Qxの注入が、交流電路20に接続された多数のPCS30から行われることにより、電力系統の電圧変動(フリッカ)が発生する。通常は、STATCOM等で構成された、図1の電力変換器110によって、誘導性の交流電路20上の系統電圧上昇に対応して遅れ無効電力(無効電流)を注入する一方で、系統電圧低下に対応して進み無効電力(無効電流)を供給することで、フリッカの制抑が図られる。しかしながら、非特許文献1及び2等に記載される様に、この様な通常の系統電圧の補償制御(フリッカ抑制制御)では、十分な効果を得ることが難しい。
【0039】
そこで、本実施の形態に係るフリッカ抑制装置は、系統周波数fの変化に対応してPCS30から注入される無効電力Qxを相殺することを意図して、系統周波数fの変化を補償する様な無効電力を交流系統に注入することで、PCS30に起因するフリッカの抑制を図る。
【0040】
即ち、図1に示された制御演算部170は、入力された周波数変化量fchgを補償する様に無効電力指令値Qrefを算出する。即ち、系統周波数の上昇に対応して、周波数を低下させるための進み無効電力を出力する様に無効電力指令値Qrefが設定される(Qref>0)一方で、系統周波数の低下に対応して、周波数を上昇させるための遅れ無効電力を出力する様に無効電力指令値Qrefが設定される(Qref<0)。
【0041】
図6及び図7には、制御演算部170による制御演算の例が示される。
例えば、図6に示される様に、制御演算部170は、fchg>0のときにQref=Qa(Qref>0)と設定し、制御演算部170は、fchg<0のときにQref=-Qa(Qref<0)と設定することができる。
【0042】
これにより、系統周波数fが上昇すると(fchg>0)、系統周波数が低下に転ずるまで、一定量の進み無効電力Qaを交流電路20へ注入する様に、電力変換器110の無効電力指令値Qrefを設定することができる。反対に、当該無効電力指令値Qrefは、系統周波数fが低下すると(fchg<0)、系統周波数が上昇に転ずるまで、一定量の遅れ無効電力-Qaを交流電路20へ注入する様に設定される。
【0043】
尚、周波数変化量fchgの絶対値が基準値(fx)よりも小さい領域に不感帯を設ける様に、図6を変形することも可能である。この場合には、fchg≦-fxのときにQref=-Qa、-fx<fchg<fxのときにQref=0、かつ、fchg≧fxのときにQref=Qaとすることができる。
【0044】
図6の例の制御演算が適用される際には、周波数変化量fchgは、系統周波数の上昇及び低下のいずれであるかを示すための二値データとして算出することも可能である。同様に、上述した図6に不感帯を設ける変形例が適用される際には、周波数変化量fchgは、系統周波数の上昇、変化無し、及び、低下のいずれかであるかを示すために三値データ、として算出することも可能である。
【0045】
或いは、図7に示される様に、制御演算部170は、周波数変化量fchg及び比例ゲインKpの積に従って、P(比例)制御によって無効電力指令値Qrefを設定することができる(Qref=Kp・fchg)。P制御によっても、周波数変化量fchg及び無効電力指令値Qrefの極性の関係は、図6と同様であり、系統周波数fの上昇(fchg>0)に対応して、進み無効電力が交流電路20へ注入される様に無効電力指令値Qrefが設定される(Qref>0)とともに、系統周波数fの低下(fchg<0)に対応して、遅れ無効電力が交流電路20へ注入される様に無効電力指令値Qrefが設定される(Qref<0)ことが理解される。更に、周波数変化の大小に対応して、注入される無効電力の大小が調整されるので(|Qref|∝|fchg|)、制御安定度を高めることが可能である。
【0046】
比例ゲインKpの設定は、図8及び図9の変形例とすることも可能である。
図8の変形例では、周波数変化量fchgの大小に応じて、比例ゲインKpを切替えられる。例えば、周波数変化量fchgの絶対値が大きい、fchg≧fx、又は、fchg≦-fxの領域では、比例ゲインKp=k1に設定する一方で、周波数変化量fchgの絶対値が小さい、-fx<fchg<fxの領域では、比例ゲインKp=k2(k2<k1)に設定することができる。
【0047】
この様にすると、周波数変化量の絶対値(|fchg|)が大きい領域では制御の応答速度を高めるとともに、周波数変化量の絶対値(|fchg|)が小さい領域では、制御安定度を高めることができる。
【0048】
或いは、図9の変形例では、図8におけるk2=0とすることで、周波数変化量fchgの絶対値が小さい領域(-fx<fchg<fx)に、無効電力指令値Qref=0とする不感帯を設けることも可能である。これにより、更に制御安定度を高めることができる。
【0049】
尚、図6図9では、各時点において周波数変化量fchg及び無効電力指令値Qrefの極性が常に一致する制御演算の例を説明したが、制御方式によっては、一時的に、周波数変化量fchg及び無効電力指令値Qrefの極性が反対となるケースも発生し得る。但し、このようなケースでも、最終的に系統周波数fの上昇(fchg>0)又は低下(fchg<0)をそれぞれ補償するために、全体として進み無効電力又は遅れ無効電力がそれぞれ交流電路20を注入する様に無効電力指令値Qrefが設定される制御演算であれば、図6図9で説明した制御方式と同様に、フリッカ抑制効果を得ることができる。
【0050】
更に、無効電力の進み及び遅れの定義についても、本明細書での例示とは異なるものとすることが可能である。即ち、系統周波数の上昇に対応して周波数低下方向の位相を有する無効電力が注入されるとともに、系統周波数の低下に対応して周波数上昇方向の位相を有する無効電力を出力する様に電力変換器110の出力を制御することで、本実施の形態での例示と同様の制御を実現することができる。
【0051】
図10には、実施の形態1に係るフリッカ抑制装置によるフリッカ抑制制御の処理を説明する第1のフローチャートが示される。図10のフローチャートは、フリッカ抑制装置100の作動時に、制御器150によって予め定められた制御周期で繰り返し実行される。
【0052】
図10に示される様に、制御器150は、ステップ(以下、単に「S」と表記する)110により、系統周波数fを検出すると、S120では、系統周波数fを用いて周波数変化量fchgを算出する。S110の処理は、図1の周波数検出器120の出力を受けることによって実現することができる、S120の処理は、図1の周波数変化量算出部160と同様である。
【0053】
更に、制御器150は、S130では、S120で算出された周波数変化量fchgに基づいて、系統周波数fに変化があるかどうかを判断する。そして、系統周波数fに変化が無い場合には(S130のNO判定時)、S140により、無効電力指令値Qref=0に設定される。即ち、電力変換器110から無効電力が注入されない様に(Qc=0)、無効電力指令値Qrefが設定される。
【0054】
制御器150は、系統周波数fに変化がある場合には(S130のYES判定時)、S150により、系統周波数fの変化が上昇及び低下のいずれであるかを判定する。例えば、周波数変化量fchgの極性に基づいて、S150の判定を実行することができる。
【0055】
制御器150は、系統周波数の上昇に対応する場合には(S150のYES判定時)、S160により、周波数変化量fchgを入力とする予め定められた制御演算に従って、周波数上昇を補償するために進み無効電力が注入されるように、無効電力指令値Qrefを算出する(Qref>0)。これに対して、制御器150は、系統周波数の低下に対応する場合には(S150のNO判定時)、S170により、周波数変化量fchgを入力とする予め定められた制御演算に従って、周波数の低下を補償するために遅れ無効電力が注入されるように無効電力指令値Qrefを算出する(Qref<0)。
【0056】
尚、S130~S170の処理については、上述した図1の制御演算部170での制御演算によって周波数変化量fchgから無効電力指令値Qrefを算出する様に、一体的に実行することが可能である。
【0057】
更に、制御器150は、S180により、S140、S160、又は、S170で算出された無効電力指令値Qrefに従って電力変換器110の制御指令Scvを生成する。S180で生成された制御指令Scvに従って電力変換器110が動作することにより、無効電力指令値Qrefに従った無効電力Qcが交流電路20へ注入される。即ち、S180の処理は、図1の電力変換器制御部180と同様である。
【0058】
図11には、本実施の形態に係るフリッカ抑制装置によるフリッカ抑制制御の処理を説明する第2のフローチャートが示される。図11のフローチャートは、図10のフローチャートにおいて、S130~S170の処理について、図1の制御演算部170における周波数変化量fchgから無効電力指令値Qrefを算出する処理(S200及びS300)として記載したものである。
【0059】
図11を参照して、制御器150は、図10と同様のS110,S120により、系統周波数fを検出するとともに、周波数変化量fchgを算出する。
【0060】
制御器150は、S200では、無効電力の制御特性を設定する。例えば、S200では、周波数変化量fchgを入力として、図6図9に示された特性に従って、無効電力指令値Qref(図6)又はゲインKc(図7図9)が設定される。ゲインKcは、図7図9では、比例ゲインKpに相当する。又、ゲインKcは、比例制御のゲインに限定されるものではなく、PI(比例積分)制御、或いは、PID(比例積分微分)制御を始めとする任意の制御方式のゲインを意味するものである。尚、実施の形態1では、制御特性は、周波数変化量fchg及び無効電力指令値Qrefの極性が一致する様に設定される。
【0061】
制御器150は、S300により、S200で設定された制御特性(ゲインKc又は無効電力指令値Qref)に従って無効電力指令値Qrefを生成する。例えば、比例制御では、S200で設定されたゲインKcである比例ゲインKpを用いて、Qref=Kp・fchgの制御演算が、S300により実行される。
【0062】
更に、制御器150は、図10と同様のS180により、S300で算出された無効電力指令値Qrefに従った電力変換器110の制御指令Scvを生成する。この制御指令Scvに従って電力変換器110が動作することにより、無効電力指令値Qrefに従った無効電力Qcが交流電路20へ注入される。
【0063】
この様に、実施の形態1に係るフリッカ抑制装置及びフリッカ抑制制御方法によれば、PCS30からの無効電力Qxの影響によって結果的に生じた系統電圧の変動(上昇/低下)を直接的に補償するのではなく、系統周波数の変化(上昇/低下)を補償するという新たな発想で、電力変換器110から交流電路20へ出力される無効電力Qcが制御される。これにより、系統周波数の変化に応じてPCS30から出力される無効電力Qxを打ち消す様に制御された無効電力Qcを、電力系統に注入することによって、PCS30に起因するフリッカを、高速かつ安定的に抑制することが可能となる。
【0064】
実施の形態2.
実施の形態1では、周波数変化量fchgに対する無効電力指令値Qrefの制御特性、具体的には、周波数変化量fchgの極性(正/負)に対する、電力変換器110から出力される無効電力指令値Qrefの極性(無効電力Qcの進み/遅れ)が固定されるフリッカ抑制制御を説明した。実施の形態2以降では、周波数変化量fchgの挙動に応じて、制御特性が切り替えられるフリッカ抑制制御を説明する。
【0065】
図12及び図13には、本実施の形態に係るフリッカ抑制制御に対する周波数変化量の挙動の第1の例及び第2の例が示される。
【0066】
図12に示された第1の挙動例では、周波数変化量fchgがフリッカ周期Tflで変化する周期的な変動(フリッカ)に対して、時刻t1から、実施の形態1で説明した極性によって無効電力指令値Qrefを生成するフリッカ抑制制御が開始される。即ち、fchg>0に対しては、進み無効電力を注入する一方で、fchg<0に対しては遅れ無効電力を注入する様に生成された無効電力指令値Qrefに従って、電力変換器110から出力される無効電力Qcが制御される。尚、実施の形態1で説明した様に、無効電力指令値Qrefの極性(正/負)によって無効電力の位相(90度進相、又は、90度遅相)が規定され、無効電力指令値Qrefの絶対値によって無効電力の大きさ(振幅)が規定されることについて確認的に記載する。
【0067】
第1の挙動例では、この様な制御特性に従う無効電力Qcの注入によって、周波数変化量fchgの振幅は徐々に減少して、フリッカが縮小される。これに応じて、無効電力指令値Qrefの絶対値も徐々に減少し、時刻t2以降では、フリッカが解消されて、Qref=0とされている。
【0068】
これに対して、図13に示された第2の挙動例では、時刻t1時点で、第1の例と同様の制御特性に従って制御された無効電力Qcの注入を開始したところ、時刻t1以降において、周波数変化量fchgの振幅が徐々に拡大して、フリッカが却って悪化する現象が生じている。発明者らは、電力系統の状況の変化、例えば、交流電路20上での電力変換器110の連系点から無効電力を実際に出力中であるPCS30までのインピーダンスの変化によっては、図13に示された挙動が生じ得ることを見出したため、実施の形態2に係る制御を導入したものである。具体的には、電力変換器110と、フリッカを発生させているPCS30との間の交流電路20のインピーダンスが大きい場合には、このインピーダンスで生じる電圧降下の作用により電力変換器110が検出した周波数変化量fchgと、PCS30が検出した周波数変化量との間で位相が一致せず、逆極性に振動するケースが生じ得る。
【0069】
このケースでは、図13の時刻t3以前に示される様に、周波数変化量fchg及び無効電力指令値Qrefの極性が一致する制御特性を選択している場合には、電力変換器110及びPCS30のそれぞれから注入された無効電力が、打ち消し合うことなく加算されるためにフリッカが拡大する。一方で、図13の時刻t3以降に示される様に、周波数変化量fchg及び無効電力指令値Qrefの極性が反転した制御特性を選択すると、電力変換器110及びPCS30のそれぞれから注入された無効電力が互いに打ち消し合うことで、PCS30の連系点における周波数変化量が減少する。これにより、フリッカを減少させることが可能になる。
【0070】
図14には、実施の形態2に係るフリッカ抑制装置101の構成を説明する概略ブロック図が示される。
【0071】
図14に示される様に、実施の形態2に係るフリッカ抑制装置101は、図1に示されたフリッカ抑制装置100と比較して、制御器150に代えて制御器156を備える点で異なる。制御器156は、図1に示された制御器150と比較して、制御演算部170に代えて制御演算部171を含む点で異なる。
【0072】
制御演算部171は、フリッカ振幅検出部210と、フリッカ振幅判定部220と、制御特性設定部250と、制御マップ260と、指令値生成部270とを有する。
【0073】
フリッカ振幅検出部210は、周波数変化量算出部160によって算出される周波数変化量fchgの時間変化から、フリッカ振幅の大きさを表すパラメータ値を算出する。フリッカ振幅判定部220は、フリッカ振幅検出部210によって算出されたパラメータ値を用いて、フリッカ拡大、及び、フリッカ縮小のいずれの現象が起こっているかを判定するとともに、当該判定結果に基づいて、制御特性の選択のための制御信号Ssgnを生成する。
【0074】
この様に、フリッカ振幅検出部210及びフリッカ振幅判定部220は、無効電力Qcの注入時において、図12の第1の挙動例(フリッカ抑制)及び図13の第2の挙動例(フリッカ増大)のいずれが発生しているかを判定するために設けられる。
【0075】
図15には、フリッカ振幅の第1の判定例を説明するための概念的な波形図が示される。
【0076】
図15を参照して、フリッカ振幅検出部210では、周波数変化量算出部160によって算出される周波数変化量fchgのゼロクロスタイミングtzcが検出される。そして、2個のゼロクロス点の間の期間における、周波数変化量fchgの最大値及び最小値のうちの絶対値の大きい一方が、当該期間での正又は負の振幅値として抽出される。
【0077】
これにより、フリッカ振幅検出部210は、ゼロクロスタイミングtzcが検出される毎に、前回のゼロクロクロスタイミングとの間の期間における、正の振幅値Amp、又は、負の振幅値Amnを、上述したパラメータ値として算出する。即ち、図12及び図13に示されたフリッカ周期Tflの(1/2)周期毎に、正の振幅値Amp、又は、負の振幅値Amnが算出される。
【0078】
フリッカ振幅判定部220は、フリッカ振幅検出部210が正の振幅値Amp(Amp>0)を算出する毎に、前回の正の振幅値からの変化量ΔAmpを算出する。具体的には、正の振幅値Ampの今回の算出値から前回の算出値を減算することで、変化量ΔAmpが算出される。
【0079】
同様に、フリッカ振幅判定部220は、フリッカ振幅検出部210が負の振幅値Amn(Amn<0)を算出する毎に、前回の負の振幅値からの変化量ΔAmnを算出する。具体的には、負の振幅値Amnの今回の算出値から前回の算出値を減算することで、変化量ΔAmnが算出される。従って、変化量ΔAmp及びΔAmnの各々は、フリッカ周期Tflと同等の周期で更新されることになる。
【0080】
例えば、フリッカ振幅が拡大されている時刻t3までの期間では、フリッカ振幅検出部210がパラメータ値を算出する毎に、正の振幅値Ampは上昇し、負の振幅値Amnは低下(|Amn|は増加)する。従って、フリッカ振幅判定部220は、変化量ΔAmpが正であり、変化量ΔAmnが負であるときに、フリッカ振幅の拡大を検知する。これにより、時刻t3までの期間において、フリッカ振幅の拡大が検知される。フリッカ振幅判定部220は、予め定められた複数個のフリッカ周期に亘って、フリッカ振幅の拡大が連続して検知されると、フリッカ振幅が拡大していると判定する。
【0081】
一方で、時刻t3以降の期間では、フリッカ振幅が縮小されている。この期間では、フリッカ振幅検出部210がパラメータ値を算出する毎に、正の振幅値Ampは低下するとともに、負の振幅値Amnは上昇(|Amn|は減少)する。従って、フリッカ振幅判定部220は、変化量ΔAmpが負であり、変化量ΔAmnが正であるときに、フリッカ振幅の縮小を検知する。これにより、時刻t3以降の期間において、フリッカ振幅の縮小が検知される。この場合には、フリッカ振幅判定部220は、フリッカ振幅が拡大しないと判定する。
【0082】
図16には、フリッカ振幅の第2の判定例を説明するための概念的な波形図が示される。
【0083】
図16を参照して、フリッカ振幅検出部210では、図15と同様の2個のゼロクロス点の間の期間、即ち、フリッカ周期Tflの(1/2)周期相当の時間長における、周波数変化量fchgの積分値が算出される。具体的には、fchg>0の期間では、正の積分値Sp(Sp>0)が算出される一方で、fchg<0の期間では、負の積分値Sn(Sn<0)が算出される。
【0084】
これにより、フリッカ振幅検出部210は、ゼロクロスタイミングtzcが検出される毎に、前回のゼロクロクロスタイミングとの間の期間における、正の積分値Sp、又は、負の積分値Snを、上述したパラメータ値として算出する。図16においても、フリッカ周期Tflの(1/2)周期毎に、正の積分値Sp、又は、負の積分値Snが算出される。
【0085】
フリッカ振幅判定部220は、フリッカ振幅検出部210が正の積分値Sp(Sp>0)を算出する毎に、前回の正の積分値からの変化量ΔSpを算出する。具体的には、正の積分値Spの今回の算出値から前回の算出値を減算することで、変化量ΔSpが算出される。
【0086】
同様に、フリッカ振幅判定部220は、フリッカ振幅検出部210が負の積分値Sn(Sn<0)を算出する毎に、前回の負の積分値からの変化量ΔSnを算出する。具体的には、負の積分値Snの今回の算出値から前回の算出値を減算することで、変化量ΔSnが算出される。従って、変化量ΔSp及びΔSnの各々についても、フリッカ周期Tflと同等の周期で更新されることになる。
【0087】
図15と同様にフリッカ振幅が拡大されている時刻t3までの期間では、フリッカ振幅検出部210がパラメータ値を算出する毎に、正の積分値Spは増加するとともに、負の積分値Snは減少(|Sn|は増加)する。従って、フリッカ振幅判定部220は、変化量ΔSpが正であり、変化量ΔSpが負であるときに、フリッカ振幅の拡大を検知する。これにより、図16においても、時刻t3までの期間において、フリッカ振幅の拡大が検知される。図15と同様に、予め定められた複数個のフリッカ周期に亘って、フリッカ振幅の拡大が連続して検知されると、フリッカ振幅が拡大していると判定することができる。
【0088】
一方で、図15と同様にフリッカ振幅が縮小されている時刻t3以降の期間では、フリッカ振幅検出部210がパラメータ値が算出される毎に、正の積分値Spは減少するとともに、負の積分値Snは増加(|Sn|は減少)する。従って、フリッカ振幅判定部220は、変化量ΔSpが負であり、変化量ΔSnが正であるときに、フリッカ振幅の縮小が検知される。これにより、図16においても、時刻t3以降の期間において、フリッカ振幅の縮小を検知することができる。
【0089】
再び図14を参照して、フリッカ振幅判定部220が上述した判定結果に基づいて生成した制御信号Ssgnは、制御特性設定部250に入力される。制御信号Ssgnの初期値は「1」であり、Ssgn=1のとき、制御特性設定部250は、周波数変化量fchgに対する無効電力指令値Qrefの制御特性を実施の形態1と同様に設定する。即ち、Ssgn=1のときには、fchg>0に対しては、進み無効電力を注入する一方で、fchg<0に対しては遅れ無効電力を注入する様に無効電力Qcが制御されるので、周波数変化量fchg及び無効電力指令値Qrefの極性(正/負)が同じになる様に、制御特性が設定される。Ssgn=1のときに選択される上記制御特性は、「第1の制御特性」に対応する。
【0090】
これに対して、Ssgn=0のとき、制御特性設定部250は、周波数変化量fchgに対する無効電力指令値Qrefの制御特性を実施の形態1に対して反転する。即ち、Ssgn=0のときには、fchg>0に対しては、遅れ無効電力を注入する一方で、fchg<0に対しては進み無効電力を注入する様に無効電力Qcが制御されるので、周波数変化量fchg及び無効電力指令値Qrefの極性(正/負)が反対になる様に、制御特性が設定される。Ssgn=0のときに選択される上記制御特性は、「第2の制御特性」に対応する。
【0091】
制御マップ260には、Ssgn=1のときにおける、周波数変化量fchgに対して、無効電力指令値Qref又はゲインKc(比例ゲインKp)を設定する特性線が格納される。例えば、図6図9のいずれかに示された特性線が、制御マップ260に格納される。
【0092】
制御特性設定部250は、周波数変化量fchgに対する制御マップ260の参照値及び制御信号Ssgnを用いて、ゲインKc又は無効電力指令値Qrefを設定する。具体的には、Ssgn=1のときには、制御マップ260の参照値に従って、ゲインKc又は無効電力指令値Qrefが設定される。
【0093】
一方で、制御特性設定部250は、Ssgn=0のときには、制御マップ260の参照値を-1倍、即ち、極性(符号)を反転して、ゲインKc又は無効電力指令値Qrefを設定する。
【0094】
指令値生成部270は、制御特性設定部250によって設定されたゲインKc又は無効電力指令値Qrefを用いて、無効電力指令値Qrefを生成する。例えば、制御特性設定部250によって比例ゲインがゲインKcとして設定された場合には、指令値生成部270は、Qref=Kc・fchgの演算によって、無効電力指令値Qrefを生成する。
【0095】
又、図6に従う制御マップ260に従って、制御特性設定部250が無効電力指令値Qrefを直接設定した場合には、指令値生成部270は、制御特性設定部250による設定値を、そのまま無効電力指令値Qrefとすることができる。
【0096】
図17には、実施の形態2に係るフリッカ抑制制御方法における制御特性の設定処理を説明するフローチャートが示される。実施の形態2では、図11に示されたS200が、図17に示されるS210~S290によって構成される。
【0097】
図17を参照して、制御器156は、S210により、無効電力Qcの出力中であるか否かを判定する。|Qref|>ε(ε:判定値)のときに、S210はYES判定とされる。例えば、図12における時刻t1~t2間、及び、図13における時刻t1~t3間において、S210はYES判定とされる。無効電力Qcの非出力期間(S210のNO判定時)には、S250により、制御信号Ssgnは初期値に設定される(Ssgn=1)。
【0098】
制御器156は、無効電力Qcの出力期間(S210のYES判定時)には、S220により、フリッカ振幅の検出処理を実行する。例えば、S220では、図15及び図16で説明した、ゼロクロス点検出処理と、正/負の振幅値Amp,Amnを求めるための最大値/最小値の更新処理、又は、正/負の積分値Sp,Snを算出するための積算処理とが行われる。S220の処理により、フリッカ振幅検出部210(図14)の機能が実現される。
【0099】
制御器156は、S230により、振幅判定タイミングであるか否かを判断する。図15及び図16で説明した例では、各ゼロクロスタイミングtzcにおいて、S230がYES判定とされる。
【0100】
制御器156は、振幅判定タイミングでは(S230のYES判定時)、S240により、系統周波数の変化量が拡大しているか否かを、フリッカ振幅が拡大しているか否かによって判定する。上述した様に、予め定められた複数個のフリッカ周期に亘って、フリッカ振幅の拡大が連続して検知されたときに、S240はYES判定とされる一方で、そうでないときは、S240はNO判定とされる。例えば、図13の例では、時刻t3において、S240がYES判定とされる。振幅判定タイミング以外では(S230のNO判定時)、S254により、制御信号Ssgnを現在の値に維持される。
【0101】
制御器156は、S240においてフリッカ振幅の拡大が検知されない場合には(NO判定時)、S254により、制御信号Ssgnを現在の値に維持する。これに対して、制御器156は、S240において系統周波数の変化量の拡大が検知されると(YES判定時)、S252により、制御信号Ssgnを反転する。この様に、S230~S254の処理により、フリッカ振幅判定部220(図14)の機能が実現される。
【0102】
制御器156は、S290では、S250,S252,S254で設定された制御信号Ssgnと、制御マップ260の参照値とを用いて、制御特性(例えば、ゲインKc又は無効電力指令値Qref)を設定する。即ち、S250の処理により、制御特性設定部250(図14)の機能が実現される。
【0103】
図13の例では、時刻t1以前では、S210がNO判定とされて、Ssgn=1(初期値)に設定される。時刻t1~t3では、S230又はS240がNO判定とされて、Ssgn=1に維持されて、実施の形態1と同様に、fchg>0に対しては進み無効電力を注入する一方で、fchg<0に対しては遅れ無効電力を注入する様に、制御特性が設定される。
【0104】
しかしながら、上記制御特性に従って無効電力を制御した結果、周波数変化量の拡大が時刻t3で検知されると、S240がYES判定とされて、制御信号Ssgnが反転されて、Ssgn=0とされる。この結果、時刻t3以降では、実施の形態1とは反対に、fchg>0に対しては遅れ無効電力を注入する一方で、fchg<0に対しては進み無効電力を注入する様に、制御特性が設定される。これにより、時刻t3以降では、無効電力指令値Qrefに従った無効電力Qcが電力変換器110から出力されることにより、フリッカが縮小している。
【0105】
尚、図12の例では、時刻t1の時点でSsgn=1に初期設定された後、時刻t1以降において、S240がYES判定とされることがないため、Ssgn=1に維持されたままで、実施の形態1と同様の制御特性に従って、電力変換器110から出力される無効電力Qcが制御される。これにより、時刻t2以降では、フリッカが消滅して、無効電力の出力も停止される(Qref=0)。時刻t2以降でも、制御信号SsgnはS250により、Ssgn=1に設定される。
【0106】
又、図13では、Ssgn=1からSsgn=0への切替を例示したが、図17の制御処理によれば、Ssgn=0に従う制御特性で無効電力Qcが制御されている状態で周波数変化量(フリッカ振幅)が拡大したときには、Ssgn=0からSsgn=1に切替えて、電力変換器110から出力される無効電力Qcを制御することも可能である。
【0107】
この様に、実施の形態2に係るフリッカ抑制装置及びフリッカ抑制制御方法によれば、実施の形態1で説明した、系統周波数の変化(上昇/低下)を電力変換器110から交流電路20への無効電力の注入によって補償するフリッカ抑制制御において、フリッカの挙動に応じて、無効電力の制御特性、即ち、周波数変化量fchgの極性(正/負)に対する無効電力指令値Qrefの極性(無効電力Qcの進み/遅れ)を選択することができる。具体的には、交流電路20上での電力変換器110の連系点とPCS30の連系点との間のインピーダンスで生じる電圧降下の作用を考慮して、PCS30が検出する系統周波数の変化量を縮小する様に、電力変換器110から注入される無効電力の極性を適切に選択することができる。この結果、電力系統の状況が変化してもPCS30に起因するフリッカを、高速かつ安定的に抑制することが可能となる。
【0108】
実施の形態2の変形例.
図18Aには、実施の形態2に係るフリッカ抑制制御での制御特性設定部の出力を説明する波形図が示される。
【0109】
図18Aを参照して、図13と同様に、時刻t3において、フリッカ振幅の拡大が検知されることにより、制御信号Ssgnが反転されると、制御特性が切り替えられることによって、ゲインKc又は無効電力指令値Qrefの極性が反転される。これにより、時刻t3を境に、比例ゲインがKpから-Kpに切替えられることにより、或いは、無効電力指令値がQaから-Qaに切替えられることによって、無効電力指令値Qrefは、絶対値が維持されたままで、極性が反転されることになる。
【0110】
この様な制御特性の切替は、電力変換器110から出力される無効電力Qcについて、大きさ(振幅)を維持したままで、遅れ位相及び進み位相の間で位相が急激に変化することを意味する。この様な急激な無効電力Qcの変化は、交流電路20の電圧又は電流に変動を引き起こして、系統に影響を与える虞がある。
【0111】
図18Bは、実施の形態2の変形例に係るフリッカ抑制制御装置の第1の構成例を示すブロック図である。
【0112】
実施の形態2に係る変形例では、制御特性設定部250及び指令値生成部270の間に、切替緩和処理部255が配置される。実施の形態2の変形例に係るフリッカ抑制装置の構成は、切替緩和処理部255が配置される点を除くと、実施の形態2と同様である。
【0113】
図18Bでは、切替緩和処理部255は、変化レート制限部256を含む。変化レート制限部256には、制御特性設定部250によって設定された無効電力指令値Qref又はゲインKcを受けて、変化レートが制約された、無効電力指令値Qref又はゲインKcを出力する。
【0114】
図18Cに示される様に、変化レート制限部256は、時刻t3において、制御特性設定部250から出力された比例ゲインがKpから-Kpに変化すると、時刻t3以降での出力値を、予め設定された一定の変化レートに従ってKpから-Kpまで徐々に変化させる。
【0115】
同様に、制御特性設定部250から出力された無効電力指令値が、時刻t3においてQaから-Qaに変化した場合にも、変化レート制限部256は、時刻t3以降での出力値を、予め設定された一定の変化レートに従ってQaから-Qaまで徐々に変化させる。
【0116】
図18Dに示される様に、切替緩和処理部255は、低域通過フィルタ(LPF)257を含む様に構成されてもよい。LPF257には、制御特性設定部250によって設定された無効電力指令値Qref又はゲインKcを受けて、予め設定された周波数特性1/(1+s・Tl)に従って変化させた、無効電力指令値Qref又はゲインKcを出力する。
【0117】
図18Eに示される様に、LPF257は、時刻t3において、制御特性設定部250から出力された比例ゲインがKpから-Kpに変化すると、時刻t3以降での出力値を、予め設定された周波数特性(時定数Tl)に従って鈍らせて、Kpから-Kpまで徐々に変化させる。
【0118】
同様に、制御特性設定部250から出力された無効電力指令値が、時刻t3においてQaから-Qaに変化した場合にも、LPF257は、時刻t3以降での出力値を、予め設定された周波数特性(時定数Tl)に従って鈍らせて、Qaから-Qaまで徐々に変化させる。
【0119】
図19には、実施の形態2の変形例に係るフリッカ抑制制御の動作例を示す波形図が示される。図19では、制御特性設定部250によって設定された比例ゲインKpに対して図18Bに示された変化レート制限部256が切替緩和処理部255として適用されたときの動作例が示される。
【0120】
図19を参照して、時刻t3において、制御特性設定部250によって設定される比例ゲインKpが、Kaから-Kaに変化する。これに対して、切替緩和処理部255から出力される比例ゲインKpの値は、Kaから一定レートで低下して、時刻t3xにおいて、Kp=0となる。時刻t3xでは、比例ゲインKpは負値となる、更にその後、比例ゲインKpは、一定レートで低下して、時刻t3yにおいて、-Kaに達する。
【0121】
無効電力指令値Qrefは、切替緩和処理部255から出力される比例ゲインKpと、周波数変化量fchgとの乗算によって算出される。この結果、制御特性が切替えられる時刻t3から、切替緩和処理部255による比例ゲインKpの変化の緩和が終了する時刻t3yまでの間において、周波数変化量fchgの絶対値に対する、無効電力指令値Qrefの絶対値(即ち、無効電力Qcの振幅)の比が、一時的に減少される期間が設けられる。これにより、時刻t3を起点とする制御特性の変化時において、交流電路20に注入される無効電力の急激な変化を避けることができる。
【0122】
この様に、実施の形態2の変形例に係るフリッカ抑制装置では、制御特性の切替時、即ち、電力変換器110から出力される無効電力Qcの位相を、遅れ位相から進み位相に、或いは、進み位相から遅れ位相に変化する際に、無効電力の振幅の減少を伴って位相を反転することができるので、系統への影響を抑制することができる。
【0123】
又、図18B及び図18Dでは、切替緩和処理部255を制御特性設定部250及び指令値生成部270の間に配置する構成例を説明したが、切替緩和処理部255は、図14において、指令値生成部270の後段に配置しても同様の効果を得ることが可能である。この場合には、指令値生成部270から出力された無効電力指令値Qrefが切替緩和処理部255に入力されて、電力変換器制御部180は、切替緩和処理部255から出力された無効電力指令値Qrefに従って、電力変換器110の制御指令Scvを生成する。
【0124】
実施の形態3.
実施の形態3では、実施の形態2で説明した、フリッカの挙動に応じて制御特性を切替える制御の他の例を説明する。
【0125】
図20には、実施の形態3に係るフリッカ抑制装置102の構成を説明する概略ブロック図が示される。
【0126】
図20に示される様に、実施の形態に係るフリッカ抑制装置102は、図14に示されたフリッカ抑制装置101と比較して、電圧検出器125を更に備える点と、制御器156に代えて制御器157を備える点とで異なる。制御器157は、図14に示された制御器156と比較して、及び電圧変化量算出部165を更に含む点と、制御演算部171に代えて制御演算部172を含む点で異なる。
【0127】
電圧検出器125は、交流電路20上の交流電圧波形から当該電圧の実効値である系統電圧実効値Vを検出する。電圧変化量算出部165は、電圧検出器125によって検出された系統電圧実効値Vを用いて、系統電圧実効値Vの変化(上昇又は低下)を示す電圧変化量Vchgを算出する。電圧変化量算出部165は、例えば、周波数変化量算出部160と同様の構成に対して、入力を系統周波数fではなく、系統電圧実効値Vとすることで実現できる。
【0128】
制御演算部172は、フリッカ位相差検出部230と、フリッカ位相差判定部240と、制御特性設定部250と、制御マップ260と、指令値生成部270とを有する。
【0129】
フリッカ位相差検出部230は、周波数変化量算出部160によって算出される周波数変化量fchgの時間変化と、電圧変化量算出部165によって算出される電圧変化量Vchgの時間変化から、フリッカ周期Tflに従って周期的に変化する周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgの間の位相差(フリッカ位相差)を表すパラメータ値を算出する。フリッカ位相差判定部240は、フリッカ位相差検出部230によって算出されたパラメータ値を用いて、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが、同位相及び逆位相のいずれに分類されるかを判定するとともに、当該判定結果に基づいて、実施の形態2と同様の制御信号Ssgnを生成する。
【0130】
制御特性設定部250、制御マップ260、及び、指令値生成部270の機能は、実施の形態2と同様である。即ち、制御特性設定部250は、周波数変化量fchgに対する制御マップ260の参照値及び制御信号Ssgnを用いて、実施の形態2と同様に、ゲインKc又は無効電力指令値Qrefを設定する。従って、Ssgn=1のときには、制御マップ260の参照値に従って、ゲインKc又は無効電力指令値Qrefが設定される。従って、fchg>0に対しては、進み無効電力を注入する一方で、fchg<0に対しては遅れ無効電力を注入する様に制御特性が設定される。
【0131】
これに対して、Ssgn=0のときには、制御マップ260の参照値を-1倍、即ち、極性(符号)を反転して、ゲインKc又は無効電力指令値Qrefが設定される。従って、fchg>0に対しては、遅れ無効電力を注入する一方で、fchg<0に対しては進み無効電力を注入する様に、制御特性が設定される。
【0132】
この様に実施の形態3では、実施の形態2で説明した制御特性の選択(即ち、制御信号Ssgnの値の設定)が、電力変換器110が無効電力Qcを注入する交流電路20での、周期的に変化する周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgの位相関係に応じて制御される。
【0133】
ここで、図21A図21Cを用いて、フリッカ位相差検出処理の第1の例を説明する。図21Aには、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが同位相のときの波形例が示される一方で、図21Bには、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが完全に逆位相(即ち、位相差が180度)のときの波形例が示される。
【0134】
第1の例では、周波数変化量fchgのゼロクロスタイミングと、電圧変化量Vchgのゼロクロスタイミングとの時間差に基づいて、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが同位相及び逆位相のいずれであるかが検知される。図21A及び図21Bには、周波数変化量fchgのゼロクロスタイミングtf1,tf2と、電圧変化量Vchgのゼロクロスタイミングtv1,tv2が示される。ゼロクロスタイミングtf1及びtf2の時間差、及び、ゼロクロスタイミングtv1及びtv2の時間差は、フリッカ周期Tflに相当する。
【0135】
一方で、周波数変化量fchgのゼロクロスタイミングtf1と、電圧変化量Vchgのゼロクロスタイミングtv1との時間差、及び、周波数変化量fchgのゼロクロスタイミングtf2と、電圧変化量Vchgのゼロクロスタイミングtv2との時間差とは、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgの位相差に相当する。
【0136】
ここで、周波数変化量fchgの2個のゼロクロスタイミングtf1及びtf2の間に生じた電圧変化量Vchgのゼロクロスタイミングtv2を用いて、ゼロクロスタイミングtf1及びtv2の時間差Tx1と、ゼロクロスタイミングtf2及びtv2の時間差Tx2との最小値を、位相差Txとすることができる(Tx=min(Tx1,Tx2))。この様に、フリッカ位相差検出部230は、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgのゼロクロスタイミングの検出に応じて、位相差Txを逐次算出することができる。
【0137】
そして、フリッカ位相差判定部240は、位相差Txをフリッカ周期Tflに従って設定される判定値と比較することによって、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが同位相及び逆位相のいずれであるかを分類することができる。
【0138】
例えば、図21Cに示される様に、Tfl/4<Tx<Tfl・(3/4)のときには、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが逆位相であると判定する一方で、0≦Tx≦Tfl/4、又は、Tfl・(3/4)≦Tx<Tflのときには、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが同位相であると判定することができる。
【0139】
即ち、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが逆位相であることは、フリッカ周期Tflを360度とする、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgの位相差が、0度よりも180度に近いことを意味している。反対に、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが同位相であることは、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgの上記位相差が、180度よりも0度に近いことを意味している。
【0140】
次に、図22A及び図22Bを用いて、フリッカ位相差検出処理の第2の例を説明する。図22Aには、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが同位相のときの波形例が示される一方で、図22Bには、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが完全に逆位相(即ち、位相差が180度)のときの波形例が示される。
【0141】
第2の例では、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgの積の符号(極性)に基づいて、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが同位相及び逆位相のいずれであるかが判定される。
【0142】
図22Aに示される様に、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが同位相のときには、両者の符合(極性)は同じであるので両者を乗算したVchg・fchgの極性(符号)は、正(+)である。
【0143】
これに対して、図22Bに示される様に、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが完全に逆位相(位相差が180度)のときには、両者の符合(極性)は反対であるので両者を乗算したVchg・fchgの極性(符号)は、負(-)である。
【0144】
従って、下記の式(1)で定義される相関係数VFrの極性(正/負)に基づいて、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが同位相及び逆位相のいずれに分類されるかを判定することができる。式(1)中の積分周期Tは、フリッカ周期Tflの整数倍に設定することができる。
【0145】
【数1】
【0146】
フリッカ位相差検出部230は、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgの入力に応じて、式(1)の演算によって、例えば、フリッカ周期Tfl毎に相関係数VFrを求めることができる。
【0147】
フリッカ位相差判定部240は、Vchg・fchgが正であるときには、相関係数VFr>0であるので、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgは同位相であると判定する。これに対して、フリッカ位相差判定部240は、Vchg・fchgが負であるときには、相関係数VFr<0であるので、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgは逆位相であると判定する。
【0148】
図23は、実施の形態3に係るフリッカ抑制制御方法の設定を説明するフローチャートである。
【0149】
図23を参照して、制御器157は、図11等と同様のS110,S120により、系統周波数fを検出するとともに、周波数変化量fchgを算出する。更に、制御器157は、S115により、系統電圧実効値Vを検出するとともに、S125により、電圧変化量Vchgを算出する。
【0150】
制御器157は、S225により、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgの位相差検出処理を実行する。S225では、図21A及び図21Bでのゼロクロスタイミングの検出処理、又は、式(1)に従う相関係数VFrの演算処理が実行される。S225の処理により、フリッカ位相差検出部230(図20)の機能が実現される。
【0151】
制御器157は、S235により、位相差判定タイミングであるか否かを判断する。図21図21Cで説明した例では、周波数変化量fchgのゼロクロスタイミングにおいて、S235がYES判定とされる。又、図22A及び図22Bで説明した例では、式(1)での積分周期Tの経過毎にS235がYES判定とされる。
【0152】
制御器157は、位相差判定タイミングでは(S235のYES判定時)、S245により、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが逆位相か否かを判定する。例えば、予め定められた複数個のフリッカ周期に亘って、図21A図21Cで説明した位相差Txが連続して同位相と判定されると、S245はNO判定とされる。或いは、予め定められた複数個のフリッカ周期に亘って、式(1)に従って演算された相関係数VFr>0が連続すると、S245はNO判定とされる。これ以外のときは、S245はYES判定(逆位相)とされる。
【0153】
電力系統において、図5の特性で制御されたPCS30の無効電力注入に起因するフリッカが発生している場合には、通常、電圧変化量Vchg及び周波数変化量fchgとは、図5で説明した通り逆位相である。従って、制御器157は、S245がYES判定であるときには、S262により、Ssgn=1に設定する。これにより、制御特性設定部250では、周波数変化量fchg>0に対しては、進み無効電力を注入する一方で、fchg<0に対しては遅れ無効電力を注入する様に、制御特性が設定されることになる。
【0154】
これに対して、制御器157は、S245がNO判定であるとき、即ち、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgが同位相であるときには、S262により、Ssgn=0に設定する。これにより、逆位相のときとは反対に、制御特性設定部250では、周波数変化量fchg>0に対しては、遅れ無効電力を注入する一方で、fchg<0に対しては進み無効電力を注入する様に、制御特性が設定されることになる。
【0155】
上述の様に、電力変換器110と、フリッカを発生させているPCS30との間で、交流電路20のインピーダンスが大きい場合には、このインピーダンスで生じる電圧降下の作用により電力変換器110が検出した周波数変化量fchgとPCS30が検出した周波数変化量とが一致せず、逆位相になることがある。この場合には、電圧変化量Vchgと、PCS30が検出する周波数変化量とは、図5に示した様に逆位相となるが、電圧変化量Vchgと電力変換器110が検出する周波数変化量fchgとは同位相となる。
【0156】
制御器157は、位相差判定タイミング以外(S235のNO判定時)には、前回の位相差判定の結果を維持するために、S260により、制御信号Ssgnを現在の値に維持する。この様に、S235~S264の処理により、フリッカ位相差判定部240(図20)の機能が実現される。
【0157】
制御器157は、S260~S264のいずれかで制御信号Ssgnを設定すると、図17と同様のS290に処理を進め、図11等と同様のS300及びS180に更に処理を進める。
【0158】
この様に、実施の形態3に係るフリッカ抑制装置及びフリッカ抑制制御方法によれば、実施の形態2と同様に、フリッカの挙動に応じて、無効電力の制御特性、即ち、周波数変化量fchgの極性(正/負)に対する無効電力指令値Qrefの極性(無効電力Qcの進み/遅れ)を選択することができる。即ち、実施の形態3においても、交流電路20上での電力変換器110の連系点とPCS30の連系点との間のインピーダンスで生じる電圧降下の作用を考慮して、PCS30が検出する系統周波数の変化量を縮小する様に、電力変換器110から注入される無効電力の極性を適切に選択することができる。これにより、電力系統の状況が変化してもPCS30に起因するフリッカを、高速かつ安定的に抑制することが可能となる。
【0159】
尚、実施の形態3においても、図20の構成において、実施の形態2の変形例で説明した切替緩和処理部255を、制御特性設定部250及び指令値生成部270の間、又は、指令値生成部270の後段に配置することが可能である。このようにすると、制御信号Ssgnの値が変更される際、即ち、フリッカ抑制制御の制御特性の切替時における系統への影響を抑制することができる。
【0160】
実施の形態3の変形例.
実施の形態3では、実施の形態2とは異なり、フリッカの挙動として、電圧変化量Vchg及び周波数変化量fchgの位相差を検出して、制御信号Ssgnを設定するので、電力変換器110からの無効電力Qcの非出力期間において、適切な制御特性を事前に選択することができる。
【0161】
図24は、実施の形態3の変形例に係るフリッカ抑制装置103の構成を説明する概略ブロック図である。
【0162】
図24に示される様に、実施の形態3の変形例に係るフリッカ抑制装置103は、図20に示されたフリッカ抑制装置102と比較して、制御器157に代えて制御器158を備える点とで異なる。制御器158は、図20に示された制御器157と比較して、制御演算部172に代えて制御演算部173を含む点で異なる。
【0163】
制御演算部173は、制御演算部172(図20)の構成に加えて、図14と同様の、フリッカ振幅検出部210及びフリッカ振幅判定部220を更に含む。制御演算部173では、制御信号Ssgnは、実施の形態3と同様に、フリッカ位相差判定部240によって設定される。
【0164】
フリッカ振幅検出部210及びフリッカ振幅判定部220によって、実施の形態2と同様に取得される、フリッカ振幅値、及び、フリッカ振幅の判定タイミングにおける判定結果は、制御特性設定部250に入力される。実施の形態3の変形例では、制御特性設定部250は、周波数変化量fchgのフリッカ振幅に基づいて、無効電力出力の開始及び終了を判定する。
【0165】
図25は、実施の形態3の変形例に係るフリッカ抑制制御方法の設定を説明するフローチャートである。
【0166】
図25を参照して、制御器158は、図23と同様のS110~S125の処理によって、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgを算出する。更に、制御器158は、S400により、図23のS225~S264の処理によって、実施の形態3と同様に、周波数変化量fchg及び電圧変化量Vchgの位相差に基づいて、制御信号Ssgnを0又は1に設定する。S400の処理は、フリッカ位相差検出部230及びフリッカ位相差判定部240の機能に対応する。
【0167】
又、制御器158は、S410では、図17のS220~S240の処理によって、実施の形態2と同様に、周波数変化量fchgに基づいて、フリッカ振幅値の検出処理(S220)、及び、振幅判定タイミングでの振幅拡大の発生有無の判定(S230,S240)を実行する。S410の処理は、フリッカ振幅検出部210及びフリッカ振幅判定部220の機能に対応する。
【0168】
制御器158は、S400で設定された制御信号Ssgn、及び、S410で得られた、フリッカ振幅値及び振幅判定結果を用いて、S420以降の処理を実行する。実施の形態3では、現在、フリッカ抑制制御のために電力変換器110から無効電力Qcが出力されているか否を示す制御フラグFqが設定される。制御フラグFqは、無効電力Qcの出力期間にはFq=1に設定される一方で、無効電力Qcの非出力期間ではFq=0に設定される。
【0169】
制御器158は、S420により、S410でのフリッカ振幅値が更新される振幅判定タイミングにおいて、無効電力出力の開始又は終了の判定を起動する。フリッカ振幅の判定タイミング以外では(S420のNO判定時)、S455により、制御フラグFqは現在の値が維持される。
【0170】
振幅判定タイミングでは(S420のYES判定時)、S430により、制御フラグFqの値に応じて処理が分岐される。Fq=0のときには(S430のYES判定時)、処理がS440に進められて、無効電力Qcの出力を開始するか否かの判定が実行される。具体的には、制御器158は、S440では、図17のS240と同様の判定により、周波数変化量(フリッカ)が拡大しているか否か判定することができる。フリッカ振幅が拡大していると判定されると(S440のYES判定時)、制御器158は、S450により、無効電力Qcの出力を開始するために、制御フラグFqを0から1へ変更する。
【0171】
或いは、S440では、振幅判定タイミングで更新されたフリッカ振幅を予め定められた判定値Athと単純に比較する判定が行われてもよい。この場合には、フリッカ振幅を示すパラメータ値(絶対値)が判定値Athよりも大きいとS440がYES判定とされ、そうでないときは、S440はNO判定とされる。
【0172】
制御フラグFqが0から1に変化したとき(S450)、及び、上述のS455によって維持された制御フラグFqが1であるとき(S460のNO判定時)には、処理はS430に進められる。
【0173】
S430では、制御フラグFq=1のときは、無効電力出力の終了判定のためのS470に処理が進められる。制御器158は、S470では、無効電力Qcの出力によってフリッカ振幅が判定値Aε未満に縮小されたかが判定される。判定値Aεは、図12の時刻t2近傍でのフリッカ振幅相当に設定される。
【0174】
制御器158は、フリッカ振幅が判定値Aε未満であると(S470のYES判定時)には、無効電力の出力を終了するために、S480により、制御フラグFqを1から0に変化するとともに、S485により、無効電力指令値Qrefを0に設定する。S455で維持された制御フラグFq=0のとき(S460のYES判定時)、即ち、無効電力の出力停止が維持される場合にも、処理はS485に進められて、Qref=0に設定される。
【0175】
尚、S450によって制御フラグFqが1に設定される際、即ち、無効電力Qcの出力開始が判定された際には、S470は、当然にYES判定とされて、処理は、S290へ進められる。又、無効電力Qcの出力中において、フリッカ振幅が判定値Aε以上であるときにも、S470はYES判定とされて、処理は、S290へ進められる。
【0176】
制御器158は、S290では、S400で設定された制御信号Ssgnに従って制御特性を設定し、S300では、S290で設定された制御特性に従って無効電力指令値Qrefを設定する。即ち、無効電力の出力が開始されると、無効電力指令値Qrefは、図23と同様に設定される。
【0177】
制御器158は、S180では、S300又はS485によって設定された無効電力指令値Qrefに従って電力変換器110の制御指令Scvを生成する。S180で生成された制御指令Scvに従って電力変換器110が動作することにより、制御フラグFq=1の期間では、実施の形態3と同様に設定された無効電力指令値Qrefに従った無効電力Qcが交流電路20へ注入される。一方で、Qref=0に設定されている、制御フラグFq=0の期間では、電力変換器110から交流電路20に対する無効電力の出力は停止される。
【0178】
図25の制御処理によれば、Fq=0の期間において、S400により、電圧変化量Vchg及び周波数変化量fchgの位相差に基づいて、適切な制御特性を設定するべく制御信号Ssgnの値を決めることができる。これにより、無効電力の出力の開始時点から、適切な制御特性を設定することができる。
【0179】
図26及び図27には、実施の形態3に係るフリッカ抑制制御の動作例を説明する第1の波形図である。図26及び図27において、時刻t4以前では、制御フラグFq=0であり、交流電路20に対して無効電力Qcは注入されていない。
【0180】
図26の例では、時刻t4以前では、電圧変化量Vchg及び周波数変化量fchgが逆位相である下で、フリッカ振幅は拡大している。従って、Fq=0である時刻t4以前の期間において、制御信号Ssgn=1に設定される。
【0181】
時刻t4において、フリッカ振幅の拡大に応じて、図25のS440がYES判定とされるので、制御フラグFq=1に設定されて、無効電力Qcの出力が開始される。図26では、時刻t4の時点で制御信号Ssgn=1に設定されているので、図12と同様の制御特性で、無効電力指令値Qrefが設定される。即ち、周波数変化量fchg>0に対しては、進み無効電力を注入する一方で、fchg<0に対しては遅れ無効電力を注入する様に、電力変換器110が制御されることにより、時刻t4以降では、フリッカ振幅は縮小される。
【0182】
図27の例では、図26と反対に、時刻t4以前では、電圧変化量Vchg及び周波数変化量fchgが同位相である下で、フリッカ振幅は拡大している。従って、Fq=0である時刻t4以前の期間において、制御信号Ssgn=0に設定される。
【0183】
図27においても、時刻t4において、フリッカ振幅の拡大に応じて、図25のS440がYES判定とされるので、制御フラグFq=1に設定されて、無効電力の出力が開始される。図27では、時刻t4の時点で制御信号Ssgn=0であるので、図13と同様の制御特性で、無効電力指令値Qrefが設定される。即ち、周波数変化量fchg>0に対しては、遅れ無効電力を注入する一方で、fchg<0に対しては進み無効電力を注入する様に、電力変換器110が制御される。
【0184】
時刻t4以降でも、電圧変化量Vchg及び周波数変化量fchgが同位相である状態が維持されると、Ssgn=0に維持されて、電力変換器110から出力される無効電力Qcが制御される。この結果、時刻t4以降では、フリッカ振幅は徐々に縮小されている。
【0185】
尚、無効電力の注入が開始された時刻t4以降では、実施の形態2に従って、制御特性が切替えられてもよい。例えば、時刻t4以前での電圧変化量Vchg及び周波数変化量fchgの位相差に基づいて選択された制御特性に従って、時刻t4から無効電力の注入が開始された後にフリッカ振幅が増大する場合には、制御特性を切替えて、電力変換器110から出力される無効電力Qcを制御することができる。又、実施の形態3の変形例において時刻t4以降で制御特性を切替える場合にも、実施の形態2の変形例で説明した切替緩和処理部255を作用させることが可能である。
【0186】
この様に、実施の形態3の変形例に係るフリッカ抑制制御によれば、無効電力の非出力期間(即ち、出力前)における電圧変化量Vchg及び周波数変化量fchgの位相差に基づいて、無効電力の出力開始時点から、適切な制御特性、即ち、PCS30が検出する系統周波数の変化量を縮小する様な、周波数変化量の極性(正/負)に対する無効電力指令値Qrefの極性(無効電力Qcの進み/遅れ)を設定することができる。この結果、図13の時刻t1~t3間の様な、無効電力の注入による一時的なフリッカの増大現象を回避することができる。
【0187】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0188】
10 電圧源、20 交流電路、30 パワーコンディショナ(PCS)、40 分散型電源、100~103 フリッカ抑制装置、110 電力変換器、120 周波数検出器、125 電圧検出器、150,156~158 制御器、155 バス、160 周波数変化量算出部、161 現在移動平均値算出部、162 過去移動平均値算出部、165 電圧変化量算出部、163 減算部、170 制御演算部、180 電力変換器制御部、210 フリッカ振幅検出部、220 フリッカ振幅判定部、230 フリッカ位相差検出部、240 フリッカ位相差判定部、250 制御特性設定部、255 切替緩和処理部、256 変化レート制限部、260 制御マップ、270 指令値生成部、Amp,Amn 振幅値(フリッカ)、Kp 比例ゲイン、Qc,Qx 無効電力、Scv 制御指令(電力変換器)、Sn,Sp 積分値(フリッカ)、Ssgn 制御信号(制御特性選択)、Tfl フリッカ周期、Qref 無効電力指令値、q 制御フラグ(無効電力注入中)、V 系統電圧実効値、f 系統周波数、fav1,fav2 移動平均値、fchg 周波数変化量、tf1,tf2,tv1,tv2,tzc ゼロクロスタイミング。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図18C
図18D
図18E
図19
図20
図21A
図21B
図21C
図22A
図22B
図23
図24
図25
図26
図27