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特許7375218正極活物質前駆体材料およびリチウム二次電池用正極活物質の製造方法、およびこれによって製造されたリチウム二次電池用正極活物質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-27
(45)【発行日】2023-11-07
(54)【発明の名称】正極活物質前駆体材料およびリチウム二次電池用正極活物質の製造方法、およびこれによって製造されたリチウム二次電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20231030BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231030BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231030BHJP
   B09B 3/80 20220101ALI20231030BHJP
   C01G 45/10 20060101ALI20231030BHJP
   C01G 51/10 20060101ALI20231030BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20231030BHJP
   C01G 53/10 20060101ALI20231030BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
H01M10/54
H01M4/505
H01M4/525
B09B3/80
C01G45/10
C01G51/10
C01G53/00 A
C01G53/10
C22B7/00 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022551772
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-18
(86)【国際出願番号】 KR2020014253
(87)【国際公開番号】W WO2021172688
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】10-2020-0025135
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503454506
【氏名又は名称】東友ファインケム株式会社
【氏名又は名称原語表記】DONGWOO FINE-CHEM CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】132, YAKCHON-RO, IKSAN-SI, JEOLLABUK-DO 54631, REPUBLIC OF KOREA
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ミョン-ジン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジ-フン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ボン-ジン
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108193050(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0123524(KR,A)
【文献】特開2013-001916(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181816(WO,A1)
【文献】特開2009-193778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
H01M 4/00-4/62
C01G 45/10
C01G 51/10
C01G 53/10
C01G 53/00
C22B 7/00
B09B 3/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)Mnと、Niと、Coとを含む廃リチウム二次電池の正極活物質を浸出させて浸出液を得るステップと、
(2)第1リン酸系物質を用いて、前記浸出液を一次溶媒抽出して硫酸マンガンを含むMn塩を得るステップと、
(3)オキシム系物質を用いて、前記溶媒抽出された残液を沈殿させて硫酸ニッケルを含むNi塩を得るステップと、
(4)第2リン酸系物質を用いて、前記沈殿された浸出液を二次溶媒抽出して硫酸コバルトを含むCo塩を得るステップと、
を含む、正極活物質前駆体材料の製造方法。
【請求項2】
前記廃リチウム二次電池の正極活物質は、下記化学式1で表される正極活物質を含むものである、請求項1に記載の正極活物質前駆体材料の製造方法。
[化学式1]
LiNiCoMn
(前記式1において、
0<x<、0<y<、および0<z<であり、
x+y+z=である。)
【請求項3】
前記第1リン酸系物質および前記第2リン酸系物質は、それぞれ独立して、下記化学式2または下記化学式3で表される化合物から選択される1種以上の化合物を含む、請求項1に記載の正極活物質前駆体材料の製造方法。
[化学式2]

(前記化学式2において、
前記RおよびRは、それぞれ独立して、ヘテロ原子を含むかまたは含まないC1~C30の直鎖または分岐鎖アルキル基である。)
[化学式3]

(前記化学式3において、
前記RおよびRは、それぞれ独立して、ヘテロ原子を含むかまたは含まないC1~C30の直鎖または分岐鎖アルキル基である。)
【請求項4】
前記第1リン酸系物質および前記第2リン酸系物質は、それぞれ独立して、ジ-(2-エチルヘキシル)リン酸(Di-(2-ethylhexyl)phosphoric acid)および2-エチルヘキシルホスホン酸モノ2-エチルヘキシルエステル(2-ethylhexyl phosphonic acid mono 2-ethylhexyl ester)から選択される1種以上のものを含む、請求項3に記載の正極活物質前駆体材料の製造方法。
【請求項5】
前記オキシム系物質は、ジメチルグリオキシム、ジエチルグリオキシム、ジプロピルグリオキシム、およびエチルメチルグリオキシムからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の正極活物質前駆体材料の製造方法。
【請求項6】
前記()~()ステップは、酸性雰囲気中で行われることを特徴とする、請求項1に記載の正極活物質前駆体材料の製造方法。
【請求項7】
前記()ステップは、pH2~4で行われ、
前記()ステップは、pH4~6で行われ、
前記()ステップは、pH4~5.5で行われることを特徴とする、請求項6に記載の正極活物質前駆体材料の製造方法。
【請求項8】
前記(3)ステップで得たNi塩に硫酸を添加するステップをさらに含む、請求項1に記載の正極活物質前駆体材料の製造方法。
【請求項9】
前記廃リチウム二次電池の正極活物質は、廃リチウム二次電池を破砕した後、熱処理して得られることを含む、請求項1に記載の正極活物質前駆体材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法によって製造される正極活物質前駆体材料およびリチウム塩を混合し、LiNiCoMn(前記式において、0≦x≦、0≦y≦、および0≦z≦であり、x+y+z=である。)で表される正極活物質を得ることを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウム二次電池を用いた正極活物質前駆体材料の製造方法、これによって製造される正極活物質前駆体材料を用いたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法、およびそれによって製造されたリチウム二次電池用正極活物質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モバイル機器、ノートパソコン、ワイヤレス機器、電気自動車、電動バイクなど、超小型から中大型まで様々な種類のエネルギー貯蔵装置に対する技術開発と需要が増加するにつれて、エネルギー源としての二次電池に対する需要が急激に増加している。このような二次電池の中でも、高いエネルギー密度と動作電位を示し、サイクル寿命が長く、自己放電率の低いリチウム二次電池が商用化して広く使用されている。
【0003】
リチウム二次電池は、一般的に正極活物質を含む正極、負極活物質を含む負極、分離膜および電解質から構成され、リチウムイオンの挿入・脱離(intercalation/de-intercalation)によって充電および放電が行われる二次電池である。リチウム二次電池は、エネルギー密度(energy density)が高く、起電力が大きく、高容量を発揮できる利点を有しているので、様々な分野に適用されている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質は、リチウムと共に、コバルトをはじめとする遷移金属を含むが、これらは比較的高価な金属であり、特にコバルトは、生産国の数が限られており、世界的にその需給が不安定な金属として知られている。したがって、廃リチウム二次電池、特に正極から前記リチウムや、コバルト、ニッケル、マンガンなどの遷移金属を回収して原料として再活用する場合、価格競争力を確保できるだけでなく、付加収益の創出も可能である。
【0005】
一方、前記廃リチウム二次電池からマンガン、ニッケル、コバルトなどのような遷移金属を回収してこれを再活用するためには、廃電池から正極活物質を分離し、前記分離された正極活物質から前記遷移金属などを分離した後、これを精製してから、これを再び正極活物質の製造のための原料として使用するために追加のステップを経なければならない。
【0006】
例えば、韓国公開特許第10-2011-0036628号では、廃バッテリからリチウム、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含む有価金属粉末を得るステップと、前記有価金属粉末を還元雰囲気中で酸浸出して浸出溶液を得るステップと、前記浸出溶液からニッケル、コバルトおよびマンガンの水酸化物とリチウム炭酸塩(Li2CO3)を得るステップと、を含むことを開示されている。しかし、前記方法は、各遷移金属成分を個別に分離することができないため、活用形態に制約があり、正極活物質として活用する時に所望の割合で組成を調節するためには、別途の遷移金属塩を添加しなければならず、遷移金属成分を抽出した後でも、不純物を除去するための相当なエネルギーと時間が必要となるという問題点がある。
【0007】
また、リチウム二次電池金属酸化物系正極活物質の再処理方法のうち、正極活物質を沈殿および/または溶媒抽出によってマンガン、ニッケルおよびコバルトをそれぞれ分離・回収する方法が研究されているが、ニッケルとコバルトの分離回収時にニッケルを先に分離・回収する場合は、抽出効率が良くなく、正極活物質前駆体として直ちに活用できない形態(二酸化マンガン、Ni-DMG(dimethylglyoxime)など)で回収され、正極活物質前駆体として活用するためには、追加の工程が必要となるという欠点がある。
【0008】
したがって、優れた抽出効率で転移金属成分を分離回収し、リチウム二次電池の活物質製造に直ちに利用できる方法を開発することになると、より簡便でかつ効率的な方法によって廃リチウム二次電池を再活用することができると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】韓国公開特許第10-2011-0036628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前述した従来の技術の問題点を改善するためのものであって、優れた抽出効率でMn、NiおよびCoをそれぞれ塩の形態に分離する正極活物質前駆体材料の製造方法、これによって製造される正極活物質前駆体材料を用いたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法、およびそれによって製造されたリチウム二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、(1)Mn、NiおよびCoを含む廃リチウム二次電池の正極活物質を浸出させて浸出液を得るステップと、(2)第1リン酸系物質を用いて、前記浸出液を一次溶媒抽出してMn塩を得るステップと、(3)オキシム系物質を用いて、前記溶媒抽出された浸出液を沈殿させてNi塩を得るステップと、(4)第2リン酸系物質を用いて、前記沈殿された浸出液を二次溶媒抽出してCo塩を得るステップと、を含む、正極活物質前駆体材料の製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、前記正極活物質前駆体材料の製造方法によって製造される正極活物質前駆体材料およびリチウム塩を混合し、LiNiCoMn(前記式において、0≦x≦、0≦y≦、および0≦z≦であり、x+y+z=である。)で表される正極活物質を得ることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記リチウム二次電池用正極活物質の製造方法によって製造されたリチウム二次電池用正極活物質を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の正極活物質前駆体材料の製造方法は、廃リチウム二次電池の正極活物質に含まれた有価金属を硫酸塩の形態にそれぞれ分離することができ、硫酸塩の形態に分離され、正極活物質製造のために別途の追加の工程を要しないため、正極活物質前駆体として直ちに活用可能な効果を提供する。
【0015】
また、リチウム二次電池の正極活物質に含まれたマンガン、ニッケルおよびコバルトは各成分によってキレートを形成するpH範囲が異なり、マンガン、コバルト、ニッケルの順に、キレートを形成する適正pHが高くなるため、従来の廃正極活物質の溶媒抽出は、マンガン、コバルト、ニッケルの順に行っていたが、マンガン、コバルト、ニッケルの順に抽出する場合、各ステップにおいて、キレートを形成するpH差が大きくないため、従来の溶媒抽出物質として知られたCyanex 272を用いていたが、単価が高いため工程単価が高くなるという問題点がある。このような問題を解決するために、本発明では、マンガン、ニッケル、コバルトの順に各成分を分離し、ニッケルは沈殿法によって回収し、溶媒抽出時にCyanex 272を用いず、リン酸系物質を用いることができるため、工程単価の問題を解決することができる。
【0016】
また、マンガン、ニッケル、コバルトの順に各成分を分離することによって、溶媒抽出時の適正pH差を大きくして金属塩の抽出効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例に係る正極活物質前駆体材料の製造フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、廃リチウム二次電池の正極活物質から、マンガン(Mn)塩、ニッケル(Ni)塩およびコバルト(Co)塩を別々に得るステップを含む、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、および前記リチウム二次電池用正極活物質の製造方法によって製造されたリチウム二次電池用正極活物質に関するものである。
【0019】
具体的に、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、(1)Mnと、Niと、Coとを含む廃リチウム二次電池の正極活物質を浸出させて浸出液を得るステップと、(2)前記浸出液を一次溶媒抽出してMn塩を得るステップと、(3)前記溶媒抽出された残液を沈殿させてNi塩を得るステップと、(4)前記沈殿された浸出液を二次溶媒抽出してCo塩を得るステップと、を含んでもよい。また、本発明は、前記製造方法によって製造される正極活物質前駆体材料を用いたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法、および前記リチウム二次電池用正極活物質の製造方法によって製造されたリチウム二次電池用正極活物質を含む。
【0020】
本発明の正極活物質前駆体材料の製造方法は、廃リチウム二次電池の正極活物質に含まれた有価金属を硫酸塩の形態にそれぞれ分離することができ、硫酸塩の形態に分離され、正極活物質製造のために別途の追加の工程を要しないため、正極活物質前駆体として直ちに活用可能な効果を提供することができる。
【0021】
また、本発明において、リチウム二次電池の正極活物質に含まれたマンガン、ニッケルおよびコバルトは各成分によってキレートを形成するpH範囲が異なり、マンガン、コバルト、ニッケルの順に、キレートを形成する適正pHが高くなるため、従来の廃正極活物質の溶媒抽出は、マンガン、コバルト、ニッケルの順に行い、これによって、従来の溶媒抽出材料として知られているCyanex 272を用いたが、単価が高いため工程単価が高くなるという問題点がある。このような問題を解決するために、本発明では、マンガン、ニッケル、コバルトの順に各成分を分離し、ニッケルは沈殿法によって回収し、溶媒抽出時にCyanex 272を用いず、リン酸系物質を用いることができるため、工程コストを下げることができる。
【0022】
さらに、マンガン、ニッケル、コバルトの順に各成分を分離することによって、コバルトと他の金属との間の溶媒抽出時の適正pH差を大きくして金属塩の抽出効率を向上させることができる。
【0023】
以下、本発明に係る正極活物質前駆体材料の製造方法、これによって製造された正極活物質前駆体材料を用いたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法、および前記製造方法によって製造されたリチウム二次電池用正極活物質について詳細に説明する。しかし、本発明は、これによって限定されるものではない。
<正極活物質前駆体材料の製造方法>
本発明の正極活物質前駆体材料の製造方法は、(1)Mnと、Niと、Coとを含む廃リチウム二次電池の正極活物質を浸出させて浸出液を得るステップと、(2)第1抽出剤を用いて、前記浸出液を一次溶媒抽出してMn塩を得るステップと、(3)沈殿剤を用いて、前記溶媒抽出された浸出液を沈殿させてNi塩を得るステップと、(4)第2抽出剤を用いて、前記沈殿された浸出液を二次溶媒抽出してCo塩を得るステップと、を含む。また、本発明の正極活物質前駆体材料の製造方法は、リチウム塩を回収するステップをさらに含んでもよく、前記第1抽出剤および前記第2抽出剤はリン酸系物質を含み、前記沈殿剤はオキシム系物質を含む。
【0024】
特に、本発明では、Mn塩を得るステップの後、前記Mn塩を得るステップにおける抽出pHに対する最適の溶媒抽出pHが相対的に大きな差を示すNi塩を得るステップを直ちに含むようにして、Ni塩の製造効率を最大化し、これによって、続くCo塩を得るステップで溶媒抽出の対象となる浸出液にCo以外に含まれる成分を最小化することによって、高価なCo塩の製造効率も最大化した。
【0025】
本発明の正極活物質前駆体材料は、前記Mn塩として硫酸マンガンを含み、前記Ni塩として硫酸ニッケルを含み、前記Co塩として硫酸コバルトを含む。
【0026】
(1)Mn、NiおよびCoを含む廃リチウム二次電池の正極活物質を浸出させて浸出液を得るステップ
本発明のMn、NiおよびCoを含む廃リチウム二次電池の正極活物質は、下記化学式1で表される正極活物質を含むものであってもよい。
【0027】
[化学式1]
LiNiCoMn
前記化学式1において、0<x<、0<y<、および0<z<であり、x+y+z=であり、好ましくは、x=0.5、y=0.2、およびz=0.3であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0028】
前記正極活物質を浸出させる物質は、硫酸または過酸化水素であってもよい。
本発明の正極活物質前駆体材料の製造方法は、前記Mn、NiおよびCoを含む廃リチウム二次電池の正極活物質を得るための前処理工程であって、廃リチウム二次電池を直ちに破砕した後、熱処理するステップをさらに含んでもよい。
【0029】
前処理工程において、廃リチウム二次電池を破砕する前に放電させるステップをさらに含んでもよい。放電が完了すると、その後の有価金属回収工程は、不活性雰囲気ではなく大気中でも安全に行うことができる。放電は、放電溶液内で行われてもよい。放電溶液としては蒸留水を用いてもよい。放電の完了程度は、経時による電圧減少によって確認することができる。廃リチウム二次電池内の電解質は放電過程で大部分除去される。
【0030】
前記破砕は、ミーリング(milling)によって行われてもよく、前記ミーリングは、機械的ミーリングであってもよく、具体的に、ロールミル(roll-mill)、ボールミル(ball-mill)、ジェットミル(jet-mill)、遊星ミル(planetary-mill)及びアトリションミル(attrition-mill)からなる群から選択された1種以上によって行われてもよい。
【0031】
前記破砕物は、1~15μmの粒径を有してもよく、好ましくは、1~7μmの粒径を有してもよく、さらに好ましくは、2~5μmの粒径を有してもよい。
【0032】
前処理工程において、前記破砕後に分級ステップをさらに含んでもよく、破砕物は、分級過程、好ましくは、シーブ(sieve)による分級によって、微細電極複合体粉末とその他の成分(正極、負極、分離膜)という大きな分画に分離され、破砕物から電極複合体粉末が回収される。
【0033】
前処理工程において、前記分級の後に比重分離ステップをさらに含んでもよく、破砕物を好ましくは、水位段差(water level)が設けられた水洗タンク(rinse tank)を用いて比重分離することによって破砕物中の分離膜が除去され、電極複合体、分離膜、集電体などを分離することができる。
【0034】
前処理工程において、前記比重分離の後に磁力選別ステップをさらに含んでもよく、廃リチウム二次電池にステンレススチール(SUS)をさらに含む場合、破砕物から磁力選別(magnetic separation)によってステンレススチール(SUS)が選別されて削除される。
【0035】
前処理工程において、前記磁力選別の後に熱処理を行ってもよい。前記熱処理は、廃リチウム二次電池に含まれる正極バインダー、正極導電材、負極活物質、負極バインダー、負極導電材、ポーチなどの前記正極活物質以外の不純物を除去するためのものであって、600℃~1000℃未満の温度範囲で行われてもよく、好ましくは、700℃~900℃の温度範囲で行われてもよく、さらに好ましくは、800℃~900℃の温度範囲で熱処理が行われてもよい。前記熱処理温度が1000℃以上の場合、前記正極活物質のリチウムまで除去することができる。
【0036】
また、本発明の正極活物質前駆体材料の製造方法は、前記熱処理の後に、前記前処理物質に硫酸を混合して残存する炭素材(負極活物質)、銅などの不純物をさらに除去する工程を含んでもよい。
【0037】
前記廃リチウム二次電池は、正極、負極、分離膜、電解質を含み、ポーチをさらに含んでもよい。具体的に、廃リチウム二次電池は、負極と正極との間に分離膜(separator)を介して、ここに電解質を含む電解液が供給されたものを含む。より具体的に、前述した廃リチウム二次電池は、例えば、前記負極、前記分離膜、および前記正極を順次積層した後、これをワインディング(winding)するか、または折りたたんで円筒型または角型電池ケースまたはポーチに入れた後、前記電池ケースまたはポーチに有機電解液を注入して製造されたものであってもよい。
【0038】
前記廃リチウム二次電池の正極は、リチウム金属またはリチウム遷移金属酸化物を含むものであってもよく、当分野において知られている通常の方法で製造されたものであってもよい。例えば、正極活物質に、溶媒、必要に応じてバインダー、導電材、分散剤を混合および撹拌してスラリーを製造した後、これを正極集電体に塗布(コーティング)して圧縮した後、乾燥して製造されたものであってもよい。
【0039】
前記正極活物質は、下記化学式1で表される正極活物質を含むものであってもよい。
[化学式1]
LiNiCoMn
前記化学式1において、0<x<、0<y<、および0<z<であり、x+y+z=であり、好ましくは、x=0.5、y=0.2、およびz=0.3であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0040】
前記正極の溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトン、水、またはこれらの混合物が用いられてもよく、前記正極の導電材は、ポリアクリル酸、アセチレンブラック、ファーネスブラック、グラファイト、炭素繊維、またはフラーレンなどの導電性助材などを用いてもよい。
【0041】
前記正極のバインダーは、正極活物質粒子同士を互いによく付着させ、また正極活物質を正極集電体によく付着させる役割を果たし、例えば、前記バインダーは、ポリアクリル酸、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルールローズ(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンテルポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブチレンゴム、フッ素ゴム、または様々な共重合体などを用いてもよい。
【0042】
前記正極集電体は、約3μm~約500μmの厚みであって、当該電池に化学的変化を引き起こすことなく高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、熱処理炭素、アルミニウムまたはステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されたもので表面処理したものが用いられてもよい。前記集電体は、その表面に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもでき、フィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、または不織布体の様々な形態が可能である。
【0043】
前記廃リチウム二次電池の負極は、当技術分野において知られている通常の方法で製造されたものであってもよい。例えば、負極活物質に、溶媒、必要に応じてバインダー、導電材、分散剤を混合および撹拌してスラリーを製造した後、これを負極集電体に塗布(コーティング)して圧縮した後、乾燥して製造されたものであってもよい。
【0044】
前記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵および放出できる炭素材料、リチウム金属、ケイ素または錫などであってもよい。好ましくは、炭素材であってもよく、炭素材としては、低結晶炭素および高結晶性炭素などが挙げられる。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)および硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、天然黒鉛、キッシュ黒鉛(kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、液晶ピッチ(mesophase pitches)、および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0045】
前記負極の溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトン、水、またはこれらの混合物が用いられてもよく、前記負極の導電材料としては、ポリアクリル酸、アセチレンブラック、ファーネスブラック、グラファイト、炭素繊維、またはフラーレンなどの導電性助材などを用いてもよい。
【0046】
前記負極のバインダーは、負極活物質粒子同士を互いによく付着させ、また負極活物質を電流集電体によく付着させる役割を果たし、例えば、前記バインダーとしては、ポリアクリル酸、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルローズ(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンテルポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブチレンゴム、フッ素ゴム、または様々な共重合体などを用いてもよい。
【0047】
前記負極集電体は、一般的に約3μm~約500μmの厚さで作られる。このような前記負極集電体は、当該電池に化学的変化を引き起こすことなく導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、熱処理炭素、銅またはステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、または銀で表面処理したもの、または、アルミニウム-カドミウム合金などを含んでもよい。また、正極集電体と同様に、表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化することもでき、フィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、または不織布体の様々な形態に用いることができる。
【0048】
前記廃リチウム二次電池の分離膜としては、その種類を限定することではないが、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、およびエチレン-メタクリレート共重合体からなる群から選択されたポリオレフィン系高分子で製造された多孔質基材、ポリエステル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルファイト、およびポリエチレンナフタレンからなる群から選択された高分子で製造された多孔質基材、または無機物粒子およびバインダー高分子の混合物から形成された多孔質基材などを用いてもよい。特に、リチウムイオン供給コア部のリチウムイオンが外部電極にも容易に伝達されるためには、前記ポリエステル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルファイト、ポリエチレンナフタレン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択された高分子で製造された多孔質基材に該当する不織布材料の分離膜を用いることが好ましい。
【0049】
前記分離膜は、孔径の大きさが約0.01μm~約10μmであり、厚さは一般的に約5μm~約300μmであるものが用いられる。
【0050】
前記廃リチウム二次電池の電解質としては、例えば、PEO、PVdF、PVdF-HFP、PMMA、PAN、またはPVACを用いたゲル型高分子電解質、またはPEO、PPO(polypropylene oxide)、PEI(polyethylene imine)、PES(polyethylene sulphide)、またはPVAc(polyvinyl acetate)を用いた固体電解質などを用いてもよい。また、電解質としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルホルメート(MF)、ガンマ-ブチロラクトン(γ-BL;butyrolactone)、スルホレン(sulfolane)、メチルアセテート(MA;methylacetate)、またはメチルプロピオネート(MP;methylpropionate)を用いた非水電解液を用いてもよい。また、電解質は、リチウム塩をさらに含んでもよいが、このようなリチウム塩としては、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、(CFSONLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、またはテトラフェニルホウ酸リチウムなどを用いてもよい。
【0051】
本願の一実施例において、前記廃リチウム二次電池は、前記分離膜以外に有機固体電解質および/または無機固体電解質が共に用いられてもよいが、これに制限れるものではない。このとき、前記有機固体電解質および/または無機固体電解質が用いられる場合、場合によっては、固体電解質が分離膜を兼ねることもあるので、前述した分離膜を用いなくても構わない。
【0052】
前記有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリビニルアルコール、またはポリフッ化ビニリデンを含んでもよいが、これに制限されるものではない。前記無機固体電解質としては、例えば、LiN、LiI、LiNI、LiN-LiI-LiOH、LiSiS、LiSiO、LiSiO-LiI-LiOH、LiPO-LiS-SiS、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるものを含んでもよいが、これに制限されるものではない。
【0053】
(2)前記浸出液を一次溶媒抽出してマンガン(Mn)塩を得るステップ
本発明に係る正極活物質前駆体材料の製造方法は、第1リン酸系物質を用いて、前記浸出液を一次溶媒抽出してMn塩を得るステップを含み、酸性雰囲気下で行われてもよく、pH2~4で行われることが好ましく、pH3~4で行われることがさらに好ましく、約pH4で行われることが最も好ましい。
【0054】
本発明において、前記マンガン塩は、硫酸マンガン(MnSO)であることを含む。
前記第1リン酸系物質は、マンガン塩の抽出剤であって、前記浸出液のpHが2~4、好ましくは、pH3~4、さらに好ましくは、pH4であるとき、Mn塩を80%以上の効率で抽出できる物質を含んでもよい。前記Mn塩の抽出効率は、80%以上であってもよく、好ましくは、85%以上、さらに好ましくは、90%以上であってもよい。
【0055】
また、前記第1リン酸系物質がけん化したものを含んでもよく、前記第1リン酸系物質は、有機溶媒に溶解された状態であってもよい。
本発明において、前記第1リン酸系物質は、下記化学式2または下記化学式3で表される化合物から選択される1種以上の化合物を含むものであってもよい。
[化学式2]
【0056】
前記化学式2において、前記RおよびRは、それぞれ独立して、ヘテロ原子を含むかまたは含まないC1~C30の直鎖または分岐鎖アルキル基であり、好ましくは、ヘテロ原子を含むかまたは含まないC1~C23の直鎖または分岐鎖アルキル基であってもよく、C6~C10の直鎖または分岐鎖アルキル基がさらに好ましいが、これに制限されるものではない。前記ヘテロ原子は、酸素、硫黄および窒素から選択される1つ以上であってもよい。
[化学式3]
【0057】
前記化学式3において、前記RおよびRは、それぞれ独立して、ヘテロ原子を含むかまたは含まないC1~C30の直鎖または分枝鎖アルキル基であり、好ましくは、ヘテロ原子を含むかまたは含まないC1~C23の直鎖または分岐鎖アルキル基であってもよく、C6~C10の直鎖または分岐鎖アルキル基がさらに好ましいが、これに制限されるものではない。前記ヘテロ原子は、酸素、硫黄および窒素から選択される1つ以上であってもよい。
【0058】
例えば、前記第1リン酸系物質は、ジ-(2-エチルヘキシル)リン酸(Di-(2-ethylhexyl)phosphoric acid、 D2EHPA)および2-エチルヘキシルホスホン酸モノ2-エチルヘキシルエステル(2-ethylhexyl phosphonic acid mono 2-ethylhexyl ester、 PC88A)から選択される1種以上のものを含むことであってもよく、ジ-(2-エチルヘキシル)リン酸であることが好ましい。
【0059】
また、前記マンガン塩の純度は80%以上であってもよく、85%以上であることが好ましく、88%以上であることが最も好ましい。
【0060】
前記一次溶媒抽出は、前記第1リン酸系物質を用いた抽出の後に洗浄および逆抽出するステップを含んでもよく、前記洗浄および逆抽出は硫酸を用いて行ってもよく、硫酸を用いることによって前記マンガン塩を硫酸塩の形態で得ることもできる。
【0061】
抽出剤によってキレート化(chelation)して、所望の金属が抽出され、抽出されるとき、水素イオンが放出されるため、反応平衡を調節するためには、pHの調節が不可避である。
【0062】
洗浄は、抽出剤によって所望の金属より先に抽出された不純物金属を除去するステップであり、逆抽出は、水素イオン濃度を急激に上昇させて抽出の逆反応を誘導する過程である。抽出および逆抽出は、次のように、化学式で表すことができる。
【0063】
抽出:M2++2RH→MR+2H
逆抽出:MR+2H→M2++2RH
(3)前記溶媒抽出された残液を沈殿させてニッケル(Ni)塩を得るステップ
本発明に係る正極活物質前駆体材料の製造方法は、オキシム系物質を用いて、前記溶媒抽出された残液を沈殿させてNi塩を得るステップを含み、酸性雰囲気下で行われてもよく、pH4~6で行われることが好ましく、pH5~6で行われることがより好ましく、約pH6で行われることが最も好ましい。
【0064】
ニッケルとコバルトとは、適正の溶媒抽出pH差が少ないため、両方とも溶媒抽出する場合、抽出効率および純度が低下するが、本発明に係る沈殿方式によってニッケルをまず分離した後、コバルトを溶媒抽出することによって、コバルトの抽出効率および純度を向上させることができる。
【0065】
また、前記溶媒抽出された残液を沈殿させてNi塩を得るステップで硫酸を添加することをさらに含んでもよい。
【0066】
本発明において、前記ニッケル塩は、硫酸ニッケル(NiSO)であることを含む。
前記オキシム系物質は、ニッケル塩の沈殿剤であって、前記溶媒抽出された残液のpHが4~6、好ましくは、pH5~6、さらに好ましくは、pH6であるとき、Ni塩を80%以上の効率で浸出できる物質を含んでもよい。前記Ni塩の浸出効率は、80%以上であってもよく、好ましくは、85%以上、さらに好ましくは、90%以上であってもよい。
【0067】
例えば、前記オキシム系物質は、ジメチルグリオキシム(dimethylglyoxime、DMG)、ジエチルグリオキシム(diethylglyoxime)、ジプロピルグリオキシム(dipropylglyoxime)、およびエチルメチルグリオキシム(ethylmethylglyoxime)からなる群から選択される1種以上であってもよく、具体的に、ジメチルグリオキシムであることが好ましい。従来の技術において、前記ジメチルグリオキシムは沈殿物のニッケルの有無を確認する指示薬として主に用いられていたが、本発明では、ニッケル含有浸出液を沈殿させてニッケル塩を分離させる役割を果たす。
【0068】
前記オキシム系物質は、前記溶媒抽出された残液のニッケルに対して、2~4倍のモル比で添加されてもよく、2.2倍のモル比で添加されることが好ましい。
【0069】
また、前記ニッケル塩の純度は、90%以上であってもよく、95%以上であることが好ましく、99%以上であることが最も好ましい。
【0070】
(4)前記沈殿された浸出液を二次溶媒抽出してコバルト(Co)塩を得るステップ
本発明に係る正極活物質前駆体材料の製造方法は、第2リン酸系物質を用いて、前記沈殿された浸出液を二次溶媒抽出してCo塩を得るステップを含み、酸性雰囲気下で行われてもよく、pH4~5.5で行われることが好ましく、pH4~5で行われることがさらに好ましく、約pH5で行われることが最も好ましい。
【0071】
本発明において、前記コバルト塩は、硫酸コバルト(CoSO)であることを含む。
前記第2リン酸系物質は、コバルトの浸出剤であって、前記沈殿された浸出液のpHが4~5.5、好ましくは、pH4~5、さらに好ましくは、pH5であるとき、Co塩を80%以上の効率で抽出できる物質を含む。前記Co塩の抽出効率は、80%以上であってもよく、好ましくは、85%以上、さらに好ましくは、90%以上であってもよい。また、前記第2リン酸系物質がけん化したものを含んでもよい。
【0072】
本発明において、前記第2リン酸系物質は、下記化学式2または下記化学式3で表される化合物から選択される1種以上の化合物を含むものであってもよい。
[化学式2]
【0073】
前記化学式2において、前記RおよびRは、それぞれ独立して、ヘテロ原子を含むかまたは含まないC1~C30の直鎖または分岐鎖アルキル基であり、好ましくは、ヘテロ原子を含むかまたは含まないC1~C23の直鎖または分岐鎖アルキル基であってもよく、C6~C10の直鎖または分岐鎖アルキル基がさらに好ましいが、これに制限されるものではない。前記ヘテロ原子は、酸素、硫黄および窒素から選択される1つ以上であってもよい。
[化学式3]
【0074】
前記化学式3において、前記RおよびRは、それぞれ独立して、ヘテロ原子を含むかまたは含まないC1~C30の直鎖または分岐鎖アルキル基であり、好ましくは、ヘテロ原子を含むかまたは含まないC1~C23の直鎖または分岐鎖アルキル基であってもよく、C6~C10の直鎖または分岐鎖アルキル基がさらに好ましいが、これに制限されるものではない。前記ヘテロ原子は、酸素、硫黄および窒素から選択される1つ以上であってもよい。
【0075】
例えば、前記第2リン酸系物質は、ジ-(2-エチルヘキシル)リン酸(Di-(2-ethylhexyl)phosphoric acid、 D2EHPA)または、2-エチルヘキシルホスホン酸モノ2-エチルヘキシルエステル(2-ethylhexyl phosphonic acid mono 2-ethylhexyl ester、 PC88A)から選択される1種以上のものを含むことであってもよく、ジ-(2-エチルヘキシル)リン酸であることが好ましい。具体的に、ジ-(2-エチルヘキシル)リン酸は、既存のコバルト溶媒抽出材料として知られているCyanex 272に比べて安価であり、工程コストを下げることができる。
【0076】
前記コバルト塩の純度は、90%以上であってもよく、95%以上であることが好ましく、99%以上であることが最も好ましい。
【0077】
前記二次溶媒抽出は、前記第2リン酸系物質を用いた抽出の後に洗浄および逆抽出するステップを含んでもよく、前記洗浄および逆抽出は、硫酸を用いて行ってもよく、硫酸を用いることによって前記コバルト塩を硫酸塩の形態で得ることもできる。
【0078】
<リチウム二次電池用正極活物質の製造方法>
また、本発明は、本発明に係る正極活物質前駆体材料の製造方法によって製造される正極活物質前駆体材料およびリチウム塩を混合してLiNiCoMn(前記式において、0≦x≦、0≦y≦、および0≦z≦であり、x+y+z=である。)で表される正極活物質を得ることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【0079】
本発明によって製造される正極活物質は、ニッケル塩、コバルト塩、またはマンガン塩を含むものであれば、特に限定されないが、ニッケル、コバルト、およびマンガンのうちの2つ以上を含む二成分系正極活物質、または、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含む三成分系正極活物質であってもよい。
【0080】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、本発明によって製造された正極活物質前駆体材料を用いる点を除いては、公知の製造方法によって正極活物質を製造することができる。
【0081】
<リチウム二次電池用正極活物質>
また、本発明は、本発明に係るリチウム二次電池用正極活物質の製造方法によって製造されたリチウム二次電池用正極活物質を提供する。本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、本発明によって製造された正極活物質前駆体材料を用いる点を除いては、公知の製造方法によって製造することができる。
[発明の実施のための形態]
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。しかし、下記の実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0082】
<実施例1>
廃リチウム二次電池から分離したNCM523正極材900kgを破砕し、ミーリングで粒子大きさ2μm~5μmに粉砕処理した。前記得られた粉末を硫酸溶液で6時間以上反応させた後、Li、Mn、Co、およびNiが含まれた浸出液を得た。本実施例では、Mn塩、Ni塩、およびCo塩の順に抽出を行った。
【0083】
まず、前記Li、Mn、Co、およびNiが含まれた浸出液からMnを溶媒抽出するために供給(Feeding)液として、前記浸出液をpH4に調整し、抽出剤としてはケロシン(kerosene)で希釈したD2EHPA 1M溶液(けん化50%)、洗浄液として0.25M硫酸、逆抽出液として2M硫酸を用いた。供給液を33mL/min、抽出剤を66mL/min、洗浄液を13mL/min、逆抽出液を13mL/minの流速でミキサセトラ(Mixer-settler)装備に投入して抽出、洗浄、逆抽出の順に溶媒抽出した。逆抽出工程の後には、高純度の硫酸マンガン溶液を得た。
【0084】
続いて、Mn溶媒抽出の後に得られた残液(Raffinate)をpH6に調整した後、Niに対して2.2倍のモル比でDMG(dimethylglyoxime)を添加した。沈殿物をろ過して分離し、ろ液を下記Co溶媒抽出に用いた。沈殿物を硫酸処理して高純度の硫酸ニッケルを得た。
【0085】
次いで、Niを分離したろ液でCo溶媒抽出を行った。ろ液をpH5.0に調整して供給液として用い、抽出剤としてはケロシンで希釈したD2EHPA 1M溶液(けん化50%)、洗浄液として0.25M硫酸、逆抽出液として2M硫酸を用いた。供給液(Feding)液を50mL/min、洗浄液を7mL/min、逆抽出液を7mL/minの流速でミキサセトラ(Mixer-settler)に投入して抽出、洗浄、逆抽出の順に溶媒抽出した。逆抽出工程の後には、高純度の硫酸コバルト溶液を得た。
【0086】
図1は、本実施例1に係る廃リチウム二次電池を用いた正極活物質前駆体材料の製造過程を示されたものであり、本実施例の各ステップで得た物質の抽出効率および純度を下記表1に示した。
【0087】
<実施例2>
前記実施例1および比較例1と同一の方法で、Li、Mn、Co、およびNiが含まれた浸出液を得ており、前記実施例1と同一の方法で、硫酸マンガン溶液を得た後、硫酸ニッケルを得た。
【0088】
コバルト塩の抽出は、抽出剤としてPC88Aを用いた以外は、前記実施例1と同一の方法で、溶媒抽出を行い、硫酸コバルト溶液を得た。
【0089】
本実施例2の各ステップで得た正極活物質前駆体材料の抽出効率および純度を下記表1に示した。
【0090】
<比較例1>
廃リチウム二次電池から分離したNCM523正極材900kgを破砕し、ミーリングで粉砕処理した。前記正極活物質粉末を硫酸溶液で6時間以上反応させた後、Li、Mn、Co、およびNiが含まれた浸出液を得た。本比較例では、Mn塩、Co塩、およびNi塩の順に抽出を行った。
【0091】
前記Li、Mn、Co、およびNiが含まれた浸出液からMn塩を溶媒抽出するために、D2EHPA 1M(けん化50%)、洗浄液として0.2~0.25M硫酸溶液、逆抽出液として2M硫酸溶液を用い、ミキサセトラ(Mixer-settler)装備を用いて抽出、洗浄、逆抽出の順に作業した。逆抽出の後に、硫酸マンガン溶液を得た。
【0092】
前記Mn抽出後に残った残液(Raffinate)で次のCo溶媒抽出作業を行った。Co溶媒抽出作業条件は、Cyanex 272 1M(けん化50%)、洗浄液として0.2~0.25M硫酸溶液、逆抽出液として2M硫酸溶液を用い、ミキサセトラ(Mixer-settler)装備を用いて抽出、洗浄、逆抽出の順に作業した。逆抽出の後に、硫酸コバルト溶液を得た。
【0093】
前記Co抽出後に残った残液(Raffinate)でNi溶媒抽出作業を行った。Ni溶媒抽出作業条件は、D2EHPA 1M(けん化60%)、洗浄液として0.2~0.25M硫酸溶液、逆抽出液として2M硫酸溶液を用い、ミキサセトラ(Mixer-settler) 装置を用いて抽出、洗浄、逆抽出の順に作業した。逆抽出の後に、硫酸ニッケル溶液を得た。
【0094】
本比較例1の各ステップで得た正極活物質前駆体材料の抽出効率および純度を下記表1に示した。
【0095】
<比較例2>
前記実施例1および比較例1と同一の方法で、Li、Mn、Co、およびNiが含まれた浸出液を得た後、下記のような方法で、Mn塩、Ni塩およびCo塩を得た。
【0096】
前記浸出液をpH2.5に調整し、80℃に維持し、KMnOを添加した。このとき、KMnOはMnと同一のモル数を用いた。約1時間程度反応させた後、沈殿物をろ過してMnOを得た。
【0097】
Mn沈殿の後に、残液をpH5.0に調整した後、80℃を維持し、DMGを添加した。このとき、DMGは、Niに対して2倍を用いた。1時間反応させた後、沈殿物をろ過してNi-DMGを得た。
【0098】
前記Ni抽出の後に、残液(Raffinate)で、次のCo溶媒抽出作業を行った。Co溶媒抽出作業条件は、ケロシンで希釈したCyanex 272 1M(けん化50%)、洗浄液として0.2~0.25M硫酸溶液、逆抽出液として2M硫酸溶液を用い、ミキサセトラ(Mixer-settler)装備を用いて抽出、洗浄、逆抽出の順に作業した。逆抽出の後に、硫酸コバルト(CoSO)溶液を得た。
【0099】
本比較例2の各ステップで得た正極活物質前駆体材料の抽出効率および純度を下記表1に示した。
【0100】
<比較例3>
本比較例3は、前記実施例1において、コバルト塩の抽出とニッケル塩との抽出順序を異ならせたことを除き、前記実施例1と同一の方法で行い、すなわち、Mn塩、Co塩、およびNi塩の順に抽出を行った。
【0101】
本比較例3の各ステップで得た正極活物質前駆体材料の抽出効率および純度を下記表1に示した。
【0102】
【表1】
【0103】
前記表1を参照すると、本発明に係る実施例の順序および方法で処理する場合、正極活物質前駆体材料として直ちに活用可能なMn、Ni、およびCoの硫酸塩の形態で得られ、生成物の抽出効率および純度がいずれも80%以上で優れたものであることが確認できた。
【0104】
これに対し、本願と抽出順序が異なる比較例1および3の場合、生成物を硫酸塩の形態では得られたが、ニッケル塩またはコバルト塩の抽出効率が80%以下と示されており、本願と同一の順序で抽出したが、本発明に係る抽出剤を使用しない比較例2の場合、生成物を硫酸塩の形態では得られなかった。
図1