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特許7375266光学セキュリティ要素、マークが付けられた対象物、対象物を認証する方法、及び認証するため又は偽造に対して保護するための光学セキュリティ要素の使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】光学セキュリティ要素、マークが付けられた対象物、対象物を認証する方法、及び認証するため又は偽造に対して保護するための光学セキュリティ要素の使用
(51)【国際特許分類】
   B42D 25/324 20140101AFI20231031BHJP
   G07D 7/206 20160101ALI20231031BHJP
   G02B 5/18 20060101ALN20231031BHJP
【FI】
B42D25/324
G07D7/206
G02B5/18
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021518555
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2019076943
(87)【国際公開番号】W WO2020070299
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】18198945.0
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】311007051
【氏名又は名称】シクパ ホルディング ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】SICPA HOLDING SA
【住所又は居所原語表記】Avenue de Florissant 41,CH-1008 Prilly, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】カルガーリ, アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】デゴット, ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ディノーブ, トドール
(72)【発明者】
【氏名】エッガー, フィリップ
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】豪国特許出願公開第2011101251(AU,A1)
【文献】特表2008-529851(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0157539(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 25/324
G07D 7/206
G02B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学セキュリティ要素であって、屈折性の透明若しくは部分的に透明な光学材料から作られ、点状光源からそれを通して受け取られた入射光を方向変換し、前記光学セキュリティ要素を通して前記点状源を見る観察者の網膜に直接、コースティックパターンを含んだ投影された画像を形成するように構成された、所与の深さのレリーフパターン及び焦点距離fを有する光方向変換面を有するコースティック層と、焦点距離fの隣り合うレンズ要素との光学アセンブリを備える、光学セキュリティ要素。
【請求項2】
a)前記コースティック層が、正の焦点距離(f>0)を有し、前記レンズ要素が、負の焦点距離(f<0)を有すること、又は
b)前記コースティック層が、負の焦点距離(f<0)を有し、前記レンズ要素が、正の焦点距離(f>0)を有すること
のうちの1つを備える、請求項1に記載の光学セキュリティ要素。
【請求項3】
前記レンズ要素の前記焦点距離と、前記コースティック層の前記焦点距離との間の関係が、以下の式、
【数1】
を満足し、
ただし、
Rは、前記コースティック層と前記観察者の眼との間の距離、
は、前記点状光源と前記光学セキュリティ要素との間の距離、及び
は、少なくとも25cmである、前記眼からの快適な読み取り距離
である、請求項2に記載の光学セキュリティ要素。
【請求項4】
前記正の焦点距離が、前記負の焦点距離の絶対値以上となるように選ばれる、請求項2又は3に記載の光学セキュリティ要素。
【請求項5】
前記負の焦点距離が、-15mm~-125mm、特に-30mm~-50mmの範囲である、請求項2~4のいずれか一項に記載の光学セキュリティ要素。
【請求項6】
前記コースティック層が、-30mm~-50mmの範囲の前記負の焦点距離fを有し、30mm~50mmの範囲の正の焦点距離fを有するレンズ要素と組み合わされ、前記レンズ要素は、平凸レンズである、請求項2~5のいずれか一項に記載の光学セキュリティ要素。
【請求項7】
消費者製品、有価文書、及び紙幣を含む群から選択される対象物にマークを付ける、請求項1~6のいずれか一項に記載の光学セキュリティ要素。
【請求項8】
所与の深さのレリーフパターン及び焦点距離fを有するコースティック層と、焦点距離fの隣り合う光学材料層とによって形成された光学アセンブリの反射性光方向変換面を備え、前記光学アセンブリは、点状光源から受け取られた入射光を方向変換し、コースティックパターンを含んだ投影された画像を観察者の網膜に直接形成するように構成される、光学セキュリティ要素。
【請求項9】
a)正の焦点距離(f>0)を有する前記コースティック層、及び負の焦点距離(f<0)を有する前記光学材料層、又は
b)負の焦点距離(f<0)を有する前記コースティック層、及び正の焦点距離(f>0)を有するレンズ要素
のうちの1つを備える、請求項8に記載の光学セキュリティ要素。
【請求項10】
前記光学材料層の前記焦点距離と前記コースティック層の前記焦点距離との間の関係が、以下の式、
【数2】
を満足し、
ただし、
Rは、前記コースティック層と眼との間の距離、
は、前記点状光源と前記光学セキュリティ要素との間の距離、及び
は、少なくとも25cmである、前記眼からの快適な読み取り距離
である、請求項9に記載の光学セキュリティ要素。
【請求項11】
消費者製品、有価文書、及び紙幣を含む群から選択される対象物にマークを付ける、請求項8に記載の光学セキュリティ要素。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の光学セキュリティ要素を備える、消費者製品、有価文書、及び紙幣を含む群から選択された、マークが付けられた対象物。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の光学セキュリティ要素によってマークが付けられた対象物を、観察者によって視覚的に認証する方法であって、
前記光学セキュリティ要素の光方向変換面を、前記光方向変換面からの距離dにおける点状光源を用いて、照明するステップと、
【数3】
による、前記光学セキュリティ要素からの距離dにおけるコースティックパターンの虚像を、前記光学セキュリティ要素を通して視覚的に観察するステップと、
前記コースティックパターンは基準パターンに視覚的に類似すると前記観察者により評価された場合、前記対象物は本物であると決定するステップと
を含む、方法。
【請求項14】
消費者製品、有価文書、及び紙幣を含む群から選択された対象物を認証する、又は偽造に対して保護するための、請求項1~11のいずれか一項に記載の光学セキュリティ要素使用する方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適切に照明された場合にコースティックパターンを投影するように動作可能な屈折性又は反射性光学セキュリティ要素、及び認証するため又は偽造に対して保護するためのこのような光学セキュリティ要素の方法及び使用の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に利用可能な手段を用いて、いわゆる「通りの人」によって認証され得る、対象物のセキュリティ機能の必要性がある。これらの手段は、五感、大部分は視覚及び触覚を用いること、並びに広く普及したツール、例えば携帯電話などを用いることを含む。
【0003】
セキュリティ機能のいくつかの一般的な例は、法医学繊維、糸又はフォイル(例えば紙のような基板に組み込まれる)、透かし、凹版印刷、又は紙幣、クレジットカード、身分証明書、チケット、証明書、文書、パスポートなどに見られるマイクロプリント(場合によっては、光学可変インクを用いて基板に印刷される)である。これらのセキュリティ機能は、光学可変インク、不可視インク、又は発光インク(特定の励起光を用いた適切な照明のもとでの蛍光若しくはリン光)、ホログラム、及び/又は触覚機能を含むことができる。セキュリティ機能の主な特徴は、このようなセキュリティ機能によってマークが付けられた対象物は、特性が観察され又は明らかに(視覚的に若しくは特定の装置を用いて)され得る場合、確実に本物であると考えられ得るように、偽造するのが非常に困難であるいくつかの物理的特性(光学効果、磁気効果、材料構造、若しくは化学組成)を有することである。
【0004】
しかし、対象物が透明又は部分的に透明であるとき、あからさまな、一般的な公開の機能は適切とはなり得ない。実際、透明な対象物はしばしば、必要なセキュリティ機能を有するセキュリティ要素が、美的な又は機能的な理由により、それらの透明度又はそれらの外観を変えないことを必要とする。顕著な例は、医薬品用のブリスタ及び小瓶を含み得る。最近では、例えばポリマー及びハイブリッド紙幣は、それらの設計に透明窓を組み込んでおり、従ってそれに適合するセキュリティ機能の要求を生じている。
【0005】
文書、紙幣、安全性が保証されたチケット、パスポートなどに対するセキュリティ要素のほとんどの既存のセキュリティ機能は、透明な対象物/エリアに対して特に開発されておらず、従って、このような応用例に対してよく適していない。他の機能、例えば不可視及び蛍光インクを用いて得られるものは、特定の励起ツール及び/又は検出ツールを必要とし、それらは「通りの人」のためにすぐに利用可能とはなり得ない。
【0006】
半透明の光学的に可変な機能(例えば液晶コーティング、又は表面構造からの潜像)が知られており、この種の機能をもたらすことができる。残念ながら、このようなセキュリティ機能を組み込むマーキングは一般に、効果が良好に見えるためには、暗い/一様な背景に対して観察されなければならない。
【0007】
透明な紙幣窓に対する解決策は、例えばガーディアン(Guardian)(商標)「Security Features Reference Guide」2版、2013年5月で述べられている。開示されたセキュリティ機能のほとんどは、窓の透明度を妨げる。それらのうちの1つ(エクリプス(Eclipse)(登録商標))はそうではない。それは、透明窓を通して輝点光源を見たときに、隠された画像を明らかにする回折性デバイスである。
【0008】
エクリプス(登録商標)などの回折性セキュリティ機能は、強い色収差、明るい光源の必要性、及び投影された画像におけるゼロ次回折(すなわち源からの残留光)の存在を含む、いくつかの欠点の影響を受ける。
【0009】
他の知られている機能は、反射モードで、又は非金属化面ホログラムなど、スクリーンにパターンを投影するように透過モードで用いられる、回折性光学要素である。これらの機能の欠点は、直接見られたときに、それらが非常に低いコントラストの視覚効果を示すことである。さらに、パターンを投影するために単色光源と組み合わされて用いられたとき、それらは通常、満足な結果を生じるためにレーザを必要とすることである。さらに、明瞭に見える光学効果をもたらすために、光源、回折性光学要素、及び観察者の眼の、かなり正確な相対的空間配置が必要である。
【0010】
レーザ刻印されたマイクロテキスト及び/又はマイクロコードは、例えばガラスの小瓶に対して用いられている。しかし、それらはそれらの実装のために費用のかかるツール、及びそれらの検出のために特定の拡大ツールを必要とする。
【0011】
従って本発明の目的は、従来技術の欠点を克服し、屈折性の透明若しくは部分的に透明な光学材料から作られた、又はコースティック層の光方向変換面を備えた、光学セキュリティ要素をもたらすことで、光学セキュリティ要素は、他の手段なしに(すなわち肉眼で)又は一般に及び容易に利用可能な手段、例えば太陽、街灯、スマートフォンのフラッシュランプなどのような単なる点状光源(光源は、それの角度サイズが1°以下である場合は「点状」と考えられる)を用いて、容易に人によって視覚的に認証され得る。
【0012】
本発明の他の目的は、大量に製造するのが容易であり、又は量産製造プロセスに適合する光学セキュリティ要素をもたらすことである。さらに、光学セキュリティ要素の照明はまたできるだけ容易に利用可能な手段(例えば携帯電話のLED、又は太陽などの光源)によるべきで、ユーザ(観察者)による良好な視覚的観察に対する条件は、光源、光学セキュリティ要素、及び観察者の眼の、過度に厳密な相対的空間配置を必要とするべきではない。
【0013】
言い換えれば、セキュリティ機能の存在をチェックするときのユーザ(観察者)による取り扱いは、できるだけ簡単であるべきで、解決策は利用条件の最も広い範囲に適合するべきである。
【0014】
本発明の他の目的は、他の手段なしに(すなわち肉眼で)、又は一般に及び容易に利用可能な手段(例えば単なる拡大レンズ又は点状源、例えば携帯電話のLED)を用いて、容易に人によって視覚的に認証され得るセキュリティ機能を有する、光学セキュリティ要素を備える、マークが付けられた対象物をもたらすことである。
【0015】
本発明の他の目的は、屈折性の透明若しくは部分的に透明な光学材料から作られた、又はコースティック層の反射性光方向変換面を備えた、光学セキュリティ要素によってマークが付けられた、対象物を視覚的に認証する効率的な方法をもたらすことである。
【0016】
本発明の他の目的は、認証する、又は偽造に対して保護することにおける使用のための光学セキュリティ要素をもたらすことである。
【発明の概要】
【0017】
一態様によれば、本発明は、光学セキュリティ要素であって、屈折性の透明若しくは部分的に透明な光学材料から作られ、点状光源からそれを通して受け取られた入射光を方向変換し、光学セキュリティ要素を通して点状源を見る観察者の網膜に直接、コースティックパターンを含んだ投影された画像を形成するように構成された、所与の深さのレリーフパターン及び焦点距離fを有する光方向変換面を有するコースティック層と、焦点距離fの隣り合うレンズ要素との光学アセンブリを備える、光学セキュリティ要素に関する。
【0018】
光伝搬に関して別法として、源→コースティック層→レンズの順序は、源→レンズ→コースティック層(古典的光学における知られている等価)として逆にされ得ることがさらに留意されるべきである。
【0019】
光学セキュリティ要素は、透明若しくは部分的に透明な対象物、又は対象物に組み込まれた透明窓の透明度を変化させない。それはさらに、簡単な取り扱い、及びセキュリティ機能の存在をチェックするときのユーザ(観察者)による良好な視覚的観察を可能にし、量産製造プロセスに適合するので有利である。
【0020】
屈折性光学セキュリティ要素の透明な態様は、少なくとも部分的に透明な基板(例えばガラス又はプラスチック瓶、瓶のキャップ、時計のガラス、宝飾品類、宝石など)にマークを付けるために特に適したものとなる。屈折性光学セキュリティ要素は、可視光に対して(すなわち約380nm~約740nmまでの光波長に対する)、透明(又は部分的に透明)であることが好ましい。
【0021】
本発明による光学セキュリティ要素は、
a)コースティック層が、正の焦点距離(f>0)を有し、レンズ要素が、負の焦点距離(f<0)を有すること、又は
b)コースティック層が、負の焦点距離(f<0)を有し、レンズ要素が、正の焦点距離(f>0)を有すること
のうちの1つを備える。
【0022】
レンズ要素の焦点距離と、コースティック層の焦点距離との間の関係は、以下の式、
【数1】

を満足することが好ましく、
ただし、
Rは、コースティック層と観察者の眼との間の距離、
は、点状光源と光学セキュリティ要素との間の距離、及び
は、少なくとも25cmである、眼からの快適な読み取り距離
である。
【0023】
正の焦点距離は、負の焦点距離の絶対値以上となるように選ばれる。
【0024】
負の焦点距離は、-15mm~-125mmの範囲とすることができ、-30mm~-50mmであることが好ましい。
【0025】
例えば、コースティック層は、-30mm~-50mmの範囲の負の焦点距離fを有し、30mm~50mmの範囲の対応する正の焦点距離fを有するレンズ要素と組み合わされ、レンズ要素は平凸レンズである。
【0026】
本発明による光学セキュリティ要素は、消費者製品、有価文書、及び紙幣を含む群から選択される対象物にマークを付けるために用いられる。
【0027】
他の態様によれば、本発明は、所与の深さのレリーフパターン及び焦点距離fを有するコースティック層と、焦点距離fの隣り合う光学材料層とによって形成された光学アセンブリの反射性光方向変換面を備え、前記光学アセンブリは、点状光源から受け取られた入射光を方向変換し、コースティックパターンを含んだ投影された画像を観察者の網膜に直接形成するように構成される、光学セキュリティ要素に関する。
【0028】
本発明によれば、光学セキュリティ要素は、
a)コースティック層が、正の焦点距離(f>0)を有し、光学材料層が、負の焦点距離(f<0)を有すること、又は
b)コースティック層が、負の焦点距離(f<0)を有し、レンズ要素が、正の焦点距離(f>0)を有すること
のうちの1つを備える。
【0029】
光学材料層の焦点距離とコースティック層の焦点距離との間の関係は、以下の式、
【数2】

を満足することが好ましく、
ただし、
Rは、コースティック層と眼との間の距離、
は、点状光源と光学セキュリティ要素との間の距離、及び
は、少なくとも25cmである、眼からの快適な読み取り距離
である。
【0030】
本発明による光学セキュリティ要素は、消費者製品、有価文書、及び紙幣を含む群から選択される対象物にマークを付けるために用いられる。
【0031】
さらに他の態様によれば、本発明は、他の手段なしに(すなわち肉眼で)、又は一般に及び容易に利用可能な手段(例えば単なる一般に利用可能な点状光源)を用いて、容易に人によって視覚的に認証され得るセキュリティ機能を有する、光学セキュリティ要素を備える、消費者製品、有価文書、及び紙幣を含む群から選択された、マークが付けられた対象物に関する。
【0032】
さらに他の態様によれば、本発明は、本明細書で述べられる光学セキュリティ要素によってマークが付けられた対象物を、観察者によって視覚的に認証する方法に関し、方法は、
光学セキュリティ要素の光方向変換面を、光方向変換面からの距離dにおける点状光源を用いて、照明するステップと、
光学セキュリティ要素からの距離dにおけるコースティックパターンの虚像を、視覚的に観察するステップと、
コースティックパターンは基準パターンに視覚的に類似すると観察者により評価された場合、対象物は本物であると決定するステップと
を含む。
【0033】
さらに他の態様によれば、本発明は、消費者製品、有価文書、及び紙幣を含む群から選択された対象物を認証する、又は偽造に対して保護するための、本明細書で述べられるような光学セキュリティ要素の使用に関する。
【0034】
本発明は、異なる図の全体にわたって同じ数字は同じ要素を表し、本発明の顕著な態様及び特徴が示される、添付の図面を参照して、本明細書で以下に、より十分に述べられる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】コースティック層は正の焦点距離(f>0)を有し、レンズ要素は負の焦点距離(f<0)を有する、本発明の一態様による光学セキュリティ要素の光学構成の概略図である。
図2】コースティック層は負の焦点距離(f<0)を有し、レンズ要素は正の焦点距離(f>0)を有する、本発明の一態様による光学セキュリティ要素の光学構成の概略図である。
図3図1に示される光学構成に従って物理的画像を記録するために用いられる概略セットアップを示す図である。
図4】正レンズに結合された、負の焦点距離を有するコースティック層を用いて物理的画像を記録するために用いられる概略セットアップを示す図である。
図5】f=-30mmを有する負レンズ要素に結合された、光学セキュリティ要素(f=40mm)の後方40mmにおける表面にコースティック画像を投影するように設計された、正のコースティック層を用いた上述のセットアップにより捕捉された画像の例を示す図である。
図6】f=-50mmを有する負レンズ要素に結合された、光学セキュリティ要素(f=40mm)の後方40mmにおける表面にコースティック画像を投影するように設計された、正のコースティック層を用いた上述のセットアップにより捕捉された画像の例を示す図である。
図7図5で用いられたコースティック光学要素の負の焦点距離(f=-40mm)のコピーを用い、及び焦点距離f=40mmを有する正レンズ要素に結合された、図4で述べられたセットアップにより捕捉された画像の例を示す図である。
図8図6で用いられたコースティック光学要素の負の焦点距離(f=-40mm)のコピーを用い、及び焦点距離f=50mmを有する正レンズ要素に結合された、図4で述べられたセットアップにより捕捉された画像の例を示す図である。
図9】a)別個の負レンズ要素3を有する個々の正レンズレット8を有する正のコースティック層2を有する要素、b)コースティック層2を有し、負レンズ要素3である背面を有する要素、c)負レンズ要素3の表面の上のコースティック層2(両面の総和)を備える、可能な光学セキュリティ要素の例を示す図である。
図10】a)負のコースティック層2及び別個の正レンズ要素3を有する要素、b)負のコースティック層2を有し、正レンズ要素3である背面を有する要素、c)正レンズ要素3の表面の上の負のコースティック層2(両面の総和)を含む、可能な光学セキュリティ要素の例を示す図である。
図11】正の焦点距離(f>0)を有するコースティック層と、負の焦点距離(f<0)を有するレンズ要素とが組み合わされた、光学セキュリティ要素のコースティック層のレンズレットの集合体によって、網膜上に画像を作り出す光学方式を示す図である。
図12】正の焦点距離(f>0)を有するコースティック層と、負の焦点距離(f<0)を有するレンズ要素とが組み合わされた、光学セキュリティ要素のコースティック層のレンズレットの集合体によって、網膜上に画像を作り出す光学方式を示す図である。
図13】負の焦点距離(f<0)を有するコースティック層と、正の焦点距離(f>0)を有するレンズ要素とが組み合わされたときの、光学セキュリティ要素のコースティック層のレンズレットの集合体によって、網膜上に画像を作り出す光学方式を示す図である。
図14】負の焦点距離(f<0)を有するコースティック層と、正の焦点距離(f>0)を有するレンズ要素とが組み合わされたときの、光学セキュリティ要素のコースティック層のレンズレットの集合体によって、網膜上に画像を作り出す光学方式を示す図である。
図15】光学セットアップ、及びf=-40mmの負レンズに隣り合うf=40mmの正のコースティック層を有し、3mmの虹彩直径を有する眼のモデルから25mmに配置された、光学セキュリティ要素によって作り出されるシミュレートされた(光線追跡された)画像を示す図である。
図16】光学セットアップ、及びf=-40mmの負レンズに隣り合うf=40mmの正のコースティック層を有し、5mmの虹彩直径を有する眼のモデルから25mmに配置された、光学セキュリティ要素によって作り出されるシミュレートされた(光線追跡された)画像を示す図である。
図17】f=40mmの正レンズに隣り合うf=-40mmの負のコースティック層を有し、3mmの固定の虹彩直径を有する眼のモデルから25mmの距離に配置された、光学セキュリティ要素によって作り出されるシミュレートされた(光線追跡された)画像を示す図である。
図18】f=40mmの正レンズに隣り合うf=-40mmの負のコースティック層を有し、3mmの固定の虹彩直径を有する眼のモデルから40mmの距離に配置された、光学セキュリティ要素によって作り出されるシミュレートされた(光線追跡された)画像を示す図である。
図19】負の焦点距離を有するコースティック層が、正の焦点距離を有するレンズ要素の上に置かれた、f=-40mmのコースティック層とf=45mmのレンズ要素とを有する光学要素によって作り出される画像を示す図である。
図20】負の焦点距離を有するコースティック層が、正の焦点距離を有するレンズ要素の上に置かれた、f=-40mmのコースティック層とf=45mmのレンズ要素とを有する光学要素によって作り出される画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本説明においては、いくつかの用語が用いられ、それらは以下でさらに定義される。
【0037】
光学において、「コースティック」という用語は、少なくともそのうちの1つが曲線状である1つ又は複数の表面によって反射又は屈折された光線の包絡面、並びに別の表面へのこのような光線の投影を指す。より具体的には、コースティックは、各光線に接する曲線又は表面であり、集中された光の曲線として、光線の包絡面の境界を定義する。例えば、プールの底に太陽光線によって形成される光パターンは、単一の屈折性光方向変換面(波状の空気-水界面)によって形成されるコースティック「画像」又はパターンであり、一方、水飲みコップの曲線状の表面を通過する光は、その経路を方向変換する2つ以上の面(例えば空気ガラス、水飲みコップ、空気-水、・・・)を横切るのに従って、水飲みコップが置かれたテーブルにカスプ状のパターンを作り出す。
【0038】
光学(セキュリティ)要素を作るために用いられる光学材料基板は、例えば、レリーフパターンを有するように、及び従って光方向変換面を形成するように、例えば機械加工によって表面が特に形成される原材料基板である。光学材料基板はさらに、型押し、成形、UV鋳造などのような複製プロセスによって形作られ得る。
【0039】
屈折性光方向変換光学要素のための適切な光学材料基板は、光学的に澄んだ、透明な、又は少なくとも部分的に透明であり、機械的に安定であるべきである。本発明の目的、すなわち視覚的に認識できるコースティックパターンを生成する能力を有する光学セキュリティ要素をもたらすためには、透明若しくは部分的に透明な材料は、実際、光拡散が、視覚的に認識できるコースティックパターンの形成を損なわないように、低ヘイズ(H)及び高透過率(T)材料に対応する。通常、透過率T>50%であることが好ましく、及びT>90%であることが最も好ましい。また、低ヘイズH<10%が用いられることができるが、H<3%であることが好ましく、及びH<1%であることが最も好ましい。適切な光学材料基板はさらに、円滑な及び欠陥のない表面を与えるように、形成(例えば機械加工)プロセスの間において、正しく挙動するべきである。適切な基板の例は、PMMA(プレクシガラス(Plexiglas)、ルーサイト(Lucite)、パースペックス(Perspex)などの商品名でも知られる)の光学的に透明なスラブである。
【0040】
反射性光方向変換面の場合は、光学材料基板は必ずしも一様又は透明ではない。例えば、材料は可視光に対して不透明とすることができる(その場合反射性は、機械加工された表面の古典的な金属被覆によって得られる)。適切な基板の例は、刻線式回折格子のマスタ用に用いられるものなどの金属、及びレーザミラー、又はさらに金属被覆され得る非反射性基板である。
【0041】
本実施形態において、「レンズ要素」という用語は、基板の表面に適用された反射性コースティック層(「ミラー層」のような)とすることができ、又は基板(転送要素)の反射面に適用された屈折性コースティック層とすることができる。
【0042】
「光方向変換面(複数可)」は、源からの到来光を投影面上に方向変換させることを受け持つ光学セキュリティ要素の表面(又は複数の表面)であり、そこにコースティックパターンが形成される。本明細書で以下に述べられるように、本発明によれば、投影面は観察者の網膜である。
【0043】
「コースティックパターン」(又はコースティック画像)という用語は、適切な形状の(すなわち適切なレリーフパターンを有する)光学面が、適切な(必ずしもそうでないが、点状が好ましい)源からの光を、投影面のいくつかの領域からそれをそらせ、所定の光パターンで投影面の他の領域に集中させるように(すなわち、このようにして前記「コースティックパターン」を形成する)方向変換させるとき、投影面上に形成される光パターンと呼ばれる。方向変換は、光学要素がない場合の源から投影面までの経路に対する、光学要素がある場合の源からの光線の経路の変化を指す。本発明によれば、考察される投影面は人の眼の網膜である。
【0044】
そして、曲線状の光学面は「レリーフパターン」と呼ばれ、この面によって境界付けられた光学要素は光学セキュリティ要素と呼ばれる。コースティックパターンは、場合によっては増加した複雑さが代償となるが、2つ以上の曲線状の表面、及び2つ以上の対象物による光の方向変換の結果とすることができることが留意されるべきである。さらに、コースティックパターンを生成するためのレリーフパターンは、回折性パターン(例えば、セキュリティホログラムのような)と混同されてはならない。本発明の好ましい実施形態によれば、光学セキュリティ要素のレリーフパターンの最大深さは、超高精度機械加工(UPM)及び複製プロセスによって課される限界、すなわち約0.2μmより大きいままで、<250μmであり、又は<30μmであることがより好ましい。本説明によれば、光方向変換面のレリーフパターンにおける最高及び最低点の間の高低差は、レリーフ深さと呼ばれる。
【0045】
コースティック要素は、一般に要素の後方のスクリーンに光パターンを投影するように設計される。本発明の概念を示すために、コースティック面は、共同で表面を定義する小さなレンズ要素、すなわち「レンズレット」の集合としてモデル化され得る。従って、このトイモデルを用いて、コースティック面は、例えば、ほぼ40mmの焦点距離を有する正レンズレットの集合として想像され得る。これは並行ビームによって照明されたとき、投影においてコースティック画像が形成される距離である。実際、セキュリティ要素は、コースティック層(レリーフパターンをもつコースティック面を有する)と、入射光を方向変換するための転送要素との光学アセンブリである。転送要素は、レンズ要素(若しくは複数の同軸のレンズ要素)、又はそれにコースティック層が適用される、場合によっては反射性の、単なる支持要素とすることができる。
【0046】
現実的な例として、本発明においてコースティック層は、観察者の網膜に直接形成される画像を取得するために、適切なレンズ(すなわち転送要素)との組み合わせにおいて用いられる。これらのコースティック層は、以下の2つのタイプとすることができる。
それらが、点光源から照明されるとすぐに、表面に投影された現実のコースティック画像を形成する(単独で)能力を有するとき「正」、
それらが虚像を(光源と同じ側に)形成する能力を有するとき「負」。
【0047】
上記の両方の場合(正及び負のコースティック層)において、画像は通常、光学要素から数cmの距離(d)において形成され、例えば、源が無限遠にあるときに40mm(すなわちd≫d)である。この値は本明細書では、古典的レンズの場合と同様に、コースティック層の「焦点距離」(f)と呼ばれる。コースティック層の所与の面が現実のコースティック画像を投影する場合、相補面は同一であるが虚像を投影するようになり、その逆も同様である。2つの面の焦点距離も、同じ絶対値(及び反対の符号)を有するようになる。さらに以下で示される例では、正及び負のコースティック面の両方が用いられる。
【0048】
画像に戻ると、レンズ(転送要素として)は、コースティック要素によって投影された実像を、適切な読み取り距離において、サンプルを通して見たときに画像が網膜に直接作り出されるように、虚像に変換する。画像は、例えば、ロゴ、絵、数字、又は特定の状況において関連があり得る任意の他の情報とすることができる。
【0049】
ここで「実像」及び「虚像」という用語は、古典的な光学と同様に用いられる。実像に対しては、画像点に対応する光線の束は収束する。虚像に対しては、(発散する)光線の束は、後方向に延ばされたとき、対応する画像点から生じるように見えるが、虚像の位置にスクリーンが配置された場合、その上に実際の画像は形成されない。
【0050】
それに対応して、光源の虚像は、仮想源と呼ばれる。
【0051】
多数の光学面、構成、及びパラメータを調査するために、すべての関連のあるコースティック層を製造することは法外に費用がかかり、代わりに光学的モデル化が用いられた。光学的モデル化は、商用プログラム(ゼマックス(Zemax))を用いて光線追跡によりなされた。モデル化の精度は、イメージング光学系(例えばカメラレンズ設計)におけるほとんどのアプリケーションに対して用いられものと同等であることが強調されるべきである。従って、結果は高い信頼度で現実に対応すると想定され得る。
【0052】
人の眼をモデル化するために用いられるパラメータは、以下の表1に要約される。
【0053】
【表1】

図1は、本発明の一態様による光学セキュリティ要素の光学方式を示し、コースティック層は正の焦点距離(f>0)を有し、レンズ要素は負の焦点距離(f<0)を有する。光源1によって照明されるとすぐに眼によって画像を見るために、山から谷の高さΔh=30μm、及び40mmの焦点距離を有するコースティック層2は、その隣に挿入された負レンズ要素3と組み合わされている(図1の示される実施形態において、眼の側において)。図1に示されるように、光源1はコースティック層2から少なくとも400mmの距離に配置される。セットアップは、眼4の正面で、約20~30mmの距離に保持され、これは眼-レリーフ距離Rと考えられる。網膜の画像5も図1に示される。光学セキュリティ要素から出るビームは発散性であり、従って眼の虹彩は、視野及び見られるコースティック画像の部分を制限する。光学要素が眼に近いほど、視野は大きくなり、及び見られるコースティック画像の部分は大きくなる。
【0054】
図2は、光学セキュリティ要素の光学方式を示し、コースティック層は負の焦点距離(f<0)を有し、レンズ要素は正の焦点距離(f>0)を有する。コースティック要素2’は、図1で用いられたもとの要素のネガコピーである表面を有し、結果として-40mmの負の焦点距離を有する。それは正レンズ要素3’と組み合わされ、眼4から距離Rにおいて、図1でのセットアップと同様に保持される。図2に示されるように、光源1は、コースティック要素2’から少なくとも400mmの距離に配置される。画像5は、眼の網膜に作り出される。図に示されるように、セキュリティ要素の出口での光線は収束性であり、網膜に到達する前に眼の虹彩が切り取る光線はより少ないので、図1のものと比べてコースティック画像のより大きな部分が見られる。
【0055】
物理的画像を記録するために用いられる概略セットアップは、図3に示される。眼は、250mmに焦点が合わされた16mm焦点距離対物レンズ8(フジノン(Fujinon)HF16A-1B)、及びVGAカラーセンサ7が取り付けられた、商用カメラモジュール6(uEye UI-1225LE-C-HQ)によってシミュレートされる。セットアップは、眼によって見られるものに似た画像を捕捉するように選ばれる。この場合において、山から谷の高さΔh=30μm(2mm厚の10×10mmPMMAスラブの上に機械加工される)、及び40mmの焦点距離を有するコースティック層2は、その隣に挿入された負レンズ要素3と組み合わされる。用いられる負レンズ要素3は、それぞれ-15、-30、-50、及び-125mmの焦点距離を有する。図3に示される実施形態において、負レンズ要素3と対物レンズ8との間の距離は50mmである。光源1は、携帯電話のフラッシュランプであり、本非限定的な実施形態では、サムソン(Samsung)S3フォンのLEDである。図3に示されるように、光源1は、コースティック層2から少なくとも400mmの距離に配置される。
【0056】
コースティック画像が形成された網膜を、カメラセンサがシミュレートされる。いくつかの場合には、視野を最大化するために、より大きな口径も用いられている。本開示において、「視野」という用語は、可視の窓の角度サイズではなく、可視の窓の横方向サイズを意味する。また約50mmのコースティック要素までの所与の距離では、カメラによって記録される画像は、虹彩が約3~4mm開かれて、懐中電灯において、コースティック要素を通して見たときに、通常のオフィス環境において眼で見られるものと同様であることが留意されたい。
【0057】
図4は、物理的画像を記録するために用いられる概略セットアップを示す。図3と同様に、眼は、250mmに焦点が合わされた(絞りは全開)16mm焦点距離対物レンズ8(フジノンHF16A-1B)、及びVGAカラーセンサ7が取り付けられた、商用カメラモジュール6(uEye UI-1225LE-C-HQ)によってシミュレートされ、光源1は、携帯電話のフラッシュランプである(本非限定的な実施形態では、サムソンS3フォンのLEDである)。山から谷の高さΔh=30μm(図3で用いられたコースティック層の表面コピーとして得られる)、及び-40mmの負の焦点距離を有するコースティック層2’は、その隣に挿入された正レンズ要素3’と組み合わされる。正レンズ要素3’は、それぞれ40mm及び50mmの焦点距離を有する。図4に示される実施形態において、負レンズ要素3と対物レンズ8との間の距離は、5mmである。光源1は、コースティック層2’から少なくとも400mmの距離に配置される。
【0058】
図5及び図6は、それぞれf=-30mm及びf=-50mmを有する負レンズ要素と、焦点距離f=40mmのコースティック層とを用いた図3の上述のセットアップにより捕捉された画像の例を示す。
【0059】
特に、図5は、記号100の2/3のみをカバーすることができる視野(FOV)を有する鮮明な画像を示す。これは眼で、携帯電話のフラッシュランプの方向に要素を通して見たときに見られるものである。
【0060】
そして、図6は、f=-50mmを有する負レンズ要素を用いると、負レンズ要素は、コースティック層の正の焦点距離に対して補償するためには十分に強力ではないので、画像はぼやけ始めるということを示している。FOVは、f=-30mmを有するレンズ要素の場合より大きく、画像のより大きな部分が見られる。しかし、画像はセンサ(「網膜」)のより小さなエリアを占有する。従って、焦点距離を増加させることによって、視野は増加されるが、倍率は減少される。
【0061】
図7及び図8は、図4で述べられたセットアップにより捕捉された画像の例を示す。ここでは負のコースティック層として、焦点距離f=-40mmを有する、図5及び図6の画像を生成するために用いられたコースティック層の複製が、図5及び図6の画像を生成するために用いられる。観察のために適した虚像を作り出すために、正レンズf=40mm及びf=50mmが用いられる。両方の場合において、見られるコースティックパターンの一部は、図5及び図6に示された例と比べてずっと大きい。これは、このような光学セキュリティ要素の後の収束する光ビームのためである。図8に示される場合において、倍率はより小さく、円形切り取りの一部は、12.7mmのレンズ口径による。いずれの場合にも、このような構成は、寸法10×10mmのコースティック層の口径の全体を見ることを可能にする。
【0062】
関連のあるパラメータ、及び光学要素の適用可能性の実用範囲を決定するために、光学要素を形成する光学アセンブリの各構成要素によって行われる機能が述べられ、個別に分析される。
【0063】
実際の光学要素において、図9及び図10に示されるようにこれらの機能は、コースティック層として及び転送要素としての両方で動作する単一の要素によって一緒に、又は1つのコースティック層及び1つの(又は複数の)転送要素の光学アセンブリによって別個に、行われ得る。
【0064】
図9は、以下を含む可能な光学要素の例を示す:a)レンズレット9を有するコースティック層2と、別個の負の(平凹の)レンズ要素3(転送要素)とを有する要素、b)レンズレット9を有するコースティック層と、曲線状の背面が負レンズ要素3である転送要素とを有する要素、c)(平凹の)負レンズ要素3の曲線状の表面の上のレンズレット9を有するコースティック層(両面の総和)。
【0065】
図10は、以下を含む可能な光学要素の例を示す:a)レンズレット9を有する負のコースティック層2と、別個の(平凸の)正レンズ要素3とを有する要素、b)レンズレット9を有する負のコースティック層を有し、背面が正レンズ要素3である要素、c)正レンズ要素3の表面の上のレンズレット9を有する負のコースティック層(両面の総和)。外部制約によって許容される最大を超えるサグ(湾曲高さ)を有する(予め規定された最大に延びる山から谷まで)、すべての表面は、「フレネル化」技法によって低減され得ることが留意されるべきである。
【0066】
さらに、便利なトイモデルシステムとして、ドットの規則的なアレイからなる「コースティック画像」(又は「コースティックパターン」)を投影するために、マイクロレンズのアレイが用いられる。本発明の動作原理を説明するために、この手法はより精緻なコースティック層表面の使用よりいくつかの利点を有する:
選ばれるシステムは理解する、説明する、及びモデル化するのが非常に簡単である;
コースティック層の最も関連のある特徴を含む;
関連のあるパラメータは分析的に定義されることができ、それらは十分に定義された意味を有する(例えばコースティック層の焦点距離)。
【0067】
このように調査された概念は、次いで直接的な方法で、一般のコースティック層表面のより精緻な場合に移され得る。この方式において、光学要素は以下の機能を組み合わせる:
空間内のある位置(必ずしも眼の適応力内ではない)に、コースティック画像(実像又は虚像)を作り出すこと;
眼によってそれが網膜上に焦点が合わせられ得るように、コースティック画像を適切な位置に転送すること。眼の適応力を所与として、中継される画像は、眼から少なくとも25cmに配置するものとする。実際には、光学要素は眼の丁度正面に、又は最大でも数cmそれから離れて配置され、従って中継される画像は、光学要素の後方に形成される(虚像);
画像形成光線を、それらが切り取られずに瞳孔を通過できるように方向付けること。
【0068】
最初の2つの機能を達成する2つの主な方法がある(第3の機能は、別途以下でさらに論じられる)。
【0069】
1つの実施形態は、正の焦点距離(f>0)を有するコースティック層と、負の焦点距離(f<0)を有するレンズ要素とを組み合わせることにあり、光学要素10のレンズ3と、コースティック層2のレンズレットとの集合体によって網膜上に画像を作り出す光学方式を示す図9、及びさらに図11~12を参照されたい。本実施形態を説明するために上記トイモデルを用いて、遠距離又は無限遠に配置された源からの並行光ビーム11により、負レンズ要素3は、源の虚像12を作り出す。虚像12は、光学要素10と、レンズ3の焦点との間に配置される。虚像12から生じる光は、レンズレットアレイによって光照射野に分割され、接眼レンズ14は複数の輝点を網膜上に作り出し、これらは仮想源12の複数の画像13であり、各輝点はレンズレットアレイからのレンズに対応する。接眼レンズ14は、フーリエレンズとして働き、すべての並行なビームの焦点を網膜の1つの点に合わせる。網膜画像平面15の輝点の集合体は、ラスタ状のコースティック画像を形成する。
【0070】
或いは、正のコースティック面は、実像を投影するように見られることができ(レンズレットごとに1つの点)、これは負レンズによって、図12で17として示される、眼からの適切な距離において虚像に変換される。正のコースティック層を有する光学要素は、虹彩直径16によって制限される視野(FOV)直径を有することが留意されるべきである。この制限は以下の式において見られ得る:
=diris|f|/(|f|+R)、
=2|f|tan(θ/2)、及び
FOV=min(d,d)。
【0071】
ただしdirisは虹彩直径、Rはコースティック層と眼との間の距離、fはレンズ要素の焦点距離、及びθは考慮対象の眼のイメージング角度である。例えば、より低い分解能を有する網膜の部分、θ=20°も考慮しながら、眼の最高分解能部分(中心窩)θ=5°のみを考慮する(表1を参照)。
【0072】
Rがゼロに向かう傾向の限定的な場合において、dFOVは最も大きくなるが、眼の虹彩より大きくなることはない。さらに、眼からコースティック層まで常に、ある距離が存在するべきであるので、R=0mmという場合は不可能である。
【0073】
他の実施形態は、負の焦点距離(f<0)を有するコースティック層と、正の焦点距離(f>0)を有するレンズ要素とを組み合わせることにあり、光学要素10の正レンズ要素3’と組み合わされたコースティック層2’のレンズレットの集合体によって、網膜上に画像を作り出す(網膜画像平面15)光学方式を示す図10、並びにさらに図13及び図14を参照されたい。
【0074】
すでに述べられたように、負の焦点距離(f<0)を有するコースティック層は、光源と同じ側に虚のコースティック画像12を形成する能力を有する。コースティック層2の小さなレンズのそれぞれは、レンズ要素3の前に仮想源(源の虚像)を作り出す。これらの仮想源のセットは仮想対象物であり、これは次いで、続く正レンズ要素3によってイメージングされて、眼自体がそれの網膜15上に画像13の形でイメージングする、虚のコースティック画像17を形成する。正レンズの焦点距離は、コースティックレンズレットの焦点の絶対値以上の長さになるように選ばれるべきであることが留意されるべきである。これは眼に対する最小読み取り距離dより遠くに虚のコースティック画像17を作り出すことを可能にし、光の収束する円錐からの光線をイメージングするために眼に負担をかけることを防ぐ。従って、虚像を適切な距離dに形成することは、眼の対応をより容易にする。
【0075】
ここで、眼によって見られるコースティック層の部分、すなわち視野の直径(dFOV)は、眼のイメージング角度θ、及び眼の虹彩の直径dirisによって定義され、図13及び図14を参照されたい。この場合において、
FOV=min(d,d
ただし、
=2ftan(θ/2)
=diris/│1-R/f
一般に、距離Rをレンズの焦点距離fまで増加させることは、光学要素のより大きな部分を見ることを可能にする(正のコースティック層の場合とは逆に)。前の例のように、考慮対象の眼のイメージング角度θは、どれだけ正確にコースティック画像が見られるようになるかを決定する。中心窩角度限界を超える(5°を超える)と、コースティック画像は眼によって知覚されるが、分解能は減少する。
【0076】
虚像が眼からの快適な読み取り距離d(通常、少なくとも25cm)に形成されるという要件は、以下の式に置き換わる。
【数3】

ただし、
及びfは、それぞれレンズ要素及びコースティック層の焦点距離、
Rはコースティック層と眼との間の距離、及び
は、少なくとも25cmである、眼からの快適な読み取り距離である。
【0077】
上述の式は、無限遠における光源に対して漸近的に正確であることが留意されるべきである。源の有限の距離dsに対しては、正しい式は実際下記となる。
【数4】

実際には、dsは無限遠と考えられるほど十分に大きく(及び従って1/d≒0)、従って以下の議論では漸近式が用いられる。
【0078】
すでに指摘されたように、仮想源から生じるように見える光線のすべてが瞳孔に入り、網膜に到達することできず、なぜならそれらのいくらかは虹彩によって遮られるからである。それに対応して、目標画像の一部分のみが網膜に形成され、残りは切り取られる。最終的に画像のどの部分が見えるかは、図11図14に示されるように、幾何形状及びレンズパラメータに依存する。
【0079】
特に、負のコースティック層が正レンズ要素と組み合わされたときは、光線束の包絡面は瞳孔に向かって収束する。逆に、正のコースティック層が負レンズ要素と組み合わされたときは、光線束の包絡面は発散する。従って、画像のより大きな部分が見えるようにするために、正レンズ要素と組み合わされた負のコースティック層を扱うことが好ましい。
【0080】
より具体的には、視野の直径(dFOV)が、網膜に形成される画像に実際に寄与する、コースティック層の部分の直径として定義される場合、下記であることが直ちに分かる。
【0081】
正のコースティック層が負レンズ要素と組み合わされたとき、dFOVは瞳孔径dirisより小さくなることになり、なぜなら、dFOV=diris|f|/(|f|+R)であるからであり、
負のコースティック層が正レンズ要素と組み合わされたとき、dFOVは、正確な幾何形状及び最大の眼のイメージング角度θから定義される制約が緩和されるかどうかに応じて、dirisよりかなり大きくなり得る。
【0082】
負レンズ要素と組み合わされた正のコースティック層の場合は、画像は虹彩によって切り取られる。コースティック層の所与の焦点距離に対して、レンズ要素の焦点距離(絶対値|f|における)が長いほど、網膜に投影されるコースティック画像の部分は大きくなる。しかし、|f|は任意に大きくすることはできず、なぜなら、|f|>fに対して、それが式(E)を満たさなくなるので、眼の適応力はもはや、画像を網膜の焦点にもたらすのには十分でなくなる。また、|f|が増加しても、画像の知覚されるサイズは増加しない。言い換えれば、画像のより多くが見えるようになるのは、単に細部がより小さくなるからであり、画像フレームがより大きくなるからではない。
【0083】
図15及び図16は、観察者の眼から25mmに配置され、焦点距離f=-40mmの負レンズ要素に関連付けられた、焦点距離f=40mmの正のコースティック層を用いて組み立てられた光学セキュリティ要素の使用を示す。光学要素からの発散光は、図15に示されるように、直径diris=3mmの眼の虹彩によって切り取られる。全体のコースティック画像の小さな部分が見られる。制限された視野に関わらず、意図されるコースティック画像のずっと大きな部分を見るように、眼は画像を走査して、対象物の真正性を確実にすることができる。
【0084】
見られることになるコースティックパターンの部分を増加させる1つの方法は、透過される光を減少させ、眼にそれの虹彩を開かせることである。図16は、虹彩がdiris=5mmまで開いたときに、眼によって見られるコースティックパターンのより大きな部分を示す。右側に示される眼の網膜上の画像は、焦点距離f=40mmのコースティック層と焦点距離f=-30mmの負レンズ要素とを有する図5に示されるカメラによって捕捉される画像と同様である。
【0085】
生理学的に正常な状況のもとで、眼は瞳孔を閉じることによって光に対して応答し、結果として相反する状況を生じることが注目されるべきであり、一方で、人は明るい画像が網膜に形成されることを望み、同時に、瞳孔はできるだけ広く開かれたままとなるべきである。
【0086】
これらの考察から、正のコースティック層と負レンズ要素との組み合わせは、コースティック画像を網膜上に投影するために用いられ得るが、ユーザエクスペリエンスに関して最適ではないことが明らかである。
【0087】
正レンズ要素と組み合わされた負のコースティック層の場合は、切り取りの問題は、幾何形状及びパラメータの適切な選択によって解決され得る。この方式によって、光線束は瞳孔に向かって収束するので、所与の瞳孔径に対して、画像のより大きな割合が正常に見える。
【0088】
通常の条件において眼の虹彩が3~5mm開いていると考えられる場合、従って例えば、眼から25mmの距離に保持された、負の焦点距離-40mmを有するコースティック層、及び正レンズ40mmは、7.5mmより大きなコースティック要素の部分を見ることを可能にする。
【0089】
コースティック層のさらに大きな部分を見るために、図17及び図18に示されるように、眼からの距離を25mm~例えば40mmに増加させることが可能であり、好ましい。正レンズ要素と組み合わされた負のコースティック要素の一般の場合は、眼からの最適距離は、正レンズ要素の焦点距離にほぼ等しい。
【0090】
図17及び図18は、f=40mmの正レンズに隣り合う、f=-40mmの負のコースティック層を有し、3mmの固定の虹彩直径を有する眼4のモデルからそれぞれ25mm及び40mmの距離に配置された、光学セキュリティ要素によって作り出されるシミュレートされた(すなわち光線追跡された)画像を示す。図17において、図の左部分は、25mmの距離に観察者の眼4を有して、コースティック層スラブ及び負レンズ要素からなるセットアップを示し、図の右部分は、観察者の網膜に投影されたコースティック画像を示す。観察されるコースティック画像は完全ではなく、なぜなら3mmの直径の眼の虹彩は、負レンズレットにより構築され、正レンズに結合され、眼から25mmに保持されたレリーフパターンから方向変換されたいくらかの光線を切り取る。図18に示されるように、コースティック要素と眼との間のより長い距離は、コースティック画像の切り取りを低減する助けとなる。コースティック画像の切り取りを低減する別の方法は、コースティック要素の透過を低減することによって、画像の輝度を低減し、この結果として眼に、例えば5mm又はそれより大きな直径まで、それの虹彩を開かせることである。
【0091】
特定の場合において、コースティック層からの眼の距離が正レンズ要素の焦点距離に等しいとき、すべての光線束は一緒に収束し、乱されずに瞳孔を通過する。
【0092】
レンズ要素及びコースティック層の焦点距離の間の関係は、眼が光線束の焦点を網膜に合わせることができるように、依然として式(E)を満足しなければならない。
【0093】
ここまで、コースティック光学要素及びレンズによって行われる機能は、別々に述べられ、2つの異なる構成要素を用いてモデル化された。これは、(i)どのようにコースティック画像が形成されるか、及び(ii)どれが関連のあるパラメータであるかを理解し、及び説明するためには便利である。しかし、実際には、この意味での厳密な要件はなく、2つの機能は、単一の「実効的」構成要素に組み合わされ得る。
【0094】
コースティック層表面及びレンズ要素表面が単一の光学面に組み合わされる場合、組み合わされた表面は、コースティック面単独の計算のために用いられる数値的方法を適応させることによって直接計算され得る。しかし、ほとんどの場合、近軸の、薄い要素の近似が有効である。次いでこの新たな表面は、単に2つの個々の表面の代数和に対応するので便利である。言い換えれば、光学アセンブリの光軸線に沿ったz軸線を用いて、レンズ要素表面がz=g(x,y)によって、及びコースティック層表面がz=g(x,y)によって与えられる場合、結果としての等価な組み合わされた表面は、z=g(x,y)+g(x,y)によって与えられる。
【0095】
本発明によれば、コースティック層は、-30mm~-50mmまでの範囲の負の焦点距離f、例えばf=-40mmを有することができ、30mm~50mmまでの範囲の正の焦点距離f、例えばf=45mmを有するレンズ要素と組み合わされ、レンズ要素は平凸レンズとなる。
【0096】
図19図20は、f=-40mmのコースティック層とf=45mmのレンズ要素とを有する光学要素によって作り出される画像を示し、負の焦点距離を有するコースティック層が、正の焦点距離を有するレンズ要素の上に置かれる。
【0097】
この関連において、図19に示されるように、眼の虹彩直径diris=3mmに対して、25mmの眼-レリーフ距離で眼によって見られる視野は、全体の画像に対応せず、さらには円形でない。コースティックを25mmより大きな距離、例えば40mmに、離して移動させることで、視野(FOV)を開き、これは作り出される画像の品質を改善する。これは図20によって十分に示される。
【0098】
本発明によれば、光学セキュリティ要素は、消費者製品、有価文書、及び紙幣を含む群から選択された対象物に適用され、又はそれに組み込まれることができ、以て本発明によるマークが付けられた対象物を生み出す。
【0099】
前記対象物は、マークが付けられた対象物を視覚的に認証する方法を用いて、観察者によって容易に視覚的に認証されることができ、方法は、
光方向変換面からの距離dsにおける点状光源を用いて、光学セキュリティ要素の光方向変換面を照明するステップと、
快適な読み取り距離d(すなわち、眼の適応力に適合した)より大きい眼からの距離に形成されるコースティックパターンの虚像を、視覚的に観察するステップと、
投影されたコースティックパターンは基準パターンに視覚的に類似すると観察者により評価された場合、対象物は本物であると決定するステップと
を含む。
【0100】
言い換えれば、光学セキュリティ要素の(及び従って、このセキュリティ要素を用いてマークが付けられた対象物の)真正性は、投影されたコースティックパターンと基準パターンとの間の類似性の程度を視覚的にチェックすることによって直接評価され得る。
【0101】
本発明による光学セキュリティ要素は、消費者製品、有価文書、及び紙幣を含む群から選択された対象物を認証する、又は偽造に対して保護するために用いられ得る。このような使用は、上述されたように一般に、光学セキュリティ要素を用いて対象物にマークを付けること、及びマークが付けられた対象物を視覚的に認証することを含むが、それらに限定されない。
【0102】
従って、マークが付けられた対象物は、一般に利用可能な手段を用いて、「通りの人」によって認証され得る。適切な光源によって照明されるとすぐに、画像は観察者の網膜に直接投影され、それが適用された対象物の透明度を改変しない。さらには弱い光源(例えば表面上の反射、インジケータLEDなど)を用いても動作され得る。さらに、機能によって投影される画像は、著しい色収差をもたず、画像を形成するために用いられない残留迷光からの著しいアーチファクトに影響されない。
【0103】
上記で開示された主題は、例示的なものであって、限定するものではないと考えられるべきであり、独立請求項によって定義される本発明のより良い理解をもたらすために役立つものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9a)】
図9b)】
図9c)】
図10a)】
図10b)】
図10c)】
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20