(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】プライマー層形成用組成物、バリアフィルム、波長変換シート、及び、波長変換シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20231031BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231031BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
G02B5/20
B32B27/00 D
B32B27/40
(21)【出願番号】P 2019057915
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】市塲 宏輝
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/159787(WO,A1)
【文献】特開2017-159576(JP,A)
【文献】特開2019-044136(JP,A)
【文献】特開2014-052538(JP,A)
【文献】特開2016-175223(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104426(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
B32B 27/00
B32B 27/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学積層体の蛍光体層に隣接するプライマー層を形成するためのプライマー層形成用組成物であって、
反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂と、反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂と、ポリイソシアネート化合物と、波長400~700nmの可視光領域における最大吸収係数が100ml/(g・cm)以上である光重合開始剤と、を含有し、
前記反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂が、分子内に反応性炭素-炭素二重結合を有する重合体であ
り、
プライマー層形成用組成物に含まれる樹脂成分全体の(メタ)アクリル当量が200~1000g/eqであり、
プライマー層形成用組成物に含まれる樹脂成分全体の水酸基価が100~300mgKOH/gである、プライマー層形成用組成物。
【請求項2】
前記光重合開始剤の含有量が、プライマー層形成用組成物の固形分全量を基準として0.1~5質量%である、請求項1に記載のプライマー層形成用組成物。
【請求項3】
NCO/OH比が0.1~0.6である、請求項1又は2に記載のプライマー層形成用組成物。
【請求項4】
プライマー層形成用組成物に含まれる樹脂成分全体の(メタ)アクリル当量が270~800g/eqである、請求項1~3のいずれか一項に記載のプライマー層形成用組成物。
【請求項5】
プライマー層形成用組成物に含まれる樹脂成分全体の水酸基価が150~230mgKOH/gである、請求項1~4のいずれか一項に記載のプライマー層形成用組成物。
【請求項6】
ガスバリア性フィルムと、
バリアフィルムの一方の最表面に配置された、請求項1~5のいずれか一項に記載のプライマー層形成用組成物を用いて形成される硬化物からなるプライマー層と、
を備えるバリアフィルム。
【請求項7】
蛍光体及び硬化性樹脂の硬化物を含む蛍光体層と、前記蛍光体層の一方の面上に積層された第1のバリアフィルムと、前記蛍光体層の他方の面上に積層された第2のバリアフィルムと、を備え、
前記第1のバリアフィルムが、前記蛍光体層側の最表面に前記プライマー層を備える請求項6に記載のバリアフィルムである、波長変換シート。
【請求項8】
第1のバリアフィルムと、蛍光体及び硬化性樹脂を含む蛍光体層形成用組成物の塗膜と、第2のバリアフィルムと、を含む積層体を形成する工程と、
前記積層体の前記第2のバリアフィルム側から紫外線及び波長400~700nmの可視光を含む光を照射することで、前記塗膜中の前記硬化性樹脂を硬化させて蛍光体層を形成する工程と、を有し、
前記第1のバリアフィルムが、前記塗膜側の最表面に前記プライマー層を備える請求項6に記載のバリアフィルムである、波長変換シートの製造方法。
【請求項9】
前記塗膜の波長400~700nmにおける可視光透過率の最小値が30%以上である、請求項8に記載の波長変換シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマー層形成用組成物、バリアフィルム、波長変換シート、及び、波長変換シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドット等の蛍光体を用いた波長変換シートは、輝度及び色再現性が高く、ディスプレイへの採用が望まれている。しかし、量子ドット等の蛍光体は酸素又は水蒸気との接触によって劣化する。そのため、波長変換シートではしばしば、高分子フィルムにガスバリア層を形成したバリアフィルムが、蛍光体を含む蛍光体層の片側又は両側の面上に配置された構造を採用している。
【0003】
例えば、特許文献1では、アクリル樹脂及びエポキシ樹脂に量子ドットを分散させた蛍光体層の両面にバリアフィルムを貼り合わせることで、蛍光体層への酸素等の浸入を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたような無機材料である量子ドットを分散させた蛍光体層は、バリアフィルムとの密着性が悪く、蛍光体層とバリアフィルムとの間に剥がれを生じる恐れがあった。また、特許文献1に記載のような量子ドットフィルムに限らず、蛍光体層とバリアフィルムとを積層した構造を有する光学積層体において、バリアフィルムの剥がれは、性能低下に多大な影響を及ぼすため、バリアフィルムと蛍光体層との密着性の向上が求められている。更に、光学積層体が高温高湿環境下に長時間置かれた場合、蛍光体層とバリアフィルムとの間の剥がれが更に生じやすくなり、この剥がれに起因してシート端部から水分や酸素が侵入し、蛍光体層の発光特性が劣化しやすいという問題がある。そのため、光学積層体には、高温高湿環境下に長時間置かれた場合でも蛍光体層とバリアフィルムとの優れた密着性を維持できることが求められている。
【0006】
また、光学積層体を製造する際に、紫外線照射により蛍光体層を硬化させることがある。そこで、本発明者は、蛍光体層を挟む一対のバリアフィルムの蛍光体層と接する面にそれぞれプライマー層を設け、上記紫外線照射時にプライマー層中の成分と蛍光体層中の成分とを反応させてバリアフィルムと蛍光体層との密着性を向上させる方法を検討した。しかしながら、紫外線照射は一方のバリアフィルム側からのみ行われるため、蛍光体層を挟んで反対側のバリアフィルムではプライマー層中の成分と蛍光体層中の成分との反応が十分に進行せず、密着性の向上効果が十分に得られない場合があることを本発明者は見出した。これは、紫外線が蛍光体層に吸収され、蛍光体層を挟んで反対側のバリアフィルムにまで到達しないためであると考えられる。光学積層体に対して両面露光を行えば両面のバリアフィルムの密着性を向上させることが可能であるが、設備改造が必要である等の制約が大きいため、片面露光で対応できることが求められている。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、蛍光体層に対する優れた密着性が得られると共に、高温高湿環境下に長時間置かれた場合でも優れた密着性を維持することができ、更に、片面露光により蛍光体層を硬化させる際に、当該蛍光体層の露光する側と反対側に配置されても優れた密着性を得ることができるプライマー層を形成可能なプライマー層形成用組成物、それを用いて形成されたプライマー層を備えるバリアフィルム、当該バリアフィルムを備える波長変換シート、及び、波長変換シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、光学積層体の蛍光体層に隣接するプライマー層を形成するためのプライマー層形成用組成物であって、反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂と、反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂と、ポリイソシアネート化合物と、波長400~700nmの可視光領域における最大吸収係数が100ml/(g・cm)以上である光重合開始剤と、を含有する、プライマー層形成用組成物を提供する。
【0009】
上記プライマー層形成用組成物によれば、上記特定の構造を有する二種類の樹脂と、ポリイソシアネート化合物と、波長400~700nmの可視光領域における最大吸収係数が100ml/(g・cm)以上である光重合開始剤とを含有することにより、蛍光体層に対する優れた密着性が得られると共に、高温高湿環境下に長時間置かれた場合でも優れた密着性を維持することができ、更に、片面露光により蛍光体層を硬化させる際に、当該蛍光体層の露光する側と反対側に配置されても優れた密着性を得ることができるプライマー層を形成することができる。上記効果が奏されるのは、以下の理由によるものと考えている。すなわち、上記特定の構造を有する二種類の樹脂と、ポリイソシアネート化合物とを含有することで、プライマー層中に緻密な架橋構造が形成され、プライマー層と蛍光体層との間の優れた密着性が得られると共に、高温高湿環境下に長時間置かれた場合であっても架橋構造が維持され、優れた密着性が維持される。また、上記特定の光重合開始剤は、可視光に対して十分な感度を有するため、片面露光により蛍光体層を硬化させる際に、当該蛍光体層の露光する側と反対側に配置されても、蛍光体層に対して優れた密着性を得ることができるプライマー層を形成することができる。これは、蛍光体層は紫外線を吸収するものの可視光を透過しやすいため、露光する側と反対側に配置されたプライマー層まで可視光が到達し、可視光に感度を有する光重合開始剤の作用によりプライマー層中の反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂等の成分と蛍光体層中の紫外線(UV)硬化型樹脂等の成分との反応が進行し、それらの層間の密着性が向上するためである。
【0010】
上述した作用により、上記プライマー層形成用組成物を用いてプライマー層を形成することで、高温高湿環境下に長時間置かれた場合でも、蛍光体層とバリアフィルムとの間の剥がれが生じ難く、シート端部から水分や酸素が侵入して蛍光体層の発光特性が劣化することを防ぐことができる。更に、プライマー層中に緻密な架橋構造が形成されることで、プライマー層自体を通してシート端部から水分や酸素が侵入することを抑制することができ、蛍光体層の発光特性の劣化を防ぐことができる。加えて、プライマー層形成用組成物が、反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂を含むことにより、プライマー層中に水酸基が含まれ、この水酸基の存在により、特に蛍光体層がエポキシ樹脂やポリイソシアネートを含む樹脂を用いて形成されている場合において、プライマー層と蛍光体層との密着性がより向上する。
【0011】
上記プライマー層形成用組成物において、上記光重合開始剤の含有量は、プライマー層形成用組成物の固形分全量を基準として0.1~5質量%であることが好ましい。光重合開始剤の含有量が上記範囲内であることで、形成されるプライマー層は、蛍光体層に対するより優れた密着性が得られると共に、高温高湿環境下に長時間置かれた場合でもより優れた密着性を維持することができ、更に、片面露光により蛍光体層を硬化させる際に、当該蛍光体層の露光する側と反対側に配置されてもより優れた密着性を得ることができる。
【0012】
上記プライマー層形成用組成物のNCO/OH比は、0.1~0.6であることが好ましい。NCO/OH比が0.1以上であることで、得られるプライマー層中に十分な架橋構造が形成され、高温高湿環境下に長時間置かれた場合の蛍光体層とプライマー層との密着性の低下がより十分に抑制される。一方、NCO/OH比が0.6以下であることで、プライマー層中に水酸基が十分に残存し、特に蛍光体層がエポキシ樹脂やポリイソシアネートを含む樹脂を用いて形成されている場合において、プライマー層と蛍光体層との密着性がより向上する。
【0013】
上記プライマー層形成用組成物に含まれる樹脂成分全体の(メタ)アクリル当量は、270~800g/eqであることが好ましい。反応性炭素-炭素二重結合はUV硬化する蛍光体層に対して、UV硬化時に蛍光体層の硬化系に取り込まれることにより強固な密着を示すが、一方で反応性炭素-炭素二重結合成分が多いとプライマー層の濡れ性が低下する傾向がある。そのため、反応性炭素-炭素二重結合の存在量には最適な範囲があると考えられる。また、この反応性炭素-炭素二重結合は、(メタ)アクリロイル基に由来する炭素-炭素二重結合であることが好ましい。そして、ポリイソシアネート化合物を除いた樹脂成分全体の(メタ)アクリル当量が上記範囲内であることで、プライマー層と蛍光体層との間の特に良好な密着性が得られる。上記(メタ)アクリル当量が800g/eq以下であることで、反応性炭素-炭素二重結合が十分に存在し、特にUV硬化型樹脂を用いた蛍光体層とプライマー層との優れた密着性が得られる。一方、(メタ)アクリル当量が270g/eq以上であることで、プライマー層の濡れ性が向上し、蛍光体層との優れた密着性が得られる。
【0014】
上記プライマー層形成用組成物に含まれる樹脂成分全体の水酸基価は、150~230mgKOH/gであることが好ましい。水酸基価が上記範囲内であることで、プライマー層と蛍光体層との間の特に良好な密着性が得られる。上記水酸基価が150mgKOH/g以上であると、プライマー層形成時にポリイソシアネート化合物による架橋が十分に行われ、高温高湿環境下に長時間置かれた場合であっても架橋構造が維持され、蛍光体層とプライマー層との優れた密着性がより十分に維持される。一方、上記水酸基価が230mgKOH/g以下であると、プライマー層中に水酸基が過剰に残存して水蒸気が透過しやすくなることを防ぐことができ、高温高湿環境下に長時間置かれた場合の蛍光体層の発光特性の劣化を防ぐことができる。
【0015】
本発明はまた、ガスバリア性フィルムと、一方の最表面に配置された、上記本発明のプライマー層形成用組成物を用いて形成される硬化物からなるプライマー層と、を備えるバリアフィルムを提供する。上記バリアフィルムによれば、上記プライマー層を備えることで、当該プライマー層を介して蛍光体層に対して優れた密着性が得られると共に、高温高湿環境下に長時間置かれた場合でも優れた密着性を維持することができ、更に、片面露光により蛍光体層を硬化させる際に、当該蛍光体層の露光する側と反対側に配置されても優れた密着性を得ることができる。
【0016】
本発明はまた、蛍光体及び硬化性樹脂の硬化物を含む蛍光体層と、上記蛍光体層の一方の面上に積層された第1のバリアフィルムと、上記蛍光体層の他方の面上に積層された第2のバリアフィルムと、を備え、上記第1のバリアフィルムが、上記蛍光体層側の最表面に上記プライマー層を備える上記本発明のバリアフィルムである、波長変換シートを提供する。上記波長変換シートによれば、第1のバリアフィルムと蛍光体層とがプライマー層を介して積層されていることで、第1のバリアフィルムと蛍光体層との優れた密着性が得られると共に、高温高湿環境下に長時間置かれた場合でも優れた密着性を維持することができ、更に、片面露光により蛍光体層を硬化させる際に第2のバリアフィルム側から露光しても、第1のバリアフィルムと蛍光体層との優れた密着性を得ることができる。
【0017】
本発明は更に、第1のバリアフィルムと、蛍光体及び硬化性樹脂を含む蛍光体層形成用組成物の塗膜と、第2のバリアフィルムと、を含む積層体を形成する工程と、上記積層体の上記第2のバリアフィルム側から紫外線及び波長400~700nmの可視光を含む光を照射することで、上記塗膜中の上記硬化性樹脂を硬化させて蛍光体層を形成する工程と、を有し、上記第1のバリアフィルムが、上記塗膜側の最表面に上記プライマー層を備える上記本発明のバリアフィルムである、波長変換シートの製造方法を提供する。上記方法により得られた波長変換シートは、第1のバリアフィルムと蛍光体層とがプライマー層を介して積層されていることで、第1のバリアフィルムと蛍光体層との優れた密着性を得ることができ、且つ、高温高湿環境下に長時間置かれた場合でも優れた密着性を維持することができる。
【0018】
上記製造方法において、上記塗膜の波長400~700nmにおける可視光透過率の最小値が30%以上であることが好ましい。これにより、第1のバリアフィルムと蛍光体層との優れた密着性を得ることができ、且つ、高温高湿環境下に長時間置かれた場合でも優れた密着性を維持することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、蛍光体層に対する優れた密着性が得られると共に、高温高湿環境下に長時間置かれた場合でも優れた密着性を維持することができ、更に、片面露光により蛍光体層を硬化させる際に、当該蛍光体層の露光する側と反対側に配置されても優れた密着性を得ることができるプライマー層を形成可能なプライマー層形成用組成物、それを用いて形成されたプライマー層を備えるバリアフィルム、当該バリアフィルムを備える波長変換シート、及び、波長変換シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のバリアフィルムの一実施形態を示す模式断面図である。
【
図2】本発明のバリアフィルムの一実施形態を示す模式断面図である。
【
図3】本発明のバリアフィルムの一実施形態を示す模式断面図である。
【
図4】本発明のバリアフィルムの一実施形態を示す模式断面図である。
【
図5】本発明の波長変換シートの一実施形態を示す模式断面図である。
【
図6】実施例及び比較例において積層体の露光に用いた光のスペクトルを示すグラフである。
【
図7】実施例及び比較例における塗膜の光透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、場合により図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0022】
[プライマー層形成用組成物]
本発明のプライマー層形成用組成物は、光学積層体の蛍光体層に隣接するプライマー層を形成するためのプライマー層形成用組成物であって、反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂と、反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂と、ポリイソシアネート化合物と、波長400~700nmの可視光領域における最大吸収係数が100ml/(g・cm)以上である光重合開始剤と、を含有するものである。以下、各成分について詳細に説明する。
【0023】
(反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂)
反応性炭素-炭素二重結合とは、ラジカル重合又はカチオン重合可能な炭素-炭素二重結合を指す。反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂は、反応性炭素-炭素二重結合を有する基を含む樹脂であることができる。反応性炭素-炭素二重結合を有する基は、エチレン性不飽和二重結合を有する基であることが好ましく、例えば、スチリル基又は(メタ)アクリロイル基等であることがより好ましく、(メタ)アクリロイル基であることが更に好ましく、アクリロイル基であることが特に好ましい。反応性炭素-炭素二重結合を有する基がアクリロイル基であることにより、プライマー層内での反応性及び蛍光体層との反応性が向上し、より優れた密着性が得られる傾向がある。
【0024】
反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂としては、分子内に反応性炭素-炭素二重結合を有する重合体等が挙げられる。上記重合体としては、例えば、1種又は2種以上の重合性単量体を重合してなる重合体の側鎖に反応性炭素-炭素二重結合を導入した重合体等が挙げられるが、これに限定されるものではない。反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂の重量平均分子量は、300~100,000であることが好ましく、500~50,000であることがより好ましく、1,000~30,000であることが特に好ましい。重量平均分子量が300以上であると、成膜性が良好となる傾向があり、100,000以下であると、塗工適性が良好となる傾向がある。なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、標準ポリスチレンを用いた検量線により換算することで求めたものである。
【0026】
反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂の(メタ)アクリル基当量は、214~360g/eqであることが好ましく、214~290g/eqであることがより好ましい。反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂の(メタ)アクリル基当量が上記範囲内であることで、樹脂成分全体の(メタ)アクリル基当量を後述する好ましい範囲内に調整しやすく、蛍光体層とプライマー層との優れた密着性が得られやすい。
【0027】
反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂は、水酸基を有していてもよい。水酸基は、1級水酸基又は2級水酸基であってもよい。反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂が水酸基を有する場合、その水酸基価は、100~300mgKOH/gであることが好ましく、130~270mgKOH/gであることがより好ましい。反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂の水酸基価が上記範囲内であることで、樹脂成分全体の水酸基価を後述する好ましい範囲内に調整しやすく、高温高湿環境下に長時間置かれた場合であっても、蛍光体層とプライマー層との優れた密着性が維持されやすく、且つ、蛍光体層の発光特性の劣化を防ぎやすい。
【0028】
(反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂)
反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂としては、分子内に反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する重合体等が挙げられる。上記重合体としては、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールトリアクリレート等の(メタ)アクリロイル基及び1級水酸基を含む単量体を単量体成分として用いた重合体等が挙げられるが、これに限定されるものではない。反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂の重量平均分子量は、300~100,000であることが好ましく、500~50,000であることがより好ましく、1,000~30,000であることが特に好ましい。重量平均分子量が300以上であると、成膜性が良好となる傾向があり、100,000以下であると、塗工適性が良好となる傾向がある。
【0030】
反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂の水酸基価は、10~150mgKOH/gであることが好ましく、30~100mgKOH/gであることがより好ましい。反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂の水酸基価が上記範囲内であることで、樹脂成分全体の水酸基価を後述する好ましい範囲内に調整しやすく、高温高湿環境下に長時間置かれた場合であっても、蛍光体層とプライマー層との優れた密着性が維持されやすく、且つ、蛍光体層の発光特性の劣化を防ぎやすい。
【0031】
プライマー層形成用組成物において、反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂と、反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂との含有量の質量比(反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂の含有量/反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂の含有量)は、0.05~8.0であることが好ましく、0.1~7.0であることがより好ましく、0.3~6.0であることが更に好ましい。この質量比が0.05以上であると、特にUV硬化型樹脂を用いた蛍光体層とプライマー層間の密着性が良好となる傾向があり、8.0以下であると、成膜性が良好となる傾向がある。
【0032】
プライマー層形成用組成物において、樹脂成分全体の(メタ)アクリル当量は200~1000g/eqであることが好ましく、250~900g/eqであることがより好ましく、270~800g/eqであることが更に好ましく、280~500g/eqであることが特に好ましい。上記(メタ)アクリル当量が1000g/eq以下であることで、樹脂成分中に反応性炭素-炭素二重結合が十分に存在し、特にUV硬化型樹脂を用いた蛍光体層とプライマー層との優れた密着性が得られる。一方、(メタ)アクリル当量が270g/eq以上であることで、プライマー層の濡れ性が向上し、蛍光体層との優れた密着性が得られる。なお、本明細書において、樹脂成分とは、プライマー層形成用組成物に含まれる樹脂全体を意味し、少なくとも反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂及び反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂を含む成分である。ポリイソシアネート化合物、光重合開始剤及び後述する添加剤等の樹脂以外の成分は、樹脂成分には含まれない。また、本明細書において、樹脂成分全体の(メタ)アクリル当量は、例えば、反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂の(メタ)アクリル当量と、樹脂成分全体の含有量に占める反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂の割合から計算により求めることができる。または、樹脂成分全体の(メタ)アクリル当量は、赤外分光法やラマン分光法により、濃度既知の物質の検量線との比較から求めることもできる。
【0033】
プライマー層形成用組成物において、樹脂成分全体の水酸基価は、100~300mgKOH/gであることが好ましく、120~250mgKOH/gであることがより好ましく、150~230mgKOH/gであることが更に好ましく、170~220mgKOH/gであることが特に好ましい。上記水酸基価が100mgKOH/g以上であると、プライマー層形成時にポリイソシアネート化合物による架橋が十分に行われ、高温高湿環境下に長時間置かれた場合であっても架橋構造が維持され、蛍光体層とプライマー層との優れた密着性がより十分に維持される。一方、上記水酸基価が300mgKOH/g以下であると、プライマー層中に水酸基が過剰に残存して水蒸気が透過しやすくなることを防ぐことができ、高温高湿環境下に長時間置かれた場合の蛍光体層の発光特性の劣化を防ぐことができる。なお、本明細書において、樹脂成分全体の水酸基価は、例えば、反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂の水酸基価と、反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂の水酸基価と、それらの樹脂の樹脂成分全体の含有量に占める割合とから計算により求めることができる。または、樹脂成分全体の水酸基価は、赤外分光法やラマン分光法により、濃度既知の物質の検量線との比較から求めることもできる。
【0034】
(ポリイソシアネート化合物)
ポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びキシリレンジイソシアネート、並びに、それらを原材料として用いたもの等が挙げられる。ポリイソシアネート化合物は、上述したポリイソシアネート化合物同士を反応させて得られるプレポリマー、又は、上述したポリイソシアネート化合物とアルコールとを反応させて得られるプレポリマーであってもよい。ポリイソシアネート化合物は、イソシアヌレート型、ビューレット型、アダクト型、及び、2官能型(2種類のポリイソシアネート化合物を混ぜたもの)等のポリイソシアネート化合物であってもよい。これらの中でも、密着性の観点から、イソシアヌレート型及びビューレット型ポリイソシアネート化合物が好ましい。ポリイソシアネート化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
プライマー層形成用組成物におけるポリイソシアネート化合物の含有量は、プライマー層形成用組成物中のNCO/OH比(モル比)が0.05~1.0となる量であることが好ましく、0.1~0.6となる量であることがより好ましく、0.15~0.55となる量であることが更に好ましく、0.2~0.5となる量であることが特に好ましい。NCO/OH比が0.05以上であることで、得られるプライマー層中に十分な架橋構造が形成され、高温高湿環境下に長時間置かれた場合の蛍光体層とバリアフィルムとの密着性の低下がより十分に抑制される。一方、NCO/OH比が1.0以下であることで、プライマー層中に水酸基が十分に残存し、特に蛍光体層がエポキシ樹脂やポリイソシアネートを含む樹脂を用いて形成されている場合において、プライマー層と蛍光体層との密着性がより向上する。なお、本明細書において、プライマー層形成用組成物のNCO/OH比は、赤外分光法やラマン分光法により、濃度既知の物質の検量線との比較から求めることができる。
【0036】
(光重合開始剤)
光重合開始剤は、波長400~700nmの可視光領域における最大吸収係数が100ml/(g・cm)以上であるものである。上記最大吸収係数は、150ml/(g・cm)以上であってもよい。上記最大吸収係数が100ml/(g・cm)以上であることで、光重合開始剤は可視光に対して十分な感度を有することとなり、得られるプライマー層は、片面露光により蛍光体層を硬化させる際に、当該蛍光体層の露光する側と反対側に配置されても、可視光が蛍光体層を透過してプライマー層に到達するため、蛍光体層に対して優れた密着性を得ることができる。
【0037】
光重合開始剤の吸収係数は、一般的な方法で測定することができる。例えば、吸収係数は、JIS K0115:1992に準拠して測定及び算出することができる。
【0038】
光重合開始剤は、波長405nmにおける吸収係数が100ml/(g・cm)以上であってもよく、150ml/(g・cm)以上であってもよい。上記吸収係数が100ml/(g・cm)以上であることで、得られるプライマー層は、片面露光により蛍光体層を硬化させる際に、当該蛍光体層の露光する側と反対側に配置されても、波長405nm付近の可視光が蛍光体層を透過してプライマー層に到達するため、蛍光体層に対して優れた密着性を得ることができる。
【0039】
光重合開始剤としては、例えば、アシルホスフィンオキシド類、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、ケタール類、及びアントラキノン類等が挙げられる。これらの中から、上記可視光領域における最大吸収係数が100ml/(g・cm)以上であるものを選択して用いることができる。光重合開始剤は、紫外線にも感度を有するものであってよい。これらの中でも、本発明の効果をより十分に得る観点から、アシルホスフィンオキシド類を用いることが好ましい。
【0040】
プライマー層形成用組成物における光重合開始剤の含有量は、プライマー層形成用組成物の固形分(不揮発分)全量を基準として0.1~5質量%であることが好ましく、0.5~4質量%であることがより好ましく、1~3質量%であることが更に好ましい。含有量が上記下限値以上であると、光重合開始剤による光重合反応の促進作用が十分に得られ、形成されるプライマー層は、蛍光体層に対するより優れた密着性が得られると共に、高温高湿環境下に長時間置かれた場合でもより優れた密着性を維持することができ、更に、片面露光により蛍光体層を硬化させる際に、当該蛍光体層の露光する側と反対側に配置されてもより優れた密着性を得ることができる。一方、含有量が上記上限値以下であると、樹脂成分の量が相対的に減少することを抑制でき、プライマー層が脆くなって密着力が低下することを防ぐことができる。
【0041】
(その他の成分)
プライマー層形成用組成物は、上述した反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂、反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂、ポリイソシアネート化合物、及び、光重合開始剤以外の他の成分(添加剤)を含んでいてもよい。添加剤としては、スリップ剤、界面活性剤、溶剤、消泡剤、帯電防止剤等が挙げられる。溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、及びブタノール等を使用することができる。また、プライマー層形成用組成物は、波長400~700nmの可視光領域における最大吸収係数が100ml/(g・cm)未満であり、且つ紫外線に対して感度を有する光重合開始剤を含有していてもよい。
【0042】
プライマー層形成用組成物には、プライマー層の熱硬化を促進させるため、ウレタン化を促進させる熱硬化触媒を添加してもよい。熱硬化触媒としては、スズ系、ジルコニウム系、チタン系等の触媒を用いることができる。
【0043】
[バリアフィルム]
本発明のバリアフィルムは、ガスバリア性フィルムと、バリアフィルムの一方の最表面に配置された、上記プライマー層形成用組成物を用いて形成される硬化物からなるプライマー層と、を備える。以下、図面を用いつつ本発明のバリアフィルムの好適な実施形態について説明する。
【0044】
図1~
図4は、本発明のバリアフィルムの一実施形態を示す模式断面図である。
図1に示すバリアフィルム100は、ガスバリア性フィルムである第1のフィルム1と、第2のフィルム2と、接着層4と、プライマー層5と、マット層6とを備える。ここで、第1のフィルム1は、第1の基材11と、アンカーコート層12と、無機薄膜層13及びガスバリア性被覆層14からなるバリア層15とを備えている。第2のフィルム2は、第2の基材21のみで構成されている。第1のフィルム1と第2のフィルム2とは、ガスバリア性被覆層14と第2の基材21とが対向するように接着層4を介して貼り合わせられている。バリアフィルム100において、プライマー層5は、第1のフィルム1の第1の基材11側の表面上に、第1の基材11と接した状態で配置されており、マット層6は、第2のフィルム2を構成する第2の基材21の接着層4とは反対側の表面上に、第2の基材21と接した状態で配置されている。
図1に示した構造のバリアフィルム100は、第2のフィルム2を備えることで、ガスバリア性及び機械強度を向上させつつ、第2のフィルム2を第2の基材21のみで構成しているため、後述する
図1及び
図2のバリアフィルムと比べて、製造工程の簡略化、コスト低減及び薄型化を図ることができる。
【0045】
図2に示すバリアフィルム200は、ガスバリア性フィルムである第1のフィルム1と、プライマー層5と、マット層6とを備える。ここで、第1のフィルム1は、第1の基材11と、アンカーコート層12と、無機薄膜層13及びガスバリア性被覆層14からなるバリア層15とを備えている。バリアフィルム200において、プライマー層5は、第1のフィルム1のガスバリア性被覆層14側の表面上に、第1の基材11と接した状態で配置されており、マット層6は、第2のフィルム2を構成する第2の基材21の接着層4とは反対側の表面上に、第2の基材21と接した状態で配置されている。
図2に示した構造のバリアフィルム200は、第2のフィルム2及び接着層4を備えないため、製造工程の簡略化、コスト低減及び薄型化を図ることができる。
【0046】
図3に示すバリアフィルム300は、ガスバリア性フィルムである第1のフィルム1と、ガスバリア性フィルムである第2のフィルム2と、接着層4と、プライマー層5と、マット層6とを備える。ここで、第1のフィルム1は、第1の基材11と、アンカーコート層12と、無機薄膜層13及びガスバリア性被覆層14からなるバリア層15とを備えている。第2のフィルム2は、第2の基材21と、アンカーコート層22と、無機薄膜層23及びガスバリア性被覆層24からなるバリア層25とを備えている。第1のフィルム1と第2のフィルム2とは、ガスバリア性被覆層14とガスバリア性被覆層24とが対向するように接着層4を介して貼り合わせられている。バリアフィルム300において、プライマー層5は、第1のフィルム1の第1の基材11側の表面上に、第1の基材11と接した状態で配置されており、マット層6は、第2のフィルム2の第2の基材21側の表面上に、第2の基材21と接した状態で配置されている。
図3に示した構造のバリアフィルム300は、第1及び第2のフィルム1,2の2枚のガスバリア性フィルムを貼り合わせているため、水分や酸素の透過をより十分に抑制することができる。また、バリア層15,25が第1及び第2の基材11,21よりも内側に配置されることで、バリア層15,25が保護され、バリア層15,25の損傷が抑制される。
【0047】
図4に示すバリアフィルム400は、ガスバリア性フィルムである第1のフィルム1と、ガスバリア性フィルムである第2のフィルム2と、接着層4と、プライマー層5と、マット層6とを備える。ここで、第1のフィルム1は、第1の基材11と、アンカーコート層12と、無機薄膜層13及びガスバリア性被覆層14からなるバリア層15とを備えている。第2のフィルム2は、第2の基材21と、アンカーコート層22と、無機薄膜層23及びガスバリア性被覆層24からなるバリア層25とを備えている。第1のフィルム1と第2のフィルム2とは、第1の基材11とガスバリア性被覆層24とが対向するように接着層4を介して貼り合わせられている。バリアフィルム400において、プライマー層5は、第1のフィルム1のガスバリア性被覆層14側の表面上に、ガスバリア性被覆層14と接した状態で配置されており、マット層6は、第2のフィルム2の第2の基材21側の表面上に、第2の基材21と接した状態で配置されている。
図4に示した構造のバリアフィルム400は、第1及び第2のフィルム1,2の2枚のガスバリア性フィルムを貼り合わせているため、水分や酸素の透過をより十分に抑制することができる。また、バリア層15がプライマー層5側、すなわち蛍光体層により近い位置に配置されることで、蛍光体層への水分や酸素の侵入をより十分に抑制することができる。
【0048】
上述した構成を有するバリアフィルム100,200,300,400は、良好なガスバリア性を有すると共に、プライマー層5を介して蛍光体層と貼り合わせることで、優れた密着性を得ることができる。また、プライマー層5は、上述したプライマー層形成用組成物を用いて形成されており、第1の基材11及びガスバリア性被覆層14のいずれに対しても極めて良好な密着性を示し、バリアフィルム内で剥離が生じることも十分に抑制される。そのため、上述した構成を有するバリアフィルムは、バリアフィルムと蛍光体層との界面から酸素や水蒸気が侵入することを抑制することができ、蛍光体層の劣化を抑制することができる。
【0049】
以下、バリアフィルムを構成する各層について詳細に説明する。
【0050】
(基材)
第1及び第2の基材11,21は、高分子フィルムであることが望ましい。高分子フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン等のポリアミド;ポリプロピレン及びシクロオレフィン等のポリオレフィン;ポリカーボネート;並びにトリアセチルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。高分子フィルムはポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム又はポリオレフィンフィルムであることが好ましく、ポリエステルフィルム又はポリアミドフィルムであることがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムであることが更に好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、透明性、加工適正及び密着性の観点から望ましい。また、ポリエチレンテレフタレートフィルムは、透明性及びガスバリア性の観点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであることが好ましい。
【0051】
高分子フィルムは、必要に応じて、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤及び滑り剤等の添加剤を含んでいてもよい。また、高分子フィルムの表面は、コロナ処理、フレーム処理及びプラズマ処理が施されていてもよい。
【0052】
バリアフィルムにおいて、第1の基材11とプライマー層5とが接している場合、第1の基材11は、表面に水酸基等の極性基を有していることが好ましい。第1の基材11が表面に水酸基等の極性基を有することで、当該水酸基等の極性基とプライマー層5中の官能基との分子間力により密着性がより向上する。上述した高分子フィルムうち、通常、表面に水酸基を有するものとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、セルローストリアセテートフィルム等が挙げられる。また、コロナ処理、フレーム処理及びプラズマ処理の表面処理を施すことで、プライマー層5との密着性をより向上させることができる。
【0053】
第1及び第2の基材11,21の厚さは、特に制限されないが、3μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上50μm以下であることがより好ましい。この厚さが3μm以上であると加工が容易であり、100μm以下であるとバリアフィルムの総厚を薄くすることができる。
【0054】
(アンカーコート層)
アンカーコート層12,22は、第1及び第2の基材11,21と無機薄膜層13,23との間の密着性を向上させるために、それらの間に設けられるものである。また、アンカーコート層12,22は、水分や酸素の透過を防止するバリア性を有していてもよい。
【0055】
アンカーコート層12,22は、例えば、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコーン樹脂又はアルキルチタネート等から選択された樹脂を用いて形成することができる。アンカーコート層は、上述した樹脂を単独で用いて、又は上述した樹脂を2種類以上組み合わせた複合樹脂を用いて、形成することができる。
【0056】
アンカーコート層12,22は、上述した樹脂を含む溶液を第1及び第2の基材11,21上に塗布し、乾燥硬化させることで形成することができる。塗布方法としては、グラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、及びダイコーター等による塗布方法が挙げられる。
【0057】
アンカーコート層12,22の厚さは、5~500nmの範囲内とすることが好ましく、10~100nmの範囲内とすることがより好ましい。ここで、厚さが5nm以上であると、第1及び第2の基材11,21と無機薄膜層13,23との間の密着性及び水分や酸素に対するバリア性が向上する傾向があり、500nm以下であると、内部応力が十分抑制された均一な層を形成することができる傾向がある。
【0058】
(バリア層)
バリア層15,25は、水蒸気透過度及び酸素透過度を更に向上させるために設けられる層である。バリア層15,25は、光学的な観点から、透明性が高いことが望ましい。バリア層15,25は単層であっても多層であってもよいが、
図1~
図4に示したように、無機薄膜層13,23及びガスバリア性被覆層14,24を有することが望ましい。
【0059】
バリア層15,25は、大気中で成膜されたものでも真空中で成膜されたものでもよい。真空成膜としては、物理気相成長法及び化学気相成長法等が挙げられる。物理気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法及びイオンプレーティング法等が挙げられる。化学気相成長(CVD)法としては、熱CVD法、プラズマCVD(PECVD)法及び光CVD法等が挙げられる。成膜方法は、無機薄膜層13,23とガスバリア性被覆層14,24とで異なっていてもよい。
【0060】
(無機薄膜層)
無機薄膜層13,23の形成方法は真空蒸着法、スパッタリング法、又はPECVD法であることが好ましい。真空蒸着法では、抵抗加熱式真空蒸着法、電子ビーム(Electron Beam)加熱式真空蒸着法、誘導加熱式真空蒸着法がより好ましく、スパッタリング法では、反応性スパッタリング法、デュアルマグネトロンスパッタリング法であることがより好ましい。膜の均質性の観点からはスパッタリング法が好ましく、コストの観点からは、真空蒸着法が好ましく、目的、用途に応じて選択することができる。
【0061】
スパッタリング法及びPECVD法におけるプラズマの生成方法としては、DC(Direct Current)方式、RF(Radio Frequency)方式、MF(Middle Frequency)方式、DCパルス方式、RFパルス方式、及びDC+RF重畳方式等を挙げることができる。
【0062】
真空成膜では通常、金属、或いは、珪素等の酸化物、窒化物又は窒化酸化物等の膜が形成される。無機薄膜層13,23としては、アルミニウム、チタン、銅、インジウム、スズ等の金属、又はそれらの酸化物(アルミナ等)、或いは、珪素、珪素酸化物の膜が好ましい。また、金属や珪素の酸化物だけでなく、金属や珪素の窒化物や窒化酸化物の膜が形成されてもよい。また、複数の金属を含む膜が形成されてもよい。上述のアルミニウム、チタン、銅、インジウム、珪素の酸化物、窒化物、窒化酸化物は、透明性とバリア性の両方に優れる。珪素を含む酸化物、窒化酸化物はバリア性が高く特に好ましい。
【0063】
真空成膜により形成される無機薄膜層13,23の厚さは、5nm以上100nm以下であることが好ましい。無機薄膜層13,23の厚さが5nm以上であると、より良好なバリア性を得ることができる傾向がある。また、無機薄膜層13,23の厚さが100nm以下であると、クラックの発生を抑制し、クラックによる水蒸気バリア性及び酸素バリア性の低下を抑制できる傾向がある。更に、無機薄膜層13,23の厚さが100nm以下であると、材料使用量の低減及び膜形成時間の短縮等に起因してコストを低減できるので、経済的観点から好ましい。
【0064】
(ガスバリア性被覆層)
ガスバリア性被覆層14,24は、後工程での二次的な各種損傷を防止すると共に、高いバリア性を付与するために設けられるものである。ガスバリア性被覆層14,24は、シロキサン結合を含んでいてもよい。ガスバリア性被覆層14,24は、大気中で形成することもできる。ガスバリア性被覆層14,24を大気中で形成する場合は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチレンビニルアルコールのような極性を持つ化合物、ポリ塩化ビニリデン等の塩素を含む化合物、及びSi原子を含む化合物、Ti原子を含む化合物、Al原子を含む化合物、Zr原子を含む化合物等を含有する塗布液を無機薄膜層13,23上に塗布し、乾燥硬化させることで形成することができる。
【0065】
ガスバリア性被覆層14,24を大気中で形成する際の塗布液の塗布方法としては、具体的には、グラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、及びダイコーター等による塗布方法が挙げられる。
【0066】
シロキサン結合を含む化合物は、例えば、シラン化合物を用い、シラノール基を反応させて形成されることが好ましい。このようなシラン化合物としては、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
R1
n(OR2)4-nSi …(1)
[式中、nは0~3の整数を示し、R1及びR2はそれぞれ独立に炭化水素基を示し、好ましくは炭素数1~4のアルキル基を示す。]
【0067】
上記式(1)で表される化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、及びジメチルジエトキシシラン等が挙げられる。窒素を含むポリシラザンを使用してもよい。
【0068】
また、ガスバリア性被覆層14,24には、他の金属原子からなる前駆体から作られる材料を使用してもよい。Ti原子を含む化合物としては、例えば、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
R1
n(OR2)4-nTi …(2)
[式中、nは0~3の整数を示し、R1及びR2はそれぞれ独立に炭化水素基を示し、好ましくは炭素数1~4のアルキル基を示す。]
【0069】
上記式(2)で表される化合物としては、例えば、テトラメトキシチタニウム、テトラエトキシチタニウム、テトライソプロポキシチタニウム、及びテトラブトキシチタニウム等が挙げられる。
【0070】
Al原子を含む化合物としては、例えば、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
R1
m(OR2)3-mAl …(3)
[式中、mは0~2の整数を示し、R1及びR2はそれぞれ独立に炭化水素基を示し、好ましくは炭素数1~4のアルキル基を示す。]
【0071】
上記式(3)で表される化合物としては、例えば、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、及びトリブトキシアルミニウム等が挙げられる。
【0072】
Zr原子を含む化合物としては、例えば、下記式(4)で表される化合物が挙げられる。
R1
n(OR2)4-nZr …(4)
[式中、nは0~3の整数を示し、R1及びR2はそれぞれ独立に炭化水素基を示し、好ましくは炭素数1~4のアルキル基を示す。]
【0073】
上記式(4)で表される化合物としては、例えば、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、及びテトラブトキシジルコニウム等が挙げられる。
【0074】
ガスバリア性被覆層14,24を大気中で形成する場合、上記塗布液は塗布後、硬化される。硬化方法としては、特に限定されないが、紫外線硬化及び熱硬化等が挙げられる。紫外線硬化の場合、塗布液は重合開始剤及び二重結合を有する化合物を含んでいてもよい。また必要に応じて、加熱エージングがされてもよい。
【0075】
ガスバリア性被覆層14,24を大気中で形成する別の方法として、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウムなどの無機酸化物の粒子同士が、リン化合物に由来するリン原子を介して脱水縮合することで得られる反応生成物をガスバリア性被覆層とする方法を用いることもできる。具体的には、無機酸化物の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)と、無機酸化物と反応可能なリン化合物の部位(例えば、リン原子に直接結合したハロゲン原子や、リン原子に直接結合した酸素原子)とが、縮合反応を起こし、結合する。反応生成物は、例えば、無機酸化物とリン化合物とを含む塗布液を無機薄膜層13,23の表面に塗布し、形成した塗膜を熱処理することにより、無機酸化物の粒子同士が、リン化合物に由来するリン原子を介して結合する反応を進行させることで得られる。熱処理の温度の下限は、110℃以上であり、120℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましく、170℃以上であることが更に好ましい。熱処理温度が低いと、十分な反応速度を得ることが難しくなり、生産性が低下する原因となる。熱処理の温度の好ましい上限は、基材の種類などによって異なるが、220℃以下であり、190℃以下であることが好ましい。熱処理は、空気中、窒素雰囲気下、又はアルゴン雰囲気下などで実施することができる。
【0076】
ガスバリア性被覆層14,24を大気中で形成する場合は、凝集等しない限り、上記塗布液は更に樹脂を含んでいてもよい。上記樹脂としては、具体的にはアクリル樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。上記塗布液は、これらの樹脂のうち、塗布液中の他の材料との相溶性が高い樹脂を含むことが好ましい。
【0077】
上記塗布液は、更に、フィラー、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、並びに、シランカップリング剤及びチタンキレート剤等を必要に応じて含んでいてもよい。
【0078】
大気中で形成されるガスバリア性被覆層14,24の厚さは、硬化後の膜厚で50nm~2000nmであることが好ましく、100nm~1000nmであることがより好ましい。大気中で形成さるガスバリア性被覆層14,24の厚さが50nm以上であると、膜形成がしやすくなる傾向がある。大気中で形成されるガスバリア性被覆層14,24の厚さが2000nm以下であると、割れ又はカールを抑制できる傾向がある。
【0079】
(接着層)
接着層4は、
図1及び
図3~4に示すように、第1のフィルム1と第2のフィルム2とを貼り合わせて積層するために、第1のフィルム1と第2のフィルム2との間に設けられている。接着層4としては、高分子フィルム用の接着剤又は粘着剤として一般的なものを使用することができ、第1のフィルム1及び第2のフィルム2の貼り合わせる側の表面に応じて適宜選択される。接着層4の材料の候補としては、エポキシ系、ポリエステル系、アクリル系、ゴム系、フェノール系、及びウレタン系等の接着剤又は粘着剤が挙げられる。
【0080】
接着剤又は粘着剤の塗布方法としては、グラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、及びダイコーター等による塗布方法が挙げられる。
【0081】
接着層4の厚さは1μm以上20μm以下であることが好ましい。接着層4の厚さが1μm以上であることにより十分な接着性が得られる傾向があり、20μm以下であることによりバリアフィルムの総厚を薄くできると共に、コストアップを抑制することができる傾向がある。
【0082】
また、接着層4を介して第1のフィルム1と第2のフィルム2を貼り合わせた後、エージングすることができる。エージングは、例えば、20~80℃で1~10日間行われる。
【0083】
接着層4は、必要に応じて、硬化剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、及び分散剤等を含んでいてもよい。
【0084】
(プライマー層)
プライマー層5は、バリアフィルムと蛍光体層との密着性を向上させるために設けられる層である。プライマー層5は、第1のフィルム1の第1の基材11上又はガスバリア性被覆層14上に設けられる。プライマー層5は、バリアフィルムの一方の最表面に設けられ、バリアフィルムのプライマー層5側の表面を蛍光体層に貼り合わせることとなる。
【0085】
プライマー層5は、上述したプライマー層形成用組成物の硬化物からなる層である。プライマー層5は、第1のフィルム1の第1の基材11上又はガスバリア性被覆層14上にプライマー層形成用組成物を塗布し、硬化させることで形成することができる。塗布方法としては、グラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、及びダイコーター等による塗布方法が挙げられる。硬化は、例えば、60~150℃で15~300秒の条件で行うことができる。また、プライマー層5をより十分に硬化させるために、40~80℃で1~7日間エージング処理を行ってもよい。
【0086】
プライマー層5の厚さは、0.1~10μmであることが好ましく、0.2~5μmであることがより好ましく、0.3~3μmであることが更に好ましく、0.5~1.5μmであることが特に好ましい。この厚さが0.1μm以上であると、ピンホールの発生を抑制でき、十分な膜厚を有することから応力緩和性を十分に発揮できると共に、塗工後の成膜性が安定し、面内で均一に良好な密着性を得ることができる。一方、厚さが10μm以下であると、プライマー層5が脆くなることを防いで蛍光体層との安定した密着性を得ることができると共に、プライマー層5の端部(バリアフィルムと蛍光体層との間)からプライマー層を通して水分や酸素が侵入することを十分に抑制でき、蛍光体層の発光特性の劣化(特に端部劣化)を抑制することができる。また、プライマー層5の厚さが薄い方が、プライマー層5の硬化反応が早く進むと共に、蛍光体層との初期密着性が良好となる。
【0087】
(マット層)
マット層6は、1以上の光学的機能や帯電防止機能を発揮させるために、バリアフィルムのプライマー層5とは反対側の表面に設けられている。ここで、光学的機能としては、特に限定されるものではないが、干渉縞(モアレ)防止機能、反射防止機能、拡散機能等が挙げられる。これらの中でも、マット層6は、光学的機能として少なくとも干渉縞防止機能を有することが好ましい。本実施形態では、マット層6が少なくとも干渉縞防止機能を有するものである場合について説明する。
【0088】
マット層6は、バインダー樹脂と、微粒子とを含んで構成されていてもよい。そして、マット層6の表面から微粒子の一部が露出するように微粒子がバインダー樹脂に埋め込まれることにより、マット層6の表面には微細な凹凸が生じていてもよい。このようなマット層6をバリアフィルムの表面に設けることにより、ニュートンリング等の干渉縞の発生をより十分に防止することができ、結果として高効率且つ高精細、長寿命の波長変換シートを得ることが可能となる。
【0089】
バインダー樹脂としては、特に限定されるものではないが、光学的透明性に優れた樹脂を用いることができる。より具体的には、例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂などの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂などを用いることができる。また、有機樹脂以外に、シリカバインダーを用いることもできる。これらの中でも、材料の幅広さからアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂を用いることが望ましく、耐光性や光学特性に優れることからアクリル系樹脂を使用することがより望ましい。これらは、1種だけでなく、複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0090】
微粒子としては、特に限定されるものではないが、例えば、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナなどの無機微粒子の他、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂などの有機微粒子を用いることができる。これらの中でも、微粒子としては、シリカ、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等からなる屈折率1.40~1.55の微粒子を用いることが、光透過率の上で好ましい。屈折率が低い微粒子は高価であり、一方、屈折率が高すぎる微粒子は光透過率を損ねる傾向がある。これらは、1種だけでなく、複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0091】
微粒子の平均粒径は、0.1~30μmであることが好ましく、0.5~10μmであることがより好ましい。微粒子の平均粒径が0.1μm以上であると、優れた干渉縞防止機能が得られる傾向があり、30μm以下であると、透明性がより向上する傾向がある。
【0092】
マット層6における微粒子の含有量は、マット層6全量を基準として0.5~30質量%であることが好ましく、3~10質量%であることがより好ましい。微粒子の含有量が0.5質量%以上であると、光拡散機能と干渉縞の発生を防止する効果がより向上する傾向があり、30質量%以下であると、輝度を低減させることがない。
【0093】
マット層6は、上述したバインダー樹脂及び微粒子を含む塗布液を第1のフィルム1又は第2のフィルム2の表面上に塗布し、乾燥硬化させることで形成することができる。塗布方法としては、グラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、及びダイコーター等による塗布方法が挙げられる。
【0094】
マット層6の厚さは、0.1~20μmであることが好ましく、0.3~10μmであることがより好ましい。マット層6の厚さが0.1μm以上であることにより、均一な膜が得られやすく、光学的機能を十分に得やすくなる傾向がある。一方、マット層6の厚さが20μm以下であることにより、マット層6に微粒子を用いた場合、マット層6の表面へ微粒子が露出して、凹凸付与効果が得られやすくなる傾向がある。
【0095】
以上説明した構成を有する本実施形態のバリアフィルムは、酸素や水蒸気の透過に関するバリア性が必要とされる用途に用いることができ、例えば、液晶用バックライトに用いる発光体を含有した波長変換シート、特に量子ドット発光体を含有した波長変換シートのバリアフィルムとして用いることができる。
【0096】
[波長変換シート]
次に、上記バリアフィルムを用いた本発明の波長変換シートについて説明する。本発明の波長変換シートは、蛍光体及び硬化性樹脂の硬化物を含む蛍光体層と、上記蛍光体層の一方の面上に積層された第1のバリアフィルムと、上記蛍光体層の他方の面上に積層された第2のバリアフィルムと、を備えるものであり、少なくとも上記第1のバリアフィルムが、上記蛍光体層側の最表面に上記プライマー層を備える本発明のバリアフィルムである。
【0097】
図5は、本発明の波長変換シートの一実施形態を示す模式断面図である。
図5に示す波長変換シート600は、蛍光体を含む波長変換機能を有する蛍光体層7が、第1のバリアフィルム100aと第2のバリアフィルム100bとで挟まれた構造を有している。第1のバリアフィルム100a及び第2のバリアフィルム100bはいずれも、上述したバリアフィルム100である。第1及び第2のバリアフィルム100a,100bと蛍光体層7とは、プライマー層5が蛍光体層7と接するように積層されている。かかる構成を有する波長変換シート600は、プライマー層5を介して第1及び第2のバリアフィルム100a,100bと蛍光体層7とが貼り合わせられているため、優れた密着性が得られる。なお、第1及び第2のバリアフィルム100a,100bは、上述したバリアフィルム200、バリアフィルム300又はバリアフィルム400であってもよい。
【0098】
(蛍光体層)
蛍光体層7は、励起光の照射によって異なる波長の光を発光する波長変換機能を有する層であり、少なくとも1種類以上の蛍光体(図示せず)を含む。
【0099】
蛍光体の中でも量子ドットと呼ばれるナノサイズの半導体は、高い波長変換効率が得られ、輝度とディスプレイとしての色再現性に優れることから好ましい。量子ドットとしては、発光部としてのコアが保護膜としてのシェルで被覆されたものが挙げられる。上記コアとしては、例えば、セレン化カドミウム(CdSe)等が挙げられ、上記シェルとしては、例えば、硫化亜鉛(ZnS)等が挙げられる。CdSeの粒子の表面欠陥がバンドギャップの大きいZnSにより被覆されることで量子効率が向上する。また、蛍光体は、コアが第1シェル及び第2シェルにより二重に被覆されたものであってもよい。この場合、コアにはCdSe、第1シェルにはセレン化亜鉛(ZnSe)、第2シェルにはZnSが使用できる。上記蛍光体は2種類以上を組み合わせて用いられる。また、1種類の蛍光体のみを含む蛍光体層と、別の種類の蛍光体のみを含む蛍光体層とが積層されていてもよい。
【0100】
蛍光体は、封止のための封止樹脂に分散される。封止樹脂は、例えば、エチレン性二重結合を有する光(UV)硬化性樹脂、エポキシ系光カチオン重合性樹脂等の硬化性樹脂を用いて形成することができる。
【0101】
蛍光体層7は、蛍光体と硬化性樹脂と必要に応じて硬化剤と必要に応じて溶剤とを含む混合液を第1及び第2のバリアフィルム100a,100bのうちの一方のプライマー層5上に塗布して塗膜を形成し、第1及び第2のバリアフィルム100a,100bのうちの他方をプライマー層5が蛍光体層7を向くように積層し、塗膜を硬化させることで形成することができる。
【0102】
塗膜の硬化は、紫外線の照射によって光硬化性樹脂を硬化(UV硬化)させることで行うことができる。なお、光硬化性樹脂は、UV硬化の後に更に熱硬化させてもよい。硬化性樹脂を硬化させることで、蛍光体層7の封止樹脂が形成される。
【0103】
上述した本実施形態の波長変換シートは、例えばバックライトユニットに使用することができる。バックライトユニットは、例えば光源、導光板、反射板、及び本実施形態の波長変換シートを備える。バックライトユニットにおいては、波長変換シートの一方の表面上に導光板及び反射板がこの順で配置され、光源は上記導光板の側方(導光板の面方向)に配置される。光源には、例えば、青色発光ダイオード素子等が用いられる。
【0104】
[バリアフィルム及び波長変換シートの製造方法]
次に、本発明のバリアフィルム及び波長変換シートの製造方法の一実施形態について説明する。本実施形態のバリアフィルムの製造方法は、ガスバリア性フィルムと、一方の最表面に配置されたプライマー層と、を備えるバリアフィルムの製造方法であって、ガスバリア性フィルム上に上記プライマー層形成用組成物を塗布し、硬化させて上記プライマー層を形成する工程を有する。
【0105】
また、本実施形態の波長変換シートの製造方法は、蛍光体及び硬化性樹脂の硬化物(封止樹脂)を含む蛍光体層と、上記蛍光体層の両方の面上に積層されたバリアフィルムと、を備える波長変換シートの製造方法であって、第1のバリアフィルムと、蛍光体及び硬化性樹脂を含む蛍光体層形成用組成物の塗膜と、第2のバリアフィルムと、を含む積層体を形成する工程と、上記積層体の上記第2のバリアフィルム側から紫外線及び波長400~700nmの可視光を含む光を照射することで、上記塗膜中の上記硬化性樹脂を硬化させて蛍光体層を形成する工程と、を有する。ここで、少なくとも上記第1のバリアフィルムは、上記塗膜側の最表面に上記プライマー層を備える上述した本実施形態のバリアフィルムである。なお、第2のバリアフィルムも、上述した本実施形態のバリアフィルムであってよい。第1及び第2のバリアフィルムはそれぞれ、上述したバリアフィルム100,200,300,400のいずれであってもよい。
【0106】
図1に示したバリアフィルム100及びそれを用いて
図5に示した波長変換シート600を製造する場合、例えば以下の手順で製造することができる。なお、各層の形成方法は上述した通りである。まず、第1のフィルム1及び第2のフィルム2をそれぞれ作製する。すなわち、第1の基材11上にアンカーコート層12を形成し、その上に無機薄膜層13及びガスバリア性被覆層14を順次形成して第1のフィルム1を作製する。第2のフィルム2としては、第2の基材21をそのまま用いる。
【0107】
得られた第1のフィルム1のガスバリア性被覆層14上に接着剤又は粘着剤を塗布し、第2のフィルム2と貼り合わせてエージングを行うことで、第1のフィルム1と第2のフィルム2とが接着層4を介して貼り合わせられた積層フィルムを得る。貼り合わせは、一般的なラミネート装置を用いて行うことができる。なお、接着剤又は粘着剤は、第2のフィルム2上に塗布してもよい。
【0108】
得られた積層フィルムの第1の基材11上に、上述した本実施形態のプライマー層形成用組成物を塗布し、硬化させてプライマー層5を形成する。また、積層フィルムの第2のフィルム2上に、マット層6を形成する。プライマー層5とマット層6の形成順序は特に限定されない。また、マット層6は、第1のフィルム1と第2のフィルム2とを貼り合わせる前に、予め第2のフィルム2上に形成してもよい。更に、プライマー層5は、第1のフィルム1と第2のフィルム2とを貼り合わせる前に、予め第1のフィルム1の第1の基材11上に形成してもよい。これにより、バリアフィルム100が得られる。このバリアフィルム100を2つ作製し、それぞれ第1のバリアフィルム100a、第2のバリアフィルム100bとする。
【0109】
次に、第1のバリアフィルム100aのプライマー層5上に、蛍光体と硬化性樹脂と必要に応じて硬化剤と必要に応じて溶剤とを含む混合液を塗布して塗膜を形成し、その上に第2のバリアフィルム100bのプライマー層5側を貼り合わせ、積層体を得る。次いで、得られた積層体の第2のバリアフィルム100b側から紫外線及び波長400~700nmの可視光を含む光を照射することで、上記塗膜中の硬化性樹脂を硬化させて蛍光体層7を形成する。このとき、照射する光が紫外線及び波長400~700nmの可視光を含むことで、紫外線により塗膜中の硬化性樹脂が硬化すると共に、塗膜を透過した可視光が第1のバリアフィルム100aのプライマー層5に到達し、光重合開始剤の作用により当該プライマー層5中の反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂と塗膜中の硬化性樹脂との反応が進行して優れた密着性が得られる。第2のバリアフィルム100bのプライマー層5は、直接照射された可視光により、当該プライマー層5中の反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂と塗膜中の硬化性樹脂との反応が進行して優れた密着性が得られる。なお、第2のバリアフィルム100bのプライマー層5に含まれる光重合開始剤が紫外線に対しても感度を有する場合は、直接照射された紫外線によっても上記反応が進行することとなる。以上の方法により、良好なガスバリア性を有すると共に、第1及び第2のバリアフィルム100a,100bと蛍光体層7との密着性に優れた本実施形態の波長変換シート600を得ることができる。
【0110】
塗膜を硬化させる際に照射する光は、紫外線(例えば波長250~380nm)と波長400~700nmの可視光の両方を含む光を1つの光源から照射することが好ましいが、紫外線を含み可視光を実質的に含まない光と、可視光を含み紫外線を実質的に含まない光とを、それぞれ別の光源から照射してもよい。光源としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、水銀キセノンランプ等が挙げられる。
【0111】
上記塗膜は、形成する蛍光体層7の厚さに対応する塗膜厚さにおいて、波長400~700nmにおける可視光透過率の最小値が30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが特に好ましい。可視光透過率の最小値が大きいほど、光照射時に第1のバリアフィルム100aまで可視光が到達しやすく、プライマー層と蛍光体層との密着性をより効率的に向上させることができる。
【0112】
上記塗膜は、形成する蛍光体層7の厚さに対応する塗膜厚さにおいて、波長405nmにおける可視光透過率が30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが特に好ましい。波長405nmにおける可視光透過率が大きいほど、光照射時に第1のバリアフィルム100aまで波長405nmの可視光が到達しやすく、プライマー層と蛍光体層との密着性をより効率的に向上させることができる。
【0113】
上記塗膜は、形成する蛍光体層7の厚さに対応する塗膜厚さにおいて、波長200~380nmにおける紫外線透過率の最大値が30%未満であってもよく、25%以下であってもよく、20%以下であってもよい。このように塗膜の紫外線透過率が低い場合であっても、本実施形態のプライマー層形成用組成物を用いて形成されたプライマー層であれば、可視光により反応が進行するため、プライマー層と蛍光体層との優れた密着性を得ることができる。
【0114】
本明細書において、上記塗膜の可視光透過率及び紫外線透過率は、以下の方法で測定される値を意味する。すなわち、2枚のポリプロピレンフィルム(PPフィルム)を用意し、一方のPPフィルム上に蛍光体層形成用組成物を塗布して塗膜を形成し、そこに他方のPPフィルムを貼り合わせて試験片を作製する。塗膜の厚さは、形成する蛍光体層7の厚さに対応する塗膜厚さとする。一方、塗膜を挟まずに2枚のポリプロピレンフィルムを貼り合わせて対照試験片を作製する。得られた試験片及び対照試験片の波長200~700nmの光透過率を紫外可視分光光度計を用いて測定し、その結果から、下記式により各波長の塗膜の光透過率を算出する。これにより、波長400~700nmの可視光透過率の最小値、波長405nmにおける可視光透過率、及び、波長200~380nmにおける紫外線透過率の最大値を求めることができる。
塗膜の光透過率(%)=(試験片の光透過率/対照試験片の光透過率)×100
【0115】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0116】
例えば、
図1~
図5に示したバリアフィルムにおいて、マット層6及びアンカーコート層12,22は設けなくてもよい。
【0117】
図1~
図5に示したバリアフィルムにおいて、バリア層15,25は、無機薄膜層13,23とガスバリア性被覆層14,24とが交互に複数積層されたものであってもよい。この場合、ガスバリア性をより高めることができる。
【0118】
図1~
図5に示したバリアフィルムにおいて、第1のフィルム1及び第2のフィルム2の向きは図示した向きに限定されず、逆向きに配置してもよい。
【0119】
バリアフィルムは、第1のフィルム及び第2のフィルムに加えて、それらと同様の構成を有する1以上のフィルムを更に有していてもよい。例えば、
図3及び
図4に示したバリアフィルム300,400において、第2のフィルム2とマット層6との間に、基材のみからなる第3のフィルムを更に設けてもよい。
【0120】
図1に示したバリアフィルムにおいて、第2のフィルム2及び接着層4は設けなくてもよい。
図2に示したバリアフィルムにおいて、マット層6と第1の基材11との間に、接着層4を介して第1の基材11に接着された、第2の基材21のみからなる第2のフィルム2を設けてもよい。
【0121】
図5に示した波長変換シートにおいて、蛍光体層7を挟む一対のバリアフィルムは互いに異なる構成を有していてもよい。また、マット層6は、必ずしも波長変換シートの両面に設けられていなくてもよく、一方の表面のみに設けられていてもよい。
【実施例】
【0122】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0123】
実施例及び比較例に使用する光重合開始剤として、下記表1に示す光重合開始剤A~Dを準備した。表1には、各波長の吸収係数及び波長400~700nmの可視光領域における最大吸収係数を示した。
【0124】
【0125】
[実施例1]
(プライマー層形成用組成物の調製)
反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂であるアクリロイル基含有樹脂(荒川化学工業株式会社製、型番:ACS-719、アクリロイル基及び2級水酸基を有する樹脂、(メタ)アクリル当量214g/eq、水酸基価262mgKOH/g)50質量部、及び、反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂であるアクリルポリオール(荒川化学工業株式会社製、型番:ACS-717、水酸基価80mgKOH/g)50質量部に、溶剤(酢酸エチル)1000質量部を加え、25℃で2時間攪拌した。その後、硬化剤としてビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(荒川化学工業株式会社製、商品名:アラコート CL106)15質量部、及び、光重合開始剤Aを2質量部加え、25℃で30分攪拌して、プライマー層形成用組成物を得た。
【0126】
プライマー層形成用組成物におけるポリイソシアネート化合物、光重合開始剤及び溶剤を除く樹脂成分全体の(メタ)アクリル当量は428g/eqであり、水酸基価は171mgKOH/gであった。上記(メタ)アクリル当量及び水酸基価は以下の方法で求めた。(メタ)アクリル当量は、反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂の(メタ)アクリル当量及びその配合割合から計算により求めた。水酸基価は、反応性炭素-炭素二重結合を有する樹脂の水酸基価、反応性炭素-炭素二重結合を有さず1級水酸基を有する樹脂の水酸基価、及びそれらの配合割合から計算により求めた。また、プライマー層形成用組成物のNCO/OH比は0.48であった。
【0127】
(バリアフィルムの作製)
片面がコロナ放電処理された二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:P60、厚さ:16μm、東レ株式会社製)のコロナ放電処理された面上に、ポリエステル樹脂溶液をバーコート法により塗布し、80℃で1分間乾燥硬化させることにより、厚さ100nmのアンカーコート層を形成した。
【0128】
電子ビーム加熱式の真空蒸着装置を用いて、酸化珪素材料(キヤノンオプトロン株式会社製)を1.5×10-2Paの圧力下で電子ビーム加熱によって蒸発させ、上記アンカーコート層上に無機薄膜層として厚さ80nmのSiOx膜を形成した。なお、蒸着における加速電圧は40kVであり、エミッション電流は0.2Aであった。このSiOx膜上に、テトラエトキシシランの加水分解物(シロキサン結合含有)とポリビニルアルコールとを質量比1:1で混合した塗布液をバーコート法にて塗布し、120℃で1分間乾燥硬化させ、厚さ400nmのガスバリア性被覆層を形成した。これにより、第1のフィルムを得た。第1のフィルムの水蒸気透過度は0.5g/(m2・day)であった。
【0129】
第1のフィルムのガスバリア性被覆層上に、接着剤(主剤:タケラックA525、硬化剤:タケネートA50、三井化学(株)製)を塗布して接着層とし、第2のフィルムとして二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:FE2001、厚さ:25μm、フタムラ化学株式会社製、水蒸気透過度25g/(m2・day))のコロナ放電処理された面を貼り合わせ、40℃で2日間エージングを実施した。これにより、第1のフィルムと第2のフィルムとが接着層を介して貼り合わせられた積層フィルム(1)を得た。接着層の厚さは4μmであった。
【0130】
得られた積層フィルム(1)における第1のフィルムのポリエチレンテレフタレートフィルム(第1の基材)上に、上記プライマー層形成用組成物をワイヤーバーコーターで塗工して塗膜を形成し、バッチオーブンにより100℃で20秒間乾燥・硬化させた後、40℃で3日間エージングを実施することによりプライマー層を形成した。プライマー層の厚さは1μmであった。
【0131】
また、第2のフィルムのポリエチレンテレフタレートフィルム(第2の基材)上に、アクリル系ポリオール樹脂(DIC社製、商品名:アクリディックA-814)100質量部、イソシアネート系硬化剤(DIC社製、商品名:バーノックDN-980、ヘキサメチレンジイソシアネート系化合物)8.5質量部、微粒子(ポリウレタン、平均粒径2μm)10質量部、溶剤(酢酸エチル)70質量部からなるマット層形成用組成物を塗布し加熱乾燥させて硬化させ、厚さ3μmのマット層を形成した。これにより、
図1に示した構成を有するバリアフィルムを得た。このバリアフィルムを2枚用意し、それぞれ第1のバリアフィルム及び第2のバリアフィルムとした。
【0132】
(波長変換シートの作製)
第1のバリアフィルムのプライマー層上に、コアがセレン化カドミウム(CdSe)、シェルが硫化亜鉛(ZnS)、粒子径6nmの量子ドット発光体と、主鎖あるいは側鎖の末端にアクリロイル基を有するアクリル系光硬化性樹脂(日立化成(株)製、商品名:ヒタロイド7927-8)と、光重合開始剤(BASF社製、商品名:Lucirin TPO)とを含む蛍光体層形成用組成物を塗布して塗膜を形成し、そこに、第2のバリアフィルムのプライマー層を貼り合わせた。得られた積層体に対し、第2のバリアフィルム側から紫外線照射装置(光源:高圧水銀ランプ)を用いて300mJ/cm
2、600mJ/cm
2又は600mJ/cm
2の露光量で光を照射することで塗膜を硬化させ、波長変換機能を有する蛍光体層(厚さ100μm)を形成した。なお、露光に用いた光のスペクトルを
図6に示す。
図6に示すように、露光に用いた光は可視光及び紫外線を含むものである。
【0133】
また、上記塗膜の可視光透過率を、以下の方法で測定した。2枚のポリプロピレンフィルム(PPフィルム)を用意し、一方のPPフィルム上に蛍光体層形成用組成物を塗布して塗膜を形成し、そこに他方のPPフィルムを貼り合わせて試験片を作製した。塗膜の厚さは、上記波長変換シートの作製時と同じ厚さ(厚さ100μmの蛍光体層が形成される塗膜厚さ)とした。また、塗膜を挟まずに2枚のポリプロピレンフィルムを貼り合わせて対照試験片を作製した。得られた試験片及び対照試験片の波長200~700nmの光透過率をJASCO V-650 spectrometer(日本分光株式会社製)を用いて測定した。得られた光透過率のグラフを
図7に示す。この測定結果から、下記式により各波長の塗膜の光透過率を算出し、波長400~700nmの可視光領域での光透過率の最小値を求めた。その結果、可視光透過率の最小値は35%であった。また、波長200~380nmにおける紫外線透過率の最大値は25%であった。
塗膜の光透過率(%)=(試験片の光透過率/対照試験片の光透過率)×100
【0134】
[実施例2]
光重合開始剤Aに代えて光重合開始剤Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして、プライマー層形成用組成物、バリアフィルム及び波長変換シートを得た。
【0135】
[比較例1]
光重合開始剤Aに代えて光重合開始剤Cを用いたこと以外は実施例1と同様にして、プライマー層形成用組成物、バリアフィルム及び波長変換シートを得た。
【0136】
[比較例2]
光重合開始剤Aに代えて光重合開始剤Dを用いたこと以外は実施例1と同様にして、プライマー層形成用組成物、バリアフィルム及び波長変換シートを得た。
【0137】
<密着性の評価>
実施例及び比較例で得られた波長変換シートを25mm×100mmの短冊状にカットし、カットした波長変換シートをガラス板上に固定した。固定された短冊状の波長変換シートのバリアフィルムを、引っ張り試験機(株式会社島津製作所製、商品名:オートグラフAG-X)を用いて、ガラス板に対して垂直な方向に300mm/分の速度で蛍光体層から剥離し、剥離に要した力を剥離強度として測定した。この剥離強度の測定を、光照射側である第2のバリアフィルムと蛍光体層との間、及び、光照射側とは反対側である第1のバリアフィルムと蛍光体層との間についてそれぞれ行った。
【0138】
また、高温高湿環境下に長時間置かれた場合を想定し、信頼性試験として、実施例及び比較例で得られた波長変換シートを65℃、95%RHで500時間保存した。信頼性試験後の波長変換シートを用いて、上記と同様の方法で剥離強度の測定を行った。信頼性試験前後の剥離強度の測定結果を表2に示す。
【0139】
【符号の説明】
【0140】
1…第1のフィルム、2…第2のフィルム、4…接着層、5…プライマー層、6…マット層、7…蛍光体層、11…第1の基材、21…第2の基材、12,22…アンカーコート層、13,23…無機薄膜層、14,24…ガスバリア性被覆層、15,25…バリア層、100,200,300,400…バリアフィルム、100a…第1のバリアフィルム、100b…第2のバリアフィルム、600…波長変換シート。