(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】圧力容器
(51)【国際特許分類】
F17C 1/16 20060101AFI20231031BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20231031BHJP
B29C 70/32 20060101ALI20231031BHJP
C08G 69/02 20060101ALI20231031BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20231031BHJP
F17C 1/06 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
F17C1/16
B29C70/16
B29C70/32
C08G69/02
F16J12/00 A
F16J12/00 C
F17C1/06
(21)【出願番号】P 2018528303
(86)(22)【出願日】2016-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2016079610
(87)【国際公開番号】W WO2017102385
(87)【国際公開日】2017-06-22
【審査請求日】2019-11-13
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-30
(32)【優先日】2015-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM IP ASSETS B.V.
【住所又は居所原語表記】Het Overloon 1, NL-6411 TE Heerlen,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】キーストラ, ベールト ヤコブス
(72)【発明者】
【氏名】ヴォレイジ, ティム レオナルドゥス マリア
(72)【発明者】
【氏名】リグトハルト, ゴデフリドゥス ベルナルドゥス ヴィルヘルムス レオナルドゥス
【合議体】
【審判長】山崎 勝司
【審判官】森本 哲也
【審判官】井上 茂夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-502222(JP,A)
【文献】特開2008-144132(JP,A)
【文献】特開2007-204674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00-13/12
F16J 12/00
B29C 70/16
B29C 70/32
C08G 69/02
B29K 77/00
B29K105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性マトリックス中に埋め込まれた連続繊維を含む中空体を含む圧力容器であって、前記熱可塑性マトリックスは、1種以上の脂肪族モノマー単位を含む1種以上のポリアミドを含み、
前記1種以上のポリアミドは、
・前記1種以上のポリアミド中の異なる脂肪族モノマー単位の種類数を特定し;
・これらの異なる脂肪族モノマー単位のそれぞれについて、脂肪族モノマー単位当たりのCH2基の個数を決定し;
・こうして決定したCH2基の個数の総和を算出し;
・前記総和を、前記1種以上のポリアミド中の異なる脂肪族モノマー単位の種類数で除算する;ことにより算出されるCH2比が、5.7~8.5の間にあり、この算出には、前記1種以上のポリアミド中に、前記1種以上のポリアミドの総重量に対し少なくとも10重量%の量で存在する前記脂肪族モノマー単位のみを考慮し、
前記1種以上のポリアミドは、PA-610、PA-612、及びこれらのブレンド物からなる群から選択され、
前記連続繊維の量は、前記中空体の前記連続繊維および前記熱可塑性マトリックスの総体積に対し10~65体積%の間にあり、
前記連続繊維はガラスまたは炭素またはこれらの組合せから選択さ
れ、
前記圧力容器のECE R110に記載されている静水圧破壊試験に準拠して測定された破壊圧力は少なくとも30MPa(300bar)である、圧力容器。
【請求項2】
金属および/またはPA-6、PA-66、PA-410、エチレンビニルアルコールもしくはこれらの組合せの群から選択される熱可塑性ポリマーを含むライナーをさらに含む、請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記熱可塑性マトリックスは、脂肪族モノマーから誘導されたモノマー単位を前記熱可塑性マトリックスの総重量に対し少なくとも60重量%の量で含む1種以上のポリアミドを含む、請求項1
または2に記載の容器。
【請求項4】
前記熱可塑性マトリックスは、熱安定剤および/または難燃剤および/または着色剤をさらに含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の容器。
【請求項5】
前記中空体は、炭素繊維、ガラス繊維およびこれらの組合せの群から選択される連続繊維を20~55体積%(ここで体積%は、前記中空体の前記連続繊維および前記熱可塑性マトリックスの総体積に対する)含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の容器。
【請求項6】
圧力容器用中空体を作製するためのプロセスであって、次に示すステップ:
a.支持体を準備するステップと;
b.連続繊維を準備すると共に熱可塑性マトリックスを準備するステップ;または連続繊維および熱可塑性マトリックスを含むテープを準備するステップと;
c.前記連続繊維および熱可塑性マトリックスまたは前記テープを前記支持体の周囲に巻回しながら、前記連続繊維および熱可塑性マトリックスまたは前記テープを熱によって一体化し、それによって中空体を作製するステップと;
d.前記中空体を冷却することにより固化するステップと;
を含み、前記熱可塑性マトリックスは、1種以上の脂肪族モノマー単位を含む1種以上のポリアミドを含み、
前記1種以上のポリアミドは、
・前記1種以上のポリアミド中の異なる脂肪族モノマー単位の種類数を特定し;
・これらの異なる脂肪族モノマー単位のそれぞれについて、脂肪族モノマー単位当たりのCH2基の個数を決定し;
・こうして決定されたCH2基の個数の総和を算出し;
・前記総和を、前記1種以上のポリアミド中の異なる脂肪族モノマー単位の種類数で除算する;ことにより算出されるCH2比が、5.7~8.5の間にあり、この算出には、前記1種以上のポリアミド中に、前記1種以上のポリアミドの総重量に対し少なくとも10重量%の量で存在する前記脂肪族モノマー単位のみを考慮し、
前記1種以上のポリアミドは、PA-610、PA-612、及びこれらのブレンド物からなる群から選択され、
前記連続繊維の量は、前記中空体の前記連続繊維および前記熱可塑性マトリックスの総体積に対し10~65体積%の間にあり、
前記連続繊維はガラスまたは炭素またはこれらの組合せから選択さ
れ、
前記圧力容器のECE R110に記載されている静水圧破壊試験に準拠して測定された破壊圧力は少なくとも30MPa(300bar)である、プロセス。
【請求項7】
ステップc.の前に、前記支持体の周囲に、EVOH、PA-6、PA-66、PA410、PA610、PA612、金属またはこれらの組合せを含む他の材料を巻回する、請求項
6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記支持体は、ステップd.の後に取り除かれるマンドレルである、請求項
6または7に記載のプロセス。
【請求項9】
CNGタンクまたは水素タンクとして使用するための、請求項1~
5のいずれか一項に記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、圧力容器およびその製造に関する。
【0002】
自動車産業においては、軽量化の解決策として、金属製のタンクをプラスチック製に置き換える流れがある。これに従い、熱可塑性ライナーに熱硬化性複合材料を巻回したものから作製された、いわゆるタイプIVのタンクが発展した。このようなタイプIVタンクの欠点は、再生利用ができない上に、場合によっては座屈が認められる点にある。これに伴い、米国特許第5816436号明細書に開示されているようなポリアミド12および炭素繊維の複合材からなるシースを使用した、いわゆるタイプVのタンクが発展した。
【0003】
米国特許第5816436号明細書に開示されている構造の問題点は、依然として透過性に限界があることと、構造健全性(structural integrity)が十分でないこととにある。他方、ポリアミド6を含むタンクは、耐酸性のみならず塩に対する耐性も十分ではない。タンクが水素または圧縮天然ガス(CNG)のいずれかに使用されるガスタンクである場合は、最小破壊圧力、漏洩試験、疲労試験、火炎暴露試験等に関する厳しい安全性基準に対応するものでなければならない。
【0004】
本発明の目的は、構造健全性が向上していると共に十分な耐酸性および十分に低い透過性を示す圧力容器を得ることにある。この目的は、熱可塑性マトリックス中に埋め込まれた連続繊維(endless fiber)を含む中空体を含む圧力容器であって、熱可塑性マトリックスは、1種以上の脂肪族モノマー単位を含む1種以上のポリアミドを含み、
この1種以上のポリアミドは、
・この1種以上のポリアミド中の異なる脂肪族モノマー単位の種類数を特定し;
・これらの異なる脂肪族モノマー単位のそれぞれについて、脂肪族モノマー単位当たりのCH2基の個数を決定し;
・こうして決定したCH2基の個数の総和を算出し;
・上記総和を、1種以上のポリアミドの異なる脂肪族モノマー単位の種類数で除算する;
ことによって算出されるCH2比が、少なくとも5.5および10未満であり、この算出には、1種以上のポリアミド中に、1種以上のポリアミドの総重量に対し少なくとも10重量%の量で存在する脂肪族モノマー単位のみを考慮に入れる、圧力容器によって達成された。
【0005】
驚くべきことに、本発明による容器は構造健全性が向上しており、それによって、水素容器またはCNG容器または安全性が最も重要である他のガス容器として利用することが可能になる。
【0006】
本明細書における圧力容器(以降、容器または熱可塑性複合材圧力容器とも称する)は、中空体および少なくとも1種の口金(boss)を含むものと理解される。口金は当業者に知られており、ガスまたは流体の容器への流入および容器からの流出を可能にする開閉蓋(closure)が取り付けられた開口部を指す。口金は通常金属製である。
【0007】
中空体は、通常、円筒形状を有し、口金はその端部に位置する。多くの場合、容器は2個の口金を円筒形状の各端部に有する。中空体の形状は所望の用途に応じて決まり、通常、直径が10cm~1.00mの間にある円筒形である。中空体の長さも最終用途に依存し、例えば、50cmから10mもの長さまでの間とすることができる。このようなより長尺のものは、通常ガス輸送に利用される。例えばトラックに搭載される容器の場合、長さは、通常1.00m~3.00mの間にある。
【0008】
本発明の圧力容器は、熱可塑性マトリックス中に埋め込まれた連続繊維を含む中空体を含む。
【0009】
熱可塑性マトリックスは、1種以上の脂肪族モノマー単位を含む1種以上のポリアミドを含み、この1種以上のポリアミドは、
・この1種以上のポリアミド中の異なる脂肪族モノマー単位の種類数を特定し;
・これらの異なる脂肪族モノマー単位のそれぞれについて、脂肪族モノマー単位当たりのCH2基の個数を決定し;
・こうして決定したCH2基の個数の総和を算出し;
・上記総和を、1種以上のポリアミド中の異なる脂肪族モノマー単位の種類数で除算する;
ことにより算出されるCH2比が、少なくとも5.5および10未満であり、この算出には、1種以上のポリアミド中に、この1種以上のポリアミドの総重量に対し少なくとも10重量%の量で存在する脂肪族モノマー単位のみを考慮に入れる。
【0010】
本明細書における熱可塑性マトリックスは、少なくとも1種以上のポリアミドを含むものと理解されるが、他の熱可塑性ポリマーおよび任意選択的な他の添加剤も含むことができる。マトリックスは1種以上のポリアミドからなるものであってもよい。
【0011】
本明細書における連続繊維は、少なくとも1本の連続繊維を指すと理解され、より多くの本数の繊維を指す場合もある。
【0012】
好ましくは、熱可塑性マトリックスは、脂肪族モノマーから誘導されたモノマー単位を含む1種以上のポリアミドを、熱可塑性マトリックスの総重量に対し少なくとも50重量%の量で、より好ましくは少なくとも60重量%の量で、さらに好ましくは少なくとも70重量%の量で含む。このポリアミドは、例えば、イソフタル酸(I)、テレフタル酸(T)、イソホロンジアミン等から誘導されたモノマー単位等の非脂肪族モノマー単位を少量含むことができる。好ましくは、非脂肪族モノマー単位は、最大50重量%、好ましくは最大40重量%、より好ましくは最大30重量%の重量百分率で存在し、この重量百分率は1種以上のポリアミドの総重量に対するものである。
【0013】
CH2比は、
・1種以上のポリアミド中の異なる脂肪族モノマー単位の種類数を特定し;
・これらの異なる脂肪族モノマー単位のそれぞれの種類について、脂肪族モノマー単位当たりのCH2基の個数を決定し;
・こうして決定されたCH2基の個数の総和を算出し;
・上記総和を、1種以上のポリアミド中の異なる脂肪族モノマー単位の種類数で除算する;
ことにより算出され、この算出には、1種以上のポリアミド中に、この1種以上のポリアミドの総重量に対し少なくとも10重量%の量で存在する脂肪族モノマー単位のみを考慮に入れる。
【0014】
1種以上のポリアミド中に10重量%未満の量で存在する脂肪族モノマーから誘導されたモノマー単位は、容器の構造健全性に寄与しないと見なされているため、CH2比に関しては考慮しない。非脂肪族モノマー単位も同様に、CH2比の決定においては考慮しない。
【0015】
簡便化のため、慣用されているポリアミドおよびそのCH2比の一覧を表1に示す。
【0016】
【0017】
ポリアミドは、Nylon Plastics Handbook,Melvin I.Kohan,Hanser Publishers,1995,page 5に説明されているものとして知られている。PA-6は、モノマー単位がカプロラクタムから誘導されたポリカプロラクタムである。PA-66は、モノマー単位がヘキサメチレンジアミンおよびアジピン酸から誘導されたポリ(ヘキサメチレンアジパミド)である。
【0018】
PA-6/PA-66はPA-6およびPA-66のブレンド物を表し、一方、PA-6/66はコポリアミドを表す。PA-410は、モノマー単位が1,4-ジアミノブタンおよびセバシン酸から誘導されたポリアミドである。
【0019】
モノマー単位の量および種類はNMR分光法により決定することができる。
【0020】
モノマー単位を決定する場合、モノマー単位の重量は、ジアミンから誘導されたモノマー単位の場合は、-NH-X-NH-(式中、Xはジアミン基に挟まれた部分を表す)部分の重量と定める。二酸から誘導されたモノマー単位の重量は、-C(O)-X-C(O)-(式中、Xは、酸基に挟まれた部分を表す)部分の重量である。アミノ酸またはラクタムから誘導されたモノマー単位の場合、モノマー単位は、-NH-X-C(O)-(式中、Xはアミン基および酸基に挟まれた部分を表す)と定める。したがって、モノマー単位の分割は常にアミド基のC-N結合で行う。
【0021】
CH2比の上限は10未満である。その理由は、それよりも高いCH2比を有するポリアミドと比較して剛性が増すためである。好ましくは、CH2比は、5.6~9.5の間にあり、より好ましくは5.7~8.5の間にある。その理由は、このようなポリアミドにより、バリア性、構造健全性、耐酸性等の特性が最適化されるためである。
【0022】
CH2比が少なくとも5.5および10未満である好適なポリアミドとしては、PA-410、PA-510、PA-412、PA-512、PA-610、PA-612、PA-1010に加えて、これらのブレンド物およびこれらのコポリアミドが挙げられる。
【0023】
好ましくは、CH2比が少なくとも5.5である1種以上のポリアミドはPA-410を含む。その理由は、PA-410を含むテープは弾性率および強度がより高く、したがって、器壁の薄肉化、軽量化、または同重量でより強度の高いタンクを得ることが可能になるためである。その結果として、タンクに採用した場合の安全水準が向上する。したがって好ましくは、圧力容器は、熱可塑性マトリックスに埋め込まれた連続繊維を含む中空体であり、熱可塑性マトリックスはPA-410を熱可塑性マトリックスの総量に対し少なくとも50重量%含み、より好ましくはPA-410を少なくとも60重量%、さらに好ましくはPA-410を少なくとも70重量%含む。
【0024】
[連続繊維]
本発明による容器の中空体は連続繊維を含む。連続繊維はそれ自体当該技術分野において知られており、長繊維(continuous fiber)とも呼ばれ、本明細書においてはアスペクト比が少なくとも500であるものと理解される。例えば、本発明の容器の連続繊維として、数百メートルの長さを有するものを用いることができる。
【0025】
中空体に存在する連続繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維およびこれらの組合せからなる群から選択することができる。好ましくは、連続繊維は、繊維とポリアミドとの間の接着を高めるためにサイジング処理されている。サイジング処理は当業者に知られている。
【0026】
中空体に含まれる連続繊維の体積%は、通常、中空体の連続繊維および熱可塑性マトリックスの総体積に対し10~65体積%の間にあり、好ましくは、体積百分率は20~55体積%の間にあり、より好ましくは、体積百分率は30~55体積%の間にある。連続繊維は容器の強度に貢献することから、通常、体積百分率は可能な限り高いことが望ましい。
【0027】
好ましい実施形態において、中空体は、炭素繊維およびガラス繊維およびこれらの組合せの群から選択される連続繊維を、中空体の連続繊維および熱可塑性マトリックスの総体積に対し20~55体積%含み、熱可塑性マトリックスは、熱可塑性マトリックスの総重量に対しPA-410を少なくとも50重量%、より好ましくはPA-410を少なくとも60重量%、さらに好ましくはPA-410を少なくとも70重量%含む。
【0028】
[他の成分]
熱可塑性マトリックスは、任意選択により、次に示す成分:熱安定剤、難燃剤、着色剤、滑剤、離型剤、UV安定剤、耐衝撃性改良剤、核形成剤、ニグロシン、レーザー吸収材およびこれらの組合せ等のいずれかを含む。これらの成分は当業者に知られており、通常は少量で、例えば熱可塑性マトリックスの総重量に対し0.001重量%~10重量%等で存在する。
【0029】
好ましくは、熱可塑性マトリックスは、無機安定剤、一次酸化防止剤性能を付与する基(primary antioxidant group)を含む有機安定剤、ヒンダードアミン基を含む有機安定剤およびこれらの組合せの群から選択される熱安定剤を含む。好ましくは、熱安定剤は、熱可塑性マトリックスの総重量に対し0.01重量%~8重量%の量で存在する。無機安定剤は公知であり、例えば、銅化合物およびハロゲン化酸基(halogenide acid group)を含む塩、例えば、ヨウ化物塩または臭化物塩である。好適な銅化合物の適切な例として、ハロゲン化銅(I)、好ましくはヨウ化銅(CuI)および他の銅塩、例えば、酢酸銅、硫酸銅およびクッパー(cupper)ステアレート等が挙げられる。ハロゲン化酸基を含む塩として、好ましくは、ヨウ化カリウム(KI)の臭化カリウム(KBr)が使用される。最も好ましくは、ヨウ化銅および臭化カリウム(CuI/KBr)の組合せが使用される。一次酸化防止剤性能付与基を含む有機安定剤は、例えば、フェノール系酸化防止剤や芳香族アミン等のラジカル捕捉剤であり、これらはそれ自体公知である。本発明によるテープに含まれるヒンダードアミンを含む好適な有機安定剤(ヒンダードアミン安定剤;HASとしても知られる)は、例えば、置換ピペリジン化合物から誘導されたHAS化合物、特に、アルキル置換されたピペリジニルまたはピペラジノン化合物および置換されたアルコキシペリジニル(alkoxy peridinyl)化合物から誘導された任意の化合物である。より好ましくは、熱可塑性マトリックスは、無機安定剤を、ヒンダードアミン基を含む有機安定剤および一次酸化防止剤を含む有機安定剤の両方と組み合わせて用いる熱安定剤の組合せを含む。これら3種の安定剤を組み合わせることによりUV安定性が向上する。
【0030】
一実施形態において、本発明による容器はライナーを含む。ライナーは当業者に知られている。これは非構造部材と称され、後段で、熱可塑性マトリックスに埋め込まれた連続繊維で、例えばテープを巻回する形で覆うことができる。したがってライナーは、中空体を作製するためのプロセスにおいて支持体として機能することができるが、これを別の支持体の上に作製することもできる。ライナーは、流体またはガスとテープとの間にバリア性を付与し、特に、漏出およびライナー周囲に巻回されたテープの化学的劣化を防止することを意図している。一般に、ライナーの周囲には、衝撃による損傷を防御する盾となるように保護外殻が設けられる。ライナーは、熱可塑性組成物に適したポリアミドと類似のポリアミドを含むポリマーから作製することができるが、ライナーを、異なるポリアミド、例えば、容易に入手可能なポリアミドであるポリアミド-6またはポリアミド-66またはこれらのブレンド物等を含むポリマーから作製することもできる。ライナーは、ポリマーから作製することもできるし、または熱安定剤、難燃剤、着色剤、滑剤、離型剤、UV安定剤、耐衝撃性改良剤、核形成剤、ニグロシン、レーザー吸収材およびこれらの組合せ等の成分をさらに含む組成物から作製することもできる。
【0031】
ライナーは、米国特許出願公開第20140034654号明細書に開示されている組成物から作製することができる(当該明細書を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)。好ましくは、ライナーは、金属および/またはPA-6またはPA-66、PA-410、PA-6T/6Iエチレンビニルアルコール(EVOH)またはこれらの組合せの群から選択される熱可塑性ポリマーを含む。
【0032】
ライナーは、少なくとも1つの層を含むテープを巻回することにより作製することができるが、ライナーは1を超える層を含むこともできる。これらの少なくとも1つの層は、バリア機能を高めるために、例えば、EVOHまたは金属とすることができる。任意選択により、接着性を高めるための結合層を存在させることができる。ライナーは、米国特許出願公開第2013105501号明細書に開示されているようなテープの巻回のみならず、ブロー成形、チューブ押出、射出成形および/または回転成形により作製することもできる。チューブ押出を利用した場合、ライナーは、通常、押出成形されたチューブにドーム部を溶着させることにより作製することができる。その場合、ドーム部は射出成形により作製することができる。ライナーを含む本発明による容器の利点は、容器にガスを充填するかまたは容器を空にする際の温度変化に起因して観測される座屈戻り(debuckling)がより小さくなることにある。座屈は当業者に知られており、熱可塑性ポリマー巻回物が連続繊維と一緒にライナー材料から分離してしまうことである。驚くべきことに、本発明による容器は座屈がより少なく、そのため、タンクの寿命を延長することが可能になると共に、ライナーが破裂する可能性が低くなる。したがって、本発明による容器は単層とすることもできる。これは、本明細書においては、容器が連続繊維および熱可塑性マトリックスのみから作製されることと理解される。本発明の容器はまた、1を超える層を有することもできる。これは、本明細書においては、連続繊維および熱可塑性マトリックスの層と、少なくとも1つのさらなる層、例えば、上に述べたライナー等とを有することと理解される。単層容器の利点は容器の再生利用が非常に容易になることにある。
【0033】
本発明による容器は、好ましくは、熱可塑性マトリックス中に埋め込まれた連続繊維を含むテープを用いることにより作製された中空体を含む。したがって本発明はまた、次に示すステップを含む中空体を作製するためのプロセスにも関する:
a.支持体を準備するステップと;
b.連続繊維を準備すると共に熱可塑性マトリックスを準備するステップ;または連続繊維および熱可塑性マトリックスを含むテープを準備するステップと;
c.連続繊維および熱可塑性マトリックスまたはテープを支持体の周囲に巻回しながら、連続繊維および熱可塑性マトリックスまたはテープを熱によって一体化(consolidate)させ、それにより中空体を作製するステップと;
d.中空体が固化するように冷却するステップと;
を含み、熱可塑性マトリックスは、1種以上の脂肪族モノマー単位を含む1種以上のポリアミドを含み、
この1種以上のポリアミドは、
・この1種以上のポリアミド中の異なる脂肪族モノマー単位の種類数を特定し;
・これらの異なる脂肪族モノマー単位のそれぞれについて、脂肪族モノマー単位当たりのCH2基の個数を決定し;
・こうして決定したCH2基の個数の総和を算出し;
・上記総和を、1種以上のポリアミド中の異なる脂肪族モノマー単位の種類数で除算する;
ことにより算出されるCH2比が、少なくとも5.5および10未満であり、この算出には、1種以上のポリアミド中に、1種以上のポリアミドの総重量に対し少なくとも10重量%の量で存在する脂肪族モノマー単位のみを考慮に入れる。
【0034】
本明細書におけるテープとは、長手方向、幅、厚みおよび断面のアスペクト比(すなわち、幅に対する厚みの比)を有する細長い物体と理解される。上記断面はテープの長手方向に対し実質的に垂直なものと定められる。テープの長手方向すなわち縦方向は連続繊維の向きと基本的に一致する。テープの長さ寸法は特に制限されない。長さは10kmを超えてもよく、これは主として連続繊維と、テープの製造に用いられるプロセスとに依存する。しかしながら、上記テープは、都合により、想定されている用途の要件に応じてより短い寸法で製造することができる。
【0035】
テープの厚みは、通常、100マイクロメートル~500マイクロメートルの間にある。その理由は、厚肉になるほど巻回が難しくなるためである。より薄肉のテープの欠点は、中空体を得るためにより多くの巻回が必要になることにある。
【0036】
本明細書における幅とは、テープ断面の外周の最も遠い2点間の寸法と理解され、上記断面はテープの長さと直交する。本明細書における厚みとは、テープの幅と直交する、上記断面の外周の2点間の距離と理解される。テープの幅および厚みは、当該技術分野において公知の方法に従い、例えば、それぞれ、定規および顕微鏡またはミクロメーターを利用して測定することができる。
【0037】
支持体は、米国特許出願公開第2013105501号明細書のプロセスに開示されているようなマンドレルであってもよいし、あるいは、例えば、膨張可能な風船、不活性充填材(砂、滑石等)を用いて上に開示したように作製されたライナーであってもよい。したがって支持体は、中空体の一部となることもできるし、中空体を製造した後に取り出すこともできる。
【0038】
巻回は連続繊維および熱可塑性マトリックスを含むテープの形態で実施することもできるが、巻回は連続繊維および熱可塑性マトリックスを別々に用いて実施することもできる。巻回は、支持体を所定の位置に保持したまま実施することもできるし、または支持体を移動させることにより実施することもできる。
【0039】
任意選択により、ステップc)の前に、例えばバリア性を高めることを目的として、上に開示したように支持体の周囲に他の材料を巻回して一体化することによりライナーを形成することができる。この材料は、例えば、EVOH、PA-6、PA-66、PA-410、PA-610、PA-612、金属またはこれらの組合せを含むことができる。これは支持体が容器の一部とならない場合に特に有利である。その場合、これらの他の材料は、バリア性を高めるために利用することができる。好ましくは、このステップc)の前に用いられる他の材料はPA-6、PA-410から選択される。その理由は、これらの材料がバリア機能および再生利用性に優れているためである。
【0040】
一体化は、好ましくは、レーザー(例えば赤外レーザー)または加熱要素(オーブン等)等によって供与される熱によって実施される。
【0041】
米国特許出願公開第2013105501号明細書には、テープを支持体となるマンドレルの周囲に巻回する方法が開示されている。マンドレルは一体化を行った後に取り出される。米国特許出願公開第2013105501号明細書を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。容器はまた、例えば国際公開第14040871A1号パンフレットに開示されているいわゆるレーザー法で作製することもできる。レーザー法を採用する場合、熱可塑性マトリックスに埋め込まれた連続繊維を含むテープは、レーザーから発熱させることを目的としたレーザー吸収材を含むことができる。レーザー吸収材は当業者に知られており、例えばカーボンブラックが挙げられる。レーザー吸収材の他の例としては、銅、被覆ビスマス(coated bismuth)、スズ、アルミニウム、亜鉛、銀、チタン、アンチモン、マンガン、鉄、ニッケル、クロム等の金属の酸化物、水酸化物、硫化物、硫酸塩およびリン酸塩、レーザー吸収性(無機または)有機色素または金属酸化物被覆フレークが挙げられる。好ましくは、レーザー吸収材は、三酸化アンチモン、二酸化スズ、チタン酸バリウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、リベテナイト(copper hydroxy phosphate)、オルトリン酸銅、水酸化銅、アンチモン酸化スズ、アントラキノンまたはアゾ染料から選択される。
【0042】
本発明による容器は、破壊圧力を少なくとも25barとすることができ、これは液化石油ガス(LPG)または空気または水または窒素または酸素を収容する容器に通常要求される破壊圧力である。驚くべきことに、この容器は、破壊圧力を少なくとも300barとすることができ、これは例えば、圧縮天然ガス(CNG)を収容する容器に要求される破壊圧力である。水素容器の場合、本発明による容器を用いることにより破壊圧力を少なくとも1500barに到達させることができる。破壊圧力はECE R110に記載されている静水圧破壊試験に準拠して測定される。
【0043】
驚くべきことに、本発明による容器は火炎暴露試験に合格することができる。
【0044】
[実施例]
熱可塑性複合材圧力容器に使用するための適合性を示すために様々な熱可塑性マトリックスについて測定を行った。様々なCH2比を有する様々なポリアミドについて試験を行った。結果を表2に示す。
【0045】
耐酸性試験:表2に記載したポリアミドのアイゾット試験片(Izod bar)15本をペトリ皿内で30%H2SO4溶液に暴露した。液面の高さを2mmとし、厚み4mmの試験片の片面だけが浸かるようにした。各取り出し時間(25、50および100時間)毎に別々のペトリ皿を使用した。浸漬後、試験片の上半分が強酸と接触しないように注意しながら過剰の水で洗浄した。洗浄後の試験片を紙で乾かした。ISO 178に準拠する曲げ試験:曲げ試験を行う際は酸で処理された面を下にした(暴露されていない面を上に向けた)。
【0046】
表2から、CH2比が5.7~8.5の間にあるポリアミドが高い耐酸性および良好な構造健全性を兼ね備えていることが明らかである。良好な構造健全性は、酸暴露後の高い曲げ弾性率と、十分に高いHDTとを兼ね備えている場合に認められる。実施例2~3は全て酸暴露後の高い曲げ弾性率と十分に高いHDTとを兼ね備えており、したがって本発明による容器に採用される有力な候補である。
【0047】
最も好ましいポリアミドである実施例1のPA-410は、高い曲げ弾性率と高いHDTとが明らかに両立しており、驚くべきことに、容器に採用した場合、強度が非常に高く強靱な(robust)容器となった。
【0048】
PA-6を含むテープを巻回することにより中空体を作製した。次いで、テープの総重量を基準として連続ガラス繊維を65重量%およびPA-410を35重量%含むテープをマンドレルの周囲に巻回し、熱を利用してこれらの巻回物を一体化した。先行技術において知られている方法で中空体に口金を取り付けて容器を作製した。容器に天然ガスを充填し、容器を火炎暴露試験に付した。この試験はECE R110に記載されている。簡潔に説明すると、火炎暴露試験を行う間は、ガスを収容した容器の外側が850℃になるようにした。容器が爆発せず、収容されているガスが圧力開放装置を介して排気された場合、この容器は試験に合格となる。驚くべきことに、1種以上の脂肪族モノマー単位を含む1種以上のポリアミドを含む熱可塑性マトリックスを用いて製造された容器であって、この1種以上のポリアミドのCH2比が少なくとも5.5および10未満である(但し、1種以上のポリアミド中に1種以上のポリアミドの総重量に対し少なくとも10重量%の量で存在する脂肪族モノマー単位のみを考慮に入れる)容器は、PA-410の溶融温度が248℃であるにも拘わらず、つまり容器が暴露される温度よりも実質的に低くても、火炎暴露試験に合格する。本発明の容器による主要な成果は、高い安全性水準を維持したまま多量の気体または液体を収容することができ、容器の耐用期間が過ぎた後に、熱硬化性タンクでは不可能であった重要な用途への再生利用を行うことができる熱可塑性複合材圧力容器が得られることにある。
【0049】