(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】等速ジョイントの構成部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/40 20060101AFI20231031BHJP
F16D 3/20 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C21D9/40 A
F16D3/20 J
(21)【出願番号】P 2018241873
(22)【出願日】2018-12-25
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 一紀
(72)【発明者】
【氏名】福本 陽平
(72)【発明者】
【氏名】濱島 康治
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 啓市
(72)【発明者】
【氏名】池田 憲次郎
(72)【発明者】
【氏名】吉永 慎太郎
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-067345(JP,A)
【文献】特開2014-233782(JP,A)
【文献】特開2013-036339(JP,A)
【文献】特開2011-074421(JP,A)
【文献】特開2018-090837(JP,A)
【文献】特開2008-231451(JP,A)
【文献】特開2013-076155(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195652(WO,A1)
【文献】特開2010-280962(JP,A)
【文献】中国実用新案第202595205(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/02- 1/84
C21D 8/00- 8/10
C21D 9/00- 9/44, 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
等速ジョイントの構成部材の製造方法であって、
前記構成部材の素材を所定の加工温度域に加熱した状態で前記素材に対し塑性加工を行う塑性加工工程と、
前記塑性加工工程における前記加工温度域への加熱を前記素材の焼き入れのための加熱として利用して、前記塑性加工の後に前記素材を冷却することにより前記素材の焼き入れを行う焼き入れ工程と、
前記焼き入れ工程の後に前記素材に対し塗装を行う塗装工程と、
前記塗装工程の後に前記素材に対し所定の乾燥温度域で塗料の乾燥を行う乾燥工程と、
前記乾燥工程における前記乾燥温度域への加熱を前記素材の焼き戻しのための加熱として利用して、前記素材を冷却することにより前記素材の焼き戻しを行う焼き戻し工程と、
を備え、
前記塗料は、水溶性防錆塗料であり、塗料成分にエポキシ系樹脂材料を含み、
前記焼き戻しの温度は、150℃以上200℃以下に設定される、等速ジョイントの構成部材の製造方法。
【請求項2】
前記等速ジョイントの構成部材の製造方法は、さらに、
前記焼き入れ工程の後で且つ前記塗装工程の前に、前記素材の仕上げ旋削加工を行う仕上げ旋削加工工程を備える、請求項1に記載の等速ジョイントの構成部材の製造方法。
【請求項3】
前記塑性加工工程における塑性加工完了直後の前記素材の温度は、前記素材の変態点以上の温度である、請求項1又は2に記載の等速ジョイントの構成部材の製造方法。
【請求項4】
前記等速ジョイントの構成部材の製造方法は、さらに、
前記塑性加工工程の前に、不活性ガス雰囲気において前記素材の加熱を行う塑性加工/焼き入れ用加熱工程を備える、請求項1-3の何れか一項に記載の等速ジョイントの構成部材の製造方法。
【請求項5】
等速ジョイントの構成部材の製造方法であって、
前記構成部材の素材に対し焼き入れを行う焼き入れ工程と、
前記焼き入れ工程の後に前記素材に対し塗装を行う塗装工程と、
前記塗装工程の後に前記素材に対し所定の乾燥温度域で塗料の乾燥を行う乾燥工程と、
前記乾燥工程における前記乾燥温度域への加熱を前記素材の焼き戻しのための加熱として利用して、前記素材を冷却することにより前記素材の焼き戻しを行う焼き戻し工程と、
を備え、
前記塗料は、水溶性防錆塗料であり、塗料成分にエポキシ系樹脂材料を含み、
前記焼き戻しの温度は、150℃以上200℃以下に設定される、等速ジョイントの構成部材の製造方法。
【請求項6】
前記等速ジョイントの構成部材の製造方法は、さらに、
前記焼き入れ工程の直後に、前記素材のスケールの除去を行うスケール除去工程を備える、請求項1-5の何れか一項に記載の等速ジョイントの構成部材の製造方法。
【請求項7】
前記焼き入れ工程における前記素材の変形、ひずみを抑制するため、前記素材を拘束して前記焼き入れを行う、請求項1-6の何れか一項に記載の等速ジョイントの構成部材の製造方法。
【請求項8】
前記焼き入れ工程における前記素材の変形、ひずみを除去するため、前記焼き入れ工程の後に前記素材の矯正を行う、請求項1-6の何れか一項に記載の等速ジョイントの構成部材の製造方法。
【請求項9】
前記焼き戻しの温度は、前記エポキシ系樹脂材料を含む前記塗料が焼けて粉状になる温度よりも低い温度に設定される、請求項1-8の何れか一項に記載の等速ジョイントの構成部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントの構成部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される等速ジョイントは、例えばボール型ジョイントの場合、有底筒状の外側ジョイント部材と、外側ジョイント部材の内側に配置される内側ジョイント部材と、外側ジョイント部材に形成された複数の外側ボール溝と内側ジョイント部材に形成された複数の内側ボール溝との間に配置される複数のボールと、ボールを保持する保持器とを備える。保持器に保持されたボールは、外側ボール溝の転動面と内側ボール溝の転動面とにより転動可能に支持され、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材との間でトルクを伝達する。
【0003】
特許文献1には、等速ジョイントの構成部材である外側ジョイント部材の製造方法が記載されている。この製造方法は、外側ジョイント部材となる素材を所定温度に加熱して塑性加工を施す。そして、しごき加工、荒旋削加工、転造加工、高周波焼き入れ、焼き戻し、仕上げ旋削加工、塗装、塗料乾燥等を施して最終的な外側ジョイント部材とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の等速ジョイントの外側ジョイント部材の製造方法では、塑性加工時の加熱・冷却処理と、焼き入れ時の加熱・冷却処理と、焼き戻し時の加熱・冷却処理と、塗料乾燥時の加熱・冷却処理の計4回の加熱・冷却処理が必要となる。このため、加熱設備の設置や加熱によるエネルギ消費がコスト高となる問題がある。
【0006】
本発明は、低コストな等速ジョイントの構成部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、等速ジョイントの構成部材の製造方法であって、
前記構成部材の素材を所定の加工温度域に加熱した状態で前記素材に対し塑性加工を行う塑性加工工程と、
前記塑性加工工程における前記加工温度域への加熱を前記素材の焼き入れのための加熱として利用して、前記塑性加工の後に前記素材を冷却することにより前記素材の焼き入れを行う焼き入れ工程と、
前記焼き入れ工程の後に前記素材に対し塗装を行う塗装工程と、
前記塗装工程の後に前記素材に対し所定の乾燥温度域で塗料の乾燥を行う乾燥工程と、
前記乾燥工程における前記乾燥温度域への加熱を前記素材の焼き戻しのための加熱として利用して、前記素材を冷却することにより前記素材の焼き戻しを行う焼き戻し工程と、
を備え、
前記塗料は、水溶性防錆塗料であり、塗料成分にエポキシ系樹脂材料を含み、
前記焼き戻しの温度は、150℃以上200℃以下に設定される、等速ジョイントの構成部材の製造方法にある。
【0008】
これにより、塑性加工時の加熱・冷却工程と焼き入れ時の加熱・冷却工程を1回の加熱・冷却処理で済ませることが可能となり、加熱設備の設置コストや加熱によるエネルギ消費コストを大幅に抑制できる。
【0009】
本発明の他の態様は、等速ジョイントの構成部材の製造方法であって、
前記構成部材の素材に対し焼き入れを行う焼き入れ工程と、
前記焼き入れ工程の後に前記素材に対し塗装を行う塗装工程と、
前記塗装工程の後に前記素材に対し所定の乾燥温度域で塗料の乾燥を行う乾燥工程と、
前記乾燥工程における前記乾燥温度域への加熱を前記素材の焼き戻しのための加熱として利用して、前記素材を冷却することにより前記素材の焼き戻しを行う焼き戻し工程と、
を備え、
前記塗料は、水溶性防錆塗料であり、塗料成分にエポキシ系樹脂材料を含み、
前記焼き戻しの温度は、150℃以上200℃以下に設定される、等速ジョイントの構成部材の製造方法にある。
【0010】
これにより、塗料乾燥時の加熱・冷却工程と焼き戻し時の加熱・冷却工程を1回の加熱・冷却処理で済ませることが可能となり、加熱設備の設置コストや加熱によるエネルギ消費コストを大幅に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態の製造方法に適用される等速ジョイントの軸方向断面を示す図である。
【
図2】等速ジョイントの構成部材の第一の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図3】第一の製造方法を構成する工程と素材の温度との関係を示す図である。
【
図4】等速ジョイントの構成部材の第二の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図5】第二の製造方法を構成する工程と素材の温度との関係を示す図である。
【
図6】等速ジョイントの構成部材の第三の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図7】第三の製造方法を構成する工程と素材の温度との関係を示す図である。
【
図8】等速ジョイントの構成部材の第四の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図9】第四の製造方法を構成する工程と素材の温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1.等速ジョイントの概略構成)
本発明の実施形態の製造方法に適用される等速ジョイントの概略構成について説明する。等速ジョイントは、ボール型ジョイント、トリポード型ジョイント等、種々のジョイントを適用できる。ボール型ジョイントの例としては、固定式ボール型等速ジョイント(BJ、UFJ等)、スライド式ボール型等速ジョイント(DOJ、LJ等)等がある。
【0013】
等速ジョイントは、少なくとも、外側ジョイント部材と、内側ジョイント部材と、転動体とを備える。ここでは、等速ジョイントは、固定式ボール型等速ジョイントを例にあげる。従って、
図1に示すように、等速ジョイント100は、外側ジョイント部材10と、内側ジョイント部材20と、保持器30と、転動体としての6つのボール40とを備える。
【0014】
この等速ジョイント100は、車両に搭載されるジョイント中心固定型の等速ジョイントであって、ドライブシャフトのアウトボードジョイントとして好適に使用される。なお、本実施形態の製造方法に適用される等速ジョイント100の構成部材は、外側ジョイント部材10であるため、
図1では、内側ジョイント部材20、保持器30及びボール40は仮想線(一点鎖線)で示す。
【0015】
外側ジョイント部材10は、中心軸線L1方向一方側(
図1左側)が開口する有底筒状のカップ部11と、中心軸線L1方向他方側(
図1右側)へ延び、カップ部11に一体形成される連結軸部12を有する。カップ部11には、凹球面状の内周面11aに中心軸線L1方向に延びる外側ボール溝部11bが形成される。連結軸部12には、図示しない他の動力伝達軸に連結するためのスプライン部12a、ネジ部12b及びカシメ溝部12cが形成される。
【0016】
内側ジョイント部材20は、環状に形成され、凸球面状の外周面20aに中心軸線L2方向に延びる内側ボール溝部20bが形成される。保持器30には、ボール40を1つずつ収容して保持可能な複数の窓部30aが形成される。保持器30は、外側ジョイント部材10の内周面11aと内側ジョイント部材20の外周面20aとの間に配置される。そして、保持器30に保持されたボール40は、外側ボール溝部11bと内側ボール溝部20bとの間に転動可能に配置される。
【0017】
内側ジョイント部材20は、ボール40を転動させながら、外側ジョイント部材10に対してジョイント中心Oまわりに相対回転する。即ち、内側ジョイント部材20は、外側ジョイント部材10に対して角度(ジョイント角)をとることができる。保持器30は、ボール40の転動に伴ってジョイント中心Oまわりを回転する。保持器30に保持されたボール40は、外側ジョイント部材10と内側ジョイント部材20との間でトルクの伝達を行う。
【0018】
(2.外側ジョイント部材の製造の特徴)
外側ジョイント部材10の製造工程は、
図3に示すように、外側ジョイント部材10となる素材(以下、加工等の処理が施されたものも「素材」という)に対し塑性加工のため及び焼き入れのための加熱を行う塑性加工/焼き入れ用加熱工程(
図3の工程P1)と、素材に対し塑性加工を行う塑性加工工程(
図3の工程P2)と、素材に対し焼き入れのための冷却を行う焼き入れ用冷却工程(
図3の工程P3)を備える。
【0019】
さらに、素材のスケールの除去を行うスケール除去工程(
図3の工程P4)と、素材の仕上げ旋削加工を行う仕上げ旋削加工工程(
図3の工程P5)と、素材に対し塗装を行う塗装工程(
図3の工程P6)と、素材に対し塗料の乾燥のため及び焼き戻しのための加熱を行う乾燥/焼き戻し用加熱工程(
図3の工程P7)と、素材に対し焼き戻しのための冷却を行う焼き戻し用冷却工程(
図3の工程P8)を備える。
【0020】
ここで、発明の解決課題で述べたように、従来の等速ジョイントの外側ジョイント部材の製造では、外側ジョイント部材となる素材に対し、塑性加工時の加熱・冷却工程と、焼き入れ時の加熱・冷却工程と、焼き戻し時の加熱・冷却工程と、塗料乾燥時の加熱・冷却工程の計4回もの加熱・冷却処理が必要となる。
【0021】
本実施形態の等速ジョイント100の外側ジョイント部材10の製造では、素材に対する塑性加工時の加工温度域への加熱を素材の焼き入れのための加熱として利用して、塑性加工の後に素材を冷却することにより素材の焼き入れを行う(
図3の工程P1,P3)。さらに、素材に対する塗料乾燥時の乾燥温度域への加熱を素材の焼き戻しのための加熱として利用して、素材を冷却することにより素材の素材焼き戻しを行う(
図3の工程P7,P8)。
【0022】
これにより、塑性加工時及び焼き入れ時の加熱・冷却工程と、塗料乾燥時及び焼き戻し時の加熱・冷却工程の計2回の加熱・冷却処理で済ませることが可能となり、加熱設備の設置コストや加熱によるエネルギ消費コストを大幅に抑制できる。以下、製造工程の特徴について詳述する。
【0023】
本実施形態の外側ジョイント部材10は、炭素含有量0.40%~0.60%の鋼材(S55C)で成り、素材は焼き入れ後(冷却後)に高硬度となるため旋削加工が困難となる。そこで、冷却前の所定の加工温度域での塑性加工工程(4セット)、具体的には温間鍛造加工及び温間しごき加工において主な加工を完了する。すなわち、温間鍛造加工においては、カップ部11の外周及び連結軸部12の外周の荒加工を完了する。温間しごき加工においては、カップ部11の内周面11a及び連結軸部12のスプライン部12aの仕上げ加工と、外側ボール溝部11bの荒加工を完了する。従来、スプライン部12aは、旋削荒加工及び転造加工で形成していたが、本実施形態では、旋削荒加工工程及び転造加工工程を省略できる。
【0024】
そして、上述の所定の加工温度域での塑性加工完了後、直ちに素材を冷却することにより素材の焼き入れを行う。この焼き入れの冷却開始温度(塑性加工完了直後の温度)Teとしては、低温過ぎると焼き入れ温度不足となる。さらに、鋼材の変態(結晶構造が変化する現象)は回避する必要がある。以上から、焼き入れの冷却開始温度(塑性加工完了直後の温度)Teは、少なくとも鋼材の変態点(A1点)である727°C以上(変態点以上)、好ましくは鉄‐炭素二元系平衡状態図のA3線以上の温度、本例では、870°Cに設定される。この焼き入れは、全体加熱された素材に水又は油を噴射して急冷するズブ焼き入れであり、素材全体にわたって焼き入れされる処理となるため、従来の高周波による素材表面の焼き入れ処理よりも強度の向上が図れる。よって、外側ジョイント部材10としたとき、同一寸法の場合は機能向上が図れ、また同一強度の場合は軽量化が図れる。
【0025】
一方、塑性加工前の加熱(焼き入れのための加熱)による塑性加工開始時の温度Tsは、塑性加工工程において徐々に低下する(詳細には、一つのセット時に変形発熱し、セットとセットの合い間に空気冷却される)。よって、塑性加工開始時の温度Tsとしては、塑性加工時間(本例では、40sec)が経過した後に、上記焼き入れの冷却開始温度Teを確保できる温度であることが必要となる。ただし、高温過ぎると組織の粗大化が発生するおそれがある。以上から、塑性加工開始時の温度Tsは、本例では、900°C以上1050°C以下、望ましくは950°C以上990°C以下に設定される。なお、素材の大きさ等によっては、上述の塑性加工工程における温度域を確保するため、塑性加工時間を短縮させる必要が生じる場合もある。
【0026】
ここで、塑性加工前の加熱(焼き入れのための加熱)を空気雰囲気中で行うと、素材の表面から炭素が失われる表層脱炭が生じる。従来は、塑性加工後の荒旋削加工により素材の表層脱炭層を除去できた。しかし、本実施形態の温間鍛造加工においては、カップ部11の外周及び連結軸部12の外周の荒加工が行われるので、従来の荒旋削加工は不要となる。このため、素材の表層脱炭層の除去の機会は無く、外側ジョイント部材10には、温間鍛造加工の鍛造肌がそのまま製品肌として残ることになる。そこで、塑性加工前の加熱を窒素ガス雰囲気(不活性ガス雰囲気)中で行うようにして、素材における表層脱炭を防止する。なお、窒素ガス以外に、不活性ガスであればアルゴンガス等でもよい。
【0027】
また、素材の焼き入れ中に酸化により素材表面にスケールが付着する。そこで、焼き入れ直後に、ショットブラスト処理(アルミナ粒子等による)、ショットピーニング処理、バレル処理、ウエットブラスト処理等により素材のスケールの除去を行う。また、上述のように、温間鍛造加工においては、カップ部11の外周及び連結軸部12の外周の荒加工を行い、温間しごき加工においては、外側ボール溝部11b及び内側球面部11c(
図1参照)の荒加工を行う。よって、これらの荒加工の部位に対し仕上げ旋削加工を行う。さらに、この仕上げ旋削加工において、連結軸部12のネジ部12b及びカシメ溝部12cも加工する。従来、ネジ部12bは、転造加工で形成していたが、本実施形態では、転造加工工程を省略できる。
【0028】
また、焼き戻し後の素材の硬度は50Hv程低下するため、所定の硬度を維持するための焼き戻しの開始温度(塗料乾燥の開始温度)Tssとしては、100°C以上の温度が必要となる。一方、本例で使用する塗料の種類は、水溶性高防錆塗料であり、塗料成分にエポキシ系樹脂材料が含まれているため、200°Cを超えると塗料が焼けて粉状になる。また、塗装をしていない部分では、200°Cを超えると酸化して茶褐色の金属表面色が出てくる。以上から、焼き戻しの開始温度(塗料乾燥の開始温度)Tssとしては、150°C以上200°C以下に設定される。
【0029】
(3.等速ジョイントの構成部材の製造方法)
次に、本発明の実施形態の等速ジョイント100の外側ジョイント部材10の製造方法について図を参照して説明する。上述のように、外側ジョイント部材10の製造方法は、素材に対し塑性加工のため及び焼き入れのための加熱を行い、素材に対し焼き入れのための冷却を行う。さらに、素材に対し塗料の乾燥のため及び焼き戻しのための加熱を行い、素材に対し焼き戻しのための冷却を行う。
【0030】
ただし、別の製造方法としては、素材に対し塑性加工のため及び焼き入れのための加熱を行うが、素材に対し塗料の乾燥のため及び焼き戻しのための加熱を行わない製造方法や、素材に対し塗料の乾燥のため及び焼き戻しのための加熱を行うが、素材に対し塑性加工のため及び焼き入れのための加熱を行わない製造方法も考えられる。これらの方法でも加熱・冷却工程を従来よりも減少させることが可能であり、加熱設備の設置コストや加熱によるエネルギ消費コストを大幅に抑制できるからである。以下、順次説明する。
【0031】
先ず、第一の製造方法について説明する。第一の製造方法は、先ず、外側ジョイント部材10となる素材を窒素ガスが充填された鍛造用ビレットヒータに通し、素材の温度が塑性加工開始時の温度に達するまで加熱する(
図2のステップS1、
図3のP1、塑性加工/焼き入れ用加熱工程)。そして、加熱された素材をプレス機械にセットして塑性加工である温間鍛造加工でカップ部11の外周及び連結軸部12の外周の荒加工を行い、塑性加工である温間しごき加工でカップ部11の内周面11a及び連結軸部12のスプライン部12aの仕上げ加工と、外側ボール溝部11b及び内側球面部11cの荒加工を行う(
図2のステップS2、
図3のP2、塑性加工工程)。
【0032】
続いて、塑性加工された素材に水又は油を噴射して急冷し焼き入れを行う(
図2のステップS3、
図3のP3、焼き入れ用冷却工程)。素材の温度が室温まで冷却されたら(
図2のステップS4、
図3のP3、焼き入れ用冷却工程)、素材のスケールの除去を行う(
図2のステップS5、
図3のP4、スケール除去工程)。そして、スケール除去された素材を旋削加工装置にセットし、カップ部11の外周、連結軸部12の外周及び外側ボール溝部11b及び内側球面部11cの仕上げ旋削加工、並びに連結軸部12のネジ部12b及びカシメ溝部12cの仕上げ旋削加工を行う(
図2のステップS6、
図3のP5、仕上げ旋削加工工程)。
【0033】
次に、旋削加工された素材を塗装機に通して塗装し(
図2のステップS7、
図3のP6、塗装工程)、続けて乾燥機に通して素材の温度が焼き戻しの開始温度に達するまで加熱するとともに、素材の塗料を乾燥する(
図2のステップS8、
図3のP7、乾燥/焼き戻し用加熱工程)。そして、素材の塗料が乾燥し、素材の温度が焼き戻しの開始温度に達してから所定の焼き戻し時間が経過したら(
図2のステップS9、
図3のP7、乾燥/焼き戻し用加熱工程)、素材を乾燥機から取り出して冷却し(
図2のステップS10、
図3のP8、焼き戻し用冷却工程)、全ての処理を終了する。
【0034】
第一の製造方法では、素材に対し塑性加工のため及び焼き入れのための加熱を行い、素材に対し焼き入れのための冷却を行う。さらに、素材に対し塗料の乾燥のため及び焼き戻しのための加熱を行い、素材に対し焼き戻しのための冷却を行う。これにより、塑性加工時及び焼き入れ時の加熱・冷却工程、塗装乾燥時及び焼き戻し時の加熱・冷却工程の計2回の加熱・冷却処理で済ませることが可能となり、従来方法よりも加熱設備の設置コストや加熱によるエネルギ消費コストを大幅に抑制できる。
【0035】
次に、第二の製造方法について説明する。第二の製造方法は、第一の製造方法での塑性加工/焼き入れ用加熱工程、塑性加工工程、焼き入れ用冷却工程及びスケール除去工程は同様である(
図4のステップS11-S15、
図5のP1-P4)。そして、スケール除去された素材を加熱炉に通して素材の温度が焼き戻しの開始温度に達するまで加熱する(
図4のステップS16、
図5のP71、焼き戻し用加熱工程)。そして、素材の温度が焼き戻しの開始温度に達してから所定の焼き戻し時間が経過したら(
図4のステップS17、
図5のP71、焼き戻し用加熱工程)、素材を加熱炉から取り出して冷却する(
図4のステップS18、
図5のP81、焼き戻し用冷却工程)。
【0036】
そして、冷却した素材を旋削加工装置にセットし、カップ部11の外周、連結軸部12の外周及び外側ボール溝部11b及び内側球面部11cの仕上げ旋削加工、並びに連結軸部12のネジ部12b及びカシメ溝部12cの仕上げ旋削加工を行う(
図4のステップS19、
図5のP5、仕上げ旋削加工工程)。このときの素材は焼き戻しされて硬度が低下しているため、仕上げ旋削加工を容易に行える。そして、旋削加工された素材を塗装機に通して塗装し(
図4のステップS20、
図5のP6、塗装工程)、続けて乾燥機に通して塗装を乾燥し(
図4のステップS21、
図5のP72、乾燥工程)、素材を乾燥機から取り出して冷却し(
図4のステップS22、
図5のP82)、全ての処理を終了する。
【0037】
第二の製造方法では、素材に対し塑性加工のため及び焼き入れのための加熱を行い、素材に対し焼き入れのための冷却を行う。これにより、塑性加工時及び焼き入れ時の加熱・冷却工程、塗料乾燥時の加熱・冷却工程及び焼き戻し時の加熱・冷却工程の計3回の加熱・冷却処理で済ませることが可能となり、従来方法よりも加熱設備の設置コストや加熱によるエネルギ消費コストを大幅に抑制できる。
【0038】
次に、第三の製造方法について説明する。第三の製造方法は、第一の製造方法での塑性加工/焼き入れ用加熱工程、塑性加工工程、焼き入れ用冷却工程、スケール除去工程、仕上げ旋削加工工程及び塗装工程は同様である(
図6のステップS31-S37、
図7のP1-P6)。そして、塗装した素材を乾燥機に通して塗料を乾燥し(
図6のステップS38、
図7のP72、乾燥工程)、素材を乾燥機から取り出して冷却する(
図6のステップS39、
図7のP82)。
【0039】
そして、冷却した素材を加熱炉に通して素材の温度が焼き戻しの開始温度に達するまで加熱する(
図6のステップS40、
図7のP71、焼き戻し用加熱工程)。そして、素材の温度が焼き戻しの開始温度に達してから所定の焼き戻し時間が経過したら(
図6のステップS41、
図7のP71、焼き戻し用加熱工程)、素材を加熱炉から取り出して冷却し(
図6のステップS42、
図7のP81、焼き戻し用冷却工程)、全ての処理を終了する。
【0040】
第三の製造方法では、素材に対し塑性加工のため及び焼き入れのための加熱を行い、素材に対し焼き入れのための冷却を行う。これにより、塑性加工時及び焼き入れ時の加熱・冷却工程、塗料乾燥時の加熱・冷却工程及び焼き戻し時の加熱・冷却工程の計3回の加熱・冷却処理で済ませることが可能となり、従来方法よりも加熱設備の設置コストや加熱によるエネルギ消費コストを大幅に抑制できる。
【0041】
次に、第四の製造方法について説明する。第四の製造方法は、焼き入れのための加熱は行わず、塑性加工のための加熱を行い、塑性加工を行って冷却する(
図8のステップS51-S53、
図9のP11,P21,P31、塑性加工用加熱工程、塑性加工工程、塑性加工用冷却工程)。そして、室温まで冷却された素材を加熱炉に通して素材の温度が焼き入れの開始温度に達するまで加熱する(
図8のステップS54、
図9のP12,P22、焼き入れ用加熱工程)。
【0042】
素材の温度が焼き入れの開始温度に達したら、素材に水又は油を噴射して急冷し焼き入れを行う(
図8のステップS55、
図9のP32、焼き入れ用冷却工程)。そして、素材の温度が室温まで冷却されたら(
図8のステップS56、
図9のP32、焼き入れ用冷却工程)、以降は、第一の製造方法でのスケール除去工程、仕上げ旋削加工工程、塗装工程、乾燥/焼き戻し用加熱工程、焼き戻し用冷却工程を行い(
図8のステップS57-S62、
図9のP4-8)、全ての処理を終了する。
【0043】
第四の製造方法では、素材に対し塗料(例えば水溶性塗料)の乾燥のため及び焼き戻しのための加熱を行い、素材に対し焼き戻しのための冷却を行う。これにより、塑性加工時の加熱・冷却工程、焼き入れ時の加熱・冷却工程、塗料乾燥時及び焼き戻し時の加熱・冷却工程の計3回の加熱・冷却処理で済ませることが可能となり、従来方法よりも加熱設備の設置コストや加熱によるエネルギ消費コストを大幅に抑制できる。
【0044】
(4.その他)
上述の実施形態の等速ジョイント100の外側ジョイント部材10の製造方法では、素材のスケール除去及び仕上げ旋削加工を含む構成を説明したが、素材の焼き入れ時にスケールが付着しない場合や、塑性加工で加工精度が出せる場合は、スケール除去工程及び仕上げ旋削加工工程の一方もしくは両方を含まない構成としてもよい。また、等速ジョイント100の構成部材としては、外側ジョイント部材10を例に説明したが、他の構成部材にも適用可能である。
【0045】
また、焼き入れ工程において素材の変形やひずみが発生する場合、素材の変形やひずみを抑制するため、金型等で素材を拘束して焼き入れを行うようにしてもよい。また、焼き入れ工程における素材の変形やひずみを除去するため、焼き入れ工程の後にプレス機等で素材の矯正を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10:外側ジョイント部材、 11:カップ部、 11a:カップ部の内周面、 11b:外側ボール溝部、 12:連結軸部、 12a:スプライン部、 12b:ネジ部、 12c:カシメ溝部、 100:等速ジョイント