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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】ドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
B23B51/00 S
B23B51/00 L
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019078605
(22)【出願日】2019-04-17
(65)【公開番号】P2020175465
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山本 匡
(72)【発明者】
【氏名】日比 貴大
【審査官】宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05273380(US,A)
【文献】特開2009-028895(JP,A)
【文献】特表2014-516813(JP,A)
【文献】特開2012-161912(JP,A)
【文献】国際公開第2012/095479(WO,A1)
【文献】特表2009-502538(JP,A)
【文献】特開2017-164836(JP,A)
【文献】特開2012-035359(JP,A)
【文献】特開2000-198011(JP,A)
【文献】実開昭52-095187(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00-51/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転されるドリル本体の先端部外周に、上記ドリル本体の先端逃げ面に開口して後端側に延びる切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面と上記先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたドリルであって、
上記切刃は、上記軸線に対する径方向内周側に位置する内周切刃と、この内周切刃の径方向外周側に連なる外周切刃とを備え、
これら内周切刃と外周切刃とは、上記軸線に対する径方向外周側に向かうに従い上記ドリル本体の後端側に向かうように傾斜しており、
上記内周切刃は、上記軸線に対する内周側の部分の先端角が90°~170°の範囲内とされ、
上記外周切刃は、上記軸線回りの回転軌跡の該軸線に沿った断面における上記軸線に対する径方向の幅が上記切刃の直径の5%~20%の範囲内とされるとともに、上記内周切刃の先端角よりも大きな先端角とされ
上記内周切刃は、さらに上記軸線に対する径方向内周側に位置する内周シンニング切刃と、この内周シンニング切刃の径方向外周側に連なる内周主切刃とを備え、
上記内周シンニング切刃の先端角が上記軸線に対する内周側の部分の上記内周切刃の先端角とされて90°~170°の範囲内とされるとともに、
上記内周主切刃の先端角は、上記内周シンニング切刃の先端角よりも小さく、
上記内周シンニング切刃は、上記軸線方向先端側から見て直線状に形成され、
上記内周主切刃は、上記軸線方向先端側から見て、上記内周シンニング切刃と鈍角に交差してドリル回転方向とは反対側に凹む凹曲線状に形成され、
上記外周切刃は、上記軸線方向先端側から見て、上記内周主切刃と鈍角に交差する直線状に形成されていることを特徴とするドリル。
【請求項2】
上記切屑排出溝は、20°~40°の範囲内の捩れ角で上記ドリル本体の後端側に向かうに従いドリル回転方向とは反対側に捩れていることを特徴とする請求項1に記載のドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線回りに回転されるドリル本体の先端部外周に、ドリル本体の先端逃げ面に開口して後端側に延びる切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面と先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたドリルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなドリルにおいて、例えば特許文献1には、座ぐり加工用ドリルとして、上記切刃が、ドリル回転方向前方側から見てドリル本体の外周側から順に、切刃の外周端から内周側に向かうに従い凹曲しつつ軸線方向後端側に延びた後に軸線方向先端側に延びる第1の凹曲線状切刃と、この第1の凹曲線状切刃に連なり、内周側に向かうに従いさらに凹曲しつつ軸線方向先端側に延びる第2の凹曲線状切刃と、この第2の凹曲線状切刃に鈍角をなして凹曲折するように交差して内周側に向かうに従い軸線方向に切刃の外周端を越えて先端側に直線状に延びる中心切刃とを備えたものが記載されている。
【0003】
ここで、上記第1、第2の凹曲線状切刃は軸線方向先端視においても凹曲線状をなすとともに、軸線方向先端視における第1の凹曲線状切刃の曲率半径が第2の凹曲線状切刃の曲率半径よりも大きくされている。また、第1の凹曲線状切刃が軸線方向後端側に最も後退する位置までの軸線からの半径R4は、切刃の外径Dに対して0.25×D~0.4×Dの範囲とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-104751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この特許文献1に記載されたドリルは、上述のように座ぐり加工用ドリルであるが、この特許文献1に記載されたドリルのように、切刃が外周端から内周側に向かうに従い軸線方向後端側に延びた後に軸線方向先端側に延びるドリルは、ステンレス鋼のような鋼材やアルミニウム等の金属材料よりなる被削材、またはこのような金属材料とFRPなどとの重ね板材に貫通穴をあける際に、抜け際のバリの発生を抑えることができる、いわゆるろうそくドリルとして知られている。
【0006】
このようなろうそくドリルは、例えば被削材の厚さすなわち貫通穴の深さが切刃の外径(直径)Dの3倍程度までの浅穴加工では、一定のバリの抑制効果を期待することができる。ところが、これ以上の深さの貫通穴をあける深穴加工では、切屑の分断が不十分となってしまい、切屑詰まりによるドリル本体の折損を招いたり、切屑がドリル本体に絡まって被削材を傷つけたりするおそれがある。
【0007】
特に、特許文献1に記載されたドリルにおいては、切刃が外周端から内周側に向かうに従い軸線方向後端側に延びる部分と軸線方向先端側に延びる部分とでは、切屑が生成される方向が反対向きとなるため、切屑が幅方向に2つに分割されて生成される。このため、上述のように分断が不十分であると、これらの切屑が絡まり合って切屑詰まりを生じ易くなる。
【0008】
また、特許文献1に記載されたドリルのように、第1の凹曲線状切刃が軸線方向後端側に最も後退する位置までの軸線からの半径R4が、切刃の外径Dに対して0.25×D~0.4×Dの範囲とされていて、切刃が外周端から内周側に向かうに従い軸線方向後端側に延びる部分が大きい場合にも、略等しい幅の2つの切屑が分割されて生成されるので、これらの切屑同士が絡まり易くなる。さらに、切刃の外周端においては、外周端から内周側に向かうに従い軸線方向後端側に延びる部分とドリル本体の外周面とが鋭角に交差することになるため、強度が不足して欠損が生じ易い。
【0009】
本発明は、このような背景の下になされたもので、貫通穴の深さが深い深穴加工でも、切屑詰まりや切屑の絡まりを防いでドリル本体が折損したり被削材が傷ついたりするのを防止するとともに、切刃の欠損も防ぎつつ、バリの発生を抑制することが可能なドリルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転されるドリル本体の先端部外周に、上記ドリル本体の先端逃げ面に開口して後端側に延びる切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面と上記先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたドリルであって、上記切刃は、上記軸線に対する径方向内周側に位置する内周切刃と、この内周切刃の径方向外周側に連なる外周切刃とを備え、これら内周切刃と外周切刃とは、上記軸線に対する径方向外周側に向かうに従い上記ドリル本体の後端側に向かうように傾斜しており、上記内周切刃は、上記軸線に対する内周側の部分の先端角が90°~170°の範囲内とされ、上記外周切刃は、上記軸線回りの回転軌跡の該軸線に沿った断面における上記軸線に対する径方向の幅が上記切刃の直径の5%~20%の範囲内とされるとともに、上記内周切刃の先端角よりも大きな先端角とされ、上記内周切刃は、さらに上記軸線に対する径方向内周側に位置する内周シンニング切刃と、この内周シンニング切刃の径方向外周側に連なる内周主切刃とを備え、上記内周シンニング切刃の先端角が上記軸線に対する内周側の部分の上記内周切刃の先端角とされて90°~170°の範囲内とされるとともに、上記内周主切刃の先端角は、上記内周シンニング切刃の先端角よりも小さく、上記内周シンニング切刃は、上記軸線方向先端側から見て直線状に形成され、上記内周主切刃は、上記軸線方向先端側から見て、上記内周シンニング切刃と鈍角に交差してドリル回転方向とは反対側に凹む凹曲線状に形成され、上記外周切刃は、上記軸線方向先端側から見て、上記内周主切刃と鈍角に交差する直線状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
このように構成されたドリルでは、内周切刃と外周切刃とが、先端角は異なるものの、ともに上記軸線に対する径方向外周側に向かうに従いドリル本体の後端側に傾斜しているので、切屑が生成される方向が同じ向きとなる。このため、内周切刃によって生成される切屑と外周切刃によって生成される切屑が幅方向に分割されるのを防いで、こうして分割された切屑同士が絡まり合うのを防ぐことができる。
【0012】
また、上記軸線回りの回転軌跡の該軸線に沿った断面における外周切刃の上記軸線に対する径方向の幅が切刃の直径の5%~20%の範囲内とされていて、内周切刃の径方向の幅に対して幅狭であるので、内周切刃によって生成された幅広の切屑により、外周切刃によって生成された幅狭の切屑を巻き込むように流出させることができ、切屑が分割されるのを一層確実に防ぐことができる。
【0013】
そして、こうして生成された切屑は、上記軸線に対する内周側の部分の先端角が90°~170°の範囲内とされた内周切刃によってドリル本体の後端側に向かうに従いドリル本体の内周側に押し込まれるように案内され、切刃のすくい面とされる切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面に摺接させられることにより、抵抗が与えられて分断される。従って、深穴加工においても、切屑詰まりが生じてドリル本体が折損したり、分割された切屑が絡まって被削材が傷付けられたりするのを防ぐことが可能となり、安定した穴明け加工を行うことができる。
【0014】
その一方で、外周切刃の先端角は、内周切刃の先端角よりも大きな角度とされているので、この外周切刃が貫通穴の抜け際で被削材を押し広げる作用を抑えることができ、ステンレス鋼のような鋼材やアルミニウム等の金属材料よりなる被削材、あるいはこのような金属材料とFRPなどとの重ね板材のような被削材に対しても、バリの発生を抑制することが可能となる。しかも、切刃の外周端において外周切刃はドリル本体の外周面と鈍角に交差することになるので、この切刃の外周端の強度を確保して欠損等が生じるのも防ぐことができる。
【0015】
ここで、上記軸線に対する内周側の部分の内周切刃の先端角が90°を下回ると、内周切刃の先端部が鋭く尖りすぎてしまい、被削材への食い付きの際に欠損等を生じるおそれがあり、逆に上記軸線に対する内周側の部分の内周切刃の先端角が170°を上回ると、内周切刃の先端部が平坦に近くなって被削材に食い付き難くなる。また、軸線回りの回転軌跡の軸線に沿った断面における外周切刃の軸線に対する径方向の幅が切刃の直径の5%を下回ると、外周切刃が短くなりすぎて隣接する内周切刃の外周部によりバリが発生し易くなり、逆にこの外周切刃の径方向の幅が切刃の直径の20%を上回ると、切屑が分割されて生成されるおそれがある。
【0016】
なお、上記内周切刃が、さらに上記軸線に対する径方向内周側に位置する内周シンニング切刃と、この内周シンニング切刃の径方向外周側に連なる内周主切刃とを備え、上記内周シンニング切刃の先端角を上記軸線に対する内周側の部分の上記内周切刃の先端角として90°~170°の範囲内とする。上記内周主切刃の先端角を、上記内周シンニング切刃の先端角よりも小さくすることにより、内周切刃によって切屑が分割されて生成されるのも防ぐことができる。
【0017】
さらに、上記切屑排出溝を、20°~40°の範囲内の捩れ角で上記ドリル本体の後端側に向かうに従いドリル回転方向とは反対側に捩れるように形成することにより、上述のように切刃のすくい面とされる切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面に摺接されて抵抗が与えられることにより分断された切屑を、円滑にドリル本体の後端側に排出することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、貫通穴の深さが深い深穴加工でも、切屑詰まりや切屑の絡まりを防いでドリル本体が折損したり被削材が傷ついたりするのを防止することができるとともに、切刃の外周端における欠損も防ぐことができ、さらにバリの発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態を示す軸線方向先端側から見た正面図である。
図2図1における矢線X方向視の側面図である。
図3図1に示す実施形態の切刃の外周部の軸線回りの回転軌跡における軸線に沿った断面図である。
図4図1図3に示す実施形態の第1の変形例を示す、図1における矢線X方向視の側面図に相当する側面図である。
図5図1図3に示す実施形態の第2の変形例を示す、図1における矢線X方向視の側面図に相当する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1図3は、本発明の実施形態を示すものである。本実施形態において、ドリル本体1は、超硬合金等の硬質材料によって軸線Oを中心とした概略円柱状に形成されている。このドリル本体1の図示されない後端部(図2において下側となる部分)は円柱状のままのシャンク部とされ、図1に示す先端部が切刃部2とされる。
【0021】
このようなドリルは、上記シャンク部が工作機械の主軸に把持されて、ドリル本体1が軸線O回りにドリル回転方向Tに回転されつつ、軸線O方向先端側(図2において上側)に送り出されることにより、ステンレス鋼のような鋼材やアルミニウム等の金属材料や、このような金属材料とFRPなどとの重ね板材よりなる被削材に、上記切刃部2に形成された切刃3によって被削材に貫通穴等の穴明け加工を行う。
【0022】
切刃部2の先端部外周には、ドリル本体1の先端面である先端逃げ面4に開口して後端側に延びる切屑排出溝5が形成されている。本実施形態では、2つの切屑排出溝5が軸線Oに関して180°回転対称に形成されており、これらの切屑排出溝5は、20°~40°の範囲内の捩れ角でドリル本体1の後端側に向かうに従いドリル回転方向Tとは反対側に捩れている。
【0023】
上記切刃3は、この切屑排出溝5のドリル回転方向Tを向く壁面と上記先端逃げ面4との交差稜線部に形成されている。従って、この切刃3において先端逃げ面4と交差する切屑排出溝5のドリル回転方向Tを向く上記壁面5Aは、切刃3のすくい面とされる。さらに、先端逃げ面4は、ドリル本体1の外周側とドリル回転方向Tとは反対側とに向かうに従いドリル本体1の後端側に向かうように傾斜させられており、これにより、切刃3もドリル本体1の外周側に向かうに従い後端側に向けて傾斜させられて180°未満の先端角が与えられるとともに、逃げ角が与えられる。
【0024】
切刃3は、ドリル本体1の軸線Oに対する径方向内周側に位置する内周切刃3Aと、この内周切刃3Aの径方向外周側に連なる外周切刃3Bとを備えている。そして、180°未満の先端角が与えられて上記径方向外周側に向かうに従いドリル本体1の後端側に傾斜する内周切刃3Aは、上記軸線Oに対する内周側の部分の先端角θAが90°~170°の範囲内とされるとともに、同じく上記径方向外周側に向かうに従いドリル本体1の後端側に傾斜する外周切刃3Bの先端角θBは、内周切刃3Aの先端角θAよりも大きな角度とされている。なお、外周切刃3Bの先端角θBは、180°未満であればよい。
【0025】
ここで、内周切刃3Aは、さらに軸線Oに対する径方向内周側に位置する内周シンニング切刃3aと、この内周シンニング切刃3aの径方向外周側に連なる内周主切刃3bとを備えている。内周切刃3Aの上記軸線Oに対する内周側の部分の上記先端角θAは、このうち内周シンニング切刃3aの先端角であり、内周主切刃3bの先端角は、内周シンニング切刃3aの先端角θAよりも小さく、従って外周切刃3Bの先端角θBよりも小さい。
【0026】
なお、切刃3のすくい面とされる切屑排出溝5のドリル回転方向Tを向く壁面5Aの内周部には、ドリル本体1の内周側に向かうに従い軸線O側に向けて延びる平面状のシンニング面5aが形成されており、内周シンニング切刃3aは、このシンニング面5aと先端逃げ面4との交差稜線部に形成されている。従って、内周シンニング切刃3aは、軸線O方向先端側から見て図1に示すように直線状に形成される。
【0027】
これに対して、内周切刃3Aの内周主切刃3bは、軸線O方向先端側から見て図1に示すように、内周シンニング切刃3aと鈍角に交差してドリル回転方向Tとは反対側に凹む凹曲線状に形成されている。さらに、外周切刃3Bは、同じく軸線O方向先端側から見て図1に示すように、内周切刃3Aの内周主切刃3bと鈍角に交差する直線状に形成されている。
【0028】
また、先端逃げ面4は、内周切刃3Aに連なる第1先端逃げ面4Aと、外周切刃3Bに連なる第2先端逃げ面4Bとを備えており、この第2先端逃げ面4Bは、第1先端逃げ面4Aよりも軸線Oに対して大きな角度でドリル本体1の外周側に向かうに従い後端側に傾斜するように形成されている。
【0029】
さらに、外周切刃3Bは、図3に示すようにドリル本体1の軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面における軸線Oに対する径方向の幅Wが、切刃3の直径(切刃3の外径またはドリル径)D、すなわち切刃3の外周端Pが軸線O回りの回転軌跡においてなす円の直径の5%~20%の範囲内とされている。
【0030】
このような構成のドリルにおいては、内周切刃3A(内周シンニング切刃3aと内周主切刃3b)と外周切刃3Bとが、いずれも軸線Oに対する径方向外周側に向かうに従いドリル本体1の後端側に傾斜しているので、切屑が生成される方向が同じ向きとなる。このため、これら内周切刃3Aによって生成される切屑と外周切刃3Bによって生成される切屑とが幅方向に分割されるのを防ぐことができ、こうして分割された切屑同士が絡まり合うのを防止することができる。
【0031】
また、軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面における外周切刃3Bの軸線Oに対する径方向の幅Wが、切刃3の直径Dの5%~20%の範囲内とされていて、内周切刃3Aの径方向の幅に対して幅狭とされている。このため、内周切刃3Aによって生成された幅広の切屑により、外周切刃3Bによって生成された幅狭の切屑を巻き込むように流出させることができるので、これによっても切屑が分割されるのを一層確実に防ぐことができる。
【0032】
そして、このように分割されずに生成された切屑は、上記軸線Oに対する内周側の部分の先端角θAが90°~170°の範囲内とされた内周切刃3Aによってドリル本体1の後端側に向かうに従い内周側に押し込まれるように案内され、切刃3のすくい面とされる切屑排出溝5のドリル回転方向を向く壁面5Aに摺接させられることにより、抵抗が与えられて分断される。従って、深穴加工においても、切屑排出溝5に切屑詰まりが生じてドリル本体1が折損したり、分割された切屑が絡まって被削材が傷付けられたりするのを防ぐことができ、安定した穴明け加工を行うことが可能となる。
【0033】
その一方で、外周切刃3Bの先端角θBは、内周切刃3Aの上記軸線Oに対する内周側の部分の先端角θAよりも大きな角度とされているので、貫通穴を穴明け加工する場合でも、この外周切刃3Bが貫通穴の抜け際で被削材を押し広げる作用を抑えることができ、ステンレス鋼のような鋼材やアルミニウム等の金属材料、あるいはこのような金属材料とFRP等との重ね板材よりなる被削材においても、バリの発生を抑制することが可能となる。また、切刃3の外周端Pにおいて外周切刃3Bはドリル本体1の外周面と鈍角に交差するので、この切刃3の外周端Pの強度を維持することができ、欠損等が生じるのも防ぐことができる。
【0034】
ここで、上記軸線Oに対する内周側の部分の内周切刃3Aの先端角θAが90°を下回ると、内周切刃3Aの先端部が鋭く尖りすぎてしまい、被削材への食い付きの際に欠損等を生じるおそれがある。また、逆に上記軸線Oに対する内周側の部分の内周切刃3Aの先端角θAが170°を上回ると、内周切刃3Aの先端部が平坦に近くなって被削材に食い付き難くなる。
【0035】
さらに、軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面における外周切刃3Bの軸線Oに対する径方向の幅Wが切刃3の直径Dの5%を下回ると、外周切刃3Bが短くなりすぎ、外周切刃3Bに隣接する内周切刃3Aの外周部によって貫通穴の抜け際にバリが発生し易くなる。一方、逆にこの外周切刃3Bの径方向の幅Wが切刃3の直径Dの20%を上回ると、外周切刃3Bによって生成される切屑が幅広となって内周切刃3Aにより生成される切屑と分割されるおそれがある。
【0036】
また、本実施形態では、内周切刃3Aが、軸線Oに対する径方向内周側に位置する内周シンニング切刃3aと、この内周シンニング切刃3aの径方向外周側に連なる内周主切刃3bとを備えており、上記軸線Oに対する内周側の部分の内周切刃3Aの先端角θAは、内周シンニング切刃3aの先端角とされて90°~170°の範囲内とされている。そして、内周主切刃3bの先端角は、この内周シンニング切刃3aの先端角θAよりも小さくされているので、内周切刃3Aの内周シンニング切刃3aと内周主切刃3bとによって切屑が分割されて生成されるのも防ぐことができる。
【0037】
さらに、本実施形態では、切屑排出溝5が、20°~40°の範囲内の捩れ角でドリル本体1の後端側に向かうに従いドリル回転方向Tとは反対側に捩れるように形成されている。このため、上述のように切刃3のすくい面とされる切屑排出溝5のドリル回転方向Tを向く壁面5Aに摺接されて抵抗が与えられることにより分断された切屑を、ドリル本体1の回転に伴い円滑にドリル本体1の後端側に排出することが可能となる。
【0038】
次に、図4および図5は、それぞれ上記実施形態のドリルの第1および第2の変形例を示す、図1における矢線X方向視の側面図に相当する側面図であり、図1図3に示した実施形態と共通する部分には同一の符号を配してある。このうち図4に示す第1の変形例は、上記軸線Oに対する内周側の部分の内周切刃3Aの先端角θAが150°の場合であり、図5に示す第2の変形例は、上記軸線Oに対する内周側の部分の内周切刃3Aの先端角θAが90°の場合である。
【0039】
このような第1および第2の変形例のドリルにおいても、上記軸線Oに対する内周側の部分の内周切刃3Aは先端角θAが90°~170°の範囲内とされ、外周切刃3Bは、軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面における軸線Oに対する径方向の幅Wが切刃3の直径Dの5%~20%の範囲内とされるとともに、外周切刃3Bの先端角θBが内周切刃3Aの先端角θAよりも大きな角度とされているので、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 ドリル本体
3 切刃
3A 内周切刃
3a 内周シンニング切刃
3b 内周主切刃
3B 外周切刃
4 先端逃げ面
5 切屑排出溝5
5A 切屑排出溝5のドリル回転方向Tを向く壁面(すくい面)
O ドリル本体1の軸線
T ドリル回転方向
P 切刃3の外周端
D 切刃3の直径
W 軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面における外周切刃3Bの軸線Oに対する径方向の幅
θA 軸線Oに対する内周側の部分の内周切刃3Aの先端角(内周シンニング切刃3aの先端角)
θB 外周切刃3Bの先端角
図1
図2
図3
図4
図5