(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】開口部取付体設置方法
(51)【国際特許分類】
E06B 1/56 20060101AFI20231031BHJP
E06B 1/60 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
E06B1/56 B
E06B1/60
(21)【出願番号】P 2019107774
(22)【出願日】2019-06-10
【審査請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000108111
【氏名又は名称】セメダイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋向 秀治
(72)【発明者】
【氏名】紺野 誠
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-118881(JP,U)
【文献】特開平06-280451(JP,A)
【文献】特開平08-121024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 1/00-1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸長可能な調整装置を用いて、構造躯体に開口部取付体を設置する方法であって、
前記構造躯体の開口部に前記開口部取付体を配置するとともに、該開口部取付体の外周枠と該構造躯体との間に複数の前記調整装置を配置する開口部取付体配置工程と、
前記開口部取付体の上方及び下方に配置された前記調整装置のうち両方又は一方の該調整装置を伸長することで該開口部取付体の上下位置を調整するとともに、該開口部取付体の左方及び右方に配置された前記調整装置のうち両方又は一方の該調整装置を伸長することで該開口部取付体の左右位置を調整する開口部取付体位置調整工程と、を備え、
前記開口部取付体配置工程では、上方及び下方に配置される前記調整装置のうち、1又は2個所以上に一方向型調整装置を配置し、
前記一方向型調整装置は、第1構成体と第2構成体を含み、
前記第1構成体は、軸に沿って複数の鋸歯が設けられた第1軸部材と、該第1軸部材の起点端に固定された第1当接板と、を有し、
前記第2構成体は、嵌合突起が設けられた第2軸部材と、該第2軸部材の一端に固定された第2当接板と、を有し、
前記第1軸部材の前記起点端から離れる方向には前記嵌合突起が前記鋸歯間を移動することができ、且つ該起点端に近づく方向には該嵌合突起の移動が妨げられ、
前記嵌合突起が複数の前記鋸歯間を移動しながら、前記第2軸部材が前記第1軸部材に沿って移動することで、前記第1当接板と前記第2当接板の間隔が広がり、
周囲の前記調整装置によって、前記開口部取付体が
前記構造躯体に固定される、
ことを特徴とする開口部取付体設置方法。
【請求項2】
前記調整装置は、平行又は略平行となるように両端に配置された2つの板状の当接板を具備するとともに、2つの該当接板の間隔が広がる構造であり、
前記開口部取付体配置工程では、一方の前記当接板を前記外周枠に当接するとともに、他方の前記当接板を前記構造躯体に当接し、
前記開口部取付体位置調整工程では、2つの前記当接板を前記外周枠及び前記構造躯体に当接した状態で2つの該当接板の間隔を広げることによって、前記開口部取付体の位置を調整する、
ことを特徴とする請求項1記載の開口部取付体設置方法。
【請求項3】
前記開口部取付体配置工程では、前記当接板を前記外周枠及び/又は前記構造躯体に接着固定する、
ことを特徴とする請求項2記載の開口部取付体設置方法。
【請求項4】
躯体係止具と取付体係止具を緊結することによって、構造躯体に開口部取付体を設置する方法であって、
前記構造躯体に固定された前記躯体係止具と、前記開口部取付体の外周枠に固定された前記取付体係止具と、が一部重なるように、前記構造躯体の開口部に前記開口部取付体を配置する開口部取付体配置工程と、
紐状又は帯状の緊結材を用いて、前記躯体係止具と前記取付体係止具を緊結する緊結工程と、を備え、
前記緊結工程では、前記緊結材に接着剤を塗布したうえで、前記躯体係止具と前記取付体係止具を緊結し、
周囲の前記取付体係止具が前記躯体係止具に緊結されることによって、前記開口部取付体が
前記構造躯体に固定される、
ことを特徴とする開口部取付体設置方法。
【請求項5】
躯体係止具と取付体係止具を緊結することによって、構造躯体に開口部取付体を設置する方法であって、
前記構造躯体に固定された前記躯体係止具と、前記開口部取付体の外周枠に固定された前記取付体係止具と、が一部重なるように、前記構造躯体の開口部に前記開口部取付体を配置する開口部取付体配置工程と、
紐状又は帯状の緊結材を用いて、前記躯体係止具と前記取付体係止具を緊結する緊結工程と、を備え、
前記緊結工程では、前記躯体係止具と前記取付体係止具を前記緊結材で緊結した後に、該緊結材に接着剤を注入又は含浸し、
周囲の前記取付体係止具が前記躯体係止具に緊結されることによって、前記開口部取付体が
前記構造躯体に固定される、
ことを特徴とする開口部取付体設置方法。
【請求項6】
前記構造躯体に設けられた面状の躯体側接着面に、前記躯体係止具が具備する面状の係止具側接着面を、接着固定する躯体係止具固定工程を、さらに備えた、
ことを特徴とする
請求項4又は請求項5記載の開口部取付体設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、サッシ窓や扉、シャッター、間仕切壁などの設置方法に関するものであり、より具体的には、従来多用されていた溶接作業を必要としないサッシ窓等の設置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造躯体の開口部には、当該開口部を開閉するため、あるいは閉鎖するために、サッシ窓や扉、シャッターといった開閉用の面状部材、もしくは間仕切壁といった閉鎖用の面状部材(以下、これらの面状部材を総称して「開口部取付体」という。)が設置される。従来、構造躯体の開口部に開口部取付体を設置するにあたっては、溶接工法を採用するのが主流であった。この溶接工法は、コンクリート造の構造躯体にあらかじめ設置された埋込みアンカーと、開口部取付体の外周枠に取り付けられた連結筋とを現場溶接することによって、開口部取付体を構造躯体に設置する手法である。
【0003】
溶接による接合は、接合しようとする2つの鋼材(母材)を溶かして合わせることによって、あるいはさらに同質の鋼材(溶加材)を溶かして添加することで2つの部材を接合するものである。溶接接合には、ガス溶接や電子ビーム溶接、レーザー溶接などの種類があるが、最も多用されているのはアーク溶接である。このアーク溶接は、わずかに離れた電極間に電位差を与えてアークを発生させ、空中放電のアークによって生じた熱で母材や溶加材を溶かす方法であり、具体的には、電極の一端を接続した母材に、電極他端が接続された溶接棒(溶加材)を接近させることによって白熱のアーク(アーク光)を発生させ、アークの熱によって母材が溶融するとともに、溶接棒から溶け出した溶融鋼が母材に添加されて接合される。
【0004】
アーク溶接には、アーク溶接機をはじめ、溶接棒を保持する手溶接トーチや、アーク光から作業者の目を保護する溶接面などが必要であり、またアーク溶接機は電源を必要とすることから、キャプタイヤコードやキャプタイヤドラムなども必要となる。このようにアーク溶接を行うためには、様々な道具を用意する必要があり、しかも溶接個所を変えるたびにこれらの道具を移動しなければならない。特にアーク溶接機はその重量が比較的大きい(小型のものでも50kg程度)ことから、これを移動するには相当の労力と時間を必要とし、またこれに伴うキャプタイヤコードの引き回しも相当に手間がかかる作業である。
【0005】
さらにアーク溶接は、極めて繊細な作業であり、特別な教育を受けた者でなければその作業を行うことができず、これに加えて通常は相当の経験を有する者が担当する。すなわちアーク溶接は、多くの道具を移動するなど作業手間が掛かり、また作業者が限定的であるという問題を抱えている。そのうえ、溶接作業は火気を伴うため、構造躯体内に引火しやすい物を保管しているなど火気を敬遠している施設ではこの作業を行うことができず、また稼働中の生産施設では生産工程に影響を及ぼすためやはり溶接作業は採用し難いといった問題も指摘できる。
【0006】
このような背景のもと、溶接作業を行うことなく開口部取付体を構造躯体に設置する有効な手法が求められており、これまでにも無溶接による種々の設置手法が提案されている。例えば特許文献1では、形状が自在に変化する蛇腹式の連結部材を利用し、この連結部材の先端を躯体内の凹部に挿入したうえで、連結部材内に硬化剤を注入するとともに、連結部材を通じて硬化剤を凹部に充填することによって、サッシ枠を躯体に取り付ける技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で提案される技術は、溶接作業を行う必要がないことから、溶接に伴う様々な問題を回避することができる。その一方で、硬化剤注入口から連結部材内に硬化剤を注入するという繊細かつ煩雑な作業が必要であり、しかも連結部材内の硬化剤や躯体の凹部内の硬化剤が硬化するまで次工程に進めない、すなわち開口部取付体の設置にかかる作業期間が長引くといった問題を抱えている。
【0009】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち溶接作業を行うことなく、容易な作業で開口部取付体を設置することができ、しかも従来に比して短い作業期間で開口部取付体を設置することができる開口部取付体設置方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、躯体係止具と取付体係止具を緊結するための緊結材、あるいは伸長可能な調整装置を利用して構造躯体に開口部取付体を設置する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0011】
本願発明の開口部取付体設置方法は、伸長可能な調整装置を用いて構造躯体に開口部取付体を設置する方法であって、開口部取付体配置工程と開口部取付体位置調整工程を備えた方法である。このうち開口部取付体配置工程では、構造躯体の開口部に開口部取付体を配置するとともに、開口部取付体の外周枠と構造躯体との間に複数の調整装置を配置する。また開口部取付体位置調整工程では、開口部取付体の上方及び下方に配置された調整装置のうち両方(上方及び下方)又は一方(上方あるいは下方)の調整装置を伸長することで開口部取付体の上下位置を調整するとともに、開口部取付体の左方及び右方に配置された調整装置のうち両方(上方及び下方)又は一方(上方あるいは下方)の調整装置を伸長することで開口部取付体の左右位置を調整する。そして、周囲の調整装置によって開口部取付体が構造躯体に固定されるわけである。
【0012】
本願発明の開口部取付体設置方法は、2つの板状の当接板を具備する調整装置を用いて構造躯体に開口部取付体を設置する方法とすることもできる。この場合の調整装置は、略平行(平行含む)となるように両端に配置された2つの当接板の間隔が広がる構造である。またこの場合の開口部取付体配置工程では、一方の当接板を外周枠に当接するとともに、他方の当接板を構造躯体に当接し、開口部取付体位置調整工程では、2つの当接板を外周枠及び構造躯体に当接した状態で2つの当接板の間隔を広げることによって、開口部取付体の位置を調整する。
【0013】
本願発明の開口部取付体設置方法は、当接板を外周枠又は構造躯体(あるいは外周枠及び構造躯体)に接着固定する方法とすることもできる。
【0014】
本願発明の開口部取付体設置方法は、第1構成体と第2構成体を含んで構成される調整装置を用いて構造躯体に開口部取付体を設置する方法とすることもできる。この第1構成体は、軸に沿って複数の鋸歯が設けられた第1軸部材と、第1軸部材の起点端に固定された第1当接板を有するものであり、一方の第2構成体は、嵌合突起が設けられた第2軸部材と、第2軸部材の一端に固定された第2当接板を有するものである。この場合の調整装置は、第1軸部材の起点端から離れる方向には嵌合突起が鋸歯間を移動することができるものの、起点端に近づく方向には嵌合突起の移動が妨げられる構造である。そして、嵌合突起が複数の鋸歯間を移動しながら第2軸部材が第1軸部材に沿って移動することで、第1当接板と第2当接板の間隔が広がる。
【0015】
本願発明の開口部取付体設置方法は、調整装置としてジャッキを利用した方法とすることもできる。なおジャッキは、伸縮可能であって伸長状態を維持し得るものである。
【0016】
本願発明の開口部取付体設置方法は、躯体係止具と取付体係止具を緊結することによって、構造躯体に開口部取付体を設置する方法とすることもできる。この場合の開口部取付体配置工程では、構造躯体に固定された躯体係止具と、開口部取付体の外周枠に固定された取付体係止具が一部重なるように、開口部取付体を構造躯体の開口部に配置する。また、紐状又は帯状の緊結材を用いて、躯体係止具と取付体係止具を緊結する緊結工程も行われる。そして、周囲の取付体係止具が躯体係止具に緊結されることによって、開口部取付体が構造躯体に固定されるわけである。
【0017】
本願発明の開口部取付体設置方法は、緊結材に接着剤を塗布したうえで躯体係止具と取付体係止具を緊結する方法とすることもできる。
【0018】
本願発明の開口部取付体設置方法は、躯体係止具と取付体係止具を緊結材で緊結したうえで緊結材に接着剤を注入する(あるいは含浸させる)方法とすることもできる。
【0019】
本願発明の開口部取付体設置方法は、開口部取付体配置工程と緊結工程に加え躯体係止具固定工程をさらに備えた方法とすることもできる。この躯体係止具固定工程では、構造躯体に設けられた面状の躯体側接着面に、躯体係止具が具備する面状の係止具側接着面を接着固定する。
【発明の効果】
【0020】
本願発明の開口部取付体設置方法には、次のような効果がある。
(1)溶接を必要としないことから、アーク溶接機の移動やキャプタイヤコードの引き回しといった作業を回避することができ、すなわち作業者の負担を軽減できるとともに、作業上の安全性も向上する。
(2)また溶接を必要としないことから、特別な教育を受けた者や経験豊富な者など特定の作業者に限定されることがなく、容易に必要数の作業者を確保することができる。
(3)さらに溶接を必要としないことから、火気を伴うことがなく、種々の施設で採用することができ、しかも稼働中の生産施設等でも採用することができる。
(4)調整装置や緊結材を用いて開口部取付体を固定することから、従来に比して容易に、しかも短期間で開口部取付体を設置することができる。
(5)調整装置を用いることによって、構造躯体に開口部取付体を固定するだけでなく、開口部取付体の位置も調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(a)はサッシ窓を示す正面図、(b)は構造躯体とその開口部を示す正面図。
【
図2】(a)は枠によって外周が形成されるサッシ窓を示す正面図、(b)は額縁によって外周が形成されるサッシ窓を示す正面図。
【
図3】本願発明の第1の実施形態によって構造躯体に設置されたサッシ窓を示す正面図。
【
図4】(a)は本願発明の第2の実施形態によって構造躯体に設置されたサッシ窓を示す正面図、(b)は係止手段を説明する部分詳細断面図。
【
図5】本願発明の第1の実施形態における各工程を示すステップ図。
【
図6】外周枠と構造躯体の間の「調整スペース」に配置された調整装置を示す部分断面図。
【
図7】(a)調整装置としてのパンタジャッキを示す側面図、(b)調整装置としてのラボジャッキを示す側面図、(c)調整装置としての油圧式ジャッキを示す側面図。
【
図8】(a)一方向型の調整装置の第1構成体を示す側面図、(b)一方向型の調整装置の第2構成体を示す側面図、(c)第1構成体と第2構成体を組み合わせた一方向型の調整装置を示す側面図。
【
図9】本願発明の第2の実施形態における各工程を示すステップ図。
【
図11】直線状の躯体係止具と直線状の取付体係止具の一部を重ねて緊結した状況を示すモデル図。
【
図12】躯体係止具を構造躯体に接着固定する状況を示すモデル図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明の開口部取付体設置方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。なお本願発明は、開口部を開閉するため(あるいは閉鎖するため)のサッシ窓や扉、シャッター、間仕切壁など種々の開口部取付体を設置する際に実施できる方法であるが、便宜上ここでは、開口部取付体がサッシ窓の例で説明する。本願発明は、
図1(a)に示すサッシ窓100を、
図1(b)に示す構造躯体200の開口部210に設置する方法であり、より詳しくは、開口部210とサッシ窓100(
図1(b)では破線で示す)との間に生じたスペースに調整装置又は係止手段を配置することでサッシ窓100を構造躯体200に固定する方法である。
【0023】
ここで、
図2を参照しながらサッシ窓100について説明する。
図2はサッシ窓100の一例を示す正面図である。例えば
図2(a)に示すサッシ窓100は、ガラス110と框120、図示しない部品類(鍵など)からなるサッシと、このサッシの外周に取り付けられた枠130によって形成されている。また
図2(b)に示すサッシ窓100は、サッシの外周に枠130が取り付けられ、さらにその枠130の外周に額縁140が取り付けられることによって形成されている。なお便宜上ここでは、サッシ窓100の外周フレームのことを「外周枠150」ということとする。したがって
図2(a)に示すサッシ窓100は枠130が外周枠150であり、
図2(b)に示すサッシ窓100は額縁140が外周枠150となる。
【0024】
本願発明の開口部取付体設置方法は、調整装置を用いて構造躯体200にサッシ窓100を設置する形態(以下、「第1の実施形態」という。)と、係止手段を用いて構造躯体200にサッシ窓100を設置する形態(以下、「第2の実施形態」という。)に大別することができる。第1の実施形態は、
図3に示すように開口部210とサッシ窓100(外周枠150)との間に生じたスペース(以下、「調整スペース」という。)に調整装置300を配置し、この調整装置300を伸長することによってサッシ窓100の位置を調整するとともに、サッシ窓100を構造躯体200に固定する方法である。なお、調整装置300は、あらかじめ構造躯体200側に固定していてもよいし、サッシ窓100側に固定しておいてもよい。
【0025】
一方、第2の実施形態は、
図4(a)に示すように調整スペースに係止手段400を配置し、この係止手段400によってサッシ窓100を構造躯体200に固定する方法である。より具体的には、
図4(a)の破線部分を拡大した
図4(b)に示すように、構造躯体200に固定された躯体係止具410と、外周枠150に固定された取付体係止具420とを一部重ねた状態とし、緊結材430で躯体係止具410と取付体係止具420を緊結する(結びつける)ことによって、サッシ窓100を構造躯体200に固定するわけである。
【0026】
以下、それぞれの実施形態ごとに詳しく説明していく。
【0027】
(第1の実施形態)
図5は、本願発明の第1の実施形態における各工程を示すステップ図である。まず
図5(a)に示すように、構造躯体200に設けられる開口部210内を開放する。構造躯体200を新設するケースでは、開口部210を形成した時点でその内部は開放されているが、リフォームなど開口部210にサッシ窓が設置されているケースでは、既設のサッシ窓を取り外すことによって開口部210内を開放する。
【0028】
開口部210内を開放すると、
図5(b)に示すように、開口部210内にサッシ窓100と複数の調整装置300を配置する(開口部取付体配置工程)。ただしこの時点では、サッシ窓100は計画位置に配置されておらず、また構造躯体200に固定されていない。
【0029】
調整装置300は、
図6に示すように調整スペースに収まるように、しかもサッシ窓100の上方、下方、左方、及び右方それぞれに位置するように配置される。例えば
図5(b)では、サッシ窓100の上方には2個の上側調整装置300Uが配置され、サッシ窓100の下方には2個の下側調整装置300D、サッシ窓100の左方には2個の左側調整装置300L、サッシ窓100の右方には2個の右側調整装置300Rが配置されている。
【0030】
調整装置300は、それ自体が少なくとも伸長する機能を有する装置であり、例えば
図7に示すようなジャッキを調整装置300として利用することができる。調整装置300は、
図7や
図8に示すように自ら伸長することができるもの(以下、特に「自己伸長型の調整装置300」という。)のほか、内部にバネを有するものなど外部からの力を受けることによって伸縮する機能を有するもの(以下、特に「伸縮型の調整装置300」という。)であってもよい。また、調整装置300はサッシ窓100の上方、下方、左方、及び右方それぞれに配置すると説明したが、左右あるいは上下に配置する調整装置300は互いに同じ種類の調整装置300を用いてもよいし、異なる種類の調整装置300を用いてもよい。例えば、左右あるいは上下のうち一方には自己伸長型の調整装置300を配置して、他方には伸縮型の調整装置300を配置するなど、片方の調整装置300で位置調整ができるようにすることもできる。
図7(a)に示す調整装置300は、パンタジャッキと呼ばれるジャッキであり、概ねひし形をなす4本のアーム302と、調整ネジ303を含んで構成され、さらに上部と下部にそれぞれ当接板301を取り付けた構成とすることもできる。このパンタジャッキは、操作する者が調整ネジ303を回すことによって上方のアーム302と下方のアーム302との挟角が大きくなり、これに伴って上部の当接板301が下部の当接板301から離れていき、すなわち調整装置300が伸長するわけである。
【0031】
図7(b)に示す調整装置300は、ラボジャッキと呼ばれるジャッキであり、複数のアーム302と、調整ネジ303を含んで構成され、さらに上部と下部にそれぞれ当接板301を取り付けた構成とすることもできる。またこの図に示すように、2本1組のアーム302によってX字形状の可動機構が形成され、さらにこの可動機構が複数組(図では2組)連結されて構成される。このラボジャッキは、パンタジャッキと同様、操作する者が調整ネジ303を回すことによって上方のアーム302と下方のアーム302との挟角が大きくなり、これに伴って上部の当接板301が下部の当接板301から離れていき、すなわち調整装置300が伸長するわけである。なお、
図7(a)に示すパンタジャッキと
図7(b)に示すラボジャッキは、調整ネジ303を逆方向に回すことで収縮し、また調整ネジ303を回さない限りその状態(伸長状態や収縮状態など)が維持される。
【0032】
ネジ式のジャッキのほか、
図7(c)に示すような油圧式ジャッキを調整装置300として利用することもできる。
図7(c)に示す油圧式ジャッキは、柱状(あるいは管状)の第1分割体304と同じく柱状(あるいは管状)の第2分割体305、そして第1分割体304に固定された当接板301と第2分割体305に固定された当接板301を含んで構成される。第1分割体304は第2分割体305の一部を収容できる構造となっており、油圧等を利用することによって第1分割体304から第2分割体305を出し入れすることができる。すなわちこの油圧式ジャッキは、伸び縮み(つまりジャッキアップとジャッキダウン)が可能であって、上部の当接板301と下部の当接板301の間隔が可変であり、しかも伸長状態や収縮状態などが維持される構造である。
【0033】
また調整装置300は、
図7に示すようなジャッキを利用するほか、
図8に示す構造のものを利用することもできる。
図8に示す調整装置300(以下、「一方向型の調整装置300」という。)は、第1構成体310と第2構成体320を含んで構成されるもので、第2構成体320が第1構成体310に対して移動することによって伸長する構造である。
【0034】
第1構成体310は、
図8(a)に示すように、棒状(あるいは柱状や管状)の第1軸部材312と、この第1軸部材312の一端(以下、「起点端」という。)に固定された第1当接板311を含んで構成され、さらに第1軸部材312を収容する管状のパイプケース314(図では破線で示す)を含んで構成することもできる。なお、第1軸部材312には、複数(図では12個)の鋸歯313が設けられている。一方、第2構成体320は、
図8(b)に示すように、棒状(あるいは柱状や管状)の第2軸部材322と、この第2軸部材322の一端に固定された第2当接板321を含んで構成される。なお、第2軸部材322には1個又は2個以上(図では6個)の嵌合突起323が設けられている。
【0035】
図8(c)に示すように、第1軸部材312と第2軸部材322が略平行(平行含む)となる姿勢でその一部どうしが重なるように、しかも第2軸部材322の嵌合突起323が第1軸部材312の鋸歯313の間に嵌合するように、第1構成体310と第2構成体320は配置される。また、第1構成体310がパイプケース314を具備する場合は、第2軸部材322の一部がこのパイプケース314内に収容される。
【0036】
第2軸部材322は、第1軸部材312の軸方向に沿って移動するが、このとき嵌合突起323が、鋸歯313と鋸歯313の間に嵌合しながら移動していく。
図8から分かるように鋸歯313は、側面視で三角形の形状とされる。より詳しくは、起点端側から他端(以下、「終点端」という。)側に向かって第1軸部材312から離れていくように傾斜する「斜辺」と、第1軸部材312に対してほぼ垂直(垂直含む)であって終点端側に位置する「垂直辺」と、第1軸部材312の一部である「底辺」によって形成される三角形である。このような形状にすることによって嵌合突起323は、終点端に近づく方向には鋸歯313間を移動することができるが、起点端に近づく方向にはその移動が妨げられる。つまり第2軸部材322は、嵌合突起323が複数の鋸歯313間を移動しながら、第1軸部材312に沿って終点端に近づく方向に移動することができるが、起点端に近づく方向への移動は妨げられるわけである。換言すれば一方向型の調整装置300は、第1当接板311と第2当接板321の間隔を広げることができ、しかもその伸長状態を維持できる構造である。
【0037】
調整装置300を配置するにあたっては、外周枠150や構造躯体200に調整装置300を接着固定することができる。この場合、調整装置300のうちの一方の当接板301(例えば第1当接板311)や外周枠150に接着剤を塗布したうえで、当接板301を外周枠150に接着固定するとよい。あるいは、調整装置300のうちの他方の当接板301(例えば第2当接板321)や構造躯体200に接着剤を塗布したうえで、当接板301を構造躯体200に接着固定することもできるし、両方の当接板301(例えば第1当接板311と第2当接板321)に接着剤を塗布したうえで、当接板301を外周枠150と構造躯体200に接着固定することもできる。例えば
図5(b)では、サッシ窓100の上方に配置された上側調整装置300Uが外周枠150に接着固定されており、サッシ窓100の右方に配置された右側調整装置300Rが構造躯体200に接着固定されている。なお、外周枠150と構造躯体200の両側から反力が得られる(突っ張り状態となる)ことから、調整装置300は接着固定することなく配置することもできる。
【0038】
開口部210内にサッシ窓100と調整装置300を配置すると、
図5(c)に示すように、計画配置となるようにサッシ窓100の位置を調整したうえで、サッシ窓100を構造躯体200に固定する(開口部取付体位置調整工程)。より詳しくは、サッシ窓100の上方に配置された上側調整装置300Uとサッシ窓100の下方に配置された下側調整装置300Dをそれぞれ適宜伸長してサッシ窓100の上下位置を調整しながら、サッシ窓100の左方に配置された左側調整装置300Lとサッシ窓100の右方に配置された右側調整装置300Rをそれぞれ適宜伸長してサッシ窓100の左右位置を調整する。なお、上下に配置された調整装置300のうち一方が自己伸長型の調整装置300であって他方が伸縮型の調整装置300である場合は、自己伸長型の調整装置300を適宜伸長してサッシ窓100の上下位置を調整する。また、左右に配置された調整装置300のうち一方が自己伸長型の調整装置300であって他方が伸縮型の調整装置300である場合は、自己伸長型の調整装置300を適宜伸長してサッシ窓100の左右位置を調整する。このとき調整装置300が当接板301を具備している場合は、一方の当接板301(例えば第1当接板311)を外周枠150に当接し、他方の当接板301(例えば第2当接板321)を構造躯体200に当接した状態とし、2つの当接板301の間隔を広げることによってサッシ窓100の位置を調整するとよい。
【0039】
サッシ窓100が計画配置となるまで周囲(上下左右)の調整装置300を伸長させると、サッシ窓100はこれらの調整装置300から軸力を与えられ(突っ張り状態となり)、これによりサッシ窓100構造躯体200に固定され、
図5(c)に示す状態となる。なお、
図5(c)に示す状態でサッシ窓100の設置を完成させてもよいし、
図5(c)に示す状態でモルタル等を調整スペースに間詰めしてもよい。
【0040】
(第2の実施形態)
図9は、本願発明の第2の実施形態における各工程を示すステップ図である。ただし
図9では、
図4(b)に示す範囲(係止手段400の部分)のみを示しており、つまりこのステップ図では係止手段400が緊結される状況のみを示している。まず第1の実施形態と同様、構造躯体200に設けられる開口部210内を開放する(
図5(a))。そして
図9(a)に示すように、外周枠150に固定された取付体係止具420を、構造躯体200に固定された躯体係止具410に近づけていき、
図9(b)に示すように、躯体係止具410の一部と取付体係止具420の一部を重ねる。このようにサッシ窓100の周囲に固定された取付体係止具420と躯体係止具410を一部重ねることによって、サッシ窓100を開口部210内の計画位置に置くことができるわけである(開口部取付体配置工程)。
【0041】
躯体係止具410と取付体係止具420が一部重なるようにサッシ窓100を配置すると、
図9(c)に示すように緊結材430を用いて躯体係止具410と取付体係止具420を緊結する(緊結工程)。この緊結材430は、所定の長さを有する紐状あるいは帯状のもので、例えば鉄筋を結束する結束バンドなどを利用することができる。
【0042】
緊結材430で緊結するにあたっては、接着剤を用いて躯体係止具410と取付体係止具420を結びつけることもできる。このとき、緊結材430に接着剤を塗布(あるいは含浸)したうえで躯体係止具410と取付体係止具420を結びつけることもできるし、接着剤が含浸した帯状材(例えば不織布など)を躯体係止具410と取付体係止具420に巻き付けたうえでその帯状材の上から緊結材430で結びつけることもできるし、あるいは緊結材430で躯体係止具410と取付体係止具420を結びつけた後に接着剤をその緊結材430に含浸させる(あるいは注入する)こともできる。なお、躯体係止具410と取付体係止具420を結びつけた後の緊結材430に接着剤を注入するケースでは、
図10に示す緊結材430を利用するとよい。躯体係止具410と取付体係止具420を結びつけた後に、この緊結材430に設けられた注入孔431から接着剤を内部に注入していくわけである。もちろん、緊結材430に設ける注入孔431の形状や数は状況に応じて任意に設計することができる。
【0043】
図4や
図9に示す躯体係止具410と取付体係止具420は、それぞれ下方に曲折するフック形状としているが、これに限らず種々の形状の躯体係止具410と取付体係止具420を用いることができる。例えば
図11に示すように、直線状の躯体係止具410と、同じく直線状の取付体係止具420を用い、双方の一部を重ねたうえで緊結材430によって緊結することもできる。
【0044】
取付体係止具420は、例えば鉄筋などを利用することができ、接着手段や溶接手段によってその一部を外周枠150に固定することができる。また躯体係止具410は、同じく鉄筋などを利用することができ、その一部を構造躯体200内に埋設することによって固定することができる。あるいは、接着手段によって躯体係止具410を構造躯体200に固定することもできる(躯体係止具固定工程)。この場合、
図12に示すようにあらかじめ構造躯体200表面に躯体側接着面411を設置しておき、躯体係止具410が具備する係止具側接着面412と躯体側接着面411を接着固定するとよい。面状(板状)の躯体側接着面411の平坦面と、同じく面状(板状)の係止具側接着面412の平坦面のいずれか(あるいは両方)に接着剤を塗布したうえで、両者の平坦面を重ね合わせて接着固定するわけである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願発明の開口部取付体設置方法は、戸建住宅やマンションなど集合住宅といった居住用建築物や、オフィスビルあるいは店舗といった商用建築物で利用できるほか、校舎や倉庫など様々な建築物で利用することができる。また、新設(新築)の施設に限らず、リフォームを行う際にも利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
100 サッシ窓
110 (サッシ窓の)ガラス
120 (サッシ窓の)框
130 (サッシ窓の)枠
140 (サッシ窓の)額縁
150 (サッシ窓の)外周枠
200 構造躯体
210 (構造躯体の)開口部
300 調整装置
300U 上側調整装置
300D 下側調整装置
300L 左側調整装置
300R 右側調整装置
301 (調整装置の)当接板
302 (ジャッキの)アーム
303 (ジャッキの)調整ネジ
304 (油圧式ジャッキの)第1分割体
305 (油圧式ジャッキの)第2分割体
310 (一方向型の調整装置の)第1構成体
311 (第1構成体の)第1当接板
312 (第1構成体の)第1軸部材
313 (第1構成体の)鋸歯
314 (第1構成体の)パイプケース
320 (一方向型の調整装置の)第2構成体
321 (第2構成体の)第2当接板
322 (第2構成体の)第2軸部材
323 (第2構成体の)嵌合突起
400 係止手段
410 (係止手段の)躯体係止具
411 (係止手段の)躯体側接着面
412 (躯体係止具の)係止具側接着面
420 (係止手段の)取付体係止具
430 (係止手段の)緊結材