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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/739 20060101AFI20231031BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20231031BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20231031BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
H01L29/78 655B
H01L29/78 653A
H01L29/78 658A
H01L21/265 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019109396
(22)【出願日】2019-06-12
(65)【公開番号】P2020202321
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 克行
【審査官】多賀 和宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-095534(JP,A)
【文献】特開2010-272587(JP,A)
【文献】特開2014-123681(JP,A)
【文献】特開2003-059856(JP,A)
【文献】特開2009-176892(JP,A)
【文献】特開2015-179720(JP,A)
【文献】国際公開第2013/108911(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/204126(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/025337(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/739
H01L 29/78
H01L 21/336
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型の第1半導体領域と、
前記第1半導体領域上に形成されたn型の第2半導体領域と、
前記第2半導体領域上に形成され不純物濃度が前記第2半導体領域よりも低いn型の第3半導体領域と、
前記第3半導体領域上に形成されたp型の第4半導体領域と、
を有し、シリコンを含む半導体基板を具備した半導体装置であって、
前記第2半導体領域と前記第3半導体領域にわたる前記第1半導体領域側からの深さx(μm)方向のドナー濃度Ndの分布は、前記第2半導体領域から 前記第3半導体領域にかけて連続的に変化し、当該分布は、
前記第2半導体領域に対応しピーク値Ndmaxをもつ単一のピークをもつ上側に凸の第1領域と、
前記第3半導体領域に対応しNdがNd3(Nd3<Ndmax)の±30%以内の範囲である第2領域と、
を具備し、
前記ピークは前記1半導体領域と前記第2半導体領域の界面から10μm以内にあり、
Ndmaxは1×1015atom/cm以上であり、
Nd3は5×1013atom/cm~2×1014atom/cmの範囲であり、
前記第1領域において、前記ピークから±2μmの範囲内でNd>Ndmax/2とされたことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記第2半導体領域における不純物濃度Ndmaxとなるxから前記第3半導体領域に至るまでの厚さをT0としたときに、前記第2半導体領域内、かつ当該ピークとなるxから±T0×2/3の範囲内において、
log(Nd(x))>log(Nd3)+(log(Ndmax)-log(Nd3))/2
とされることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記分布を構成するドナーは、酸素、又はシリコンの結晶欠陥と酸素との複合体のいずれかが活性化したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
Siで構成されたIGBTは、大電力での高速スイッチング動作が可能である素子として広く用いられている。通常のIGBTは、nチャンネルのMOSFETとpnp型のバイポーラトランジスタが直列に接続されたような構成を具備し、その具体的構造は、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
この基本的構造においては、ウェハ(半導体基板)の表面側にエミッタ電極、ゲート電極が設けられ、裏面側にコレクタ層となるp+層、これに接続されたコレクタ電極が設けられる。この場合、MOSFETがオンの場合には、コレクタ層の上側に形成された厚いn層(ドリフト層)を電流が流れる。オフ時の耐圧を確保するためには、オフ時に空乏化するドリフト層を厚く形成することが好ましく、オン時の抵抗を低くするためには、ドリフト層を薄くすることが好ましい。
【0004】
特許文献1に記載のIGBTにおいては、ドリフト層とコレクタ層の間に、ドリフト層よりも高濃度のn層(フィールドストップ層:FS層)を設けることによって、ドリフト層を薄くした場合でも空乏層がコレクタ層に達しにくくすると共に、オン時にドリフト層に注入される正孔の量を制限することによって、良好なスイッチング特性(ターンオフ特性)を得ることができる。
【0005】
FS層は、例えば半導体基板の裏面側(コレクタ側)からイオン注入することによって形成することができ、イオン注入におけるイオン種やそのエネルギーによってその位置(深さ)が調整され、その際のドーズ量によってFS層におけるドナー濃度が調整される。特許文献1には、この際のイオン種としてプロトン(水素イオン)が用いられることが記載されている。ここでは、水素イオン自身ではなく、プロトン注入によってシリコン中に生成された点欠陥と、シリコン基板中に存在する酸素が関わってドナーが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開公報WO2013/108911
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
IGBTにおいて低いオン電圧(VCEsat:コレクタ・エミッタ間飽和電圧)が要求される場合がある。このオン電圧は、コレクタ層側からドリフト層側への正孔の注入のしやすさに依存するため、FS層の影響を受ける。特許文献1に記載のFS層は、前記のように空乏層がドリフト層側からコレクタ層側に達することを抑制する、あるいはターンオフ特性を良好にするという目的においては有効であるものの、FS層を設けた場合には、オン電圧を十分に低くすることは困難であった。
【0008】
このため、FS層を具備すると共にオン電圧が低いIGBTが望まれた。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の半導体装置は、p型の第1半導体領域と、前記第1半導体領域上に形成されたn型の第2半導体領域と、前記第2半導体領域上に形成され不純物濃度が前記第2半導体領域よりも低いn型の第3半導体領域と、前記第3半導体領域上に形成されたp型の第4半導体領域と、を有し、シリコンを含む半導体基板を具備した半導体装置であって、前記第2半導体領域と前記第3半導体領域にわたる前記第1半導体領域側からの深さx(μm)方向のドナー濃度Ndの分布は、前記第2半導体領域から前記第3半導体領域にかけて連続的に変化し、当該分布は、前記第2半導体領域に対応しピーク値Ndmaxをもつ単一のピークをもつ上側に凸の第1領域と、前記第3半導体領域に対応しNdがNd3(Nd3<Ndmax)の±30%以内の範囲である第2領域と、を具備し、前記ピークは前記1半導体領域と前記第2半導体領域の界面から10μm以内にあり、Ndmaxは1×1015atom/cm以上であり、Nd3は5×1013atom/cm~2×1014atom/cmの範囲であり、前記第1領域において、前記ピークから±2μmの範囲内でNd>Ndmax/2とされたことを特徴とする。
本発明の半導体装置は、前記第2半導体領域における不純物濃度Ndmaxとなるxから前記第3半導体領域に至るまでの厚さをT0としたときに、前記第2半導体領域内、かつ当該ピークとなるxから±T0×2/3の範囲内において、 log(Nd(x))>log(Nd3)+(log(Ndmax)-log(Nd3))/2とされることを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記分布を構成するドナーは、酸素、又はシリコンの結晶欠陥と酸素との複合体のいずれかが活性化したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は以上のように構成されているので、FS層を具備すると共にオン電圧が低いIGBTを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係る半導体装置の構造を示す断面図である。
図2】FS層におけるドナー濃度分布の典型的な2つの例を示す図である。
図3】n層のドナー濃度分布に対応したpnダイオードの順方向特性の例である。
図4】実施例、比較例における半導体基板中のドナー濃度分布である。
図5】実施例におけるFS層付近のドナー濃度分布を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態となる半導体装置について説明する。この半導体装置は、フィールドストップ層(FS層)を具備するIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)である。
【0014】
この半導体装置(IGBT)1は、トレンチゲート型のIGBTであり、図1はその断面図である。図1において、シリコンで形成された半導体基板10において、コレクタ領域となるp型(第1導電型)のp層(第1半導体領域)11の上に、FS層となるn型(第2導電型)のn層(第2半導体領域)12、ドリフト層となるn層(第3半導体領域)13と、ベース領域となるp層(第4半導体領域)14が順次形成されている。半導体基板10の表面側には、表面からp層14を貫通してn層13に達する溝(トレンチ)Tが形成されている。溝Tは、図1における紙面と垂直方向に延伸して並行に複数形成されている。溝Tの内面(側面)には酸化膜(ゲート絶縁膜)16が一様に形成された上で、ゲート電極21が溝Tを埋め込むように形成されている。
【0015】
半導体基板10の表面側においては、溝Tの側壁に、エミッタ領域となるn層17が形成されている。半導体基板10の裏面全面には、p層11と電気的に接続してコレクタ電極22が形成されている。半導体基板10の表面には、エミッタ電極23が形成されている。ただし、溝Tの表面側においては層間絶縁膜24がゲート電極21(溝T)を覆うように形成されているため、エミッタ電極(共通電極)23は、層間絶縁膜24の開口部を通じてn層17とp層14の両方に電気的に接続し、ゲート電極21とは絶縁される。
【0016】
上記の基本的構成は、特許文献1等に記載の半導体装置(IGBT)と同様である。この半導体装置1においては、特にn層(FS層)12、n-層(ドリフト層)13における深さ方向のドナー濃度分布に特徴を有する。ここで、実際にはn層12、n-層13にかけて深さ方向のドナー濃度分布は連続的に変化する。実際にこの半導体装置1を製造するに際しては、n層13に対応するn型基板(Siウェハ)が用いられ、このn型基板に対して、表面側においてp層14が形成され、その後に溝T、酸化膜16、ゲート電極21等が形成される。この点については、従来より知られるトレンチゲート型のIGBTと変わるところがない。
【0017】
一方、n型基板の裏面側においては、n層(FS層)12、p層(コレクタ層)11が形成される。ここで、この半導体装置1は、特に、n層12からn-層13にかけてのドナーの深さ方向の分布に特徴を有する。このような分布は、特に裏面側からのプロトン注入によって実現することができる。以下にこの点について詳細に説明する。
【0018】
特許文献1等に記載されるように、ドリフト層(n層13)よりも高濃度のFS層(n層12)を設けることによって、オフ時の空乏層がコレクタ領域(p+層11)に達しにくくなると共に、オン時にドリフト層に注入される正孔の量が制限され、良好なスイッチング特性(ターンオフ特性)を得ることができる。一方で、この半導体装置1においては、IGBTのオン電圧(VCEsat:コレクタ・エミッタ間飽和電圧)を、FS層におけるドナーの分布によって低くすることができる。
【0019】
IGBTがオンする際の状況はpnダイオードが順バイアスとされた際の状況と類似している。図1の構成において、この場合のpnダイオードのp側はコレクタ領域(p+層11)、n側はFS層(n層12)となる。実際にはp層11のアクセプタ濃度分布は、半導体基板10の裏面近くにおいて高濃度で局所的となる。一方、n層12はp層11よりも裏面側から見て深い箇所にp+層11よりも十分に厚く形成され、その厚さやその中のドナー濃度分布を、プロトン注入条件の設定により調整することができる。
【0020】
図2においては、このように表面に薄いp層と、これよりも深い箇所にn層が形成されたpnダイオードの不純物分布における典型的な2種類の例((1)、(2))を示す。ここでは、横軸が深さ(リニア表示)、縦軸が不純物濃度(対数表示)であり、深さが0μmのところが半導体基板の裏面に対応している。ここでは、n層におけるドナーの分布が単一ピークであり、特に深さ方向における濃度勾配の絶対値が大きな領域が存在しており、この領域が半導体基板10の裏面から浅い箇所にある、すなわちp層に近い箇所にある場合((1):実線)と、この領域が半導体基板10の裏面から深い箇所にある場合((2):破線)の2つの例が示されている。特許文献1に記載のドナー分布を含め、イオン注入によって形成されたドナー分布においては、一般的にはこのように濃度勾配の絶対値が大きな領域が局所的に形成される。なお、ここではp層におけるアクセプタ濃度も点線で同時に示されており、これは(1)(2)において共通とされる。
【0021】
図3においては、(1)(2)の濃度分布に対応した、pnダイオードのI(電流)-V(電圧)特性における順方向特性が模式的に示されている。(1)においては、濃度勾配の大きな領域が浅い箇所にあるため、pn接合界面におけるn層のドナー濃度が高くなる。このため、この特性は、n層のドナー濃度が高い場合のI-V特性となり、順方向降下電圧VFが大きく、かつVがVF以上では急激にIが増大する。このようなpn接合がコレクタ領域とFS層の間で形成された場合には、図3の(1)の特性が反映され、大電流域においてはオン抵抗が低くなる(VCESatが低くなる)ものの、低電流域においては、オン抵抗が高くなる(VCESatが高くなる)。
【0022】
一方、図3の(2)の特性では、逆に、VFが小さいが、その後のIの増加率は小さい。このようなpn接合がコレクタ領域とFS層の間で形成された場合には、図3の(2)の特性が反映され、低電流域においてはオン抵抗が低くなる(VCESatが低くなる)ものの、大電流域においてはオン抵抗が高くなる(VCESatが高くなる)。
【0023】
図3の(1)(2)に対して、(3)の特性は、低電流域、大電流域で共にオン抵抗が低く保たれた場合に対応する、好ましい特性である。この特性は、n層のドナー濃度を、最大濃度を図2の(1)(2)と同等に保ちつつ濃度勾配の絶対値が大きな領域が形成されないようにすることによって実現される。
【0024】
図4は、半導体基板10におけるこのようなドナー濃度の分布形状を具体的に示す図である。ここで、実施例となる分布Aは実線で示され、分布Bは比較例1、分布Cは比較例2であり、比較例1、比較例2は特許文献1におけるFS層が浅く形成された場合(特許文献1の図11(c))、深く形成された場合(特許文献1の図3)の分布である。深さが0μm(半導体基板10の裏面に対応)近くの点線で示された分布は、実施例におけるコレクタ領域(p+層11)のアクセプタ分布が示されており、図4より、実施例におけるコレクタ領域(p+層11)/FS層(n層12)界面は、深さ1μm程度となる。また、前記の通り、ドナー濃度は深さ方向で連続的に変化し、半導体基板10の裏面から所定の深さ以上では、使用されたn型基板のドナー濃度と等しく、これがドリフト層(n層13)におけるドナー濃度Nd3となる。
【0025】
また、図4において、分布A(実施例)における濃度のピーク(ピーク値Ndmax>Nd3)は深さが約2μm程度の位置に存在する。このため、実施例のドナー濃度分布は、上側に凸の単一ピーク(ピーク値Ndmax)をもつ第1領域と、これよりも深い箇所においてNdがNd3と略等しい第2領域と、を具備する。第2領域は、例えばNdがNd3の±30%以内の領域として定義でき、ドリフト層(n層13)に対応する。これに対して、第1領域はFS層(n層12)に対応する。分布Aの場合には、FS層(n層12)/ドリフト層(n層13)の界面は深さ3~30μm、例えば5μm程度となる。
【0026】
図4において、分布B、分布Cも、分布Aと同様に、第1領域、第2領域を具備していると考えることができる。ここで、前記の通り、分布BはFS層のピーク近傍の濃度勾配の絶対値が大きく形成された場合である。これは、図2の(1)に対応する。分布Bの場合にはここで形成されるpnダイオードの特性は図3の(1)となり、前記のように、低電流域においてオン抵抗が高くなる。
【0027】
一方、図4における分布Cにおいては、第1領域においてこのように濃度勾配の絶対値が特に大きくなる領域は発生しない。しかしながら、第1領域は20μmを超える厚さとなるが、ピークが半導体基板10の裏面から深い位置にあり、ピークよりコレクタ領域側は緩やかで、ピークよりコレクタ領域と反対側はピークよりコレクタ領域側より比較的急峻となっている。この状況は、図2の(2)に対応する。このため、分布Cの場合にはここで形成されるpnダイオードの特性は図3の(2)となり、前記のように、大電流域においてオン抵抗が高くなる。すなわち、濃度勾配の絶対値が小さなドナー分布を実現する場合には、一般的にはピークの位置が深く、FS層が厚くなり、大電流域におけるオン抵抗が高くなる。
【0028】
これに対して、図4における分布A(実施例)においては、第1領域におけるピーク値がNdmaxとされ、このピークの前後での濃度勾配が緩やかに設定される。図5は、図4における特性Aを第1領域付近において拡大した図である。ここで、ピークの位置はP、pn接合(コレクタ領域(p+層11)/FS層(n層12)界面)の位置はD、FS層(n層12)/ドリフト層(n層13)界面の位置はEである。ここで、このような分布としては、前記のピークPの深さは、コレクタ領域(p+層11)/FS層(n層12)界面DからFS層(n層12)の厚み(DE間の間隔)の1/3以内、例えば10μm以下とされる。n層13のドナー濃度Nd3は、ドリフト層としての機能を果たすためには低濃度とされ、5×1013atom/cm~2×1014atom/cmの範囲とされる。Ndmaxは、FS層(n層12)を空乏層のストッパとするためには、Nd3よりも十分に高く1×1015atom/cm以上とされる。上記のように第1領域における濃度分布を緩やかにするためには、例えばFS層(n層12)の厚みが4μmであり、前記ピークから±2μmの範囲内でNd>Ndmax/2とされることが好ましい。
【0029】
あるいは、図5において、深さx方向のドナー分布をNd(x)とすると、Nd(x)がピーク値Ndmaxとなる深さPの前後における所定の範囲におけるNd(x)のNdmaxに近い側での変化量(減少量)が小さくなればよい。このためには、この所定の範囲として、FS層(n層12)の範囲内で、ピークPからFS層(n層12)の底部Eまでの間隔をT0として、T1(T1=T0×2/3)を設定し、ピークPから±T1の範囲でNd(x)が一定値NF0よりも大きくなっていればよい。この一定値NF0としては、図5の縦軸が対数スケールである点を考慮した上でのNdmaxとNd3の中間値(log(Nd3)+(log(Ndmax)-log(Nd3))/2)を採用することができる。すなわち、n層12(FS層:第2半導体領域)におけるNd(x)が、ピークとなる深さからT1=T0×2/3として±T1の範囲、かつFS層(n層12)の範囲内においてNd(x)>NF0を満たせばよい。図5において、ピークPから-T1までの範囲内にはpn接合界面Dが存在するため、この範囲の下限はpn接合界面Dとなる。
【0030】
分布Aをもつpnダイオードにおいては、図3の(3)の特性が得られる。このため、分布Aを具備する半導体装置1においては、低電流域、大電流域において共にオン抵抗を低くすることができる。
【0031】
以下に、図4における分布Aを実際に形成し、上記の半導体装置10を製造する方法について説明する。このドナー分布は、特許文献1に記載の技術と同様に、プロトン注入と、その後の熱処理によって形成される。これによって形成されるドナーは、半導体基板10中の酸素、又はプロトン注入によって導入されたシリコンの結晶欠陥と酸素との複合体が活性化したものとなる。
【0032】
まず、半導体基板10の元となるシリコンウェハを製造するに際して、Czochralski (CZ)法で形成された母材は石英ルツボと接触するため、母材内の酸素含有量が大きくなる。そこで、Floating Zone(FZ)法、もしくは融解した珪素に磁場を与えながら母材の不純物をコントロールするMagnetic CZ法、CZ法を実施した後にFZ法を組み合わせたCZFZ法がこの製造に際して好ましい。この母材をウェーハ状に加工して、所望のシリコンウェハが形成される。このシリコンウェハはn型であり、前記のn層13に対応するため、そのドナー濃度はNd3とされる。
【0033】
その後、このウェハの表側にp層14、トレンチT、酸化膜16、ゲート電極21、層間絶縁膜24等が形成された後に、所望の厚さとなるようにこのウェハが研磨(薄膜化)される。その後、上記のドナー分布を形成するために、裏面側からプロトン注入が行われる。この際のプロトンの注入条件は、エネルギー2~30MeV、好ましくは2~8MeV、ドーズ量1×1013~1×1015/cmである。
【0034】
この際、ガラスサポート方式(WSS)により研磨後のウェハを機械的に支持する、あるいはウェハ外周部のみは薄膜化せず厚い状態のままとされるTAIKO方式によって、ウェハを機械的に支持しながらこのプロトン注入を行うことができる。あるいは、同様の分布が実現できる限りにおいて、ウェハ(半導体基板10)の表面側からプロトン注入を行ってもよい。また、プロトン注入後にウェハの裏面側からリン(P)をイオン注入して、プロトン照射で形成されたドナー分布を補強したドナー分布を実現してもよい。
【0035】
その後、レーザアニール又は300℃~500℃の炉内で、30分~3時間のアニールをしてドナーを活性化させ、上記の分布を実現することができる。その後、裏面側からボロン(B)をイオン注入した後、レーザアニールで活性化させてコレクタ層となるp+層11が形成され、コレクタ電極22が形成される。これによって、上記の半導体装置1が製造される。ただし、この製造方法は一例であり、他の製造方法を用いることもできる。いずれの場合においても、上記のような半導体基板10の裏面側のドナー分布は、特にプロトン注入によって好ましく形成される。
【0036】
なお、上記の半導体装置1はトレンチゲート型のIGBTであったが、他の形態として、プレーナ型のIGBTに対しても、同様の構成を適用できることは明らかである。また、上記のようなFS層、ドリフト層以外の構成(構造や不純物分布)は、上記と同様の動作が行われる限りにおいて、任意である。また、上記の例において、半導体基板中のp型とn型を全て逆転させた場合においても、同様の構成を適用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 半導体装置
10 半導体基板
11 p層(コレクタ領域)
12 n層(フィールドストップ層:FS層)
13 n層(ドリフト層)
14 p層(ベース領域)
16 酸化膜(ゲート絶縁膜)
17 n
21 ゲート電極
22 コレクタ電極
23 エミッタ電極
24 層間絶縁膜
T 溝(トレンチ)
図1
図2
図3
図4
図5