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特許7375356距離計、水位計、距離計測方法、及び距離計測プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】距離計、水位計、距離計測方法、及び距離計測プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01F 23/2962 20220101AFI20231031BHJP
   G01S 15/10 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
G01F23/2962
G01S15/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019137865
(22)【出願日】2019-07-26
(65)【公開番号】P2021021612
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129067
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 能章
(74)【代理人】
【識別番号】100183162
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 義文
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 友博
(72)【発明者】
【氏名】西川 雅之
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-070761(JP,A)
【文献】特開昭57-119272(JP,A)
【文献】特開昭58-027086(JP,A)
【文献】米国特許第05221928(US,A)
【文献】特開2016-166767(JP,A)
【文献】実開昭60-070033(JP,U)
【文献】実開昭55-005392(JP,U)
【文献】特開2012-093172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 23/2962
G01S
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送波器から超音波を媒体に出射し、該媒体で反射した反射超音波を受波器で受信して距離を計測する距離計であって、
前記送波器を駆動させる発振制御部と、
前記送波器の駆動を開始してから、前記受波器の出力電圧が閾値を超えるまでの時間を測定する時間測定部と、
前記送波器の駆動を開始してからの経過時間が所定時間を超えたときに、前記閾値を高い値から低い値に切り替える閾値生成部と、
前記閾値が高いときには、前記時間測定部が測定した時間から前記送波器の駆動周期だけ減算し、前記閾値が低いときには、前記時間測定部が測定した時間を維持する時間演算部と、を備え、
前記高い閾値は、前記受波器の出力電圧の1周期目のピーク値よりも高く、2周期目のピークよりも低くなるように設定されている
ことを特徴とする距離計。
【請求項2】
請求項1に記載の距離計であって、
前記発振制御部は、前記送波器に対する矩形高周波電圧の印加を開始し、
前記受波器は、立ち上がりが遅延する高周波電圧を出力し、
前記時間測定部は、前記矩形高周波電圧の印加を開始してから前記高周波電圧の瞬時値が前記閾値を超えるまでの時間を測定する
ことを特徴とする距離計。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の距離計であって、
前記閾値生成部は、前記経過時間が長くなるほど、前記閾値を徐々に低下させる
ことを特徴とする距離計。
【請求項4】
送波器から超音波を媒体に出射し、該媒体で反射した反射超音波を受波器で受信して、該媒体までの距離を計測する距離計であって、
距離を測定する際に、前記送波器から超音波を出射させる発振制御部と、
前記送波器に超音波を出射させてから、瞬時音圧が閾値以上の反射超音波を受信するまでの時間を測定する時間測定部と、
前記送波器の駆動を開始してからの経過時間が所定時間を超えたときに、前記閾値を高い値から低い値に切り替える閾値生成部と、
前記閾値が高いときには、前記時間測定部が測定した時間から前記送波器の駆動周期だけ減算し、前記閾値が低いときには、前記時間測定部が測定した時間を維持する時間演算部と、を備え、
前記高い閾値は、前記受波器の出力電圧の1周期目のピーク値よりも高く、2周期目のピークよりも低くなるように設定されている
ことを特徴とする距離計。
【請求項5】
請求項4に記載の距離計であって、
前記反射超音波の瞬時音圧が前記閾値以上であるか否か比較する比較器をさらに備え、
前記時間測定部は、前記超音波を出射させてから、該比較器の出力が遷移するまでの時間を測定する
ことを特徴とする距離計。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の距離計であって、
前記時間測定部が測定した測定時間を用いて、前記媒体までの距離を演算する距離演算部をさらに備える
ことを特徴とする距離計。
【請求項7】
請求項1に記載の距離計であって、
前記時間測定部が測定した測定時間を用い、前記媒体までの距離を演算する距離演算部とをさらに備え、
前記時間測定部は、前記送波器を間欠的に複数回駆動させ、前記送波器の各々の駆動開始から、前記受波器の出力電圧が前記閾値を超えるまでの時間を測定し、
前記距離演算部は、前記測定した時間を平均し、前記媒体までの平均距離を演算する
ことを特徴とする距離計。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載の距離計を用いて、媒体としての水面との距離を計測する水位計。
【請求項9】
送波器から超音波を媒体に出射し、該媒体で反射した反射超音波を受波器で受信して距離を計測する距離計が実行する距離計測方法であって、
前記送波器を駆動させる送波器駆動工程と、
前記送波器の駆動を開始してから、前記受波器の出力電圧が閾値を超えるまでの時間を測定する時間測定工程と、
前記送波器の駆動を開始してからの経過時間が所定時間を超えたときに、前記閾値を高い値から低い値に切り替える閾値生成工程と、
前記閾値が高いときには、前記時間測定工程で測定した時間から前記送波器の駆動周期だけ減算し、前記閾値が低いときには、前記時間測定工程で測定した時間を維持する時間演算工程と、を備え、
前記高い閾値は、前記受波器の出力電圧の1周期目のピーク値よりも高く、2周期目のピークよりも低くなるように設定されている
ことを特徴とする距離計測方法。
【請求項10】
送波器から超音波を媒体に出射し、該媒体で反射した反射超音波を受波器で受信して距離を計測する距離計の制御部に実行させる距離計測プログラムであって、
前記送波器を駆動させる送波器駆動工程と、
前記送波器の駆動を開始してから、前記受波器の出力電圧が閾値を超えるまでの時間を測定する時間測定工程と、
前記送波器の駆動を開始してからの経過時間が所定時間を超えたときに、閾値を高い値から低い値に切り替える閾値生成工程と、
前記閾値が高いときには、前記時間測定工程で測定した時間から前記送波器の駆動周期だけ減算し、前記閾値が低いときには、前記時間測定工程で測定した時間を維持する時間演算工程とを実行させ、
前記高い閾値は、前記受波器の出力電圧の1周期目のピーク値よりも高く、2周期目のピークよりも低くなるように設定されている
ことを特徴とする距離計測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離計、水位計、距離計測方法、及び距離計測プログラムに関し、例えば、超音波を用いて水面までの距離を計測する距離計に関する。
【背景技術】
【0002】
水防団待機水位や氾濫危険水位等の基準水位が河川ごとに設定されている。河川に設置する水位計が各基準水位を示すときに、水防団の活動開始や避難勧告の発令等が行われる。水位計は、非接触で測定することができ、設置後のメンテナンスが不要な超音波式が広く採用されている。超音波式水位計は、河川上の空中に設置した送波器から超音波を発射し、水面で反射した超音波が受波器に戻ってくるまでの時間を測定している。そして、超音波水位計は、この測定時間と超音波速度とから、送波器、及び受波器から水面までの距離(水位)を算出している。
【0003】
例えば、特許文献1は、事前設定した設定値(音圧の理論値の平均)と、超音波の強度を測定する強度測定部で測定した音圧又は音の強さとを比較し、比較結果から水面までの測定値を平均化する平均化回数を決定する水位計を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-072280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、洪水予報の基準となる基準水位の設定は、1cm単位で行われている。このため、水位計には、水位10m範囲で±1cmの測定精度が求められる。超音波水位計は、ノイズ除去のため、受波器の出力電圧波形が予め設定した閾値を超えた瞬間を反射波受信タイミングとして距離を算出している。また、送波器が送出する超音波は立ち上がりが緩やかなので、低い閾値では、超音波水位計は、超音波の1周期目の立ち上がりを検知したり、2周期目の立ち上がりを検知したりすることがある。つまり、超音波水位計は、閾値を低く設定すると、1周期分の誤差(例えば、周波数f=22.5kHzのとき、約7mm)が発生してしまう。したがって、従来の超音波水位計は、高めの閾値電圧を設定することによって、±1cmの測定精度を実現していた。
【0006】
しかしながら、長い測定距離(例えば、10m)の場合には、超音波の減衰が大きくなるので、受波器の出力電圧が低下してしまう。このため、閾値電圧を高めに設定すると、受波器の出力電圧が閾値電圧を下回り、測定が不可能となってしまう。河川の環境は様々であり、媒体(水面)との距離10mを超える環境への設置のニーズがあるが、従来の超音波水位計を適用することができなかった。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、従来よりも長い距離を測定することができる距離計、水位計、距離計測方法、及び距離計測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、送波器(11)から超音波を媒体(例えば、水面)に出射し、該媒体で反射した反射超音波を受波器(21)で受信して距離(例えば、水位)を計測する距離計(例えば、超音波水位計100,101)であって、距離を測定する際に、前記送波器から超音波を出射させる発振制御部(31)と、前記超音波の出射を開始させてから、前記受波器の出力電圧が閾値を超えるまでの時間を測定する時間測定部(32)と、前記送波器の駆動を開始してからの経過時間が所定時間を超えたときに、前記閾値を高い値から低い値に切り替える閾値生成部(35)と、前記閾値が高いときには、前記時間測定部が測定した時間から前記送波器の駆動周期だけ減算し、前記閾値が低いときには、前記時間測定部が測定した時間を維持する時間演算部と、を備え、前記高い閾値は、前記受波器の出力電圧の1周期目のピーク値よりも高く、2周期目のピークよりも低くなるように設定されていることを特徴とする。なお、括弧内の符号や文字は、実施形態において付した符号等であって、本発明を限定するものではない。
【0009】
送波器は、矩形高周波電圧がパルス状に印加されると、立ち上がりが緩い超音波を発生する。このため、受波器は、反射超音波の受波により、立ち上がりが緩い高周波電圧(瞬時電圧)を出力する。閾値が高い場合、立ち上がり時間に相当する、矩形高周波電圧の周期だけ検出が遅延する一方、測定距離が長くなると、超音波が減衰し、検出困難になる。一方、閾値が低い場合、超音波が減衰しても検出可能であるが、検出遅延が発生しなかったり、高周波電圧の立ち上がり時間に相当する、矩形高周波電圧の周期だけ遅延したりする。つまり、閾値が高いときの遅延量は、固定値なので、修正可能である一方、閾値が低いときの遅延量は、固定しないので、修正困難である。したがって、媒体との距離が短いときには、閾値を高くすると共に、検出遅延の修正を行い、測定精度を高める。一方、媒体との距離が長いときには、矩形高周波の周期に相当する誤差の発生を認めつつ、反射超音波の検出を優先する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来よりも長い距離を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態である超音波水位計の構成図である。
図2】波が無い水面での、超音波の反射を説明する説明図である。
図3】本発明の第1実施形態である超音波水位計の受信波形を示す図である。
図4】本発明の第1実施形態である超音波水位計の動作を説明するフローチャートである。
図5】波が有る水面での、超音波の反射を説明する説明図である。
図6】本発明の第2実施形態である超音波水位計の構成図である。
図7】本発明の第2実施形態である超音波水位計の動作を説明するフローチャートである。
図8】本発明の第3実施形態である超音波水位計の受信波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態につき詳細に説明する。なお、各図は、実施形態を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態である超音波水位計の構成図である。
超音波水位計100は、送波器11と、発振部12と、受波器21と、増幅部22と、比較器としてのコンパレータ23と、制御部30aと、揮発性記憶部40と、不揮発性記憶部50と、通信部60とを備え、水面までの距離を計測する距離計である。超音波水位計100は、送波器11が媒体としての水面に対して超音波を発射(出射)し、水面で反射した反射超音波を受波器21で受信し、制御部30aが、送受信の時間差を測定するように構成されている。また、超音波水位計100は、測定された時間差を用いて、河川の水面からの高さh(図2)を演算するように構成されている。ここで、超音波とは、可聴音の上限周波数(およそ16kHz)以上の周波数の音響振動をいう(JIS Z8106:2000)。
【0014】
発振部12は、制御部30a(発振制御部31)の制御により、周波数f(例えば、f=22.5kHz)の矩形状の高周波電圧(矩形高周波電圧V(t))を発生する。ここでは、10kHz以上の周波数を高周波という。また、発振制御部31は、パルス状の駆動信号Dを発振部12に出力する。これにより、送波器11に印加される矩形高周波電圧V(t)はパルス状である。結果的に、複数周期の矩形電圧が送波器11に印加され、高周波電力Pが送波器11に供給される。
【0015】
このとき、発振制御部31は、発振を開始させる発振開始タイミングtを時間測定部32に通知する。送波器11は、超音波を発生させる超音波振動子であり、圧電素子が代表的である。なお、送波器11が送出する音波は、矩形高周波電圧V(+0)のステップ状の立ち上がりに対して、緩やかな立ち上がり特性を有している。受波器21は、超音波を受波する圧電素子やマイクロフォン等であり、瞬時音圧p(t)[Pa]を瞬時電圧v(t)[V]に変換する。
【0016】
瞬時音圧p(t)は、媒質中のある点で対象とする瞬間に存在する圧力から静圧を引いた値である。なお、瞬時音圧p(t)の実効値を音圧P[Pa]と表現する。なお、空間を伝搬している音圧をP[Pa]、音波によって振動している媒質粒子(空気)の粒子速度をu[m/s]とすれば、音波の進行方向に垂直な単位面積を単位時間に通過する音のエネルギE[W/m]は、
E=P・u
で与えられ、この量が「音の強さ」と呼ばれる。また、静圧は、媒質中のある点で、音波の無いときに存在する圧力である(JIS Z8106:2000)。
【0017】
増幅部22は、受波器21が出力する瞬時電圧v(t)を増幅し、増幅された瞬時電圧v(t)としてコンパレータ23に出力する。送波器11が送出する音波が緩やかな立ち上がり特性を有しているので、瞬時電圧v(t)も緩やかな立ち上がり特性を有している。この点、図3では、第1周期の振幅が第2周期の振幅よりも小さいことで表現されている。
【0018】
コンパレータ23は、増幅部22が出力する瞬時電圧v(t)と、後記する閾値(閾値電圧)とを比較する比較器である。つまり、コンパレータ23は、瞬時電圧v(t)が閾値電圧を超えたときに、そのタイミング(受波開始タイミングt)を制御部30aの時間測定部32に通知する。
【0019】
制御部30aは、CPU(Central Processing Unit)であり、プログラム55を実行することにより、発振制御部31と、時間測定部32と、距離演算部34と、閾値生成部35と、通信制御部36との機能を実現する。揮発性記憶部40は、RAM(Random Access Memory)であり、ワーキングメモリとして使用される。不揮発性記憶部50は、ROM(Read Only Memory)であり、プログラム55を格納する。通信部60は、通信制御部36の制御により、図示しない管理装置と通信する。
【0020】
図2は、波が無い水面での、超音波の反射を説明する説明図である。
図2において、空気と水との界面(静水面)の「水位」は、予め決められた基準点からの距離をいう。また、送波器11及び受波器21と静水面との距離が高さhである。送波器11は、静水面に向けて、超音波を出射すると、入射波Siは、透過波Stと反射波Srとに分割され、受波器21がその反射波Srを入射する。ここで、空気中の音速c1は、330[m/s]であり、水中の音速c2は、1500[m/s]である。
【0021】
ここで、入射角θiと反射角θrとは等しく、透過角θtは、入射角θiよりも小さい。なお、臨界角θcは、θc=sin-1(330/1500)≒13°である。
【0022】
また、空気の固有音響インピーダンスをZ1≒0.00043[10kg/ms]とし、水の固有音響インピーダンスをZ2≒1.5[10kg/ms]とすると、静水面での音圧の反射率Rは、
R=(Z2-Z1)/(Z1+Z2)≒1
で表現される。つまり、透過波St≒0、|Si|≒|Sr|である。
【0023】
また、送波器11が発射する超音波の発射時の音圧をPとし、空気の減衰定数をaとしたとき、伝搬距離zにおける音圧P(z)は、
P(z)=P・exp(-a・z)
で表される。したがって、受波器21が受波する音圧P(z)は、送波器11、及び受波器21から水面までの高さをhとしたとき、
P(2h)≒P・exp(-a・2h)
で減衰する。但し、送波器11、及び受波器21は、互いに近接しており、伝搬距離z≒2hであるとする。
【0024】
図3は、本発明の第1実施形態である超音波水位計の送波器に印加される矩形高周波電圧、及び受信波形を示す図である。上図が矩形高周波電圧V(t)であり、下図が瞬時電圧v(t)である。横軸は、時間t[Sec]である。特に、図3には、高さh=1mのときの受信波形、高さh=10mのときの受信波形、高さh=15mのときの受信波形が描かれている。それぞれの受信波形は、相似形であり、高さhが高いほど、到達時間が長くなると共に、超音波の減衰により、振幅(ピーク電圧)が小さくなっている。
【0025】
送波器11には、パルス状の矩形高周波電圧V(t)が印加される。このため、瞬時電圧v(t)は、複数周期の波形を呈している。また、送波器11が送出する音波は、矩形高周波電圧V(+0)のステップ状の立ち上がりに対して、緩やかな立ち上がり特性を有している。このため、瞬時電圧v(t)の第1周期の振幅は、第2周期の振幅よりも小さい。
【0026】
仮に、閾値(閾値電圧)をA(一点鎖線)に設定すると、h=1m及びh=10mの受信波形では、コンパレータ23(図1)は、第2周期の立ち上がりタイミングa,bを検出することができる。しかしながら、コンパレータ23は、h=15mの受信波形を検出することができない。なお、閾値Aでは、第1周期の立ち上がりタイミングを検出できないが、その検出遅れは、常に1周期の固定時間なので、修正可能である。
【0027】
次に、閾値をAよりも低いB(二点鎖線)に設定すると、コンパレータ23は、h=1mの受信波形では、第1周期の立ち上がりタイミングcを検出し、h=15mの受信波形では、第2周期の立ち上がりタイミングdを検出する。また、h=10mの受信波形では、閾値Bは、第1周期のピーク値eの近傍なので、コンパレータ23は、第1周期を検出するか第2周期を検出するか微妙な状態になる。閾値Bでの検出タイミングは、一定しないので、修正困難である。
【0028】
ところで、矩形高周波電圧V(t)は、周波数f=22.5kHz(周期T=44μSec)である。周期T=44μSecの音波の伝搬距離は、約7mmである。つまり、閾値をAに設定すると、h=15mでの検出ができず、閾値をBに設定すると、原理的に、1周期分の測定誤差(約7mm)が生じてしまう。そこで、本実施形態の閾値生成部35(図1)は、高さhが低いときには、閾値をAに設定している。そして、高さhが高くなると、閾値生成部35は、閾値をAからBに切り替える。これにより、超音波水位計100は、高さhが低いときには、1周期分の修正により、原理的に発生する誤差を無くし、高さhが高いときには、原理的な誤差の発生の可能性を許容しつつ、時間測定(距離測定)を可能にしている。
【0029】
制御部30a(図1)の発振制御部31は、パルス状の駆動信号Dを発振部12に出力し、発振部12をパルス状に駆動させる機能部である。これにより、送波器11には、所定幅の矩形高周波電圧V(t)が印加されると共に、高周波電力が供給される。
【0030】
時間測定部32は、送波器11が超音波の発振を開始する発振開始タイミングtから、水面で反射して受波器21に戻って来る受波開始タイミングtまでの伝搬時間T=(t-t)を測定する。つまり、時間測定部32は、送波器11に対する矩形高周波電圧V(t)の印加開始タイミングから受波器21が出力する瞬時電圧v(t)が閾値を超えるまでの時間を測定する。距離演算部34は、測定された伝搬時間Tと超音波の速度(空気中の音速c1[m/s])とに基づいて、送波器11及び受波器21から水面までの距離(高さh≒cT/2)を演算する。ここで、超音波の伝搬距離は、2hである。空気中の超音波の音速c1は、図示しない気温測定部で測定した外気温をC[℃]とすると、
c1=331.45+0.607・C
で表現される。
【0031】
閾値生成部35は、測定開始時に閾値を高い値Aに設定し、測定を開始してから所定時間経過後、閾値をAよりも低い値Bに設定する。この所定時間は、例えば、水面からの高さh=10mの往復時間60mSecである。これにより、受波器21の出力波形(瞬時電圧v(t)=k・v(t))は、高さhが低いときに、閾値Aと比較され、高さhが高いときには、閾値Bと比較されることになる。通信制御部36は、通信部60を制御する。
【0032】
(動作の説明)
図4は、本発明の第1実施形態である超音波水位計の動作を説明するフローチャートである。このフローは、水位測定時に起動する。この水位測定は、1時間毎、半日毎等の周期的に実行される。
【0033】
制御部30aの閾値生成部35は、まず、初期設定として、閾値を高い値A(図3)に設定する(S1)。S1の後、制御部30aは、送波器11に対して、超音波の発振指示を行う(S2)。つまり、発振制御部31は、パルス状の矩形高周波電圧V(t)を発生させる指示を、発振部12に対して行う。これにより、送波器11から発射された超音波は、水面で反射し、反射超音波が受波器21に到達する。
【0034】
S2の処理後、制御部30aは、T秒(例えば、T=60mSec)経過したか否か判定する(S3)。ここで、T=60msecは、水面からの高さh=10mでの超音波往復時間である。制御部30aは、T秒経過していなければ(S3でNo)、制御部30aは、超音波が検出されたか否かの判定を行う(S4)。つまり、時間測定部32は、コンパレータ23の出力電圧が遷移したか否かの判定を行う。
【0035】
超音波を検出できれば(S4でYes)、制御部30aは、S6の処理を実行するが、超音波を検出できなければ(S4でNo)、制御部30aは、S3の処理に戻る。この処理により、高さhが低いときには、T秒経過する前に反射超音波が到達するので、コンパレータ23は、高い閾値Aで判定を行う。
【0036】
T秒経過すれば(S3)、閾値生成部35は、閾値を低い値(例えば、B(図3))に設定する(S5)。S5の後、制御部30は、超音波が検出されたか否かの判定を行う(S4)。超音波を検出できなければ(S4でNo)、制御部30aは、S3の処理に戻り、S5,S4の処理を繰り返す。この処理により、高さhが高いときには、T秒経過した後に反射超音波が到達するので、コンパレータ23は、低い閾値Bで判定を行う。
【0037】
超音波を検出できれば(S4でYes)、時間測定部32は、超音波の発振指示(S2)を行った時t1から超音波を検出した時t2までの経過時間(往復時間T=(t2-t1))を計算する(S6)。このとき、閾値Aに設定されていたときには、1周期分の時間を減少させる。S6の後、往復時間T[Sec]を用いて、距離演算部34は、水面までの距離(高さh)h≒c1×T/2を演算する(S7)。
【0038】
(効果の説明)
以上説明したように、本実施形態の超音波水位計100は、パルス状の矩形高周波電圧V(t)を送波器11に印加するように構成されている。つまり、送波器11には、複数周期の矩形高周波電圧が印加される。超音波水位計100は、測定開始時は、閾値を高い値Aに設定して、受信波の第2周期の立ち上がりタイミングを検出する。そして、第2周期以降の立ち上がりタイミングから1周期を減算して、第1周期の立ち上がりタイミングとする。これにより、立ち上がり特性が悪いことによって発生する原理的な誤差(第1周期を検出したのか、第2周期を検出したのか不明確になって生じる1周期分(伝搬距離で約7mm)の誤差)が回避される。
【0039】
超音波水位計100は、測定を開始してからの経過時間が所定時間(例えば、T=60mSec)を超えたときに、閾値を低い値Bに設定する。これにより、1周期分(伝搬距離で約7mm)の誤差の発生を許容しつつ、超音波の減衰によって、高い閾値Aでは検出不可能になる事象が回避される。
【0040】
(第2実施形態)
前記第1実施形態の超音波水位計100は、図2に示すように、水面が静かな静水面であることを前提にしていたが、測定値の平均化により、波があっても使用可能となる。
【0041】
図5は、波が有る水面での、超音波の反射を説明する説明図である。
水面は、送波器11及び受波器21から水面までの距離(高さh)が逐次変動し、その平均を平均高さHとする。また、送波器11及び受波器21と基準点との距離を基準高さHとする。つまり、平均水位は、基準高さHから平均高さHを減じたものである。
【0042】
送波器11は、水面に向かって超音波を出射するが、その水面は曲率を有している。凸面で反射する反射波(波束)は、広範囲に拡がるように反射(拡散)し、凹面で反射する反射波(波束)は、集光するように反射後、拡散する。この拡散のため、受波器21は、反射波を受波しなかったり、反射波の全波束を捉えることができなかったりする。また、受波器21は、反射波を捉えたとしても、波の大きさによって測定時間(測定距離)が異なってしまう。この測定距離の誤差(波の大きさ)は、一般的に、前記第1実施形態で説明した1周期分(伝搬距離で約7mm)の誤差よりも極めて大きい。このため、第2実施形態の超音波水位計101(図6)は、平均処理部33を設け、演算した測定距離を平均して、波の影響を低減する。
【0043】
図6は、本発明の第2実施形態である超音波水位計の構成図である。
超音波水位計101は、前記第1実施形態の超音波水位計100と同様に、送波器11と、発振部12と、受波器21と、増幅部22と、コンパレータ23と、制御部30bと、揮発性記憶部40と、不揮発性記憶部50と、通信部60とを備える。制御部30bは、発振制御部31と時間測定部32と、距離演算部34と、閾値生成部35と、通信制御部36との機能を実現する。
【0044】
制御部30bは、さらに、平均処理部33の機能を実現する点で前記第1実施形態の超音波水位計100と相違する。また、不揮発性記憶部50は、プログラム55を格納するだけでなく、平均化回数Nの格納領域51と、平均処理部33が演算した平均水位の格納領域52とを有している。
【0045】
平均処理部33は、波の影響を除去するために、距離演算部34で演算した水面までの距離(高さh)の平均値(平均高さH(図3))を演算する。そして、平均処理部33は、基準点と送波器11及び受波器21との距離(基準高さH)から平均高さHを減算して、平均水位を演算する。なお、発振制御部31は、1回の測定で平均化回数N(例えば、N=50回)だけ、超音波を出射させるために、矩形高周波のバースト信号を発生させる。また、時間測定部32は、平均化回数Nだけ、反射超音波の伝搬時間の測定を行う。
【0046】
図7は、本発明の第2実施形態である超音波水位計の動作を説明するフローチャートである。
第1実施形態と同様に、このフローは、水位測定時に起動する。この水位測定は、1時間毎、半日毎等の周期的に実行される。
【0047】
まず、制御部30bの平均処理部33は、平均化回数N(例えば、N=50)を設定する(S11)。このとき、平均化回数Nは、不揮発性記憶部50の格納領域51に格納される。S11の処理後、閾値生成部35は、閾値を高い値A(図3)に設定する(S12)。S12の処理後、発振制御部31は、送波器11に対して、超音波の発振指示を行う(S13)。つまり、発振制御部31は、発振部12に対して、パルス状の矩形高周波電圧V(t)を印加させる指示を行う。これにより、送波器11から発射された超音波は、水面で反射し、反射超音波が受波器21に到達する。
【0048】
S13の後、制御部30bは、T秒(例えば、T=60mSec)経過したか否か判定する(S14)。T秒経過していなければ(S14でNo)、時間測定部32は、超音波が検出されたか否かの判定を行う(S15)。超音波を検出できなければ(S15でNo)、制御部30bは、S14の処理に戻し、超音波の検出を繰り返す。
【0049】
超音波を検出することなくT秒経過すれば(S14でYes)、閾値生成部35は、閾値を低い値B(図3)に設定する(S16)。S16の後、制御部30bは、超音波が検出されたか否かの判定を行う(S15)。超音波を検出できなければ(S15でNo)、制御部30bは、S14の処理に戻り、S16,S15の処理を繰り返す。
【0050】
超音波を検出できれば(S15でYes)、制御部30bは、平均化回数Nを(N-1)に設定する(S17)。S17の処理後、時間測定部32は、超音波が往復した往復時間Tを計算する(S18)。S18の処理後、制御部30bは、平均化回数Nが1まで減少したか否か判定する(S19)。平均化回数Nが1まで減少していなければ(S19でNo)、制御部30bは、処理をS12に戻し、閾値生成部35は、閾値を高い値A(図3)に設定し、測定を繰り返す。S13の繰り返しにより、発振部12は、矩形高周波のバースト電圧を発生する。
【0051】
一方、平均化回数Nが1まで減少していれば(S19でYes)、距離演算部34は、往復時間T[Sec]を用いて、平均距離を演算する(S20)。つまり、距離演算部34は、水面からの高さh≒c1×T/2を演算し、平均処理部33が高さhを平均し、平均高さHを演算する。平均化回数Nを適切に設定することにより、平均高さHの誤差は、前記第1実施形態で説明した1周期分(伝搬距離で約7mm)の誤差よりも小さくなる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態の超音波水位計101は、波に反射しても受波器21に戻って来なかった超音波を無視し、受波器21に戻ってきた反射超音波を平均化回数Nだけ測定し、平均距離を演算する。また、前記第1実施形態と同様に、超音波水位計101は、高さhが低く、閾値を高い値Aに設定しているときの反射超音波は、原理的に発生する誤差(超音波1周期分の誤差)が無い。したがって、超音波水位計101は、測定値の平均化回数Nを適切に設定することにより、波による誤差を超音波1周期分の誤差未満にすることができる。
【0053】
(第3実施形態)
前記第1,2実施形態の超音波水位計100,101は、測定開始時に閾値を高い値Aに設定し、所定時間(例えば、60mSec)経過してから閾値をAよりも低い値Bに設定した。閾値は、徐々に低くしても構わない。本実施形態の超音波水位計の構成は、前記第1,2実施形態の超音波水位計100,101と同様なので、説明を省略する。
【0054】
図8は、本発明の第3実施形態である超音波水位計の受信波形を示す図である。
図8には、高さh=1mの受信波形と、高さh=15mの受信波形との双方が示されている。閾値生成部35は、閾値C(t)を、例えば、高さhが低い位置(例えば、1m)において、受信波形の1周期目のピークよりも高く、2周期目のピークよりも低い値(予め測定した値)から時間経過と共に徐々に小さくする。
【0055】
受信波の音圧P(t)は、
P(t)=P・exp(-a・z)=P・exp(-a・(c1・t))
であり、指数関数的に減少する。このため、閾値生成部35は、閾値C(t)を、時間経過と共に指数関数的に減少させるものとする。これにより、高さh=15mの受信波形においても、閾値C(t)は、1周期目のピークよりも高く、2周期目のピークよりも低い値に設定される。
【0056】
本実施形態の超音波水位計によれば、超音波の減衰にかかわらず、閾値が第2周期に固定される。つまり、本実施形態の超音波水位計は、高さhの大小にかかわらず、高めの閾値Aを設定したとき同等の精度を得ることができる。
【0057】
(変形例)
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような種々の変形が可能である。
(1)前記各実施形態の超音波水位計100,101は、媒体としての水面からの距離を測定していたが、土砂等の媒体との距離を測定することもできる。
(2)前記各実施形態では、コンパレータ23を用いて、増幅部22が出力する瞬時電圧v(t)と閾値(閾値電圧)とを比較していた。このことは、受波器21の瞬時音圧p(t)と閾値とを比較することにもなる。
(3)前記各実施形態では、2周期目で閾値を超えたが、超音波の立ち上がり特性によっては、3周期目以降で閾値を超えることもある。つまり、増幅部22が出力する瞬時電圧v(t)は、2周期目以降で閾値を超えることがある。
(4)前記各実施形態では、瞬時電圧v(t)と閾値A,Bとを比較したが、瞬時電圧v(t)をA/D変換し、A/D変換結果と閾値A,Bとを比較しても構わない。
【符号の説明】
【0058】
11 送波器
12 発振部
21 受波器
22 増幅部
23 コンパレータ(比較器)
30a,30b 制御部
31 発振制御部
32 時間測定部
33 平均処理部
34 距離演算部
35 閾値生成部
100,101 超音波水位計(距離計)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8