(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】車両制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 50/029 20120101AFI20231031BHJP
B60W 50/035 20120101ALI20231031BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
B60W50/029
B60W50/035
B60R16/02 650A
(21)【出願番号】P 2019140264
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒川 芳正
(72)【発明者】
【氏名】山下 哲弘
【審査官】▲高▼木 真顕
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-196295(JP,A)
【文献】特開2003-291692(JP,A)
【文献】特開平08-223190(JP,A)
【文献】特開2017-196965(JP,A)
【文献】特開平09-311990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 - 60/00
B60R 16/00 - 16/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両制御システムであって、
複数のセンサと、
前記各センサの出力に基づいて、
車外環境を推定しかつ車両の走行経路を算出して、複数のアクチュエータの目標出力を算出する中央制御装置と、
前記中央制御装置と前記各アクチュエータと
の通信経路の間にそれぞれ設けられ、前記中央制御装置で生成された制御信号を中継する複数の中継装置とを備え、
前記各アクチュエータは、車両の駆動制御、制動制御、又は操舵制御に関連する
第1特定アクチュエータ
と、車両の駆動制御、制動制御、又は操舵制御に関連しない第2特定アクチュエータと、を含み、
前記複数の中継装置は、前記
第1特定アクチュエータと通信可能な
第1特定中継装置
と、前記第2特定アクチュエータとのみ通信可能な第2特定中継装置と、を含み、
前記中央制御装置は、推定した車外環境及び算出した走行経路に基づいて、前記第1特定アクチュエータ及び前記第2特定アクチュエータへの制御信号を生成し、
前記中央制御装置は、自己の異常を診断する中央異常診断部を有し、
前記第1特定中継装置は、自己の異常を診断する特定異常診断部及び自己に接続された前記
第1特定アクチュエータの目標出力を算出可能な予備演算部を有
し、
前記第2特定中継装置は、自己を診断する機能を有していない一方で、前記第2特定アクチュエータをオン又はオフにする予め設定された制御信号を出力可能な信号出力部を有し、
前記第1特定中継装置は、一部の前記センサの出力が入力されるように構成され、
前記予備演算部は、前記中央異常診断部により前記中央制御装置の異常が検知されたときには、当該第1特定中継装置に入力される前記センサの情報に基づいて前記第1特定アクチュエータを制御し、
前記信号出力部は、前記中央異常診断部により前記中央制御装置の異常が検知されたときには、前記予め設定された制御信号を前記第2特定アクチュエータに出力することを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて、
前記
第1特定中継装置は、一部の前記センサの出力が入力されるように構成され、
前記
第1特定中継装置の前記予備演算部は、前記中央異常診断部により前記中央制御装置の異常が検知されたときには、当該
第1特定中継装置に入力される前記センサの情報に基づいて前記
第1特定アクチュエータを制御することを特徴とする車両制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御システムにおいて、
前記
第1特定中継装置は、自己と前記中央制御装置との間の通信状態の異常を診断する通信診断部を有し、
前記
第1特定中継装置の前記予備演算部は、前記通信診断部により当該
第1特定中継装置と前記中央制御装置との通信状態の異常が検知されたときには、当該
第1特定中継装置に入力される前記センサの情報に基づいて前記
第1特定アクチュエータを制御することを特徴とする車両制御システム。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1つに記載の車両制御システムにおいて、
前記
第1特定アクチュエータは、電動パワーステアリング装置の電動モータを含むことを特徴とする車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、車両制御システムに関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載機器の電動化が顕著であり、車両の運動を電子制御により制御するようになっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、車載機器への操作量指令値を演算する指令コントローラと、指令コントローラからの操作指令値に基づいてアクチュエータを制御するアクチュエータ駆動コントローラとを備え、指令コントローラと各アクチュエータ駆動コントローラとにそれぞれ故障検出機能を持たせた車両制御システムが開示されている。
【0004】
また、特許文献1では、指令コントローラに異常があったときには、各アクチュエータ駆動コントローラにより各アクチュエータを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両制御におけるフェールオペレーショナル性を向上させる観点からは、特許文献1のように、全てのアクチュエータ駆動コントローラに故障検出機能を持たせればよい。しかしながら、近年では、ステアリング装置やブレーキ装置など、車両の基本動作(駆動、制動、操舵)に関する車載機器についても電子制御化が顕著であり、制御対象となるアクチュエータの数は数百にもなる。これら各アクチュエータの各コントローラの全てに故障検出機能をもたせると、システムの構築のための工数が増大し、開発コストが増大してしまう。
【0007】
また、特許文献1では、指令コントローラに異常が発生したときには、全てのアクチュエータ駆動コントローラを作動状態に維持しておく必要があり、消費電力が増大してしまう。
【0008】
ここに開示された技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするとこは、高いフェールオペレーショナル性を得つつ、コストの増大を出来る限り抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術では、車両制御システムを対象として、複数のセンサと、前記各センサの出力に基づいて、車外環境を推定しかつ車両の走行経路を算出して、複数のアクチュエータの目標出力を算出する中央制御装置と、前記中央制御装置と前記各アクチュエータと通信経路の間にそれぞれ設けられ、前記中央制御装置で生成された制御信号を中継する複数の中継装置とを備え、前記各アクチュエータは、車両の駆動制御、制動制御、又は操舵制御に関連する第1特定アクチュエータと、車両の駆動制御、制動制御、又は操舵制御に関連しない第2特定アクチュエータと、を含み、前記複数の中継装置は、前記第1特定アクチュエータと通信可能な第1特定中継装置と、前記第2特定アクチュエータとのみ通信可能な第2特定中継装置と、を含み、前記中央制御装置は、推定した車外環境及び算出した走行経路に基づいて、前記第1特定アクチュエータ及び前記第2特定アクチュエータへの制御信号を生成し、前記中央制御装置は、自己の異常を診断する中央異常診断部を有し、前記第1特定中継装置は、自己の異常を診断する特定異常診断部及び自己に接続された前記第1特定アクチュエータの目標出力を算出可能な予備演算部を有し、前記第2特定中継装置は、自己を診断する機能を有していない一方で、前記第2特定アクチュエータをオン又はオフにする予め設定された制御信号を出力可能な信号出力部を有し、前記第1特定中継装置は、一部の前記センサの出力が入力されるように構成され、前記予備演算部は、前記中央異常診断部により前記中央制御装置の異常が検知されたときには、当該第1特定中継装置に入力される前記センサの情報に基づいて前記第1特定アクチュエータを制御し、前記信号出力部は、前記中央異常診断部により前記中央制御装置の異常が検知されたときには、前記予め設定された制御信号を前記第2特定アクチュエータに出力する、という構成とした。
【0010】
この構成によると、中央制御装置が各アクチュエータの目標出力を算出するため、中央制御装置に異常が発生すると、各アクチュエータが正常に作動しなくなるおそれがある。このため、中央制御装置に異常が発生した場合、近隣の路肩や駐車場に車両を誘導させる必要がある。車両を路肩等に誘導するには、少なくとも車両の駆動制御、制動制御、又は操舵制御に関連する特定アクチュエータが制御出来ればよい。前記構成によると、特定アクチュエータと通信可能な特定中継装置は、予備演算部を有する。これにより、中央制御装置に異常があったときでも、予備演算部により特定アクチュエータの目標出力を算出して、車両を路肩等に誘導することができる。また、特定中継装置自体の異常を検知できるようにしておくことで、中央制御装置の異常発生時に特定中継装置にまで異常が発生することを抑制することができる。この結果、システム全体としての冗長性を得ることができ高いフェールオペレーショナル性を得ることができる。
【0011】
一方で、車両の駆動制御、制動制御、及び操舵制御に関連しないアクチュエータについては、中央制御装置の異常時には、作動状態又は非作動状態のいずれかが選択できればよいため、複雑な制御は必要ない。このため、自己の異常を診断する機能を有していないとしても、フェールオペレーショナルの観点からは特に問題とならない。したがって、前記構成のように、特定中継装置以外のゾーン制御装置については、自己の異常を診断する機能を設けないようにする。これにより、中継装置の製造コストを低減することができる。
【0012】
よって、高いフェールオペレーショナル性を得つつ、コストの増大を出来る限り抑えることができる。
【0013】
前記車両制御システムにおいて、前記第1特定中継装置は、一部の前記センサの出力が入力されるように構成され、前記第1特定中継装置の前記予備演算部は、前記中央異常診断部により前記中央制御装置の異常が検知されたときには、当該第1特定中継装置に入力される前記センサの情報に基づいて前記第1特定アクチュエータを制御する、という構成でもよい。
【0014】
この構成によると、特定中継装置による目標出力の算出精度を向上させることができる。これにより、フェールオペレーショナル性を向上させることができる。
【0015】
前記車両制御システムにおいて、前記第1特定中継装置は、自己と前記中央制御装置との間の通信状態の異常を診断する通信診断部を有し、前記第1特定中継装置の前記予備演算部は、前記通信診断部により当該第1特定中継装置と前記中央制御装置との通信状態の異常が検知されたときには、当該第1特定中継装置に入力される前記センサの情報に基づいて前記第1特定アクチュエータを制御する、という構成でもよい。
【0016】
すなわち、中央制御装置と特定中継装置の間の通信線が断線するなど、中央制御装置と特定中継装置との通信状態に異常が生じたときには、中央制御装置が正常か異常かに関わらず、特定中継装置により特定アクチュエータの目標出力を算出する必要がある。前記構成によると、特定中継装置は、中央制御装置との間の通信状態の異常時には、予備演算部により特定アクチュエータの目標出力を算出する。この結果、フェールオペレーショナル性をさらに向上させることができる。
【0017】
通信診断部が設けられた前記車両制御システムにおいて、前記第1特定中継装置は、前記特定アクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置と、前記中央制御装置からの信号を受信して、前記アクチュエータ制御装置に送信する通信ハブ装置とを含み、前記第1特定中継装置の前記通信診断部は、前記通信ハブ装置に設けられており、前記通信診断部は、前記通信ハブ装置と前記アクチュエータ制御装置との間の通信状態の異常をさらに診断するように構成されている、という構成でもよい。
【0018】
この構成によると、通信診断部により、中央制御装置から特定アクチュエータへの通信経路のいずれの箇所で通信異常が発生しているかを把握することができる。これにより、メンテナンス性を向上させることができる。
【0019】
前記特定中継装置がアクチュエータ制御装置と通信ハブ装置とを有する前記車両制御システムにおいて、前記予備演算部は、前記アクチュエータ制御装置に設けられており、前記第1特定中継装置は、前記通信診断部により前記通信ハブ装置と前記アクチュエータ制御装置との通信状態の異常が検知されたときには、前記アクチュエータ制御装置により前記特定アクチュエータを制御する、という構成でもよい。
【0020】
この構成によると、通信経路の末端の位置で特定アクチュエータの制御を行うことができるため、フェールオペレーショナル性をより一層向上させることができる。
【0021】
前記車両制御システムにおいて、前記第1特定アクチュエータは、電動パワーステアリング装置の電動モータを含む、という構成でもよい。
【0022】
すなわち、電動パワーステアリングの制御は、操舵の方向や操舵角など連続的な制御が必要である。このため、フェールオペレーショナル性の向上の観点からは、特に冗長性を高めておく必要がある。よって、この構成によると、高いフェールオペレーショナル性をという効果をより適切に発揮することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、特定中継装置に、自己の異常を診断する特定異常診断部と自己に接続された特定アクチュエータの目標出力を算出可能な予備演算部とを設けることで、高いフェールオペレーショナル性を得ることができる。また、特定中継装置以外の中継装置には自己の異常を診断する機能を持たせないようにすることで、コストの増大を出来る限り抑える。したがって、高いフェールオペレーショナル性を得つつ、コストの増大を出来る限り抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】例示的な実施形態に係る車両制御システムが搭載された車両の通信経路の一部を示す模式図である。
【
図2】中央ECU及び運転席側のゾーンECUの構成を示すブロック図である。
【
図3】中央ECUに異常があったときのゾーンECU及びEPSECUによる制御を示すブロック図である。
【
図4】前記実施形態の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図1は、本実施形態に係る車両制御システムが搭載された車両1の通信経路の構成を概略的に示す。この車両1は、運転者の操作により走行するマニュアル運転の他に、運転者の操作をアシストして走行するアシスト運転、及び運転者の操作なしに走行する自動運転が可能な自動車である。この車両1は、駆動制御、制動制御、及び操舵制御において、電気的に制御を行うバイワイヤ方式が採用されている。すなわち、車両1では、アクセルペダルの操作、ブレーキペダルの操作、及びステアリングホイールの操作がセンサにより検知されて、該センサの出力に基づく制御信号により各制御を担うアクチュエータが制御されるようになっている。
【0027】
車両1は、
図1に示すように、該車両1に搭載された各種車載デバイスを作動させるための複数のアクチュエータを有する。車載デバイスは、車両1の基本動作である、駆動、制動、及び操舵に関連しない所謂ボディ系デバイスも含まれる。尚、
図1で示すアクチュエータは、車両1に搭載されたアクチュエータの一例であり、車両1が、
図1に示すアクチュエータ以外のアクチュエータを有することを排除しない。
【0028】
本実施形態において、車載デバイスのアクチュエータは主に3つのタイプに分類される。第1のタイプは、車両1の基本動作に関するアクチュエータであり、緊急時においても連続的な制御の継続が求められるアクチュエータである。第2のタイプは、車両1の基本動作には関連しないアクチュエータであって、緊急時において、車両1の状態によって作動又は非作動を区別すべきアクチュエータである。第3のタイプは、車両1の基本動作には関連しないアクチュエータであって、緊急時において、作動又は非作動のいずれかの状態を継続すればよいアクチュエータである。以下、第1のタイプに属するアクチュエータを基本アクチュエータといい、第2のタイプに属するアクチュエータを選択型アクチュエータといい、第3のタイプに属するアクチュエータを固定型アクチュエータという。
【0029】
基本アクチュエータとしては、例えば、電動パワーステアリング装置(EPS装置)の電動モータD11や、電動ブレーキ装置のブレーキアクチュエータD12、エンジンのスロットル弁や燃料噴射弁のアクチュエータが含まれる。選択型アクチュエータとしては、ブレーキランプのアクチュエータD21等が含まれる。固定型アクチュエータとしては、前照灯のアクチュエータD31、電動ミラーの電動モータD32、オーディオ装置D33等が含まれる。以下の説明において、各アクチュエータを区別するときには、EPS装置D11や前照灯D31のように、該アクチュエータにより駆動する車載デバイス名によりアクチュエータを特定する。尚、EPS装置D11及びブレーキ装置D12等の基本アクチュエータは、特定アクチュエータの一例である。
【0030】
車両1は、各種アクチュエータを作動制御するために、中央制御装置としての中央ECU10((Electric Control Unit)と、中央ECU10と通信可能に構成された複数(
図1では6つ)のゾーンECU20とを有する。
【0031】
中央ECU10は、車両1に搭載された車載デバイスを作動させるための各アクチュエータを制御するための制御信号を生成する。車両1においては、各アクチュエータの制御信号は、基本的には、中央ECU10で生成され、ゾーンECU20等を経由して各アクチュエータに伝達される。
【0032】
中央ECU10には、
図1~
図3に示すように、車両1に搭載された複数のセンサ100からの信号が入力される。複数のセンサ100は、例えば、車両のボディ等に設けられかつ車外環境を撮影する複数のカメラ101と、車両のボディ等に設けられかつ車外の物標等を検知する複数のレーダ102と、全地球測位システム(Global Positioning System:GPS)を利用して、車両の位置(車両位置情報)を検出する位置センサ103と、車両の乗員の有無を含めて該乗員の状態を取得する乗員状態センサ104と、車両の運転者によるブレーキペダルの踏み込み量を取得するブレーキペダルセンサ105、車両の運転者によるステアリングの操舵角を取得する操舵角センサ106と、車両の運転者によるアクセルペダルの踏み込み量を取得するアクセル開度センサ107とを含む。また、センサ100は、前照灯D31のスイッチやオーディオ装置D33のスイッチなどのスイッチ類を含む。尚、ここに示すセンサ101~107は、中央ECU10に情報を入力するセンサの一例であり、本実施形態は、センサ101~107以外のセンサから中央ECU10に情報が入力されることを排除しない。
【0033】
各カメラ101は、車両の周囲を水平方向に360°撮影できるようにそれぞれ配置されている。各カメラ101は、車外環境を示す光学画像を撮像して画像データを生成する。各カメラ10は、生成した画像データを中央ECU10に出力する。
【0034】
各レーダ102は、カメラ101と同様に、検出範囲が車両の周囲を水平方向に360°広がるようにそれぞれ配置されている。レーダ102の種類は特に限定されず、例えば、ミリ波レーダや赤外線レーダを採用することができる。
【0035】
乗員状態センサ104は、例えば、車室内を撮影する車室内カメラやシートクッションに設けられた荷重センサにより構成されている。各乗員状態センサ104は、生成した画像データ及び検出結果を中央ECU10に出力する。
【0036】
中央ECU10は、例えば、1つまたは複数のチップで構成されたプロセッサである。中央ECU10は、AI(Artificial Intelligence)機能を有している場合もある。
【0037】
中央ECU10は、車両1がマニュアル運転やアシスト運転を行っているときには、アクセル開度センサ107、ブレーキペダルセンサ106、及び操舵各センサ105等の検知値に基づいて、各アクチュエータが出力すべき駆動力、制動力、及び操舵角を算出する。中央ECU10は、算出した駆動力、制動力、及び操舵角、すなわち、各アクチュエータにより実現すべき駆動力、制動力、及び操舵角の目標状態を表す目標信号を生成する。尚、中央ECU10は、特に車両1がアシスト運転を行っているときには、駆動力、制動力、及び操舵角を算出する際に、後述する車両1の目標運動を考慮する。
【0038】
中央ECU10は、車両1の自動運転やアシスト運転を可能にするために、複数のセンサ101~107からの情報を受けて、車両1が走行すべき経路を算出する。中央ECU10は、算出した経路を追従するための車両1の運動を決定する。
【0039】
中央ECU10は、複数のセンサ101~107からの情報を受けて、車両1の車外環境を推定する。車外環境は、物標の有無、道路状態、周囲の明るさ等である。中央ECU10は、カメラ101で撮影された車外の画像及び物標の認定結果に対して、レーダ102で取得される物標との相対距離等の情報を統合して、車外環境を示す3Dマップを作成する。
【0040】
中央ECU10は、作成した3Dマップを基にして、車両1の走行経路を算出するための2Dマップを作成する。中央ECU10は、作成した2Dマップを基に、車両1の走行経路を生成する。中央ECU10は、生成した走行経路を追従するための車両の目標運動を決定し、決定した目標運動を実現するための、駆動力、制動力、及び操舵角をそれぞれ算出する。中央ECU10は、算出した駆動力、制動力、及び操舵角、すなわち、各アクチュエータにより実現すべき駆動力、制動力、及び操舵角の目標状態を表す目標信号を生成する。
【0041】
中央ECU10は、推定した車外環境や算出した走行経路に基づいて、車両1の駆動制御、制動制御、及び操舵制御に関わらないボディ系デバイスのアクチュエータへの制御信号を生成する。例えば、中央ECU10は、周囲が暗いと推定したときには、前照灯D31を点灯させるように、前照灯D31に送る制御信号を生成する。
【0042】
中央ECU10は、乗員状態センサ14で得られた情報に基づいて、車室内の乗員の状態について、深層学習により生成した学習済みモデルを利用して推定する。乗員の状態とは、乗員の健康状態や感情を意味する。乗員の健康状態としては、例えば、健康、軽い疲労、体調不良、意識低下等がある。乗員の感情としては、例えば、楽しい、普通、退屈、イライラ、不快等がある。中央ECU10は、乗員の健康状態や乗員の感情も考慮して、各種制御信号を生成する。例えば、中央ECU10は、車室内の温度が高く、乗員の気分が優れないと推定したときには、空調装置を作動させたり、窓を開けたりする。
【0043】
図2及び
図3に示すように、中央ECU10は、自己の異常を診断する中央異常診断部11を有する。中央異常診断部11はBIST(Built-In Self Test)により、該中央ECU10の異常を診断する。中央ECU10は、中央異常診断部11の診断結果をゾーンECU20(ここでは、後述の第1のゾーンECU21及び第4のゾーンECU24)に通知する。
【0044】
ゾーンECU20は、中央ECU10と各アクチュエータと通信経路の間でかつ車両1の所定のゾーン毎にそれぞれ設けられている。各ゾーンECU20は、中央ECU10で生成された制御信号を中継する中継装置を構成する。本実施形態では、車両右中央に配置されたゾーンECU20を第1のゾーンECU21といい、車両右後側に配置されたゾーンECU20を第2のゾーンECU22といい、車両右前側に配置されたゾーンECU20を第3のゾーンECU23といい、車両左中央に配置されたゾーンECU20を第4のゾーンECU24といい、車両左後側に配置されたゾーンECU20を第5のゾーンECU25といい、車両左後側に配置されたゾーンECU20を第6のゾーンECU26ということがある。ゾーンは任意に定めることができ、ゾーンの数が増減すれば、それに伴いゾーンECU20の数も増減する。
【0045】
図1に示すように、第1のゾーンECU21は、中央ECU10に通信線MCLにより接続されるとともに、第2及び第3のゾーンECU22,23とも通信線MCLにより接続されている。第4のゾーンECU24は、中央ECU10に通信線MCLにより接続されるとともに、第5及び第6のゾーンECU25,26とも通信線MCLにより接続されている。つまり、第1のゾーンECU21は、通信線MCLを介して第2及び第3のゾーンECU22,23と通信可能に構成されている。一方で、第4のゾーンECU24は、通信線MCLを介して第5及び第6のゾーンECU25,26と通信可能に構成されている。尚、中央ECU10とゾーンECU20とを接続する通信線MCL及びゾーンECU20同士を接続する通信線MCLは、例えばETHERNET(登録商標)の通信ケーブルで構成されている。
【0046】
一方で、各ゾーンECU20と各アクチュエータとは、通信線SCLを用いて接続されている。通信線SCLは、例えばCANの通信ケーブルで構成されている。図示は省略しているが、各ゾーンECU20には、ETHERNET(登録商標)からCANへのプロトコル変換を行う機能がそれぞれ設けられている。
【0047】
次に、ゾーンECU20の構成について説明する。ここでは、
図2を参照しながら、第1~第3のゾーンECU21~23の構成を詳細に説明する。
【0048】
図2に示すように、第1のゾーンECU21は、例えば、EPS装置D11、右前輪のブレーキ装置D12、右後輪のブレーキ装置D12、及び右側の電動ミラーD32とそれぞれ通信線SCLを用いて接続されている。つまり、第1のゾーンECU21は、特定アクチュエータであるECU装置D11及びブレーキ装置D12と通信可能な特定中継装置を構成する。尚、
図2ではブレーキ装置D12については記載を省略している。また、
図2では、他のアクチュエータについては図示を省略しているが、第1のゾーンECU21は、他の選択型アクチュエータや他の固定型アクチュエータとも接続されていてもよい。
【0049】
第1のゾーンECU21とEPS装置D11との通信経路の間には、第1のゾーンECU21に中継された制御信号(目標信号)に基づいてEPS装置D11を制御するEPSECU31が設けられている。第1のゾーンECU21は、中央ECU10から送られた情報を、そのままEPSECU31に伝達する。このことから、第1のゾーンECU21は、特定中継装置の通信ハブ装置を構成する。尚、前述のように、ゾーンECU20は、中央ECU10から送られた制御信号をプロトコル変換するため、制御信号そのものは変化している。EPSECU31については後述する。
【0050】
第1のゾーンECU21は、電動ミラーD32とは通信線SCLにより直接的に接続されている。第1のゾーンECU21は、中央ECU10から送られた電動ミラーD32の情報を、そのまま電動ミラーD32に伝達する。つまり、電動ミラーD32は、基本的には、中央ECU10から送られかつ第1のゾーンECU21を中継した制御信号に基づいて作動する。
【0051】
第1のゾーンECU21は、該第1のゾーンECU21と中央ECU10との間の通信状態の異常を診断する通信診断部21aを有する。通信診断部21aは、中央ECU10に通信診断用の第1テスト信号を送信する。通信診断部21aから第1テスト信号を受信した中央ECU10は、第1テスト信号を受信したことを示す第2テスト信号を通信診断部21aに返信する。通信診断部21aは、中央ECU10から第2テスト信号を受信できたときには、中央ECU10と第1のゾーンECU21との通信状態が正常であると判断する。一方で、通信診断部21aは、中央ECU10から第2テスト信号を受信できないときには、中央ECU10と第1のゾーンECU21との通信状態に異常があると判断する。通信診断部21aは、第1のゾーンECU21と中央ECU10との間の通信状態に異常があったときには、第2及び第3のゾーンECU22,23に、該通信状態の異常を通知する。通信診断部21aは、例えば、車両1のイグニッションオン時に、第1のゾーンECU21と中央ECU10との間の通信状態の異常を診断する。尚、通信状態の異常とは、例えば通信線MCLの断線である。
【0052】
また、通信診断部21aは、第1のゾーンECU21とEPSECU31との通信状態の異常を診断する。通信診断部21aは、第1のゾーンECU21と中央ECU10との間の通信状態の診断と同様の方法で、第1のゾーンECU21とEPSECU31との間の通信状態を診断する。第1のゾーンECU21は、通信診断部21aにより、該第1のゾーンECU21とEPSECU31との通信状態の異常が検知されたときには、中央ECU10に通知する。中央ECU10は、第1のゾーンECU21から前記通知を受けたときに、第1のゾーンECU21とEPSECU31との通信状態の異常を乗員に報知する。報知方法としては、例えば、ブザーを鳴らしたり、メーターパネルに電子機器の通信異常を報知するランプを設けておき、該ランプを点滅させたりする方法がある。通信診断部21aは、例えば、車両1のイグニッションオン時や長時間の停車時に、第1のゾーンECU21とEPSECU31との通信状態の異常を診断する。
【0053】
第1のゾーンECU21は、電動ミラーD32を全開状態に維持するためのオン信号を出力可能な固定信号出力部21bを有する。固定信号出力部21bは、中央ECU10が正常でありかつ中央ECU10から第1のゾーンECU21までの通信状態が正常であるときには、オン信号を電動ミラーD32に出力をしない。一方で、固定信号出力部21bは、中央ECU10に異常があるか、又は中央ECU10から第1のゾーンECU21までの通信状態に異常があるときには、電動ミラーD32にオン信号を出力する。これにより、中央ECU10に異常があるか、又は中央ECU10と第1のゾーンECU21との通信状態に異常があるときには、電動ミラーD32は全開状態に維持されるようになる。
【0054】
EPSECU31は、中央ECU10から伝達された目標操舵角の情報に基づいて、EPS装置D11が目標操舵角を実現するように、EPS装置D11の制御量(電動モータに供給する電流量等)を算出する。EPSECU31は、算出した制御量に基づく信号をEPS装置D11に出力する。このことから、EPSECU31は、中央ECU10で生成された制御信号を中継する特定中継装置を構成する。特に、EPSECU31は、特定中継装置のアクチュエータ制御装置に相当する。
【0055】
EPSECU31は、複数のセンサの内の一部から情報を取得可能に構成されている。本実施形態では、EPSECU31は、少なくとも操舵角センサ105の出力を取得可能に構成されている。
【0056】
EPSECU31は、該EPSECU31の異常を診断する特定異常診断部31aを有する。特定異常診断部31aは、特に後述の予備演算部31bの異常を診断する。特定異常診断部31aは、例えばBISTにより、該EPSECU31自身の異常を診断する。EPSECU31は、特定異常診断部31aの診断結果を第1のゾーンECU21に通知する。第1のゾーンECU21は、EPSECU31から通知された結果を中央ECU10に通知する。
【0057】
EPSECU31は、センサ100の出力に基づいてEPS装置D11の目標操舵角を算出可能な予備演算部31bを有する。予備演算部31bは、中央ECU10が正常でありかつ中央ECU10からEPSECU31までの通信状態が正常であるときには、EPS装置D11の目標操舵角の算出をしない。一方で、予備演算部31bは、中央ECU10に異常があるか、又は中央ECU10からEPSECU31までの通信状態に異常があるときには、EPS装置D11の目標操舵角を算出する。予備演算部31bは、EPSECU31に入力されるセンサの情報に基づいて、EPS装置D11の目標操舵角を算出する。予備演算部31bは、算出した目標操舵角に基づく信号をEPS装置D11に送信する。
【0058】
予備演算部31bは、中央ECU10のように車外環境に合わせた制御を行わず、車両1の乗員の操作に基づくEPS装置D11の制御のみを行う。
【0059】
尚、
図2では、図示を省略しているが、第1のゾーンECU21とブレーキ装置D12との通信経路の間には、第1のゾーンECU21に中継された制御信号(目標信号)に基づいてブレーキ装置D12を制御するブレーキECU32が設けられている。該ブレーキECU32は、EPSECU31と同様に、予備演算部と、該予備演算部の異常を診断する特定異常診断部とを有する。このブレーキECU32も特定中継装置のアクチュエータ制御装置を構成する。
【0060】
図2に示すように、第2のゾーンECU22は、例えば、右側のブレーキランプD21と通信線SCLを用いて接続されている。第2のゾーンECU22は、複数のセンサの内の一部から情報を取得可能に構成されている。本実施形態では、第2のゾーンECU22は、少なくともブレーキペダルセンサ106の出力を取得可能に構成されている。尚、他のアクチュエータについては図示を省略しているが、第2のゾーンECU22は、基本アクチュエータとは接続されず、選択型アクチュエータ及び固定型アクチュエータと接続されている。
【0061】
第2のゾーンECU22は、ブレーキランプD21とは通信線SCLにより直接的に接続されている。第2のゾーンECU22は、中央ECU10から送られたブレーキランプD21の情報を、そのままブレーキランプD21に伝達する。つまり、ブレーキランプD21は、基本的には、中央ECU10から送られかつ第2のゾーンECU22を中継した制御信号に基づいて作動する。
【0062】
第2のゾーンECU22は、ブレーキランプD21を作動させるか否かを判定可能な予備判定部22aを有する。予備判定部22aは、中央ECU10が正常でありかつ中央ECU10から第2のゾーンECU22までの通信状態が正常であるときには、ブレーキランプD21を作動させるか否かの判定をしない。一方で、予備判定部22aは、中央ECU10に異常があるか、又は中央ECU10から第2のゾーンECU22までの通信状態に異常があるときには、ブレーキランプD21を作動させるか否かの判定を行う。予備判定部22aは、第2のゾーンECU22に入力されるセンサの情報に基づいて、ブレーキランプD21を作動させるか否かを判定する。予備判定部22aは、ブレーキランプD21を作動させる制御信号を該ブレーキランプD21に送信する。尚、第2のゾーンECU22は、第1のゾーンECU21からの通知により、中央ECU10に異常及び中央ECU10と第1のゾーンECU21との通信状態の異常を認定する。
【0063】
第2のゾーンECU22は、第2のゾーンECU22自身の異常を診断する機能を有していない。
【0064】
図2に示すように、第3のゾーンECU23は、例えば、右側の前照灯D31と通信線SCLにより接続されている。本実施形態では、第3のゾーンECU23は、センサからの出力が入力されないようになっている。尚、他のアクチュエータについては図示を省略しているが、第3のゾーンECU23は、基本アクチュエータ及び選択型アクチュエータとは接続されず、固定型アクチュエータとのみ接続されている。
【0065】
第3のゾーンECU23は、前照灯D31とは通信線SCLにより直接的に接続されている。第3のゾーンECU23は、中央ECU10から送られた前照灯D31の情報を、そのまま前照灯D31に伝達する。つまり、前照灯D31は、基本的には、中央ECU10から送られかつ第3のゾーンECU23を中継した制御信号に基づいて作動する。
【0066】
第3のゾーンECU23は、前照灯D31を点灯状態に維持するためのオン信号を出力可能な固定信号出力部23aを有する。固定信号出力部23aは、中央ECU10が正常でありかつ中央ECU10から第3のゾーンECU23までの通信状態が正常であるときには、オン信号を前照灯D31に出力をしない。一方で、固定信号出力部23aは、中央ECU10に異常があるか、又は中央ECU10から第3のゾーンECU23までの通信状態に異常があるときには、前照灯D31にオン信号を出力する。これにより、中央ECU10に異常があるか、又は中央ECU10と第1のゾーンECU21との通信状態に異常があるときには、前照灯D31は点灯した状態が維持されるようになる。
【0067】
また、固定信号出力部23aは、オーディオ装置D33をオフ状態に維持するためのオフ信号を出力可能に構成されている。固定信号出力部23aは、中央ECU10が正常でありかつ中央ECU10から第3のゾーンECU23までの通信状態が正常であるときには、オフ信号をオーディオ装置D33に出力をしない。一方で、固定信号出力部23aは、中央ECU10に異常があるか、又は中央ECU10から第3のゾーンECU23までの通信状態に異常があるときには、オーディオD33にオフ信号を出力する。これにより、中央ECU10に異常があるか、又は中央ECU10と第1のゾーンECU21との通信状態に異常があるときには、オーディオ装置D33はオフ状態が維持されるようになる。
【0068】
第3のゾーンECU23は、第3のゾーンECU23自身の異常を診断する機能を有していない。
【0069】
第4~第6のゾーンECU24~26についても、第1~第3のゾーンECU21~23と同等の設計方法で構成されている。すなわち、第4のゾーンECU24のように基本アクチュエータ(ここでは、ブレーキ装置D12)が接続されているゾーンECU20は、第1のゾーンECU21のように、通信診断部21aを有している。第5のゾーンECU25のように、基本アクチュエータと接続されずに、選択型アクチュエータ(ここではブレーキランプD21)と接続されているゾーンECU20は、第2のゾーンECU22のように、予備判定部22aを有している。第6のゾーンECU26のように、固定型アクチュエータ(ここでは、前照灯D31)のみと接続されているゾーンECU20は、第3のゾーンECU23のように、固定信号出力部23aを有している。
【0070】
ここで、本実施形態では、中央ECU10が各アクチュエータの目標出力を算出するため、中央ECU10に異常が発生すると、各アクチュエータが正常に作動しなくなるおそれがある。このため、中央ECU10に異常が発生した場合、近隣の路肩や駐車場に車両1を誘導させる必要がある。車両1を路肩等に誘導するには、少なくとも車両1の基本アクチュエータが制御できればよい。そこで、本実施形態では、基本アクチュエータと通信可能なECUに、予備演算部31bを設けて、中央ECU10に異常が発生しても、基本アクチュエータを制御できるようにしている。
【0071】
図3には、中央異常診断部11により中央ECU10に異常が検知されたときの第1~第3ゾーンECU21~23から送られる信号について示している。尚、
図3でも
図2と同様に、ブレーキ装置D12及びブレーキECU32については省略している。
【0072】
中央異常診断部11により中央ECU10に異常が検知されたときには、中央異常診断部11から第1のゾーンECU21に中央ECU10の異常を知らせる異常通知が出力される。異常通知を受けた第1のゾーンECU21は、第2及び第3のゾーンECU22,23に異常通知を受けたことを通知する。そして、第1~第3のゾーンECU21~23は、中央ECU10からの信号を各アクチュエータに伝達しないようにする。
【0073】
次に、第1のゾーンECU21は、EPSECU31に中央ECU10に異常が発生したことを通知する。
【0074】
第1のゾーンECU21から通知を受けたEPSECU31は、予備演算部31bにより、EPSECU31に入力されるセンサの情報に基づいて、EPS装置D11の制御量を算出する。EPSECU31は、予備演算部31bで算出した制御量でもってEPS装置D11を制御する。
【0075】
また、第1のゾーンECU21は、電動ミラーD32を全開状態に維持すべく、固定信号出力部21bにより電動ミラーD32にオン信号を出力する。
【0076】
第2のゾーンECU22は、予備判定部22aにより、第2のゾーンECU22に入力されるセンサの情報及び他のゾーンECU20から入力される情報の少なくとも一方に基づいて、ブレーキランプD21を作動させるか否かを判定する。予備判定部22aは、ブレーキランプD21を作動させる制御信号を該ブレーキランプD21に送信する。
【0077】
第3のゾーンECU23は、前照灯D31を点灯状態に維持すべく、固定信号出力部23aにより前照灯D31にオン信号を出力する。また、第3のゾーンECU23は、オーディオ装置D33を停止状態に維持すべく、固定信号出力部23aによりオーディオD33にオフ信号を出力する。
【0078】
このように、接続されるアクチュエータのタイプに応じて、中継装置の構成を変えることで、制御システムのフェールオペレーショナル性を得つつ、システムの構築のための工数を抑えて、開発コストを抑制することができる。すなわち、仮に、全ての前記中継装置に、EPSECU31のような予備演算部31bを有するECUを設けると、開発コストが増大してしまう。このため、前照灯D31のように、車両1の基本動作に関連せずかつオン/オフ信号のみで制御可能なアクチュエータのみが接続された前記中継装置(ここでは、第3及び第6の制御装置)については、予備演算部31bのような演算機能は省略する方が望ましい。一方で、仮に、全ての前記中継装置を、第3のゾーンECU23のように固定信号出力部23aのみを有する構成とすると、EPS装置D11を連続的に制御できなくなって、制御システムのフェールオペレーショナル性が低くなってしまう。したがって、本実施形態のような構成とすることで、制御システムのフェールオペレーショナル性を得つつ、開発コストを抑制することができる。
【0079】
また、本実施形態では、第2及び第3のゾーンECU22,23のように、基本アクチュエータとは接続されていない前記中継装置は、自己を診断する機能を有していない。すなわち、選択型アクチュエータ及び固定型アクチュエータは、中央ECU10の異常時には、作動状態又は非作動状態のいずれかが選択できればよいため、複雑な制御は必要ない。このため、第2及び第3のゾーンECU22,23のような前記中継装置は、自己の異常を診断する機能を有していないとしても、フェールオペレーショナル性の観点からは特に問題とならない。したがって、第2及び第3のゾーンECU22,23のような前記中継装置については、自己の異常を診断する機能を設けないようにする。これにより、ゾーンECU20の製造コストを低減することができる。
【0080】
したがって、本実施形態では、 複数のセンサ100と、各センサ100の出力に基づいて、複数のアクチュエータの目標出力を算出する中央ECU10と、中央ECU10と各アクチュエータと通信経路の間にそれぞれ設けられ、中央ECU10で生成された制御信号を中継する複数の中継装置(例えば、ゾーンECU20、EPSECU31、ブレーキECU32)とを備え、各アクチュエータは、車両1の駆動制御、制動制御、又は操舵制御に関連する基本アクチュエータ(例えば、EPS装置D11、ブレーキ装置D12)を含み、複数の中継装置は、基本アクチュエータと通信可能な特定中継装置(例えば、第1のゾーンECU21、EPSECU31、ブレーキECU32)を含み、中央ECU10は、自己の異常を診断する中央異常診断部11を有し、複数の中継装置のうち特定中継装置は、自己の異常を診断する特定異常診断部31a及び自己に接続された基本アクチュエータの目標出力を算出可能な予備演算部31bを有し、複数の中継装置のうち特定中継装置以外の中継装置(例えば、第2及び第3のゾーンECU22,23)は、自己を診断する機能を有しない。これにより、中央ECU10に異常があったときでも、予備演算部31bにより基本アクチュエータの目標出力を算出して、車両1を路肩等に誘導することができる。また、特定異常診断部31aにより特定中継装置自体の異常を検知できるようにしておくことで、中央ECU10の異常発生時に特定中継装置にまで異常が発生することを抑制することができる。この結果、システム全体としての冗長性を得ることができ高いフェールオペレーショナル性を得ることができる。一方で、複雑な制御を必要としない、選択型アクチュエータ及び固定型アクチュエータの少なくとも一方のみと接続された中継装置については、自己の異常を診断する機能を設けないようにする。これにより、中継装置の製造コストを低減することができる。
【0081】
また、本実施形態では、特定中継装置は、一部のセンサ100の出力が入力されるように構成され、特定中継装置の予備演算部31bは、中央異常診断部11により中央ECU10の異常が検知されたときには、当該特定中継装置に入力されるセンサ100の情報に基づいて基本アクチュエータを制御する。これにより、特定中継装置による基本アクチュエータの制御量の算出精度を向上させることができる。この結果、フェールオペレーショナル性を向上させることができる。
【0082】
また、本実施形態では、特定中継装置は、自己と中央ECU10との間の通信状態の異常を診断する通信診断部21aを有し、特定中継装置の予備演算部31bは、通信診断部21aにより当該特定中継装置と中央ECU10との通信状態の異常が検知されたときには、当該特定中継装置に入力されるセンサ100の情報に基づいて基本アクチュエータを制御する。すなわち、中央ECU10と特定中継装置との間の通信線が断線するなど、中央ECU10と特定中継装置との通信状態に異常が生じたときには、中央ECU10が正常か異常かに関わらず、特定中継装置により基本アクチュエータの目標出力を算出する必要がある。よって、前記の構成では、フェールオペレーショナル性をさらに向上させることができる。
【0083】
また、本実施形態では、特定中継装置は、基本アクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置(例えば、EPSECU31)と、中央ECU10からの信号を受信して、アクチュエータ制御装置に送信する通信ハブ装置(例えば、第1のゾーンECU21)とを含み、特定中継装置の通信診断部21aは、通信ハブ装置に設けられており、通信診断部21aは、通信ハブ装置記アクチュエータ制御装置との間の通信状態の異常をさらに診断するように構成されている。これにより、中央ECU10から基本アクチュエータへの通信経路のいずれの箇所で通信異常が発生しているかを把握することができる。これにより、メンテナンス性を向上させることができる。
【0084】
また、本実施形態では、予備演算部31bは、アクチュエータ制御装置に設けられており、特定中継装置は、通信診断部21aにより通信ハブ装置とアクチュエータ制御装置との通信状態の異常が検知されたときには、アクチュエータ制御装置により基本アクチュエータを制御する。この構成によると、通信経路の末端の位置で基本アクチュエータの制御を行うことができるため、フェールオペレーショナル性をより一層向上させることができる。
【0085】
図4は、本実施形態の変形例を示す。この変形例では、特定異常診断部131a及び予備演算部131bが第1のゾーンECU121に設けられている。この変形例では、第1のゾーンECU121には固定信号出力部21bは設けられていない。中央ECU10に異常があるか、又は中央ECU10から第1のゾーンECU21までの通信状態に異常があるときには、予備演算部131bが電動ミラーD32にオン信号を出力する。また、第1のゾーンECU121は、一部のセンサ100の出力を取得可能に構成されている。
【0086】
この構成では、中央ECU10に異常が発生したときには、第1のゾーンECU121の予備演算部131bが接続された基本アクチュエータ(ECS装置D11、ブレーキ装置D12)の制御量を算出する。これにより、中央ECU10に異常が発生したときであっても、基本アクチュエータをある程度制御することができる。よって、この構成であっても、高いフェールオペレーショナル性を得ることができる。
【0087】
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0088】
例えば、前述の実施形態では、運転席側のゾーンECU(第1~第3のゾーンECU21~23)と助手席側のゾーンECU(第4~第6のゾーンECU24~26)は、中央ECU10を介してしか接続されていなかった。これに限らず、例えば、第2のゾーンECU22と第5のゾーンECU25とを通信線で接続したり、第3のゾーンECU23と第6のゾーンECU26とを通信線で接続したりして、ループ状の通信網が形成されるようにしてもよい。この構成によると、各ゾーンECU20が中央ECU10からの情報及び自身以外のゾーンECU20からの情報を取得しやすくなる。これにより、制御システムの冗長性を向上させることができ、フェールオペレーショナル性を向上させることができる。
【0089】
また、前述の実施形態の変形例のように、ゾーンECU20の予備演算部131bが設けられているときには、該予備演算部131bが電子ミラーD32のような固定型アクチュエータに制御信号を送信していた。これに限らず、固定型アクチュエータに接続された特定ゾーンECUが、固定信号出力部を有するとともに、固定信号出力部から接続された固定型アクチュエータに信号を出力してもよい。
【0090】
また、前述の実施形態では、特定ゾーンECU(第1及び第4のゾーンECU21,24)のみが通信診断部21aを有していた。これに限らず、各ゾーンECU20に通信診断部21aをそれぞれ設けてもよい。
【0091】
また、前述の実施形態では、自動運転が可能な車両を対象としていたが、必ずしも自動運転が可能な車両で無くてもよい。
【0092】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0093】
ここに開示された技術は、車両制御システムにおいて、フェールオペレーショナル性を向上させる際に有用である。
【符号の説明】
【0094】
10 中央ECU(中央制御装置)
11 中央異常診断部
20 ゾーンECU
21 第1のゾーンECU(特定中継装置、通信ハブ装置)
21a 通信診断部
22 第2のゾーンECU(特定中継装置以外の中継装置)
23 第3のゾーンECU(特定中継装置以外の中継装置)
31 EPSECU(特定中継装置、アクチュエータ制御装置)
31a 特定異常診断部
31b 予備演算部
32 ブレーキECU(特定中継装置、アクチュエータ制御装置)
D11 EPS装置の電動モータ(特定アクチュエータ)
D12 ブレーキ装置のブレーキアクチュエータ(特定アクチュエータ)