(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】歯車加工装置及び歯車加工方法
(51)【国際特許分類】
B23F 5/16 20060101AFI20231031BHJP
B23Q 15/12 20060101ALI20231031BHJP
G05B 19/416 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
B23F5/16
B23Q15/12 Z
G05B19/416 F
(21)【出願番号】P 2019158999
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 友和
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 嘉太郎
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-213702(JP,A)
【文献】特開2018-062056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 1/00-23/12
G05B19/18-19/416
G05B19/42-19/46
B23Q15/00-15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物と歯切り工具とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工装置であって、
前記工作物を回転可能に支持する工作物主軸と、
前記歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸と、
前記工作物主軸の回転を制御する工作物主軸制御部と、
前記工具主軸の回転を制御する工具主軸制御部と、
を備え、
前記工作物主軸制御部及び前記工具主軸制御部の少なくとも一方は、前記工作物主軸制御部及び前記工具主軸制御部による制御周期より短い時間の装置固有の同期誤差が存在する場合に、
予め記憶されている補正量であって、前記装置固有の同期誤差に応じた
前記補正量に基づいて、前記工作物主軸及び前記工具主軸の少なくとも一方の回転を補正
し、
前記補正量は、予め測定される前記装置固有の同期誤差に基づいて算出されると共に、前記歯車加工装置に予め記憶されている、
歯車加工装置。
【請求項2】
前記工作物主軸制御部は、前記工作物主軸の回転速度を周期的に変動させ、
前記工具主軸制御部は、前記工具主軸の回転速度を周期的に変動させ、
前記工作物主軸制御部及び前記工具主軸制御部の少なくとも一方は、前記装置固有の同期誤差に応じた補正量を含む前記回転速度の変動周期に応じた補正量に基づいて、前記工作物主軸及び前記工具主軸の少なくとも一方の回転を補正
し、
前記工作物及び前記工作物主軸の回転部分を有する回転部を第一回転体とし、前記歯切り工具及び前記工具主軸の回転部分を有する回転部を第二回転体とし、前記第一回転体の慣性モーメントを第一慣性モーメントとし、前記第二回転体の慣性モーメントを第二慣性モーメントとしたとき、
前記回転速度の変動周期に応じた前記補正量は、予め測定される前記装置固有の同期誤差と、前記第一慣性モーメントと、前記第二慣性モーメントと、前記回転速度の変動周期と、に基づいて算出する、
請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記歯車加工装置は、さらに、
前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させる少なくとも2軸の直動を制御する直動制御部、を備え、
前記直動制御部は、前記直動制御部による制御周期より短い時間の装置固有の同期誤差が存在する場合に、
予め記憶されている補正量であって、前記装置固有の同期誤差に応じた
前記補正量に基づいて、前記2軸の少なくとも一方の直動を補正
し、
前記直動制御部による制御周期より短い時間の前記装置固有の同期誤差に応じた前記補正量は、予め測定される前記装置固有の同期誤差に基づいて算出されると共に、前記歯車加工装置に予め記憶されている、
請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
前記歯車加工装置は、さらに、
前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させる少なくとも2軸の直動を制御して、前記少なくとも2軸の送り速度を周期的に変動させる直動制御部、を備え、
前記直動制御部は、前記直動制御部による制御周期より短い時間の装置固有の同期誤差が存在する場合に、
予め記憶されている補正量であって、前記装置固有の同期誤差に応じた
前記補正量を含む前記送り速度の変動周期に応じた補正量に基づいて、前記2軸の少なくとも一方の直動を補正
し、
前記直動制御部による制御周期より短い時間の前記装置固有の同期誤差に応じた前記補正量は、予め測定される前記装置固有の同期誤差に基づいて算出されると共に、前記歯車加工装置に予め記憶されており、
前記2軸のうち一方をY軸とし、他方をZ軸としたとき、
前記歯車加工装置は、前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させる、Y軸モータと、前記Y軸モータに連結されたボールねじと、Z軸モータと、前記Z軸モータに連結されたボールねじと、を有し、
前記直動制御部は、前記Y軸モータ及び前記Z軸モータをそれぞれ駆動制御することにより、前記歯切り工具の前記工作物に対する送り速度を制御するよう構成されており、
前記Y軸モータに連結された前記ボールねじの慣性モーメントをY軸慣性モーメントとし、前記Z軸モータに連結された前記ボールねじの慣性モーメントをZ軸慣性モーメントとしたとき、
前記直動制御部は、予め測定される前記装置固有の同期誤差と、前記Y軸慣性モーメントと、前記Z軸慣性モーメントと、前記送り速度の変動周期と、に基づいて、前記送り速度の変動周期に応じた前記補正量を算出する、
請求項2に記載の歯車加工装置。
【請求項5】
前記歯切り工具は、スカイビングカッタであり、
前記歯車加工装置は、前記工作物の回転軸線を前記歯切り工具の回転軸線に対して傾斜させた状態で、前記歯切り工具を前記工作物に対して前記工作物の回転軸線方向に相対移動させることにより、前記工作物に歯車のスカイビング加工を行う、請求項1-4の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項6】
工作物を回転可能に支持する工作物主軸と歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工方法であって、
前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転を制御する回転制御工程と、
前記回転制御工程における制御周期より短い時間の装置固有の同期誤差が存在する場合に、
予め記憶されている補正量であって、前記装置固有の同期誤差に応じた
前記補正量に基づいて、前記工作物主軸及び前記工具主軸の少なくとも一方の回転を補正する回転補正工程と、
を備
え、
前記補正量は、予め測定される前記装置固有の同期誤差に基づいて算出されると共に、前記各工程を行う歯車加工装置に予め記憶されている、
歯車加工方法。
【請求項7】
前記歯車加工方法は、さらに、
前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させる少なくとも2軸の直動を制御する直動制御工程と、
前記直動制御工程における制御周期より短い時間の装置固有の同期誤差が存在する場合に、
予め記憶されている補正量であって、前記装置固有の同期誤差に応じた
前記補正量に基づいて、前記2軸の少なくとも一方の直動を補正する直動補正工程と、を備
え、
前記直動制御工程における制御周期より短い時間の前記装置固有の同期誤差に応じた前記補正量は、予め測定される前記装置固有の同期誤差に基づいて算出されると共に、前記歯車加工装置に予め記憶されている、
請求項6に記載の歯車加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工装置及び歯車加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コストの面から高速加工可能な歯車加工装置が望まれており、特許文献1に記載のようなスカイビング加工が可能な歯車加工装置が知られている。スカイビング加工とは、歯切り工具の中心軸線と工作物の中心軸線とを傾斜させた状態(歯車加工における交差角を有する状態)とする。そして、歯切り工具及び工作物をそれぞれの中心軸線周りに同期回転させながら、歯切り工具を工作物の中心軸線方向に相対移動する加工である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の歯車加工装置では、歯切り工具及び工作物の回転制御を高精度にしても、加工される歯車の歯の歯すじにうねりが発生する場合がある。
【0005】
本発明は、加工される歯車の歯の歯すじのうねりを抑制できる歯車加工装置及び歯車加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の歯車加工装置は、工作物と歯切り工具とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工装置であって、前記工作物を回転可能に支持する工作物主軸と、前記歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸と、前記工作物主軸の回転を制御する工作物主軸制御部と、前記工具主軸の回転を制御する工具主軸制御部と、を備え、前記工作物主軸制御部及び前記工具主軸制御部の少なくとも一方は、前記工作物主軸制御部及び前記工具主軸制御部による制御周期より短い時間の装置固有の同期誤差が存在する場合に、予め記憶されている補正量であって、前記装置固有の同期誤差に応じた前記補正量に基づいて、前記工作物主軸及び前記工具主軸の少なくとも一方の回転を補正し、前記補正量は、予め測定される前記装置固有の同期誤差に基づいて算出されると共に、前記歯車加工装置に予め記憶されている。
【0007】
本発明の歯車加工方法は、工作物を回転可能に支持する工作物主軸と歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工方法であって、前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転を制御する回転制御工程と、前記回転制御工程における制御周期より短い時間の装置固有の同期誤差が存在する場合に、予め記憶されている補正量であって、前記装置固有の同期誤差に応じた前記補正量に基づいて、前記工作物主軸及び前記工具主軸の少なくとも一方の回転を補正する回転補正工程と、を備え、前記補正量は、予め測定される前記装置固有の同期誤差に基づいて算出されると共に、前記各工程を行う歯車加工装置に予め記憶されている。
【0008】
本発明の歯車加工装置及び歯車加工方法によれば、工作物主軸及び工具主軸の制御周期より短い時間の装置固有の同期誤差に応じた補正量に基づいて、工作物主軸及び工具主軸の少なくとも一方の回転を補正しているので、加工される歯車の歯の歯すじのうねりを抑制でき、歯車加工において加工する歯車の加工精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態における歯車加工装置の斜視図である。
【
図2】
図1の歯車加工装置においてスカイビング加工を行う際の歯切り工具を拡大した一部断面図である。
【
図3】歯車加工装置の第一実施形態及び第一実施形態の変形例の制御装置のブロック図である。
【
図4】第一実施形態の制御装置により実行される歯車加工処理のフローチャートである。
【
図5】第一実施形態の変形例の制御装置により実行される歯車加工処理のフローチャートである。
【
図6】スカイビング加工を行う際の歯切り工具と工作物との動作を示す図である。
【
図7A】制御装置で制御される工作物主軸の回転速度を正弦波で変動させるときのグラフである。
【
図7B】制御装置で制御される工具主軸の回転速度を工作物主軸の回転速度と同期させるときのグラフである。
【
図8】工作物主軸と工具主軸の回転速度同期誤差の変動を示すグラフである。
【
図9】歯車の歯の歯すじに発生するうねりと歯すじ誤差を示す図である。
【
図10】工作物主軸の回転速度の第一、第二、第三の補正量を説明するためのグラフである。
【
図11】第一、第二の補正量で補正後の工作物主軸と工具主軸の回転速度同期誤差の変動を示すグラフである。
【
図12】第一、第二の補正量で補正後の歯車の歯の歯すじに発生するうねりと歯すじ誤差を示す図である。
【
図13】第一、第二、第三の補正量で補正後の工作物主軸と工具主軸の回転速度同期誤差の変動を示すグラフである。
【
図14】第一、第二、第三の補正量で補正後の歯車の歯の歯すじに発生するうねりと歯すじ誤差を示す図である。
【
図15】工具主軸を回転させるときの工具主軸回転速度の安定判別を説明するための図である。
【
図16】第二実施形態においてホブ加工を行う際の歯切り工具と工作物との動作を示す図である。
【
図17】歯切り工具及び工作物の回転速度の別例の変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<1.第一実施形態>
(1-1.歯車加工装置の概略構成)
本発明に係る第一実施形態の歯車加工装置の概略構成について
図1を参照して説明する。
図1に示すように、歯車加工装置1は、相互に直交する3つの直進軸(X軸、Y軸及びZ軸)と2つの回転軸(A軸及びC軸)を駆動軸として有するマシニングセンタである。歯車加工装置1は、ベッド10と、コラム20と、サドル30と、工具主軸40と、テーブル50と、チルトテーブル60と、工作物主軸70と、制御装置100と、を主に備える。
【0011】
ベッド10は、床上に配置される。このベッド10の上面には、コラム20が設けられる。コラム20は、ベッド10内に収容されるX軸モータ21及びX軸モータ21に連結されるボールねじ22により、X軸線方向(水平方向)へ移動可能に設けられる。さらに、コラム20の側面には、サドル30が設けられる。
【0012】
サドル30は、コラム20内に収容されるY軸モータ11(
図3参照)及びY軸モータ11に連結されるボールねじ(図示省略)によりY軸線方向(鉛直方向)に移動可能に設けられる。工具主軸40は、サドル30内に収容されるエンコーダ(図示省略)を有する工具主軸用モータ41(
図3参照)によりZ軸線回りに回転可能に設けられる。工具主軸40の先端には、歯切り工具42(スカイビングカッタ)が装着され、歯切り工具42は、工具主軸40の回転に伴って回転する。
【0013】
ここで、
図2を参照しながら、歯切り工具42(スカイビングカッタ)について説明する。
図2に示すように、歯切り工具42は、外周面に複数の切れ刃42aを備えるスカイビングカッタであり、各々の切れ刃42aの端面は、すくい角γを有するすくい面を構成する。各々の切れ刃42aのすくい面は、歯切り工具42の中心軸線を中心としたテーパ状としてもよく、切れ刃42aごとに異なる方向を向く面状に形成してもよい。
【0014】
図1に示すように、ベッド10の上面には、テーブル50が設けられる。テーブル50は、ベッド10内に収容されるZ軸モータ12(
図3参照)及びZ軸モータ12に連結されるボールねじ(図示省略)によりZ軸線方向(水平方向)に移動可能に設けられる。テーブル50の上面には、チルトテーブル60を支持するチルトテーブル支持部61が設けられる。そして、チルトテーブル支持部61には、チルトテーブル60がA軸線(X軸線と平行)回りに揺動可能に設けられる。
【0015】
チルトテーブル60の底面には、工作物主軸70及びエンコーダ(図示省略)を有する工作物主軸用モータ71が設けられる。工作物主軸70は、工作物主軸用モータ71によりA軸線に直交するC軸線回りに回転可能に設けられる。工作物主軸70の先端には、工作物Wが保持され、工作物Wは、工作物主軸70の回転に伴って回転する。
【0016】
(1-2.制御装置の構成)
制御装置100の具体的構成について説明する。
図3に示すように、制御装置100は、工作物主軸制御部110と、工具主軸制御部120と、直動制御部130を備える。この制御装置100は、スカイビング加工により工作物Wに歯車を加工する。具体的には、
図6に示すように、制御装置100は、チルトテーブル60をA軸線回りに揺動させることにより、工作物Wの回転軸線Cを、歯切り工具42の回転軸線Oに対して傾斜させる。この工作物Wの回転軸線Cに対する歯切り工具42の回転軸線Oの傾斜角度を交差角δと称す。
【0017】
そして、工作物主軸制御部110は、工作物主軸用モータ71を駆動制御し、工作物主軸70(工作物W)の回転速度Swを制御する。工具主軸制御部120は、工具主軸用モータ41を駆動制御し、工具主軸40(歯切り工具42)の回転速度Stを制御する。直動制御部130は、Y軸モータ11及びZ軸モータ12をそれぞれ駆動制御し、歯切り工具42の工作物Wに対する工作物Wの回転軸線(中心軸線C)方向への送り速度、すなわち本例ではZ軸線方向のテーブル50(工作物W)の送り速度Vz(以下単に、Z軸送り速度Vzという)及びY軸線方向のサドル30(歯切り工具42)の送り速度Vy(以下単に、Y軸送り速度Vyという)を合成した送り速度Vz+y(以下単に、送り速度Vz+yという)を制御する。
【0018】
また、切削速度St-wは、歯車加工に要する加工時間(サイクルタイム)、歯切り工具42の諸元、工作物Wの材質、及び工作物Wに形成する歯車のねじれ角等に基づいて設定される。すなわち、切削速度St-wは、歯車加工を行う際の加工能率及び歯切り工具42の工具寿命等を勘案し、最適な速度に設定される。スカイビング加工においては、切削速度St-wを速くするほど、加工能率が向上する一方、面性状等の品質が低下する傾向がある。
【0019】
ここで、解決課題で述べたように、歯車加工装置1では、工作物主軸70(工作物W)及び工具主軸40(歯切り工具42)の回転制御を高精度にしても、加工される歯車の歯の歯すじにうねりが発生する場合がある。本発明者は、この歯すじのうねりの発生が、工作物主軸制御部110及び工具主軸制御部120による制御周期より短い時間の装置固有の同期誤差によることを見出した。
【0020】
そこで、工作物主軸制御部110及び工具主軸制御部120は、工作物主軸制御部110及び工具主軸制御部120による制御周期より短い時間の装置固有の同期誤差が存在する場合に、当該装置固有の同期誤差に応じた補正量に基づいて、工作物主軸70及び工具主軸40の回転の補正をそれぞれ行うようにする。なお、工作物主軸70及び工具主軸40の回転の補正は何れか一方のみでもよい。
【0021】
また、直動制御部130においても、歯すじのうねりの発生に対する影響は工作物主軸制御部110及び工具主軸制御部120ほど大きくないが、直動制御部130による制御周期より短い時間の装置固有の同期誤差が存在する場合がある。そこで、直動制御部130は、上記装置固有の同期誤差が存在する場合に、当該装置固有の同期誤差に応じた補正量に基づいて、直動制御部130のZ軸送り(直動)及びY軸送り(直動)の補正をそれぞれ行うようにしてもよい。なお、直動制御部130は、Z軸送り(直動)及びY軸送り(直動)の補正は何れか一方のみでもよい。
【0022】
この歯車加工装置1の制御装置100によれば、工作物主軸70及び工具主軸40の制御周期より短い時間の装置固有の同期誤差に応じた補正量に基づいて、工作物主軸70及び工具主軸40の少なくとも一方の回転を補正しているので、加工される歯車の歯の歯すじのうねりを抑制でき、歯車加工において加工する歯車の加工精度を高めることができる。
【0023】
(1-3.制御装置による歯車加工処理)
次に、制御装置100により実行される歯車加工処理(歯車加工方法)について図を参照して説明する。なお、歯車加工処理を実行するにあたり、工作物主軸70には、工作物Wが保持され、工具主軸40には、歯切り工具42が装着されているものとする。また、工作物Wの回転軸線Cに対する歯切り工具42の回転軸線Oの傾斜角度は、交差角δに設定され、歯切り工具42は、工作物Wの加工開始位置に位置決めされているものとする。
【0024】
また、工具主軸制御部120には、予め測定される工具主軸制御部120による制御周期より短い時間の装置固有の同期誤差に応じた補正量が記憶されているものとする。直動制御部130には、予め測定されるZ軸送りの制御周期より短い時間の装置固有の同期誤差に応じた補正量が記憶されているものとする。
【0025】
工具主軸制御部120は、装置固有の同期誤差に応じた補正量により工具主軸40の回転を補正し、工具主軸40を一定の回転速度Stで回転制御する(
図4のステップS1、回転制御工程、回転補正工程)。そして、工作物主軸制御部110は、工具主軸40の回転に同期するように工作物主軸70を一定の回転速度Swで回転制御する(
図4ステップS2、回転制御工程)。そして、直動制御部130は、装置固有の同期誤差に応じた補正量によりZ軸送りを補正し、Z軸送りに同期するようにY軸送りを制御して、歯切り工具42の工作物Wに対する工作物Wの回転軸線(中心軸線C)方向への送りを制御する(
図4ステップS3、直動制御工程、直動補正工程)。
【0026】
以上の処理により、歯切り工具42は、工作物Wに噛合しながら、工作物Wに連続的な歯車加工を行い、工作物Wに歯面形状を加工する(
図4のステップS4)。そして、一の工作物Wの歯車加工が完了したか否かを判断し(
図4のステップS5)、一の工作物Wの歯車加工が完了したら、次の工作物Wの歯車加工の有無を確認する(
図4のステップS6)。そして、次の工作物Wの歯車加工が有るときは、ステップS4に戻って上述の処理を繰り返し、次の工作物Wの歯車加工が無いときは、全ての処理を終了する。
【0027】
(1-4.第一実施形態の変形例)
上述の制御装置100では、工作物主軸70を一定の回転速度Swで回転制御するとともに、工具主軸40を一定の回転速度Stで回転制御している。しかし、本発明者は、
図7A及び
図7Bに示すように、工作物主軸70の回転速度Sw(平均工作物主軸回転速度Swa)及び工具主軸40の回転速度St(平均工作物主軸回転速度Sta)を正弦波で変動させる制御を行うことで、工作物Wに発生するびびり振動の増幅が抑制されることを見出した。これは、歯切り工具42が工作物Wに接触する周期が不規則となるためである。その結果、工作物Wに対する歯切り工具42の切込量を大きく設定することができ、工作物Wに形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図れる。
【0028】
しかし、工作物主軸70及び工具主軸40の回転速度Sw,Stのみを変動させた場合、歯切り工具42の切れ刃42aの実切込深さ(切削長さ)が変動し、工具寿命は工作物主軸70及び工具主軸40の回転速度Sw,Stが一定の場合と比較して短くなる傾向にあることが判明した。この工具寿命が問題になる場合は、工具主軸40の回転速度Stを変動させるとともに、工作物主軸70の回転速度Swを工具主軸40の回転速度Stと同期させ、さらに、送り速度Vz+yを工具主軸40の回転速度Stと同期させることで、工具寿命を向上できることを見出した。これは、歯切り工具42の切れ刃42aの実切込深さが一定となるためである。
【0029】
この変動制御においても、前述した実施形態の制御と同様に、工作物主軸制御部110及び工具主軸制御部120は、装置固有の同期誤差が存在する場合に、装置固有の同期誤差に応じた補正量に基づいて、工作物主軸70及び工具主軸40の回転の補正をそれぞれ行うようにする。なお、工作物主軸70及び工具主軸40の回転の補正は何れか一方のみでもよい。また、前述した実施形態の制御と同様に、直動制御部130は、上記装置固有の同期誤差が存在する場合に、装置固有の同期誤差に応じた補正量に基づいて、Y軸送り(直動)及びZ軸送り(直動)の補正をそれぞれ行うようにしてもよい。なお、直動制御部130は、Z軸送り(直動)及びY軸送り(直動)の補正は何れか一方のみでもよい。
【0030】
しかし、この変動制御においては、工作物Wを含む第一回転体(工作物W及び工作物主軸70の回転部分)の質量と歯切り工具42を含む第二回転体(歯切り工具42及び工具主軸40の回転部分)の質量とは、同一ではない。そのため、工作物主軸70の回転速度Sw及び工具主軸40の回転速度Stが変動したとき、第一回転体の第一慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントとが異なる。そして、第一、第二回転体の第一、第二慣性モーメントの相違に起因して、
図8に示すように、工作物主軸70と工具主軸40の回転位相の同期誤差Δθが発生する。この回転位相の同期誤差Δθは次式(1)で表される。なお、式中のθwは、工作物主軸回転位相、θtは、工具主軸回転位相、Ztは、歯切り工具42の工具刃数、Zwは、工作物Wに加工する歯車の歯数である。その結果、
図11に示すように、加工される歯車の歯Gの歯すじGzに歯すじ誤差εのうねりが発生し、歯車加工精度が悪化するおそれがあった。
【0031】
【0032】
また、送り速度Vz+yと工具主軸40の回転速度Stとの間にも同期誤差が発生する場合があり、この点でも歯車加工精度が悪化するおそれがあった。工作物主軸70と工具主軸40の回転位相の同期誤差Δθが発生する理由としては、工作物Wを含む第一回転体(工作物W及び工作物主軸70の回転部分)の質量と歯切り工具42を含む第二回転体(歯切り工具42及び工具主軸40の回転部分)の質量とは、同一ではない。そのため、工作物主軸70の回転速度Sw及び工具主軸40の回転速度Stが変動したとき、第一回転体の第一慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントとが異なるからである。
【0033】
また、送り速度Vz+yと工具主軸40の回転速度Stとの間に同期誤差が発生する理由としては、工作物Wを含む第一移動体(工作物W、工作物主軸70及びテーブル50等)の質量と歯切り工具42を含む第二移動体(歯切り工具42、工具主軸40及びサドル30等)の質量とは、同一ではない。そのため、送り速度Vz+y及び工具主軸40の回転速度Stが変動したとき、第一移動体の第一慣性力と第二移動体の第二慣性力とが異なるからである。
【0034】
そこで、先ず、工具主軸制御部120は、第一回転体の第一慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントに基づいて、工作物主軸70における回転速度Swの変動周期に応じた補正量を算出するようにしている。さらに、直動制御部130は、第一移動体の第一慣性力と第二移動体の第二慣性力に基づいて、送り速度Vz+y、本例では、Y軸送り速度Vyの変動周期に応じた補正量及びZ軸送り速度Vzの変動周期に応じた補正量をそれぞれ算出するようにしている。
【0035】
具体的には、工具主軸制御部120は、工具主軸用モータ41を駆動制御し、工具主軸40の回転速度St(式(1)参照)を変動させる。工作物主軸制御部110は、工作物主軸用モータ71を駆動制御し、工作物主軸70の回転速度Sw(式(2)参照)を工具主軸40の回転速度Stに同期させて変動させる。
【0036】
工具主軸40の回転速度Stは、次式(2)で表される。なお、式中のStaは、工具主軸40の平均回転速度(平均工具主軸回転速度)、Atは、工具主軸40の変動振幅、fhは、回転変動の変動周波数、tは、時間である。工作物主軸70の回転速度Swは、次式(3)で表される。なお、式中のSwaは、工作物主軸70の平均回転速度(平均工作物主軸回転速度)である。
【0037】
【0038】
【0039】
また、Z軸送り速度Vzは、次式(4)で表される。なお、式中のVzaは、平均Z軸送り速度である。Y軸送り速度Vyは、次式(5)で表される。なお、式中のVyaは、平均Y軸送り速度である。
【0040】
【0041】
【0042】
工具主軸制御部120は、工作物Wを含む第一回転体の第一慣性モーメントと歯切り工具42を含む第二回転体の第二慣性モーメントに基づいて、工作物主軸70の回転速度Swの変動周期に応じた補正量を算出する。つまり、工作物主軸70の回転速度Swの変動周期に応じた補正量に含まれる第一の補正量として、先ず、
図10に示すように、工作物主軸70の回転速度Swの図示破線で示す周期的な変動における振幅を微調整するための振幅補正量ΔAw-tを算出する。この補正を行うことで、工作物主軸70の回転速度Swは、図示一点鎖線で示す周期的な変動になる。
【0043】
具体的には、工具主軸制御部120は、工具主軸制御部120に予め記憶されている第一回転体の第一慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントとの差Iw-t、工具主軸40の回転速度Stの変動振幅At及び変動周波数fhに基づいて、次式(6)で表される工作物主軸70の変動振幅の振幅補正量ΔAw-tを求める。なお、式中のCwtは、歯切り工具42基準の工作物Wに関する定数であり、工具主軸制御部120に予め記憶されている。また、同様な変数を三角関数に用いた式にて振幅補正量ΔAw-tを求めることもできる。
【0044】
【0045】
さらに、工具主軸制御部120は、工作物主軸70の回転速度Swの変動周期に応じた補正量に含まれる第二の補正量として、
図10に示すように、第一回転体における加減速タイミングの微小な時間ずれ、つまり、第一回転体における加減速に起因するオフセット時間補正量Pwを算出する。この補正を行うことで、工作物主軸70の回転速度Swは、図示二点鎖線で示す周期的な変動になる。
【0046】
具体的には、工具主軸制御部120は、工具主軸制御部120に予め記憶されている第一回転体の第一慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントとの差Iw-t、工具主軸40の回転速度Stの変動周波数fhに基づいて、次式(7)で表される第一回転体における加減速に起因するオフセット時間補正量Pwを求める。なお、式中のCwは、第二回転体基準の第一回転体に関する定数であり、工具主軸制御部120に予め記憶されている。また、同様な変数を三角関数に用いた式にてオフセット時間補正量Pwを求めることもできる。
【0047】
【0048】
ここで、上述の工作物主軸70の変動振幅の振幅補正量ΔAw-t及び第一回転体における加減速に起因するオフセット時間補正量Pwで工作物主軸70の変動振幅を補正すると、
図11に示すように、工作物主軸70と工具主軸40の回転位相の同期誤差Δθは、
図8に示す補正前の回転位相の同期誤差Δθよりも改善される。しかし、
図12に示すように、歯車の歯Gの歯すじGzに歯すじ誤差εcのうねりは、
図9に示す補正前の歯すじ誤差εのうねりより多少改善される程度(εc<ε)で、歯すじ誤差のうねりの許容範囲内に入っていない。
【0049】
そこで、さらに、工具主軸制御部120は、工作物主軸70の回転速度Swの補正量に含まれる第三の補正量として、前述した実施形態の制御と同様の装置固有の同期誤差に応じた補正量で工作物主軸70の変動振幅を補正することで、歯すじ誤差のうねりが改善されることを見出した。つまり、
図10に示すように、第一回転体における時間的な極僅かな誤差、つまり、第一回転体における回転速度制御周期より短い時間の装置固有のオフセット時間補正量ΔPwを算出する。
【0050】
上述の第一回転体における回転速度制御周期より短い時間の装置固有のオフセット時間補正量ΔPwで工作物主軸70の変動振幅を補正すると、
図13に示すように、工作物主軸70と工具主軸40の回転位相の同期誤差Δθは、
図11に示す振幅補正量ΔAw-t及びオフセット時間補正量Pwで補正したときの回転位相の同期誤差Δθと比較して僅かに大きくなるが、
図14に示すように、歯車の歯Gの歯すじGzに歯すじ誤差εccのうねりは、
図12に示す振幅補正量ΔAw-t及びオフセット時間補正量Pwで補正したときの歯すじ誤差εcのうねりよりも小さくなって(εcc<εc)、許容範囲内に入るようになる。
【0051】
この装置固有のオフセット時間補正量は、例えばエンコーダの測定タイミングのずれを補正するものであり、工具主軸回転速度制御部120及び工作物主軸回転制御部110の制御周期によるが、一般的に制御指令は、回転速度制御部同等の時間補正はできない。このため、回転速度指令値の回転位相値に時間補正相当の補正を行うようにする。この補正を行うことで、工作物主軸70の回転速度Swは、
図10の実線で示す周期的な変動になる。
【0052】
具体的には、工具主軸制御部120は、工具主軸制御部120に予め記憶されている工作物主軸70の極僅かな時間ずれΔTw及び工具主軸40の回転速度Stの変動周波数fhに基づいて、次式(8)で表される第一回転体における回転速度制御周期より短い時間の装置固有のオフセット時間補正量ΔPwを求める。
【0053】
【0054】
直動制御部130は、上述の工具主軸制御部120と同様な処理を行う。つまり、直動制御部130は、工作物Wを含む第一移動体の第一慣性力の代替値に当たるZ軸モータ12に連結されたボールネジのZ軸慣性モーメントと歯切り工具42を含む第二移動体の第二慣性力の代替値に当たるY軸モータ11に連結されたボールネジのY軸慣性モーメントに基づいて、Z軸送り速度Vzの補正量及びY軸送り速度Vyの補正量を算出する。つまり、直動制御部130は、Z軸送り速度Vzの変動周期に応じた補正量に含まれるものとして、先ず、Z軸送り速度Vzの周期的な変動における振幅を微調整する振幅補正量を算出する。
【0055】
具体的には、直動制御部130は、直動制御部130に予め記憶されているZ軸慣性モーメントとY軸慣性モーメントとの差Iz-y、工具主軸40の回転速度Stの変動振幅At(=Ay:Y軸の変動振幅)及び変動周波数fhに基づいて、次式(9)で表されるZ軸の変動振幅の振幅補正量ΔAz-yを求める。なお、式中のCztは、歯切り工具42基準のZ軸に関する定数であり、直動制御部130に予め記憶されている。また、同様な変数を三角関数に用いた式にて振幅補正量ΔAz-yを求めることもできる。
【0056】
【0057】
さらに、直動制御部130は、Z軸の送り速度Vzの補正量に含まれるものとして、第一移動体における加減速タイミングの微小な時間ずれ、つまり、第一移動体における加減速に起因するオフセット時間補正量を算出する。このオフセット時間補正量は、加工前の工具主軸40の空転及びZ軸の空送りの状態のときに、同期変動指令による工具主軸40の回転位相とZ軸の位置をそれぞれ測定し、工具主軸40の回転位相に対するZ軸の時間ずれ(最大工具主軸回転速度、最小工具主軸回転速度、平均工具主軸回転速度に至るタイミング)に相当する。
【0058】
具体的には、直動制御部130は、直動制御部130に予め記憶されているZ軸慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントとの差Iz-t及び工具主軸40の回転速度Stの変動周波数fhに基づいて、次式(10)で表される第一移動体における加減速に起因するオフセット時間補正量Pzを求める。なお、式中のCzは、第一移動体に関する定数であり、直動制御部130に予め記憶されている。また、同様な変数を三角関数に用いた式にてオフセット時間補正量Pzを求めることもできる。
【0059】
【0060】
さらに、直動制御部130は、Z軸の送り速度Vzの補正量に含まれるものとして、第一移動体における時間的な極僅かな誤差、つまり、前述した実施形態の制御と同様の第一移動体における送り速度制御周期より短い時間の装置固有のオフセット時間補正量を算出する。この装置固有のオフセット時間補正量は、工具主軸回転速度制御部120及び工作物主軸回転制御部110の制御周期によるが、一般的に制御指令は、回転速度制御部同等の時間補正はできない。このため、送り速度指令値に時間補正相当の補正を行うようにする。
【0061】
具体的には、直動制御部130は、直動制御部130に予め記憶されているZ軸の極僅かな時間ずれΔTz及び工具主軸40の回転速度Stの変動周波数fhに基づいて、次式(11)で表される第一移動体における送り速度制御周期より短い時間の装置固有のオフセット時間補正量ΔPzを求める。
【0062】
【0063】
また、直動制御部130は、Y軸の送り速度Vyの補正量に含まれるものとして、第二移動体における加減速タイミングの微小な時間ずれ、つまり、第二移動体における加減速に起因するオフセット時間補正量を算出する。
【0064】
具体的には、直動制御部130は、直動制御部130に予め記憶されているY軸慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントとの差Iy-t及び工具主軸40の回転速度Stの変動周波数fhに基づいて、次式(12)で表される第二移動体における加減速に起因するオフセット時間補正量Pyを求める。なお、式中のCyは、第二移動体に関する定数であり、直動制御部130に予め記憶されている。また、同様な変数を三角関数に用いた式にてオフセット時間補正量Pyを求めることもできる。
【0065】
【0066】
さらに、直動制御部130は、Y軸の送り速度Vyの補正量に含まれるものとして、第二移動体における時間的な極僅かな誤差、つまり、前述した実施形態の制御と同様の第二移動体における送り速度制御周期より短い時間の装置固有のオフセット時間補正量を算出する。この装置固有のオフセット時間補正量は、工具主軸回転速度制御部120及び工作物主軸回転制御部110の制御周期によるが、一般的に制御指令は、回転速度制御部同等の時間補正はできない。このため、送り速度指令値に時間補正相当の補正を行うようにする。
【0067】
具体的には、直動制御部130は、直動制御部130に予め記憶されているY軸の極僅かな時間ずれΔTy及び工具主軸40の回転速度Stの変動周波数fhに基づいて、次式(13)で表される第一移動体における送り速度制御周期より短い時間の装置固有のオフセット時間補正量ΔPyを求める。
【0068】
【0069】
上述の歯車加工装置1によれば、加工される歯車の歯Gの歯すじGzのうねりをさらに抑制できるので、歯車加工において加工する歯車の加工精度を大幅に高めることができる。そして、工作物主軸70の回転速度Swを工具主軸40の回転速度Stと同期させて変動させているとともに、送り速度Vz+yを工具主軸40の回転速度Stと同期させて変動させている。これにより、歯切り工具42の切れ刃42aの実切込深さを一定にすることができ、歯切り工具42の長寿命化を図ることができる。
【0070】
(1-5.第一実施形態の変形例による歯車加工処理)
次に、第一実施形態の変形例による歯車加工処理(歯車加工方法)について図を参照して説明する。なお、歯車加工処理を実行するにあたり、工作物主軸70には、工作物Wが保持され、工具主軸40には、歯切り工具42が装着されているものとする。また、工作物Wの回転軸線Cに対する歯切り工具42の回転軸線Oの傾斜角度は、交差角δに設定され、歯切り工具42は、工作物Wの加工開始位置に位置決めされているものとする。
【0071】
工具主軸制御部120は、工具主軸40の回転速度Stを正弦波で変動させて工具主軸40を空転させる(
図5のステップS11)。そして、工具主軸40の回転速度Stが、安定しているか否か判別する(
図5のステップS12)。この処理は、
図15に示すように、工具主軸40の平均工具主軸回転速度Staが、目標中心速度の±20%内に入っている場合に安定と判別する。
【0072】
工具主軸制御部120は、工具主軸40の回転速度Stが安定したら、工作物主軸制御部110に同期回転指令を入力する。工作物主軸制御部110は、工具主軸制御部120により設定された工具主軸40の回転速度Stに同期するように、工作物主軸70の回転速度Swを設定して工作物主軸70を空転させる(
図5のステップS13)。そして、直動制御部130は、送り速度Vz+yが工具主軸40の回転速度Stの変動周波数と同期するように、Z軸送り速度Vz及びY軸送り速度Vyをそれぞれ設定してZ軸及びY軸を空送りする(
図5のステップS14)。
【0073】
そして、工具主軸制御部120は、工作物主軸70における回転速度Swの変動周期に応じた補正量を算出し(
図5のステップS15)、直動制御部130は、Z軸送り速度及びY軸送り速度の変動周期に応じた補正量をそれぞれ算出する(
図5のステップS16)。工作物主軸制御部110は、工作物主軸70の回転速度Swを次式(14)に示すように変動周期に応じた補正量で補正する(
図5のステップS17、回転補正工程)。直動制御部130は、Z軸送り速度及びY軸送り速度を次式(15)及び次式(16)に示すように変動周期に応じた補正量でそれぞれ補正する(
図5のステップS18)。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
以上の処理により、歯切り工具42は、工作物Wに噛合しながら、工作物Wに連続的な歯車加工を行い、工作物Wに歯面形状を加工する(
図5のステップS19)。そして、一の工作物Wの歯車加工が完了したか否かを判断し(
図5のステップS20)、一の工作物Wの歯車加工が完了したら、次の工作物Wの歯車加工の有無を確認する(
図5のステップS21)。そして、次の工作物Wの歯車加工が有るときは、ステップS19に戻って上述の処理を繰り返し、次の工作物Wの歯車加工が無いときは、全ての処理を終了する。また、第一実施形態の変形例では、AzをAy(=At)基準で補正したが、Az,Ay各々をAt基準で補正することもできる。
【0078】
<2.第二実施形態>
次に、
図16を参照して、第二実施形態について説明する。第一実施形態及び第一実施形態の変形例において、歯切り工具42がスカイビングカッタであり、歯車加工装置1は、スカイビング加工による歯車加工を行う場合について説明した。これに対し、第二実施形態では、歯切り工具242がホブカッタであり、歯車加工装置1が、ホブ加工による歯車加工を行う場合を説明する。なお、上記した第一実施形態と同一の部品には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0079】
歯車加工装置1は、歯切り工具242の回転軸線Oと工作物Wの回転軸線であるC軸とが交差するように、歯切り工具242及び工作物Wを配置する。なお、
図16には、歯切り工具242の回転軸線Oと工作物Wの回転軸線であるC軸とが直交するように、歯切り工具242及び工作物Wが配置されている。そして、歯車加工装置1は、歯車加工時において、工作物W及び歯切り工具242をそれぞれ回転させながら、歯切り工具242を工作物Wの中心軸線であるZ軸方向へ送る(相対移動させる)ことにより、工作物Wに歯車を加工する。
【0080】
この歯車加工においても、第一実施形態及び第一実施形態の変形例の補正を行うことで、加工される歯車の歯Gの歯すじGzのうねりをさらに抑制できるので、歯車加工において加工する歯車加工精度を大幅に高めることができる。
【0081】
<3.その他>
上記第一実施形態の変形例では、工作物主軸70の回転速度Swを正弦波で変動させる場合について説明したが、
図17に示すように、工作物主軸70の回転速度Swを三角波で変動させてもよい。同様に、工作物主軸70の回転速度Swを放物線が波状に変化するように変動させてもよい。
【0082】
また、上記第一実施形態の変形例では、工作物主軸70の補正量を算出する構成としたが、工具主軸40の補正量を算出する構成としてもよい。また、工作物主軸70及び工具主軸40の両方の補正量を算出する構成としてもよい。この場合、工作物主軸70の回転速度補正量と工具主軸40の回転速度補正量を、50%対50%の比率で求め、あるいは、工作物Wに加工する歯車の歯数と歯切り工具42の刃数の比率で求める。
【0083】
また、上記各実施形態では、歯車加工装置1は、コラム20がX軸線方向へ移動可能な構成を説明したが、コラム20の代わりにテーブル50がX軸線方向へ移動可能に構成されてもよい。また、テーブル50がZ軸線方向へ移動可能な構成を説明したが、テーブル50の代わりにコラム20がZ軸線方向へ移動可能に構成されていてもよい。また、歯車加工装置1として横型のマシニングセンタについて説明したが、縦型のマシニングセンタにも本発明は適用可能である。また、工作機械全般に本発明を適用可能である。
【0084】
また、上記各実施形態では、回転2軸(工具主軸40、工作物主軸70)及び直動2軸(Z軸、Y軸)で加工可能なマシニングセンタにおいて各軸を補正する場合を説明したが、回転2軸(工具主軸40、工作物主軸70)及び直動1軸(例えばZ軸)や、回転2軸(工具主軸40、工作物主軸70)及び直動3軸(Z軸、Y軸、X軸)で加工可能なマシニングセンタにおいて各軸を補正する場合も適用可能である。そして、歯車加工のみならず、バリアブルレシオラックや歯のクラウニングの加工にも適用可能である。
【符号の説明】
【0085】
1:歯車加工装置、 40:工具主軸、 41:工具主軸用モータ、 42:歯切り工具、 70:工作物主軸、 71:工作物主軸用モータ、 100:制御装置、 110:工作物主軸制御部、 120:工具主軸制御部、 130:直動制御部、 W:工作物