(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】弁装置
(51)【国際特許分類】
F16K 31/04 20060101AFI20231031BHJP
H02K 7/06 20060101ALI20231031BHJP
H02K 7/14 20060101ALI20231031BHJP
H02P 3/22 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
F16K31/04 C
H02K7/06 A
H02K7/14 Z
H02P3/22 B
(21)【出願番号】P 2019164540
(22)【出願日】2019-09-10
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】城 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】高木 由人
(72)【発明者】
【氏名】中島 登志久
(72)【発明者】
【氏名】河田 真治
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-170361(JP,A)
【文献】特開2009-183011(JP,A)
【文献】特開2018-133896(JP,A)
【文献】特開2002-202035(JP,A)
【文献】特開2010-112438(JP,A)
【文献】特開平01-099483(JP,A)
【文献】特開平10-164878(JP,A)
【文献】特開2012-026469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/04 - 31/05
H02P 3/00 - 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(40)内に固定された回転子(52)
、および
、複数の電機子巻線(51a,51b,51c)を有しかつ前記回転子を回転させるために磁界を発生する固定子(51)を含む電動モータ(42)と、
出力部(44)を含み前記電動モータの回転速度を減速して出力する減速機構(43)と、
前記出力部から出力される回転力により駆動される弁体(24)と、
前記電動モータを駆動する電源(63)と、
前記電源および前記電動モータと電気的に接続し、
前記複数の電機子巻線にブリッジ接続された複数のスイッチング素子(64a,64b,64c,64d,64e,64f)を有する駆動回路(61)と、
前記電動モータに流れる電流を前記スイッチング素子の開閉により制御する制御部(62)と、
を備え、
前記制御部は、前記弁体を開弁状態における任意の位置で保持する保持モードの際に、前記弁体から前記電動モータへ伝達される回転力に対抗する力を生じるように前記駆動回路を制御
し、前記保持モードの際に、前記電動モータに生じた誘導電流が前記電源を経由せずに流れる閉回路を形成し、複数の前記スイッチング素子のうち前記電源の正極側と前記固定子との間に接続される高圧側素子(64a,64c,64e)を閉じ且つ複数の前記スイッチング素子のうち前記電源の負極側と前記固定子との間に接続される低圧側素子(64b,64d,64f)を開く第1閉回路モードと、前記高圧側素子を開き且つ前記低圧側素子を閉じる第2閉回路モードとのうち、前記高圧側素子の温度と前記低圧側素子の温度との比較結果に基づき、温度がより低い方の素子が閉とされるいずれかの前記閉回路モードを選択する弁装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記スイッチング素子の温度を、前記誘導電流と前記素子の抵抗値とに基づいて算出する請求項
1に記載の弁装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記誘導電流を前記出力部に加わる力から推定する請求項
2に記載の弁装置。
【請求項4】
前記電機子巻線は三相電機子巻線であり、
前記駆動回路は、前記三相電機子巻線に三相ブリッジ接続された6つの前記スイッチング素子を備え、
前記制御部は、6つの前記スイッチング素子のうち3つの前記高圧側素子を閉じ且つ3つの前記低圧側素子を開く前記第1閉回路モードと、3つの前記高圧側素子を開き且つ3つの前記低圧側素子を閉じる前記第2閉回路モードとのうち、いずれかの前記閉回路モードを選択する請求項
1~
3のうちいずれか一項に記載の弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源に電動モータを用いた電動式の弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されるように、駆動源に電動モータを用いた電動式の弁装置(電動弁)、およびこの弁装置を備える冷凍サイクル装置が知られている。弁装置は、冷凍サイクルにおける膨張弁として用いられる。
【0003】
こうした弁装置では、電動モータと、電動モータの回転速度を減速する減速機構と、減速機構から回転力を出力する出力部と、出力部によって駆動される弁体とを備えている。電動モータの出力部から弁体までの動力伝達経路には、ねじ機構部が設けられている。ねじ機構部は、雄ねじ部と雌ねじ部とを有している。雄ねじ部は、弁体の軸方向の中間部に形成される。雌ねじ部は、弁収容穴の内周面に形成され、雄ねじ部と螺合する。ねじ機構部は、弁体自身の回転を弁体の軸方向への直動動作に変換する。また、ねじ機構部は、弁収容穴における面での摩擦により、冷媒圧力によって弁体が開弁方向に移動することを防止する。すなわち、ねじ機構部は、弁体を任意の位置で保持するための摩擦部材として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような弁装置を小型化して搭載性を向上させるためには、ねじ機構部において、リード角を大きくすることで弁体の軸方向と直交する方向の幅を小さくすること、または、ねじ機構部自体をなくすことが考えられる。しかし、リード角を大きくする、または、ねじ機構部をなくすと、ねじ機構部で発生する抗力が小さくなる。そして、ねじ機構部での抗力が、冷媒圧力により弁体に作用する荷重より小さくなると、弁体が軸方向の力を受けて回転してしまう。すなわち、弁軸力を受けて弁体が回転し易くなっていまい、十分な弁保持性能を得ることができないという問題が生じていた。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、弁体の位置保持性能を確保しつつ搭載性を向上させることが可能な電動式の弁装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の弁装置は、電動モータ(42)と、減速機構(43)と、弁体(24)と、電源(63)と、駆動回路(61)と、制御部(62)と、を備える。電動モータは、ハウジング(40)内に固定された回転子(52)、および、複数の電機子巻線(51a,51b,51c)を有しかつ回転子を回転させるために磁界を発生する固定子(51)を含む。減速機構は、出力部(44)を含み電動モータの回転速度を減速して出力する。弁体は、出力部から出力される回転力により駆動される。電源は、電動モータを駆動する。駆動回路(61)は、電源および電動モータと電気的に接続し、複数の電機子巻線にブリッジ接続された複数のスイッチング素子(64a,64b,64c,64d,64e,64f)を有する。制御部は、電動モータに流れる電流をスイッチング素子の開閉により制御する。制御部は、弁体を開弁状態における任意の位置で保持する保持モードの際に、弁体から電動モータへ伝達される回転力に対抗する力を生じるように駆動回路を制御し、保持モードの際に、電動モータに生じた誘導電流が電源を経由せずに流れる閉回路を形成し、複数のスイッチング素子のうち電源の正極側と固定子との間に接続される高圧側素子(64a,64c,64e)を閉じ且つ複数のスイッチング素子のうち電源の負極側と固定子との間に接続される低圧側素子(64b,64d,64f)を開く第1閉回路モードと、高圧側素子を開き且つ低圧側素子を閉じる第2閉回路モードとのうち、高圧側素子の温度と低圧側素子の温度との比較結果に基づき、温度がより低い方の素子が閉とされるいずれかの閉回路モードを選択する。
【0008】
本発明の構成によれば、弁体を開弁状態における任意の位置で保持する保持モードの際に、弁体から電動モータへ伝達される回転力に対抗する力が発生する。これにより、例えば弁体が開閉する流路を流れる流体によって、弁体が開弁方向に力を受けたときに、弁体を任意の位置に保持可能となる。このため、電動モータから弁体への動力伝達経路において、弁体を保持するための保持部材(例えばねじ機構部など)を有する必要がなく、または、保持部材を備えた構成としても、保持部材を小型化することができ設計自由度が向上する。よって、本構成によれば、弁体の位置保持性能を確保しつつ弁装置の搭載性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態による電動式弁装置の概略構成を示す断面図である。
【
図3】
図2の回路図において、バッテリを経由しない第1閉回路モードを形成する場合の制御を示した回路図である。
【
図4】
図2の回路図において、バッテリを経由しない第2閉回路モードを形成する場合の制御を示した回路図である。
【
図5】モータ制御部が実行する弁保持制御を説明するフローチャートである。
【
図6】第2実施形態による、モータ制御部が実行する弁保持制御を説明するフローチャートである。
【
図7】第3実施形態による、モータ制御部が実行する弁保持制御を説明するフローチャートである。
【
図8】第4実施形態による、モータ制御部が実行する弁保持制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、第2実施形態以下の複数の実施形態において、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0011】
〈第1実施形態〉
[構成]
本発明の第1実施形態の構成について、
図1、
図2を参照しつつ説明する。本実施形態の電動式弁装置10は、例えば車両の空気調和機に用いられる冷凍サイクル装置に備えられる。図示しない冷凍サイクル装置は、冷媒循環回路において、コンプレッサ、コンデンサ、レシーバ、電動式弁装置10、およびエバポレータ11等を備える周知の装置である。電動式弁装置10は、レシーバから供給された低温高圧状態の液相冷媒を減圧膨張させてエバポレータ11に供給する。なお、
図1では、電動モータ42および減速機構43の構成を概略的に簡略化して示している。
【0012】
図1に示すように、電動式弁装置10は、基台ブロック12と、膨張弁13と、駆動部14とを主に備えている。膨張弁13は、基台ブロック12内に設けられている。駆動部14は、基台ブロック12に固定されており、膨張弁13を駆動する。基台ブロック12には、エバポレータ11側に冷媒を流通させる流路15が形成されている。流路15は、断面円形の通路である。基台ブロック12の形状の一例は、直方体である。基台ブロック12において、駆動部14が固定される一面を上面16とした場合、流路15は、一方側の側面17から反対側の側面18に向けて貫通して形成されている。なお、以下の説明では、基台ブロック12側を電動式弁装置10の下側、駆動部14側を電動式弁装置10の上側とする。
【0013】
基台ブロック12には、縦通路21と、弁収容穴22とが形成されている。縦通路21は、流路15の途中に、流路15の延びる方向と直交する上下方向に延びて形成されている。弁収容穴22は、縦通路21の上側と連通し、後述する弁体24を収容する弁収容空間として機能する。弁収容穴22の断面形状は円形である。なお、後述する減速機構43は、弁収容穴22の上端と連通する収容凹部23に収容されている。
【0014】
膨張弁13は、弁体24と、ねじ機構部28とを有している。弁体24は、弁収容穴22に収容され、下方の先端部25が尖った針状のニードル弁である。膨張弁13は、弁体24が上下方向に沿って進退することで、弁体24の先端部25が縦通路21の開口部19を開閉し、冷媒の流通を許容または遮断し、さらに、その流量を調整する。
【0015】
弁体24は、下方から順に、先端部25と、雄ねじ部26と、連結部27とを有している。連結部27は、図示しない磁気継手を有する出力側回転体の出力部44と連結する。雄ねじ部26は、弁収容穴22の内周面に形成された雌ねじ部と螺合する。雄ねじ部26と雌ねじ部とでねじ機構部28が構成される。
【0016】
ねじ機構部28は、弁体24自身の回転を弁体24の軸方向、すなわち上下方向の直動動作に変換する。また、ねじ機構部28は、弁収容穴22における面での摩擦により、冷媒圧力によって弁体24が開弁方向に移動することを抑制する。すなわち、ねじ機構部28は、弁体24を任意の位置で保持するための摩擦部材として機能する。連結部27は、出力側回転体からの回転動作を弁体24に伝達し、弁体24の直動動作が可能となるように出力側回転体と連結する。
【0017】
基台ブロック12と、駆動部14との上下間には、平板状の閉塞板29が設けられている。閉塞板29と基台ブロック12の上面16との間には、収容凹部23の開口部31の周囲を囲む態様をなす環状溝32に、環状のシール部材33が装着されている。これにより、基台ブロック12の開口部31は液密に閉塞され、基台ブロック12から駆動部14側等の外部に冷媒が漏出しないように封止されている。
【0018】
駆動部14は、一部が閉塞板29を介在する態様にて基台ブロック12の上面16に、図示しない取付ねじにて固定されている。駆動部14は、ハウジング40、カバー41と、電動モータ42、減速機構43、減速機構43の出力部44、および制御回路基板45等を主に備えている。カバー41は、ハウジング40の上面の開口部46を閉塞する。制御回路基板45、電動モータ42、および減速機構43は、ハウジング40の内部に設けられている。電動モータ42は、ステッピングモータにて構成されている。減速機構43は、電動モータ42の回転速度を減速して出力する。
【0019】
駆動部14内の電動モータ42、減速機構43および磁気継手は、膨張弁13の弁体24よりも上方において上下方向に並ぶようにして配置され、最も上側に電動モータ42が配置されている。制御回路基板45は、ハウジング40内において、電動モータ42の上側の開口部46付近に配置されている。制御回路基板45は、電動モータ42から延びる接続端子47と接続されている。この接続端子47を介して、制御回路基板45は電動モータ42に電源供給を行う。電動モータ42は、制御回路基板45からの電源供給に基づいて回転駆動が制御される。
【0020】
次に、電動モータ42の周辺構成、および制御回路基板45に形成されるモータ駆動回路61の構成について、
図2を参照して説明する。
図2に示すように、モータモジュール60は、電動モータ42、駆動回路61、及びモータ制御部62を主に備えている。電動モータ42は、駆動回路61を介して、バッテリ63に接続されている。バッテリ63は、「電源」に相当する。
【0021】
電動モータ42は、三相交流の電動発電機であり、固定子51と、回転子52と、を備えている。固定子51は、三相の電機子巻線51a,51b,51cを含んでいる。回転子52は、界磁巻線52aを含んでいる。電動モータ42は、さらに調節部53を備えている。調節部53は、モータ制御部62の指令に基づいて、界磁巻線52aに流す励磁電流の大きさを調節する。
【0022】
駆動回路61は、スイッチング素子であるMOSFETを複数備えるインバータ回路である。具体的には、駆動回路61は、6つのMOSFET64a,64b,64c,64d,64e,64fを備えている。MOSFET64a、64bの接続点には、固定子51のU相の電機子巻線51aの一端が接続されている。MOSFET64c,64dの接続点には、固定子51のV相の電機子巻線51bの一端が接続されている。MOSFET64e,64fの接続点には、固定子51のW相の電機子巻線51cの一端が接続されている。
【0023】
電機子巻線51aの他端、電機子巻線51bの他端、および電機子巻線51cの他端は互いに中性点で接続されている。駆動回路61には、スイッチ制御部65が備わっており、モータ制御部62の指令に基づいて、スイッチ制御部65は各MOSFET64a~64fの開閉動作を制御する。
【0024】
以下、高電圧側となる3つのMOSFET64a,64c,64e(
図2において上側アームのMOSFET)を、「高圧側素子64a,64c,64e」とも言う。また、低電圧側となる3つのMOSFET64b,64d,64f(
図2において下側アームのMOSFET)を、「低圧側素子64b,64d,64f」とも言う。
【0025】
モータ制御部62は、図示しないCPU、ROM、RAM、入出力インターフェース等を含むマイコンとして構成されている。モータ制御部62は、界磁巻線52aに流す励磁電流を調節部53に調節させる。これにより、電動モータ42に生じる発電電圧を調節する。また、モータ制御部62は、駆動回路61を構成するMOSFET64a~64fの開閉動作をスイッチ制御部65に制御させる。なお、モータ制御部62は、図示しないECUに電気的に接続している。
【0026】
本実施形態のモータモジュール60は、膨張弁13の動作を示すモードとして、膨張弁13を開閉動作させる開閉時モードと、膨張弁13を開弁状態の任意の位置に保持する保持モードとを有している。保持モードは、さらに、MOSFET64a~64fの開閉状態に応じて、第1閉回路モードと第2閉回路モードとを有している。詳細については後述する。膨張弁13を開閉動作させる開閉時モードでは、3つのMOSFET64b、64d、64eが閉状態となるように制御され、バッテリ63から供給される直流電流を三相の電力へと変換し、三相の電力を固定子51へと供給する。
【0027】
第1閉回路モードでは、
図3に示すように、高圧側素子64a,64c,64eが閉状態となり、低圧側素子64b,64d,64fが開状態となるように制御される。すなわち、固定子51が有する全相を短絡させる。これにより、電動モータ42の回転子52が回転することで固定子51の巻線に生じた誘導電流がバッテリ63を経由しないで循環する閉回路が駆動回路61内に形成される。
【0028】
また、第2閉回路モードでは、
図4に示すように、高圧側素子64a,64c,64eが開状態となり、低圧側素子64b,64d,64fが閉状態となるように制御される。第1閉回路モードと同様に、第2閉回路モードでは、固定子51に生じた誘導電流がバッテリ63を経由しないで循環する閉回路が駆動回路61内に形成される。
【0029】
これにより、第1閉回路モードおよび第2閉回路モードでは、バッテリ63の電力を消費することなく、弁体24から電動モータ42へ伝達される回転力に対向する力が生じ、弁体24は任意の開弁状態の範囲内に保持される。
【0030】
[弁保持制御について]
次に、モータ制御部62が実行する弁保持制御について、
図5に示すフローチャートを参照して説明する。まず、ステップ100(以下、ステップを「S」と略す。)において、各種信号が読み込まれる。ここで読み込まれる各種信号は、例えば膨張弁13の動作モード、直前の動作モード時におけるMOSFET64a~64fの素子温度、出力部44に加わる力F、等である。次いで、S200において、膨張弁13が保持モードであるか否かが判断される。保持モードであると判断されると(S200:YES)、S300に進み、高圧側素子64a,64c,64eの温度と低圧側素子64b,64d,64fの温度とが比較される。
【0031】
ここでは、比較する素子温度として、3つの素子温度の平均値を用いることができる。その他、3つの素子のうち最も温度が高い素子の温度値、予め定めた任意の代表素子の温度値、等を比較しても良い。なお、以下の説明において、単に「素子の温度」または「素子温度」とは、上記のように低圧側および高圧側を構成する各素子における平均値や代表値を意味する。
【0032】
次いで、S400において、高圧側素子64a,64c,64eと低圧側素子64b,64d,64fのうち、温度が低い方の素子が「閉」である閉回路モードを選択する。例えば、S300で素子温度を比較した結果、高圧側素子64a,64c,64eの温度が低圧側素子64b,64d,64fの温度より低い場合には、高圧側素子64a,64c,64eが閉とされる第1閉回路モードが選択される。また、低圧側素子64b,64d,64fの温度が高圧側素子64a,64c,64eの温度より低い場合には、低圧側素子64b,64d,64fが閉とされる第2閉回路モードが選択される。
【0033】
次いで、S500において、出力部44に加わる力Fから誘導電流Iが算出される。なお、力Fは、冷媒の圧力や圧力変動を計測することにより、弁に加わる圧力と弁(先端部25)の表面積から算出される。力Fは、弁に加わる荷重である。そして、力Fと、減速機構43の伝達効率およびねじ機構部28の効率から、モータ軸のトルクが算出される。さらに、モータ軸のトルクとモータの電流特性から、誘導電流Iが推定される。
【0034】
誘導電流Iが算出されると、S501において、誘導電流Iから閉素子温度Tが推定される。閉素子温度Tは、初期温度T0(例えば環境温度)に素子の上昇温度ΔTを加えることで求められる。初期温度T0は、車内に設けられた温度センサから読み取ることができる。そして、素子の抵抗値をマップや定数で記憶しておくことで、誘導電流Iに基づいて素子の発熱量から上昇温度ΔTが算出される。
【0035】
ここで、上記のように誘導電流Iに基づいて推定される「閉素子温度T」とは、高圧側素子64a,64c,64eと低圧側素子64b,64d,64fのうち、選択されている閉回路モードにおいて「閉」となっている素子の温度である。すなわち、第1閉回路モードが選択されている場合には、高圧側素子64a,64c,64eの素子温度である。第2閉回路モードが選択されている場合には、低圧側素子64b,64d,64fの素子温度である。
【0036】
次いで、S600において、S501で推定された閉素子温度Tが閾値Tthより高いか否かが判断される。閾値Tthは、例えば、MOSFET64a,64b,64c,64d,64e,64fの発熱量として、許容される上限に若干の余裕を持って予め設定されている。閉素子温度Tが閾値Tthより高いと判断されると(S600:YES)、S700に進み、閉回路モードが切り替えられる。例えば、元々第1閉回路モードが選択されていた場合には第2閉回路モードに変更され、元々第2閉回路モードが選択されていた場合には第1閉回路モードに変更される。
【0037】
すなわち、本制御では、電流が流れる閉素子の温度である閉素子温度Tが閾値Tthを超える前に、閉回路モードが切り替えられる。切替後は、本処理を終了する。また、S600において、閉素子温度Tが閾値Tth以下である場合(S600:NO)、およびS200において、保持モードではない場合(S200:NO)には、本処理を終了する。
【0038】
[効果]
(1)本実施形態では、弁保持モード時には、電動モータ42の回転子52が回転することで固定子51の巻線に生じた誘導電流Iが、バッテリ63を経由しないで循環する閉回路が駆動回路61内に形成される。弁保持モードの際に、弁体24が冷媒圧力を受けて開弁方向に押されると、弁体24に接続する出力部44および減速機構43を通じて回転力が回転子52に作用し、回転子52が回転する。回転子52が回転することで、固定子51には誘導電流Iが流れる。この生じた誘導電流Iにより、閉弁方向への力、すなわち弁体24が冷媒圧力を受けて弁体24から電動モータ42へ伝達される回転力に対向する力が生じるため、冷媒圧力に影響されることなく、弁体24を任意の開弁状態の範囲内に保持することができる。
【0039】
この制御によれば、ねじ機構部28の摩擦力に頼らず弁体24を保持できるため、ねじ機構部28の形態を所望に構成することができる。例えば、ねじ機構部28のリード角を大きくすることで弁体24の軸方向と直交する方向の幅を小さくし、弁装置全体としてコンパクト化を図ることができる。すなわち、弁体24の位置保持性能を確保しつつ搭載性を向上させることができる。
【0040】
(2)また、閉回路モードではバッテリ63を経由しないため、弁保持時にバッテリ63の電力を消費することがない。すなわち、バッテリ63の電力過剰消費を抑制することができる。
【0041】
(3)本実施形態では、二つの閉回路モードを有し、
図5においてS300,S400に示すように、高圧側素子64a,64c,64eの温度と低圧側素子64b,64d,64fの温度との比較結果に基づき、温度がより低い方の素子が閉とされる閉回路モードを選択するようにしている。閉となる素子には電流が流れるため、素子は発熱する。本実施形態のように、より温度の低い素子が「閉」となる閉回路を適宜採用することで、高圧側素子64a,64c,64eと低圧側素子64b,64d,64fとに、熱負荷を分散させることができ、MOSFET64a,64b,64c,64d,64e,64fの劣化を抑制して寿命を長くすることができる。
【0042】
(4)本実施形態では、誘導電流Iと素子の抵抗値に基づいて、素子の上昇温度ΔTから素子の温度を推定するため、素子温度計測用の温度センサが不要であり、装置構成を簡略化できる。
【0043】
(5)本実施形態では、誘導電流Iを出力部44に加わる力Fから推定するため、電流センサが不要であり、装置構成を簡略化できる。
【0044】
〈第2実施形態〉
次に、本発明の第2実施形態の弁装置について、
図6を参照して説明する。第2実施形態の弁装置は、素子温度を計測する素子温度センサを備えており、その他の機械的な装置構成については第1実施形態と同様である。
【0045】
第2実施形態におけるモータ制御部62が実行する弁保持制御について説明する。
図6に示すように、第2実施形態では、S400でいずれかの閉回路モードを選択した後には、S502に進み、閉素子温度Tが素子温度センサにより計測される。次いで、S600で、計測された閉素子温度Tが閾値Tthより高いか否かが判断される。
【0046】
本実施形態によれば、第1実施形態における上記(1)~(3)に記載と同様の効果を奏することができる。
【0047】
〈第3実施形態〉
次に、本発明の第3実施形態の弁装置について、
図7を参照して説明する。第3実施形態の弁装置は、誘導電流Iを計測する電流センサを備えており、その他の機械的な装置構成については第1実施形態と同様である。
【0048】
第3実施形態におけるモータ制御部62が実行する弁保持制御について説明する。
図7に示すように、第3実施形態では、S400でいずれかの閉回路モードを選択した後には、S503に進み、誘導電流Iが電流センサにより計測される。次いで、S504で、計測された誘導電流Iから閉素子温度Tが推定される。
【0049】
本実施形態によれば、第1実施形態における上記(1)~(3)に記載と同様の効果を奏することができる。
【0050】
〈第4実施形態〉
次に、本発明の第4実施形態の弁装置について、
図8を参照して説明する。第4実施形態の弁装置は、機械的な装置構成については第1実施形態と同様である。第4実施形態においてモータ制御部62が実行する弁保持制御について説明する。
図8に示すように、S200において保持モードであると判断されると(S200:YES)、S505において、第1閉回路モードが選択される。
【0051】
次に、S506において、閉となっている高圧側素子64a,64c,64eの温度Ta(以下、単に「高圧側素子温度Ta」という)が推定される。次いで、S507において、高圧側素子温度Taが閾値Tthより高いか否かが判断される。そして、高圧側素子温度Taが閾値Tthより高いと判断されると(S507:YES)、S508において、第2閉回路モードが選択される。第2閉回路モードが選択された後は、本処理を終了する。また、S507において高圧側素子温度Taが閾値Tth以下である場合(S507:NO)には、本処理を終了する。
【0052】
すなわち、第1~第3実施形態では、高圧側素子64a,64c,64eの温度と低圧側素子64b,64d,64fの温度との比較結果に基づき、温度がより低い方の素子が閉とされる閉回路モードを選択するようにしたが、第4実施形態では、弁保持モードになったとき、まずは第1閉回路モードが選択される。そして、閉となっている高圧側素子64a,64c,64eの高圧側素子温度Taが閾値Tth以上に上昇した場合には、第2閉回路モードに切り替えられる。
【0053】
本実施形態によれば、第1実施形態における上記(1)~(3)に記載と同様の効果を奏すると共に、ロバストな制御として実施することができる。
【0054】
〈他の実施形態〉
・ 上記各実施形態において、電動モータ42の回転を直動運動に変換する構成として、ねじ機構部28の代わりにカム等を用いてもよい。
【0055】
・ 上記第4実施形態では、まずは第1閉回路モードが選択され、閉となっている高圧側素子64a,64c,64eの高圧側素子温度Taが閾値Tth以上となるまで上昇した場合には、第2閉回路モードに切り替えられるようにした。これとは逆に、まずは第2閉回路モードが選択され、低圧側素子64b,64d,64fの温度が閾値以上まで上昇した場合に、第1閉回路モードが選択されるようにしても良い。
【0056】
・ 上記各実施形態では、駆動回路61にMOSFET64a~64fを設けたが、これに代えて、IGBTやパワートランジスタ、サイリスタ、トライアックなどを用いても良い。
【0057】
・ 上記各実施形態において、電動モータ42は三相交流であるとしたが、その他、単相交流であっても良いし、複相交流であっても良い。
【0058】
・ 上記各実施形態において、回転子52は界磁巻線52aを含んで構成されるものとした。これに代えて、界磁用の永久磁石を含んで構成されていても良い。この場合、電動モータは、埋め込み磁石同期機(IPMSM)や表面磁石同期機(SPMSM)等となる。
【0059】
・ 上記各実施形態では、固定子51が有する全相を短絡させることで、固定子51に生じた誘導電流Iがバッテリ63を経由しないで循環する閉回路を駆動回路61内に形成した。これに代えて、例えば、MOSFET64c、64eを閉状態とし、それ以外のMOSFET64a、64b、64d、64fを開状態とすることで、固定子51が有する相のうちV相とW相同士を短絡させる。これにより、固定子51に生じた誘導電流がバッテリ63を経由しないで流れる閉回路を形成しても良い。
【0060】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 ・・・弁装置
24 ・・・弁体
40 ・・・ハウジング
42 ・・・電動モータ
43 ・・・減速機構
44 ・・・出力部
51 ・・・固定子
52 ・・・回転子
61 ・・・駆動回路
62 ・・・モータ制御部
63 ・・・電源
64a,64b,64c,64d,64e,64f ・・・MOSFET(スイッチング素子)