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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】車両の車体構造および車両の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
B62D25/20 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019176444
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021054117
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】戎本 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】山崎 忠
(72)【発明者】
【氏名】片岡 愉樹
(72)【発明者】
【氏名】辰田 学
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-504702(JP,A)
【文献】特開2012-111246(JP,A)
【文献】特開昭64-022681(JP,A)
【文献】特開2019-055669(JP,A)
【文献】特開2015-128942(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0261622(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉断面部を有し、車体フロアの側辺部に沿って車両前後方向に延びるサイドシルと、
車幅方向に延び、車幅方向端部が前記サイドシルに接合されたクロスメンバと、
前記サイドシルの前記閉断面部の内部において前記クロスメンバと車幅方向に並ぶ位置に配置され、前記サイドシルに接合された補強体と、
を備え、
前記サイドシルは、前記車幅方向の内側に配置される内側部分と前記車幅方向の外側に配置される外側部分とからなり、前記内側部分および前記外側部分によって前記閉断面部を形成し、
前記補強体は、第1補強部と第2補強部とからなり、
前記第1補強部は、第1対向面を有し、前記第1対向面以外の部位で前記閉断面部における前記内側部分の内壁と接合され、
前記第2補強部は、前記第1対向面に対向する第2対向面を有し、前記第2対向面以外の部位で前記閉断面部における前記外側部分の内壁と接合されており、
前記第1対向面の両側の側縁に縦壁が設けられることにより、車幅方向の外側へ向かうにつれて互いに近づく方向に延びる2本の稜線部分が形成され、
前記第2対向面の両側の側縁に縦壁が設けられることにより、車幅方向の外側へ向かうにつれて互いに広がる方向に延びる2本の稜線部分が形成され、
前記第1対向面および前記第2対向面は、互いに対向した状態で、水平面に対する傾斜角度が30度以下になるように配置されている、
車両の車体構造。
【請求項2】
前記第1対向面および前記第2対向面は、車幅方向の内側に向かうにつれ上方に位置するように傾斜した面である、
請求項1に記載の車両の車体構造。
【請求項3】
前記第1対向面および前記第2対向面は、接着材料からなる減衰部材を介して互いに接着されている、
請求項1に記載の車両の車体構造。
【請求項4】
車両正面視において、前記第1対向面と前記第2対向面との間を通って車幅方向内側へ延長した延長線が、前記サイドシルの車幅方向内側の側面の高さ方向における中間位置またはそれよりも上方の位置で前記サイドシルに交差するように、前記第1対向面および前記第2対向面が配置されている、
請求項1~3のいずれか1項に記載の車両の車体構造。
【請求項5】
請求項3に記載の車体構造を有する車両の製造方法であって、
前記内側部分および前記外側部分に分割された前記サイドシルを準備するサイドシル準備工程と、
前記サイドシルの前記内側部分の内壁に前記第1補強部を接合した状態で、前記第1対向面に前記減衰部材を塗布する減衰部材塗布工程と、
前記サイドシルの前記外側部分の内壁に前記第2補強部を接合した状態で、前記第2対向面を前記第1対向面に対向させながら当該第1対向面に近づけることによって、前記第2対向面を前記減衰部材を介して前記第1対向面に接着する接着工程と、
前記内側部分と前記外側部分とを接合して前記サイドシルを形成するサイドシル形成工程と
を含む車両の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドシルの閉断面部に節部材が設けられた車両の車体構造、および当該車体構造を有する車両の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両の車体構造では、車体の軽量化のために中空構造のフレームが採用され、さらに当該フレームの剛性を向上するためにフレームの閉断面部の内部に、補強体として、当該閉断面部を仕切る節部材が設けられた構造が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1記載の車体構造のように、フレームを構成する部分として、車幅方向両側において車両前後方向に延びるサイドシルを有し、当該サイドシルの閉断面部の内部に略箱型形状の節部材(バルクヘッド)が設けられることにより、当該サイドシルの剛性を向上させた構造がある。
【0004】
この車体構造では、車両が側突(車両側面における衝突)してサイドシルが側突荷重を受けたときに節部材を介して側突荷重を車幅方向内側に伝達させるために、当該節部材には車幅方向に連続的に延びるビードが形成されている。この車幅方向に連続的に延びるビードは、節部材の他の部分と比較して剛性が高いので、側突荷重を車幅方向内側に伝達させることが可能である。これにより、サイドシルの車幅方向内側に配置されたクロスメンバへ側突荷重を伝達してサイドシルの変形や破損を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-113061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、節部材の組付性向上など種々の理由から2つの構成部分(または3以上の多数の構成部分)に分割された節部材が用いられた構造が採用されてきている。例えば、節部材が垂直方向に分割された車幅方向内側の部分と外側の部分の2つの部分で構成される場合が考えられる。このような分割構造の節部材では、上記のような車幅方向に連続的に延びるビードを形成することができないため、側突荷重を車幅方向内側のクロスメンバに伝達させることが難しく、サイドシルの変形や破損を抑制することが困難である。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、補強体が分割構造を有する構成において車両の側突時におけるサイドシルの変形や破損を抑制することが可能な車両の車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の車両の車体構造は、閉断面部を有し、車体フロアの側辺部に沿って車両前後方向に延びるサイドシルと、車幅方向に延び、車幅方向端部が前記サイドシルに接合されたクロスメンバと、前記サイドシルの前記閉断面部の内部において前記クロスメンバと車幅方向に並ぶ位置に配置され、前記サイドシルに接合された補強体と、を備え、前記サイドシルは、前記車幅方向の内側に配置される内側部分と前記車幅方向の外側に配置される外側部分とからなり、前記内側部分および前記外側部分によって前記閉断面部を形成し、前記補強体は、第1補強部と第2補強部とからなり、前記第1補強部は、第1対向面を有し、前記第1対向面以外の部位で前記閉断面部における前記内側部分の内壁と接合され、前記第2補強部は、前記第1対向面に対向する第2対向面を有し、前記第2対向面以外の部位で前記閉断面部における前記外側部分の内壁と接合されており、前記第1対向面の両側の側縁に縦壁が設けられることにより、車幅方向の外側へ向かうにつれて互いに近づく方向に延びる2本の稜線部分が形成され、前記第2対向面の両側の側縁に縦壁が設けられることにより、車幅方向の外側へ向かうにつれて互いに広がる方向に延びる2本の稜線部分が形成され、前記第1対向面および前記第2対向面は、互いに対向した状態で、水平面に対する傾斜角度が30度以下になるように配置されていることを特徴とする。
【0009】
かかる構成では、クロスメンバが接合されるサイドシルの閉断面部の内部に第1補強部および第2補強部に分割された構造の補強体を備えている。第1補強部の第1対向面および第2補強部の第2対向面は、互いに対向した状態で水平面に対する傾斜角度が30度以下になるように配置されている。これにより、車両が側突したときにサイドシルに入力される衝突荷重を、補強体の互いに対向する第1対向面および第2対向面の側縁に縦壁が設けられることにより形成される車幅方向に延びる稜線部分を介して、具体的には、第1対向面の両側の側縁に縦壁が設けられることにより形成される車幅方向の外側へ向かうにつれて互いに近づく方向に延びる2本の稜線部分、および第2対向面の両側の側縁に縦壁が設けられることにより形成される車幅方向の外側へ向かうにつれて互いに広がる方向に延びる2本の稜線部分を介して、クロスメンバに伝達することが可能である。その結果、サイドシルの変形や破損を抑制することが可能である。
【0010】
上記の車両の車体構造において、前記第1対向面および前記第2対向面は、車幅方向の内側に向かうにつれ上方に位置するように傾斜した面であるのが好ましい。
【0011】
かかる構成によれば、車両が側突したときに、第1対向面および第2対向面のそれぞれの縁がサイドシルを介してクロスメンバの上面近傍に当接することでサイドシルがセンターピラーとともに車両内側に倒れて変形する、いわゆるサイドシルの内倒れを抑制することが可能である。
【0012】
上記の車両の車体構造において、前記第1対向面および前記第2対向面は、接着材料からなる減衰部材を介して互いに接着されているのが好ましい。
【0013】
かかる構成では、第1補強部および第2補強部における互いに対向する第1対向面よび第2対向面は、接着材料からなる減衰部材を介して互いに接着されているので、補強体に伝達された振動を減衰部材によって減衰することが可能である。このような構造において、第1対向面および第2対向面が水平面に対する傾斜角度が30度以下になるように配置されているので、減衰部材が硬化前に第1対向面の上から垂れ落ちることを防ぐことが可能である。その結果、分割構造を有する補強体における対向面での減衰部材の垂れ落ちを防止することが可能であり、減衰部材が所定の減衰性能を発揮することが可能である。
【0014】
上記の車両の車体構造において、車両正面視において、前記第1対向面と前記第2対向面との間を通って車幅方向内側へ延長した延長線が、前記サイドシルの車幅方向内側の側面の高さ方向における中間位置またはそれよりも上方の位置で前記サイドシルに交差するように、前記第1対向面および前記第2対向面が配置されているのが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、車両が側突したときに、第1対向面および第2対向面の車幅方向内側の縁は、サイドシルの車幅方向内側の側面の高さ方向における中間位置またはそれよりも上方の位置でクロスメンバに当該サイドシルを介して当接する。これにより、第1対向面および第2対向面の側縁に形成される稜線部分が突っ張ることにより、サイドシルの内倒れ変形を抑制することが可能である。
【0016】
本発明の車両の製造方法は、前記第1対向面および前記第2対向面が接着材料からなる減衰部材を介して互いに接着されている上記の車体構造を有する車両の製造方法であって、前記内側部分および前記外側部分に分割された前記サイドシルを準備するサイドシル準備工程と、前記サイドシルの前記内側部分の内壁に前記第1補強部を接合した状態で、前記第1対向面に前記減衰部材を塗布する減衰部材塗布工程と、前記サイドシルの前記外側部分の内壁に前記第2補強部を接合した状態で、前記第2対向面を前記第1対向面に対向させながら当該第1対向面に近づけることによって、前記第2対向面を前記減衰部材を介して前記第1対向面に接着する接着工程と、前記内側部分と前記外側部分とを接合して前記サイドシルを形成するサイドシル形成工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
かかる製造方法では、接着工程において、第2対向面を第1対向面に対向させながら当該第1対向面に近づけることによって、第2対向面を減衰部材を介して第1対向面に接合する。これにより、第2対向面が減衰部材を第1対向面に沿って押す力が生じないので、減衰部材を第1対向面から脱落させることなく車両を製造することが可能であり、減衰部材の所定の減衰性能を確保することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両の車体構造によれば、補強体が分割構造を有する構成において車両の側突時におけるサイドシルの変形や破損を抑制することができる。
【0019】
また、本発明の車両の製造方法によれば、分割構造を有する節部材おける対向面での減衰部材の脱落を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る車両の車体構造を示す正面図である。
図2図1のサイドシルにおける補強体が取り付けられた部分の拡大斜視図である。
図3図2のIII-III線断面図である。
図4図3の補強体およびその周辺部を概略的に示した断面説明図である。
図5図1の車体の床部分におけるクロスメンバ周辺の部分の平面図である。
図6図5のクロスメンバとサイドシルとの接合部および補強体ならびにそれらの周辺を示す平面図である。
図7図6のシート取付用ブラケットおよびサイドシルの上側の部分を省略することによってサイドシルの閉断面部の内部の補強体を外部に露出した状態を示す平面図である。
図8図2のサイドシルアウタを取り外して補強体を外部に露出させた状態を示す斜視説明図である。
図9図8の補強体のうち上側の第2補強部を取り外して下側の第1補強部を示す斜視説明図である。
図10図8の補強体を車幅方向外側から見た状態を示す図である。
図11図10の補強体のうち上側の第2補強部を取り外して下側の第1補強部を示す図である。
図12図8の第1補強部を車幅方向外側から見たときの斜視図である。
図13図8の第1補強部を車幅方向内側から見たときの斜視図である。
図14図8の第2補強部を車幅方向外側から見たときの斜視図である。
図15図14の第2補強部を上方から見たときの平面図である。
図16】本発明の車両の製造方法の説明図であって、減衰ボンドを第1補強部の第1対向面に塗布する減衰ボンド塗布工程を示す断面説明図である。
図17】本発明の車両の製造方法の説明図であって、第2対向面を減衰ボンドを介して第1対向面に接着する接着工程を示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0022】
図1~5に示される本発明の実施形態にかかる車両の車体構造は、自動車などの車体1に適用される構造である。この車体構造は、車体1を構成する中空のフレーム2と、フレーム2を補強する補強体3と、フレーム2の底部を覆うフロアパネル4とを備えている。
【0023】
フレーム2は、車体1の両側の側部をそれぞれ構成する部分として、図1に示されるように、車体フロアの側辺部に沿って車両前後方向Xに延びるサイドシル5と、車両前後方向Xに互いに離間して配置された高さ方向Zに延びる3本のピラー、すなわち、フロントピラ―6、センターピラー7、およびリヤピラー8と、サイドシル5の上方に離間した位置で車両前後方向Xに延びるルーフレール9とを備える。フロントピラ―6、センターピラー7、およびリヤピラー8のそれぞれ下端部は、サイドシル5に連結され、それぞれの上端部がルーフレール9に連結されている。これにより、車体1の側部における車両前方側X1にはフロントドア開口10が形成され、車両後方側X2には、リヤドア開口11が形成されている。
【0024】
フレーム2を構成する上記のサイドシル5、フロントピラ―6、センターピラー7、リヤピラー8、およびルーフレール9は、それぞれ中空体であり、それぞれ独立した閉断面部を有する。
【0025】
具体的には、本実施形態のサイドシル5は、図2~4に示されるように、車両前後方向Xに延びる閉断面部16を有する。閉断面部16は、略矩形断面形状を有する。
【0026】
サイドシル5は、車幅方向Yの内側Y2に配置されるサイドシルインナ14(内側部分)と、車幅方向Yの外側Y1に配置されるサイドシルアウタ15(外側部分)とからなり、当該サイドシルインナ14およびサイドシルアウタ15に分割された構成を有する。サイドシルインナ14およびサイドシルアウタ15は、それぞれ、全体的に断面コの字状であって上下につばが突出したいわゆるハット形状を有する。サイドシルインナ14およびサイドシルアウタ15は、それぞれスチールなどの金属板をプレス成形するなどの方法によって成形されている。サイドシルインナ14およびサイドシルアウタ15は、互いに上下のつば部分においてスポット溶接で接合されている。接合されたサイドシルインナ14およびサイドシルアウタ15によって、閉断面部16を有するサイドシル5が形成されている。
【0027】
本実施形態では、補強体3は、フレーム2のうちサイドシル5の閉断面部16の内部に配設され、サイドシル5の内壁にスポット溶接などによって接合されている。サイドシル5は、他の部材と比較して閉断面部16が大きく、長尺であるので、車体1の側面に対して他の車両などが衝突(側突)したときに変形や破損しやすい。そのため、補強体3をサイドシル5の内部に設けることにより、サイドシル5を補強して側突時の変形や破損を防ぐことが可能になる。
【0028】
図2~15に示されるように、補強体3は、2つに分割された構成、すなわち、第1補強部21と第2補強部22とから構成されている。第1補強部21および第2補強部22は、スチールなどの金属板をプレス成形するなどの方法によってそれぞれ成形されている。
【0029】
第1補強部21は、上面側に第1対向面21cを有し、第1対向面21c以外の部位でサイドシル5の閉断面部16の内壁と接合可能な構成を有する。
【0030】
具体的には、図12~13に示されるように、第1補強部21は、車幅方向Yに延びる上部21aと、当該上部21aの両側(車両前後方向Xにおける両側)の側縁に上下方向に延びるように設けられた側部21b(縦壁)とを備えている。上部21aは、上面側に第1対向面21c(上部21aの上面)を有する。それぞれの側部21bは、閉断面部16の内壁を構成するサイドシルインナ14に接合される第1フランジ21dおよび第2フランジ21eを有する。第1フランジ21dおよび第2フランジ21eは、それぞれサイドシルインナ14の内壁における側面および下面にそれぞれスポット溶接などによって接合される。これにより、第1補強部21は、図16~17に示されるように、第1対向面21cが上方に露出するようにサイドシルインナ14の内側に固定される。
【0031】
第1対向面21cは、図12~13および図16~17に示されるように、車幅方向Yの内側Y2へ向かうにつれて少し上方へ向かうように水平面S(図16~17参照)に対して30度以内の角度θで傾斜している。第1対向面21cには、後述の減衰ボンド23が全体的に塗布されるが、30度以内の傾斜角度なので減衰ボンド23の垂れ落ちは防止されている。本実施形態では、第1対向面21cに車幅方向Yに延びる溝21fが形成されているので、減衰ボンド23の垂れ落ちをより確実に防止しているが、本発明では溝21fは必須ではない。
【0032】
第1対向面21cは、図12~13に示されるように、車幅方向Yの外側Y1へ向かうにつれて幅が狭くなるようなテーパ形状を有している。すなわち、第1対向面21cの両側の側縁に側部21b(縦壁)が設けられることによって形成される2本の稜線部分21gは、車幅方向Yの外側Y1へ向かうにつれて互いに近づく方向に延びている。
【0033】
第2補強部22は、上記の第1補強部21の第1対向面21cの上方から当該第1対向面21cに対向する第2対向面22cを有する。第2補強部22は、第2対向面22c以外の部位でサイドシル5の閉断面部16の内壁と接合可能な構成を有する。
【0034】
具体的には、図14~15に示されるように、第2補強部22は、車幅方向Yに延びる下部22aと、当該下部22aの両側(車両前後方向Xにおける両側)の側縁に上下方向に延びるように設けられた側部22b(縦壁)とを備えている。下部22aは、下方を向く第2対向面22c(下部22aの下面)を有する。それぞれの側部22bは、閉断面部16の内壁を構成するサイドシルアウタ15に接合される第1フランジ22d、第2フランジ22eおよび第3フランジ22fを有する。第1フランジ22dおよび第3フランジ22fは、それぞれサイドシルアウタ15の内壁における側面にそれぞれスポット溶接などによって接合される。さらに、第2フランジ22eは、サイドシルアウタ15の内壁における上面にスポット溶接などによって接合される。これにより、第2補強部22は、図17に示されるように、第2対向面22cが下方を向くようにサイドシルアウタ15の内側に固定される。
【0035】
第2対向面22cは、上記の第1対向面21cと対向するように当該第1対向面21cと同じ角度で傾斜している(すなわち、第1対向面21cと平行になるように延びている)。すなわち、第2対向面22cは、図14および図17に示されるように、車幅方向Yの内側Y2へ向かうにつれて少し上方へ向かうように水平面に対して30度以内の角度で傾斜している。
【0036】
第2対向面22cは、図14~15に示されるように、車幅方向Yの外側Y1へ向かうにつれて幅が広くなるようなテーパ形状を有している。すなわち、第2対向面22cとその両側の側縁に側部22b(縦壁)が設けられることによって形成される2本の稜線部分22gは、車幅方向Yの外側Y1へ向かうにつれて互いに広がる方向に延びている。
【0037】
図3~4に示されるように、第1対向面21cおよび第2対向面22cは、接着材料からなる減衰部材としての減衰ボンド23を介して互いに接着されている。
【0038】
減衰ボンド23は、硬化前に若干の流動性を有する接着材料であり、例えば、エポキシ系、ウレタン系またはアクリル系などの接着剤と、当該接着剤に添加される添加剤として、硬化剤、無機または有機フィラー、または吸湿材などとから構成されている。
【0039】
第1対向面21cおよびそれに平行に延びる第2対向面22cは、水平面S(図16~17参照)に対する傾斜角度θが30度以下になるように配置されている、30度以下の傾斜角度θであれば、上記の減衰ボンド23が硬化前においても第1対向面21cに付着して流動しないで第1対向面21cの表面上で静止することが可能である。
【0040】
図17に示されるように、第1対向面21cおよび第2対向面22cは、フレーム2におけるサイドシル5の車幅方向Yの内側Y2に向かうにつれ上方に延びている。
【0041】
さらに、本実施形態では、補強体3は、図4~7に示されるように、サイドシル5の閉断面部16の内部においてクロスメンバ12と車幅方向Yに並ぶ位置に配置されている。
【0042】
クロスメンバ12は、車体1の下部(フロアパネル4の少し上の位置)において、車幅方向Yに延びる部材である。クロスメンバ12における車幅方向Yの外側Y1の端部は、サイドシル5に接合され、車幅方向Yの内側Y2の端部は、フロアトンネル部17に接合されている。フロアトンネル部17は、車体1の車幅方向Yの中央付近において車両前後方向Xに延びている。クロスメンバ12における車幅方向Yの外側Y1の端部の上面には、図3~6に示されるようにシート取付用ブラケット13が設けられている。
【0043】
互いに対向する第1対向面21cおよび第2対向面22cのうちの少なくともいずれかの対向面21cおよび22c、本実施形態では第1対向面21cおよび第2対向面22cの両方のそれぞれの側縁に側部21b、22b(縦壁)が設けられることにより、図12~15に示されるように、車幅方向Yに延びる稜線部分21g、22gが形成されている。これにより、側突時などにおいて車体1の外部から受けた荷重を、図7に示されるように、補強体3におけるこれら4本の稜線部分21g、22gを介してクロスメンバ12に荷重を円滑に伝達することが可能である。
【0044】
また、本実施形態では、図4に示されるように、車両正面視において、第1対向面21cと第2対向面22cとの間を通って車幅方向Yの内側Y2へ延長した延長線25が、サイドシル5の車幅方向Yの内側Y2(すなわち、サイドシルインナ14)の側面の高さ方向Zにおける中間位置Mまたはそれよりも上方の位置でサイドシル5に交差するように、第1対向面21cおよび第2対向面22cが配置されている。
【0045】
なお、ここでいうサイドシル5の「中間位置M」は、例えば、サイドシルインナ14の側面14aの下側稜線14a1および上側稜線14a2の中間位置である。
【0046】
延長線25は、車幅方向Yの内側Y2へ向かうにつれて上方へ向かう方向に延び、サイドシルインナ14に交差するとともにクロスメンバ12の上面12aに向かって延びている。
【0047】
上記のように構成された車体構造を有する車両は、以下のようにして製造される。
【0048】
まず、車幅方向Yの内側Y2に配置されるサイドシルインナ14と車幅方向Yの外側Y1に配置されるサイドシルアウタ15とからなり、当該サイドシルインナ14およびサイドシルアウタ15に分割されたサイドシル5を準備する(サイドシル準備工程)。
【0049】
ついで、図9および図16に示されるように、サイドシル5のサイドシルインナ14の内壁に第1補強部21をスポット溶接などで接合した状態で、第1対向面21cに減衰ボンド23を塗布する(減衰ボンド塗布工程)。
【0050】
減衰ボンド23の塗布を行う際、塗布ガンGなどの装置の先端部をサイドシルインナ14の内側に挿入し、当該塗布ガンGの先端部を通して第1対向面21cに減衰ボンド23を塗布する。第1対向面21cが車幅方向Yの内側Y2に向かうにつれて上方へ向かうように傾斜しているので、サイドシル5の車幅方向Yの内側Y2のコーナー部分14bに塗布ガンGが干渉することがない。
【0051】
ついで、図17に示されるように、サイドシル5のサイドシルアウタ15の内壁に第2補強部22を接合した状態で、第2対向面22cを第1対向面21cに対向させながら当該第1対向面21cに近づけることによって、減衰ボンド23を介して第2対向面22cを第1対向面21cに接着する(接着工程)。これにより、分割されていた第1補強部21および第2補強部22が接合されて1個の補強体3が形成される。
【0052】
最後に、サイドシルインナ14とサイドシルアウタ15とを接合して、図3~4に示されるように閉断面部16を有するサイドシル5を形成する(サイドシル形成工程)。形成後のサイドシル5では、閉断面部16の内部に補強体3が収容された状態になり、当該補強体3は中空のサイドシル5を補強する節部材として機能することが可能である。
【0053】
(本実施形態の特徴)
(1)
上記のように、本実施形態の車両の車体構造は、閉断面部16を有し、車体フロアの側辺部に沿って車両前後方向Xに延びるサイドシル5と、車幅方向Yに延び、車幅方向Y端部がサイドシル5に接合されたクロスメンバ12(図3~7参照)と、サイドシル5の閉断面部16の内部においてクロスメンバ12と車幅方向Yに並ぶ位置に配置され、サイドシル5に接合された補強体3とを備えている。補強体3は、第1補強部21と第2補強部22とからなる。第1補強部21は、上面側に第1対向面21cを有し、第1対向面21c以外の部位で閉断面部16の内壁と接合されている。第2補強部22は、第1対向面21cの上方から当該第1対向面21cに対向する第2対向面22cを有し、第2対向面22c以外の部位で閉断面部16の内壁と接合されている。第1対向面21cおよび第2対向面22cは、水平面S(図16~17参照)に対する傾斜角度が30度以下になるように(すなわち、ほぼ水平に)配置されている。互いに対向する第1対向面21cおよび第2対向面22cの側縁(本実施形態では、第1対向面21cおよび第2対向面22cのそれぞれの両側の側縁)に側部21b、22b(縦壁)が設けられることにより、車幅方向Yに延びる稜線部分21g、22gが形成されている。
【0054】
この構成では、車両が側突したときにサイドシル5に入力される衝突荷重を、補強体3の互いに対向する第1対向面21cおよび第2対向面22cの側縁に側部21b、22b(縦壁)が設けられることにより形成される車幅方向Yに延びる稜線部分21g、22gを介して、クロスメンバ12に伝達することが可能である。その結果、サイドシル5の変形や破損を抑制することが可能である。
【0055】
すなわち、第1対向面21cおよび第2対向面22cは、水平面S(図16~17参照)に対する傾斜角度が30度以下になるように(すなわち、ほぼ水平に)配置されていることにより、車幅方向Yに延びる稜線部分21g、22gもほぼ水平に延びているので、当該稜線部分21g、22gを介して車幅方向Yに衝突荷重を円滑かつ確実に伝達することが可能である。
【0056】
なお、互いに対向する第1対向面21cおよび第2対向面22cの両側の側縁のうちのいずれか一方の側縁に稜線部分21g、22gが形成されていれば、稜線部分21g、22gによって上記のようなクロスメンバ12への荷重伝達の機能を奏することが可能である。しかし、上記実施形態のように第1対向面21cおよび第2対向面22cの両側の側縁に稜線部分21g、22gが形成されていれば、補強体3全体の剛性が向上し、クロスメンバ12への荷重伝達の機能を確実に奏することが可能である点で好ましい。
【0057】
(2)
また、本実施形態の車両の車体構造では、上記のように、補強体3における第1対向面21cおよび第2対向面22cは、サイドシル5の車幅方向Yの内側Y2に向かうにつれ上方に位置するように傾斜しているので、図4に示されるように、車両が側突したときに、第1対向面21cおよび第2対向面22cのそれぞれの縁がサイドシルインナ14を介してクロスメンバ12の上面12aの近傍に当接することでサイドシル5がセンターピラー7とともに車両内側に倒れて変形する、いわゆるサイドシル5の内倒れを抑制することが可能である。
【0058】
(3)
また、本実施形態の車両の車体構造では、第1対向面21cおよび第2対向面22cは、硬化前に若干の流動性を有する接着材料からなる減衰部材として減衰ボンド23を介して互いに接着されている。
【0059】
上記の構成では、補強体3は、図3~4に示されるように、サイドシル5の閉断面部16内に配設されることによってサイドシル5を補強する。また、補強体3は、第1補強部21と第2補強部22とからなる分割した構成を有しており、第1補強部21および第2補強部22における互いに対向する第1対向面21cよび第2対向面22cは、接着材料からなる減衰ボンド23を介して互いに接着されているので、補強体3に伝達された振動を減衰ボンド23によって減衰することが可能である。このような構造において、第1対向面21cおよび第2対向面22cが水平面S(図16~17参照)に対する傾斜角度が30度以下になるように(すなわち、ほぼ水平に)配置されているので、減衰ボンド23が硬化前に若干の流動性を有していても第1対向面21cの上から垂れ落ちることを防ぐことが可能である。その結果、分割構造を有する補強体3おける合わせ対向面24(すなわち、第1対向面21cおよび第2対向面22cによって形成された対向面)での減衰ボンド23の垂れ落ちを防止することが可能であり、減衰ボンド23が所定の減衰性能を発揮することが可能である。
【0060】
なお、本実施形態では、第1対向面21cおよび第2対向面22cは、接着材料からなる減衰部材として減衰ボンド23を介して互いに接着されているが、本発明はこれに限定されるものではない。第1対向面21cおよび第2対向面22cが互いに対向した配置であれば、減衰ボンド23が無くても上記の項目(1)、(2)および後述の項目(5)の作用効果を奏することが可能である。
【0061】
(4)
また、本実施形態の車両の車体構造では、上記のように、 本実施形態の車両の車体構造では、図3~4に示されるように、補強体3における第1対向面21cおよび第2対向面22cは、サイドシル5の車幅方向Yの内側Y2に向かうにつれ上方に位置するように傾斜している。そのため、第1対向面21cおよび第2対向面22cを接合する前に、図16に示されるように第1対向面21cに減衰ボンド23の塗布を行う際、サイドシル5の車幅方向Yの内側Y2の部分に干渉せずに減衰ボンド23を塗布する塗布ガンGなどの装置の先端部を挿入することが可能である。また、第2対向面22cを第1対向面21cに接合する際に第1対向面21cに塗布した減衰ボンド23を脱落させずに第2対向面22cを第1対向面21cに対向させて接合することが可能である。
【0062】
(5)
本実施形態の車両の車体構造では、車両正面視において、第1対向面21cと第2対向面22cとの間を通って車幅方向Yの内側Y2へ延長した延長線25が、サイドシル5の車幅方向Yの内側Y2の側面の高さ方向Zにおける中間位置Mまたはそれよりも上方の位置でサイドシル5に交差するように、第1対向面21cおよび第2対向面22cが配置されている。この構成により、車両が側突したときに、第1対向面21cおよび第2対向面22cの車幅方向Yの内側Y2の縁は、サイドシル5の車幅方向Yの内側Y2の側面の高さ方向Zにおける中間位置Mまたはそれよりも上方の位置でクロスメンバ12に当該サイドシル5を介して当接する。これにより、第1対向面21cおよび第2対向面22cの両側の側縁に形成される稜線部分21g、22gが突っ張ることにより、サイドシル5の内倒れ変形を抑制することが可能である。
【0063】
図4に示されるように、延長線25は、上記のサイドシル5の中間位置Mまたはそれよりも上方の位置から車幅方向Yの内側Y2へ向かうにつれて上方へ向かう方向に延び、クロスメンバ12の上面12aに向かって延びている。これにより、上記の稜線部分21g、22gを介してクロスメンバ12の上半分に荷重伝達をしてサイドシル5の内倒れ変形を確実に抑制することが可能である。
【0064】
(6)
本実施形態の車体構造を有する車両の製造方法は、車幅方向Yの内側Y2に配置されるサイドシルインナ14と車幅方向Yの外側Y1に配置されるサイドシルアウタ15とからなり、当該サイドシルインナ14およびサイドシルアウタ15に分割されたサイドシル5を準備するサイドシル準備工程と、サイドシル5のサイドシルインナ14の内壁に第1補強部21を接合した状態で、第1対向面21cに減衰ボンド23を塗布する減衰ボンド塗布工程と、フレーム2のサイドシルアウタ15の内壁に第2補強部22を接合した状態で、第2対向面22cを第1対向面21cに対向させながら当該第1対向面21cに近づけることによって、第2対向面22cを減衰ボンド23を介して第1対向面21cに接着する接着工程と、サイドシルインナ14とサイドシルアウタ15とを接合してサイドシル5を形成するサイドシル形成工程とを含んでいる。
【0065】
この製造方法では、図17に示される接着工程において、第2対向面22cを第1対向面21cに対向させながら当該第1対向面21cに近づけることによって、第2対向面22cを減衰ボンド23を介して第1対向面21cに接着する。これにより、第2対向面22cが減衰ボンド23を第1対向面21cに沿って押す力が生じないので、減衰ボンド23を第1対向面21cから脱落させることなく車両を製造することが可能であり、減衰ボンド23の所定の減衰性能を確保することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 車体
2 フレーム
3 補強体
5 サイドシル
12 クロスメンバ
14 サイドシルインナ
15 サイドシルアウタ
16 閉断面部
21 第1補強部
21b 側部(縦壁)
21c 第1対向面
21g 稜線部分
22 第2補強部
22b 側部(縦壁)
22c 第2対向面
22g 稜線部分
23 減衰ボンド(減衰部材)
25 延長線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17