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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】地中浄化壁
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20230101AFI20231031BHJP
   E02D 5/02 20060101ALI20231031BHJP
   E02D 5/20 20060101ALI20231031BHJP
   B09C 1/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C02F1/28 F
E02D5/02
E02D5/20
B09C1/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019176490
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021053535
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】加藤 顕
(72)【発明者】
【氏名】柴田 健司
(72)【発明者】
【氏名】日笠山 徹巳
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-340436(JP,A)
【文献】特開2006-305543(JP,A)
【文献】特開2008-161814(JP,A)
【文献】特開2001-131955(JP,A)
【文献】特開2010-029769(JP,A)
【文献】特開2004-351293(JP,A)
【文献】特開平02-164936(JP,A)
【文献】特開平05-317850(JP,A)
【文献】特開2001-038360(JP,A)
【文献】特開2002-079235(JP,A)
【文献】特開2003-170153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28
1/00
B09B 1/00 - 5/00
B09C 1/00 - 1/10
E02D 5/00 - 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水の流下方向に交差して設置されるとともに下端部が不透水層に根入れされる遮水壁と、
該遮水壁における前記地下水の流下方向上流側の壁面に接して設置され、中空部を形成する側壁、及び地下水流入部が設けられた底部を有し、
該底部が地下水位以深に貫入され、前記側壁に設けられた地下水流出部の下端部が地下水位以深に配置される浄化装置と、
前記遮水壁と同一面内に設けられ、下端部が地下水位以深であって前記浄化装置の底部より上方に配置される地下水透過部と、を備え、
前記浄化装置は、
前記中空部に、汚染物質吸着材が貯留される吸着材貯留部が設けられるとともに、
前記地下水流出部が、前記地下水透過部に連通されていることを特徴とする地中浄化壁。
【請求項2】
請求項1に記載の地中浄化壁において、
前記浄化装置が、前記中空部を前記底部に向けて、漸次拡径されていることを特徴とする地中浄化壁。
【請求項3】
請求項1または2に記載の地中浄化壁において、
前記浄化装置の前記中空部が、前記地下水流入部に連続する処理前貯水部と、前記地下水流出部に連続する処理後貯水部と、前記吸着材貯留部とに区画され、
前記処理後貯水部と前記処理前貯水部とが、前記吸着材貯留部を挟んで配置されるとともに、該吸着材貯留部と連通されていることを特徴とする地中浄化壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染物質により汚染された地下水を浄化するための、地中浄化壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、重金属や有機塩素化合物等の汚染物質により汚染された地盤を有する敷地において、汚染物質が地下水を介して敷地外に流出することを防止する手段として、例えば特許文献1で開示されているような、地下水の下流側に地中浄化壁を設置し、この地中浄化壁に地下水を透過させて地下水とともに移動する汚染物質を除去する方法が知られている。
【0003】
特許文献1では、地盤中に地盤浄化材用の投入孔を形成したのち、投入孔を地盤浄化材で充填した地盤浄化杭を複数併設施工して、地盤内に面的に広がる地盤浄化壁を造成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-87558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で開示されているような地盤浄化壁によれば、地下水とともに移動した汚染物質が周辺地盤に拡散する現象を、簡略な構造で容易に抑制することが可能となる。
【0006】
しかし、地下水が地盤浄化壁を側方から透過する際、地下水と共に地盤中を移動する土粒子が地盤浄化壁を構成する地盤浄化材の間隙に入り込み、地中浄化壁の透水性能が低下する。すると、地盤浄化壁を透過できない地下水は、これを迂回しながら下流に向けて移動することが想定され、このような場合には、汚染物質を敷地外に流出させる事態が生じやすい。
【0007】
このため、地盤浄化壁の透水性能を回復させるべく、地盤浄化材を汚染物質の除去能力が失われる前の早期の段階で交換したり、目詰まり除去のメンテナンスを実施する等の作業が必要となり、地盤浄化壁の管理が煩雑となるとともに、経済性に劣っていた。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、簡略な構成で連続使用の長期化を図ることの可能な、地中浄化壁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明の地中浄化壁は、地下水の流下方向に交差して設置されるとともに下端部が不透水層に根入れされる遮水壁と、該遮水壁における前記地下水の流下方向上流側の壁面に接して設置され、中空部を形成する側壁、及び地下水流入部が設けられた底部を有し、該底部が地下水位以深に貫入され、前記側壁に設けられた地下水流出部の下端部が地下水位以深に配置される浄化装置と、前記遮水壁と同一面内に設けられ、下端部が地下水位以深であって前記浄化装置の底部より上方に配置される地下水透過部と、を備え、前記浄化装置は、前記中空部に、汚染物質吸着材が貯留される吸着材貯留部が設けられるとともに、前記地下水流出部が、前記地下水透過部に連通されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の地中浄化壁によれば、中空部を有する浄化装置の底部に地下水流入部を形成するとともに、この底部を地下水以深に貫入する。これにより、浄化装置の底部近傍の地盤内に、地下水の水位差により浄化装置の中空部に向かう上向きの浸透流が生じることから、地下水はいわゆるボイリング現象のごとく強制的に、地下水流入部を介して浄化装置の中空部に流入する。
【0011】
そして、中空部を形成する側壁に形成された地下水流出部が、少なくとも下端部を地下水位以深に配置されるから、浄化装置には、底部に形成された地下水流入部から中空部へ流入し、側壁に形成された地下水流出部を介して流出する、地下水の流路が常時一定の流速で形成される。
【0012】
したがって、浄化装置の中空部に吸着材貯留部を設けることにより、地中浄化壁は、遮水壁により堰き止められた地下水を、強制的に集水し浄化装置に上向きに流入させて、地下水とともに移動する汚染物質を吸着材貯留部の汚染物質吸着材により吸着させて除去する。そして、汚染物質が除去されて浄化した地下水を、地下水流出部及び地下水透過部を介して遮水壁における地下水の流下方向下流側へ流下させることができる。
【0013】
また、浄化装置に流入する地下水は、上向きかつ一定の流速となるから、地下水とともに移動する土粒子に重力が効率よく作用し、これら土粒子を地下水の流れに逆らって沈降させることができる。これにより、浄化装置の中空部に設けた吸着材貯留部に流入する土粒子の量を大幅に減少でき、汚染物質吸着材の間隙を閉塞させるような目詰まり現象を大幅に低減することが可能となる。
【0014】
このため、地中浄化壁は、吸着剤貯留部の透水性能を維持しやすく連続使用の長期化を図ることが可能となる。また、汚染物質の除去能力が低下する前に汚染物質吸着材の交換を行う必要がなく、さらには、目詰まり除去を目的とするメンテナンスの頻度を大幅に削減でき、省力化を図ることが可能になるとともに、経済性を大幅に向上することが可能となる。
【0015】
本発明の地中浄化壁は、前記浄化装置が、前記中空部を前記底部に向けて、漸次拡径されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の地中浄化壁によれば、中空部の内径が高さ方向に均一な場合と比較して、上向きの浸透流となって地盤から浄化装置の中空部に流入する、地下水の流入速度を低減させることができる。これにより、地下水とともに移動する土粒子が、重力により地下水の流れ逆らって沈降する現象を促進できるため、汚染物質吸着材の間隙を閉塞させるような目詰まり現象を、より低減することが可能となる。
【0017】
本発明の地中浄化壁は、前記浄化装置の前記中空部が、前記地下水流入部に連続する処理前貯水部と、前記地下水流出部に連続する処理後貯水部と、前記吸着材貯留部とに区画され、前記処理後貯水部と前記処理前貯水部とが、前記吸着材貯留部を挟んで配置されるとともに、該吸着材貯留部と連通されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の地中浄化壁によれば、浄化装置の底部近傍の地盤中で上向きの浸透流となって中空部に流入する地下水を、地下水流入部に連続する処理前貯水部で一旦受水することから、受水した地下水を吸着材貯留部に貯留されている汚染物質吸着材全体に接触させるように供給することが可能となる。これにより、吸着材貯留部に貯留されている汚染物質吸着材を効率的に使用することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、中空部を有する浄化装置を、地下水流入部が形成された底部が地下水以深に貫入されるようにして遮水壁の壁面近傍に配置する簡略な構成で、浄化装置の底部近傍の地盤中で地下水位の水位差により、上向きの浸透流となる地下水を中空部に流入させる一方で、地下水とともに移動する土粒子を重力により沈降させるため、中空部に設けた吸着材貯留部の目詰まり現象を大幅に低減して透水性能を維持し、地中浄化壁における連続使用の長期化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態における地中浄化壁の設置状況を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における地中浄化壁の縦断面を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における地中浄化壁の他の事例を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における浄化装置の詳細及び他の事例を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における浄化装置内の地下水の流れと土粒子の動きを示す図である。
図6】本発明の実施の形態における遮水壁に対する浄化装置の設置事例を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における浄化装置の中空部の他の事例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、地盤を汚染する重金属や有機塩素化合物等の汚染物質が、地下水とともに移動して周辺地盤に拡散する現象を防止するべく設けられる地中浄化壁であり、汚染物質吸着材が貯留された浄化装置に対して、地下水を上向きに流入させることにより、汚染物質吸着材の間隙に生じやすい目詰まりを低減し、地中浄化壁における連続使用の長期化を図るものである。
【0022】
以下に、本発明の地中浄化壁について、工場等の敷地境界近傍の地盤中に地中浄化壁を設ける場合を事例に挙げ、図1図7を用いてその詳細を説明する。
【0023】
図1で示すように、帯水層G1中に汚染地盤11が存在する敷地の敷地境界線L近傍であって、地下水12の流下方向における下流側には、地中浄化壁1が構築されている。地中浄化壁1は、遮水壁2と、地下水透過部3と、浄化装置4とを備える。
【0024】
遮水壁2は、地下水12の流下方向に対して交差して延在するように構築され、下端部は、汚染地盤11が存在する帯水層G1の下方に位置する不透水層G2に根入れされている。また、平面視形状は、直線状に形成されているが、弧状、くの字状、コの字状等、いずれに形成されていてもよい。
【0025】
さらに、その構造は、鋼矢板を用いた矢板壁、鉄筋コンクリート造のコンクリート壁、セメント系固化材を用いた地盤改良壁、ソイルセメント壁とシート材もしくは鋼板とを組み合わせた複合系止水壁等、汚染地盤11中を経由した地下水12の流れを堰き止める性能を有し、地中に構築可能な壁体であれば、いずれを採用してもよい。
【0026】
地下水透過部3は、図2で示すように、遮水壁2に形成された開口よりなり、少なくとも下端部が地下水位W以深に配置されており、汚染地盤11を経由した地下水12が、後述する浄化装置4を透過したのちに、遮水壁2における地下水12の流下方向下流側の帯水層G1に流下するための排水口として機能する。
【0027】
その形状は、少なくとも一部が遮水壁2と同一面内に位置するように形成されていれば、いずれでもよい。例えば、図3(a)で示すように、遮水壁2の頭部に切欠き部を設けるとともに、この切欠き部に砂利等によるスクリーンを形成し、これを地下水透過部3としてもよいし、遮水壁2全体を地下水位より低く形成し、遮水壁2全体の頭部から地表面までの間に砂利等によるスクリーンを形成し、地下水透過部3としてもよい。
【0028】
浄化装置4は、図2で示すように、中空部41を形成する側壁42、底部43、及び蓋材44とを備え、遮水壁2における地下水12の流下方向上流側の壁面である背面21近傍に配置されている。
【0029】
側壁42は、図4(a)で示すように、中空部41を囲繞する筒形状に形成され、遮水壁2の背面21側に接して設けられている。また、地下水12の流下方向下流側には、地下水透過部3と連通する地下水流出部421が、下端部を地下水位W以深に配置した状態で形成されている。
【0030】
なお、側壁42は、コンクリート造もしくは鋼板を加工して形成したもの等、遮水性を有する壁体であればいずれの材料により形成されたものでもよい。また、その形状も、角筒状に形成されていてもよいし、円筒状に形成されたものでもよい。
【0031】
さらには、側壁42は必ずしも中空部41を囲繞する筒形状でなくてもよく、例えば、図4(b)で示すように、平面視コの字状に形成して、開口部を遮水壁2に当接する構成としてもよい。なお、このような平面視コの字形状の場合には、コの字形状の開口部全体を地下水流出部421として機能させることができる。
【0032】
底部43は、図2で示すように、遮水壁2の下端部より上方の帯水層G1内であって地下水位W以深に貫入され、透水材で被覆された地下水流入部431が形成されている。なお、透水材は、網状鋼板、ネット、ストレーナー、もしくは不織布等、後述する汚染物質吸着材5を流亡させない程度の通水孔を有していれば、いずれの多孔性材料を採用してもよい。また、地下水流入部431は、図4(a)で示すように、底部43の全面に対して形成してもよいし、図4(c)で示すように、底部43の一部分に形成する構成としてもよい。
【0033】
そして、中空部41には、図4(d)で示すように、底部43に達する深さを有する吸着材貯留部411が設けられ、その内方に汚染物質吸着材5が貯留されている。
【0034】
汚染物質吸着材5は、例えば「地下水の水質汚濁に係る環境基準」」(平成9年3月13日 環境庁告示第10号)に掲げられている項目に該当する汚染物質を除去可能な材料の中から、除去したい汚染物質に応じて最適な材料を適宜選択し、これを粒状体もしくは粉状体に加工したものである。その粒度は、吸着材貯留部411に必要な透水性能を確保しつつ、地下水12に含有された汚染物質を除去する性能を損なわない比表面積を有する大きさに調整されている。
【0035】
汚染物質吸着材5に用いる具体的な材料としては、例えばフッ素等を除去したい場合には、汚染物質吸着材5に活性アルミナを採用する。また、六価クロムや1,4-ジオキサンを除去したい場合には、汚染した地下水12の汚染濃度に応じて汚染物質吸着材5に活性炭等の最適なものを採用する。
【0036】
なお、汚染物質吸着材5は、単一の材料から構成されるものでもよいし、汚染した地下水12から複数種類の汚染物質を除去したい場合には、除去したい汚染物質に対応する材料よりなる粒状体もしくは粉状体を複数混在させてもよい。
【0037】
また、図2で示すように、側壁42の上端部には中空部41を覆う蓋材44が設けられており、経時使用により汚染物質の除去能力が低下した吸着材貯留部411の汚染物質吸着材5を交換する際の取り外しが可能となっている。
【0038】
上記の構成を有する地中浄化壁1において、遮水壁2は、汚染地盤11中を流下することにより汚染物質とともに移動した地下水12を堰き止めて、その背面21に地下水滞留部13を形成する。また、遮水壁2の背面21側に配置した浄化装置4は、中空部41を有する浄化装置4の底部43に地下水流入部431が形成され、この底部43を地下水W以深に貫入している。
【0039】
これにより、帯水層G1では底部43近傍の地盤において、地下水12の水位差が生じているため、地下水滞留部13を形成する地下水12が底部43近傍の地盤に向けて集水されるとともに、地下水流入部431に向かう上向きの浸透流が生じる。
【0040】
これにより、地下水12は、図5(a)で示すように、いわゆるボイリング現象のごとく強制的に地下水流入部431を介して中空部41に流入する。中空部41に流入した地下水12は、帯水層G1の地下水位Wに到達すると流れが停止するが、図2で示すように、中空部41を形成する側壁42には、下端部を地下水位W以深に配置した地下水流出部421が形成されている。
【0041】
このため、底部43に形成された地下水流入部431から中空部41へ流入した地下水12は、側壁42に形成された地下水流出部421を介して流出され、流れが停止することはない。つまり、浄化装置4には、地下水12の流路が常時一定の流速で形成されることとなる。
【0042】
したがって、浄化装置4の中空部41に吸着材貯留部411を設け、汚染物質吸着材5を貯留させると、地中浄化壁1は、遮水壁2により堰き止められて地下水滞留部13を形成する汚染物質が含まれた地下水12を、浄化装置4における底部43近傍の地盤に集水しつつ、強制的に浄化装置4の中空部41に対して上向きに流入させる。
【0043】
すると、流入した地下水12は、吸着材貯留部411内を上昇しながら、汚染物質吸着材5に汚染物質を吸着除去される。地中浄化壁1は、こうして浄化されたした地下水12を、地下水流出部421及び地下水透過部3を介して、遮水壁2における地下水12の流下方向下流側へ流下させることができる。したがって、汚染地盤11に滞留する重金属や有機塩素化合物等の汚染物質が、地下水12を介して周辺地盤に拡散する現象を抑制することが可能となる。
【0044】
また、前述したように、浄化装置4の中空部41に流入する地下水12は、上向きかつ一定の速度となるから、図5(b)で示すように、帯水層G1中を地下水12とともに移動していた土粒子に重力が効率よく作用するため、この土粒子を地下水12の流れ逆らって沈降させることができる。これにより、浄化装置4の中空部41に、地下水12とともに流入する土粒子の量を、大幅に減少させることができる。
【0045】
したがって、汚染物質吸着材5の間隙を閉塞させるような目詰まり現象を大幅に低減することができ、吸着材貯留部411の透水性能を長期維持でき、ひいては、地中浄化壁1における連続使用の長期化を図ることが可能となる。また、汚染物質の除去能力が低下する前に汚染物質吸着材5の交換を行う必要がなく、さらには、目詰まり除去を目的とするメンテナンスの頻度を大幅に削減でき、省力化を図ることが可能になるとともに、経済性を大幅に向上することが可能となる
【0046】
なお、本実施の形態では、図3(a)で示すように、浄化装置4の側壁42を遮水壁2と平行に形成したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、図3(b)で示すように、中空部41つまり吸着材貯留部411を底部43に向けて漸次拡径するように、錐台形状に形成してもよい。
【0047】
こうすると、吸着材貯留部411の内径が高さ方向に均一な場合と比較して、地下水12の流入速度を低減できるため、地下水12とともに移動する土粒子が、重力により地下水12の流れ逆らって沈降する現象を促進させることができる。したがって、汚染物質吸着材5の間隙が土粒子により閉塞することで生じる吸着材貯留部411における透水性能の低下を、より低減することが可能となる。
【0048】
上述する構成の地中浄化壁1は、遮水壁2に対して浄化装置4を、遮水壁2の延在方向に沿って、図6(a)で示すように間隔を設けて複数配置してもよいし、図6(b)で示すように長尺となるように形成してもよい。
【0049】
本発明の地中浄化壁1は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0050】
例えば、本実施の形態では、浄化装置4の中空部41全体を吸着材貯留部411として利用したが、必ずしもこれに限定するものではない。図7で示すように、中空部41の一部分に吸着材貯留部411を設ける構成としてもよい。
【0051】
具体的には、中空部41内に間隔を設けて2体の多孔壁414を設置して、中空部41を3つに区分けし、中央に吸着材貯留部411を配置するとともに、これを挟んで一方側に処理前貯水部412を配置し、他方側に処理後貯水部413を配置する。
【0052】
また、地下水流入部431は、底部43における処理前貯水部412が位置する領域のみに設け、地下水流出部421は、側壁42における処理後貯水部413が位置する領域であって、地下水12の流下方向下流側に、地下水透過部3と連通するように設ける。
【0053】
このような構成の地中浄化壁1によれば、汚染地盤11を経由した地下水12は、遮水壁2に堰き止められて浄化装置4の下方に地下水滞留部13を形成する。しかし、地下水12は、底部43の地下水流入部431近傍の地盤に集水され、地下水流入部431を介して処理前貯水部412に強制的に流入する。
【0054】
こうして、処理前貯水部412で受水した地下水12は、多孔壁414を介して吸着材貯留部411に流入し、汚染物質吸着材5内を通過しながら、汚染物質が吸引除去されて、浄化された地下水12となって、処理後貯水部413に流入する。このようにして浄化された地下水12は、地下水流出部421及び地下水透過部3から遮水壁2における地下水12の流下方向下流側に位置する帯水層G1に流出する。
【0055】
このように、地下水12を地下水流入部431に連続する処理前貯水部412で一旦受水すると、受水した地下水12を吸着材貯留部411に貯留されている汚染物質吸着材5全体に接触させるように供給することが可能となる。これにより、吸着材貯留部411に貯留されている汚染物質吸着材5を効率的に使用することが可能となる。
【0056】
なお、地下水流入部431に連続する処理前貯水部412を設けると、地下水流入部431の面積が小さく、上向きに流入する地下水12の流速を十分に低減できない場合も生じかねない。しかし、地下水12が処理前貯水部412に一旦貯留されることにより、地下水12とともに流入した土粒子は、重力の作用により処理前貯水部412内で沈降する。つまり、処理前貯水部412が、砂溜まりとして機能するため、処理前貯水部412から吸着材貯留部411に対して地下水12を側方から流入させても、吸着材貯留部411の汚染物質吸着材5に目詰まりを生じさせる現象を抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
1 地中浄化壁
2 遮水壁
21 背面
3 地下水透過部
4 浄化装置
41 中空部
411 吸着材貯留部
412 処理前貯水部
413 処理後貯水部
414 多孔壁
42 側壁
421 地下水流出部
43 底部
431 地下水流入部
44 蓋材
5 汚染物質吸着材
11 汚染地盤
12 地下水
13 地下水滞留部

L 敷地境界
G1 帯水層
G2 不透水層
W 地下水位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7