(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】負極活物質及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/485 20100101AFI20231031BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20231031BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231031BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M4/525
H01M4/505
C01G49/00 C
C01G49/00 E
(21)【出願番号】P 2019176753
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】大庭 伸子
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 優美
(72)【発明者】
【氏名】田島 伸
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-287526(JP,A)
【文献】国際公開第2010/146776(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/146777(WO,A1)
【文献】特開2008-084689(JP,A)
【文献】特開2003-146739(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1709828(CN,A)
【文献】特開2009-158167(JP,A)
【文献】特開平6-163080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01G 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feと、Fe以外の金属元素とを
含み、次の式(1)で表される組成を有する酸化物からなり、Liイオンの吸蔵・放出能を持ち、かつ、Liイオンの充放電電位が0V超1.5V未満である負極活物質。
(Ca
1-x
Sr
x
)Ba(Fe
4-y
M
y
)O
8
…(1)
但し、
Mは、Ti、Co、Ni、Cu、Zn、及び、Mnからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素、
0≦x≦1、0≦y≦0.6。
【請求項2】
前記酸化物は、CaBaFe
4O
8、SrBaFe
4O
8、Ca
0.5Sr
0.5BaFe
4O
8、又は、CaBaFe
3.6M
0.4O
8からなる
請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
平均粒径が10μm以下の粉末からなる
請求項1又は2に記載の負極活物質。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の負極活物質を負極に用いたリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質及びリチウムイオン二次電池に関し、さらに詳しくは、Liイオンの吸蔵・放出能を持つ酸化物からなる新規な負極活物質、及び、これを負極に用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池とは、正極と負極との間でリチウムイオンが移動することで、充電や放電を行う二次電池をいう。現在、実用化されているリチウムイオン二次電池のほとんどにおいて、負極材料には炭素(黒鉛)が用いられている。
しかし、黒鉛の重量当たり及び体積当たりの比容量は、それぞれ、372mAh/g、及び、855mAh/cm3と低く、充放電電位も0.07~0.23V vs. Li+/Liと低い(非特許文献1~3参照)。さらに、黒鉛負極を用いた電池システムにおいては、黒鉛の充放電電位が低すぎるために、リチウム析出の恐れがある。
【0003】
最近では、さらなるエネルギー密度の向上を目指して、合金負極が注目されている。例えば、シリコン(Si)は、Liと金属間化合物を形成し、最終的にLi4.4Siの合金組成までLiを吸蔵する。合金負極のほとんどは、1V vs. Li+/Li以下の電位で充放電が進行する(非特許文献4、5参照)。
しかし、シリコンなどの合金負極は、充放電に伴う体積変化が100~350%と非常に大きく、充放電サイクルと共に微粉化したり、構造変化により亀裂や剥離が生じたりする。そのため、サイクル寿命が非常に短いことが問題となっている。
【0004】
一方、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)に代表される酸化物負極は、結晶構造を保持したままLiイオンが挿入脱離することで充放電を行うタイプの負極である。酸化物負極は、一般に、充放電に伴う体積変化は小さい。
しかし、従来の酸化物負極は、充放電電位が1.5~2.0V付近であるため、電池セルとしての電圧が低い。また、従来の酸化物負極を用いた電池システムにおいては、エネルギー密度が小さく、高容量化が課題となっている(非特許文献1、6、7参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】小久見 善八、リチウム二次電池(オーム社、2008)
【文献】R. Chen, R. Luo, Y. Huang, F. Wu, and L. Li, Advanced Science 3, 1600051(2016)
【文献】M. Obrovac and V. Chevrier, Chemical reviews 114, 11444(2014)
【文献】R. A. Huggins, Journal of Power Sources 81-82, 13(1999)
【文献】N. Nitta and G. Yushin, Particle & Particle Systems Characterization 31, 317(2014)
【文献】X. W. Xuefeng Song, Zhuang Sun, Peng Zhang, and Lian Gao, Material Matters 8, 111(2014)
【文献】M. Reddy, G. Subba Rao, and B. Chowdari, Chemical reviews 113, 5364(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、適度なLiイオンの充放電電位と、相対的に高い容量と、相対的に長いサイクル寿命とを持つ新規な負極活物質を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このような負極活物質を負極に用いたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の負極活物質は、Feと、Fe以外の金属元素とを含む酸化物からなり、Liイオンの吸蔵・放出能を持ち、かつ、Liイオンの充放電電位が0V超1.5V未満であることを要旨とする。
【0008】
前記酸化物は、次の式(1)で表される組成を有するものが好ましい。
(Ca1-xSrx)Ba(Fe4-yMy)O8 …(1)
但し、
Mは、Ti、Co、Ni、Cu、Zn、及び、Mnからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素、
0≦x≦1、0≦y≦0.6。
【0009】
また、前記酸化物は、次の式(2)で表される組成を有するものが好ましい。
Y(Fe1-zM'z)O3 …(2)
但し、
M'は、Mn及び/又はCo、
1≦z≦0.2。
【0010】
さらに、本発明に係るリチウムイオン二次電池は、本発明に係る負極活物質を負極に用いたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
リチウムイオン二次電池の負極活物質として、Feと、Fe以外の金属元素とを含む酸化物であって、Liイオンの吸蔵・放出能を持ち、かつ、Liイオンの充放電電位が0V超1.5V未満であるもの(特に、式(1)又は式(2)で表される組成を有する酸化物)を用いると、セル電圧が高く、高容量で、かつ、サイクル寿命に優れたリチウムイオン二次電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 負極活物質]
[1.1. 概要]
本発明に係る負極活物質は、Feと、Fe以外の金属元素とを含む酸化物からなり、Liイオンの吸蔵・放出能を持ち、かつ、Liイオンの充放電電位が0V超1.5V未満である。
高性能なリチウムイオン二次電池を得るためには、負極に用いられる酸化物は、
(a)結晶構造内にLiイオンを可逆的に挿入・脱離することが可能なサイトを持ち、
(b)当該サイトにLiイオンが挿入された時には、エネルギー的に安定となり、
(c)適度なLiイオンの充放電電位(0V超1.5V未満、好ましくは、0.5V以上1.5V未満)を持ち、かつ、
(d)相対的に高い容量を持つ
ものである必要がある。
このような条件を満たす酸化物としては、具体的には以下のようなものがある。
【0014】
[1.2. 具体例1(CaBaFe4O8系酸化物)]
負極活物質の第1の具体例は、次の式(1)で表される組成を有する酸化物からなる。
(Ca1-xSrx)Ba(Fe4-yMy)O8 …(1)
但し、
Mは、Ti、Co、Ni、Cu、Zn、及び、Mnからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素、
0≦x≦1、0≦y≦0.6。
【0015】
[1.2.1. 結晶構造]
式(1)で表される酸化物は、CaBaFe4O8系酸化物からなる。「CaBaFe4O8系酸化物」とは、CaBaFe4O8、並びに、CaBaFe4O8のCaサイト及び/又はFeサイトが他の金属元素で置換された酸化物をいう。
CaBaFe4O8系酸化物は、Liイオンの挿入前の状態では空間群P-31m(162)に属する結晶構造を持ち、その結晶構造内には、Liイオンを挿入することが可能な多数のサイトがある。CaBaFe4O8系酸化物は、第一原理計算による予測から、式量当たり最大で12個のLiイオンを挿入することができるが、その内の一部のLiイオンが充放電に伴い、可逆的に挿入・脱離すると考えられる。
【0016】
[1.2.2. 組成]
[A. x]
Srは、Caサイトを任意の比率で置換することができる。すなわち、xは、0以上1以下の範囲で任意の値を取ることができる。
CaBaFe4O8とSrBaFe4O8は、同じ結晶構造を持ち、Liイオンの挿入脱離電位やエネルギー密度に関して同様の特徴を持つ。Caサイトの一部をSrで置換した(Ca、Sr)BaFe4O8は、端成分に比べて重量及び体積当たりの電流容量が増加するという効果が得られる。
【0017】
[B. y]
Feは、Liイオンの挿入・脱離に伴い、価数が変化する。元素Mは、Feサイトを置換する金属元素を表す。元素Mもまた、Liイオンの挿入・脱離に伴い、価数が変化するものが好ましい。
元素Mは、特に、Ti、Co、Ni、Cu、Zn、及び、Mnからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素が好ましい。これは、これらの元素はFeサイトに置換しやすく、かつ、電子伝導性が生じやすいためである。
【0018】
元素Mは、必ずしも必要ではない。すなわち、yは、ゼロでも良い。しかし、Feサイトの一部を元素Mで置換すると、電子伝導性が向上し、Li挿入脱離時の分極が小さくなる。このような効果を得るためには、yは、0.1以上が好ましい。yは、好ましくは、0.2以上、さらに好ましくは、0.3以上である。
一方、yが大きくなりすぎると、別の相(不純物)が生成し、電池特性が劣化する。従って、yは、0.6以下が好ましい。yは、好ましくは、0.5以下、さらに好ましくは、0.4以下である。
【0019】
[C. 好適な組成]
CaBaFe4O8系酸化物は、特に、CaBaFe4O8、SrBaFe4O8、Ca0.5Sr0.5BaFe4O8、又は、CaBaFe3.6M0.4O8が好ましい。これは、これらの材料はLi4Ti5O12に比べて平均電位が低く、重量及び体積当たりの電流容量が大きいためである。
負極活物質は、これらのいずれか1種の酸化物からなるものでも良く、あるいは、2種以上の酸化物からなるものでも良い。
【0020】
[1.2.3. 平均粒径]
「平均粒径」とは、レーザー回折散乱法により得られるメディアン径(D50)をいう。
CaBaFe4O8系酸化物の平均粒径が大きくなりすぎると、表面から内部へのLiの挿入脱離に時間がかかり、電池特性が劣化する。従って、CaBaFe4O8系酸化物の平均粒径は、10μm以下が好ましい。平均粒径は、好ましくは、7μm以下、さらに好ましくは、5μm以下である。
【0021】
[1.3. 具体例2(YFeO3系酸化物)]
負極活物質の第2の具体例は、次の式(2)で表される組成を有する酸化物からなる。
Y(Fe1-zM'z)O3 …(2)
但し、
M'は、Mn及び/又はCo、
0≦z≦0.2。
【0022】
[1.3.1. 結晶構造]
式(2)で表される酸化物は、YFeO3系酸化物からなる。「YFeO3系酸化物」とは、YFeO3、及び、YFeO3のFeサイトが他の金属元素で置換された酸化物をいう。
YFeO3系酸化物は、Liイオンの挿入前の状態では空間群Pbnm(62)に属する結晶構造を持ち、その結晶構造内には、Liイオンを挿入することが可能な多数のサイトがある。YFeO3系酸化物は、第一原理計算による予測から、式量当たり最大で2個のLiイオンを挿入することができるが、その内の一部のLiイオンが充放電に伴い、可逆的に挿入・脱離すると考えられる。
【0023】
[1.3.2. 組成]
[A. z]
Feは、Liイオンの挿入・脱離に伴い、価数が変化する。元素M'は、Feサイトを置換する金属元素を表す。元素M'もまた、Liイオンの挿入・脱離に伴い、価数が変化するものが好ましい。
元素M'は、特に、Mn及び/又はCoが好ましい。これは、これらの元素はFeサイトに置換しやすく、電子伝導性が向上するためである。
【0024】
元素M'は、必ずしも必要ではない。すなわち、zは、ゼロでも良い。しかし、Feサイトの一部を元素M'で置換すると、電子伝導性が向上し、Li挿入脱離時の分極が小さくなる。このような効果を得るためには、zは、0.03以上が好ましい。zは、好ましくは、0.05以上、さらに好ましくは、0.07以上である。
一方、zが大きくなりすぎると、別の相(不純物相)が生成し、電池特性が劣化する。従って、zは、0.2以下が好ましい。zは、好ましくは、0.15以下、さらに好ましくは、0.1以下である。
【0025】
[B. 好適な組成]
YFeO3系酸化物は、特に、YFeO3、又は、YFe0.9Mn0.1O3が好ましい。これは、これらの材料はLi4Ti5O12と比べてLiの挿入脱離電位が低く、体積当たりの電流容量が大きいためである。
負極活物質は、これらのいずれか1種の酸化物からなるものでも良く、あるいは、2種以上の酸化物からなるものでも良い。
【0026】
[1.3.3. 平均粒径]
「平均粒径」とは、レーザー回折散乱法により得られるメディアン径(D50)をいう。
YFeO3系酸化物の平均粒径が大きくなりすぎると、表面から内部へのLiの挿入脱離に時間がかかり、電池特性が劣化する。従って、YFeO3系酸化物の平均粒径は、10μm以下が好ましい。平均粒径は、好ましくは、7μm以下、さらに好ましくは、5μm以下である。
【0027】
[2. 負極活物質の製造方法]
本発明に係る負極活物質は、
(a)所定の組成となるように原料を混合し、
(b)原料混合物を所定の条件下で仮焼し、
(c)必要に応じて、仮焼粉を適度に粉砕する
ことにより製造することができる。
製造条件は、特に限定されるものではなく、目的とする組成に応じて、最適な条件を選択するのが好ましい。
【0028】
[3. リチウムイオン二次電池]
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、本発明に係る負極活物質を負極に用いたものからなる。正極活物質の材料、電解質の材料、リチウムイオン二次電池の構造等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
【0029】
[4. 作用]
リチウムイオン二次電池の負極活物質として、Feと、Fe以外の金属元素とを含む酸化物であって、Liイオンの吸蔵・放出能を持ち、かつ、Liイオンの充放電電位が0V超1.5V未満であるもの(特に、式(1)又は式(2)で表される組成を有する酸化物)を用いると、セル電圧が高く、高容量で、かつ、サイクル寿命に優れたリチウムイオン二次電池が得られる。
【0030】
本発明に係る負極活物質を用いることにより高いセル電圧を示すのは、Liイオンの挿入脱離電位がリチウムイオン二次電池の負極として適切な範囲(0V超1.5V未満)にあるためと考えられる。
また、本発明に係る負極活物質が高容量を示すのは、結晶構造内にLiイオンを挿入可能な多数のサイトを持っているため、及び、酸化物に含まれるカチオンが価数変化することで、より多くのLiイオンを吸蔵できるためと考えられる。
さらに、本発明に係る負極活物質が高サイクル寿命を示すのは、Liイオンの吸蔵放出に伴う体積変化が小さいためと考えられる。
【実施例】
【0031】
(実施例1: 充放電電位、体積変化の評価)
[1. 計算方法]
Li挿入前後の酸化物に対してそれぞれ第一原理計算を実施し、Li挿入電位及び体積変化を評価した。結晶構造中での原子(イオン)の安定性を評価する指標の一つとして、Bond Valence Sum (BVS)がある(参考文献1参照)。BVSは、結晶構造中の多面体中心原子のイオンの価数(形式電荷)を表し、結晶構造解析における安定位置評価などに用いられている。
[参考文献1] I. D. Brown, Chemical Reviews 109, 7858(2009)
【0032】
酸化物中のLiは、価数+1のイオンとして存在するため、BVS=1となるサイトがLiの安定位置に対応することが期待される。そこで、BVSが1に近く、かつ、結晶構造中の他の原子との距離が十分離れているサイトにLiを挿入した。
次の式(3)で表されるLi挿入反応の内部エネルギー差から、充(放)電電位(V)を次の式(4)で見積もった(参考文献2)。
[参考文献2] Y. S. Meng and M. E. Arroyo-de Dompablo, Energy & Environmental Science 2, 589(2009)
【0033】
MOy+xLi → LixMOy …(3)
V≒-[E(LixMOy)-E(MOy)-xE(Li)]/xF …(4)
但し、Fは、ファラデー定数。
【0034】
なお、ネルンストの式からは、電位は自由エネルギー差ΔGから見積もられるが、固体系で室温付近の反応を考えているため、エントロピーの効果を無視している。Li挿入に伴う体積変化は、構造最適化後の結晶体積から直接計算した。
【0035】
[2. 結果]
表1に、計算から得られたCaBaFe4O8系酸化物及びYFeO3系酸化物の充放電電位及び体積変化を示す。
CaBaFe4O8に12個のLiを挿入する場合の電位は0.84V vs Li+/Liと予測され、負極活物質として好ましい。Li数密度、電位の観点からは、CaBaFe4O8は、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)より優れる。
【0036】
SrBaFe4O8に1個のLiを挿入する場合の電位は、1.63V vs Li+/Liと高い。しかし、LiSrBaFe4O12に5個のLiを挿入する反応時、及び、Li6SrBaFe4O12に6個のLiを挿入する反応時の充放電電位は、それぞれ、1.06V vs Li+/Li、及び、0.65V vs Li+/Liであり、負極活物質として好ましい。Li数密度、電位の観点からは、SrBaFe4O8は、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)より優れる。
【0037】
YFeO3に0.25個のLiを挿入する場合の電位は、1.99V vs Li+/Liと高い。しかし、Li1/4YFeO3に7/4個のLiを挿入する反応時の充放電電位は、0.81V vs Li+/Liであり、負極活物質として好ましい。Li数密度、電位の観点からは、YFeO3は、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)より優れる。
Si等の合金系材料の挿入リチウム1モル当たりの体積変化は、9cm3/molである。本発明に係る負極活物質の体積変化はそれより小さく、サイクル寿命に優れていることが分かった。
【0038】
【0039】
(実施例2.1~2.11、比較例1)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例2.1~2.11]
試料は、通常の固相反応法により合成した。原料は、市販試薬の酸化物又は炭酸塩を使用した。仕込み組成は、以下の通りである。
(a)CaBaFe4O8(実施例2.1)
(b)SrBaFe4O8(実施例2.2)
(c)Ca0.5Sr0.5BaFe4O8(実施例2.3)
(d)CaBaFe3.6Co0.4O8(実施例2.4)
(e)CaBaFe3.6Mn0.4O8(実施例2.5)
(f)CaBaFe3.6Ti0.4O8(実施例2.6)
(g)CaBaFe3.6Zn0.4O8(実施例2.7)
(h)CaBaFe3.6Cu0.4O8(実施例2.8)
(i)CaBaFe3.6Ni0.4O8(実施例2.9)
(j)YFeO3(実施例2.10)
(k)YFe0.9Mn0.1O3(実施例2.11)
【0040】
原料をストイキ組成で総量で10gになるように計量して、250mLのポリポットに入れた。さらにφ5mmのジルコニアボールを80mL、溶媒としてエタノールを80mL加えて、ボールミル装置で20h混合した。混合後、スラリーを回収して、ロータリーエバポレータでエタノールを蒸発させ、粉末を回収した。得られた粉末をマッフル炉で大気中、表2に示す条件下で仮焼を行った。その仮焼粉末をアルミナ乳鉢で粗粉末が無くなるまで(粒径が数μm以下となるまで)粉砕した。
【0041】
[1.2. 比較例1]
Li4Ti5O12(比較例1)については、試料の合成を行わず、充放電特性には文献値(参考文献3)を用いた。
[参考文献3]Nitta, Naoki, et al, "Li-ion battery materials: present and future," Materials today 18.5(2015):252-264
【0042】
[2. 試験方法]
[2.1. X線回折]
得られた試料の結晶相は、X線回折法(XRD)で同定した。
【0043】
[2.2. 充放電特性]
負極活物質(S)として、上記粉末を用いた。導電助剤(C)として、カーボンブラック(東海カーボン(株)製、トーカブラック5500)を用いた。結着剤(P)として、ポリフッ化ビニリデン(呉羽化学工業(株)製、KFポリマー#1120)を用いた。有機溶媒には、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)を用いた。
【0044】
負極活物質(S)、導電助剤(C)、及び結着剤(P)を表2に示す質量比となるように秤量した。負極活物質(S)と導電助剤(C)を乳鉢で10分間混合した。これに所定量の結着剤(P)を加え、有機溶媒を少量ずつ加えながら混練し、ペースト状の負極合材を得た。負極合材をドクターブレード(膜厚:150~200μm)で銅箔上に塗布し、大気中で140℃/20分乾燥させた。さらに、真空乾燥機にて120℃で15時間程度乾燥させた。これを円盤状(φ16.2mm)に打ち抜いて、プレス機を用いて表面を5kNで圧着し、負極を作製した。
【0045】
アルゴン雰囲気下のグローブボックス中で、上記の負極電極と多孔性のポリエチレン製セパレータ(φ26mm)をトムセル((有)日本トムセル製)内に配置し、電解液200μdlを加えた。電解液には、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート=3/4/3(体積比)の混合溶媒に、電解質としてLiTFSIを濃度1mol/kgで溶解させたものを用いた。
その後、対極としてセルにローラーで集電板(SUS304)に粘着させたLiメタル電極(φ18mm)を載せ、ステンレス製のケースを被せてかしめることにより評価セルを作製した。
【0046】
充放電測定は、測定セルを低温恒温恒湿器(エスペック(株)製、PL-3KTH)内にセットし、電池充放電装置(アスカ電子(株)製)を用いて行った。温度を25℃、電流密度を0.05mA/cm2、電圧範囲を0.5Vから2.0Vとし、定電流充電・放電を5サイクル繰り返し測定を行った。
【0047】
[3. 結果]
[3.1. X線回折]
XRDによる分析の結果、CaBaFe4O8系酸化物では、論文で報告されている通りの空間群P-31m(162)の試料が得られた。但し、一部の試料では、BaFe2O4らしい不純物相も確認できたが、ごく少量のため電池特性の評価には影響しないと判断した。
YFeO3系酸化物では、論文で報告されている通りの空間群Pbnm(62)の試料が得られた。
【0048】
[3.2. 充放電特性]
表2に、各試料の充放電特性を示す。なお、表2には、材料組成、負極材料の合成プロセスの条件、及び、負極の組成も併せて示した。また、
図1に、CaBaFe
4O
8の充放電曲線を示す。表2及び
図1より、以下のことが分かる。
【0049】
(1)CaBaFe4O8の場合、2回目以降の充放電サイクルでは、平均で約218mAh/gの容量が発現した。CaBaFe4O8の式量は528.7882であるので、これらの容量をCaBaFe4O8当たりのLi数に換算すると、4.3個に対応する。また、充放電時の平均電圧は、1.0Vであった。
(2)実施例2.1~2.11は、いずれも、電流容量が100mAh/g以上であり、平均充放電電圧は1.5V以下であった。特に、実施例2.1~2.11の体積当たりの電流容量は、いずれもチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)より優れていた。
【0050】
【0051】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る負極活物質は、リチウムイオン二次電池の負極の材料として用いることができる。