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特許7375459インクジェット記録用前処理液、インクジェット記録装置及び画像形成方法
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  • 特許-インクジェット記録用前処理液、インクジェット記録装置及び画像形成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】インクジェット記録用前処理液、インクジェット記録装置及び画像形成方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20231031BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231031BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20231031BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20231031BHJP
【FI】
B41M5/00 132
B41J2/01 501
B41J2/01 123
C09D11/54
C09D11/30
B41M5/00 120
B41M5/00 110
B41M5/00 100
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019192649
(22)【出願日】2019-10-23
(65)【公開番号】P2021066075
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】長西 克樹
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-052116(JP,A)
【文献】特開2012-140550(JP,A)
【文献】特開2013-159106(JP,A)
【文献】特開2012-096528(JP,A)
【文献】特開2018-062493(JP,A)
【文献】特開2002-302627(JP,A)
【文献】特開2016-204283(JP,A)
【文献】特開2015-061823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
B41J 2/01
C09D 11/54
C09D 11/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光によって有機アミン化合物を発生する光塩基発生剤、水、水溶性有機溶媒及び界面活性剤のみを含有し、
前記光塩基発生剤は、下記一般式(1)で表される化合物を含む、インクジェット記録用前処理液。
【化1】
(前記一般式(1)中、
Zは、1価の電子求引基を表し、
Wは、飽和脂環式炭化水素環、不飽和脂環式炭化水素環又は芳香族炭化水素環を表し、
1~R3は、各々独立に、水素原子、炭素原子数1以上5以下の1価の炭化水素基、又は炭素原子数1以上5以下の炭化水素オキシ基を表し、
Xは、炭素原子数1以上5以下の1価の炭化水素基、又は炭素原子数1以上5以下の炭化水素オキシ基を表し、
nは、0以上5以下の整数を表し、
nが2以上5以下の整数を表す場合、複数のRXは、同一でも異なっていてもよく、
1及びR2、R2及びR3、R3及び1つのRX、又は隣接する2つのRXは、互いに結合して環を形成してもよく、
4は、水素原子、炭素原子数1以上6以下の1価の炭化水素基、又は炭素原子数6以上15以下の1価の芳香族炭化水素基を表し、
5は、炭素原子数1以上15以下の1価の炭化水素基を表し、
6は、水素原子又は炭素原子数1以上15以下の1価の炭化水素基を表し、
5及びR6は、互いに結合して環を形成してもよい。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(1-1)で表される化合物を含む、請求項1に記載のインクジェット記録用前処理液。
【化2】
(前記一般式(1-1)中、
Z、R4~R6は、各々、前記一般式(1)と同義であり、
1~R3及びR7~R9は、各々独立に、水素原子、炭素原子数1以上5以下の1価の炭化水素基、又は炭素原子数1以上5以下の炭化水素オキシ基を表し、
1及びR2、R2及びR3、R3及びR7、R7及びR8、又はR8及びR9は、互いに結合して環を形成してもよい。)
【請求項3】
前記一般式(1-1)で表される化合物は、下記化学式(I)~(IV)で表される化合物のうち少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用前処理液。
【化3】
【請求項4】
前記光塩基発生剤の含有割合は、0.1質量%以上5.0質量%以下である、請求項1~3の何れか一項に記載のインクジェット記録用前処理液。
【請求項5】
記録媒体の画像形成領域に画像を形成するインクジェット記録装置であって、
前記記録媒体の前記画像形成領域に、請求項1~4の何れか一項に記載のインクジェット記録用前処理液を吐出する前処理部と、
前記インクジェット記録用前処理液が吐出された前記記録媒体の前記画像形成領域を露光する露光部と、
露光された前記記録媒体の前記画像形成領域にインクを吐出することで前記画像を形成する記録ヘッドとを備える、インクジェット記録装置。
【請求項6】
前記インクは、水性媒体と、顔料及びカチオン性樹脂を含む顔料粒子とを含有する水性インクである、請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
記録媒体の画像形成領域に画像を形成する方法であって、
前記記録媒体の前記画像形成領域に、請求項1~4の何れか一項に記載のインクジェット記録用前処理液を吐出する前処理液吐出工程と、
前記インクジェット記録用前処理液が吐出された前記記録媒体の前記画像形成領域を露光する露光工程と、
露光された前記記録媒体の前記画像形成領域にインクを吐出することで前記画像を形成するインク吐出工程とを備える、画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用前処理液、インクジェット記録装置及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置においては、商業印刷用途のラインエンジンシステムにより、印刷用塗工紙に対して公知のオフセット印刷並の画質の画像を形成することが要求されている。このような用途においては、記録媒体のカール及びインクの裏抜けを抑制しつつドット再現性を向上させることが重要となる。また、オンデマンド印刷、POP(Point of purchase)広告及びサイングラフィックス市場においては、全面に白色塗料を塗工した透明フィルムを記録媒体として用い、インクジェット記録装置によって高画質な画像を形成する技術の需要が急増している。このような用途においては、吸収性に乏しい記録媒体に対して高画質かつ堅牢性に優れる画像を形成することが要求される。
【0003】
このような要求に対して、例えば、記録媒体を事前に前処理する方法、印刷直後に記録媒体を加熱する方法、速乾性のインクを用いる方法、及び紫外線硬化型インクを用いる方法が検討されている。しかしながら、記録媒体を事前に前処理する方法では、工程数の増加により時間及びコストが増大する傾向がある。また、印刷直後に記録媒体を加熱する方法、及び速乾性のインクを用いる方法では、インクノズルの詰まりが発生し易くなる傾向がある。更に、紫外線硬化型インクを用いる方法では、吐出されたインクが十分に平坦化する前にインクが硬化する場合がある。そのため、紫外線硬化型インクを用いる方法では、印刷された画像表面に凹凸が発生する傾向があり、かつ形成されるインク層の厚さが増大する傾向がある。
【0004】
そこで、インクジェット記録装置に前処理液を吐出する部材を設け、インクを吐出する直前にインクジェット記録用前処理液を記録媒体に吐出する方法が提案されている(例えば、特許文献1~3)。このインクジェット記録用前処理液の有効成分としては、例えば、塩基成分、カチオン性高分子化合物、酸成分及び金属イオンが挙げられる。これらの有効成分を含有するインクジェット記録用前処理液を用いることで、記録媒体表面で上述の有効成分及びインク中の顔料が凝集反応を生じる。これにより、記録媒体に対する顔料の定着が促進され、形成される画像の画質を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2003/043825
【文献】特開2003-55886号公報
【文献】特開2002-019263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3に記載のインクジェット記録用前処理液は、インクノズルの詰まりを誘発する傾向があることが本発明者の検討により判明した。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、インクノズルの詰まりを抑制しつつ、形成される画像の画質を向上できるインクジェット記録用前処理液、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインクジェット記録用前処理液は、露光によって有機アミン化合物を発生する光塩基発生剤を含有する。
【0009】
本発明のインクジェット記録装置は、記録媒体の画像形成領域に画像を形成するインクジェット記録装置であって、前記記録媒体の前記画像形成領域に、上述のインクジェット記録用前処理液を吐出する前処理部と、前記インクジェット記録用前処理液が吐出された前記記録媒体の前記画像形成領域を露光する露光部と、露光された前記記録媒体の前記画像形成領域にインクを吐出することで前記画像を形成する記録ヘッドとを備える。
【0010】
本発明の画像形成方法は、記録媒体の画像形成領域に画像を形成する方法であって、前記記録媒体の前記画像形成領域に、上述のインクジェット記録用前処理液を吐出する前処理液吐出工程と、前記インクジェット記録用前処理液が吐出された前記記録媒体の前記画像形成領域を露光する露光工程と、露光された前記記録媒体の前記画像形成領域にインクを吐出することで前記画像を形成するインク吐出工程とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインクジェット記録用前処理液、インクジェット記録装置及び画像形成方法は、インクノズルの詰まりを抑制しつつ、形成される画像の画質を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録装置の一例の要部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨は限定されない。図面において、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は、図面の明瞭化及び簡略化のために適宜変更されており、実際の寸法関係を表すものではない。各成分は、特に断りのない限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰り返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。
【0015】
以下、ハロゲン原子、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上5以下のアルキル基、飽和脂環式炭化水素環、不飽和脂環式炭化水素環、芳香族炭化水素環、複素環及び炭素原子数1以上5以下のアルコキシ基は、何ら規定していなければ、各々次の意味である。
【0016】
ハロゲン原子(ハロゲン基)としては、例えば、フッ素原子(フルオロ基)、塩素原子(クロロ基)、臭素原子(ブロモ基)及びヨウ素原子(ヨード基)が挙げられる。
【0017】
炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、及び直鎖状又は分岐状のヘキシル基が挙げられる。炭素原子数1以上5以下のアルキル基としては、例えば、炭素原子数1以上6以下のアルキル基として例示した基のうち、炭素原子数が1以上5以下である基が挙げられる。
【0018】
飽和脂環式炭化水素環としては、例えば、炭素原子数3以上10以下のシクロアルカン環(例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環及びシクロオクタン環)が挙げられる。
【0019】
不飽和脂環式炭化水素環としては、例えば、炭素原子数3以上10以下のシクロアルケン環(例えば、シクロペンテン環及びシクロヘキセン環)及び炭素原子数4以上10以下のシクロアルキン環(例えば、シクロペンチン環及びシクロヘキシン環)が挙げられる。
【0020】
芳香族炭化水素環の炭素原子数としては、例えば、6以上20以下である。芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環及びピレン環が挙げられる。
【0021】
複素環は、例えば、炭素原子とヘテロ原子(例えば、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子のうち少なくとも1個)とを含む。複素環の環員数としては、例えば、3以上20以下である。環員数3以上20以下の複素環の具体例としては、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、チオフェン環、フラン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、イソチアゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、フラザン環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、インドール環、1H-インダゾール環、イソインドール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、プリン環、プテリジン環、トリアゾール環、テトラゾール環、4H-キノリジン環、ナフチリジン環、ベンゾフラン環、1,3-ベンゾジオキソール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンズイミダゾール環、カルバゾール環、フェナントリジン環、アクリジン環、フェナジン環、及びフェナントロリン環が挙げられる。
【0022】
炭素原子数1以上5以下のアルコキシ基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上5以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、及びn-ペンチルオキシ基が挙げられる。
【0023】
粉体(例えば、顔料分散体)の体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製の「Zetasizer nano-ZS(ゼータサイザー ナノZS)」)を用いて測定した値である。
【0024】
<第1実施形態:インクジェット記録用前処理液>
本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録用前処理液(以下、前処理液と記載することがある)は、露光によって有機アミン化合物を発生する光塩基発生剤(以下、特定光塩基発生剤と記載することがある)を含有する。本発明の前処理液は、特定光塩基発生剤に加え、溶媒としての水及び水溶性有機溶剤を更に含有することが好ましい。本発明の前処理液は、任意成分として、界面活性剤を更に含有してもよい。本発明の前処理液は、必要に応じてその他の成分を更に含有してもよい。
【0025】
本発明の前処理液の使用方法の一例について説明する。まず、インクジェット記録装置を用いた画像形成において、記録媒体の画像形成領域にインクを吐出して画像を形成する直前に、記録媒体の画像形成領域に本発明の前処理液を吐出する。次に、本発明の前処理液が吐出された記録媒体の画像形成領域を露光する。これにより、画像形成領域において、本発明の前処理液中の特定光塩基発生剤から有機アミン化合物が発生する。次に、記録媒体の画像形成領域にインクを吐出することで画像を形成する。この際、画像形成領域では、本発明の前処理液から発生した有機アミン化合物とインク中の顔料とが凝集反応を生じる。その結果、記録媒体への顔料の定着が促進されて画像の画質が向上する。画質の向上としては、例えば、画像濃度の増大と、フェザリング(インクの滲み)及びカラーブリードの抑制とが挙げられる。なお、カラーブリードとは、異なる色のインク(ドット)が隣接する境界部(ドット間)で生じる画質劣化現象である。カラーブリードが発生した画像では、隣接するドットにおいて、一方のインクの顔料が他方のインクに混ざり、画像が不鮮明になる。
【0026】
また、本発明の前処理液は、公知の前処理液(例えば、塩基成分、カチオン性高分子化合物、酸成分又は金属イオンを有効成分とする前処理液)と比較し、インクノズルの詰まりを抑制できる。ここで、公知の前処理液がインクノズルの詰まりを発生させる原因について説明する。インクジェット記録装置で公知の前処理液及びインクを吐出すると、吐出された公知の前処理液の一部とインクの一部とは、それぞれミスト化してインクジェット記録装置内に拡散する。そして、拡散した公知の前処理液のミスト及びインクのミストは、インクジェット記録装置内で混ざり合って混合ミストを生じる。混合ミスト中では、公知の前処理液の有効成分がインクの顔料を凝集させ、凝集物が発生する。このようにして発生した凝集物を含む混合ミストのうち一部は、インクジェット記録装置内を拡散してインクノズルに付着する。その結果、インクノズルの詰まりが発生する。
【0027】
これに対して、本発明の前処理液は、特定光塩基発生剤を含有する。特定光塩基発生剤は、それ自体が顔料と凝集反応を生じる成分ではない。そのため、本発明の前処理液がミスト化してインクのミストと混ざり合ったとしても、発生した混合ミストには凝集物が発生し難い。そのため、上述の混合ミストは、インクノズルの詰まりを発生させ難い。このように、本発明の前処理液は、特定光塩基発生剤を含有することで、インクノズルの詰まりを抑制しつつ、形成される画像の画質を向上できる。また、有機アミン化合物は、比較的揮発し易い塩基である。そのため、本発明の前処理液は、有機アミン化合物を発生する特定光塩基発生剤を含有することで、画像形成後の記録媒体に塩基成分が残留することを抑制できる。更に、特定光塩基発生剤は、他の光塩基発生剤と比較し、保存安定性に優れる傾向がある。
【0028】
[特定光塩基発生剤]
特定光塩基発生剤は、露光によって有機アミン化合物を発生する。特定光塩基発生剤から露光によって発生する有機アミン化合物としては、下記化学式(i)~(iv)で表される化合物(以下、有機アミン化合物(i)~(iv)と記載することがある)が好ましい。有機アミン化合物(i)~(iv)は、有機アミン化合物の中でも揮発性に優れる。そのため、本発明の前処理液が露光によって有機アミン化合物(i)~(iv)を発生する特定光塩基発生剤を含有することで、画像形成後の記録媒体に有機アミン化合物が残留することをより効果的に抑制できる。
【0029】
【化1】
【0030】
特定光塩基発生剤としては、下記一般式(1)で表される化合物(以下、特定光塩基発生剤(1)と記載することがある)が好ましい。
【0031】
【化2】
【0032】
一般式(1)中、Zは、1価の電子求引基を表す。Wは、飽和脂環式炭化水素環、不飽和脂環式炭化水素環又は芳香族炭化水素環を表す。R1~R3及びRXは、各々独立に、水素原子、炭素原子数1以上5以下の1価の炭化水素基、又は炭素原子数1以上5以下の炭化水素オキシ基を表す。nは、0以上5以下の整数を表す。nが2以上5以下の整数を表す場合、複数のRXは、同一でも異なっていてもよい。R1及びR2、R2及びR3、R3及び1つのRX、又は隣接する2つのRXは、互いに結合して環を形成してもよい。R4は、水素原子、炭素原子数1以上6以下の1価の炭化水素基、又は炭素原子数6以上15以下の1価の芳香族炭化水素基を表す。R5は、炭素原子数1以上15以下の1価の炭化水素基を表す。R6は、水素原子又は炭素原子数1以上15以下の1価の炭化水素基を表す。R5及びR6は、互いに結合して環を形成してもよい。
【0033】
特定光塩基発生剤(1)に光(活性エネルギー線)が照射されると、下記反応式(R)で表される反応が容易に生じる。詳しくは、特定光塩基発生剤(1)は、光照射に起因して光水素移動を生じ、ビラジカル化する。ビラジカル化した特定光塩基発生剤(1)は、脱炭酸反応により、有機アミン化合物(HNR56)を生じる。なお、下記反応式(R)において、R1~R6、RX、Z及びnは、各々、一般式(1)と同義である。
【0034】
【化3】
【0035】
特定光塩基発生剤(1)において、Zで表される1価の電子求引基は、光照射に起因する水素引き抜き反応の活性点となる。Zで表される1価の電子求引基は、水素引き抜き反応で引き抜かれる水素原子(R4に隣接する炭素原子に結合する水素原子)と極めて近接している。そのため、特定光塩基発生剤(1)は、光照射に起因する光水素移動が発生し易い。以上から、特定光塩基発生剤(1)は、露光により有機アミン化合物を効率的に発生するため、特定光塩基発生剤として好適である。
【0036】
一般式(1)中、Zで表される1価の電子求引基としては、ハロゲン基、1又は複数のハロゲン基で置換された炭素原子数1以上5以下のアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基)、ニトロ基及びシアノ基が挙げられる。Zは、ニトロ基又はシアノ基を表すことが好ましい。
【0037】
一般式(1)中、Wは、芳香族炭化水素環を表すことが好ましく、ベンゼン環を表すことがより好ましい。
【0038】
一般式(1)中、R1~R3及びRXで表される炭素原子数1以上5以下の1価の炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1以上5以下のアルキル基が挙げられる。R1~R3及びRXで表される炭素原子数1以上5以下の炭化水素オキシ基としては、例えば、炭素原子数1以上5以下のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基及びイソプロポキシ基)が挙げられる。R1~R3は、各々、水素原子を表すことが好ましい。
【0039】
nは、0以上3以下の整数を表すことが好ましく、0を表すことがより好ましい。
【0040】
一般式(1)中、R1及びR2、R2及びR3、R3及び1つのRX、又は隣接する2つのRXが互いに結合して形成する環としては、例えば、飽和脂環式炭化水素環、不飽和脂環式炭化水素環、芳香族炭化水素環及び複素環が挙げられる。なお、「隣接する2つのRX」について、以下に説明する。隣接する2つの炭素原子(α位の炭素原子及びβ位の炭素原子)と、α位の炭素原子及びβ位の炭素原子にそれぞれ結合する2つのRXが存在するときに、この2つのRXは「隣接する2つのRX」である。
【0041】
一般式(1)中、R4で表される炭素原子数1以上6以下の1価の炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1以上6以下のアルキル基が挙げられる。R4で表される炭素原子数6以上15以下の1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基及びアントラセニル基が挙げられる。R4は、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すことが好ましく、メチル基を表すことがより好ましい。
【0042】
一般式(1)中、R5及びR6で表される炭素原子数1以上15以下の1価の炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1以上6以下のアルキル基及び炭素原子数6以上15以下の1価の芳香族炭化水素基が挙げられる。R5は、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すことが好ましく、イソブチル基又はn-ブチル基を表すことがより好ましい。R6は、水素原子を表すことが好ましい。
【0043】
特定光塩基発生剤(1)は、下記化学式(1-1)で表される化合物(以下、特定光塩基発生剤(1-1)と記載することがある)を含むことが好ましい。
【0044】
【化4】
【0045】
一般式(1-1)中、Z、R4~R6は、各々、一般式(1)と同義である。R1~R3及びR7~R9は、各々独立に、水素原子、炭素原子数1以上5以下の1価の炭化水素基、又は炭素原子数1以上5以下の炭化水素オキシ基を表す。R1及びR2、R2及びR3、R3及びR7、R7及びR8、又はR8及びR9は、互いに結合して環を形成してもよい。
【0046】
一般式(1-1)中、R7~R9で表される炭素原子数1以上5以下の1価の炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1以上5以下のアルキル基が挙げられる。R7~R9で表される炭素原子数1以上5以下の炭化水素オキシ基としては、例えば、炭素原子数1以上5以下のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基及びイソプロポキシ基)が挙げられる。R7~R9は、各々、水素原子を表すことが好ましい。
【0047】
一般式(1-1)中、R1及びR2、R2及びR3、R3及びR7、R7及びR8、又はR8及びR9が互いに結合して形成する環としては、例えば、飽和脂環式炭化水素環、不飽和脂環式炭化水素環、芳香族炭化水素環及び複素環が挙げられる。
【0048】
特定光塩基発生剤(1-1)は、下記化学式(I)~(IV)で表される化合物(以下、特定光塩基発生剤(I)~(IV)と記載することがある)を含むことが好ましい。
【0049】
【化5】
【0050】
(特定光塩基発生剤(1)の合成方法)
特定光塩基発生剤(1)は、例えば、下記一般式(A)で表される化合物(以下、原料化合物(A)と記載することがある)を原料とし、下記反応式(R-1)~(R-4)で表される反応(以下、第1反応~第4反応と記載することがある)を順次行うことで合成できる。なお、下記一般式(A)及び下記反応式(R-1)~(R-4)において、Z、R1~R6、RX、W及びnは、一般式(1)と同義である。
【0051】
【化6】
【0052】
(第1反応)
第1反応は、下記反応式(R-1)で表される。詳しくは、第1反応では、原料化合物(A)に電子求引基を付与する。これにより、下記一般式(B)で表される化合物(以下、中間体(B)と記載することがある)が得られる。原料化合物(A)に電子求引基を付与する方法としては、例えば、濃硝酸を用いてニトロ化する方法が挙げられる。原料化合物(A)に電子求引基を付与する方法としては、例えば、原料化合物(A)をニトロ化した後、ニトロ化された原料化合物(A)のニトロ基を他の電子求引基(例えば、シアノ基)に変換する方法も挙げられる。例えば、ニトロ化された原料化合物(A)を水素ガスで還元することで、ニトロ化された原料化合物(A)のニトロ基をアミノ基に変換する。これにより、アミノ基で置換された原料化合物(A)を得る。次に、アミノ基で置換された原料化合物(A)を、NaNO2及びCuCNで処理することで、アミノ基で置換された原料化合物(A)のアミノ基をシアノ基に変換する。以上により、下記一般式(B)中のZがシアノ基を表す中間体(B)が得られる。得られた中間体(B)は、必要に応じて精製を行ってもよい。
【0053】
【化7】
【0054】
(第2反応)
第2反応は、下記反応式(R-2)で表される。詳しくは、第2反応では、中間体(B)を、還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウム)を用いて還元する。これにより、下記一般式(C)で表される化合物(以下、中間体(C)と記載することがある)が得られる。得られた中間体(C)は、必要に応じて精製を行ってもよい。
【0055】
【化8】
【0056】
(第3反応)
第3反応は、下記反応式(R-3)で表される。詳しくは、第3反応では、中間体(C)を、1,1’-カルボニルジイミダゾール(CDI)によってカルバメート化する。これにより、下記一般式(D)で表される化合物(以下、中間体(D)と記載することがある)が得られる。第3反応は、塩基(例えば、トリエチルアミン)の存在下で行うことが好ましい。
【0057】
【化9】
【0058】
(第4反応)
第4反応は、下記反応式(R-4)で表される。詳しくは、第4反応では、中間体(D)を、有機アミン化合物(HNR56)と反応させる。これにより、特定光塩基発生剤(1)が得られる。得られた特定光塩基発生剤(1)は、必要に応じて精製を行ってもよい。
【0059】
【化10】
【0060】
特定光塩基発生剤(1)以外の特定光塩基発生剤としては、例えば、下記式(2)~(8)で表される化合物が挙げられる。
【0061】
【化11】
【0062】
【化12】
【0063】
本発明の前処理液における特定光塩基発生剤の含有割合としては、0.1質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.2質量%以上2.0質量%以下がより好ましい。
【0064】
[水]
水は、本発明の前処理液の主溶媒としての役割を果たす。本発明の前処理液は、水を主溶媒として含有することで、環境負荷を抑制することができる。本発明の前処理液が水を含有する場合、その含有割合としては、60.0質量%以上95.0質量%以下が好ましく、80.0質量%以上90.0質量%以下がより好ましい。
【0065】
[水溶性有機溶剤]
水溶性有機溶剤は、本発明の前処理液における特定光塩基発生剤の溶解性を向上させる。また、水溶性有機溶剤は、液体成分の揮発を抑制することで、本発明の前処理液の粘性を安定化させる。水溶性有機溶剤としては、例えば、グリコール化合物、グリセリン、多価アルコールのエーテル化合物、アセテート化合物、チオジグリコール、含窒素化合物、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0066】
グリコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコ-ル及びテトラエチレングリコールが挙げられる。
【0067】
多価アルコールのエーテル化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、ジエチルカルビトール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。
【0068】
含窒素化合物としては、例えば、ラクタム化合物(例えば、2-ピロリドン又はN-メチル-2-ピロリドン)、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ホルムアミド、及びジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0069】
本発明の前処理液は、水溶性有機溶剤として、グリセリン及びラクタム化合物のうち少なくとも一方を含有することが好ましく、グリセリン及びラクタム化合物を含有することがより好ましく、グリセリン及び2-ピロリドンを含有することが更に好ましい。
【0070】
本発明の前処理液が水溶性有機溶剤を含有する場合、その合計含有割合としては、2.0質量%以上40.0質量%以下が好ましく、7.0質量%以上25.0質量%以下がより好ましい。
【0071】
本発明の前処理液がグリセリンを含有する場合、その含有割合としては、1.0質量%以上25.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以上15.0質量%以下がより好ましい。
【0072】
本発明の前処理液がラクタム化合物を含有する場合、その含有割合としては、1.0質量%以上15.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以上10.0質量%以下がより好ましい。
【0073】
本発明の前処理液は、溶媒として、水、グリセリン及びラクタム化合物のみを含有することが好ましい。本発明の前処理液の溶媒における水、グリセリン及びラクタム化合物の合計含有割合としては、90.0質量%以上が好ましく、99.0質量%以上がより好ましい。
【0074】
[界面活性剤]
界面活性剤は、記録媒体に対する本発明の前処理液の濡れ性を向上させる。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤が好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤(例えば、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物である日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」)がより好ましい。
【0075】
本発明の前処理液が界面活性剤を含有する場合、その含有割合としては、0.01質量%以上2.00質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.50質量%以下がより好ましい。
【0076】
[前処理液の調製方法]
本発明の前処理液は、特定光塩基発生剤と、必要に応じて添加される界面活性剤等の任意成分とを溶媒に添加することにより調製することができる。
【0077】
<第2実施形態:インクジェット記録装置>
本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録装置は、記録媒体の画像形成領域に画像を形成するインクジェット記録装置であって、記録媒体の画像形成領域に、第1実施形態に係る前処理液を吐出する前処理部と、前処理液が吐出された記録媒体の画像形成領域を露光する露光部と、露光された記録媒体の画像形成領域にインクを吐出することで画像を形成する記録ヘッドとを備える。本発明のインクジェット記録装置は、第1実施形態に係る前処理液を用いることで、インクノズルの詰まりを抑制しつつ、形成される画像の画質を向上できる。
【0078】
以下、本発明のインクジェット記録装置の一例について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明のインクジェット記録装置の一例であるインクジェット記録装置1の要部を示す側面図である。インクジェット記録装置1は、記録媒体(図示略)の画像形成領域に前処理液を吐出する前処理部2と、前処理液が吐出された記録媒体の画像形成領域を露光する露光部3と、露光された記録媒体の画像形成領域にインクを吐出することで画像を形成する第1記録ヘッド4a、第2記録ヘッド4b、第3記録ヘッド4c及び第4記録ヘッド4d(以下、まとめて記録ヘッド4と記載することがある)と、記録媒体を搬送する搬送ベルト5とを少なくとも備える。第1記録ヘッド4a~第4記録ヘッド4dは、それぞれ異なるインク(例えば、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク及びブラックインク)を吐出する。インクジェット記録装置1は、例えば、外部コンピューターから受信した画像データ及び印刷条件(具体的には、両面印刷の有無等)に基づいて、記録媒体上にフルカラー画像を形成する。
【0079】
搬送ベルト5は、例えば無端ベルトの一部であり、記録媒体を一方向(図1では右方向)に搬送する。前処理部2、露光部3及び第1記録ヘッド4a~第4記録ヘッド4dは、記録媒体の搬送方向に沿ってこの順番で搬送ベルト5の上方に配設されている。インクジェット記録装置1は、搬送ベルト5で記録媒体を搬送しながら、記録媒体の画像形成領域が前処理部2、露光部3又は第1記録ヘッド4a~第4記録ヘッド4dの直下に搬送された際に、画像形成領域への前処理液の吐出、露光又はインクの吐出をそれぞれ行う。以上、図面を参照しつつインクジェット記録装置1を説明した。
【0080】
但し、図1に示したのは本発明のインクジェット記録装置の一例に過ぎない。具体的には、本発明のインクジェット記録装置の備える記録ヘッドの数は、1個のみでもよく(即ち、本発明のインクジェット記録装置は、モノクロ画像形成用であってもよい)、2個、3個又は5個以上であってもよい。また、本発明のインクジェット記録装置は、搬送ベルトを備えていなくてもよい。この場合、本発明のインクジェット記録装置は、移動可能な前処理部、移動可能な露光部及び移動可能な記録ヘッドを備えるとよい。即ち、本発明のインクジェット記録装置は、記録媒体を搬送する代わりに、前処理部、露光部及び記録ヘッドを記録媒体の画像形成領域の上方に順次移動させることで、画像形成領域への前処理、露光及びインクの吐出を行ってもよい。更に、本発明のインクジェット記録装置は、前処理部、露光部、記録ヘッド及び搬送ベルト以外の他の部材を更に備えてもよい。本発明のインクジェット記録装置が備える他の部材としては、例えば、記録媒体を搬送ベルトに供給する供給部、画像が形成された記録媒体に後処理(例えば、乾燥処理等)を行う後処理部、インク吐出後の記録ヘッドをクリーニングするクリーニング部、電子制御部(例えば、CPU又はメモリー)、入力部(例えば、キーボード、マウス又はタッチパネル)、及び通信部が挙げられる。以下、記録媒体、前処理部、露光部及び記録ヘッドの詳細を説明する。
【0081】
[記録媒体]
記録媒体としては、シート状の部材であれば材質、形状及び厚さは限定されない。記録媒体としては、例えば、印刷用紙(例えば、コート紙又はグラビア紙)、布帛(例えば、ポリエステル生地)、及び樹脂フィルム(例えば、ポリエステルフィルム)が挙げられる。本発明のインクジェット記録装置は、第1実施形態に係る前処理液を用いて前処理を行うため、樹脂フィルム及びコート紙のような吸水性の低い記録媒体、又はポリエステル生地のような撥水性の高い生地に対しても高画質な画像を形成することができる。
【0082】
[前処理部]
前処理部は、記録媒体の画像形成領域に前処理液を吐出する。前処理液を吐出する方法としては、特に限定されないが、例えば、ピエゾ方式、サーマルインクジェット方式及びスプレー方式が挙げられる。
【0083】
前処理液の吐出量としては、記録媒体に応じて適宜変更することができるが、例えば、記録媒体の画像形成領域1mm2に対して1nL以上10nL以下とすることができる。
【0084】
[露光部]
露光部は、前処理液が吐出された記録媒体の画像形成領域を露光する。これにより、記録媒体の画像形成領域において、前処理液中の特定光塩基発生剤から塩基成分(有機アミン化合物)を発生させる。露光光としては、例えば、400nmより短波長の光を含む露光光を用いることができる。露光波長としては、150nm以上300nm以下が好ましく、200nm以上250nm以下がより好ましい。露光光としては、例えば、高圧水銀灯の共鳴線(313nm及び254nm)、KrFエキシマレーザー光(248nm)、KrClエキシマレーザー光(222nm)及びArFエキシマレーザー光(193nm)が挙げられる。露光線量としては、例えば、1mJ/cm2以上100mJ/cm2以下とすることができる。
【0085】
[記録ヘッド]
記録ヘッドは、露光された記録媒体の画像形成領域にインクを吐出することで画像を形成する。吐出されたインク中の顔料は、画像形成領域中の塩基成分と凝集反応を生じる。これにより、インク中の顔料の画像形成領域への定着が促進され、高画質な画像が形成される。記録ヘッドとしては、特に限定されず、一般的なインクジェット記録装置が備える記録ヘッド(例えば、ラインヘッド方式の記録ヘッド又はシリアルヘッド方式の記録ヘッド)を用いることができる。
【0086】
(インク)
記録ヘッドから吐出するインクとしては、一般的なインクジェット記録装置に使用されるインク(例えば、水性インク)を用いることができる。水性インクは、例えば、水性媒体と、顔料粒子とを含む。顔料粒子は、水性媒体中において、互いに分散して存在する。顔料水性インクは、界面活性剤及び水溶性有機溶剤のうち少なくとも一方を更に含有してもよい。
【0087】
(顔料粒子)
顔料粒子は、各々、顔料のみからなる粒子であってもよく、顔料と、顔料の表面の少なくとも一部分を被覆する被覆樹脂とを含む粒子であってもよい。顔料粒子は、顔料と、被覆樹脂としてのカチオン性樹脂とを含むことが好ましい。カチオン性樹脂を含む顔料粒子を含有する水性インクは、有機アミン化合物との反応により顔料が凝集し易い。そのため、このような水性インクは、本発明のインクジェット記録装置に用いるインクとして好適である。
【0088】
顔料粒子の体積中位径(D50)としては、水性インクの色濃度、色相、及び安定性の観点から、30nm以上200nm以下が好ましく、70nm以上130nm以下がより好ましい。
【0089】
(顔料)
顔料としては、例えば、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、紫色顔料、及び黒色顔料が挙げられる。黄色顔料としては、例えばC.I.ピグメントイエロー74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、及び193が挙げられる。橙色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ34、36、43、61、63、及び71が挙げられる。赤色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド122、及び202が挙げられる。青色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、及び15:3が挙げられる。紫色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントバイオレット19、23、及び33が挙げられる。黒色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック7が挙げられる。
【0090】
水性インクが顔料を含有する場合、その含有割合としては、4質量%以上8質量%以下が好ましい。顔料の含有量を4質量%以上とすることで、所望の画像濃度を有する画像を形成し易くなる。一方、顔料の含有量を8質量%以下とすることで、記録媒体に対する水性インクの浸透性を確保し易くなる。また、顔料の含有量を8質量%以下とすることで、水性インク中での顔料の流動性を確保し易くなり、その結果、所望の画像濃度を有する画像を形成し易くなる。
【0091】
(被覆樹脂)
上述の通り、被覆樹脂としては、カチオン性樹脂が好ましい。カチオン性樹脂としては、例えば、ピペリジニウム構造を含む繰り返し単位を有する樹脂が挙げられる。
【0092】
(界面活性剤)
界面活性剤は、記録媒体に対する水性インクの濡れ性を向上させる。水性インクにおける界面活性剤の種類及び含有量としては、前処理液において例示した界面活性剤の種類及び含有量と同様とすることができる。
【0093】
(水溶性有機溶剤)
水溶性有機溶剤は、液体成分の揮発を抑制して水性インクの粘性を安定化させる。水性インクにおける水溶性有機溶剤の種類及び含有量としては、前処理液において例示した水溶性有機溶剤の種類及び含有量と同様とすることができる。
【0094】
前処理液及び水性インクは、それぞれ同一種類の水溶性有機溶剤を同一の含有割合で含有することが好ましい。また、前処理液及び水性インクは、同一種類の界面活性剤を同一の含有割合で含有することが好ましい。このように、前処理液及び水性インクの組成を近づけることで、記録媒体に吐出された前処理液及び水性インクが混ざり易くなり、その結果、前処理液中の特定光塩基発生剤から発生した塩基成分と水性インク中の顔料との凝集反応が促進される。
【0095】
<第3実施形態:画像形成方法>
本発明の第3実施形態に係る画像形成方法は、記録媒体の画像形成領域に画像を形成する方法であって、記録媒体の画像形成領域に、第1実施形態に係る前処理液を吐出する前処理液吐出工程と、前処理液が吐出された記録媒体の画像形成領域を露光する露光工程と、露光された記録媒体の画像形成領域にインクを吐出することで画像を形成するインク吐出工程とを備える。本発明の画像形成方法は、第1実施形態に係る前処理液を用いることで、インクノズルの詰まりを抑制しつつ、形成される画像の画質を向上できる。
【0096】
本発明の画像形成方法には、例えば、第2実施形態に係るインクジェット記録装置を用いることができる。本発明の画像形成方法における記録媒体及びインクは、第2実施形態に係るインクジェット記録装置と同様の記録媒体及びインクを用いることができる。以下、各工程について説明する。
【0097】
[前処理液吐出工程]
本工程では、記録媒体の画像形成領域に、第1実施形態に係る前処理液を吐出する。前処理液の吐出方法としては、特に限定されないが、例えば、第2実施形態に記載の前処理部を用いて吐出する方法が挙げられる。
【0098】
[露光工程]
本工程では、前処理液が吐出された記録媒体の画像形成領域を露光する。これにより、前処理液中の特定光塩基発生剤から塩基成分を発生させる。露光方法としては、特に限定されないが、例えば、第2実施形態に記載の露光部を用いて露光する方法が挙げられる。
【0099】
[インク吐出工程]
本工程では、露光された記録媒体の画像形成領域にインクを吐出することで画像を形成する。インクを吐出する方法としては、特に限定されないが、例えば、第2実施形態に記載の記録ヘッドを用いて吐出する方法が挙げられる。
【0100】
本発明の画像形成方法は、前処理液吐出工程、露光工程及びインク吐出工程以外の他の工程を更に備えていてもよい。他の工程としては、例えば、画像が形成された記録媒体に後処理(例えば、乾燥処理等)を行う後処理工程、及びインク吐出後の記録ヘッドをクリーニングするクリーニング工程が挙げられる。
【実施例
【0101】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。しかし、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
【0102】
[特定光塩基発生剤の準備]
以下の方法により、第1実施形態で説明した特定光塩基発生剤(I)~(IIV)を合成した。
【0103】
(特定光塩基発生剤(I))
下記化学式(a-1)で表される化合物(アセトナフトン)を原料化合物として用いた。この原料化合物に対して、下記反応式(r-1)~(r-4)で表される反応(第1反応~第4反応)を行うことにより、特定光塩基発生剤(I)を合成した。
【0104】
(第1反応)
温度計及び攪拌子をセットした容量200mLの4つ口フラスコを反応容器として用いた。反応容器に濃硝酸50mLを投入し、内容物を攪拌した。次に、氷水浴を用い、反応容器の内温を0℃付近まで冷却した。次に、反応容器に、アセトナフトン10gをゆっくりと投入した。これにより、濃硝酸にアセトナフトンを完全に溶解させた。次に、氷水浴を用いて反応容器の内温を0℃付近に維持しつつ、内容物を約1時間攪拌した。その後、反応容器の内温を20℃付近まで昇温させた後、内容物を更に約1時間攪拌した(ニトロ化反応)。攪拌後、反応容器の内容物のニトロ化反応が完結していることを、薄層クロマトグラフィーにより確認した。薄層クロマトグラフィーでは、展開溶媒として、酢酸エチル及びn-ヘキサンの混合溶媒(酢酸エチルの質量:n-ヘキサンの質量=1:3)を用いた。次に、反応容器に氷水650mLに投入し、濃硝酸を失活させた。次に、反応容器にクロロホルム300mLを投入し、内容物を水層及び有機層に分離させた。次に、上述の水層を廃棄し、有機層を回収した。次に、回収した有機層を、水道水300mLで洗浄した。次に、水道水で洗浄した後の有機層を、飽和重曹水300mLで洗浄した。次に、飽和重曹水で洗浄した後の有機層を、飽和食塩水300mLで洗浄した。次に、飽和食塩水で洗浄した後の有機層に、無水硫酸ナトリウムを添加し、30分ほど攪拌した(脱水処理)。脱水処理後の有機層をろ過し、ろ液を回収した。回収したろ液を、エバポレーターを用いて濃縮することで、中間体(B)の粗生成物7.6gを得た。特定光塩基発生剤(I)の合成においては、中間体(B)は、下記化学式(b-1)で表される化合物(以下、中間体(b-1)と記載することがある)であった。
【0105】
次に、上述の中間体(B)の粗生成物を、カラムクロマトグラフィーに供した。カラムクロマトグラフィーにおいては、担体として203gのシリカゲルを用い、溶媒としてヘキサン及び酢酸エチルの混合溶媒(ヘキサンの質量:酢酸エチルの質量=1:1)を用いた。カラムクロマトグラフィーにより、中間体(B)が含まれるスポットを単離した。その後、単離したスポットから、精製された中間体(B)7.5gを得た。
【0106】
【化13】
【0107】
(第2反応)
温度計及び攪拌子をセットした容量200mLの4つ口フラスコを反応容器として用いた。反応容器に、テトラヒドロフラン40mLと、上述の精製された中間体(B)3.84gとを投入し、テトラヒドロフランに中間体(B)を溶解させた。次に、反応容器を氷浴にセットし、内温を0度付近まで冷却した。次に、反応容器に、水素化ホウ素ナトリウム670mgをゆっくり投入した後、内容物を1時間攪拌した。次に、反応容器を氷浴から外し、反応容器の内温を室温(23℃)まで昇温させた。次に、反応容器の内容物を約1時間攪拌した。反応容器の内容物から中間体(B)が消失したことを薄層クロマトグラフィーにより確認した。薄層クロマトグラフィーでは、展開溶媒として、酢酸エチル及びn-ヘキサンの混合溶媒(酢酸エチルの質量:n-ヘキサンの質量=1:3)を用いた。次に、反応容器の内容物を、1mol/LのHCl水溶液70mLに投入し、溶液Aを得た。これにより、反応容器の内容物に含まれていた未反応の水素化ホウ素ナトリウムを完全に反応させた。次に、エバポレーターを用い、溶液Aを濃縮して残渣を得た。次に、残渣にジクロロメタン130mLを添加し、残渣をジクロロメタンに完全に溶解させた。これにより、溶液Bを得た。次に、溶液Bを、水道水130mLで洗浄した。次に、水道水で洗浄した後の溶液Bを、飽和重曹水130mLで洗浄した。次に、飽和重曹水で洗浄した後の溶液Bを、飽和食塩水130mLで洗浄した。次に、飽和食塩水で洗浄した後の溶液Bに無水硫酸ナトリウムを加えて30分間攪拌した(脱水処理)。次に、脱水処理後の溶液Bをろ過し、ろ液を回収した。次に、回収したろ液を、エバポレーターを用いて濃縮することで、中間体(C)の粗生成物2.49gを得た。特定光塩基発生剤(I)の合成においては、中間体(C)は、下記化学式(c-1)で表される化合物であった。
【0108】
【化14】
【0109】
(第3反応)
温度計及び攪拌子をセットした容量50mLの4つ口フラスコを反応容器として用いた。室温(23℃)にて、反応容器にジクロロメタン20mLを投入し、内容物を攪拌した。次に、中間体(C)の粗生成物2.17gを反応容器に投入し、ジクロロメタンに中間体(C)を溶解させた。次に、反応容器にトリエチルアミン1.4mLを投入した後、内容物を約5分攪拌した。次に、反応容器に1,1’-カルボニルジイミダゾール(CDI)を1.98g投入した後、内容物を2時間攪拌した。中間体(C)が消費され、中間体(D)が生成したことを、薄層クロマトグラフィーにより確認した。薄層クロマトグラフィーでは、展開溶媒として、酢酸エチル及びn-ヘキサンの混合溶媒(酢酸エチルの質量:n-ヘキサンの質量=1:3)を用いた。特定光塩基発生剤(I)の合成においては、中間体(D)は、下記化学式(d-1)で表される化合物であった。
【0110】
【化15】
【0111】
(第4反応)
次に、反応容器に有機アミン化合物を投入し、約12時間攪拌した。特定光塩基発生剤(I)の合成においては、有機アミン化合物としては、n-ブチルアミンを用いた。次に、中間体(D)が消費され、特定光塩基発生剤(I)が生成したことを、薄層クロマトグラフィーにより確認した。薄層クロマトグラフィーでは、展開溶媒として、酢酸エチル及びn-ヘキサンの混合溶媒(酢酸エチルの質量:n-ヘキサンの質量=1:3)を用いた。次に、反応容器の内容物を、エバポレーターを用いて濃縮し、残渣を回収した。次に、回収した残渣に酢酸エチル50mLを投入し、酢酸エチルに残渣を完全に溶解させることで溶液C(有機層)を得た。次に、溶液Cを、1NのHCl水溶液50mLで洗浄した。次に、HCl水溶液で洗浄した後の溶液Cを、飽和重曹水50mLで洗浄した。次に、飽和重曹水で洗浄した後の溶液Cを、飽和食塩水50mLで洗浄した。次に、飽和食塩水で洗浄した後の溶液Cに無水硫酸ナトリウムを加え、約30分間攪拌した(脱水処理)。次に、脱水処理後の溶液Cをろ過し、ろ液を回収した。回収したろ液を、エバポレーターを用いて濃縮することにより、特定光塩基発生剤(I)の粗生成物を得た。
【0112】
得られた特定光塩基発生剤(I)の粗生成物を、カラムクロマトグラフィーに供した。カラムクロマトグラフィーにおいては、担体として、粗生成物の30体積倍のシリカゲルを用いた。また、カラムクロマトグラフィーにおいては、溶媒としてヘキサン及び酢酸エチルの混合溶媒(ヘキサンの質量:酢酸エチルの質量=1:1)を用いた。カラムクロマトグラフィーにより、特定光塩基発生剤(I)が含まれるスポットを単離した。その後、単離したスポットから、精製された特定光塩基発生剤(I)2.2gを得た。
【0113】
【化16】
【0114】
(特定光塩基発生剤(II))
以下の点を変更した以外は、特定光塩基発生剤(I)と同様の方法により、特定光塩基発生剤(II)を合成した。特定光塩基発生剤(II)の合成では、第1反応に用いる中間体(B)として、中間体(b-1)の代わりに、下記化学式(b-3)で表される化合物(以下、中間体(b-3)と記載することがある)を等モル用いた。中間体(b-3)は、下記反応式(r-5)で表される反応により合成した。以下、中間体(b-3)の合成方法の詳細を説明する。
【0115】
(中間体(b-3)の合成)
特定光塩基発生剤(I)の合成時と同様の方法により、中間体(b-1)を得た。得られた中間体(b-1)10gを、100mLの乾燥メタノールに溶解させ、反応液を得た。25℃にて反応液に水素ガスを30分間吹き込み、中間体(b-1)のニトロ基をアミノ基に変換した。これにより、下記化学式(b-2)で表される化合物(以下、中間体(b-2)と記載することがある)8.5gを得た。
【0116】
中間体(b-2)8gを、1mol/Lの硫酸100mLに溶解させ、反応液を得た。反応液の液温を0℃~5℃に維持しながら、反応液に亜硝酸ナトリウム水溶液(1mmol/L)22mLを滴下した。滴下終了後、反応液の液温を0℃~5℃に維持しつつ、30分間攪拌した。次に、反応液の液温を0℃~5℃に維持しつつ、反応液にシアン化銅(CuCN)0.2gを加えた。その後、反応液を0℃~5℃で2時間反応させた。反応終了後、反応液を氷水100mLに注いだ。次に、反応液にジエチルエーテル50mLを添加してエーテル層を抽出した。抽出したエーテル層をエバポレーターで濃縮することにより、中間体(b-3)の粗生成物6.5gを得た。
【0117】
中間体(b-3)の粗生成物6.5gを、カラムクロマトグラフィーに供した。カラムクロマトグラフィーにおいては、担体として650gのシリカゲルを用い、溶媒としてヘキサン及び酢酸エチルの混合溶媒(ヘキサンの質量:酢酸エチルの質量=4:1)を用いた。カラムクロマトグラフィーにより、中間体(b-3)が含まれるスポットを単離した。その後、単離したスポットから、精製された中間体(b-3)5.8gを得た。
【0118】
【化17】
【0119】
(特定光塩基発生剤(III)の合成)
以下の点を変更した以外は、特定光塩基発生剤(I)の合成と同様の方法により、特定光塩基発生剤(III)を合成した。特定光塩基発生剤(III)の合成では、第4反応に用いる有機アミン化合物として、n-ブチルアミンの代わりに、等モルのイソブチルアミンを用いた。
【0120】
(特定光塩基発生剤(IV)の合成)
以下の点を変更した以外は、特定光塩基発生剤(II)の合成と同様の方法により、特定光塩基発生剤(IV)を合成した。特定光塩基発生剤(IV)の合成では、第4反応に用いる有機アミン化合物として、n-ブチルアミンの代わりに、等モルのイソブチルアミンを用いた。
【0121】
[前処理液(A-1)の調製]
特定光塩基発生剤(I)0.5gと、水溶性有機溶剤としてのグリセリン10.0g及び2-ピロリドン5.0gと、界面活性剤としての日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」0.1gとをイオン交換水に添加し、全量を100.0gに調製した。これにより、前処理液(A-1)を得た。
【0122】
[前処理液(A-2)~(A-4)及び(B-2)の調製]
特定光塩基発生剤の種類を下記表1に示す通りに変更した以外は、前処理液(A-1)の調整と同様の方法により、前処理液(A-2)~(A-4)及び(B-2)を調整した。なお、下記表1の「O0396」は、東京化成工業株式会社製「O0396」であった。東京化成工業株式会社製「O0396」は、露光によって環状グアニジン化合物を発生する下記化学式で表される化合物を含んでいた。
【0123】
【化18】
【0124】
[前処理液(B-1)の調製]
n-ブチルアミン0.5gと、水溶性有機溶剤としての2-ピロリドン5.0gと、界面活性剤としての日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」0.1gとをイオン交換水に添加し、全量を100.0gに調製した。これにより、前処理液(B-1)を得た。
【0125】
【表1】
【0126】
[ブラックインクの調製]
カチオン性樹脂であるポリ-N,N’-ジメチル-3,5-メチレンピペリジニウム塩(センカ株式会社製、Mw:3700)2質量部と、ジエチレングリコール5質量部と、イオン交換水78質量部とを混合し、混合液を得た。得られた混合液を、ウォーターバスを用いて70℃に加温した。これにより、カチオン性樹脂を溶媒(ジエチレングリコール及びイオン交換水)に完全に溶解させた。次に、混合液に、顔料としてのカーボンブラック(東海カーボン株式会社製「#7550B/F」)15質量部を添加した。次に、混合液に対して30分間のプレミキシングを行った。次に、プレミキシング後の混合液に対して、下記条件にて分散処理を行った。
【0127】
(分散条件)
分散機:サンドグラインダー(アイメックス株式会社製)
粉砕メディア:ジルコニアビーズ(1mm径)
粉砕メディア充填率:60体積%
粉砕時間:6時間
【0128】
分散処理後の混合液を遠心分離(10000rpm、2分)し、粗大粒子を沈殿させて上澄みを回収した。この上澄みをブラック顔料分散液とした。ブラック顔料分散液は、カーボンブラック濃度が12.5質量%、カーボンブラックの体積中位径(D50)が130nmであった。
【0129】
ブラック顔料分散液80質量部と、1,3-プロパンジオール15質量部と、2-ピロリドン5質量部と、界面活性剤としての日信化学工業株式会社製「サーフィノール(登録商標)104」(アセチレングリコール界面活性剤)0.2質量部とを混合した。得られた混合物を0.5μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、ブラックインク(顔料濃度:10質量%)を得た。
【0130】
[イエローインクの調製]
顔料の種類をイエロー顔料(山陽色素株式会社製「FAST YELLOW7413」)に変更した以外は、ブラック顔料分散液の調製と同様の方法により、イエロー顔料分散液を調製した。イエロー顔料分散液は、イエロー顔料濃度が12.5質量%、イエロー顔料の体積中位径(D50)が130nmであった。
【0131】
イエロー顔料分散液40質量部と、1,3-プロパンジオール20質量部と、2-ピロリドン5質量部と、界面活性剤としての日信化学工業株式会社製「サーフィノール(登録商標)104」(アセチレングリコール界面活性剤)0.2質量部と、イオン交換水35質量部とを混合した。得られた混合物を0.5μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、イエローインク(顔料濃度:5質量%)を得た。
【0132】
<評価>
上述の前処理液(A-1)~(A-4)及び(B-1)~(B-2)について、保存安定性と、発生する臭気と、インクノズルの詰まりと、形成される画像の画質とを評価した(実施例1~4及び比較例2~3)。更に、前処理液を用いずに画像形成を行い、発生する臭気と、インクノズルの詰まりと、形成される画像の画質とを評価した(比較例1)。評価は、温度20℃、湿度30%RHの環境下で行った。評価結果を下記表2に示す。
【0133】
(評価機)
画像形成に用いる評価機としては、搬送ユニット(ベルトコンベア)と、4つの記録ヘッド(それぞれラインヘッド)とを備えるインクジェット記録装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の試作機)の改造機を用いた。この試作機の記録ヘッドは、解像度600dpi(=150dpi×4列)、ノズル数2400個(=600個×4列)、液滴量11pL、駆動周波数20kHzのピエゾ型ヘッドであった。試作機の4つの記録ヘッドは、それぞれ長手方向が紙の搬送方向に直交するように配設されていた。4つの記録ヘッドの間隔は、50mmであった。改造においては、4つの記録ヘッドよりも搬送方向上流側に露光部(KrClエキシマ光照射ユニット、ウシオ電機株式会社製)を追加し、更に露光部よりも搬送方向上流側に前処理部を追加した。露光条件は、波長222nm、照射照度10mW/cm2とした。前処理部としては、上述の記録ヘッドと同型のピエゾ型ヘッドを用いて前処理液を吐出するように設定した。前処理液の吐出量は、記録媒体の画像形成領域1mm2に対して3.0nLに設定した。
【0134】
4つの記録ヘッドのうち、2つの記録ヘッドからそれぞれ上述のブラックインク又はイエローインクが吐出されるように設定した。なお、残りの2つの記録ヘッドは使用しなかった。
【0135】
[ノズル詰まり]
上述の評価機を用いてA4の記録用紙に印字率100%で10000枚の連続印刷を行った。その後、評価機の不吐出ピン数を数えた。ノズル詰まりは、下記基準に基づいて評価した。
A(良好):不吐出ピン数が5個以下
B(不良):不吐出ピン数が5個超
【0136】
[臭気]
上述のノズル詰まりの評価において、連続印刷中に臭気が評価機から発生したか否かを官能検査により確認した。官能検査は、評価機から1m以内の位置で行った。前処理液の臭気は、官能検査により臭気が確認されなかった場合を良好(A)、官能検査により臭気が確認された場合を不良(B)と評価した。
【0137】
[保存安定性]
各前処理液100gについて、pHを測定した後、60℃で1ヶ月保存処理し、その後、pHを再度測定した。下記式により、pH変化を求めた。保存安定性は、下記基準に基づいて評価した。
pH変化=保存処理前のpH-保存処理後のpH
A(良好):pH変化の絶対値が0.3以内
B(不良):pH変化の絶対値が0.3超
【0138】
[画像評価]
上述の評価機を用いて以下の記録媒体に画像を形成し、画像濃度、フェザリング及びカラーブリードを評価した。
【0139】
(記録媒体)
評価に用いる記録媒体として、以下を用意した。
コート紙A:王子製紙株式会社製「PODグロスコート(ビジネスコートグロス)」、坪量100g/m2
グラビア紙:王子製紙株式会社製「スペースDX」、坪量56.5g/m2
コート紙B:セイコーエプソン株式会社製「スーパーファイン紙(インクジェット用マットコート紙)」、坪量102g/m2
透明ポリエステルフィルム(PEsフィルム):東レ株式会社製「ルミラー(登録商標)U10」、厚み100μm
ポリエステル生地(PEs生地):株式会社色染社製「ポリエステルタフタ」、目付71.8g/m2
【0140】
(画像濃度)
評価機を用いて各記録媒体に対して2cm×2cmの黒色ソリッド画像を形成した。評価機に用いる前処理液としては、60℃にて1ヶ月保存後の前処理液、又は保存処理前の前処理液を用いた。解像度は600dpiとした。形成した黒色ソリッド部の画像濃度をX-Rite社製「反射型カラー分光測色濃度計」で測定した。画像濃度は、測定値が大きいほど高濃度の画像であることを示す。
【0141】
各前処理液は、保存処理前の前処理液を用いて形成した画像の画像濃度が下記基準を満たしていた場合を良好(A)と評価し、下記基準を満たしていない場合を不良(B)と評価した。
【0142】
(画像濃度の評価基準)
コート紙A :1.4以上
グラビア紙 :1.4以上
コート紙B :1.4以上
PEsフィルム:1.8以上
PEs生地 :1.8以上
【0143】
(フェザリング)
評価機を用いて各記録媒体に幅1mmの黒色細線を形成して肉眼で観察した。前処理液としては、60℃で1ヶ月保存処理した前処理液、又は保存処理前の前処理液を用いた。解像度は600dpiとした。フェザリングの評価においては、保存処理前の前処理液、及び保存処理後の前処理液のいずれを用いても黒色細線の周囲に滲み(フェザリング)が発生していない場合を良好(A)、それ以外の場合を不良(B)と判断した。
【0144】
(カラーブリード)
評価機を用いて各記録媒体に4cm×4cmの黒色ソリッド画像と、4cm×4cmのイエローソリッド画像とを、互いに隣接するように形成した。そして、黒色ソリッド画像及びイエローソリッド画像の境界部を肉眼で観察した。前処理液としては、60℃で1ヶ月保存処理後の前処理液、又は保存処理前の前処理液を用いた。解像度は600dpiとした。カラーブリードの評価においては、保存処理前の前処理液、及び保存処理後の前処理液のいずれを用いても黒色ソリッド画像及びイエローソリッド画像の境界において混色が確認されなかった場合を良好(A)、それ以外の場合を不良(B)と判断した。
【0145】
なお、下記表2において、「-」は、該当する評価を行っていないことを示す。
【0146】
【表2】
【0147】
実施例1~4で用いた前処理液(A-1)~(A-4)は、露光によって有機アミン化合物を発生する特定光塩基発生剤を含有していた。その結果、表2に示すように、実施例1~4では、インクノズルの詰まりを抑制しつつ、高画質の画像を形成することができた。また、実施例1~4では、臭気を抑制できた。更に、前処理液(A-1)~(A-4)は、保存安定性も良好であった。
【0148】
一方、比較例1では、前処理液を用いなかった。そのため、表2に示すように、比較例1では、十分に高画質な画像を形成することはできなかった。
【0149】
比較例2で用いた前処理液(B-1)は、特定光塩基発生剤の代わりに、有機アミン化合物を含有していた。そのため、表2に示すように、比較例2では、高画質の画像を形成できたが、インクノズルの詰まりが発生した。これは、比較例2では、インクジェット記録装置内で、有機アミン化合物を含むミストとインクを含むミストとが混合することで、凝集物を含む混合ミストが発生したためであると判断される。また、前処理液(B-1)は、保存安定性が不良であった。更に、比較例2では、有機アミン化合物を含むミストが発生するため、臭気が発生した。
【0150】
比較例3で用いた前処理液(B-2)は、特定光塩基発生剤の代わりに、露光によって環状グアニジン化合物を発生する光塩基発生剤を含有していた。その結果、表2に示すように、比較例3では、高画質の画像を形成できたが、インクノズルの詰まりが発生した。これは、前処理液(B-2)は、保存安定性が低く、露光前の段階で環状グアニジン化合物が発生していた。そして、比較例3では、インクジェット記録装置内で、環状グアニジン化合物を含むミストとインクを含むミストとが混合することで、凝集物を含む混合ミストが発生したためであると判断される。また、比較例3では、環状グアニジン化合物を含むミストが発生するため、臭気が発生した。
【0151】
以上のことから、本発明の前処理液、インクジェット記録装置及び画像形成方法は、インクノズルの詰まりを抑制しつつ、形成される画像の画質を向上できると判断される。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明の前処理液、インクジェット記録装置及び画像形成方法は、画像形成に利用することがきる。
【符号の説明】
【0153】
1 インクジェット記録装置
2 前処理部
3 露光部
4 記録ヘッド
4a 第1記録ヘッド
4b 第2記録ヘッド
4c 第3記録ヘッド
4d 第4記録ヘッド
5 搬送ベルト
図1