(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】ステアリングコラム装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/19 20060101AFI20231031BHJP
B62D 1/187 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
B62D1/19
B62D1/187
(21)【出願番号】P 2019193620
(22)【出願日】2019-10-24
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】梅藤 孝啓
(72)【発明者】
【氏名】藤村 統
(72)【発明者】
【氏名】吉村 知記
(72)【発明者】
【氏名】上野 聡
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-295251(JP,A)
【文献】米国特許第05673937(US,A)
【文献】特開2008-006840(JP,A)
【文献】特開2006-281842(JP,A)
【文献】特開昭61-125963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/19
B62D 1/187
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に固定され、一対の側壁部を有するマウントブラケットと、
アッパチューブとロアチューブとを嵌め合わせて構成され、前記一対の側壁部の間に車体前後方向に沿って配設されるステアリングコラムと、
前記アッパチューブに設けられ、一対の摺接壁を有するディスタンスブラケットと、
前記一対の側壁部及び前記一対の摺接壁を貫通
し、軸周りに回動自在に支持されているチルトボルトと、
前記アッパチューブに対して車体前方側へ設定値以上の荷重が加わった際に、前記アッパチューブと前記ロアチューブとの相対移動により前記ステアリングコラムを収縮させて、前記ステアリングコラムを前記マウントブラケットから離脱させるための離脱機構とを備え、
前記離脱機構は、前記ディスタンスブラケットの前記摺接壁に設けられて前記チルトボルトが挿通され、車体後方側に開放端を持つスリットと、前記チルトボルトの外周に装着されるカラーとを有し、
前記カラーは、前記チルトボルトの外周と前記カラーの内周との間に遊びがある状態で前記チルトボルトの外周に装着される、ステアリングコラム装置。
【請求項2】
前記カラーは、樹脂材料で形成される樹脂カラーである、請求項1に記載のステアリングコラム装置。
【請求項3】
前記離脱機構は、前記ディスタンスブラケットに設けられ、前記チルトボルトが前記ディスタンスブラケットの前記スリットに沿って前記摺接壁から離脱するときの荷重を設定するためのベンディングプレートを有する、請求項1又は2に記載のステアリングコラム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングコラム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングコラム装置は、車体に固定され、一対の側壁部を有するマウントブラケットと、アッパチューブとロアチューブとを嵌め合わせて構成され、一対の側壁部の間に車体前後方向に沿って配設されるステアリングコラムとを備える(例えば、特許文献1)。このステアリングコラム装置は、ステアリングコラムのアッパチューブに設けられ、一対の摺接壁を有するディスタンスブラケットと、一対の側壁部及び一対の摺接壁を貫通するチルトボルトとを備える。マウントブラケットにおける一対の側壁部が、ステアリングコラムをチルト方向に移動可能に支持している。
【0003】
前述のステアリングコラム装置では、二次衝突時にステアリングコラムに荷重が負荷された際、衝突荷重によるエネルギを吸収するために、アッパチューブが管軸方向に沿って車体前方側へ移動してステアリングコラムが収縮するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のステアリングコラム装置では、二次衝突時にステアリングコラムに荷重が負荷された際、ディスタンスブラケット又はディスタンスブラケットに設けたベンディングプレートからチルトボルトに、レバーの締結解除方向の力が作用する可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、二次衝突時にステアリングコラムに荷重が負荷された際、チルトボルトがレバーの締結解除方向に回動してチルトロックが解除されることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るステアリングコラム装置は、車体に固定され、一対の側壁部を有するマウントブラケットと、アッパチューブとロアチューブとを嵌め合わせて構成され、一対の側壁部の間に車体前後方向に沿って配設されるステアリングコラムとを備える。ステアリングコラム装置は、アッパチューブに設けられ、一対の摺接壁を有するディスタンスブラケットと、一対の側壁部及び一対の摺接壁を貫通するチルトボルトとを備える。ステアリングコラム装置は、アッパチューブに対して車体前方側へ設定値以上の荷重が加わった際に、アッパチューブとロアチューブとの相対移動によりステアリングコラムを収縮させて、ステアリングコラムをマウントブラケットから離脱させるための離脱機構を備える。離脱機構は、ディスタンスブラケットの摺接壁に設けられてチルトボルトが挿通され、車体後方側に開放端を持つスリットと、チルトボルトの外周に装着されるカラーとを有する。カラーは、チルトボルトの外周とカラーの内周との間に遊びがある状態でチルトボルトの外周に装着される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様に係るステアリングコラム装置によれば、二次衝突時にステアリングコラムに荷重が負荷された際、チルトボルトがレバーの締結解除方向に回動してチルトロックが解除されることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るステアリングコラム装置を示す概略的な斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るステアリングコラム装置を示す概略的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。
【0011】
なお、図面において、矢印FRは車体前後方向の内の車体前方側を示し、矢印RRは車体前後方向の内の車体後方側を示す。
【0012】
図1に示す本実施形態に係るステアリングコラム装置1は、手動式のものである。また、
図1及び
図2に示すように、ステアリングコラム装置1は、車体に固定されるマウントブラケット2と、車体上下方向に揺動可能(チルト位置調整可能)にマウントブラケット2に支持されるステアリングコラム(コラムチューブ)3とを備えている。
【0013】
マウントブラケット2は、車体の天井面(図示せず)に固定される固定部4を備えている。固定部4からは、一対の側壁部5,5が垂下している。各側壁部5には、車体上下方向(チルト方向)に沿ったチルト位置調整範囲を規定する長孔(チルト長孔)6が開口している。チルト長孔6は、図示しない軸支受部を中心とする円弧状の長孔で構成されている。
【0014】
ステアリングコラム3は、一対の側壁部5,5の間に配設されるアッパチューブ7と、アッパチューブ7に対して嵌め合わされるロアチューブ8と、から主に構成されている。ステアリングコラム3には、マウントブラケット2とアッパチューブ7とロアチューブ8とを一体に締結するロック機構11が設けられている。
【0015】
アッパチューブ7は、管状に形成されており、一対の側壁部5,5の間に、車体前後方向に沿って配設される。また、アッパチューブ7の外周には、ディスタンスブラケット12が取り付けられている。アッパチューブ7は、ディスタンスブラケット12が一対の側壁部5,5の間に挟持されることで、任意のチルト位置に保持されるようになっている。
【0016】
ロアチューブ8は、管状に形成されており、その管外方には、アッパチューブ7が管軸方向に嵌め合わされている。ロアチューブ8は、前端側部分に軸支受部(図示せず)を備えており、軸支受部が車体に軸支されることで、ロアチューブ8の後端側部分が車体上下方向に揺動する。
【0017】
なお、アッパチューブ7及びロアチューブ8の筒内方に、ステアリングシャフト13が軸支されており、アッパチューブ7の筒外方には、コラムカバーの取り付けのためのブラケット14が設けられている。
【0018】
図3及び
図4に示すように、ディスタンスブラケット12は、車体上下方向に延設される一対の摺接壁15,15と、これら一対の摺接壁15,15の下縁を車体幅方向に連結する連結部16とを有して略U字形状に形成されている。また、各摺接壁15の上縁部がアッパチューブ7の外周に固定されている。さらに、各摺接壁15には、車体前後方向に沿って延在し、車体後方側に開放端18を持つスリット17が設けられている。
【0019】
ロック機構11は、レバー21と、チルトボルト22と、固定カム23と、回転カム24と、ワッシャー(図示せず)と、ナット(図示せず)とを備えている。
【0020】
チルトボルト22は、一対の側壁部5,5のチルト長孔6と、一対の摺接壁15,15のスリット17とを車体幅方向に沿って貫通すると共に、軸周りに回動自在に支持されている。また、チルトボルト22は、その一端側端部には、レバー21が設置され、一端側の側壁部5に支持される。チルトボルト22の他端側端部は、他端側の側壁部5を貫通した上でナットに螺合し、ナットと他端側の側壁部5との間にワッシャーが挟み込まれる。そして、レバー21と一端側の側壁部5との間に位置するチルトボルト22上の部位には、固定カム23及び回転カム24が配置されている。
【0021】
固定カム23は、その中心部分をチルトボルト22が貫通する円環形状に形成されており、固定カム面がレバー21側に面して配置されている。また、固定カム23は、固定カム面の裏面側がチルト長孔6内に嵌め込まれ、チルトボルト22周りに回転せず、且つチルト長孔6内を移動可能に配置されている。固定カム面には、その周方向に山部と谷部が交互に形成されている。
【0022】
回転カム24は、その中心部分をチルトボルト22が貫通する円環形状に形成されており、回転カム面が固定カム面に面するように配置されている。また、回転カム24は、貫通するチルトボルト22と共に、チルトボルト22周りでレバー21と一体で回転するようにレバー21に組付けられている。回転カム面には、その周方向に山部と谷部が交互に形成されている。
【0023】
ステアリングコラム装置1は、ステアリングコラム3に設定値以上の荷重が加わった際に、ステアリングコラム3をマウントブラケット2から離脱させるための離脱機構31を備えている。
【0024】
離脱機構31は、ディスタンスブラケット12の摺接壁15に設けられてチルトボルト22が挿通され、車体後方側に開放端18を持つスリット17と、チルトボルト22の外周に装着されるカラー32とを有する。カラー32は、樹脂材料で形成される樹脂カラーである。このカラー32は、チルトボルト22の周りを空転することができるように、チルトボルト22の外周に遊嵌されている。つまり、チルトボルト22の外周とカラー32の内周との間に遊び(間隔)がある状態でチルトボルト22の外周に装着されている(
図4参照)。
【0025】
また、離脱機構31は、ディスタンスブラケット12に設けられ、チルトボルト22がディスタンスブラケット12のスリット17に沿って摺接壁15から離脱するときの荷重を調整するためのベンディングプレート33を有する。ベンディングプレート33は、ディスタンスブラケット12の連結部16に固定される固定端部34と、固定端部34から延出して、車体上方に向けて折り曲げられた折り曲げ部(舌片部)35とを有して構成されている。
【0026】
また、ステアリングコラム3がマウントブラケット2と接触しても、アッパチューブ7とロアチューブ8との相対移動によりステアリングコラム3が収縮し易くするために、受け面部(ガイド)36がマウントブラケット2に設けられている。受け面部36は、車体前後方向視において車体上方に凸となる円弧状に形成されている(
図1及び
図3参照)。
【0027】
受け面部36は、マウントブラケット2の車体後方側部分と一体に設けられている。この受け面部36は、受け面部36を構成する板状部分を車体後方側に折り曲げて形成される接触部37を有して構成されている。
【0028】
次に、本実施形態のステアリングコラム装置1の操作手順を説明する。
【0029】
ステアリングコラム3を所望の位置に固定するには、まず、ステアリングコラム3を所望する位置に、チルト方向(車体上下方向)へ移動させて、レバー21を車体上方に揺動操作する。レバー21を車体上方に揺動操作することによって、チルトボルト22が軸周りに締結方向に回動する。
【0030】
チルトボルト22が締結方向に回動することで、固定カム23の山部と回転カム24の山部とが重なり、軸方向寸法が拡がる。これによって、チルトボルト22が締上げられて、一対の側壁部5,5の間にディスタンスブラケット12の摺接壁15が挟持され、任意の位置にステアリングコラム3が保持される。
【0031】
また、ステアリングコラム3の位置調整を行なうには、マウントブラケット2に対するステアリングコラム3の締結を解除する。このためには、まず、レバー21を車体下方側に揺動操作する。レバー21を車体下方側に揺動操作することによって、チルトボルト22が軸周りに締結解除方向に回動する。
【0032】
チルトボルト22が締結解除方向に回動することで、固定カム23の山部と回転カム24の谷部とが重なり、軸方向寸法が狭まる。これによって、チルトボルト22が緩んで、一対の側壁部5,5間の間隔が拡がり、側壁部5とディスタンスブラケット12の摺接壁15との圧接が解消され、マウントブラケット2に対してステアリングコラム3がチルト方向へ移動可能となる。
【0033】
次に、ステアリングコラム装置1の二次衝突時の作用を説明する。
【0034】
二次衝突時に運転者からステアリングホイールに加わる荷重でアッパチューブ7が管軸方向に沿って車体前方側へ移動すると、ディスタンスブラケット12がスリット17に沿って車体前方側へ移動してチルトボルト22から離脱する。また、ディスタンスブラケット12がチルトボルト22から離脱する際の離脱荷重は、ディスタンスブラケット12に設けたベンディングプレート33により調整される。この離脱機構31におけるディスタンスブラケット12のチルトボルト22からの離脱によって二次衝突時のエネルギが吸収される。
【0035】
また、アッパチューブ7が管軸方向に沿って車体前方側へ移動すると、アッパチューブ7とロアチューブ8との相対移動によりステアリングコラム3が収縮する。このステアリングコラム3の収縮時のロアチューブ8に対するアッパチューブ7の摺動抵抗によっても、二次衝突時のエネルギが吸収される。
【0036】
このようにして、離脱機構31におけるステアリングコラム3のマウントブラケット2からの離脱、及びロアチューブ8に対するアッパチューブ7の摺動抵抗によって比較的大きなエネルギが有効に吸収される。
【0037】
以下に、本実施形態による作用効果を説明する。
【0038】
(1)ステアリングコラム装置1は、車体に固定され、一対の側壁部5,5を有するマウントブラケット2と、アッパチューブ7とロアチューブ8とを嵌め合わせて構成され、一対の側壁部5,5の間に車体前後方向に沿って配設されるステアリングコラム3とを備える。ステアリングコラム装置1は、アッパチューブ7に設けられ、一対の摺接壁15,15を有するディスタンスブラケット12と、一対の側壁部5,5及び一対の摺接壁15,15を貫通するチルトボルト22とを備える。ステアリングコラム装置1は、アッパチューブ7に対して車体前方側へ設定値以上の荷重が加わった際に、アッパチューブ7とロアチューブ8との相対移動によりステアリングコラム3を収縮させて、ステアリングコラム3をマウントブラケット2から離脱させるための離脱機構31を備える。離脱機構31は、ディスタンスブラケット12の摺接壁15に設けられてチルトボルト22が挿通され、車体後方側に開放端18を持つスリット17と、チルトボルト22の外周に装着されるカラー32とを有する。カラー32は、チルトボルト22の外周とカラー32の内周との間に遊びがある状態でチルトボルト22の外周に装着される。
【0039】
ステアリングコラム3がマウントブラケット2から離脱する際に、カラー32がチルトボルト22の周りを空転することにより、チルトボルト22にレバー21の締結解除方向の力が作用することが抑制される。したがって、二次衝突時にステアリングコラム3に荷重が負荷された際、チルトボルト22がレバー21の締結解除方向に回動してチルトロックが解除されることを抑制することができる。
【0040】
(2)カラー32は、樹脂材料で形成される樹脂カラーである。
【0041】
このようにカラー32を構成することにより、樹脂カラーの剛性がディスタンスブラケット12及びチルトボルト22等の金属製部品の剛性より低いことを利用して、これらの金属製部品の寸法のばらつきを樹脂カラーで吸収することが可能である。
【0042】
(3)離脱機構31は、ディスタンスブラケット12に設けられ、チルトボルト22がディスタンスブラケット12のスリット17に沿って摺接壁15から離脱するときの荷重を設定するためのベンディングプレート33を有する。
【0043】
ディスタンスブラケット12にベンディングプレート33を配設することにより、ステアリングコラム3がマウントブラケット2から離脱する際の荷重を調整することができ、その際の離脱荷重の安定化を図ることが可能である。
【0044】
ところで、本発明のステアリングコラム装置は前述の実施形態に例をとって説明したが、この実施形態に限ることなく本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 ステアリングコラム装置
2 マウントブラケット
3 ステアリングコラム
5 側壁部
7 アッパチューブ
8 ロアチューブ
12 ディスタンスブラケット
15 摺接壁
17 スリット
18 開放端
22 チルトボルト
31 離脱機構
32 カラー
33 ベンディングプレート