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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】ブームの制振装置
(51)【国際特許分類】
   B66C 23/687 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
B66C23/687 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019207330
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2021080044
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青柳 将史
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-035180(JP,A)
【文献】実開平06-010278(JP,U)
【文献】特開平10-174686(JP,A)
【文献】国際公開第2011/065899(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 19/00-23/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の筒形部材が大きいものから順に収容され、
外側の前記筒形部材に対して内側の前記筒形部材が進出又は退入自在となっているブームの制振装置であって、
外側の前記筒形部材と内側の前記筒形部材との間に配置されるスライド部材と、
前記スライド部材に一体又は別体に設けられるアクチュエータ部材と、を備えており、
外側の前記筒形部材に対して内側の前記筒形部材が進出又は退入する際に前記アクチュエータ部材の作動によって前記スライド部材を微振動させる、ことを特徴とするブームの制振装置。
【請求項2】
前記アクチュエータ部材が圧電素子で構成されており、
前記圧電素子の逆圧電効果を利用して前記スライド部材を微振動させる、ことを特徴とする請求項1に記載のブームの制振装置。
【請求項3】
前記スライド部材を前記筒形部材の摺動面に対して平行な折り返し点がない無端軌道に沿って微振動させる、ことを特徴とする請求項2に記載のブームの制振装置。
【請求項4】
前記ブームの稼働状況を把握できるコントローラを備えており、
前記コントローラが前記ブームの伸縮長さ及び伸縮速度及び起伏角度のうちの少なくとも一つに基づいて前記スライド部材を微振動させるか否かを判断する、ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のブームの制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブームの制振装置に関する。
【0002】
従来より、代表的な作業車両であるクレーンが知られている。クレーンは、主に走行体と旋回体で構成されている。走行体は、複数の車輪を備え、走行可能としている。旋回体は、伸縮動作などを行うブームのほかにワイヤロープやフックを備え、荷物を吊り上げた状態でこれを運搬可能としている。
【0003】
ところで、特許文献1のように、ブームは、複数の筒形部材が大きいものから順に収容された多段構造となっている。また、外側の筒形部材と内側の筒形部材との間には、スライド部材が配置されている。そのため、外側の筒形部材に対して内側の筒形部材が進出又は退入する際には、スライド部材と筒形部材との接触部分に摩擦が生じることとなる。従って、かかる接触部分に静摩擦力が作用するスティック状態と動摩擦力が作用するスリップ状態とが交互に現れ、ブームが大きく振動してしまう場合があった。つまり、ブームの伸縮動作時にスティックスリップ現象が発生し、ブームが大きく振動してしまう場合があったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-35180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブームの伸縮動作時にスティックスリップ現象が発生するのを抑え、ひいてはブームが振動するのを防ぐことができるブームの制振装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の発明は、
複数の筒形部材が大きいものから順に収容され、
外側の前記筒形部材に対して内側の前記筒形部材が進出又は退入自在となっているブームの制振装置であって、
外側の前記筒形部材と内側の前記筒形部材との間に配置されるスライド部材と、
前記スライド部材に一体又は別体に設けられるアクチュエータ部材と、を備えており、
外側の前記筒形部材に対して内側の前記筒形部材が進出又は退入する際に前記アクチュエータ部材の作動によって前記スライド部材を微振動させる、ものである。
【0007】
第二の発明は、第一の発明に係るブームの制振装置において、
前記アクチュエータ部材が圧電素子で構成されており、
前記圧電素子の逆圧電効果を利用して前記スライド部材を微振動させる、ものである。
【0008】
第三の発明は、第二の発明に係るブームの制振装置において、
前記スライド部材を前記筒形部材の摺動面に対して平行な折り返し点がない無端軌道に沿って微振動させる、ものである。
【0009】
第四の発明は、第一から第三のいずれかの発明に係るブームの制振装置において、
前記ブームの稼働状況を把握できるコントローラを備えており、
前記コントローラが前記ブームの伸縮長さ及び伸縮速度及び起伏角度のうちの少なくとも一つに基づいて前記スライド部材を微振動させるか否かを判断する、ものである。
【発明の効果】
【0010】
第一の発明に係るブームの制振装置は、外側の筒形部材と内側の筒形部材との間に配置されるスライド部材と、スライド部材に一体又は別体に設けられるアクチュエータ部材と、を備えている。そして、外側の筒形部材に対して内側の筒形部材が進出又は退入する際にアクチュエータ部材の作動によってスライド部材を微振動させる。このようなブームの制振装置によれば、ブームの伸縮動作時にスライド部材と筒形部材との摩擦がスリップ状態に維持される。従って、ブームの伸縮動作時にスティックスリップ現象が発生するのを抑え、ひいてはブームが振動するのを防ぐことができる。
【0011】
第二の発明に係るブームの制振装置は、アクチュエータ部材が圧電素子で構成されている。そして、圧電素子の逆圧電効果を利用してスライド部材を微振動させる。このようなブームの制振装置によれば、アクチュエータ部材の簡素化・小型化を実現できる。これにより、外側の筒形部材と内側の筒形部材との間に容易に収めることができる。
【0012】
第三の発明に係るブームの制振装置は、前記スライド部材を前記筒形部材の摺動面に対して平行な折り返し点がない無端軌道に沿って微振動させる。このようなブームの制振装置によれば、スライド部材が停止することなく常に移動している状態を実現できる。これにより、確実にスライド部材と筒形部材との摩擦をスリップ状態で維持することができる。
【0013】
第四の発明に係るブームの制振装置は、ブームの稼働状況を把握できるコントローラを備えている。そして、コントローラがブームの伸縮長さ及び伸縮速度及び起伏角度のうちの少なくとも一つに基づいてスライド部材を微振動させるか否かを判断する。このようなブームの制振装置によれば、スティックスリップ現象が発生する条件下でのみ稼働することができる。これにより、電力消費を抑え、かつ製品寿命を長く保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】クレーンを示す図。
図2】制御システムを示す図。
図3】ブームの伸縮構造を示す図。
図4】筒形部材における先端部分を示す図。
図5】筒形部材からスライド部材とアクチュエータ部材を展開した状態を示す図。
図6】アクチュエータ部材の構成を示す図。
図7】スライド部材に対するアクチュエータ部材の配置を示す図。
図8】スライド部材に対するアクチュエータ部材の配置を示す図。
図9】複数の圧電素子でスライド部材を微振動させたときの振動態様を示す図。
図10】スライド部材を微振動させる領域を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の技術的思想は、伸縮自在のブームを備えたクレーンに適用できる。また、他の作業車両にも適用できる。
【0016】
まず、図1を用いて、クレーン1について説明する。
【0017】
クレーン1は、主に走行体2と旋回体3で構成されている。
【0018】
走行体2は、左右一対の前輪21と後輪22を備えている。また、走行体2は、荷物Lの運搬作業を行う際に接地させて安定を図るアウトリガ23を備えている。なお、走行体2は、アクチュエータによって、その上部に支持する旋回体3を旋回自在としている。
【0019】
旋回体3は、その後部から前方へ突き出すようにブーム31を備えている。そのため、ブーム31は、油圧モーターによって旋回自在となっている(矢印A参照)。また、ブーム31は、油圧シリンダによって伸縮自在となっている(矢印B参照)。更に、ブーム31は、油圧シリンダによって起伏自在となっている(矢印C参照)。
【0020】
加えて、ブーム31には、ワイヤロープ32が架け渡されている。ブーム31の先端部分から垂下するワイヤロープ32には、フック33が取り付けられている。また、ブーム31の基端側近傍には、ウインチ34が配置されている。ウインチ34は、油圧モーターと一体的に構成されており、ワイヤロープ32の巻き入れ及び巻き出しを可能としている。そのため、フック33は、昇降自在となっている(矢印D参照)。なお、旋回体3は、ブーム31の側方にキャビン35を備えている。キャビン35の内部には、旋回用レバー51や伸縮用レバー52、起伏用レバー53、巻回用レバー54などが設けられている(図2参照)。
【0021】
次に、図2を用いて、制御システム4について説明する。
【0022】
制御システム4は、主にコントローラ40と各種レバー51~54と各種バルブ55~58で構成されている。また、コントローラ40には、各種センサ61~64が接続されている。
【0023】
コントローラ40は、情報記憶部41を有している。情報記憶部41は、クレーン1の制御に要する様々なプログラムが記憶されている。
【0024】
また、コントローラ40は、情報処理部42を有している。情報処理部42は、各種レバー51~54の操作量を電気信号に変換し、油圧モーターや油圧シリンダを稼動させる各種バルブ55~58へ送信する。こうして、コントローラ40は、ブーム31の稼動(旋回動作・伸縮動作・起伏動作)及びウインチ34の稼動(巻入動作・巻出動作)を実現する。
【0025】
詳しく説明すると、ブーム31は、油圧モーターによって旋回自在となっている(図1における矢印A参照)。本願においては、かかる油圧モーターを旋回用モーター36と定義する(図1参照)。旋回用モーター36は、方向制御弁である旋回用バルブ55によって適宜に稼動される。なお、旋回用バルブ55は、コントローラ40の指示に基づいて稼動される。ブーム31の旋回角度や旋回速度は、旋回用センサ61によって検出される。
【0026】
また、ブーム31は、油圧シリンダによって伸縮自在となっている(図1における矢印B参照)。本願においては、かかる油圧シリンダを伸縮用シリンダ37と定義する(図1参照)。伸縮用シリンダ37は、方向制御弁である伸縮用バルブ56によって適宜に稼動される。なお、伸縮用バルブ56は、コントローラ40の指示に基づいて稼動される。ブーム31の伸縮長さや伸縮速度は、伸縮用センサ62によって検出される。
【0027】
更に、ブーム31は、油圧シリンダによって起伏自在となっている(図1における矢印C参照)。本願においては、かかる油圧シリンダを起伏用シリンダ38と定義する(図1参照)。起伏用シリンダ38は、方向制御弁である起伏用バルブ57によって適宜に稼動される。なお、起伏用バルブ57は、コントローラ40の指示に基づいて稼動される。ブーム31の起伏角度や起伏速度は、起伏用センサ63によって検出される。
【0028】
加えて、フック33は、油圧モーターによって昇降自在となっている(図1における矢印D参照)。本願においては、かかる油圧モーターを巻回用モーター39と定義する(図1参照)。巻回用モーター39は、方向制御弁である巻回用バルブ58によって適宜に稼動される。なお、巻回用バルブ58は、コントローラ40の指示に基づいて稼動される。フック33の吊下長さや昇降速度は、巻回用センサ64によって検出される。
【0029】
次に、図3を用いて、ブーム31の伸縮構造について説明する。
【0030】
以下においては、ブーム31の基端側の筒形部材を「外側の筒形部材」と表し、かかる筒形部材に収容された筒形部材を「内側の筒形部材」と表す。そのため、筒形部材31Aを「外側の筒形部材」とするならば筒形部材31Bが「内側の筒形部材」となり、筒形部材31Bを「外側の筒形部材」とするならば筒形部材31Cが「内側の筒形部材」となる。
【0031】
ブーム31は、複数の筒形部材31A・31B・31C・・・が大きいものから順に収容された多段構造となっている。また、ブーム31は、外側の筒形部材に対して内側の筒形部材が進出又は退入自在となっている。例えば、筒形部材31Bを「外側の筒形部材」とし、筒形部材31Cを「内側の筒形部材」とした場合、筒形部材31Bに対して筒形部材31Cが進出又は退入自在となっている(図3における矢印S参照)。
【0032】
加えて、筒形部材31A・31B・31C・・・は、それぞれが支持するものの重みによって倒伏する方向に荷重が掛かっている。このとき、最先端の筒形部材31Fを除き、それぞれの筒形部材31A・31B・31C・・・における先端部分の下面側に大きな荷重が掛かることとなる。例えば、筒形部材31Bを「外側の筒形部材」とし、筒形部材31Cを「内側の筒形部材」とした場合、筒形部材31Bにおける先端部分の下面側に大きな荷重が掛かることとなる(図3における矢印F参照)。なお、かかる荷重は、筒形部材31Bに対して筒形部材31Cが進出しており、かつフック33で荷物Lを吊り上げた状態のときに最も大きな値となる。
【0033】
次に、図3から図9を用いて、ブーム31の制振装置7・8について説明する。
【0034】
制振装置7は、主にスライド部材71とアクチュエータ部材72で構成されている(図3参照)。
【0035】
スライド部材71は、内側の筒形部材における後端上部の外周面に取り付けられて外側の筒形部材の内周面に対して摺動自在に接触するものである。例えば、筒形部材31Bを「外側の筒形部材」とし、筒形部材31Cを「内側の筒形部材」とした場合、スライド部材71は、筒形部材31Cにおける後端上部の外周面に取り付けられて筒形部材31Bの内周面に対して摺動自在に接触するものである。
【0036】
アクチュエータ部材72は、外側の筒形部材に対して内側の筒形部材が進出又は退入する際にスライド部材71を微振動させるものである。前述したように、筒形部材31Bを「外側の筒形部材」とし、筒形部材31Cを「内側の筒形部材」とした場合、アクチュエータ部材72は、筒形部材31Bに対して筒形部材31Cが進出又は退入する際にスライド部材71を微振動させるものである。
【0037】
同様に、制振装置8も、主にスライド部材81とアクチュエータ部材82で構成されている(図3参照)。本クレーン1においては、制振装置7と制振装置8が同じ制振機能を有するものであるから、以降は制振装置8を用いて詳しく説明する。但し、制振装置7と制振装置8のいずれか一方のみが制振機能を有するとしてもよい。
【0038】
スライド部材81は、外側の筒形部材における先端下部の内周面に取り付けられて内側の筒形部材の外周面に対して摺動自在に接触するものである。例えば、筒形部材31Bを「外側の筒形部材」とし、筒形部材31Cを「内側の筒形部材」とした場合、スライド部材81は、筒形部材31Bにおける先端下部の内周面に取り付けられて筒形部材31Cの外周面に対して摺動自在に接触するものである。
【0039】
また、スライド部材81は、筒形部材31Bの軸方向に対して平行となる縦溝が形成されている。そのため、スライド部材81は、縦溝で曲がるために可撓性があり、筒形部材31Bにおける下方側湾曲面に沿って固定されることとなる。なお、スライド部材81は、筒形部材31Bの内周面に溶接された横方側規制具31s・31sに案内され、同じく筒形部材31Bの内周面に溶接された基端側規制具31tに当接するまで押し込まれる。その後、スライド部材81は、筒形部材31Bのフランジ部に先端側規制具31uがボルト留めされることにより、僅かなガタツキを残して固定されることとなる。
【0040】
アクチュエータ部材82は、外側の筒形部材に対して内側の筒形部材が進出又は退入する際にスライド部材81を微振動させるものである。前述したように、筒形部材31Bを「外側の筒形部材」とし、筒形部材31Cを「内側の筒形部材」とした場合、アクチュエータ部材82は、筒形部材31Bに対して筒形部材31Cが進出又は退入する際にスライド部材81を微振動させるものである。
【0041】
また、アクチュエータ部材82は、主に圧電素子83で構成されている。圧電素子83は、分極処理を施したセラミックスである圧電体83bと圧電体83bを挟み込む電極83t・83tとを重ね合わせた構造となっている(図6参照)。圧電素子83は、圧電体83bに対して電圧が印加されると、セラミックスの結晶体内のイオンが相対的にズレて歪が生じることとなる。電圧の印加によって歪が生じる現象を「逆圧電効果」という。圧電素子83は、電源装置84の交流電圧によって断続的に作動する(図2参照)。なお、本実施形態においてアクチュエータ部材82は、スライド部材81と筒形部材31Bとの間に配置されている。このように、スライド部材81とアクチュエータ部材82が別体であるときは、スライド部材81とアクチュエータ部材82を重ねた状態で取り付ける必要がある。
【0042】
この点、スライド部材81とアクチュエータ部材82が別体であるのではなく、スライド部材81とアクチュエータ部材82が一体となっていてもよい。例えば、第二実施形態のように、スライド部材81の裏面側にアクチュエータ部材82が接着されていてもよい(図7の(A)参照)。また、第三実施形態のように、スライド部材81の表面側にアクチュエータ部材82が接着されていてもよい(図7の(B)参照)。更に、第四実施形態のように、スライド部材81の側面側にアクチュエータ部材82が接着されていてもよい(図8の(C)参照)。或いは、第五実施形態のように、スライド部材81の内部にアクチュエータ部材82が内装されていてもよい(図8の(D)参照)。このような場合、スライド部材81そのものがアクチュエータ部材82の機能を有しているともいえるし、アクチュエータ部材82そのものがスライド部材81の機能を有しているともいえる。
【0043】
ところで、スライド部材81の微振動に関し、ある技術的特徴を限定することが好ましい。即ち、図9に示すように、スライド部材81を筒形部材31Cの摺動面(外周面)に対して平行に閉ループ状に微振動させるのである。「閉ループ状」とは、その軌道に折り返し点がない円形や楕円形を含む無端軌道となるものを指す(図9における矢印V参照)。このようにするのは、折り返し点でスリップ状態からスティック状態に移行するのを防ぐためである。このような振動態様を実現するには、アクチュエータ部材82が複数の圧電素子83で構成されており、それぞれ適宜な分極方向或いは取付方向に置かれた圧電素子83を適宜なタイミングで作動する必要がある。なお、湾曲しているスライド部材81でこのような振動態様を実現するのは困難であるが、スライド部材81を複数に分割し、各スライド部材81ごとにアクチュエータ部材82を備えるとすれば実現容易である。
【0044】
次に、図10を用いて、スライド部材81を微振動させる領域について説明する。
【0045】
前述したように、筒形部材31A・31B・31C・・・は、それぞれが支持するものの重みによって倒伏する方向に荷重が掛かっている。かかる荷重は、ブーム31の伸縮長さや起伏角度によって変化することが自明である。
【0046】
すると、スティックスリップ現象は、摩擦に起因する自励振動であることから、ブーム31の伸縮長さ(クレーン1の作業半径)や起伏角度が発生の有無に大きく関わるものと考えられる。そのため、本クレーン1においては、スティックスリップ現象が発生しやすい、作業半径がL1(m)以上L2(m)未満、ブーム31の起伏角度がθ1(°)以上θ2(°)未満などの条件を満たすときにスライド部材81を微振動させるとしてもよい。
【0047】
また、スティックスリップ現象は、摩擦に起因する自励振動であることから、ブーム31の伸縮速度も発生の有無に大きく関わるものと考えられる。そのため、本クレーン1においては、ブーム31の伸縮長さや起伏角度の条件に加えて或いはこれらの条件に関わらず、スティックスリップ現象が発生しやすい、伸縮速度がS1(m/s)以上S2(m/s)未満などの条件を満たすときにスライド部材81を微振動させるとしてもよい。
【0048】
以上が本願発明の技術的思想を適用したクレーン1の説明である。以下に本願発明の技術的思想とその効果についてまとめる。
【0049】
第一の発明に係るブーム31の制振装置8は、外側の筒形部材(例えば筒形部材31B)と内側の筒形部材(例えば筒形部材31C)との間に配置されるスライド部材81と、スライド部材81に一体又は別体に設けられるアクチュエータ部材82と、を備えている。そして、外側の筒形部材(31B)に対して内側の筒形部材(31C)が進出又は退入する際にアクチュエータ部材82の作動によってスライド部材81を微振動させる。このようなブーム31の制振装置8によれば、ブーム31の伸縮動作時にスライド部材81と筒形部材(31C)との摩擦がスリップ状態に維持される。従って、ブーム31の伸縮動作時にスティックスリップ現象が発生するのを抑え、ひいてはブーム31が振動するのを防ぐことができる。
【0050】
第二の発明に係るブーム31の制振装置8は、アクチュエータ部材82が圧電素子83で構成されている。そして、圧電素子83の逆圧電効果を利用してスライド部材81を微振動させる。このようなブーム31の制振装置8によれば、アクチュエータ部材82の簡素化・小型化を実現できる。これにより、外側の筒形部材(31B)と内側の筒形部材(31C)との間に容易に収めることができる。
【0051】
第三の発明に係るブーム31の制振装置8は、スライド部材81を筒形部材(31C)の摺動面(外周面)に対して平行に閉ループ状に微振動させる。このようなブーム31の制振装置8によれば、スライド部材81が停止することなく常に移動している状態を実現できる。これにより、確実にスライド部材81と筒形部材(31C)との摩擦をスリップ状態で維持することができる。
【0052】
第四の発明に係るブーム31の制振装置8は、ブーム31の稼働状況を把握できるコントローラ40を備えている。そして、コントローラ40がブーム31の伸縮長さ及び伸縮速度及び起伏角度のうちの少なくとも一つに基づいてスライド部材81を微振動させるか否かを判断する。このようなブーム31の制振装置8によれば、スティックスリップ現象が発生する条件下でのみ稼働することができる。これにより、電力消費を抑え、かつ製品寿命を長く保つことができる。
【0053】
最後に、本願においては、第一の発明に係るブーム31の制振装置8についても、アクチュエータ部材82が圧電素子83で構成されており、圧電素子83の作動によってスライド部材81を微振動させると説明した。しかし、スライド部材81の微振動によってスライド部材81と筒形部材(例えば筒形部材31C)との摩擦がスリップ状態に維持されるのであれば、これに限定するものではない。従って、第一の発明に係るブーム31の制振装置8については、アクチュエータ部材82が電動モーターや電動ソレノイドで構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 クレーン
2 走行体
3 旋回体
4 制御システム
8 制振装置
31 ブーム
31A 筒形部材
31B 筒形部材
31C 筒形部材
40 コントローラ
81 スライド部材
82 アクチュエータ部材
83 圧電素子
83b 圧電体
83t 電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10