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特許7375511非水電解質、非水電解質蓄電素子及びその製造方法
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  • 特許-非水電解質、非水電解質蓄電素子及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】非水電解質、非水電解質蓄電素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20231031BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20231031BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/058
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019218133
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2021089807
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】岸本 顕
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-262274(JP,A)
【文献】特開2012-069513(JP,A)
【文献】特開平07-282851(JP,A)
【文献】特開平11-185804(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107611479(CN,A)
【文献】特開2015-26589(JP,A)
【文献】特開2012-48916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
H01M 50/60-50/77
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性界面活性剤と、下記式1で表されるケイ素含有化合物とを含有する蓄電素子用の非水電解
【化1】
上記式1中、複数のRは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下の炭化水素基又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基である。nは、0以上1,000以下の整数である。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解を備える非水電解質蓄電素子。
【請求項3】
請求項1に記載の非水電解を容器に注入することを備える非水電解質蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質、非水電解質蓄電素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
一般的に非水電解質蓄電素子の非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解する電解質塩とを含む。この非水電解質においては、性能改善のために、各種添加剤が選択されて用いられることがある。例えば、特許文献1、2には、非水電解質と、正極、負極、セパレータ等との親和性を高めることなどを目的として、添加剤として界面活性剤を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-118578号公報
【文献】特開2004-186035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
界面活性剤が含有された非水電解質は、泡立ちが生じ易くなり、かつ生じた泡が消え難い。また、一般的に界面活性剤と称される添加剤に限らず、長鎖カルボン酸エステル、ハロゲン化エーテル等、疎水性の基(長鎖炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基等)と相対的に親水性の基(エステル基、エーテル基等)とを有する添加剤が含有された場合も、一般的な界面活性剤と同様に界面活性作用が生じ、泡立ちが生じ易くなる。このような非水電解質は、非水電解質蓄電素子の製造において容器へ注入する際に、泡立ちを抑えるため慎重な注液が必要となる又は注液に時間を要するなど、作業性(注液性)、非水電解質蓄電素子の生産性等の点から好ましくない。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、界面活性剤を含有する非水電解質であって、泡立ちが抑制された非水電解質、このような非水電解質を備える非水電解質蓄電素子、及びこの非水電解質蓄電素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、イオン性界面活性剤と、下記式1で表されるケイ素含有化合物とを含有する蓄電素子用の非水電解質である。
【化1】
上記式1中、複数のRは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下の炭化水素基又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基である。nは、0以上1,000以下の整数である。
【0008】
本発明の他の一態様は、当該非水電解質を備える非水電解質蓄電素子である。
【0009】
本発明の他の一態様は、当該非水電解質を容器に注入することを備える非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、界面活性剤を含有する非水電解質であって、泡立ちが抑制された非水電解質、このような非水電解質を備える非水電解質蓄電素子、及びこの非水電解質蓄電素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を示す外観斜視図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
初めに、本明細書によって開示される非水電解質、非水電解質蓄電素子及びその製造方法の概要について説明する。
【0013】
本発明の一態様に係る非水電解質は、イオン性界面活性剤と、下記式1で表されるケイ素含有化合物とを含有する蓄電素子用の非水電解質である。
【化2】
上記式1中、複数のRは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下の炭化水素基又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基である。nは、0以上1,000以下の整数である。
【0014】
当該非水電解質は、泡立ちが抑制されている。このため、当該非水電解質を用いて非水電解質蓄電素子を製造する際の、注液性、作業性等が改善される。当該非水電解質において泡立ちが抑制される理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。従来の界面活性剤等を含有する非水電解質において泡立ちが生じ易くなる要因として、界面活性剤等が含有されることによって発生する泡膜表面の粘弾性の上昇や泡膜表面の静電反発による泡沫の安定化が挙げられる。これに対して、分子間力が小さく、界面張力及び表面張力が小さい上記ケイ素含有化合物を含有させることで、泡膜表面の粘弾性が低減され、泡沫が不安定化し、泡立ちが抑制されると考えられる。さらに、後述するように、イオン性界面活性剤に対して上記ケイ素含有化合物を適用した場合にのみ泡立ち抑制効果が生じていることから、イオン性界面活性剤が含有されている場合の泡立ちに影響が大きいと考えられる泡膜表面の静電反発を、上記ケイ素含有化合物が効果的に打ち消し、泡立ちが抑制されていると推測される。また、イオン性界面活性剤と上記ケイ素含有化合物が何らかの安定的な構造を形成し、その構造が泡立ちが生じる要因を解消する方向に寄与していることも推測される。
【0015】
また、当該非水電解質によれば、界面活性剤が含有されていることの利点(例えば、セパレータ等への浸透性の向上、水溶性(水との相溶性)の向上等)を十分に享受することができる。さらに、当該非水電解質によれば、上記ケイ素含有化合物が含有されていることにより、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率が改善される。
【0016】
上記nが0、1又は2であることが好ましい。nが0、1又は2の場合、ケイ素含有化合物が比較的小さい分子となり、泡膜表面の粘弾性の低減効果などが高まり、泡立ちがより抑制される。さらに、ケイ素含有化合物が比較的小さい分子であることで、非水溶媒との相溶性が高く、非水電解質自体の粘度上昇による抵抗上昇も生じ難い。また、ケイ素含有化合物が比較的小さい分子であることで、水溶性も高まる傾向にある。
【0017】
上記nが0であることが好ましい。nが0である場合、ケイ素含有化合物はより小さい分子となるため、上述の利点がより十分に奏される。
【0018】
上記複数のRのうちの少なくとも1つがアルコキシ基であることが好ましい。ケイ素含有化合物がアルコキシ基を有することにより、泡立ちがより抑制される。この理由は定かではないが、アルコキシ基の存在により、ケイ素含有化合物の極性、非水溶媒との相溶性、表面張力等が泡立ちを抑制する点において好適化されることが推測される。
【0019】
上記イオン性界面活性剤が、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを含む塩であることが好ましい。イオン性界面活性剤が、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを含む塩である場合、当該非水電解質が水溶性液体となりやすい。以下、水溶性液体の利点について説明する。蓄電素子用の非水電解質は、通常、消防法における危険物第四類(引火性液体)に該当する。消防法の規制により、日本国内において指定数量を超える量の危険物は、貯蔵所以外の場所で貯蔵すること、並びに製造所、貯蔵所及び取扱所以外の場所で取り扱うことができない。危険物の内、危険物第四類の第一石油類、第二石油類及び第三石油類は、非水溶性液体と水溶性液体とで指定数量が異なり、水溶性液体の指定数量は非水溶性液体の2倍である。例えば、鎖状カーボネートと環状カーボネートとの混合溶媒を含む非水電解質である、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比30:10:60で混合してなる非水溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.2mol/Lの含有量となるように混合した非水電解質は、指定数量が1000Lである第二石油類非水溶性液体に該当する。第二石油類に該当する非水電解質が水溶性液体である場合、指定数量が2000Lとなり、非水溶性液体である場合の2倍までの量を貯蔵所以外の場所で貯蔵し、製造所、貯蔵所及び取扱所以外の場所で取り扱うことができるため、産業上有益である。
【0020】
イオン性界面活性剤が、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを含む塩である場合、当該非水電解質が水溶性液体となりやすい理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンは、疎水基であるフッ素化炭化水素基と親水基であるスルホン酸基とを有するアニオンである。特に、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基は、フッ素化されており、かつ炭素数が多いことから、高い疎水性を示す。また、高い電子吸引性を有するフッ素化炭化水素基の存在により、スルホン酸基のアニオン性(カチオンとの解離性)が高くなる。このため、このスルホン酸アニオンを有する塩の優れた界面活性作用により、非水溶媒と水との相溶性を高めているものと推測される。
【0021】
なお、「水溶性液体」とは、危険物の規制に関する政令別表第3における「水溶性液体」に該当するものをいい、1気圧において、温度20℃で同容量の純水と穏やかにかきまぜた場合に、流動がおさまった後も当該混合液が均一な外観を維持するものであることをいう。なお、危険物の規制に関する政令は、消防法の規定に基づき制定された政令である。なお、本願明細書において、「同容量の純水と穏やかにかき混ぜる」とは、10mLの純水と10mLの非水電解質とを50mLのビーカーに注ぎ、攪拌棒を用い、回転速度60rpmで、20回かき混ぜることにより行うことをいう。また、「流動がおさまった後」とは、かき混ぜた後、30秒以上静置し、目視で流動が認められなくなったことを確認した後をいう。
【0022】
当該非水電解質は、水溶性液体であることが好ましい。当該非水電解質が水溶性液体である場合、上述のように指定数量が大きくなり、産業上有益である。
【0023】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子は、当該非水電解質を備える非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)である。当該蓄電素子は、本発明の一態様に係る非水電解質を備えているため、例えば製造工程において非水電解質を蓄電素子容器に注入する際に泡立ちが生じ難いなど、生産性に優れる。また、当該蓄電素子は、非水電解質に界面活性剤が含有されていることの利点も享受することができる。
【0024】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、当該非水電解質を容器に注入することを備える非水電解質蓄電素子の製造方法である。当該製造方法によれば、本発明の一態様に係る非水電解質を用いるため、当該非水電解質を容器に注入する際に泡立ちが生じ難いなど、生産性に優れる。また、当該製造方法によれば、非水電解質に界面活性剤が含有されていることの利点も有する蓄電素子を製造することができる。
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係る非水電解質、非水電解質蓄電素子、及び非水電解質蓄電素子の製造方法について詳説する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0026】
<非水電解質>
本発明の一実施形態に係る非水電解質は、蓄電素子の非水電解質として用いられる。当該非水電解質は、イオン性界面活性剤とケイ素含有化合物とを含有する。当該非水電解質は、通常、非水溶媒及び電解質塩をさらに含有する非水電解液である。
【0027】
(イオン性界面活性剤)
当該非水電解質は、イオン性界面活性剤を含有していることにより、界面活性剤が有する利点、例えばセパレータ等への高い浸透性、高い水溶性等が発揮され得る。
【0028】
イオン性界面活性剤としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩等のカチオン性界面活性剤、及びアミノ酸塩、アルキルベタイン等の両性界面活性剤が挙げられ、アニオン性界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤の中でも、スルホン酸塩が好ましく、また、フッ素化炭化水素基を有するアニオンを含む塩も好ましい。さらには、フッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを含む塩がより好ましい。上記フッ素化炭化水素基の炭素数は、4以上であることが好ましい。スルホン酸アニオンを含む塩は、1つのフッ素化炭化水素基と1つのスルホン酸基(-SO )とからなるスルホン酸アニオンを含む塩であることが好ましい。このようなイオン性界面活性剤を用いることで、当該非水電解質の水溶性が高まり、水溶性液体となりやすい傾向にある。
【0029】
炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を構成する炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれであってもよいが、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の脂肪族鎖状炭化水素基や、シクロアルキル基等の脂肪族環状炭化水素基を挙げることができるが、脂肪族鎖状炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましい。また、炭化水素基の炭素数の上限は特に限定されないが、例えば16が好ましく、10がより好ましい。なお、炭素数が8のフッ素化炭化水素基を有するリチウムヘプタデカフルオロオクタンスルホネートは、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律における第一種特定化学物質に指定されており、日本国内において工業的に使用することができない。従って、工業的に有用である点から、フッ素化炭化水素基の炭素数は8以外が好ましく、7以下であることがより好ましく、6以下であってもよい。
【0030】
フッ素化炭化水素基が有するフッ素原子の数は、1以上であればよいが、5以上33以下が好ましく、9以上21以下がより好ましい。フッ素原子の数は、17以下又は13以下であってもよい。フッ素化炭化水素基は、例えばパーフルオロアルキル基等、炭化水素基の全ての水素原子がフッ素原子で置換されたものであることが特に好ましい。
【0031】
スルホン酸アニオンを含む塩を構成するカチオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン等を挙げることができるが、アルカリ金属イオンが好ましく、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンがより好ましい。
【0032】
スルホン酸アニオンを含む塩の好ましい形態としては、C2n+1SOAで表される化合物を挙げることができる。上記式中、nは、例えば4以上の整数であり、4以上10以下の整数が好ましく、4以上7以下の整数がより好ましい。Aは、アルカリ金属であり、リチウム、ナトリウム又はカリウムであることが好ましく、リチウム又はカリウムであることがより好ましい。
【0033】
当該非水電解質におけるイオン性界面活性剤の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.3質量%以上6質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がさらに好ましい。イオン性界面活性剤の含有量を上記下限以上とすることで、非水電解質の水溶性等、イオン性界面活性剤による利点をより高めることができる。一方、イオン性界面活性剤の含有量を上記上限以下とすることで、泡立ちをより抑制することができる。
【0034】
(ケイ素含有化合物)
ケイ素含有化合物は、下記式1で表される化合物である。
【0035】
【化3】
【0036】
上記式1中、複数のRは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下の炭化水素基又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基である。nは、0以上1,000以下の整数である。
【0037】
炭素数1以上4以下の炭化水素基は、通常、脂肪族炭化水素基である。炭素数1以上4以下の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、エテニル基、プロペニル基等のアルケニル基、エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基等が挙げられる。アルキル基等の炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。これらの中でも、アルキル基が好ましく、メチル基及びエチル基がより好ましいこともある。
【0038】
アルコキシ基とは、炭化水素基に酸素原子が結合した基(R-O-:Rは炭化水素基である。)をいう。炭素数1以上4以下のアルコキシ基が有する炭化水素基は、炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、これらの具体例は上述したとおりである。アルコキシ基が有する炭化水素基としては、アルキル基が好ましく、メチル基及びエチル基がより好ましいこともある。
【0039】
複数のRのうちの少なくとも1つがアルコキシ基であることが好ましい。ケイ素含有化合物がアルコキシ基を有することにより、極性、非水溶媒との相溶性、表面張力等が好適化されるためか、泡立ちがより抑制される。一方、複数のRのうちの少なくとも1つが炭化水素基であることも好ましい。複数のRの全てがアルコキシ基では無いことにより、上記性状が好適化される結果、安定性が高まると考えられる。これらのことから、複数のRは、炭化水素基とアルコキシ基との双方を含むことがより好ましい。このような場合、良好な泡立ち抑制効果が十分に持続できると考えられる。すなわち例えばnが0である場合、4つのRのうちのアルコキシ基の数としては、1以上3以下が好ましい。
【0040】
nの上限は、100が好ましく、10がより好ましく、5がさらに好ましく、3がよりさらに好ましく、2がよりさらに好ましく、1がよりさらに好ましく、0が特に好ましい。すなわちnは、0が最も好ましい。このように、nの数が少ない場合(ケイ素含有化合物が比較的低分子量である場合)、当該非水電解質の泡立ちがより抑制され、また非水溶媒との相溶性も高まり、非水電解質自体の粘度上昇による蓄電素子の抵抗上昇も生じ難い。さらに、水溶性も向上する傾向にある。
【0041】
上記ケイ素化合物の具体例としては、例えばテトラメトキシシラン(オルトケイ酸テトラメチル)、テトラエトキシシラン(オルトケイ酸テトラエチル)、テトラプロポキシシラン(オルトケイ酸テトラプロピル)、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシエチルシラン、トリメトキシプロピルシラン、トリエトキシエチルシラン、トリエトキシプロピルシラン、トリエトキシブチルシラン、トリエトキシイソブチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、トリエチルメトキシシシラン、トリエチルエトキシシラン、テトラエチルシラン、テトラプロピルシラン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、その他の重合度1,000以下のポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0042】
当該非水電解質における上記ケイ素含有化合物の含有量は、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.04質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。上記ケイ素含有化合物の含有量は、1質量%以下又は0.4質量%以下がよりさらに好ましい場合もある。ケイ素含有化合物の含有量を上記下限以上とすることで、泡立ち抑制効果を高めることができる。一方、ケイ素含有化合物の含有量を上記上限以下とすることで、粘度の上昇を抑え、また、水溶性も高まる傾向にある。
【0043】
(非水溶媒)
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0044】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもEC及びPCが好ましい。
【0045】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0046】
非水溶媒として、環状カーボネート及び鎖状カーボネートの少なくとも一方を用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0047】
本発明の一実施形態に係る非水電解質においては、非水溶媒がEMCを含むことが好ましい。EMCは、低粘度の溶媒である。このため、非水溶媒にEMCを用いることで、当該非水電解質は好適な粘性を示し、蓄電素子用の非水電解質としての良好な特性が発揮される。また、鎖状カーボネートの中でも、EMCを用いることで、当該非水電解質の耐酸化性と水溶性とを両立させることができる。
【0048】
非水溶媒に占める鎖状カーボネート(特には、EMC)の含有量は、10体積%以上65体積%以下が好ましく、30体積%以上60体積以下%がより好ましく、50体積%以上60体積%以下がさらに好ましい。鎖状カーボネート(特には、EMC)の含有量を上記上限以下とすることで、良好な水溶性を示す非水電解質とすることができやすくなる。一方、鎖状カーボネート(特には、EMC)の含有量を上記下限以上とすることで、好適な粘性等を有する非水電解質とすることができる。
【0049】
非水溶媒には、EMC以外の他の鎖状カーボネートが含有されていてもよいが、耐酸化性の点から、非水溶媒に占めるDMCの含有量の上限は、10体積%が好ましく、5体積%がより好ましく、1体積%がさらに好ましく、実質的にDMCが含有されていないことがよりさらに好ましい。
【0050】
また、水溶性、耐酸化性等の観点から、全鎖状カーボネートに占めるEMCの含有量の下限は、80体積%が好ましく、90体積%がより好ましく、95体積%がさらに好ましく、99体積%がよりさらに好ましく、鎖状カーボネートとしては実質的にEMCのみであることが特に好ましい。
【0051】
非水溶媒に占める環状カーボネートの含有量は、20体積%以上70体積%以下が好ましく、30体積%以上60体積%以下がより好ましく、35体積%以上50体積%以下がさらに好ましく、40体積%以上45体積%以下がよりさらに好ましい。環状カーボネートの含有量を上記下限以上とすることで、水溶性をより高めることができる。一方、環状カーボネートの含有量を上記上限以下とすることで、適度な粘度に調整することなどができる。
【0052】
環状カーボネートに占めるECの体積比率は、50体積%以上100体積%が好ましく、55体積%以上90体積%以下がより好ましく、60体積%以上80体積%以下がさらに好ましい。
【0053】
環状カーボネートに占めるPCの体積比率は、0体積%以上50体積%以下が好ましく、10体積%以上40体積%以下がより好ましく、20体積%以上35体積%以下がさらに好ましい。
【0054】
非水溶媒における鎖状カーボネート及び環状カーボネートの合計含有量の下限としては、90体積%が好ましく、99体積%がより好ましい。また、非水溶媒におけるEMC及び環状カーボネートの合計含有量の下限としては、90体積%が好ましく、99体積%がより好ましい。さらに、非水溶媒におけるEMC、EC及びPCの合計含有量の下限としては、90体積%が好ましく、99体積%がより好ましい。このような組成とすることで、水溶性、粘度、耐酸化性等がより良好な非水電解質とすることができる。
【0055】
(電解質塩)
当該非水電解質は、通常、非水溶媒に溶解している電解質塩を含有する。なお、この電解質塩には、イオン性界面活性剤は含まれないものとする。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。上記リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiPF(C、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩等を挙げることができる。上記リチウム塩の中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPFがより好ましい。
【0056】
当該非水電解質における電解質塩の含有量は、0.1mol/L以上2.5mol/L以下が好ましく、0.3mol/L以上2mol/L以下がより好ましく、0.5mol/L以上1.7mol/L以下がさらに好ましく、0.7mol/L以上1.5mol/L以下が特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解質のイオン伝導度を高めることができる。
【0057】
当該非水電解質には、イオン性界面活性剤、上記ケイ素含有化合物、非水溶媒、及び電解質塩以外の他の成分が添加剤として添加されていてもよい。このような添加剤としては、一般的な蓄電素子用の非水電解質に含有される各種添加剤を挙げることができる。上記添加剤としては、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)等の環状サルフェート構造を有する化合物、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン等のスルトン構造を有する化合物、スクシノニトリル等のニトリル系化合物、ジフルオロリン酸リチウム、リチウムテトラフルオロオキサレートホスフェート等のリン含有化合物、リチウムビスオキサレートボラート等のホウ素含有化合物等を挙げることができる。
【0058】
当該非水電解質が上記添加剤を含有する場合、その含有量は、例えば0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましい場合があり、1質量%以下がさらに好ましい場合もある。
【0059】
当該非水電解質は、水溶性液体であることが好ましい。当該非水電解質が水溶性液体である場合、指定数量が大きくなり、産業上有益である。
【0060】
<非水電解質の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解質は、イオン性界面活性剤、上記ケイ素含有化合物、及び非水電解質を構成するその他の成分を混合することによって製造することができる。各成分の混合方法は特に限定されず、従来公知の方法で行うことができる。例えば全ての成分を一度に混合してもよいし、非水溶媒に対して順次成分を添加していくなどしてもよい。
【0061】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極と、負極と、非水電解質とを備える。正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回された電極体を形成する。この電極体は容器に収納され、この容器内に非水電解質が充填される。非水電解質は、正極と負極との間に介在する。蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0062】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0063】
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10Ω・cm超であることを意味する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085、A3003等が例示できる。
【0064】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。「平均厚さ」とは、所定の面積の基材を打ち抜いた際の打ち抜き質量を、基材の真密度及び打ち抜き面積で除した値をいう。他の部材等に対して「平均厚さ」を用いる場合にも同様に定義される。
【0065】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電性を有する粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、樹脂バインダ及び導電性を有する粒子を含む。
【0066】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0067】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LiNi1-x]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγCo1-x-γ]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiCo1-x]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγMn1-x-γ]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiNiγMnβCo1-x-γ-β]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LiNiγCoβAl1-x-γ-β]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物として、LiMn、LiNiγMn2-γ等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0068】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0069】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0070】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0071】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛化炭素、非黒鉛化炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛化炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0072】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、二次電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0073】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0074】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0075】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0076】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0077】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0078】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0079】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0080】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0081】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。
【0082】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0083】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;LiTi12、LiTiO2、TiNb等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0084】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0085】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0086】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態をいう。開回路状態での金属Li対極の電位は、Liの酸化還元電位とほぼ等しいため、上記単極電池における開回路電圧は、Liの酸化還元電位に対する炭素材料を含む負極の電位とほぼ同等である。つまり、上記単極電池における開回路電圧が0.7V以上であることは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されていることを意味する。
【0087】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0088】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0089】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が例えば炭素材料である場合、その平均粒径は1μm以上100μm以下が好ましい場合がある。負極活物質が、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、チタン含有酸化物、ポリリン酸化合物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下が好ましい場合がある。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。
【0090】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0091】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の材質としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの材質の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0092】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、大気下で500℃にて質量減少が5%以下であるものが好ましく、大気下で800℃にて質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0093】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0094】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0095】
(非水電解質)
当該二次電池(蓄電素子)に用いられる非水電解質は、上述した本発明の一実施形態に係る非水電解質である。
【0096】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、本発明の一実施形態に係る非水電解質を容器に注入することを備える。当該製造方法は、非水電解質(非水電解液)として本発明の一実施形態に係る非水電解質を用いること以外は、従来公知の方法により行うことができる。本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、具体的には例えば、正極を作製すること、負極を作製すること、非水電解質を調製すること、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成すること、正極及び負極(電極体)を容器に収容すること、並びに非水電解質を容器に注入することを備えていてよい。これらの工程の後、注入口を封止することにより二次電池(蓄電素子)を得ることができる。
【0097】
<その他の実施形態>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0098】
また、上記実施の形態においては、非水電解質蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0099】
図1に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子1(非水電解質二次電池)の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図1に示す非水電解質蓄電素子1は、電極体2が容器3に収納されている。電極体2は、正極合材を備える正極と、負極合材を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。また、容器3には、本発明の一実施形態に係る非水電解質が注入されている。
【0100】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質蓄電素子1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例
【0101】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
実施例及び比較例で用いた界面活性剤等、及びケイ素含有化合物の略称を以下に示す。
【0103】
(界面活性剤等)
KNFBS:カリウムノナフルオロ-1-ブタンスルホネート(イオン性)
TFEE :1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(非イオン性)
(ケイ素含有化合物)
TMES :トリメチルエトキシシラン
TEiBS:トリエトキシイソブチルシラン
TEOS :オルトケイ酸テトラエチル
OMTS :オクタメチルトリシロキサン
【0104】
【化4】
【0105】
[実施例1](非水電解質の調製)
EC(エチレンカーボネート)とPC(プロピレンカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)とを体積比30:12:58で混合してなる非水溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.2mol/Lの含有量となるように混合した溶液を作製した。この溶液に、界面活性剤等としてイオン性界面活性剤であるKNFBSを1質量%の含有量となるように、及びケイ素含有化合物としてTMESを0.05質量%の含有量となるように混合し、実施例1の非水電解質を得た。
【0106】
[実施例2から7、比較例1及び参考例1]
界面活性剤等及びケイ素含有化合物の種類及び含有量を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2から7、比較例1及び参考例1の各非水電解質を得た。なお、表1の非水電解質の成分の欄の「-」は相当する成分を用いていないことを示す。
【0107】
[参考例2]
EC、PC、EMC、DMC(ジメチルカーボネート)及びTFEE(1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル)を体積比40:10:12.5:12.5:25で混合してなる溶液に、電解質塩としてLiPFを1.0mol/Lの含有量となるように混合し、参考例2の非水電解質を得た。
【0108】
[参考例3]
参考例2の非水電解質に、さらにケイ素含有化合物としてTMESを0.2質量%の含有量となるように混合し、参考例3の非水電解質を得た。
【0109】
[評価]
(泡立ち抑制性:泡の体積)
得られた実施例1から7、比較例1及び参考例2、3の各非水電解質について、以下の泡立ち抑制性の評価を行った。内径40mmΦのポリプロピレン製円筒型容器(アズワン製「アイボーイ」広口ビン50mL)に10mLの非水電解質を注ぎ、アズワン製の振動式試験管ミキサー(目盛り:MAX)にて5秒間攪拌し、静置した。攪拌直後(0s)、撹拌30秒後(30s)、及び撹拌60秒後(60s)における液面からの泡の高さを定規にて測定し、泡の高さと容器の断面積とから泡の体積を測定した。実施例1から7及び比較例1の各非水電解質における測定結果を表1に、参考例2、3の各非水電解質における測定結果を表2に示す。
【0110】
(水溶性)
得られた実施例1から7、比較例1及び参考例1の各非水電解質について、以下の水溶性評価を行った。1気圧20℃の雰囲気下、10mLの純水と10mLの非水電解質とを50mLのビーカーに注ぎ、穏やかにかき混ぜた。具体的には、攪拌棒を用い、回転速度60rpmで、20回かき混ぜた。かき混ぜた後、30秒以上静置し、目視で流動が認められなくなったことを確認した。流動がおさまった後も混合液が均一な外観を維持するものを水溶性液体、二相に分離したものを非水溶性液体と評価した。評価結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
上記表1に示されるように、イオン性界面活性剤であるKNFBSを含有し、ケイ素含有化合物を含有していない比較例1の非水電解質は、攪拌によって泡立ちが大きく生じただけでなく、攪拌60秒後も泡が消滅しなかった。これに対し、イオン界面活性剤であるKNFBSと共にケイ素含有化合物を含有させた実施例1から7の非水電解質は、泡立ちを抑制することができた。このうち、実施例1、6、7は、撹拌直後には泡立ちが大きかったが、経時的な泡の消滅が速くなったことから、比較例1と比べて十分に実用性が高いことがわかる。さらに、ケイ素含有化合物として、分子量が比較的小さく、また、ケイ素原子に結合する基としてアルコキシ基及び炭化水素基の双方を有するTMES又はTEiBSを含有させた場合(実施例1から5)、泡立ち抑制効果が特に高いことがわかる。
一方、上記表2に示されるように、非イオン性のTFEEを含有する非水電解質(参考例2)においても攪拌によって泡立ちが生じた。しかし、このような非水電解質にケイ素含有化合物をさらに含有させても攪拌による泡立ちは抑制されず、また、経時的な泡の消滅の速さにも差が見られなかった(参考例3)。すなわち、泡立ち抑制効果は、イオン性界面活性剤に対してケイ素含有化合物を組み合わせて用いた場合に初めて生じる効果であるといえる。
また、イオン性界面活性剤であるKNFBSと共にケイ素含有化合物を含有させた実施例1から7の非水電解質は、水溶性液体として産業上有益であることが確認できた。
【0114】
[実施例8](非水電解質蓄電素子の作製)
(正極の作製)
正極活物質として、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物であるLi1.08Ni0.36Mn0.42Co0.14を用いた。質量比で、正極活物質:アセチレンブラック(AB):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)=93:4:3の割合(固形物換算)で含み、N-メチルピロリドン(NMP)を分散媒とする正極ペーストを作製した。この正極ペーストを正極基材としての帯状のアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥させてNMPを除去した。これをローラープレス機により加圧して正極活物質層を成型した後、100℃で14時間減圧乾燥して、極板中の水分を除去した。このようにして正極を得た。
【0115】
(負極の作製)
負極活物質として、黒鉛を用いた。質量比で、負極活物質(黒鉛):スチレンブタジエンゴム(SBR):カルボキシメチルセルロース(CMC)=97:2:1の割合(固形分換算)で含み、水を分散媒とする負極ペーストを作製した。この負極ペーストを負極基材としての帯状の銅箔集電体の両面に塗布し、乾燥させて水を除去した。これをローラープレス機により加圧して負極活物質層を成型した後、100℃で12時間減圧乾燥して、極板中の水分を除去した。このようにして負極を得た。
【0116】
(非水電解質蓄電素子の作製)
セパレータとして、無機層が塗工されたポリオレフィン製微多孔膜を用いた。このセパレータを介して、上記正極と上記負極とを積層することにより電極体を作製した。この電極体をアルミニウム製の角形電槽缶に収納し、正極端子及び負極端子を取り付けた。この容器(角形電槽缶)内部に実施例2の組成の非水電解質を注入した後、封口し、実施例8の非水電解質蓄電素子(二次電池)を得た。
【0117】
[実施例9、比較例2]
用いた非水電解質を表3に示すとおりとしたこと以外は、実施例8と同様にして、実施例9及び比較例2の各非水電解質及び非水電解質蓄電素子を得た。なお、表3の非水電解質の成分の欄中の「-」は相当する成分を用いていないことを示す。
【0118】
[評価](充放電サイクル試験)
得られた各非水電解質蓄電素子について、以下の条件にて初期充放電を行った。1サイクル目は、25℃で4.25Vまで充電電流0.2Cの定電流にて充電したのちに、4.25Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、電流値が0.05Cに至った時点とした。その後、25℃で2.75Vまで0.2Cの定電流で放電した。2サイクル目は、25℃で4.25Vまで1Cの定電流にて充電したのちに、4.25Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、電流値が0.05Cに至った時点とした。その後、25℃で2.75Vまで1Cの定電流で放電した。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、10分間の休止時間を設定した。その後、25℃で2.75Vまで0.2Cの定電流で放電した。
【0119】
上記初期充放電後、以下の条件にて充放電サイクル試験を行った。45℃で4.25Vまで1Cの定電流にて充電したのちに、4.25Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、電流値が0.05Cに至った時点とした。その後、25℃で2.75Vまで1Cの定電流で放電した。この充放電を200サイクル行った。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、10分間の休止時間を設定した。1サイクル目の放電容量に対する200サイクル目の放電容量の比を容量維持率として求めた。結果を表3に示す。
【0120】
【表3】
【0121】
表3に示されるように、イオン性界面活性剤を含有する非水電解質に対してさらにケイ素含有化合物を含有させることで、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率が改善した。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等の電源として使用される非水電解質蓄電素子等に適用できる。
【符号の説明】
【0123】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2