(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】自動二輪車用タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/18 20060101AFI20231031BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20231031BHJP
B60C 9/20 20060101ALI20231031BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
B60C9/18 J
B60C9/00 J
B60C9/20 E
B60C9/22 B
(21)【出願番号】P 2019236948
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】常盤 千尋
(72)【発明者】
【氏名】小堀 秀慈
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-167716(JP,A)
【文献】特開2013-129388(JP,A)
【文献】特開2014-878(JP,A)
【文献】特開2009-40347(JP,A)
【文献】特開2005-1552(JP,A)
【文献】特開2013-139165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/00-9/30
D07B 1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車用タイヤであって、
一対のビード部間に配されたトロイド状のカーカスと、
前記カーカスの半径方向外側かつトレッド部の内部に配されるバンド層とを備え、
前記バンド層は、スチールコードがタイヤ周方向に螺旋状に配されたバンドプライを含み、
前記タイヤのロードインデックスLI(kg)を、前記スチールコードの曲げ剛性(g・cm)を圧縮剛性(N/mm)で除した曲げ・圧縮剛性比で除した数値であるパラメータAが1500~6000である、
自動二輪車用タイヤ。
【請求項2】
前記スチールコードの曲げ剛性は16~50(g・cm)である、請求項1に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項3】
前記スチールコードは、撚り合わされた複数本のフィラメントを含み、前記フィラメントの間にはゴムが充填されている、請求項1又は2に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項4】
前記スチールコードは、前記スチールコードに含まれる前記フィラメントの本数を、前記スチールコードの撚りピッチ(mm)で除した数値であるパラメータBが1.5(本/mm)未満である、請求項3に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項5】
前記バンドプライは、5本以下の前記スチールコードをトッピングゴムで被覆した帯状プライが、タイヤ周方向に配列されたものである、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項6】
前記パラメータAが2500~5000である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項7】
前記パラメータAが3000~4500である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、カーカスと、その半径方向外側に配されるバンド層とを具えた自動二輪車用タイヤが記載されている。このバンド層は、タイヤ周方向に螺旋状に巻回されたスチール製のバンドコードを有するバンドプライから形成されている。このタイヤは、バンドコードの圧縮剛性及び曲げ剛性が、所定の範囲内に限定されることによって、操縦安定性の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、車両の制動開始から制動終了までの間、車両の減速度(進行方向とは反対の加速度)に比例するように、制動力が徐々に大きくなることが好ましい。しかしながら、タイヤによっては、制動開始から制動終了までの途中において、制動力が急激に大きくなり、制動時の安定性(以下、「制動安定性」という)について改善が求められていた。特に、レース用タイヤのように、シビアな条件下で使用されるタイヤでは、制動安定性がラップタイムなどに大きな影響を与えるものであった。
【0005】
発明者らは、上述の制動力の急激な変化について、鋭意研究を重ねた。その結果、バンドコードの圧縮剛性が相対的に高い場合、制動途中において、トレッド接地面内に位置するバンドコードのいくつかがトレッド半径方向に突然に蛇行するように撓む(コードが波打つ)ことが分かった。そして、制動途中でのバンドコードの波打ちは、トレッド接地面積を急激に増減させ、ひいては、制動力の急激な変化を招くと推測される。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、制動時の安定性を向上させることができる自動二輪車用タイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、自動二輪車用タイヤであって、一対のビード部間に配されたトロイド状のカーカスと、前記カーカスの半径方向外側かつトレッド部の内部に配されるバンド層とを備え、前記バンド層は、スチールコードがタイヤ周方向に螺旋状に配されたバンドプライを含み、前記タイヤのロードインデックスLI(kg)を、前記スチールコードの曲げ剛性(g・cm)を圧縮剛性(N/mm)で除した曲げ・圧縮剛性比で除した数値であるパラメータAが1500~6000であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る前記自動二輪車用タイヤにおいて、前記スチールコードの曲げ剛性は16~50(g・cm)であってもよい。
【0009】
本発明に係る前記自動二輪車用タイヤにおいて、前記スチールコードは、撚り合わされた複数本のフィラメントを含み、前記フィラメントの間にはゴムが充填されていてもよい。
【0010】
本発明に係る前記自動二輪車用タイヤにおいて、前記スチールコードは、前記スチールコードに含まれる前記フィラメントの本数を、前記スチールコードの撚りピッチ(mm)で除した数値であるパラメータBが1.5(本/mm)未満であってもよい。
【0011】
本発明に係る前記自動二輪車用タイヤにおいて、前記バンドプライは、5本以下の前記スチールコードをトッピングゴムで被覆した帯状プライが、タイヤ周方向に配列されてもよい。
【0012】
本発明に係る前記自動二輪車用タイヤにおいて、前記パラメータAが2500~5000であってもよい。
【0013】
本発明に係る前記自動二輪車用タイヤにおいて、前記パラメータAが3000~4500であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
発明者らは、制動安定性を向上させるために、バンドプライに採用されている前記スチールコードの曲げ・圧縮剛性比に着目した。そして、この比をタイヤが支えることができる最大負荷能力を示すロードインデックスとの関係で一定範囲に特定した。これにより、本発明の自動二輪車用タイヤは、制動時、トレッド接地面内に位置する前記スチールコードの波打ちを、制動開始時点ないしその直後から発生させ、制動中に安定した制動力を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】自動二輪車用タイヤの一例を示す断面図である。
【
図2】帯状プライの一例を部分的に示す斜視図である。
【
図3】スチールコードの一例を部分的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、自動二輪車用タイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)の一例を示す断面図である。本実施形態のタイヤ1は、例えば、ロードレース用の自動二輪車用のタイヤとして好適に採用されうるが、このような態様に限定されない。
【0017】
本実施形態のタイヤ1のトレッド部2は、タイヤ赤道Cからトレッド端Teに向かって凸円弧状に湾曲してのびるトレッド面2Sを有している。トレッド端Te、Te間のタイヤ軸方向距離であるトレッド巾TWは、タイヤ最大巾をなしている。これにより、タイヤ1は、大きなバンク角での旋回走行が可能となる。
【0018】
本実施形態のタイヤ1は、一対のビード部4、4間に配されたトロイド状のカーカス6と、カーカス6の半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されるバンド層7とを備えている。
【0019】
カーカス6は、少なくとも1枚で構成される。本実施形態では、2枚のカーカスプライで構成されており、タイヤ赤道Cにおいて内側に配される内側カーカスプライ6Aと、内側カーカスプライ6Aの外側に配される外側カーカスプライ6Bとが含まれる。これらの内側カーカスプライ6A及び外側カーカスプライ6Bは、トレッド部2からサイドウォール部3を経て両側のビード部4、4のビードコア5に至る本体部6aと、本体部6aに連なる一対の折り返し部6b、6bとをそれぞれ含んでいる。本体部6aと一対の折り返し部6b、6bとの間には、ビードコア5から半径方向外側に向かって延びる一対のビードエーペックスゴム8、8が設けられている。
【0020】
内側カーカスプライ6A及び外側カーカスプライ6Bは、カーカスコード(図示省略)をそれぞれ有している。カーカスコードは、タイヤ周方向に対して、例えば60~90°の角度で配列されている。カーカスコードには、例えば、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の有機繊維コードが好適に採用されうる。
【0021】
バンド層7は、少なくとも1枚、本例では1枚のバンドプライ7Aで構成されている。バンドプライ7Aは、タイヤ周方向に螺旋状に巻回されたスチールコード12を有している。
図2は、帯状プライ11の一例を部分的に示す斜視図である。
【0022】
本実施形態のバンドプライ7A(
図1に示す)は、
図2に示した帯状プライ11が、タイヤ周方向に配列される(螺旋状に巻回される)ことによって形成されている。帯状プライ11は、少なくとも1本のスチールコード12(本例では、複数本のスチールコード12)が、トッピングゴム13で被覆されることで形成されている。
【0023】
図3は、スチールコード12の一例を部分的に示す斜視図である。本実施形態のスチールコード12は、撚り合わされた複数本のフィラメント14を含んで構成されている。
図3では、スチールコード12として、4本のフィラメント14を撚り合わせた1×4構造の単撚りコードが例示されているが、このような態様に限定されない。スチールコード12には、例えば、1×5構造の単撚りコードが採用されてもよいし、3×3構造の複撚りコードが採用されてもよい。また、フィラメント14には、特許文献1と同様に、撚り合わせ前の状態において、予め型付けされている型付けフィラメント(図示省略)が含まれてもよい。
【0024】
本実施形態では、撚り合わされた複数本のフィラメント14が、ゴム15で被覆されている。これにより、本実施形態のフィラメント14の間には、ゴム15が充填されている。本実施形態のゴム15には、
図2に示したバンドプライ7Aのトッピングゴム13と同一配合のものが採用されているが、このような態様に限定されない。このようなゴム15により、スチールコード12は、フィラメント14同士が互いに接触するのを抑制することができるため、フィラメント14同士の接触に起因する損傷を防ぐことが可能となる。
【0025】
そして、本実施形態では、タイヤ1(
図1に示す)のロードインデックスLI(kg)を、スチールコード12の曲げ剛性(g・cm)を圧縮剛性(N/mm)で除した曲げ・圧縮剛性比で除した数値であるパラメータAが、1500~6000に限定されている。
【0026】
ロードインデックスLIは、1本のタイヤ1(
図1に示す)で支持することが可能な最大の質量(最大負荷能力)を示す指数である。本実施形態では、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系が定める「空気圧-負荷能力対応表」において、タイヤ1に定められているロードインデックスLIに対応する負荷能力の最大値(kg)が特定される。
【0027】
曲げ剛性(g・cm)は、1本のスチールコード12の曲げ剛性である。圧縮剛性(N/mm)は、1本のスチールコード12の圧縮剛性である。本実施形態では、特許文献1に記載されているバンドコードの圧縮剛性及び曲げ剛性の測定手順に基づいて、スチールコード12の曲げ剛性及び圧縮剛性がそれぞれ測定される。
【0028】
スチールコード12の圧縮剛性及び曲げ剛性は、特許文献1にも記載されているように、適宜調整されうる。本実施形態では、例えば、スチールコード12の撚りピッチP1、フィラメント14の本数、フィラメント14の外径D1、及び、型付けフィラメント(図示省略)の本数等が変更されることにより、スチールコード12の圧縮剛性及び曲げ剛性が調節される。
【0029】
曲げ・圧縮剛性比は、スチールコード12の曲げ剛性(g・cm)と、圧縮剛性(N/mm)との関係を特定したものである。そして、曲げ・圧縮剛性比と、ロードインデックス(kg)との関係を示すパラメータAが、1500~6000に限定されることにより、ロードインデックス(最大負荷能力)との関係で、曲げ・圧縮剛性比が一定範囲に特定されている。
【0030】
本実施形態では、パラメータAが上記の範囲に限定されることにより、従来のスチールコードに比べて、ロードインデックス(最大負荷能力)に対する曲げ・圧縮剛性比が、大きく設定される。このようなスチールコード12は、トレッド部2が路面に接地しているトレッド接地面内において、車両の制動時に作用する圧縮入力(圧縮入力の大きさは、ロードインデックス(最大負荷能力)の大きさと関係する。)を受けることにより、制動開始時点ないしその直後から座屈する。これにより、本実施形態では、トレッド接地面内に位置するスチールコード12が蛇行するように撓む波打ちを発生させることができる。このような波打ちは、波打ちが発生する前に比べて、トレッド接地面積をリニアに変化させることができ、制動力を安定させることができる。
【0031】
本実施形態のタイヤ1(
図1に示す)は、トレッド接地面内に位置するスチールコード12の波打ちを、制動開始時点ないしその直後から発生させることができるため、制動開始から制動終了までの途中において、トレッド接地面積の急激な変化を抑制できる。これにより、本実施形態のタイヤ1は、車両の制動開始から制動終了までの間、車両の減速度(進行方向とは反対の加速度)に比例するように、制動力を徐々に大きくすることができる。したがって、本実施形態のタイヤ1は、制動中に安定した制動力を提供することが可能となる。
【0032】
さらに、本実施形態のタイヤ1(
図1に示す)は、トレッド接地面内に位置するスチールコード12の波打ちを、車両の旋回が開始された時点ないしその直後から発生させることができる。したがって、本実施形態のタイヤ1は、旋回中のタイヤ1に負荷される荷重に比例するように、コーナリングフォースを徐々に大きくできるため、操縦安定性を向上させることが可能となる。
【0033】
本実施形態では、パラメータAが6000以下に限定されることにより、スチールコード12の曲げ・圧縮剛性比を相対的に大きくすることができる。これにより、本実施形態のタイヤ1(
図1に示す)は、トレッド接地面内に位置するスチールコード12の波打ちを、制動開始時点ないしその直後から発生させることができる。したがって、本実施形態のタイヤ1は、制動開始から制動終了までの途中において、トレッド接地面積の急激な変化を防ぐことができる。
【0034】
一方、本実施形態では、パラメータAが1500以上に限定されることにより、スチールコード12の曲げ剛性が必要以上に高くなるのを防ぐことができる。これにより、本実施形態のタイヤ1(
図1に示す)は、車両の制動時に作用するスチールコード12への圧縮入力を、スチールコード12の曲げ方向への入力に変換することができる。したがって、本実施形態のタイヤ1(
図1に示す)は、スチールコード12の波打ちを、制動開始時点ないしその直後から発生させることができるため、制動開始から制動終了までの途中において、トレッド接地面積の急激な変化を防ぐことができる。さらに、スチールコード12の曲げ剛性が高くなるのを防げるため、帯状プライ11(
図2に示す)が巻回されるバンドプライ7Aの成形工程において、凸円弧状に湾曲する外側カーカスプライ6B(
図1に示す)の外面に沿って、スチールコード12を配置できる。これにより、スチールコード12(とりわけ、スチールコード12の巻き付け終端)がタイヤ半径方向外側に浮き上がるのを防ぐことができるため、バンドプライ7Aの成形性を向上しうる。
【0035】
上述のような作用をより効果的に発揮させるために、パラメータAは、好ましくは5000以下、さらに好ましくは4500以下であり、また、好ましくは2500以上、さらに好ましくは3000以上である。
【0036】
スチールコード12の曲げ剛性は、16~50(g・cm)が望ましい。本実施形態では、曲げ剛性が50(g・cm)以下に限定されることにより、車両の制動時に作用するスチールコード12への圧縮入力を、スチールコード12の曲げ方向への入力に変換することができる。これにより、本実施形態のタイヤ1(
図1に示す)は、スチールコード12の波打ちを、制動開始時点ないしその直後から発生させることができる。さらに、曲げ剛性が50(g・cm)以下に限定されることにより、スチールコード12は、しなやかで曲がりやすくなるため、耐曲げ疲労性(スチールコード12の耐久性)が高められうる。
【0037】
一方、本実施形態では、曲げ剛性が16(g・cm)以上に限定されることにより、スチールコード12の波打ちが必要以上に大きくなるのを防ぐことができる。これにより、本実施形態のタイヤ1(
図1に示す)は、トレッド接地面の剛性が維持されるため、制動安定性及び操縦安定性が向上しうる。このような作用を効果的に発揮させるために、曲げ剛性は、好ましくは40(g・cm)以下であり、また、好ましくは25(g・cm)以上である。
【0038】
スチールコード12の圧縮剛性は、150~350(N/mm)が望ましい。圧縮剛性が350(N/mm)以下に設定されることにより、タイヤ1(
図1に示す)のトレッド接地面内に位置するスチールコード12の波打ちを、制動開始時点ないしその直後から発生させることができる。さらに、圧縮剛性が350(N/mm)以下に設定されることにより、スチールコード12は、スチールコード12への圧縮入力を、曲げ方向への入力に変換しうる。これにより、本実施形態のタイヤ1は、スチールコード12への圧縮入力が減じられるため、耐圧縮疲労性(スチールコード12の耐久性)を高めることができる。
【0039】
一方、圧縮剛性が150(N/mm)以上に設定されることにより、スチールコード12の波打ちが、必要以上に大きくなるのを防ぐことができる。このような作用を効果的に発揮させるために、圧縮剛性は、好ましくは300(N/mm)以下であり、また、好ましくは200(N/mm)以上である。
【0040】
本実施形態のスチールコード12は、フィラメント14の間に、ゴム15が充填されている。このようなゴム15は、車両の制動時のトレッド接地面内に位置するスチールコード12について、フィラメント14に作用する力の一部を吸収することができる。これにより、本実施形態のタイヤ1(
図1に示す)は、スチールコード12の波打ちが必要以上に大きくなるのを防ぐことができ、制動安定性及び操縦安定性を向上させることができる。
【0041】
スチールコード12は、フィラメント14の本数を、スチールコード12の撚りピッチ(mm)で除した数値であるパラメータBが、1.5(本/mm)未満に設定されるのが望ましい。これにより、スチールコード12が必要以上に密になるのを防ぐことができる。このため、スチールコード12は、車両の制動時に作用するスチールコード12への圧縮入力が作用しても、スチールコード12の外径が大きくなるのを防ぐことができ、圧縮剛性が必要以上に低下するのを防ぐことができる。したがって、本実施形態のタイヤ1(
図1に示す)は、トレッド接地面の剛性が維持されるため、制動安定性及び操縦安定性を向上させうる。このような作用を効果的に発揮させるために、パラメータBは、好ましくは1.0(本/mm)未満である。
【0042】
また、パラメータBは、0.3(本/mm)以上に設定されるのが望ましい。これにより、スチールコード12の圧縮剛性が、必要以上に大きくなるのを防ぐことができる。したがって、本実施形態のタイヤ1(
図1に示す)は、制動開始時点ないしその直後から、スチールコード12の波打ちを発生させることができる。
【0043】
図2に示した帯状プライ11に含まれるスチールコード12の本数は、5本以下に設定されるのが望ましい。これにより、本実施形態のタイヤ1(
図1に示す)は、外側カーカスプライ6Bの湾曲により、巻回された帯状プライ11に含まれる各スチールコード12の外径差が大きくなるのを防ぐことができる。したがって、タイヤ1は、バンドプライ7Aのタイヤ軸方向の剛性分布を略均一にすることができ、制動安定性及び操縦安定性が向上しうる。このような作用を効果的に発揮させるために、帯状プライ11に含まれるスチールコード12の本数は、好ましくは4本以下であり、より好ましくは3本以下である。
【0044】
また、帯状プライ11に含まれるスチールコード12の本数は、2本以上に設定されるのが望ましい。これにより、本実施形態のタイヤ1(
図1に示す)の製造工程において、帯状プライ11の巻回数が多くなるのを抑制できるため、製造コストの増大を防ぐことができる。
【0045】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0046】
図1の基本構造を有するタイヤが、表1の仕様に基づき試作された(実施例1~実施例23、及び、比較例1~5)。そして、これらのタイヤについて、制動安定性、及び、バンドプライの成形性が評価された。各タイヤの共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:120/70ZR17
リムサイズ:17×3.5MT
ロードインデックスLI(最大負荷能力):58(236kg)
タイヤの装着位置:前輪
タイヤ内圧:250kPa
車両:排気量1000ccの自動二輪車
テスト方法は、次のとおりである。
【0047】
<制動安定性>
上記条件に基づいて、各供試タイヤが上記車両の前輪に装着された。そして、上記車両をドライアスファルトのテストコースで走行させたときの制動安定性が、テストライダーによる官能によって10点法で評価された。結果は、数値が大きいほど、制動時の車両の減速度に比例するように、制動力が徐々に大きくなっており、制動安定性が良好であることが示されている。
【0048】
<バンドプライの成形性>
図2に示した帯状プライがタイヤ周方向に巻回されて、各供試タイヤのバンドプライが成形された。そして、帯状プライの巻き付け終了後に、スチールコードの巻き付け終端が、半径方向外側に浮いているか否かが、目視にて確認された。結果は、スチールコードの浮きが無かったものが「○」で示されており、スチールコードの浮きがあったものが「×」で示されている。
テストの結果が表1~3に示される。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比べて、バンドプライの成形性を維持しつつ、制動安定性を向上させることができた。
【符号の説明】
【0053】
1 自動二輪車用タイヤ
4 ビード部
6 カーカス
7 バンド層
7A バンドプライ