(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】三次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/153 20170101AFI20231031BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231031BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20231031BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20231031BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231031BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20231031BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
B29C64/153
B33Y10/00
B33Y70/00
C08K3/00
C08K3/013
C08L67/02
C08L69/00
(21)【出願番号】P 2019561339
(86)(22)【出願日】2019-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2019039694
(87)【国際公開番号】W WO2020090381
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2018204190
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 圭
(72)【発明者】
【氏名】竹田 多完
(72)【発明者】
【氏名】石橋 淳司
(72)【発明者】
【氏名】御山 寿
(72)【発明者】
【氏名】西田 幹也
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/002443(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121013(WO,A1)
【文献】特開2004-143208(JP,A)
【文献】特開2001-254009(JP,A)
【文献】特開2006-321711(JP,A)
【文献】特表平11-509485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
B29C
B33Y
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂
100重量部に対し、ポリカーボネート樹脂を
40~150重量部の割合で含む粉粒体混合物であって、ポリブチレンテレフタレートの末端カルボキシル基量が35eq/t以上50eq/t以下であり、平均粒径が1μmを超え100μm以下、均一度が4以下、融点が220℃を超え、かつ、融点と結晶化温度の差が60℃以上である粉粒体混合物から粉末焼結法3Dプリンタにより三次元造形物を製造することを特徴とする三次元造形物の製造方法。
【請求項2】
前記粉粒体混合物が、ポリブチレンテレフタレート樹脂粉粒体とポリカーボネート樹脂粉粒体との混合物である、請求項
1記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項3】
前記粉粒体混合物が、ポリブチレンテレフタレート樹脂およびポリカーボネート樹脂を含むポリマーアロイ粉粒体からなる、請求項
1記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリマーアロイ粉粒体が、構造周期0.001~0.1μmの両相連続構造または粒子間距離0.01~1μmの分散構造を有する、請求項
3記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項5】
ポリブチレンテレフタレート樹脂およびポリカーボネート樹脂を含むポリマーアロイ粉粒体を粉砕して前記粉粒体混合物を製造する、請求項
2記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項6】
前記ポリマーアロイ粉粒体が、構造周期0.001~0.1μmの両相連続構造または粒子間距離0.01~1μmの分散構造を有する、請求項
5記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項7】
前記粉粒体混合物100重量部に対し、平均粒径20~500nmの無機微粒子を0.1~5重量部の割合で含む、請求項1記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項8】
前記無機微粒子がシリカである、請求項
7記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項9】
前記粉粒体混合物100重量部に対し、最大長さの平均値が1μm以上200μm以下の無機強化材を25~150重量部の割合で含む、請求項1記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項10】
前記無機強化材が、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスファイバー、カーボンファイバー、酸化アルミニウム、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、シリカ、アルミノシリケート・セラミック、石灰石、石膏、ベントナイト、沈降ケイ酸ナトリウム、非晶質沈降シリカ、非晶質沈降ケイ酸カルシウム、非晶質沈降ケイ酸マグネシウム、非晶質沈降ケイ酸リチウム、ポルトランド・セメント、リン酸マグネシウム・セメント、オキシ塩化マグネシウム・セメント、オキシ硫酸マグネシウム・セメント、リン酸亜鉛セメント、酸化亜鉛、酸化チタン、およびチタン酸カリウムから選ばれる少なくとも1種である、請求項
9記載の三次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末焼結法3Dプリンタによって三次元造形物を作製するための材料粉末として好適な粉粒体混合物およびその製造方法、ならびに粉粒体組成物および三次元造形物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元の立体物を造形する技術として、ラピッド・プロトタイピング(RP:Rapid Prototyping)と呼ばれる技術が知られている。この技術は、ひとつの三次元形状の表面を三角形の集まりとして記述したデータ(STL(Standard Triangulated Language)フォーマットのデータ)により、積層方向について薄く切った断面形状を計算し、その形状に従って各層を形成して立体物を造形する技術である。また、立体物を造形する手法としては、溶融物堆積法(FDM:Fused Deposition Molding)、UV硬化インクジェット法、光造形法(SL:Stereo Lithography)、粉末焼結法(SLS:Selective Laser Sintering)、インクジェットバインダ法などが知られている。特に、粉末焼結法は、粉末を薄層に展開する薄層形成工程と、形成された薄層に、造形対象物の断面形状に対応する形状にレーザー光を照射して、その粉末を結合させる断面形状形成工程とを順次繰り返すことにより製造する方法であり、他の造形方法と比較して精密造形に好適である、サポート部材が不要であるという利点を有する。例えば、合成樹脂粉末30~90重量%と無機充填材10~70重量%とを混合した粉末を用いて人工骨モデルを製造する方法が開示されている(特許文献1参照)。このような技術は、射出成型や押出成型に代表される従来の成型方法では作製が困難な複雑形状を作製する方法として有望である。
【0003】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下PBT樹脂と略すことがある。)は、優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性などエンジニアリングプラスチックとしては好適な性質を有しており、射出成形、押出成形用途を中心として各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品、フィルム、繊維などに使用されている。
【0004】
このような優れた耐熱性を有する樹脂を3Dプリンタ用材料として使用する需要は高く、3Dプリンタ用樹脂としては、特許文献2に記載されている共重合PBT樹脂を粉砕して得られる樹脂粉粒体や、特許文献3に記載されている半結晶または結晶芳香族のPBT樹脂粉粒体が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-184606号公報
【文献】特許第6033994号公報
【文献】特開2017-19267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されている樹脂粉粒体は、ホモPBT樹脂と比較して融点が低いため耐熱上限温度が低い3Dプリンタ装置においても造形可能であるが、造形物の耐熱性も低下してしまう。また、特許文献3に記載されている樹脂粉粒体も3Dプリンタにて造形可能であるものは融点が150℃以下であり耐熱性が低い。PBT樹脂は融点と結晶化温度の差が小さく、3Dプリンタ造形には不向きである。
【0007】
本発明は、3Dプリンタ用材料に好適な特性を有し、造形品としたときの耐熱性の高いPBT樹脂粉粒体を効率よく得ることを課題として検討した結果達成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記発明に至った。
すなわち、本発明は、以下の構成を有する。
(1)ポリブチレンテレフタレート樹脂およびポリカーボネート樹脂を含む粉粒体混合物であって、平均粒径が1μmを超え100μm以下、均一度が4以下、融点が220℃を超え、かつ、融点と結晶化温度の差が60℃以上であることを特徴とする粉粒体混合物。
(2)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、ポリカーボネート樹脂を40~150重量部の割合で含む、(1)記載の粉粒体混合物。
(3)ポリブチレンテレフタレート樹脂粉粒体とポリカーボネート樹脂粉粒体との混合物である、(1)または(2)記載の粉粒体混合物。
(4)ポリブチレンテレフタレート樹脂およびポリカーボネート樹脂を含むポリマーアロイ粉粒体からなる、(1)または(2)記載の粉粒体混合物。
(5)前記ポリマーアロイ粉粒体が、構造周期0.001~0.1μmの両相連続構造または粒子間距離0.01~1μmの分散構造を有する、(4)記載の粉粒体混合物。
(6)前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量が35eq/t以上50eq/t以下であることを特徴とする(1)~(5)記載の粉粒体混合物。
(7)ポリブチレンテレフタレート樹脂粉粒体およびポリカーボネート樹脂粉粒体を混合して(3)記載の粉粒体混合物を製造することを特徴とする粉粒体混合物の製造方法。
(8)ポリブチレンテレフタレート樹脂およびポリカーボネート樹脂を含むポリマーアロイ粉粒体を粉砕して(4)または(5)記載の粉粒体混合物を製造することを特徴とする粉粒体混合物の製造方法。
(9)前記ポリマーアロイ粉粒体が、構造周期0.001~0.1μmの両相連続構造または粒子間距離0.01~1μmの分散構造を有する、(8)記載の粉粒体混合物の製造方法。
(10)(1)~(6)のいずれか記載の粉粒体混合物100重量部に対し、平均粒径20~500nmの無機微粒子を0.1~5重量部の割合で含むことを特徴とする粉粒体組成物。
(11)前記無機微粒子がシリカである、(10)記載の粉粒体組成物。
(12)(1)~(6)のいずれか記載の粉粒体混合物100重量部に対し、最大長さの平均値が1μm以上200μm以下の無機強化材を25~150重量部の割合で含む、(10)または(11)記載の粉粒体組成物。
(13)前記無機強化材が、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスファイバー、カーボンファイバー、酸化アルミニウム、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、シリカ、アルミノシリケート・セラミック、石灰石、石膏、ベントナイト、沈降ケイ酸ナトリウム、非晶質沈降シリカ、非晶質沈降ケイ酸カルシウム、非晶質沈降ケイ酸マグネシウム、非晶質沈降ケイ酸リチウム、塩、ポルトランド・セメント、リン酸マグネシウム・セメント、オキシ塩化マグネシウム・セメント、オキシ硫酸マグネシウム・セメント、リン酸亜鉛セメント、酸化亜鉛、酸化チタン、およびチタン酸カリウムから選ばれる少なくとも1種である、(12)記載の粉粒体組成物。
(14)(1)~(6)のいずれか記載の粉粒体混合物または(10)~(13)のいずれか記載の粉粒体組成物から粉末焼結法3Dプリンタにより三次元造形物を製造することを特徴とする三次元造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粉末焼結法3Dプリンタによって三次元造形物を作製するための材料粉末として好適な、ポリブチレンテレフタレートおよびポリカーボネートを含む粉粒体混合物(以下PBT/PC粉粒体と略すことがある。)を効率よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[PBT樹脂]
本明細書におけるポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)とは、80重量%以上、好ましくは85重量%以上がポリブチレンテレフタレートからなるものであり、ポリブチレンテレフタレート以外の他の樹脂を、共重合または混合したものであっても良い。また、本明細書におけるポリブチレンテレフタレートとは、ブチレンテレフタレート成分を主たる繰返し単位とするポリマーである。なおここでいう主たる繰り返し単位とは、全繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは85モル%以上を意味する。その他の酸成分としてイソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸等を、その他のジオール成分としては、具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1 , 4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、2,2-ビス(4 ’-ヒドロキシフェニル) プロパン等の芳香族ジオールを一部用いることもできる。これらの共重合成分はそれぞれテレフタル酸または1 ,4-ブタンジオールに対して40モル%以下であることが好ましい。
【0011】
ポリブチレンテレフタレートの分子量は、好ましくは、重量平均分子量で、1,000~1,000,000である。重量平均分子量の好ましい下限は、1,000であり、より好ましくは5,000であり、さらに好ましくは10,000である。また、重量平均分子量の好ましい上限は1,000,000であり、さらに好ましくは500,000であり、特に好ましくは100,000であり、最も好ましくは50,000である。
【0012】
ポリブチレンテレフタレートの重量平均分子量は1,000より小さいと成形時の強度が優れず、1,000,000より大きいと溶融粘度が高くなり成型加工が困難となる。
【0013】
ここでいう重量平均分子量とは、溶媒として1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2―プロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレンで換算した重量平均分子量を指す。
【0014】
ポリブチレンテレフタレートの末端カルボキシル基量は、35eq/t以上50eq/t以下であることが好ましい。末端カルボキシル基量の好ましい上限は50eq/tであり、より好ましくは48eq/tであり、さらに好ましくは45eq/tである。また、末端カルボキシル基量の好ましい下限は35eq/tであり、より好ましくは37eq/tである。末端カルボキシル基量が50eq/tより多いと3Dプリンタで造形して得た三次元造形物の耐加水分解性が著しく悪化する場合がある。ここでPBTの末端カルボキシル基量は、粉粒体または後述するポリマーアロイ原料を製造するポリマー原料を用いて、電位差滴定により求めた値である。また、末端カルボキシル基量が35eq/t未満では、ポリブチレンテレフタレートの固相重合の反応速度が速くなる。3Dプリンタ造形時には、材料である樹脂粉粒体は高温で長時間加熱されるため、ポリブチレンテレフタレートの固相重合の反応速度が速いと造形中に著しく増粘し、造形不良を引き起こす恐れがある。
【0015】
[PC樹脂]
本発明では、ポリカーボネート樹脂(以下PC樹脂と略すことがある。)を配合することによりPBT/PC粉粒体の結晶化温度を低下させることが重要である。ポリカーボネートの含有量は、ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し、40重量部以上150重量部以下であることが好ましい。ポリカーボネートの含有量の上限は、140重量部がより好ましく、130重量部がさらに好ましい。また、ポリカーボネートの含有量の下限は、50重量部がより好ましく、60重量部がさらに好ましい。
【0016】
ポリカーボネートの含有量が40重量部を下回る場合は、PBT/PC粉粒体の結晶化温度を低下させる効果が十分でなく、3Dプリンタ造形が困難となる上、造形時の粉末温度が高温となるため造形後の未溶融粉末が凝集し、再使用することが困難となる。
【0017】
[PBT/PC粉粒体]
本発明では、平均粒径が1μmを超え100μm以下であるPBT/PC粉粒体を用いる。PBT/PC粉粒体の平均粒径の好ましい下限は3μmであり、より好ましくは5μmであり、さらに好ましくは8μmであり、特に好ましくは10μmであり、著しく好ましくは13μmであり、最も好ましくは15μmである。また、好ましい平均粒径の上限は95μmであり、より好ましくは、90μmであり、さらに好ましくは85μmであり、特に好ましくは80μmであり、著しく好ましくは75μmであり、最も好ましくは70μmである。
【0018】
PBT/PC粉粒体の粒度分布は均一である必要がある。PBT/PC粉粒体の均一度は4.0以下であり、好ましくは3.5以下であり、さらに好ましくは3.0以下であり、特に好ましくは2.5以下であり、著しく好ましくは2.0以下である。均一度の下限は、理論的には1であるが、現実的には1.1以上が好ましく、より好ましくは1.2以上であり、さらに好ましくは1.3以上であり、特に好ましくは1.4以上であり、著しく好ましくは1.5以上である。PBT/PC粉粒体の均一度が4を超える場合は、たとえ平均粒径が適切な範囲であっても、3Dプリンタでの粉末積層時に均一な粉面を形成することができず、本発明の効果を奏することが出来ない。
【0019】
本発明におけるPBT/PC粉粒体の平均粒径とは、ミー(Mie)の散乱・回折理論に基づくレーザー回折式粒度分布計にて測定される粒度分布の小粒径側からの累積度数が50%となる粒径(d50)である。
【0020】
本発明におけるPBT/PC粉粒体の均一度は、上記方法により測定した粒度分布の小粒径側からの累積度数が60%となる粒径(d60)を小粒径側からの累積度数が10%となる粒径(d10)で除した値である。
【0021】
PBT/PC粉粒体の融点は220℃を超える必要がある。融点が220℃以下である場合は、造形品としたときの耐熱性が低くなり、所望の形状の三次元造形物を得ることができない。
【0022】
PBT/PC粉粒体の結晶化温度と融点の差は60℃以上である必要がある。ここでいう融点および結晶化温度とは、粉粒体混合物を用いて示差走査熱量測定法(DSC法)により、30℃から、粉粒体混合物の原料ポリマーの最も高い融点よりも30℃高い温度までの温度範囲を、20℃/分の昇温速度で1回昇温させた後に、1分間保持した後、20℃/分で0℃まで降温させた際の、溶融に伴う吸熱ピークおよび結晶化に伴う発熱ピークの頂点を指す。複数のピークを有する場合は最も高温側のピークの頂点を融点および結晶化温度とした。PBT/PC粉粒体の結晶化温度と融点の差が60℃より小さいと、レーザー光照射により溶融したPBT/PC粉粒体が結晶化することで収縮・反りが発生する。反りが発生すると上の層を積層する際に引き摺られ、所望の形状の三次元造形物を得ることができない。
【0023】
[無機微粒子]
本発明において、PBT/PC粉粒体の流動性を更に改善するために無機微粒子を添加することが可能である。PBT/PC粉粒体の流動性は、粒径が小さいと近傍の粒子との相互作用により悪化するが、PBT/PC粉粒体よりも粒径の小さな無機微粒子を添加することで粒子間距離を広げ、流動性を改善することができる。
【0024】
本発明で、PBT/PC粉粒体に添加する無機微粒子は、平均粒径が20nm以上500nm以下のものを用いる。ここで、平均粒径は、上記のPBT/PC粉粒体の平均粒径と同様の方法で測定した値である。
【0025】
無機微粒子の平均粒径の上限は、400nmが好ましく、さらに好ましくは300nmであり、より好ましくは200nmであり、特に好ましくは150nmであり、著しく好ましくは100nmである。下限は、好ましくは30nmであり、より好ましくは40nmであり、特に好ましくは50nmである。無機微粒子の平均粒径が500nmを超えると、PBT/PC粉粒体の流動性を向上させる効果が十分でない。また、無機微粒子の平均粒径が20nmを下回る場合は、流動性の向上効果は得られるが、PBT/PC粉粒体の圧縮度を下げる効果が得られにくい。
【0026】
添加する無機微粒子としては、上記平均粒径のものを使用することができ、好ましくは、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、微粉化炭酸カルシウム、特殊カルシウム系充填剤などの炭酸カルシウム粉末;霞石閃長石微粉末、モンモリロナイト、ベントナイト等の焼成クレー、シラン改質クレーなどのクレー(ケイ酸アルミニウム粉末);タルク;溶融シリカ、結晶シリカ、アモルファスシリカなどのシリカ(二酸化ケイ素)粉末;ケイ藻土、ケイ砂などのケイ酸含有化合物;軽石粉、軽石バルーン、スレート粉、雲母粉などの天然鉱物の粉砕品;アルミナ(酸化アルミニウム)、アルミナコロイド(アルミナゾル)、アルミナホワイト、硫酸アルミニウムなどのアルミナ含有化合物;硫酸バリウム、リトポン、硫酸カルシウム、二硫化モリブデン、グラファイト(黒鉛)などの鉱物;ガラスファイバー、ガラスビーズ、ガラスフレーク、発泡ガラスビーズなどのガラス系フィラー;フライアッシュ球、火山ガラス中空体、合成無機中空体、単結晶チタン酸カリ、カーボン繊維、カーボンナノチューブ、炭素中空球、炭素64フラーレン、無煙炭粉末、人造氷晶石(クリオライト)、酸化チタン、酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、チタン酸カリウム、亜硫酸カルシウム、マイカ、アスベスト、ケイ酸カルシウム、アルミニウム粉、硫化モリブデン、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維などが挙げられるが、さらに好ましくは炭酸カルシウム粉末、シリカ粉末、アルミナ含有化合物、ガラス系フィラーが挙げられる。特に好ましくはシリカ粉末が挙げられるが、中でも人体への有害性の小さいアモルファスシリカ粉末が工業上極めて好ましい。
【0027】
本発明における無機微粒子の形状は、球状、多孔状、中空状、不定形状などがあり特に定めるものではないが、良好な流動性を示すことから中でも球状であることが好ましい。
【0028】
この場合、球状とは真球だけでなく、歪んだ球も含む。なお、無機微粒子の形状は、粒子を二次元に投影した時の円形度で評価する。ここで円形度とは、(投影した粒子像の面積と等しい円の周囲長)/(投影した粒子の周囲長)である。無機微粒子の平均円形度は、0.7以上1以下が好ましく、0.8以上1以下がより好ましい、さらに好ましくは0.9以上1以下が好ましい。
【0029】
シリカ粉末は、その製法によって、シラン化合物を燃焼させて得られる燃焼法シリカ(即ち、フュームドシリカ)、金属珪素粉を爆発的に燃焼させて得られる爆燃法シリカ、珪酸ナトリウムと鉱酸との中和反応によって得られる湿式シリカ(このうち、アルカリ条件で合成し凝集させたものを沈降法シリカ、酸性条件で合成し凝集させたものをゲル法シリカという)、珪酸ナトリウムからイオン交換樹脂で脱ナトリウムして得られた酸性珪酸をアルカリ性にして重合することで得られるコロイダルシリカ(シリカゾル)、シラン化合物の加水分解によって得られるゾルゲル法シリカなどに大別できるが、本発明の効果を得るためには、ゾルゲル法シリカが好ましい。
【0030】
すなわち、無機微粒子の中でもシリカが好ましく、さらに好ましくはゾルゲル法シリカおよび/または球状シリカ、なかでもゾルゲル法球状シリカが最も好ましい。
【0031】
さらに好ましくはシラン化合物やシラザン化合物等で表面を疎水化処理したものが用いられる。表面を疎水化処理することにより、無機微粒子同士の凝集を抑制し、無機微粒子のPBT/PC粉粒体への分散性が向上する。前記シラン化合物は、例えばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン等の非置換若しくはハロゲン置換のトリアルコキシシラン等、好ましくは、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン及びエチルトリエトキシシラン、より好ましくは、メチルトリメトキシシラン及びメチルトリエトキシシラン、またはこれらの部分加水分解縮合生成物が挙げられる。また、前記シラザン化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン等、好ましくはヘキサメチルジシラザンが挙げられる。1官能性シラン化合物としては、例えば、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール等のモノシラノール化合物;トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン等のモノクロロシラン;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン;トリメチルシリルジメチルアミン、トリメチルシリルジエチルアミン等のモノアミノシラン;トリメチルアセトキシシラン等のモノアシルオキシシランが挙げられ、好ましくは、トリメチルシラノール、トリメチルメトキシシラン又はトリメチルシリルジエチルアミン、特に好ましくは、トリメチルシラノール又はトリメチルメトキシシランが挙げられる。
【0032】
これらの無機微粒子は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
無機微粒子の配合量は、PBT/PC粉粒体100重量部に対し、0.1重量部以上5重量部以下である。配合量の上限は、4重量部がより好ましく、3重量部がさらに好ましい。また、配合量の下限は、0.2重量部が好ましく、0.3重量部がより好ましく、0.4重量部がさらに好ましい。
【0034】
[無機強化材]
本発明において、PBT/PC粉粒体を成型した際の強度を向上するために無機強化材を添加することもできる。
【0035】
本発明で、PBT/PC粉粒体に添加する無機強化材は、最長寸法が1μm以上200μm以下のものを用いる。無機強化材の最長寸法の上限は、好ましくは180μmであり、より好ましくは170μmであり、特に好ましくは160μmであり、著しく好ましくは150μmである。下限は、好ましくは5μmであり、より好ましくは10μmであり、特に好ましくは15μmである。無機強化材の最長寸法が200μmを超えると、PBT/PC粉粒体の流動性が著しく悪化してしまう。また、無機強化材の最長寸法が1μmを下回る場合は、流動性の向上効果は得られるが、PBT/PC粉粒体を成形した際の強度向上効果が得られにくい。
【0036】
無機強化材が繊維状の場合は繊維長が最大長さであり、最大長さの平均値(最長寸法)は、繊維長の平均値である。さらに繊維径が0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。繊維径は、さらに好ましくは0.5μmであり、特に好ましくは1μmである。また、繊維径は、さらに好ましくは40μmであり、特に好ましくは30μmである。ここで、繊維長および繊維径とは、電子顕微鏡を用いて1000倍に拡大した画像から、無作為に任意の100個の繊維を選び、長さを計測した値の平均値である。
【0037】
また、無機強化材が非繊維状の場合は平均粒径を最大長さの平均値とする。ここで、平均粒径とは、前述のPBT/PC粉粒体の平均粒径と同様の方法で測定した値である。
【0038】
無機強化材としては、上記最長寸法のものを使用することができ、好ましくは、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、微粉化炭酸カルシウム、特殊カルシウム系充填剤などの炭酸カルシウム粉末;霞石閃長石微粉末、モンモリロナイト、ベントナイト等の焼成クレー、シラン改質クレーなどのクレー(ケイ酸アルミニウム粉末);タルク;ケイ藻土、ケイ砂などのケイ酸含有化合物;軽石粉、軽石バルーン、スレート粉、雲母粉などの天然鉱物の粉砕品;アルミナ(酸化アルミニウム)、アルミナコロイド(アルミナゾル)、アルミナホワイト、硫酸アルミニウムなどのアルミナ含有化合物;硫酸バリウム、リトポン、硫酸カルシウム、二硫化モリブデン、グラファイト(黒鉛)などの鉱物;ガラスファイバー、ガラスビーズ、ガラスフレーク、発泡ガラスビーズなどのガラス系フィラー;フライアッシュ球、火山ガラス中空体、合成無機中空体、炭素繊維、カーボンナノチューブ、炭素中空球、炭素64フラーレン、無煙炭粉末、人造氷晶石(クリオライト)、酸化チタン、酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、チタン酸カリウム、亜硫酸カルシウム、マイカ、アスベスト、ケイ酸カルシウム、アルミニウム粉、硫化モリブデン、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維などが挙げられるが、さらに好ましくはガラス系フィラー、カーボン繊維が挙げられる。これらの無機強化材は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
無機強化材の配合量は、粉粒体混合物100重量部に対し、25重量部以上150重量部以下である。配合量の上限は、140重量部がより好ましく、130重量部がさらに好ましい。また、配合量の下限は、30重量部がより好ましく、35重量部がさらに好ましい。
【0040】
[PBT/PC粉粒体の製造方法]
本発明においては、平均粒径が大きいPBT樹脂や、均一度が大きい(均一でない)PBT樹脂を原料として、粉砕処理を行うことで本発明に適する粉粒体を得ることが出来る。粉砕処理の方法に特に制限は無く、ジェットミル、ビーズミル、ハンマーミル、ボールミル、サンドミル、ターボミル、冷凍粉砕が挙げられる。好ましくは、ターボミル、ジェットミル、冷凍粉砕などの乾式粉砕であり、さらに好ましくは冷凍粉砕が好ましい。
【0041】
粉砕前のPBT樹脂の形状には制限はないが、一般的な製造法に用いられる技術で製造されるPBT樹脂はペレット状である。
【0042】
また、PBT/PC粉粒体を得る方法としては、PBT樹脂とPC樹脂を個々に粉砕した後に混合する方法や、PBT樹脂にPC樹脂を溶融混錬したポリマーアロイのペレットを粉砕する方法が挙げられる。後者を採用する場合には、構造周期0.001~0.1μmの両相連続構造または粒子間距離0.01~1μmの分散構造を有するポリマーアロイを原料として使用することにより、優れた強度および靭性を有する3Dプリンタによる造形物を得ることができる。構造周期0.001~0.1μmの両相連続構造または粒子間距離0.01~1μmの分散構造を有するポリマーアロイ原料を製造する方法としては、2成分が相溶する条件下で2軸押出機を用いた溶融混錬を行う方法等が挙げられる。また、上記ポリマーアロイに、さらにポリマーアロイを構成する成分を含むブロックコポリマーやグラフトコポリマーやランダムコポリマーなどの第3成分を添加することは、相分離した相間における界面の自由エネルギーを低下させ、両相連続構造における構造周期や、分散構造における分散粒子間距離の制御を容易にするため好ましい。この場合、通常、かかるコポリマーなどの第3成分は、それを除く2成分の樹脂からなるポリマーアロイの各相に分配されるため、2成分の樹脂からなるポリマーアロイ同様に取り扱うことができる。また、本発明のポリマーアロイには、さらに他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を本発明の構造を損なわない範囲で含有させることもできる。これらの熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリエステル、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0043】
本発明では、前記のPBT/PC粉粒体に、無機微粒子および無機強化材を配合することができる。均一なPBT/PC粉粒体とするための方法としては特に定めるものではなく、PBT/PC粉粒体と無機微粒子を公知の方法で混合する。前述した粉砕処理を行う際に、無機微粒子や無機強化材を配合して、粉砕と混合を同時に行う方法も採用できる。
【0044】
混合の方法としては、振とうによる混合方法、ボールミル、コーヒーミルなどの粉砕を伴う混合方法、ナウターミキサーやヘンシェルミキサー、ニーダーなどの攪拌翼による混合方法、V型混合機などの容器ごと回転させる混合方法、溶媒中での液相混合した後に乾燥する方法、フラッシュブレンダーなどを使用して気流によって攪拌する混合方法、アトマイザーなどを使用して粉粒体および/またはスラリーを噴霧する混合方法、二軸押出機による混合方法などが採用できる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の方法を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、各種測定法は以下の通りである。
【0046】
[平均粒径]
PBT/PC粉粒体の平均粒径は日機装製レーザー回折・散乱方式粒度分布測定装置MT3300EXIIを用い、分散媒としてポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル(商品名ノナール912A 東邦化学工業製 以後、ノナール912Aと称す)の0.5質量%水溶液を用いて測定した。具体的にはマイクロトラック法によるレーザーの散乱光を解析して得られる微粒子の総体積を100%として累積カーブを求め、小粒径側からの累積カーブが50%となる点の粒径(メジアン径:d50)をPBT/PC粉粒体の平均粒径とした。無機微粒子の平均粒径の測定は、PBT/PC粉粒体の平均粒径と同様の方法で行った。
【0047】
[最長寸法]
無機強化材の最長寸法の測定にあたっては、電子顕微鏡を用いて1000倍に拡大した画像から、無作為に任意の100個の粒子を選び、最大長さを測長し、その数平均値を最長寸法とした。
【0048】
[均一度]
PBT/PC粉粒体の均一度は、日機装製レーザー回折・散乱方式粒度分布測定装置MT3300EXIIを用いて測定した粒径分布のd60/d10の値をPBT/PC粉粒体の均一度とした。粒度分布が広いほど均一度は大きくなる。
【0049】
[融点および結晶化温度]
PBT/PC粉粒体の融点および結晶化温度は、パーキンエルマー製DSC7を用いてPBT/PC粉粒体約10mgを、窒素雰囲気中、下記測定条件を用いて測定し、昇温時の溶融に伴う吸熱ピークの頂点を融点とし、降温時の結晶化に伴う発熱ピークの頂点を結晶化温度とした。複数のピークを有する場合は最も高温側のピークの頂点を融点および結晶化温度とした。
・30℃×1分間保持
・50℃から260℃まで昇温、昇温速度20℃/min
・260℃×5分間保持
・260℃から30℃まで降温、降温速度20℃/min
【0050】
[末端カルボキシル基量]
PBTの末端カルボキシル基量は、PBT2.0gをo-クレゾール/クロロホルム溶媒(重量比2:1)50mlに加熱溶解し、冷却後、クロロホルム30mlを加え、さらに、12%メタノール性塩化リチウム溶液を5ml添加し、得られた溶液をエタノール性水酸化カリウムで電位差滴定を行って測定した。
【0051】
[構造周期または粒子間距離]
シリンダー温度250℃、80~140℃の任意の金型温度で、住友重機械工業社製射出成形機(SG75H-MIV)を使用して作成した厚み3mmの角板から、厚み100μmの切片を切り出し、ヨウ素染色法によりPCを染色後、超薄切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡にて1万倍に拡大して観察を行い、構造の観察が可能な箇所を任意で100箇所選び出し、それぞれの構造周期を測定した上で、平均値を計算した。
【0052】
[実施例1]
PBT樹脂(東レ(株)製“トレコン”1100S、末端カルボキシル基量=38eq/t)およびPC樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製“ユーピロン”H4000)を液体窒素に浸漬して十分に冷却した後にそれぞれターボミルで120分間粉砕し、平均粒径50μm、均一度2.9のPBT樹脂粉粒体および平均粒径55μm、均一度3.3のPC樹脂粉粒体を得た。PBT樹脂粉粒体6.0kgとPC樹脂粉粒体4.0kgをタンブラー型混合機にて混合して平均粒径52μm、均一度3.0のPBT/PC粉粒体を得た。このPBT/PC粉粒体の融点は223℃、結晶化温度は158℃であった。このPBT/PC粉粒体を使用して粉末焼結法3Dプリンタ(アスペクト製Rafael300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面荒れ、レーザー光照射時の反りは発生せず良好な三次元造形物が得られた。
【0053】
[実施例2]
混合したPBT樹脂粉粒体の重量が5.0kg、PC樹脂粉粒体の重量が5.0kgである以外は実施例1と同様にして、PBT/PC粉粒体を得た。得られたPBT/PC粉粒体の平均粒径は54μm、均一度は3.1であり、融点は223℃、結晶化温度は155℃であった。このPBT/PC粉粒体を使用して粉末焼結法3Dプリンタ(アスペクト製Rafael300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面荒れ、レーザー光照射時の反りは発生せず良好な三次元造形物が得られた。
【0054】
[実施例3]
実施例1で得られたPBT/PC粉粒体10kgに対して無機微粒子としてヘキサメチルジシラザンで表面処理した平均粒径170nmのゾルゲル法球状シリカ(信越化学工業株式会社製X-24-9600A)を10g添加したこと以外は実施例1と同様にして、PBT/PC粉粒体を得た。このPBT/PC粉粒体を使用して粉末焼結法3Dプリンタ(アスペクト製Rafael300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面荒れ、レーザー光照射時の反りは発生せず良好な三次元造形物が得られた。
【0055】
[実施例4]
PBT/PC粉粒体10kgに対して無機強化材として最長寸法170μmのガラスファイバー(日本電気硝子株式会社製EPG70M)を3.5kg添加したこと以外は実施例1と同様にして、PBT/PC粉粒体を得た。このPBT/PC粉粒体を使用して粉末焼結法3Dプリンタ(アスペクト製Rafael300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面荒れ、レーザー光照射時の反りは発生せず良好な三次元造形物が得られた。
【0056】
[実施例5]
PBT樹脂(東レ(株)製“トレコン”1100S、末端カルボキシル基量=38eq/t)50kgおよびPC樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製“ユーピロン”S2000)50kgを押出温度250℃、スクリュー回転数を200rpmに設定した2軸スクリュー押出機に供給し、ダイから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化しPBT/PCポリマーアロイペレットを得た。得られた各ペレットは、110℃の熱風乾燥機で8時間乾燥した。得られたPBT/PCポリマーアロイペレットの粒子間距離は0.11μmであった。このPBT/PCポリマーアロイペレットを液体窒素に浸漬して十分に冷却した後にそれぞれターボミルで120分間粉砕し、平均粒径60μm、均一度3.6のPBT/PC粉粒体を得た。このPBT/PC粉粒体の融点は223℃、結晶化温度は157℃であった。このPBT/PC粉粒体を使用して粉末焼結法3Dプリンタ(アスペクト製Rafael300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面荒れ、レーザー光照射時の反りは発生せず良好な三次元造形物が得られた。
【0057】
[実施例6]
実施例5で得られたPBT/PC粉粒体100kgに対して無機微粒子としてヘキサメチルジシラザンで表面処理した平均粒径170nmのゾルゲル法球状シリカ(信越化学工業株式会社製X-24-9600A)を100g添加したこと以外は実施例5と同様にして、PBT/PC粉粒体を得た。このPBT/PC粉粒体を使用して粉末焼結法3Dプリンタ(アスペクト製Rafael300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面荒れ、レーザー光照射時の反りは発生せず良好な三次元造形物が得られた。
【0058】
[実施例7]
PBT樹脂(東レ(株)製“トレコン”1100S、末端カルボキシル基量=38eq/t)50kgおよびPC樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製“ユーピロン”S2000)50kgに対してフェノール系酸化防止剤(株式会社ADEKA製AO-80)0.5kg、リン系酸化防止剤(株式会社ADEKA製PEP-36)1kgを添加したこと以外は実施例5と同様にしてPBT/PCポリマーアロイペレットを得た。得られたPBT/PCポリマーアロイペレットの粒子間距離は0.11μmであった。このPBT/PCポリマーアロイペレットを液体窒素に浸漬して十分に冷却した後にそれぞれターボミルで120分間粉砕し、平均粒径60μm、均一度3.7のPBT/PC粉粒体を得た。このPBT/PC粉粒体の融点は223℃、結晶化温度は160℃であった。このPBT/PC粉粒体を使用して粉末焼結法3Dプリンタ(アスペクト製Rafael300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面荒れ、レーザー光照射時の反りは発生せず良好な三次元造形物が得られた。
【0059】
[実施例8]
PBT/PC粉粒体を窒素雰囲気下で100℃にて75時間加熱処理したこと以外は実施例7と同様にしてPBT/PC粉粒体を得た。このPBT/PC粉粒体の融点は223℃、結晶化温度は159℃であった。このPBT/PC粉粒体を使用して粉末焼結法3Dプリンタ(アスペクト製Rafael300HT)によって三次元造形物を作製した。粉末積層時の粉面荒れ、レーザー光照射時の反りは発生せず良好な三次元造形物が得られた。
【0060】
[比較例1]
PC樹脂粉粒体を混合せず、PBT樹脂粉粒体のみを使用したこと以外は実施例1と同様にして、PBT樹脂粉粒体を得た。このPBT樹脂粉粒体の融点は223℃、結晶化温度は185℃であった。粉末焼結法3Dプリンタ(アスペクト製Rafael300HT)によって三次元造形物を作製した。レーザー光照射時に反りが発生し、三次元造形物が得られなかった。
【0061】
[比較例2]
混合したPBT樹脂粉粒体の重量が9.0kg、PC樹脂粉粒体の重量が1.0kgである以外は実施例1と同様にして、PBT/PC粉粒体を得た。得られたPBT/PC粉粒体の平均粒径は51μm、均一度は2.9であり、融点は223℃、結晶化温度は174℃であった。このPBT/PC粉粒体を使用して粉末焼結法3Dプリンタ(アスペクト製Rafael300HT)によって三次元造形物を作製した。レーザー光照射時に反りが発生し、三次元造形物が得られなかった。また、未溶融部分のPBT/PC粉粒体は凝集し、再使用することが不可能であった。
【0062】
[比較例3]
PBT樹脂(東レ(株)製“トレコン”1100S、末端カルボキシル基量=38eq/t)98.5kg、フェノール系酸化防止剤(株式会社ADEKA製AO-80)0.5kg、リン系酸化防止剤(株式会社ADEKA製PEP-36)1kgを押出温度250℃、スクリュー回転数を200rpmに設定した2軸スクリュー押出機に供給し、ダイから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化しPBT樹脂ペレットを得た。得られた各ペレットは、110℃の熱風乾燥機で8時間乾燥した。このPBT樹脂ペレットを液体窒素に浸漬して十分に冷却した後にそれぞれターボミルで120分間粉砕し、平均粒径62μm、均一度3.0のPBT粉粒体を得た。このPBT樹脂粉粒体の融点は223℃、結晶化温度は185℃であった。このPBT樹脂粉粒体を使用して粉末焼結法3Dプリンタ(アスペクト製Rafael300HT)によって三次元造形物を作製した。レーザー光照射時に反りが発生し、三次元造形物が得られなかった。
【0063】
[比較例4]
PBT樹脂粉粒体を窒素雰囲気下で100℃にて75時間加熱処理したこと以外は比較例3と同様にしてPBT樹脂粉粒体を得た。このPBT樹脂粉粒体の融点は223℃、結晶化温度は187℃であった。このPBT樹脂粉粒体を使用して粉末焼結法3Dプリンタ(アスペクト製Rafael300HT)によって三次元造形物を作製した。レーザー光照射時に反りが発生し、三次元造形物が得られなかった。
【0064】
[比較例5]
PBT樹脂粉粒体を日本コークス工業株式会社製MP型ミキサーを使用して9600rpmで20分間球状化処理したこと以外は比較例3と同様にしてPBT樹脂粉粒体を得た。このPBT樹脂粉粒体の平均粒径は62μm、均一度は3.0、融点は223℃、結晶化温度は185℃であった。このPBT樹脂粉粒体を使用して粉末焼結法3Dプリンタ(アスペクト製Rafael300HT)によって三次元造形物を作製した。レーザー光照射時に反りが発生し、三次元造形物が得られなかった。
【0065】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明により得られるPBT/PC粉粒体は、粒径が微細であり、かつ、均一な粒度分布を有するため、粉末焼結法3Dプリンタに使用する際に、平滑な粉面を形成することができる。さらに、本発明により得られるPBT/PC粉粒体は適切な結晶化温度を有するため、レーザー光を照射してPBT/PC粉粒体を溶融させた際に結晶化による収縮が発生せず、三次元造形物の反りを防止することができる。また、低い造形温度で造形が可能であるため、未溶融のPBT/PC粉粒体を再使用することができる。