(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】負極活物質、負極、非水電解質蓄電素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20231031BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20231031BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20231031BHJP
【FI】
H01M4/587
H01G11/06
H01G11/42
(21)【出願番号】P 2020005993
(22)【出願日】2020-01-17
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英佑
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/235469(WO,A1)
【文献】国際公開第02/059040(WO,A1)
【文献】特開2018-190732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01G 11/06
H01G 11/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料であり、
加熱して脱離する酸素を含有し、800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が加熱前の上記炭素材料に対して4質量%以上であり、
平均格子面間隔d
110が0.1226nm超である非水電解質蓄電素子用の負極活物質。
【請求項2】
平均格子面間隔d
002が0.337nm以上である請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
平均結晶子サイズL
aが31nm以下である請求項1又は請求項2に記載の負極活物質。
【請求項4】
炭素材料であり、
加熱して脱離する酸素を含有し、400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が加熱前の上記炭素材料に対して4質量%以上13質量%以下であり、
上記400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素に対する1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比が0.45以上である非水電解質蓄電素子用の負極活物質。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の負極活物質を備える非水電解質蓄電素子用の負極。
【請求項6】
請求項5の負極を備える非水電解質蓄電素子。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の負極活物質を用いて負極を作製することを備える非水電解質蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質、負極、非水電解質蓄電素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
上記非水電解質蓄電素子の負極活物質には、黒鉛、非黒鉛質炭素等の炭素材料が広く用いられている。これら従来の炭素材料の放電容量は400mAh/g以下程度であり、負極活物質の大容量化等のための様々な開発が行われている。特許文献1には、「炭素粒子を含むリチウムイオン電池用アノード材料であって、前記炭素粒子は、酸素を官能基の形態で含み、該酸素の含有量は、前記炭素粒子の最表面から深さ15nmまでの表面領域に8.5質量%~13.0質量%、残りの内部領域に6.0質量%~12.0質量%と段階的に分布しており、該表面領域における酸素含有量は、該内部領域における酸素含有量よりも大きく、かつ、前記炭素粒子は、0.3357nmよりも大きな層間間隔d002を有するグラファイト相を含む、アノード材料。」が記載されている。上記特許文献1には、具体的には実施例1として、層間間隔d002が0.3401nm、格子定数a0(110)が0.2450nm(すなわちd110が0.1225nm)である炭素材料が得られたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を大きくするためには、負極活物質の放電容量が大きいことに加えて、放電容量全体に対する比較的低い電位範囲(例えば、1.2V vs.Li/Li+以下)における放電容量の比が大きいことが重要である。しかし、上記特許文献1等の大容量化が報告された炭素材料は、比較的高い電位範囲で大きい放電容量を示し、従来の炭素材料に置き換わる負極活物質として必ずしも好適であるとは言えない。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、放電容量が大きく、1.2V vs.Li/Li+以下の電位範囲での放電容量比(2.0V vs.Li/Li+以下の電位範囲での放電容量に対する1.2V vs.Li/Li+以下の電位範囲での放電容量の比)が高い負極活物質、上記負極活物質を有する負極及び非水電解質蓄電素子、並びに上記非水電解質蓄電素子の製造方法を提供することである。
なお、本明細書において、非水電解質から負極活物質に充放電反応に関与するイオン(リチウムイオン非水電解質二次電池の場合はリチウムイオン)が吸蔵される還元反応を「充電」、負極活物質から充放電反応に関与するイオンが放出される酸化反応を「放電」という。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、炭素材料であり、加熱して脱離する酸素を含有し、800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が加熱前の上記炭素材料に対して4質量%以上であり、平均格子面間隔d110が0.1226nm超である非水電解質蓄電素子用の負極活物質(A)である。
【0008】
本発明の他の一態様は、炭素材料であり、加熱して脱離する酸素を含有し、400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が加熱前の上記炭素材料に対して4質量%以上13質量%以下であり、上記400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素に対する1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比が0.45以上である非水電解質蓄電素子用の負極活物質(B)である。
【0009】
本発明の他の一態様は、当該負極活物質(A)又は当該負極活物質(B)を備える非水電解質蓄電素子用の負極である。
【0010】
本発明の他の一態様は、当該負極を備える非水電解質蓄電素子である。
【0011】
本発明の他の一態様は、当該負極活物質(A)又は当該負極活物質(B)を用いて負極を作製することを備える非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放電容量が大きく、1.2V vs.Li/Li+以下の電位範囲での放電容量比が高い負極活物質、上記負極活物質を有する負極及び非水電解質蓄電素子、並びに上記非水電解質蓄電素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を示す外観斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【
図3】
図3は、実施例及び比較例の各負極活物質の800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率(酸素含有率(>800℃))と放電容量との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例及び比較例の各負極活物質の平均格子面間隔d
110と0.01から1.2V vs.Li/Li
+の電位範囲での放電容量比との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例及び比較例の各負極活物質の400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率(酸素含有率(Total))と放電容量との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例及び比較例の各負極活物質の400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素に対する1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比(酸素含有量比(>1,000℃/Total))と0.01から1.2V vs.Li/Li
+の電位範囲での放電容量比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
初めに、本明細書によって開示される負極活物質、負極、非水電解質蓄電素子及びその製造方法の概要について説明する。
【0015】
本発明の一態様に係る負極活物質は、炭素材料であり、加熱して脱離する酸素を含有し、800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が加熱前の上記炭素材料に対して4質量%以上であり、平均格子面間隔d110が0.1226nm超である非水電解質蓄電素子用の負極活物質(A)である。
【0016】
当該負極活物質(A)は、放電容量が大きく、1.2V vs.Li/Li
+以下の電位範囲での放電容量比が高い。当該負極活物質(A)においてこのような効果が生じる理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。炭素材料においては、後述する実施例で示されているように、800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率(加熱前の炭素材料に対する含有率。本明細書における炭素材料、すなわち負極活物質中の各所定温度範囲で脱離する酸素の含有率について、以下同様である。)と放電容量との間に高い相関性があり、800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が高いほど放電容量が大きくなる傾向がある(
図3参照)。この理由は定かではないが、800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が高い炭素材料は、リチウムイオン等を吸蔵しやすい構造等となっていることが推測される。当該負極活物質(A)においては、800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が4質量%以上であるため、放電容量が大きい。
ところで、炭素材料の平均格子面間隔d
110は、グラフェン層中の炭素-炭素結合の距離と関連し、表面に存在する官能基が多いとグラフェン層が歪んで平均格子面間隔d
110は小さくなると考えられる。そして、表面に存在する官能基は、1.2V vs.Li/Li
+超の比較的高電位における放電に寄与していると考えられる。このため、酸素を含む官能基が表面領域に多く存在することを特徴とし、平均格子面間隔d
110が小さい上記特許文献1の炭素材料においては、1.2V vs.Li/Li
+以下の電位範囲での放電容量比が相対的に低いこととなる。上記表面に存在する官能基が含む酸素は、1,000℃以下で脱離すると考えられる。
これに対し、バルク内で安定化して存在している酸素は、1.2V vs.Li/Li
+以下の比較的低電位における放電に寄与していると考えられる。このようなことから、平均格子面間隔d
110が大きいと、1.2V vs.Li/Li
+以下の電位範囲での放電容量比が高くなる傾向となる(
図4参照)。当該負極活物質(A)においては、平均格子面間隔d
110が0.1226nm超であることから、1.2V vs.Li/Li
+以下の電位範囲での放電容量比が高くなっていると推測される。上記バルク内で安定化して存在している酸素は、1,000℃超で脱離すると考えられる。
【0017】
なお、「炭素材料における酸素の含有率」は、HORIBA社製の酸素・窒素・水素分析装置「EMGA-930」を用いた以下の方法により測定される。上記測定は、充放電前の炭素材料に対して行うか、非水電解質蓄電素子の負極として組み込まれている炭素材料に対しては、以下の手順で処理したものに対して行う。まず、非水電解質蓄電素子を0.05Cの電流で通常使用時の下限電圧まで定電流放電する。解体し、負極を取り出し、金属リチウム電極を対極とした試験電池を組み立て、負極合剤1gあたり50mAの電流値で、負極電位が3.0V vs.Li/Li+となるまで定電流放電を行い、負極を完全放電状態(充放電反応に関与するイオンが脱離した状態)に調整する。再解体し、負極を取り出す。取り出した負極を、エタノールを用いて十分に洗浄し、室温にて一昼夜乾燥させる。その後、負極活物質である炭素材料を含む負極合剤を剥離し、不活性雰囲気下800℃で5時間の熱処理を施す。非水電解質蓄電素子の解体から測定までの作業は露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。ここで、通常使用時とは、当該非水電解質蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。ここで、不活性雰囲気下800℃で5時間の熱処理を施す理由は、充放電によって生成したSEIを除去するためである。
[測定方法]
酸素測定方法:不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法(NDIR)
ガス抽出炉電力:インパルス炉出力 0から8.0kW(あらかじめ各設定温度に対応する好適な出力値がプログラムされており、設定温度が変わるたびに対応する出力値が適用される。)
キャリアガス:ヘリウム
校正方法:標準試料を用いた1点校正
[測定手順]
ヘリウム雰囲気下、上記分析装置指定の黒鉛製るつぼを抽出炉中に設置し、3231℃で30秒、次いで400℃で20秒の空焼きすることで、黒鉛るつぼに含まれる酸素を除去する。この黒鉛るつぼを大気下に取り出し、試料(炭素材料)20から25mgを黒鉛るつぼ中に入れ、再度ヘリウム雰囲気下の抽出炉中に設置する。設定温度400℃で50秒保持、設定温度を600℃に変更し50秒保持、設定温度を800℃に変更し50秒保持、設定温度を1,000℃に変更し50秒保持、設定温度を1,200℃に変更し50秒保持、設定温度を2,500℃に変更し50秒保持という昇温プログラムを実行して、段階的に昇温、加熱し、この間に試料から脱離する酸素を上記設定温度ごとに定量する。なお、黒鉛製るつぼに酸素が吸着していることを考慮して、空焼き後に大気に暴露した黒鉛るつぼ単体から脱離する酸素の量についても測定し、その分を除去する。また、設定温度に加熱してから、生成したガスがセンサー部に到着するまでの時間差を考慮し、昇温プログラムが実行された時間を0秒としたときの積算時間が以下に示す期間に定量される酸素量を、各設定温度において脱離する酸素量とする。
400℃:0秒から55秒
600℃:55秒から105秒
800℃:105秒から155秒
1,000℃:155秒から205秒
1,200℃:205秒から255秒
2,500℃:255秒から330秒
「炭素材料における800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率」は、予め測定しておいた抽出炉での加熱前の試料(炭素材料)の質量に対する、1,000℃、1,200℃及び2,500℃の設定温度で測定された合計酸素量(積算時間155秒から330秒の間で測定された合計酸素量)の割合として求められる。
【0018】
また、炭素材料の平均格子面間隔d110、並びに後述するその他の平均格子面間隔及び平均結晶子サイズは、以下のX線回折測定により決定される値である。上記X線回折測定は、充放電前の炭素材料に対して行うか、上記した酸素の含有率の測定と同様に、非水電解質蓄電素子の負極として組み込まれている炭素材料に対しては、上記の処理をしたものに対して行う。炭素材料のX線回折測定は、X線回折装置(Rigaku社の「MiniFlex II」)を用いた粉末X線回折測定によって、線源はCuKα線、管電圧は30kV、管電流は15mAとして行う。このとき、回折X線は、厚み30μmのKβフィルターを通り、高速一次元検出器(D/teX Ultra 2)にて検出される。また、サンプリング幅は0.01°、スキャンスピードは5°/min、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとする。得られるX線回折データに基づいて、「RIETAN2000」プログラム(F.Izumi and T.Ikeda,Mater.Sci.Forum,198(2000).)を用いたリートベルト解析により、結晶構造を解析し、平均格子面間隔及び平均結晶子サイズを求めることができる。平均格子面間隔及び平均結晶子サイズは、総合粉末X線解析ソフトウェア「PDXL」(Rigaku社製)を用いても同じ結果が得られる。
【0019】
当該負極活物質(A)において、平均格子面間隔d002が0.337nm以上であることが好ましい。炭素材料中の酸素含有量が多い場合、立体障害により、平均格子面間隔d002が大きくなる傾向にある。従って、当該負極活物質(A)において、平均格子面間隔d002が0.337nm以上である場合、放電容量がより大きくなる。
【0020】
当該負極活物質(A)において、平均結晶子サイズLaが31nm以下であることが好ましい。炭素材料中の酸素含有量が大きい場合、ひずみが生じて平均結晶子サイズLaが小さくなる傾向にある。従って、当該負極活物質(A)において、平均結晶子サイズLaが31nm以下である場合、放電容量がより大きくなる。
【0021】
本発明の他の一態様に係る負極活物質は、炭素材料であり、加熱して脱離する酸素を含有し、400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が加熱前の上記炭素材料に対して4質量%以上13質量%以下であり、上記400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素に対する1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比が0.45以上である非水電解質蓄電素子用の負極活物質(B)である。
【0022】
当該負極活物質(B)は、放電容量が大きく、1.2V vs.Li/Li
+以下の電位範囲での放電容量比が高い。当該負極活物質(B)においてこのような効果が生じる理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。炭素材料においては、後述する実施例で示されているように、400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が高いほど放電容量が大きくなる傾向がある(
図5参照)。当該負極活物質(B)においては、400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が4質量%以上であるため、放電容量が大きい。また、上述した1.2V vs.Li/Li
+超の比較的高電位における放電に寄与していると考えられる表面に存在する官能基は、1,000℃以下で脱離しやすく、一方、1.2V vs.Li/Li
+以下の比較的低電位における放電に寄与していると考えられるバルク内で安定化して存在している酸素は、1,000℃超で脱離する傾向にある。このようなことから、400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素に対する1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比が高いと、1.2V vs.Li/Li
+以下の電位範囲での放電容量比が高くなる傾向となる(
図6参照)。当該負極活物質(B)においては、400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素に対する1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比が0.45以上であるため、1.2V vs.Li/Li
+以下の電位範囲での放電容量比が高くなっていると推測される。
【0023】
なお、炭素材料における400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量は、上記「炭素材料における酸素の含有率」の測定において、400℃から2,500℃までの設定温度で測定された全ての合計酸素量(積算時間0秒から330秒の間で測定された合計酸素量)とする。但し、上記測定は、充放電前の炭素材料に対して行うものとする。「炭素材料における400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率」は、予め測定しておいた抽出炉での加熱前の試料(炭素材料)の質量に対する上記全ての合計酸素量(400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量)の割合として求められる。また、「400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素に対する1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比」は、質量比であり、上記全ての合計酸素量(400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の量)に対する、1,200℃及び2,500℃の設定温度で測定された合計酸素量(積算時間205秒から330秒の間で測定された合計酸素量)の比として求められる。
【0024】
本発明の一態様に係る負極は、当該負極活物質(A)又は当該負極活物質(B)を備える非水電解質蓄電素子用の負極である。当該負極は、放電容量が大きく、1.2V vs.Li/Li+以下の電位範囲での放電容量比が高い。
【0025】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子は、当該負極を備える非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)である。当該蓄電素子は、本発明の一態様に係る負極活物質(A)又は負極活物質(B)が用いられているため、放電容量の大きい蓄電素子となり得る。
【0026】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、当該負極活物質(A)又は当該負極活物質(B)を用いて負極を作製することを備える非水電解質蓄電素子の製造方法である。当該製造方法は、本発明の一態様に係る負極活物質(A)又は負極活物質(B)を用いるため、放電容量の大きい非水電解質蓄電素子を製造することが可能となる。
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係る負極活物質、負極、非水電解質蓄電素子及びその製造方法について詳説する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0028】
<負極活物質(A)>
(構成元素)
本発明の一実施形態に係る負極活物質(A)は、炭素材料である。炭素材料とは、質量基準で最も含有量が多い元素が炭素である材料をいう。当該負極活物質(A)は、炭素以外に酸素を含み、その他、水素、窒素等の他の元素をさらに含んでいてもよい。当該負極活物質(A)における炭素の含有量としては、70質量%以上96質量%以下が好ましく、80質量%以上94質量%以下がより好ましく、85質量%以上92質量%以下がさらに好ましい。
【0029】
当該負極活物質(A)は、加熱して脱離する酸素を含有する炭素材料である。当該負極活物質(A)(炭素材料)における400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率としては、例えば3質量%以上15質量%以下であってもよいが、4質量%以上13質量%以下が好ましく、6質量%以上12質量%以下がより好ましく、8質量%以上11質量%以下がさらに好ましい。400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が上記下限以上であることで、放電容量がより大きくなる。一方、400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が上記上限以下であることで、1.2V vs.Li/Li+以下の電位範囲での放電容量比が高まる。
【0030】
当該負極活物質(A)は、800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素を含有する。当該負極活物質(A)における上記800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率の下限は4質量%である。800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率は、5質量%以上12質量%以下が好ましく、6質量%以上11質量%以下がより好ましいことがあり、7.0質量%以上10.5質量%以下がさらに好ましいことがある。800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が上記下限以上であることで、放電容量が大きくなる。一方、生産性等の観点から、800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率は、上記上限以下が好ましい。
【0031】
当該負極活物質(A)は、400℃以上1,000℃以下の温度で脱離する酸素を含有していてもよい。当該負極活物質(A)における400℃以上1,000℃以下の温度で脱離する酸素の含有率は、1質量%以上6質量%以下が好ましく、1.5質量%以上5質量%以下がより好ましい。このように400℃以上1,000℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が比較的少ない場合、1.2V vs.Li/Li+以下の電位範囲での放電容量比がより高まる。なお、上述した、1.2V vs.Li/Li+超の比較的高電位における放電に寄与する表面領域に存在する酸素を含む官能基は、400℃以上1,000℃以下の温度で脱離する傾向にある。すなわち、400℃以上1,000℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が低い場合、上記官能基が少なく、平均格子面間隔d110は大きくなる傾向にある。
【0032】
なお、当該負極活物質(A)(炭素材料)における400℃以上1,000℃以下の温度で脱離する酸素の含有率は、上述した「炭素材料における800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率」を求める方法に準じ、予め測定しておいた抽出炉での加熱前の試料(炭素材料)の質量に対する、400℃、600℃、800℃及び1,000℃の設定温度で測定された合計酸素量(積算時間0秒から205秒の間で測定された合計酸素量)の割合として求められる。
【0033】
当該負極活物質(A)において、400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素に対する、1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比は、質量比で、例えば0.40以上0.95以下であってよいが、0.45以上0.90以下が好ましく、0.50以上0.85以下がより好ましい。上記1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比が上記下限以上であることで、1.2V vs.Li/Li+以下の電位範囲での放電容量比がより高まる。一方、上記1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比が上記上限以下であることで、放電容量がより大きくなる。
【0034】
(格子面間隔等)
当該負極活物質(A)における平均格子面間隔d110は、0.1226nm超である。すなわち当該負極活物質(A)は、上述した方法にて平均格子面間隔d110を測定可能な炭素材料である。この平均格子面間隔d110は、0.1228nm以上0.1240nm以下が好ましく、0.1229nm以上0.1236nm以下がより好ましく、0.1230nm以上0.1234nm以下がさらに好ましい。当該負極活物質(A)における平均格子面間隔d110が上記下限以上であることで、1.2V vs.Li/Li+以下の電位範囲での放電容量比が高まる。一方、生産性等の観点から、上記平均格子面間隔d110は、上記上限以下が好ましい。
【0035】
当該負極活物質(A)における平均格子面間隔d002は、例えば0.335nm以上0.400nm以下であってよいが、0.337nm以上0.370nm以下が好ましく、さらには0.350nm以下又は0.345nm以下がより好ましいこともある。平均格子面間隔d002が上記下限以上であることで、放電容量がより大きくなる。一方、平均格子面間隔d002が上記上限以下であることで、1.2V vs.Li/Li+以下の電位範囲での放電容量比がより高まる。
【0036】
当該負極活物質(A)における平均結晶子サイズLaは、例えば14nm以上34nm以下であってよいが、15nm以上31nm以下が好ましく、17nm以上30nm以下がより好ましい。平均結晶子サイズLaが上記下限以上であることで、1.2V vs.Li/Li+以下の電位範囲での放電容量比がより高まる。一方、平均結晶子サイズLaが上記上限以下であることで、放電容量がより大きくなる。
【0037】
(用途・形状)
当該負極活物質(A)は、非水電解質蓄電素子の負極活物質として用いられる。当該負極活物質(A)は、通常、粉末状である。当該負極活物質(A)は、例えば他の負極活物質と複合化されて用いられてもよいが、好適な形態としては、当該負極活物質のみの粉末として用いられる。
【0038】
当該負極活物質(A)の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができ、1μm以上100μm以下が好ましい場合がある。負極活物質(A)の平均粒径を上記下限以上とすることで、製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質(A)の平均粒径を上記上限以下とすることで、活物質層の電子伝導性が向上する。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値(D50)を意味する。
【0039】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0040】
<負極活物質(B)>
本発明の一実施形態に係る負極活物質(B)は、炭素材料であり、加熱して脱離する酸素を含有し、400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が4質量%以上13質量%以下であり、上記400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素に対する1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比が0.45以上である非水電解質蓄電素子用の負極活物質である。
【0041】
当該負極活物質(B)は、「800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が4質量%以上であり、平均格子面間隔d110が0.1226nm超であること」を必須とせず、「400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が4質量%以上13質量%以下であり、上記400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素に対する1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比が0.45以上であること」を必須とすること以外は、上述した負極活物質(A)と同様である。当該負極活物質(B)の具体的形態及び好適形態は、上述した負極活物質(A)の具体的形態及び好適形態と同様である。
【0042】
<負極活物質の製造方法>
当該負極活物質(A)及び当該負極活物質(B)は、例えば、黒鉛を出発物質(原料)とし、以下の酸化処理及び熱処理を順に施すことにより製造することができる。なお、酸化処理と熱処理との間に、水熱処理又は還元処理を施してもよく、これらの処理は施さなくてもよい。
【0043】
(酸化処理)
酸化処理は、発煙硝酸及び塩素酸カリウム(KClO3)を用いたBrodie法が好適に採用される。まず、粉末状の黒鉛と発煙硝酸とを混合し、懸濁液を得る。発煙硝酸の使用量としては、黒鉛1gに対して、例えば8から40cm3とすることができる。次いで、例えば60℃程度に加熱した状態の上記懸濁液に、KClO3を添加し反応させる。反応条件としては例えば60℃3時間とすることができる。KClO3の添加量としては、黒鉛1gに対して、例えば3から16gとすることができる。その後、大量の水と混合することなどで反応を停止させる。懸濁液の固形物と液体とを分離し、固形物を洗浄及び乾燥させることで酸化黒鉛が得られる。
【0044】
(水熱処理)
任意の処理である水熱処理は、得られた酸化黒鉛を水と混合し、反応器中で加熱することにより行うことができる。処理条件としては例えば180から300℃、1時間とすることができる。その後、固形物と液体とを分離し、固形物を洗浄及び乾燥させることで水熱処理された酸化黒鉛が得られる。水熱処理を行うことで、平均格子面間隔d110が大きくなり、1.2V vs.Li/Li+以下の電位範囲での放電容量比が高まる傾向にある。但し、水熱処理を行うと、400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率及び800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が低下する傾向にあり、放電容量が小さくなる場合があるため、水熱処理を行わないことが好ましいこともある。
【0045】
(還元処理)
任意の処理である還元処理は、得られた酸化黒鉛をヒドラジン等の還元剤により処理することにより行うことができる。還元処理を行うことで、平均格子面間隔d110が大きくなり、1.2V vs.Li/Li+以下の電位範囲での放電容量比が高まる傾向にある。但し、還元処理を行うと、800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が低下する傾向にあり、放電容量が小さくなる場合があるため、還元処理を行わないことが好ましいこともある。
【0046】
(熱処理)
熱処理は、得られた酸化黒鉛を窒素等の不活性ガス雰囲気下で加熱することにより行うことができる。処理条件としては、例えば500から800℃、1時間とすることができる。熱処理が不十分である場合、平均格子面間隔d110が小さくなる傾向にある。一方、過剰な熱処理を行った場合、800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率が低下する傾向にある。
【0047】
<負極>
本発明の一実施形態に係る負極は、上述した負極活物質(A)又は負極活物質(B)を備える非水電解質蓄電素子用の負極である。当該負極は、負極基材と、上記負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。
【0048】
負極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が107Ω・cm超であることを意味する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0049】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。「平均厚さ」とは、所定の面積の基材を打ち抜いた際の打ち抜き質量を、基材の真密度及び打ち抜き面積で除した値をいう。他の部材等に対して「平均厚さ」を用いる場合にも同様に定義される。
【0050】
中間層は、負極基材と負極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電性を有する粒子を含むことで負極基材と負極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、樹脂バインダ及び導電性を有する粒子を含む。
【0051】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0052】
負極活物質は、上述した負極活物質(A)又は負極活物質(B)を含む。負極活物質は、さらにその他の負極活物質を含んでいてもよい。その他の負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。その他の負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;負極活物質(A)又は負極活物質(B)以外の従来公知の炭素材料(黒鉛、非黒鉛質炭素等)等が挙げられる。
【0053】
負極活物質層中の全ての負極活物質に対する負極活物質(A)又は負極活物質(B)の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であってよい。このように、負極活物質として負極活物質(A)又は負極活物質(B)を主に用いることにより、放電容量がより大きく、1.2V vs.Li/Li+以下の電位範囲での放電容量比が高い負極となり得る。
【0054】
負極活物質層における全ての負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上95質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。同様の理由等から、負極活物質層における負極活物質(A)又は負極活物質(B)の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上95質量%以下がより好ましい。
【0055】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛化炭素、非黒鉛化炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛化炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0056】
負極活物質層における導電剤の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。本発明の一態様においては、負極活物質層は導電剤を含まないことが好ましい場合もある。
【0057】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0058】
負極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上40質量%以下が好ましく、3質量%以上30質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0059】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0060】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。本発明の一態様においては、負極活物質層はフィラーを含まないことが好ましい場合もある。
【0061】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0062】
<負極の製造方法>
当該負極の製造は、例えば、負極基材に直接又は中間層を介して負極活物質層を積層することにより得ることができる。上記中間層は、負極基材に、中間層形成材料を塗工することにより得ることができる。
【0063】
上記負極活物質層は、負極活物質層形成用材料(負極合剤ペースト)の塗工により形成することができる。上記負極活物質層形成用材料は、負極活物質(A)又は負極活物質(B)、その他の負極活物質層の各成分、及び分散媒を含む。上記分散媒としては、水やN-メチルピロリドン(NMP)等の有機溶媒を適宜選択して用いればよい。負極活物質層形成用材料の塗工は公知の方法により行うことができる。通常、塗工後、塗膜を乾燥させて、分散媒を揮発させる。その後、塗膜を厚さ方向にプレスすることが好ましい。
【0064】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極と、負極と、非水電解質とを備える。正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回された電極体を形成する。この電極体は容器に収納され、この容器内に非水電解質が充填される。非水電解質は、正極と負極との間に介在する。蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0065】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記負極で例示した構成から選択することができる。
【0066】
正極基材は、導電性を有する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085、A3003等が例示できる。
【0067】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0068】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記負極で例示した材料から選択できる。
【0069】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi1-x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo1-x-γ]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo1-x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn1-x-γ]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo1-x-γ-β]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LixNiγCoβAl1-x-γ-β]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn2-γO4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0070】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。
【0071】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、上記負極活物質(A)で例示した方法から選択できる。
【0072】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0073】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0074】
(負極)
当該二次電池に備わる負極は、上述した本発明の一実施形態に係る負極である。
【0075】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の材質としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの材質の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0076】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、大気下で500℃にて質量減少が5%以下であるものが好ましく、大気下で800℃にて質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0077】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0078】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0079】
(非水電解質)
非水電解質としては、公知の非水電解質の中から適宜選択できる。非水電解質には、非水電解液を用いることができる。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0080】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0081】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0082】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもDMC及びEMCが好ましい。
【0083】
非水溶媒として、環状カーボネート及び鎖状カーボネートの少なくとも一方を用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0084】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0085】
リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0086】
非水電解液における電解質塩の含有量は、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0087】
非水電解液は、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えばビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の上記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0088】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上7質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下が特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又は充放電サイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0089】
非水電解質には、固体電解質を用いてもよく、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。
【0090】
固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃から25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、及び酸窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0091】
硫化物固体電解質としては、リチウムイオン二次電池の場合、例えば、Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、Li10Ge-P2S12等が挙げられる。
【0092】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、本発明の一実施形態に係る負極活物質(A)又は負極活物質(B)を用いて負極を作製することを備える。当該製造方法は、負極活物質として本発明の一実施形態に係る負極活物質(A)又は負極活物質(B)を用いること以外は、従来公知の方法により行うことができる。本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、具体的には例えば、正極を作製すること、負極を作製すること、非水電解質を調製すること、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成すること、正極及び負極(電極体)を容器に収容すること、並びに非水電解質を容器に注入することを備えていてよい。これらの工程の後、注入口を封止することにより二次電池(蓄電素子)を得ることができる。
【0093】
<その他の実施形態>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0094】
また、上記実施の形態においては、非水電解質蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0095】
図1に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子1(非水電解質二次電池)の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。
図1に示す非水電解質蓄電素子1は、電極体2が容器3に収納されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。また、容器3には、非水電解質が注入されている。
【0096】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を
図2に示す。
図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質蓄電素子1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
[比較例1]
黒鉛A(鱗片状黒鉛、D50=8.8μm)を比較例1の負極活物質として準備した。
【0099】
[実施例1]
出発物質としての黒鉛A(鱗片状黒鉛、D50=8.8μm)3gを、発煙硝酸(Wako社製)25cm3中に添加し、懸濁液とした。この懸濁液を60℃に加熱し、マグネチックスターラーにより300rpmで撹拌しながらKClO3(Wako社製)10gを少しずつ加えた。60℃で3時間反応させた後、水750cm3中に投入して反応を停止させた。懸濁液について、吸引ろ過により液体を分離し、水で洗浄した。その後60℃で一晩乾燥し、酸化黒鉛を得た。
得られた酸化黒鉛4gをアルミナ製るつぼに入れ、これを卓上真空・ガス置換炉(デンケン・ハイデンタル社製「KDF75」)に設置した。次いで、0.6dm3/minの窒素流中、常圧下、昇温速度1℃/minで常温から170℃まで、昇温速度0.1℃/minで170から250℃まで、昇温速度1℃/minで250℃から800℃まで昇温し、800℃で5時間保持することにより熱処理を施した。このようにして、炭素材料である実施例1の負極活物質を得た。
【0100】
[実施例2から9、比較例2]
出発物質、酸化処理の際の発煙硝酸及びKClO3の使用量、並びに熱処理の際の温度を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2から9及び比較例2の各負極活物質を得た。
なお、表1中の「黒鉛B」は、鱗片状黒鉛(D50=3.5μm)である。
【0101】
[実施例10]
酸化処理の際の発煙硝酸及びKClO3の使用量を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、酸化黒鉛を得た。
得られた酸化黒鉛4gを水250cm3と共に、ポータブルリアクター(耐圧硝子工業社製「TPR-1」)中に入れた。窒素雰囲気に置換後、300rpmで撹拌しながら、常温から180℃に昇温して1時間保持することにより水熱処理を施した。水熱処理後、吸引ろ過により液体を分離し、水で洗浄した。その後60℃で一晩乾燥し、酸化黒鉛の水熱処理物を得た。
得られた水熱処理物に対して、実施例1と同様の熱処理を施し、実施例10の負極活物質を得た。
【0102】
[実施例11、12]
酸化処理の際の発煙硝酸及びKClO3の使用量、並びに水熱処理温度を表1に示す通りとしたこと以外は実施例10と同様にして、実施例11、12の各負極活物質を得た。
【0103】
[実施例13]
酸化処理の際の発煙硝酸及びKClO3の使用量を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、酸化黒鉛を得た。
得られた酸化黒鉛4gを水1.2dm3中に入れ、常温で撹拌しながら、水0.1dm3にヒドラジン一水和物(Wako社製)0.4cm3を加えた水溶液を滴下した。滴下終了後に18時間撹拌することにより、還元処理を施した。還元処理後、吸引ろ過により液体を分離し、水で洗浄した。その後60℃で一晩乾燥し、酸化黒鉛の還元処理物を得た。
得られた還元処理物に対して、実施例1と同様の熱処理を施し、実施例13の負極活物質を得た。
【0104】
[比較例3]
還元処理の際のヒドラジン一水和物(表1中は「ヒドラジン」と表記)の使用量を表1に示す通りとしたこと以外は実施例13と同様にして、比較例3の負極活物質を得た。
【0105】
[比較例4]
黒鉛A 3gを濃硫酸(ナカライテスク社製、硫酸、95%以上)138cm3中に入れ、氷水浴中で過マンガン酸カリウム(Wako社製)18gを加えた。これをマグネチックスターラーにより300rpmで撹拌しながら、35℃で30分間反応させた。その後、水276cm3中にゆっくりと加えて、さらに98℃で15分間反応させた。得られた懸濁液を、水840cm3に過酸化水素水(ナカライテスク社製、30%)54cm3を加えた水溶液中に投入して、酸化反応を停止させた。吸引ろ過により液体を分離し、希塩酸及び水で洗浄した。その後80℃で乾燥することにより酸化黒鉛を得た。
得られた酸化黒鉛2gをアルミナ製るつぼに入れ、これを卓上真空・ガス置換炉(デンケン・ハイデンタル社製「KDF75」)に設置した。次いで、0.6dm3/minの窒素流中、常圧下、常温から昇温速度1℃/minで300℃に昇温し30分間保持することにより熱処理を施した。このようにして、比較例4の負極活物質を得た。
【0106】
(測定)
得られた実施例及び比較例の各負極活物質(炭素材料)に対して上記した方法にて、設定温度毎に脱離する酸素の量を測定し、400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率(以下、「酸素含有率(Total)」と示すこともある。)、800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率(以下、「酸素含有率(>800℃)」と示すこともある。)、400℃以上1,000℃以下の温度で脱離する酸素の含有率(以下、「酸素含有率(≦1,000℃)」と示すこともある。)、及び400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素に対する1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比(以下、「酸素含有量比(>1,000℃/Total)」と示すこともある。)を求めた。測定結果を表2に示す。
【0107】
得られた実施例及び比較例の各負極活物質(炭素材料)に対して上記した方法にて、平均格子面間隔d002、d110及び平均結晶子サイズLaを求めた。測定結果を表2に示す。
【0108】
(負極の作製)
実施例及び比較例の各負極活物質とPVDFとを質量比88:12(固形物換算)で含有し、NMPを分散媒とする負極合剤ペーストを調製した。各負極合剤ペーストを銅箔基材に塗布し、上記分散媒を揮発させ、プレスし、実施例1~13及び比較例1~3の各負極(作用極)を得た。また、比較例4の負極活物質とPVDFとの質量比を70:30としたこと以外は同様にして、比較例4の負極(作用極)を得た。
【0109】
(セル(非水電解質蓄電素子)の作製)
得られた上記各負極を用いて、非水電解質蓄電素子であるセルを作製した。対極及び参照極には、金属リチウムを用いた。セパレータにはポリエチレン製の微多孔膜を用いた。非水電解質としては、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを体積比が6:7:7となるように混合した溶媒に、LiPF6を1mol/dm3となるように溶解させた電解液を用いた。セパレータを介して、負極と対極(金属リチウム)とを対向させ、各集電端子が外部に露出するようにして、袋状に加工したアルミニウム樹脂複合フィルムの内部に収納し、電解液を注入後、気密封止した。これにより各非水電解質蓄電素子(セル)を得た。
【0110】
(充放電試験)
上記セルを用い、25℃の環境下、以下の条件にて充放電試験を行った。充電は定電流定電圧(CCCV)充電とし、充電下限電位は0.01V(vs.Li/Li+)とした。充電終止条件は、充電下限電位に到達してから12時間を経過した時点とした。放電は定電流(CC)放電とし、放電終止電位は2.0V(vs.Li/Li+)とした。充電及び放電の定電流値は、負極が含有する負極活物質の質量に対して50mA/gとした。また、充電後に10分間の休止時間を設定した。上記充放電試験における放電容量、及び1.2V vs.Li/Li+以下の電位範囲での放電容量比(0.01から2.0V vs.Li/Li+の電位範囲での放電容量に対する、0.01から1.2V vs.Li/Li+の電位範囲での放電容量の比)を表2に示す。
【0111】
また、これらの試験結果に基づいた、負極活物質の800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率(酸素含有率(>800℃))と放電容量との関係を示すグラフを
図3に、負極活物質の平均格子面間隔d
110と0.01から1.2V vs.Li/Li
+の電位範囲での放電容量比との関係を示すグラフを
図4に、負極活物質の400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率(酸素含有率(Total))と放電容量との関係を示すグラフを
図5に、負極活物質の400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素に対する1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比(酸素含有量比(>1,000℃/Total))と0.01から1.2V vs.Li/Li
+の電位範囲での放電容量比との関係を示すグラフを
図6に示す。
【0112】
【0113】
【0114】
表2及び
図3に示されるように、負極活物質の800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率(酸素含有率(>800℃))が高いと、放電容量が大きくなる。なお、
図3中、他とは異なる傾向を示す比較例4は、製造方法及び物性(酸素含有率(Total)、(110)回折線の有無など)が他とは異なるため同様には比較することができない。また、表2及び
図4に示されるように、負極活物質の平均格子面間隔d
110が大きいと、0.01から1.2V vs.Li/Li
+の電位範囲での放電容量比が高くなる。従って、800℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率(酸素含有率(>800℃))が4質量%以上であり、平均格子面間隔d
110が0.1226nm超である実施例1から13の各負極活物質は、放電容量が大きく、1.2V vs.Li/Li
+以下の電位範囲での放電容量比が高い。
【0115】
同様に、表2及び
図5に示されるように、負極活物質の400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率(酸素含有率(Total))が高いと、放電容量が大きくなる。また、表2及び
図6に示されるように、負極活物質の400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素に対する1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比(酸素含有量比(>1,000℃/Total))が高いと、0.01から1.2V vs.Li/Li
+の電位範囲での放電容量比が高くなる。従って、400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有率(酸素含有率(Total))が4質量%以上であり、400℃以上2,500℃以下の温度で脱離する酸素に対する1,000℃超2,500℃以下の温度で脱離する酸素の含有量比(酸素含有量比(>1,000℃/Total))が0.45以上である実施例1から13の各負極活物質は、放電容量が大きく、1.2V vs.Li/Li
+以下の電位範囲での放電容量比が高い。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等の電源として使用される非水電解質蓄電素子等に適用できる。
【符号の説明】
【0117】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置