(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】車両の制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/02 20060101AFI20231031BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20231031BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20231031BHJP
F16H 59/04 20060101ALI20231031BHJP
F16H 59/56 20060101ALI20231031BHJP
F16H 59/18 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
B60W10/00 122
F02D29/00 F
F02D29/00 G
F16H59/04
F16H59/56
F16H59/18
(21)【出願番号】P 2020013109
(22)【出願日】2020-01-30
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002549
【氏名又は名称】弁理士法人綾田事務所
(72)【発明者】
【氏名】入山 正浩
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-044515(JP,A)
【文献】特開2005-163762(JP,A)
【文献】特開平08-200399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
F02D 29/00
F16H 59/04
F16H 59/56
F16H 59/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチペダルの踏み込み操作によりエンジンから駆動輪への動力伝達を遮断するクラッチを有する手動変速機を備えた車両の制御方法であって、
車両のコントローラが、エンジン回転数を、シフトレバーの操作による前記手動変速機の変速後の目標ギヤ位置に対応する目標エンジン回転数にフィードバック制御するにあたり、
前記クラッチペダルの踏み込み操作が検出された場合には、車速およびエンジン回転数から推定した現在のギヤ位置よりも1段高速側のギヤ位置を前記目標ギヤ位置に設定し、前記シフトレバーの中立位置が検出されている状態で前記クラッチペダルの踏み戻し操作が検出されたときには、前記現在のギヤ位置よりも1段低速側のギヤ位置を前記目標ギヤ位置に設定する
一方、前記シフトレバーの中立位置が検出されている状態で前記クラッチペダルの踏み戻し操作が複数回検出されたときには、当該回数分の段数だけ低速側のギヤ位置を前記目標ギヤ位置に設定する、
車両の制御方法。
【請求項2】
クラッチペダルの踏み込み操作によりエンジンから駆動輪への動力伝達を遮断するクラッチを有する手動変速機を備えた車両の制御方法であって、
車両のコントローラが、エンジン回転数を、シフトレバーの操作による前記手動変速機の変速後の目標ギヤ位置に対応する目標エンジン回転数にフィードバック制御するにあたり、
前記クラッチペダルの踏み込み操作が検出された場合には、車速およびエンジン回転数から推定した現在のギヤ位置よりも1段高速側のギヤ位置を前記目標ギヤ位置に設定し、前記シフトレバーの中立位置が検出されている状態で前記クラッチペダルの踏み戻し操作が検出されたときには、前記現在のギヤ位置よりも1段低速側のギヤ位置を前記目標ギヤ位置に設定する一方、前記シフトレバーの中立位置が検出されている状態で、前記クラッチペダルの踏み戻し操作が検出された後にアクセルペダルの踏み込み操作が検出されたときには、前記アクセルペダルの踏み込み回数分の段数だけ低速側のギヤ位置を前記目標ギヤ位置に設定する、
車両の制御方法。
【請求項3】
クラッチペダルの踏み込み操作によりエンジンから駆動輪への動力伝達を遮断するクラッチを有する手動変速機と、
前記クラッチペダルの踏み込みおよび踏み戻し操作を検出するクラッチペダル操作検出センサと、
シフトレバーの中立位置を検出する中立位置検出センサと、
エンジン回転数を、前記シフトレバーの操作による前記手動変速機の変速後の目標ギヤ位置に対応する目標エンジン回転数にフィードバック制御するコントローラと、
を備えた車両の制御装置であって、
前記コントローラは、前記クラッチペダルの踏み込み操作が検出された場合には、車速およびエンジン回転数から推定した現在のギヤ位置よりも1段高速側のギヤ位置を前記目標ギヤ位置に設定し、前記シフトレバーの中立位置が検出されている状態で前記クラッチペダルの踏み戻し操作が検出されたときには、前記現在のギヤ位置よりも1段低速側のギヤ位置を前記目標ギヤ位置に設定する
一方、前記シフトレバーの中立位置が検出されている状態で前記クラッチペダルの踏み戻し操作が複数回検出されたときには、当該回数分の段数だけ低速側のギヤ位置を前記目標ギヤ位置に設定する、
車両の制御装置。
【請求項4】
クラッチペダルの踏み込み操作によりエンジンから駆動輪への動力伝達を遮断するクラッチを有する手動変速機と、
前記クラッチペダルの踏み込みおよび踏み戻し操作を検出するクラッチペダル操作検出センサと、
シフトレバーの中立位置を検出する中立位置検出センサと、
エンジン回転数を、前記シフトレバーの操作による前記手動変速機の変速後の目標ギヤ位置に対応する目標エンジン回転数にフィードバック制御するコントローラと、
を備えた車両の制御装置であって、
前記コントローラは、前記クラッチペダルの踏み込み操作が検出された場合には、車速およびエンジン回転数から推定した現在のギヤ位置よりも1段高速側のギヤ位置を前記目標ギヤ位置に設定し、前記シフトレバーの中立位置が検出されている状態で前記クラッチペダルの踏み戻し操作が検出されたときには、前記現在のギヤ位置よりも1段低速側のギヤ位置を前記目標ギヤ位置に設定する一方、前記シフトレバーの中立位置が検出されている状態で、前記クラッチペダルの踏み戻し操作が検出された後にアクセルペダルの踏み込み操作が検出されたときには、前記アクセルペダルの踏み込み回数分の段数だけ低速側のギヤ位置を前記目標ギヤ位置に設定する、
車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シフトレバー機構に取り付けられたシフト位置センサの出力信号に基づいて変速後における手動変速機の目標ギヤ位置を設定し、変速操作中、目標ギヤ位置に対応する目標エンジン回転数となるようにエンジン回転数をフィードバック制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、シフト位置を検出するための専用のセンサが必要であるため、コストアップを招くという問題があった。
本発明の目的は、コストアップを抑制できる車両の制御方法および制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、クラッチペダルの踏み込み操作が検出された場合には、車速およびエンジン回転数から推定した現在のギヤ位置よりも1段高速側のギヤ位置を目標ギヤ位置に設定し、シフトレバーの中立位置が検出されている状態でクラッチペダルの踏み戻し操作が検出されたときには、現在のギヤ位置よりも1段低速側のギヤ位置を目標ギヤ位置に設定する一方、前記シフトレバーの中立位置が検出されている状態で前記クラッチペダルの踏み戻し操作が複数回検出されたときには、当該回数分の段数だけ低速側のギヤ位置を前記目標ギヤ位置に設定する。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、専用のセンサが不要であるため、コストアップを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態1の車両100のシステム図である。
【
図2】実施形態1の回転同期フィードバック制御の流れを示すフローチャートである。
【
図3】3→2ダウンシフト時における実施形態1の回転同期フィードバック制御の動作を示すタイムチャートである。
【
図4】5→3ダウンシフト時における実施形態1の回転同期フィードバック制御の動作を示すタイムチャートである。
【
図5】実施形態2の回転同期フィードバック制御の流れを示すフローチャートである。
【
図6】5→3ダウンシフト時における実施形態2の回転同期フィードバック制御の動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1の車両100のシステム図である。
車両100に搭載されたエンジン1は、その吸気通路2に吸入空気量制御用の電制スロットル弁3を有する。電制スロットル弁3の開度は、コントローラ4により制御される。
エンジン1の燃料供給系については図示および説明を省略するが、コントローラ4により吸入空気量に対し所望の空燃比となるように供給燃料量が制御される。
【0009】
エンジン1の出力側には、クラッチ5を介して、手動変速機6が接続されている。クラッチ5は、例えば乾式単板クラッチであって、クラッチペダル7が初期位置にあるとき(非操作時)締結され、ドライバがクラッチペダル7を踏み込み操作すると解放される。
手動変速機6は、ドライバのシフトレバー6aの操作によってギヤ位置を切り替え可能である。
【0010】
コントローラ4は、各種センサから入力された信号に基づき、変速時におけるエンジン制御である回転同期フィードバック制御を実行する。回転動機フィードバック制御の詳細については上述する。
アクセルペダルセンサ11は、アクセルペダル8の操作量(アクセル開度)APOを検出し、対応する信号を出力する。
クランク角センサ12は、エンジン1のクランク軸の回転に同期した信号を出力するもので、この信号からエンジン回転数Neを検出可能である。
車速センサ13は、車両100の車速(手動変速機6の出力軸回転数)Vを検出し、対応する信号を出力する。
【0011】
クラッチペダルスイッチ14は、クラッチペダル7の位置に応じたON/OFF信号を出力するもので、クラッチペダル7の非操作時にはOFF信号を出力し、クラッチペダル7の操作時にはON信号を出力する。
中立位置スイッチ15は、シフトレバー6aが中立位置(ニュートラル領域)あるときON信号を出力し、中立位置以外のシフト位置にあるときOFF信号を出力する。
【0012】
コントローラ4は、アクセル開度APOおよびエンジン回転数Neに基づき、Tdを求める。コントローラ4は、通常(非変速時)は、目標エンジントルクtTeをドライバ要求トルクTdし、目標エンジントルクtTeおよびエンジン回転数Neに基づき、目標スロットル開度tTVOを算出する。コントローラ4は、目標スロットル開度tTVOとなるように電制スロットル弁3の開度を制御する。一方、コントローラ4は、変速時には、クラッチ5を締結する際の締結ショックを軽減することを狙いとし、目標エンジントルクtTeの算出にあたり、以下に示すような回転同期フィードバック制御を実施する。
【0013】
図2は、実施形態1の回転同期フィードバック制御の流れを示すフローチャートである。このフローチャートは、所定の演算周期で繰り返し実行される。
ステップS1では、車両100の車速Vが所定車速V0以上であるかを判定する。YESの場合はステップS2へ進み、NOの場合はステップS19へ進む。所定車速V0は、例えば、車速Vがあまり低いとギヤ位置の算定精度が悪化するため、20~30Km/hに設定する。
ステップS2では、中立位置スイッチ15がONであるかを判定する。YESの場合はステップS15へ進み、NOの場合はステップS3へ進む。
【0014】
ステップS3では、クラッチペダルスイッチ14がONであるかを判定する。YESの場合はステップS4へ進み、NOの場合はステップS19へ進む。
ステップS4では、回転同期フィードバック制御フラグFaがセット(=1)されているかを判定する。YESの場合はステップS16へ進み、NOの場合はステップS5へ進む。Fa=1は回転同期フィードバック制御中であることを示す。
ステップS5では、回転同期フィードバック制御フラグFaをセット(=1)する。
【0015】
ステップS6では、車速Vおよびエンジン回転数Neから現在ギヤ位置を推定する。
ステップS7では、目標ギヤ位置を現在のギヤ位置よりも1段高速側のギヤ位置に設定する。
ステップS8では、目標ギヤ位置と手動変速機6の最大ギヤ位置(例えば、前進6速の手動変速機であれば、6速)とのセレクトローにより、目標ギヤ位置を設定する。
ステップS9では、クラッチペダルスイッチ14がONからOFFに切り替わったかを判定する。YESの場合はステップS10へ進み、NOの場合はステップS13へ進む。
【0016】
ステップS10では、ダウンシフト判断フラグFdをセット(=1)する。Fd=1はダウンシフト判断中であることを示す。
ステップS11では、目標ギヤ位置を現在のギヤ位置よりも1段低速側のギヤ位置に設定する。
ステップS12では、目標ギヤ位置と手動変速機6の最小ギヤ位置(例えば、前進6速の手動変速機であれば1速)とのセレクトハイにより、目標ギヤ位置とする。
【0017】
ステップS13では、目標ギヤ位置および車速Vから目標エンジン回転数tNeを算出する。
ステップS14では、エンジン回転数Neを目標エンジン回転数tNeに収束させる目標スロットル開度tTVOを生成し、電制スロットル弁3の開度を制御する回転同期フィードバック制御を実行する。
ステップS15では、回転同期フィードバック制御フラグFaがセット(=1)されているかを判定する。YESの場合はステップS16へ進み、NOの場合はリターンへ進む。
ステップS16では、ダウンシフト判断フラグFdがセット(=1)されているかを判定する。YESの場合はステップS17へ進み、NOの場合はリターンへ進む。
ステップS17では、クラッチペダルスイッチ14がONからOFFに切り替わったかを判定する。YESの場合はステップS18へ進み、NOの場合はステップS13へ進む。
【0018】
ステップS18では、目標ギヤ位置を現在のギヤ位置よりも1段低速側のギヤ位置に設定する。
ステップS19では、回転同期フィードバック制御フラグFaをリセット(=0)する。Fa=0は回転同期フィードバック制御中でないことを示す。
ステップS20では、車速Vおよびエンジン回転数Neから現在のギヤ位置を推定する。
ステップS21では、目標ギヤ位置を現在のギヤ位置に設定する。
ステップS22では、ダウンシフト判断フラグFdをリセット(=0)する。Fd=0はFd=1はダウンシフト判断中でないことを示す。
【0019】
次に、実施形態1の作用効果を説明する。
図3は、3→2ダウンシフト時における実施形態1の回転同期フィードバック制御の動作を示すタイムチャートである。なお、車速Vは所定車速V0以上であることとする。
時刻t1では、ドライバがクラッチペダル7を踏み込んだため、クラッチ5が解放される。このとき、クラッチペダルスイッチ14がOFF→ONとなるため、
図2のフローチャートでは、S1→S2→S3→S4→S5→S6→S7→S8→S9→S13→S14の流れとなる。ステップS4では、回転同期フィードバック制御フラグFaがセットされ、ステップS7では、目標ギヤ位置として、現在のギヤ位置(3速)から1段高速側のギヤ位置(4速)が設定される。ステップS13では、目標エンジン回転数tNeが3速に対応する目標エンジン回転数tNeに設定される。回転同期フィードバック制御フラグFaがセットされると、
図2のフローチャートでは、S1→S2→S3→S4→S16→S9→S13→S14の流れとなる。時刻t1-t2の区間では、3速に対応する目標エンジン回転数tNeへのフィードバック制御により、エンジン回転数Neは低下する。
【0020】
時刻t2では、ドライバがシフトレバー6aを中立位置に操作したため、手動変速機6のギヤ位置が中立位置となる。このとき、中立位置スイッチ15がOFF→ONとなるため、
図2のフローチャートでは、S1→S2→S15→S16→S9→S13→S14の流れとなる。目標ギヤ位置は変化しないため、時刻t2-t3の区間では、時刻t1-t2の区間と同様、3速に対応する目標エンジン回転数tNeへのフィードバック制御により、エンジン回転数Neは低下する。
【0021】
時刻t3では、ドライバがクラッチペダル7を踏み戻したため、クラッチ5が締結される。このとき、クラッチペダルスイッチ14がON→OFFとなるため、
図2のフローチャートでは、S1→S2→S15→S16→S9→S10→S11→S12→S13→S14の流れとなる。ステップS10では、ダウンシフト判断フラグFdがセットされ、ステップS11では、目標ギヤ位置として、現在のギヤ位置(3速)から1段低速側のギヤ位置(2速)が設定される。ステップS13では、目標エンジン回転数tNeが2速に対応するエンジン回転数に設定される。ダウンシフト判断フラグFdがセットされると、
図2のフローチャートでは、S1→S2→S15→S16→S17→S13→S14の流れとなる。時刻t3-t4の区間では、2速に対応する目標エンジン回転数tNeへのフィードバック制御により、エンジン回転数Neは上昇し、目標エンジン回転数tNeに略一致する。
【0022】
時刻t4では、ドライバがクラッチペダル7を踏み込んだため、クラッチ5が解放される。このとき、クラッチペダルスイッチ14がOFF→ONとなる。
時刻t5では、ドライバがシフトレバー6aを2速に対応するシフト位置に操作したため、手動変速機6のギヤ位置が3速に対応するギヤ位置から2速に対応するギヤ位置へ切り替わる。このとき、
図2のフローチャートでは、S1→S2→S3→S4→S16→S17→S13→S14の流れとなる。
【0023】
時刻t6では、ドライバがクラッチペダル7を踏み戻したため、クラッチ5が締結される。このとき、クラッチペダルスイッチ14がON→OFFとなるため、
図2のフローチャートでは、S1→S2→S3→S19→S20→S21→S22の流れとなる。ステップS19では、回転同期フィードバック制御フラグFaがリセットされ、ステップS20では、車速Vおよびエンジン回転数Neから現在のギヤ位置が更新され、ステップS21では、目標ギヤ位置が現在のギヤ位置とされ、ステップS22では、ダウンシフト判断フラグFdがリセットされる。
【0024】
以上のように、ダウンシフトの完了時にクラッチ5の締結する際には、エンジン回転数Neが回転同期フィードバック制御によって目標ギヤ位置および車速Vに応じた目標エンジン回転数tNeまで上昇しているため、クラッチ5の上流側(エンジン側)と下流側(変速機側)との回転段差に起因する締結ショック(変速ショック)を軽減でき、スムーズにダウンシフトを完了できる。なお、アップシフトの場合も同様であり、回転同期フィードバック制御により変速ショックを軽減できる。
【0025】
ここで、目標ギヤ位置は、シフトレバー6aのシフト位置と合致する必要があるが、実施形態1の車両100は、シフト位置を検出するためのセンサを持たない。コントローラ4は、クラッチペダル7の踏み込み操作が検出されると、クラッチペダル7の状態と、シフトレバー6aが中立位置か否かと、に基づき、シフトダウンまたはシフトアップを判定する。コントローラ4は、車速Vおよびエンジン回転数Neから推定した現在のギヤ位置と、シフトダウンまたはシフトアップの判定と、に基づき、目標ギヤ位置を設定する。
【0026】
一般的に、MT車では、ダウンシフト完了時における変速ショックを軽減するために、ダブルクラッチが用いられる。ダブルクラッチは、シフトレバーが中立位置にある状態でクラッチ5を一旦締結させてアクセルをブリッピングすることにより、エンジン回転数を上昇させ、再びクラッチを解放してシフトダウンし、エンジン回転数が落ちきらないうちにクラッチを締結させるものである。よって、シフトレバー6aの中立位置が検出されている状態でクラッチペダル7の踏み戻し操作が検出されたときには、ドライバがダウンシフトを意図していると判定できる。一方、シフトレバー6aの中立位置が検出されている状態でクラッチペダル7の踏み戻し操作が検出されないときには、ドライバがアップシフトを意図していると判定できる。
【0027】
そこで、実施形態1では、クラッチペダルスイッチ14のONが検出された場合には、現在のギヤ位置よりも1段高速側のギヤ位置を目標ギヤ位置に設定し、中立位置スイッチ15のONが検出されている状態でクラッチペダルスイッチ14のOFFが検出されたときには、現在のギヤ位置よりも1段低速側のギヤ位置を目標ギヤ位置に設定する。これにより、シフト位置を検出するための専用のセンサを用いることなく、安価なクラッチペダルスイッチ14および中立位置スイッチ15を用いてシフト位置に応じた目標ギヤ位置を設定できるため、コストアップを抑制できる。
【0028】
また、実施形態1では、クラッチペダルスイッチ14のONが検出されるとすぐに現在のギヤ位置よりも1段高速側のギヤ位置を目標ギヤ位置に設定しているため、シフトレバー6aが中立位置にある状態でダブルクラッチが行われなかったことを確認した後にアップシフト判定する場合と比べて、エンジン回転数Neをより早期に1段高速側のギヤ位置に対応する目標エンジン回転数tNeとすることができ、変速ショックをより緩和できる。
さらに、ドライバがダブルクラッチを用いてダウンシフトする場合、回転同期フィードバック制御によりエンジン回転数Neが高められるため、アクセルのブリッピングが不要であり、ドライバの運転負荷を軽減できる。
また、ダウンシフト時にダブルクラッチを行うことなく、アクセルペダル操作でエンジン回転数を調整するブリッピングのみが行われることもあるが、コーナリング手前やコーナリング中でブレーキペダル操作も必要な場合、ヒール&トーのような高度で複雑な操作が右足に要求されるため、ブレーキペダル操作が不安定になってしまうことがある。本実施形態によれば、ブレーキペダル操作中でも空いている左足でクラッチペダルを操作すれば、ブリッピングすることなく正確にエンジン回転数が調整されるため、一般的なドライバでもヒール&トー相当が実現でき、右足はブレーキペダル操作に専念することで安全なダウンシフトが実現できる。
【0029】
図4は、5→3ダウンシフト時における実施形態1の回転同期フィードバック制御の動作を示すタイムチャートである。なお、車速Vは所定車速V0以上であることとする。
時刻t1-t5の区間は、3→2ダウンシフトが5→4ダウンシフトとなることを除き、
図3に示した時刻t1-t5の区間と同様であるため、説明は省略する。
時刻t5では、ドライバがクラッチペダル7を踏み戻したため、クラッチ5が締結される。このとき、クラッチペダルスイッチ14がON→OFFとなるため、
図2のフローチャートでは、S1→S2→S15→S16→S17→S18→S13→S14の流れとなる。ステップS18では、目標ギヤ位置として、現在の目標ギヤ位置(4速)から1段低速側のギヤ位置(3速)が設定される。ステップS13では、目標エンジン回転数tNeが3速に対応するエンジン回転数に設定される。その後、S1→S2→S15→S16→S17→S13→S14の流れとなり、時刻t5-t6の区間では、3速に対応する目標エンジン回転数tNeへのフィードバック制御により、エンジン回転数Neは上昇する。
【0030】
時刻t6では、ドライバがクラッチペダル7を踏み込んだため、クラッチ5が解放される。このとき、クラッチペダルスイッチ14がOFF→ONとなる。
時刻t7では、ドライバがシフトレバー6aを3速に対応するシフト位置に操作したため、手動変速機6のギヤ位置が4速に対応するギヤ位置から3速に対応するギヤ位置へ切り替わる。このとき、
図2のフローチャートでは、S1→S2→S3→S4→S16→S17→S13→S14の流れとなる。
【0031】
時刻t8では、ドライバがクラッチペダル7を踏み戻したため、クラッチ5が締結される。このとき、クラッチペダルスイッチ14がON→OFFとなるため、
図2のフローチャートでは、S1→S2→S3→S19→S20→S21→S22の流れとなる。ステップS19では、回転同期フィードバック制御フラグFaがリセットされ、ステップS20では、車速Vおよびエンジン回転数Neから現在のギヤ位置が更新され、ステップS21では、目標ギヤ位置が現在のギヤ位置とされ、ステップS22では、ダウンシフト判断フラグFdがリセットされる。
【0032】
以上のように、コントローラ4は、中立位置スイッチ15のONが検出されている状態でクラッチペダルスイッチ14のOFFが複数回(
図4では2回)検出されたときには、当該回数分の段数(
図4では2速分)だけ低速側のギヤ位置(
図4では3速)を目標ギヤ位置に設定する。これにより、ドライバがいわゆる飛び段でダウンシフトした場合も、エンジン回転数Neを変速後のギヤ位置に対応する目標エンジン回転数tNeに制御でき、変速ショックを軽減できる。
【0033】
〔実施形態2〕
実施形態2の基本的な構成は実施形態1と同じであるため、実施形態1と相違する部分のみ説明する。
図5は、実施形態2の回転同期フィードバック制御の流れを示すフローチャートである。このフローチャートは、所定の演算周期で繰り返し実行される。なお、
図5において
図2のフローチャートと同じ処理を行うステップには、同一のステップ番号を付している。以下、
図2と異なる処理を行うステップのみ説明する。
ステップS23では、アクセルペダルセンサ11からの信号により、アクセルペダル8が操作されたかを判定する。YESの場合はステップS18へ進み、NOの場合はステップS13へ進む。
【0034】
次に、実施形態2の作用効果を説明する。
図6は、5→3ダウンシフト時における実施形態2の回転同期フィードバック制御の動作を示すタイムチャートである。なお、車速Vは所定車速V0以上であることとする。
時刻t1-t5の区間は、
図4に示した時刻t1-t5の区間と同様であるため、説明は省略する。
時刻t5では、ドライバがアクセルペダル8の踏み込みを開始したため、アクセルペダルセンサ11の信号によりアクセルペダル8の操作が検出される。このとき、
図5のフローチャートでは、S1→S2→S15→S16→S17→S23→S18→S13→S14の流れとなる。ステップS18では、目標ギヤ位置として、現在の目標ギヤ位置(4速)から1段低速側のギヤ位置(3速)が設定される。ステップS13では、目標エンジン回転数tNeが3速に対応するエンジン回転数に設定される。その後、S1→S2→S15→S16→S17→S23→S13→S14の流れとなり、時刻t5-t6の区間では、3速に対応する目標エンジン回転数tNeへのフィードバック制御により、エンジン回転数Neは上昇する。
【0035】
時刻t6では、ドライバがシフトレバー6aを3速に対応するシフト位置に操作したため、手動変速機6のギヤ位置が4速に対応するギヤ位置から3速に対応するギヤ位置へ切り替わる。このとき、
図5のフローチャートでは、S1→S2→S3→S4→S16→S17→S23→S13→S14の流れとなる。
時刻t7では、ドライバがクラッチペダル7を踏み戻したため、クラッチ5が締結される。このとき、クラッチペダルスイッチ14がON→OFFとなるため、
図5のフローチャートでは、S1→S2→S3→S19→S20→S21→S22の流れとなる。ステップS19では、回転同期フィードバック制御フラグFaがリセットされ、ステップS20では、車速Vおよびエンジン回転数Neから現在のギヤ位置が更新され、ステップS21では、目標ギヤ位置が現在のギヤ位置とされ、ステップS22では、ダウンシフト判断フラグFdがリセットされる。
【0036】
以上のように、コントローラ4は、中立位置スイッチ15のONが検出されている状態でクラッチペダルスイッチ14のOFFとなった後、アクセルペダル8の踏み込み操作が検出されたときには、アクセルペダル8の踏み込み回数(
図6では1回)分の段数(
図6では1速分)だけ低速側のギヤ位置(
図6では3速)を目標ギヤ位置に設定する。変速中のブリッピング(アクセル操作)はドライバがエンジン回転数Neを上昇させるために行われるため、ブリッピングの回数に応じて目標ギヤ位置を低速側のギヤ位置に設定することにより、ドライバがいわゆる飛び段でダウンシフトした場合も、エンジン回転数Neを変速後のギヤ位置に対応する目標エンジン回転数tNeに制御でき、変速ショックを軽減できる。
【0037】
(他の実施形態)
以上、本発明を実施するための形態を、実施形態に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0038】
1 エンジン
2 吸気通路
3 電制スロットル弁
4 コントローラ
5 クラッチ
6 手動変速機
6a シフトレバー
7 クラッチペダル
8 アクセルペダル
11 アクセルペダルセンサ
12 クランク角センサ
13 車速センサ
14 クラッチペダルスイッチ
15 中立位置スイッチ
100 車両