(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】車両の車体製造方法及び車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 27/04 20060101AFI20231031BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20231031BHJP
B62D 25/04 20060101ALI20231031BHJP
B62D 25/06 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
B62D27/04
B62D25/20 F
B62D25/04
B62D25/06 B
(21)【出願番号】P 2020021208
(22)【出願日】2020-02-12
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】三好 雄二
(72)【発明者】
【氏名】中川 興也
(72)【発明者】
【氏名】山本 研一
(72)【発明者】
【氏名】鍵元 皇樹
(72)【発明者】
【氏名】平岩 愛
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-380(JP,A)
【文献】特許第6489177(JP,B2)
【文献】特開2004-360774(JP,A)
【文献】特開2009-35208(JP,A)
【文献】特許第6633171(JP,B1)
【文献】山本研一,麻川元康,氷室雄也,中川興也,“自動車における構造接着技術の動向と課題”,自動車技術,日本,自動車技術会,2019年11月01日,73巻11号,pp.75-80,ISSN 0385-7298
【文献】山本研一,中川興也,氷室雄也,渡邊重昭,小橋正信,吉田智也,三好雄二,伊藤司,鍵元皇樹,八巻悟,片岡,“構造接着を用いた車体振動減衰技術の開発”,マツダ技報,日本,株式会社マツダ,2019年11月,第36号,pp.283-288,DOI: 10.34338/mazdagihou.36.0_283,ISSN 2186-3490(online),0288-0601(print)
【文献】原修,構造用接着材とエンジニアリング接着材,ThreeBond TECHNICAL NEWS,日本,株式会社スリーボンド,1991年12月20日,No.36,pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20,25/04-25/06,27/04,65/00,
F16F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1車体部材と、フランジ部を有する第2車体部材とを用いて車両の車体を製造する方法であって、
前記第1車体部材と前記第2車体部材の前記フランジ部とを重ね合わせる重合工程と、
前記フランジ部の端縁において、前記第1車体部材と前記フランジ部とに接着するように、熱硬化型の振動減衰部材を塗布する塗布工程と、
前記塗布された振動減衰部材を仮硬化させる仮硬化工程と、
前記仮硬化された振動減衰部材を熱により本硬化させる本硬化工程と、
前記仮硬化工程と前記本硬化工程との間に、前記第1車体部材及び前記第2車体部材に対して実行される他の処理工程と、
を含むことを特徴とする車両の車体製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の車体製造方法において、
前記仮硬化工程は、前記振動減衰部材に熱を与えて仮硬化させる工程である、車両の車体製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の車両の車体製造方法において、
前記振動減衰部材は、光の照射によっても硬化可能な材料であって、
前記仮硬化工程は、前記振動減衰部材に光を照射して仮硬化させる工程である、車両の車体製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の車両の車体製造方法において、
前記塗布工程は、前記フランジ部の端縁の一部に前記振動減衰部材が存在するように、前記振動減衰部材を塗布する工程である、車両の車体製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の車体製造方法において、
前記塗布工程は、前記フランジ部の端縁において前記振動減衰部材が点在するように、前記振動減衰部材を塗布する工程である、車両の車体製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の車両の車体製造方法において、
前記重合工程の後に、前記第1車体部材と前記フランジ部とをスポット溶接する溶接工程をさらに含む、車両の車体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジ部を有する車体部材を用いた車両の車体製造方法、及び車両の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の車体は、一つの車体部材と、フランジ部を有する他の車体部材との接合によって形成される部分を有している。また、前記接合の部分に、振動を減衰させる振動減衰部材を付設する技術が知られている。前記振動減衰部材は、車体部材同士を接着する接着材の態様で用いられることがある。特許文献1の
図9には、前記フランジ部の端縁に沿って接着材からなる振動減衰部材を塗布する手法が開示されている。当該振動減衰部材としては、専ら熱硬化性の材料が用いられる。前記振動減衰部材の塗布後に、適宜な熱硬化工程を設けることで、前記振動減衰部材が硬化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の車体構造では、フランジ部の端縁に振動減衰部材が露出した状態で、車体の組み立て構造体が前記熱硬化工程の処理ゾーンへ移送されることになる。この移送の際に、前記振動減衰部材の塗布部分に他の部材が接触してダメージを受ける虞がある。また、前記熱硬化工程に洗浄工程等の他の処理工程を行わねばならないことがあり、当該他の処理工程の実行によって前記振動減衰部材の塗布部分が、当初の塗布形状を維持できなくなる虞がある。これらの場合、前記振動減衰部材が所期の減衰効果を発現できない不具合が生じ得る。
【0005】
本発明の目的は、一つの車体部材と、フランジ部を有する他の車体部材との接合部分に振動減衰部材を付設する車両の車体製造方法及び車体構造おいて、前記振動減衰部材が所期の減衰効果を確実に発現できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る車両の車体製造方法は、第1車体部材と、フランジ部を有する第2車体部材とを用いて車両の車体を製造する方法であって、前記第1車体部材と前記第2車体部材の前記フランジ部とを重ね合わせる重合工程と、前記フランジ部の端縁において、前記第1車体部材と前記フランジ部とに接着するように、熱硬化型の振動減衰部材を塗布する塗布工程と、前記塗布された振動減衰部材を仮硬化させる仮硬化工程と、前記仮硬化された振動減衰部材を熱により本硬化させる本硬化工程と、前記仮硬化工程と前記本硬化工程との間に、前記第1車体部材及び前記第2車体部材に対して実行される他の処理工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
この車体製造方法によれば、本硬化工程の前に、塗布工程において塗布された振動減衰部材を仮硬化させる仮硬化工程が実行される。このため、たとえ振動減衰部材がフランジ部の端縁で外部に露出する態様で塗布されていても、当該塗布された振動減衰部材は、仮硬化によって当初の塗布形状を維持できるようになる。従って、前記振動減衰部材が所期の減衰効果を発現できる車体を製造することができる。
【0008】
上記の車両の車体製造方法において、前記仮硬化工程と前記本硬化工程との間に、前記第1車体部材及び前記第2車体部材に対する他の処理工程が実行されても良い。
【0009】
この車体製造方法では、例えば洗浄工程のような他の処理工程が前記本硬化工程に前置されても、既に仮硬化工程が行われているので、塗布された振動減衰部材の塗布形状の変化が生じることはない。
【0010】
上記の車両の車体製造方法において、前記仮硬化工程は、前記振動減衰部材に熱を与えて仮硬化させる工程であることが望ましい。
【0011】
この車体製造方法によれば、熱硬化型の振動減衰部材を速やかに仮硬化させることができる。振動減衰部材に熱を与える手法は、例えばホットエアの吹き付け等による外部からの加熱、電磁誘導加熱による内部からの加熱等を例示することができる。
【0012】
上記の車両の車体製造方法において、前記振動減衰部材は、光の照射によっても硬化可能な材料であって、前記仮硬化工程は、前記振動減衰部材に光を照射して仮硬化させる工程であることが望ましい。
【0013】
この車体製造方法によれば、光の照射によって振動減衰部材を速やかに仮硬化させることができる。具体例としては、紫外線硬化剤を含む熱硬化性材料からなる振動減衰部材を用い、当該振動減衰部材に紫外線を照射して仮硬化させる態様を例示できる。
【0014】
上記の車両の車体製造方法において、前記塗布工程は、前記フランジ部の端縁の一部に前記振動減衰部材が存在するように、前記振動減衰部材を塗布する工程とすることができる。
【0015】
この車体製造方法によれば、フランジ部の端縁に沿って振動減衰部材が連続的に塗布されるのではなく、振動減衰部材が塗布されない非拘束部分がフランジ部の端縁に形成される。これにより、前記第1車体部材と前記第2車体部材のフランジ部とを無用に拘束せず、振動減衰部材の塗布部分に振動エネルギーを集中させ、振動減衰効果を高めることが可能となる。
【0016】
この場合、前記塗布工程は、前記フランジ部の端縁において前記振動減衰部材が点在するように、前記振動減衰部材を塗布する工程であることが望ましい。
【0017】
この車体製造方法によれば、少ない振動減衰部材の使用量で、最大限の振動減衰効果を発揮する車体を製造することが可能となる。
【0018】
上記の車両の車体製造方法において、前記重合工程の後に、前記第1車体部材と前記フランジ部とをスポット溶接する溶接工程をさらに含んでいても良い。
【0019】
この車体製造方法によれば、スポット溶接によって剛結合された前記第1車体部材と前記フランジ部との接合部において、振動減衰部材の付設によって振動を減衰させることができる。
【0020】
本発明の他の局面に係る車両の車体構造は、第1車体部材と、前記第1車体部材に対する接合部分となるフランジ部を有する第2車体部材と、前記フランジ部の端縁において、前記第1車体部材と前記フランジ部とに接着するように点在状に配置される、仮硬化と熱による本硬化とが可能な熱硬化型の振動減衰部材と、を備えることを特徴とする。
【0021】
この車体構造によれば、前記フランジ部の端縁に点在状に配置された振動減衰部材に振動エネルギーを集中させ、振動減衰効果を高めることができる。
【0022】
上記の車両の車体構造において、前記振動減衰部材は、前記第2車体部材の前記フランジ部の端縁に沿う方向をフランジ幅方向とするとき、前記フランジ幅方向の一端と他端とに点在している構成としても良い。
【0023】
一般に、フランジ幅方向の一端及び他端は、振動が加わった際に揺動し易い部分となる。これらの部分に振動減衰部材を点在的に配置することで、振動減衰効果を一層高めることができる。
【0024】
上記の車両の車体構造において、前記振動減衰部材は、前記フランジ幅方向の一端及び他端から各々所定距離だけ中央方向に離間した位置に点在している構成としても良い。
【0025】
この車体構造によれば、フランジ幅方向の一端側の振動減衰部材と他端側の振動減衰部材との間隔が、開きすぎない態様とすることができる。従って、フランジ幅方向の中央領域におけるフランジ部の浮き上がりを抑止することができる。
【0026】
上記の車両の車体構造において、前記振動減衰部材は、前記フランジ幅方向の一端から他端にかけて、断続的に配置されている構成としても良い。
【0027】
この車体構造によれば、例えば前記フランジ部において揺動し易い箇所を特定し、当該箇所を対象として断続的に振動減衰部材を配置することで、振動減衰効果を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、第1車体部材と、フランジ部を有する第2車体部材との接合部分に振動減衰部材を付設する場合において、前記振動減衰部材が所期の減衰効果を確実に発現できる車両の車体製造方法及び車体構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、本発明が適用される車体の概略的な側面図である。
【
図2】
図2は、本発明が適用される車体の概略的な底面図である。
【
図3】
図3は、車体において閉断面を有するフレームを構成する車体構造体の斜視図である。
【
図5】
図5(A)は、平板メンバと補強メンバとのフランジ接合部の一例を示す斜視図、
図5(B)は、前記フランジ接合部の断面図である。
【
図6】
図6(A)は、平板メンバと補強メンバとのフランジ接合部の他の例を示す斜視図、
図6(B)は、前記フランジ接合部の断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係る車体製造方法の手順を示す工程チャートである。
【
図8】
図8(A)~(C)は、前記車体製造方法の各工程を説明するための模式的な図である。
【
図9】
図9(A)及び(B)は、前記車体製造方法における熱による仮硬化工程を説明するための模式的な図である。
【
図10】
図10は、前記車体製造方法における光照射による仮硬化工程を説明するための模式的な図である。
【
図11】
図11は、減衰接着材による振動低減量を示すグラフである。
【
図12】
図12は、減衰接着材による振動低減量を示すグラフである。
【
図13】
図13は、フランジ部の端縁へ減衰接着材を点在状に配置する場合の一例を示す斜視図である。
【
図14】
図14は、フランジ部の端縁へ減衰接着材を点在状に配置する場合の一例を示す斜視図である。
【
図15】
図15は、フランジ部の端縁へ減衰接着材を点在状に配置する場合の一例を示す斜視図である。
【
図16】
図16は、フランジ部の端縁へ減衰接着材を点在状に配置する場合の一例を示す斜視図である。
【
図17】
図17は、減衰接着材による振動低減量を示すグラフである。
【
図18】
図18は、減衰接着材による振動低減量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[車体構造]
以下、図面を参照して、本発明に係る車両の車体製造方法及び車体構造について詳細に説明する。まず、
図1及び
図2を参照して、本発明が適用される車両の全体的な車体構造について説明する。
図1は、前記車両の車体1の概略的な側面図、
図2は、その底面図である。
図1及び
図2で例示している車両の車体1は、ハッチバック型の四輪自動車のものである。本発明が適用される車両はここでの例示に限定されるものではなく、他のタイプの四輪自動車、トラック、バス、各種の作業用車両等であっても良い。
【0031】
車体1は、車両の左右側面を構成するサイドフレーム10を含む。
図1に示すように、サイドフレーム10は、ルーフレール11、フロントピラー12、センターピラー13、リアピラー14、及びサイドシル15を備える。これらサイドフレーム10の構成部材は、閉断面を有する高剛性のフレーム部材によって構成されている。ルーフレール11は車両の上部において、サイドシル15は車両の下部において、それぞれ車両の前後方向に延びている。ルーフレール11とサイドシル15は、車両の左右一対で配置されている。ルーフレール11とサイドシル15との間は、前側においてはフロントピラー12で、後側においてはリアピラー14で、そして前後方向の中央付近においてはセンターピラー13で、各々上下方向に連結されている。
【0032】
図2に示すように、一対のサイドシル15の間における車幅方向の中央領域には、トンネルレイン16が前後方向に延びている。トンネルレイン16を横切るようにして、複数のクロスメンバ17が配設されている。これらクロスメンバ17の両端部は、左右のサイドシル15に各々連結されている。このクロスメンバ17も、閉断面を有する高剛性のフレーム部材からなる。一対のサイドシル15の間であってクロスメンバ17の下方には、平板状のフロアパネル18が配設されている。これらフロアパネル18、サイドシル15、トンネルレイン16及びクロスメンバ17は相互に連結され、車両下部の構造体を形成している。なお、一対のルーフレール11の間には、図略のルーフレインが架設される。
【0033】
[閉断面を有する車体構造体]
図3は、車体1において閉断面部Cを有するフレームを構成する車体構造体2の斜視図、
図4は、車体構造体2の分解斜視図である。車体構造体2は、平板メンバ3(第1車体部材)、ハット型メンバ4及び補強メンバ5(第2車体部材)を含む。ここで例示している車体構造体2は、上掲の閉断面部を有するルーフレール11、フロントピラー12、センターピラー13、リアピラー14、サイドシル15及びクロスメンバ17の構造を簡略的に示したものでもある。例えばクロスメンバ17の場合、フロアパネル18が
図2の平板メンバ3に、クロスメンバ17がハット型メンバ4に、フロアパネル18とクロスメンバ17との接合体によって形成される閉断面部C内に配置される剛性補強体が補強メンバ5に各々相当する。
【0034】
平板メンバ3は、ハット型メンバ4と同等以上の幅を有する平板状の部材である。ハット型メンバ4は、ハット本体部41とフランジ部42とを含む。ハット本体部41は、平板からなる天板411と、天板411の両側縁に各々連なる一対の側板412とからなる。
図3及び
図4では、天板411が水平方向に延び、側板412が天板411の側縁から鉛直下方に延びている例を示している。フランジ部42は、一対の側板412の下端縁を各々外側へ直角に折り曲げて形成された、細い帯状の平板部分である。
【0035】
フランジ部42は、平板メンバ3に対する接合部分となる。フランジ部42は、平板メンバ3の上に重ね合わされ、接合されることで、フランジ接合部F1を形成している。すなわち、フランジ部42と平板メンバ3とが重なり合う部分には、両者が点状に溶接されたスポット接合部SWが、所定間隔を置いて複数形成されている。このようなフランジ接合部F1にて平板メンバ3とハット型メンバ4とが一体化されることによって、断面矩形状の閉断面部Cを有する車体構造体2が形成される。
【0036】
補強メンバ5は、閉断面部Cの形状維持のため当該閉断面部C内に配置される補強部材である。すなわち補強メンバ5は、車体構造体2における、天板411と平板メンバ3とを接近させる若しくは側板412同士を接近させるようにハット型メンバ4を圧潰させる変形力や、ハット型メンバ4を捻れさせる変形力への耐性を高める役目を果たす。補強メンバ5は、節部材とも呼ばれ、鋼材等の優れた剛性を有する板材に、所要の打ち抜き加工や折り曲げ加工を施して形成される。
【0037】
補強メンバ5は、閉断面部Cの断面形状に応じた矩形形状を有する平板からなるベース板51と、このベース板51の下辺、上辺及び一対の側辺を略直角に各々折り曲げて形成された下フランジ部52A、上フランジ部52B及び一対の横フランジ部52Cとを備えている。ベース板51は、閉断面部Cの延びる方向である車体構造体2の長手方向と概ね直交する面を持ち、車体構造体2へ加わる前記変形力を受け止める役目を果たす。なお、閉断面部C内を長手方向において完全に仕切ってしまわないよう、ベース板51に開口部を設けるようにしても良い。
【0038】
下フランジ部52Aは、平板メンバ3に接合され、フランジ接合部F21を形成している。一対の横フランジ部52Cは、ハット型メンバ4の一対の側板412に各々接合され、フランジ接合部F22、F23を形成している。上フランジ部52Bは、ハット型メンバ4の天板411に接合され、フランジ接合部F24を形成している。これらフランジ接合部F21~F24は、互いの部材がスポット接合部SWによって接合されている。
【0039】
図3では、フランジ接合部F21~F24のうち、下フランジ部52Aのフランジ接合部F21は、減衰接着材6(振動減衰部材)が添設されている例を示している。減衰接着材6は、車体構造体2に加わる振動を低減させるために配置される部材である。フランジ接合部F21においては、重ね合わされた下フランジ部52Aと平板メンバ3とが、スポット接合部SWと減衰接着材6との併用によって接合(以下、ウェルボンド接合という)されていても、減衰接着材6だけで接合(以下、重ね合わせ接合という)されていても良い。
【0040】
[フランジ接合部の詳細]
続いて、上記の減衰接着材6が添設されたフランジ接合部F21について詳述する。減衰接着材6としては、熱硬化型の材料であって、接着性及び所定の粘弾性を有する部材であれば特に限定はなく、例えば、シリコーン系材料又はアクリル系材料からなる粘弾性部材を使用することができる。硬化後の減衰接着材6の物性としては、温度が20℃、かつ加振力の周波数が200Hzである条件下において、貯蔵弾性率が200MPa~3000MPaの範囲内で、かつ、損失係数が0.2以上の特性を有するものが好ましい。このような減衰接着材6は、振動エネルギーをひずみエネルギーとして吸収し、これを熱エネルギーに変換して散逸することにより、振動を減衰する。
【0041】
図5(A)は、フランジ接合部F21を拡大して示す斜視図、
図5(B)は、フランジ接合部F21の断面図である。下フランジ部52Aは、根元側端縁521及び先端側端縁522を備えている。根元側端縁521は、ベース板51に対する下フランジ部52Aの折曲箇所に位置する端縁であり、ベース板51の下端に連なる部分である。先端側端縁522は、下フランジ部52Aの折り曲げ方向の先端に位置する端縁である。すなわち、本発明において「フランジ部の端縁」とは、根元側端縁521及び先端側端縁522のいずれかの端縁を意味する。
【0042】
下フランジ部52Aは、平板メンバ3に直接的に重ね合わされている。換言すると、下フランジ部52Aの下面が平板メンバ3の上面に接面している。つまり、下フランジ部52Aと平板メンバ3との間には、積極的に減衰接着材6は介在されていない。減衰接着材6は、下フランジ部52Aの根元側端縁521に沿って、下フランジ部52Aの幅方向(下フランジ部52Aの折り曲げ線に沿う方向)の全長に亘って連続的に塗布されている。
図5(B)に示されているように、減衰接着材6は、根元側端縁521の箇所において、平板メンバ3と下フランジ部52Aとの双方に接着している。
【0043】
図6(A)は、他の実施形態に係るフランジ接合部F21を拡大して示す斜視図、
図6(B)は、そのフランジ接合部F21の断面図である。
図5(A)及び(B)の実施形態と相違する点は、減衰接着材6が下フランジ部52Aの先端側端縁522に配置されている点である。減衰接着材6は、先端側端縁522に沿って、下フランジ部52Aの前記幅方向の全長に亘って連続的に塗布されている。また、減衰接着材6は、先端側端縁522の箇所において、平板メンバ3と下フランジ部52Aとの双方に接着している。
【0044】
[車体製造の流れ]
次に、上述の車体構造体2を含む車体1の製造方法について説明する。本実施形態の製造方法において特徴的な点は、所要箇所に減衰接着材6を塗布した後、次段工程に移行する前に、塗布された減衰接着材6を仮硬化させる工程を含む点である。このため、減衰接着材6としては、何らかの手段で仮硬化させることが可能で、熱によって本硬化させることが可能な熱硬化型の減衰接着材6が使用される。
【0045】
図7は、本発明の実施形態に係る車体製造方法の手順を示す工程チャートである。まず、接合すべき車体部材同士を重ね合わせる重合工程が実行される(工程M1)。車体構造体2の場合は、平板メンバ3の所定位置に、ハット型メンバ4のフランジ部42が位置合わせして重ね合わされる。また、補強メンバ5のフランジ接合部F21~F24も、平板メンバ3及びハット型メンバ4の所定位置に重ね合わされる。
【0046】
図8(A)は、減衰接着材6が添設されるフランジ接合部F21における工程M1の実行状況を示す図である。補強メンバ5(第2車体部材)の下フランジ部52Aは、平板メンバ3(第1車体部材)の上面3Fと対向するフランジ下面52Fを有する。上面3F及びフランジ下面52Fは、平坦な面である。重合工程M1では、平板メンバ3の所定位置においてフランジ下面52Fが上面3Fに当接するように、下フランジ部52Aが平板メンバ3に重ね合わされる。
【0047】
続いて、重ね合わされた車体部材同士を接合する接合工程が行われる(工程M2)。接合工程M2の態様には限定は無いが、好ましい態様はスポット溶接による溶接工程である。
図8(B)は、フランジ接合部F21における接合工程M2の実行状況を示している。下フランジ部52Aと平板メンバ3との重ね合せ部の所定位置に溶接用電極を配置する等してスポット溶接を行い、当該重ね合せ部にスポット接合部SWが形成される。この接合工程M2は、フランジ接合部F21をウェルボンド接合とする場合に実行される工程である。フランジ接合部F21が、重ね合わせ接合とされる場合は、接合工程M2はスキップされる。
【0048】
しかる後、熱硬化型の減衰接着材6を所要箇所に塗布する塗布工程が行われる(工程M3)。
図8(C)は、フランジ接合部F21における塗布工程M3の実行状況を示している。ここでは、
図6に例示したように、下フランジ部52Aの先端側端縁522に沿って減衰接着材6が塗布される例を示している。もちろん、
図5に例示したように、根元側端縁521に沿って減衰接着材6が塗布されても良い。必要ならば、根元側端縁521及び先端側端縁522の双方に沿って減衰接着材6が塗布されても良い。
【0049】
図8(C)では、塗布工程を実行する一例として、減衰接着材6を吐出するノズルを含む塗布機61が模式的に示されている。減衰接着材6は熱硬化性の材料からなり、塗布工程の段階では前記ノズルから押出可能な流動性を有している。既述の通り、減衰接着材6は、平板メンバ3の上面3Fと下フランジ部52Aの先端側端縁522との双方に接着するように塗布される。このような塗布が行えるよう前記ノズルが位置決めされ、減衰接着材6を吐出させながら先端側端縁522の延在方向に沿って前記ノズルが移動される。なお、ハット型メンバ4のフランジ部42と平板メンバ3との重ね合わせ箇所に、同様にして減衰接着材6を塗布するようにしても良い。
【0050】
次に、塗布された減衰接着材6を仮硬化させる仮硬化工程M4が行われる。減衰接着材6は熱硬化性の材料であるので、塗布工程M3を終えた段階では、まだ固化していない状態である。しかも、減衰接着材6は、平板メンバ3と下フランジ部52Aとの間に挟まれるように配置されるのではなく、先端側端縁522の側方に隣接して露出する状態で配置される。この状態で、減衰接着材6を熱硬化させる処理ゾーンへ車体1を移送すると、減衰接着材6の塗布部分に他の部材が接触してダメージを受ける虞がある。また、車両製造工程の都合上、熱硬化工程の前に他の処理工程(本実施形態では後述の工程M5、M6)を挟まねばならないことがある。この場合、前記他の処理工程の実行の際における処理機材等の減衰接着材6への接触、処理の際の振動や噴射物の衝突等によって非硬化状態の減衰接着材6が、当初の塗布形状を維持できなくなる虞がある。この点に鑑み、塗布された減衰接着材6に対して、塗布形状が維持可能な程度に硬化させる仮硬化工程M4を塗布工程M3の次に実行する。
【0051】
仮硬化工程M4は、塗布された減衰接着材6に熱を与えて仮硬化させる工程とすることができる。
図9(A)及び(B)は、熱による仮硬化工程M4を説明するための模式的な図である。
図9(A)は、ホットエアHAを減衰接着材6に吹き当て、減衰接着材6を仮硬化させる例を示している。熱風発生器62が発生するホットエアHAが、車体構造体2の開口部2Aから閉断面部C内へ導入される。導入されたホットエアHAは、減衰接着材6に吹き当たる。これにより、減衰接着材6は仮硬化される。なお、この実施形態では、後段側(熱風発生器62から遠い側)の補強メンバ5にホットエアHAが吹き当たり易いよう、前段側の補強メンバ5のベース板51に、通気開口を設けておくことが望ましい。
【0052】
図9(B)は、電磁誘導加熱によって減衰接着材6を仮硬化させる例を示している。この実施形態では、IHコイル63を有するIH加熱ヘッド64と、高周波電力をIHコイル63に供給するIH電源65とを備えた加熱装置が用いられる。IHコイル63が生成する磁束φが、平板メンバ3と補強メンバ5との接合部分を通過するように、IH加熱ヘッド64が車体構造体2に対して位置決めされる。前記接合部分に誘起される誘導電流に伴うジュール熱によって、減衰接着材6は仮硬化される。以上の、減衰接着材6に熱を与える仮硬化工程M4によれば、熱硬化型であるという本来の特性を利用して、減衰接着材6を速やかに仮硬化させることができる。
【0053】
仮硬化工程M4は、塗布された減衰接着材6に光を照射して仮硬化させる工程とすることができる。
図10は、UV光(紫外光)OPの照射による仮硬化工程M4を説明するための模式的な図である。この実施形態では、UV光照射ヘッド66と、UV光OPを発生するUV光源67とを備えるUV光発生装置が用いられる。UV光源67が発生するUV光OPは、光ファイババンドル等を通してUV光照射ヘッド66へ送られ、減衰接着材6に照射される。
【0054】
図10の実施形態では、熱だけでなく、光の照射によっても硬化可能な材料からなる減衰接着材6が用いられる。例えば、ラジカル系の光重合を為すアクリル系樹脂、或いはカチオン系の光重合を為すエポキシ系の樹脂からなる減衰接着材6が用いることができる。この実施形態によれば、UV光OPの照射によって減衰接着材6を速やかに仮硬化させることができるという利点がある。
【0055】
図7に戻り、仮硬化工程M4の後には、車体構造体2の洗浄工程M5及び防錆剤の電着塗装工程M6が順次行われる。これら工程M5、M6は、上記の仮硬化工程M4と減衰接着材6を本硬化させる工程(後述の工程M7)との間に行われる他の処理工程に相当する。このような他の処理工程が行われても、減衰接着材6は既に仮硬化されているので、塗布された形状が変化することはない。
【0056】
洗浄工程M5は、防錆剤が塗装される車体構造体2の表面を洗浄する工程である。所定の洗浄液が、平板メンバ3、ハット型メンバ4及び補強メンバ5の表面に吹き付けられる。この際、下フランジ部52Aに塗布されている減衰接着材6にも、洗浄液が吹き当たることになる。減衰接着材6が仮硬化されていない場合、この洗浄液の吹き当たりによって減衰接着材6が飛散してしまうことが起こり得る。しかし、本実施形態では、既に減衰接着材6が仮硬化されているので、減衰接着材6の飛散や塗布形状の変形等を抑止することができる。
【0057】
電着塗装工程M6は、防錆剤を含む電着液に車体構造体2を浸漬する工程である。具体的には、前記電着液が満たされたタンク内に車体構造体2と電極とが入れられ、両者間に電位差を発生させることで、車体構造体2の表面に防錆剤層を析出させる。
【0058】
しかる後、塗装乾燥工程M7が実行される。塗装乾燥工程M7は、本来は工程M6で塗装された防錆剤層を有する車体構造体2を、所定温度で一定期間加熱して乾燥させる工程である。本実施形態では、この塗装乾燥工程M7が、減衰接着材6を熱により本硬化させる本硬化工程を兼ねるものとなる。つまり、防錆剤層の乾燥のために車体構造体2に加えられる熱を、減衰接着材6を本硬化させる熱として活用する。これにより、車体製造における熱処理工程の数を減らすことができ、製造の効率化を図ることができる。逆に、塗装乾燥工程M7を減衰接着材6の本硬化工程に活用する結果、塗布された減衰接着材6が、洗浄工程M5及び電着塗装工程M6に曝されることになり、塗布形状の変形等の問題が生じ得る。しかし、本実施形態では、減衰接着材6が事前に仮硬化されるため、上記の問題を回避することができる。
【0059】
[減衰接着材の振動減衰効果]
図11及び
図12は、補強メンバ5の下フランジ部52Aへ添設された減衰接着材6による振動低減量を示すグラフである。
図11は、スポット接合部SWが併用されるウェルボンド接合の場合の、振動低減量を示している。グラフの横軸は、供試材料の貯蔵弾性率[MPa]である。グラフの縦軸は、車体構造体2の断面変形時に、供試材料が歪みエネルギーをどの程度分担したかを示す歪みエネルギー分担率を示す。歪みエネルギー分担率[%]は、減衰接着材6による振動低減量を示す指標であり、分担率が高い程、振動低減量が大きい(振動減衰性に優れる)ことを意味する(以下の
図12、
図17、
図18でも同じ)。
【0060】
図11の第1特性P11は、比較例のフランジ接合部における振動低減量を示す。比較例では、下フランジ部52Aと平板メンバ3との間に減衰接着材を介在させるフランジ接合部が用いられた。第2特性P12及び第3特性P13は、本実施形態のフランジ接合部F21における振動低減量を示す。第2特性P12は、
図6に示したように、下フランジ部52Aの先端側端縁522に減衰接着材6が付設された場合の振動低減量を示す。また、第3特性P13は、
図5に示したように、下フランジ部52Aの根元側端縁521に減衰接着材6が付設された場合の振動低減量を示す。
【0061】
図11のグラフから明らかな通り、下フランジ部52Aの端縁に減衰接着材6が付設された第2、第3特性P12、P13は、貯蔵弾性率が100MPa以上の領域において、比較例の第1特性P11に比べて良好な振動低減量を有することが分かる。また、根元側端縁521の第3特性P13の方が、先端側端縁522の第2特性P12よりも良好な振動低減量を有することも分かる。とりわけ、
図11において符号aで示す貯蔵弾性率=1000MPa付近の領域は、好ましく用いられる減衰接着材6の貯蔵弾性率のレンジである。このレンジにおいて、本実施形態の第2、第3特性P12、P13は、比較例の第1特性P11よりも良好な振動低減量を示しており、優れた振動減衰性を備えるフランジ接合部F21を構築できることが分かる。
【0062】
図12は、減衰接着材6だけで接合を行う重ね合わせ接合の場合の、振動低減量を示している。
図11と同様に、第1特性P11は減衰接着材介在型の比較例、第2特性P12は、先端側端縁522に減衰接着材6を付設する場合、第3特性P13は、根元側端縁521に減衰接着材6を付設する場合の振動低減量を示す。なお、スポット接合部SWが存在せず、平板メンバ3と下フランジ部52Aとの相対移動が起こり易い状態であることから、減衰接着材6が分担する歪みエネルギーは
図11のウェルボンド接合タイプに比べて1桁大きくなっている。
【0063】
図12の重ね合わせ接合においても、
図11のウェルボンド接合と同様の結果が出ている。第2、第3特性P12、P13は、貯蔵弾性率が100MPa以上の領域において、比較例の第1特性P11に比べて良好な振動低減量を有している。また、根元側端縁521の第3特性P13の方が、先端側端縁522の第2特性P12よりも良好な振動低減量を示している。符号aで示す貯蔵弾性率=1000MPa付近の領域においても同等である。従って、本実施形態によれば、重ね合わせ接合であっても、優れた振動減衰性を備えるフランジ接合部F21を構築できることが分かる。
【0064】
[減衰接着材の点在状の塗布]
図5及び
図6に例示してように、上記実施形態では、塗布工程M3(
図7)において、下フランジ部52Aの端縁(根元側端縁521又は先端側端縁522)に沿って、減衰接着材6が連続的に塗布される例を示した。これに代えて塗布工程M3を、下フランジ部52Aの端縁の一部に減衰接着材6が存在するように、断続的に減衰接着材6を塗布する工程としても良い。換言すると、下フランジ部52Aの端縁において、部分的に減衰接着材6が塗布されていない領域を設けても良い。減衰接着材6が塗布されない領域は、平板メンバ3と下フランジ部52Aとを拘束しない非拘束部分となる。これにより両者を無用に拘束せず、減衰接着材6の塗布された部分に振動エネルギーを集中させることが可能となり、振動減衰効果を高めることができる。
【0065】
とりわけ、塗布工程M3は、下フランジ部52Aの端縁に点状に狭い幅で塗布する工程とすることが望ましい。すなわち、点状の減衰接着材6が端縁に一個、又は前記端縁に沿って点状の減衰接着材6が複数個点在するように、減衰接着材6を塗布することが望ましい。このような塗布工程M3とすれば、少ない減衰接着材6の使用量で、最大限の振動減衰効果を発揮する車体1を製造することが可能となる。
【0066】
図13は、下フランジ部52Aの端縁へ減衰接着材6を点在状に配置する場合の一例を示す斜視図である。
図13には、XYZの方向表示が付されている。図中のX方向は、補強メンバ5において、下フランジ部52Aのベース板51に対する折り曲げ線FA(フランジ部52Aの端縁)に沿う方向である。以下、X方向をフランジ幅方向Xと扱う。+Y方向は、下フランジ部52Aが根元側端縁521から延び出す方向である。+Z方向は、平板メンバ3に対して補強メンバ5が立設される方向である。平板メンバ3及び下フランジ部52AはXY平面内に存在し、ベース板51はXZ平面に存在している。
【0067】
図13では、下フランジ部52Aの根元側端縁521に、3つの点状の減衰接着材6A、6B、6Cがフランジ幅方向Xに点在状に(断続的に)配置されている例を示している。詳しくは、根元側端縁521の一端(-X端)に減衰接着材6Aが、他端(+X端)に減衰接着材6Bが、フランジ幅方向Xの中間点に減衰接着材6Cが各々配置されている。もちろん、減衰接着材6A、6B、6Cは、平板メンバ3と下フランジ部52Aとの双方に接着するように塗布される。また、先端側端縁522に、3つの点状の減衰接着材6A、6B、6Cを配置するようにしても良い(
図14~
図16の実施形態でも同じ)。
【0068】
また、点在状ではなく、各減衰接着材6A、6B、6Cを幅広とし、非塗布部が幅狭となるように、根元側端縁521の-X端から+X端にかけて断続的に減衰接着材が配置しても良い。さらに、フランジ接合部F21において振動モードを解析して揺動し易い箇所を特定し、当該箇所に減衰接着材6を配置し、それ以外の箇所には配置しないというような、断続的な配置とすることが望ましい。これにより、フランジ接合部F21の振動減衰効果を一層高めることができる。
【0069】
図14~
図16は、下フランジ部52Aの端縁へ減衰接着材6を点在状に配置する他の例を示す斜視図である。
図14では、下フランジ部52Aの根元側端縁521において、フランジ幅方向Xの中間点に点状の減衰接着材6Dが一つだけ配置されている例を示している。なお、減衰接着材6Dをフランジ幅方向Xの中間点から-X側又は+X端に外れた位置に配置するようにしても良い。
【0070】
図15は、下フランジ部52Aの根元側端縁521において、フランジ幅方向Xの両端に減衰接着材6E、6Fが点在している例を示している。具体的には、根元側端縁521の-X端に点状の減衰接着材6Eが、+X端に点状の減衰接着材6Fが、各々配置されている。一般に、下フランジ部52Aの接合用フランジにおいて、フランジ幅方向Xの一端及び他端は、振動が加わった際に揺動し易い部分となる。これらの部分に減衰接着材6E、6Fを点在的に配置することで、振動減衰効果を一層高めることが可能となる。
【0071】
図16は、下フランジ部52Aの根元側端縁521において、フランジ幅方向Xの両端から各々所定距離dだけ中央方向に離間した位置に減衰接着材6G、6Hが点在している例を示している。具体的には、根元側端縁521の-X端から距離dだけフランジ幅方向Xの中央側に離間した位置に、点状の減衰接着材6Eが配置されている。また、+X端から距離dだけフランジ幅方向Xの中央側に離間した位置に、点状の減衰接着材6Hが配置されている。この実施形態によれば、減衰接着材6G、6H間との間隔が開きすぎない態様とすることができる。従って、フランジ幅方向Xの中央領域における下フランジ部52Aの浮き上がりを抑止することができる。
【0072】
上記の通り減衰接着材6A~6Hを点在状に塗布する場合にあっても、その製造方法は
図7に示した工程チャートと同じである。すなわち、減衰接着材6A~6Hを点在状に塗布する塗布工程M3を終えると、当該減衰接着材6A~6Hを仮硬化させる仮硬化工程M4が実行される。そして、洗浄工程M5及び電着塗装工程M6を経た後、減衰接着材6A~6Hの本硬化を兼ねる乾燥工程M7が実行される。
【0073】
[点在状に配置される減衰接着材の振動減衰効果]
図17及び
図18は、補強メンバ5の下フランジ部52Aへ点在状に減衰接着材6に配置した場合の振動低減量を示すグラフである。
図17は、スポット接合部SWが併用されるウェルボンド接合の場合の振動低減量を示している。
図18は、減衰接着材6だけで接合を行う重ね合わせ接合の場合の振動低減量を示している。既述の通り、グラフの横軸は、供試材料の貯蔵弾性率[MPa]、グラフの縦軸は、車体構造体2の断面変形時における振動低減量を示す指標となる歪みエネルギー分担率[%]である。
【0074】
図中の第1特性P21(連続)は、
図5に例示した通り、下フランジ部52Aの根元側端縁521におけるフランジ幅方向Xの全長に亘って、連続的に減衰接着材6が塗布された場合の振動低減量を示す。第2特性P22(断続)は、
図13に示したように、根元側端縁521に、3つの点状の減衰接着材6A、6B、6Cがフランジ幅方向Xに断続的に配置された場合の振動低減量である。第3特性P23(中央)は、
図14に示したように、1つの点状の減衰接着材6Dがフランジ幅方向Xの中央に配置された場合の振動低減量である。第4特性P24(端部)は、
図15に示したように、根元側端縁521のフランジ幅方向Xの両端に、点状の減衰接着材6E、6Fが各々配置された場合の振動低減量である。第5特性P25(中間)は、
図16に示したように、根元側端縁521のフランジ幅方向Xの両端から各々距離dだけ離間した位置に、点状の減衰接着材6G、6Hが各々配置された場合の振動低減量である。
【0075】
図17のグラフから明らかな通り、ウェルボンド接合の場合、符号aで示す貯蔵弾性率=1000MPa付近(減衰接着材6の貯蔵弾性率のレンジ)において、第2特性P22(断続)、第4特性P24(端部)及び第5特性P25(中間)は、第1特性P21(連続)よりも良好な振動低減量を有していることが分かる。とりわけ、第4特性P24(端部)は、優れた振動低減量を示している。なお、第3特性P23(中央)は、1000MPa付近において第1特性P21(連続)より低い振動低減量を示している。しかし、減衰接着材6Dの配置位置を変更することで、又はスポット接合部SWの位置やフランジ形状の変更により、良好な振動低減量を発現する可能性を有する。
【0076】
図18のグラフから明らかな通り、重ね合わせ接合の場合、点在状に減衰接着材6を配置する第2~第5特性P22~P25の全てが、1000MPa付近において第1特性P21(連続)よりも良好な振動低減量を有していることが分かる。ここでは、第3特性P23(中央)も、第4特性P24(端部)及び第5特性P25(中間)と並んで、特に優れた振動低減量を示している。これは、スポット接合部SWで拘束されていない重ね合わせ接合では、下フランジ部52Aが平板メンバ3に対して平行方向に移動可能となるため、減衰接着材6A~6Hに歪エネルギーが集中し易くなるためと考えられる。
【0077】
以上説明した本実施形態によれば、減衰接着材6の本硬化させる乾燥工程M7の前に、塗布工程M3において塗布された減衰接着材6を仮硬化させる仮硬化工程M4が実行される。このため、たとえ減衰接着材6が下フランジ部52Aの根元側端縁521又は先端側端縁522に隣接する態様で外部に露出していても、当該塗布された減衰接着材6は、仮硬化によって当初の塗布形状を維持できるようになる。従って、減衰接着材6が所期の減衰効果を発現できる車体1を製造することができる。
【0078】
また、下フランジ部52Aの根元側端縁521又は先端側端縁522に、点在状に減衰接着材6A~6Hを配置する構成を採用すれば、これら減衰接着材6A~6Hに振動エネルギーを集中させ、振動減衰効果をより高めることができる。
【0079】
[変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、減衰接着材6を本硬化させる工程として、防錆剤の乾燥工程M7を利用する態様を例示した。これに代えて、減衰接着材6の本硬化のための加熱工程を、別途実行するようにしても良い。例えば、洗浄工程M5の前に、減衰接着材6の本硬化工程を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0080】
1 車体
2 車体構造体
3 平板メンバ(第1車体部材)
4 ハット型メンバ
5 補強メンバ(第2車体部材)
51 ベース板
52A 下フランジ部(フランジ部)
521 根元側端縁(フランジ部の端縁)
522 先端側端縁(フランジ部の端縁)
6、5A~6H 減衰接着材(振動減衰部材)
F21 フランジ接合部
SW スポット接合部
C 閉断面部
FA 折り曲げ線
X フランジ幅方向